(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178769
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】3Dプリンタ,その造形方法,その造形物
(51)【国際特許分類】
B29C 64/209 20170101AFI20221125BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20221125BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221125BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20221125BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20221125BHJP
【FI】
B29C64/209
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085800
(22)【出願日】2021-05-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開者 :大日方伸,高盛竜馬,木下里奈,田中浩也 公開場所:大日方伸のWebサイト「COLOR FAB」,クリエイター向け動画共有サイト「Vimeo」,富山デザインコンペティション2020,大日方伸のTwitterアカウント,慶應義塾大学田中浩也研究室ホームページ,Hiroya TanakaのYoutubeチャンネル 公開日 :令和2年9月6日,同年11月21日,同年12月3日,同年12月29日,令和3年2月1日,同年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】521220633
【氏名又は名称】大日方 伸
(71)【出願人】
【識別番号】521220644
【氏名又は名称】エグコアドバンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090413
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 康稔
(72)【発明者】
【氏名】大日方 伸
(72)【発明者】
【氏名】高盛 竜馬
(72)【発明者】
【氏名】木下 里奈
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩也
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AC02
4F213AF01
4F213AF03
4F213AF10
4F213AG05
4F213AH55
4F213WA25
4F213WB01
4F213WB28
4F213WL02
4F213WL22
4F213WL27
4F213WL32
4F213WL74
(57)【要約】
【課題】 色が異なる複数のフィラメントを使用して造形物に着色を施す際に、従来にない斬新な着色を施す。
【解決手段】 プリンタヘッド100のノズルから吐出されるフィラメントFA~FDが、造形(プリント)可能な温度であって、かつ、混ざることがないような温度となるように、ヒーター120が設定される。吐出ノズル130の0番,1番,2番,3番のノズルからフィラメントFA~FDがそれぞれ吐出されると、吐出ノズル130からフィラメントFB~FDが出力される。これにより、矢印F6aから見ると、フィラメントFAの色が表面から露出するようになり、矢印F6bから見ると、フィラメントFBの色が表面から露出するようになる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色が異なる複数のフィラメントをプリンタヘッドから押し出して積層することで、表面が凹凸を有する造形物を得る3Dプリンタであって、
前記プリンタヘッドが、前記複数のフィラメントを押し出す温度であって、かつ、混ざることがない温度に加熱する加熱手段を備えたことを特徴とする3Dプリンタ。
【請求項2】
請求項1記載の3Dプリンタによって造形を行う造形方法であって、
前記加熱手段から押し出されたフィラメントを積層して造形する際に、積層方向と異なる方向に凹凸を形成することを特徴とする3Dプリンタによる造形方法。
【請求項3】
請求項1記載の3Dプリンタを使用して造形した造形物であって、
異なる方向から見たときに色彩が変化する凹凸を表面に有することを特徴とする造形物。
【請求項4】
前記表面の凹凸が、周期の異なる複数の凹凸を含むことを特徴とする請求項3記載の造形物。
【請求項5】
前記造形物の表面の凹凸が、周期の短い波形状と周期の長い起伏形状とを重畳した形状であることを特徴とする請求項4記載の造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンタの改良に関し、特に色が異なる複数のフィラメントを使用して造形を行う3Dプリンタ,その造形方法,その造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
造形物に着色を施すようにした背景技術としては、例えば下記特許文献1記載の「加色処理を伴った3Dプリンタ並びにこれに用いる表面加色装置」がある。これは、シンプルな装置構成を採りながらも立体造形ワークの表面に任意のカラー着色が精緻に施すことを目的としており、ノズルヘッドからフィラメントを吐出・積層して立体造形ワークを形成する3Dプリンター部と、プリントヘッドから異なる複数色のインクを噴射してカラー印刷を行うインクジェット式カラープリンター部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した背景技術のようにインクジェット式でカラープリントを行うのではなく、複数の異なる色のフィラメントを使用して着色を行う方法がある。例えば、赤,青,黄のフィラメントを使用し、それぞれの色でプリントするのみならず、青と黄のフィラメントを混ぜて緑でプリントを行うといった具合である。このような方法によれば、インクジェット式のカラープリンター部を必要とすることなく、造形物に着色を施すことができる。この場合に、3Dプリンタの特性を生かせば、インクジェット式のカラープリント方法ではできないような着色を施すことができる可能性がある。
【0005】
本発明は、以上のような点に着目したもので、色が異なる複数のフィラメントを使用して造形物に着色を施す際に工夫を行って、従来にない斬新な着色を施すことを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の3Dプリンタは、色が異なる複数のフィラメントをプリンタヘッドから押し出して積層することで、表面が凹凸を有する造形物を得る3Dプリンタであって、前記プリンタヘッドが、前記複数のフィラメントを押し出す温度であって、かつ、混ざることがない温度に加熱する加熱手段を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の造形方法は、前記3Dプリンタによって造形を行う造形方法であって、前記加熱手段から押し出されたフィラメントを積層して造形する際に、積層方向と異なる方向に凹凸を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明の造形物は、前記3Dプリンタを使用して造形した造形物であって、異なる方向から見たときに色彩が変化する凹凸を表面に有することを特徴とする。主要な形態の一つによれば、前記表面の凹凸が、周期の異なる複数の凹凸を含むことを特徴とする。更には、前記造形物の表面の凹凸が、周期の短い波形状と周期の長い起伏形状とを重畳した形状であることを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、色が異なる複数のフィラメントを同時に吐出するとともに、造形物の表面に、フィラメントの積層方向と異なる方向に凹凸を設けることとしたので、見る方向によって色彩が変化する斬新な造形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の3Dプリンタの一実施例の外観を示す図である。
【
図2】(A)は前記実施例におけるプリンタヘッドの構成の概略を示す図である。(B)及び(C)は、吐出ノズルからの吐出例を示す図である。
【
図3】前記実施例における駆動制御装置の構成を示す図である。
【
図4】前記実施例におけるGコードの一例を示す図である。
【
図5】(A)は前記実施例による造形物の一例を示す図である。(B)及び(C)は(A)を異なる方向から見た様子を示す。
【
図6】前記造形物における色の変化の原理を示す図である。(A)は前記
図4の矢印F5aから見た図であり、その点線部分を拡大したものが(B)である。(C)は平坦面における配色の様子を示す図である。(D)は周期の長い起伏形状と周期の短い波形状とが重ねられた形状の例を示す図である。
【
図7】(A)は本発明による他の造形物の一例を示す図である。(B)及び(C)は(A)を異なる方向から見た様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例0012】
最初に、
図1~
図6を参照しながら本発明の実施例1を説明する。
図1~
図3には、本実施例の3Dプリンタの全体構成が示されており、
図1に示すテーブル機構10,
図2(A)に示すプリンタヘッド100,
図3に示す駆動制御装置200によって主に構成されている。これらのうち、テーブル機構10は、四角枠の基礎フレーム体20上に構成されている。基礎フレーム20は、Y方向の基礎フレーム22,24と、X方向の基礎フレーム26,28とによって構成されている。基礎フレーム22,24の間には、中央フレーム30が設けられており、両端が基礎フレーム26,28にそれぞれ結合されている。
【0013】
一方、基礎フレーム22,24には、略コ字状の縦フレーム体50が取り付けられている。縦フレーム体50は、基礎フレーム22,24から立設する縦フレーム52,54と、これら縦フレーム52,54の先端に差し渡される縦フレーム56によって構成されている。縦フレーム52,54には、プリンタヘッド100が取り付けられるヘッドフレーム60が設けられている。前記縦フレーム体50は、上述した基礎フレーム体20に固定されている。
【0014】
次に、基礎フレーム体20の中央フレーム30には、テーブル(ないしベッド)70が設けられており、このテーブル70上に造形物が作成されるようになっている。プリンタヘッド100は、ヘッドフレーム60に沿ってX駆動機構72によりX方向にスライド可能となっている。テーブル70は、中央フレーム30に沿ってY駆動機構74によりY方向にスライド可能となっている。縦フレーム体50のヘッドフレーム60は、縦フレーム52,54に沿ってZ駆動機構76によりZ方向にスライド可能となっている。これらにより、プリンタヘッド100のノズルが、X,Y,Zの3方向にスライド可能となっている。なお、駆動機構72,74,76は、例えばステッピングモーターとベルトによって構成されている。このような3Dプリンタとしては、例えば、CREALITY3D製の「CR-10S5 3Dプリンタ」が好適な例の一つである。
【0015】
次に、
図2(A)を参照して、プリンタヘッド100について説明する。本実施例のプリンタヘッド100は、4つの色が異なるフィラメントFA~FDがエクストルーダ110によってヒーター120に送られるようになっており、ヒーター120で加熱されたフィラメントがノズル130から吐出されるようになっている。例えば、フィラメントFAは黒,フィラメントFBは赤,フィラメントFCは青,フィラメントFDは黄といった具合である。吐出ノズル130は、前記4つの材料供給口(挿入口)を備えており、これらに供給されたフィラメントFA~FDが溶けて吐出されるようになっている。このようなプリンタヘッド100としては、例えば、M3D製の「THE QUADFUSION PRINT HEAD」が好適な例の一つである。
【0016】
次に、上述した基礎フレーム体20,縦フレーム体50のX~Zの駆動機構72,74,76や、プリンタヘッド100のエクストルーダ110,ヒーター120に対しては、駆動制御装置(マザーボード)200から駆動制御信号が供給されるようになっている。駆動制御は、いわゆるGコードに基づいて行われるようになっている。Gコードは、例えば「Grasshopper」などのソフトウェアによって作成され、駆動制御装置200のデコーダ210によって解読されるようになっている。そして、その解読結果に基づいてドライバ220から制御信号が各部に送信されるようになっている。
図4には、Gコードの一例が示されている。
【0017】
次に、
図5及び
図6も参照して、本実施例の全体の動作を説明する。作成しようとする造形物の3Dデータは、スライサソフトでGコード化され、駆動制御装置200に入力される。Gコードは、デコーダ210で解読され、解読された動作を行うための制御信号がドライバ220から各部に出力される。すなわち、プリンタヘッド100のノズルがGコードで指定された位置となるように、X~Zの駆動機構72,74,76に制御信号が出力される。また、プリンタヘッド100には、フィラメントFA~FDの送り出し速度がGコードで指定された速度となるように、エクストルーダ110に制御信号が出力され、フィラメントFA~FDの温度がGコードで指定された温度となるように、ヒーター120に制御信号が出力される。
【0018】
この場合において、本実施例では、プリンタヘッド100のノズルから吐出されるフィラメントFA~FDが、均等に押し出されて造形(プリント)できる温度であって、かつ、混ざることがない温度に、ヒーター120によって設定される。
図4に示すGコードの例では、矢印GAで示すコード「M109 S210.0」は、プリンタヘッド100の吐出ノズル130におけるフィラメント温度が210℃に設定されていることを示している。また、矢印GBで示すコード「M567 P0 E0:0.334:0.333:0.333」は、吐出ノズル130の0番,1番,2番,3番の材料吐出口のうち、1~3番の吐出口から均等にフィラメントを押し出す設定となっていることを示している。
【0019】
例えば、吐出ノズル130の0番,1番,2番,3番の材料吐出口からフィラメントFA~FDがそれぞれ吐出されるとすると、上述したGコードの条件では、吐出ノズル130から
図2(B)に示すように、フィラメントFB~FDが均等に出力されることとなる。すなわち、吐出方向に垂直の断面でみると、120度の角度の範囲で、フィラメントFB~FDが吐出されるようになる。同図(C)には、フィラメントFA~FDが均等に吐出される場合が示されている。なお、Gコードの設定によっては必ずしも均等に出力されず、例えば、フィラメントFBがFC,FDよりも多く吐出されるようになる。例えば、フィラメントFBは180度、FC,FDは90度といった具合である。
【0020】
以上のようにフィラメントFA~FDを吐出しつつ、ノズル130の位置がGコードに規定された位置となるように駆動制御装置200でテーブル機構10のX~Zの駆動機構72,74,76が駆動される。これにより、テーブル70上にフィラメントFA~FDが積層され、造形物が形成されていく。
図5には造形物MAの一例が示されており、同図(A)の矢印F5b,F5cから見た様子が、同図(B),(C)にそれぞれ示されている。
【0021】
図6(A)には、前記
図5(A)を矢印F5aで示す方向、すなわち造形物MAの積層方向から見た状態が示されており、
図6(A)の点線部分を拡大して示したものが同図(B)である。同図に示すように、プリンタヘッド100の吐出ノズル130からは、4色の場合、
図2(C)に示した色配置でフィラメントFA~FDが積層されていく。このため、
図6(B)に示す矢印F6aからみると、フィラメントFAの色が表面から露出するようになり、矢印F6bから見ると、フィラメントFBの色が表面から露出するようになる。これに対し、例えば、
図6(C)に示すように、凹凸のない平坦な面を造形する場合、矢印F6s,F6tのいずれの方向から見ても、フィラメントFAの色しか見えず、単色の造形物となる。
【0022】
更に、
図5に示した造形物MAにおいては、その表面の波(突起)形状が大きくうねるように形成されている。
図6(D)にはその様子が示されており、点線で示す起伏形状(うねり状の凹凸)SLと、波形状(突起状ないし襞状の凹凸)SHとが重畳して形成されている。すなわち、周期の長い起伏形状SLと、周期の短い波形状SHとを重ねた形状となっている。このため、上述した見る方向による色彩の変化が、起伏形状SLと波形状SHとによってそれぞれ生ずるとともに、更にそれらが重畳するようになる。これにより、見る角度によって極めてダイナミックに色彩が変化するようになり、多様な色彩表現の造形となっている。
【0023】
このように、本実施例によれば、色が異なる複数のフィラメントを、同時にプリンタヘッド100のノズルから吐出するとともに、造形物の表面に積層方向とは異なる方向に凹凸が生ずるように造形することとしたので、見る方向によって色彩が変化するという極めて斬新な着色を施すことができる。また、周期の異なる凹凸の変化を重ねることで、更に豊かな色彩表現の造形物を得ることができる。
<他の実施例> なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例では、3色ないし4色のフィラメントFA~FDを使用したが、2色でもよいし、更に多数のフィラメントを使用することを妨げるものではない。
(2)前記実施例では、X~Zの駆動機構72,74,76によって3次元座標上におけるプリンタヘッド100の移動を行ったが、テーブル機構としては、公知の各種のテーブル機構を使用してよい。
(3)本発明に好適な造形物としては、フィラメントの積層方向とは異なる方向に凹凸を有する形状が好適であるが、特に、積層方向と直交する方向に凹凸があると、色彩の変化が顕著となり、変化のある造形物を得ることができる。また、凹凸は、波形状のような丸みのある形状であってもよいし、角ばった形状であってもよいし、それらの組み合わせであってもよい。