(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178778
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】サンプルホルダ、および超伝導量子計算機
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20221125BHJP
H01P 3/00 20060101ALI20221125BHJP
H01P 5/08 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H01L23/12 E
H01L23/12 F
H01P3/00 101
H01P5/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085815
(22)【出願日】2021-05-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】橋本 義仁
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
(72)【発明者】
【氏名】松浦 康平
【テーマコード(参考)】
5J014
【Fターム(参考)】
5J014AA00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】サンプルホルダにチップが実装された場合に、チップに特定の周波数の信号を入力した際に起こる共振の共振周波数をより高くするサンプルホルダおよび超伝導量子計算機を提供する。
【解決手段】サンプルホルダは、台座と、台座に接触しているPCB(Printed Circuit Board)とを備える。PCBは、誘電体8と、誘電体8の表面に形成された表面GND9と、誘電体8の裏面に形成された裏面GND11と、チップが格納され、表面GND9から裏面GND11まで貫通する貫通孔4と、貫通孔4の端面に表面GND9及び裏面GND11を導通する導電体14と、を有する。台座のうち貫通孔4の下側の少なくとも一部には空洞があり、空洞にはチップの面を支持する台座に導通している支持構造がある。
【選択図】
図11E
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台座と、
前記台座に接触しているPCB(Printed Circuit Board)と
を備え、
前記PCBは、誘電体と、前記誘電体の表面に形成された表面グラウンドと、前記誘電体の裏面に形成された裏面グラウンドと、チップが格納される、前記表面グラウンドから前記裏面グラウンドまで貫通する貫通孔と、前記貫通孔の端面に前記表面グラウンド及び前記裏面グラウンドを導通する導体と、を有し、
前記台座のうち前記貫通孔の下側の少なくとも一部には空洞があり、
前記空洞には前記チップの面を支持する、前記台座に導通している支持構造がある、
サンプルホルダ。
【請求項2】
前記支持構造において前記チップを支持する部分のうち、少なくとも一部は前記チップの前記面と平行である、
請求項1に記載のサンプルホルダ。
【請求項3】
前記支持構造は、柱である、
請求項1または2に記載のサンプルホルダ。
【請求項4】
前記支持構造は、前記空洞に設けられた複数の柱である、
請求項3に記載のサンプルホルダ。
【請求項5】
前記複数の柱は、前記空洞の四隅に設けられる、
請求項4に記載のサンプルホルダ。
【請求項6】
前記PCBは、前記誘電体の前記表面に、コプレナ導波路の芯線を有する、
請求項1から5のいずれかに記載のサンプルホルダ。
【請求項7】
前記導体は、前記貫通孔の端面のうち前記芯線の近傍の前記PCBの端面以外の部分に設けられる、
請求項6に記載のサンプルホルダ。
【請求項8】
前記芯線は、前記貫通孔の端面に接触しないような長さであり、
前記導体は、前記貫通孔の端面の全体に形成される、
請求項6に記載のサンプルホルダ。
【請求項9】
前記PCBは、さらに、前記誘電体のうち、前記表面グラウンドと前記裏面グラウンドとの間に挟まれた領域に芯線を有し、
前記誘電体の前記表面には、前記表面グラウンドの他に、前記チップと前記芯線とを電気的に接続するパッドがあり、前記パッドは前記芯線と電気的に接続される、
請求項1から5のいずれかに記載のサンプルホルダ。
【請求項10】
サンプルホルダと、
前記サンプルホルダに格納される、超伝導量子回路が形成されたチップと、
を備え、
前記サンプルホルダは、
台座と、
前記台座に接触しているPCBと、
を備え、
前記PCBは、誘電体と、前記誘電体の表面に形成された表面グラウンドと、前記誘電体の裏面に形成された裏面グラウンドと、前記チップが格納される、前記表面グラウンドから前記裏面グラウンドまで貫通する貫通孔と、前記貫通孔の端面に前記表面グラウンド及び前記裏面グラウンドを導通する導体と、を有し、
前記台座のうち前記貫通孔の下側の少なくとも一部には空洞があり、
前記空洞には前記チップの面を支持する、前記台座に導通している支持構造がある、
超伝導量子計算機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サンプルホルダなどに関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導量子回路は、シリコン基板などの基板の上に、Nb(ニオブ)やAl(アルミニウム)などの超伝導材料を用いて形成される。ここで、基板の上に超伝導量子回路を形成したものをチップと呼ぶ。超伝導量子回路は、サンプルホルダに実装して動作させる。サンプルホルダには様々な構造のものがある。チップの実装方法として、非特許文献1に記載のようなプリント基板に対してチップの回路の面を裏返さずに実装する方法や、特許文献1に記載のような、プリント基板に対してチップの回路の面を裏返して実装する方法(フリップチップ実装)がある。以降の説明では、前者の実装方法を前提として説明する。
【0003】
例えば、金属製の台座の上にプリント基板(Printed Circuit Board、以下PCB)を設置した構造のものがある。PCBの中央付近には貫通孔が設けられており、その貫通孔にチップを配置し、チップのパッドとPCBのパッド、および、チップのグラウンドとPCBのグラウンドを、それぞれAlなどのボンディングワイヤで電気的に接続する。このような場合、チップの裏面は金属製の台座に接触している。
【0004】
前述のようなサンプルホルダにチップが実装された場合に、チップに特定の周波数の信号を入力すると共振が起こる。ここで、この共振をチップモードの共振と称する。チップモードの共振がチップ上の超伝導量子回路と結合すると、超伝導量子回路のデコヒーレンスを引き起こす。このデコヒーレンスの影響を低減するためには、チップモードの共振周波数を可能な限り高くする。例えば、非特許文献1には、チップモードの影響を抑制するために、前述のような構造において、チップ直下の金属製の台座の一部をくり抜くことによりチップ直下に空洞を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.Lienhard, et al., “Microwave Packaging for Superconducting Qubits,” arXiv: 1906.05425v1 [quant-ph] 12 Jun 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サンプルホルダにチップが実装された場合に、チップに特定の周波数の信号を入力した際に起こる共振の共振周波数を、非特許文献1に記載の技術よりも高くすることが求められている。
【0008】
本開示の目的の一例は、サンプルホルダにチップが実装された場合に、チップに特定の周波数の信号を入力した際に起こる共振の共振周波数をより高くするサンプルホルダなどを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様におけるサンプルホルダは、台座と、前記台座に接触しているPCBと、を備え、前記PCBは、誘電体と、前記誘電体の表面に形成された表面グラウンドと、前記誘電体の裏面に形成された裏面グラウンドと、チップが格納される、前記表面グラウンドから前記裏面グラウンドまで貫通する貫通孔と、前記貫通孔の端面に前記表面グラウンド及び前記裏面グラウンドを導通する導体と、を有し、前記台座のうち前記貫通孔の下側の少なくとも一部には空洞があり、前記空洞には前記チップの面を支持する、前記台座に導通している支持構造がある。
【0010】
本開示の一態様における超伝導量子計算機は、サンプルホルダと、前記サンプルホルダに格納される、超伝導量子回路が形成されたチップと、を備え、前記サンプルホルダは、台座と、前記台座に接触しているPCBとを備え、前記PCBは、誘電体と、前記誘電体の表面に形成された表面グラウンドと、前記誘電体の裏面に形成された裏面グラウンドと、前記チップが格納される、前記表面グラウンドから前記裏面グラウンドまで貫通する貫通孔と、前記貫通孔の端面に前記表面グラウンド及び前記裏面グラウンドを導通する導体と、を有し、前記台座のうち前記貫通孔の下側の少なくとも一部には空洞があり、前記空洞には前記チップの面を支持する、前記台座に導通している支持構造がある。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、サンプルホルダにチップが実装された場合に、チップに特定の周波数の信号を入力した際に起こる共振の共振周波数をより高くする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】超伝導量子回路を形成したチップを格納するサンプルホルダの一例を示す説明図である。
【
図3A】
図1Aおよび
図1Bに示すサンプルホルダに超伝導量子回路のチップを実装した場合の構成を示す斜視図である。
【
図3B】
図1Aおよび
図1Bに示すサンプルホルダに超伝導量子回路のチップを実装した場合の構成が
図3Aに示す切断線A-AAを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
【
図4A】シミュレーションで用いたチップの上面図である。
【
図4B】第一のコプレナ導波路の先端付近の拡大図である。
【
図6A】
図5Aに示すPort1から高周波信号を入力した場合のPort1への反射(S11)を示す説明図である。
【
図6B】
図5Aに示すPort1から高周波信号を入力した場合のPort2への透過(S21)を示す説明図である。
【
図7A】空洞を台座に形成したサンプルホルダの斜視図である。
【
図7B】空洞を台座に形成したサンプルホルダの上面図である。
【
図7C】空洞を台座に形成したサンプルホルダが、
図7Bに示す切断線B-BBを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
【
図8】
図7A、
図7B、
図7Cに示すサンプルホルダに
図4Aおよび
図4Bに示すチップを実装した場合における、
図5Aに示すPort1から高周波信号を入力した場合のPort1への反射(S11)のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図9】第一の実施形態にかかるサンプルホルダを示す説明図である。
【
図10A】第一の実施形態のサンプルホルダを示す斜視図である。
【
図10B】第一の実施形態のサンプルホルダの上面図である。
【
図10C】第一の実施形態のサンプルホルダが、
図10Bに示す切断線C-CCを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
【
図11A】第一の実施形態のサンプルホルダに用いるPCBの上面図である。
【
図11B】第一の実施形態のサンプルホルダに用いるPCBの下面図である。
【
図11C】第一の実施形態のサンプルホルダに用いるPCBの側面図である。
【
図11D】第一の実施形態のサンプルホルダに用いるPCBの斜視図である。
【
図11E】第一の実施形態のサンプルホルダに用いるPCBの貫通孔付近の拡大図である。
【
図12】第一の実施形態かかるサンプルホルダにチップをボンディングワイヤで実装した場合のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図13A】第一の実施形態の変形例にかかるPCBの構造を示す上面図である。
【
図13B】第一の実施形態の変形例にかかるPCBが、表面GNDと裏面GNDに挟まれた領域に形成された芯線が見えるようにxy平面に平行な面で切断された断面図である。
【
図13C】第一の実施形態の変形例にかかるPCBが
図13Aに示す切断線D-DDを含むxz平面に平行な面で切断された断面の芯線付近の拡大図である。
【
図13D】第一の実施形態の変形例にかかるPCBの構造を示す下面図である。
【
図13E】第一の実施形態の変形例にかかるPCBの斜視図である。
【
図13F】第一の実施形態の変形例にかかるPCBの貫通孔付近の拡大図である。
【
図14】第二の実施形態のサンプルホルダで用いるPCBの、貫通孔近辺の拡大図である。
【
図15】第二の実施形態のサンプルホルダにチップをボンディングワイヤで実装した場合の、S11のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図16】第二の実施形態の変形例のサンプルホルダで用いるPCBの、貫通孔近辺の拡大図である。
【
図17A】第三の実施形態にかかるサンプルホルダの斜視図である。
【
図17B】第三の実施形態にかかるサンプルホルダの上面図である。
【
図17C】第三の実施形態にかかるサンプルホルダが、
図17Bに示す切断線E-EEを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
【
図18】第三の実施形態にかかるS11のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図19A】第三の実施形態の別の例にかかるサンプルホルダの斜視図である。
【
図19B】第三の実施形態の別の例にかかるサンプルホルダの上面図である。
【
図19C】第三の実施形態の別の例にかかるサンプルホルダが
図19Bに示す切断線F-FFを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
【
図20】第三の実施形態の別の例にかかるS11のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図21A】第三の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダの斜視図である。
【
図21B】第三の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダの上面図である。
【
図21C】第三の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダが
図21Bに示す切断線G-GGを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
【
図22】
図21Aから
図21Cに示す空洞を形成した台座を用いたサンプルホルダにチップをボンディングワイヤで実装した場合のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図23A】第四の実施形態にかかるサンプルホルダの斜視図である。
【
図23B】第四の実施形態にかかるサンプルホルダの上面図である。
【
図23C】第四の実施形態にかかるサンプルホルダが
図23Bに示す切断線H-HHを含むxz平面と平行な面で切断された端面図である。
【
図24】第四の実施形態にかかるサンプルホルダにチップをボンディングワイヤで実装した場合のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図25A】第四の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダの斜視図である。
【
図25B】第四の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダの上面図である。
【
図25C】第四の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダが
図25Bに示す切断線I-IIを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
【
図26】
図25Aから
図25Cに示す空洞を形成した台座を用いたサンプルホルダに、チップを実装した場合のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図27A】第五の実施形態のサンプルホルダの斜視図である。
【
図27B】第五の実施形態のサンプルホルダの上面図である。
【
図27C】第五の実施形態のサンプルホルダが、
図27Bに示す切断線J-JJを含むxz平面に平行な面で切断された断面図である。
【
図28A】第五の実施形態のサンプルホルダの空洞の形状例1を示す斜視図である。
【
図28B】第五の実施形態のサンプルホルダの空洞の形状例1を示す上面図である。
【
図28C】第五の実施形態のサンプルホルダの空洞の形状例1においてサンプルホルダの空洞付近が
図28Bに示す切断線K-KKを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
【
図29A】第五の実施形態のサンプルホルダの空洞の形状例2を示す斜視図である。
【
図29B】第五の実施形態のサンプルホルダの空洞の形状例2を示す上面図である。
【
図29C】第五の実施形態のサンプルホルダの空洞の形状例2においてサンプルホルダが、
図29Bに示す切断線L-LLを含むxz平面に平行な面で切断された断面図である。
【
図30】第五の実施形態のサンプルホルダにチップを実装した系のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図31A】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダの斜視図である。
【
図31B】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダの上面図である。
【
図31C】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダが、
図31Bに示す切断線M-MMを含むxz平面と平行な面で切断された断面図である。
【
図32A】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダの空洞の形状例1を示す斜視図である。
【
図32B】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダの空洞の形状例1を示す上面図である。
【
図32C】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダの空洞の形状例1においてサンプルホルダの空洞付近が
図32Bに示す切断線N-NNを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
【
図33A】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダの空洞の形状例2を示す斜視図である。
【
図33B】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダの空洞の形状例2を示す上面図である。
【
図33C】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダの空洞の形状例2においてサンプルホルダが、
図33Bに示す切断線O-OOを含むxz平面と平行な面で切断された断面図である。
【
図34】第五の実施形態の変形例のサンプルホルダにチップをボンディングワイヤで実装した系のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、本開示にかかるサンプルホルダ、および超伝導量子計算機の実施形態を詳細に説明する。ただし、図面は本開示の実施形態における構成を概略的に表している。更に以下に記載される本開示の実施形態は一例であり、その本質を同一とする範囲において適宜変更可能である。また、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。また、以下の図面において、説明に用いない要素等については適宜図示を省略する。また、以降の説明において、グラウンドをGNDと表す場合がある。例えば、表面グラウンドを表面GNDと表す。例えば、裏面グラウンドを裏面GNDと表す。
【0014】
各実施形態にかかるサンプルホルダの効果をより明確にするために、チップ直下の台座に空洞が形成されたサンプルホルダをモデル化してシミュレーションした結果と各実施形態にかかるサンプルホルダをモデル化してシミュレーションした結果と、比較する。そこで、各実施形態の詳細な説明の前に、最初に、超伝導量子回路における、チップモードの問題をより詳細に説明する。そして、各実施形態にかかるサンプルホルダとの比較対象となるサンプルホルダをモデル化してシミュレーションした結果について説明する。なお、比較対象となるサンプルホルダは、金属製の台座の上にPCBを設置しているものである。さらに、このサンプルホルダは、PCBの中央付近に貫通孔が設けられている。さらに、このサンプルホルダは、チップ直下の金属製の台座の一部がくり抜かれて、チップ直下に空洞が形成されたものである。
【0015】
また、各図面において、各向きを明確にするために、3次元の座標系として、x軸、y軸、z軸を用いて説明する。
【0016】
図1Aは、超伝導量子回路を形成したチップを格納するサンプルホルダの一例を示す説明図である。
図1Bは、
図1Aに示すサンプルホルダ101の側面図である。
図1Aのように、サンプルホルダ101は、金属製の台座102の上にPCB103を乗せた構成である。
図1Aにおいて、台座102の形状は直方体または立方体である。PCB103の中央付近には、PCB103を貫通する貫通孔104が設けられている。
【0017】
PCB103の一例を
図2Aから
図2Eに示す。
図2Aは、PCB103の上面図である。
図2Bは、PCB103の下面図である。
図2Cは、PCB103の側面図である。
図2Dは、PCB103の斜視図である。
図2Eは、PCB103の貫通孔104付近の拡大図である。
【0018】
図2Aから
図2Eに示すように、PCB103は、例えば、xy平面に平行に延在する板状の誘電体108の一方の面に表面GND109とコプレナ導波路の芯線110を形成し、誘電体108の他方の面に裏面GND111を形成した構造を有する。芯線110と表面GND109と裏面GND111は、導電体、例えば金属である。ここで、コプレナ導波路は、中心の導体(以降中心導体と略す。)と、中心導体の両側面側に中心導体とxy平面に隙間を介して配置された2つのGNDプレーンとから構成され、中心導体と2つのGNDプレーンが略同一平面上に配置されている構造の導波路のことである。
図2Aおよび
図2Eに示すコプレナ導波路の2つのGNDプレーンは、表面GND109によって形成されている。
図2Aから
図2Eに示すPCB103では、芯線110が中心導体に該当する。
図2Aから
図2Eに示すPCB103では、芯線110の両側面側にxy平面に隙間を空けて表面GND109を形成することにより、コプレナ導波路を形成している。
図2Aから
図2Eに示す例では、PCB103に8本のコプレナ導波路が形成されている。なお、
図2Dに示すように、PCB103には複数のスルーホール112が設けられている。これらのスルーホール112は、誘電体108を貫通しており、表面GND109と裏面GND111を電気的に接続している。例えば、誘電体108と表面GND109と裏面GND111を貫通する穴を形成した後、その穴の内側を金属でメッキすることにより、スルーホール112は作製される。
図1Aおよび
図1Bにおいて、PCB103の裏面GND111は台座102と接触している。したがって、金属製の台座102とPCB103の裏面GND111とPCB103のスルーホール112とPCB103の表面GND109は電気的に接続されている。また、PCB103の中央付近に設けられている貫通孔104は、例えば、サンプルホルダ101に実装される超伝導量子回路のチップと同じ形状、すなわち長方形または正方形の形状をしている。また、貫通孔104の内側にチップが入るようにするため、貫通孔104の面積はチップの面積よりも広い。
【0019】
つぎに、
図1Aおよび
図1Bに示すサンプルホルダ101に超伝導量子回路のチップ107を実装した場合の構成を
図3Aおよび
図3Bに示す。
図3Aは、
図1Aおよび
図1Bに示すサンプルホルダ101に超伝導量子回路のチップ107を実装した場合の構成を示す斜視図である。
図3Bは、
図1Aおよび
図1Bに示すサンプルホルダ101に超伝導量子回路のチップ107を実装した場合の構成が
図3Aに示す切断線A-AAを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
図3Aおよび
図3Bにおいて、
図2Aから
図2Eに示すPCB103が用いられている。
図3Aおよび
図3Bのように、PCB103の貫通孔104の内側にチップ107を入れて台座102の上にチップ107を置き、チップ107のパッドとPCB103の芯線110をAl(アルミニウム)などのボンディングワイヤ113で電気的に接続し、チップ107のGNDプレーンとPCBの表面GND109をAlなどのボンディングワイヤ113で電気的に接続する。なお、ここでチップ107のパッドとは、チップ107に形成された、信号入出力用の端子のことである。
図3Aおよび
図3Bに示す例において、チップ107の裏面(
図3Bにおけるチップ107の下側の面)は金属製の台座102に接触している。
【0020】
図1Aおよび
図1Bに示すサンプルホルダ101にチップ107を実装した場合に、チップ107に特定の周波数の信号を入力すると共振が起こる。このチップモードの共振の原因を特定するために電磁界解析ソフトウエアを用いたシミュレーションを行う。ここでは、アンシス・ジャパン株式会社製のANSYS(登録商標) HFSSを用いてシミュレーションを行う。なお、以降のシミュレーションにおいても同じツールを用いてシミュレーションを行う。
【0021】
チップを
図4Aおよび
図4Bに示す。
図4Aは、シミュレーションで用いたチップ107の上面図である。
図4Bは、第一のコプレナ導波路71の先端付近の拡大図である。
図4Aに示すように、チップ107は長方形または正方形の形状をしており、チップ107の各辺の長さをそれぞれv、wとする。以降の説明でシミュレーションにおいては、チップ107の形状を正方形とし、チップ107の各辺の長さをv=w=5[mm](ミリメートル)とした。また、シミュレーションで用いたチップ107には、厚さ380[μm](マイクロメートル)のシリコン基板の上に、厚さ200[nm](ナノメートル)の金属膜を積層し、金属膜の所定の部分を除去することにより、回路パターンが形成される。
図4Aおよび
図4Bに示すチップ107には、第一のコプレナ導波路71と第二のコプレナ導波路72が形成されている。第一のコプレナ導波路71と第二のコプレナ導波路72は同一の形状である。第一のコプレナ導波路71および第二のコプレナ導波路72の特性インピーダンスは50[Ω](オーム)に設計されており、長さは1[mm]である。
図4Bに、第一のコプレナ導波路71の先端付近の拡大図を示す。
図4Bのように、第一のコプレナ導波路71の先端はGNDプレーン73とは接触していない。
図4Aのように、第一のコプレナ導波路71と第二のコプレナ導波路72は接続されていない。同様に、第二のコプレナ導波路72の先端も、GNDプレーン73とは接触していない。第一の芯線74の一端は第一のパッド76に接続されており、第二の芯線75の一端は第二のパッド77に接続されている。
【0022】
図4Aおよび
図4Bに示すチップ107を
図1Aおよび
図1Bに示すサンプルホルダ101に実装した例を
図5Aおよび
図5Bに示す。
図5Aは、
図4Aおよび
図4Bに示すチップ107を
図1Aおよび
図1Bに示すサンプルホルダ101に実装した例を示す斜視図である。
図5Bは、チップ107付近の拡大図である。
図5Aおよび
図5Bのように、チップ107の第一のパッド76はPCB103の第一の芯線110aにAlのボンディングワイヤ113で電気的に接続されている。また、チップ107の第二のパッド77はPCB103の第二の芯線110bにAlのボンディングワイヤ113で電気的に接続されており、チップ107のGNDプレーン73はPCB103の表面GND109にAlのボンディングワイヤ113で電気的に接続されている。
図5Aのように、PCB103の第一の芯線110aの、チップ107の第一のパッド76と接続されている端とは別の端を、Port1とする。一方、PCB103の第二の芯線110bの、チップ107の第二のパッド77と接続されている端とは別の端を、Port2とする。シミュレーションでは、例えばPort1から高周波信号を入力した場合の、Port1への反射とPort2への透過を計算する。ここで、Port1への反射をS11とし、Port2への透過をS21とする。
【0023】
図5Aに示すPort1から高周波信号を入力した場合のシミュレーション結果を
図6Aおよび
図6Bに示す。
図6Aは、
図5Aに示すPort1から高周波信号を入力した場合のPort1への反射(S11)を示す説明図である。
図6Bは、
図5Aに示すPort1から高周波信号を入力した場合のPort2への透過(S21)を示す説明図である。
図6Aおよび
図6Bにおいて、横軸は、周波数(単位[GHz](ギガヘルツ))である。縦軸のS11およびS21はデシベル([dB])で表示されてある。すなわち、縦軸のS11およびS21は対数で表示されている。なお、以降のシミュレーション結果の説明においても横軸は周波数(単位[GHz])であり、縦軸のS11やS21はデシベル([dB])で表示される。
【0024】
図6Aおよび
図6Bのように、いくつかの特定の周波数の信号を入力した場合に、S21が非常に大きくなり、S11が非常に小さくなる。
図4Aおよび
図4Bに示したように、チップ107の第一のコプレナ導波路71と第二のコプレナ導波路72は接続されていない。このため、信号がPort1へ入力されても、その信号がPort2へ透過しないことが予想される。しかしながら、
図6Bのシミュレーション結果が示すように、いくつかの特定の周波数の信号をPort1から入力した場合、S21が非常に大きくなる。例えば、
図6Bのシミュレーション結果によれば、Port1から8.9[GHz]の信号を入力したときのS21は約-1.9[dB]である。すなわち、Port1から入力された信号のエネルギーの約65%の量がPort2へ透過してしまう。そのようなS21が非常に大きくなる特定の周波数において、
図6Aに示すシミュレーション結果によれば、S11は非常に小さくなることが分かる。
【0025】
以上のことから、
図6Aおよび
図6Bに示すシミュレーション結果によれば、次のようなことが分かる。すなわち、
図5Aおよび
図5Bのような、超伝導量子回路のチップ107をサンプルホルダ101に実装した系において、チップ107の表面のGNDプレーン73と金属製の台座102に挟まれた空間、すなわちシリコン基板が、空洞共振器を形成してしまう。そして、チップ107の第一のコプレナ導波路71と第二のコプレナ導波路72は、この空洞共振器と結合する。そのため、この空洞共振器の共振周波数に等しい周波数の信号が例えばPort1からチップに入力されると、空洞共振器の共振が励振されてしまう。そして、シリコン基板内に定在波が立ち、電磁場のエネルギーが蓄積される。チップ107の第二のコプレナ導波路72もこの空洞共振器と結合しているため、シリコン基板内に蓄積された電磁場のエネルギーの一部が、チップ107の第二のコプレナ導波路72を通ってPort2へ透過してしまう。
【0026】
このような現象は、チップ107に形成されている回路の種類によらず、
図3Aおよび
図3Bに示す系において起こり得る。チップ107に
図4Aおよび
図4Bのようなコプレナ導波路71および72が形成されている場合に限らず、チップ107に任意の超伝導量子回路が形成されている場合であっても、このような現象は起こり得る。
図3のような実装系において、チップ107の表面のGNDプレーン73と金属製の台座102に挟まれた空間、すなわちシリコン基板が、空洞共振器を形成してしまうことに起因する共振を、本明細書ではチップモードの共振と称する。
【0027】
図6Aおよび
図6Bのシミュレーション結果において、S21が非常に大きくなりS11が非常に小さくなるいくつかの特定の周波数を、以下ではチップモードの共振周波数と称する。チップモードの共振周波数に等しい周波数、あるいは近い周波数の信号をチップ107に入力すると、チップモードの共振が発生する。そして、
図6Aおよび
図6Bのシミュレーション結果によれば、
図5Aおよび
図5Bに示す系では、チップモードの最低の共振周波数は8.9[GHz]である。超伝導量子回路を形成したチップ107を
図1Aおよび
図1Bに示すサンプルホルダ101に実装した、
図3Aおよび
図3Bに示す系において、チップモードがチップ107に形成されている超伝導量子回路と結合すると、超伝導量子回路のデコヒーレンスを引き起こす。このデコヒーレンスの影響を低減するためには、チップモードの共振周波数を可能な限り高くする必要があることが知られている。
【0028】
このことから、チップモードの共振周波数を高くする技術が求められている。例えば、比較対象となるサンプルホルダ101では、台座102の、チップ107の直下にあたる部分の一部をくり抜くことにより、チップ107の直下に空洞を形成すれば、チップモードの影響を低減できる。
【0029】
空洞を台座102に形成したサンプルホルダ101の、PCB103の貫通孔104近辺の拡大図を
図7Aから
図7Cに示す。
図7Aは、空洞を台座に形成したサンプルホルダ101の斜視図である。
図7Bは、空洞を台座に形成したサンプルホルダ101の上面図である。
図7Cは、空洞を台座に形成したサンプルホルダ101が、
図7Bに示す切断線B-BBを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
図7Aから
図7Cのように、台座102には、PCB103の貫通孔104の直下に当たる部分に空洞105が形成される。言い換えれば、
図7Aから
図7Cのように、台座102には、サンプルホルダ101にチップ107を実装した場合のチップ107の直下にあたる部分に、空洞105が形成される。また、
図7Aから
図7Cにおいて、空洞105は、チップ107の面積と同じ面積の底面を有する四角柱の形状である。そして、台座102は、空洞105の四隅に柱106を残した構造を有する。柱106は、例えば、金属製である。なお、
図7Cにおいて、サンプルホルダ101にチップ107がボンディングワイヤ113で実装されている。
【0030】
図7A、
図7B、
図7Cでは、柱106を明示するために、柱106を台座102と異なるパターンで表す。四隅の金属製の柱106は、台座102と一体になっており、台座102の一部を構成している。
図7Aから
図7Cに示す四隅の金属製の柱106の二つの底面のうち上側の底面はチップ107の裏面に接触する。また、
図7A、
図7Bにおいて、金属製の柱106の底面は、直角二等辺三角形である。
図7Cに示すように、この柱106の底面の、等しい二辺の長さを1[mm](ミリメートル)とし、空洞105の高さを3[mm]として、
図7のサンプルホルダ101に
図4Aおよび
図4Bのチップ107を実装した場合について、シミュレーションを行う。
【0031】
図8は、
図7A、
図7B、
図7Cに示すサンプルホルダ101に
図4Aおよび
図4Bに示すチップ107をボンディングワイヤ113で実装した場合における、
図5Aに示すPort1から高周波信号を入力した場合のPort1への反射(S11)のシミュレーション結果を示す説明図である。
図8のシミュレーション結果によれば、
図7の空洞105を台座102に形成したサンプルホルダ101に
図4Aおよび
図4Bに示すチップ107をボンディングワイヤ113で実装した場合、チップモードの最低の共振周波数を19.9[GHz]まで高くすることができることが分かる。台座102に空洞105を形成していない場合のシミュレーション結果(
図6Aおよび
図6B)ではチップモードの最低の共振周波数が8.9[GHz]である。このことから、
図7A、
図7B、
図7Cの空洞105を台座102に形成したサンプルホルダ101を用いることにより、チップモードの共振周波数を大幅に高くすることができることが分かる。
【0032】
台座102に空洞105が形成されることによりチップモードの共振周波数を高くすることができる理由は、チップ107の直下に空洞105を形成した場合、チップ107の表面のGNDプレーン73と台座102(この場合は空洞105の底である)とに挟まれた空間が形成する空洞共振器の内側が、シリコン(シミュレーションでは厚さ380[μm])と真空(シミュレーションでは厚さ3[mm])であると推測される。これにより、台座102に空洞105を形成しない場合(つまり空洞共振器の内側がほぼシリコンだけの場合)よりも、空洞共振器の内側の実効的な誘電率が低下するためであると推測される。なお、真空の比誘電率が1であるのに対して、シリコンの比誘電率は11.9と非常に高い。また、空洞共振器の共振周波数は、一般に、空洞共振器の内側を満たしている媒質の誘電率が低いほど高くなるという性質がある。
【0033】
このように、空洞105を台座102に形成したサンプルホルダ101を用いれば、チップモードの共振周波数を高くすることができる。しかしながら、チップモードの超伝導量子回路への影響を低減するためには、チップモードの共振周波数をできるだけ高くすることが求められる。また、量子計算機の実用化に向けてチップ107に集積する量子ビットのビット数が増加すると、5[mm]×5[mm]よりも広い面積のチップ107が必要になることが予測されている。チップ107の面積が広くなるほどチップモードの共振周波数は低下する。これはチップ107の面積が広くなるほどチップ107の表面のGNDプレーン73と台座102とで挟まれた空間が形成する空洞共振器の底面の寸法が大きくなるからである。したがって、
図7Aから
図7Cのような空洞105を台座102に形成したサンプルホルダ101を用いても、チップ107の面積が広くなるほど、チップモードの共振周波数は低下し、量子回路への影響が大きくなることが予測される。以上のことから、空洞105を台座102に形成したサンプルホルダ101を用いた場合よりも、チップモードの共振周波数をさらに、できるだけ高くできるような技術を開発することが求められる。
【0034】
そこで、チップモードの共振周波数をより高くすることが可能な各実施形態について説明する。
【0035】
(第一の実施形態)
第一の実施形態では、台座に接触しているPCBが、誘電体と、誘電体の表面に形成された表面GNDと、誘電体の裏面に形成された裏面GNDと、チップが格納される、表面GNDから裏面GNDまで貫通する貫通孔と、貫通孔の端面に表面GND及び裏面GNDを導通する導体と、を有する例を説明する。そして、第一の実施形態では、台座のうち貫通孔の下側の少なくとも一部には空洞があり、空洞にはチップの面を支持する、台座に導通している支持構造がある例について説明する。
【0036】
図9は、第一の実施形態にかかるサンプルホルダを示す説明図である。第一の実施形態のサンプルホルダ1は、
図9のように、金属製の台座2の上にPCB3を乗せた構成である。PCB3の中央付近には、PCB3を貫通する貫通孔4が設けられている。台座2の形状は、特に限定されない。例えば、台座2の形状としては、直方体または立方体が挙げられる。サンプルホルダ1は、台座2の、PCB3の貫通孔4の直下に当たる部分に、空洞5を有する。
【0037】
チップの回路面の高さとPCB3の表面の高さを可能な限りそろえることにより、ワイヤボンディングし易くすることができ、ボンディングワイヤを短くすることができる。なお、ボンディングワイヤが短いほど、電気特性が良くなる。また、PCB3に貫通孔4を形成することにより、チップモードの共振周波数を高くすることができる。チップの裏面(回路面と反対の面)に誘電体や導電体が存在すると、チップモードの共振周波数が低下してしまう。そのため、チップモードの共振周波数を高くするためには、チップの裏面は可能な限り、真空に接触するようにする。PCB3に貫通孔4を形成しないで、PCB3の上にチップを配置すると、チップの裏面にPCB3の誘電体または導電体が接触してしまうので、チップモードの共振周波数を高くすることができない。そこで、第一の実施形態では、PCB3に貫通孔4を形成し、その貫通孔4の中にチップを配置し、さらに、チップの直下の台座2に空洞5を形成することにより、チップの裏面の可能な限り広い面積が真空と接触するような構造である。
【0038】
第一の実施形態のサンプルホルダ1の、PCB3の貫通孔4近辺の拡大図を
図10Aから
図10Cに示す。
図10Aは、第一の実施形態のサンプルホルダ1を示す斜視図である。
図10Bは、第一の実施形態のサンプルホルダ1の上面図である。
図10Cは、第一の実施形態のサンプルホルダ1が、
図10Bに示す切断線C-CCを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。なお、
図10Cにおいて、第一の実施形態のサンプルホルダ1にチップ7がボンディングワイヤ13で実装されている。
【0039】
サンプルホルダ1は、台座2のうち貫通孔4の下側の少なくとも一部には空洞5がある。
図10Aから
図10Cにおいて、サンプルホルダ1は、台座2の、PCB3の貫通孔4の直下に当たる部分に空洞5を有する。言い換えれば、
図10Aから
図10Cにおいて、サンプルホルダ1は、台座2の、サンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合のチップ7の直下にあたる部分に、空洞5を有する。空洞5の形状は特に限定されない。例えば、空洞5の底面は、平面であってもよいし、平面以外であってもよい。空洞5の側面は、平面であってもよいし、平面以外であってもよい。例えば、空洞5の側面や空洞5の底面に、くぼみなどがあってもよい。
図10Aから
図10Cにおいて、空洞5は、四角柱の形状である。より具体的に、
図10Aから
図10Cにおいて、空洞5は、各辺の長さがaおよびbである四角形の底面を有し、高さがdである四角柱の形状である。さらに、空洞5には、チップ7の面を支持する、台座に導通している支持構造がある。支持構造の材質は、例えば、金属製である。具体的に、支持構造の材質は、例えば、金属の粒やフィラーを混ぜた樹脂などの、金属を含む混合物などであってもよい。
【0040】
また、支持構造の形状は、特に限定されない。例えば、
図10Aから
図10Cにおいて、支持構造は、柱6であってもよい。図示しないが、支持構造は、例えば、空洞5の側面から延びる出っ張りなどであってもよい。または、図示しないが、支持構造は、例えば、直線状にない3支点などであってもよい。または、図示しないが、支持構造は、空洞5の底面から剣山のように伸びる構造であってもよい。
【0041】
ここで、支持構造として、
図10Aから
図10Cに示す柱6を例に挙げて説明する。柱6の数と柱6の形状とは、特に限定されない。以降の実施形態においても同様である。
図10Aから
図10Cにおいて、複数の柱6が、空洞5に設けられている。より具体的に、空洞5の四隅に導電体である柱6が配置されている。
【0042】
図10Aから
図10Cでは、柱6を明示するために、柱6を台座2と異なるパターンで示す。なお、
図10Aから
図10Cの空洞5は、
図7Aから
図7Cを示す空洞105と同様の構造である。すなわち、四隅の柱6の底面は直角二等辺三角形の形状である。この柱6の底面の、等しい二辺(等辺)の長さはsである。柱6の高さはdである。四隅の導電体の柱6は台座2と電気的に接触している。
図10Aから
図10Cに示す四本の導電体の柱6は、台座2と別体であってもよい。もしくは、
図10Aから
図10Cに示す柱6は、台座2と同じ材質であってもよい。すなわち、台座2と柱6とが一体になっていてもよい。サンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した際に、四隅の柱6の上側の底面はチップ7の裏面に接触する。
【0043】
ここで、柱6を用いる場合の効果について説明する。柱6がない場合、チップ7が空洞5に落下してしまうことが懸念される。チップ7とPCB3はボンディングワイヤで接続される。このため、柱6が無くともチップ7が空洞5に落下しない可能性はあるが、振動などでチップ7が空洞5に落下したり、一部のボンディングワイヤが外れることによりチップ7が空洞5に落下する恐れがある。よって、金属製の柱6を設けることにより、チップ7の空洞5への落下を防ぎ、ボンディングワイヤのはずれを防止することができる。また、金属製の柱6は、チップ7と台座2の熱パスを強化することができる。超伝導量子回路のチップ7は、冷凍機で10[mK](ミリケルビン)程度に冷却して動作させるが、一般に、台座2は冷凍機のコールドステージ(最も冷えているところ)と熱接触する。すなわち、台座2は非常に低い温度になる。そして、台座2とチップ7の間の熱パスが強いほど、換言すると、台座2とチップ7の間の熱抵抗が小さいほど、チップ7がよく冷える。チップ7が良く冷えてくれないと、チップ7に形成された量子回路のよい性能を引き出すことができないため、チップ7を可能な限り低い温度に冷やすことが望ましい。そのため、台座2とチップ7の間の熱抵抗は可能な限り小さい方が好ましい。そして、金属製の柱6は、台座2とチップ7の間の熱抵抗を小さくすることができる。
【0044】
例えば、チップ7と台座2の間の熱パスを最も強化するために台座2に空洞5を形成しない構造が考え得る。しかしながら、台座2に空洞5を形成しない場合、チップモードの問題がある。そこで、チップモードの問題を解消するために台座2に空洞5を形成する場合、柱6の上側の面の一部をチップ7の裏面と平行にする。すなわち、支持構造においてチップ7を支持する部分のうち、少なくとも一部がチップ7の裏面と平行である。これにより、熱抵抗を小さくすることができる。
【0045】
図11Aは、第一の実施形態のサンプルホルダ1に用いるPCB3の上面図である。
図11Bは、第一の実施形態のサンプルホルダ1に用いるPCB3の下面図である。
図11Cは、第一の実施形態のサンプルホルダ1に用いるPCB3の側面図である。
図11Dは、第一の実施形態のサンプルホルダ1に用いるPCB3の斜視図である。
図11Eは、第一の実施形態のサンプルホルダ1に用いるPCB3の貫通孔4付近の拡大図である。
【0046】
図11Aおよび
図11Eに示すように、PCB3は、例えば、xy平面に平行に延在する板状の形状の誘電体8を有する。PCB3は、誘電体8の一方の面(表面)に表面GND9とコプレナ導波路の芯線10を形成した構造である。PCB3は、誘電体8の他方の面(裏面)に裏面GND11を形成した構造である。芯線10と表面GND9と裏面GND11は、導電体、例えば金属である。その金属の例としては、Cu(銅)や、Auメッキ(金メッキ)を施したCuなどが挙げられる。
図11Aでは、PCB3に8本のコプレナ導波路が形成されている。コプレナ導波路については、
図2Aで説明した通りである。ただし、PCB3に形成するコプレナ導波路の本数は、特に限定されず、任意の本数であってよい。なお、
図11Dに示すように、PCB3には複数のスルーホール12が設けられている。これらのスルーホール12は、誘電体8を貫通しており、表面GND9と裏面GND11を電気的に接続する。スルーホール12は、例えば、誘電体8と表面GND9と裏面GND11を貫通する穴を形成した後、穴の内側を金属でメッキすることにより、作製される。
【0047】
図9において、PCB3の裏面GND11は台座2と接触している。したがって、金属製の台座2とPCB3の裏面GND11とPCB3のスルーホール12とPCB3の表面GND9は電気的に接続されている。また、PCB3の中央付近には貫通孔4が設けられている。この貫通孔4は、例えば、サンプルホルダ1に実装される超伝導量子回路のチップ7と同じ形状、すなわち長方形または正方形の形状であってもよい。また、チップ7が貫通孔4の内側に入るようにするため、貫通孔4の面積はチップ7の面積よりも広い。
【0048】
また、第一の実施形態のサンプルホルダ1に用いるPCB3は、貫通孔4の端面に表面GND9及び裏面GND11を導通する導体を有する。
図11Eにおいて、この導体は、導電体14である。より具体的に、第一の実施形態のサンプルホルダ1に用いるPCB3の特徴は、
図11Eのように、PCB3の貫通孔4において、貫通孔4の端面に導電体14を形成することにより、PCB3の表面GND9と裏面GND11を電気的に接続したことである。すなわち、PCB3の芯線10の近傍のPCB3の端面には導電体14を形成していない。よって、導電体14は、貫通孔4の端面のうち芯線10の近傍のPCB3の端面以外の部分に設けられる。これにより、PCB3の芯線10とPCB3の各GNDとが電気的に接触するのを防ぐ。貫通孔4の端面に形成する導電体14は、例えば金属である。より具体的に、導電体14は、Cuや、Auメッキを施したCuなどである。また、導電体14は、超伝導量子回路を動作させる10[mK](ミリケルビン)程度の極低温環境において超伝導体になる材料、例えばPb(鉛)などが用いられてもよい。
【0049】
図9に示す第一の実施形態のサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した系の、S11のシミュレーション結果を
図12に示す。ここで、S11とは、前述と同様に、
図11Aに示すPort1から高周波信号を入力した場合のPort1への反射である。
図12は、第一の実施形態かかるサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、
図12におけるシミュレーションでは、a=5[mm]、b=5[mm]、d=3[mm]、s=1[mm]とした。
【0050】
図12のように、チップモードの最低の共振周波数は、36.6[GHz]である。よって、
図12のように、チップモードの最低の共振周波数を、
図7Aから
図7Cに示すサンプルホルダ101を用いてシミュレーションした
図8に示すシミュレーション結果よりも高くすることができる。第一の実施形態のサンプルホルダ1を用いることによりチップモードの共振周波数をより高くすることができたのは、次のような理由であると考えられる。
図7Aから
図7Cに示すサンプルホルダ101の例では、チップモードの共振が発生しているときに生成される定在波の電場が、チップ107のシリコン基板内にとどまらず、PCB103の貫通孔104の端面を通って誘電体108の内部まで広がってしまう。これに対して、第一の実施形態のサンプルホルダ1の場合、PCB3の貫通孔4の端面に導電体14を形成してPCB3の表面GND9と裏面GND11を電気的に接続したことにより、チップモードの共振が発生しているときに生成される定在波の電場が、PCB3の誘電体8の内部まで広がるのを抑制できる。このため、第一の実施形態によれば、実質的に空洞共振器の寸法を小さくすることができると考えられる。
【0051】
なお、第一の実施形態において、例えばサンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形の形状をしており、チップ7の短辺の長さをv、チップ7の長辺の長さをwとする。このような場合、
図10Aから
図10Cに示す空洞5において例えばa<bであることが好ましく、かつ、aはv以上、bはw以上であることが好ましい。そのようにしないと、チップ7の裏面と台座2との接触面積が増えてしまい、チップモードの共振周波数が低下してしまうからである。
【0052】
また、この場合、第一の実施形態のPCB3の貫通孔4の形状は、特に限定されないが、長方形であることがより好ましい。
図11Aおよび
図11Bに示す通り、PCB3の貫通孔4の短辺の長さをx1、貫通孔4の長辺の長さをy1とした場合、チップ7が貫通孔4の内側に入らなければならない。このため、v<x1かつw<y1であることが必要である。さらに、x1とy1が短いほど、空洞共振器の実質的な寸法を小さくできため、チップモードの共振周波数を高くすることができる。このように、x1は1.2v以下であり、1.1v以下であることが、より好ましい。同様の理由から、bは1.2w以下であることが好ましく、1.1w以下であることが、より好ましい。
【0053】
一方、チップ7が正方形の形状をしており、チップ7の一辺の長さがvである場合、
図10Aから
図10Cに示す空洞5において、a=bであることが好ましく、かつ、aはv以上であることが好ましい。また、この場合、第一の実施形態にかかるPCB3の貫通孔4は正方形であることが好ましく、PCB3の貫通孔4の一辺の長さをx1とした場合、チップ7が貫通孔4の内側に入らなければならないため、v<x1であることが必要である。さらに、x1が短いほどチップモードの共振周波数を高くすることができるので、x1は1.2v以下であることが好ましく、1.1v以下であることが、より好ましい。
【0054】
また、シミュレーションによれば、空洞5の高さdを大きくするほどチップモードの共振周波数が高くなるが、ある程度までdを大きくすると、それ以上dを大きくしてもチップモードの共振周波数がほとんど変わらなくなる。そのため、第一の実施形態において、サンプルホルダ1に実装するチップ7の厚さをtとした場合、
図10Aから
図10Cに示す空洞5の高さdは2t以上であることが好ましく、3t以上であることがより好ましく、5t以上であることがさらに好ましい。
【0055】
また、第一の実施形態において、
図10Aから
図10Cに示す四隅の柱6の底面積が小さいほど、チップ7の裏面と台座2との接触面積を減らせるため、チップモードの共振周波数を高くすることができる。そのため、サンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形であり、チップ7の短辺の長さをvとした場合、sは0.5v以下であることが好ましい。さらに、sは0.3v以下であることが好ましく、0.2v以下であることがより好ましい。一方、サンプルホルダ1に実装するチップ7が正方形であり、チップ7の一辺の長さをvとした場合、sは0.5v以下であることが好ましい。さらに、sは、0.3v以下であることが好ましく、0.2v以下であることがより好ましい。
【0056】
[第一の実施形態の変形例]
第一の実施形態では、PCB3が、金属層を2層有する例を説明した。PCB3の金属層は、2層に限らず、3層以上であってもよい。第一の実施形態の変形例では、PCB3の金属層が3層以上の場合について説明する。
【0057】
図13Aは、第一の実施形態の変形例にかかるPCB3の構造を示す上面図である。
図13Bは、第一の実施形態の変形例にかかるPCB3が、表面GND9と裏面GND11に挟まれた領域に形成された芯線が見えるようにxy平面に平行な面で切断された断面図である。なお、
図13Bに示す断面図は、PCB3が
図13Cに示す切断線P-PPを含むxy平面に平行な面)付近で切断された断面図である。
図13Cは、第一の実施形態の変形例にかかるPCB3が
図13Aに示す切断線D-DDを含むxz平面に平行な面で切断された断面の芯線10付近の拡大図である。
図13Dは、第一の実施形態の変形例にかかるPCB3の構造を示す下面図である。
図13Eは、第一の実施形態の変形例にかかるPCB3の斜視図である。
図13Fは、第一の実施形態の変形例にかかるPCB3の貫通孔4付近の拡大図である。第一の実施形態の変形例のサンプルホルダ1は、
図9のように、金属製の台座2の上にPCB3を乗せた構成である。台座2には、
図10Aから
図10Cと同様の形状の空洞5を形成する。前述の通り、第一の実施形態のサンプルホルダ1では、
図11Aから
図11EのPCB3を用いる。
図11Aから
図11EのPCB3は、金属層を2層有する。具体的には、
図11Aから
図11EのPCB3は、表面GND9と芯線10が形成されている金属層と、裏面GND11が形成されている金属層との、計2層の金属層を有する。一方、第一の実施形態の変形例では、金属層を3層以上有するPCB3を用いる。
【0058】
図13Cのように、PCB3は、例えば、xy平面に平行に延在する板状の形状の誘電体8の一方の面に表面GND9を形成した構造である。また、PCB3は、誘電体8の他方の面に裏面GND11を形成した構造である。さらに、PCB3は、誘電体8の内部、すなわち、表面GND9と裏面GND11に挟まれた領域に、芯線10を形成した構造である。このような構造の線路は、一般に、ストリップラインと呼ばれる。
【0059】
図13Aのように、PCB3の上側の面には、表面GND9、入出力パッド15、ボンディングパッド16が形成されている。入出力パッド15は、PCB3の芯線10と外部の計測器などとを接続し、信号の入出力に用いるためのパッドである。ボンディングパッド16は、PCB3の芯線10とチップ7のパッドとをボンディングワイヤ13などで接続するためのパッドである。PCB3の上側の面に形成された入出力パッド15およびボンディングパッド16と、表面GND9と裏面GND11に挟まれた領域に形成された芯線10とは、電気的に接続されている。なお、
図13Aの上面図では、芯線10は、表面GND9に隠れているため見えない。一方、
図13Bには、芯線10付近でxy平面に平行な面で切断した断面図を示す。
図13Aから
図13Fでは、PCB3に4本のストリップラインが形成されている。ただし、PCB3に形成されるストリップラインの本数は、特に限定されず、任意の本数でよい。なお、
図13B、
図13C、
図13Eに示すように、PCB3には複数のスルーホール12が設けられている。これらのスルーホール12は、誘電体8を貫通しており、表面GND9と裏面GND11を電気的に接続している。また、PCB3の中央付近には貫通孔4が設けられている。
図13Fに示したように、PCB3の貫通孔4において、貫通孔4の端面に導電体14を形成することにより、PCB3の表面GND9と裏面GND11を電気的に接続されている。
【0060】
3層以上の金属層を有するPCB3であっても、
図13Fに示すように、貫通孔4の端面に導電体14を形成することにより、PCB3を
図10Aから
図10Cと同様の台座2の上に乗せたサンプルホルダ1は、第一の実施形態と同様の効果を奏する。
【0061】
なお、第一の実施形態およびその変形例において、柱6の形状を、底面が直角二等辺三角形の三角柱としたが、柱6の形状は三角柱でなくてもよい。柱6の形状が、例えば四角柱などの柱の底面が多角形であってもよいし、柱の底面が多角形でなくてもよい。柱の形状に関係なく、第一の実施形態およびその変形例で述べた効果を奏する。
【0062】
(第二の実施形態)
第二の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下、第二の実施形態の説明が不明確にならない範囲で、前述の説明と重複する内容については説明を省略する。
【0063】
第二の実施形態のサンプルホルダ1は、第一の実施形態で説明した
図9のように、台座2の上にPCB3を乗せた構成を有する。台座2には、
図10Aから
図10Cに示す空洞5と同様の形状の空洞5を形成する。
【0064】
図14は、第二の実施形態のサンプルホルダ1で用いるPCB3の、貫通孔4近辺の拡大図である。第一の実施形態で用いたPCB3と第二の実施形態で用いるPCB3との違いは次の点である。第一の実施形態で説明したPCB3では、
図11Eのように、PCB3の貫通孔4の端面に導電体14を形成するが、PCB3の芯線10の付近のPCB3の端面には導電体14を形成していない。これにより、PCB3の芯線10とPCB3のGNDとが電気的に接触するのを防ぐ。これに対して、第二の実施形態で用いる
図14のPCB3では、PCB3の芯線10を第一の実施形態よりも少し短くすることにより、PCB3の芯線10が貫通孔4の端面に接触しないようにしてある。すなわち、PCB3の芯線10は、誘電体の表面に、貫通孔4の端面に接触しないような長さで形成される。そして、PCB3は、PCB3の貫通孔4の端面全体に導電体14を形成する。これにより、PCB3の表面GND9と裏面GND11を電気的に接続する。このような構造にすることにより、PCB3の芯線10とPCB3のGNDとが電気的に接触することを防ぎつつ、PCB3の貫通孔4の端面全体に導電体14を形成することができる。
【0065】
ここで、第二の実施形態の効果を説明する。第一の実施形態においては、チップモードの共振が発生しているときに生成される定在波の電場がPCB3の誘電体8の内部に広がるのを、抑制する効果がある。しかしながら、PCB3の芯線10の付近のPCB3の端面には導電体14を形成しなかったため、PCB3の端面の導電体14が形成されていない部分、つまりPCB3の貫通孔4の端面の誘電体8が露出している部分、を通って電場の一部がPCB3の誘電体8の内部に漏れてしまうことが考えられる。一方、第二の実施形態においては、PCB3の貫通孔4の端面全体に導電体14を形成するため、チップモードの共振が発生しているときに生成される定在波の電場がPCB3の誘電体8の内部に広がるのを第一の実施形態よりもさらに抑制でき、チップモードの共振周波数をさらに高くすることができる。
【0066】
図15は、第二の実施形態のサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合の、S11のシミュレーション結果を示す説明図である。
図15に示すように、チップモードの最低の共振周波数を、第一の実施形態よりも高い36.8[GHz]まで高くすることができる。このように、第二の実施形態のサンプルホルダ1は、第一の実施形態のサンプルホルダ1よりもチップモードの共振周波数をより高くすることができるという効果がある。
【0067】
[第二の実施形態の変形例]
第二の実施形態の変形例のサンプルホルダ1は、
図9のように、金属製の台座2の上にPCB3を乗せた構成である。台座2には、
図10Aから
図10Cに示す例と同様の形状の空洞5を形成する。そして、第二の実施形態の変形例では、金属層を3層以上有するPCB3を用いる。金属層を3層以上有するPCB3の例として、金属層を3層有するPCB3の構成例を
図16に示す。
【0068】
図16は、第二の実施形態の変形例のサンプルホルダ1で用いるPCB3の、貫通孔4近辺の拡大図である。第一の実施形態の変形例で説明したPCB3(
図13)と第二の実施形態の変形例で説明した
図16のPCB3の違いは次の点である。第一の実施形態の変形例で説明したPCB3では、
図13Fのように、PCB3の貫通孔4の端面に導電体14を形成するが、PCB3のボンディングパッド16の付近のPCB3の端面には導電体14を形成していない。これにより、ボンディングパッド16とPCB3のGNDとが電気的に接触するのを防ぐ。これに対して、第二の実施形態の変形例で用いる
図16のPCB3では、ボンディングパッド16の先端を貫通孔から少し離すことにより、ボンディングパッド16が貫通孔4の端面に接触しないようにして、PCB3の貫通孔4の端面全体に導電体14を形成し、PCB3の表面GND9と裏面GND11を電気的に接続する。このような構造にすることにより、ボンディングパッド16とPCB3のGNDとが電気的に接触することを防ぎつつ、PCB3の貫通孔4の端面全体に導電体14を形成することができる。
【0069】
第一の実施形態の変形例においては、チップモードの共振が発生しているときに生成される定在波の電場がPCB3の誘電体8の内部に広がるのを抑制する効果がある。しかし、PCB3のボンディングパッド16の付近のPCB3の端面には導電体14を形成しなかったため、PCB3の端面の導電体14が形成されていない部分、つまりPCB3の貫通孔4の端面の誘電体8が露出している部分、を通って電場の一部がPCB3の誘電体8の内部に漏れてしまうことが考えられる。一方、第二の実施形態の変形例においては、PCB3の貫通孔4の端面全体に導電体14を形成するため、チップモードの共振が発生しているときに生成される定在波の電場がPCB3の誘電体8の内部に広がるのを第一の実施形態の変形例よりもさらに抑制でき、チップモードの共振周波数をさらに高くすることができることが期待される。
【0070】
以上のように、3層以上の金属層を有するPCB3であっても、
図16のように貫通孔4の端面全体に導電体14を形成することにより、そのようなPCB3を
図10Aから
図10Cと同様の台座2の上に乗せたサンプルホルダ1は、第二の実施形態と同様の効果を奏する。
【0071】
なお、第二の実施形態およびその変形例において、第一の実施形態で説明した通り、柱6の形状を、底面が直角二等辺三角形の三角柱としたが、柱6の形状は三角柱でなくてもよい。柱6の形状が、例えば四角柱などの柱の底面が多角形であってもよいし、柱6の底面が多角形でなくてもよい。柱6の形状に関係なく、第二の実施形態およびその変形例で述べた効果を奏する。
【0072】
(第三の実施形態)
第三の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下、第三の実施形態の説明が不明確にならない範囲で、前述の説明と重複する内容については説明を省略する。第三の実施形態では、第一の実施形態と同様に、サンプルホルダ1が、台座2と、台座2に接触しているPCB3と、を備える。そして、第三の実施形態では、第一の実施形態1,2と同様に、PCB3には貫通孔4があり、台座2のうち貫通孔4の下側の少なくとも一部には空洞5があり、空洞5にはチップ7の面を支持する、台座2に導通している支持構造がある。ここで、第三の実施形態では、支持構造においてチップ7を支持する部分のうち、少なくとも一部はチップ7の裏面と平行でないことを特徴とする。
【0073】
図17Aは、第三の実施形態にかかるサンプルホルダ1の斜視図である。
図17Bは、第三の実施形態にかかるサンプルホルダ1の上面図である。
図17Cは、第三の実施形態にかかるサンプルホルダ1が、
図17Bに示す切断線E-EEを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。また、
図17Cにおいて、サンプルホルダ1にチップ7が実装されている。
【0074】
第三の実施形態にかかるサンプルホルダ1は、台座2と、PCB3と、を備える。すなわち、第三の実施形態のサンプルホルダ1は、
図9のように、金属製の台座2の上にPCB3を乗せた構成である。第三の実施形態では、第一の実施形態および第二の実施形態と同様の、
図11の構造のPCB3を用いる。そして、第三の実施形態では、台座2に、
図17Aから
図17Cのような構造の空洞5を形成する。PCB3には、貫通孔4がある。台座2のうち貫通孔4の下側の少なくとも一部には空洞5がある。第一の実施形態および第二の実施形態と同様に、空洞5の形状は特に限定されない。例えば、空洞5の底面は、平面であってもよいし、平面以外であってもよい。空洞5の側面は、平面であってもよいし、平面以外であってもよい。例えば、空洞5の側面や空洞5の底面に、くぼみなどがあってもよい。
図17Aから
図17Cにおいて、サンプルホルダ1は、台座2の、PCB3の貫通孔4の直下に当たる部分に空洞5を有する。言い換えれば、
図17Aから
図17Cにおいて、サンプルホルダ1は、台座2の、サンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合のチップ7の直下にあたる部分に空洞5を有する。
図17Aから
図17Cにおいて、空洞5は、各辺の長さがaおよびbである四角形の底面を有する、高さがdである四角柱の形状である。
【0075】
空洞5にはチップ7の面を支持する、台座2に導通している支持構造を有する。ここでのチップ7の面は、チップ7の回路面と反対のチップ7の裏面である。前述の通り、第三の実施形態の特徴として、支持構造においてチップ7を支持する部分のうち、少なくとも一部はチップ7の裏面と平行でない。第三の実施形態では、第一の実施形態と同様に、支持構造は特に限定されない。ここで、支持構造を、柱6を例に挙げて説明する。柱6を空洞5の四隅に配置される例を用いて説明する。四隅の柱6の下側の底面は直角二等辺三角形の形状をしており、この底面の、等しい二辺の長さはsであり、柱6の高さはdである。四隅の導電体の柱6は台座2と電気的に接触している。
図17Aから
図17Cに示す四本の導電体の柱6は、台座2と別体であってもよい。もしくは、柱6は、台座2と同じ材質でもよく、すなわち、台座2と四本の柱6とが一体になっていてもよい。
【0076】
前述の通り、
図10Aから
図10Cに示す第一の実施形態における空洞5の構造との違いは、第三の実施形態においては、四隅の柱6の上側の面、すなわちサンプルホルダ1にチップ7を実装した際にチップ7の裏面に対向する面の、少なくとも一部が、チップ7の裏面と平行ではないことである。言い換えれば、四隅の柱6の上側の面の少なくとも一部が、台座2の上側の面と平行ではない。
図17Cに示したように、第三の実施形態のサンプルホルダ1に用いる柱6は、上部61と下部62を接続した構造である。上部61と下部62の形状は、特に限定されない。下部62は三角柱の形状をしており、下部62の底面は直角二等辺三角形の形状をしており、この底面の、等しい二辺の長さはsであり、下部62の高さはd1である。上部61は三角錐の形状をしており、上部61の底面は直角二等辺三角形の形状をしており、上部61の高さはd2である。ここでd1+d2=dである。また、例えば、上部61の底面と下部62の底面とは同一の形状および寸法である。この構造において、サンプルホルダ1にチップ7を実装した際に、四隅のそれぞれの柱6の少なくとも一部は、チップ7の裏面に接触する。この構造により、チップ7の裏面と導電体の柱6との接触面積を、第一の実施形態よりも減らすことができる。
【0077】
第三の実施形態のサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合の、S11のシミュレーション結果を
図18に示す。
図18は、第三の実施形態にかかるS11のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、
図18におけるシミュレーションでは、a=5[mm]、b=5[mm]、d=3[mm]、d1=2[mm]、d2=1[mm]、s=1[mm]とした。
図18のように、チップモードの最低の共振周波数を、第一の実施形態よりも高い37.5[GHz]まで高くすることができる。
【0078】
このように、第三の実施形態のサンプルホルダ1は、第一の実施形態のサンプルホルダ1よりもチップモードの共振周波数を高くすることができるという効果がある。前述の第一の実施形態の場合、チップモードの共振が発生しているときに生成される定在波の電場が主にシリコン基板の中と台座2に設けた空洞5(真空)の中に広がる。しかし、四隅の柱6の直上の部分においてはチップ7の表面のGNDプレーン73と柱6に挟まれた空間がシリコンだけであり、電場が真空中に広がることができないため、この四隅の柱6の直上の部分においては実効的な誘電率が高い。これに対して、第三の実施形態の場合、四隅の柱6の上側の面の少なくとも一部をチップ7の裏面と平行ではないようにしたことにより、四隅の柱6の直上の部分では、チップ7の表面のGNDプレーン73と柱6に挟まれた空間がシリコンと真空になるため、この部分において電場が真空中も広がることができる。このため、第三の実施形態では、この四隅の柱6の直上の部分における実効的な誘電率が第一の実施形態よりも低くなるため、チップモードの共振周波数をより高くすることができると考えられる。
【0079】
第三の実施形態の別の例として、
図17Aから
図17Cよりも四隅の柱6の太さsを大きくした場合を
図19Aから
図19Cに示す。
図19Aは、第三の実施形態の別の例にかかるサンプルホルダ1の斜視図である。
図19Bは、第三の実施形態の別の例にかかるサンプルホルダ1の上面図である。
図19Cは、第三の実施形態の別の例にかかるサンプルホルダが
図19Bに示す切断線F-FFを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
図19Cにおいて、第三の実施形態の別の例にかかるサンプルホルダ1にチップ7が実装されている。
【0080】
図19Aから
図19Cの空洞5を形成した台座2を用いたサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合のS11のシミュレーション結果を
図20に示す。
【0081】
図20は、第三の実施形態の別の例にかかるS11のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、シミュレーションでは、a=5[mm]、b=5[mm]、d=3[mm]、d1=0.5[mm]、d2=2.5[mm]、s=2.5[mm]とした。
図20のように、チップモードの最低の共振周波数を、38.1[GHz]と、さらに高くすることができる。このように、第三の実施形態においては、四隅の柱6の太さsや、柱6の下部62の高さd1や上部61の高さd2、空洞5の高さd、チップ7の厚さt、などを変えることにより、共振周波数をさらに高くすることができる。
【0082】
[第三の実施形態の変形例]
第三の実施形態の変形例では、空洞5の四隅の柱6の上部61の上側の面、すなわちサンプルホルダ1にチップ7を実装した際にチップ7の裏面に対向する面の一部が、チップ7の裏面と平行ではないが、一部はチップ7の裏面と平行である。
【0083】
図21Aは、第三の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダ1の斜視図である。
図21Bは、第三の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダ1の上面図である。
図21Cは、第三の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダ1が
図21Bに示す切断線G-GGを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
図21Cにおいて、第三の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダ1にチップ7が実装されている。
図21A、
図21B、
図21Cにおいて、空洞5の四隅の柱6の上部61の上側の面、すなわち、サンプルホルダ1にチップ7を実装した際に、空洞5を形成する台座2の表面のうち、チップ7の裏面に対向する面の一部が、チップ7の裏面と平行ではないが、一部はチップ7の裏面と平行である。換言すれば、四隅の柱6の上部61の上側の面の少なくとも一部が、台座2の上側の面と平行ではないが、一部は台座2の上側の面と平行である。柱6の下部62は、
図17A、
図17B、
図17Cや
図19A、
図19B、
図19Cの場合と同様に、三角柱の形状をしており、下部62の底面は直角二等辺三角形であり、等しい二辺の長さはs1である。
【0084】
一方、柱6の上部61は三角錐台の形状をしており、上部61の下側の底面は直角二等辺三角形であり、等しい二辺の長さはs1であるが、上部61の上側の底面は、直角二等辺三角形であり、等しい二辺の長さはs2である。ここでs1>s2である。柱6の下部62の高さはd1であり、上部61の高さはd2である。この構造において、サンプルホルダ1にチップ7を実装した際に、四隅のそれぞれの柱6の少なくとも一部は、チップ7の裏面に接触する。この構造により、チップ7の裏面と導電体の柱6との接触面積を、第一の実施形態よりも減らすことができる。ただし、
図17Aから
図17Cや
図19Aから
図19Cの場合よりは、チップ7の裏面と導電体の柱6との接触面積が大きくなる。
【0085】
図22は、
図21Aから
図21Cに示す空洞5を形成した台座2を用いたサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、
図22におけるシミュレーションでは、a=5[mm]、b=5[mm]、d=3[mm]、d1=2[mm]、d2=1[mm]、s1=1[mm]、s2=0.5[mm]とした。
図22のように、チップモードの最低の共振周波数は37.5[GHz]である。これは、第三の実施形態で説明した
図17Aから
図17Cの場合のシミュレーション結果における共振周波数とほぼ等しい値である。このように、第三の実施形態においては、四隅の柱6の上部61の上側の面の一部をチップ7の裏面と平行にしても、チップモードの共振周波数をより高くすることができるという効果が得られる。
【0086】
第三の実施形態およびその変形例において、例えばサンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形の形状をしており、チップ7の短辺の長さをv、チップ7の長辺の長さをwとする。このような場合、
図17Aから
図17Cに示す空洞5、
図19Aから
図19Cに示す空洞5、および、
図21Aから
図21Cに示す空洞5において、a<bであることが好ましく、かつ、aはv以上、bはw以上であることが好ましい。このようにしない場合に、チップ7の裏面と台座2との接触面積が増えてしまい、チップモードの共振周波数が低下してしまう恐れがある。また、この場合、第三の実施形態およびその変形例で用いるPCB3の貫通孔4は長方形であることが好ましく、PCB3の貫通孔4の短辺の長さをx1、貫通孔4の長辺の長さをy1とした場合、チップ7が貫通孔4の内側に入らなければならないため、v<x1かつw<y1であることが必要である。かつ、x1とy1が短いほどチップモードの共振周波数を高くすることができるので、x1は1.2v以下であることが好ましく、1.1v以下であることが、より好ましい。同様の理由から、bは1.2w以下であることが好ましく、1.1w以下であることが、より好ましい。
【0087】
一方、サンプルホルダ1に実装するチップ7が正方形の形状をしており、チップ7の一辺の長さがvである場合、
図17Aから
図17C、
図19Aから
図19C、および、
図21Aから
図21Cの空洞5においてa=bであることが好ましく、かつ、aはv以上であることが好ましい。また、この場合、第三の実施形態およびその変形例で用いるPCB3の貫通孔4は正方形であることが好ましく、PCB3の貫通孔4の一辺の長さをx1とした場合、チップ7が貫通孔4の内側に入らなければならないため、v<x1であることが必要である。そして、x1が短いほどチップモードの共振周波数を高くすることができるので、x1は1.2v以下であることが好ましく、1.1v以下であることが、より好ましい。
【0088】
また、第三の実施形態およびその変形例において、サンプルホルダ1に実装するチップ7の厚さをtとした場合、
図17Aから
図17C、
図19Aから
図19C、および、
図21Aから
図21Cの空洞5の高さdは2t以上であることが好ましく、3t以上であることがより好ましく、5t以上であることがさらに好ましい。
【0089】
また、第三の実施形態において、サンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形であり、チップ7の短辺の長さをvとした場合、sは0.1v以上0.5v以下であることが好ましい。また、サンプルホルダ1に実装するチップ7が正方形であり、チップ7の一辺の長さをvとした場合、sは0.1v以上0.5v以下であることが好ましい。同様に、第三の実施形態の変形例において、サンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形であり、チップ7の短辺の長さをvとした場合、s1は0.1v以上0.5v以下であることが好ましい。また、サンプルホルダ1に実装するチップ7が正方形であり、チップ7の一辺の長さをvとした場合、s1は0.1v以上0.5v以下であることが好ましい。なお、第三の実施形態の変形例において、s2は、s2<s1を満たしていればよい。
【0090】
また、第三の実施形態およびその変形例において、d2は0より大きければチップモードを高くする効果がある。したがって、d2は0より大きく、d以下であることが好ましい。なお、d2=dの場合はd1=0であり、その場合は、柱6は上部61だけで構成される。
【0091】
【0092】
なお、第三の実施形態およびその変形例において、柱6の下部62の形状を、底面が直角二等辺三角形の三角柱とし、上部61の形状を三角錐としたが、柱6の下部62および上部61の形状は、特に限定されない。上部61の上側の面、すなわち上部61の、チップ7の裏面と対向する面の少なくとも一部が、チップ7の裏面または台座2の上側の面と平行でなければ、第三の実施形態およびその変形例で述べた効果を奏する。
【0093】
(第四の実施形態)
第四の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下、第四の実施形態の説明が不明確にならない範囲で、前述の説明と重複する内容については説明を省略する。
【0094】
第四の実施形態のサンプルホルダ1は、
図9のように、金属製の台座2の上にPCB3を乗せた構成である。第四の実施形態では、第一の実施形態と同様に、
図11Aから
図11Eに示すPCB3を用いる。また、第四の実施形態では、サンプルホルダ1は、台座2の、PCB3の貫通孔4の直下に当たる部分に空洞5を有する。言い換えれば、サンプルホルダ1は、台座2の、サンプルホルダ1にチップ7を実装した場合のチップ7の直下にあたる部分に、空洞5を有する。そして、第四の実施形態では、空洞5は、柱と錐台とを組み合わせた形状であり、錐台の面積の狭い方の底面と柱の上側の底面とが同じ形状である。例えば、錐台の面積の広い方の底面が、貫通孔4側である。空洞5の錐台の一例として、角錐台を例に挙げて説明する。空洞5の柱の一例として、柱は、角柱を例に挙げて説明する。
【0095】
第四の実施形態にかかるサンプルホルダ1を
図23Aから
図23Cに示す。
図23Aは、第四の実施形態にかかるサンプルホルダ1の斜視図である。
図23Bは、第四の実施形態にかかるサンプルホルダ1の上面図である。
図23Cは、第四の実施形態にかかるサンプルホルダ1が
図23Bに示す切断線H-HHを含むxz平面と平行な面で切断された端面図である。
図23Cにおいて、第四の実施形態にかかるサンプルホルダ1にチップ7がボンディングワイヤ13で実装されている。
【0096】
図23Bおよび
図23Cのように、第四の実施形態において台座2に形成する空洞5は、角柱である角柱部51と、角錐台である角錐台部52を接続した構造である。
図23Bおよび
図23Cにおいて、角柱部51の底面と角錐台部52の面積の狭い方の底面とが接続される。このため、角柱部51の底面と角錐台部52の面積の狭い方の底面とは、同じ形状であり、同じ面積である。
【0097】
図23Aから
図23Cにおいて、角柱部51は、各辺の長さがa1およびb1である四角形の底面であり、高さがd1である四角柱の形状である。
図23Aから
図23Cにおいて、角錐台部52は、四角錐台である。
【0098】
ここで、例えばサンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形の形状の場合におけるチップおよび角柱部51の辺の長さについて説明する。チップ7の短辺の長さがv、チップ7の長辺の長さがwである場合、角柱部51においてa1<b1であることが好ましく、かつ、a1はvより小さく、b1はwより小さいことが好ましい。
【0099】
一方、サンプルホルダ1に実装するチップ7が正方形の形状をしており、チップ7の一辺の長さがvである場合、角柱部51においてa1=b1であることが好ましく、かつ、a1はvより小さいことが好ましい。
【0100】
図23Aから
図23Cにおいて、角錐台部52は、ふたつの底面のうち面積が狭い方の底面が、各辺の長さがa1およびb1である四角形の形状である。
図23Aから
図23Cにおいて、角錐台部52は、面積の広い方の底面が、各辺の長さがa2およびb2である四角形の形状をしている。
【0101】
ここで、例えばサンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形の形状をしており、チップ7の短辺の長さがv、チップ7の長辺の長さがwとする。このような場合、角錐台部52においてa2<b2であることが好ましく、かつ、a2はv以上1.5v以下、かつ、b2はw以上1.5w以下であることが好ましい。
【0102】
一方、サンプルホルダ1に実装するチップ7が正方形の形状をしており、チップ7の一辺の長さがvである場合、角錐台部52においてa2=b2であることが好ましく、かつ、a2はv以上1.5v以下であることが好ましい。また、角錐台部52の高さはd2である。本実施形態のサンプルホルダ1の台座2に形成する空洞5は、角柱部51の上に角錐台部52を接続した構造になっており、角柱部51の上側の底面と角錐台部52の下側の底面は同一の面である。ここで、角錐台部52の下側の底面とは、角錐台部52の二つの底面のうち面積が狭い方の底面である。
【0103】
第四の実施形態のサンプルホルダ1の特徴は、空洞5の上側に角錐台部52を設けたことにより、サンプルホルダ1にチップ7を実装した際にチップ7の裏面に対向する台座2の面の、少なくとも一部が、チップ7の裏面と平行ではないようにしたことである。
図23Aから
図23Cにおいて、この一部は、角錐台部52の側面のことである。
図23Cに示したように、角錐台部52の側面、すなわちサンプルホルダ1にチップ7を実装した際にチップ7の裏面に対向する面のうちチップ7の裏面と平行ではない部分と、チップ7の裏面とがなす角度をθとする。言い換えれば、角錐台部52の側面と、台座2の上側の面とがなす角度をθとする。θは、角錐台部52の側面にチップ7の裏面と平行ではない部分ができるような範囲である。例えば、θは、90度未満である。第四実施形態のサンプルホルダ1の構造において、サンプルホルダ1にチップ7を実装した際に、台座2の少なくとも一部は、チップ7の裏面に接触する。この構造により、チップ7の裏面と台座2との接触面積を、第一の実施形態よりも減らすことができる。
【0104】
図24は、第四の実施形態にかかるサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、
図24におけるシミュレーションでは、a1=4[mm]、b1=4[mm]、d1=2.5[mm]、a2=5[mm]、b2=5[mm]、d2=0.5[mm]とする。この場合、θは45度である。
図24のように、チップモードの最低の共振周波数を、第一の実施形態よりも高い38.6[GHz]まで高くすることができる。
【0105】
このように、第四の実施形態のサンプルホルダ1は、第一の実施形態のサンプルホルダ1よりもチップモードの共振周波数を高くすることができるという効果がある。第四の実施形態でチップモードの共振周波数を第一の実施形態よりも高くすることができた理由を説明する。第一の実施形態の場合、チップモードの共振が発生しているときに生成される定在波の電場が主にシリコン基板の中と台座2に設けた空洞5(真空)の中に広がる。しかしながら、第一の実施形態の場合、四隅の柱6の直上の部分、言い換えれば、チップ7の四隅の部分、においてはチップ7の表面のGNDプレーン73と柱6に挟まれた空間がシリコンだけであり、電場が真空中に広がることができない。このため、第一の実施形態の場合、このチップ7の四隅の部分においては実効的な誘電率が高い。これに対して、第四の実施形態の場合、空洞5に角錐台部52を設けたことにより、チップ7の四隅の部分においても、チップ7の表面のGNDプレーン73と台座2に挟まれた空間がシリコンと真空になるため、この部分において電場が真空中も広がることができる。このため、第四の実施形態では、このチップ7の四隅の部分における実効的な誘電率が第一の実施形態よりも低くなるため、チップモードの共振周波数をより高くすることができると考えられる。
【0106】
[第四の実施形態の変形例]
第四の実施形態の変形例として、空洞5の角柱部51をなくして角錐台部52だけにした場合のサンプルホルダ1を
図25Aから
図25Cに示す。
図25Aは、第四の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダ1の斜視図である。
図25Bは、第四の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダ1の上面図である。
図25Cは、第四の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダ1が
図25Bに示す切断線I-IIを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
図25Cにおいて、第四の実施形態の変形例にかかるチップ7がボンディングワイヤ13で実装されている。
図25Aから
図25Cに示すように、空洞5は、角柱部51を有さず、角錐台部52を有する。
図25Aから
図25Cにおいて角錐台部52は、四角錐台である。また、θは、角錐台部52の側面がチップ7の裏面と平行ではなくなるような範囲である。例えば、角錐台部52が四角錐台の場合、θは、90度未満である。
【0107】
図26は、
図25Aから
図25Cに示す空洞5を形成した台座2を用いたサンプルホルダ1に、チップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、
図26におけるシミュレーションでは、a1=2[mm]、b1=2[mm]、a2=5[mm]、b2=5[mm]、d1=0[mm]、d2=5[mm]とした。この場合、θは約73.3度である。
図26のように、チップモードの最低の共振周波数を、39.0[GHz]と、さらに高くすることができる。このように、第四の実施形態においては、空洞5の角柱部51および角錐台部52の寸法a1、b1、d1、a2、b2、d2や、チップ7の厚さt、などを変えることなどにより、共振周波数をさらに高くすることができる。
【0108】
第四の実施形態およびその変形例において、サンプルホルダ1に実装するチップ7の厚さをtとした場合、
図23Aから
図23C、
図25Aから
図25Cの空洞5の高さd1+d2は2t以上であることが好ましく、3t以上であることがより好ましく、5t以上であることがさらに好ましい。
【0109】
また、第四の実施形態およびその変形例において、d2は0より大きければチップモードを高くする効果がある。したがって、d2は0より大きいことが好ましい。一方、d1は0でもよいので、d2は0以上であることが好ましい。なお、d1=0の場合は、空洞5は角錐台部52だけで構成される。
【0110】
なお、第四の実施形態およびその変形例では、第一の実施形態のPCB3(
図11Aから
図11E)を用いた。
図23Aから
図23C、
図25Aから
図25Cの空洞5を形成した台座2の上に、第一の実施形態の変形例のPCB3(
図13Aから
図13F)や、第二の実施形態のPCB3(
図14)や、第二の実施形態の変形例のPCB3(
図16)を置いたサンプルホルダ1を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0111】
なお、第四の実施形態およびその変形例において、空洞5は角柱部51と角錐台部52を接続した構造、または角錐台部52のみからなる構造としたが、角錐台部52は、角錐台の形状をしていなくてもよい。例えば、角錐台部52の側面が、平面ではなく曲面であってもよい。つまり、空洞5を形成する台座2の表面のうち、チップ7の裏面と対向する面の少なくとも一部が、チップ7の裏面または台座2の上側の面と平行でなければ、第四の実施形態およびその変形例で述べた効果を奏する。また、角錐台部52の角錐台の形状の代わりに、角錐の形状が用いられてもよい。よって、空洞5が角柱部51と角錐部とを接続した構造、または角錐部のみからなる構造であってもよい。
【0112】
(第五の実施形態)
第五の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。以下、第五の実施形態の説明が不明確にならない範囲で、前述の説明と重複する内容については説明を省略する。
【0113】
第五の実施形態のサンプルホルダ1は、
図9のように、金属製の台座2の上にPCB3を乗せた構成である。第五の実施形態では、第一の実施形態と同様の、
図11Aから
図11Eに示す構造のPCB3を用いる。そして、第五の実施形態では、サンプルホルダ1は、台座2の、PCB3の貫通孔4の直下に当たる部分に、言い換えれば、サンプルホルダ1にチップ7を実装した場合のチップ7の直下にあたる部分に、空洞5を有する。空洞5は、第四の実施形態と同様に、角柱と角錐台とを組み合わせた形状であり、角錐台の面積の狭い方の底面と角柱の上側の底面とが接続された形状である。さらに、第五の実施形態では、第四の実施形態と異なり、角錐台が変形されていてもよい。これにより、第五の実施形態では、サンプルホルダ1にチップ7を実装した際に、空洞5を形成する台座2の表面のうち、チップ7の裏面に対向する面の、少なくとも一部が、チップ7の裏面と平行ではないようにする。
【0114】
図27Aは、第五の実施形態のサンプルホルダ1の斜視図である。
図27Bは、第五の実施形態のサンプルホルダ1の上面図である。
図27Cは、第五の実施形態のサンプルホルダが、
図27Bに示す切断線J-JJを含むxz平面に平行な面で切断された断面図である。
図27Cにおいて、第五の実施形態にかかるサンプルホルダ1にチップ7がボンディングワイヤ13で実装されている。
図27Aから
図27Cのように、第五の実施形態において台座2に形成する空洞5は、角柱部51と角錐台変形部53を接続した構造である。
【0115】
角柱部51は、各辺の長さがa1およびb1である四角形の底面を有し、高さがd1である四角柱の形状をしている。
【0116】
ここで、例えばサンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形の形状をしており、チップ7の短辺の長さをv、チップ7の長辺の長さをwとする。このような場合、角柱部51においてa1<b1であることが好ましく、かつ、a1はvより小さく、b1はwより小さいことが好ましい。
【0117】
一方、サンプルホルダ1に実装するチップ7が正方形の形状をしており、チップ7の一辺の長さがvである場合、角柱部51においてa1=b1であることが好ましく、かつ、a1はvより小さいことが好ましい。
【0118】
角錐台変形部53は、ふたつの底面のうち面積が狭い方の底面が、各辺の長さがa1およびb1である四角形の形状をしており、面積の広い方の底面が、各辺の長さがa2およびb2である四角形の四隅の角が斜めに切られた八角形の形状をしている。
【0119】
ここで、例えばサンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形の形状をしており、チップ7の短辺の長さをv、チップ7の長辺の長さをwとする。このような場合、角錐台変形部53においてa2<b2であることが好ましく、かつ、a2はv以上1.5v以下、かつ、b2はw以上1.5w以下であることが好ましい。
【0120】
一方、サンプルホルダ1に実装するチップ7が正方形の形状をしており、チップ7の一辺の長さがvである場合、角錐台変形部53においてa2=b2であることが好ましく、かつ、a2はv以上1.5v以下であることが好ましい。
【0121】
また、角錐台変形部53の高さはd2である。本実施形態のサンプルホルダ1の台座2に形成する空洞5は、角柱部51の上に角錐台変形部53を接続した構造になっており、角柱部51の上側の底面と角錐台変形部53の下側の底面は同一の面である。ここで、角錐台変形部53の下側の底面とは、角錐台変形部53の二つの底面のうち面積が狭い方の底面である。第五の実施形態の
図27Aから
図27Cの空洞5の形状を正確に説明するために、
図28Aから
図28Cと
図29Aから
図29Cを用いて説明する。
【0122】
図28Aは、第五の実施形態のサンプルホルダ1の空洞5の形状例1を示す斜視図である。
図28Bは、第五の実施形態のサンプルホルダ1の空洞5の形状例1を示す上面図である。
図28Cは、第五の実施形態のサンプルホルダ1の空洞5の形状例1においてサンプルホルダ1の空洞5付近が
図28Bに示す切断線K-KKを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
図28Cにおいて、第五の実施形態にかかるサンプルホルダ1にチップ7がボンディングワイヤ13で実装されている。
【0123】
図29Aは、第五の実施形態のサンプルホルダ1の空洞5の形状例2を示す斜視図である。
図29Bは、第五の実施形態のサンプルホルダ1の空洞5の形状例2を示す上面図である。
図29Cは、第五の実施形態のサンプルホルダの空洞の形状例2においてサンプルホルダ1が、
図29Bに示す切断線L-LLを含むxz平面に平行な面で切断された断面図である。なお、
図29Cに示す断面図において、切断面に柱6はないが、柱6を明示するために、柱6にパターンを入れてある。
図29Cにおいて、第五の実施形態にかかるサンプルホルダ1にチップ7がボンディングワイヤ13で実装されている。
【0124】
図28Aから
図28Cに示す空洞5は、第四の実施形態の
図23Aから
図23Cに示す空洞5と同様の構造をしている。すなわち、空洞5は、角柱部51と角錐台部52を接続した構成である。第五の実施形態では、第四の実施形態と同様の
図28Aから
図28Cに示す空洞5の四隅に、さらに
図29Aから
図29Cに示す四本の導電体の柱6を追加する。これにより、
図27Aから
図27Cに示す構造の空洞5を台座2に形成することができる。
図29Aから
図29Cに示したように、本実施形態において四隅の導電体の柱6は三角柱であり、三角柱の底面は直角二等辺三角形の形状をしており、この底面の、等しい二辺の長さはsであり、三角柱の高さはd1+d2である。四隅の導電体の柱6は台座2と電気的に接触している。
図29Aから
図29Cに示す四本の導電体の柱6は、台座2と別体であってもよいが、台座2と同じ材質でもよく、つまり、台座2と四本の柱6が一体になっていてもよい。
【0125】
第五の実施形態のサンプルホルダ1の特徴は、空洞5の上側に角錐台変形部53を設けたことにより、サンプルホルダ1にチップ7を実装した際にチップ7の裏面に対向する面の、少なくとも一部が、チップ7の裏面と平行ではないようにしたことである。
図27Cに示すように、角錐台変形部53の側面、すなわちサンプルホルダ1にチップ7を実装した際にチップ7の裏面に対向する面のうちチップ7の裏面と平行ではない部分、とチップ7の裏面とがなす角度をθとする。換言すると、角錐台変形部53の側面と、台座2の上側の面とがなす角度がθである。θは、角錐台変形部53の側面がチップ7の裏面と平行ではなくなるような範囲である。例えば、四角錐台である角錐台部52を基に角錐台変形部53を作成した場合、θは、90度未満である。第五の実施形態のサンプルホルダ1の構造において、サンプルホルダ1にチップ7を実装した際に、台座2の少なくとも一部は、チップ7の裏面に接触する。
【0126】
図27Aから
図27Cの空洞5を形成した台座2を用いたサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合のS11のシミュレーション結果を
図30に示す。
図30は、第五の実施形態のサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した系のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、
図30におけるシミュレーションでは、a1=3[mm]、b1=3[mm]、a2=5[mm]、b2=5[mm]、d1=1[mm]、d2=2[mm]、s=1[mm]とした。この場合、θは約63.4度である。
【0127】
図30のように、チップモードの最低の共振周波数を、第一の実施形態よりも高い37.4[GHz]まで高くすることができる。
【0128】
このように、第五の実施形態のサンプルホルダ1は、第一の実施形態のサンプルホルダ1よりもチップモードの共振周波数を高くすることができるという効果がある。第五の実施形態の
図27Aから
図27Cのサンプルホルダ1において、四隅の柱6の上側の面はチップ7の裏面と接触する。そして、
図30に示すシミュレーションにおいて、s=1[mm]としたが、その場合、本実施形態のサンプルホルダ1において四隅の柱6の上側の面とチップ7の裏面とが接触する接触面積は、第一の実施形態において
図12のシミュレーションで解析した場合と同じである。なお、
図12におけるシミュレーションではs=1[mm]とした第一の実施形態についての
図12ではチップモードの共振周波数が36.6[GHz]であり、第五の実施形態についての
図30ではチップモードの共振周波数が37.4[GHz]である。よって、第一の実施形態よりも第五の実施形態の方が、チップモードの共振周波数を高い。第一の実施形態よりも第五の実施形態がチップモードの共振周波数を高くすることができるのは、次のような理由によるものと考えられる。第五の実施形態の場合、空洞5の寸法が、第一の実施形態における空洞5の寸法(aおよびb)よりも小さいため、空洞5そのものの共振周波数が第一の実施形態よりも高くなるからだと考えられる。具体的には、第五の実施形態の場合、チップ7の直下の空洞5の寸法が下に行くほど小さくなり、空洞5の最下部では空洞5の寸法(a1およびb1)が第一の実施形態(aおよびb)よりも小さい。このような構造にしたことにより、空洞5そのものの共振周波数が、第一の実施形態よりも第五の実施形態の方が高くなると考えられる。その結果、チップ7の裏面と柱6との接触面積が同じであっても、第五の実施形態の方が第一の実施形態よりもチップモードの共振周波数を高くすることができる、という効果を奏するのだと考えられる。
【0129】
[第五の実施形態の変形例]
第五の実施形態の変形例として、空洞5の角柱部51をなくして角錐台変形部53だけにした場合のサンプルホルダを
図31Aから
図31Cに示す。
図31Aは、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダ1の斜視図である。
図31Bは、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダ1の上面図である。
図31Cは、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダが、
図31Bに示す切断線M-MMを含むxz平面と平行な面で切断された断面図である。
図31Cにおいて、第五の実施形態にかかるサンプルホルダ1にチップ7がボンディングワイヤ13で実装されている。さらに、第五の実施形態の変形例の
図31A、
図31B、
図31Cに示す空洞5の形状をより詳細に説明するために、
図32Aから
図32Cと
図33Aから
図33Cを用いて説明する。
【0130】
図32Aは、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダ1の空洞5の形状例1を示す斜視図である。
図32Bは、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダ1の空洞5の形状例1を示す上面図である。
図32Cは、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダ1の空洞5の形状例1においてサンプルホルダ1の空洞5付近が
図32Bに示す切断線N-NNを含むxz平面に平行な面で切断された端面図である。
図32Cにおいて、第五の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダ1にチップ7がボンディングワイヤ13で実装されている。
【0131】
図33Aは、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダ1の空洞5の形状例2を示す斜視図である。
図33Bは、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダ1の空洞5の形状例2を示す上面図である。
図33Cは、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダの空洞の形状例2においてサンプルホルダが、
図33Bに示す切断線O-OOを含むxz平面と平行な面で切断された断面図である。
図33Cにおいて、第五の実施形態の変形例にかかるサンプルホルダ1にチップ7がボンディングワイヤ13で実装されている。
【0132】
【0133】
図31Aから
図31Cに示す空洞5を形成した台座2を用いたサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した場合のS11のシミュレーション結果を
図34に示す。
図34は、第五の実施形態の変形例のサンプルホルダ1にチップ7をボンディングワイヤ13で実装した系のS11のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、
図34においてシミュレーションでは、a1=2[mm]、b1=2[mm]、a2=5[mm]、b2=5[mm]、d2=5[mm]、s=1[mm]とした。この場合、θは約73.3度である。
図34のように、チップモードの最低の共振周波数を、第一の実施形態よりも高い37.5[GHz]まで高くすることができる。このように、第五の実施形態においては、空洞5の角柱部51および角錐台変形部53の寸法a1、b1、d1、a2、b2、d2や、チップ7の厚さt、などを変えることなどにより、共振周波数をさらに高くすることができる。
【0134】
第五の実施形態およびその変形例において、サンプルホルダ1に実装するチップ7の厚さをtとする。このような場合、
図27Aから
図27C、
図31Aから
図31Cの空洞5の角柱部51の高さd1と角錐台変形部53の高さd2の和(d1+d2)は2t以上であることが好ましく、3t以上であることがより好ましく、5t以上であることがさらに好ましい。
【0135】
また、第五の実施形態およびその変形例において、d2は0より大きければチップモードを高くする効果がある。したがって、d2は0より大きいことが好ましい。一方、d1は0でもよいので、d2は0以上であることが好ましい。なお、d1=0の場合は、空洞5は角錐台変形部53だけで構成される。
【0136】
また、第五の実施形態およびその変形例において、
図29Aから
図29C、
図33Aから
図33Cの四隅の柱6の底面積が小さいほど、チップ7の裏面と台座2との接触面積を減らせるため、チップモードの共振周波数を高くすることができる。そのため、サンプルホルダ1に実装するチップ7が長方形であり、チップ7の短辺の長さをvとした場合、sは0.5v以下であることが必要であり、0.3v以下であることが好ましく、0.2v以下であることがより好ましい。一方、サンプルホルダ1に実装するチップ7が正方形であり、チップ7の一辺の長さをvとした場合、sは0.5v以下であることが必要であり、0.3v以下であることが好ましく、0.2v以下であることがより好ましい。
【0137】
なお、第五の実施形態およびその変形例では、第一の実施形態のPCB3(
図11Aから
図11E)を用いた。
図27Aから
図27Cや
図31Aから
図31Cの空洞5を形成した台座2の上に、第一の実施形態の変形例のPCB3(
図13Aから
図13F)や、第二の実施形態のPCB3(
図14)や、第二の実施形態の変形例のPCB3(
図16)を置いたサンプルホルダ1を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0138】
なお、第五の実施形態およびその変形例において、空洞5は角柱部と角錐台変形部を接続した構造、または角錐台変形部のみからなる構造としたが、空洞5の形状は別の形状でもよい。例えば、角錐台変形部の側面が、平面ではなく曲面であってもよい。つまり、空洞5を形成する台座2の表面のうち、チップ7の裏面と対向する面の少なくとも一部が、チップ7の裏面または台座2の上側の面と平行でなければ、第五の実施形態およびその変形例で述べた効果を奏する。
【0139】
[その他の実施形態]
第一から第五の実施形態およびそれらの変形例において、超伝導量子回路のチップ7の実装方法として、金属製の台座2の上に直接チップ7を乗せる構成について述べたが、実装方法は、これに限られない。例えば、金属製の台座2の上にワニスなどの樹脂材料を塗布した後、ワニスなどの樹脂材料の上にチップ7を乗せるような実装形態の場合でも、各実施形態の効果、すなわち、チップモードの共振周波数をより高くすることができる、という効果を得ることができる。
【0140】
また、第一から第五の実施形態およびそれらの変形例において、サンプルホルダ1の構成として、金属製の台座2の上に直接PCB3を乗せる構成について述べた。金属製の台座2の上にIn(インジウム)などの金属のシートを乗せ、Inなどの金属のシートの上にPCB3を乗せた構成のサンプルホルダ1でも、各実施形態の効果を得ることができる。台座2とPCB3の間にInなどの柔らかい金属のシートを挟むことにより、PCB3の裏面GND11と台座2の間に隙間を生じにくくすることができる。これにより、サンプルホルダ1の高周波特性が良くなることがある。具体的には、PCB3と台座2の間に隙間があると、その隙間が新たな空洞共振器を形成してしまい、特定の周波数の信号をチップ7に入力した時に共振を起こしてしまうことがあり得る。このため、PCB3の裏面GND11と台座2の間には隙間が生じないようにすることが好ましい。
【0141】
また、第一から第五の実施形態およびそれらの変形例において、サンプルホルダ1の構成として、金属製の台座2の上にPCB3を乗せる構成について説明した。さらに、PCB3の上に金属製のふたを乗せてもよい。ふたをのせた場合であっても、各実施形態の効果を得ることができる。そのようなサンプルホルダ1において、金属製のふたはPCB3の表面GND9と電気的に接触している。しかし、ふたは、PCB3の芯線10やチップ7とは接触しないようにする。これは、PCB3の芯線10やチップ7の回路や配線がGNDと接触しないようにするためである。なお、上記と同様の理由で、ふたとPCB3の表面GND9との間には隙間が生じない方が好ましいので、ふたとPCB3の表面GND9の間にInなどのシートを挟んでもよい。
【0142】
また、第一から第五の実施形態およびそれらの変形例において、サンプルホルダ1の形状として、台座2は直方体または立方体の場合を示したが、台座2の形状は円柱など、別の形状でも、各実施形態の効果を得ることができる。同様に、PCB3の形状も長方形や正方形以外の、円形などの形状であっても、各実施形態の効果を得ることができる。
【0143】
(第六の実施形態)
第六の実施形態では、第一の実施形態から第五の実施形態で説明した内容の基本構成について説明する。ここでは、第六の実施形態について、第一の実施形態で用いた
図9、
図11Eを用いて説明する。
【0144】
図9に示すように、サンプルホルダ1は、台座2と、台座2に接触しているPCB3とを備える。そして、
図11Eに示すように、PCB3は、誘電体8と、誘電体8の表面に形成された表面GND9と、誘電体8の裏面に形成された裏面GND11と、チップ7が格納される、表面GND9から裏面GND11まで貫通する貫通孔4と、貫通孔4の端面に表面GND9及び裏面GND11を導通する導電体(導体)14と、を有する。
【0145】
図9に示すように、台座2のうち貫通孔4の下側の少なくとも一部には空洞5がある。空洞5の形状は、特に限定されない。例えば、空洞5の底面は、平面であってもよいし、平面以外であってもよい。空洞5の側面は、平面であってもよいし、平面以外であってもよい。例えば、空洞5の側面や空洞5の底面に、くぼみなどがあってもよい。
【0146】
つぎに、空洞5にはチップ7の面を支持する、台座2に導通している支持構造がある。支持構造の形状は、特に限定されない。支持構造は、柱などであってもよい。支持構造は、台座と一体となっていてもよい。このため、支持構造は、空洞5の形状によって形成されてもよい。
【0147】
第六の実施形態では、台座2に空洞5を形成し、かつPCB3の貫通孔4の端面に、表面GND9及び裏面GND11を導通する導電体(導体)14を設けることにより、チップモードの共振周波数をより高くすることができる。
【0148】
以上で各実施形態にかかるサンプルホルダ1の説明を終了する。また、各実施形態にかかる超伝導量子計算機は、各実施形態にかかるサンプルホルダ1と、サンプルホルダ1に格納される、超伝導量子回路が形成されたチップと、を備える。
【0149】
以上、各実施形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。各開示の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が把握し得る様々な変更を適用した実施形態を含み得る。本開示は、本明細書に記載された事項を必要に応じて適宜に組み合わせ、または置換した実施形態を含み得る。例えば、特定の実施形態を用いて説明された事項は、矛盾を生じない範囲において、他の実施形態に対しても適用され得る。
【0150】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されることができる。ただし、上記の実施形態の一部または全部は、以下に限られない。
【0151】
(付記1)
台座と、
前記台座に接触しているPCBと
を備え、
前記PCBは、誘電体と、前記誘電体の表面に形成された表面グラウンドと、前記誘電体の裏面に形成された裏面グラウンドと、チップが格納される、前記表面グラウンドから前記裏面グラウンドまで貫通する貫通孔と、前記貫通孔の端面に前記表面グラウンド及び前記裏面グラウンドを導通する導体と、を有し、
前記台座のうち前記貫通孔の下側の少なくとも一部には空洞があり、
前記空洞には前記チップの面を支持する、前記台座に導通している支持構造がある、
サンプルホルダ。
【0152】
(付記2)
前記支持構造において前記チップを支持する部分のうち、少なくとも一部は前記チップの前記面と平行である、
付記1に記載のサンプルホルダ。
【0153】
(付記3)
前記支持構造は、柱である、
付記1または2に記載のサンプルホルダ。
【0154】
(付記4)
前記支持構造は、前記空洞に設けられた複数の柱である、
付記3に記載のサンプルホルダ。
【0155】
(付記5)
前記複数の柱は、前記空洞の四隅に設けられる、
付記4に記載のサンプルホルダ。
【0156】
(付記6)
前記複数の柱の各々が、三角柱である場合、
前記三角柱の二等辺三角形の面の等辺の長さが、前記チップの前記面の短辺の長さの半分より短い、
付記5に記載のサンプルホルダ。
【0157】
(付記7)
前記PCBは、前記誘電体の前記表面に、コプレナ導波路の芯線を有する、
付記1から6のいずれかに記載のサンプルホルダ。
【0158】
(付記8)
前記導体は、前記貫通孔の端面のうち前記芯線の近傍の前記PCBの端面以外の部分に設けられる、
付記7に記載のサンプルホルダ。
【0159】
(付記9)
前記芯線は、前記貫通孔の端面に接触しないような長さであり、
前記導体は、前記貫通孔の端面の全体に形成される、
付記7に記載のサンプルホルダ。
【0160】
(付記10)
前記PCBは、さらに、前記誘電体のうち、前記表面グラウンドと前記裏面グラウンドとの間に挟まれた領域に芯線を有し、
前記誘電体の前記表面には、前記表面グラウンドの他に、前記チップと前記芯線とを電気的に接続するパッドがあり、前記パッドは前記芯線と電気的に接続される、
付記1から6のいずれかに記載のサンプルホルダ。
【0161】
(付記11)
前記支持構造は、金属製、または金属を含む混合物である、
付記1から10のいずれかに記載のサンプルホルダ。
【0162】
(付記12)
前記台座は、金属製である、
付記1から11のいずれかに記載のサンプルホルダ。
【0163】
(付記13)
前記空洞の高さは、前記チップの厚さよりも大きい、
付記1から12のいずれかに記載のサンプルホルダ。
【0164】
(付記14)
前記空洞の高さは、前記チップの厚さの2倍以上である、
付記13に記載のサンプルホルダ。
【0165】
(付記15)
サンプルホルダと、
前記サンプルホルダに格納される、超伝導量子回路が形成されたチップと、
を備え、
前記サンプルホルダは、
台座と、
前記台座に接触しているPCBと、
を備え、
前記PCBは、誘電体と、前記誘電体の表面に形成された表面グラウンドと、前記誘電体の裏面に形成された裏面グラウンドと、前記チップが格納される、前記表面グラウンドから前記裏面グラウンドまで貫通する貫通孔と、前記貫通孔の端面に前記表面グラウンド及び前記裏面グラウンドを導通する導体と、を有し、
前記台座のうち前記貫通孔の下側の少なくとも一部には空洞があり、
前記空洞には前記チップの面を支持する、前記台座に導通している支持構造がある、
超伝導量子計算機。
【符号の説明】
【0166】
1 サンプルホルダ
2 台座
3 PCB
4 貫通孔
5 空洞
6 柱
7 チップ
8 誘電体
9 表面GND
10 芯線
11 裏面GND
12 スルーホール
13 ボンディングワイヤ
14 導電体
15 入出力パッド
16 ボンディングパッド
51 角柱部
52 角錐台部
53 角錐台変形部
61 上部
62 下部
71 第一のコプレナ導波路
72 第二のコプレナ導波路
73 GNDプレーン
74 第一の芯線
75 第二の芯線
76 第一のパッド
77 第二のパッド
101 サンプルホルダ
102 台座
103 PCB
104 貫通孔
105 空洞
106 柱
107 チップ
108 誘電体
109 表面GND
110 芯線
110a 第一の芯線
110b 第二の芯線
111 裏面GND
112 スルーホール
113 ボンディングワイヤ