(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178803
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】膝継手、義足、関節装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/64 20060101AFI20221125BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20221125BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A61F2/64
F16H1/32 B
F16H1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085862
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】奥田 正彦
【テーマコード(参考)】
3J027
4C097
【Fターム(参考)】
3J027FA36
3J027FB40
3J027GA01
3J027GB05
3J027GC06
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE01
3J027GE05
3J027GE23
3J027GE29
4C097AA07
4C097BB03
4C097CC01
4C097CC16
4C097CC18
4C097TA06
4C097TB01
4C097TB09
4C097TB12
(57)【要約】
【課題】コンパクトに構成できる膝継手を提供する。
【解決手段】膝継手20は、大腿部側に設けられる大腿接続部22と、大腿接続部22と連結される下腿部21と、大腿接続部22および下腿部21を膝軸23周りに回転可能に支持する軸受部34と、膝軸23に連結されて大腿接続部22および下腿部21の回転に抵抗を付与する減速機32を含む抵抗付与部と、を備える。軸受部34は、大腿接続部22の上端22Hから膝軸23に引いた垂線の足、下腿部21の下端21Lから膝軸23に引いた垂線の足、減速機32を間に挟むように、膝軸23の軸方向の異なる位置に設けられる第1軸受341および第2軸受342を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結される下腿部と、
前記大腿接続部および前記下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受部と、
前記膝軸に連結されて前記大腿接続部および前記下腿部の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備え、
前記軸受部は、前記大腿接続部の上端から前記膝軸に引いた垂線の足、前記下腿部の下端から前記膝軸に引いた垂線の足、前記減速機を間に挟むように、前記膝軸の軸方向の異なる位置に設けられる第1軸支部および第2軸支部を備える、膝継手。
【請求項2】
前記大腿接続部および前記下腿部の前記膝軸周りの回転に対して動力を付与する動力付与部が前記減速機に連結され、
前記減速機は前記動力による回転を減速する、
請求項1に記載の膝継手。
【請求項3】
前記第1軸支部および前記第2軸支部の少なくともいずれかの前記膝軸の軸方向の幅は、前記大腿接続部の上端から前記膝軸に引いた垂線の足、前記下腿部の下端から前記膝軸に引いた垂線の足、前記減速機の少なくともいずれかを含む、請求項1または2に記載の膝継手。
【請求項4】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結される下腿部と、
前記大腿接続部および前記下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受部と、
前記膝軸に連結されて前記大腿接続部および前記下腿部の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備え、
前記軸受部および前記減速機は前記膝軸の軸方向の異なる位置に設けられる、膝継手。
【請求項5】
大腿部側に設けられる大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結される下腿部と、
前記大腿接続部および前記下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受部と、
前記膝軸に連結されて前記大腿接続部および前記下腿部の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備え、
前記大腿接続部および前記下腿部の少なくともいずれかは、前記膝軸の延長線上であって前記減速機の少なくとも一方の側に設けられる任意の部材を収納可能な凹部を備える、膝継手。
【請求項6】
前記凹部は前記大腿接続部または前記下腿部と一体的に回転可能であり、
前記軸受部は前記凹部を回転可能に支持する、
請求項5に記載の膝継手。
【請求項7】
前記大腿接続部および前記下腿部の前記膝軸周りの回転に対して抵抗または動力を付与する付与部が前記凹部に収納される、請求項5または6に記載の膝継手。
【請求項8】
前記付与部は粘性流体の粘性によって前記回転に対して抵抗を付与する、請求項7に記載の膝継手。
【請求項9】
前記付与部は摩擦によって前記回転に対して抵抗を付与する、請求項7または8に記載の膝継手。
【請求項10】
前記付与部は電力を回転動力に変換するモータである、請求項7から9のいずれかに記載の膝継手。
【請求項11】
前記凹部は前記減速機の両側に設けられる第1凹部および第2凹部を含む、請求項5から10のいずれかに記載の膝継手。
【請求項12】
前記第1凹部には前記大腿接続部および前記下腿部の前記膝軸周りの回転に動力を付与するモータが収納され、
前記第2凹部には前記モータを制御する制御部および前記モータに電力を供給する電源部の少なくともいずれかが収納される、
請求項11に記載の膝継手。
【請求項13】
前記軸受部は前記膝軸の軸方向の異なる位置に設けられる第1軸支部および第2軸支部を備え、
前記第1軸支部および前記第2軸支部の前記膝軸の軸方向の位置は前記減速機に関して対称である
請求項1から12のいずれかに記載の膝継手。
【請求項14】
前記減速機は前記大腿接続部および前記下腿部の前記膝軸周りの回転を減速する減速歯車を備え、
前記軸受部の径は前記減速歯車の径以下である、
請求項1から13のいずれかに記載の膝継手。
【請求項15】
前記減速機は遊星歯車装置である、請求項1から14のいずれかに記載の膝継手。
【請求項16】
前記減速機は波動歯車装置である、請求項1から15のいずれかに記載の膝継手。
【請求項17】
前記大腿接続部または前記下腿部は、前記膝軸の軸方向における前記減速機の両側に設けられて前記減速機によって減速された回転を出力する第1凹部および第2凹部を備える、請求項1から16のいずれかに記載の膝継手。
【請求項18】
前記軸受部は前記第1凹部の回転を支持する第1軸支部と前記第2凹部の回転を支持する第2軸支部を備える、請求項17に記載の膝継手。
【請求項19】
前記減速機は、前記膝軸が固定される太陽歯車と、前記太陽歯車と連動してその周りを回転する複数の遊星歯車と、を備える遊星歯車装置であり、
前記第1凹部および前記第2凹部は、前記複数の遊星歯車の回転を出力する遊星キャリヤに固定される、
請求項17または18に記載の膝継手。
【請求項20】
前記膝軸は前記第1凹部内および前記第2凹部内に延在し、
前記膝軸の回転に対して抵抗または動力を付与する第1付与部および第2付与部が、それぞれ前記第1凹部および前記第2凹部に収納される、
請求項17から19のいずれかに記載の膝継手。
【請求項21】
大腿部と、
前記大腿部側に設けられる大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結される下腿部と、
前記大腿接続部および前記下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受部と、
前記膝軸に連結されて前記大腿接続部および前記下腿部の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備え、
前記軸受部は、前記大腿接続部の上端から前記膝軸に引いた垂線の足、前記下腿部の下端から前記膝軸に引いた垂線の足、前記減速機を間に挟むように、前記膝軸の軸方向の異なる位置に設けられる第1軸支部および第2軸支部を備える、義足。
【請求項22】
大腿部と、
前記大腿部側に設けられる大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結される下腿部と、
前記大腿接続部および前記下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受部と、
前記膝軸に連結されて前記大腿接続部および前記下腿部の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備え、
前記軸受部および前記減速機は前記膝軸の軸方向の異なる位置に設けられる、義足。
【請求項23】
大腿部と、
前記大腿部側に設けられる大腿接続部と、
前記大腿接続部と連結される下腿部と、
前記大腿接続部および前記下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受部と、
前記膝軸に連結されて前記大腿接続部および前記下腿部の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備え、
前記大腿接続部および前記下腿部の少なくともいずれかは、前記膝軸の延長線上であって前記減速機の少なくとも一方の側に設けられる任意の部材を収納可能な凹部を備える、義足。
【請求項24】
第1リンクと、
前記第1リンクと連結される第2リンクと、
前記第1リンクおよび前記第2リンクを関節軸周りに回転可能に支持する軸受部と、
前記関節軸に連結されて前記第1リンクおよび前記第2リンクの回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備え、
前記軸受部は、前記第1リンクの上端から前記関節軸に引いた垂線の足、前記第2リンクの下端から前記関節軸に引いた垂線の足、前記減速機を間に挟むように、前記関節軸の軸方向の異なる位置に設けられる第1軸支部および第2軸支部を備える、関節装置。
【請求項25】
第1リンクと、
前記第1リンクと連結される第2リンクと、
前記第1リンクおよび前記第2リンクを関節軸周りに回転可能に支持する軸受部と、
前記関節軸に連結されて前記第1リンクおよび前記第2リンクの回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備え、
前記軸受部および前記減速機は前記関節軸の軸方向の異なる位置に設けられる、関節装置。
【請求項26】
第1リンクと、
前記第1リンクと連結される第2リンクと、
前記第1リンクおよび前記第2リンクを関節軸周りに回転可能に支持する軸受部と、
前記関節軸に連結されて前記第1リンクおよび前記第2リンクの回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備え、
前記第1リンクおよび前記第2リンクの少なくともいずれかは、前記関節軸の延長線上であって前記減速機の少なくとも一方の側に設けられる任意の部材を収納可能な凹部を備える、関節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膝継手、義足、関節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、怪我や病気で足を失った人が装着する膝継手または義足として、大腿部および下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受を備えるものが開示されている。特許文献1の
図3に示されているように、大腿部側(図の右側)の大腿部ユニットには回転動力を発生するモータが格納され、下腿部側(図の左側)の下腿部ユニットにはモータの回転動力を減速する減速機が格納される。大腿部と下腿部の回転を支持する軸受は下腿部ユニットにおける減速機の外周に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第9526635号明細書
【特許文献2】特開2004-167106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構造では、軸受が大腿部ユニットを片側(図の左側)から支持するため、大腿部と下腿部の相対回転時には径方向のラジアル荷重だけでなく軸方向のアキシアル荷重を受ける。このため、ラジアル荷重を受けるラジアル軸受とアキシアル荷重を受けるスラスト軸受の両方の機能を設ける必要があり、軸受が大型化および重量化してしまう。このような構造では、膝継手をコンパクトに構成するのが困難である。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンパクトに構成できる膝継手、義足、関節装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の膝継手は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結される下腿部と、大腿接続部および下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受部と、膝軸に連結されて大腿接続部および下腿部の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備える。軸受部は、大腿接続部の上端から膝軸に引いた垂線の足、下腿部の下端から膝軸に引いた垂線の足、減速機を間に挟むように、膝軸の軸方向の異なる位置に設けられる第1軸支部および第2軸支部を備える。
【0007】
本発明の別の態様の膝継手は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結される下腿部と、大腿接続部および下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受部と、膝軸に連結されて大腿接続部および下腿部の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備える。軸受部および減速機は膝軸の軸方向の異なる位置に設けられる。
【0008】
本発明の更に別の態様の膝継手は、大腿部側に設けられる大腿接続部と、大腿接続部と連結される下腿部と、大腿接続部および下腿部を膝軸周りに回転可能に支持する軸受部と、膝軸に連結されて大腿接続部および下腿部の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部と、を備える。大腿接続部および下腿部の少なくともいずれかは、膝軸の延長線上であって減速機の少なくとも一方の側に設けられる任意の部材を収納可能な凹部を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、膝継手、義足、関節装置をコンパクトに構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】義足の装着者の歩行フェーズに応じた膝角度θ、もも角度Ψ、すね角度Φの遷移を簡略的に示す。
【
図4】膝継手の膝部の第1の構成例を模式的に示す。
【
図5】凹部を下腿部または大腿接続部に固定する方法を示す。
【
図6】膝継手の膝部の第2の構成例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
膝継手には様々なタイプが存在し、能動タイプと受動タイプに大別される。受動タイプは更に電子制御式のものと機械式のものに分けられる。能動タイプでは、モータ等のアクチュエータによって膝が能動的に屈伸駆動される。電子制御式の受動タイプでは、電子制御される油圧シリンダ等によって装着者の歩行中等の屈伸動作に応じて膝の回転抵抗が制御される。機械式の受動タイプでは機械的な機構によって膝角度のロック等が行われる。以下の本実施形態から明らかなように、本発明はいずれのタイプの膝継手にも適用可能である。また、本発明は膝以外の任意の関節にも適用可能である。
【0013】
図1は、膝継手20の概略的な構成を示す。膝継手20は、大腿部としてのプラスチック製のソケット(不図示)が接続される大腿接続部22と、大腿接続部22と連結され膝軸23周りに回転可能に設けられる下腿部21と、大腿接続部22と下腿部21の相対的な回転を制限する膝角度制限部24を備える。大腿接続部22と下腿部21は、その連結部に設けられる
図1の紙面に垂直な膝軸23の周りに相対的に回転することで、膝関節に相当する膝継手20を屈伸させる。大腿接続部22の略中央における膝軸23を中心とする図示の断面が円状の領域には、膝軸23を軸支する軸受部や膝軸23の回転に抵抗を付与する減速機を含む抵抗付与部等を備える膝部30が設けられる。
【0014】
大腿接続部22と下腿部21は長尺のリンク25によって連結される。具体的には、リンク25の上端部は膝部30の外周に設けられる大腿連結部251において大腿接続部22に固定され、リンク25の下端部は下腿部21の略中央に位置する下腿連結部252において下腿部21に固定される。なお、図示の都合上、一つのリンク25のみを示したが、紙面に垂直な方向に沿って複数のリンク25を並設してもよい。この構成において、大腿接続部22はリンク25によって下腿部21と連結された状態で膝軸23周りに回転可能である。
図1において、大腿接続部22が膝軸23周りに反時計回り方向に回転する動作が膝継手20の屈曲動作に対応し、大腿接続部22が膝軸23周りに時計回り方向に回転する動作が膝継手20の伸展動作に対応する。
【0015】
高強度のフレームによって形成される下腿部21には、リンク25の下腿連結部252を下腿部21の軸に沿って上方に付勢する伸展補助ばね211が設けられる。伸展補助ばね211はリンク25を介して大腿接続部22を時計回り方向すなわち膝継手20の伸展方向に付勢する。これによって、膝継手20の屈曲が僅かであれば伸展補助ばね211の付勢力によって伸展状態に自然に復帰できる。また、膝継手20が非ロック状態で大きく屈曲した着座等の状態から復帰する際も、伸展補助ばね211は膝継手20の伸展を補助するように働く。
【0016】
下腿部21の伸展補助ばね211の下方に設けられる足部取付穴212には、下端に足部(不図示)が設けられた取付パイプ212A(破線)が挿入される。下腿部21と足部は金属製の取付パイプ212Aを介して連結される。非接地時や直立時等の地面からの荷重が小さい時の相対姿勢は足部の弾性によって一定に保たれる。また、歩行時等の地面からの荷重によって足部が弾性変形して地面を蹴り出す推進力を生む。一方、大腿接続部22の上端に設けられる大腿取付部221には、大腿部としてのソケット(不図示)が取り付けられる。このように、膝継手20に対して足部とソケットが取り付けられることで義足が構成される。
【0017】
図2は、膝軸23周りの回転動作すなわち膝継手20の屈伸動作の図解のために大腿接続部22と膝角度制限部24を示す。
図2(A)は、大腿接続部22の大腿取付部221の軸221Aと、図示が省略される下腿部21の軸が一直線上(
図2の鉛直線上)にある膝角度θが0度の状態を示す。
図2(B)は、下腿部21の軸の方向がそのまま(
図2の上下方向)で、大腿接続部22の大腿取付部221の軸221Aが反時計回り方向に20度屈曲した膝角度θが20度の状態を示す。なお、膝角度θは膝継手20の膝軸23周りの回転角度であり、大腿取付部221の軸221Aと下腿部21の軸がなす角度である。
【0018】
膝角度制限部24は不図示の下腿部21に固定され、下腿部21に対して大腿接続部22のなす膝角度θが、所定のロック角度θ
Lを超えないように大腿接続部22と下腿部21の相対的な回転を制限する。図示の例ではロック角度θ
Lは20度であるが、通常の歩行を阻害しないように、典型的には10度~40度の範囲で設定するのが好ましい。膝角度制限部24が膝角度θをロック角度θ
L以下に制限するロック状態では、膝角度θは
図2(A)の0度と
図2(B)の20度の間の値を取ることができ、この範囲外の値を取ることはできない。
【0019】
膝角度θが最小(0度)の
図2(A)では、大腿接続部22の外周の伸展側(
図2の時計回り側)に設けられる伸展側接触部222が、膝角度制限部24の伸展側制止部材241に接触して制止される。伸展側接触部222と伸展側制止部材241は互いに係合する形状をしており、伸展側制止部材241の接触面に弾性材料で形成された弾性部材241Aが両者の接触による衝撃を緩和する。伸展側接触部222と伸展側制止部材241が係合した
図2(A)の状態において、大腿接続部22は伸展側制止部材241に制止されてこれ以上時計回り方向(伸展方向)に回転できない。したがって、膝角度θは
図2(A)の0度より小さくならないように制限される。
【0020】
膝角度θが最大(ロック角度θ
L=20度)の
図2(B)では、大腿接続部22の外周の屈曲側(
図2の反時計回り側)に設けられる屈曲側接触部223が、膝角度制限部24の屈曲側制止部材242に接触して制止される。大腿接続部22と一体的に回転する回転部材としての屈曲側接触部223は、膝継手20の屈曲動作に応じて反時計回り方向に進行する大腿接続部22の端面として形成され、膝角度θがロック角度θ
L=20度の時に進路上の屈曲側制止部材242に面状に接触する。屈曲側制止部材242の屈曲側制止部242Aは金属材料や弾性材料で形成される。屈曲側制止部242Aを弾性材料で形成すれば、屈曲側接触部223との接触時の衝撃を緩和できる。屈曲側接触部223と屈曲側制止部242Aが面接触した
図2(B)の状態において、大腿接続部22は屈曲側制止部材242に制止されてこれ以上反時計回り方向(屈曲方向)に回転できない。したがって、膝角度θは
図2(B)の20度より大きくならないように制限される。
【0021】
膝角度制限部24は、膝角度制限部24が膝軸23の回転を制限するロック状態と、膝角度制限部24が膝軸23の回転を制限しない非ロック状態を機械的に切り替える機械的切替部を備える。ロック状態では、ロック角度θ
Lを超える膝折れが起こらない通常歩行等が可能になり、非ロック状態では、膝をロック角度θ
Lより大きく曲げる必要がある着席動作等が可能になる。
図2には二種類の機械的切替部を併せて示すが、実際にはいずれかを設ければ十分である。
【0022】
第1の機械的切替部としてのレバー243は、膝継手20の装着者の手動操作によって、下腿部21に固定された支点243Aを中心に回転可能である。レバー243の回転操作によって、屈曲側制止部材242が膝軸23から径方向に遠ざかり、大腿接続部22の屈曲側接触部223の進路から外れる結果、大腿接続部22がロック角度θLを超えて反時計回り方向(屈曲方向)に回転できる非ロック状態に切り替わる。
【0023】
第2の機械的切替部としてのワイヤー244は、一端244Aが屈曲側制止部242Aに連結され、他端244Bを膝継手20の装着者が引っ張ることが可能である。ワイヤー244の他端244Bの引張操作によって、一端244Aに連結された屈曲側制止部242Aが引っ張られて膝軸23から径方向に遠ざかり、大腿接続部22の屈曲側接触部223の進路から外れる結果、大腿接続部22がロック角度θLを超えて反時計回り方向(屈曲方向)に回転できる非ロック状態に切り替わる。
【0024】
後述するように、膝部30に設けられる減速機を含む抵抗付与部によって、膝角度θがロック角度θ
L以下の状態でも屈曲動作時の膝軸23の回転に対して抵抗が付与される。抵抗付与部が付与する抵抗によって例えば大腿接続部22の大腿取付部221の軸221Aと下腿部21の軸が一直線上にある膝角度θが0度の状態(
図2(A))からロック角度θ
L(
図2(B))までの急激な膝折れの発生を防止できる。したがって、急激な膝折れに起因する膝継手20の装着者の転倒リスクや不安を低減できる。
【0025】
膝部30に設けられる抵抗付与部は、膝軸23の回転に対して抵抗を付与できるものであれば種類は問わない。例えば、油圧によって膝軸23の回転に対して抵抗を付与するものでもよいし、グリースやポリマーからなる粘性流体の粘性によって膝軸23の回転に対して抵抗を付与するものでもよいし、機械的な摩擦によって膝軸23の回転に対して抵抗を付与するものでもよいし、磁性流体によって膝軸23の回転に対して抵抗を付与するものでもよいし、歯車等によって膝軸23の回転を減速する減速機でもよい。これらの抵抗付与部を膝部30に着脱可能な回転抵抗モジュールとして構成することで、膝継手20毎の装着者に最適な種類の回転抵抗モジュールを選択できる。また、国や地域によって抵抗付与部に含まれる媒体に対する規制が異なるため、抵抗付与部を膝継手20に後付け可能なモジュールとして構成とすることで、膝継手20を国や地域毎にカスタマイズする手間を低減できる。なお、後述するように、膝部30には抵抗付与部に加えてまたは代えて、膝軸23に回転動力を付与するモータ等の動力付与部を設けてもよい。
【0026】
以上のような抵抗付与部または動力付与部が膝軸23の回転に対して付与する抵抗または動力は、歩行フェーズや膝角度θに応じて変えるのが好ましい。
図3は、義足10の装着者の歩行フェーズ(A)~(G)に応じた膝角度θ、もも角度Ψ、すね角度Φの遷移を簡略的に示す。歩行フェーズ(A)は初期接地(IC:Initial Contactとも呼ばれる)であり、義足10が接地する。歩行フェーズ(B)は荷重応答期(LR:Loading Responseとも呼ばれる)であり、接地した義足10によって装着者の体重が支えられる。歩行フェーズ(C)は立脚中期(MSt:Mid Stanceとも呼ばれる)~立脚終期(TSt:Terminal Stanceとも呼ばれる)であり、義足10が体重を支えた状態で装着者の重心が義足10より前方に移動する。歩行フェーズ(D)は前遊脚期(PSw:Pre-Swingとも呼ばれる)であり、続く遊脚相に遷移するために義足10で地面を蹴り出す。歩行フェーズ(E)、(F)、(G)はそれぞれ遊脚初期(ISw:Initial Swingとも呼ばれる)、遊脚中期(MSw:Mid Swingとも呼ばれる)、遊脚終期(TSw:Terminal Swingとも呼ばれる)であり、地面を離れた義足10が後方から前方に振り出される。
【0027】
もも角度Ψは鉛直線を基準としてソケット11が膝軸23周りに前方に傾斜した時を正(+Ψと図示する)とし後方に傾斜した時を負(-Ψと図示する)とする。すね角度Φは鉛直線を基準として下腿部21が膝軸23周りに前方に傾斜した時を正(+Φと図示する)とし後方に傾斜した時を負(-Φと図示する)とする。膝角度θはソケット11の軸を基準として下腿部21が膝軸周りに後方に傾斜した時を正(+θと図示する)とする。以上のように定義された膝角度θ、もも角度Ψ、すね角度Φは、常に「θ+Ψ+Φ=0」の関係式を満たす。
【0028】
図示されるように、初期接地(A)では膝角度θは略零/もも角度Ψは負/すね角度Φは正であり、荷重応答期(B)では膝角度θは略零/もも角度Ψは負/すね角度Φは正であり、立脚中・終期(C)では膝角度θは略零/もも角度Ψは正/すね角度Φは負であり、前遊脚期(D)では膝角度θは正/もも角度Ψは正/すね角度Φは負であり、遊脚初期(E)では膝角度θは正/もも角度Ψは負/すね角度Φは負であり、遊脚中期(F)では膝角度θは正/もも角度Ψは負/すね角度Φは負であり、遊脚終期(G)では膝角度θは正/もも角度Ψは負/すね角度Φは正である。
【0029】
膝角度θに着目すると、接地した義足10が装着者の体重を支える立脚相(A)~(C)では膝角度θは略零であり、立脚相(A)~(C)と遊脚相(E)~(G)の間の前遊脚期(D)で膝角度θは正の値を持ち、義足10が地面を離れて振り出される遊脚相(E)~(G)では遊脚中期(F)で極大値を取るように膝角度θは単調に増減する。
【0030】
このような膝角度θの制御すなわち膝継手20の屈曲制御は、例えば膝部30に設けられる抵抗付与部を介して行う。すなわち、立脚相(A)~(C)では、装着者の体重で膝継手20が屈曲しないように、抵抗付与部が付与する抵抗を高くして膝軸23周りの回転を制限することで膝角度θを略零に維持する。前遊脚期(D)では、続く遊脚相(E)~(G)への準備として膝継手20が屈曲を始められるように、抵抗付与部が付与する抵抗を徐々に低くして膝軸23周りの回転を許容することで膝角度θが正の値になる。遊脚相(E)~(G)では、地面を離れて振り出される義足10が地面に接触しないように、抵抗付与部が付与する抵抗を低く維持して膝継手20の屈曲を補助する。なお、膝部30に動力付与部が設けられる場合は、図示される膝角度θの遷移を実現するように動力付与部が膝軸23を能動的に回転駆動する。
【0031】
以上のような抵抗制御または動力制御を義足10が自律的に行うためには、義足10が歩行フェーズや膝角度θを検知する必要がある。電子制御式の能動タイプまたは受動タイプの義足10においては、膝角度θ、もも角度Ψ、すね角度Φ等の各角度を測定する角度センサや、義足10の各部の姿勢や運動を検知する慣性センサや、義足10の各部にかかる加重を測定する加重センサ等の各種のセンサによって、歩行フェーズや膝角度θを検知できる。機械式の受動タイプの義足10においては、特許文献2に開示されているような下腿部21における荷重位置を機械的に検知する荷重位置検知機構等を利用できる。
【0032】
図4は、膝継手20の膝部30の第1の構成例を模式的に示す
図1の側面視の断面図である。
図4の左右方向の膝軸23を中心とする円筒状のハウジング31は、膝部30の各種の部品を内部に収容する。
図4(A)では、ハウジング31の外周面に大腿接続部22が固定されており、ハウジング31が大腿接続部22と一体的に膝軸23周りに回転可能である。
図4(B)では、ハウジング31の外周面に下腿部21が固定されており、ハウジング31が下腿部21と一体的に膝軸23周りに回転可能である。
図4(A)では、下腿部21の内部に中空部213が形成されているため、ハウジング31および大腿接続部22は下腿部21と干渉せずに回転できる。
図4(B)では、大腿接続部22の内部に中空部22Aが形成されているため、ハウジング31および下腿部21は大腿接続部22と干渉せずに回転できる。
【0033】
ハウジング31の内部であって膝軸23の軸方向における略中央には、膝軸23に連結されて大腿接続部22および下腿部21の回転に抵抗を付与する抵抗付与部を構成する減速機32が設けられる。減速機32は、大腿接続部22の上端22Hから
図4の上下方向に延びる軸221Aの延長線上、かつ、下腿部21の下端21Lから
図4の上下方向に延びる軸21Aの延長線上に設けられる。すなわち、大腿接続部22の上端22H、減速機32、下腿部21の下端21Lは、
図4の上下方向に沿って略一直線上に設けられる。
【0034】
ハウジング31の内部であって膝軸23の延長線上における減速機32の両側には、それぞれ膝継手20の外側(
図4の左側および右側)に向いた第1凹部331および第2凹部332が設けられる。
図4(A)では、第1凹部331および第2凹部332が、それぞれの凹形状の両縁において下腿部21に固定され、下腿部21の一部として一体的に大腿接続部22に対して回転する。
図4(B)では、第1凹部331および第2凹部332が、それぞれの凹形状の両縁において大腿接続部22に固定され、大腿接続部22の一部として一体的に下腿部21に対して回転する。このように、第1凹部331および第2凹部332は、大腿接続部22と下腿部21の膝軸23周りの相対回転を出力する回転出力部として機能する。また、後述するように、第1凹部331および第2凹部332は、任意の部材を収納可能な収納部としても機能する。
【0035】
第1凹部331および第2凹部332のそれぞれの外周面とハウジング31の内周面の間には、大腿接続部22および下腿部21を膝軸23周りに回転可能に支持する軸受部34が設けられる。軸受部34は、第1凹部331の外周面とハウジング31の内周面の間に設けられる第1軸支部としての第1軸受341と、第2凹部332の外周面とハウジング31の内周面の間に設けられる第2軸支部としての第2軸受342を備える。第1軸受341および第2軸受342は、膝軸23の軸方向の異なる位置に設けられる。具体的には、第1軸受341および第2軸受342の膝軸23の軸方向の位置は減速機32に関して対称である。
【0036】
ここで、第1軸受341および第2軸受342は、大腿接続部22の上端22Hから膝軸23に引いた垂線(軸221Aの延長線)の足、下腿部21の下端21Lから膝軸23に引いた垂線(軸21Aの延長線)の足、減速機32を間に挟むように、膝軸23の軸方向の異なる位置に設けられる。このような配置によれば、重量の大きい大腿接続部22(およびそこに取り付けられるソケット11)、減速機32、下腿部21(およびそこに取り付けられる足部)を、二つの軸受341、342によって両側から確実に軸支できる。また、一つの大きな軸受によって片側から軸支する構成の特許文献1(特許文献1における
図3)では径方向のラジアル荷重だけでなく軸方向のアキシアル荷重およびモーメント荷重(曲げ荷重)が発生するが、本実施形態の二つの軸受によって両側からバランス良く軸支する構成ではアキシアル荷重およびモーメント荷重(曲げ荷重)の発生を防止できるため各軸受341、342を小型化および軽量化できる。したがって、本実施形態によれば、膝継手20をコンパクトに構成できる。
【0037】
なお、
図4では二つの軸受341、342によって二つの凹部331、332をそれぞれ回転可能に支持する構成を示したが、一つの幅広の軸受における二つの軸支部によって二つの凹部331、332をそれぞれ回転可能に支持する構成としてもよい。また、二つの凹部331、332はいずれか一方のみを設けてもよいが、
図4の左右のバランスが取れた膝継手20の円滑な回転や、膝継手20の統一感のある美観を実現する上では、二つの凹部331、332の両方を設けるのが好ましい。二つの凹部331、332を設けることで、減速機32の両側のデッドスペースに収納部を形成できるため、スペースの利用効率を高めて膝継手20を更にコンパクト化できるという利点もある。また、
図4では膝軸23の軸方向に沿って左から順に第1軸受341、減速機32、第2軸受342が互いに異なる位置に設けられたが、第1軸受341または第2軸受342の膝軸23の軸方向の幅が減速機32(または大腿接続部22の上端22Hから膝軸23に引いた垂線の足、下腿部21の下端21Lから膝軸23に引いた垂線の足)を含むような配置としてもよい。
【0038】
減速機32は、大腿接続部22および下腿部21の膝軸23周りの回転を減速する減速歯車を備える歯車装置である。減速機32は例えば遊星歯車装置として構成できる。この場合の減速機32は、減速歯車として、膝軸23が固定される太陽歯車321と、太陽歯車321に外周側から噛合して太陽歯車321の回転(自転)と連動してその周りを回転(公転)する複数の遊星歯車322と、各遊星歯車322に外周側から噛合して各遊星歯車322の公転をガイドする内歯車323を備える。ここで、減速機32の最外周の減速歯車である内歯車323の径は軸受341、342の径以上であり、換言すれば軸受341、342の径は内歯車323の径以下である。特許文献1(
図3)では減速歯車の外周を囲むように軸受が設けられるため必然的に軸受の径が減速歯車の径より大きくなるが、本実施形態では軸受341、342と減速機32の膝軸23の軸方向における位置をずらすことで軸受341、342を小径化できる。したがって、本実施形態によれば、膝継手20をコンパクトに構成できる。
【0039】
遊星歯車装置としての減速機32の出力は、各遊星歯車322の公転運動を拾う複数の遊星キャリヤ324から得られる。各遊星キャリヤ324は各遊星歯車322の両側(
図4の左右側)に突出した各遊星歯車322の回転軸(自転軸)であり、一端(
図4の左端)が第1凹部331に固定され他端(
図4の右端)が第2凹部332に固定される。このため、第1凹部331および第2凹部332は、遊星歯車322の公転運動を出力する回転出力部として、
図4(A)では下腿部21と一体的に回転し、
図4(B)では大腿接続部22と一体的に回転する。以上の遊星歯車装置の構成において、太陽歯車321の回転軸である膝軸23、遊星歯車322の回転軸である遊星キャリヤ324、内歯車323の回転軸のいずれが入力軸(駆動軸)、出力軸(従動軸)、固定軸となるかは、膝継手20の構成や動作によって異なる相対的なものである。例えば、太陽歯車321に固定される膝軸23を入力軸、遊星歯車322に固定される遊星キャリヤ324を出力軸とした場合、出力軸には入力軸から減速された回転が現れる。逆に、遊星歯車322に固定される遊星キャリヤ324を入力軸、太陽歯車321に固定される膝軸23を出力軸とした場合、出力軸には入力軸から増速された回転が現れる。
【0040】
減速機32を中心として両側(
図4の左右側)に長尺の膝軸23は、第1凹部331および第2凹部332の底面を貫通してそれらの内部に延在する。このため、膝軸23の回転に対して抵抗または動力を付与する第1付与部351および第2付与部352を第1凹部331および第2凹部332の内部にそれぞれ収納できる。第1付与部351および第2付与部352の一方または両方は、大腿接続部22および下腿部21の膝軸23周りの回転に対して動力を付与する動力付与部としてもよい。具体的には、電力を回転動力に変換するモータを、第1付与部351および/または第2付与部352として、第1凹部331および/または第2凹部332の内部に延在する膝軸23に取り付ける。
【0041】
モータが能動的に発生した回転動力は減速機32によって減速され、回転出力部としての第1凹部331および第2凹部332から出力される。このため、第1凹部331および第2凹部332が下腿部21に固定された
図4(A)では下腿部21がモータによって回転駆動され、第1凹部331および第2凹部332が大腿接続部22に固定された
図4(B)では大腿接続部22がモータによって回転駆動される。いずれの場合も、下腿部21と大腿接続部22がモータによって相対回転駆動される。このようにモータ等の動力付与部を設けることで能動タイプの膝継手20を容易に構成できる。なお、一方の凹部331、332にモータを収納する場合、他方の凹部331、332にはモータを制御する制御部や、モータに電力を供給する電源部を収納してもよい。このように、モータに関する部材を二つの凹部331、332に効率的に収納できるため、能動タイプの膝継手20をコンパクトに構成できる。
【0042】
第1付与部351および第2付与部352の一方または両方は、大腿接続部22および下腿部21の膝軸23周りの回転に対して抵抗を付与する抵抗付与部としてもよい。抵抗付与部は、前述したように、油圧によって膝軸23の回転に対して抵抗を付与するものでもよいし、グリースやポリマーからなる粘性流体の粘性によって膝軸23の回転に対して抵抗を付与するものでもよいし、機械的な摩擦によって膝軸23の回転に対して抵抗を付与するものでもよいし、磁性流体によって膝軸23の回転に対して抵抗を付与するものでもよい。これらの各種の抵抗付与部を、各凹部331、332の内部に延在する膝軸23に着脱可能な回転抵抗モジュールとして構成することで、膝継手20毎の装着者に最適な種類の回転抵抗モジュールを選択して取り付けることができる。また、二つの凹部331、332に抵抗付与部を分散して収納することで、それぞれの抵抗付与部を小型化しながら十分な合成抵抗が得られるため、膝継手20をコンパクトに構成できる。
【0043】
抵抗付与部は主に受動タイプの膝継手20に設けられる。受動タイプの膝継手20では、減速機32における遊星歯車322および内歯車323の一方が入力軸、他方が固定軸となり、太陽歯車321が出力軸となる。例えば、
図4(A)において膝継手20の装着者が直立している状態から後方に体重をかけて大腿接続部22を軽く回転(屈曲)させる場合を考える。この時、下腿部21は直立したままなので、下腿部21に固定された遊星歯車322は固定軸となる。また、後方にかけた体重によって回転する大腿接続部22に固定された内歯車323が入力軸となり、太陽歯車321が出力軸となる。出力軸としての太陽歯車321には膝軸23を介して抵抗付与部が取り付けられているため、入力軸としての内歯車323ひいては大腿接続部22の回転に抵抗が付与される。
【0044】
同様に、
図4(B)において膝継手20の装着者が直立している状態から後方に体重をかけて大腿接続部22を軽く回転(屈曲)させる場合を考える。この時、下腿部21は直立したままなので、下腿部21に固定された内歯車323は固定軸となる。また、後方にかけた体重によって回転する大腿接続部22に固定された遊星歯車322が入力軸となり、太陽歯車321が出力軸となる。出力軸としての太陽歯車321には膝軸23を介して抵抗付与部が取り付けられているため、入力軸としての遊星歯車322ひいては大腿接続部22の回転に抵抗が付与される。以上のように、抵抗付与部によって大腿接続部22の下腿部21に対する回転すなわち膝継手20の屈伸動作に適切な抵抗を加えることができる。
【0045】
以上の変形例として、凹部331、332の一方に能動タイプの膝継手20を構成するのに好適な動力付与部を収納し、凹部331、332の他方に受動タイプの膝継手20を構成するのに好適な抵抗付与部を収納してもよい。動力付与部を使用する場合の膝継手20は能動タイプとして動作し、動力付与部を使用しない場合の膝継手20は受動タイプとして動作する。
【0046】
図5は、凹部331、332を下腿部21または大腿接続部22に固定する方法を示す。
図5(A)は凹部331、332が下腿部21に固定される
図4(A)に対応し、
図5(B)は凹部331、332が大腿接続部22に固定される
図4(B)に対応する。
図5(A)では、第1凹部331の内部を外側(
図5の左側)から覆う第1キャップ331Aが、第1凹部331との間で下腿部21の一部を挟み込むことで、第1凹部331が下腿部21に固定され、第2凹部332の内部を外側(
図5の右側)から覆う第2キャップ332Aが、第2凹部332との間で下腿部21の一部を挟み込むことで、第2凹部332が下腿部21に固定される。
図5(B)では、第1凹部331の内部を外側(
図5の左側)から覆う第1キャップ331Aが、第1凹部331との間で大腿接続部22の一部を挟み込むことで、第1凹部331が大腿接続部22に固定され、第2凹部332の内部を外側(
図5の右側)から覆う第2キャップ332Aが、第2凹部332との間で大腿接続部22の一部を挟み込むことで、第2凹部332が大腿接続部22に固定される。
【0047】
図6は、膝継手20の膝部30の第2の構成例を模式的に示す
図1の側面視の断面図である。
図4と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
図6(A)では、
図4(A)と同様に、ハウジング31が大腿接続部22に固定され、二つの凹部331、332が下腿部21に固定され、それぞれ一体的に相対回転する。
図6(B)では、
図4(B)と同様に、ハウジング31が下腿部21に固定され、二つの凹部331、332が大腿接続部22に固定され、それぞれ一体的に相対回転する。
【0048】
図4では、減速機32を遊星歯車装置として構成したことによって、中央の太陽歯車321を貫通する膝軸23が両凹部331、332の内部に延在していたが、
図6では、減速機32として片側(
図6の左側)の第1凹部331の内部のみに膝軸23が延在する既製の歯車装置が利用される。具体的には、楕円と真円の差動を利用した差動装置である高減速比の波動歯車装置等を減速機32として利用できる。
【0049】
減速機32は、互いに嵌合する形状の第1ケーシング32Aおよび第2ケーシング32Bによって形成されるスペースに収容され、第1ケーシング32Aの底面を貫通する膝軸23に取り付けられる。第1ケーシング32Aは第1凹部331と逆向きの凹形状または断面が逆コの字形状の部材であり、第2ケーシング32Bは第2凹部332と逆向きの凹形状または断面がコの字形状の部材である。第1ケーシング32Aおよび第1凹部331は底面同士が固定されることで一体的に回転し、第2ケーシング32Bおよび第2凹部332は底面同士が固定されることで一体的に回転する。このため、二つの凹部331、332が下腿部21に固定される
図6(A)では、ケーシング32A、32Bごと減速機32が下腿部21と一体的に回転し、二つの凹部331、332が大腿接続部22に固定される
図6(B)では、ケーシング32A、32Bごと減速機32が大腿接続部22と一体的に回転する。なお、
図6では、第1ケーシング32Aと第1凹部331を別体として示したが、底面を共通化して薄型化してもよいし、完全に一体化してもよい。同様に、
図6では、第2ケーシング32Bと第2凹部332を別体として示したが、底面を共通化して薄型化してもよいし、完全に一体化してもよい。
【0050】
減速機32の両側(
図6の左右側)において、第1凹部331および第2凹部332のそれぞれの外周面とハウジング31の内周面の間には、大腿接続部22および下腿部21を膝軸23周りに回転可能に支持する第1軸受341および第2軸受342が設けられる。ここで、第1軸受341および第2軸受342は、大腿接続部22の上端22Hから膝軸23の延長線に引いた垂線(軸221Aの延長線)の足、下腿部21の下端21Lから膝軸23の延長線に引いた垂線(軸21Aの延長線)の足、減速機32を間に挟むように、膝軸23の軸方向の異なる位置に設けられる。このような配置によれば、重量の大きい大腿接続部22(およびそこに取り付けられるソケット11)、減速機32、下腿部21(およびそこに取り付けられる足部)を、二つの軸受341、342によって両側から確実に軸支できる。また、一つの大きな軸受によって片側から軸支する構成の特許文献1(
図3)では径方向のラジアル荷重だけでなく軸方向のアキシアル荷重およびモーメント荷重(曲げ荷重)が発生するが、本実施形態の二つの軸受によって両側からバランス良く軸支する構成ではアキシアル荷重およびモーメント荷重(曲げ荷重)の発生を防止できるため各軸受341、342を小型化および軽量化できる。したがって、本実施形態によれば、膝継手20をコンパクトに構成できる。
【0051】
また、特許文献1(
図3)では減速機の外周を囲むように軸受が設けられるため必然的に軸受の径が減速機の径より大きくなるが、本実施形態では軸受341、342と減速機32の膝軸23の軸方向における位置をずらすことで軸受341、342を小径化できる。したがって、本実施形態によれば、膝継手20をコンパクトに構成できる。なお、
図6では二つの軸受341、342によって二つの凹部331、332をそれぞれ回転可能に支持する構成を示したが、一つの幅広の軸受によって二つの凹部331、332を回転可能に支持すると同時に、これらと一体的に回転するケーシング32A、32Bも回転可能に支持する構成としてもよい。
【0052】
図4の構成例と同様に、第1凹部331および第2凹部332には任意の部材を収納できる。膝軸23が延在する第1凹部331には、膝軸23の回転に対して抵抗または動力を付与する第1付与部351を収納できる。膝軸23が延在しない第2凹部332には、例えば、第1付与部351として設けられたモータの制御部や電源部(不図示)を収納できる。また、第1凹部331に収納された第1付与部351と同等の重量を有する錘(不図示)を第2凹部332に収納することで膝継手20の重量バランスを取ってもよい。
【0053】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0054】
実施形態では大腿接続部22と下腿部21を備える膝継手20について説明したが、膝継手20が正常に動作する限りにおいて、膝継手20の各構成要素は大腿接続部22と下腿部21のいずれに設けてもよく、大腿接続部22および下腿部21の外部に設けてもよい。例えば、実施形態で大腿接続部22に設けられた構成要素は下腿部21や外部に設けてもよく、実施形態で下腿部21に設けられた構成要素は大腿接続部22や外部に設けてもよい。
【0055】
実施形態では第1リンクとしての大腿接続部22と第2リンクとしての下腿部21を備える膝継手20について説明したが、本発明は膝以外の任意の関節にも適用可能である。例えば、第1リンクとしての下腿部21と第2リンクとしての足部を備える足首の関節装置や、第1リンクとしての上腕部と第2リンクとしての前腕部を備える肘の関節装置や、第1リンクとしての前腕部と第2リンクとしての手部を備える手首の関節装置にも本発明は適用できる。
【0056】
なお、実施形態で説明した各装置の機能構成はハードウェア資源またはソフトウェア資源により、あるいはハードウェア資源とソフトウェア資源の協働により実現できる。ハードウェア資源としてプロセッサ、ROM、RAM、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてオペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【0057】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0058】
10 義足、11 ソケット、20 膝継手、21 下腿部、22 大腿接続部、23 膝軸、30 膝部、31 ハウジング、32 減速機、34 軸受部、321 太陽歯車、322 遊星歯車、323 内歯車、324 遊星キャリヤ、331 第1凹部、332 第2凹部、341 第1軸受、342 第2軸受、351 第1付与部、352 第2付与部。