IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両制御装置及び車両制御方法 図1
  • 特開-車両制御装置及び車両制御方法 図2
  • 特開-車両制御装置及び車両制御方法 図3
  • 特開-車両制御装置及び車両制御方法 図4
  • 特開-車両制御装置及び車両制御方法 図5
  • 特開-車両制御装置及び車両制御方法 図6
  • 特開-車両制御装置及び車両制御方法 図7
  • 特開-車両制御装置及び車両制御方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178809
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】車両制御装置及び車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/08 20200101AFI20221125BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20221125BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20221125BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20221125BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B60W50/08
B60W60/00
B60W40/08
B60W50/14
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085875
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】桑原 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】楠本 信平
(72)【発明者】
【氏名】星野 陽子
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA60
3D241BA70
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CE02
3D241CE03
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA13Z
3D241DA39Z
3D241DA52Z
3D241DA58Z
3D241DB01Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DC01Z
3D241DC25Z
3D241DC31Z
3D241DC33Z
3D241DC34Z
3D241DC35Z
3D241DC37Z
3D241DC39Z
3D241DC44Z
3D241DC57Z
3D241DC59Z
3D241DD04Z
5H181AA01
5H181BB04
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC12
5H181CC14
5H181CC27
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
5H181LL14
5H181LL20
(57)【要約】
【課題】運転者の運転能力の維持及び向上を図る。
【解決手段】車両制御装置100は、交通環境及び走行環境において車両1が走行するために要求される運転性能要求を設定するヒューマン・マシン性能要求設定処理と、予測リスクがあるか否かを判定する予測リスク判定処理と、運転者の運転性能が運転性能要求を満たすか否かを判定する運転性能判定処理と、運転性能要求を満たさない運転性能を有する運転者の運転機能を不全機能として特定する不全機能特定処理と、予測リスクがある場合、特定した不全機能を車両1が代替して実行するように、車両を制御する運転機能代替処理と、予測リスクがない場合、特定した不全機能の運転性能を運転性能要求のレベルに近づけるように運転者に情報を提供する運転性能支援処理と、を実行し、運転機能代替処理及び/又は運転性能支援処理を実行することにより、運転者及び車両1に運転性能要求を発揮させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の複数の運転機能を用いた車両操作によって、走る機能、止まる機能、及び曲がる機能を含む複数の走行機能を用いて走行する車両に対して、前記車両が前記車両の周囲の交通環境及び走行環境に応じて走行するように、運転支援制御を行う車両制御装置であって、
前記交通環境及び前記走行環境において前記車両が走行するために要求される運転性能要求を設定するヒューマン・マシン性能要求設定処理と、
前記交通環境及び前記走行環境に基づいて、現在の車両挙動により、所定時間以内にリスクが生じる可能性があるか否かを判定する予測リスク判定処理と、
前記運転者が有する前記複数の運転機能の各々の運転性能が前記運転性能要求を満たすか否かを判定する運転性能判定処理と、
前記運転者が有する前記複数の運転機能のうち、前記運転性能要求を満たさない運転性能を有する前記運転者の運転機能を不全機能として特定する不全機能特定処理と、
前記所定時間以内にリスクが生じる可能性がある場合、特定した前記不全機能を前記車両が代替して実行するように、前記車両を制御する運転機能代替処理と、
前記所定時間以内にリスクが生じる可能性がない場合、特定した前記不全機能の運転性能を前記運転性能要求のレベルに近づけるように前記運転者に情報を提供する運転性能支援処理と、を実行し、
前記運転機能代替処理及び/又は前記運転性能支援処理を実行することにより、前記運転者及び前記車両に前記運転性能要求を発揮させる、車両制御装置。
【請求項2】
前記運転性能支援処理は、前記不全機能に対して前記運転者が操作すべき車両操作を前記運転者に報知する処理である、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記運転者の複数の運転機能は、少なくとも前記交通環境及び前記走行環境を知覚する知覚機能、前記交通環境及び前記走行環境において操作すべき車両操作を判断する判断機能、及び前記交通環境及び前記走行環境において操作すべき車両操作を実行する操作機能を含み、
前記運転性能判定処理において、前記知覚機能、前記判断機能、及び前記操作機能についての各運転性能が、それぞれ前記運転性能要求を満たすか否かが判定される、請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記運転性能支援処理において、前記運転者の複数の運転機能に応じて異なる内容の情報が提供される、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項5】
運転者の複数の運転機能を用いた車両操作によって、走る機能、止まる機能、及び曲がる機能を含む複数の走行機能を用いて走行する車両に対して、前記車両が前記車両の周囲の交通環境及び走行環境に応じて走行するように、運転支援制御を行う車両制御方法であって、
前記交通環境及び前記走行環境において前記車両が走行するために要求される運転性能要求を設定するヒューマン・マシン性能要求設定ステップと、
前記交通環境及び前記走行環境に基づいて、現在の車両挙動により、所定時間以内にリスクが生じる可能性があるか否かを判定する予測リスク判定ステップと、
前記運転者が有する前記複数の運転機能の各々の運転性能が前記運転性能要求を満たすか否かを判定する運転性能判定ステップと、
前記運転者が有する前記複数の運転機能のうち、前記運転性能要求を満たさない運転性能を有する前記運転者の運転機能を不全機能として特定する不全機能特定ステップと、
前記所定時間以内にリスクが生じる可能性がある場合、特定した前記不全機能を前記車両が代替して実行するように、前記車両を制御する運転機能代替ステップと、
前記所定時間以内にリスクが生じる可能性がない場合、特定した前記不全機能の運転性能を前記運転性能要求のレベルに近づけるように前記運転者に情報を提供する運転性能支援ステップと、を有し、
前記運転機能代替ステップ及び/又は前記運転性能支援ステップを実行することにより、前記運転者及び前記車両に前記運転性能要求を発揮させる、車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に係り、特に運転支援のための車両制御装置及び車両制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動運転技術(又は、自律運転技術)により走行可能な車両が開発されている。自動運転制御下において、車両は主体的に車両操作を行って走行する(SAE自動運転レベル3以上)。すなわち、運転者は、アクセル、ブレーキ、ステアリングホイール等の車両操作を行う必要がない。自動運転技術は、通常の運転能力を有する運転者にとって有用であり、特に、運転能力が低下した高齢者や軽度認知障害(MCI)を有する者にとって走行安全の点から有用である。
【0003】
一方、運転者は、車両を自ら運転したいという欲求を有している。しかしながら、交通環境等に応じて運転者に要求される要求運転能力と、運転者の現在運転能力とが釣り合っていないと、運転者は、運転を退屈に感じたり、逆に心理的ストレスを感じたりする。そこで、本出願人は、要求運転能力と現在運転能力とをバランスさせるように、運転支援又は運転負荷を提供する車両制御装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。この車両制御装置では、運転者は、要求運転能力と現在運転能力とが釣り合った状態で車両を運転することができる。これにより、運転者は、交通環境の難易度や現在運転能力の大きさにかかわらず、楽しみ且つ集中した状態で安全に運転することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6555649号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、運転者の現在運転能力が相対的に不足している場合、必要な運転支援が提供されるので、車両運転における安全性が高められる。しかしながら、この技術では、運転者は、不足する運転能力を車両に頼ることになるので、運転者の運転能力の維持及び向上を図ることができなかった。このため、この技術では、運転者の安全運転寿命を延ばすことはできなかった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、運転者の運転能力の維持及び向上を図ることが可能な車両制御装置及び車両制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、運転者の複数の運転機能を用いた車両操作によって、走る機能、止まる機能、及び曲がる機能を含む複数の走行機能を用いて走行する車両に対して、車両が車両の周囲の交通環境及び走行環境に応じて走行するように、運転支援制御を行う車両制御装置であって、交通環境及び走行環境において車両が走行するために要求される運転性能要求を設定するヒューマン・マシン性能要求設定処理と、交通環境及び走行環境に基づいて、現在の車両挙動により、所定時間以内にリスクが生じる可能性があるか否かを判定する予測リスク判定処理と、運転者が有する複数の運転機能の各々の運転性能が運転性能要求を満たすか否かを判定する運転性能判定処理と、運転者が有する複数の運転機能のうち、運転性能要求を満たさない運転性能を有する運転者の運転機能を不全機能として特定する不全機能特定処理と、所定時間以内にリスクが生じる可能性がある場合、特定した不全機能を車両が代替して実行するように、車両を制御する運転機能代替処理と、所定時間以内にリスクが生じる可能性がない場合、特定した不全機能の運転性能を運転性能要求のレベルに近づけるように運転者に情報を提供する運転性能支援処理と、を実行し、運転機能代替処理及び/又は運転性能支援処理を実行することにより、運転者及び車両に運転性能要求を発揮させることを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明によれば、所定時間以内にリスクが生じる可能性がある場合において、運転者の運転能力の一部又はすべてが低い場合、低い運転能力を発揮する運転機能を車両が代替する。これにより本発明では、ヒューマン・マシンシステムにおける運転者と車両の機能配分が自動的に行われ、運転性能要求が補償される。このように、本発明では、仮に運転者の運転能力が低くても、不足する運転性能についての運転機能が車両によって代替される。このため、本発明では、車両走行の安全性が確保されると共に、運転者は運転を諦めることなく運転寿命を延ばすことができる。また、本発明では、所定時間以内にリスクが生じる可能性がない場合、不全機能と特定された運転性能の低い運転機能について、運転性能支援処理による訓練が行われる。これにより本発明では、車両の安全な走行を確保しつつ、安全性に問題がない場合には運転性能支援処理により運転者は不全機能について運転能力を維持又は向上させることができる。
【0009】
また、本発明において好ましくは、運転性能支援処理は、不全機能に対して運転者が操作すべき車両操作を運転者に報知する処理である。このように構成された本発明では、運転者は、不全機能について実行すべき車両操作を学習することにより、運転機能を維持又は向上させることができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、運転者の複数の運転機能は、少なくとも交通環境及び走行環境を知覚する知覚機能、交通環境及び走行環境において操作すべき車両操作を判断する判断機能、及び交通環境及び走行環境において操作すべき車両操作を実行する操作機能を含み、運転性能判定処理において、知覚機能、判断機能、及び操作機能についての各運転性能が、それぞれ運転性能要求を満たすか否かが判定される。このように構成された本発明では、運転性能判定処理により、複数の運転機能のそれぞれについて、運転者が所定の運転性能を有するか否かが判定される。これにより、本発明では、低い運転性能を有する不全機能を特定することができる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、運転性能支援処理において、運転者の複数の運転機能に応じて異なる態様の情報が提供される。このように構成された本発明では、不全機能の種類に応じて、適切な支援情報を提供することができる。
【0012】
また、本発明の別の側面による車両制御方法は、運転者の複数の運転機能を用いた車両操作によって、走る機能、止まる機能、及び曲がる機能を含む複数の走行機能を用いて走行する車両に対して、前記車両が前記車両の周囲の交通環境及び走行環境に応じて走行するように、運転支援制御を行う車両制御方法であって、前記交通環境及び前記走行環境において前記車両が走行するために要求される運転性能要求を設定するヒューマン・マシン性能要求設定ステップと、前記交通環境及び前記走行環境に基づいて、現在の車両挙動により、所定時間以内にリスクが生じる可能性があるか否かを判定する予測リスク判定ステップと、前記運転者が有する前記複数の運転機能の各々の運転性能が前記運転性能要求を満たすか否かを判定する運転性能判定ステップと、前記運転者が有する前記複数の運転機能のうち、前記運転性能要求を満たさない運転性能を有する前記運転者の運転機能を不全機能として特定する不全機能特定ステップと、前記所定時間以内にリスクが生じる可能性がある場合、特定した前記不全機能を前記車両が代替して実行するように、前記車両を制御する運転機能代替ステップと、前記所定時間以内にリスクが生じる可能性がない場合、特定した前記不全機能の運転性能を前記運転性能要求のレベルに近づけるように前記運転者に情報を提供する運転性能支援ステップと、を有し、前記運転機能代替ステップ及び/又は前記運転性能支援ステップを実行することにより、前記運転者及び前記車両に前記運転性能要求を発揮させる。
このように構成された本発明によっても、運転者の運転能力の維持及び向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両制御装置及び車両制御方法によれば、運転者の運転能力の維持及び向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態の車両制御の説明図である。
図2】本発明の実施形態の車両制御装置のブロック図である。
図3】本発明の実施形態の車両制御装置の処理の流れを示す説明図である。
図4】従来のヒューマン・マシンシステムの説明図である。
図5】本発明の実施形態のヒューマン・マシンシステムの説明図である。
図6】本発明の実施形態の運転支援制御のフローチャートである。
図7】本発明の実施形態の運転支援制御のフローチャートである。
図8】本発明の実施形態の遅延報知処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置及び車両制御方法について説明する。
まず、図1を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置が提供する車両制御の概略を説明する。図1は、車両制御の説明図である。
【0016】
本実施形態の車両制御装置100(図2参照)は、運転者が主体的に車両1の車両操作を行うことを前提として構成されている。このため、車両制御装置100は、運転者の状態に応じて、車両1の車両操作を適切なレベルで支援する。すなわち、本実施形態では、原則的に、車両1の運転支援制御は、運転者が実行したい車両操作と運転者が実行可能な車両操作との間の差分を埋めるように提供される。例えば、運転者の低下した運転機能が主に補助される。さらに、車両制御装置100は、所定時には車両1を自動運転制御に自動的に切り替えるように構成されている。
【0017】
具体的には、車両制御装置100は、運転者が通常の運転能力を有する場合、特定時にのみ車両操作に介入して、運転支援制御(自動アクセル、自動ブレーキ、自動ステアリング等)を行う。特定時とは、例えば、運転者の運転能力が一時的に低下したとき(例えば、疲労、眠気)や、走行環境が比較的難しいとき(例えば、周囲交通状況が複雑、道路形状が複雑、周囲が暗い)である。また、車両制御装置100は、運転者(例えば、高齢者、MCI)の運転能力の一部が低下している場合(例えば、ステアリングホイールを操作する筋力が不足している)、低下した運転能力を補う。また、車両制御装置100は、低下した運転能力を維持又は回復させたり、運転能力をより向上させたりするように運転支援制御を行う。
【0018】
一方、運転者の意識レベルや運転能力が、急激に又は所定時間(数分~数十分)を掛けて低下していく異常予兆が検出された場合(例えば、急性疾患の発症時や、眠気レベルが高いとき)、車両制御装置100は、安全走行を維持するように運転支援制御を行う。また、運転者の意識や運転能力が喪失した異常時には、事故発生を回避するため、車両制御装置100は、自動運転制御を実行しすると共に、外部へ緊急事態を報知する処理を行う。
【0019】
次に、図2を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置の構成について説明する。図2は、車両制御装置のブロック図である。図2に示すように、車両制御装置100は、主に、ECU(Electronic Control Unit)などのコントローラ10と、車載装置20と、車両制御システム40と、情報報知装置50を有する。
【0020】
車載装置20には、車内カメラ21、車外カメラ22、レーダ23、車両1の挙動を検出する複数の車両挙動センサ(車速センサ24、加速度センサ25、ヨーレートセンサ26)及び運転者の操作を検出する複数の操作検出センサ(操舵角センサ27、操舵トルクセンサ28、アクセル開度センサ29、ブレーキ踏込量センサ30)、測位装置31、ナビゲーション装置32、情報通信装置33が含まれる。
【0021】
また、車両制御システム40には、車両の走る機能、止まる機能、曲がる機能にそれぞれ対応するエンジン制御システム41、ブレーキ制御システム42、ステアリング制御システム43が含まれる。また、情報報知装置50には、表示装置51、音声出力装置52、情報送信装置53、複数のアクチュエータ54が含まれる。
【0022】
コントローラ10は、プロセッサ11、プロセッサ11が実行する各種プログラム及びデータを記憶するメモリ12、入出力装置等を備えたコンピュータ装置により構成される。コントローラ10は、車載装置20から受け取った信号に基づき、車両制御(運転支援制御及び自動運転制御)を行うための制御信号を車両制御システム40及び情報報知装置50へ出力するように構成されている。
【0023】
車内カメラ21は、車両1の運転者を撮像し画像情報を出力する。コントローラ10は、この画像情報に基づいて、特に、運転者の顔の表情及び上半身の姿勢を判別する。
車外カメラ22は、車両1の周囲(典型的には車両1の前方)を撮影し画像情報を出力する。コントローラ10は、この画像情報に基づいて、車外の対象物及びその位置を特定する。対象物は、少なくとも交通参加者及び走行路の境界を含む。具体的には、対象物は、周囲の移動体(車両、歩行者等)、移動しない構造物(障害物、駐車車両、走行路、区画線、停止線、交通信号、交通標識、交差点等)を含む。
【0024】
レーダ23は、車両1の周囲(典型的には車両1の前方)に存在する対象物の位置及び速度を測定する。例えば、レーダ23は、ミリ波レーダ、レーザレーダ(LIDAR)、超音波センサ等を用いることができる。
【0025】
車速センサ24は、車両1の速度(車速)を検出する。加速度センサ25は、車両1の加速度を検出する。ヨーレートセンサ26は、車両1に発生するヨーレートを検出する。操舵角センサ27は、車両1のステアリングホイール43bの回転角度(操舵角)を検出する。操舵トルクセンサ28は、ステアリングホイール43bの回動に伴う回転トルクを検出する。アクセル開度センサ29は、アクセルペダル41bの踏込量を検出する。ブレーキ踏込量センサ30は、ブレーキペダル42bの踏込量を検出する。
【0026】
測位装置31は、GPS受信機及び/又はジャイロセンサを含み、車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する。ナビゲーション装置32は、内部に地図情報を格納しており、コントローラ10に地図情報を提供することができる。コントローラ10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、目的地までの全体走行経路(走行レーン、交差点、交通信号等を含む)を計算することができる。
【0027】
情報通信装置33は、外部の通信機器と通信を行う。情報通信装置33は、例えば、他車両との車車間通信や、車外の通信装置との路車間通信を行い、種々の運転情報や交通情報(交通渋滞情報、制限速度情報など)を受信して、コントローラ10へ提供する。
【0028】
エンジン制御システム41は、車両1のエンジン装置(内燃エンジン、電気モータ等)の駆動力を制御する。コントローラ10は、アクセルペダル41bからの入力に基づいて、エンジン制御装置41aへ制御信号を送信することにより、エンジン装置を駆動して、車両1を加速又は減速させることができる。
【0029】
ブレーキ制御システム42は、車両1のブレーキ装置の駆動力を制御する。ブレーキ制御システム42は、例えば液圧ポンプやバルブユニットなどのブレーキアクチュエータを含む。コントローラ10は、ブレーキペダル42bからの入力に基づいて、ブレーキ制御装置42aへ制御信号を送信することにより、ブレーキ装置を駆動して、車両1を減速させることができる。
【0030】
ステアリング制御システム43は、車両1のステアリング装置の駆動力を制御する。ステアリング制御システム43は、例えば電動パワーステアリングシステムの電動モータなどを含む。コントローラ10は、ステアリングホイール43bからの入力に基づいて、ステアリング制御装置43aへ制御信号を送信することにより、ステアリング装置を駆動して、車両1の進行方向を変更することができる。
【0031】
表示装置51は、運転者に車両操作を支援するための支援情報(視覚情報)を表示領域に視覚表示することができる。具体的には、表示装置51は、HUDである。表示領域は、車両1のフロントガラス全体又は一部の大きさに相当し、支援情報が運転者の視界内に表示される。また、HUDに代えて、液晶ディスプレイを用いてもよい。
音声出力装置52は、例えば、スピーカであり、運転者に車両操作を支援するための支援情報(聴覚情報)を提供することができる。
情報送信装置53は、運転支援に関する情報を外部の情報通信機器(例えば、運転者の携帯情報端末)へ送信することができる。
【0032】
アクチュエータ54は、電気モータ、ギア機構等によって構成される。複数のアクチュエータ54は、運転者が車両1を運転する際に操作する複数の操作部(例えば、アクセルペダル41b、ブレーキペダル42b、ステアリングホイール43b)を、運転者の入力なしに操作方向へ動かすように構成されている。コントローラ10は、各アクチュエータ54へ制御信号を出力し、対応する操作部に所望の挙動を実行させることができる。
【0033】
なお、本実施形態の車両制御システム(例えば、エンジン制御システム、ブレーキ制御システム、ステアリング制御システム)は、ドライブ・バイ・ワイヤ方式で作動し、操作部からの操作入力がコントローラ10を介して制御信号として送信され、操作部に対応する駆動装置が制御信号を受信して、制御信号に基づいて駆動するように構成されている。よって、コントローラ10は、アクチュエータ54による操作部の動きとは独立して、駆動装置へ制御信号を出力することが可能である。
【0034】
次に、図3を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置の処理の流れについて説明する。図3は、車両制御装置の処理の流れを示す説明図である。具体的には、図3は、コントローラ10が車載装置20からの入力情報を処理することにより、車両制御システム40及び情報報知装置50を用いて、種々の車両制御(運転支援制御、自動運転制御)を提供することを示している。
【0035】
車両制御の内容は、ADAS(先進運転支援システム)、自動アクセル、自動ブレーキ、自動ステアリング、自動車両姿勢安定化制御、自動運転(レベル3以上)、運転者の運転能力に対する維持支援処理及び向上支援処理を含む。ADASは、少なくとも先行車追従、先行車衝突防止、車線逸脱防止等に対する支援機能(自動進入回避制御)を含む。自動車両姿勢安定化制御は、車両1の姿勢、すなわち車両ダイナミクス(ピッチ、ロール、ヨー)を安定化させ、横滑りや横転等を防止するための制御である。
【0036】
車載装置20は、取得した情報を継続的にコントローラ10へ送信する。コントローラ10は、取得した情報に基づいて、以下の計算又は評価を行う。
コントローラ10は、車外カメラ22、レーダ23、測位装置31、ナビゲーション装置32(地図情報)等からの入力情報に基づいて、車両1の周囲の交通環境を評価する(交通環境評価)。具体的には、コントローラ10は、車両1の周囲の対象物(車両、歩行者、境界線、ガードレール、停止線、交通標識等)の位置及び速度等を計算する。
【0037】
また、コントローラ10は、操舵角センサ27、操舵トルクセンサ28、ブレーキ踏込量センサ30、車内カメラ21等の情報から、運転者の身体機能を評価する(身体機能評価)。具体的には、コントローラ10は、操作部を適正な操作量及び操作速度で操作したり、車外の視覚刺激を視覚的に捉えたりする運転者の身体機能のレベルを推定する。運転者が適正な操作量及び操作速度で操作をしているか否かは、運転者が実際に操作部を介して入力した操作量及び操作速度(舵角、舵角速度、ブレーキペダル42bの踏込量、踏込速度又はブレーキ油圧等)と、目標走行経路を走行する場合の目標操作量及び操作速度との差により評価される。目標走行経路は、運転要求(目的地等)に基づいて、交通環境評価、走行環境評価、身体機能評価等の結果を用いて、車両1が安全且つ効率的に走行するように演算される。
【0038】
また、コントローラ10は、車外カメラ22、車速センサ24、加速度センサ25、測位装置31等からの情報に基づいて、車両1の周囲の走行環境を評価する(走行環境評価)。具体的には、コントローラ10は、車両ダイナミクスに影響を及ぼす物理量(例えば、走行路のカーブ半径、路面摩擦係数)を推定する。
また、コントローラ10は、車速センサ24、加速度センサ25、ヨーレートセンサ26等からの情報に基づいて、車両1の現在の車両ダイナミクスを計算する(車両ダイナミクス計算)。車両ダイナミクスには、速度、加速度、ヨーレート、3軸回転モーメント(ピッチ、ヨー、ロール)等が含まれる。
【0039】
また、コントローラ10は、車内カメラ21の画像情報に基づいて、運転者の覚醒度を判定する(覚醒度判定)。例えば、運転者の眼及び/又は口の開き具合、運転者の上半身の位置又は姿勢により、覚醒度が評価される。覚醒度は、例えば、4段階(覚醒度ゼロ、低、中、高)で評価することができる。
【0040】
また、コントローラ10は、交通環境評価及び走行環境評価において、予測リスクがあるか否かを判定する。予測リスクは、交通環境に起因する交通リスク(例えば、車両1が他車両と衝突)、及び車両ダイナミクスに影響を与える走行環境に起因する走行リスク(例えば、カーブ路でスピン)を含む。そして、コントローラ10は、この予測リスクに対して運転者が行ったリスク回避行動を、車載装置20及び車内カメラ21等の情報に基づいて評価する(リスク回避行動評価)。
【0041】
リスクは、車両1の衝突のような車両事故、車両1の姿勢安定性が喪失又は低下した状態(スピン、横転等)を含む。リスクを生じる原因となるリスク対象は、交通参加者(他車両、歩行者等)、ガードレール、境界線、交通信号(赤信号)、停止線等を含む。さらに、リスク対象は、走行路のリスク発生部位(カーブ路のクリッピングポイント等)を含む。これら対象物は、現在の車両挙動(車両ダイナミクス)が継続すると近い将来(例えば、10秒等の所定時間以内)にリスクを生じさせる可能性がある場合に、リスク対象となる。リスク回避行動は、運転者が予測リスクに対して行う行動であり、特に予測リスクの発生確率を減少させるように実行される車両操作(加速、制動及び/又は操舵)である。例えば、車両1と他車両の予測経路が交差し、これら車両の衝突が予測される場合に、衝突確率を低減させる車両操作、又は、車両1と他車両との最接近距離を所定距離以上とする車両操作である。さらには、現時点ではリスクを生じる可能性はないが走行中に知覚すべき対象物や、所定時間よりも将来にリスクを生じる可能性がある対象物をリスク対象に含めてもよい。
【0042】
また、リスク回避行動は、運転者が操作部を操作する前に、リスク対象(例えば、衝突可能性のある他車両、カーブ路のクリッピングポイント付近)を知覚する行動も含む。例えば、車内カメラ21の画像情報に基づいて、運転者の視線がリスク対象に向けられたことや、リスクに対応する姿勢をとったこと(すなわち、運転者がリスク対象を知覚した)もリスク回避行動に含まれる。
【0043】
また、コントローラ10は、交通環境評価の結果に基づいて、運転者の現在の認知負荷を評価する(認知負荷評価)。コントローラ10は、例えば、車速に応じて、車両1から所定距離内の対象物の数が多いほど、運転者の認知負荷が大きいと評価する。認知負荷は、例えば、3段階(低、中、高)で評価することができる。また、コントローラ10は、運転者の車両操作や視線方向の情報に基づいて、運転者の認知能力レベルを分析・学習し、更新してもよい。この場合、認知負荷評価は、運転者の認知能力レベルに対する、現在の認知負荷の大きさの割合で計算することができる。
【0044】
また、コントローラ10は、車両1の物理的な運動を規定する車両モデルを記憶部に格納している。車両モデルは、車両1の緒元(質量、ホイールベース等)と物理変化量(速度、加速度、舵角等)との関係を運動方程式により表す。また、車両モデルには、走行環境評価の結果(例えば、路面摩擦係数)も適用することができる。
【0045】
また、コントローラ10は、車両1を運転する運転者のドライバモデルを記憶部に格納している。コントローラ10は、車載装置20からの入力情報に基づいて、運転者の操作特性を分析及び学習し、ドライバモデルを常時更新する。ドライバモデルは、運転者の操作特性を表しており、ある条件下における特定の操作に対する操作量、反応遅れ時間(時定数)等を含む。また、ドライバモデルには、認知負荷評価の結果(認知負荷の程度)及び身体機能評価の結果も適用することができる。例えば、認知負荷が高い状況では、ドライバの操作能力が低下するようにドライバモデルが補正される。また、身体機能評価の結果により、踏力や腕力が低いと判断されると、操作部の操作量や操作速度に関する時定数に反映される。コントローラ10は、ドライバモデルを用いることにより、運転者の操作を予測することができる。なお、コントローラ10は、運転能力の高い理想的な運転者の操作特性を表す理想ドライバモデルも記憶部に格納しており、理想的な操作を予測することもできる。
【0046】
コントローラ10は、車載装置20からの入力情報を車両モデル及びドライバモデルに適用することにより、現在から近い将来の間に生じると予測される車両ダイナミクスを計算することができる(車両ダイナミクス予測計算)。すなわち、コントローラ10は、現在の条件(交通環境、走行環境、認知負荷、身体機能)をドライバモデル及び車両モデルに入力することにより、現在から所定期間後(例えば、10秒後)の間に運転者によって行われる車両操作(操作の種類、操作量、操作タイミング等)を予測し、予測した車両操作により生じる予測車両ダイナミクスを計算することができる。
【0047】
さらに、コントローラ10は、運転能力評価を行う。運転能力は、運転者が種々のリスクを回避する能力の高さを表す。コントローラ10は、リスク回避行動評価の結果(運転者が行ったリスク回避行動)、予測車両ダイナミクスと実際の車両ダイナミクスとの差分、及び認知負荷評価の結果(認知負荷の程度)に基づいて、リスクに対する運転能力を評価又は計算する。リスクに対する運転能力は、例えば、運転者が予測リスクを回避するのに要するリスク回避必要時間とすることができる。リスク回避必要時間は、リスク回避行動の開始から予測リスクの消失までの時間、又は、運転者がリスクを知覚してからリスク回避行動を完了するまでに要する時間としてもよい。この場合、運転能力が低く評価されると、リスク回避必要時間はより大きな値として出力される。
【0048】
コントローラ10は、例えば、現在の車両挙動が所定時間だけ継続したと仮定した場合の将来の時点における車両1の予測走行経路を、ドライバモデルを用いて計算する。所定時間がある時間に達したとき、その時点の予測走行経路ではリスクを回避できなくなる。そして、このとき算出された予測走行経路において、リスクが発生するまでの時間(リスク余裕時間)をリスク回避必要時間としてもよい。
【0049】
コントローラ10は、算出した運転能力評価を用いて、運転能力データを更新することができる。運転者の運転能力は、時間経過と共に変化する。例えば、運転初心者は運転能力が向上する傾向があり、高齢者は運転能力が低下する傾向がある。運転能力データは、複数の評価期間に対応して、運転能力データセットを複数設定してもよい。例えば、短期(現在から1~6カ月前まで)、中期(現在から3~9ヵ月前まで)、長期(現在から1~2年前まで)の運動能力データセットを作成することができる。
【0050】
コントローラ10は、現在の車両ダイナミクス、運転能力評価の結果(現在の運転能力)、認知負荷評価の結果、及び身体機能評価の結果に基づいて機能再配分計算を実行する。コントローラ10は、この計算に基づいて運転支援制御又は自動運転制御を実行する。通常運転時において、運転者(例えば、初心者、高齢者)は、自身の運転機能(知覚機能、判断機能、身体機能)を用いて運転性能を発揮する。しかしながら、運転者が予測リスクを回避できない場合(すなわち、運転者の運転性能が予測リスクを回避するために必要な運転能力に満たない場合)、コントローラ10は、不足している運転能力に関する運転機能を車両1が代替して実行するように運転支援制御を実行する。また、異常時(例えば、意識喪失)においては、例えば、自動運転制御が実行され、運転者の運転機能が車両1の対応する同等の機能で代替される。
【0051】
また、コントローラ10は、運転能力評価の結果(予測リスクに対する現在の運転能力)と運転能力データとを比較することにより、現在の運転能力が過去の運転能力よりも低下している場合は、低下している運転能力を補う支援(自動運転を含む)を実行する。また、コントローラ10は、運転者の覚醒度が中程度のときには(例えば、軽度の眠気)、運転者を覚醒させる処理(例えば、運転者に冷風を送る)を実行し、運転者の覚醒度が低いときには(例えば、重度の眠気、意識喪失)、自動運転を実行する。
【0052】
次に、本発明の実施形態における運転者と車両により構成されるヒューマン・マシンシステムについて説明する。図4は従来のヒューマン・マシンシステムの説明図、図5は本実施形態におけるヒューマン・マシンシステムの説明図である。
【0053】
図4に示すように、運転者(ヒューマン)は、車両の運転に関して、少なくとも知覚機能、判断機能、及び操作機能(又は、身体機能)を備え、これら運転機能を用いて、知覚性能、判断性能、及び操作性能(又は、運動性能)を発揮する。運転者は、知覚機能を用いて対象を捕捉し(知覚性能)、捕捉した対象に対して判断機能を用いて実行すべき車両操作を選択又は判断し(判断性能)、選択した車両操作を適切な操作量及びタイミングで操作機能を用いて実行する(操作性能)。一方、車両は、少なくとも走る機能、止まる機能、及び曲がる機能を備えている。車両は、これら走行機能が運転者による車両操作により利用されることにより、走行性能、制動性能、及び操縦安定性能を発揮して走行する。
【0054】
このように、運転者が知覚性能、判断性能、及び操作性能を発揮して車両を操作すると、車両が走行性能、制動性能、及び操縦安定性能を発揮する。これにより、ヒューマン・マシンシステムとしての車両は、安全な走行を実現することができる。従来、車両の3つの性能が効率よく発揮されるように、車両には、運転者の機能と車両の機能との間を介在するインターフェースが設けられている。これにより、総合的な車両性能(例えば、制動能力、燃費等)が向上されている。
【0055】
自動運転時には、車両が運転者の知覚機能、判断機能、身体機能のすべて又はほとんどを代替する。例えば、知覚機能は、車載カメラ、加速度センサ、レーダ等が代替する。判断機能は、車両のコンピュータが代替する。身体機能は、車載アクチュエータが代替する。運転者は、例外的に、エンジン始動等の最低限度の指示を行うだけの身体機能さえあればよく、ほとんどの運転機能及び運転能力(運転性能)を備えていなくてもよい。
【0056】
図5は、本実施形態におけるヒューマン・マシンシステムの一例を示す。本実施形態では、運転機能代替処理、運転性能支援処理(維持支援及び向上支援)が実行される。低い運転能力を有する運転者(例えば、初心者、高齢者)は、運転機能(知覚、判断、操作)に関する運転性能(知覚、判断、操作)のうち、少なくともいずれかが低いレベルにある。また、平均的な運転能力を有する運転者(通常運転者)も、相対的に低いレベルの運転性能を有し得る。
【0057】
本実施形態では、予測リスクの検出時(又は、リスク遭遇時)に運転者の運転能力が低い場合、車両制御装置100は、運転者の低い運転能力に関する運転機能(不全機能)を、車両1の対応する機能で代替する運転機能代替処理を実行する。この処理では、車両制御装置100は、運転者の運転機能のうち、低い性能を有する運転機能(知覚、判断、操作)を検出して、この低い運転機能(不全機能)のみを車両1が補助するように車両操作に介入する。これにより、運転者の一部の運転能力が低下していても、運転者と車両1により構成されるヒューマン・マシンシステムの走行機能は維持される。図5では、例示的に、運転者の判断機能及び判断性能が、車両1の同等の機能及び性能により代替されている。
【0058】
また、本実施形態では、車両制御装置100は、運転機能代替処理を実行する際、不全機能の運転能力を維持又は回復させるための運転性能支援処理(第1支援処理)を実行する。図5には、この支援処理を実行するためのZ機能が示されている。この処理により、運転者は、運転者の運転機能(知覚、判断、操作)のうち不全機能について、所定時に運転能力を維持又は回復する行動を促される。運転者の運転能力が予測リスクを回避可能なレベルまで回復すれば、運転機能代替処理及び運転性能支援処理は実行されなくなる。
【0059】
また、本実施形態では、予測リスクが検出されない通常時、車両制御装置100は、運転者の運転性能を向上させるための運転性能支援処理(第2支援処理)を実行する。図5には、この支援処理を実行するためのX機能が示されている。この処理では、運転者は、運転者の運転機能のうち少なくとも不全機能について、所定時に運転能力の向上が促される。図5では、例示的に、運転者の操作性能が要求水準よりも低い場合が示されている。
【0060】
第2支援処理は、運転者の運転能力を、より高い運転能力に引き上げるように、運転者が実行すべき運転行動に関するアドバイスを運転者へ提供する処理である。例えば、高い運転能力を有するベテランドライバの推奨車両操作が運転者に教示される。これは、運転者がベテランドライバから運転技能を学習することに相当する。この支援処理により、運転者は、知覚機能、判断機能、操作機能のうち、不得意な機能についての模範的な車両操作を学習して、運転能力の向上を図ることができる。
【0061】
次に、本発明の実施形態による車両制御装置の運転支援制御の処理フローを説明する。図6図7は運転支援制御のフローチャート、図8は遅延報知処理のフローチャートである。コントローラ10は、運転者又は外部から入力装置(例えば、ナビゲーション装置32、情報通信装置33)を介して運転要求(目的地等)を受け取った後、運転支援制御を時間的に繰返し行う(例えば、0.1秒毎)。
【0062】
まず、図6に示すように、コントローラ10は、所定時間毎(例えば、0.1秒毎)に車載装置20から情報を取得する(S1)。コントローラ10は、取得した情報に基づいて、交通環境評価、走行環境評価、身体機能評価、リスク回避行動評価、車両ダイナミクス計算等の処理を実行する。
【0063】
また、コントローラ10は、取得した情報及び運転要求に基づいて、目標走行経路を演算する(S2)。目標走行経路は、現在から所定時間後(例えば、10秒後)までの目標走行軌跡(複数位置の位置情報)及び軌跡上の各位置における速度等を含む。コントローラ10は、運転要求、及び交通環境評価、走行環境評価、身体機能評価等の結果を用いて、所定の安全性及び走行効率を有するように目標走行経路を計算する。コントローラ10は、所定制約条件(例えば、横加速度が所定値以下)を満たす複数の目標走行経路を計算することができる。例えば、車両1の前方に障害物が存在する場合、コントローラ10は、障害物を回避するための複数の目標走行経路を設定することができる。なお、車両1は目標走行経路を逸脱しても他の走行経路を走行することが可能である。ただし、他の走行経路は所定基準未満であるため、走行効率や乗り心地は悪い。
【0064】
また、コントローラ10は、目標走行経路を走行するための目標車両ダイナミクスを演算する(S3)。目標車両ダイナミクスは、目標走行経路上の各位置における速度、加速度、ヨーレート、3軸回転モーメント(ピッチ、ヨー、ロール)等が含まれる。目標車両ダイナミクスは、車両1が運転支援制御及び自動運転制御を実行する場合に用いる制御目標値である。複数の目標走行経路に対応して、複数の目標車両ダイナミクス(又は制御目標値)を設定することができる。
【0065】
さらに、コントローラ10は、目標走行経路上の各位置において目標車両ダイナミクスの物理量を達成するために運転者及び車両1に対する運転性能要求である目標車両操作の操作量(アクセル開度、ブレーキ踏込量、操舵角等)又は制御システム40に対する制御信号を演算する(ヒューマン・マシン性能要求設定処理)。複数の目標走行経路により、所定の範囲を有する運転性能要求が設定される。
【0066】
次に、コントローラ10は、予測リスクがあるか否か判定する(S4)。具体的には、コントローラ10は、交通環境評価及び走行環境評価等に基づいて、現在の車両挙動(車両ダイナミクス)により、所定時間以内にリスクが生じる可能性があるか否かを判定する(予測リスク判定処理)。コントローラ10は、現在から予測リスク(交通リスク、及び走行リスク)が発生するまでの時間(すなわち、リスク余裕時間TTR(time to risk))を計算する。リスク余裕時間TTRが所定時間(例えば、10秒)以下の場合、予測リスクがあると判定される。リスク余裕時間TTRは、車両1が現在の車両挙動(速度、加速度等の車両ダイナミクス)を維持した場合に、リスク領域に進入するまでの予想時間である。リスク領域への進入とは、例えば、車両1と他車両との衝突や、車両1のスピンが予測されるカーブ路内の位置である。
【0067】
予測リスクがある場合(S4:Yes)について説明する。この場合、コントローラ10は、各運転機能(知覚機能、判断機能、操作機能)がリスク回避に必要な運転性能を発揮しているか否かを判定する(運転性能判定処理)。
【0068】
まず、コントローラ10は、知覚機能について、車両1が目標走行経路から逸脱しないように、運転者が知覚性能を発揮しているか否かを判定する(S10)。具体的には、コントローラ10は、リスク回避行動評価の結果に基づいて、所定時までに(例えば、予測リスクの発生予測時間の所定時間前まで、又は、車両1がいずれの目標走行経路からも逸脱してしまうときまで)、リスク対象を知覚したか否か(例えば、運転者が視線をリスク対象に向けたか否か、横Gに対向するように頭や上半身を傾けたか否か)を判定する。
【0069】
運転者が知覚性能を発揮していない場合(S10:No)、コントローラ10は、運転者の知覚機能を不全機能として特定し、運転者の知覚機能を車両1の対応する機能で代替する運転機能代替処理を実行する(S11)。この処理では、コントローラ10は、検知したリスク対象を追跡対象に設定して追跡制御を実行する。
【0070】
また、コントローラ10は、知覚性能維持のための第1支援処理を実行する(S12)。コントローラ10は、情報報知装置50を用いて、運転者の運転性能(知覚性能)を、目標走行経路を走行可能なレベルに近づけるように、目標走行経路を走行するために知覚すべきリスク対象の存在を運転者に報知する。これにより、運転者は、自身の目を使ってリスク対象を知覚する行為の実行を促される。本実施形態では、車両操作は、運転者がリスク対象を知覚する行為を含む。具体的には、コントローラ10は、表示装置51を用いてリスク対象を表示領域内で強調表示する。また、コントローラ10は、音声出力装置52によりリスク対象の出現を音声で報知する(「前方に障害物」等)。このような報知に促されて、運転者がリスク対象を知覚する行為を反復することにより、運転者の知覚性能は維持又は回復され得る。
【0071】
一方、運転者が知覚性能を発揮している場合(S10:Yes)、コントローラ10は、判断機能について、運転者が判断性能を発揮しているか否かを判定する(S13)。具体的には、コントローラ10は、リスク回避行動評価の結果に基づいて、上記所定時までに運転者がリスク回避のための適切な判断を行って、推奨リスク回避行動を開始したか否かを判定する。推奨リスク回避行動は、目標車両ダイナミクスのための目標車両操作(例えば、アクセル、ブレーキ、ステアリング操作)である。目標車両ダイナミクスが達成されるとリスクは回避される。例えば、前方の障害物との衝突を回避するためにブレーキ操作が必要な場合、コントローラ10は、ブレーキ踏込量センサ30からの情報によりブレーキ操作が開始されたか否かを判定する。また、前方の障害物との衝突を回避するためにステアリング操作が必要な場合、コントローラ10は、操舵角センサ27からの情報によりステアリング操作が開始されたか否かを判定する。
【0072】
運転者が判断性能を発揮していない場合(S13:No)、コントローラ10は、運転者の判断機能を不全機能として特定し、運転者の判断機能を車両1の対応する機能で代替する運転機能代替処理を実行する(S14)。この処理では、コントローラ10は、運転者の車両操作を無効化し、又は、他の車両操作でオーバーライドし、リスクを回避するための車両制御を実行する。ドライブ・バイ・ワイヤ方式の車両1では、運転者が操作部を操作しても、車両操作の無効化により、操作部の操作に基づいて制御信号が生成されなくなる。
【0073】
例えば、前方の障害物を回避する場合、運転者は、障害物の側方を通り過ぎるようにステアリング操作を行ったとする。一方、対向車が近づいてくるので、目標車両操作はブレーキ操作による減速であった(すなわち、目標走行経路は、障害物の手前で減速する経路に設定された)。この状況では、コントローラ10は、ステアリング操作を無効化し、障害物の手前で停止するようにブレーキ制御装置42aに制御信号を出力する。逆に、目標車両操作がステアリング操作であるのに、運転者がブレーキ操作を行った場合、コントローラ10は、ブレーキ操作を無効化し、障害物を回避するようにステアリング制御装置43aに制御信号を出力する。
【0074】
また、コントローラ10は、判断性能維持のための第1支援処理を実行する(S15)。本実施形態では、ステップS15の処理時点では、コントローラ10は、運転操作支援情報をメモリ12に格納し、支援フラグFを「1」に設定する。そして、コントローラ10は、運転の終了後に情報報知装置50を用いて、運転者の運転性能(判断性能)を、目標走行経路を走行可能なレベルに近づけるように、運転操作支援情報を運転者へ報知する。運転操作支援情報は、運転者がリスクに対して行った車両操作を示す情報、及び、運転者がリスクに対して行うべきであった目標車両操作を示す情報を含む。
【0075】
運転操作支援情報として格納されるのは、運転者が行った車両操作(上記の例では、ステアリングホイール43bの操作、又は、ブレーキペダル42bの操作)、及び目標車両操作(ブレーキペダル42bの操作、又は、ステアリングホイール43bの操作)を含む。この情報は、操作部(ブレーキペダル42b、ステアリングホイール43b等)の操作量の時間経過を含んでもよい。さらに、この情報は、運転者による操作部の操作状況を示す車内カメラ21の画像情報、及び車外カメラ22によるリスク対象を含む画像情報を含んでもよい。
【0076】
図8に示すように、車両1の運転が終了した場合(S70:Yes)、コントローラ10は、支援フラグFが「1」に設定された状態であるか否かを判定する(S71)。支援フラグFが「1」の場合(S71:Yes)、コントローラ10は、格納された運転操作支援情報を、情報送信装置53を用いて、メモリ12に登録されている運転者の携帯情報端末へ送信し(S72)、支援フラグFを「0」に設定する(S73)。また、コントローラ10は、表示装置51を用いて運転操作支援情報を表示してもよい。なお、コントローラ10は、例えば、車両1のエンジンオフ(IGオフ)信号を検出したとき、及び/又は、車両1の速度ゼロを検出したときに、運転が終了したと判断することができる。
【0077】
この処理により、運転者は、運転中に運転判断が適切でなかった走行状況を思い出しながら、運転者が実際に行った車両操作と、運転者が行うべきであった目標車両操作とを比較することができる。これにより、運転者は、走行状況に応じて、少なくとも判断機能についての運転性能を劣化させることなく、少なくとも維持することができる。
【0078】
なお、車両1の走行中に運転操作支援情報を報知してもよいが、支援情報を報知された運転者が混乱するおそれがある。このため、本実施形態では、判断機能については、運転の終了後に支援情報が報知される。
【0079】
一方、運転者が判断性能を発揮している場合(S13:Yes)、コントローラ10は、操作機能について、運転者が操作性能を発揮しているか否かを判定する(S16)。具体的には、コントローラ10は、予測リスクの発生確率がゼロに減少するように、運転者がリスク回避行動の車両操作を適切に実行したか否か(主に、車両操作量が適切であるか否か)を判定する。このため、コントローラ10は、現在の車両ダイナミクスに加えて、リスク回避行動による車両ダイナミクスの変化を考慮し、車両モデルを用いて予測リスクの発生確率を計算する。
【0080】
運転者が操作性能を発揮している場合(S16:Yes)、予測リスクの発生確率は所定時間内にゼロになるので、コントローラ10は処理を終了する。一方、運転者はリスク回避のために正しい車両操作を選択して実行したが、車両操作量が不十分な場合、依然として予測リスクは回避されない。
【0081】
よって、運転者が操作性能を発揮していない場合(S16:No)、運転者の操作機能を不全機能として特定し、運転者の操作機能を車両1の対応する機能で代替する運転機能代替処理を実行する(S17)。この処理では、コントローラ10は、リスクを回避するための車両制御を実行する。例えば、障害物との衝突を回避するため、運転者がブレーキペダル42bを踏込んだが、運転者の小さい踏力に起因して踏込量が不足していた場合、コントローラ10は、障害物の手前で停止するように、ブレーキ制御装置42aに適正操作量の制御信号を出力する。また、障害物との衝突を回避するため、運転者がステアリングホイール43bを操作したが、運転者の小さい腕力に起因して操作量が不足していた場合、コントローラ10は、障害物とのクリアランスを確保するため、ステアリング制御装置43aに適正操作量の制御信号を出力する。
【0082】
また、コントローラ10は、操作性能維持のための第1支援処理を実行する(S18)。コントローラ10は、情報報知装置50を用いて、運転者の運転性能(操作性能)を、目標走行経路を走行可能なレベルに近づけるように、目標走行経路を走行するための適正な操作量及び操作タイミングを操作部の動きによって運転者に報知する。これにより、運転者は、適正な操作を体得して、少なくとも操作機能についての運転性能を維持することができる。具体的には、コントローラ10は、アクチュエータ54を用いて、介入した車両制御を行うための操作部(例えば、ブレーキペダル42b、ステアリングホイール43b)を適正操作量に対応する操作位置へ動かす。
【0083】
なお、予測リスクがある場合(S4:Yes)には、運転機能代替処理(S11、S14、S17)のみを実行し、第1支援処理(S12、S15、S18)は省略してもよい。
【0084】
次に、予測リスクがない場合(S4:No)について説明する。この場合、コントローラ10は、各運転機能(知覚機能、判断機能、操作機能)が所定レベルの運転性能を発揮しているか否かを判定する(運転性能判定処理)。
【0085】
まず、コントローラ10は、知覚機能について、運転者が目標走行経路を走行するために必要な(又は、目標車両操作を実行するために必要な)知覚性能を発揮しているか否かを判定する(S20)。コントローラ10は、所定の交通環境(例えば、車両1の周囲を他車両が走行)及び走行環境(例えば、カーブ路への進入)に基づいて知覚すべき対象を設定し、知覚すべき対象を運転者が適切なタイミングで知覚していない場合に、運転者が必要な知覚性能を適切に発揮していないと判定する。知覚すべき対象は、ベテランドライバの運転時の挙動(視線、姿勢等)のデータを分析及び学習することにより設定される。必要な知覚性能を適切に発揮していないと判断されるケースは、例えば、運転者が知覚すべき物標、速度超過、外部G等を知覚していない場合である。コントローラ10は、例えば、車内カメラ21の画像情報に基づいて、上記の判定を行う。
【0086】
例えば、左側通行の道路における交差点で右折する場合に右側及び前方に存在する物標(例えば、他車両、歩行者)を見ていない場合、運転者が知覚すべき物標を知覚していないと判定される。また、カーブ路で車速が適正速度よりも超過している場合、速度超過を知覚していないと判定される。また、カーブ路の走行中に適切な運転姿勢(例えば、横Gに対向するように上半身及び頭を傾けている)をとっていない場合、外部Gを知覚していないと判定される。なお、知覚機能を発揮すべき対象がない場合は、ステップS20を肯定判断としてよい。
【0087】
運転者が知覚性能を発揮していない場合(S20:No)、コントローラ10は、運転者の知覚機能を不全機能として特定し、知覚性能向上のための第2支援処理を実行する(S22)。コントローラ10は、情報報知装置50を用いて、運転者の運転性能(知覚性能)を、目標走行経路を走行可能なレベルに近づけるように、目標走行経路を走行するために運転能力の高いベテランドライバが行う知覚機能の発揮態様を運転者へ報知する。これにより、運転者は、手本となるベテランドライバの知覚行動(知覚対象物、タイミング等)を学習し、知覚性能を向上させることができる。本実施形態では、車両操作は知覚行動を含む。
【0088】
例えば、右折時に運転者が知覚すべき物標を知覚していない場合、コントローラ10は、表示装置51の表示領域に知覚すべき物標が視覚的に強調表示させる。また、コントローラ10は、音声出力装置52を用いて知覚すべき物標を報知してもよい。
【0089】
また、運転者が速度超過を知覚していない場合、コントローラ10は、運転者の車両前方の視野可能範囲を狭く制限する。この場合、表示装置51は、フロントガラスの周縁部分に対応する表示領域の部分を暗く表示(又は、透明度を低下)して、運転者がフロントガラスを通して外部を視認可能な範囲を狭くする。これにより、運転者は、狭い視野範囲内における外部景色の移動速度を速く感じるので、車両1の車速が超過していることに気付き易くなる。なお、コントローラ10は、車両1が速度超過状態であることを表示装置51や音声出力装置52を用いて報知してもよい。
【0090】
また、運転者が外部Gを知覚していない場合、コントローラ10は、表示装置51や音声出力装置52により外部Gが車両1に掛かっていることを報知すると共に、運転者が取るべき姿勢を報知する。
【0091】
一方、運転者が知覚性能を発揮している場合(S20:Yes)、コントローラ10は、判断機能について、運転者が判断性能を発揮しているか否かを判定する(S23)。具体的には、コントローラ10は、運転者が目標車両操作(例えば、アクセル、ブレーキ、ステアリング操作)を選択及び開始したか否か、及び、目標車両操作と異なる車両操作を実行していないことを判定する。目標車両操作と異なる車両操作は、不要で無駄な車両操作(例えば、直線路上で無駄な蛇行運転を行っていないか)を含む。
【0092】
運転者が判断性能を発揮していない場合(S23:No)、コントローラ10は、運転者の判断機能を不全機能として特定し、判断性能向上のための第2支援処理を実行する(S25)。この場合、コントローラ10は、運転者の車両操作を無効化、又は、他の車両操作でオーバーライドしない。
【0093】
例えば、右折時に運転者がステアリングハンドルを一旦、左旋回方向に操作した後、右旋回方向へ操作した場合、コントローラ10は、ステップS15において説明したように、運転操作支援情報をメモリ12に格納し、支援フラグFを「1」に設定する。そして、図8を参照して既に説明したように、コントローラ10は、情報報知装置50を用いて、運転者の運転性能(判断性能)を、目標走行経路を走行可能なレベルに近づけるように、運転の終了後に運転操作支援情報を運転者へ報知する。この場合、運転操作支援情報は、運転者が右折時に行った車両操作(左旋回操作)を示す情報、及び、運転者が右折時に行うべきであった目標車両操作を示す情報を含む。
【0094】
また、例えば、カーブ路において、運転者のブレーキ操作やステアリング操作の開始タイミングが遅い場合、運転操作支援情報は、カーブ路での運転者の車両操作を示す情報、及び、運転者がカーブ路で行うべきであった目標車両操作を示す情報を含む。
【0095】
この処理により、運転者は、目標走行経路を走行するために手本となるベテランドライバの判断行動を学習し、判断性能を向上させることができる。なお、車両1の走行中に運転操作支援情報を報知してもよいが、支援情報を報知された運転者が混乱するおそれがあるため、本実施形態では、判断機能については、運転の終了後に支援情報を報知している。
【0096】
一方、運転者が判断性能を発揮している場合(S23:Yes)、コントローラ10は、操作機能について、運転者が操作性能を発揮しているか否かを判定する(S26)。具体的には、コントローラ10は、車両操作が適切に実行されたか否か(主に、車両操作量が適切か否か)を判定する。より具体的には、コントローラ10は、目標操作量と運転者の実際の操作量との差分が所定閾値以上であるか否か、又は、操作量の差分に起因して実際の走行経路が目標走行経路から閾値を超えてずれているか否か(又は、実際の車両ダイナミクスが目標車両ダイナミクスから閾値を超えてずれているか否か)を判定する。
【0097】
運転者が操作性能を発揮している場合(S26:Yes)、コントローラ10は、処理を終了する。一方、運転者が操作性能を発揮していない場合(S26:No)、コントローラ10は、運転者の操作機能を不全機能として特定し、操作性能向上のための第2支援処理を実行する(S28)。この支援処理では、コントローラ10は、情報報知装置50を用いて、運転者の運転性能(操作性能)を、目標走行経路を走行可能なレベルに近づけるように、目標走行経路を走行するための操作部の適正な操作量及び操作速度を運転者に報知する。これにより、運転者は、手本となるベテランドライバの操作行動(操作量、操作速度等)を学習し、操作性能を向上させることができる。
【0098】
例えば、右折時に運転者がステアリングホイール43bを右旋回操作したが、運転者の小さい腕力に起因して回転操作量が小さく、実際の走行経路が目標走行経路からずれた場合、コントローラ10は、表示装置51及び/又は音声出力装置52を用いて、ステアリングホイール43bの回転操作速度が小さかったこと、実際の操作量及び目標操作量、実際の経路及び目標走行経路の視覚表現等を運転者へ報知することができる。
【0099】
また、例えば、カーブ路において、運転者がブレーキペダル42bを踏込んだが、運転者の小さい踏力に起因して踏込速度が小さくて、実際の走行経路が走行目標走行経路よりも外側であった場合、コントローラ10は、表示装置51及び/又は音声出力装置52を用いて、ブレーキペダル42bの踏込速度が小さかったこと、実際の操作速度及び目標操作速度、実際の経路及び目標走行経路の視覚表現等を運転者へ報知することができる。
【0100】
以下に本発明の実施形態による車両制御装置100の作用について説明する。
本実施形態の車両制御装置100は、運転者の複数の運転機能を用いた車両操作によって、走る機能、止まる機能、及び曲がる機能を含む複数の走行機能を用いて走行する車両1に対して、車両1が車両1の周囲の交通環境及び走行環境に応じて走行するように、運転支援制御を行う。車両制御装置100は、交通環境及び走行環境において車両1が走行するために要求される運転性能要求を設定するヒューマン・マシン性能要求設定処理(S3)と、運転者が有する複数の運転機能の各々の運転性能が運転性能要求を満たすか否かを判定する運転性能判定処理(S10、S13、S16、S20、S23、S26)と、運転者が有する複数の運転機能のうち、運転性能要求を満たさない運転性能を有する運転者の運転機能を不全機能として特定する不全機能特定処理(S10、S13、S16、S20、S23、S26)と、特定した不全機能を車両1が代替して実行するように、車両を制御する運転機能代替処理(S11、S14、S17)と、特定した不全機能の運転性能を運転性能要求のレベルに近づけるように運転者に情報を提供する運転性能支援処理(S12、S15、S18、S22、S25、S28)と、を実行し、運転機能代替処理及び/又は運転性能支援処理を実行することにより、運転者及び車両1に運転性能要求を発揮させる。
【0101】
このように構成された本実施形態では、所定時間以内にリスクが生じる可能性がある場合において、運転者の運転能力の一部又はすべてが低い場合、低い運転能力を発揮する運転機能を車両1が代替する。これにより本実施形態では、ヒューマン・マシンシステムにおける運転者と車両1の機能配分が自動的に行われ、運転性能要求が補償される。このように、本実施形態では、仮に運転者の運転能力が低くても、不足する運転性能についての運転機能が車両1によって代替される。このため、本実施形態では、車両走行の安全性が確保されると共に、運転者は運転を諦めることなく運転寿命を延ばすことができる。また、本実施形態では、所定時間以内にリスクが生じる可能性がない場合、不全機能と特定された運転性能の低い運転機能について、運転性能支援処理による訓練が行われる。これにより本実施形態では、車両1の安全な走行を確保しつつ、安全性に問題がない場合には運転性能支援処理により運転者は不全機能について運転能力を維持又は向上させることができる。
【0102】
また、本実施形態において好ましくは、運転性能支援処理は、不全機能に対して運転者が操作すべき車両操作を運転者に報知する処理である。このように構成された本実施形態では、運転者は、不全機能について実行すべき車両操作を学習することにより、運転機能を維持又は向上させることができる。
【0103】
また、本実施形態において好ましくは、運転者の複数の運転機能は、少なくとも交通環境及び走行環境を知覚する知覚機能、交通環境及び走行環境において操作すべき車両操作を判断する判断機能、及び交通環境及び走行環境において操作すべき車両操作を実行する操作機能を含み、運転性能判定処理において、知覚機能、判断機能、及び操作機能についての各運転性能が、それぞれ運転性能要求を満たすか否かが判定される。このように構成された本実施形態では、運転性能判定処理により、複数の運転機能のそれぞれについて、運転者が所定の運転性能を有するか否かが判定される。これにより、本実施形態では、低い運転性能を有する不全機能を特定することができる。
【0104】
また、本実施形態において好ましくは、運転性能支援処理において、運転者の複数の運転機能に応じて異なる態様の情報が提供される。このように構成された本実施形態では、不全機能の種類に応じて、適切な支援情報を提供することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 車両
10 コントローラ
20 車載装置
40 制御装置
50 情報報知装置
100 車両制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8