(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178813
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】車両運転支援システム及び車両運転支援方法
(51)【国際特許分類】
B60W 50/14 20200101AFI20221125BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20221125BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20221125BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B60W50/14
B60W60/00
G08G1/00 D
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085879
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】桑原 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】星野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】田中 宙夫
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA11
3D241BA57
3D241CE04
3D241CE06
3D241DA13Z
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3D241DB02Z
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3D241DB15Z
3D241DB16Z
3D241DD05Z
5H181AA01
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5H181FF22
5H181FF27
5H181FF33
5H181LL01
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】運転者の運転能力の維持及び向上を図ることが可能な車両運転支援システムを提供する。
【解決手段】車両運転支援システム100は、車両を運転するために運転者が備える複数の運転関連機能の各々について、運転者の運転操作に基づき当該運転者の能力を評価する。また、車両運転支援システム100は、過去の運転者の能力の評価結果に基づき、運転関連機能の各々について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないか否かを判定する。車両運転支援システム100は、運転関連機能の少なくとも一部について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないと判定した場合に、当該能力を運転者が発揮しなくても運転を行えるように、当該運転関連機能を車両1に代行させる代行制御を実行する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を運転するために運転者が備える複数の運転関連機能の各々について、前記運転者の運転操作に基づき当該運転者の能力を評価する能力評価手段と、
過去の前記運転者の能力の評価結果に基づき、前記運転関連機能の各々について前記運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないか否かを判定する判定手段と、
前記運転関連機能の少なくとも一部について前記運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないと前記判定手段が判定した場合に、当該能力を前記運転者が発揮しなくても運転を行えるように、当該運転関連機能を前記車両に代行させる代行制御を実行する車両制御手段と、
を備える車両運転支援システム。
【請求項2】
前記運転関連機能は、交通環境を知覚する知覚機能と、前記交通環境において必要な運転操作を判断する判断機能と、前記運転操作を行う操作機能と、を含む、請求項1に記載の車両運転支援システム。
【請求項3】
前記能力評価手段は、走行開始から終了までの1回の走行毎に前記運転者の能力を評価し、
前記判定手段は、複数回の走行における前記運転者の能力の評価結果に基づき前記判定を行う、
請求項1又は2に記載の車両運転支援システム。
【請求項4】
前記車両制御手段は、前記車両の交通環境を検出し、検出された前記交通環境に応じて、目標走行経路を設定し、前記目標走行経路を走行するための前記車両の制御目標値を設定し、
前記能力評価手段は、前記制御目標値と、前記運転者の運転操作に応じた前記車両の制御値との乖離に基づき、前記運転者の能力を評価する、
請求項1から3の何れか一項に記載の車両運転支援システム。
【請求項5】
前記能力評価手段は、前記交通環境に基づき、前記複数の運転関連機能の中で前記運転者に要求される能力が相対的に高い運転関連機能を特定し、前記制御目標値と前記運転操作に応じた前記車両の制御値との乖離に基づく前記運転者の能力の評価を、前記特定した運転関連機能についての評価とする、請求項4に記載の車両運転支援システム。
【請求項6】
車両を運転するために運転者が備える複数の運転関連機能の各々について、前記運転者の運転操作に基づき当該運転者の能力を評価する能力評価ステップと、
過去の前記運転者の能力の評価結果に基づき、前記運転関連機能の各々について前記運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないか否かを判定する判定ステップと、
前記運転関連機能の少なくとも一部について前記運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないと前記判定ステップで判定した場合に、当該能力を前記運転者が発揮しなくても運転を行えるように、当該運転関連機能を前記車両に代行させる代行制御を実行する車両制御ステップと、
を有する車両運転支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運転支援システム及び車両運転支援方法に係り、特に運転支援のための車両運転支援システム及び車両運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動運転(又は、自律運転)により走行可能な車両が開発されており、そのような自動運転技術では、ある条件下において車両が主体的に車両操作を行って走行する(SAE自動運転レベル3以上)。すなわち、運転者は、アクセル、ブレーキ、ステアリングホイール等の車両操作を行う必要がなく、運転者は車両操作から解放される。
【0003】
一方、上記のような自動運転技術に対する運転者の依存や過信を抑制するため、車両が演算した目標経路(障害物を回避するために望ましい経路)及び将来経路(運転者が走行しようとしている経路)に基づいて、運転者の回避操作の適否及び回避操作量の適否を判定し、回避操作が適切で且つ回避操作量が不適切と判定された場合には走行支援が実行される一方、回避操作が不適切と判定された場合、警報が発せられる技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、障害物が検出されたときの運転者の回避操作や回避操作量に応じて走行支援や警報を行うものに過ぎず、運転者の現在の運転能力やそれまでの運転能力の推移を考慮していなかった。したがって、運転者の運転能力の維持や向上を図る上で適切な運転支援を行うことができなかった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、運転者の運転能力の維持及び向上を図ることが可能な車両運転支援システム及び車両運転支援方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明による車両運転支援システムは、車両を運転するために運転者が備える複数の運転関連機能の各々について、運転者の運転操作に基づき当該運転者の能力を評価する能力評価手段と、過去の運転者の能力の評価結果に基づき、運転関連機能の各々について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないか否かを判定する判定手段と、運転関連機能の少なくとも一部について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないと判定手段が判定した場合に、当該能力を運転者が発揮しなくても運転を行えるように、当該運転関連機能を車両に代行させる代行制御を実行する車両制御手段と、を備える。
【0008】
このように構成された本発明によれば、運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないと判定された運転関連機能については、その機能を用いた運転性能の発揮を車両が代行する。これにより、運転者の運転能力が低い機能は車両が代替し、走行に必要な性能を発揮することで車両の安全な走行を成立させつつ、運転能力が十分な機能は車両が代替することなく運転者自身に運転性能を発揮させることができる。したがって、自動運転により安全な走行を確保しつつ、運転を通じて運転者の運転能力の維持及び向上を図ることができる。
【0009】
また、本発明において好ましくは、運転関連機能は、交通環境を知覚する知覚機能と、交通環境において必要な運転操作を判断する判断機能と、運転操作を行う操作機能と、を含む。
このように構成された本発明によれば、運転操作のプロセスに合わせて運転関連機能を分類しているので、運転者の能力を適切に評価することができる。したがって、代行制御の対象とすべき運転関連機能を適切に選択することができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、能力評価手段は、走行開始から終了までの1回の走行毎に運転者の能力を評価し、判定手段は、複数回の走行における運転者の能力の評価結果に基づき判定を行う。
このように構成された本発明によれば、一過性の体調変化などに起因する一時的な運転者の能力変動の影響を抑制し、運転者が本来有している運転能力を適切に評価することができる。したがって、代行制御の対象とすべき運転関連機能を適切に選択することができる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、車両制御手段は、車両の交通環境を検出し、検出された交通環境に応じて、目標走行経路を設定し、目標走行経路を走行するための車両の制御目標値を設定し、能力評価手段は、制御目標値と、運転者の運転操作に応じた車両の制御値との乖離に基づき、運転者の能力を評価する。
このように構成された本発明によれば、交通環境に合わせて設定された制御目標値を基準として運転者の能力を評価することができ、交通環境を考慮した適切な運転能力評価を行うことができる。したがって、代行制御の対象とすべき運転関連機能を適切に選択することができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、能力評価手段は、交通環境に基づき、複数の運転関連機能の中で運転者に要求される能力が相対的に高い運転関連機能を特定し、制御目標値と運転操作に応じた車両の制御値との乖離に基づく運転者の能力の評価を、特定した運転関連機能についての評価とする。
このように構成された本発明によれば、複数の運転関連機能は互いに影響を及ぼす(例えば知覚の誤りが判断の誤りを生む)ので、交通環境において要求される能力が相対的に高い(つまり能力不足に陥りやすい)運転関連機能を特定することにより、その交通環境において運転者の運転操作に影響を及ぼしやすい運転関連機能について適切な運転能力評価を行うことができる。したがって、代行制御の対象とすべき運転関連機能を適切に選択することができる。
【0013】
また、本発明の別の側面による車両運転支援方法は、車両を運転するために運転者が備える複数の運転関連機能の各々について、運転者の運転操作に基づき当該運転者の能力を評価する能力評価ステップと、過去の運転者の能力の評価結果に基づき、運転関連機能の各々について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないか否かを判定する判定ステップと、運転関連機能の少なくとも一部について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないと判定ステップで判定した場合に、当該能力を運転者が発揮しなくても運転を行えるように、当該運転関連機能を車両に代行させる代行制御を実行する車両制御ステップと、を有する。
このように構成された本発明によっても、運転者の運転能力の維持及び向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両運転支援システム及び車両運転支援方法によれば、運転者の運転能力の維持及び向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態による車両運転支援システムの構成図である。
【
図2】本発明の実施形態による車両運転支援システムが実行する運転支援制御処理のフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態による車両運転支援システムにおける目標走行経路の説明図である。
【
図4A】本発明の実施形態による車両運転支援システムにおける知覚機能の代行制御の説明図である。
【
図4B】本発明の実施形態による車両運転支援システムにおける判断機能の代行制御の説明図である。
【
図4C】本発明の実施形態による車両運転支援システムにおける判断機能の代行制御の説明図である。
【
図5】本発明の実施形態による車両運転支援システムが実行する運転能力判定処理のフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態による車両運転支援システムにおける運転能力評価の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両運転支援システム及び車両運転支援方法について説明する。まず、
図1を参照して、本実施形態による車両運転支援システムの構成について説明する。
図1は、車両運転支援システムの構成図である。
【0017】
図1に示すように、車両運転支援システム100は、主に、車両1に搭載されたECU(Electronic Control Unit)10、車載装置20及び制御装置40と、無線ネットワークを介して車載装置20の通信装置31と通信可能に接続されたサーバ50とを備えている。
【0018】
車載装置20には、車載カメラ21、レーダ22、車両1の挙動を検出する複数のセンサ(車速センサ23、加速度センサ24、ヨーレートセンサ25)及び運転者の操作を検出する複数のセンサ(操舵角センサ26、アクセルセンサ27、ブレーキセンサ28)、測位システム29、ナビゲーションシステム30、通信装置31が含まれる。
【0019】
また、制御装置40には、エンジン制御装置41、ブレーキ制御装置42、ステアリング制御装置43、ヘッドライト制御装置44、スピーカ制御装置45、ヘッドアップディスプレイ(HUD)制御装置46が含まれる。
【0020】
ECU10は、プロセッサ11、プロセッサ11が実行する各種プログラムを記憶するメモリ12、入出力装置等を備えたコンピュータ装置である。ECU10は、車載装置20から受け取った信号に基づき、車両制御(代行制御及び支援制御)を行うための制御信号を制御装置40へ出力するように構成されている。本実施形態において、ECU10は、能力評価手段、判定手段及び車両制御手段として機能する。
【0021】
車載カメラ21は、車両1の周囲(典型的には車両1の前方)を撮影し画像データを出力する車外カメラや、車両1の運転者を撮像し画像データを出力する車内カメラを含む。ECU10は、これらの画像データに基づいて、運転者の顔の表情及び上半身の姿勢を判別したり、車外の対象物を特定したりする。対象物は、周囲の移動体(車両、歩行者等)、移動しない構造物(障害物、駐車車両、走行路、区画線、停止線、交通信号、交通標識、交差点等)を含む。
【0022】
レーダ22は、車両1の周囲(典型的には車両1の前方)に存在する対象物の位置及び速度を測定する。例えば、レーダ22は、ミリ波レーダ、レーザレーダ(LIDAR)、超音波センサ等を用いることができる。
【0023】
車速センサ23は、車両1の速度(車速)を検出する。加速度センサ24は、車両1の加速度を検出する。ヨーレートセンサ25は、車両1に発生するヨーレートを検出する。操舵角センサ26は、車両1のステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出する。アクセルセンサ27は、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。ブレーキセンサ28は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。
【0024】
測位システム29は、GPS受信機及び/又はジャイロセンサを含み、車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する。ナビゲーションシステム30は、内部に地図情報を格納しており、ECU10に地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、目的地までの走行経路(走行レーン、交差点、交通信号等を含む)を計算することができる。通信装置31は、ワイヤレスネットワークを介して社外のサーバ50との通信を行い、ECU10から提供された運転者の運転能力の評価結果をサーバ50に送信し、運転支援制御に関する情報をサーバ50から受信してECU10へ提供する。また、通信装置31は、他車両との車車間通信や、車外の通信装置との路車間通信を行い、種々の運転情報や交通情報(交通渋滞情報、制限速度情報など)を受信して、ECU10へ提供する。
【0025】
エンジン制御装置41は、車両1のエンジン(内燃エンジン、電気モータ等)の駆動力を制御する。エンジン制御装置41は、内燃エンジンのスロットル弁や燃料噴射弁などのアクチュエータ、電気モータに電力を供給するバッテリ及びインバータ、アクセルペダルのアクチュエータなどを含む。ECU10は、エンジン制御装置41へ制御信号を送信することにより、車両1を加速又は減速させることができる。
【0026】
ブレーキ制御装置42は、車両1のブレーキ装置による制動力を制御する。ブレーキ制御装置42は、例えば液圧ポンプやバルブユニットなどのブレーキアクチュエータ、ブレーキペダルのアクチュエータなどを含む。ECU10は、ブレーキ制御装置42へ制御信号を送信することにより、車両1を減速させることができる。
【0027】
ステアリング制御装置43は、車両1のステアリング装置を制御する。ステアリング制御装置43は、例えば電動パワーステアリングシステムの電動モータなどを含む。ECU10は、ステアリング制御装置43へ制御信号を送信することにより、車両1の進行方向を変更することができる。
【0028】
ヘッドライト制御装置44は、配光可変型ヘッドライトの配光を制御する。スピーカ制御装置45は、例えばスピーカを制御して、聴覚情報を運転者に提供することができる。ヘッドアップディスプレイ制御装置46は、例えばAR-HUDを制御して、視覚情報を運転者に提供することができる。
【0029】
サーバ50は、プロセッサ51、車両1から受信した運転者の運転能力の評価結果を蓄積する評価結果データベース(DB)52、プロセッサ51が実行する各種プログラムを記憶するメモリ、入出力装置等を備えたコンピュータ装置である。サーバ50は、評価結果DB52に蓄積した運転者の運転能力の過去の評価結果を分析し、その分析結果に基づいて運転支援制御に関する情報を車両1に送信する。本実施形態において、サーバ50は、判定手段として機能する。
【0030】
次に、本実施形態の車両運転支援システム100の運転支援制御処理について説明する。本実施形態の運転支援制御において、車両運転支援システム100は、車両1を運転するために運転者が備える複数の運転関連機能の各々について、運転者の運転操作に基づき当該運転者の能力を評価する。そして、運転者の過去の評価結果に基づき、運転関連機能を車両1に代行させる代行制御を実行し、あるいは、運転関連機能を支援する支援制御を実行する。
【0031】
運転関連機能とは、車両を運転するために運転者が備える複数の機能である。具体的には、運転者は、運転関連機能として、少なくとも知覚機能、判断機能、及び操作機能(又は、身体機能)を備え、これらの運転関連機能を用いて、知覚性能、判断性能、及び運動性能を発揮する。運転者は、知覚機能を用いて交通環境を知覚し(知覚性能)、知覚した交通環境において判断機能を用いて実行すべき運転操作を選択し(判断性能)、選択した運転操作を適切な操作量及びタイミングで操作機能を用いて実行する(運動性能)。一方、車両は、走行機能として、少なくとも走る機能、止まる機能、及び曲がる機能を備え、これらの走行機能を用いて、走行性能、制動性能、及び操縦安定性能を発揮する。
【0032】
このように、運転者が知覚性能、判断性能、及び運動性能を発揮して車両を操作し、これにより、車両が走行性能、制動性能、及び操縦安定性能を発揮することにより、ヒューマン・マシンシステムとしての車両は、安全な走行を実現することができる。従来、車両の3つ性能が効率よく発揮されるように、車両には、運転者の機能と車両の機能との間を介在するインターフェースが設けられており、これにより、総合的な車両性能(例えば、制動能力、燃費等)がより向上されている。
【0033】
自動運転時には、車両が運転者の知覚機能、判断機能、操作機能のすべて又はほとんどを代替する。例えば、知覚機能は、車載カメラや加速度センサが代替する。判断機能は、車両のコンピュータが代替する。身体機能は、車載アクチュエータが代替する。運転者は、エンジン始動等の最低限度の指示を行うだけの身体機能さえあればよく、ほとんどの運転関連機能及び運転能力(運転性能)を備えていなくてもよい。
【0034】
運転能力の低い運転者(例えば、初心者、高齢者)は、運転関連機能(知覚、判断、操作)に関する能力(知覚性能、判断性能、運動性能)のうち、少なくともいずれかが低いレベルにある。また、平均的な運転能力を有する運転者(通常運転者)も、運転時の体調や精神状態等により、いずれか又はすべての運転性能が低いレベルにあり得る。
【0035】
本実施形態の車両運転支援システム100は、運転関連機能の少なくとも一部について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しない(即ち不可逆的な能力不足が生じている)と判定した場合に、その能力を運転者が発揮しなくても運転を行えるように、能力不足の運転関連機能を車両1に代行させる代行制御を実行する。この場合、車両1の車載装置20、ECU10、制御装置40が、能力不足の運転関連機能を代替し、走行に必要な性能を発揮する。
【0036】
また、本実施形態の車両運転支援システム100は、運転関連機能の少なくとも一部について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上可能である(即ち可逆的な能力不足が生じている)、又は、運転者の能力が所定の基準以上であり且つ低下傾向にある、と判定した場合に、運転者によるその能力の発揮を車両1に支援させる支援制御を実行する。この場合、車両1の車載装置20、ECU10、制御装置40が、能力不足の運転関連機能に関する種々の支援制御を行うことにより、運転者の能力不足を補ったり、運転者の能力向上を促したりする。
【0037】
以下、
図2~
図4を参照して、本実施形態の車両運転支援システム100の運転支援制御処理について説明する。
図2は本実施形態の運転支援制御処理のフローチャート、
図3は本実施形態の車両運転支援システム100における目標走行経路の説明図、
図4A~Cは本実施形態による車両運転支援システムにおける代行制御の説明図である。
【0038】
ECU10は、例えば車両1のイグニッションスイッチがONにされると、
図2に示す運転支援制御処理を開始する。
【0039】
運転支援制御処理が開始されると、ECU10は、まず、運転関連機能の中で代行制御の対象となる代行対象機能と、支援制御の対象となる支援対象機能とを、通信装置38を介してサーバ50から取得する(ステップS101)。サーバ50は、後述する運転能力判定処理において、運転者の運転能力の過去の評価結果に基づき代行対象機能及び支援対象機能を予め設定しており、車両1の通信装置38からのリクエストに応じて、その時点での代行対象機能及び支援対象機能を通信装置38へ送信する。
【0040】
次に、ECU10は、車内通信回線を介して、車載装置20から各種情報を取得する(ステップS102)。例えばECU10は、測位システム29及びナビゲーションシステム30から、現在車両位置情報及び地図情報を取得し、車載カメラ21、レーダ22、車速センサ23、加速度センサ24、ヨーレートセンサ25、アクセルセンサ27、ブレーキセンサ28等からセンサ情報を取得する。
【0041】
次に、ECU10は、ステップS102で取得した情報に基づき、交通環境を検出する(ステップS103)。例えばECU10は、現在車両位置情報及び地図情報並びにセンサ情報から、車両1の周囲及び前方エリアにおける走行路形状に関する走行路情報(直線区間及びカーブ区間の有無、各区間長さ、カーブ区間の曲率半径、車線幅、車線両端部位置、車線数、交差点の有無、カーブ曲率で規定される制限速度等)、走行規制情報(制限速度、赤信号等)、先行車軌跡情報(先行車の位置及び速度)を検出する。また、車載カメラ21やレーダ22からの入力情報に基づいて、車両1の周囲の対象物(車両、歩行者、境界線、停止線、交通標識等)の位置及び速度等を検出する。この交通環境の検出処理により、運転関連機能における知覚機能を代替することが可能である。
【0042】
次に、ECU10は、ステップS102で取得した情報及びステップS103で検出したに基づき、目標走行経路を設定する(ステップS104)。例えば、
図3に示すように、車両1が走行路(車線)7上を走行しており、走行中又は停車中の車両3とすれ違って、車両3を追い抜こうとしている状況において、ECU10は、目標走行経路の複数の候補Rcn(n=1,2,3)を設定する。走行経路の候補Rcnは、走行経路上の車両1の目標位置(Px_k)及び目標速度(Vx_k)により特定される(k=0,1,2,・・・,n)。この目標走行経路の設定処理により、運転関連機能における判断機能を代替することが可能である。
【0043】
一般に、車両1の運転者は、道路上又は道路付近の障害物(例えば、先行車、駐車車両、歩行者等)と車両1との間の距離(横方向距離及び縦方向距離を含む)と相対速度との関係を考慮しながら、危険がないように車両1を運転している。
【0044】
そこで、本実施形態では、
図3に示すように、ECU10は、車両1から検知される障害物(例えば、駐車車両3)に対して、障害物の周囲に(横方向領域、後方領域、及び前方領域にわたって)又は少なくとも障害物と車両1との間に、車両1の進行方向における相対速度についての許容上限値を規定する2次元分布(速度分布領域60)を設定するように構成されている。速度分布領域60では、障害物の周囲の各点において、相対速度の許容上限値Vlimが設定されている。本実施形態では、すべての運転支援モードにおいて、障害物に対する車両1の相対速度が速度分布領域60内の許容上限値Vlimを超えることがないように走行経路の補正が実施される。
【0045】
図3から分かるように、速度分布領域60は、原則的に、障害物からの横方向距離及び縦方向距離が小さくなるほど(障害物に近づくほど)、相対速度の許容上限値が小さくなるように設定される。また、
図6では、理解の容易のため、同じ許容上限値を有する点を連結した等相対速度線が示されている。等相対速度線a,b,c,dは、それぞれ許容上限値Vlimが0km/h,20km/h,40km/h,60km/hに相当する。本例では、各等相対速度領域は、略矩形に設定されている。そして、これらの許容上限値を満足するように、目標走行経路の候補が設定される。
【0046】
なお、速度分布領域60は、必ずしも障害物の全周にわたって設定されなくてもよく、少なくとも障害物の後方、及び、車両1が存在する障害物の横方向の一方側(
図3では、車両3の右側領域)に設定されればよい。
【0047】
また、速度分布領域60は、種々のパラメータに基づいて設定することが可能である。パラメータとして、例えば、車両1と障害物の相対速度、障害物の種類、車両1の進行方向、障害物の移動方向及び移動速度、障害物の長さ、車両1の絶対速度等を考慮することができる。また、本実施形態において、障害物は、車両、歩行者、自転車、崖、溝、穴、落下物等を含む。更に、車両は、自動車、トラック、自動二輪で区別可能である。歩行者は、大人、子供、集団で区別可能である。
【0048】
図3に示すように、車両1が走行路7上を走行しているとき、車両1のECU10は、車載カメラ21から画像データに基づいて障害物(車両3)を検出する。このとき、障害物の種類(この場合は、車両、歩行者)が特定される。
【0049】
また、ECU10は、レーダ22の測定データ及び車速センサ23の車速データに基づいて、車両1に対する障害物(車両3)の位置及び相対速度並びに絶対速度を算出する。なお、障害物の位置は、車両1の進行方向に沿ったx方向位置(縦方向距離)と、進行方向と直交する横方向に沿ったy方向位置(横方向距離)が含まれる。
【0050】
ECU10は、検知したすべての障害物(
図3の場合、車両3)について、それぞれ速度分布領域60を設定する。そして、ECU10は、車両1の速度が速度分布領域60の許容上限値Vlimを超えないように、目標走行経路の候補を設定する。
【0051】
即ち、仮に設定した目標走行経路を車両1が走行すると、ある目標位置において目標速度が速度分布領域60によって規定された許容上限値を超えてしまう場合には、目標位置を変更することなく目標速度を低下させるか(
図3の経路Rc1)、目標速度を変更することなく目標速度が許容上限値を超えないように迂回経路上に目標位置を変更するか(
図3の経路Rc3)、目標位置及び目標速度の両方が変更される(
図3の経路Rc2)。
【0052】
例えば、
図3は、計算負荷の低減のために、前方に存在する駐車車両3を考慮に入れずに仮に設定した目標走行経路Rが、走行路7の幅方向の中央位置(目標位置)を60km/h(目標速度)で走行する経路であった場合を示している。
【0053】
目標走行経路Rを走行すると、車両1は、速度分布領域60の等相対速度線d,c,c,dを順に横切ることになる。即ち、60km/hで走行する車両1が等相対速度線d(許容上限値Vlim=60km/h)の内側の領域に進入することになる。したがって、ECU10は、目標走行経路Rの各目標位置における目標速度を許容上限値Vlim以下に制限するように目標走行経路Rを補正して、目標走行経路の候補Rc1を生成する。即ち、目標走行経路の候補Rc1では、各目標位置において目標車速が許容上限値Vlim以下となるように、車両3に接近するに連れて目標速度が徐々に40km/h未満に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて目標速度が元の60km/hまで徐々に増加される。
【0054】
また、目標走行経路の候補Rc3は、目標走行経路Rの目標速度(60km/h)を変更せず、このため等相対速度線d(相対速度60km/hに相当)の外側を走行するように設定された経路である。ECU10は、目標走行経路Rの目標速度を維持するため、目標位置が等相対速度線d上又はその外側に位置するように目標位置を変更するように目標走行経路Rを補正して、目標走行経路の候補Rc3を設定する。したがって、目標走行経路の候補Rc3の目標速度は、目標走行経路Rの目標速度であった60km/hに維持される。
【0055】
また、目標走行経路の候補Rc2は、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度の両方が変更された経路である。目標走行経路の候補Rc2では、目標速度は、60km/hには維持されず、車両3に接近するに連れて徐々に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて元の60km/hまで徐々に増加される。
【0056】
ステップS104において目標走行経路の候補Rcnを設定した後、ECU10は、候補Rcnの中から、所定の評価関数及び所定の制約条件に基づいて最適な候補を選択して目標走行経路とし、車両1にその目標走行経路を走行させるための制御目標値を設定する(ステップS105)。制御目標値には、例えば、各目標位置における操舵角及び加減速度の目標値が含まれ、これらの目標値に基づき、ECU10は、車両1が目標走行経路上を走行するように、該当する制御装置40へ出力する指令信号を生成する。この制御目標値の設定処理により、運転関連機能における操作機能の少なくとも一部を代替することが可能である。
【0057】
次に、ECU10は、交通環境に基づき、運転関連機能の中で、ステップS105で制御目標値を設定した目標走行経路において負荷の高い運転関連機能(単数又は複数)を特定する(ステップS106)。例えば、目標走行経路上の障害物(知覚対象物)の数が所定値(例えば2)以上の場合や、夜間(日没後日の出前)の場合、雨や霧など悪天候の場合などに、ECU10は知覚機能の負荷が高いと特定する。また、目標走行経路を走行するために必要な操作の種類が多い場合(例えば、アクセルペダル又はブレーキペダル、ステアリングホイール、方向指示器の内の複数を操作する必要がある場合)や、車線変更又は右左折をする場合などに、ECU10は判断機能の負荷が高いと特定する。また、複雑又は正確な操作が求められる場合、例えば制御目標値の変化の振幅や変化速度が所定値以上の場合や、目標走行経路を走行するために必要な操作回数や操作速度が所定値以上の場合、目標走行経路における車線幅が所定値以下の場合、路面μが所定値以下の場合などに、ECU10は操作機能の負荷が高いと特定する。ECU10は、負荷が高いと特定した運転関連機能を、目標走行経路の位置と対応付けてメモリに記憶する。
【0058】
次に、ECU10は、ステップS101においてサーバ50から取得した代行対象機能について、ステップS105において設定した制御目標値に基づき、代行制御を実行する(ステップS107)。
【0059】
例えば、代行対象機能が知覚機能の場合、ECU10は、目標走行経路上の障害物(知覚対象物)をAR-HUDで強調表示するための制御指令を、ヘッドアップディスプレイ制御装置46に出力する。
図4Aの例では、目標走行経路上に存在する障害物(落石)をAR-HUD上で四角枠及び三角矢印により強調表示している。このように、走行経路上に存在する障害物を運転者が自ら抽出して知覚することができず、その回復も見込めない場合(つまり運転者の知覚性能が不可逆的に低い場合)には、運転者に代わりECU10が目標走行経路上に存在する障害物を自動的に抽出してAR-HUD上に強調表示することにより、障害物を運転者に知覚させることができる。つまり、知覚機能を用いた知覚性能の発揮を車両1が代行する。
【0060】
また、代行対象機能が判断機能の場合、ECU10は、目標走行経路を走行するときに実行すべき運転操作の順序及び内容をAR-HUDで表示するための制御指令を、ヘッドアップディスプレイ制御装置46に出力する。
図4B及び
図4Cの例では、目標走行経路上に存在する障害物(落石)を迂回する目標走行経路(点線)が設定されており、まずブレーキ操作を行って車両1を減速させ(
図4B)、次にステアリングホイールを右に回す操作を行って車両1の進行方向を右向きにする(
図4C)ように、AR-HUD上に指示が表示される(
図5B、C)。このように、走行経路上に存在する障害物を知覚しても、その障害物を回避するために実行すべき運転操作を運転者が選択できず、その回復も見込めない場合(つまり運転者の判断性能が不可逆的に低い場合)には、運転者に代わりECU10が目標走行経路を走行するときに実行すべき運転操作(つまり制御目標値を実現するために必要な運転操作)を自動的に選択してAR-HUD上に表示することにより、目標走行経路を走行するために必要な運転操作を運転者に提示することができる。つまり、判断機能を用いた判断性能の発揮を車両1が代行する。
【0061】
また、代行対象機能が操作機能の場合、ECU10は、ステップS105において設定した制御目標値に基づき、車両1が目標走行経路上を走行するように、該当する制御装置40へ指令信号を出力する。このように、走行経路上に存在する障害物を回避するために必要な運転操作を運転者が適切な操作量及びタイミングで実行できず、その回復も見込めない場合(つまり運転者の運動性能が不可逆的に低い場合)には、運転者に代わりECU10が目標走行経路の走行に必要な運転操作を自動的に制御装置40に実行させることができる。つまり、操作機能を用いた運動性能の発揮を車両1が代行する。
【0062】
次に、ECU10は、ステップS101においてサーバ50から取得した支援対象機能について、ステップS105において設定した制御目標値に基づき、支援制御を実行する(ステップS108)。
【0063】
例えば、支援対象機能が知覚機能の場合、ECU10は、目標走行経路上の障害物(知覚対象物)にヘッドライトを照射するための制御指令を、ヘッドライト制御装置44に出力する。このように、走行経路上に存在する障害物を運転者が自ら抽出して知覚することができないものの回復の可能性がある場合や、障害物の知覚はできるが徐々に困難になりつつある場合(つまり運転者の知覚性能が可逆的に低い場合又は知覚性能が十分だが低下傾向にある場合)には、目標走行経路上に存在する障害物をヘッドライトで照射することにより、運転者が障害物を知覚しやすくすることができる。つまり、知覚機能を用いた知覚性能の不足を車両1が補い、あるいは知覚性能の向上を車両1が促進する。
【0064】
また、支援対象機能が判断機能の場合、ECU10は、目標走行経路を走行するときに実行すべき運転操作の順序及び内容と、運転者による実際の運転操作の順序及び内容とを比較する。そして、相違点が存在した場合(つまり運転者による運転操作の誤りが存在した場合)に、ECU10は、運転操作の正しい順序及び内容を事後的にディスプレイに表示したりスピーカから音声出力したりするための制御指令を、ヘッドアップディスプレイ制御装置46やスピーカ制御装置45に出力する。このように、走行経路上に存在する障害物を知覚しても、その障害物を回避するために実行すべき運転操作を運転者が選択できないものの回復の可能性がある場合や、適切な運転操作の選択はできるが徐々に困難になりつつある場合(つまり運転者の判断性能が可逆的に低い場合又は判断性能が十分だが低下傾向にある場合)には、運転者の判断ミスを指摘し適切な運転操作を教示する情報をディスプレイやスピーカから出力することにより、運転操作の判断ミスが存在したことを運転者に自覚させたり、どのような判断が適切かを運転者に教えたりすることができる。つまり、判断機能を用いた判断性能の不足を車両1が補い、あるいは判断性能の向上を車両1が促進する。
【0065】
また、支援対象機能が操作機能の場合、ECU10は、パワーステアリングのアシストトルクを強くしたり、アクセルペダルやブレーキペダルのアシスト力を強くしたり、ステップS105において設定した制御目標値に近づくようにパワーステアリング、アクセルペダル及びブレーキペダルを付勢したりするように、該当する制御装置40へ指令信号を出力する。このように、走行経路上に存在する障害物を回避するために必要な運転操作を運転者が適切な操作量及びタイミングで実行できないものの回復の可能性がある場合や、適切な操作量及びタイミングで運転操作を行えるが徐々に困難になりつつある場合(つまり運転者の運動性能が可逆的に低い場合又は運動性能が十分だが低下傾向にある場合)には、ステアリングホイールやアクセル/ブレーキペダルの操作をアシストすることにより、最終的な操作量及びタイミングを適切にすると共に、適切な操作量及びタイミングを運転者に体感させることができる。つまり、操作機能を用いた運動性能の不足を車両1が補い、あるいは運動性能の向上を車両1が促進する。
【0066】
次に、ECU10は、ステップS105において設定した制御目標値と、運転者の運転操作に応じた車両1の制御値との乖離を取得する(ステップS109)。例えば、ECU10は、ステップS105において設定した各目標位置における操舵角及び加減速度の目標値からの、各目標位置(又は各目標位置に最も接近した位置)を車両1が通過したときに運転操作に応じて制御装置40に出力された操舵角及び加減速度の制御値の乖離を取得する。そして、ECU10は、各目標位置と取得した乖離値とを対応付けてメモリに記憶する。
【0067】
次に、ECU10は、車両1の走行が終了したか否かを判定する(ステップS110)。例えば、ECU10は、車両1のイグニッションスイッチがOFFにされた場合に、車両1の走行が終了したと判定する。ステップS110において、走行がまだ終了していないと判定した場合(ステップS110:No)、ECU10はステップS102に戻る。その後、走行が終了したと判定されるまで、ステップS102からS109の処理を繰り返す。
【0068】
ステップS110において、車両1の走行が終了したと判定した場合(ステップS110:Yes)、ECU10は、走行中にステップS109の処理により取得した制御目標値と運転操作に応じた制御値との乖離に基づき、今回の走行における運転者の運転能力を評価する(ステップS111)。
【0069】
例えば、ECU10は、ステップS106の処理において各運転関連機能の負荷が高いと特定された評価区間を抽出する。そして、抽出した評価区間における制御目標値と運転操作に応じた制御値との乖離の平均値(例えば評価区間における単位時間当たり又は単位長さ辺りの乖離量)が大きいほど、その区間において高負荷と特定された運転関連機能の運転能力が低いと評価する。例えば、ECU10は、知覚機能の負荷が高いと特定された評価区間における制御目標値と運転操作に応じた制御値との乖離の平均値に基づき、知覚性能のスコアを算出することにより、運転者の知覚性能を評価する。運転能力のスコアは、例えば運転能力が高いほど大きくなる数値により表すことができる。ECU10は、今回の走行における全ての評価区間について、その評価区間において高負荷と特定された運転関連機能の運転能力のスコアを算出した後、各運転関連機能の運転能力のスコアの平均値を、今回の走行における各運転関連機能の運転能力の評価結果として取得する。
【0070】
次に、ECU10は、ステップS111において取得した運転能力の評価結果に識別用のID及び評価日時を関連付けて、通信装置31によりサーバ50に送信し(ステップS112)、運転支援制御処理を終了する。
【0071】
次に、
図5及び
図6を参照して、本実施形態の車両運転支援システム100の運転能力判定処理について説明する。
図5は本実施形態の運転能力判定処理のフローチャート、
図6は本実施形態における運転能力評価の説明図である。
【0072】
サーバ50は、例えば車両1から運転能力の評価結果を受信すると、
図5に示す運転能力判定処理を開始する。運転能力判定処理は、各運転関連機能のそれぞれについて実行される。
【0073】
運転能力判定処理が開始されると、サーバ50は、車両1から受信した評価結果を取得し、評価結果データベース52のデータを更新する(ステップS201)。
図6に示すように、評価結果データベース52には、運転関連機能毎に過去の評価結果(運転能力のスコア)が格納されている。サーバ50は、車両1から新たに評価結果を取得すると、各運転関連機能の評価結果を評価結果データベース52に追加する。
【0074】
次に、サーバ50は、更新した評価結果データベース52に格納されている運転能力の過去の評価結果を分析する(ステップS202)。例えば、サーバ50は、各運転関連機能について、直近の所定期間(例えば1年)における運転能力スコアの平均値、分散及び変化率(スコアを時間の一次関数で表した場合の傾き)を算出する。なお、評価結果データベース52に格納されている運転能力の評価結果の期間が1年に満たない場合や、評価結果のデータ数が所定数(例えば24)未満の場合には、運転者が初心者であると推定し、無条件で各運転関連機能を支援対象機能に設定してもよい。
【0075】
次に、サーバ50は、ステップS202における評価結果の分析に基づき、各運転関連機能について運転者の能力が所定の基準を下回っている(つまり能力が不十分である)か否かを判定する(ステップS203)。例えば、サーバ50は、直近の所定期間(例えば1年)における運転能力スコアの平均値が所定値(例えば80)未満の場合に、その運転関連機能の能力が不十分であると判定する。
【0076】
各運転関連機能について運転者の能力が不十分であると判定した場合(ステップS203:Yes)、サーバ50は、その運転関連機能についての運転者の能力が今後向上しない(つまり向上不可能である)か否かを判定する(ステップS204)。例えば、サーバ50は、直近の所定期間(例えば1年)における運転能力スコアの分散が所定値未満の場合に、その運転関連機能の能力が向上不可能であると判定する。運転能力の高いときと低いときの差が大きい(即ち分散が大きい)場合は、運転者の運転能力に向上の余地があると考えられるが、能力向上の見込みがない場合には運転能力が常に一定程度低い(即ち分散が小さい)と考えられるからである。
【0077】
各運転関連機能について運転者の能力が向上不可能であると判定した場合(ステップS204:Yes)、サーバ50は、その運転関連機能を代行対象機能に設定する(ステップS205)。ここで代行対象機能に設定された運転関連機能については、その後の運転支援制御において、代行制御が実行される。
【0078】
一方、ステップS203において、各運転関連機能について運転者の能力が不十分ではない(つまり十分である)と判定した場合(ステップS203:No)、サーバ50は、その運転関連機能についての運転者の能力が低下傾向にあるか否かを判定する(ステップS206)。例えば、サーバ50は、直近の所定期間(例えば1年)における運転能力スコアの変化率が負の場合に、その運転関連機能の能力が低下傾向にあると判定する。
【0079】
各運転関連機能について運転者の能力が低下傾向にあると判定した場合(ステップS206:Yes)、サーバ50は、その運転関連機能を支援対象機能に設定する(ステップS207)。また、ステップS204において、能力が不十分な運転関連機能について運転者の能力が向上可能であると判定した場合にも(ステップS204:No)、サーバ50は、その運転関連機能を支援対象機能に設定する(ステップS207)。
【0080】
ステップS205又はS207の処理を実行した後、サーバ50は運転能力判定処理を終了する。また、ステップS206において各運転関連機能について運転者の能力が低下傾向にはないと判定した場合(ステップS206:No)、その運転関連機能についての運転者能力は十分であり低下傾向にもないことから、代行対象機能及び支援対象機能の何れにも設定することなくサーバ50は運転能力判定処理を終了する。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の具体的な構成及び手段は、特許請求の範囲に記載した各発明の技術的思想の範囲内において、任意に改変及び改良することができる。以下、このような変形例について説明する。
【0082】
まず、発明が解決しようとする課題や発明の効果は、前記した内容に限定されるものではなく、本発明によって、前記に記載されていない課題を解決したり、前記に記載されていない効果を奏することもでき、また、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【0083】
上述した実施形態では、運転支援制御処理を車両1のECU10が実行し、運転能力判定処理をサーバ50が実行する例を説明したが、各処理の一部又は全部を、ECU10又はサーバ50のどちらが実行してもよい。
【0084】
また、上述した代行制御及び支援制御は一例であり、各運転関連機能に応じて、その運転関連機能を代行する種々の代行制御や、その運転関連機能に関し運転者の能力の発揮を支援する種々の支援制御を採用することができる。
【0085】
最後に、本実施形態及び本実施形態の変形例による車両運転支援システム100の作用効果について説明する。
本実施形態の車両運転支援システム100は、車両を運転するために運転者が備える複数の運転関連機能の各々について、運転者の運転操作に基づき当該運転者の能力を評価する。また、車両運転支援システム100は、過去の運転者の能力の評価結果に基づき、運転関連機能の各々について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないか否かを判定する。車両運転支援システム100は、運転関連機能の少なくとも一部について運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないと判定した場合に、当該能力を運転者が発揮しなくても運転を行えるように、当該運転関連機能を車両に代行させる代行制御を実行する。
【0086】
このように、本実施形態では、運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上しないと判定された運転関連機能については、その機能を用いた運転性能の発揮を車両1が代行する。これにより、運転者の運転能力が低い機能は車両1が代替し、走行に必要な性能を発揮することで車両1の安全な走行を成立させつつ、運転能力が十分な機能は車両1が代替することなく運転者自身に運転性能を発揮させることができる。したがって、自動運転により安全な走行を確保しつつ、運転を通じて運転者の運転能力の維持及び向上を図ることができる。
【0087】
また、車両運転支援システム100は、過去の運転者の能力の評価結果に基づき、運転関連機能の各々について、運転者の能力が低下傾向にあるか否かも判定する。車両運転支援システム100は、運転関連機能の少なくとも一部について、運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上可能である、又は、運転者の能力が所定の基準以上であり且つ低下傾向にあると判定した場合に、運転者による当該能力の発揮を車両1に支援させる支援制御を実行する。
【0088】
このように、本実施形態では、運転者の能力が所定の基準を下回っており且つ今後向上可能である、又は、運転者の能力が所定の基準以上であり且つ低下傾向にあると判定された運転関連機能については、車両1がその運転関連機能に関する種々の支援制御を行う。これにより、運転者の能力に向上の余地がある運転関連機能については、単に車両1がその機能を代替するのではなく、積極的に運転者自身に運転性能を発揮させながら、車両1が運転者の能力不足を補ったり、運転者の能力向上を促したりすることができる。したがって、運転を通じて運転者の運転能力の維持及び向上を図ることができる。
【0089】
また、本実施形態では、運転関連機能は、交通環境を知覚する知覚機能と、交通環境において必要な運転操作を判断する判断機能と、運転操作を行う操作機能とを含む。このように、運転操作のプロセスに合わせて運転関連機能を分類しているので、運転者の能力を適切に評価することができる。したがって、代行制御や支援制御の対象とすべき運転関連機能を適切に選択することができる。
【0090】
また、本実施形態では、車両運転支援システム100は、走行開始から終了までの1回の走行毎に運転者の能力を評価し、複数回の走行における運転者の能力の評価結果に基づき運転能力の判定を行う。これにより、一過性の体調変化などに起因する一時的な運転者の能力変動の影響を抑制し、運転者が本来有している運転能力を適切に評価することができる。したがって、代行制御や支援制御の対象とすべき運転関連機能を適切に選択することができる。
【0091】
また、本実施形態では、車両運転支援システム100は、車両1の交通環境を検出し、検出された交通環境に応じて、目標走行経路を設定し、目標走行経路を走行するための車両の制御目標値を設定する。そして、車両運転支援システム100は、制御目標値と、運転者の運転操作に応じた車両の制御値との乖離に基づき、運転者の能力を評価する。これにより、交通環境に合わせて設定された制御目標値を基準として運転者の能力を評価することができ、交通環境を考慮した適切な運転能力評価を行うことができる。したがって、代行制御や支援制御の対象とすべき運転関連機能を適切に選択することができる。
【0092】
また、本実施形態では、車両運転支援システム100は、交通環境に基づき、複数の運転関連機能の中で運転者に要求される能力が相対的に高い運転関連機能を特定し、制御目標値と運転操作に応じた車両1の制御値との乖離に基づく運転者の能力の評価を、特定した運転関連機能についての評価とする。複数の運転関連機能は互いに影響を及ぼす(例えば知覚の誤りが判断の誤りを生む)ので、交通環境において要求される能力が相対的に高い(つまり能力不足に陥りやすい)運転関連機能を特定することにより、その交通環境において運転者の運転操作に影響を及ぼしやすい運転関連機能について適切な運転能力評価を行うことができる。したがって、代行制御や支援制御の対象とすべき運転関連機能を適切に選択することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 車両
10 ECU
20 車載装置
21 車載カメラ
22 レーダ
23 車速センサ
24 加速度センサ
25 ヨーレートセンサ
26 操舵角センサ
27 アクセルセンサ
28 ブレーキセンサ
29 測位システム
30 ナビゲーションシステム
31 通信装置
40 制御装置
41 エンジン制御装置
42 ブレーキ制御装置
43 ステアリング制御装置
44 ヘッドライト制御装置
45 スピーカ制御装置
46 ヘッドアップディスプレイ(HUD)制御装置
50 サーバ
51 プロセッサ
52 評価結果データベース
100 車両運転支援システム