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特開2022-178854異物捕捉デバイス、および、異物捕捉システム
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  • 特開-異物捕捉デバイス、および、異物捕捉システム 図1
  • 特開-異物捕捉デバイス、および、異物捕捉システム 図2
  • 特開-異物捕捉デバイス、および、異物捕捉システム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178854
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】異物捕捉デバイス、および、異物捕捉システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/22 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
A61B17/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085947
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浪間 聡志
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160EE21
4C160GG38
4C160MM36
(57)【要約】
【課題】樹脂膜がメッシュ部材の全体に形成された構成に比べて、メッシュ部材の基端側が変形しやすいため、メッシュ部材を収縮状態から円滑に拡張状態にさせる。
【解決手段】異物捕捉デバイスは、ワイヤと、メッシュ部材と、樹脂膜と、を備える。メッシュ部材は、径方向に自己拡張可能に形成されている筒状の部材であり、基端がワイヤの先端部に接合されている。樹脂膜は、メッシュ部材のうち、メッシュ部材の基端よりも第1の長さだけ先端側に位置する第1の位置から、第1の位置よりも先端側に位置する第2の位置まで、メッシュ部材の全周にわたって形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異物捕捉デバイスであって、
ワイヤと、
径方向に自己拡張可能に形成されている筒状のメッシュ部材であって、基端が前記ワイヤの先端部に接合されたメッシュ部材と、
前記メッシュ部材のうち、前記メッシュ部材の前記基端よりも第1の長さだけ先端側に位置する第1の位置から、前記第1の位置よりも先端側に位置する第2の位置まで、前記メッシュ部材の全周にわたって形成されている樹脂膜と、
を備える、異物捕捉デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の異物捕捉デバイスであって、
前記メッシュ部材の基端は閉塞している、異物捕捉デバイス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の異物捕捉デバイスであって、
前記第2の位置は、前記メッシュ部材の先端よりも基端側の位置である、異物捕捉デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の異物捕捉デバイスにおいて、
前記メッシュ部材が拡張した状態において、前記メッシュ部材のうち、前記先端から前記第2の位置までの部分の開口角度は、前記メッシュ部材のうち、前記第2の位置から第2の長さだけ基端側の部分の開口角度よりも小さい、異物捕捉デバイス。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の異物捕捉デバイスであって、
前記メッシュ部材が拡張した状態において、前記メッシュ部材のうち、前記樹脂膜が形成された部分の先端側の開口角度は、前記樹脂膜が形成された部分の基端側の開口角度よりも大きい、異物捕捉デバイス。
【請求項6】
中空状のシャフトと、
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の異物捕捉デバイスと、を備える異物捕捉システムであって、
前記メッシュ部材は、径方向に収縮した状態で前記シャフト内に収容可能とされ、前記シャフトより先端側の位置において自己拡張により径方向に拡張した状態となるよう構成されている、異物捕捉システム。
【請求項7】
請求項6に記載の異物捕捉システムであって、
前記メッシュ部材は、拡張した状態において、前記第1の位置と前記第2の位置との間の第3の位置における外径が、前記シャフトの先端の内径と略等しくなるよう構成されている、異物捕捉システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、血管等の体腔に発生した異物を捕捉するための異物捕捉デバイス、および、異物捕捉システムに関する。
【背景技術】
【0002】
血管等の体腔(例えば血管など)内に挿入して体腔内の異物(例えば血栓など)を捕捉するためのメッシュ部材を備える異物捕捉デバイスが知られている(下記特許文献1,2参照)。異物捕捉デバイスは、ワイヤと、ワイヤの先端に接合されたメッシュ部材と、を備える。メッシュ部材は、径方向に自己拡張可能に形成されている筒状の部材である。メッシュ部材の先端から基端の全体にわたって樹脂膜が形成されている。異物捕捉デバイスは、メッシュ部材が径方向に収縮した状態(以下、「収縮状態」という)で、例えば中空状のシャフト内に挿入されつつ、体腔内の異物が存在する病変部付近まで案内される。次に、メッシュ部材がシャフトの先端から突出することにより、メッシュ部材が自己拡張によって径方向に拡張した状態(以下、「拡張状態」という)となり、メッシュ部材の先端開口から異物がメッシュ部材内に捕捉される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/189354号
【特許文献2】特開2019-5143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の異物捕捉デバイスでは、樹脂膜がメッシュ部材の先端から基端の全体にわたって形成されている。このため、樹脂膜の存在によってメッシュ部材全体が変形しにくくなり、その結果、メッシュ部材が収縮状態から円滑に拡張状態にならず、メッシュ部材の拡張性が低下するおそれがある。
【0005】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本明細書に開示される異物捕捉デバイスは、異物捕捉デバイスであって、ワイヤと、径方向に自己拡張可能に形成されている筒状のメッシュ部材であって、基端が前記ワイヤの先端部に接合されたメッシュ部材と、前記メッシュ部材のうち、前記メッシュ部材の前記基端よりも第1の長さだけ先端側に位置する第1の位置から、前記第1の位置よりも先端側に位置する第2の位置まで、前記メッシュ部材の全周にわたって形成されている樹脂膜と、を備える。本異物捕捉デバイスでは、メッシュ部材のうち、メッシュ部材の基端から第1の長さだけ先端側に位置する第1の位置までの部分には、樹脂膜が形成されていない。このため、樹脂膜がメッシュ部材の全体に形成された構成に比べて、メッシュ部材の基端側が変形しやすいため、メッシュ部材を収縮状態から円滑に拡張状態にさせることができる。
【0008】
(2)上記異物捕捉デバイスにおいて、前記メッシュ部材の基端は閉塞している構成としてもよい。本異物捕捉デバイスでは、メッシュ部材の基端は閉塞している。このため、本異物捕捉デバイスを他の医療デバイスと併用する場合において、メッシュ部材の基端が他の医療デバイスに接触して破損することを抑制することができる。
【0009】
(3)上記異物捕捉デバイスにおいて、前記第2の位置は、前記メッシュ部材の先端よりも基端側の位置である構成としてもよい。本異物捕捉デバイスでは、メッシュ部材の先端側の部分には、樹脂膜が形成されていない。このため、樹脂膜がメッシュ部材の全体に形成された構成に比べて、メッシュ部材の基端側に加えて先端側も変形しやすいため、メッシュ部材を収縮状態からさらに円滑に拡張状態にさせることができる。
【0010】
(4)上記異物捕捉デバイスにおいて、前記メッシュ部材が拡張した状態において、前記メッシュ部材のうち、前記先端から前記第2の位置までの部分の開口角度は、前記メッシュ部材のうち、前記第2の位置から第2の長さだけ基端側の部分の開口角度よりも小さい構成としてもよい。本異物捕捉デバイスでは、メッシュ部材のうち、樹脂膜が形成されていない先端側を体腔壁に緩やかに接触させることによって体腔壁に与える損傷を抑制することができる。
【0011】
(5)上記異物捕捉デバイスにおいて、前記メッシュ部材が拡張した状態において、前記メッシュ部材のうち、前記樹脂膜が形成された部分の先端側の開口角度は、前記樹脂膜が形成された部分の基端側の開口角度よりも大きい構成としてもよい。本異物捕捉デバイスでは、体腔壁に接触するメッシュ部材の面積を小さくすることができ、この結果、体腔壁に与える損傷を抑制することができる。
【0012】
(6)上記異物捕捉システムにおいて、中空状のシャフトと、上記(1)から(5)までのいずれか一つの異物捕捉デバイスと、を備える異物捕捉システムであって、前記メッシュ部材は、径方向に収縮した状態で前記シャフト内に収容可能とされ、前記シャフトより先端側の位置において自己拡張により径方向に拡張した状態となるよう構成されている構成としてもよい。本異物捕捉システムによれば、異物捕捉デバイスのメッシュ部材をシャフトの先端から突出させた際、メッシュ部材を収縮状態から円滑に拡張状態にさせることができる。
【0013】
(7)上記異物捕捉システムにおいて、前記メッシュ部材は、拡張した状態において、前記第1の位置と前記第2の位置との間の第3の位置における外径が、前記シャフトの先端の内径と略等しくなるよう構成されている構成としてもよい。本異物捕捉システムによれば、シャフトの基端側からの吸引力で異物を吸引する際、メッシュ部材とシャフトとの密着性が向上するため、吸引力を無駄なく異物に付与することができる。
【0014】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、異物捕捉デバイス、その異物捕捉デバイスを備える異物捕捉システムやその使用方法や製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態における異物捕捉システム100の構成を概略的に示す説明図
図2】異物捕捉システム100の使用方法を示す説明図(1)
図3】異物捕捉システム100の使用方法を示す説明図(2)
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施形態:
A-1.異物捕捉システム100の全体構成:
図1は、本実施形態における異物捕捉システム100の構成を概略的に示す説明図である。図1では、異物捕捉システム100の内、後述の異物捕捉デバイス10については側面の概略構成が示されており、後述のカテーテルシャフト50については縦断面の概略構成が示されている。ここで、カテーテルシャフト50の縦断面とは、カテーテルシャフト50(異物捕捉システム100)の軸方向(長手方向 図1のZ軸方向)に平行な断面(図1のYZ断面)をいう。図1において、Z軸正方向側(後述のメッシュ部材20の側)が、体内に挿入される先端側(遠位側)であり、Z軸負方向側(メッシュ部材20とは反対側)が、医師等の手技者によって操作される基端側(近位側)である。なお、図1では、異物捕捉システム100が全体としてZ軸方向に平行な直線状となった状態を示しているが、異物捕捉システム100は湾曲させることができる程度の柔軟性を有している。
【0017】
本実施形態の異物捕捉システム100は、体腔(脳や心臓の血管等)内における病変部(閉塞部等)に発生した異物Mを捕捉するために、体腔内に挿入される医療用デバイスである。具体的には、異物捕捉システム100は、異物捕捉デバイス10と、カテーテルシャフト50とを備えている。
【0018】
図1に示すように、異物捕捉デバイス10は、ワイヤ12と、メッシュ部材20とを備えている。ワイヤ12は、線状の部材であり、例えばステンレス鋼等の金属により形成されている。なお、ワイヤ12は中実体である。なお、図1には、異物捕捉デバイス10の中心軸Oが破線で示されている。即ち、ワイヤ12の中心軸とメッシュ部材20の中心軸とは略一致している(換言すると、ワイヤ12とメッシュ部材20とは略同軸となるように配置されている)。
【0019】
メッシュ部材20は、径方向に自己拡張可能に形成されている筒状の部材(ステント)である。メッシュ部材20は、複数の素線を編組して筒状に形成された編組体である。なお、本明細書において「筒状(円筒状)」とは、完全な筒形状(円筒形状)に限らず、全体として略筒状(略円筒形状、例えば、若干、円錐形状や、一部に凹凸がある形状など)であってもよい。
【0020】
具体的には、メッシュ部材20は、複数本の第1の素線21と複数本の第2の素線23を有している。第1の素線21と第2の素線23は、異物捕捉デバイス10の中心軸Oの周りに螺旋状に巻回されている。第1の素線21と第2の素線23との巻回方向は互いに逆であり、かつ、互いに交差するように配置されている。このような構成により、メッシュ部材20は、径方向に拡張および収縮が可能に形成されている。即ち、メッシュ部材20は、径方向外側から径方向内側に向かって外力が付与されることにより、径方向に収縮した状態(後述の図3(E)参照 以下、「収縮状態」という)となり、その外力の付与が解除された自然状態において、径方向に拡張した状態(図1図2(C)および図3(D)参照 以下「拡張状態」という)となる。メッシュ部材20の形成材料としては、例えばステンレス鋼(SUS304)や、超弾性合金(例えば、Ni-Ti合金)、または、放射線不透過性を有する材料(例えば、タングステンやCo-Cr合金)等の金属または樹脂が用いられる。
【0021】
メッシュ部材20の先端は開口しており、メッシュ部材20の基端はまとめられてワイヤ12の先端に接合されている。換言すると、メッシュ部材20の基端は、その外径がメッシュ部材20の先端よりも縮小されるとともに、ワイヤ12の先端を囲むように配置されてワイヤ12に接合されている。本実施形態では、メッシュ部材20の基端とワイヤ12の先端とは溶接により接合されている。なお、そのメッシュ部材20とワイヤ12との溶接部分にコイル状の保護部材60が巻かれることによりメッシュ部材20の基端とワイヤ12の先端との接合部分が補強されている。即ち、保護部材60が巻かれているため、当該接合部分に応力が集中してキンクすることが抑制される。なお、メッシュ部材20の基端とワイヤ12の先端との接合には、溶接に限らず、他の接合方法(半田付けによる接合や接着剤による接合など)が用いられてもよい。また、保護部材60は、コイル状に限らず、チューブ状などでもよく、金属材料又は樹脂材料により形成され得る。
【0022】
このような構成により、メッシュ部材20の先端は、径方向に拡縮可能に開口しており、メッシュ部材20の基端は、まとめられてワイヤ12に接合されており、径方向に拡縮不能に閉塞している。上述したように、メッシュ部材20とワイヤ12とは略同軸となるように配置されている。したがって、図1において異物捕捉システム100よりも先端側(Z軸正方向側)から異物捕捉デバイス10を見た場合、メッシュ部材20が収縮状態から拡張状態に移行するとき、メッシュ部材20は、ワイヤ12を中心として放射状に、即ち、メッシュ部材20の径方向外側に向かって、開くことになる。なお、メッシュ部材20の詳細な構成については後述する。
【0023】
カテーテルシャフト50は、先端と基端とが開口した筒状(例えば円筒状)の中空体である。カテーテルシャフト50の内部には、カテーテルシャフト50の先端から基端まで延びるルーメン52が形成されている。ルーメン52には、例えば、後述のガイドワイヤ70(図2(A)参照)が挿入される。また、後述するように、カテーテルシャフト50は、カテーテルシャフト50の先端の開口から基端側に流れる気流F(図3(C)参照)によって異物Mを吸い込む吸引カテーテルとして機能する。なお、カテーテルシャフト50の形成材料としては、例えばポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエステルエラストマ等の樹脂や、ステンレス鋼(SUS304)や超弾性合金(例えば、Ni-Ti合金)等の金属が用いられる。
【0024】
A-2.メッシュ部材20の詳細構成:
図1に示すように、メッシュ部材20の拡張状態での形状は、先端に向かうにつれて外径が大きくなっている略円錐状である。具体的には、メッシュ部材20は、先端側部分22と、中間部分26と、基端側部分24と、を有している。
【0025】
メッシュ部材20の先端側部分22は、メッシュ部材の先端を含む筒状部分である。先端側部分22は、メッシュ部材20の先端に向かうにつれて外径が連続的に大きくなる略円錐状である。メッシュ部材20の拡張状態において、先端側部分22の外径の最小値D1(先端側部分22の基端の外径 例えば3mm以上、6mm以下)は、異物捕捉デバイス10が挿入される体腔(血管など)の内径と同等、または、該内径よりも大きい。先端側部分22には、後述する樹脂膜30が形成されておらず、第1の素線21および第2の素線23がメッシュ部材20の内周側および外周側に露出している。
【0026】
メッシュ部材20の基端側部分24は、メッシュ部材の基端を含む筒状部分である。基端側部分24は、メッシュ部材20の先端に向かうにつれて外径が連続的に大きくなる略円錐状である。なお、基端側部分24の開口角度θ2は、先端側部分22の開口角度θ1と略同一である。本明細書において、所定の部分の「開口角度」は、メッシュ部材20の中心軸Oがメッシュ部材20の基端側部分24から先端側部分22に向かって延びる方向(図1でZ軸正方向)に対する所定の部分の傾斜角度であるものとする。基端側部分24の外径の最大値D4(基端側部分24の先端の外径 例えば1mm以上、3mm以下)は、先端側部分22の外径の最小値D1よりも小さい。基端側部分24には、樹脂膜30が形成されておらず、第1の素線21および第2の素線23がメッシュ部材20の内周側および外周側に露出している。なお、基端側部分24の中心軸O方向の長さが、特許請求の範囲における第1の長さの一例である。
【0027】
メッシュ部材20の中間部分26は、先端側部分22と基端側部分24との間に位置し、先端側部分22と基端側部分24とをつなぐ筒状部分である。中間部分26には、薄厚で可撓性を有する樹脂膜30が中間部分26の全周にわたって形成されている。即ち、中間部分26では、第1の素線21と第2の素線23とによって形成されている編み目が樹脂膜30によって閉塞されている。樹脂膜30は、中間部分26の内周側と外周側との少なくとも一方を覆うように形成されている。樹脂膜30の形成材料としては、例えばポリエチレン、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマ、ポリアミド、ポリアミドエラストマ、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエステルエラストマ等の樹脂が用いられる。なお、中間部分26は、特許請求の範囲における樹脂膜が形成された部分の一例である。また、メッシュ部材20の中心軸O方向(図1でZ軸方向)において、先端側部分22と中間部分26との境界位置が特許請求の範囲における第2の位置の一例であり、中間部分26と基端側部分24との境界位置が特許請求の範囲における第1の位置の一例である。
【0028】
メッシュ部材20の拡張状態において、中間部分26の先端側の開口角度θ3は、中間部分26の基端側の開口角度θ4よりも大きい。具体的には、中間部分26は、第1の中間部分26Aと第2の中間部分26Bとを有している。第1の中間部分26Aは、中間部分26の先端を含む部分である。第2の中間部分26Bは、第1の中間部分26Aの基端側に位置し、中間部分26の基端を含む部分である。第1の中間部分26Aの開口角度θ3は、第2の中間部分26Bの開口角度θ4よりも大きい。なお、第1の中間部分26Aの開口角度θ3は、先端側部分22の開口角度θ1よりも大きく、また、基端側部分24の開口角度θ2よりも大きい。第2の中間部分26Bの開口角度θ4は、先端側部分22の開口角度θ1と略同一であり、また、基端側部分24の開口角度θ2と略同一である。
【0029】
メッシュ部材20の拡張状態において、中間部分26の先端と基端との間の位置における外径D5は、カテーテルシャフト50の先端の内径D6(例えば0.8mm以上、3mm以下)と略同一である。具体的には、中間部分26のうち、第2の中間部分26Bの先端と基端との間の位置における外径D5は、カテーテルシャフト50の先端の内径D6と略同一である。なお、外径D5の上記位置は、特許請求の範囲における第3の位置の一例である。
【0030】
なお、本実施形態では、中間部分26の中心軸O方向の長さ(例えば20mm以上、150mm以下)は、先端側部分22の中心軸O方向の長さよりも長く、また、基端側部分24の中心軸O方向の長さよりも長い。また、第1の中間部分26Aの中心軸O方向の長さは、第2の中間部分26Bの中心軸O方向の長さよりも短い。なお、第1の中間部分26Aの中心軸O方向の長さが、特許請求の範囲における第2の長さの一例である。
【0031】
メッシュ部材20の先端は開口しているのに対して、メッシュ部材20の基端は閉塞している。即ち、上述したように、メッシュ部材20の基端は、まとめられてワイヤ12の先端に接合されている。
【0032】
なお、本実施形態では、メッシュ部材20の先端および基端のそれぞれにX線不透過マーク40,42が設けられている。具体的には、メッシュ部材20の先端には、複数(例えば3つ以上)のX線不透過マーク40が、メッシュ部材20の中心軸Oの周りの周方向に等間隔に配置されている。メッシュ部材20の基端には、環状のX線不透過マーク42が、メッシュ部材20の基端部を囲むように配置されている。さらに、カテーテルシャフト50には、環状のX線不透過マーク54が設けられている。なお、X線不透過マーク40,42,54の形成材料としては、例えば、白金、金、タングステン、またはこれらの合金といった放射線不透過材料が用いられる。また、X線不透過マーク42を設ける代わりに、保護部材60を上記した放射線不透過材料で形成してもよい。
【0033】
A-3.異物捕捉システム100の使用例:
図2および図3は、異物捕捉システム100の使用方法を示す説明図である。なお、図2および図3では、便宜上、メッシュ部材20の各部分の寸法の大小関係は、図1とは異なる。
【0034】
異物捕捉システム100は、例えば脳梗塞等などの治療において、脳領域の血管Bを閉塞する異物Mを捕捉して除去するために用いられる。まずは、図2(A)に示すように、カテーテルシャフト50をガイドワイヤ70に沿って筒状のガイディングカテーテル80のルーメン82に挿入するとともに、ガイディングカテーテル80の先端から突出させて異物Mの存在する病変部付近まで運ぶ。次に、図2(B)に示すように、ガイドワイヤ70をカテーテルシャフト50から抜き去り、異物捕捉デバイス10をカテーテルシャフト50のルーメン52に挿入して、カテーテルシャフト50よりも病変部近くまで運ぶ。なお、カテーテルシャフト50の先端部は、ガイディングカテーテル80の先端から突出し、X線不透過マーク54がガイディングカテーテル80の外部に露出している。
【0035】
図2(C)に示すように、異物捕捉デバイス10のメッシュ部材20は、カテーテルシャフト50のルーメン52内で延在しているときはシャフト50の内周面から押圧されて収縮状態にあるが、カテーテルシャフト50の先端から突出すると、メッシュ部材20は、カテーテルシャフト50の内周面からの押圧が解除され、異物Mの手前の位置において収縮状態から拡張状態となり、メッシュ部材20の先端が大きく開口する。メッシュ部材20の先端側部分22および中間部分26の第1の中間部分26Aの外周は、血管Bの内壁に全周にわたって接触する。即ち、メッシュ部材20は、先端側部分22および中間部分26の第1の中間部分26Aの外周が大きく開口して血管Bの内壁に接触した状態で固定される。また、メッシュ部材20の中間部分26の第2の中間部分26Bの外周をカテーテルシャフト50の開口に全周にわたって接触した状態にする。なお、この接触した状態になったことは、例えば、異物捕捉デバイス10のX線不透過マーク42と、カテーテルシャフト50のX線不透過マーク54とが重なったことをX線によって確認することにより判断することができる。
【0036】
メッシュ部材20の中間部分26の外周がカテーテルシャフト50の開口に全周にわたって接触した状態で、例えば、カテーテルシャフト50の基端に吸引ポンプを取り付けて動作させることにより、カテーテルシャフト50に対してカテーテルシャフト50の基端に向かう吸引力(負圧)を付与する。これにより、メッシュ部材20の先端側から流れ込み、中間部分26を介して、基端側部分24の編み目からカテーテルシャフト50のルーメン52に流れ込む気流Fが発生する。
【0037】
また、気流Fの発生により、異物Mをメッシュ部材20内に吸引する力が生じ、図3(D)に示すように、異物Mがメッシュ部材20内に吸い込まれる。次に、図3(E)に示すように、カテーテルシャフト50から突出して異物Mを捕捉した状態のメッシュ部材20をカテーテルシャフト50と一緒にガイディングカテーテル80に引き込むことにより、メッシュ部材20は、異物Mを捕捉したまま拡張状態から収縮状態となりつつ、ガイディングカテーテル80のルーメン82内に回収される。なお、図3(D)及び図3(E)では、異物Mが吸い込まれたメッシュ部材20をカテーテルシャフト50と一緒にガイディングカテーテル80に引き込むこととしているが、カテーテルシャフト50から突出して異物Mを捕捉した状態のメッシュ部材20をカテーテルシャフト50に引き込んだ後に、メッシュ部材20が収容されたカテーテルシャフト50をガイディングカテーテル80に引き込むこととしてもよい。また、上述したように、メッシュ部材20とワイヤ12とは略同軸上に配置されている。このため、メッシュ部材20に捕捉された異物Mは、ガイディングカテーテル80又はカテーテルシャフト50に引き込まれる際、周方向におけるメッシュ部材20との接触点において、メッシュ部材20から略等しい力で引っ張られることになる。この結果、異物Mがメッシュ部材20からこぼれ落ちることを抑制することができる。上述した一連の工程により、血管Bから異物Mを除去することができる。
【0038】
本実施形態の異物捕捉システム100によれば、例えば脳閉塞症の治療において、壊れやすい赤色血栓の遠位部閉塞の予防と、硬く滑りやすい白色血栓の除去との両方に対応することができる。即ち、異物Mが赤色血栓である場合、仮に赤色血栓を砕くと、赤色血栓の細かい破片が血管Bの遠位部に流れて閉塞させるおそれがある。これに対して、本実施形態の異物捕捉システム100では、異物Mを砕かずに、吸引によりメッシュ部材20に捕捉させる構成であるため、赤色血栓の遠位部閉塞の予防が可能である。一方、異物Mが白色血栓である場合、白色血栓をメッシュ部材20の編み目に絡ませにくく、メッシュ部材20だけで捕捉することが難しい。これに対して、本実施形態の異物捕捉システム100では、吸引によって異物Mをメッシュ部材20に捕捉させる構成であるため、白色血栓の除去も可能である。
【0039】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態における異物捕捉デバイス10では、メッシュ部材20の基端側部分24には、樹脂膜30が形成されていない。このため、樹脂膜がメッシュ部材の全体に形成された構成に比べて、メッシュ部材20の基端側が変形しやすいため、メッシュ部材20を収縮状態から円滑に拡張状態にさせることができる。
【0040】
本実施形態では、メッシュ部材20の先端は開口しているのに対して、メッシュ部材20の基端は閉塞している。即ち、メッシュ部材20の基端は、その外径がメッシュ部材20の先端よりも縮小されるとともにワイヤ12の先端を囲むように配置されてワイヤ12に接合されている。このため、異物捕捉デバイス10を使用する際に、メッシュ部材20の基端がカテーテルシャフト50の内周面に接触して破損することを抑制することができる。即ち、メッシュ部材20の耐久性を向上させることができる。
【0041】
本実施形態では、メッシュ部材20の先端側部分22には、樹脂膜が形成されていない。このため、樹脂膜がメッシュ部材の全体に形成された構成に比べて、メッシュ部材20の基端側に加えて先端側も変形しやすいため、メッシュ部材20を収縮状態からさらに円滑に拡張状態にさせることができる。また、上述したように、先端側部分22に樹脂膜が形成されていないため、メッシュ部材20の先端が大きく開口しやすく、また、先端側部分22の外周面が血管Bの内壁に固定されやすい。
【0042】
本実施形態では、メッシュ部材20の拡張状態において、メッシュ部材20は、先端側部分22および中間部分26の第1の中間部分26Aの外周が大きく開口して血管Bの内壁に接触した状態で固定される。このため、カテーテルシャフト50を介した吸引に起因して、異物Mの破片がメッシュ部材20と血管Bの内壁との隙間からカテーテルシャフト50の外側に流れることを抑制することができる。更に、異物Mの破片がメッシュ部材20の編み目をすり抜けてカテーテルシャフト50の外側に流れることも抑制することができる(図2(C)参照)。
【0043】
本実施形態では、メッシュ部材20の基端側部分24には、樹脂膜が形成されていない。このため、メッシュ部材20を拡張させて異物Mを吸引する際、メッシュ部材20を、第2の中間部分26Bの外周がカテーテルシャフト50の開口に全周にわたって接触するように配置するだけで、吸引力を無駄なく異物Mに付与することができる。即ち、メッシュ部材20を拡張させて異物Mを吸引する際、比較的容易な操作で、吸引力が無駄なく異物Mに付与されるようにメッシュ部材20を配置することができる。この結果、異物Mを除去する手技を効率よく進めることができる。
【0044】
本実施形態では、メッシュ部材20の拡張状態において、先端側部分22の開口角度θ1は、第1の中間部分26Aの開口角度θ3よりも小さい。これにより、メッシュ部材20のうち、樹脂膜が形成されていない先端側部分22を血管Bの内壁に緩やかに接触させることができ、血管Bの内壁へ与える損傷を抑制することができる。
【0045】
本実施形態では、メッシュ部材20の拡張状態において、中間部分26の先端側の開口角度θ3は、中間部分26の基端側の開口角度θ4よりも大きい。これにより、メッシュ部材20の拡張状態において、血管Bの内壁に接触する中間部分26の面積を小さくする、即ち、血管Bの内壁に接触するメッシュ部材20の面積を小さくすることができる。この結果、血管Bの内壁へ与える損傷を抑制することができる。
【0046】
本実施形態では、メッシュ部材20の中間部分26に形成された樹脂膜30は、拡張状態にある中間部分26の形状に合わせて形成されている。このため、メッシュ部材20のうち、中間部分26は、拡張状態にあるときの形状を維持しようとする力が高くなっている。この結果、メッシュ部材20の拡張状態が維持されやすくなる。換言すると、メッシュ部材20の先端側部分22及び第1の中間部分26Aを血管Bの内壁に押しつける姿勢の安定性を向上させることができる。この結果、メッシュ部材20による異物Mの捕捉ミスの発生を抑制することができる。
【0047】
本実施形態では、メッシュ部材20の拡張状態において、中間部分26のうち、相対的に開口角度が緩やかな第2の中間部分26Bの外周面を、カテーテルシャフト50の開口に接触させることにより、メッシュ部材20とカテーテルシャフト50との接触面積が広くなる分だけ、メッシュ部材20(樹脂膜30)とカテーテルシャフト50との密着性を向上させることができる。この結果、メッシュ部材20(樹脂膜30)とカテーテルシャフト50との間の隙間をなくすことができ、吸引力を無駄なく異物Mに付与することができる。
【0048】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0049】
上記実施形態における異物捕捉システム100および異物捕捉デバイス10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態において、ワイヤ12は、中実体に限らず、中空体でもよい。この場合、メッシュ部材20の基端側が開口しつつ、シャフトの内部に連通した構成でもよい。また、メッシュ部材20は、編組体に限らず、例えば板状部材を編み目状に打ち抜いた構成でもよい。また、メッシュ部材20は、略円錐状に限らず、例えば略円柱状などでもよい。また、先端側部分22と基端側部分24と中間部分26とは、いずれも、略円錐状に限らず、例えば略円柱状などでもよい。また、メッシュ部材としては、例えば、次の製造方法により製造されたステントを用いてもよい。即ち、金属製(例えば、ステンレス鋼製やコバルト-クロム合金製)のパイプから、微細レーザ加工により特殊形状の網目を切り出して微細網目状パイプ(ステント)を製造する方法である。
【0050】
上記実施形態において、メッシュ部材20の先端側部分22の開口角度θ1は、基端側部分24の開口角度θ2よりも大きくてもよいし、小さくてもよい。メッシュ部材20の中間部分26は、全長にわたって開口角度が略同一である形状でもよい。
【0051】
上記実施形態において、メッシュ部材20における先端側部分22にも樹脂膜30が形成された構成でもよい。
【0052】
上記実施形態の異物捕捉システム100および異物捕捉デバイス10における各部材の材料は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【符号の説明】
【0053】
10:異物捕捉デバイス 12:ワイヤ 20:メッシュ部材 21:第1の素線 22:先端側部分 23:第2の素線 24:基端側部分 26:中間部分 26A:第1の中間部分 26B:第2の中間部分 30:樹脂膜 40,42,54:X線不透過マーク 50:カテーテルシャフト 52,82:ルーメン 54:X線不透過マーク 60:保護部材 70:ガイドワイヤ 80:ガイディングカテーテル 100:異物捕捉システム B:血管 F:気流 M:異物 O:中心軸
図1
図2
図3