IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人豊橋技術科学大学の特許一覧 ▶ 株式会社安藤・間の特許一覧 ▶ 株式会社熊谷組の特許一覧 ▶ 前田建設工業株式会社の特許一覧 ▶ 西松建設株式会社の特許一覧 ▶ 戸田建設株式会社の特許一覧 ▶ 佐藤工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-制振天井 図1
  • 特開-制振天井 図2
  • 特開-制振天井 図3
  • 特開-制振天井 図4
  • 特開-制振天井 図5
  • 特開-制振天井 図6
  • 特開-制振天井 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178867
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】制振天井
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/18 20060101AFI20221125BHJP
【FI】
E04B9/18 G
E04B9/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085966
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(71)【出願人】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000172813
【氏名又は名称】佐藤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100208269
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 雅士
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】境 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】土居 龍斗
(72)【発明者】
【氏名】龍神 弘明
(72)【発明者】
【氏名】山崎 康雄
(72)【発明者】
【氏名】西村 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】内川 誠
(57)【要約】
【課題】 地震発生時に、既存の吊り天井に生じる水平変位を抑制して天井部材の破損、脱落防止を図る。
【解決手段】 同軸動滑車を有する動滑車ユニットと、動滑車ユニットと相対する同軸定滑車を有する定滑車ユニットとからなる複数の滑車群と、制動ダンパーと、各滑車群、制動ダンパーの間を掛け渡されるワイヤーとからなる制振機構を吊り天井に設ける。地震発生時に、吊り天井が変位した際に、ワイヤーが滑車群間で所定の変位を生じた際、そのワイヤー変位量が、吊り天井に生じた相対変位量に対して増幅され、ワイヤーが変位量分、制動ダンパー内を通過することで吊り天井に入力されたエネルギーが減衰される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物躯体に吊り材、天井下地材を介して天井板が吊持された吊り天井と、
複数連の同軸動滑車を有する第1の動滑車ユニットと、前記第1の動滑車ユニットと相対する複数連の同軸定滑車を有する第1の定滑車ユニットとからなる第1の滑車群と、
複数連の同軸動滑車を有する第2の動滑車ユニットと、前記第2の動滑車ユニットと相対する複数連の同軸定滑車を有する第2の定滑車ユニットとからなる第2の滑車群と、
前記建物躯体側に設置された制動手段と、
両端が前記建物躯体に定着固定され、前記第1の滑車群、前記制動手段、前記第2の滑車群の間を掛け渡されるワイヤーと、
を備え、
地震発生時に、前記吊り天井が前記建物躯体に対して相対変位した際に、前記ワイヤーが前記第1の滑車群と前記第2の滑車群との間で所定の変位を生じ、そのワイヤー変位量が、前記吊り天井に生じた相対変位量に対して前記同軸動滑車の連数に応じて増幅され、前記ワイヤーが増幅された前記ワイヤー変位量分、前記制動手段内を通過することで前記吊り天井に入力されたエネルギーが減衰されることを特徴とする制振天井。
【請求項2】
前記第1の滑車群は、前記天井板上に設置された第1の動滑車ユニットと、前記第1の動滑車ユニットと相対するように前記建物躯体側に設置された第1の定滑車ユニットとからなり、
前記第2の滑車群は、前記天井板上に設置された第2の動滑車ユニットと、前記第2の動滑車ユニットと相対するように前記建物躯体側に設置された第2の定滑車ユニットとからなる請求項1に記載の制振天井。
【請求項3】
前記ワイヤーは、一端が前記第1の滑車群の第1の定滑車ユニットの近傍の前記建物躯体側に定着され、前記第1の定滑車ユニットと第1の動滑車ユニットの間に掛け渡され、さらに前記第1の定滑車ユニットを介して前記躯体面に沿って走行し、前記制動手段を通過し、前記制動手段を通過後、前記第2の滑車群に至り、前記第2の定滑車ユニットと第2の動滑車ユニットの間に掛け渡され、前記第2の定滑車ユニットの近傍の前記建物躯体側に他端が定着された請求項1または請求項2に記載の制振天井。
【請求項4】
前記制動手段は、前記建物躯体の前記吊り天井を吊持する躯体面に設置された請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の制振天井。
【請求項5】
前記制動手段は、前記ワイヤー変位量に追従可能なダンパーである請求項4に記載の制振天井。
【請求項6】
前記第1の動滑車ユニットと前記第2の動滑車ユニットとは、前記天井下地材の一部に固定保持された請求項2に記載の制振天井。
【請求項7】
前記ワイヤーは、前記第1の定滑車ユニットと第1の動滑車ユニットの間、及び前記第2の定滑車ユニットと第2の動滑車ユニットの間をほぼ水平に掛け渡された請求項3に記載の制振天井。
【請求項8】
前記第1の滑車群は、前記天井板上に設置された第1の動滑車ユニットと、前記第1の動滑車ユニットと相対するように前記吊り材の吊り元近傍に設置された第1の定滑車ユニットとからなり、
前記第2の滑車群は、前記天井板上に設置された第2の動滑車ユニットと、前記第2の動滑車ユニットと相対するように前記吊り材の吊り元近傍に設置された第2の定滑車ユニットとからなり、前記ワイヤーは前記天井板側と前記吊り元近傍とを斜めに掛け渡された請求項1に記載の制振天井。
【請求項9】
建物躯体に吊り材、天井下地材を介して天井板が吊持された吊り天井と、
前記天井板上に設置された第1の動滑車ユニットと、前記第1の動滑車ユニットと相対するように前記建物躯体側に設置された第1の定滑車ユニットとからなる第1の滑車群と、
前記天井板上に設置された第2の動滑車ユニットと、前記第2の動滑車ユニットと相対するように前記建物躯体側に設置された第2の定滑車ユニットとからなる第2の滑車群と、
前記建物躯体の前記吊り天井を吊持する躯体面に設置された制動手段と、
前記第1の滑車群、前記制動手段、前記第2の滑車群の間を掛け渡されるワイヤーと、
を備え、
前記ワイヤーは、一端が前記第1の滑車群の第1の定滑車ユニットの近傍の前記建物躯体側に定着され、前記第1の定滑車ユニットと第1の動滑車ユニットの間に掛け渡され、さらに前記第1の定滑車ユニットを介して前記躯体面に沿って走行し、前記制動手段を通過し、前記制動手段を通過後、前記第2の滑車群に至り、前記第2の定滑車ユニットと第2の動滑車ユニットの間に掛け渡され、前記第2の定滑車ユニットの近傍の前記建物躯体側に他端が定着され、
地震発生時に、前記吊り天井が前記建物躯体に対して相対変位した際に、前記ワイヤーが前記第1の滑車群と前記第2の滑車群との間で所定の変位を生じ、該ワイヤー変位量が、前記吊り天井に生じた相対変位量に対して増幅され、前記ワイヤーが増幅された前記ワイヤー変位量分、前記制動手段内を通過することで前記吊り天井に入力されたエネルギーが減衰されることを特徴とする制振天井。
【請求項10】
前記ワイヤー変位量は、前記相対変位量からの増幅倍率が前記第1の動滑車ユニットを構成する同軸動滑車の連数、及び前記第2の動滑車ユニットを構成する同軸動滑車の連数によって決定される請求項9に記載の制振天井。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制振天井に係り、既存の吊り天井に制振機構部材を後付けすることで、地震発生時に吊り天井に生じる水平加速度と水平変位とを抑制し、天井部材の破損、脱落防止を図ることができる制振天井に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の吊り天井(在来天井)60では、たとえば図7(a)に示したように、天井板61を支持する吊り材62等の各部材に耐震部材等を用いることは義務づけられていなかった。その後、平成25年に公布された建築基準法に基づく「建築物における天井脱落対策に係る技術基準」等が定められ、天井懐高さが1.5mを超えるような吊り天井60の場合には、図7(b)に示したように、吊り材62(吊りボルト)を挟んでV字形をなすように斜め部材63(以下、ブレース63と記す。)等の補剛材を取り付けることが設計上、求められることになった。このような天井脱落防止策が施された吊り天井60では、地震時における天井の応答変位が確実に抑えられる。
【0003】
しかし、図7(b)に示したようなブレース63を取り付けた吊り天井では、地震時における天井の応答変位は小さくなるが、応答加速度が大きくなる。そのため、吊りボルトの座屈、破断やクリップやハンガーなどの天井下地材の取付治具に損傷が生じる地震被害が発生している。また、吊り材にブレース63を取り付けて補強する方法では、天井裏空間65に空調ダクトや設備機器や配管、配線ケーブルなどが設置されている場合には、適正な間隔でブレース63を設置できないという問題もある。
【0004】
これらの問題に対して、本願の出願人(一部)は、天井面での応答加速度を低減するために、天井材と吊り材との間に粘弾性体ダンパーを取り付けた制振天井(特許文献1)や、躯体壁面に取り付けられた粘弾性ダンパーで天井面材の側端部を挟み込むようにした制振天井(特許文献2)を提案している。
【0005】
これらの制振天井は、粘弾性ダンパー等を設置することで、大地震時における吊り天井に生じる応答加速度を低減することを企図した発明である。そのため、オイルダンパー等を用いることで、大地震時に躯体と天井面に大きな相対変位が生じた場合に有効に機能するが、天井面の揺れ幅が小さい中小地震までは十分にカバーしにくい。また、粘弾性ダンパーを確実に動作させるために、ダンパー支持部材を堅固にする必要があり、支持部材が比較的大きくなり、小規模な吊り天井には過大な設備となる。
【0006】
一方、本願の出願人(一部)は共同で、地震時における建築物全体の変位(地表面に対する移動量)を制御するために、減衰器と複数連の滑車群にワイヤーを建築物の外周全体に掛け渡すようにした構造の制振装置を開発している(特許文献3)。この制振装置によれば、従来の制振装置に比べて同一変位量に対する制振効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-167737号公報
【特許文献2】特開2016-169472号公報
【特許文献3】特許第5048861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3には複数の実施形態、参考例が開示されている。代表的な実施形態の制振装置では、地表面に設置された滑車群(固定滑車)と、建築物の屋上(頂部)に設置された滑車群(動滑車)との間にワイヤーが掛け渡され、ワイヤー経路上に設けられた減衰器(ダンパー)を所定移動量のワイヤーが通過することにより、エネルギーが減衰され、地盤に対して建築物全体の相対的な変位が制御される。また、他の参考例として、ラーメン架構の構造体の上下に位置する梁のそれぞれに滑車群が設置され、上下の梁の滑車群の間にワイヤーが掛け渡され、ワイヤー経路上(例えば上の梁の一部)に設けられた減衰器内をワイヤーが所定移動量だけ通過することにより、エネルギーが減衰され、梁部材間の相対的な変位が制御される。
【0009】
特許文献3に開示された発明は、地震時における建築物全体の地表面に対する相対変位を抑制できるが、建築物と地表面あるいは梁等の構造体間に生じた相対変位量に応じて生じたワイヤーの移動を減衰器で制動するようになっているため、大地震等のように大きな相対変位が生じた場合に有効に機能させることを想定している。また、制振装置が大がかりであるため、上述した吊り天井等の比較的軽量な構造体に付加することは想定していない。
【0010】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、安価な制振機構を既存の吊り天井に付加するように設置し、中小地震から大地震の発生時における吊り天井の安全を確保することができる制振天井を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の制振天井は、建物躯体に吊り材、天井下地材を介して天井板が吊持された吊り天井と、複数連の同軸動滑車を有する第1の動滑車ユニットと、前記第1の動滑車ユニットと相対する複数連の同軸定滑車を有する第1の定滑車ユニットとからなる第1の滑車群と、複数連の同軸動滑車を有する第2の動滑車ユニットと、前記第2の動滑車ユニットと相対する複数連の同軸定滑車を有する第2の定滑車ユニットとからなる第2の滑車群と、前記建物躯体側に設置された制動手段と、両端が前記建物躯体に定着固定され、前記第1の滑車群、前記制動手段、前記第2の滑車群の間を掛け渡されるワイヤーとを備え、地震発生時に、前記吊り天井が前記建物躯体に対して相対変位した際に、前記ワイヤーが前記第1の滑車群と前記第2の滑車群との間で所定の変位を生じ、そのワイヤー変位量が、前記吊り天井に生じた相対変位量に対して前記同軸動滑車の連数に応じて増幅され、前記ワイヤーが増幅された前記ワイヤー変位量分、前記制動手段内を通過することで前記吊り天井に入力されたエネルギーが減衰されることを特徴とする。
【0012】
前記第1の滑車群は、前記天井板上に設置された第1の動滑車ユニットと、前記第1の動滑車ユニットと相対するように前記建物躯体側に設置された第1の定滑車ユニットとからなり、前記第2の滑車群は、前記天井板上に設置された第2の動滑車ユニットと、前記第2の動滑車ユニットと相対するように前記建物躯体側に設置された第2の定滑車ユニットとからなることが好ましい。
【0013】
前記ワイヤーは、一端が前記第1の滑車群の第1の定滑車ユニットの近傍の前記建物躯体側に定着され、前記第1の定滑車ユニットと第1の動滑車ユニットの間に掛け渡され、さらに前記第1の定滑車ユニットを介して前記躯体面に沿って走行し、前記制動手段を通過し、前記制動手段を通過後、前記第2の滑車群に至り、前記第2の定滑車ユニットと第2の動滑車ユニットの間に掛け渡され、前記第2の定滑車ユニットの近傍の前記建物躯体側に他端が定着されることが好ましい。
【0014】
前記制動手段は、前記建物躯体の前記吊り天井を吊持する躯体面に設置されることが好ましい。
【0015】
前記制動手段は、前記ワイヤー変位量に追従可能なダンパーであることが好ましい。
【0016】
前記第1の動滑車ユニットと前記第2の動滑車ユニットとは、前記天井下地材の一部に固定保持されることが好ましい。
【0017】
前記ワイヤーは、前記第1の定滑車ユニットと第1の動滑車ユニットの間、及び前記第2の定滑車ユニットと第2の動滑車ユニットの間をほぼ水平に掛け渡されることが好ましい。
【0018】
前記第1の滑車群は、前記天井板上に設置された第1の動滑車ユニットと、前記第1の動滑車ユニットと相対するように前記吊り材の吊り元近傍に設置された第1の定滑車ユニットとからなり、前記第2の滑車群は、前記天井板上に設置された第2の動滑車ユニットと、前記第2の動滑車ユニットと相対するように前記吊り材の吊り元近傍に設置された第2の定滑車ユニットとからなり、前記ワイヤーは前記天井板側と前記吊り元近傍とを斜めに掛け渡されることが好ましい。
【0019】
本発明の制振天井は、建物躯体に吊り材、天井下地材を介して天井板が吊持された吊り天井と、前記天井板上に設置された第1の動滑車ユニットと、前記第1の動滑車ユニットと相対するように前記建物躯体側に設置された第1の定滑車ユニットとからなる第1の滑車群と、前記天井板上に設置された第2の動滑車ユニットと、前記第2の動滑車ユニットと相対するように前記建物躯体側に設置された第2の定滑車ユニットとからなる第2の滑車群と、前記建物躯体の前記吊り天井を吊持する躯体面に設置された制動手段と、前記第1の滑車群、前記制動手段、前記第2の滑車群の間を掛け渡されるワイヤーとを備え、前記ワイヤーは、一端が前記第1の滑車群の第1の定滑車ユニットの近傍の前記建物躯体側に定着され、前記第1の定滑車ユニットと第1の動滑車ユニットの間に掛け渡され、さらに前記第1の定滑車ユニットを介して前記躯体面に沿って走行し、前記制動手段を通過し、前記制動手段を通過後、前記第2の滑車群に至り、前記第2の定滑車ユニットと第2の動滑車ユニットの間に掛け渡され、前記第2の定滑車ユニットの近傍の前記建物躯体側に他端が定着され、地震発生時に、前記吊り天井が前記建物躯体に対して相対変位した際に、前記ワイヤーが前記第1の滑車群と前記第2の滑車群との間で所定の変位を生じ、該ワイヤー変位量が、前記吊り天井に生じた相対変位量に対して増幅され、前記ワイヤーが増幅された前記ワイヤー変位量分、前記制動手段内を通過することで前記吊り天井に入力されたエネルギーが減衰されることを特徴とする。
【0020】
前記ワイヤー変位量は、前記相対変位量からの増幅倍率が前記第1の動滑車ユニットを構成する同軸動滑車の連数、及び前記第2の動滑車ユニットを構成する同軸動滑車の連数によって決定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、安価な機構を吊り天井内の限られたスペースに設置することができ、中小地震から大地震の発生時における吊り天井の応答加速度、応答変位を効率よく低減し、設置されたダンパーの減衰効果を高め、吊り天井の安全を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態の制振天井を部分的に示した斜視図。
図2】本発明の制振天井の構成例、および地震時におけるエネルギー減衰効果を模式的に示した概略説明図。
図3】本発明の制振天井における制振機構の設置例を示した概略正面図。
図4】本発明の制振天井における制振機構の平面配置例を示した概略平面図。
図5】本発明の制振天井における制振機構の変形例を示した概略平面図。
図6】本発明の制振天井、在来天井の地震時における入力加速度と応答加速度の関係、入力加速度と応答変位の関係を示したグラフ。
図7】在来天井および従来の制振天井の構成の一例を示した概略正面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の制振天井の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0024】
図1(a)は、本発明の制振天井の一実施形態の吊り天井の構成を部分的に示している。本発明の制振天井となる吊り天井1自体は、同図に示したように、在来天井と同様の構成であり、天井面を構成する既製の石膏ボード等の天井板2と、天井板2を天井全面にわたり支持するために所定間隔で格子状に配置された天井下地材としての野縁3と野縁受け4と、天井板2、天井下地材を支持するために、上端が上階スラブ下面9に定着された状態で垂下され、下端がハンガー5を介して野縁受け4に取り付けられた吊り材としての吊りボルト6とを備え、さらに制振機構が付加、設置されて制振天井として機能する。
【0025】
本実施形態の制振機構10は、図1(a)の一部を拡大して図1(b)に示したように、吊り天井1の吊り材の一部に取り付けられ、動滑車として動作する動滑車ユニット20と、天井板2近傍の壁面8と上階スラブ下面9(吊り材の吊元)近傍とに固定支持されて定滑車として動作しワイヤーの走行方向を変換する定滑車ユニット30と、上階スラブ下面9に固定保持され、内部を通過するワイヤーWの変位(移動)量を制御し、エネルギー減衰させる制動ダンパー40とを備える。
【0026】
制振機構10は、吊り天井1を制振天井として機能させるために、一例として図2(a)に模式的に示したように、動滑車ユニット20と定滑車ユニット30とを一組とした、吊り天井1の一端側に設置された第1の滑車群101と、吊り天井1の他端側に設置された第2の滑車群とを備え、各滑車にわたりワイヤーWが掛け渡されている。ワイヤーWは、一方の端部Aが第1の滑車群101の近傍の壁面8に定着固定され、第1の滑車群101の動滑車ユニット20と定滑車ユニット30の各滑車に順次巻き付けられるように掛け渡され、ワイヤーWの中間部Cが上階スラブ下面9に固定保持された制動ダンパー40内を通過して吊り天井1の他端側に設置された第2の滑車群102に導かれ、同様に第2の滑車群102の複数連の各滑車に巻き付けられ、他方の端部Bが第2の滑車群102の近傍の壁面8に定着固定されている。
【0027】
ここで、図1(a)に示した第1の滑車群101の動滑車ユニット20、定滑車ユニット30の各部材構成について、図1(b)、図2(a)、(b)を参照して説明する。図1(b)は、図1(a)に示された吊り天井1に組み込まれた一組の制振機構10の動滑車ユニット20、定滑車ユニット30の構成およびこれらの配置例を示している。また、同図には、各滑車群に掛け渡され、滑車に巻き付けられるワイヤ-が仮想的に示されている。なお、図2以後において、図の簡略化のために野縁、野縁受け、ハンガー等の天井下地材の図示を省略している。
【0028】
本実施形態の動滑車ユニット20は、一例として3連(n=3)の同軸動滑車(1本の回転軸に並列支持され独立して回転可能な複数個の動滑車:図2(b)参照)からなり、同軸動滑車21は軸受ブラケット22に軸支され、軸受ブラケット22は、野縁3受けとの野縁3との交点位置に固定保持するための台座ブラケット23に支持されている(図1(a))。本実施形態の軸受ブラケット22と台座ブラケット23とは鋼板加工材からなり、各部の寸法は、吊り天井1を支持する既製の野縁3、野縁受け4の部材寸法に合わせて製作されている。よって、既存の吊り天井1に用いられてる各種サイズの野縁3、野縁受け4に合わせて台座ブラケットを製作することで、既存の吊り天井1に後施工により設置可能な制振機構10を提供することができる。この制振機構10を用いることにより、既存の吊り天井1を比較的容易に制振天井に改良することができる。
【0029】
本実施形態の定滑車ユニット30は、図1(a)に示したように、吊り天井1の天井板2の端部近傍の壁面8に固定保持された同軸定滑車31と、上階スラブ下面9近傍の壁面8に取り付けられた方向変換滑車32とからなり、同軸定滑車31の滑車数は動滑車ユニット20の同軸動滑車21と同数(3連)で構成されている。定滑車ユニット30の同軸定滑車31はベースプレート35に取り付けれた軸受ブラケット34に軸支されている。ベースプレート35は、図示しない後施工アンカー等により壁面8に固定保持されている。なお、動滑車ユニット20、定滑車ユニット30に組み込まれる滑車数は、地震時における吊り天井1の応答変位量の増幅倍数に係わるため、滑車数は、ワイヤーWの移動量と制動ダンパー40が制御可能な移動量との関係から決定することが好ましい。
【0030】
ワイヤーWは、図1(b)で仮想線で示されたように、端部Aが同軸定滑車31のベースプレート33近傍の壁面8にアンカープレート36を介して定着固定され、吊り天井1面上の動滑車ユニット20と、躯体の壁面8側の同軸定滑車31との間で滑車数分周回するように掛け渡された後、同軸定滑車31から壁面8近傍を上方に位置する方向変換滑車32まで延び、方向変換滑車32で上階スラブ下面9に添ってほぼ水平になるように方向変換され、中間部Cが上階スラブ下面9の所定位置(通常、梁間中央位置)に設置された制動ダンパー40に導かれ、制動ダンパー40を通過後、反対側の方向変換滑車32に向かう(図2(a))。
【0031】
本実施形態の制動ダンパー40にはロータリーダンパー(以下、符号40を付す。)が用いられている。ワイヤーWは、中間部Cがロータリーダンパー40の一方の口から入り、ダンパー内のローター軸(図示せず)に巻回され、他方の口から出て反対側の壁面8に取り付けられた方向変換滑車32に向かう(図2(a))。ワイヤーWがロータリーダンパー40内を通過する際、所定の粘性抵抗を有するローターの回転抵抗によって制動を受け、ダンパー内での通過が制限されてエネルギーが減衰される。他の制動ダンパーの種類としては、直動式オイルダンパー、鋼材系履歴型ダンパーなどが好適である。直動式オイルダンパーの場合、ワイヤー変位(移動)量は所定のストロークを有するシリンダロッドの伸縮抵抗によって制御される。制動ダンパー40の種類、機構は限定されないが、ダンパーの減衰機構は、想定されるワイヤーWの変位(移動)量に十分追従して動作できることが必要である。
【0032】
[制振天井の動作原理]
ここで、上述の構成からなる制振機構10を備えた制振天井の動作原理について、図2各図を参照して説明する。図2(a)は、制振天井として機能する吊り天井1と、吊り天井1に組み込まれた制振機構10の概略構成を示している。図2(b)は、上述した3連(n=3)の同軸動滑車21を備えた動滑車ユニット20と、同軸定滑車31を備えた定滑車ユニット30とにワイヤーWが掛け渡された状態を模式的に示している。図2(c)は、図2(a)に示した制振天井が、地震発生によって周囲の壁面8に対して相対変位量dだけ変位し、制振機構10が動作した状態を示している。
【0033】
図2(c)に示したように、地震時に、建物躯体を介して本発明の制振天井に水平力が作用し、吊り天井1と躯体(壁面8)との間に相対変位dが生じると、ワイヤーWが天井面に沿ってほぼ水平に掛け渡されているため、動滑車ユニット20と定滑車ユニット30との間の相対距離dに対して、制動ダンパー40近傍でのワイヤーW水平変位は、複数連(n連)の動滑車の原理により2n倍に増幅(拡大)され、D=2n・dとなる。よって、この制振機構10では、増幅されたワイヤー変位(移動)量に対応した分だけ制動ダンパー40を動作させることができ、より大きなエネルギー減衰効果が得られる。よって吊り天井1の相対変位量が小さい中小地震から大きな相対変位が生じる大地震までの広い範囲の地震動に対して制動ダンパー40による得られるエネルギー減衰効果を見込むことができる。
【0034】
[制振機構の立面設置例]
図3各図は、本発明の制振天井における制振の設置例を示した概略正面図である。図3(a)は、図1(a)、図2(a)に示した設置例と同ー構成の設置例で、既存の吊り天井1に動滑車ユニット20を後施工によって設置することで制振機構10を簡単に組み込むことができる。この設置例によれば、定滑車ユニット30は吊り天井1周辺の壁面8や上階梁などに固定支持させるので、ワイヤーWは天井裏空間内にあるダクト50、ケーブルラック51等の各種の設備機器と干渉しないように滑車群間を掛け渡すことができる。図3(b)は、定滑車ユニット30を壁面8側に設けずに、吊り天井1を支持する吊り材の吊り元部位に取付金具等を介して設置した設置例である。この設置例では、既存の吊り天井1側に動滑車ユニット20、吊り元側に定滑車ユニット30を取り付ける作業のみで制振機構10を付加して制振天井とすることができる。図3(c)は、天井面積が大きく天井の区画が分かれ、滑車群を取り付ける躯体(壁や梁)が吊り天井1に近接していない場合を想定して吊り天井1側に制振機構10を付加した設置例を示している。各設置例において、制振機構10の設置数、配置間隔、位置は、吊り天井1の平面積、平面形状によって適宜設定すべきことは言うまでもない。なお、図3(b)、(c)に示した設置例の場合、ワイヤーWは、天井位置の吊り元側の定滑車ユニット30と吊り天井1面上の動滑車ユニット20との間で天井懐高さに応じて所定の角度θだけ傾いて掛け渡される。滑車群間に斜めに張られたワイヤーWが吊り天井1面となす角度θの場合、移動量の増幅率は2n倍から2n・cosθ倍に低下するため、同軸滑車の連数を増やすことで増幅効果を調整することが好ましい。
【0035】
[制振機構の平面設置例]
図4は、制振機構10を吊り天井1の縦横方向に設置した平面設置例を模式的に示している。図4に示したように、周囲が壁面8で区画された平面視して略正方形状の吊り天井1において、吊り天井1は地震時に壁面8に対してX-Y方向に複合的に相対変位する。この相対変位に有効に対応するためには、同じ構成の制振機構10をX-Y方向の直交する方向に沿ってそれぞれ設置することが好ましい。これにより、それぞれの方向に沿って設置された制振機構10によってその方向に生じるワイヤーW変位量の増幅を図り、制振機構10中の制動ダンパー40によるエネルギー減衰を図ることができる。また、図2(a)に示したように、吊り天井1の縁近傍の壁面8に取り付けられる同軸定滑車31と、上階スラブ下面9あるいはその近傍の壁面8に取り付けられる方向変換滑車32の支持部材の一部にスイベル機構37を設けて、吊り天井1がX-Y方向に複合的に変位した場合にも滑車を通過するワイヤーWの走行方向が吊り天井1の変位方向に沿って自在に追従できるようにすることも好ましい。
【0036】
[制振機構の変形例]
図5は、制振機構10の変形例として、吊り天井1の天井板2上に設置される動滑車ユニット20の同軸動滑車21の回転軸25を、図中Z方向(紙面直交方向)に沿った向きにした制振機構10を設置した制振天井を示している。この制振天井は、地震発生時に天井周囲の壁面8に対してX-Y方向に複合的に相対変位するが、天井板2上に設置された動滑車ユニット20の各滑車は、この変位に追従して自在に回転することができ、ワイヤーWの変位はスムースに図示しない方向変換滑車(図示せず)を経由して制動ダンパー40に伝達され、制動ダンパー40によるエネルギー減衰が達成される。吊り天井1面上の動滑車ユニット20を図5に示したような回転軸25の向きに設置することにより、動滑車ユニット20は吊り天井1の複合的な相対変位にスムースに対応することができる。よって、図5に示した構成の制振機構10は、図中X方向のみに設置するだけで吊り天井1の複合的な変位に対応することが可能になる。
【0037】
この変形例においては、動滑車ユニット20の同軸動滑車21の回転軸25と、定滑車ユニット30の同軸定滑車31の回転軸35とが直交するため、ワイヤWは同軸動滑車21と同軸定滑車31との間にねじれの状態で掛け渡される。この状態での各滑車の滑らかな回転を確保するため、またワイヤWに過度の張力が作用しないように、滑車径、ワイヤWの太さ等を適切に設定することが好ましい。さらに、吊り天井1が複合的に相対変位した場合にも、回転軸25,35の軸受の支持構造にスイベルジョイント、ユニバーサルジョイント等の可変ジョイント構造を組み込むことにより、逐次変動するワイヤWの変位方向に倣って各滑車の向きを追従させることができ、これによりワイヤWの滑らかな変位(走行)を確保することができる。
【0038】
[制振天井の制振効果確認実験]
模型実験によって本発明の制振天井の制振効果(応答変位、応答加速度)について、従来の吊り天井(在来天井)と対比して確認を行った。
本発明の制振天井、在来天井の構成として以下の4種類の吊り天井モデルを用いて振動実験を行った。
(吊り天井モデル)
寸法:天井板(4m×4m)、天井懐高さ(1.5m)
天井仕様:
(1)制振天井1(定滑車:壁面支持、ワイヤー水平、制振機構2基)
(2)制振天井2(定滑車:吊り元支持、ワイヤー傾斜約60°、制振機構2基)
(3)在来天井1(耐震対策無)
(4)在来天井2(耐震ブレース有)
(加振(振動)条件)
実験設備:大型3軸振動台上に組まれた剛体フレーム(躯体に相当)内に吊り天井モデル(1)~(4)を設置
入力波:告示波(平成12年建設省告示第1461号4号に定められた地震動)
加振方法:告示波を振動台テーブル上面で基準化し、50~300cm/s2の範囲で50cm/s2刻みで水平1方向に加振
(振動試験結果)
上述した試験条件による各吊り天井モデルにおける入力加速度と応答加速度、入力加速度と応答変位の関係を図7(a)、(b)に示す。
両グラフから分かるように、耐震対策を行っていない在来天井1では、入力加速度に対して天井板に過大な応答変位が生じ、天井板が躯体に衝突して破損、落下するおそれが生じることが明らかである。また、耐震ブレースを設けた在来天井2では、耐震ブレースによって吊り材の剛性がアップして吊り天井の相対変位は抑えられるが、応答加速度が過大になり、吊り天井各部の耐力を超えて作用する外力によって部材破損等が生じるおそれがある。これに対して、本発明の制振天井のモデル(制振天井1,2)では、ともに小さな入力加速度から応答加速度、応答変位が抑制される。特にワイヤーWが水平に掛け渡される制振天井1では、応答変位がより確実に抑止されることが認められた。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1 吊り天井
2 天井板
6 吊りボルト
8 壁面
9 上階スラブ下面
10 制振機構
20 動滑車ユニット
21 同軸動滑車
30 定滑車ユニット
31 同軸定滑車
32 方向変換滑車
40 制動ダンパー
101 第1の滑車群
102 第2の滑車群
W ワイヤー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7