(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178873
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】路面摩擦係数算出装置、道路管理システム、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20221125BHJP
E01C 23/01 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
G08G1/00 J
E01C23/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085973
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】高森 徹示
(72)【発明者】
【氏名】澤村 慧
【テーマコード(参考)】
2D053
5H181
【Fターム(参考)】
2D053AA32
2D053AB02
5H181AA01
5H181BB04
5H181CC12
5H181EE13
5H181EE14
5H181FF05
5H181FF10
5H181MC16
5H181MC27
(57)【要約】
【課題】路面摩擦係数をより正確に測定する。
【解決手段】
図1において、路面摩擦係数の算出に関わる処理を行うデータ処理ユニット10が設けられる。データ処理ユニット10には、全体の制御を行う制御部11、実際に路面摩擦係数の算出処理を行う演算部12、この算出に用いられる各種のデータを記憶する不揮発性メモリやハードディスクである記憶部13が設けられる。演算部12における路面摩擦係数の算出には、タイヤの歪(変形量)データが用いられ、このデータは、歪認識部14と、これに接続された歪ゲージ20A~20Dによって認識される。また、この路面摩擦係数算出装置1においては、この算出において4つのタイヤに印加された荷重のデータも用いられ、このデータは、荷重認識部15と、これに接続された荷重センサ21A~21Dによって認識される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行時におけるタイヤの歪から当該車両が走行する路面の路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出装置であって、
前記タイヤに装着され前記歪を計測する歪センサと、
走行時における前記タイヤに印加される荷重を計測する荷重センサと、
前記路面摩擦係数と前記歪との間の関係の前記荷重に対する依存性を予め認識することにより、計測された前記歪と前記荷重より、前記路面摩擦係数を算出する演算部と、
を具備することを特徴とする路面摩擦係数算出装置。
【請求項2】
前記車両は4つの前記タイヤを具備し、前記歪センサ及び前記荷重センサは前記タイヤ毎に設けられ、前記タイヤの各々に対応して前記路面摩擦係数が算出されることを特徴とする請求項1に記載の路面摩擦係数算出装置。
【請求項3】
前記車両の運転手に対して、算出された前記路面摩擦係数の値に応じて警告を発することを特徴とする請求項1又は2に記載の路面摩擦係数算出装置。
【請求項4】
前記車両の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記路面摩擦係数を前記位置情報と対応させて無線通信によって発信する無線通信部と、
を具備することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の路面摩擦係数算出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の路面摩擦係数算出装置を搭載して道路を走行する車両と、
当該車両側から前記路面摩擦係数と前記位置情報を受信し、前記路面摩擦係数及び前記位置情報の複数回の測定結果に基づいて、前記路面摩擦係数の低い領域を認識して記憶するコンピュータである管理センタと、
を具備することを特徴とする道路管理システム。
【請求項6】
路面摩擦係数を実測することによって道路の管理を行うコンピュータプログラムであって、
請求項4に記載の路面摩擦係数算出装置を搭載した車両に道路を走行させて前記路面摩擦係数と前記位置情報を測定させた結果を受信し、前記路面摩擦係数の複数回の測定結果に基づいて、前記路面摩擦係数の低い複数の測定点を認識する対象測定点認識工程と、
前記複数の測定点の前記位置情報より前記複数の測定点に対応した領域に対応する前記位置情報を認識する領域認識工程と、
認識された前記領域に対応する前記位置情報を記憶させる領域登録工程と、
をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路を移動する車両を用いて路面の摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出装置、これを用いた道路管理システム、道路管理のためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が走行する道路の路面の状況を認識することは、安全のためには極めて重要である。路面状況は気象条件等によって大きく変動するため、例えば特許文献1には、現在の路面状況と現在の気象状況(降雨量)を共に認識することによって、その後に路面状況を適切に推定する路面状況導出装置が記載されている。
【0003】
路面状況に応じて車両の消費エネルギーは変化し、消費エネルギーに応じて車両の航続距離が変動するため、特許文献2には、車両が走行する際の走行抵抗を実際に車両側から認識し、走行抵抗から消費エネルギーを算出する技術が記載されている。ただし、消費エネルギーは単純に路面状況だけでは定まらず、タイヤの空気圧や天候等の走行条件にも依存するため、ここでは、走行抵抗が認識された際の走行条件も考慮した上で、現在の走行条件下における消費エネルギーが適正に導出される。
【0004】
車両の走行の安全性に関わるような路面状況の指標として、タイヤの滑りやすさがある。この滑りやすさは、車両に装着されたタイヤと路面との間の摩擦係数(路面摩擦係数)として数値化して認識することができる。路面摩擦係数は、天候(好天、雨天、積雪等)や道路の経時変化(老朽化によるひび割れ、事故による損傷等)によって変動し、車両の走行に直接関わる物理量として特に重要であり、これをリアルタイムで認識することが重要である。
【0005】
特許文献3には、特許文献2に記載の技術と同様に、この路面摩擦係数を特に車両側から認識する技術が記載されている。ここでは、特に、車両の走行時におけるワイピング変形(走行時のタイヤの撓み変形)に基づくタイヤの変形量(歪)がタイヤのトレッドの内面に装着された歪ゲージで測定される。この変形は、基本的にはタイヤの踏面(接地面)中心に向かう収縮変形となるが、タイヤの回転に伴って、歪ゲージが装着された部分が接地した場合に特にこの歪が大きくなるように計測される。この際に、路面摩擦係数が大きな場合には路面側からの拘束力が強くなるため歪が小さくなり、路面摩擦係数が小さな場合にはこの拘束力が小さくなるため歪が大きくなる。このため、この際の歪の最大値と路面摩擦係数の間には相関が認められ、この歪の最大値から路面摩擦係数を算出することができる。この技術によれば、実際に道路を走行する車両において路面摩擦係数をリアルタイムで容易に認識することができる。これにより、天候の変化や事故等による路面状態の変化をリアルタイムで認識することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-26269号公報
【特許文献2】特開2015-30327号公報
【特許文献3】特開2002-2472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載の技術によって、走行する車両のタイヤの歪(歪変位量)によって路面摩擦係数をリアルタイムで認識することができるものの、同一の車両であっても、実際にはタイヤの変形量は、車両の状況に応じても変化した。このようなタイヤの変形量に大きな影響を及ぼすような量としては、タイヤに印加された荷重があり、この荷重は、車両の積載量(荷物や乗員の重量)に応じて変化する。例えば、このような路面状況を認識することによって走行の安全性を確保する対象として大型貨物車があるのに対して、大型貨物車を用いてこのような路面摩擦係数を測定する場合には、積載量によって測定値が大きく影響を受け、正確な測定が困難であった。また、タイヤに印加される荷重は、積載量だけでなく、車両の走行状況、例えば加減速、坂の上り下り、カーブの走行等によっても変動した。このため、特許文献3に記載の技術においては、実際には路面摩擦係数を正確に算出することが困難であった。
【0008】
このため、路面摩擦係数をより正確に測定するための技術が求められた。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車両の走行時におけるタイヤの歪から当該車両が走行する路面の路面摩擦係数を算出する路面摩擦係数算出装置であって、前記タイヤに装着され前記歪を計測する歪センサと、走行時における前記タイヤに印加される荷重を計測する荷重センサと、前記路面摩擦係数と前記歪との間の関係の前記荷重に対する依存性を予め認識することにより、計測された前記歪と前記荷重より、前記路面摩擦係数を算出する演算部と、を具備する。
前記車両は4つの前記タイヤを具備し、前記歪センサ及び前記荷重センサは前記タイヤ毎に設けられ、前記タイヤの各々に対応して前記路面摩擦係数が算出されてもよい。
前記車両の運転手に対して、算出された前記路面摩擦係数の値に応じて警告を発してもよい。
前記車両の位置情報を取得する位置情報取得部と、前記路面摩擦係数を前記位置情報と対応させて無線通信によって発信する無線通信部と、を具備してもよい。
本発明の道路管理システムは、前記路面摩擦係数算出装置を搭載して道路を走行する車両と、当該車両側から前記路面摩擦係数と前記位置情報を受信し、前記路面摩擦係数及び前記位置情報の複数回の測定結果に基づいて、前記路面摩擦係数の低い領域を認識して記憶するコンピュータである管理センタと、を具備する。
本発明のコンピュータプログラムは、路面摩擦係数を実測することによって道路の管理を行うコンピュータプログラムであって、前記路面摩擦係数算出装置を搭載した車両に道路を走行させて前記路面摩擦係数と前記位置情報を測定させた結果を受信し、前記路面摩擦係数の複数回の測定結果に基づいて、前記路面摩擦係数の低い複数の測定点を認識する対象測定点認識工程と、前記複数の測定点の前記位置情報より前記複数の測定点に対応した領域に対応する前記位置情報を認識する領域認識工程と、認識された前記領域に対応する前記位置情報を記憶させる領域登録工程と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以上のように構成されているので、路面摩擦係数を正確に測定することができ、これによって路面の状況をより正確に認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る路面摩擦係数算出装置の構成を示す図である。
【
図2】実施の形態に係る路面摩擦係数算出装置が搭載された車両の構成を示す図である。
【
図3】走行時におけるタイヤの歪の経時変化の例(a)と、従来の路面摩擦係数算出装置において用いられるタイヤの歪と路面摩擦係数の間の関係の例(b)である。
【
図4】実施の形態に係る路面摩擦係数算出装置においてタイヤの歪から路面摩擦係数を算出するために用いられるデータの例である。
【
図5】貨物車における、積載量と前輪側荷重、後輪側荷重の関係の例である。
【
図6】実施の形態に係る路面摩擦係数算出装置における演算部の構成である。
【
図7】実施の形態に係る路面摩擦係数算出装置における動作を示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態に係る道路管理システムを模式的に示す図である。
【
図9】路面の種類、気象状況に応じた路面摩擦係数の例である。
【
図10】実施の形態に係る道路管理システムにおける動作を示すフローチャートである。
【
図11】実測される路面摩擦係数の経時変化の例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に係る路面摩擦係数算出装置について説明する。この路面摩擦係数算出装置1は、道路を走行する車両に搭載される。
図1は、この路面摩擦係数算出装置1の構成を示すブロック図であり、
図2は、この路面摩擦係数算出装置1が搭載された車両Tの態様を模式的に示す、進行方向の左側方からみた側面図(a)、後方からみた背面図(b)、路面G側から見た下面図(c)である。この路面摩擦係数算出装置1においても、特許文献3に記載の技術と同様に、走行時のタイヤの歪(変形量)が実測され、これに基づいて路面摩擦係数が算出される。ただし、この際に、実際にタイヤに加わった荷重が考慮されるため、より正確に路面摩擦係数を算出することができる。
【0014】
図1において、路面摩擦係数の算出に関わる処理を行うデータ処理ユニット10が設けられる。データ処理ユニット10には、全体の制御を行う制御部11、実際に路面摩擦係数の算出処理を行う演算部12、この算出に用いられる各種のデータを記憶する不揮発性メモリやハードディスクである記憶部13が設けられる。
【0015】
演算部12における路面摩擦係数の算出には、特許文献3に記載の技術と同様に、タイヤの歪(変形量)データが用いられ、このデータは、歪認識部14と、これに接続された歪ゲージ20A~20Dによって認識される。また、この路面摩擦係数算出装置1においては、この算出において4つのタイヤに印加された荷重のデータも用いられ、このデータは荷重認識部15と、これに接続された荷重センサ21A~21Dによって認識される。これらの構成要素は電源16によって電力が供給されて用いられる。
【0016】
また、この路面摩擦係数算出装置1は、外部と無線通信を行ない外部に測定結果(算出された路面摩擦係数等)を送信する。この際には、現在の車両Tの位置情報、環境の温度(気温)等も付随して送信される。このため、
図1において、無線通信を行うための無線通信部30、GPSにより車両Tの位置(位置情報)を認識する位置情報取得部31、気温センサ32も設けられる。また、車両Tの現在の状況を示すデータとして、車両Tの傾斜角(水平面からの傾斜角度)を検知する傾斜センサ33も設けられる。また、上記のようにセンサを用いて認識される以外の車両T側からのデータ(例えば車両Tの移動速度等)をデータ処理ユニット10に入力する車両情報入力部34や、ユーザによるマニュアル操作でのデータ処理ユニット10に対する入力を受け付ける設定部35も設けられる。
【0017】
図2においては路面G上の車両T(貨物車)においてこの路面摩擦係数算出装置1が搭載された状況が記載されている。ここでは、この車両Tの走行のために用いられる構成要素は本願発明とは無関係であるため、車両T側におけるタイヤ100A(左前)、100B(右前)、100C(左後)、100D(右後)と車軸110A(前輪側)、110B(後輪側)以外については記載が省略されている。ここでは、特許文献3に記載の技術と同様に、歪ゲージ(歪センサ)20A~20Dが、それぞれタイヤ100A~100Dにおける接地面の裏側に設置されている。このため、特許文献3に記載の技術と同様に、歪ゲージ20A~20Dによって各タイヤのワイピング変形(走行時のタイヤの撓み変形)に基づくタイヤの変形量(歪)を認識することができる。歪ゲージ20A~20Dの出力は、近距離無線通信によって歪認識部14(データ処理ユニット10)に伝達される。これにより、演算部12は、各タイヤにおける変形量を認識することができる。
【0018】
また、この車両Tの重力は、2つの車軸110A、110Bを介してタイヤ100A~100Dに分散して路面Gに伝わる。このため、車軸110A、110Bにおけるタイヤ100A~100Dに近い側には、各タイヤに加わる荷重を検知するための荷重センサ21A~21Dがそれぞれ設置されている。
図2においては正確な記載が省略されているが、この荷重が適正に認識できるように、荷重センサ21A~21Dは設置されている。荷重センサ21A~21Dの出力は、荷重認識部15(データ処理ユニット10)に伝達される。これにより、演算部12は、各タイヤに印加された荷重を認識することができる。なお、荷重センサ21A~21Dはタイヤ100A~100Dの荷重を直接認識する必要はない。荷重センサ21A~21Dの車軸110A、110Bに対する位置関係が定まっていれば、少なくとも荷重センサ21A~21Dの認識した荷重からタイヤ100A~100Dの荷重を換算することができる。また、
図1においては傾斜センサ33は1つのみ記載されているが、
図2に示されるように実際には傾斜センサ33は車軸110A、100B側にそれぞれ設置されている。
【0019】
演算部12が歪認識部14(歪ゲージ20A~20D)の測定結果によって路面摩擦係数を算出する手法については特許文献3に記載の技術と同様のものが用いられる。
図3は、この手法において用いられる測定データを模式的に示す。
図3(a)においては、タイヤの回転に伴う歪ゲージの出力(歪変位量)の経時変化が示されて、特許文献3の
図2と同様である。ここでは、歪ゲージの設けられた箇所が回転に伴って接地した際に大きな歪変位量が認識される。
図3(a)に図示されるように、オフセット成分(ベースライン)を差し引いたこの歪変位量を最大歪変位量として定義すると、
図3(b)(特許文献3の
図7に対応)に示されるように、最大歪変位量は、路面摩擦係数の増大に対して単調に減少する。このため、予め実測によって
図3(b)の関係を認識しておけば、測定された最大歪変位量から路面摩擦係数を一義的に求めることができる。
【0020】
ただし、
図3(b)の関係は正確にはタイヤに印加される荷重によって変化する。具体的には、最大歪変位量が路面摩擦係数の増大に対して単調に減少するという傾向は同様であるが、最大歪変位量の絶対値(ワイピング変形)は、タイヤに印加される荷重が大きな場合には大きくなる。この点を考慮すると、
図3(b)の関係は、荷重毎に例えば
図4のように示され、このデータも、車両とタイヤの組み合わせ毎に、予め実測によって認識することができ、記憶部13に記憶させることができる。
【0021】
この荷重は、積載量に応じて変化し、前輪側(荷重センサ21A、21Bに対応)と後輪側(荷重センサ21C、21Dに対応)の荷重の比率も積載量に応じて変化する。
図5は、貨物車における最大積載量を12000kgとした場合における、積載率に対する前輪側の荷重、後輪側の荷重の例である。この場合、積載率が小さな場合には前輪側の荷重が後輪側の荷重よりも大きいが、積載率が100%近くなると、後輪側の荷重が特に大きくなる。このため、
図3(b)のような荷重を考慮しない場合の関係式は、積載量によっては実際の場合と大きく乖離するおそれがある。
【0022】
これに対して、この路面摩擦係数算出装置1においては、歪ゲージ20A~20Dと荷重センサ21A~21Dが組み合わせて用いられるため、タイヤ100A~100Dの各々に対して、最大歪変位量と荷重が同時に認識され、
図4の関係によって、演算部12は、各タイヤ毎に路面摩擦係数をより正確に認識することができる。この際、演算部12は、4つのタイヤ毎に得られた路面摩擦係数の代表値として、これらの平均値を用いる、あるいは
図4の特性が最も小さな誤差で成立する荷重範囲となったタイヤにおける値を用いる、等の手法を適宜用いることができる。
【0023】
また、この路面摩擦係数算出装置1は、外部と無線通信を行ない外部に測定結果(算出された路面摩擦係数等)を送信する。この際には、現在の車両Tの位置情報、環境の温度(気温)等も付随して送信される。このため、
図1において、無線通信を行うための無線通信部30、GPSにより車両Tの位置(位置情報)を認識する位置情報取得部31、気温センサ32も設けられる。また、車両Tの現在の状況を示すデータとして、車両Tの傾斜角(水平面からの傾斜角度)を検知する傾斜センサ33も設けられる。また、上記のようにセンサを用いて認識される以外の車両T側からのデータ(例えば車両Tの移動速度等)をデータ処理ユニット10に入力する車両情報入力部34や、ユーザによるマニュアル操作でのデータ処理ユニット10に対する入力を受け付ける設定部35も設けられる。
【0024】
図6は、上記の機能をもつ演算部12の構成を詳細に示すブロック図である。ここでは、まず、歪変位量算出手段121は、歪認識部14から入手した歪ゲージ20A~20Dの出力(歪変位量)の
図3(a)に示されるような時間経過を1周期以上において認識する。ここで、ベースライン算出手段122は、この特性における歪変位量が略一定値かつ最小値となるベースラインを認識し、最大歪変位量算出手段123は、歪変位量の極大値とこのベースラインの差分として最大歪変位量を認識する。
【0025】
路面摩擦係数推定手段124は、歪ゲージと対応するタイヤ荷重を荷重認識部15によって認識し、記憶部13に記憶された荷重毎の最大歪変位量の荷重依存性のデータ(
図4)より、歪ゲージ(タイヤ)毎に最大摩擦係数を算出することができる。
図4においては最大歪変位量の路面摩擦係数依存性が複数の荷重毎に離散的に示されているが、実測された荷重に基き、この特性を内挿してこの荷重に対応した特性(最大歪変位量の路面摩擦係数依存性)を認識し、最大歪変位量から路面摩擦係数を算出することができる。
【0026】
なお、
図5においては、前輪側の荷重、後輪側の荷重が示されたが、車両Tが停止中においてはこの前輪側の荷重はタイヤ100A(荷重センサ21A)、タイヤ100B(荷重センサ21B)に、後輪側の荷重はタイヤ100C(荷重センサ21C)、タイヤ100D(荷重センサ21D)にそれぞれ左右均等に分散される。一方、車両Tがカーブを走行中においてはこれらの荷重は左右で均等には分散されない。あるいは、車両Tが坂道を走行中である場合や加減速時においては、前輪側と後輪側の荷重の比率は
図5の場合から変化する。しかしながら、これらの場合においても、このように荷重センサ21A~21Dをタイヤ100A~100Dに対応させて設けることによって、上記の演算部12は、各タイヤの荷重を逐次認識することができる。すなわち、車両Tが走行していれば、その走行状態によらず、リアルタイムで各タイヤ毎に路面摩擦係数を算出することができる。
【0027】
制御部11は、このように測定された路面摩擦係数の値に応じて、車両Tの運転者に対してディスプレイ等を介した警報を発することができる。
図7は、このような制御部11の動作を示すフローチャートの一例である。前記のように演算部12は歪ゲージ20A~21Dと荷重センサ21A~21Dを用いて路面摩擦係数の各時点における値を算出するが、このような路面摩擦係数の瞬時値は例えば路面上の小石等の突発的な事象によって影響を受けるため、実際に運転者に対して発する警報は、このような突発的な事象を除いた路面状況(一定範囲にわたる路面の平均的な状況)に基づいて行われることが好ましい。このため、この警報は、ここでは連続的な測定結果に基づいて行われる。この連続的な測定の数はN1とし、実際にはN1は10程度とする。
【0028】
図7においては、まず、この連続的な測定のカウンタ数であるnがリセット(n=0に)される(S1)。次に、前記のように歪ゲージ20A~21Dと荷重センサ21A~21Dを用いて路面摩擦係数μが測定される(S2)。次に、制御部11は、測定されたμが0.5未満である(μが小さい)か否かを判定する(S3)。μが0.5未満であった場合(S3:Yes)には、nをインクリメントする(S4)。S2~S4の動作は、n>N1となる(S5:Yes)まで繰り返される。ここでn>N1となった場合(S5:Yes)は、μがN1回連続で0.5未満となった場合に対応する。
【0029】
n>N1となった場合(S5:Yes)には、制御部11は、気温センサ32によって測定された気温が4℃未満であるか否かを判定する(S6)。気温が4℃以上である場合(S6:No)には、μの低下は、路面凍結に起因するものではないが、路面状況が良好でないこと(未舗装であること等)に起因すると考えられるため、制御部11は、この旨を通知する警報(警報A)として、例えば「路面が滑りやすいので注意してください」等の内容を表示する(S7)。
【0030】
気温が4℃未満であった場合(S6:Yes)には、μの低下は路面凍結に起因する可能性が高い。この場合、制御部11は、μが0.2未満であるか(μが特に小さいか)否かを判定する(S8)。ここで用いられるμは、N1回の平均値、N1回の測定における最小値等を適宜設定することができる。μが0.2未満であった場合(S8:Yes)には、路面凍結によって特にμが低下した最も危険な状態であると考えられるため、制御部11は、この旨を通知する警報(警報C)として、例えば「路面が凍結しており非常に危険です」等の内容を表示する(S9)。μが0.2以上であった場合(S8:No)には、警報Aの状況と警報Cの状況の中間的な状態であるため、制御部11は、この旨を通知する警報(警報B)として、「路面が凍結しているおそれがあるので注意してください」等の内容を表示する(S10)。
【0031】
また、μが0.5以上であった場合(S3:No)、には、上記のいずれの警報も発せられない。このため、ここでは、警報Cが最も危険度が高く、警報Aが最も危険度が低く、いずれの警報も発せられない状況が安全な通常の状態となる。運転者が上記の警報を見て、あるいは警報に関わらず運転を続行する場合(S11:No)には、再びS1から上記の動作が行われる。運転者が運転者が上記の警報を見て、あるいは警報に関わらず運転を停止する場合(S11:Yes)には、動作は修了する。
【0032】
上記の動作において、μ測定(S2)の時間間隔、N1は、車両Tの移動速度や、路面における評価対象となる長さ(進行方向に沿った長さ)に応じて適宜設定される。例えば、移動速度が100km/hの場合、秒速2.8m/sとなり、この時間間隔を0.1秒、N1=10とすれば、1秒間における2.8mの長さにわたるμの値に基づき上記の警報が発せられる。なお、上記の判定S3、S8において用いられるμの設定値、上記の判定S6に応じて用いられる気温の設定値は、適宜設定することができる。また、上記の警報は3段階とされたが、これを2段階以下、4段階以上としてもよい。
【0033】
すなわち、上記の動作によって、制御部11は、運転者に路面状況の悪化を警報として伝達することによって、運転を安全に行わせることができる。
【0034】
一方、制御部11は、このように認識された現在の路面摩擦係数を、位置情報取得部31によって認識された車両Tの位置情報と対応させて無線通信部30から外部に発信することができる。この際、これらに付随した情報として、気温センサ32によって認識された気温や、傾斜センサ33によって認識された車両Tの傾斜角も同時に発信することができる。また、位置情報の時間変化や車両情報入力部34によって得られた車両Tの速度も同時に発信することができる。
【0035】
このため、この路面摩擦係数算出装置1を搭載した車両Tと、地上に固定されたコンピュータである管理センタとで、道路管理システムを構築することができる。
図8は、この道路管理システムを模式的に示す図である。ここでは、上記の情報は、車両T(路面摩擦係数算出装置1)から離間した箇所で地上に固定された管理センタ200側で無線通信が受信することができる。管理センタ200は、車両Tの移動に伴って逐次これらの情報を認識することによって、道路の管理を容易に行うことができる。
【0036】
例えば、「路面の滑り摩擦と路面管理水準及び滑り止め事故」(土研センター、土木技術資料52-2(2010年)、http://pwrc.or.jp/s-pdf/1005-p056-059.pdf)に記載された、各種の路面(舗装路面、砂利道等)における気象状況(乾燥時、湿潤時)における路面摩擦係数μ(無次元量)を
図9に示す。また、「これからの舗装マネジメント」、(国土交通省:https://www.mlit.go.jp/common/001145725.pdf)に示されたように、μは路面の損傷(ひび割れ等)に影響されるため、μの経時的な変化を認識することができれば、路面の損傷の進行度合いを認識することができ、これに応じた対応(例えば緊急の修繕工事)の要否の判断をすることができる。例えば、設計速度が80km/hの道路ではμが0.25以下となった場合には修繕工事をすることが好ましい。複数の車両T側から様々な箇所の路面摩擦係数のデータを管理センタ100が受信することによって、管理センタ100側がこの判断をすることができる。この判断も、
図7における場合と同様に、連続的な複数回のμの測定結果に基づいて行われることが好ましい。
【0037】
図10は、管理センタ200におけるこのような動作(コンピュータプログラムが行なわせる動作)を示すフローチャートの一例である。ここでは、上記のようなμの連続的な測定回数はN2とされ、N2も例えば10程度とすることができる。
図10においては、まず、
図7の場合と同様に連続的な測定のカウンタ数であるnがリセット(n=0に)される(S21)。次に、管理センタ200は前記のように路面摩擦係数算出装置1(車両T)側から路面摩擦係数μの測定値を前記のように位置情報等と共に取得する(S22)。次に、管理センタ200は、測定されたμが0.25未満である(μが小さい)か否かを判定する(S23)。μが0.25未満であった場合(S23:Yes)には、nをインクリメントする(S24)。S22~S24の動作は、n>N2となる(S25:Yes)まで繰り返される。ここでn>N2となった場合(S25:Yes)は、μがN2回連続で0.25未満となった場合に対応する。すなわち、以上の処理によって継続的に路面摩擦係数が小さく測定された測定点が認識される(対象測定点認識工程)。
【0038】
n>N2となった場合(S25:Yes)には、管理センタ200は、μの値と共に取得した位置情報より、このようにμが低くなった領域を特定する(S26)。これによって、継続的に路面摩擦係数が小さく測定された測定点に対応した領域の位置情報が認識される(領域認識工程)。この領域が、修繕工事をすることが望ましい領域となる。
【0039】
次に管理センタ200は、μが0.2未満であるか(μが特に小さいか)否かを判定する(S27)。ここで用いられるμは、N2回の平均値、N2回の測定における最小値等を適宜設定することができる。μが0.2未満であった場合(S27:Yes)には、この領域では特に路面状況が劣化していると推定されるため、管理センタ200は、この領域の位置情報を、緊急に修繕工事が必要となる領域として、緊急修繕データベースに登録し(S28:領域登録工程)、その旨を道路管理者に通報する(S29)。これによって、通報を受けた道路管理者は、この領域の修繕工事を行うことができる。
【0040】
一方、μが0.2以上であった場合(S27:No)には、この領域においては修繕工事をすることが好ましいがその緊急度は低いと考えられる。このため、管理センタ200は、この領域の位置情報を、緊急度は低いが修繕工事が望ましい領域として、要修繕データベースに登録する(S30:領域登録工程)。道路管理者は、このように要修繕データベースに登録された領域については、即時ではないが逐次計画的に修繕工事を行うことができる。
【0041】
図11は、このように管理センタ200側で認識されたμの時間経過の例を示す。この場合には、A1に対応した領域の位置情報が要修繕データベースに登録され、A2に対応した領域の位置情報が緊急修繕データベースに登録される。複数の車両T(路面摩擦係数算出装置1)が用いられている場合、同一地点に対して異なる車両Tからの複数のデータが取得される場合もあるが、この場合には、最新のデータに基づき結果を更新する、複数のデータの平均値を用いる等の手法によって、この領域に対するデータの精度を高めることができる。
【0042】
上記の動作によって、上記の路面摩擦係数算出装置1を用いて、道路管理者が修繕の必要となる領域を適切に認識し、その対応をすることができる。特に、路面摩擦係数算出装置1を搭載した車両Tが複数走行している場合には、上記のような路面状況を広い範囲にわたり逐次入手できるため、この対応を素早く適切に行うことができる。
【0043】
図7の場合と同様に、上記の判定S23、S27で用いられるμの値は適宜設定することができる。また、
図10の動作においても
図7の動作と同様に気温センサ32によって測定された気温を認識し、気温が0℃近い場合においてはμの低下は路面凍結によるものであり路面のひび割れ等の劣化とは無関係であると推定し、上記のようなデータベースへの登録(S28、S30)を行なわない設定としてもよい。ただし、この場合でも、この領域が要注意領域であるとして登録し、その旨を道路管理者に通報することが好ましい。
【0044】
また、車両Tの運転者に対して警告を発する
図7の動作においてはデータ取得(S2)はリアルタイムで行なわれ、これに応じた判定(S3、S8等)も即時に行われることが好ましい。これに対して、道路管理のために行われる
図10の動作においては、データ入手(S22)及びこのデータに基づく判定(S23、S27等)には、
図7の動作と同程度の緊急性は要求されず、厳密にリアルタイムで行われる必要はない。このため、車両Tあるいは路面摩擦係数測定装置1側で一定期間内における測定データ(路面摩擦係数、位置情報等)を一括して記憶し、このデータをネットワーク等で管理センタ200側に送信した後に、このデータに対して時系列毎に
図10の動作を行なってもよい。
【0045】
例えば特許文献3に記載された路面摩擦係数算出装置を用いても管理センタは
図10と同様の動作を行うことができる。しかしながら、このようにN2回にわたり連続的に測定されたμの値を用いて判定をする場合においては、このN2回の測定の間において車両Tが加減速する、あるいはカーブを走行する場合には、その間にタイヤの荷重が変化するために、この間において測定されたμの値の信頼性が低くなる。このため、上記のような修繕工事の要否の判断が適切に行われない場合が多くなる。これに対して、上記の路面摩擦係数算出装置1を用いた場合には、連続的な測定の間にタイヤの荷重が変化しても、この影響が考慮されてμが測定されるため、測定されたμの値の信頼性が高くなり、この判断が常に適切に行われる。すなわち、この路面摩擦係数算出装置1は、道路の管理を行う上で特に有効である。
【0046】
以上、本発明を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0047】
1 路面摩擦係数算出装置
10 データ処理ユニット
11 制御部
12 演算部
13 記憶部
14 歪認識部
15 荷重認識部
16 電源
20A~20D 歪ゲージ(歪センサ)
21A~21D 荷重センサ
30 無線通信部
31 位置情報取得部
32 気温センサ
33 傾斜センサ
34 車両情報入力部
35 設定部
100A~100D タイヤ
110A、110B 車軸
121 歪変位量算出手段
122 ベースライン算出手段
123 最大歪変位量算出手段
124 路面摩擦係数推定手段
200 管理センタ
G 路面
T 車両