(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178876
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】粉砕装置、評価装置、および評価方法
(51)【国際特許分類】
B02C 15/12 20060101AFI20221125BHJP
B02C 25/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B02C15/12
B02C25/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021085978
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】布田 将一
【テーマコード(参考)】
4D063
4D067
【Fターム(参考)】
4D063EE06
4D063EE17
4D063EE22
4D063GB02
4D063GB04
4D063GC05
4D063GC12
4D063GC14
4D063GC19
4D063GC21
4D063GC29
4D063GC32
4D063GD04
4D063GD13
4D063GD15
4D063GD16
4D067FF04
4D067FF13
4D067FF14
4D067GA08
4D067GA10
4D067GA20
4D067GB02
(57)【要約】
【課題】2つのリングに挟まれた複数のボールで粉砕を行う粉砕装置において粉砕状況を高精度に評価する技術を提供する。
【解決手段】粉砕装置10は、第1リング76、第2リング74、複数のボール72、駆動部78、検出部120、処理部140、および出力部150を備える。複数のボール72は、第1リング76と第2リング74との間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する。駆動部78は、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方を回転させる。検出部120は、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方の振動を検出する。処理部140は、検出部120で得られた検出データを処理することにより出力データを生成する。出力部150は、出力データを出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1リングおよび第2リングと、
前記第1リングと前記第2リングとの間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する複数のボールと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を回転させる駆動部と、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方の振動を検出する検出部と、
前記検出部で得られた検出データを処理することにより出力データを生成する処理部と、
前記出力データを出力する出力部とを備える
粉砕装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粉砕装置において、
前記出力部から出力された前記出力データを用いて粉砕条件を制御する制御部をさらに備える
粉砕装置。
【請求項3】
請求項2に記載の粉砕装置において、
前記粉砕対象物を送風により循環させる送風部をさらに備え、
前記制御部は、前記出力データに基づいて前記送風部を制御する
粉砕装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の粉砕装置において、
前記出力部から出力された前記出力データを表示する表示部をさらに備える
粉砕装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉砕装置において、
前記検出部は加速度を検出する
粉砕装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粉砕装置において、
前記処理部は、
前記検出データから予め定められた周波数帯域の成分を抽出した抽出データを生成し、
前記抽出データを処理することにより前記出力データを生成する
粉砕装置。
【請求項7】
請求項6に記載の粉砕装置において、
前記処理部は、ローパスフィルタを用いて前記抽出データを生成する
粉砕装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の粉砕装置において、
前記駆動部は前記第1リングを回転させ、
前記第2リングは前記第1リングに対して前記複数のボールを押し付けており、
前記検出部は、前記第2リングの振動を検出する
粉砕装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の粉砕装置において、
前記検出部は変位を検出し、
前記処理部は、前記変位のオフセット量を示す前記出力データを生成する
粉砕装置。
【請求項10】
粉砕装置の粉砕状況を評価する評価装置であって、
振動を検出した検出データを取得する取得部と、
前記検出データを処理することにより出力データを生成する処理部と、
前記出力データを出力する出力部とを備え、
前記粉砕装置は、
第1リングおよび第2リングと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を回転させる駆動部と、
前記第1リングと前記第2リングとの間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する複数のボールと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方の振動を検出する検出部と、
を備え、
前記取得部は、前記検出部で得られた前記検出データを取得する
評価装置。
【請求項11】
粉砕装置の粉砕状況を評価する評価方法であって、
振動を検出した検出データを取得する取得ステップと、
前記検出データを処理することにより出力データを生成する処理ステップと、
前記出力データを出力する出力ステップとを含み、
前記粉砕装置は、
第1リングおよび第2リングと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を回転させる駆動部と、
前記第1リングと前記第2リングとの間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する複数のボールと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方の振動を検出する検出部と、
を備え、
前記取得ステップでは、前記検出部で得られた前記検出データを取得する
評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉砕装置、評価装置、および評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉砕装置において、運転条件には複数のパラメータがあり、効果的な粉砕を行うためにはそれらを適切に設定する必要がある。
【0003】
特許文献1には、リングボールミル機構を有するミル装置が記載されている。特許文献1のリングボールミル機構では、複数の粉砕ボールが、回転するロアリングとアッパーリングとの間に挟まれた構造を有している。
【0004】
特許文献2には、検出器により検出されたボールミルの負荷状態に応じて各ボールミルへの粉砕物供給量を調整することが記載されている。また、特許文献2には、検出器として、粉砕音の音響レベルを検出する音響センサ、分級された粉を輸送する輸送機の駆動モータ負荷を検出するトルク検出器、分級機の駆動モータ負荷を検出するトルク検出器、または分級された粉の流量を検出する流量計を使用可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/250960号
【特許文献2】特開平7-284687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、粉砕装置の制御の精度を向上させるためには、粉砕状況を粉砕装置のタイプに応じて適切に評価することが必要である。そしてリングボールミル機構における粉砕状況の評価精度には向上の余地があった。
【0007】
本発明は、2つのリングに挟まれた複数のボールで粉砕を行う粉砕装置において粉砕状況を高精度に評価する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
第1リングおよび第2リングと、
前記第1リングと前記第2リングとの間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する複数のボールと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を回転させる駆動部と、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方の振動を検出する検出部と、
前記検出部で得られた検出データを処理することにより出力データを生成する処理部と、
前記出力データを出力する出力部とを備える
粉砕装置
が提供される。
【0009】
本発明によれば、
粉砕装置の粉砕状況を評価する評価装置であって、
振動を検出した検出データを取得する取得部と、
前記検出データを処理することにより出力データを生成する処理部と、
前記出力データを出力する出力部とを備え、
前記粉砕装置は、
第1リングおよび第2リングと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を回転させる駆動部と、
前記第1リングと前記第2リングとの間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する複数のボールと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方の振動を検出する検出部と、
を備え、
前記取得部は、前記検出部で得られた前記検出データを取得する
評価装置
が提供される。
【0010】
本発明によれば、
粉砕装置の粉砕状況を評価する評価方法であって、
振動を検出した検出データを取得する取得ステップと、
前記検出データを処理することにより出力データを生成する処理ステップと、
前記出力データを出力する出力ステップとを含み、
前記粉砕装置は、
第1リングおよび第2リングと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方を回転させる駆動部と、
前記第1リングと前記第2リングとの間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する複数のボールと、
前記第1リングおよび前記第2リングの少なくとも一方の振動を検出する検出部と、
を備え、
前記取得ステップでは、前記検出部で得られた前記検出データを取得する
評価方法
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、2つのリングに挟まれた複数のボールで粉砕を行う粉砕装置において粉砕状況を高精度に評価する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態に係る粉砕装置の機能構成を例示する図である。
【
図2】第1の実施形態に係る粉砕装置において粉砕対象物を粉砕するための構造を例示する図である。
【
図3】第1の実施形態に係る粉砕装置において粉砕対象物を粉砕するための構造を例示する図である。
【
図4】リングボールミル機構の構成を例示する図である。
【
図5】リングボールミル機構の構成を例示する図である。
【
図6】処理部、出力部および制御部を実現するための集積回路のハードウエア構成を例示する図である。
【
図7】粉砕動作中の対象物の流れを例示する図である。
【
図8】粉砕装置において第2リングと粉砕ボールとの間および第1リングと粉砕ボールとの間に対象物がない状態と、第2リングと粉砕ボールとの間および第1リングと粉砕ボールとの間に対象物がある状態とを示す図である。
【
図9】処理部が行う処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図10】第2の実施形態に係る粉砕装置の構成を例示する図である。
【
図11】第2の実施形態に係る制御部が行う処理の流れを例示するフローチャートである。
【
図12】第3の実施形態に係るリングボールミル機構の様子を例示する図である。
【
図13】第3の実施形態に係る粉砕装置の機能構成の変形例を示す図である。
【
図14】第4の実施形態に係る評価装置の機能構成を例示する図である。
【
図15】第4の実施形態に係る評価装置の機能構成の変形例を示す図である。
【
図16】評価装置を実現するための計算機を例示する図である。
【
図17】第4の実施形態に係る評価装置が実行する評価方法の流れを例示するフローチャートである。
【
図18】実施例1における粉砕時の駆動信号と出力データを示すグラフである。
【
図19】実施例2における粉砕時の駆動信号と出力データを示すグラフである。
【
図20】(a)~(d)は、実施例3において粉砕装置の動作中に圧電式加速度センサで得られた検出データのスペクトログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
なお、以下に示す説明において、特に説明する場合を除き、粉砕装置10の検出部120、処理部140、出力部150、表示部160、制御部170、記憶部180、および判定部190や、評価装置200の取得部230、処理部240、出力部250、表示部260、および制御部270は、ハードウエア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。粉砕装置10の検出部120、処理部140、出力部150、表示部160、制御部170、記憶部180、および判定部190や、評価装置200の取得部230、処理部240、出力部250、表示部260、および制御部270は、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされた本図の構成要素を実現するプログラム、そのプログラムを格納するハードディスクなどの記憶メディア、ネットワーク接続用インタフェースを中心にハードウエアとソフトウエアの任意の組合せによって実現される。そして、その実現方法、装置には様々な変形例がある。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る粉砕装置10の機能構成を例示する図である。本実施形態に係る粉砕装置10は、第1リング76、第2リング74、複数のボール(粉砕ボール)72、駆動部78、検出部120、処理部140、および出力部150を備える。複数のボール72は、第1リング76と第2リング74との間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する。駆動部78は、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方を回転させる。検出部120は、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方の振動を検出する。処理部140は、検出部120で得られた検出データを処理することにより出力データを生成する。出力部150は、出力データを出力する。以下に詳しく説明する。
【0016】
図2および
図3は、本実施形態に係る粉砕装置10において粉砕対象物を粉砕するための構造を例示する図である。
図3では、容器20内のガスおよび粉砕対象物の流れ、および駆動部78の動きを矢印で示している。本実施形態の粉砕装置10は、リングボールミル機構70、容器20、送風部50、注入筒30、加圧機構80、供給部90、および制御部170を備える。以下、
図2~
図5を参照し、粉砕装置10の構造について詳しく説明する。
【0017】
リングボールミル機構70は、複数個の粉砕ボール72、第1リング76、および第2リング74を備える。第1リング76は複数個の粉砕ボール72を維持しながら軸周り(軸Oの周り)に回転する。第2リング74は、複数個の粉砕ボール72に対し第1リング76とは反対側に配置され、複数個の粉砕ボール72を第1リング76に押し付ける。
【0018】
容器20は、その内部にリングボールミル機構70が配置され、リングボールミル機構70よりも上方側の部分に貫通孔24Aが形成されている。送風部50は、容器20におけるリングボールミル機構70よりも下方側に取り付けられ、容器20の内部の上方に向けて送風する。注入筒30は、容器20に取り付けられ、貫通孔24Aを貫通している。注入筒30は、第1リング76における複数個の粉砕ボール72よりも軸側に、外部のガスを流入させるために設けられている。加圧機構80は、第2リング74を粉砕ボール72に対して押し付ける、すなわち、第2リング74を介し粉砕ボール72を第1リング76に対して押し付けるための機構である。
【0019】
制御部170は、第1リング76の回転動作及び送風部50の送風動作および加圧機構80による加圧動作を制御する。
【0020】
<容器>
容器20は、
図2に示されるように、一例として円筒状であり、周壁22と、天板24と、底板26とを有している。容器20の内部(周壁22、天板24及び底板26とで囲まれている空間)には、注入筒30の一部、円錐筒35、排出管40の一部、送風部50、ウィング機構60、リングボールミル機構70、及び加圧機構80の一部が配置されている。天板24には、貫通孔24Aが形成されている。別の見方をすると、貫通孔24Aは、容器20におけるリングボールミル機構70よりも上方側の部分に形成されている。なお、
図2における符号Oは、容器20の軸を示している。また、符号+Zは粉砕装置10の上下方向の上方側を示し、符号-Zは粉砕装置10の上下方向の下方側を示している。
【0021】
<注入筒、円錐筒及び排出管>
注入筒30は、粉砕動作の開始前に容器20の外部から内部に粉砕しようとする粉砕対象物(以下、対象物とも呼ぶ。)を導入するための導入管としての機能を有する。また、注入筒30は、粉砕動作時に容器20の外部のガス(一例として窒素、アルゴン等の不活性ガス、または空気)を内部に流入させる流入経路としての機能を有する。注入筒30は、
図2に示されるように、貫通孔24Aを貫通した状態で配置されている。注入筒30は、その上下方向の上方側の部分の外周を排出管40に囲まれた状態で、その上端側の部分で排出管40に固定されている。ここで、排出管40は、容器20の天板24の貫通孔24Aに嵌り込んで固定されている。すなわち、注入筒30は、排出管40を介して容器20に取り付けられている。また、注入筒30の下端は、後述するリングボールミル機構70の複数の粉砕ボール72で囲まれた領域に向けて開口している。そして、注入筒30は、粉砕動作の開始前にリングボールミル機構70の中央側に(複数の粉砕ボール72よりも軸O側に)粉砕対象物を導入するようになっており、粉砕動作時に外部のガスを流入させるようになっている。
【0022】
円錐筒35は、その頂点側(外周長が短い側)を上下方向の下方側に向けて注入筒30の一部を囲んでいる。また、円錐筒35は、リングボールミル機構70よりも上方側に配置されている。
【0023】
排出管40は、粉砕された対象物を排出するための管である。排出管40は、
図2に示されるように、その正面視にて、アルファベットのr字状を有している。すなわち、排出管40は、軸Oに沿って配置されている円筒部分42と、円筒部分42の上下方向の中央部分に斜め方向から繋がっている枝状部分44とを有している。円筒部分42の下端は容器20の内部で開口し、円筒部分42の上端部分には注入筒30が固定されている。枝状部分44の上端の開口は、集塵機(図示省略)に繋がっている。
【0024】
<送風部>
送風部50は、
図2に示されるように、容器20におけるリングボールミル機構70よりも下方側に取り付けられ、容器20の内部の上方に向けてガス(一例として窒素、アルゴン等の不活性ガス、または空気)を送り込む機能を有する。送風部50は、一例として複数のガス出射部を有している。各ガス出射部は、容器20の内周面とリングボールミル機構70(第1リング76)との間に形成されている隙間に向けてガス流を出射するようになっている(
図3参照)。
【0025】
<ウィング機構>
ウィング機構60は、
図2に示されるように、容器20の内部における、天板24と円錐筒35との間に配置されている。ウィング機構60は、軸Oを中心として点対称に並べられた複数の揺動ウィングを有している。軸Oに対する各揺動ウィングの向きは可変であり、複数の揺動ウィングの向きを変更することにより、枝状部分44から排出されるガス量を調節できるようになっている。
【0026】
<リングボールミル機構及び加圧機構>
図4および
図5は、リングボールミル機構70の構成を例示する図である。リングボールミル機構70は、加圧機構80に加圧されて、粉砕対象物にせん断力及び圧縮応力を作用させる機能を有する。リングボールミル機構70は、
図2に示されるように、一例として、容器20の内部における上下方向の下方側に配置されている。リングボールミル機構70は、複数個の粉砕ボール72と、第1リング76と、第2リング74と、駆動部78とを有している。
【0027】
複数個の粉砕ボール72は、一例としてセラミック製である。ここで、複数個の粉砕ボール72を構成するセラミックとしては、アルミナ、安定化ジルコニア、窒化ケイ素等が使用できる。
【0028】
第1リング76は、
図5に示すように、複数個の粉砕ボール72を維持しながら駆動部78に駆動されて軸周り(軸Oの周り)に回転するようになっている。第1リング76は、一例として、中央に貫通孔が形成されているドーナツ状の部材である。第1リング76の上面には、複数個の粉砕ボール72を維持するために、各粉砕ボール72が嵌る複数個の凹み76Aが形成されている。ここで、第1リング76はたとえばセラミック製であり、第1リング76を構成するセラミックとしては、アルミナ、安定化ジルコニア、窒化ケイ素等が使用できる。
【0029】
第2リング74は、第1リング76に維持されている複数個の粉砕ボール72を挟んで第1リング76の反対側に配置されている。第2リング74は、その上面を後述する加圧機構80に加圧されて、複数個の粉砕ボール72を第1リング76に押し付けるようになっている。第2リング74は、一例として、中央に貫通孔が形成されているドーナツ状の部材である。第2リング74の下面には、複数個の粉砕ボール72を維持するために、各粉砕ボール72が嵌る凹み74Aが形成されている。凹み74Aは軸Oに対して点対称に配置されている。ここで、第2リング74はたとえばセラミック製であり、第2リング74を構成するセラミックとしては、アルミナ、安定化ジルコニア、窒化ケイ素等が使用できる。
【0030】
駆動部78は、
図2に示されるように、第1リング76の下方側に配置されている。第1リング76は駆動部78に対して固定されている。駆動部78は、軸周り(軸Oの周り)に回転することで第1リング76を軸Oの周りに回転させる。一例として第1リング76は25rpm以上300rpm以下で回転できるようになっている。駆動部78は、好ましくは100rpm以上140rpm以下で第1リング76を回転させる。
【0031】
加圧機構80は一例として、リング単位表面積荷重10,000kgf/m2以上40,000kgf/m2以下の加圧力で第2リング74の上面に加圧する機能を有している。加圧機構80は、好ましくはリング単位表面積荷重12,000kgf/m2以上28,000kgf/m2以下の加圧力で第2リング74に加圧する。
【0032】
<供給部>
供給部90はたとえばスクリューフィーダー、ロータリーバルブ、テーブルフィーダ等のフィーダである。供給部90は、注入筒30を介して容器20の内部に対象物100を供給する。供給部90による対象物100の供給速度は可変である。
【0033】
<制御部>
制御部170は、粉砕装置10の動作を制御する機能を有する。具体的には、制御部170は、駆動部78の回転動作、送風部50の送風動作、加圧機構80の加圧動作、および供給部90の供給動作等を制御するようになっている。たとえば制御部170は、駆動部78の回転速度、すなわち第1リング76の回転速度を所定の値とするよう駆動部78を制御する。制御部170はたとえば風速を所定の値とするよう送風部50を制御する。また、制御部170は、加圧力を所定の値とするよう加圧機構80を制御する。供給部90は、所定の速度で対象物100を供給する。たとえばユーザは粉砕装置10に対してこれらの所定の値のそれぞれを入力して設定することができる。制御部170は入力された値に基づき、制御を行える。駆動部78の回転速度、送風部50の風速(回転速度)、加圧機構80の加圧力、供給部90の供給速度等が、粉砕装置10における粉砕条件に相当する。
【0034】
対象物100は特に限定されないが、たとえば金属、半導体、ガラス等の無機物である。容器20に供給する対象物100の粒径は特に限定されず、塊状であってもよいし、粉体であっても良い。粉砕装置10によれば粉体の粒子をさらに細かくすることができる。対象物100の平均粒径はたとえば1μm以上100μm以下とすることができ、1μm以上10μm以下であることが特に好ましい。
【0035】
粉砕装置10の処理部140、出力部150および制御部170は、実現するハードウエア(例:ハードワイヤードされた電子回路など)で実現されてもよいし、ハードウエアとソフトウエアとの組み合わせ(例:電子回路とそれを制御するプログラムの組み合わせなど)で実現されてもよい。以下、処理部140、出力部150および制御部170がハードウエアとソフトウエアとの組み合わせで実現される場合について、さらに説明する。
【0036】
図6は、処理部140、出力部150および制御部170を実現するための集積回路400のハードウエア構成を例示する図である。集積回路400は、例えば SoC(System On Chip)である。
【0037】
集積回路400は、バス402、プロセッサ404、メモリ406、ストレージデバイス408、入出力インタフェース410、及びネットワークインタフェース412を有する。バス402は、プロセッサ404、メモリ406、ストレージデバイス408、入出力インタフェース410、及びネットワークインタフェース412が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ404などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。プロセッサ404は、マイクロプロセッサなどを用いて実現される演算処理装置である。メモリ406は、RAM(Random Access Memory)などを用いて実現されるメモリである。ストレージデバイス408は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリなどを用いて実現されるストレージデバイスである。
【0038】
入出力インタフェース410は、集積回路400を周辺デバイスと接続するためのインタフェースである。粉砕装置10において入出力インタフェース410にはたとえば検出部120や表示部160としての表示装置等が接続されている。
【0039】
ネットワークインタフェース412は、集積回路400を通信網に接続するためのインタフェースである。なお、ネットワークインタフェース412が通信網に接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0040】
ストレージデバイス408は、処理部140、出力部150および制御部170の機能を実現するためのプログラムモジュールをそれぞれ記憶している。プロセッサ404は、このプログラムモジュールをメモリ406に読み出して実行することで、処理部140、出力部150および制御部170の機能を実現する。
【0041】
集積回路400のハードウエア構成は本図に示した構成に限定されない。例えば、プログラムモジュールはメモリ406に格納されてもよい。この場合、集積回路400は、ストレージデバイス408を備えていなくてもよい。
【0042】
粉砕装置10が粉砕対象物を粉砕する動作(粉砕動作)について以下に説明する。まず、制御部170は、リングボールミル機構70の駆動部78の駆動を開始させる。これに伴い、第1リング76は、駆動部78により駆動されて軸O周りに回転する。また、制御部170は、送風部50の複数のガス出射部からガスを出射させる。この場合、注入筒30には外部から容器20の内部にガス(一例として窒素、アルゴン等の不活性ガス、または空気)が流され続ける。そうるすことにより、容器20の内部では、
図3に示されるようなガス流が循環する。粉砕動作はこのようなガス流が生じた状態で行われる。また、制御部170は、加圧機構80を制御して第2リング74に加圧させる。これに伴い、第2リング74は複数個の粉砕ボール72を第1リング76に押し付ける。
【0043】
図7は、粉砕動作中の対象物100の流れを例示する図である。本図中、ガスおよび対象物100の流れおよび第1リング76の動きを矢印で示している。リングボールミル機構70の中央に導入された粉砕対象物100は、第1リング76の回転に伴い遠心力を受けて第1リング76の径方向外側に移動する。その結果、粉砕対象物100は、第1リング76の各凹み76Aと当該各凹み76Aに維持されている粉砕ボール72との間に入り込む。
【0044】
一方で、第1リング76の回転に伴い、複数個の粉砕ボール72は、軸周り(軸Oの周り)に公転する。この場合、各粉砕ボール72は、軸周りに回転する第1リング76の各凹み76Aに嵌って第1リング76に維持されていること、および静止している第2リング74に加圧されていること等により、公転しながら自転する(
図4及び
図5参照)。
【0045】
以上より、第1リング76と粉砕ボール72との間に入り込んだ粉砕対象物100は、第1リング76に対して相対的に移動する粉砕ボール72と第1リング76とに加圧される。その結果、粉砕対象物100は、粉砕ボール72及び第1リング76によりせん断力及び圧縮応力を受ける。そして、一部の粉砕対象物100は粉砕ボール72に付着したまま粉砕ボール72と第2リング74との間に移動する。その結果、一部の粉砕対象物100は、粉砕ボール72及び第2リング74によりせん断力及び圧縮応力を受ける。このようにして、粉砕対象物100は、遠心力により第1リング76の径方向外側に移動しながら、各粉砕ボール72と第2リング74との間、及び、各粉砕ボール72と第1リング76との間の一方又は両方によりせん断力及び圧縮応力を受けて第1リング76の外周縁側まで移動する。
【0046】
第1リング76の外周縁側まで移動した対象物100は、送風部50の複数のガス出射部から出射されるガスにより、上方側に浮遊する(
図7参照)。これに伴い、リングボールミル機構70により粉砕された対象物100は、リングボールミル機構70よりも上方側まで浮遊する。次いで、浮遊した対象物100は、容器20の内部を循環するガス流により誘導されて、再度リングボールミル機構70の中央に移動する。
【0047】
このように対象物100は容器20内を循環しながら粉砕される。そして、ある程度小さい粒子となった一部の対象物100は、送風部50によって高く吹き上げられ、ウィング機構60を通って円錐筒35の内側に入り込む。円錐筒35の内側に入った対象物は排出管40の枝状部分44から集塵機(図示省略)に排出される。こうして粉砕された対象物100が集塵機内に得られる。
【0048】
粉砕装置10において行われる粉砕状況の評価について以下に説明する。粉砕装置10においては、第2リング74と粉砕ボール72との間および第1リング76と粉砕ボール72との間に対象物100が多くある状態を維持することで、効率よく粉砕を進めることができる。
【0049】
図8は、粉砕装置10において第2リング74と粉砕ボール72との間および第1リング76と粉砕ボール72との間に対象物100がない状態(図中左)と、第2リング74と粉砕ボール72との間および第1リング76と粉砕ボール72との間に対象物100がある状態(図中右)とを示す図である。本図中、粉砕ボール72および第1リング76の動きを矢印で示している。
【0050】
粉砕装置10において、第2リング74と粉砕ボール72との間および第1リング76と粉砕ボール72との間に対象物100がない状態(すなわち対象物100を挽いていない状態)では、粉砕ボール72は第1リング76と第2リング74との間で比較的なめらかに回転する。また、第1リング76は第2リング74に対して比較的なめらかに回転する。そしてこの状態は、粉砕ボール72が第2リング74および第1リング76と接している状態であり、すなわち、硬い物質と硬い物質の接触が主に生じている状態である。一方、第2リング74と粉砕ボール72との間および第1リング76と粉砕ボール72との間に対象物100がある状態(すなわち対象物100を挽いている状態)では、粉砕ボール72は第1リング76と第2リング74との間で対象物100を挽きながら回転する。そしてこの状態は、第2リング74と対象物100とが接し、対象物100と粉砕ボール72とが接し、および対象物100と第1リング76とが接している状態であり、すなわち、硬い物質と柔らかい物質の接触が主に生じている状態である。
【0051】
このような状態の違いに起因し、検出部120で検出される振動の大きさや成分には違いが生じることが見いだされた。具体的には、第2リング74と粉砕ボール72との間および第1リング76と粉砕ボール72との間に多くの対象物100が介在している状態、すなわち、よく対象物100を挽いている状態では、あまり対象物100を挽いていない状態に比べて、検出部120で検出される振動が大きくなる傾向があり、また、振動の低周波数成分が大きくなる傾向があることが見いだされた。
【0052】
本実施形態に係る粉砕装置10では、上述した通り、駆動部78は第1リング76を回転させる。そして、第2リング74は第1リング76に対して複数の粉砕ボール72を押し付けている。第1リング76の回転に伴い、第2リング74および第1リング76には振動が生じる。ここで、検出部120は第1リング76の振動のみを検出しても良いし、第2リング74の振動のみを検出しても良いし、第1リング76と第2リング74の両方の振動を検出しても良い。ただし、検出部120は、少なくとも第2リング74の振動を検出することが好ましい。そうすれば、第1リング76と第2リング74との間の状況の変化を、第1リング76の回転に対する第2リング74側への応答の変化として精度良く検出することができるからである。なお、第1リング76と第2リング74の両方の振動を検出する場合、検出部120は第1リング76と第2リング74のそれぞれに対して設けられてもよい。
【0053】
検出部120はたとえば、加速度センサ、変位センサ、速度センサ等の振動センサ、またはマイクロフォン等の音響センサである。本実施形態において、検出部120は振動センサであることが好ましく、加速度を検出する加速度センサであることがより好ましい。検出部120は接触型センサでも良いし非接触型センサでもよく、その検出原理も特に限定されない。検出部120は接触型の振動センサであることが好ましい。検出部120を粉砕装置10のいずれかの部位に直接接するように取り付けて、振動を検出することにより、空気の振動をマイクにより検出する場合よりも、周囲の環境の影響を抑えた検出が可能である。すなわち、周囲の騒音、ノイズ等による影響を抑えることができる。
図1の例において、検出部120は第2リング74に接するよう取り付けられており、第2リング74の振動を直接検出する。検出部120は、検出データを出力する。検出データは振動の大きさを示すデータである。検出部120が加速度センサである場合、検出データは加速度の大きさを示すデータである。
【0054】
センサは第1リング76および第2リング74の少なくとも一方の振動を直接検出するように設けられていても良いし、間接的に検出するように設けられていても良い。検出部120がリングの振動を間接的に検出するように設けられる場合、たとえば検出部120は、振動を検出しようとするリングと機械的に接続された部材の振動を検出するよう設けられる。検出部120がリングの振動を間接的に検出するように設けられる場合、具体的には検出部120は、駆動部78に含まれるモータ本体781の筐体や駆動部78に含まれる回転軸782の筐体、加圧機構80のアーム82のいずれかに接するように設けられても良い。なお、モータ本体781は回転軸782を介して第1リング76に接続されており、モータの回転により第1リング76を回転させる。
【0055】
図2は、検出部120が加圧機構80のアーム82に取り付けられている例を示している。アーム82の一端821は第2リング74を本図中下向きに加圧する。また、アーム82の他端822は空気圧等により本図中上向きに押し上げられる。アーム82はその一端821と他端822との間に支点を有する。アーム82は第2リング74に接しているため、第2リング74の振動はアーム82に伝達する。したがって、検出部120はアーム82の振動を検出することで、第2リング74の振動を検出することが可能である。なお、アーム82の少なくとも一部は容器20やべローズ等の内部に位置し、アーム82の残りの一部が容器20やベローズ等の外部に露出するようになっていても良い。その場合、検出部120はアーム82に対して機械的に固定されたベローズやフランジ等に取り付けられても良い。この場合でも、検出部120は第2リング74から伝達した振動を検出することができる。
【0056】
検出部120は、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方の、軸Oに平行な方向の振動を少なくとも検出することが好ましい。具体的には、検出部120の検出軸と軸Oとが略平行であることが好ましい。そうすることで、粉砕状況の変化をより精度良く検出できる。
【0057】
処理部140が行う処理について以下に説明する。処理部140は、検出部120から検出データを取得する。処理部140は、検出データから予め定められた周波数帯域の成分を抽出した抽出データを生成する。処理部140は、ローパスフィルタを用いて抽出データを生成することができる。そして、処理部140は、抽出データを処理することにより出力データを生成する。処理部140が生成する出力データは、たとえば検出部120で検出された振動の大きさ、または、検出部120で検出された振動の、所定の周波数帯域の成分の大きさを示すデータであり得る。
【0058】
図9は、処理部140が行う処理の流れを例示するフローチャートである。処理部140はまず検出部120から検出データを取得する(S10)。検出部120が加速度センサである場合、検出データは加速度の大きさを示す時間波形である。
【0059】
そして、処理部140は、取得した検出データにローパスフィルタを適用することにより、所定の周波数帯の成分を抽出する(S11)。すなわち処理部140は、検出データから、低周波数帯域の成分を抽出して抽出データを生成する。ローパスフィルタのカットオフ周波数はリングボールミル機構70の構造や粉砕条件に応じて設定することができる。ローパスフィルタのカットオフ周波数は特に限定されないが、たとえば20Hz以上300Hz以下、または50Hz以上150Hz以下である。なお、処理部140はバンドパスフィルタを用いて所定の周波数帯の成分を抽出してもよい。
【0060】
次いで、処理部140は、抽出データからデータ値を算出する(S12)。データ値は統計量を示し、データ値の例としては、最大値、分散、および標準偏差等が挙げられる。具体的にはたとえば、以下のようにして処理部140は所定の時間T1分の抽出データ毎に対し一つのデータ値dを算出する。処理部140はまず時間T1分の抽出データを所定の数Nの区間に分割し、分割した区間ごとに統計量を算出する。そして、得られたN個の統計量の平均値をデータ値dとする。時間T1はたとえば5秒間である。データ値dが最大値を示す場合、たとえば処理部140はNを5とし、時間T1内で5個の最大値を算出する。各最大値は、1秒間分の抽出データから得られる。そして、算出された5個の最大値の平均値をデータ値dとする。データ値dが標準偏差である場合、たとえば処理部140はNを50とし、時間T1内で50個の標準偏差を算出する。各標準偏差は、0.1秒間分の抽出データから得られる。そして、算出された50個の標準偏差の平均値をデータ値dとする。このようにして、処理部140は、時間T1毎にデータ値d(出力データ)を算出できる。ただし、処理部140が出力データを生成する方法は、上述の方法に限定されない。
【0061】
処理部140でデータ値d(出力データ)が生成されると、出力部150は処理部140で生成されたデータ値dを、出力データとして出力する(S13)。本実施形態に係る粉砕装置10は、出力部150から出力された出力データを表示する表示部160をさらに備える。表示部160はたとえば集積回路400に接続された表示装置を用いて実現される。表示部160はたとえばデータ値dを数値またはグラフで表示する。粉砕装置10のユーザは、表示されたデータ値dを確認することで、粉砕装置10による対象物100の粉砕状況を把握することができる。たとえば、ユーザは、データ値dが小さい場合に、データ値dを大きくするよう粉砕条件を調整する。データ値dがある程度大きい状態が維持されている場合、効率的に粉砕が行われていることを確認することができる。
【0062】
なお、処理部140は、検出部120から検出データを、検出されたその時に都度取得し、時間T1毎にデータ値dを算出することができる。そして、出力部150は時間T1毎に出力データを出力することができる。その他、処理部140は、予め検出部120で得られ、記憶装置に保持された検出データをまとめて読み出して取得しても良い。その場合、処理部140は、得られた検出データから複数のデータ値dを生成し、出力部150が複数のデータ値dを一括で出力しても良い。粉砕装置10のユーザは事後的に対象物100の粉砕状況の推移を確認することができる。
【0063】
上述した粉砕状況の評価処理(S10~S13)は、粉砕装置10において常時行われていても良いし、一時的にのみ行われても良い。たとえばユーザが粉砕装置10に対して評価処理を開始するための操作を行えるようになっていても良い。この場合、粉砕装置10に対して評価処理を開始するための操作が行われたときに、処理部140は検出部120から検出データを取得して処理し、出力データを生成する。そして粉砕装置10に対して評価処理を終了するための操作が行われたときに、処理部140は処理を終了する。
【0064】
また、粉砕状況の評価処理は、粉砕装置10において所定のタイミングで行われても良い。たとえば、処理部140は粉砕装置10が粉砕動作を開始してから所定の時間が経過した時に検出部120から検出データを取得して処理し、出力データを生成する。また、処理部140は前回評価処理が行われてから所定の時間が経過した時に、検出部120から検出データを取得して処理し、出力データを生成する。
【0065】
<変形例>
処理部140が行う処理の変形例について以下に説明する。本変形例では、検出部120は第1リング76および第2リング74の少なくとも一方の振動変位を検出する。検出部120が出力する検出データは、変位の時間波形を示す。
【0066】
処理部140は検出部120から検出データを取得する。そして処理部140は、検出データをフーリエ変換することで、所定の周波数fの成分の大きさを出力データとして導出する。周波数fは予め粉砕状況を良く反映する周波数を確認して設定することができる。周波数fはたとえば50Hz以上250Hz以下である。こうすることで、特定の周波数の振動の大きさに基づいて、粉砕状況を評価できる。
【0067】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。本実施形態によれば、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方の振動を検出して処理することにより、粉砕装置10の粉砕状況を精度良く評価することができる。
【0068】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態に係る粉砕装置10の構成を例示する図である。本実施形態に係る粉砕装置10は、制御部170が出力部150から出力された出力データを用いて粉砕条件を制御する点を除いて第1の実施形態に係る粉砕装置10と同じである。粉砕条件は、駆動部78の回転速度、送風部50の風速、加圧機構80の加圧力、および供給部90の供給速度の少なくともいずれかとすることができる。本図の例において、粉砕装置10は粉砕対象物100を送風により循環させる送風部50を備える。そして制御部170は、出力データに基づいて送風部50を制御する。以下に詳しく説明する。
【0069】
送風部50は粉砕容器20内で対象物100を循環させる。たとえば送風部50の風速が弱すぎる場合には、十分な対象物100の循環が生じない。また、送風部50の風速が強すぎる場合、対象物100が大きく浮遊してしまう。どちらの場合にもリングボールミル機構70へ効率よく対象物100を供給することができない。また、風速が同じであっても、対象物100の循環状況は対象物100の種類や粒径によって異なる。したがって粉砕装置10において、リングボールミル機構70へ効率よく対象物100を供給するためには、送風部50の風速を適切に調整する必要がある。送風部50はたとえばブロワであり、その回転速度を上げることで風速を上げることができ、その回転速度を下げることで風速を下げることができる。
【0070】
図11は、本実施形態に係る制御部170が行う処理の流れを例示するフローチャートである。出力部150から出力データが出力されると、制御部170は出力された出力データを取得する(S20)。そして、出力データに示されたデータ値dが、予め定められた基準値Rよりも大きいか否かを判定する(S21)。基準値Rは、たとえば事前に試験を行い、粉砕ボール72と第1リング76との間、および粉砕ボール72と第2リング74との間に対象物100が多くある状態、すなわち効果的に粉砕が行われている状態でのデータ値dを確認することにより決定しておくことができる。
【0071】
データ値dが基準値Rよりも大きい場合(S21のY)、制御部170は送風部50の風速(回転速度)を変更せずに次の出力データを取得する(S20)。データ値dが基準値Rよりも大きくない場合(S21のN)、制御部170は、送風部50の回転速度をα×Δbだけ上げる(S22)。ここで、αは+1または-1であり、αの初期値は+1または-1である。Δbは予め定められた上げ幅である。Δbは固定値であっても良いし、粉砕装置10のユーザによって入力できるようになっていても良い。
【0072】
次いで、制御部170は、S22が行われた後の検出データで生成された出力データを取得する(S23)。そして、制御部170は、回転速度をα×Δbだけ上げたことによりデータ値dが上がったか否かを判定する(S24)。すなわち制御部170は、S22が行われた後のデータ値d(S23で取得されたデータ値d)と、S22が行われる前のデータ値d(直前のS21で判定に用いたデータ値d)とを比較する。S22が行われた後のデータ値dが、S22が行われる前のデータ値dよりも大きい場合(S24のY)、制御部170は再度S21を行う。このS21では制御部170は、S22が行われた後のデータ値d(S23で取得されたデータ値d)が基準値Rよりも大きいか否かを判定する(S21)。
【0073】
一方、S22が行われた後のデータ値dが、S22が行われる前のデータ値dよりも小さい場合(S24のN)、制御部170は、αの正負を反転させる(S25)。すなわち制御部170は、S22で用いたαが+1である場合にはαを-1に変更し、S22で用いたαが-1である場合にはαを+1に変更する。そして制御部170は、反転したαを用いて再度S22を行う。
【0074】
制御部170がこのような処理を行うことにより、データ値dを基準値Rより高くすることができ、効率のよい粉砕状況を保つことができる。なお、基準値RおよびΔbの値は、対象物100の種類毎に定められていても良い。また、基準値RおよびΔbの値は、粉砕装置10の粉砕条件(たとえば駆動部78の回転速度と加圧機構80の加圧力と供給部90の供給速度との組み合わせ)毎に定められていても良い。この場合、制御部170からアクセス可能な記憶部180には予め、対象物100の種類および粉砕条件の組み合わせと、基準値RおよびΔbの値の組み合わせとを関連付けたパラメータ情報が保持されている。たとえば粉砕装置10のユーザは、粉砕装置10に対して対象物100の種類を示す情報を入力する操作を行う。そして、制御部170は、パラメータ情報においてその時の対象物100の種類および粉砕条件に対応する基準値RおよびΔbの値を、記憶部180から読み出して用いる。記憶部180は、たとえばストレージデバイス408により実現される。ただし、記憶部180は粉砕装置10とは別途設けられた記憶装置により実現されても良い。
【0075】
制御部170は、
図11を用いて説明したのと同様の方法で、駆動部78の回転速度、加圧機構80の加圧力、および供給部90の供給速度のいずれかを制御してもよい。
【0076】
駆動部78の回転速度と粉砕効率の関係について以下に説明する。たとえば駆動部78の回転速度を上げると、粉砕ボール72の周速が大きくなり、対象物100と粉砕ボール72との接触機会が増える。この観点からは、駆動部78の回転速度を上げると粉砕効率が高まると言える。一方、リングボールミル機構70に供給される対象物100の量は、第1リング76の遠心力にも依存する。駆動部78の回転速度を上げると、対象物100が軸O側から外周に向けて移動する速度が大きくなり、リングボールミル機構70における対象物100の滞留時間が短くなる。この観点からは、駆動部78の回転速度を上げると粉砕効率が下がると言える。したがって粉砕装置10において、粉砕効率を高めるためには状況に応じて駆動部78の回転速度を適切に調整する必要がある。制御部170によれば、粉砕状況に基づいて駆動部78の回転速度を適切に調整できる。
【0077】
なお、制御部170が行う制御の方法は、上述した例に限定されない。たとえば制御部170は、任意の極値探索制御法を用いることができる。また、本実施形態に係る粉砕装置10は第1の実施形態と同様、表示部160を有しても良い。そして出力部150は出力データを表示部160にさらに出力し、表示部160が出力データを表示しても良い。そうすることで、ユーザは、適切に制御が行われていることを確認できる。
【0078】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。本実施形態においては第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。加えて、粉砕状況を評価した結果に基づき、粉砕条件が適切に制御される。その結果、効率よく粉砕を行える。
【0079】
(第3の実施形態)
図12は、第3の実施形態に係るリングボールミル機構70の様子を例示する図である。本図中、粉砕ボール72および第1リング76の動きを黒矢印で示している。本実施形態に係る粉砕装置10では、検出部120は変位を検出し、処理部140が変位のオフセット量を示す出力データを生成する点を除いて、第1および第2の実施形態の少なくとも一方に係る粉砕装置10と同じである。以下に詳しく説明する。
【0080】
粉砕装置10では、本図中の右側に示すように、粉砕を進めるにつれて粉砕ボール72に対象物100が付着し、付着した対象物100と粉砕ボール72とが一体となって粉砕ボール72の径が大きくなったような状態になることがある。このような状態では粉砕ボール72に付着した対象物100は容器20内を循環せず、粉砕が進まない。また、粉砕ボール72が対象物100の粉で覆われることにより、硬い粉砕ボール72と硬いリングとの間で力を加える粉砕処理が効率よく行えない。そこで、粉砕装置10を一度停止させ、粉砕ボール72に付着した対象物100を取り除くメンテナンスを行う必要がある。
【0081】
本図の左側には、粉砕ボール72に対して対象物100の付着がない状態の例を示している。一方、本図の右側には、粉砕ボール72に対して対象物100の付着がある状態の例を示している。対象物100の付着がある状態では付着がない状態に比べて、実質的に粉砕ボール72の径が大きくなったような状態になる。その結果、本図中の白矢印で示すように、第2リング74の振動の中心は第1リング76から離れる方向に変化する。この変化は、検出部120が検出する変位においてオフセット量として現れる。オフセット量は、振動波形の平均値に相当する。
【0082】
本実施形態に係る粉砕装置10では、検出部120がリングの変位におけるオフセット量を検出することにより、粉砕ボール72への対象物100の付着を検知することができる。そして、ユーザがメンテナンスを行うべきタイミングを知ることができる。
【0083】
本実施形態において検出部120が生成する検出データはたとえば軸Oに平行な方向のリングの変位(位置)を示す時間波形である。本実施形態において処理部140は、検出部120から検出データを取得すると、取得した検出データにたとえばローパスフィルタを適用することにより、オフセット量を示すオフセットデータを出力データとして生成する。または検出部120は、所定の時間毎の、検出データの平均値を算出することでオフセット量を算出しても良い。そして、出力部150は生成された出力データをたとえば表示部160へ出力し、表示部160にオフセット量を示す情報が表示される。表示部160はたとえばオフセット量を数値またはグラフで表示する。粉砕装置10のユーザは、表示されたオフセット量が多いほど、粉砕ボール72への対象物100の付着が大きいと理解することができる。
【0084】
<変形例>
図13は、第3の実施形態に係る粉砕装置10の機能構成の変形例を示す図である。本変形例において粉砕装置10は、判定部190をさらに備える。出力部150は出力データを判定部190に出力し、出力データを取得した判定部190は、その出力データに示されたオフセット量が予め定められた閾値を超えるか否か判定する。オフセット量が閾値を超える場合、判定部190は表示部160にメンテナンスの実行を促す表示や、メンテナンス時期である旨を示す表示をさせる。表示部160はディスプレイ等の表示装置であっても良いし、点灯や点滅によりメンテナンス時期を知らせる表示ランプ等であってもよい。オフセット量が閾値を超えない場合、判定部190は表示部160にメンテナンスの実行を促す表示や、メンテナンスすべきタイミングである旨を示す表示させない。このような構成により、粉砕装置10のユーザは、メンテナンスのタイミングを容易に知ることができる。
【0085】
本実施形態に係る粉砕装置10において、集積回路400のストレージデバイス408は、判定部190の機能を実現するためのプログラムモジュールをさらに記憶している。プロセッサ404は、このプログラムモジュールをメモリ406に読み出して実行することで、判定部190の機能を実現する。
【0086】
なお、本実施形態に係る粉砕装置10は第1および第2の実施形態の少なくともいずれかに係る粉砕装置10と同様の構成をさらに有しても良い。すなわち、処理部140は、オフセット量に加えて、振動の大きさを示すデータ値をさらに含む出力データを生成しても良い。そして出力データの内容が表示部160に表示されたり、出力データに基づいた粉砕条件の制御が行われたりしても良い。
【0087】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。本実施形態によれば、検出部120が検出する変位のオフセット量に基づいて、粉砕ボール72への対象物100の付着が検知される。したがって、適切なタイミングでリングボールミル機構70のメンテナンスを行える。
【0088】
(第4の実施形態)
図14は、第4の実施形態に係る評価装置200の機能構成を例示する図である。本実施形態に係る評価装置200は、粉砕装置11の粉砕状況を評価する装置である。評価装置200は、取得部230、処理部240および出力部250を備える。取得部230は、振動を検出した検出データを取得する。処理部240は、検出データを処理することにより出力データを生成する。出力部250は、出力データを出力する。粉砕装置11は、第1リング76、第2リング74、駆動部78、複数の粉砕ボール72、および検出部120を備える。駆動部78は、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方を回転させる。複数の粉砕ボール72は、第1リング76と第2リング74との間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する。検出部120は、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方の振動を検出する。取得部230は、検出部120で得られた検出データを取得する。以下に詳しく説明する。
【0089】
本実施形態に係る粉砕装置11は、第1の実施形態で説明したような処理部140および出力部150を備えない点を除いて、第1の実施形態に係る粉砕装置10と同じである。本実施形態に係る粉砕装置11が備える第1リング76、第2リング74、駆動部78、粉砕ボール72、および検出部120は、それぞれ第1の実施形態で説明した第1リング76、第2リング74、駆動部78、粉砕ボール72、および検出部120と同じである。
【0090】
本実施形態において、取得部230は、検出部120の検出データを取得する。取得部230は、検出部120から直接検出データを取得することができる。また、検出部120で得られた検出データが記憶部に保持されている場合、取得部230はその記憶部から検出データを読み出して取得しても良い。この記憶部は、評価装置200の一部として設けられていても良いし、粉砕装置11の一部として設けられていても良いし、評価装置200および粉砕装置11とは別途設けられていても良い。
【0091】
本実施形態に係る処理部240が行う処理は、第1および第3の実施形態の少なくともいずれかに係る処理部140が行う処理と同じである。そして、本実施形態に係る出力部250は、第1から第3の実施形態の少なくともいずれかに係る出力部150と同じである。
【0092】
本図では、評価装置200が表示部260をさらに備える例を示している。本実施形態に係る表示部260は、第1および第3の実施形態の少なくともいずれかに係る表示部160と同じである。出力部250は表示部260に対して出力データを出力し、表示部260は出力データを表示する。ただし、評価装置200は表示部260を備えなくてもよい。評価装置200は、外部の表示装置に対して出力データを出力しても良い。
【0093】
図15は、本実施形態に係る評価装置200の機能構成の変形例を示す図である。本変形例に係る評価装置200は制御部270を備え、粉砕装置11の制御装置としても機能する。制御部270は粉砕装置11に備えられた制御部170へ制御信号を出力することにより、粉砕装置11の粉砕条件を制御する。制御部270が粉砕条件を制御する方法は、第2の実施形態に係る制御部170が粉砕条件を制御する方法と同じである。本図の例において、粉砕装置11は送風部50を備え、制御部170は制御部270からの制御信号に基づいて送風部50を制御する。
【0094】
評価装置200の各機能構成部は、各機能構成部を実現するハードウエア(例:ハードワイヤードされた電子回路など)で実現されてもよいし、ハードウエアとソフトウエアとの組み合わせ(例:電子回路とそれを制御するプログラムの組み合わせなど)で実現されてもよい。以下、評価装置200の各機能構成部がハードウエアとソフトウエアとの組み合わせで実現される場合について、さらに説明する。
【0095】
図16は、評価装置200を実現するための計算機1000を例示する図である。計算機1000は任意の計算機である。例えば計算機1000は、SoC(System On Chip)、Personal Computer(PC)、サーバマシン、タブレット端末、又はスマートフォンなどである。計算機1000は、評価装置200を実現するために設計された専用の計算機であってもよいし、汎用の計算機であってもよい。
【0096】
計算機1000は、バス1020、プロセッサ1040、メモリ1060、ストレージデバイス1080、入出力インタフェース1100、及びネットワークインタフェース1120を有する。バス1020は、プロセッサ1040、メモリ1060、ストレージデバイス1080、入出力インタフェース1100、及びネットワークインタフェース1120が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ1040などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。プロセッサ1040は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又は FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの種々のプロセッサである。メモリ1060は、RAM(Random Access Memory)などを用いて実現される主記憶装置である。ストレージデバイス1080は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、メモリカード、又は ROM(Read Only Memory)などを用いて実現される補助記憶装置である。
【0097】
入出力インタフェース1100は、計算機1000と入出力デバイスとを接続するためのインタフェースである。例えば入出力インタフェース1100には、キーボードなどの入力装置や、表示装置などの出力装置が接続される。
【0098】
ネットワークインタフェース1120は、計算機1000をネットワークに接続するためのインタフェースである。この通信網は、例えば LAN(Local Area Network)や WAN(Wide Area Network)である。ネットワークインタフェース1120がネットワークに接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
【0099】
ストレージデバイス1080は、評価装置200の各機能構成部を実現するプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ1040は、これら各プログラムモジュールをメモリ1060に読み出して実行することで、各プログラムモジュールに対応する機能を実現する。
【0100】
図17は、本実施形態に係る評価装置200が実行する評価方法の流れを例示するフローチャートである。本実施形態に係る評価方法は、粉砕装置11の粉砕状況を評価する方法である。本実施形態に係る評価方法は、取得ステップS31、処理ステップS32、および出力ステップS33を含む。取得ステップS31では、振動を検出した検出データが取得される。処理ステップS32では、検出データを処理することにより出力データが生成される。出力ステップS33では、出力データが出力される。粉砕装置11は、第1リング76、第2リング74、駆動部78、複数の粉砕ボール72、および検出部120を備える。駆動部78は、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方を回転させる。複数の粉砕ボール72は、第1リング76と第2リング74との間に挟まれ、粉砕対象物を粉砕する。検出部120は、第1リング76および第2リング74の少なくとも一方の振動を検出する。取得ステップS31では、検出部120で得られた検出データが取得される。
【0101】
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。本実施形態においては第1の実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【実施例0102】
以下、本実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0103】
<実施例1>
実施例1では、
図1~
図5に示した構成を有する粉砕装置を用いて、粉砕時の出力データを取得した。
【0104】
図18は、本実施例における粉砕時の駆動信号と出力データを示すグラフである。テーブルフィーダによって粉砕装置の容器内部に粉砕対象物を供給した。本図中、テーブルフィーダの回転速度は、供給部の供給速度に相当する。ブロア周波数は、送風部の回転速度に相当する。モータ電流は第1リングを回転させる駆動部のモータの電流であり、駆動部の回転負荷に相当する。シリンダ圧力は加圧機構のアームが第2リングに加える圧力であり、加圧機構の加圧力に相当する。本実施例では、第1リングの回転速度を120rpmとし、ブロア周波数を100Hzとし、シリンダ圧力を400kPaとするよう制御した。供給する粉砕対象物としては平均粒径8.6μmの炭酸カルシウムを用いた。
【0105】
検出器としては圧電式加速度センサを用いた。圧電式加速度センサは加圧機構のアームの、容器の外に位置する端部の近辺に取り付けた。
図18は、3軸の圧電式加速度センサの検出データのうち、軸Oに平行な方向(Z軸方向)の振動を主に検出したデータを用いた結果である。本実施例では、振動測定用アナライザ、PC、アナログローパスフィルタ、データロガー等を用いて圧電式加速度センサの出力信号を処理し、出力データを得た。本図に示すMax値は、第1の実施形態で説明した方法で生成した、最大値を示すデータ値dに相当する。なお、第1の実施形態で説明した時間T
1を5秒間とし、Nを5とし、ローパスフィルタのカットオフ周波数を100Hzとした。
【0106】
本図に示すグラフを取得した際の動作は以下の通りである。まず、「開始」のタイミングで送風部、駆動部、および加圧機構の動作を開始した。次いで、「供給1」、「供給2」、および「供給3」のタイミングで供給部による粉砕対象物の供給を開始した。「供給1」と「供給2」との間、および「供給2」と「供給3」との間では、一旦供給を停止した。「供給3」の後には、しばらく供給を続けた。その後、供給を停止するとともに、送風部の回転速度を上げて対象物を集塵機に回収した。
【0107】
本図に示すように、一連の動作中、モータ電流やシリンダ圧力の値は、対象物の供給や回収が行われた際に変動していた。しかし、これらの値と、リングボールミル機構で粉砕されている対象物の量との相関は強いとは言えなかった。たとえば、モータ電流やシリンダ圧力の値は、対象物の供給により上がる傾向があったが、供給を止めると供給前よりも低い値となり、リングボールミル機構で粉砕されている対象物の量と整合しなかった。また、対象物の回収を始めた際には、リングボールミル機構で粉砕されている対象物の量は減少したはずであるにも関わらず、モータ電流やシリンダ圧力の値は上昇した。
【0108】
一方、Max値は、一連の動作中、リングボールミル機構で粉砕されている対象物の量に良く対応していた。すなわち、Max値は「供給1」、「供給2」、および「供給3」の後にそれぞれ高い値を示し、供給が止まると低下した。また対象物の回収が始まるとMax値は低下し、回収の終了時にはMax値は「供給1」の前のレベルに戻った。なお、「開始」のタイミングの直後にMax値が高くなっているのは、以前の動作の際に容器内に残っていた粉体が、粉砕装置の駆動に伴って出てきたことが理由であると考えられる。また、「供給3」の後に徐々にMax値が低下しているのは、容器の内壁などに対象物が付着することにより、リングボールミル機構での処理量が減ったためと考えられる。
【0109】
以上のように、モータ電流やシリンダ圧力の値よりも、第2リングの振動検出に基づくMax値が、リングボールミル機構で粉砕されている対象物の量を良く表すことが確認された。
【0110】
<実施例2>
実施例2では、
図1~
図5に示した構成を有する粉砕装置を用いて、粉砕時の出力データを取得した。
【0111】
図19は、本実施例における粉砕時の駆動信号と出力データを示すグラフである。テーブルフィーダによって粉砕装置の容器内部に粉砕対象物を供給した。本図中、テーブルフィーダの回転速度、ブロア周波数、モータ電流、およびシリンダ圧力の意味することは実施例1と同じである。本実施例では、第1リングの回転速度を80rpmとし、ブロア周波数を80Hzとし、シリンダ圧力を200kPaとするよう制御した。供給する粉砕対象物は、実施例1と同じであった。
【0112】
検出器としては圧電式加速度センサを用いた。圧電式加速度センサは加圧機構のアームの、容器の外に位置する端部の近辺に取り付けた。
図19は、3軸の圧電式加速度センサの検出データのうち、軸Oに平行な方向(Z軸方向)の振動を主に検出したデータを用いた結果である。本実施例では、変換器、アンプ、アナログローパスフィルタ、マイクロコントローラ等を用いて圧電式加速度センサの出力信号を処理し、出力データを得た。本図に示すMax値は、第1の実施形態で説明した方法で生成した最大値を示すデータ値dに相当する。本図に示す標準偏差は、第1の実施形態で説明した方法で生成した標準偏差を示すデータ値dに相当する。なお、第1の実施形態で説明した時間T
1を5秒間とし、Nを50とし、ローパスフィルタのカットオフ周波数を100Hzとした。
【0113】
本図に示すグラフを取得した際の動作は以下の通りである。まず、「開始」のタイミングで送風部、駆動部、および加圧機構の動作を開始した。次いで、「供給」のタイミングで供給部による粉砕対象物の供給を開始した。そして、しばらく供給を続けた後、供給を停止するとともに、送風部の回転速度を上げて対象物を集塵機に回収した。
【0114】
本図に示すように、一連の動作中、モータ電流やシリンダ圧力の値は、対象物の供給や回収が行われた際に変動していた。しかし、これらの値と、リングボールミル機構で粉砕されている対象物の量との相関は強いとは言えなかった。たとえば、モータ電流やシリンダ圧力の値は、供給開始後すぐには上昇しなかった。また、対象物の回収を始めた際には、モータ電流やシリンダ圧力の値は低下しており、本実施例におけるモータ電流およびシリンダ圧力の値の変化挙動は、実施例1の変化挙動とは異なっていた。このことから、モータ電流やシリンダ圧力の値の挙動は、粉砕条件に依存して異なることが分かった。
【0115】
一方、Max値および標準偏差は、一連の動作中、リングボールミル機構で粉砕されている対象物の量に良く対応していた。すなわち、Max値および標準偏差は「供給」の後にそれぞれ増大した。供給の継続中、容器の内壁などに対象物が付着することによりリングボールミル機構での処理量が減ると、Max値および標準偏差はいずれも徐々に低下した。そして、供給開始から少し時間が経って粉砕状況が安定した状況ではMax値および標準偏差もそれぞれ一定の範囲内に落ち着いた。また対象物の回収が始まるとMax値および標準偏差はそれぞれ低下し、回収の終了時にはMax値および標準偏差はいずれも供給開始時のレベルに戻った。なお、「開始」のタイミングの直後にMax値および標準偏差が高くなっているのは、以前の動作の際に容器内に残っていた粉体が、粉砕装置の駆動に伴って出てきたことが理由であると考えられる。また、いくつか見られるMax値の急峻なピークは、容器内に付着した対象物の粉を落とすために容器に振動を加えたことによる。
【0116】
以上のように、モータ電流やシリンダ圧力の値よりも、第2リングの振動検出に基づくMax値や標準偏差が、リングボールミル機構で粉砕されている対象物の量を良く表すことが確認された。また、実施例1および実施例2の結果から、モータ電流やシリンダ圧力の値の挙動は粉砕条件に依存するのに対し、Max値や標準偏差は、粉砕条件に関わらず、リングボールミル機構で粉砕されている対象物の量を良く表すことが確認された。
【0117】
<実施例3>
図20(a)~
図20(d)は、実施例3において粉砕装置の動作中に圧電式加速度センサで得られた検出データのスペクトログラムである。本実施例では、実施例1の粉砕動作の一部におけるデータを解析した。これらの各図において、横軸は時間を示し、縦軸は周波数を示し、輝度は加速度の大きさを示す。
図20(a)は対象物を供給する前(
図18における供給1の前)のスペクトログラムである。
図20(b)は対象物の供給を開始した直後(
図18における供給1の直後)のスペクトログラムである。
図20(c)は、対象物の供給を開始した後(
図18における供給1の後)、安定して粉砕が行われているときのスペクトログラムである。そして、
図20(d)は、対象物の供給の停止後(
図18における供給1で開始した供給の停止後)、リングボールミル機構において対象物が減少した状態でのスペクトログラムである。
図20(a)~
図20(d)によれば、対象物の投入により、低い周波数帯域の成分が特に大きくなったことが分かる。
【0118】
なお、
図20(a)~
図20(d)は、3軸の加速度センサで得られたZ軸方向(鉛直方向)の振動データを示しているが、同時に測定したX軸方向(水平方向)の振動データによっても、ほぼ同程度の信号強度が得られた。
【0119】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。たとえば、上述の説明で用いたシーケンス図やフローチャートでは、複数の工程(処理)が順番に記載されているが、各実施形態で実行される工程の実行順序は、その記載の順番に制限されない。各実施形態では、図示される工程の順番を内容的に支障のない範囲で変更することができる。また、上述の各実施形態は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。