(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178895
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】前回り受身習得用具
(51)【国際特許分類】
A63B 69/00 20060101AFI20221125BHJP
A63B 6/02 20060101ALN20221125BHJP
【FI】
A63B69/00 513B
A63B6/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086007
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100189854
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 明美
(72)【発明者】
【氏名】志々目 由理江
(57)【要約】
【課題】柔道初心者に対する効率的かつ理論的な前回り受身の指導を行うことができる前回り受身習得用具を提供する。
【解決手段】弾性変形可能なボール1を備え、ボール1の表面には、使用者の左右の手および腕を位置合わせするための一対の上肢マーク3,3がボール1の曲面に沿って曲線状にそれぞれ設けられており、上肢マーク3,3は、ボール1の中心を通過する仮想水平線Bよりも上方側に設けられ、かつ、ボール1の中心を通過する仮想垂直線Aを基準に左右対称位置に設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性変形可能なボールを備え、
前記ボールの表面には、使用者の左右の手および腕を位置合わせするための一対の上肢マークが前記ボールの曲面に沿って曲線状にそれぞれ設けられており、
前記上肢マークは、前記ボールの中心を通過する仮想水平線よりも上方側に設けられ、かつ、前記ボールの中心を通過する仮想垂直線を基準に左右対称位置に設けられていることを特徴とする前回り受身習得用具。
【請求項2】
前記上肢マークの曲率中心の位置は、前記ボールの中心の位置よりも上方であることを特徴とする請求項1に記載の前回り受身習得用具。
【請求項3】
前記仮想垂直線を基準に左右の前記上肢マークの間に第2のマークが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の前回り受身習得用具。
【請求項4】
前記仮想水平線よりも下方側には、略水平に延びる第3のマークが設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の前回り受身習得用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔道初心者に対する前回り受身指導に用いられる前回り受身習得用具に関する。
【背景技術】
【0002】
平成24年度より、文部科学省が定めた中学校武道必修化によって全国の7割近くの中学校が柔道を選択し、多くの子供たちが柔道を学ぶ機会が増えた一方で、体育の授業中に起こる怪我や事故が問題になっている。特に、頭部外傷や頚部損傷は、セカンドインパクト症候群や四肢麻痺といった重大な後遺症をもたらすだけでなく、死に至るケースもある。このような怪我や事故の背景には、受身技術の不十分さと、実際に柔道技で投げられる際の恐怖心があり、怪我や事故を予防するためには、安全に受身を取るという技能の習得が求められる。
【0003】
柔道における受身には、投げられる方向に応じて前受身、横受身、後ろ受身、前回り受身がある。その中でも、前回り受身は、身体を前方へ回転させる際に回転軸が身体の正中線から斜めにずれるという特徴を持つ。具体的には左右一方の腕の手首、肘、上腕、肩を順に支点として前回りするという特徴的な回転方法を持つものであり、これは他の運動ではほとんど見られず、柔道初心者にとっては経験のない動きである。このことから、前回り受身は、柔道初心者が短期間で習得することが難しく、習得するまでに十分な指導と練習時間が必要な技術である。
【0004】
特許文献1の柔道受身練習用マットは、前回り受身の習得を補助することを目的とし、受身を始める前および回転後における使用者の足の位置、手の位置、腕の角度線等がマット上にマークされたものである。使用者は、前回り受身を始める前の足および手の位置を示す所定のマークに合わせて構え、体位を前傾させながらマットの縦長方向に延びる中央線上に沿って左右一方の腕の手首、肘、上腕、肩を順に支点として前回りし、回転後の腕の角度線および足の位置を示す所定のマークに合うように腕および足で受身を取ることにより、前回り受身の技術の習得または受身のフォーム修正するための反復練習を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3071495号公報(第5頁~第7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の柔道受身練習用マットは、マット上に示される各種マークにより、前回り受身を始める前および回転後における正しい体位や回転方向を使用者に確認させることはできるものの、前方への回転は使用者自身の身体の回転動作により行われるため、上述したような前回り受身の特徴的な回転方法を使用者に理解させることは難しい。特に柔道初心者の場合、前方への回転時に頭部の傾きが不十分となることで頭部を支点とした回転になりやすく、回転方向が不安定になるだけでなく、この状態のまま実際に柔道技で投げられれば、頭部を打ちつける危険性が高まる虞がある。
【0007】
発明者らは、柔道初心者を対象に、前回り受身をする際の身体の回転方法の理解度が高まることから、バランスボールの使用が前回り受身指導法として有用であることを見出した。さらに、無地のバランスボールでは、正しい受身を取るためのボールの正しい持ち方や使用方法を理解するまで指導を繰り返し行う必要があったが、ボール表面に所定のマーキングを施すことにより、柔道初心者に対して効率的かつ理論的な前回り受身の指導を行うことができることが判明した。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、柔道初心者に対する効率的かつ理論的な前回り受身の指導を行うことができる前回り受身習得用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の前回り受身習得用具は、
弾性変形可能なボールを備え、
前記ボールの表面には、使用者の左右の手および腕を位置合わせするための一対の上肢マークが前記ボールの曲面に沿って曲線状にそれぞれ設けられており、
前記上肢マークは、前記ボールの中心を通過する仮想水平線よりも上方側に設けられ、かつ、前記ボールの中心を通過する仮想垂直線を基準に左右対称位置に設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、使用者がボールの曲面に設けられた曲線状の上肢マークに沿わせてそれぞれ左右の手および腕を位置合わせすることにより、ボールに対して使用者の両腕と頭部とが正しく位置合わせされるとともに、上肢マークに沿わせて湾曲させた左右一方の腕の手首、肘、上腕、肩が順に支点となるように前回りすることにより、ボールの回転を利用したスムーズな身体の回転が得られ、前回り受身をする際の特徴的な身体の回転方法を使用者が体感および理解しやすくなる。そのため、柔道初心者に対する効率的かつ理論的な前回り受身の指導を行うことができる。
【0010】
前記上肢マークの曲率中心の位置は、前記ボールの中心の位置よりも上方であることを特徴としている。
この特徴によれば、上肢マークに沿わせてそれぞれ左右の手および腕を位置合わせすることにより、手首、肘、肩の成す角度が適正な角度となった状態で、身体の正中線から斜めにずれる前回り受身の特徴的な回転軸の延長線上に手首と肩を配置することができるので、一方の腕の手首、肘、上腕、肩が順に支点となる回転となりやすく、ボールの回転を利用したスムーズな身体の回転が得られ、頭部を支点とした回転にならないので使用者が怪我をし難く安全である。
【0011】
前記仮想垂直線を基準に左右の前記上肢マークの間に第2のマークが設けられている。
この特徴によれば、第2のマークに使用者が胴体の正中線を位置合わせして密着させることにより、ボールの回転に合わせて使用者の身体の重心が移動しやすくなるため、ボールの回転を利用した安定した身体の回転が得られる。
【0012】
前記仮想水平線よりも下方側には、略水平に延びる第3のマークが設けられている。
この特徴によれば、第3のマークに使用者が着用する柔道着の帯を略平行になるように位置合わせすることで、使用者に対して上肢マークを正しい位置に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1における前回り受身習得用具を示す斜視図である。
【
図2】(a)および(b)は、前回り受身習得用具に付された各マークの位置関係を示す概要図である。なお、
図2(a)は3次元的に示したボールの1/4を模式的に切り欠いたものであり、
図2(b)は2次元的に示したものである。
【
図3】使用者が前回り受身習得用具を正しい位置で把持した態様を示す模式図である。
【
図4】(a)~(f)は、前回り受身習得用具を用いて前回り受身を行う態様を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施例2において前回り受身習得用具と共に使用されるマットを示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る前回り受身習得用具を実施するための形態を実施例1~2に基づいて以下に説明する。
【実施例0015】
実施例1に係る前回り受身習得用具につき、
図1から
図4を参照して説明する。
【0016】
図1に示されるように、前回り受身習得用具は、弾性変形可能な略球形のボール1から構成されている。ボール1の表面には、一対の上肢マーク3,3と、第2のマークとしての正中線マーク4と、第3のマークとしての帯マーク5と、が付されている。
【0017】
ボール1は、主に塩化ビニル樹脂から形成されており、図示しない空気流入口から空気を規定量封入することで球体となる。規定量空気を封入されたボール1は、人の体重をあずけても破損しない強度と弾力を有するようになっている。ボール1は様々な大きさがあり、使用者の身体の大きさによって適正な大きさのものを使用することが好ましい。
【0018】
図1に示されるように、ボール1の上方側には曲線状の上肢マーク3,3が付されている。上肢マーク3,3は、ボール1の表面にグラビア印刷やスクリーン印刷等、種々の印刷方法を用いて施された目印であり、矢印として示されている。使用者が前回り受身の練習を行う際において、上肢マーク3,3の各先端部3Aにおける三角形の部分に使用者がそれぞれ左右の手の内面を位置合わせし、中央部3Bおよび後端部3Cに腕をそれぞれ沿わせるようにしてボール1を抱え込み(
図3参照)、矢印が示す方向へ向けて上肢マーク3,3に沿わせた左右腕のいずれかを支点に右前転もしくは左前転することで、前回り受身の練習を行うことができるようになっている。このように、上肢マーク3,3が矢印により示されているので、使用者が回転する方向を視覚的に把握できるようになっている。なお、本実施例において手とは、指と掌とを含む範囲とする。
【0019】
また、曲線状に設けられる上肢マークとは、ボール1の曲面に沿って所定の方向性を持って延びるように示されたマークであり、上述した本実施例の上肢マーク3,3のように先端部3Aから後端部3Cに亘って連続して延びる曲線の他にも、例えば、延伸方向に分割された点線や、細かい点の集合により所定の方向性を持って延びる曲線として使用者が認識できるものであればよい。また、曲線状に設けられる上肢マークとは、本実施例の上肢マーク3,3のような略円弧形状のものに限らず、例えば使用者の肘が位置合わせされるマークの中央部において屈曲する、くの字形状のような屈曲形状のものも含まれる。
【0020】
ボール1の下方側には正中線マーク4と、帯マーク5とが一体的に付されている。正中線マーク4および帯マーク5は、ボール1の表面にグラビア印刷やスクリーン印刷等、種々の印刷方法を用いて施された目印であり、略円形状の正中線マーク4を中心に帯マーク5が配置されている。帯マーク5は、柔道着を着用し帯V(
図3参照)を締めた際における帯の外観をなして配置された目印であり、後述する仮想水平線Bと略平行に配置された横過部5Aと、正中線マーク4から下方側に配置された垂下部5Bとから構成されている。
【0021】
正中線マーク4および帯マーク5は、前回り受身の練習を行う際において使用者とボール1とが好ましい位置関係になるように設けられた目印であり、正中線マーク4に使用者の正中線S(身体の中心を上下に通る線,
図3参照)を位置合わせし、かつ、帯マーク5の横過部5Aに使用者の柔道着の帯Vを略平行になるように位置合わせすることで、使用者に対してボール1を正しい位置で密着させるとともに、ボール1の上方側において上肢マーク3,3を正しい位置に配置することができる。
【0022】
次いで、ボール1の表面における上肢マーク3,3、正中線マーク4および帯マーク5の配置について詳しく説明する。なお、
図2(a),(b)における符号Aは、ボール1の中心Cを通過する仮想垂直線Aを示し、符号B,Dは、ボール1の中心Cを通過し仮想垂直線Aと直交する仮想水平線B,Dを示している。また、説明の便宜上、仮想垂直線Aおよび仮想水平線Dが通過しボール1を左右対称に2分割する仮想曲線を仮想垂直曲線ADとし、仮想水平線B,Dが通過しボール1を上下対称に2分割する仮想曲線を仮想水平曲線BDとして説明する。
【0023】
図2(a),(b)に示されるように、上肢マーク3,3は、ボール1の仮想水平曲線BDよりも上方側に設けられており、かつ、仮想垂直曲線ADを基準に左右対称(線対称)に設けられている。また、上肢マーク3,3は、一定の曲率を有し円弧状に設けられている。特に、
図2(b)に示されるように、上肢マーク3,3の曲率中心40,40の位置は、ボール1の中心Cの位置よりも上方かつ仮想水平線Bに沿ってそれぞれ左右にずれており、上肢マーク3,3がボール1の表面の上方側において仮想垂直曲線ADに近接して配置されるようになっている。
【0024】
正中線マーク4および帯マーク5は、ボール1の仮想水平曲線BDよりも下方側に設けられている。また、正中線マーク4は、仮想垂直線Aを基準に左右の上肢マーク3,3の間に配置されており、本実施例においては、正中線マーク4の中心が仮想垂直曲線AD上となるように配置されている。
【0025】
次いで、
図3および
図4(a)~(f)を用いて、前回り受身習得用具を使用した右前回り受身の練習方法を説明する。
【0026】
まず、使用者は、上述したように、前回り受身習得用具としてのボール1の表面に設けられた上肢マーク3,3、正中線マーク4および帯マーク5を目印にボール1を正しい位置で把持する。上肢マーク3,3は、ボール1の仮想水平曲線BD(
図2参照)よりも上方側に設けられており、正中線マーク4および帯マーク5は、ボール1の仮想水平曲線BDよりも下方側に設けられているので、ボール1の下方側に設けられた正中線マーク4と帯マーク5に使用者の身体の正中線S(
図3参照)と帯Vを位置合わせした状態で、正しい位置に配置された上肢マーク3,3を使用者が視認可能となり上肢マーク3,3に沿わせて左右の手および腕を位置合わせし易い。このように、上肢マーク3,3、正中線マーク4および帯マーク5を目印にボール1を正しい位置で把持することにより、ボール1に対して使用者の両腕と頭部とが位置合わせされ、
図3に示されるように、ボール1を使用して前回り受身をする際に好ましい体勢になる。
【0027】
ところで、ボール1を使用する使用者が柔道初心者の場合は、低姿勢(片膝をついた状態)から前回り受身の練習を行う方が、使用者の視点と床面Fとの距離が近接するので恐怖心を和らげることができる。このことから、使用者が柔道初心者の場合は、
図4(a)に示されるように、ボール1を床面Fに当接させた状態から前回り受身の練習をするとよい。
【0028】
以下、ボール1を床面Fに当接させた状態から前回り受身(右回り)の練習をする場合を例に挙げて説明する。
図4(a)に示されるように、使用者は、左膝を床面Fに当接させ、右片膝立ち姿勢で右手と右腕とを上肢マーク3に合わせボール1を胸の前で抱え、胸および顎をボール1の表面に密着させる。このとき、正中線マーク4に使用者の正中線S、帯マーク5の横過部5Aに使用者の柔道着の帯Vを略平行になるようにそれぞれ略位置合わせされた状態となっていることは言うまでもない。
【0029】
また、
図2(b)に示されるように、上肢マーク3の曲率中心40の位置は、ボール1の中心Cの位置よりも上方であることから、上肢マーク3に右手と右腕とを沿わせて配置する、詳しくは上肢マーク3の先端部3Aに右手の内側、中央部3Bに右肘、後端部3Cに右上腕をそれぞれ配置することにより、右手首、右肘、右肩の成す角度が120度程度の鈍角となるように右腕の曲がり具合が決められるとともに、身体の正中線Sから斜めにずれる前回り受身の特徴的な回転軸を示す矢印R(
図4(b)参照)の延長線上に右手首と右肩が配置されるようになっている。なお、手首、肘、肩の成す角度の適正な角度とは、好ましくは110度~130度、さらに好ましくは115度~125度程度の範囲の鈍角である。これにより、頭部に対して手首と肘が前方に十分に離れて配置され、ボール1を使用した前回り受身を行う際に手首、肘、上腕、肩を順に支点とした前回りとなりやすい。
【0030】
次に、右腕と同様に左腕を上肢マーク3に沿わせた上で左手をボール1の床面Fへの当接部分よりも前方の床面Fに当接させ、身体を回転させるための準備をする。なお、使用者が柔道経験者である場合や前回り受身の練習に慣れてきた場合は、上述した低姿勢で身体を回転させるための準備を省略し、
図3に示される立ち姿勢から
図4(b)に示す回転開始の順序となる。
【0031】
次に、
図4(b)に示されるように、身体を矢印Rに従うイメージで身体をボール1の球面に沿って前方へ傾かせながら床面Fに右手首を当接させる。このとき、上述したように、右手および右腕は上肢マーク3に沿わせて配置されているので、右腕が適正な角度に曲げられ、頭部に対して手首と肘が前方に十分に離れて配置されるとともに、右手首と右肩とが矢印Rの延長線上に配置され、右肘は該矢印Rよりも外側に配置された状態になっている。これにより、頭部が床面Fに接触することなく、上肢マーク3に沿わせて配置された右腕を身体の回転に伴うボール1の弾性変形に合わせて安全な範囲で曲げながら右手首から右肘へ回転の支点をスムーズに移動させることができる(
図4(c)参照)。またこのとき、頭部が床面Fに接触しないように首を捻ることにより、頭部を支点とした回転となることをさらに予防することができる。
【0032】
図4(c)に示されるように、右肘が回転の支点となる段階で頭部が床面Fと接触していない状態であれば、
図4(d)に示されるように、身体の回転に伴い右肘から右上腕、右上腕から右肩へと回転の支点が移動していく過程で、床面Fに対して頭部よりも先に右上腕、右肩が順次接触しやすくなり、矢印R(
図4(b)参照)で示される前回り受身の特徴的な回転軸による回転となるため、頭部を支点としない安全な回転とすることができる。
【0033】
次に、
図4(e)に示されるように、使用者の腰と床面Fとが接触すると同時に使用者は、左手で受身をとる準備をする。このとき、上肢マーク3,3がボール1の上方側において仮想垂直曲線AD(
図2(b)参照)に近接して配置されるようになっているので、回転時において使用者が前回り受身を行う際に支点とした右腕と異なる受身腕(左腕)がボール1と床面Fとに巻き込まれることなく離間させ易くなっている。
【0034】
最後に、
図4(f)に示されるように、左腕と両足とを床面Fに叩きつけるように受身を取ることで、ボール1による使用者の回転力が相殺され、好適な右前回り受身の練習ができるようになっている。なお、左前回り受身の練習を行う際においては、ボール1と右膝とを床面Fに当接させ、左片膝立ち姿勢で左手と左腕を上肢マーク3に合わせ、右手をボール1よりも前方の床面Fに当接させ、ボール1と共に身体を回転させればよい。
【0035】
なお、ボール1は弾性を有しているので、使用者が回転する際に、体重をボール1にあずけても、使用者の手や腕が圧迫されることない上、弾性変形後、凹んだボール1が復元しようとする反発力で使用者の回転の勢いが増し、スムーズに回転できる効果を奏するようになっている。また、凹んだボール1が復元しようとする反発力は、使用者に相手に投げられる感覚を疑似的に体感させることができるようになっている。
【0036】
このように、弾性変形可能なボール1を備え、ボール1の表面には、使用者の左右の手および腕を位置合わせするための一対の上肢マーク3,3がボール1の曲面に沿って曲線状にそれぞれ設けられており、上肢マーク3,3は、ボール1の中心Cを通過する仮想水平線B(仮想水平曲線BD)よりも上方側に設けられ、かつ、ボール1の中心Cを通過する仮想垂直線A(仮想垂直曲線AD)を基準に左右対称位置に設けられていることから、使用者がボール1の曲面に設けられた曲線状の上肢マーク3,3に沿わせてそれぞれ左右の手および腕を位置合わせすることにより、ボール1に対して使用者の両腕と頭部とが正しく位置合わせされるとともに、上肢マーク3,3に沿わせて湾曲させた左右一方の腕の手首、肘、上腕、肩が順に支点となるように前回りすることにより、ボール1の回転を利用したスムーズな身体の回転が得られ、前回り受身をする際の特徴的な身体の回転方法を使用者が体感および理解しやすくなる。そのため、柔道初心者に対する効率的かつ理論的な前回り受身の指導を行うことができる。
【0037】
また、上肢マーク3,3の曲率中心40,40の位置は、ボール1の中心Cの位置よりも上方であることから、上肢マーク3,3に沿わせてそれぞれ左右の手および腕を位置合わせすることにより、手首、肘、肩の成す角度が適正な角度となった状態で、身体の正中線Sから斜めにずれる前回り受身の特徴的な回転軸(矢印R,
図4(b)参照)の延長線上に手首と肩を配置することができるので、一方の腕の手首、肘、上腕、肩が順に支点となる回転となりやすく、ボール1の回転を利用したスムーズな身体の回転が得られ、頭部を支点とした回転にならないので使用者が怪我をし難く安全である。
【0038】
また、仮想垂直線Aを基準に左右の上肢マーク3,3の間に正中線マーク4が設けられていることから、正中線マーク4に使用者が胴体の正中線Sを位置合わせして密着させることにより、ボール1の回転に合わせて使用者の身体の重心が移動しやすくなるため、ボール1の回転を利用した安定した身体の回転が得られる。
【0039】
また、仮想水平線Bよりも下方側には、略水平に延びる帯マーク5が設けられていることから、帯マーク5に使用者が着用する柔道着の帯Vを略平行になるように位置合わせすることで、使用者に対して上肢マーク3,3を正しい位置に配置することができる。
マット6は、学校等の教育施設で広く利用されている平面視略長方形状で厚みのある体操用マットである。マット6は、高硬度のウレタン材の中芯材をポリエステルの外被材で覆い縫い付けて形成されており、上面10Aには、ボール1を用いて前回り受身を練習する際、足や手を配置する目安となるマーキングや、スムーズに回転するために好ましい目線位置の目安となるマーキングが施されている。なお、マット6を構成する中芯材と外被材とは上述した素材に限らず、ゴムやポリ塩化ビニル等としてもよく、畳を使用することとしてもよい。
マット6の上面10Aには、使用者がボール1を使用して前回り受身を練習する際において、腕や足などの身体をマット6に当接させる好ましい位置の目安となるマーク21~31が配置されている。さらに、使用者が回転する際に頭部を傾倒させてスムーズに回転できるよう、目線を配しておく目安となる目線マークE1,E2が左右にそれぞれ配置されている。
次に、身体をボール1の球面に沿って前方へ傾かせながらマット6の略中央部に設けられマーク27に右手首を配置させる。このとき、目線を目線マークE1の矢印に沿って移動させると、使用者の頭部を好適に傾倒させた状態でスムーズに回転できるようになっている。
回転時においては、右手首を配置させたマーク27からマット6の左右方向中央部における奥側に向けて順に設けられたマーク28、マーク29、マーク30を目安に回転する。使用者は右肘をマーク28、右肩をマーク29、腰をマーク30に順に接触させていくイメージで回転し、奥端部に配置された矩形状のマーク31内で左腕と両足とをマット6の上面10Aに叩きつけるように受身を取ることで、ボール1による使用者の回転力が相殺され、右前回り受身の練習ができるようになっている。
なお、左前回り受身の練習を行う際においては、マット6の手前側縁部右側に設けられたマーク22に右足を配置し、マット6の略中央部左側に設けられたマーク25に左足を配置し、右膝をマーク22よりも奥側に設けられたマーク24に配置して低姿勢で身体を回転させるための準備をし、目線を目線マークE2の矢印に沿って移動させて回転すればよい。
このように、前回り受身習得用具としてのボール1と共にマット6を使用することにより、前回り受身をする際の特徴的な身体の回転方法を使用者が体感および理解しやすくなるだけでなく、マット6に設けられたマークを確認しながら前回り受身の練習を行うことができるため、柔道初心者に対する効率的かつ理論的な前回り受身の指導を行うことができる。
以上、本発明の実施例1および2を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
例えば、前記実施例では、ボール1は、略球形として説明したが、これに限られず、例えば、ラグビーボールのような楕円球など異なる形状としてもよい。また、一部球面を有する形状や円柱状としてもよい。
また、前記実施例では、上肢マーク3,3は、矢印で示されるものとして説明したが、これに限られず、例えば、線幅が一定の線としてもよいし、先端部に手形状のマークを付すこととしてもよい。
また、前記実施例では、上肢マーク3,3の曲率中心40,40は、ボール1の中心Cと異なる位置となるものとして説明したが、これに限られず、上肢マーク3,3の曲率中心とボール1の中心Cとが一致するようにしてもよい。
また、前記実施例では、上肢マーク3,3は、ボール1の表面に一定の曲率で設けられている円弧形状として説明したが、これに限られず、例えば、上肢マークの中央部から後端部にかけて曲率が変わる等、一定の曲率を有するものでなくてもよい。
また、前記実施例では、上肢マーク3,3、正中線マーク4、帯マーク5は、ボール1の表面にグラビア印刷やスクリーン印刷等、種々の印刷方法を用いて施されていることとして説明したが、これに限られず、例えば、ボール1の表面に粘着性シール等を貼着させることにより各種マークを設けることとしてもよい。また、ボール1の表面に溝や凹凸をそれぞれ設けることにより、各種マークとすることとしてもよい。
また、前記実施例では、上肢マーク3,3は、仮想垂直曲線ADを基準に左右対称(線対称)に設けられていることとして説明したが、これに限られず、例えば、上肢マークの形状が左右で異なっていてもよい。また、左右の上肢マークは、仮想垂直線Aを基準に回転対称に設けられていてもよい。
また、前記実施例では、帯マーク5は、柔道着を着用し帯Vを締めた際における帯の外観をなしていることとして説明したが、これに限られず、例えば、帯の形をしていなくてもよく、横過部5Aの起端と終端とが接続された無端の目印としてもよい。
また、前記実施例では、正中線マーク4は、ボール1の仮想水平曲線BDよりも下方側に設けられていることとして説明したが、これに限られず、例えば、仮想水平曲線BD上または仮想水平曲線BDよりも上方側に設けてもよい。また、正中線マークは、略円形状のものに限らず、仮想垂直線Aを基準に左右の上肢マーク3,3の間に配置されるものであれば矩形や星形等の他の形状であってもよく、ボール1の表面に仮想垂直曲線ADを示したものであってもよい。
また、前記実施例では、第2のマークとしての正中線マーク4と、第3のマークとしての帯マーク5が一体的に付されるものとして説明したが、正中線マーク4と帯マーク5は別々に付されていてもよい。また、上肢マーク3,3が付されていれば、第2のマークや第3のマークの構成を省略してもよい。
また、前記実施例では、ボール1は、空気流入口から空気を規定量封入することで略球体となることとして説明したが、これに限られず、例えば、ビーズや発泡剤等を封入し、略球体としてもよい。また、ボールは内部に空気やビーズ等を封入するものに限らず、例えば内部がハニカム構造を成すことにより弾性変形可能な球体となっていてもよい。また、ボール1の内部が中実であり弾性変形可能な球体であってもよい。