(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178917
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】コンクリートの温度調整装置
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20221125BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20221125BHJP
B28B 11/24 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
F28D15/02 G
F28D15/02 102D
F28D15/02 102H
F28D15/02 101J
E04G21/02 104
B28B11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086050
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】398050858
【氏名又は名称】江川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】江川 尚志
(72)【発明者】
【氏名】肖 昌炎
【テーマコード(参考)】
2E172
4G055
【Fターム(参考)】
2E172AA05
2E172EA10
2E172EA13
4G055AA01
4G055BA03
(57)【要約】
【課題】従来のコンクリートの温度調整装置は、ヒートパイプ内にウイックを配設し、毛細管現象により作動液を上方へ移動させるため、吸熱特性が悪いという課題がある。
【解決手段】
本発明のコンクリートの温度調整装置は、主に、コンクリート構造体11の内部に配設されるボイド管12と、ボイド管12の内部に貯留される液体13と、ボイド管12内に挿入されるヒートパイプ14と、を備える。そして、ヒートパイプ14には、ウイックを用いることなく、外部管21と内部管22との間に作動流体24の貯留空間23を形成する。この構造により、貯留空間23がヒートパイプ14の上部側まで形成され、コンクリート構造体11の中央部及びその周辺領域を積極的に冷却することで、コンクリート構造体11のひび割れが防止される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体を構築する過程にて発生する水和熱を前記コンクリート構造体の外部へと放熱するコンクリートの温度調整装置であって、
その内部が真空状態に維持されると共に、作動流体が封入される外部管と、
前記外部管の内側に配設され、その外周面と前記外部管の内周面との間に前記作動流体が貯留される貯留空間を形成する内部管と、を備え、
前記内部管は、前記外部管の底面から前記外部管の延在方向の一部までに渡り配設されると共に、前記貯留空間は、前記内部管の前記外周面に沿って形成され、
前記貯留空間には、ウイックが配設されないことを特徴とするコンクリートの温度調整装置。
【請求項2】
前記内部管の配設領域では、前記延在方向と直交方向において、前記貯留空間の幅が、略同一幅であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの温度調整装置。
【請求項3】
前記内部管の天面側の前記外周面には、複数の突起部が配設され、
前記外部管の天面側には、放熱フィンが配設されることを特徴とする請求項2に記載のコンクリートの温度調整装置。
【請求項4】
前記内部管の一部は、前記外部管の前記底面から外部に導出すると共に、前記内部管は、前記外部管の前記底面に対して溶接固定されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のコンクリートの温度調整装置。
【請求項5】
前記コンクリート構造体の内部に埋設され、その天面側が開口するボイド管と、
前記ボイド管の内部に貯留される液体と、を更に備え、
前記外部管は、前記液体と接触した状態にて前記ボイド管の内部に配設されると共に、前記内部管の底面が前記ボイド管の底面に当接することで、前記外部管の前記底面は、前記ボイド管の前記底面から離間することを特徴とする請求項4に記載のコンクリートの温度調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体を構築する過程にて発生する水和熱を外部へと放出するコンクリートの温度調整装置に関し、特に、ウイックを用いることなく外部管の内側面に沿って予め作動流体を配置することで、ヒートパイプの放熱特性を向上させるコンクリートの温度調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンクリートの温度調整装置100(以下、「温調装置100」と呼ぶ。)として、
図6に示す構造が知られている。
図6は、従来の温調装置100の使用状態を説明する断面図である。
【0003】
図6に示す如く、温調装置100は、主に、コンクリート構造体101に穴を形成するボイド管102と、少なくともその一部がボイド管102の内部へと挿入されるヒートパイプ103と、ボイド管102内へ注入される間隙水104と、を備える。
【0004】
ヒートパイプ103は、主に、金属製パイプ105と、金属製パイプ105の内壁に配設される毛細管構造のウイック106と、金属製パイプ105内に貯留される作動液107と、を備える。そして、ウイック106の内側の空間には、気化した作動液107の蒸気が通過するための導通空間108が形成される。
【0005】
図示したように、ヒートパイプ103は、打設したコンクリートの養生作業時に、間隙水104が注入されたボイド管102内へと挿入される。このとき、ヒートパイプ103の金属製パイプ105の底面105Aは、ボイド管102の底面102Aと当接した状態となる。そして、ヒートパイプ103は、ボイド管102内に立設した状態となる。
【0006】
ここで、ヒートパイプ103は、その下部側であり作動液107の貯留領域に位置する高温部103Aと、その上部側でありコンクリート構造体101の外部に位置する低温部103Bと、それらの間に位置する断熱部103Cと、を有する。そして、ヒートパイプ103の高温部103Aは、コンクリートの硬化時に発生する水和熱H1を吸熱し、作動液107を気化させ蒸気とする。一方、ヒートパイプ103の低温部103Bは、上記蒸気内の潜熱H2を外部へと放熱し、作動液107を液化させる。尚、液化した作動液107は、ウイック106を通過して高温部103Aへと移動し、金属製パイプ105の底部側へ貯留する。
【0007】
上述したように、このような作動液107の相変化サイクルが、ヒートパイプ103の金属製パイプ105内にて繰り返されることで、上記水和熱H1がヒートパイプ103へと吸熱されると共に、上記潜熱H2がコンクリート構造体の外部へと放出される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、ヒートパイプ103の高温部103Aでは、上記水和熱H1を吸熱し、その熱により作動液107を気化させ蒸気とする。一方、ヒートパイプ103の断熱部103Cでは、毛細管現象によりウイック106内には若干の作動液107が吸い上げられるが、その断熱構造により上記水和熱H1を吸熱せず、作動液107は気化しない。
【0010】
ここで、ヒートパイプ103により水和熱H1を吸熱しない場合には、コンクリート構造体101の内部温度は、例えば、高温箇所にて約80度程度まで上昇する。つまり、上記水和熱H1は、コンクリート構造体101のひび割れの発生要因にはなるが、大量に貯留する作動液107を早期に気化させる程の高温状態ではない。
【0011】
その結果、ヒートパイプ103の高温部103Aの周辺には作動液107が大量に貯留しているため、その貯留した作動液107を上記水和熱H1により温度上昇させ、気化させるには時間を要し、ヒートパイプ103としての効率が悪く、その吸熱特性も悪いという課題がある。
【0012】
特に、コンクリート構造体101では、その底部近傍よりもその厚み方向の中心部の方が、上記水和熱H1により高温状態となり易い。しかしながら、ヒートパイプ103が、ボイド管102の底面102A上に立設する構造では、コンクリート構造体101の上記中心部には、ヒートパイプ103の断熱部103Cが位置することで、更に、上記水和熱H1を吸熱し難くなり、コンクリート構造体101の高温領域を冷却し、適切に養生し難いという課題がある。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ウイックを用いることなく外部管の内側面に沿って予め作動液を配置することで、ヒートパイプの放熱特性を向上させるコンクリートの温度調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のコンクリートの温度調整装置では、コンクリート構造体を構築する過程にて発生する水和熱を前記コンクリート構造体の外部へと放熱するコンクリートの温度調整装置であって、その内部が真空状態に維持されると共に、作動流体が封入される外部管と、前記外部管の内側に配設され、その外周面と前記外部管の内周面との間に前記作動流体が貯留される貯留空間を形成する内部管と、を備え、前記内部管は、前記外部管の底面から前記外部管の延在方向の一部までに渡り配設されると共に、前記貯留空間は、前記内部管の前記外周面に沿って形成され、前記貯留空間には、ウイックが配設されないことを特徴とする。
【0015】
また、本発明のコンクリートの温度調整装置では、前記内部管の配設領域では、前記延在方向と直交方向において、前記貯留空間の幅が、略同一幅であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のコンクリートの温度調整装置では、前記内部管の天面側の前記外周面には、複数の突起部が配設され、前記外部管の天面側には、放熱フィンが配設されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のコンクリートの温度調整装置では、前記内部管の一部は、前記外部管の前記底面から外部に導出すると共に、前記内部管は、前記外部管の前記底面に対して溶接固定されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のコンクリートの温度調整装置では、前記コンクリート構造体の内部に埋設され、その天面側が開口するボイド管と、前記ボイド管の内部に貯留される液体と、を更に備え、前記外部管は、前記液体と接触した状態にて前記ボイド管の内部に配設されると共に、前記内部管の底面が前記ボイド管の底面に当接することで、前記外部管の前記底面は、前記ボイド管の前記底面から離間することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のコンクリートの温度調整装置は、外部管と、外部管の内部にその一部が配設される内部管と、外部管と内部管との間の貯留空間に封入される作動流体とを有するヒートパイプを備える。そして、貯留空間には、ウイックが配設されることなく、上記内部管の配設長さに応じて、作動流体の配設領域が容易に調整可能となる。この構造により、貯留空間に貯留された作動流体が、コンクリート構造体の厚み方向の中心部及びその周辺領域に配置されることで、コンクリート構造体11をその内部から効果的に冷却し、コンクリート構造体11にひび割れが発生することが防止される。
【0020】
また、本発明のコンクリートの温度調整装置は、作動流体が貯留される貯留空間が、内部管の外周面に沿って全周に渡り連続して形成されると共に、貯留空間の径方向の幅は、薄く、略均一に形成される。この構造により、貯留空間に貯留された作動流体は、コンクリート構造体から吸熱した水和熱により気化し易く、吸熱特性が向上されると共に、コンクリート構造体を早期に冷却することが出来る。
【0021】
また、本発明のコンクリートの温度調整装置は、内部管の天面側に突起部を有すると共に、外部管の天面側に放熱フィンを有する。この構造により、ヒートパイプは、その全周から水和熱を吸熱することで吸熱特性が向上されると共に、放熱フィンを有することで放熱特性が向上される。
【0022】
また、本発明のコンクリートの温度調整装置では、内部管の一部が、外部管の底面から外部に導出し、その導出量を調整することで、作動流体が貯留される貯留空間が、コンクリート構造体の中心部及びその周辺領域に配置し易くなる。この構造により、コンクリート構造体の高温領域に対して作動流体を配置し易くなり、ヒートパイプによる吸熱特性が向上される。
【0023】
また、本発明のコンクリートの温度調整装置は、コンクリート構造体に固定されるボイド管と、ボイド管内に貯留される液体と、を更に備える。そして、ヒートパイプは、液体が充填されたボイド管内に配置される。この構造により、コンクリートの硬化後には、ヒートパイプは、コンクリート構造体から回収することが可能となり、ヒートパイプを繰り返し使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態であるコンクリートの温度調整装置を説明する断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態であるコンクリートの温度調整装置を説明するための図であり、コンクリート工学年次論文集(Vo1.36、No1、2014)に開示されたコンクリート構造体の温度分布特性の一例を示す。
【
図3】本発明の一実施形態であるコンクリートの温度調整装置を説明するための図であり、コンクリート工学年次論文集(Vo1.36、No1、2014)に開示されたコンクリート構造体の温度履歴の一例を示す。
【
図4A】本発明の一実施形態であるコンクリートの温度調整装置を構成するヒートパイプを説明する斜視図である。
【
図4B】本発明の一実施形態であるコンクリートの温度調整装置を構成するヒートパイプを説明する上面図である。
【
図4C】本発明の一実施形態であるコンクリートの温度調整装置を構成するヒートパイプを説明する下面図である。
【
図5A】本発明の一実施形態であるコンクリートの温度調整装置を構成するヒートパイプを説明する断面図である。
【
図5B】本発明の一実施形態であるコンクリートの温度調整装置を構成するヒートパイプを説明する断面図である。
【
図6】従来のコンクリートの温度調整装置を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係るコンクリートの温度調整装置10(以下、「温調装置10」と呼ぶ。)に関して図面に基づき詳細に説明する。尚、以下の説明では、同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。また、紙面上下方向は温調装置10の高さ方向を示し、紙面左右方向は温調装置10の横幅方向を示し、紙面前後方向は温調装置10の奥行方向を示す。
【0026】
図1は、本実施形態の温調装置10を説明する断面図である。
図2は、コンクリート工学年次論文集(Vo1.36、No1、2014)に開示されたコンクリート構造物の温度分布特性を説明する図である。
図3は、コンクリート工学年次論文集(Vo1.36、No1、2014)に開示されたコンクリート構造物の温度履歴の比較を説明する図である。
図4Aは、本実施形態の温調装置10を構成するヒートパイプ14を説明する斜視図である。
図4Bは、本実施形態の温調装置10を構成するヒートパイプ14を説明する上面図である。
図4Cは、本実施形態の温調装置10を構成するヒートパイプ14を説明する下面図である。
図5Aは、本実施形態の温調装置10を構成するヒートパイプ14を説明する断面図である。
図5Bは、本実施形態の温調装置10を構成するヒートパイプ14を説明する断面図であり、
図4Aに示すヒートパイプ14のA-A線方向の断面を示す。
【0027】
図1に示す如く、温調装置10は、コンクリートの硬化時に発生する水和熱H1を吸熱し、作動流体24が上記水和熱H1により気化し蒸気に成る際に潜熱H2を吸収した後、上記蒸気が凝縮する際にコンクリート構造体11の外部へと上記潜熱H2を放熱する。そして、温調装置10は、養生時におけるコンクリート構造体11の内部温度の上昇を抑制することで、コンクリート構造体11にひび割れが発生することを防止する。
【0028】
温調装置10は、主に、コンクリート構造体11の内部に配設されるボイド管12と、ボイド管12の内部に貯留される液体13と、ボイド管12内に挿入されるヒートパイプ14と、を備える。尚、温調装置10は、コンクリート構造体11の大きさに応じて、所望のピッチにて複数箇所に配設されることで、コンクリート構造体11全体をより均一に冷却することが可能となる。
【0029】
温調装置10は、例えば、橋梁の脚部やダムの躯体等、主にマスコンクリートであるコンクリート構造体11の構築過程時、特に、打設したコンクリートの養生時にその内部に配設される。そして、ヒートパイプ14が、コンクリートの硬化時に発生する上記水和熱H1を吸熱し、コンクリート構造体11の外部へと上記潜熱H2を放熱する。コンクリート構造体11の硬化後には、ヒートパイプ14は原則としてコンクリート構造体11から除去されることで、ヒートパイプ14は、その他のコンクリート構造体11に対して繰り返し使用することが可能となる。
【0030】
ボイド管12は、例えば、鉄製丸パイプであり、コンクリート構造体11の表面11Aに対して略鉛直方向に挿入された状態にて、鉄筋等に対して固定される。そして、ボイド管12の底面12Bは、鉄板等により塞がれることで、ボイド管12内には液体13を貯留することが出来る。一方、ボイド管12の天面側は開口した状態となる。尚、コンクリート構造体11の硬化後には、ボイド管12の内部にモルタル等が充填されることで、ボイド管12は、コンクリート構造体11の内部へと埋設される。
【0031】
図示したように、ボイド管12は、例えば、コンクリート構造体11の表面11Aから底面11Bまでに渡り配設され、温調装置10は、コンクリート構造体11から上記水和熱H1を吸熱する。詳細は
図2及び
図3を用いて後述するが、コンクリート構造体11は、上記水和熱H1により、その厚み方向の中心部が最も高温状態となり、ボイド管12は、コンクリート構造体11の表面11Aから少なくともコンクリート構造体11の略中心部まで配設されることで、コンクリート構造体11を効果的に冷却することが出来る。
【0032】
液体13は、例えば、水であり、ボイド管12の開口部12Aからボイド管12の内部へと注入される。そして、液体13は、ボイド管12を介してコンクリート構造体11から水和熱H1が伝熱されると共に、その水和熱H1をヒートパイプ14へと伝熱する。
【0033】
ヒートパイプ14は、主に、外部管21と、少なくともその一部が外部管21の内部に配設される内部管22と、外部管21と内部管22との間の貯留空間23に貯留される作動流体24と、外部管21の天面21A側に形成される放熱フィン25と、を備える。
【0034】
ヒートパイプ14は、液体13が充填されたボイド管12内に挿入されることで、液体13を介してコンクリート硬化時に発生する水和熱H1をコンクリート構造体11から吸熱する。その一方、作動流体24は、上記水和熱H1により気化し蒸気に成る際に潜熱H2を吸収する。その後、上記蒸気からなる蒸気流は、外部管21の天面21A側へと移動し、外部管21及び放熱フィン25を介してコンクリート構造体11の外部へと上記潜熱H2を放熱すると共に、蒸気は凝縮し、液状の作動流体24へと戻る。つまり、作動流体24が、外部管21内にて相変化サイクルを繰り返すことで、コンクリート構造体11の内部が冷却され、コンクリート構造体11にひび割れが発生することが防止される。
【0035】
ここで、
図2及び
図3を用いて、コンクリート硬化時に発生する水和熱H1によるコンクリート構造物の内部の温度特性について説明する。尚、
図2及び
図3は、本実施形態のコンクリート構造体11のコンクリート硬化時における内部温度を実際に測定した図ではないが、コンクリート構造体11の内部でも同様な温度特性を示すものと推定される。
【0036】
図2では、縦幅1m×横幅1m×高さ1.5mのコンクリート製の試験体A,Bを準備し、紙面左側の試験体Aには、ヒートパイプHを配置しない構造とし、紙面右側の試験体Bには、その略中心部にヒートパイプHを配置した構造とする。
【0037】
図示したように、試験体Aでは、測定点1の内部温度は74.1℃であり、測定点2の内部温度は72.6℃である。つまり、試験体Aでは、コンクリート硬化時の水和熱H1が、ヒートパイプHを介して外部へと放熱されない構造となり、水和熱H1が内部に留まることで、試験体Aの高さ方向の略中心部が最も高温状態となる。尚、実線、一点鎖線、二点鎖線、点線は、等温度線であり、その順序にて温度が低下している状況を示し、試験体Aの略中心部からその周囲に向けて内部温度が低下している。
【0038】
一方、試験体Bでは、測定点1の内部温度は65.1℃であり、測定点2の内部温度は70.2℃である。図示したように、測定点1は、ヒートパイプH近傍の試験体Bの略中心部であるが、ヒートパイプHにより上記水和熱H1が外部へと放熱され、冷却されている。そして、ヒートパイプHの延在方向(紙面上下方向)に沿って低温領域が形成されるように、ヒートパイプHによる吸熱特性が示されている。尚、一点鎖線、二点鎖線、点線は、等温度線であり、その順序にて温度が低下している状況を示し、試験体Bでは、ヒートパイプHの両側において、それぞれその高さ方向の略中心部が高温状態となっている。
【0039】
以上より、コンクリート構造体11では、少なくともその略中心部まで温調装置10のヒートパイプ14を配置し、高温状態となり易い領域から冷却することで、コンクリート構造体11を効率良く冷却することが出来る。そして、コンクリート打設後に温調装置10を用いてコンクリート構造体11の内部温度の上昇を抑制することで、コンクリート構造体11にひび割れが発生することが防止される。
【0040】
また、試験体Bでは、測定点1より測定点2の方が高温状態となることからも、ヒートパイプHを試験体Bに対して所望の間隔に配列することで、試験体Bの全体をより均一に冷却することが可能となる。
【0041】
図3では、試験体A及び試験体Bの測定点2における温度履歴を示すグラフであり、縦軸は試験体A及び試験体Bの内部温度を示し、横軸はコンクリート打設後の経過日数を示す。また、実線は、ヒートパイプHを配設した試験体Bの温度履歴を示し、一点鎖線は、ヒートパイプHを配設しない試験体Aの温度履歴を示す。尚、点線は、試験体A及び試験体Bを載置する場所の外気温を示す。
【0042】
実線及び一点鎖線にて示すように、試験体A及び試験体Bでは、コンクリート打設後、1.5日程度にて内部温度が最も上昇し、その後、徐々に内部温度が低下する。コンクリートの打設後には、コンクリート硬化時に発生する水和熱H1の発生量が多くなるが、コンクリートの硬化状況に合わせて徐々に水和熱H1の発生量が低減するからである。そして、コンクリート構造体11の大きさや形状等にも起因するが、上記水和熱H1の熱量は、例えば、55W程度と低く、コンクリート構造体11の内部温度は、最も上昇しても約80℃程度である。
【0043】
図4Aに示す如く、ヒートパイプ14は、例えば、全長6m程度の外部管21を主筐体として構成される。外部管21の天面21A側は、蓋部31により塞がれる。また、
図4Bに示す如く、外部管21の天面21A側には、例えば、8枚の放熱フィン25が、その外周面21Dに沿って均等に配設される。一方、
図4A及び
図4Cに示す如く、外部管21の底面21Bからは、内部管22が外部管21の外側へと導出する。そして、外部管21の底面21B側は、蓋部32により塞がれ、内部管22の底面22B側は、蓋部34により塞がれる。更に、内部管22は、外部管21の蓋部32に対して一環状に溶接固定されることで、外部管21内部は真空状態に保たれる。
【0044】
この構造により、
図1に示すように、ヒートパイプ14が、ボイド管12の内部に配設される際に、内部管22の底面22Bが、ボイド管12の底面12Bと当接することで、外部管21の底面21Bは、ボイド管12の底面12Bから離間した状態となる。そして、作動流体24が、コンクリート構造体11の略中央部をカバーするように、ヒートパイプ14が、ボイド管12内に配設されることで、コンクリート構造体11の高温領域を積極的に冷却することが可能となる。その結果、コンクリート構造体11の内部温度の上昇を抑制し、コンクリート構造体11のひび割れの発生が防止される。
【0045】
更には、ヒートパイプ14では、放熱フィン25を介して放熱領域が増大し、潜熱H2の放熱特性が向上することで、外部管21内にて作動流体24の相変化サイクルのスピードが早まり、コンクリート構造体11を早期に冷却することが可能となる。
【0046】
図5Aは、
図1に示すヒートパイプ14を部分的に拡大した拡大断面図である。図示したように、外部管21は、例えば、円筒形状の鉄製丸パイプであり、外部管21の底面21B側は、蓋部32により塞がれた状態となる。また、上述したように、内部管22の外周面22Cは、外部管21の蓋部32に対して一環状に溶接固定される。この構造により、外部管21の内部は、真空状態に保たれると共に、作動流体24が真空状態にて封入される。尚、外部管21としては、鉄製パイプに限定されるものではなく、銅製パイプ、アルミニウム製パイプやステンレス製パイプ等、熱伝導性に優れた材料から成る場合でも良い。
【0047】
内部管22は、例えば、円筒形状の鉄製丸パイプであり、その底面22B及び天面22Aは、蓋部33,34により塞がれた状態となる。図示したように、内部管22の一部は、外部管21の内部に配設されると共に、内部管22は、外部管21の底面21B側から外部へと導出した状態となる。尚、内部管22としては、鉄製パイプに限定されるものではなく、銅製パイプ、アルミニウム製パイプやステンレス製パイプ等、熱伝導性に優れた材料から成る場合でも良い。
【0048】
作動流体24としては、例えば、アルコール、アンモニア、水、ヘリウム、窒素等が用いられ、温調装置10の使用状況、例えば、作動流体24の気化温度等に応じて、様々な材料が用いられる。そして、作動流体24として常温時に液状のものを使用する場合には、少なくとも外部管21の内周面21Cと内部管22の外周面22Cとの間の貯留空間23の大部分を作動流体24にて充填する量が用いられる。尚、
図5Aでは、作動流体24が、突起部41の下面程度まで充填される状態を示すが、この場合に限定するものではない。例えば、作動流体24が、内部管22の蓋部33上方まで充填される場合でも良い。
【0049】
図5Bに示す如く、外部管21は、例えば、外径45mmの円筒形状の丸パイプであり、内部管22は、例えば、外径38mmの円筒形状の丸パイプである。そして、内部管22の軸心CL1と外部管21の軸心CL2とが略一致するように、内部管22は、外部管21に対して溶接固定される。
【0050】
また、内部管22の天面22A側には、例えば、3個の突起部41が、その外周面22Cに沿って略均等に配設される。突起部41の高さは、貯留空間23の幅W1に合わせて1.5mmとなる。一方、上述したように、内部管22の底面22B側は、貯留空間23の幅W1が全周に渡り1.5mmとなるように、外部管21の蓋部32に対して溶接固定される。尚、貯留空間23の幅W1が略均一に維持されれば良く、突起部41の数や配置箇所は、任意の設計変更が可能である。
【0051】
この構造により、内部管22の天面22A側は、突起部41が、それぞれ外部管21の内周面21Cに対して当接し、貯留空間23の幅W1は、内部管22の外周面22Cに沿って略同一幅にて形成される。そして、貯留空間23は、内部管22の外周面22Cに沿って一環状に連続して形成されると共に、内部管22の延在方向(紙面上下方向)に渡り形成される。
【0052】
本実施形態では、貯留空間23には、毛細管構造のウイックが配設されることがなく、貯留空間23は、作動流体24が貯留されるための空間として形成される。そして、作動流体24としては、少なくとも常温時の液状にて貯留空間23の大部分を満たすだけの量が外部管21の内部へと封入される。
【0053】
この構造により、ヒートパイプ14では、ウイックを用いることなく、貯留空間23を介して外部管21の内側に作動流体24が貯留される構造が実現される。上述したように、貯留空間23の配設長さL1は、外部管21の内部に配設される内部管22の長さにより規定され、用途に応じて任意の設計変更が可能である。
【0054】
例えば、
図1に示す構造では、コンクリート構造体11の厚みが1400mm程度であり、上記貯留空間23の配設長さL1は、1000mm程度である。そして、内部管22の導出長さは、200mm程度である。そして、ヒートパイプ14の貯留空間23は、コンクリート構造体11の略中心部を含むようにその上下方向へと配設される。その結果、ヒートパイプ14の作動流体24にて満たされた貯留空間23が、コンクリート構造体11の中央部及びその周辺領域の高温領域に配設されることで、コンクリート構造体11をその高温領域から積極的に冷却することが可能となる。
【0055】
更に、上述したように、内部管22の天面22Aは、蓋部33により塞がれることで、液状の作動流体24が、内部管22の内部へと貯留することはなく、貯留空間23に対して貯留する。また、貯留空間23は、外部管21の内部に内周面21Cに沿って連続して配設されると共に、その径方向における幅W1は、約1.5mmと狭く、略均一な空間となる。
【0056】
この構造により、ヒートパイプ14の作動流体24は、液体13を介して外部管21の周方向の略全面から水和熱H1を吸熱することが可能となると共に、水和熱H1により気化するまでの時間が短くなる。その結果、ヒートパイプ14の外部管21内での作動流体24の相変化サイクルのスピードが早まり、コンクリート構造体11の内部温度の上昇が防止され、コンクリート構造体11の硬化時におけるひび割れの発生が防止される。
【0057】
ここで、
図3を用いて上述したように、温調装置10は、コンクリート構造体11の養生時に使用される装置であり、コンクリート構造体11の内部は約80℃程度まで上昇する。そのため、作動流体24の気化した蒸気が、液状の作動流体24内を勢い良く上昇し、貯留空間23が、空の状態となることはない。そして、上記蒸気が、ヒートパイプ14の上部側にて凝縮し、液化することで、液状の作動流体24が、再び、貯留空間23へと戻り、貯留空間23は、実質、液状の作動流体24にて満たされた状態を維持することができる。
【0058】
この構造により、ヒートパイプ14では、コンクリート構造体11の養生時において、常時、コンクリート構造体11から水和熱H1を吸熱することが可能となる。特に、コンクリート打設後、1.5日程度のコンクリート構造体11の内部温度が最も上昇するタイミングにおいても、コンクリート構造体11から水和熱H1を吸熱し、コンクリート構造体11を冷却することが出来る。
【0059】
尚、本実施形態の温調装置10では、ボイド管12を利用し、コンクリート構造体11の硬化後には、ヒートパイプ14をボイド管12から取り出し、ヒートパイプ14を再使用する場合について説明したが、この場合に限定するものではない。例えば、温調装置10では、ボイド管12及び液体13を使用することなく、コンクリート構造体11に対してヒートパイプ14を埋設させ、コンクリート構造体11から水和熱H1をヒートパイプ14にて直接吸熱する場合でも良い。この場合、コンクリート構造体11の硬化後には、コンクリート構造体11の表面11Aから露出する部分のヒートパイプ14を切断し、その他の部分はコンクリート構造体11の内部にモルタル等により埋設する。
【0060】
また、ヒートパイプ14の外部管21は、その短手方向の断面形状が略円形状の場合について説明したが、この場合に限定するものではない。例えば、外部管21の断面形状が、四角形形状等の多角形形状の場合でもよい。上述したように、外部管21の内部には、内部管22の周囲に略同一の幅W1の貯留空間23が形成されるため、内部管22の短手方向の断面形状も外部管21の断面形状と略相似形状となる。そのため、内部管22も外部管21と同様に、例えば、その断面形状が、四角形形状等の多角形形状の場合でもよい。この構造により、ヒートパイプ14では、作動流体24が、外部管21の内周面21Cに沿って一環状に薄い幅にて配設されることで、作動流体24が水和熱H1により気化し易くなり、コンクリート構造体11の内部温度の上昇が防止される。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲にて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 コンクリートの温度調整装置
11 コンクリート構造体
12 ボイド管
12A 開口部
12B 底面
13 液体
14 ヒートパイプ
21 外部管
21A 天面
21B 底面
21C 内周面
21D 外周面
22 内部管
22A 天面
22B 底面
22C 外周面
23 貯留空間
24 作動流体
25 放熱フィン
31,32,33,34 蓋部
41 突起部