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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178936
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20221125BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086079
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 考史
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131AA03
5F131BA19
5F131CA09
5F131CA53
5F131CA68
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB17
5F131EB18
5F131EB25
5F131EB72
5F131EB78
5F131EB82
5F131EB84
(57)【要約】
【課題】絶縁性を向上させることができる保持装置を提供すること。
【解決手段】チャック電極50を備える板状部材10と、チャック電極50に接続され、下面12に配置される端子パッド60及び給電端子62と、給電端子62が配置される貫通孔25とを備えるベース部材20と、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合する接合層40と、を有し、板状部材10の保持面11上に半導体ウエハWを保持する静電チャック1において、接合層40には、貫通孔25と連通する接合層貫通孔45が形成され、端子パッド60及び給電端子62の周囲に、下面12から少なくとも接合層貫通孔45内に突出する環状凸部34が板状部材10と一体的に形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面と、前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、前記第1の面と前記第2の面の間に配置された内部電極とを備える第1部材と、
前記内部電極に接続され、前記第2の面に配置される端子と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面と、前記第3の面と前記第4の面を貫通して内部に前記端子が配置される貫通孔とを備える第2部材と、
前記第1部材の前記第2の面と前記第2部材の前記第3の面との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合層と、を有し、
前記第1部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記接合層には、前記貫通孔と連通する接合層貫通孔が形成され、
前記端子の周囲に、前記第2の面から少なくとも前記接合層貫通孔内に突出する環状の凸部が前記第1部材と一体的に形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載する保持装置において、
前記接合層は、金属材料を主成分とする接合材により形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する保持装置において、
前記第2の面に、前記端子を配置する凹部が形成されており、
前記凹部の側面と前記凸部の内周面とが同一面となるように前記凸部が形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3に記載するいずれか1つの保持装置において、
前記凸部と前記貫通孔との間に隙間が形成されている
ことを特徴とする保持装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3に記載するいずれか1つの保持装置において、
前記凸部と前記接合層とが接触している
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物を保持する保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保持装置として、例えば、特許文献1に記載された静電チャックが知られている。この静電チャックは、表面(保持面)に半導体ウエハを保持するセラミック基板(第1部材)と、セラミック基板に接合された金属製のベース部材(第2部材)とを備えており、セラミック基板の内部に、チャック電極やヒータ電極などの内部電極が配置されている。そして、このような静電チャックには、内部電極への給電のための構成として、セラミック基板の下面に内部電極に導通する第1の端子が配置され、ベース部材に形成された貫通孔内に、一端が外部電源に接続されて他端が第1の端子に接続される第2の端子が配置されている。そして、第1の端子及び第2の端子とベース部材とを絶縁するために、端子周りに絶縁管が配置されている。この絶縁管は、樹脂接着剤により静電チャックに接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-103321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、静電チャックの使用時には、静電チャックの温度が上昇/下降するため、樹脂接着剤が劣化するおそれがある。つまり、温度上昇時(高温時)には、直接的な熱印加や熱膨張差により接着剤が劣化して接着性が弱まることにより接合部分に隙間ができたり、接着剤自体が損傷する。一方、温度下降時(低温時)には、接着剤自体が湿気を帯びたり、接着剤自体が固くなるため、熱膨張差に追随できなくなって接着性が弱まることにより接合部分に隙間ができたり、接着剤自体が損傷する。
【0005】
そして、樹脂接着剤が劣化して、接合部分に隙間ができたり、接着剤自体が損傷すると、その隙間や損傷部分がリーク経路となり、端子とベース部材との間における絶縁が破壊され、異常放電が発生してしまう。近年、静電チャックが高温(250℃以上)で使用されることが増えており、樹脂接着剤が劣化しやすくなっているため、上記のような静電チャックにおいて、絶縁性の向上が望まれている。
【0006】
そこで、本開示は上記した問題点を解決するためになされたものであり、絶縁性を向上させることができる保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
第1の面と、厚み方向にて前記第1の面とは反対側に設けられる第2の面と、前記第1の面と前記第2の面の間に配置された内部電極とを備える第1部材と、
前記内部電極に接続され、前記第2の面から前記厚み方向に延びる端子と、
第3の面と、前記第3の面とは反対側に設けられる第4の面と、前記第3の面と前記第4の面を貫通して内部に前記端子が配置される貫通孔とを備える第2部材と、
前記第1部材の前記第2の面と前記第2部材の前記第3の面との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合層と、を有し、
前記第1部材の前記第1の面上に対象物を保持する保持装置において、
前記接合層には、前記貫通孔と連通する接合層貫通孔が形成され、
前記端子の周囲に、前記第2の面から少なくとも前記接合層貫通孔内に突出する環状の凸部が前記第1部材と一体的に形成されていることを特徴とする。
【0008】
この保持装置では、第1部材の第2の面に一体的に形成された環状の凸部が、少なくとも接合層貫通孔内に突出するように配置されている。すなわち、環状の凸部が第2の面から少なくとも接合層の一部を覆うように配置される。そのため、端子と接合層(金属接合材の場合)あるいは第2部材(金属製の場合)との間における沿面距離が長くなるので、端子と接合層(金属接合材の場合)あるいは第2部材(金属製の場合)との間における絶縁性を向上させることができる。
【0009】
上記した保持装置において、
前記接合層は、金属材料を主成分とする接合材により形成されていることが好ましい。
【0010】
このように接合層が金属材料を主成分とする接合材(金属接合材)により構成される場合、端子と接合層との沿面距離が最も短くなるため、端子と接合層との間で異常放電が発生しやすくなる。
【0011】
そのため、第1部材の第2の面に一体的に形成された凸部を、少なくとも接合層の一部を覆うように設けることにより、端子と金属接合材で形成される接合層との間における沿面距離が長くなるので、端子と金属接合材で形成される接合層との間における絶縁性を向上させることができる。
【0012】
上記した保持装置において、
前記第2の面に、前記端子を配置する凹部が形成されており、
前記凹部の側面と前記凸部の内周面とが同一面となるように前記凸部が形成されていることが好ましい。
【0013】
ここで、第2部材の貫通孔及び第1部材の凹部は、接合層を介した熱伝達が行われないため、第1の面において、第2部材の貫通孔及び第1部材の凹部の直上付近は、他の部分と比べて温度差が生じやすい。そのため、第2部材の貫通孔及び第1部材の凹部の直上付近が温度特異点になりやすい。
【0014】
そこで、このように凸部を設けることにより、凹部内に凸部を設ける場合に比べて、凹部及び貫通孔の大きさ(直径)を小さくすることができるため、温度特異点になりやすい領域を減少させることができ、第1の面における均熱性を向上させることができる。
【0015】
上記した保持装置において、
前記凸部と前記貫通孔との間に隙間が形成されていることが好ましい。
【0016】
第1部材を形成する材料と第2部材を形成する材料との間に熱膨張差がある場合には、保持装置の温度が上昇/下降する際に、熱膨張差によって凸部が第2部材と接触することで、凸部が損傷することがある。
【0017】
そのため、凸部と第2の貫通孔との間に隙間を形成することにより、凸部の損傷を確実に防ぐことができる。その結果、凸部によって、端子と接合層(金属接合材の場合)あるいは第2部材(金属製の場合)との間における絶縁性を向上させることができる。
【0018】
あるいは、上記した保持装置において、
前記凸部と前記接合層とが接触していてもよい。
【0019】
ここで、第2部材の貫通孔は、接合層を介した第1部材との熱伝達が行われないため、第1の面において、第2部材の貫通孔の直上付近は他の部分と比べて温度差が生じやすい。そのため、第2部材の貫通孔の直上付近は温度特異点になりやすい。
【0020】
そこで、凸部と接合層とを接触させることにより、第1部材と第2部材との間における熱移動が、接合層と凸部を介して生じるため、第2部材の貫通孔付近において、第1部材と第2部材との間における熱伝達が促進される。従って、第1の面において、第2部材の貫通孔の直上付近にて温度特異点が発生することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、絶縁性を向上させることができる保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態の静電チャックの概略斜視図である。
図2】実施形態の静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
図3】実施形態の静電チャックのXY平面の概略構成図である。
図4】実施形態の静電チャックにおける端子孔付近のXZ断面の概略構成図である。
図5】第1実施例の静電チャックにおける端子孔付近のXZ断面の概略構成図である。
図6】第2実施例の静電チャックにおける端子孔付近のXZ断面の概略構成図である。
図7】第3実施例の静電チャックにおける端子孔付近のXZ断面の概略構成図である。
図8】変形例を示す端子孔付近のXZ断面の概略構成図である。
図9】変形例を示す端子孔付近のXZ断面の概略構成図である。
図10】変形例を示す端子孔付近のXZ断面の概略構成図である。
図11】変形例を示す端子孔付近のXZ断面の概略構成図である。
図12】変形例を示す静電チャックのXZ断面の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示に係る実施形態である保持装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、保持装置として、例えば、成膜装置(CVD成膜装置やスパッタリング成膜装置など)やエッチング装置(プラズマエッチング装置など)といった半導体製造装置に使用される静電チャックを例示して説明する。
【0024】
そこで、本実施形態の静電チャック1について、図1図4を参照しながら説明する。本実施形態の静電チャック1は、半導体ウエハW(対象物)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば、半導体製造装置の真空チャンバー内で半導体ウエハWを固定するために使用される。図1に示すように、静電チャック1は、板状部材10と、ベース部材20と、板状部材10とベース部材20とを接合する接合層40とを有する。なお、板状部材10は本開示の「第1部材」の一例であり、ベース部材20は本開示の「第2部材」の一例である。
【0025】
以下の説明においては、説明の便宜上、図1に示すようにXYZ軸を定義する。ここで、Z軸は、静電チャック1の軸線方向(図1において上下方向)の軸であり、X軸とY軸は、静電チャック1の径方向の軸である。
【0026】
板状部材10は、図1に示すように、円盤状の部材であり、セラミックスにより形成されている。セラミックスとしては、様々なセラミックスが用いられるが、強度や耐摩耗性、耐プラズマ性等の観点から、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)または窒化アルミニウム(AlN)を主成分とするセラミックスが用いられることが好ましい。なお、ここでいう主成分とは、含有割合の最も多い成分(例えば、体積含有率が90vol%以上の成分)を意味する。板状部材10の直径は、例えば150~350mm程度であり、板状部材10の厚さは、例えば2~6mm程度である。
【0027】
図1図2に示すように、板状部材10は、半導体ウエハWを保持する保持面11と、板状部材10の厚み方向(Z軸方向に一致する方向、上下方向)について保持面11とは反対側に設けられる下面12とを備えている。この保持面11上に半導体ウエハWが保持される。なお、保持面11は本開示の「第1の面」の一例であり、下面12は本開示の「第2の面」の一例である。
【0028】
板状部材10の保持面11は、凹凸形状をなしている。具体的には、保持面11には、図2図3に示すように、その外縁付近に環状凸形状のシールバンド16が形成され、シールバンド16の内側に複数の独立した柱状の凸部17が形成されている。シールバンド16の断面(XZ断面)の形状は、図2に示すように、略矩形である。シールバンド16の高さ(Z軸方向の寸法)は、例えば、10μm~20μm程度である。また、シールバンド16の幅(X軸方向の寸法)は、例えば、0.5mm~5.0mm程度である。
【0029】
各凸部17は、図3に示すように、Z軸方向視(平面視)で略円形をなしており、略均等間隔で配置されている。また、各凸部17の断面(XZ断面)の形状は、図2に示すように、略矩形である。凸部17の高さは、シールバンド16の高さと略同一であり、例えば、10~20μm程度である。また、凸部17の幅(Z軸方向視での凸部17の最大径)は、例えば、0.5~1.5mm程度である。なお、板状部材10の保持面11におけるシールバンド16より内側において、凸部17が形成されていない部分は、凹部18となっている。
【0030】
そして、半導体ウエハWは、板状部材10の保持面11におけるシールバンド16と複数の凸部17とに支持されて、静電チャック1に保持される。半導体ウエハWが静電チャック1に保持された状態では、半導体ウエハWの表面(下面)と、板状部材10の保持面11(詳細には、保持面11の凹部18)との間に、空間Sが存在することとなる(図2参照)。この空間Sには、静電チャック1を貫通するガス孔30bを介して不活性ガス(例えば、ヘリウムガス)が供給されるようになっている。
【0031】
また、図2に示すように、板状部材10は、その内部にチャック電極50を備えている。チャック電極50は、Z軸方向視で、例えば略円形をなしており、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成されている。チャック電極50は本開示の「内部電極」の一例である。このチャック電極50には、ビア61が接続されている。このビア61は、チャック電極50から下面12側にZ軸方向へ延びるように配置されている。
【0032】
そして、板状部材10の下面12には、有底孔15が形成されている。この有底孔15は、円形凹部であり、Z軸方向視で、後述するベース部材20の貫通孔25に重なる領域が、保持面11側へ凹んだ形状をなしている。また、有底孔15の直径は、例えば7~8mmである。この有底孔15の底部15bには、端子パッド60が配置されている。Z軸方向視における端子パッド60の形状は、例えば、略円形である。なお、有底孔15は本開示の「凹部」の一例である。
【0033】
この端子パッド60の上面には、チャック電極50に接続されたビア61の他端が接続されている。これにより、端子パッド60は、ビア61を介して、チャック電極50に電気的に接続されている。端子パッド60及びビア61は、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成されている。なお、本実施形態では、端子パッド60は、図2に示すように、厚さ方向(Z軸方向)の全体が板状部材10から露出しているが、端子パッド60の下面が板状部材10から露出している限りにおいて、端子パッド60における厚さ方向の一部分又は全体が、板状部材10に埋設されていてもよい。そして、端子パッド60の下面(露出面)に、外部電源に接続するための給電端子62が接合(ロウ付け)されており、外部電源から給電端子62、端子パッド60、ビア61を介して、チャック電極50に電力が供給される。なお、端子パッド60及び給電端子62は本開示の「端子」の一例であり、給電端子62の外周部分は絶縁部材で覆われている。
【0034】
また、板状部材10の下面12には、図2に示すように、有底孔15を囲むようして端子パッド60及び給電端子62の周りに、Z軸方向に突出する環状凸部34が設けられている。この環状凸部34は、板状部材10と同様にセラミックスであり、板状部材10と一体形成されている。すなわち、環状凸部34は、板状部材10と同時焼成して一体形成してもよいし、拡散接合により板状部材10と一体形成することもできる。あるいは、厚めの板状部材10を製作した後に、環状凸部34を研磨等の機械加工により形成してもよい(環状凸部34となる部分以外を削り落とす)。なお、環状凸部34の内径と有底孔15の内径は同一径であり、環状凸部34は有底孔15と同軸である。つまり、有底孔15の側面と環状凸部34の内周面とが同一面になっている。
【0035】
こうすることにより、有底孔15内に環状凸部34を設ける場合と比べて、有底孔15及び貫通孔25の大きさ(直径)を小さくすることができる。ここで、ベース部材20の貫通孔25及び板状部材10の有底孔15は、接合層40を介した熱伝達が行われないため、保持面11において、貫通孔25及び有底孔15の直上付近は、他の部分と比べて温度差が生じやすく、貫通孔25及び有底孔15の直上付近が温度特異点になりやすい。そこで、このようにして有底孔15及び貫通孔25の大きさ(直径)を小さくすることにより、温度特異点になりやすい領域を減少させることができ、保持面11における均熱性を向上させることができる。
【0036】
ここで、環状凸部34は、少なくとも接合層40の一部を覆うようにZ軸方向へ伸びていればよい。つまり、環状凸部34の先端が、後述する接合層40の接合層貫通孔45内に配置されていればよい。本実施形態では、環状凸部34は、ベース部材20の貫通孔25の途中(孔の1/5程度の深さ)まで突出している。なお、環状凸部34の長さ(Z軸方向寸法)は、例えば3mm(環状凸部34の先端が貫通孔25内に位置する長さ)以上であることが好ましい。これにより、接合層40を覆うように接合層貫通孔45の全域に環状凸部34が配置されるからである。
【0037】
ベース部材20は、図1に示すように円柱状、詳しくは、直径の異なる2つの円柱が、大きな直径の円柱状の上面部の上に小さな直径の円柱状の下面部が載せられるようにして、中心軸Caを共通にして重ねられて形成された段付きの円柱状である。このベース部材20は、金属(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等)により形成されていてもよいし、金属以外(例えば、セラミックス等)により形成されていてもよい。
【0038】
そして、図1図2に示すように、ベース部材20は、上面21と、ベース部材20(板状部材10)の中心軸Ca(図2参照)方向(すなわち、Z軸方向)について上面21とは反対側に設けられる下面22と、を備えている。なお、上面21は本開示の「第3の面」の一例であり、下面22は本開示の「第4の面」の一例である。
【0039】
ベース部材20の直径は、上段部が例えば150mm~300mm程度であり、下段部が例えば180mm~350mm程度である。また、ベース部材20の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば20mm~50mm程度である。
【0040】
また、図2に示すように、ベース部材20には、冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)を流すための冷媒流路23が形成されている。そして、冷媒流路23は、ベース部材20の下面22に設けられた不図示の供給口と排出口とに接続しており、供給口からベース部材20に供給された冷媒が、冷媒流路23内を流れて排出口からベース部材20の外へ排出される。このようにして、ベース部材20の冷媒流路23内に冷媒を流すことにより、ベース部材20が冷却され、これにより、接合層40を介して板状部材10が冷却される。
【0041】
そして、ベース部材20には、上面21と下面22との間を厚み方向(Z軸方向、図2において上下方向)に貫通する円筒形状の貫通孔25が形成されている。この貫通孔25内に給電端子62及び環状凸部34が配置されている。環状凸部34と貫通孔25との間には隙間35(図4参照)が形成されている。
【0042】
接合層40は、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21との間に配置され、板状部材10とベース部材20とを接合している。この接合層40を介して、板状部材10の下面12とベース部材20の上面21とが熱的に接続されている。なお、接合層40の厚さ(Z軸方向の寸法)は、例えば0.1~1.0mm程度である。
【0043】
接合層40は、例えばシリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の樹脂接着材、あるいは金属材料を主成分とする金属接合材により構成されている。接合層40として、一般的には樹脂接着剤が使用されることが多いが、静電チャック1が高温下(例えば250℃以上)で使用される場合には、樹脂接着材では耐熱性不足により接合不良が発生するおそれがあるため、金属接合材が使用される。なお、金属接合材としては、例えば、金属粉末や金属箔を用いて接合する金属接着剤や、金属繊維、ポーラス材、網目構造体などの金属メッシュとロウ材で構成されるもの、あるいは、複数の柱状金属片とロウ材で構成されるもの等を使用することができる。金属接着剤、金属メッシュや金属片を形成する金属としては、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅、真鍮、これらの合金、又はステンレス鋼などを使用することができる。
【0044】
この接合層40には、図2に示すように、環状凸部34が配置される接合層貫通孔45が形成されている。つまり、有底孔15と貫通孔25との間に、円筒形状の接合層貫通孔45が形成されている。接合層貫通孔45は、有底孔15及び貫通孔25と同軸であり、有底孔15と接合層貫通孔45と貫通孔25とが、Z軸方向(静電チャック1の軸線方向)に連なって配置されて、端子パッド60及び給電端子62が配置される端子孔65が形成されている。
【0045】
ここで、端子孔65内の構成について、図4を参照しながら説明する。図4に示すように、端子孔65内には、端子パッド60と給電端子62が配置されており、これらの周囲に板状部材10と一体形成された環状凸部34が配置されている。この環状凸部34は、板状部材10の下面12からベース部材20の下面22側に向かって伸びており、その先端がベース部材20に形成された貫通孔25内に位置している。なお、本実施形態では、環状凸部34は、貫通孔25の1/5程度の深さ位置まで伸びている。これにより、接合層40の接合層貫通孔45の内周面が、環状凸部34によって覆われる。そして、環状凸部34と貫通孔25との間には隙間35が形成されている。
【0046】
なお、静電チャック1には、図3に示すように、半導体ウエハWを保持面11上から押し上げるリフトピンが配置されるリフトピン挿入孔30aや、ベース部材20の下面22側から凹部18に形成される空間Sに不活性ガスを供給するためのガス孔30bなど静電チャック1を貫通する貫通孔が形成されている。なお、以下の説明では、リフトピン挿入孔30aとガス孔30bを、単に「貫通孔30」と表記する場合もある。
【0047】
このような静電チャック1として、ベース部材20及び接合層40を形成する材料の組み合わせによって、次の3つの実施例(第1~第3実施例)を挙げることができる。
【0048】
<第1実施例>
まず、第1実施例について説明する。第1実施例では、ベース部材20がセラミックスにより形成され、接合層40が金属接合材により構成されている。すなわち、第1実施例の静電チャック1では、図5に示すように、セラミックス製の板状部材10とセラミックス製のベース部材20aとが、金属接合材で構成される接合層40aによって接合されている。
【0049】
このような第1実施例の静電チャック1は、樹脂接着剤では耐熱性が不足して接合不良が発生する高温下(例えば250℃以上)で使用する場合に好適である。そして、第1実施例では、接合層40aが金属接合材で構成されるため、端子パッド60との沿面距離が非常に小さくなる。
【0050】
ここで、高温下で使用する場合、従来の静電チャックのように、端子周りに絶縁管を配置して、樹脂接着剤により絶縁管を静電チャックに接合しておくことが難しいため絶縁性が低下してしまう。高温下では樹脂接着剤が劣化するため、接合部分に隙間ができたり、接着剤自体が損傷して、その隙間や損傷部分がリーク経路となるからである。そして、リーク経路ができると、端子パッド60と接合層40aとの間における絶縁が破壊され、異常放電が発生してしまう。
【0051】
そこで、第1実施例の静電チャック1では、板状部材10の下面12に、有底孔15の開口部(端子パッド60)を囲むように端子板状部材10と一体形成された環状凸部34を設けている。そして、環状凸部34は貫通孔25の1/5程度の深さ位置まで設けられており、接合層40aを完全に覆っている。そのため、環状凸部34によって、端子パッド60と接合層40aとの間における沿面距離を長くすることができる。これにより、端子パッド60と接合層40aとの間における耐電圧が向上するため、端子パッド60と接合層40aとの間における絶縁性を高めることができる。
【0052】
そして、第1実施例の静電チャック1では、環状凸部34と貫通孔25との間に隙間35を設けているため、端子パッド60と接合層40aとの沿面距離を更に長くすることができる。これにより、端子パッド60と接合層40aとの間における絶縁性をより高めることができる。なお、板状部材10とベース部材20bとの間における熱膨張差がほとんどないため、隙間35としては、例えば、0.5mm程度(製造時に必要なクリアランス)があれば十分である。
【0053】
<第2実施例>
次に、第2実施例について説明する。第2実施例では、ベース部材20が金属製であり、接合層40が金属接合材により構成されている。すなわち、第2実施例の静電チャック1では、図6に示すように、セラミックス製の板状部材10と金属製のベース部材20bとが、金属接合材で構成される接合層40aによって接合されている。
【0054】
このような第2実施例の静電チャック1も、第1実施例と同様、樹脂接着剤では耐熱性が不足する高温下(例えば250℃以上)で使用する場合に好適である。そして、第2実施例でも、金属接合材で構成される接合層40aを使用するため、端子パッド60との沿面距離が非常に小さい。
【0055】
しかしながら、第2実施例の静電チャック1でも、板状部材10の下面12に、有底孔15の開口部を囲むように板状部材10と一体形成された環状凸部34が設けられている。そのため、環状凸部34によって、端子パッド60と接合層40aとの間における沿面距離を長くすることができる。これにより、端子パッド60と接合層40aとの間における耐電圧が向上するため、端子パッド60と接合層40aとの間での異常放電の発生を防止することができる。なお、第2実施例では、環状凸部34の長さ(Z軸方向寸法)は、第1実施例と同じである。
【0056】
そして、第2実施例の静電チャック1では、板状部材10とベース部材20bとの間に熱膨張差があるため、静電チャック1の使用時に温度が上昇/下降する際、熱膨張差によって環状凸部34がベース部材20bと接触することで、環状凸部34が損傷して、その損傷部分がリーク経路になるおそれがある。
【0057】
そのため、環状凸部34と貫通孔25との間に隙間35を形成している。隙間35としては、第1実施例よりも大きく、板状部材10とベース部材20bとの熱膨張差によっても環状凸部34がベース部材20bに接触しない程度(例えば、0.5mm程度)を設定すればよい。このような隙間35を設けることにより、環状凸部34の損傷を確実に防ぐことができる。その結果として、環状凸部34によって、端子パッド60とベース部材20bとの間における絶縁を確保することができる。
【0058】
<第3実施例>
最後に、第3実施例について説明する。第3実施例では、ベース部材20が金属製であり、接合層40が樹脂接着剤により構成されている。すなわち、第3実施例の静電チャック1では、図7に示すように、セラミックス製の板状部材10と金属製のベース部材20bとが、樹脂接着剤で構成される接合層40bによって接合されている。
【0059】
このような第3実施例の静電チャック1においては、端子パッド60とベース部材20aとの間における絶縁を確保する必要がある。そのため、従来の静電チャックでは、端子周りに絶縁管が配置され、樹脂接着剤により絶縁管が静電チャックに接合されている。ところが、静電チャックが高温下で使用されなくても、使用時には静電チャックの温度が上昇/下降するため、その温度変化により樹脂接着剤が劣化していき、接合部分に隙間ができたり、接着剤自体が損傷するおそれがある。そして、その隙間や損傷部分がリーク経路となり、端子とベース部材との間における絶縁が破壊され、異常放電が発生してしまう。
【0060】
そのため、第3実施例の静電チャック1でも、板状部材10の下面12に、有底孔15の開口部を囲むように板状部材10と一体形成された環状凸部34が設けられている。これにより、環状凸部34によって、端子パッド60とベース部材20bとの間における沿面距離を長くすることができる。従って、端子パッド60とベース部材20bとの間における耐電圧が向上するため、端子パッド60とベース部材20bとの間における絶縁性を向上させることができる。
【0061】
また、第3実施例も第2実施例と同様に、板状部材10とベース部材20bとの間に熱膨張差があるため、環状凸部34と貫通孔25との間に、第2実施例と同じ大きさの隙間35(例えば、0.5mm程度)を設けている。これにより、環状凸部34の損傷を確実に防ぐことができ、環状凸部34によって、端子パッド60とベース部材20bとの間における絶縁を確保することができる。
【0062】
<変形例>
続いて、変形例について図8を参照しながら説明する。変形例は、上記実施例と基本的な構造は同じであるが、接合層40の接合層貫通孔45の径が、上記実施例より小さくなっている。すなわち、変形例では、図8に示すように、環状凸部34(の外周面)と接合層40(接合層貫通孔45の内周面)とが接触している。
【0063】
ここで、有底孔15は、接合層40を介したベース部材20との熱伝達が行われない。そのため、板状部材10の保持面11における有底孔15付近が他の部分と比べて局所的に温度差が大きくなって温度特異点になりやすい。
【0064】
そこで、有底孔15の開口部を囲むように突出する環状凸部34と接合層40とを接触させることにより、板状部材10とベース部材20との間における熱移動が、接合層40と環状凸部34を介して生じる。これにより、有底孔15付近における熱伝達が促進される。従って、保持面11において有底孔15付近で温度特異点が発生することを抑制することができ、保持面11における均熱性を確保することができる。
【0065】
以上のように、本実施形態の静電チャック1によれば、板状部材10の下面12において、有底孔15の周囲に端子パッド60及び給電端子62を囲むようにして、板状部材10と一体的に形成された環状凸部34が、接合層40を覆うように設けられている。そのため、環状凸部34によって、端子パッド60と接合層40a(実施例1,2)あるいはベース部材20b(実施例1,3)との間における沿面距離を長くすることができる。
【0066】
これにより、端子パッド60と接合層40a(実施例1,2)あるいはベース部材20b(実施例1,3)との間での異常放電の発生を防止することができる。従って、静電チャック1の端子周りにおける絶縁性を向上させることができる。
【0067】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本開示を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記の実施形態では、内部電極として、チャック電極50を例示しているが、内部電極はチャック電極50に限らず、高周波電極やヒータ電極などであってもよい。ただし、内部電極のうちで最も高い電圧が印加されるチャック電極50に接続される端子部に本開示を適用することが好ましい。
【0068】
また、上記の実施形態では、端子パッド60がチャック電極50(内部電極)にビア61により直接接続されている場合を例示したが、端子パッド60とチャック電極50(内部電極)とが、図9に示すように、接続パッド66を介して電気的に接続されていてもよい。具体的には、端子パッド60と接続パッド66とがビア61aによって接続され、接続パッド66とチャック電極50とがビア61bによって接続されることにより、端子パッド60がチャック電極50(内部電極)に電気的に接続されていてもよい。
【0069】
また、上記の実施形態では、環状凸部34を貫通孔25の途中まで設けた場合を例示したが、図10に示すように、環状凸部34を貫通孔25の全域に(ベース部材20の下面22までベース部材20から飛び出さないように)設けてもよい。これにより、給電端子62の外周部分に絶縁部材を設けることなく、静電チャック1の端子周りにおける絶縁性を向上させることができる。なお、環状凸部34を貫通孔25の全域に設けると、環状凸部34が長くなり、静電チャック1の製造時に環状凸部34を損傷するおそれがある。そのため、環状凸部34を貫通孔25の全域に設ける代わりに、図11に示すように、貫通孔25の途中まで設けた環状凸部34に別部材で構成された絶縁スリーブ36などを接合することもできる。これにより、製造時に環状凸部34が損傷することを防止しつつ、静電チャック1の端子周りにおける絶縁性を向上させることができる。
【0070】
また、上記の実施形態では、環状凸部34がベース部材20(第2貫通孔内)まで延びている場合を例示しているが、環状凸部34が接合層40の途中まで延びている、つまり環状凸部34の先端が接合層貫通孔45内に位置している形態であっても、上記の効果を得ることができる。
【0071】
また、環状凸部34の先端角部をR形状やテーパ形状にしてもよいし、環状凸部34に段差を設けて(環状凸部34の厚さを変化させて)もよい。こうすることにより、端子パッド60と金属で構成される接合層40aあるいはベース部材20bとの間における沿面距離を更に長くすることができる。
【0072】
さらに、上記の実施形態では、端子孔65に環状凸部34を設けた場合について説明したが、図12に示すように、リフトピン挿入孔30aやガス孔30bなどの貫通孔30にも環状凸部34を設けてもよい。これにより、半導体ウエハWと金属で構成される接合層40aあるいはベース部材20bとの間における絶縁性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 静電チャック
10 板状部材
11 保持面
12 下面
15 有底孔
20 ベース部材
21 上面
22 下面
25 貫通孔
30 貫通孔
34 環状凸部
35 隙間
40 接合層
45 接合層貫通孔
50 チャック電極
60 端子パッド
62 給電端子
W 半導体ウエハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12