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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178945
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】メッキ処理部品
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/04 20060101AFI20221125BHJP
   C25D 5/02 20060101ALI20221125BHJP
   C25D 17/12 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C25D7/04
C25D5/02 Z
C25D17/12 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086093
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】521221294
【氏名又は名称】有限会社田村化学工業
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田村 卓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 裕紀
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA02
4K024AA03
4K024AA05
4K024AA10
4K024AA11
4K024AB08
4K024BA02
4K024BC04
4K024BC05
4K024CB06
4K024CB07
4K024CB08
4K024DA05
4K024FA01
4K024GA04
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】円形貫通孔の内周面に適切な厚さのメッキ層を施したメッキ処理部品を提供する。
【解決手段】両端が開口した円形貫通孔が形成された加工対象部品の前記円形貫通孔の内周面にメッキ層が施されたメッキ処理部品において、前記メッキ層の厚さが、前記円形貫通孔の前記両端から深さ方向に見て、前記円形貫通孔の両端部より中央部側の方が厚いことを特徴とする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口した円形貫通孔が形成された加工対象部品の前記円形貫通孔の内周面にメッキ層が施されたメッキ処理部品において、
前記メッキ層の厚さが、前記円形貫通孔の前記両端から深さ方向に見て、前記円形貫通孔の両端部より中央部側の方が厚いことを特徴とするメッキ処理部品。
【請求項2】
前記円形貫通孔の内周面の前記両端部に前記開口に向かって拡径するテーパー状の拡径部がそれぞれ形成されており、前記拡径部における前記メッキ層の厚さが当該拡径部の開口側より内奥側の方が厚いことを特徴とする請求項1に記載のメッキ処理部品。
【請求項3】
前記拡径部における前記メッキ層の厚さは、当該拡径部の開口端から内奥端に向けて単調に漸増していることを特徴とする請求項2に記載のメッキ処理部品。
【請求項4】
前記拡径部における前記メッキ層は、当該拡径部の開口端と内奥端との間に最も厚さの薄い領域を備えることを特徴とする請求項2に記載のメッキ処理部品。
【請求項5】
前記円形貫通孔の内周面には、一方の前記拡径部と他方の前記拡径部との間に平坦部が形成されており、前記平坦部において前記深さ方向の中央部を含む領域におけるメッキ層の厚さが一方向に向かって漸増していることを特徴とする請求項2から4いずれか1項に記載のメッキ処理部品。
【請求項6】
前記平坦部において前記メッキ層の厚さが最大の位置が、前記深さ方向の前記中央部よりも前記一方向の側に偏った位置にあることを特徴とする請求項5に記載のメッキ処理部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔を有する部品にメッキ処理を施したメッキ処理部品に関する。
【背景技術】
【0002】
筒状部分の内径が軸方向に漸次異なるように形成された内周面にメッキ処理を施したメッキ部品がある。このメッキ部品は、メッキ膜の厚みも漸次異なるように施されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-302895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の場合、内周面に施されるメッキ膜の厚みは、軸方向に対し漸次増加または漸次減少しており、何れかの一方の口径部分のメッキ膜の厚みは、軸方向に対し内側より厚くなっている。そのため、生成されたメッキ部品を用いる際に不都合が生じる場合があり、改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、円形貫通孔の内周面に適切な厚さのメッキ層を施したメッキ処理部品に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、両端が開口した円形貫通孔が形成された加工対象部品の前記円形貫通孔の内周面にメッキ層が施されたメッキ処理部品において、前記メッキ層の厚さが、前記円形貫通孔の前記両端から深さ方向に見て、前記円形貫通孔の両端部より中央部側の方が厚いことを特徴とするメッキ処理部品に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により提供される技術によれば、メッキ層の厚さが円形貫通孔の両縁部より中側の方を厚くすることで、生成されたメッキ処理部品を用いる際、例えば、円形貫通孔に軸棒をいずれの開口端から挿入する場合も引っ掛かり抵抗を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】円筒状部品(加工対象部品)の外観を示す図である。
図2】円筒状部品の円形貫通孔を長さ方向に切断した断面図である。
図3】円筒状部品の円形貫通孔の縁部に拡径部を設けた断面図である。
図4】本発明のメッキ処理部品を作成する際に適用されるメッキ処理装置の一例を示す概念図である。
図5】本発明のメッキ処理部品を作成する際に適用されるメッキ処理装置の一例を示す概念図である。
図6】本発明の円形貫通孔の内周面に付した符号の位置を示す図である。
図7】本部品の円形貫通孔20に施されたメッキ皮膜30の厚さを示す図(実施例1)である。
図8】本部品の円形貫通孔20に施されたメッキ皮膜30の厚さを示す図(実施例2)である。
図9】実施例2における本部品の円形貫通孔20の当接部(上面)11の拡径部21に施されたメッキ皮膜30の厚さを示す図である。
図10】実施例2における本部品の円形貫通孔20の当接部(底面)12の拡径部22に施されたメッキ皮膜30の厚さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
はじめに、本実施形態の概要について説明する。
本実施形態のメッキ処理部品10(以下、本部品と表示する場合がある)は、図1に示す円筒状の加工対象部品10に形成された両端が開口した円形貫通孔20の内周面にメッキ層を施したものである。円筒状の加工対象部品10の大きさは限定されないが、本実施形態では、当接部(上面)11および当接部(底面)12の直径が20mm程度、長さ50mm程度の円筒状の加工対象部品10とする。円筒状の加工対象部品10は金属素材からなり、金属の種類は、特定の金属から成るものでも、合金でもよい。本実施形態では、鋼など鉄系の合金からなるものとする。
円形貫通孔20は、図1に示すように、円筒状の加工対象部品10の当接部(上面)11の中心から垂直に当接部(底面)12に向けて形成した円筒状の孔である。円筒状の加工対象部品10の外径と円形貫通孔20の外径比はどのような値でもよい。本実施形態では、円筒状の加工対象部品10には、直径2mm程度の円形貫通孔20が形成されたものを用いる。
円筒状の加工対象部品10の外周面および内周面はどのように加工されたものでもよいが、切削、研削、研磨などにより表面の面精度が高く加工されているものが好ましい。これはメッキ処理を施す加工対象部品の表面の粗さの状態がメッキの仕上げや耐食性に大きな影響が出るためである。
円筒状の加工対象部品10に施すメッキの種類は、クロムメッキ、硬質クロムメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキ、金メッキ、銀メッキなどが挙げられる。本実施形態では、クロムメッキによりメッキ処理を行うものとする。
【0010】
円筒状の加工対象部品10の断面図を図2に示す。図2図1のA-A線で切断した図である。図2に示すように、円筒状の加工対象部品10の当接部(上面)11中心から垂直に当接部(底面)12に向けて一定の直径で円形貫通孔20が設けられている。
円形貫通孔20の両縁部には、図3に示すように、テーパー状の拡径部21、22がそれぞれ設けられている。当接部(上面)11側を拡径部21、当接部(上面)12側を拡径部22とし、両者の間には、平坦部23が設けられている。本実施形態の円形貫通孔20は、平坦部23での直径が2mm程度であり、拡径部21、22の端部直径は、2mmより大きく形成されている。
【0011】
図4を用いて、本実施形態のメッキ処理装置200について説明する。
メッキ液の入ったメッキ槽100に、円筒状の加工対象部品10と電極(陽極と陰極)を浸漬し、電極に電流を流すことによって、円筒状の加工対象部品10にメッキ皮膜を施す電解メッキによってメッキ処理部品10を生成する。本実施形態では、メッキ液として酸化クロム溶液を用いることとする。
ここで、メッキ処理装置200における円筒状の加工対象部品10および電極の設け方を説明する。
図4に示すように、円筒状の加工対象部品10を金属製のカソード120に配置する。複数の円筒状の加工対象部品10に対し同時にメッキ皮膜を施せるように、カソード120には、複数の円筒状の加工対象部品10を配置することとする。このとき、円筒状の加工対象部品10と円筒状の加工対象部品10とが接触しないように、両者の間に樹脂製のスペーサ(図示しない)を設ける。カソード120に円筒状の加工対象部品10を配置した状態を図5に示す。
図5に示すように、金属製の凹形状のカソード120に円筒状の加工対象部品10を配置すると、円筒状の加工対象部品10とカソード120とが接触する部分があるため、カソード120と円筒状の加工対象部品10とは電気的に接続され、円筒状の加工対象部品10にメッキ皮膜30を施すことが可能となる。また、カソード120を凹形状としたことで、円筒状の加工対象部品10が2点以上で接触でき、これにより、円筒状の加工対象部品10を安定した状態で設置できる。よって、円形貫通孔20の内周面に高品質なメッキ皮膜を施すことが可能となる。加えて、カソード120の形状を凹形状としたことにより、カソード120と円筒状の加工対象部品10との間に隙間が設けられ、これにより、メッキ液は流動可能な状態で円筒状の加工対象部品10を設置することができる。このように円筒状の加工対象部品10を設置することで、高品質なメッキ皮膜を施すことが可能となる。
そして、図4に示すように設置した円筒状の加工対象部品10の円形貫通孔20を貫通するようにアノード110を設ける。本実施形態では、アノード110は、たとえば金属材料の細線形状のものとすることができる。ただしアノード110に用いる材料はこれに限られない。本実施形態でのアノード110は、直径0.5mm程度の細い形状のもの使用した。このように細線形状のアノード110を採用することで、円形貫通孔20に貫通しやすく配置しやすくなる。また、例えば、複数の円筒状の加工対象部品10の円形貫通孔20に貫通させたアノード110の両端を所定の板部材に設け、板部材を反るようにすることでアノード110を撓みなく円形貫通孔20の所定位置(所定軸)に配置することが可能となる。これにより、円筒状の加工対象部品10の内周面に高品質なメッキ皮膜30を施すことが可能となる。
このようなメッキ処理装置200を用いてメッキ処理を行うことで、メッキ処理装置200内に配置されて円筒状の加工対象部品10の円形貫通孔20の内周面に高品質なメッキ皮膜30を施すことが可能となる。
【0012】
ここで、本実施形態で用いたアノード110についてさらに説明する。
上述したように、本実施形態ではアノード110には金属材料の細線を用いるが、円筒状の加工対象部品10の円形貫通孔20に貫通させ設置した際に、円形貫通孔20の内周面のメッキ層の厚さを厚く施したい位置に対向するアノード110を他の位置より太く形成されたものを用いる。すなわち、細線のアノード110ではあるが、細さ(径)は均一ではなく、円筒状の加工対象部品10を設置した際に、円形貫通孔20の両端部に対向する位置より、中央部側に対向する位置の方が太いものを用いる。このようなアノード110を用いることで、円形貫通孔20の両端部に対向する位置より、中央部側に対向する位置の方が円形貫通孔20の内周面とアノード110との距離が短くなるため、メッキが成長しやすくなり、中央部側に肉厚なメッキ皮膜30を施すことが可能となる。また、詳細は後述するが、本部品は、円形貫通孔20の両端部に対向する位置より中央部側に対向する位置の方のメッキ皮膜30を厚くすることに加え、拡径部21、22は位置によりメッキ皮膜30の厚さが異なるように施される。これも円形貫通孔20の内周面とアノード110との距離をアノード110の太さによって調整することで可能とする。
【0013】
次に、本実施形態で生成されたメッキ処理部品10の円形貫通孔20の内周面に施されたメッキ皮膜30の厚さについて、図7図10を用いて説明する。生成されたメッキ処理部品10の円形貫通孔20の内周面に施されたメッキ皮膜30の厚さを顕微鏡で観察し、その結果を図7図10に示した。
図3に示したように、円筒状の加工対象部品10の円形貫通孔20には、両縁にテーパー状の拡径部21、22が設けられる。また、拡径部21と拡径部22との間には、円形貫通孔20の直径が一定である平坦部23が設けられる。説明のために、図6に示すように、円形貫通孔20の内周面の縁から縁までの位置に記号A1~A5、B~F、G1~G5を付した。なお、A1~A5、および、G1~G5は、それぞれ拡径部21、22に付した記号であり、B~Fは平坦部23に付した記号である。また、図6に示したメッキ皮膜30は均一な厚さで記載されているが、実際のメッキ皮膜30の厚さは、円形貫通孔20の内周面の位置により異なる部分もある。
【0014】
<実施例1>
図7は、円形貫通孔20の内周面にのみメッキ処理を行い、生成したメッキ処理部品10の円形貫通孔20の内周面に施されたメッキ皮膜30の厚さを内周面の各位置で計測した結果を示す図である。
図7から明らかなように、メッキ皮膜30の厚さが、縁部(例えば、当接面(上面)11側の拡径部21および当接部(底面)12側の拡径部22)より中央部側(例えば、平坦部23)の方が厚く形成されている。
このようにメッキ皮膜30が施されることにより、次のような効果がある。本メッキ処理部品10の円形貫通孔20に軸棒を挿入して用いる際に、入り口付近(縁部)での引っ掛かり抵抗を抑えることが可能となる。また、円形貫通孔20の軸棒を挿入する際の引っ掛かりを抑えるために、入り口付近に拡径部21、22が設けられており、円形貫通孔20の形状とメッキ皮膜30の厚さの双方の構成により入り口付近(縁部)での引っ掛かり抵抗を抑えることが可能となる。さらに、拡径部21、22の中でも、開口端(図6に示すA1またはG5)より、中奥端(図6に示すA5またはG1)の方に向けて、メッキ皮膜30の厚さを漸増するように施すことにより、さらに入り口付近(縁部)での引っ掛かり抵抗を抑えることが可能となる。また、中央部側(例えば、平坦部23)にメッキ皮膜30の厚さが厚い部分を設けることで、円形貫通孔20に挿入した軸棒のがたつきを抑えることが可能となる。加えて、中央部側の中央付近にメッキ皮膜30の厚さが厚い部分を設けると、この厚い部分が平坦部23の中央付近でなく端部付近に形成された場合と比較して、軸棒に軸ぶれが生じた場合でも円形貫通孔20の内周面と軸棒との干渉をより回避することが可能となる。
【0015】
平坦部23において深さ方向の中央部を含む領域(図6に示すCからE)におけるメッキ皮膜30の厚さが一方向に向かって漸増している。このように、メッキ皮膜30の厚さを両端より中央部側の方を厚く形成する際に、漸増するように厚くすることで、軸棒に対しメッキ処理部品10を効率よく回転させることが可能となる。また、メッキ処理部品10を固定し、軸棒を回転させて用いる場合でも同様に、軸棒を効率よく回転させることが可能となる。
また、図7から明らかなように、平坦部23においてメッキ皮膜30の厚さが最大の位置(図6に示すE)が、深さ方向の中央部よりも一方向の側に偏った位置にある。これにより、次のような効果がある。例えば、メッキ処理部品10に貫通させた軸棒を回転させて用いる場合に軸ぶれが生じることがあるが、軸ぶれが生じる位置側に中央部よりも一方向の側に偏った位置に形成されたメッキ皮膜30の厚さが最大の位置を設けることで、軸ぶれを抑えることが可能となる。したがって、メッキ処理部品10を用いる環境に応じて、メッキ処理部品10を設ける位置(設ける方向)を選択できるため、汎用的に使用することができる。
【0016】
<実施例2>
図8図10は、円形貫通孔20の内周面、当接面(上面)11側の拡径部21および当接部(底面)12側の拡径部22を同時にメッキ処理し、生成したメッキ処理部品10の円形貫通孔20の内周面に施されたメッキ皮膜30の厚さを内周面の各位置で計測した結果を示す図である。
図8に示すように、図7と同様にメッキ皮膜30の厚さが、縁部(例えば、当接面(上面)11側の拡径部21および当接部(底面)12の拡径部22)より中央部側(例えば、平坦部23)の方が厚く形成されている。また、拡径部21、22の中でも、開口端(図6に示すA1またはG5)より、中奥端(図6に示すA5またはG1)の方に向けて、メッキ皮膜30の厚さを漸増するように施すことにより、さらに入り口付近(縁部)での引っ掛かり抵抗を抑えることが可能となる。また、中央部側(例えば、平坦部23)にメッキ皮膜30の厚さが厚い部分を設けることで、円形貫通孔20に挿入した軸棒のがたつきを抑えることが可能となる。加えて、中央部側の中央付近にメッキ皮膜30の厚さが厚い部分を設けると、この厚い部分が平坦部23の中央付近でなく端部付近に形成された場合と比較して、軸棒に軸ぶれが生じた場合でも円形貫通孔20の内周面と軸棒との干渉をより回避することが可能となる。
【0017】
平坦部23において深さ方向の中央部を含む領域(図6に示すCからE)におけるメッキ皮膜30の厚さが一方向に向かって漸増している。このように、メッキ皮膜30の厚さを両端より中央部側の方を厚く形成する際に、一方向に漸増するように厚くすることで、軸棒に対しメッキ処理部品10を効率よく回転させることが可能となる。また、メッキ処理部品10を固定し、軸棒を回転させて用いる場合でも同様に、軸棒を効率よく回転させることが可能となる。
また、図8から明らかなように、平坦部23においてメッキ皮膜30の厚さが最大の位置(図6に示すC)が、深さ方向の中央部よりも一方向の側に偏った位置にある。これにより、次のような効果がある。例えば、メッキ処理部品10に貫通させた軸棒を回転させて用いる場合に軸ぶれが生じることがあるが、軸ぶれが生じる位置側に中央部よりも一方向の側に偏った位置に形成されたメッキ皮膜30の厚さが最大の位置を設けることで、軸ぶれを抑えることが可能となる。したがって、メッキ処理部品10を用いる環境に応じて、メッキ処理部品10を設ける位置(設ける方向)を選択できるため、汎用的に使用することができる。
【0018】
図9は、当接面(上面)11側の拡径部21のメッキ皮膜30の厚さについて詳細に示した図であり、図10は、当接面(底面)12側の拡径部22のメッキ皮膜30の厚さについて詳細に示した図である。
図9から明らかなように、拡径部21の開口端(例えば、A1)と内奥端(例えば、A5)との間に最も厚さの薄い領域(例えば、A3)が形成される。同様に、図10から明らかなように、拡径部22の開口端(例えばG5)と内奥端(例えば、G1)との間に最も厚さの薄い領域(例えば、G4)が形成される。このように、拡径部21の開口端(例えば、A1)および拡径部22の開口端(例えば、G5)のメッキ皮膜30を厚くすることで、軸棒を挿入する際に生じる可能性がある縁部のメッキが欠けてしまうことを防ぐことが可能となる。さらに、開口端のメッキ皮膜30は厚くしたが、その後、一旦、薄い領域を形成し、薄い領域(例えば、A3またはG4)から漸増させることで、拡径部21および拡径部22の孔径を確保することもできる。また、拡径部21、22の開口端でメッキ皮膜30を厚くしても、薄い領域を設けるため、拡径部21、22の孔径を確保することが可能となる。
【0019】
本発明の実施は、上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形、改良等が可能である。
本実施形態では、円形貫通孔20の内周面とアノード110との距離をアノード110の太さによって調整することで、円形貫通孔20の内周面に異なる厚さのメッキ皮膜30を施すようにしたが、これに限らない。例えば、円形貫通孔20の内周面の両端(メッキ皮膜30を薄く施す位置)に対向するアノード110の表面に酸化皮膜を薄く形成することで、酸化皮膜が形成されている部分の方が、酸化皮膜が形成されていない部分に比べて電気抵抗が高くなるため酸化皮膜が形成されていない部分の方の通電量が多くなり、結果として、酸化皮膜が形成されていない部分に対向する円形貫通孔20の内周面の方が、酸化皮膜が形成されている部分に対向する円形貫通孔20の内周面比べて、厚いメッキ皮膜30を施すことが可能となる。このように、アノード110の表面の電気抵抗を調整することで円形貫通孔20の内周面に異なる厚さのメッキ皮膜30を施すようにしてもよい。
【0020】
本実施形態では、生成されたメッキ処理部品10を回転させて用いることとしたが、これに限らず、固定した状態で使用する部品でもよい。また、加工対象部品10の形状および円形貫通孔20の形状は一例であり、他の形状でもよい。
【0021】
<付記>
上記実施形態は以下の技術的思想を包含する。
(1)両端が開口した円形貫通孔が形成された加工対象部品の前記円形貫通孔の内周面にメッキ層が施されたメッキ処理部品において、
前記メッキ層の厚さが、前記円形貫通孔の前記両端から深さ方向に見て、前記円形貫通孔の両端部より中央部側の方が厚いことを特徴とするメッキ処理部品。
(2)前記円形貫通孔の内周面の前記両端部に前記開口に向かって拡径するテーパー状の拡径部がそれぞれ形成されており、前記拡径部における前記メッキ層の厚さが当該拡径部の開口側より内奥側の方が厚いことを特徴とする(1)に記載のメッキ処理部品。
(3)前記拡径部における前記メッキ層の厚さは、当該拡径部の開口端から内奥端に向けて単調に漸増していることを特徴とする(2)に記載のメッキ処理部品。
(4)前記拡径部における前記メッキ層は、当該拡径部の開口端と内奥端との間に最も厚さの薄い領域を備えることを特徴とする(2)に記載のメッキ処理部品。
(5)前記円形貫通孔の内周面には、一方の前記拡径部と他方の前記拡径部との間に平坦部が形成されており、前記平坦部において前記深さ方向の中央部を含む領域におけるメッキ層の厚さが一方向に向かって漸増していることを特徴とする(2)から(4)いずれか1項に記載のメッキ処理部品。
(6)前記平坦部において前記メッキ層の厚さが最大の位置が、前記深さ方向の前記中央部よりも前記一方向の側に偏った位置にあることを特徴とする(5)に記載のメッキ処理部品。
【符号の説明】
【0022】
10 加工対象部品/メッキ処理部品
11 当接面(上面)
12 当接面(底面)
20 円形貫通孔
21 当接面(上面)側の拡径部
22 当接面(底面)側の拡径部
23 平坦部
30 メッキ皮膜
100 メッキ槽
110 アノード
120 カソード
200 メッキ処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10