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特開2022-178958電解コンデンサ電極用アルミニウム材及びその製造方法ならびに電解コンデンサ用アルミニウム電極材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022178958
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】電解コンデンサ電極用アルミニウム材及びその製造方法ならびに電解コンデンサ用アルミニウム電極材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/055 20060101AFI20221125BHJP
   H01G 9/045 20060101ALI20221125BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H01G9/055
H01G9/045
H01G9/00 290D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086119
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】521407924
【氏名又は名称】堺アルミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】西方 丈智
(72)【発明者】
【氏名】大籏 英樹
(72)【発明者】
【氏名】田村 克俊
(72)【発明者】
【氏名】矢部 正二
(57)【要約】
【課題】アルミニウム基材にエッチングピットの起点となる多数の凹部が形成されたアルミニウム材を対象とし、エッチング特性に優れ拡面率を向上でき、ひいては大きな静電容量を得ることができる電解コンデンサ電極用アルミニウム材及びその製造方法等を提供する。
【解決手段】表面に酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材にエッチングピットの形成予定部位である多数の凹部が形成され、凹部の内面には、アルミニウム基材の平面と垂直な断面に現れる凹部の輪郭を構成する直線または曲線であって、前記直線の傾きまたは曲線の接線の傾きと前記アルミニウム基材の平面とのなす角度が20°~90°である直線または曲線で規定されるピット起点部が含まれ、凹部の内面全体におけるピット起点部の平面視での最大離間距離が1.9μm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材にエッチングピットの形成予定部位である多数の凹部が形成され、
前記凹部の内面には、前記アルミニウム基材の平面と垂直な断面に現れる凹部の輪郭を構成する直線または曲線であって、前記直線の傾きまたは曲線の接線の傾きと前記アルミニウム基材の平面とのなす角度が20°~90°である直線または曲線で規定されるピット起点部が含まれ、
凹部の内面全体における前記ピット起点部の平面視での最大離間距離が1.9μm以下であることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【請求項2】
前記酸化皮膜は自然酸化皮膜または化成酸化皮膜であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【請求項3】
電解エッチングまたは化学エッチングにより、前記ピット起点部を起点としてエッチングピットを形成可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【請求項4】
前記凹部の形状は、前記アルミニウム基材に押し付けられる母型に形成された多数の突起の形状に対応していることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
【請求項5】
酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材の表面に、多数の突起を有する母型を押し付けることにより、エッチングピットの形成予定部位である多数の凹部を形成する電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法であって、
前記凹部の内面には、前記アルミニウム基材の平面と垂直な断面に現れる凹部の輪郭を構成する直線または曲線であって、前記直線の傾きまたは曲線の接線の傾きと前記アルミニウム基材の平面とのなす角度が20°~90°である直線または曲線で規定されるピット起点部が含まれ、
凹部の内面全体における前記ピット起点部の平面視での最大離間距離が1.9μm以下であることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の電解コンデンサ用アルミニウム材に、電解エッチングまたは化学エッチングを実施することを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム電極材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ電極用アルミニウム材及びその製造方法ならびに電解コンデンサ用アルミニウム電極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサ用電極材料として一般に用いられるアルミニウム箔は、静電容量を大きくする目的で、電気化学的あるいは化学的エッチング処理を施して、アルミニウム箔の表面積を拡大する工程が行われる。表面積を拡大するには、エッチングが開始される起点を等間隔に配置し、より多くのエッチングピットの起点を作る必要がある。そのために従来はアルミニウムに含まれる不純物の分布によって制御する方法が取られている。しかしながら、この方法においては、不純物分布の制御に限界があり、エッチングの起点を一点一点精密に制御することは不可能である。すなわちエッチングによる表面積の拡大において、従来方法では限界に達している。
【0003】
そのため、突起を有する母型を押し付けることにより、アルミニウム箔表面または酸化皮膜を有するアルミニウム箔表面に、所望とするパターンで窪みを形成し、これらの窪みをエッチングの開始点とすることにより開始点位置の制御を行い、高い拡面効率を有する電極箔を作製する技術が提案されている(特許文献1参照)。
また、表面粗度(算術平均粗さ:Ra)が0.30未満の平滑な電極箔用アルミニウム材の表面に突起を有するモールドを押し付けることにより、アルミニウム酸化皮膜を突き破る凹部もしくは、圧痕転写による凸部といった圧痕を所望のパターンで形成し、これをエッチングの開始点とすることにより開始点位置の制御を行い、高い拡面効率を有する電極箔を作製する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-74162号公報
【特許文献2】特開2007-042789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アルミニウム基材平面と母型の押し付け等によって、エッチングピットの開始点となる多数の凹部を形成しても、期待した静電容量を得ることができない場合があることが、発明者らの研究により判明した。
【0006】
この原因について、発明者らは更に研究を重ねた結果、アルミニウム基材の表面に形成された凹部の内面の角度と凹部の大きさが、エッチングピットの発生と進行に大きく影響していることを見いだした。
【0007】
この発明は、このような知見に基づいてなされたものであって、アルミニウム基材にエッチングピットの起点となる多数の凹部が形成されたアルミニウム材を対象とし、エッチング特性に優れ拡面率を向上でき、ひいては大きな静電容量を得ることができる電解コンデンサ電極用アルミニウム材及びその製造方法ならびに電解コンデンサ用アルミニウム電極材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の手段によって解決される。
(1)表面に酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材にエッチングピットの形成予定部位である多数の凹部が形成され、
前記凹部の内面には、前記アルミニウム基材の平面と垂直な断面に現れる凹部の輪郭を構成する直線または曲線であって、前記直線の傾きまたは曲線の接線の傾きと前記アルミニウム基材の平面とのなす角度が20°~90°である直線または曲線で規定されるピット起点部が含まれ、
凹部の内面全体における前記ピット起点部の平面視での最大離間距離が1.9μm以下であることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
(2)前記酸化皮膜は自然酸化皮膜または化成酸化皮膜であることを特徴とする前項(1)に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
(3)電解エッチングまたは化学エッチングにより、前記ピット起点部を起点としてエッチングピットを形成可能であることを特徴とする前項(1)または(2)に記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
(4)前記凹部の形状は、前記アルミニウム基材に押し付けられる母型に形成された多数の突起の形状に対応していることを特徴とする前項(1)~(3)のいずれかに記載の電解コンデンサ電極用アルミニウム材。
(5)酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材の表面に、多数の突起を有する母型を押し付けることにより、エッチングピットの形成予定部位である多数の凹部を形成する電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法であって、
前記凹部の内面には、前記アルミニウム基材の平面と垂直な断面に現れる凹部の輪郭を構成する直線または曲線であって、前記直線の傾きまたは曲線の接線の傾きと前記アルミニウム基材の平面とのなす角度が20°~90°である直線または曲線で規定されるピット起点部が含まれ、
凹部の内面全体における前記ピット起点部の平面視での最大離間距離が1.9μm以下であることを特徴とする電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法。
(6)前項(1)~(4)のいずれかに記載の電解コンデンサ用アルミニウム材に、電解エッチングまたは化学エッチングを実施することを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム電極材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材は、表面に酸化皮膜が形成されたアルミニウム基材にエッチングピットの形成予定部位である多数の凹部が形成され、凹部の内面には、アルミニウム基材の平面と垂直な断面に現れる凹部の輪郭を構成する直線または曲線であって、この直線の傾きまたは曲線の接線の傾きとアルミニウム基材の平面とのなす角度が20°~90°である直線または曲線で規定されるピット起点部が含まれているから、エッチング時にはこのピット起点部が選択的にエッチングピットの起点となってエッチングが進行し、ひいては多数の凹部の位置にエッチングピットが確実に形成されることになる。
【0010】
また、凹部の内面全体におけるピット起点部の平面視での最大離間距離が1.9μm以下であるから、最大離間距離離れたピット起点部を起点としてそれぞれエッチングピットが発生しても、これらのエッチングピットはやがては連通して、やはり凹部の位置に1つのエッチングピットが形成される。その結果、各面率を向上でき、大きな静電容量を実現できる。
【0011】
この発明に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法によれば、エッチングにより各面率を向上でき、大きな静電容量を実現可能な電解コンデンサ電極用アルミニウム材を製造することができる。
【0012】
この発明に係る電解コンデンサ用アルミニウム電極材の製造方法によれば、大きな静電容量を有する電解コンデンサ用電極材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は本発明の一実施形態に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材の断面図、(b)は平面図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材の断面図である。
図3】本発明の更に他の実施形態に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材の断面図である。
図4】ピット起点部を規定するための凹部の角度を説明するための断面図である。
図5】同じく、ピット起点部を規定するための凹部の角度を説明するための断面図である。
図6】(a)~(c)は、本発明の一実施形態に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材をエッチングした時の様子を時系列で示す模式的断面図である。
図7】(a)~(c)は、本発明の条件を逸脱する電解コンデンサ電極用アルミニウム材をエッチングした時の様子を時系列で示す模式的断面図である。
図8】(a)~(c)は、本発明の他の実施形態に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材をエッチングした時の様子を時系列で示す模式的断面図である。
図9】本発明の一実施形態に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法を説明するための図であり、母型をアルミニウム基材に押しつける前の状態を示す断面図である。
図10】同じく、母型をアルミニウム基材に押しつけた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[電解コンデンサ電極用アルミニウム材]
本発明の一実施形態に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材は、表面に酸化皮膜を有するアルミニウム基材に、エッチングピットの起点となる多数の凹部が形成されており、凹部の断面における形状に特徴を有する。
【0015】
図1図2及び図3に、本実施形態に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材の模式的断面図を示す。
【0016】
各アルミニウム材は、酸化皮膜2を有するアルミニウム基材1の表面に多数の凹部3が形成されてなる。
【0017】
図1では、各凹部3の形状が球体もしくは楕円球体を分割した形状(例えば半球体もしくは半楕円球体)である。各凹部3のアルミニウム基材の平面と平行な断面(以下、横断面ともいう)の形状は円形または楕円形である。また各凹部3の内面は、開口部に近い側の全周が酸化皮膜5で環帯状に被覆され、底部側の全体が酸化皮膜4で被覆されている。
【0018】
図2は、各凹部3の形状が錐体であり、各凹部3の横断面での形状は多角形もしくは円もしくは楕円である。これらの凹部3の内面は、全体が酸化皮膜5で被覆されている。
【0019】
図3は、各凹部3の形状が、アルミニウム基材1の平面と垂直な断面(以下、縦断面ともいう)において、内向き凸の曲線と外向き凸の曲線とが滑らかに連続した曲面的な窪みを持つ形態であり、各凹部3の横断面での形状は多角形もしくは円もしくは楕円である。なお、底部は平坦面でも良いし曲面でも良い。また各凹部3の内面は、開口部側と底部側を除く中間部の全周が酸化皮膜5で環帯状に被覆され、開口部側と底部側が酸化皮膜4で被覆されている。
【0020】
図1図3に示した各アルミニウム基材1において、多数の凹部3同士の間隔は1μm~10μmが好ましい。凹部3同士の間隔とは、最も近い凹部との間の最小離間距離をいう。凹部3同士の間隔が1μm未満では、エッチング時に凹部3に形成されるエッチングピットが隣同士で互いに連通して、エッチングピットによる拡面効果が阻害される恐れがある。凹部3同士の間隔が10μmを超えると、エッチングピットの数が減少し、やはり大きな拡面効果を得ることができない恐れがある。より好ましい凹部3同士の間隔は2μm~5μmである。
【0021】
この実施形態では、凹部3について次のような特徴事項を有している。即ち、凹部3の内面には、アルミニウム基材1の縦断面に現れる凹部3の輪郭を構成する直線または曲線であって、図4及び図5に示すように、直線の傾きL(図5の場合)または曲線の接線の傾きL(図4の場合)とアルミニウム基材1の平面とのなす角度(この角度を傾斜角度ともいう)θが20°~90°である直線または曲線で規定されるピット起点部が含まれている。なお、図4及び図5ではアルミニウム基材1及び凹部3の酸化皮膜は省略してある。
【0022】
具体的には、図1図3に例示した酸化皮膜5が形成された部分がピット起点部であり、図1図3に示した例では、ピット起点部が凹部3の内面の周方向に環帯状に形成されている。図1図3に示した酸化皮膜4の被覆部分は、傾斜角度θが20°より小さい非ピット起点部である。
【0023】
傾斜角度θが20°~90°であるピット起点部を規定したのは次の理由による。
【0024】
即ち、この実施形態では、後述するように、酸化皮膜2が形成されたアルミニウム基材1の表面に、多数の突起を有する母型を押し付けることにより、各凹部3が形成される。つまり、各凹部3は母型に形成された突起の形状に対応する。この突起がアルミニウム基材に押しつけられるときに、突起の形状に応じて異なる力が凹部3の内面形成部位に作用する。
【0025】
突起の傾斜部または湾曲部の角度が大きいと、凹部3の内周面に酸化皮膜5で被覆された傾斜角度θが20°~90°の傾斜部または湾曲部が形成されるが、その形成過程において、突起の傾斜部または湾曲部に沿って斜め下向き(90°以外の場合)または下向き(90°の場合)に剪断方向の力が作用し、この力によって酸化皮膜2は、表面に凹凸やボイドや亀裂が多数発生し厚さも薄くなって酸化皮膜5となり、この酸化皮膜5がピット起点部となる。
一方、母型の突起の傾斜部または湾曲部の角度が緩やかな場合は、傾斜角度θが20°未満の酸化皮膜4が被覆されるが、この部分は非ピット起点部であり、この非ピット起点部の形成過程においては、突起による専ら下向きの押圧力が作用し、剪断方向の大きな力は作用しない。このため、酸化皮膜5のような凹凸やボイド、亀裂等の発生が抑制され、酸化皮膜4の厚み減少も酸化皮膜5ほどではない。
【0026】
このように、酸化皮膜5の表面には凹凸やボイド、亀裂が多数存在し、また平均的な厚みは酸化皮膜2や酸化皮膜4よりも薄く、ピット起点部となる。酸化皮膜4の平均的な厚みは酸化皮膜2と同じかそれよりも薄い。酸化皮膜2の平均的な厚さは1nm~50nmの範囲が好ましく、特に2nm~20nmの範囲が好ましい。酸化皮膜4の平均的な厚さは1nm~40nmの範囲が好ましく、特に2nm~10nmが好ましい。酸化皮膜5の平均的な厚さは0.5nm~40nmの範囲が好ましく、特に0.5nm~10nmが好ましい。
【0027】
酸化皮膜の平均的な厚みの差異によって、エッチング時の反応性に差が生じる。その反応性の差を利用し、エッチング時のエッチングピットの発生に選択性を持たせることができる。酸化皮膜が薄い方が、反応性が高くピットが発生しやすい。酸化皮膜3、4、5の中でピットが優先的に生じるのは酸化皮膜5である。しかも、酸化皮膜5には凹凸やボイド、亀裂が多数存在しており、これらがエッチングピットの起点になり得ることも相俟って、酸化皮膜5の被覆部位、換言すればピット起点部から優先的にエッチングピットが発生する。
【0028】
図6図7図8の各(a)(b)(c)は、それぞれ凹部3の形態が異なる電解コンデンサ電極用アルミニウム材を、塩酸を含む電解液中でエッチングした時の様子を時系列で示す模式的断面図であり、酸化皮膜は図示を省略している。それぞれ(a)は電解エッチング前の状態、(b)は0.001sec~0.01secの電解エッチングを施し極初期のピットを発生させた時、(c)は0.01~0.1secの電解エッチングを施し極初期のピットが結合することによって初期ピットが形成された時の模式的断面図である。
【0029】
図6では、凹部3が半球状であり、傾斜角度θが20°~90°である酸化皮膜5の被覆部分(ピット起点部)は、凹部3の内面の開口部から深さ方向の途中の位置までの幅を持って、周方向の全域にわたって環帯状に形成されている。図6に示す凹部3は図1と同じであり、ピット起点部の平面視での最大離間距離は、凹部3の開口部の直径D1である。また、環帯状のピット起点部の底側の縁部の平面視での直径をD2とする。
【0030】
図7では、凹部3の形状が底の浅い球体の一部であり、傾斜角度θが20°~90°である酸化皮膜5の被覆部分(ピット起点部)は、図6の例と同様に、凹部3の内面の開口部から深さ方向の途中の位置までの幅を持って、周方向の全域にわたって環帯状に形成されている。図7においても、ピット起点部の平面視での最大離間距離は、凹部3の開口部の直径D1である。また、環帯状のピット起点部の底側の縁部の平面視での直径をD2とする。
【0031】
図8では、凹部3の形状が円錐または角錐であり、傾斜角度θが20°~90°である酸化皮膜5の被覆部分(ピット起点部)は、凹部3の内面の全体に形成されている。図8において、ピット起点部の平面視での最大離間距離は、凹部3の開口部の最大距離D1であり、D2はゼロである。
【0032】
この実施形態では、傾斜角度θが20°~90°であるピット起点部の平面視での最大離間距離D1は、1.9μm以下とする必要がある。図6及び図8における最大離間距離D1は1.9μm以下の場合であり、図7における最大離間距離D1は1.9μmを超えるものとする。
【0033】
前述したように、エッチングピット発生の起点となるのは傾斜角度θが20°~90°の酸化皮膜5の被覆部分であり、図6図8の各(b)に示すように、このピット起点部に沿って複数の極初期のピット11が発生する。なお、図6図8の各(b)において、薄黒色で塗られた領域が極初期のピット11を示している。
【0034】
最大離間距離D1が1.9μm以下である図6では、同時(c)に示すように、発生した複数の極初期のピット11が結合し、一つの初期ピット12が形成される。その後エッチングを継続させると初期ピットから内部方向にトンネルピットが形成され、所望した通り、凹部3を中心に最終的なエッチングピットが形成される。一方で、最大離間距離D1が1.9μmを超える図7での場合は、同図(c)に示す通り、極初期のピット11同士の距離が遠いためピット結合が起きず、凹部3の周辺にそれぞれ独立して初期ピット12が成長する。最大離間距離D1が1.9μm以下である図8(c)では、凹部3に複数の結合した初期ピットが形成され、その後エッチングを継続させても凹部3を中心としたトンネルピットは形成されない。
【0035】
エッチング後の有効面積を増やすには、凹部3の中心にピットを発生させることが必要である。それ以外の場合、隣り合う凹部3から発生したピット同士が結合し、あるいはピットが発生しない空隙部分が増えることにより、有効面積が低下する。
【0036】
つまりD2の値によらず、最大離間距離D1が1.9μm以下の場合に有効面積を増加でき、ひいては大きい静電容量が得られる。
【0037】
なお、以上の説明では、酸化皮膜5の被覆部分であるピット起点部が凹部3の内面の周方向に連続している場合を説明したが、ピット起点部は連続でなく点在していても良い。
【0038】
θが20~90°であるピット起点部を有する凹部の割合は90%以上が望ましく、特に95%以上が好ましく、全ての凹部にθが20~90°であるピット起点部が存在していることが最も望ましい。
【0039】
本実施形態に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材において、アルミニウム基材1を構成するアルミニウムの化学組成は限定されず、電解コンデンサ電極材料として使用されているものを適宜使用することができる。具体的には、不純物量を規制して過溶解によるエッチング特性の低下を防ぐために、アルミニウム純度が99.9%以上であることが好ましく、特に99.99%以上が好ましい。アルミニウム材の立方体方位占有率、あるいは(100)の占有率は90%以上が好ましく、95%以上が一層好ましく、特に99.9%以上が最も好ましい。また、電解コンデンサ電極用アルミニウム材の厚さも限定されず、箔と称される200μm以下のアルミニウム材の他、200μmを超えるアルミニウム板も含まれる。前記アルミニウム基材1の表面粗さ(算術平均粗さ)は0.1μm未満が好ましく、特に0.05μm未満が好ましい。
[電解コンデンサ電極用アルミニウム材の製造方法]
上述した電解コンデンサ電極用アルミニウム材は、例えば以下の方法によって作製することができる。
【0040】
所定の化学組成のアルミニウム鋳塊に対して均質化処理を施し、その後、熱間圧延、冷間圧延、最終焼鈍を順次行って酸化皮膜を形成して、表面に酸化皮膜2を有するアルミニウム基材を作製する。最終焼鈍後に化学研磨や電解研磨を施して表面平滑化を行う場合は、その後に大気中に曝し自然酸化皮膜を生成してアルミニウム基材とする。酸化皮膜2は自然酸化皮膜ではなく、化成処理により生成した化成酸化皮膜であっても良い。
【0041】
次に、前記アルミニウム基材1に多数の凹部3を形成して、電解コンデンサ電極用アルミニウム材を作製する。
【0042】
凹部3の形成方法として、限定はされないが、図9に示すように多数の突起101を有する母型100を、図10に示すようにアルミニウム基材1に押し付けて、突起101に対応する圧痕として凹部3を形成する方法を例示することができる。母型100において、多数の突起101を上述した凹部3の配置に対応させることにより、アルミニウム基材1の所望位置に所望のパターンで凹部3を形成することができる。
【0043】
母型100の作製は、所望のパターニング加工が可能な微細形状が実現できる製法であればよいが、好ましくは金型加工やリソグラフィー技術を用いて作製する。材質はアルミニウム基材1より硬質であれば、電気導電性の有無に関わらず何でもよい。突起101の形状は錐体、柱体、球体、楕円球体のいずれでも良く、突起の外面形状が凹部3の内面形状となる。
【0044】
母型100をアルミニウム基材1に押し付ける際は、突起101とアルミニウム基材1が垂直に触れるようにする。アルミニウム基材1の表面粗さに応じてプレス圧力を強くする必要がある。すなわちアルミニウム基材1が平坦であればプレス圧を低くしても、均一な凹部3を形成させることができる。プレス方法は平面でもロールでもどちらでも構わない。
【0045】
上記のような手法で母型100を押し込むことによって凹部3を形成する過程で、凹部3の内面が、アルミニウム基材1の平面との傾斜角度θで20°以上になると、酸化皮膜2に応力がかかり凹凸やボイド、亀裂等が生じた酸化皮膜5となる。さらに深く母型100を押し込むと、角度が大きくなるほど酸化皮膜5が引き伸ばされやすくなり平均的な厚みが減少する。
前述したように、酸化皮膜5の凹凸やボイド、亀裂等を発生させ、平均的な厚みを減少させるには、傾斜角度θは20°~90°が必要であり、特に好ましい傾斜角度θは40°~90°である。
母型100の突起101の形状がいかなる形状であっても、母型100を垂直に押し付けた際に、アルミニウム基材1は塑性変形となるために傾斜角度θに90°以上の角度をつけることは原理上不可能である。
【0046】
作製した電解コンデンサ電極用アルミニウム材は、その後拡面率向上のためのエッチングが施される。凹部3の内面の酸化皮膜5における凹凸やボイド、亀裂では、エッチング時に反応性が高いため優先的にエッチングピットが形成される。そのため凹部3を中心としたエッチングピットの起点となり、結晶粒の(100)面に対して平行もしくは垂直に浸食が進行しトンネルピットが形成される。規則的に配列した所望の凹部3に対してエッチングピットを発生させることで、エッチングピットの結合やエッチングピットの空隙領域による有効面積の低下を減らすことが可能となる。すなわち所望の凹部3におけるピット発生率の向上が有効面積を向上させることにつながる。
【0047】
所望の位置の凹部3に対するピット発生率は、トンネルピット形成前の初期ピット形成時点で判断が可能である。ここでいう初期ピットとはピット径と深さが0.1μm~2μmのファセット型のピットである。
エッチング条件は限定されず、電気化学エッチングでも良いし化学エッチングでも良い。一例として初期ピット形成の条件を示す。電気化学エッチングの処理液として、塩酸水溶液、あるいは塩酸水溶液に硫酸、硝酸、リン酸を添加した液を例示できる。処理液温度は15℃~80℃が好ましい。また、アルミニウム材の対極にはアルミニウム材よりも十分に面積の大きい白金電極またはカーボン電極を用い、好ましい電流値は100mA/cm~3000mA/cmあり、好ましい電流印加時間は0.01s~30.0sである。
【実施例0048】
以下に本発明の実施例と比較例を示す。
【0049】
アルミニウム基材1に突起付母型100を用いて凹部3を形成することにより、以下の実施例及び比較例に示す各種の電解コンデンサ電極用アルミニウム材を作製した。
【0050】
アルミニウム基材1はいずれも、(組成)Si : 22 ppm, Fe : 16 ppm, Cu : 59 ppm, Al 純度99.99%からなる厚みが130μmのアルミニウム箔であり、表面に厚さ0.003μmの酸化皮膜2が形成されている。また、アルミニウム基材1の表面の算術平均粗さRaは0.05である。
(実施例1)
ニッケルからなり、表面に高さが1.8μmの多数の角錐状突起101が3.0μm間隔で形成されている母型100を、前記アルミニウム基材1に面圧20MPaで押し付けて、アルミニウム基材1の表面に角錐状突起101に対応する凹部3を形成した。
(実施例2)
表面に高さが1.9μmの多数の半球状突起101が3.0μm間隔で形成されている母型100を、前記アルミニウム基材1に面圧100MPaで押し付けて、アルミニウム基材1の表面に球状突起101に対応する凹部3を形成した。
(実施例3)
表面に高さが0.5μmの多数の角錐状突起101が3.0μm間隔で形成されている。前記アルミニウム基材1に前記母型の面圧40MPaで押し付けて、アルミニウム基材の表面に角錐状突起101に対応する凹部3を形成した。
(比較例1)
表面に高さが0.5μmの多数の角錐状突起101が3.0μm間隔で形成されている母型100を、前記アルミニウム基材1に面圧5MPaで押し付けて、アルミニウム基材1の表面に角錐状突起101に対応する凹部3を形成した。
(比較例2)
表面に高さが0.9μmの多数の角錐状突起101が3.0μm間隔で形成されている母型100を、前記アルミニウム基材1に面圧100MPaで押し付けて、アルミニウム基材1の表面に角錐状突起101に対応する凹部3を形成した。
【0051】
以上により作製した実施例、比較例に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材について、AFMで凹部3の形状を確認し、傾斜角度θとピット起点部の平面視での最大離間距離を測定した。その結果を表1に示す。なお、比較例1は傾斜角度θが19°であり、ピット起点部は形成されていなかった。
その後、各電解コンデンサ電極用アルミニウム材に対し、6mol/Lの液温35℃の塩酸水溶液中に浸漬させて、800mA/cmの電流で0.5秒間の条件で電解エッチング処理を行い、純水で洗浄して乾燥させた。
【0052】
エッチング処理を施した電解コンデンサ電極用アルミニウム材のエッチングピットの発生状態をSEMで観察した。
【0053】
その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、実施例1~3に係る電解コンデンサ電極用アルミニウム材では、85%以上の凹部3について、それらの中心部にエッチングピットが発生していた。このため、拡面率が大きく高い静電容量が得られることが予想されるものであった。
【0056】
これに対し、傾斜角度θが20度未満の比較例1及びピット起点部の平面視での最大離間距離D1が1.9μmを超える比較例2では、中心部にエッチングピットが発生していた凹部3の割合はそれぞれ50%と70%であり、実施例に較べて拡面率が小さく静電容量に劣ることが予想されるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の電解コンデンサ電極用アルミニウム材は、エッチングによって高い拡面率が得られ、電極材として用いられることで電解コンデンサの静電容量の向上に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 アルミニウム基材
2 酸化皮膜
3 凹部
4 酸化皮膜
5 酸化皮膜
100 母型
101 突起
図1
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