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特開2022-179012金属疲労評価装置、該方法および該プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179012
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】金属疲労評価装置、該方法および該プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/205 20180101AFI20221125BHJP
【FI】
G01N23/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086215
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】高枩 弘行
(72)【発明者】
【氏名】杵渕 雅男
(72)【発明者】
【氏名】種子島 亮太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敏彦
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA25
2G001CA01
2G001DA09
2G001FA18
2G001GA13
2G001HA01
2G001HA13
2G001KA07
2G001LA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、より適切に金属疲労の程度を評価できる金属疲労評価装置、金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムを提供する。
【解決手段】本発明の金属疲労評価装置Dは、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める装置であって、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得部1と、データ取得部1で取得した回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を前記評価指標として求める指標処理部22とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める金属疲労評価装置であって、
前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部で取得した回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を前記評価指標として求める指標処理部とを備える、
金属疲労評価装置。
【請求項2】
前記評価指標処理部は、方位角に対する回折環の強度分布における標準偏差を前記均一性指標として求める、
請求項1に記載の金属疲労評価装置。
【請求項3】
前記データ取得部は、
前記ビームを照射する照射部と、
前記評価対象に前記照射部によって前記ビームを照射することによって形成された回折環を撮像し、前記回折環を表す回折環データを生成する撮像部とを備える、
請求項1または請求項2に記載の金属疲労評価装置。
【請求項4】
金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める金属疲労評価方法であって、
前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程で取得した回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を前記評価指標として求める指標処理工程とを備える、
金属疲労評価方法。
【請求項5】
金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める金属疲労評価プログラムであって、
コンピュータに、
前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程で取得した回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を前記評価指標として求める指標処理工程と、
を実行させるための金属疲労評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折環を用いて金属疲労の程度を評価する金属疲労評価装置、金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属疲労による装置の損傷は、プロセスの不意な停止や事故等に繋がる虞があるため、金属疲労の程度を評価することは、重要であり、要望されている。この金属疲労の程度を評価する技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1では、マルテンサイトへの組織変化による腐食部を観察によって特定した疲労部についてX線回折が行われ、マルテンサイトの半価幅の変化量および残留オーステナイトの変化量が測定され、その測定結果から疲労度が求められている。
【0004】
一般に、結晶の周期性が高い場合、その周期間隔および周期方向で規定される方向に強い回折波(ブラッグ反射波)が発生する。一方、金属疲労は、金属結晶中に転位を生成するので、金属結晶の格子の周期性を乱す。このため、ブラッグ反射波の反射方向に広がりが生じる結果、回折波の半価幅(ピーク位置からの広がり)が変化する。よって、結晶格子でのブラッグ反射による回折波の半価幅を評価することで、前記特許文献1のように、金属疲労の程度が評価できると推察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-41993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、疲労試験によって、損傷度0[%]、10[%]、30[%]、50[%]および100[%]それぞれの疲労損傷を与えた各試料に対し、CrKαのX線を入射角0度で入射したX線回折が行われ、回折環の各半価幅が測定された。その結果、これら損傷度0[%]から100[%]に至るまで回折環の各半価幅は、略一定であった。これは、各試料の表層に加工損傷層が存在し、その影響と考察された。このため、母材の結晶を露出させるために、表層の加工損傷層を電解研磨処理(EP)によって除去した試料が作成され、同様に、回折環の半価幅が測定された。その結果、損傷度0[%]から100[%]に至る損傷度の増大に伴って半価幅の増加が確認された。したがって、回折環の半価幅には、疲労損傷の情報が含まれることが確認できた。
【0007】
しかしながら、その変化量は、初期値(損傷度0[%]における半価幅の値)に対し最終値(損傷度100[%]における半価幅の値)で約11[%]であった。電解研磨処理によって疲労損傷に伴う半価幅の変化が捉えられていると推察されるが、測定箇所による測定誤差も想定される状況で約11[%]の変化量は、疲労損傷の程度を的確に識別できるほどの有意な差とは言い切れず、X線回折による金属疲労の程度を評価する評価方法には、改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、より適切に金属疲労の程度を評価できる金属疲労評価装置、金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる金属疲労評価装置は、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める装置であって、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得部と、前記データ取得部で取得した回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を前記評価指標として求める指標処理部とを備える。好ましくは、上述の金属疲労評価装置において、前記データ取得部は、外部の機器との間でデータを入出力するインターフェース回路であり、前記外部の機器は、前記回折環データを記憶した記憶媒体である。好ましくは、上述の金属疲労評価装置において、前記データ取得部は、外部の機器との間でデータを入出力するインターフェース回路であり、前記外部の機器は、前記回折環データを記録した記録媒体からデータを読み込むドライブ装置である。好ましくは、上述の金属疲労評価装置において、前記データ取得部は、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であって、前記外部の機器は、ネットワークを介して前記通信インターフェース回路に接続され、前記回折環データを管理するサーバ装置である。
【0010】
金属の評価対象が初期状態である場合、X線照射領域における結晶粒の数が不足するため、回折環は、スポッティな形状であるが、金属疲労が進行すると、転位増殖に伴う結晶粒の微細化(セル組織化)によって結晶粒の数が増え、回折環は、均一化すると考えられる。実際に後述のように金属疲労の進行に伴い回折環は、均一化する。上記金属疲労評価装置は、回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を、金属疲労の程度を表す評価指標として求めるので、より適切に金属疲労の程度を評価できる。
【0011】
他の一態様では、上述の金属疲労評価装置において、前記評価指標処理部は、方位角に対する回折環の強度分布における標準偏差を前記均一性指標として求める。
【0012】
これによれば、方位角に対する回折環の強度分布における標準偏差を前記均一性指標、すなわち、前記評価指標として求める金属疲労評価装置が提供できる。
【0013】
他の一態様では、上述の金属疲労評価装置において、前記データ取得部は、前記ビームを照射する照射部と、前記評価対象に前記照射部によって前記ビームを照射することによって形成された回折環を撮像し、前記回折環を表す回折環データを生成する撮像部とを備える。好ましくは、前記金属疲労評価装置において、前記撮像部は、イメージングプレートを備える。
【0014】
このような金属疲労評価装置は、データ取得部によって回折環データを生成して取得するので、評価対象の現場で金属疲労を評価できる。
【0015】
本発明の他の一態様にかかる金属疲労評価方法は、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める方法であって、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得工程と、前記データ取得工程で取得した回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を前記評価指標として求める指標処理工程とを備える。
【0016】
本発明の他の一態様にかかる金属疲労評価プログラムは、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求めるプログラムであって、コンピュータに、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得工程と、前記データ取得工程で取得した回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を前記評価指標として求める指標処理工程と、を実行させるためのプログラムである。
【0017】
このような金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムは、回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を、金属疲労の程度を表す評価指標として求めるので、より適切に金属疲労の程度を評価できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる金属疲労評価装置、金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムは、より適切に金属疲労の程度を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態における金属疲労評価装置の構成を示すブロック図である。
図2】前記金属疲労評価装置におけるデータ取得部の一例の構成を示すブロック図である。
図3】金属疲労の進行に伴う回折環の変化の様子を説明するための図である。
図4】一例として、回折環、前記回折環の方位角に対する強度分布、その平均値およびその標準偏差を示す図である。
図5】前記金属疲労評価装置の動作を示すフローチャートである。
図6】一例として、金属疲労の程度と強度分布の標準偏差との関係を説明するための図である。
図7】一例として、金属疲労の程度と回折環の半価幅との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0021】
実施形態における金属疲労評価装置は、金属の評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求める装置である。この金属疲労評価装置は、前記評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得するデータ取得部と、前記データ取得部で取得した回折環データに基づいて前記回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を前記評価指標として求める指標処理部とを備える。このような金属疲労評価装置について、以下、より具体的に説明する。
【0022】
図1は、実施形態における金属疲労評価装置の構成を示すブロック図である。図2は、前記金属疲労評価装置におけるデータ取得部の一例の構成を示すブロック図である。図3は、金属疲労の進行に伴う回折環の変化の様子を説明するための図である。図4は、一例として、回折環、前記回折環の方位角に対する強度分布、その平均値およびその標準偏差を示す図である。
【0023】
実施形態における金属疲労評価装置Dは、例えば、図1に示すように、データ取得部1と、制御処理部2と、記憶部3と、入力部4と、出力部5と、インターフェース部(IF部)6とを備える。
【0024】
データ取得部1は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、金属(合金を含む)の評価対象に回折する性質を持つビームを照射することによって形成された回折環を表す回折環データを取得する装置である。データ取得部1は、例えば、外部の機器との間でデータを入出力するインターフェース回路であり、前記外部の機器は、前記回折環データを記憶した、例えばUSB(Universal Serial Bus)メモリおよびSDカード(登録商標)等の記憶媒体である。あるいは、例えば、データ取得部1は、外部の機器との間でデータを入出力するインターフェース回路であり、前記外部の機器は、前記回折環データを記録した、例えばCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD-R(Compact Disc Recordable)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)およびDVD-R(Digital Versatile Disc Recordable)等の記録媒体からデータを読み込むドライブ装置である。あるいは、例えば、データ取得部1は、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であって、前記外部の機器は、ネットワーク(WAN(Wide Area Network、公衆通信網を含む))あるいはLAN(Local Area Network)を介して前記通信インターフェース回路に接続され、前記回折環データを管理するサーバ装置である。なお、データ取得部1がインターフェース回路や通信インターフェース回路である場合では、データ取得部1は、IF部6と兼用されても良い(すなわち、IF部6がデータ取得部1として用いられても良い)。
【0025】
本実施形態では、データ取得部1は、前記ビームを照射する照射部と、前記評価対象に前記照射部によって前記ビームを照射することによって形成された回折環を撮像し、前記回折環を表す回折環データを生成する撮像部とを備える。
【0026】
より具体的には、データ取得部1は、図2に示すように、高圧電源11、冷却部12、制御部13、X線照射部14および撮像部15を備える。
【0027】
高圧電源11は、電子線加速用の高電圧をX線照射部14に供給する装置である。冷却部12は、X線照射部14を冷却する装置である。制御部13は、データ取得部1全体の動作を制御する装置である。なお、制御部13は、制御処理部2に機能的に構成される後述の制御部21と兼用されてよい。
【0028】
X線照射部14は、電子線をターゲットに衝突させてX線を発生させるX線発生装置と、発生したX線を細束のX線ビームとして評価対象Obに照射するX線照射管とを備える。前記X線発生装置は、例えば、電子線を高電圧で加速して陽極に衝突させCrKα特性X線を発生させるためのX線管球(真空管)である。前記X線照射管は、例えば、発生したX線を細い平行ビームに絞り照射するピンホールコリメータである。
【0029】
評価対象Obの表面とX線ビームとのなす角(照射角)は、0°を上回りかつ180°を下回る範囲で設定可能であるが、例えば30°~45°(または-30°~-45°)が望ましい。照射角90°は、特別な意味を持ち、いわゆる剪断応力τxz、τyzを求めることに適している。照射角-30°~-45°は、いわゆる応力σzを求めることに適している。
【0030】
照射されるX線ビームの直径は、1~2mmよりも細くてよく、例えば数100μm以下の細さでもよい。
【0031】
なお、評価対象Obに対し回折する性質を持つビーム(回折光)として、ここでは、X線を用いる例を説明するが、回折の性質を持つビームには、X線に限らず、電磁波(可視光、紫外線、γ線を含む)、中性子線、電子線等が含まれる。
【0032】
撮像部15は、評価対象ObにX線照射部14によってビームを照射することによって形成された回折環を撮像し、前記回折環を表す回折環データを生成する装置である。撮像部15は、例えば、いわゆるイメージングプレートを備えて構成される。このイメージングプレートには、輝尽性蛍光発光現象が利用されている。大略、輝尽性蛍光体を塗布したフィルムがX線によって露光され、露光されたフィルムにレーザ光を照射して生じた蛍光の発光量が計測される。蛍光は、X線の露光量に応じた発光量で発光するので、発光量を計測することで、X線像が得られる。
【0033】
図1に戻って、入力部4は、制御処理部2に接続され、評価開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、例えば金属疲労評価装置Dによって評価される評価対象の名称(例えばシリアル番号等)等の、金属疲労評価装置Dの稼働を行う上で必要な各種データを金属疲労評価装置Dに入力する装置であり、例えば、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ、キーボードおよびマウス等である。出力部5は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、入力部4から入力されたコマンドやデータ、データ取得部1で取得された回折環データで表される回折環、および、金属疲労評価装置Dによって求められた評価指標等を出力する装置であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0034】
IF部6は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、例えば、外部の機器との間でデータを入出力する回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、および、USB規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部6は、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等の、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であっても良い。
【0035】
記憶部3は、制御処理部2に接続され、制御処理部2の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、制御処理プログラムが含まれ、前記制御処理プログラムには、金属疲労評価装置Dの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御する制御プログラムや、データ取得部1で取得した回折環データに基づいて回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を評価指標として求める指標処理プログラム等が含まれる。前記各種の所定のデータには、例えば前記回折環データ等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。このような記憶部3は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。そして、記憶部3は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部2のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。なお、記憶部3は、比較的大容量となる学習データを記憶するために、大容量を記憶可能なハードディスク装置を備えてもよい。
【0036】
制御処理部2は、金属疲労評価装置Dの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、評価対象における金属疲労の程度を表す評価指標を求めるための回路である。制御処理部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部2には、前記制御処理プログラムが実行されることによって、制御部21および指標処理部22が機能的に構成される。
【0037】
制御部21は、金属疲労評価装置Dの各部1、3~6を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、金属疲労評価装置D全体の制御を司るものである。
【0038】
指標処理部22は、データ取得部1で取得した回折環データに基づいて回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を評価指標として求めるものである。
【0039】
図3には、一例として、金属疲労の進行に伴う回折環の変化の様子が示されている。図3には、引張試験によって、損傷度0[%]、10[%]、30[%]、50[%]および100[%]それぞれの疲労損傷を与えた各試料に対し、CrKαのX線を入射角0度で入射したX線回折が行われ、その結果得られた各回折環画像が示されている。前記引張試験には、通常の振動加重印加の疲労試験機が用いられ、破断したときのサイクル数が損傷度100[%]とされ、損傷度0[%]、10[%]、30[%]および50[%]は、これに対するサイクル数の比率である。試料は、一例として、ボイラ管に使用される一般規格の鋼管材料である。図3の上段は、電解研磨処理を実施していない各試料の各回折環画像であり、その下段は、電解研磨処理を実施している各試料の各回折環画像である。平面視にて、左から右へ順に、損傷度0[%]、10[%]、30[%]、50[%]および100[%]の各試料の各回折環画像である。
【0040】
図3を左から右へ順に観察すると、回折環は、ピーク強度が周方向の各位置で異なるスポッティ状の初期状態の形状から、金属疲労の増加に伴い徐々に前記ピーク強度が周方向の各位置で略均一な形状に変化している様子が分かる。この変化をTEM(透過型電子顕微鏡)の観察結果(不図示)と対比すると、疲労損傷の蓄積に伴う転位増殖によって微細なセル組織が数多く形成されていく過程と、回折環が均一化する変化とが関連しているものと推察される。
【0041】
一般に、X線の照射領域に十分な数の結晶粒が存在している場合、均一な回折環が得られる。図3に示す結果は、初期状態において、X線照射領域における結晶粒の数が不足する結果、スポッティ状の回折環の形状であったものが、転位増殖に伴う結晶粒の微細化(セル組織化)によって結晶粒の数が増えたため、回折環の均一化に寄与したものと推察される。残留応力測定を含むX線回折を用いた評価手法において、測定精度の低下を避けるために、試料の平均結晶粒径は、30[μm]以下であることが推奨されているが、この指針と比較すると、図3の試料の初期状態におけるフェライト粒径は、大きいもので50~60[μm]程度であり、X線回折の計測的には、粗大な部類に入り、上記考察と合致する。
【0042】
以上から、疲労損傷の蓄積に伴う回折環の均一化現象は、第1に、転位増殖(セル組織形成)による組織微細化、および、第2に、その微視組織の方位変化の2点に起因するものと結論づけることができ、回折環の凹凸は、その微視組織変化を端的に表す物理量と考えられ、回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標は、金属疲労の程度を表す新たな評価指標として用いることができる。
【0043】
前記均一性指標(=評価指標)は、例えば、回折環の方位角に対する最大ピーク強度と最小ピーク強度との差や、ピークの半値幅の変化等を用いてもよいが、本実施形態では、方位角に対する回折環のピークの強度における標準偏差が前記均一性指標として用いられる。その一例が図4に示されている。図4Aは、回折環を示し、図4Bは、図4Aに示す回折環における方位角αに対する強度分布(回折環の周方向における各位置でのピーク強度)、その平均値μおよびその標準偏差σを示す。図4Bの横軸は、0°から360°までの方位角α[deg]であり、その縦軸は、回折強度(Diffraction Intensity[counts])である。方位角αは、図4Aに示すように、回折環の中心位置Oを通るベースライン(Baseline)を基準0°とした場合に、時計回りに回折環の周方向に、前記ベースラインからの角度である。前記均一性指標(=評価指標)としての標準偏差σが相対的に大きい場合には、回折環の周方向における各位置でのピーク強度は、ばらついており、金属疲労は、相対的に小さい。一方、前記標準偏差σが相対的に小さい場合には、回折環の周方向における各位置でのピーク強度は、略均一であり(ばらつきが小さく)、金属疲労は、相対的に大きい。
【0044】
これら制御処理部2、記憶部3、入力部4、出力部5およびIF部6は、例えば、デスクトップ型やノート型やタブレット型等のコンピュータによって構成可能である。なお、データ取得部1がインターフェース回路や通信インターフェース回路である場合には、IF部6は、データ取得部1と兼用できるので、データ取得部1も含めて、金属疲労評価装置Dは、コンピュータによって構成可能である。
【0045】
次に、本実施形態の動作について説明する。図5は、前記金属疲労評価装置の動作を示すフローチャートである。
【0046】
このような構成の金属疲労評価装置Dは、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。制御処理部2には、その制御処理プログラムの実行によって、制御部21および指標処理部22が機能的に構成される。
【0047】
評価開始が入力されると、図5において、まず、金属疲労評価装置Dは、データ取得部1から回折環データを取得し、記憶する(S1)。より具体的には、本実施形態では、データ取得部1は、制御部13の制御によりX線照射部14から評価対象ObにX線ビームを照射し、制御部13の制御により撮像部15で回折環を撮像し、前記回折環を表す回折環データを生成する。そして、データ取得部1は、この回折環データを制御処理部2へ出力する。
【0048】
次に、金属疲労評価装置Dは、制御処理部2の指標処理部22によって、前記均一性指標を、評価対象Obの評価指標として求め、記憶する(S2)。より具体的には、本実施形態では、指標処理部22は、方位角αに対する回折環の強度分布における標準偏差σを前記均一性指標、すなわち、前記評価指標として求める。
【0049】
そして、金属疲労評価装置Dは、制御処理部2によって、この求めた評価指標としての標準偏差σを出力部5から出力し、本処理を終了する(S3)。なお、必要に応じて、前記評価指標は、IF部6から外部の機器へ出力されてもよい。
【0050】
図6は、一例として、金属疲労の程度と強度分布の標準偏差との関係を説明するための図である。図6の横軸は、疲労損傷の損傷度(Fatigue damage N/Nr[%])であり、その縦軸は、標準偏差(不均一性(Non-uniformity[counts]))である。図7は、一例として、金属疲労の程度と回折環の半価幅との関係を説明するための図である。図7の横軸は、疲労損傷の損傷度(Fatigue damage N/Nr[%])であり、その縦軸は、半価幅(Averaged FWHM[deg])である。
【0051】
比較例として、損傷度0[%]、10[%]、30[%]、50[%]および100[%]それぞれの疲労損傷を与えた各試料(未電荷研磨処理試料)に対する、CrKαのX線を入射角0度で入射したX線回折でられた回折環の各半価幅は、図7に●で示すように、損傷度0[%]から100[%]に至るまで、略一定であった。これは、上述したように、各試料の表層に加工損傷層が存在し、その影響と考えられる。表層の加工損傷層を電解研磨処理(EP)によって除去した各損傷度の各試料(電荷研磨処理試料)に対する、同様なX線回折で得られた回折環の各半価幅は、図7に■で示すように、損傷度0[%]から100[%]に至る損傷度の増大に伴って半価幅の増加が確認された。したがって、回折環の半価幅には、疲労損傷の情報が含まれることが確認できた。しかしながら、上述したように、その変化量は、初期値に対し最終値で約11[%]であった。電解研磨処理によって疲労損傷に伴う半価幅の変化が捉えられていると推察されるが、測定箇所による測定誤差も想定される状況で約11[%]の変化量は、疲労損傷の程度を的確に識別できるほどの有意な差とは言い切れない。
【0052】
これに対し、上述の比較例と同様な各損傷度の各試料に対する、本実施形態における金属疲労評価装置Dで求めた前記評価指標としての標準偏差が図6に示されている。図6に示す●は、各未電解研磨処理試料の各結果を示し、図6に示す■は、各電解研磨処理試料の各結果を示す。図6から、未電解研磨処理試料および電解研磨処理試料のいずれも、損傷度の増加に伴い標準偏差σが小さくなり、不均一度が減少する傾向(均一度が増加する傾向)が確認できる。前記減少の割合は、未電解研磨処理試料の場合、初期値に対し最大で-71[%]であり、電解研磨処理試料の場合、初期値に対し最大で-83[%]であり、したがって、比較例の半価幅を評価指標とした場合の変化幅と比べ、十分に大きい。測定位置によるばらつきは、電解研磨処理試料の損傷度0[%]において最大21[%]であり、改善の余地があるものの、このばらつきを踏まえても疲労損傷に伴う評価指標の変化は、識別することができる。疲労損傷に伴う評価指標の変化率は、70~90[%]程度であり、金属疲労を評価する有用な評価指標になり得る。
【0053】
以上説明したように、実施形態における金属疲労評価装置Dならびにこれに実装された金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムは、回折環データに基づいて回折環におけるピーク強度の均一の程度を表す均一性指標を、金属疲労の程度を表す評価指標として求めるので、より適切に金属疲労の程度を評価できる。
【0054】
上記金属疲労評価装置D、金属疲労評価方法および金属疲労評価プログラムは、データ取得部1によって回折環データを生成して取得するので、評価対象の現場で金属疲労を評価できる。
【0055】
本実施形態によれば、方位角αに対する回折環の強度分布における標準偏差σを前記均一性指標、すなわち、前記評価指標として求める金属疲労評価装置Dが提供できる。
【0056】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0057】
D 金属疲労評価装置
1 データ取得部
2 制御処理部
11 高圧電源
12 冷却部
13、21 制御部
14 X線照射部
15 撮像部
22 指標処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7