(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179036
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】測定方法、及び測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/16 20060101AFI20221125BHJP
G01N 3/18 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
G01N25/16 Z
G01N3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086261
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】浜田 信吉
【テーマコード(参考)】
2G040
2G061
【Fターム(参考)】
2G040AB07
2G040BA02
2G040BA25
2G040CA02
2G040CA18
2G040CA22
2G040DA03
2G040DA12
2G040EA02
2G040EC09
2G040GA08
2G040HA11
2G061AA02
2G061AB01
2G061AC03
2G061BA17
2G061CA09
2G061CB02
2G061CB03
2G061DA01
2G061DA11
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA10
2G061EB03
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】測定が簡便であり、試料が小さい場合でも測定することが可能な、内部圧縮応力の測定方法、及び測定装置を提供する。
【解決手段】試料の内部圧縮応力を測定する測定方法において、試料のガラス転移温度よりも低い所定温度から、ステージに載置された試料の温度を上昇させつつ、試料にステージの方向への圧縮荷重をプローブで付与するとともに、プローブの位置が一定になるように制御する荷重付与工程を備える。荷重付与工程において、圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を示す変化を表す場合に、極大値と極小値との差から試料の内部圧縮応力を算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の内部圧縮応力を測定する測定方法であって、
前記試料のガラス転移温度よりも低い所定温度から、ステージに載置された前記試料の温度を上昇させつつ、前記試料に前記ステージの方向への圧縮荷重をプローブで付与させるとともに、前記プローブの位置が一定になるように制御する荷重付与工程を備えており、
前記荷重付与工程において、前記圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を示す変化を表す場合に、前記極大値と前記極小値との差から前記試料の内部圧縮応力を算出することを特徴とする、測定方法。
【請求項2】
前記荷重付与工程に先だって、前記試料に前記ステージの方向への一定の圧縮荷重を前記プローブで付与させつつ、前記所定温度に達するまで前記試料の温度を上昇させる、昇温工程を更に備えることを特徴とする、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記試料と同一材料からなる予備試料を用いて、前記予備試料に前記ステージの方向への一定の圧縮荷重を前記プローブで付与させつつ、前記予備試料の温度を一定の昇温速度で上昇させて、前記プローブの位置の変化を計測することにより、当該予備試料のガラス転移温度を求める予備測定工程を実行することを特徴とする、請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記荷重付与工程では、前記試料の温度を、一定の昇温速度で連続的に上昇させることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項5】
試料が載置されるステージと、
前記ステージ上の前記試料を加熱するヒーターと、
前記ステージ上の前記試料の温度を検出する温度センサと、
前記ステージ上の前記試料に接触して前記ステージの方向への圧縮荷重を前記試料に付与するプローブと、
前記プローブを駆動し前記圧縮荷重を発生させる荷重発生部と、
前記プローブの位置を検出する変位検出部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記試料のガラス転移温度よりも低い所定温度から、前記ステージに載置された前記試料の温度を上昇させつつ、前記試料に前記圧縮荷重を前記プローブで付与させるとともに、前記プローブの位置が一定になるように制御する荷重付与工程を実施し、
前記荷重付与工程において、前記圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を示す変化を表す場合に、前記極大値と前記極小値との差から前記試料の内部圧縮応力を算出することを特徴とする、測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測定方法、特に、試料の内部圧縮応力を測定する測定方法、及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂などの材料の内部圧縮応力を測定可能な測定方法として、例えば、穿孔法が知られている。穿孔法では、材料の試料の内部圧縮応力(残留応力)の測定は、試料に対して歪ゲージを取り付けるとともに、ドリルなどにより穿孔を形成した後に、当該歪ゲージの測定結果を使用して、実行される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】三上隆男、他:穿孔法による残留応力測定技術の検証試験 IHI技報 Vol.58 No.3(2018) PP.27-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、穿孔法では、試料に対し穿孔を設けたり、当該穿孔の近傍の試料上の位置に歪ゲージを取り付けたりする必要があった。この結果、試料の内部圧縮応力を簡便に測定することができないという問題点があった。また、歪ゲージよりも小さい試料について測定を行うことは困難であるという問題点もあった。
【0005】
本開示は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、測定が簡便であり、試料が小さい場合でも測定することが可能な、内部圧縮応力の測定方法、及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一側面に係る測定方法は、試料の内部圧縮応力を測定する測定方法であって、前記試料のガラス転移温度よりも低い所定温度から、ステージに載置された前記試料の温度を上昇させつつ、前記試料に前記ステージの方向への圧縮荷重をプローブで付与させるとともに、前記プローブの位置が一定になるように制御する荷重付与工程を備えており、前記荷重付与工程において、前記圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を示す変化を表す場合に、前記極大値と前記極小値との差から前記試料の内部圧縮応力を算出する。
【0007】
また、本開示の一側面に係る測定装置は、試料が載置されるステージと、前記ステージ上の前記試料を加熱するヒーターと、前記ステージ上の前記試料の温度を検出する温度センサと、前記ステージ上の前記試料に接触して前記ステージの方向への圧縮荷重を前記試料に付与するプローブと、前記プローブを駆動し前記圧縮荷重を発生させる荷重発生部と、前記プローブの位置を検出する変位検出部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記試料のガラス転移温度よりも低い所定温度から、前記ステージに載置された前記試料の温度を上昇させつつ、前記試料に前記圧縮荷重を前記プローブで付与させるとともに、前記プローブの位置が一定になるように制御する荷重付与工程を実施し、前記荷重付与工程において、前記圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を示す変化を表す場合に、前記極大値と前記極小値との差から前記試料の内部圧縮応力を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、測定が簡便であり、試料が小さい場合でも測定することが可能な、内部圧縮応力の測定方法、及び測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る測定方法を実現する測定装置の構成例を示す概略図である。
【
図2】測定方法によるガラス転移温度の測定例を説明するグラフである。
【
図3】測定方法による内部圧縮応力の測定例を説明するグラフである。
【
図4】本開示の一実施形態に係る測定方法の予備測定工程を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の一実施形態に係る測定方法により残留応力を評価する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態〕
以下、本開示の一実施形態について、
図1を用いて詳細に説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る測定方法を実現する測定装置の構成例を示す概略図である。尚、以下の説明では、まず本開示の測定方法を実現する測定装置について具体的に説明する。
【0011】
<測定装置1>
図1に示すように、本実施形態の測定装置1は、熱機械分析装置(TMA:Thermomechanical Analyzer)10と、熱機械分析装置10の各部を制御する制御装置8とを備える。測定装置1は、本実施形態の測定方法を用いて、試料Sの内部圧縮応力を測定する。試料Sには、例えば、エポキシ樹脂などの合成樹脂材料が用いられる。また、測定装置1は、試料Sでのガラス状態からゴム状態に状態遷移するときのガラス転移温度を算出する。
【0012】
<熱機械分析装置10>
熱機械分析装置10は、試料Sが設置される試料管2と、試料管2の周囲に配置され、試料Sを加熱して試料Sの温度を上昇させるヒーター3と、試料Sの温度を検出する温度センサ4とを備える。熱機械分析装置10は、試料Sの長さを検出するための変位検出部5と、試料Sに接触して圧縮荷重を付与するプローブ6と、試料Sに付与する圧縮荷重を発生させる荷重発生部7とを備える。
【0013】
試料管2は、試料Sが設置される底面を有する有底状の筒体である。試料管2は、ステージSt上に配置されており、ステージStに試料Sを介在させて対向配置されたプローブ6から試料Sに
図1の下方に向かって荷重(圧縮荷重)が加えられるようになっている。そして、本実施形態では、試料Sの内部圧縮応力を高精度に測定することができるようになっている。
【0014】
試料管2の内部には、温度センサ4が配置されている。試料管2の外部には、試料Sを囲むようにヒーター3が設置されている。試料管2の上方の開口部側には、変位検出部5、及び荷重を発生してプローブ6を介して試料Sに圧縮荷重を付与する荷重発生部7が設けられている。
【0015】
尚、上記の説明では、ステージSt上の試料管2の内部に試料Sを配置した構成について説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、ステージSt上に載置された試料Sを用いるものであれば何等限定されない。つまり、上記の説明に代えて、試料管2を用いることなく、試料SをステージSt上に直接的に載置する構成でもよい。但し、上記のように、試料管2を用いた場合には、ヒーター3による試料Sの適切な加熱をより容易にすることができる点で好ましい。
【0016】
試料Sは、例えば、1mm以上の辺を有する直方体により構成されている。また、試料Sは、上述の合成樹脂材料以外に、非晶質材料(一部に結晶材料を含むものでもよい)、透明材料あるいは非透明材料、または磁性材料あるいは非磁性材料などを適用し得る。
【0017】
ヒーター3は、例えば、制御装置8による通電量の制御に応じて、熱を発生する、いわゆる電熱タイプのヒーターを用いて構成されている。温度センサ4は、例えば、熱電対やサーミスタなどを用いて構成されており、検出した試料Sの温度を制御装置8に出力する。
【0018】
変位検出部5は、例えば、差動トランス(LVDT:Linear Variable Differential Transformer)を用いて構成されている。変位検出部5は、プローブ6の位置を検出して、制御装置8に出力する。これにより、制御装置8では、プローブ6の位置を求めることにより、プローブ6による圧縮荷重の付与方向(ステージStに向かう方向)での試料Sの長さを検出することができる。
【0019】
荷重発生部7は、不図示のモータなどの駆動機構を備えており、制御装置8からの指示信号に従って、当該駆動機構がプローブ6を制御して駆動させることができる。具体的には、荷重発生部7では、上記駆動機構はプローブ6をステージStの試料載置面に垂直な方向に移動させることができる。また、荷重発生部7の駆動機構は、プローブ6により試料に加えられる圧縮荷重を所要の値にさせることができる。荷重発生部7は、例えば、トルクセンサなどの荷重センサを具備してもよく、試料Sに付与した圧縮荷重を検出して制御装置8に出力する。
【0020】
尚、この説明以外に、荷重センサを設けることなく、例えば、荷重発生部7の上記駆動機構に供給される電流の値を用いて、プローブ6を介して試料Sに付与させた圧縮荷重を求めて、制御装置8に出力する構成でもよい。
【0021】
<制御装置8>
制御装置8は、通信部8aと、記憶部8bと、制御部8cとを備える。通信部8aは、熱機械分析装置10の各部との間で通信を行う機能ブロックである。通信部8aは、測定装置1の外部との間で情報の授受を行う双方向通信の機能ブロックでもある。記憶部8bは、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置であり、制御部8cで実行される各種の処理プログラムを記憶する。また、記憶部8bは、後述の所定温度及び測定上限温度などの測定方法に必要なデータを記憶している。
【0022】
制御部8cは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含み、情報処理に応じて各構成要素の制御を行う機能ブロックである。
【0023】
制御部8cは、温度センサ4の検出結果と、記憶部8bに記憶されている所定温度とを用いて、一定負荷モードから定長負荷変動測定モードへのモード切替を行うように、熱機械分析装置10を制御する。一定負荷モード及び定長負荷変動測定モードの詳細については、後述する。
【0024】
<測定方法の概要>
次に、
図2~
図5も参照して、本実施形態の測定方法を用いた測定装置1の動作について具体的に説明する。
図2は、測定方法によるガラス転移温度の測定例を説明するグラフである。
図3は、測定方法による内部圧縮応力の測定例を説明するグラフである。
図4は、本開示の一実施形態に係る測定方法の予備測定工程を示すフローチャートである。
図5は、本開示の一実施形態に係る測定方法により残留応力を評価する手順を示すフローチャートである。
【0025】
<ガラス転移温度を評価する予備測定工程>
なお、以下の説明では、本実施形態の測定方法、及び測定装置を用いて、内部圧縮応力を測定しようとする試料Sと同一の材料からなる予備試料を用いて、当該材料のガラス転移温度を測定する場合を例示して説明する。
【0026】
測定装置1では、上記予備試料を用いて、予備試料にステージStの方向への一定の圧縮荷重をプローブ6で付与させつつ、当該予備試料の温度を一定の昇温速度で上昇させて、プローブ6の位置の変化を計測することにより、当該予備試料のガラス転移温度を求める予備測定工程が行われる。
【0027】
具体的にいえば、この予備測定工程では、
図4のステップS1で、試料管2内に設置された予備試料(図示せず)に対して、荷重発生部7はプローブ6を介して一定の圧縮荷重P(
図2の直線50にて図示、例えば、5.00(g))を当該予備試料に付与する。また、ヒーター3は、温度センサ4で検出される予備試料の温度(
図2の横軸にて図示)が一定の昇温速度で連続的に上昇するように当該予備試料を加熱する。
【0028】
より具体的にいえば、予備試料として、例えば、20mm×5mm×5mmの大きさを有する、エポキシ樹脂を使用し、この予備試料に対し熱機械分析装置10を用いて、予備測定工程を実施した。
【0029】
次に、
図4のステップS2で、変位検出部5は、プローブ6の位置の変化を検出して、制御部8cに出力する。制御部8cでは、プローブ6の位置の変化を基に、予備試料の長さを求める。具体的には、制御部8cは、ステップS1を実行する前に予め計測されて記憶部8bに格納されている予備試料の長さを基準値として、当該ステップS2で検出したプローブ6の位置の変化の値を基準値に加算することによって予備試料の長さを検出する。この結果、制御部8cは、
図2の曲線60にて例示するように、変化する、予備試料の長さを検出する。
【0030】
続いて、
図4のステップS3で、制御部8cは、曲線60において、予備試料がガラス状態のときのプローブ6の位置(つまり、予備試料の長さ)のグラフの接線と予備試料がゴム状態のときのプローブ6の位置のグラフの接線との交点を取得して、当該交点から予備試料のガラス転移温度PT1(例えば、121.9℃)を求める。
【0031】
具体的には、制御部8cは、曲線60にて示される、予備試料の長さがその予備試料の温度の上昇に応じてほぼ均一に大きくなる状態を検出すると、当該予備試料が固体であるガラス状態であると判断する。そして、制御部8cは、ガラス状態と判断したときの任意の温度、例えば、
図2に左側の点線矢印の左側端で示す温度(例えば、80.00℃)での曲線60で示される長さの接線(
図2に左側の点線矢印にて図示)を求める。
【0032】
また、制御部8cは、曲線60にて示される、予備試料の長さがその予備試料の温度の上昇及びガラス状態時に比べて大幅に大きくなる状態を検出すると、当該予備試料がガラス状態からゴム弾性を有するゴム状態に状態遷移したと判断する。そして、制御部8cは、ゴム状態と判断したときの任意の温度、例えば、
図2に右側の点線矢印の右側端で示す温度(例えば、128.00℃)での曲線60で示される長さの接線(
図2に右側の点線矢印にて図示)を求める。そして、制御部8cは、
図2に示すように、2つの接線の交点を算出して、当該交点の温度を予備試料のガラス転移温度PT1とする。
【0033】
更に、制御部8cは、温度センサ4からの検出温度と変位検出部5から求められた予備試料の検出長さとに基づき、
図2の曲線70にて示すように、予備試料の線膨張係数を算出する。具体的には、制御部8cは、上記検出長さを上記検出温度で微分することにより、予備試料の線膨張係数を求める。
【0034】
このように、本実施形態の測定方法、及び測定装置1では、試料Sと同一の材料からなる予備試料に対して、当該同一の試料のガラス転移温度PT1を求める予備測定工程が実行されるので、より正確なガラス転移温度PT1を用いて、後述の所定温度PTを決定することができる。この結果、本実施形態の測定方法では、試料Sの内部圧縮応力を精度よく測定することができる。
【0035】
また、上記の予備測定工程の結果、この予備試料において、
図2に曲線70で示すように、ガラス転移温度PT1よりも低い温度のガラス状態では、線膨張係数は約30×10
-6/Kであった。一方、ガラス転移温度PT1よりも130℃以上の高い温度のゴム状態では、線膨張係数は約110×10
-6/Kと大きくなった。
【0036】
また、
図2の曲線70に示すように、ガラス転移温度PT1を超えた130℃付近で、線膨張係数が200×10
-6/K程度と大きくなっている。これは、予備試料がガラス状態のときに蓄積していた内部圧縮応力がゴム状態に遷移することによって開放されて、この結果、線膨張係数がピークに達したと考えられる。内部圧縮応力が蓄積された、ガラス状態の予備試料がゴム状態に変化する際に、蓄積された内部圧縮応力を外部に開放するので、その内部圧縮応力の変化を測定可能なことが期待できる。
【0037】
<内部圧縮応力の測定の概要>
本実施形態の測定方法、及び測定装置1では、熱機械分析装置10を用いて、以下のようにして、試料Sの内部圧縮応力を測定する。具体的には、制御部8cは一定負荷モード(
図3に矢印M1にて図示)を選択する。この一定負荷モードでは、後述の荷重付与工程に先だって、試料SにステージStの方向への一定の圧縮荷重をプローブ6で付与させつつ、所定温度PTに達するまで試料Sの温度を上昇させる、昇温工程が実行される。
【0038】
尚、制御部8cは、上記予備測定工程で求めた予備試料のガラス転移温度PT1または記憶部8bに予め保持されている試料Sのガラス転移温度PT1に基づいて、予め所定温度PTを決定する。具体的には、制御部8cは、ガラス転移温度PT1から所定の温度値を減算した値を所定温度PTとする。また、この所定の温度値は、試料Sの材質などに応じて、昇温工程が適切な実行時間で実施されるように、予め決定されて記憶部8bに記憶されている。
【0039】
この昇温工程では、
図5のステップS11で、試料管2内に設置された試料Sに対して、荷重発生部7はプローブ6を介して一定の負荷(一定の圧縮荷重)を試料Sに付与する。また、ヒーター3は、温度センサ4で検出される試料Sの温度(
図3の横軸で図示)が一定の昇温速度で連続的に上昇するように試料Sを加熱する。
【0040】
次に、
図5のステップS12で、制御部8cは、温度センサ4からの検出温度に基づいて、試料Sの温度が所定温度PTに到達したか否かについて判別する。制御部8cは、所定温度PTに到達していないことを判別すれば(ステップS12でNO)、ステップS11に戻る。
【0041】
一方、制御部8cは、所定温度PTに到達したことを判別すれば(ステップS12でYES)、制御部8cは、ステップS13に進む。つまり、制御部8cは、熱機械分析装置10の動作モードを一定負荷モードから定長負荷変動測定モード(
図3に矢印M2にて図示)に切り替える。
【0042】
また、定長負荷変動測定モードでは、制御部8cは、試料Sのガラス転移温度PT1よりも低い所定温度PTから、ステージStに載置された試料Sの温度を上昇させつつ、試料SにステージStの方向への圧縮荷重をプローブ6で付与させるとともに、プローブ6の位置が一定になるように制御する荷重付与工程を行わせる。更に、制御部8cは、荷重付与工程において、圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を示す変化を表す場合に、極大値と極小値との差から試料Sの内部圧縮応力を算出する。
【0043】
荷重付与工程では、
図5のステップS13で、制御部8cは、温度センサ4の検出温度に基づいて、ヒーター3のフィードバック制御を行うことにより、所定温度PTから試料Sの温度を一定の昇温速度で上昇させる。更に、制御部8cは、変位検出部5の検出結果を用いて荷重発生部7を動作させることにより、プローブ6で試料に圧縮荷重を付与しながら、プローブ6の位置が一定になるように制御する。
【0044】
続いて、
図5のステップS14で、制御部8cは、温度センサ4からの検出温度に基づいて、試料Sの温度が記憶部8bに記憶されている測定上限温度に到達したか否かについて判別する。制御部8cは、試料Sの温度が測定上限温度に到達したことを検出すれば(ステップS14でYES)、制御部8cは、当該試料Sの内部圧縮応力を測定することは困難であると判断して、当該試料Sについての測定動作を終了させる。
【0045】
なお、制御部8cが試料Sについての測定動作を終了させた場合、別の試料について測定動作を行わせたり、測定条件を変更して試料Sについての測定動作を行わせたりするなどを行う構成でもよい。
【0046】
一方、制御部8cが、試料Sの温度が上記測定上限温度に到達していないことを判別すれば(ステップS14でNO)、制御部8cは、荷重発生部7からの荷重の検出結果を用いて、試料Sに付与している圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を検出したか否かについて判別する(ステップS15)。制御部8cは、上記極小値を検出していないことを判別すれば(ステップS15でNO)、ステップS13に戻る。
【0047】
一方、制御部8cが、上記極小値を検出したことを判別すれば(ステップS15でYES)、制御部8cは、荷重発生部7からの荷重の検出結果を用いて、圧縮荷重の極大値と極小値との差から試料Sの内部圧縮応力を算出する(ステップS16)。
【0048】
<内部圧縮応力の測定の具体例>
より具体的にいえば、試料Sとして、例えば、3mm×3mm×5mmの大きさを有する、エポキシ樹脂を使用し、この試料Sに対し熱機械分析装置10を用いて、昇温工程、及び荷重付与工程を順次実施した。また、制御部8cは、所定温度PTとして、例えば、90℃の値を選択した。
【0049】
そして、一定負荷モードの昇温工程では、制御部8cは、温度センサ4の検出温度が室温である時点から、試料Sに対してプローブ6で、例えば、5gの一定(圧縮)荷重を付与しつつ、ヒーター3を制御して、例えば、5℃/分の一定の昇温速度で試料Sの温度を上昇させた。この結果、この昇温工程では、変位検出部5の検出結果から求められる、試料Sの長さは、
図3に曲線80にて示すように、所定温度PTまでは大きくなった。また、荷重発生部7からの荷重の検出結果(つまり、試料Sへの圧縮荷重)は、
図3に曲線90にて示すように、所定温度PTまではほぼ一定であった。
【0050】
その後、制御部8cは、温度センサ4の検出温度が所定温度PTを超えると、定長負荷変動測定モードに切り替えて、荷重付与工程を実行させた。具体的には、制御部8cは、温度センサ4の検出温度が所定温度PTである時点から、ヒーター3を制御して、例えば、5℃/分の一定の昇温速度で試料Sの温度を150℃まで上昇させた。また、制御部8cは、温度センサ4の検出温度が所定温度PTの90℃で、プローブ6による試料Sへの圧縮荷重を0gとした場合での試料Sの長さで当該試料Sの長さが一定で維持されるように、荷重発生部7を制御しつつ、当該荷重発生部7からの圧縮荷重の検出結果を取得した。
【0051】
この結果、変位検出部5の検出結果から求められる、試料Sの長さは、
図3に曲線80にて示すように、所定温度PTを超える温度の場合は、ほぼ一定の値を示した。
【0052】
また、荷重発生部7からの圧縮荷重の検出結果は、
図3に曲線90にて示すように、所定温度PTを超えると、徐々に上昇して、ガラス転移温度PT1に達する前の温度で極大値となり、ガラス転移温度PT1付近の温度で極小値となった。
【0053】
そして、制御部8cは、
図3に示すように、上記極大値と極小値との差の値IPPを求めて、この求めた値IPPを試料Sの内部圧縮応力として算出した。
【0054】
<効果>
以上のように、本実施形態の測定方法、及び測定装置1では、上記荷重付与工程を実施するとともに、荷重付与工程において、試料Sに付与している圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を示す変化を表す場合に、極大値と極小値との差から試料Sの内部圧縮応力を算出する。これにより、本実施形態では、測定が簡便であり、試料Sが小さい場合でも測定することが可能な、内部圧縮応力の測定方法を提供することができる。
【0055】
すなわち、本実施形態の測定方法、及び測定装置1では、試料Sの精密切断を行うことや、レーザー変位計あるいは解析ソフトなどの高価な専用装置を用いることなく、試料Sの内部圧縮応力を測定することができる。
【0056】
また、本実施形態の測定方法、及び測定装置1では、上記従来例と異なり、例えば、1mm以上の辺を有する直方体からなる小さい試料Sの内部圧縮応力を測定することができる。
【0057】
また、本実施形態の測定方法、及び測定装置1では、荷重付与工程を行う前に、昇温工程を実行しているので、試料Sでのガラス状態からゴム状態への状態遷移を適切に行うことが可能となり、内部圧縮応力の測定精度を容易に向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態の測定方法、及び測定装置1では、荷重付与工程の際に、試料Sの温度を、一定の昇温速度で連続的に上昇させるので、荷重付与工程の簡単化を容易に図ることができ、簡単な制御で内部圧縮応力を測定することが可能となる。
【0059】
なお、上記の説明では、測定装置1が予備試料(試料S)のガラス転移温度を求める予備測定工程を実行する場合について説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、試料Sのガラス転移温度が公知の既存値であり、予め記憶部8bに保持されている場合には、当該ガラス転移温度を求める予備測定工程の実施を割愛することもできる。
【0060】
また、上記の説明では、荷重付与工程では、試料Sの温度を、一定の昇温速度で連続的に上昇させる場合について説明した。一定の昇温速度とは、実質的に等しい昇温速度であればよく、全く同一の数値の昇温速度に限定されない。なお、本実施形態の荷重付与工程はこれに限定されるものではなく、試料Sに対して圧縮荷重を付与させつつ、当該試料Sの温度を上昇させるものであればよい。更に、例えば、正弦波のように、昇温速度の値を振幅を有するように変化させながら、平均では一定の昇温速度の値となるように、試料Sの温度を上昇させたり、昇温速度の値を若干変化させつつ、試料Sの温度を上昇させたりしてもよい。
【0061】
〔ソフトウェアによる実現例〕
測定装置1の機能ブロック(特に、制御部8c)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0062】
後者の場合、制御部8cは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本開示の目的が達成される。
【0063】
上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、磁気ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを更に備えていてもよい。
【0064】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0065】
〔まとめ〕
上記の課題を解決するために、本開示の一側面に係る測定方法は、試料の内部圧縮応力を測定する測定方法であって、前記試料のガラス転移温度よりも低い所定温度から、ステージに載置された前記試料の温度を上昇させつつ、前記試料に前記ステージの方向への圧縮荷重をプローブで付与させるとともに、前記プローブの位置が一定になるように制御する荷重付与工程を備えており、前記荷重付与工程において、前記圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を示す変化を表す場合に、前記極大値と前記極小値との差から前記試料の内部圧縮応力を算出する。
【0066】
上記構成によれば、測定が簡便であり、試料が小さい場合でも測定することが可能な、内部圧縮応力の測定方法を提供することができる。
【0067】
上記一側面に係る測定方法において、前記荷重付与工程に先だって、前記試料に前記ステージの方向への一定の圧縮荷重を前記プローブで付与させつつ、前記所定温度に達するまで前記試料の温度を上昇させる、昇温工程を更に備えてもよい。
【0068】
上記構成によれば、試料でのガラス状態からゴム状態への状態遷移を適切に行うことが可能となり、内部圧縮応力の測定精度を容易に向上させることができる。
【0069】
上記一側面に係る測定方法において、前記試料と同一材料からなる予備試料を用いて、前記予備試料に前記ステージの方向への一定の圧縮荷重を前記プローブで付与させつつ、前記予備試料の温度を一定の昇温速度で上昇させて、前記プローブの位置の変化を計測することにより、当該予備試料のガラス転移温度を求める予備測定工程を実行してもよい。
【0070】
上記構成によれば、より正確なガラス転移温度を用いて、上記所定温度を決定することができ、内部圧縮応力を精度よく測定することができる。
【0071】
上記一側面に係る測定方法において、前記荷重付与工程では、前記試料の温度を、一定の昇温速度で連続的に上昇させてもよい。
【0072】
上記構成によれば、荷重付与工程の簡単化を容易に図ることができ、簡単な制御で内部圧縮応力を測定することが可能となる。
【0073】
また、本開示の一側面に係る測定装置は、試料が載置されるステージと、前記ステージ上の前記試料を加熱するヒーターと、前記ステージ上の前記試料の温度を検出する温度センサと、前記ステージ上の前記試料に接触して前記ステージの方向への圧縮荷重を前記試料に付与するプローブと、前記プローブを駆動し前記圧縮荷重を発生させる荷重発生部と、
前記プローブの位置を検出する変位検出部と、前記測定装置の各部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記試料のガラス転移温度よりも低い所定温度から、前記ステージに載置された前記試料の温度を上昇させつつ、前記試料に前記圧縮荷重を前記プローブで付与させるとともに、前記プローブの位置が一定になるように制御する荷重付与工程を実施し、前記荷重付与工程において、前記圧縮荷重が増加傾向から極大値を経て減少傾向に転じた後に極小値を示す変化を表す場合に、前記極大値と前記極小値との差から前記試料の内部圧縮応力を算出する。
【0074】
上記構成によれば、測定が簡便であり、試料が小さい場合でも測定することが可能な、内部圧縮応力の測定装置を提供することができる。
【0075】
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 測定装置
2 試料管
3 ヒーター
4 温度センサ
5 変位検出部
6 プローブ
7 荷重発生部
8 制御装置
8c 制御部
10 熱機械分析装置
S 試料
St ステージ