(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179085
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】円すいころ軸受の組立方法
(51)【国際特許分類】
F16C 43/08 20060101AFI20221125BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20221125BHJP
B23P 21/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
F16C43/08
F16C19/36
B23P21/00 306A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086330
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔平
(72)【発明者】
【氏名】湯川 謹次
【テーマコード(参考)】
3C030
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3C030BD02
3C030CA12
3J117HA03
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA35
3J701BA44
3J701DA09
3J701FA44
(57)【要約】
【課題】金属製の保持器を加締めることにより、内輪、円すいころ及び保持器を一体化して円すいころ軸受の組み立てを行うに当たり、円すいころの大径側端面に圧痕が発生するのを抑制することができる円すいころ軸受の組立方法を提供する。
【解決手段】内輪12に保持器14及び複数の円すいころ13が組み込まれた状態で、内輪支持面30及び保持器14の大径部の端部14eの各々に当接するバックアップリング40を介在させ、円すいころ13の大径側端面13bが、内輪12の大鍔面16aから離間した状態から内輪12の大鍔面16aに当接した状態に移行させながら保持器14のポケットが縮小する様に保持器を加締める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に設けられ大径側端面と小径側端面とをそれぞれ有する複数の円すいころと、円すいころの大径側端面側の大径部と小径側端面側の小径部と、前記複数の円すいころを円周方向に所定の間隔で保持するポケットと、を有する金属製の保持器と、を備え、前記内輪の大径側端部に大鍔部が設けられる円すいころ軸受の組立方法であって、
前記内輪の大鍔部に隣接して円すいころの大径側端部が位置し、前記内輪の大鍔部の径方向外側に保持器の大径部が位置した状態にて、前記内輪に前記保持器及び前記複数の円すいころが組み込まれた状態で、内輪支持面上に配置されたバックアップリング上に前記保持器の大径部の端部を配置することにより、前記円すいころの大径側端面が、前記内輪の大鍔面から離間した状態を実現し、前記円すいころの大径側端面が、前記内輪の大鍔面から離間した状態から前記内輪の大鍔面に当接した状態に移行させながら前記保持器のポケットが縮小する様に保持器を加締める、円すいころ軸受の組立方法。
【請求項2】
前記バックアップリングの高さを調節することにより、前記円すいころの大径側端面と前記内輪の大鍔面との間の隙間の大きさを設定する、請求項1に記載の円すいころ軸受の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設機械をはじめとする各種の駆動装置には、その回転機構を回転自在に支持する軸受として円すいころ軸受が使用されている。
図3に示すように、この円すいころ軸受10は、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動可能に設けられる複数の円すいころ13と、複数の円すいころ13を円周方向に所定の間隔で保持する保持器14と、を備えて構成される。
【0003】
円すいころ軸受10の保持器14としては、樹脂製のものや金属製のものが使用される。金属製の保持器14を用いた円すいころ軸受10の組立方法は、いわゆる、加締め方式が取られている。具体的には、
図4Aに示すように、まず、保持器14のポケットに円すいころ13を保持させ、内輪12に組み込む。そして、内輪12の大鍔部16側の軸方向端面を内輪支持面30に当接させた状態で、保持器14に当接させた加締め治具20を、保持器14に向けて押し込むことにより、内輪12、円すいころ13及び保持器14が分離しないよう、任意のポケット隙間になるまで加締める、といった方法である。
【0004】
このような加締め方式により、内輪12、円すいころ13及び保持器14を一体化して、円すいころ軸受を組み立てる方法として、例えば特許文献1に記載の技術がある。また、円すいころの大径側端面に圧痕が発生するのを抑制することができるとして、例えば特許文献2に記載の技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-15181号公報
【特許文献2】特開2020-200935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、
図4Aに示すような従来の円すいころ軸受10の組立方法では、加締め治具20により保持器14の加締めを行うにあたり、加締め時の力の伝達経路が、加締め治具20、保持器14、円すいころ13、内輪12、そして内輪支持面30の順となる。
【0007】
すなわち、加締め治具20に与えられた力は、加締め治具20に当接する保持器14へと伝達され、保持器14が円すいころ13の小径側端面13aを押し込むことで、円すいころ13へと伝達される。そして、円すいころ13へ伝達された力は、円すいころ13の大径側端面13bと、内輪12の大鍔部16における大鍔面16aとの接触により、内輪12へと伝達された後、内輪12に当接する内輪支持面30へと伝達される。
【0008】
この場合において、円すいころ13は、保持器14により小径側端面13aで押される結果、
図4Bに示すように、円すいころ13の大径側端面13bと、内輪12の大鍔面16aとの接触部を支点として回転する。その結果、大径側端面13bと大鍔面16aの間で高い面圧が発生し、円すいころ13の大径側端面13bに圧痕が発生するおそれがあった。
【0009】
また、特許文献2の技術においては、バックアップリングが軸受毎に必要になりコストが掛かる可能性があることや、バックアップリングがころに触れるので、ころの傷の発生し難さの点では改善の余地があった。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属製の保持器を加締めることにより、内輪、円すいころ及び保持器を一体化して円すいころ軸受の組み立てを行うに当たり、円すいころの大径側端面に圧痕が発生するのを抑制することができ、比較的コストが掛からず、ころ傷の発生し難い円すいころ軸受の組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に設けられ大径側端面と小径側端面とをそれぞれ有する複数の円すいころと、円すいころの大径側端面側の大径部と小径側端面側の小径部と、前記複数の円すいころを円周方向に所定の間隔で保持するポケットと、を有する金属製の保持器と、を備え、
前記内輪の大径側端部に大鍔部が設けられる円すいころ軸受の組立方法であって、前記内輪の大鍔部に隣接して円すいころの大径側端部が位置し、前記内輪の大鍔部の径方向外側に保持器の大径部が位置した状態にて、前記内輪に前記保持器及び前記複数の円すいころが組み込まれた状態で、内輪支持面上に配置されたバックアップリング上に前記保持器の大径部の端部を配置することにより、前記円すいころの大径側端面が、前記内輪の大鍔面から離間した状態を実現し、前記円すいころの大径側端面が、前記内輪の大鍔面から離間した状態から前記内輪の大鍔面に当接した状態に移行させながら前記保持器のポケットが縮小する様に保持器を加締める、円すいころ軸受の組立方法。
(2)前記バックアップリングの高さを調節することにより、前記円すいころの大径側端面と前記内輪の大鍔面との間の隙間の大きさを設定する、(1)に記載の円すいころ軸受の組立方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内輪支持面と、保持器の端部との間にバックアップリングを介在させた状態で、保持器を加締めるため、加締め時の力の少なくとも一部は、バックアップリングを介して内輪支持面へと伝達される。従って、円すいころによる、円すいころの大径側端面と、内輪の大鍔面との接触部を支点とする回転が抑制され、円すいころの大径側端面と、内輪の大鍔面と間の面圧が低下し、円すいころの大径側端面に圧痕が発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る円すいころ軸受の組立方法の第1段階を説明する断面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る円すいころ軸受の組立方法の第2段階を説明する断面図である。
【
図3】
図3は、本発明が適用された円すいころ軸受を説明する断面図である。
【
図4A】
図4Aは、従来の円すいころ軸受の組立方法を説明する断面図であり、加締め時の力の伝達経路を説明するための図である。
【
図4B】
図4Bは、従来の円すいころ軸受の組立方法を説明する断面図であり、円すいころの回転により、円すいころの大径側端面と内輪の大鍔面の間で高い面圧が発生する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る円すいころ軸受の組立方法の各実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
まず、
図3を参照して、本発明が適用された円すいころ軸受について説明する。
【0016】
円すいころ軸受10は、
図3に示すように、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動可能に設けられる複数の円すいころ13と、複数の円すいころ13を円周方向に所定の間隔で保持する金属製の保持器14と、を備える。
【0017】
内輪12は、内輪12の小径側端部に設けられる小鍔部15と、内輪12の大径側端部に設けられる大鍔部16と、を有する。なお、小鍔部15における小鍔面15aは、小鍔部15が円すいころ13の小径側端面13aと接触する。また、大鍔部16における大鍔面16aは、大鍔部16が円すいころ13の大径側端面13bと接触する。
【0018】
保持器14は、例えば鉄板のプレス加工などで形成されており、小径側円環部14aと、小径側円環部14aと同軸配置される大径側円環部14bと、小径側円環部14aと大径側円環部14bとを連結すべく、周方向に所定の間隔(例えば、略等間隔)で配置される複数の柱部14cと、を備え、周方向に互いに隣り合う各柱部14c間に、円すいころ13を転動可能に保持するポケット部14dが形成されている。
【0019】
本発明は、かかる円すいころ軸受の組立方法を提供するものであり、引き続き、実施形態について説明する。
【0020】
図1を参照して、本発明に係る円すいころ軸受の組立方法の実施形態について説明する。
図1は、金属製の保持器14を備える円すいころ軸受における、内輪12に対して円すいころ13を保持した保持器14を組み付ける方法を説明する断面図である。
【0021】
本実施形態の組立方法では、加締め治具20が使用されており、この加締め治具20は、略円環状に形成されている。この加締め治具20の内周面には、保持器14の柱部14cに対面する加締め部20aと、保持器14のポケットよりも径方向(
図1の左右方向)外側に位置する円すいころ13に対面する逃げ20bが、加締め治具20の周方向にわたって交互に設けられている。
【0022】
加締め部20aは、加締め時に保持器14へ十分な力が伝達されるよう、保持器14の加締め後の柱部14cの傾斜角度に適合する所定のテーパー状に形成される。また、逃げ20bは、加締め時において、円すいころ13と干渉しないよう、加締め部20aに対して凹んでいる。
【0023】
そして、本実施形態では、内輪12に対して円すいころ13を保持した保持器14を組み付けるにあたり、まず、保持器14のポケットに円すいころ13を保持させ、円すいころ13が保持された状態で、内輪12の小鍔部15側から軸方向に押込み、内輪12に組み込む。一方、加締め中に円すいころ軸受を下側から支える内輪支持面30上に、バックアップリング40を配置しておく。
【0024】
そして、バックアップリング40上に保持器14の端部14eを配置し、バックアップリング40に当接させ、保持器14のポケットで円すいころ13の大径側端面13bを規制していることにより、内輪12の大鍔面16aが、円すいころ13の大径側端面13bから、隙間Gだけ離間した状態が実現される。
【0025】
バックアップリング40は、内輪12の大鍔部16よりも大径であり、内輪12の径方向外側に配置された状態で、内輪支持面30と当接する。また、バックアップリング40の上面40a(内輪支持面30と当接する面とは反対側の面)が、内輪12に組み込まれた状態の保持器14における大鍔部16側の端部14eと当接する。
【0026】
この状態で、加締め治具20の加締め部20aを保持器14の柱部14cに接触させながら、内輪支持面30に向けて押し込むことにより、内輪12、円すいころ13及び保持器14が分離しない任意のポケット隙間になるように、保持器14を加締める。加締めの過程において保持器14は変形するが、
図1の第1段階では、円すいころ13の大径側端面13bが、内輪12の大鍔面16aから浮遊しており、円すいころ13は下方向において保持器14のポケットで規制されているので、大径側端面13bと大鍔面16aの間で高い面圧が発生するのを抑制し、円すいころ13の大径側端面13bに圧痕が発生することを抑制することができる。
【0027】
加締め治具20による加締めを更に進めると、
図2に示すように保持器14が更に変形するとともに、円すいころ13が下方向に移動して、内輪12の大鍔面16aから離間した円すいころ13の大径側端面13bが、内輪12の大鍔面16aに当接する。この加締めの第2段階では、円すいころ13が、保持器14の柱部14cを支持するため、加締めによる保持器14の形状崩れを抑制することができる。
【0028】
上記のように、
図1の加締めの第1段階では、内輪支持面30と、保持器14の端部14eとの間に、円環状のバックアップリング40が介在するとともに、円すいころ13の大径側端面13bが、内輪12の大鍔面16aから、隙間Gだけ離間している。このため、加締め時の力の少なくとも一部は、バックアップリング40を介して内輪支持面30へと伝達される。すなわち、加締めの第1段階時の力の伝達経路として、加締め治具20、保持器14、円すいころ13、バックアップリング40、そして内輪支持面30の順となる伝達経路が形成される。
【0029】
よって、円すいころ13による、円すいころ13の大径側端面13bと、内輪12の大鍔面16aとの接触部を支点とする回転が抑制され、円すいころ13の大径側端面13bと、内輪12の大鍔面16aとの間の面圧が低下し、円すいころ13の大径側端面13bに圧痕が発生するのを抑制することができる。また、バックアップリング40を円すいころ13の大径側端面13bに接触させないので、円すいころ軸受の種類に対してバックアップリング40の種類を少なく、比較的コストが掛からない様にすることが出来、円すいころ13の大径側端面13bに傷をつき難くすることが出来る。
【0030】
さらに、
図2の加締めの第2段階では、保持器14が更に変形するとともに円すいころ13が下方向に移動して、円すいころ13の大径側端面13bが、内輪12の大鍔面16aから離間した状態から大鍔面16aに当接する。よって、内輪支持面30に支持された内輪12が、保持器14の柱部14cを支持するため、加締めによる保持器14の形状崩れを抑制することができる。
【0031】
なお、第1段階における隙間Gは第2段階で消失する必要がある。第1段階の初めで隙間Gが大きすぎると、第2段階に移行するまでに保持器14の形状が崩れるおそれがある。一方、第1段階の初めで隙間Gが小さすぎると、保持器14を少し変形しただけで第2段階に移行してしまい、その後の加締めによっても保持器14を十分変形させることが困難となり、加締めが不十分となるおそれがある。したがって、隙間Gの大きさは適切に設定する必要があるが、バックアップリング40の高さや保持器14のポケットの大径側の端部の位置を調節することにより、隙間Gの大きさは適宜設定することができ、適切な隙間Gの大きさを得ることができる。
【0032】
バックアップリング40の材質については、上記した作用効果を得ることができるものであれば特に制限されないが、例えば、鉄をはじめとする金属や、樹脂などを用いることができる。
【0033】
なお、本発明は、上記各実施形態に例示したものに限定されるものではなく、適宜変更、改良等が可能である。例えば第1段階の初めの状態で、内輪12の大鍔部16側の端面16bが、内輪支持面30から離間した状態でも良いし、接触した状態でも良い。
【符号の説明】
【0034】
10 円すいころ軸受
11 外輪
11a 外輪軌道面
12 内輪
12a 内輪軌道面
13 円すいころ
13a 小径側端面
13b 大径側端面
14 保持器
14a 小径側円環部
14b 大径側円環部
14c 柱部
14d ポケット部
14e 端部
15 小鍔部
15a 小鍔面
16 大鍔部
16a 大鍔面
16b 端面
20 加締め治具
20a 加締め部
20b 逃げ
30 内輪支持面
40 バックアップリング
40a 上面
G 隙間