(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179088
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】対話ツールを用いた思考認知支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20120101AFI20221125BHJP
【FI】
G06Q10/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086338
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】522237416
【氏名又は名称】株式会社問道社
(74)【代理人】
【識別番号】110000073
【氏名又は名称】特許業務法人プロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100167070
【弁理士】
【氏名又は名称】狹武 哲詩
(74)【代理人】
【識別番号】100108051
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 生央
(72)【発明者】
【氏名】金田 喜人
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ユーザに対する問いを定式化するとともに、所与の概念項目のみならず、ユーザ自身が過去に入力した概念項目を用いることにより、ユーザに主体的・内省的に思考・発想を深めることを促すよう、主体的に自己の思考を認知するよう支援する対話ツールを用いた思考認知支援システムを提供する。
【解決手段】1台以上のユーザ端末と、ユーザ端末に各種機能を提供するサーバとから構成される対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて、サーバは、記憶手段として、ユーザ情報データベース、DSLスクリプトデータベース、対話ログデータベースを有し、情報処理手段として、ユーザ情報管理部、対話処理部、DSL処理部、解析部、解析結果出力部、通信処理部を有している。ユーザ個人情報データベースは、ユーザ識別情報、属性情報、システム利用履歴などを保持している。DSLスクリプトデータベースは、各種のDSLスクリプトを保持している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムとユーザの間で行われる一問一答形式の対話構造をスクリプト化して記憶する対話構造スクリプト記憶部と、
前記対話構造スクリプト記憶部に記憶された対話構造スクリプトに基づき、ユーザ端末からの入力文に対する応答文を生成する対話構造処理部と、
ユーザ端末からの入力文を受け付け、当該入力文に対し前記対話構造処理部が生成する応答文を出力することにより、システムとユーザの間での一問一答形式の対話機能を実現する対話処理部と、
システムとユーザの間で行われる一問一答形式の対話ログを記憶する対話ログ記憶部と有しており、
前記対話構造スクリプトは、以前のユーザによる入力文を取り込んでユーザに質問をする形式の応答文を規定したものであることを特徴とする思考認知支援システム。
【請求項2】
前記対話構造スクリプトは、ユーザによる直前の入力文を取り込んでユーザに質問をする垂直方向の問い形式の応答文を規定したものであることを特徴とする請求項1に記載の思考認知支援システム。
【請求項3】
前記対話構造スクリプトは、同一の応答文を複数回繰り返してユーザに質問をする水平方向の問い形式の応答文を規定したものであることを特徴とする請求項1に記載の思考認知支援システム。
【請求項4】
前記対話構造スクリプトは、ユーザによる直前の入力文を取り込んでユーザに質問をする垂直方向の問い形式の応答文1つの後に、同一の応答文を複数回繰り返してユーザに質問をする水平方向の問い形式の応答文1つ以上を組み合わせた一連の対話構造を規定したものであることを特徴とする請求項1に記載の思考認知支援システム。
【請求項5】
前記対話ログ記憶部に記憶された対話ログを解析し、その解析結果をユーザ端末に対し出力する解析結果出力部をさらに有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の思考認知支援システム。
【請求項6】
前記解析結果出力部は、対話ログの解析結果として、当該対話ログをツリー構造又は階層構造の形式で出力することを特徴とする請求項5に記載の思考認知支援システム。
【請求項7】
前記対話処理部は、ユーザによる対話入力の拒否を受け付け又は対話入力の遅滞を判定した場合、当該対話入力待ちをスキップし、
前記対話構造処理部は、次の応答文を生成することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の思考認知支援システム。
【請求項8】
前記対話構造処理部は、前記対話入力待ちスキップの場合、以前と同一の応答文を再度生成する請求項7に記載の思考認知支援システム。
【請求項9】
前記対話処理部は、ユーザによる対話入力について、応答時間、応答率、声量のうち少なくとも1つを測定しており、
前記解析結果出力部は、当該測定結果に基づいて対話ログを解析することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の思考認知支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャットソフトウェア等の対話ツールを用いた思考認知支援システムに関し、特に、対話ツールによる対話を通じてユーザが主体的に自己の思考を認知するよう支援するシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータソフトウェアを用いて人の思考を支援することを目的として、様々なシステムが開発されている。例えば、システムとユーザとの間で質問やキーワードのやり取りを繰り返し、その過程や結果を可視化することにより、ユーザに思考・発想を促したり、問題解決のヒントを与える手法を採用したものがある。
特許文献1には、「問題状況解決手法、及び問題状況解決システム」が開示されている。
あるテーマに関連する複数の目的項目を表示し、一つの目的が他の目的の手段となる関係を特定し、その上位下位階層構造を繰り返し解析することで、当該テーマに関連する複数の目的の連鎖図を作成して表示することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-27576号公報
【特許文献2】特開2010-92260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に提案された方法では、テーマ項目に対する目的項目は予め決められたものであり、ユーザの自由な発想を受け入れるものではない。また、それら目的項目間の目的-手段の関連付けといった枠組みを超える思考をユーザに促すものではない。つまり、ユーザは、与えられた概念項目について思考・発想を深めることはできても、その範疇を超えたことまで思考・発想できるものではない。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、チャットソフトウェア等の対話ツールを用いた対話を通じて、ユーザが、所与の思考枠組に捉われることなく主体的に自己の思考を認知するよう支援するシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記解決課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者は、ユーザに対する問いを定式化するとともに、その定式を構成する要素として所与の概念項目のみならず、ユーザ自身が過去に入力した概念項目をも用いることにより、ユーザに主体的・内省的に思考・発想を深めることを促すことができることに想到し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、システムとユーザの間で行われる一問一答形式の対話構造をスクリプト化して記憶する対話構造スクリプト記憶部と、前記対話構造スクリプト記憶部に記憶された対話構造スクリプトに基づき、ユーザ端末からの入力文に対する応答文を生成する対話構造処理部と、ユーザ端末からの入力文を受け付け、当該入力文に対し前記対話構造処理部が生成する応答文を出力することにより、システムとユーザの間での一問一答形式の対話機能を実現する対話処理部と、システムとユーザの間で行われる一問一答形式の対話ログを記憶する対話ログ記憶部と有しており、前記対話構造スクリプトは、以前のユーザによる入力文を取り込んでユーザに質問をする形式の応答文を規定したものであることを特徴とする思考認知支援システムを提供するものである。
【0008】
本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて、前記対話構造スクリプトは、ユーザによる直前の入力文を取り込んでユーザに質問をする垂直方向の問い形式の応答文を規定したものであることを特徴とする。
本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて、前記対話構造スクリプトは、同一の応答文を複数回繰り返してユーザに質問をする水平方向の問い形式の応答文を規定したものであることを特徴とする。
本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて、前記対話構造スクリプトは、ユーザによる直前の入力文を取り込んでユーザに質問をする垂直方向の問い形式の応答文1つの後に、同一の応答文を複数回繰り返してユーザに質問をする水平方向の問い形式の応答文1つ以上を組み合わせた一連の対話構造を規定したものであることを特徴とする。
本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて、前記対話ログ記憶部に記憶された対話ログを解析し、その解析結果をユーザ端末に対し出力する解析結果出力部をさらに有することを特徴とする。
本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて、前記解析結果出力部は、対話ログの解析結果として、当該対話ログをツリー構造又は階層構造の形式で出力することを特徴とする。
本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて、前記対話処理部は、ユーザによる対話入力の拒否を受け付け又は対話入力の遅滞を判定した場合、当該対話入力待ちをスキップし、前記対話構造処理部は、次の応答文を生成することを特徴とする。
本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて、前記対話構造処理部は、前記対話入力待ちスキップの場合、以前と同一の応答文を再度生成する。
本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて、前記対話処理部は、ユーザによる対話入力について、応答時間、応答率、声量のうち少なくとも1つを測定しており、前記解析結果出力部は、当該測定結果に基づいて対話ログを解析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上、説明したように、本発明よれば、チャットソフトウェア等の対話ツールを用いた、ユーザに対する問いを定式化するとともに、その定式を構成する要素として所与の概念項目のみならず、ユーザ自身が過去に入力した概念項目をも用いることにより、ユーザに主体的・内省的に思考・発想を深めることを促すことができる思考認知支援システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる対話ツールを用いた思考認知支援システムの全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる対話ツールを用いた思考認知支援システムにおけるサーバの内部構成を概略的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいてユーザと本システムとの間で行われる対話の例を示すチャット画面形式の模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかる対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいてユーザと本システムとの間で行われる対話の例を示すチャット画面形式の模式図である。
【
図5】
図3及び
図4に示す対話の構造を記述したDSLスクリプトを例示する図である。
【
図6】
図3及び
図4に示す対話の構造を記述したDSLスクリプトの構造を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態にかかる対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいてユーザと本システムとの間で行われる対話の例を示すチャット画面形式の模式図である。
【
図8】本発明の一実施形態にかかる対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて利用可能な他の対話の構造の例を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態にかかる対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて利用可能な他の対話の構造の例を示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態にかかる対話ツールを用いた思考認知支援システムにおいて利用可能なさらに他の対話の構造の例を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態にかかる対話ツールにおいて、ユーザとの対話を実行する際の処理手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムを実施するための最良の形態を詳細に説明する。
【0012】
システム全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる対話ツールを用いた思考認知支援システムの全体構成を概略的に示す図である。
本システムは、1台以上のユーザ端末と、ユーザ端末に各種機能を提供するサーバとから構成される。ユーザ端末は、サーバと通信可能なスマートフォンやPC端末などである。
ユーザ端末は、本システムを利用して対話を行うためのチャット機能を有している。チャット機能は、一般的に利用されているアプリケーションソフトウェア(LINE、slack、WhatsApp等)をインストールすることで実現してもよいし、本システム専用のアプリケーションソフトウェアをユーザ端末に導入して利用する形態としてもよい。
【0013】
図2は、本システムにおけるサーバの内部構成を概略的に示す図である。
管理サーバは、
記憶手段として、ユーザ情報データベース、DSLスクリプトデータベース、対話ログデータベースを有し、
情報処理手段として、ユーザ情報管理部、対話処理部、DSL処理部、解析部、解析結果出力部、通信処理部を有している。
【0014】
ユーザ個人情報データベースは、ユーザ識別情報、属性情報、システム利用履歴などを保持している。
DSLスクリプトデータベースは、各種のDSLスクリプトを保持している。
ここで、DSL(Dialogue Scripting Language)とは、対話の構造を記述する言語であり、思考記述言語とも呼ばれるものである。本システムでは、ユーザが主体的・内省的に思考・発想を深めるような各種の対話構造のスクリプトを用意している。詳細は、後述する。
対話ログデータベースは、ユーザと本システムとの間で行われた対話を、ユーザ識別情報と関連付けて、一時的又は長期的に保持している。
【0015】
ユーザ情報管理部は、ユーザ情報データベースの記憶情報の編集管理を行う。
対話処理部は、ユーザが、ユーザ端末のチャット機能を利用して、本システムと対話を行う際の情報処理を行う。
DSL処理部は、ユーザとの対話において、DSLスクリプトデータベースに保持されているDSLスクリプトを適用し、 主にユーザからの発言入力に対する返答を生成し出力する。その他、ユーザとの対話を成立させ又は円滑にする処理を行う(詳細は後述)。
解析部は、対話ログデータベースに保持された対話を様々な手法で解析する。
解析結果出力部は、解析部による解析結果を様々なプレゼンテーション形式でユーザ端末に出力する。
【0016】
思考認知支援の仕組み
本システムにおける、ユーザが主体的・内省的に思考・発想を深めるような対話を提供する仕組みについて説明する。
上述したように、本システムでは、対話の構造を記述した各種のDSLスクリプトを利用する。
図3及び
図4は、本システムにおいてユーザと本システムとの間で行われる対話の例を示すチャット画面形式の模式図である。
図3の例では、まず、システムからの問いかけに対しユーザが答える形で主題(テーマ)が設定され、その主題に関する質問を端緒として、システム側が質問しユーザ側が回答する一問一答形式の対話が展開する。システムによる質問文は直前のユーザの回答を含んでいる。この対話構造により、ユーザは、機械的・自動的に生成された質問に対する回答を継続する過程において、自己の思考・発想を発見・認識・熟考することができる。
図4の例では、まず、システムが主題(テーマ)を提示し(この主題はユーザが事前に選択したものであってもよい)、その主題に関するユーザの回答を端緒として、システム側が質問しユーザ側が回答する一問一答形式の対話が展開する。システムによる質問文は直前のユーザの回答を含んでいる。この対話構造により、ユーザは、機械的・自動的に生成された質問に対する回答を継続する過程において、自己の思考・発想を発見・認識・熟考することができる。また、対話のログを出力しておき、時間を置いて振り返ることや、同一の主題で再度対話を行うことにより、より深い思考認知が可能となる。
【0017】
図5は、
図3及び
図4に示す対話の構造を記述したDSLスクリプトを例示する図である。
このように、システムからの問いかけ文は定式化されており、ユーザによる直前の回答をそのまま利用して次の質問文を生成するようになっている。その質問文に対する回答を利用してさらに質問文を生成する、という形式で対話を展開する。
図6は、
図3及び
図4に示す対話の構造を記述したDSLスクリプトの構造を模式的に示す図である。
図中、主題、回答1,2,3・・・の文言のみがユーザによるインプット情報であり、対話の流れや質問文の構造と質問文の文言は予めDSLスクリプトで記述されたものである。このDSLスクリプトは、言語の種類に依らず適用可能である。
【0018】
図7は、本システムにおいてユーザと本システムとの間で行われる対話のさらに別の例を示すチャット画面形式の模式図である。
図7に示すように、対話の最中にユーザが不規則な反応をすることがある。具体的には、ユーザが回答を拒否(パス)する、一定時間以上沈黙する、対話の終了を申し出るなどである。ユーザが回答を拒否又は一定時間以上沈黙した場合には、図示するように、従前の質問文を繰り返し問うことで、対話を継続させることが可能である。後述する例のように、対話が一直線型ではなく、ツリー型である場合には、他のツリーに移行することもできる。
ユーザが対話の終了を申し出た場合は、その場で対話処理を終了する。なお、対話の終了は、ユーザの希望によるほか、予めシステム又はユーザが設定した質問応答回数や、対話時間を超過したことを条件とすることができる。
【0019】
図8及び
図9は、本システムにおいて利用可能な他の対話の構造の例を示す図である。
この例では、
図4及び
図5に示した質問文の構造及び文言をベースとして、システム側が毎回の質問時にユーザに3つの回答を求める形となっている。
この対話の構造は、
図8に示すように、最初に設定した主題をルートとするツリー構造として把握される。また、
図9に示すように、各々の質問と回答は、階層構造としてタグ付けすることができる。
このように、1つの主題や質問に対し複数の回答をすることで、ユーザはより網羅的に自己の思考・発想を発見・認識・熟考することができる。
【0020】
思考認知支援の仕組み-垂直方向の問いと水平方向の問いの併用
上記の
図3~
図7に示したのは、主題について毎回1つの回答を求め、その回答に基づきさらに問いを発する形式(何故か?を掘り下げる等)の、言わば垂直方向の問いによる思考認知支援の例である。一方、上記の
図8,
図9に示したのは、主題について複数の回答を求める形式(同じ問いに対しての並列の回答を列挙させる等)の、垂直方向の問いに言わば水平方向の問いを加えた形での思考認知支援の例である。
垂直方向の問いは、思考の深掘りを促す一方で、ユーザにストレスを与えるものである。これは、再帰的な問い詰めにより、常に回答に内在する曖昧さ、不確かさ、表現の不十分さ等が浮き彫りになるからと考えられる。一方で、水平方向の問いは、回答を相対化し俯瞰することを可能にする。また、回答の多様性やあいまいさを許容しやすい問いの形式と言える。
【0021】
そこで、垂直方向の問いの間に水平方向の問いを挟むことで、思考の深掘りによるストレスを緩和し、ある程度の曖昧さ、不確かさ、表現の不十分さ等を許容しつつ、俯瞰的な思考を促し、結果として効果の高い思考認知支援が可能となるものと考えられる。経験的に、1回の垂直方向の問いの間に2~3回の水平方向の問いを挟むのが好ましい。水平方向の問いがこれより少なければ、垂直方向の問いの間のインターバルが短すぎてストレスが緩和しきれず、水平方向の問いがこれより多ければ、垂直方向の問いを続行するための記憶力や集中力が損なわれるためである。
図10は、このように垂直方向の問いと水平方向の問いを併用する対話の構造の例を示す図である。
【0022】
処理の流れ
図11は、本システムにおいて、ユーザとの対話を実行する際の処理手順を示すフロー図である。
図11において、まず、ユーザがユーザ端末を操作して、ログイン等の必要な手続を経て、対話を開始する。システムは、ユーザにテーマを選択させる。このテーマは、ユーザが自発的に任意に選択したものでもよいし、システムから与えられた選択肢から選択したものでもよいし、システム所与のものでもよい。
本システムは、選択されたテーマについて、上述したいずれかの思考認知支援の仕組みに従い、ユーザに質問をし、ユーザからの回答を得る。この質問と回答を所定の終了条件に達するまで実行する。
終了条件は、所定質問数に達した、所定時間が経過した、ユーザが終了を希望した、ユーザが有意な回答をしなくなったなどである。
対話の終了後、対話ログの解析を行い、その解析結果をユーザに提示する。この解析機能については、詳細を後述する、尚、ユーザが解析を望まない場合は、対話の終了後、全処理を終了する。
【0023】
解析機能
本システムでは、終了した対話について解析を行う。例えば、
図8に示すような対話のツリー構造を明らかにしたり、
図9に示すような対話の階層構造を明らかにしたりすることが可能である。あるいは、主題、質問毎のユーザの反応(応答時間、応答率、声量などのほか、一連の対話の中での応答の相対速度(応答時間の総時間に締める割合)、同一ユーザの過去の平均的な応答時間に対する比率、文字数、発話時間、含まれる画像・絵文字・スタンプ等の非言語要素)に基づいた解析を行うことも可能である。
この解析結果を様々なプレゼンテーション形式でユーザ端末に出力する。例えば、対話のログをツリー構造や階層構造など構造化して表示したものや、チャットログとして表示したものを出力することができる。
また、同一ユーザが同一の主題で複数回対話を行ったログが存在する場合は、それらを比較可能な表現形式で出力することができる。例えば、特定の単語の出現頻度、関連語の出現頻度、任意のユーザ集合との相関・差異といった観点から解析した結果を出力することもできる。
プレゼンテーション形式としては、例えば、
思考のプロセスをアニメーション動画形式で表示するプレゼンテーション
一つのテーマに対する複数ユーザアイデアをまとめて構造化したプレゼンテーション
複数の言語で行われた対話を任意の言語に翻訳したプレゼンテーション
ログの語句を用いた組み合わせ検索をWeb検索エンジンと連携して行うことで、必要な知識にフォーカスした検索結果を表示するプレゼンテーション
ログの語句を画像や色彩要素、音声等に変換し画像、音声、動画などに編集して表示するプレゼンテーション
などが考えられる。
【0024】
本システムにおける必須の構成要件ではないが、ユーザが入力した回答文に対して自然言語処理による不自然さの排除を行うことで、より自然な対話のやり取りを実現することができる。しかし、本発明の目的は、自然な対話のやり取りをすることではなく、対話によりユーザが主体的・内省的に思考・発想を深めるよう促すことであり、文章の自然さの度合いによってその効果が影響されることはない。
【0025】
例えば、チャットにおけるシステムとの一連の対話をしりとりやキャッチボールのように複数のユーザを巡回する形式で行うことで多様性のある発想を産むことができる。あるいは、特定のテーマに関して、対話結果がユニークなものであるかを判定し、ユニークな状態になるまで掘り下げることができる。
【0026】
以上、本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムについて、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上記各実施形態におけるデータベースやソフトウェア処理部の構成及び機能に様々な変更・改良を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の対話ツールを用いた思考認知支援システムは、
図1,2に示すように、コンピュータのCPU、メモリ、補助記憶装置、ディスプレイ、入力デバイス等を含むハードウェア資源上に構築されたOS、アプリケーション、データベース、ネットワークシステム等によって実現されるものであり、チャットソフトウェア等の対話ツールを用いた対話を通じた思考認知支援という情報処理が上記のハードウェア資源を用いて具体的に実現されるものであるから、自然法則を利用した技術的思想に該当するものであり、コンピュータソフトウェア産業において利用することができるものである。