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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179145
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】船舶推進制御システム及び船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/21 20060101AFI20221125BHJP
   B63H 20/00 20060101ALI20221125BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20221125BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20221125BHJP
   B63H 23/30 20060101ALI20221125BHJP
   G05D 1/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B63H21/21
B63H20/00 803
B63B79/40
B63H25/42 G
B63H23/30
G05D1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086424
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 祐次
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA03
5H301AA10
5H301JJ00
5H301JJ06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】船舶が目標位置を通り過ぎるのを抑制する。
【解決手段】船舶の船舶推進制御システム15は複数の船外機12を制御するBCU16を備え、各船外機12は、エンジン13と、該エンジン13の駆動力に基づいて推力を発生するプロペラ14とを有し、BCU16は、予め設定された航路に追従して船舶を航行させるように船舶の動きを制御し、予め設定された航路には、船舶を停船させる目標位置が設定され、BCU16は、減速開始位置に船舶が到達すると、各船外機12のエンジン13をアイドル状態に移行させ、さらに、BCU16は、船舶が目標位置に到達する前に、目標位置までの残距離が船速に応じて設定される停船必要距離以下となった場合、一部の船外機12をシフトアウトする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の動きと、前記船舶へ推力を付与する複数の推進機を制御する制御部を備える船舶推進制御システムであって、
各前記推進機は、動力源と、該動力源の駆動力に基づいて前記推力を発生する推力発生器とを有し、
前記制御部は、予め設定された航路に追従して前記船舶を航行させるように前記船舶の動きを制御し、
前記予め設定された航路には、前記船舶を停船させる目標位置が設定され、
前記制御部は、前記目標位置から減速必要距離だけ離れた減速開始位置に前記船舶が到達すると、各前記推進機の動力源の駆動力を低減し、
さらに、前記制御部は、各前記推進機の動力源の駆動力を低減した後、所定の条件に応じて、少なくとも1つの前記推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を遮断する、船舶推進制御システム。
【請求項2】
前記所定の条件は、前記目標位置までの距離が、前記船舶を前記目標位置で停船させるための減速に必要な距離以下である、請求項1に記載の船舶推進制御システム。
【請求項3】
前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達が遮断される前記推進機の数は、前記船舶の船体の大きさ及び前記船舶が備える前記推進機の数の少なくとも1つに応じて変更される、請求項1又は2に記載の船舶推進制御システム。
【請求項4】
前記減速必要距離は、前記予め設定された航路に沿う距離である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記目標位置の手前のシフトアウト位置に前記船舶が到達すると、全ての前記推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を遮断し、
前記目標位置から前記シフトアウト位置までの距離は前記減速必要距離よりも短い、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項6】
前記制御部は、全ての前記推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を遮断した後、乗船者に対して前記船舶の定点保持制御を開始するための操作を促進する、請求項5に記載の船舶推進制御システム。
【請求項7】
前記船舶を前記目標位置で停船させるための減速に必要な距離は、前記船舶の船速に応じて変更される、請求項2に記載の船舶推進制御システム。
【請求項8】
各前記推進機の動力源の駆動力が低減された後に前記推進機に対する操作が乗船者によって行われた場合、前記制御部は、前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達が遮断された推進機以外の前記推進機の前記動力源の駆動力を前記操作に応じて変更する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項9】
前記制御部は、前記所定の条件に応じて、少なくとも1つの前記推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を遮断した結果、全ての前記推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達が遮断されることになる場合、前記少なくとも1つの推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を遮断しない、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項10】
前記制御部は、各前記推進機の動力源の駆動力を低減した後、前記所定の条件に応じて、少なくとも1つの前記推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達の遮断と回復を繰り返す、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項11】
船舶の動きと、前記船舶へ推力を付与する1つの推進機を制御する制御部を備える船舶推進制御システムであって、
前記1つの推進機は、動力源と、該動力源の駆動力に基づいて前記推力を発生する推力発生器とを有し、
前記制御部は、予め設定された航路に追従して前記船舶を航行させるように前記船舶の動きを制御し、
前記予め設定された航路には、前記船舶を停船させる目標位置が設定され、
前記制御部は、前記目標位置から減速必要距離だけ離れた減速開始位置に前記船舶が到達すると、前記1つの推進機の動力源の駆動力を低減し、
さらに、前記制御部は、前記1つの推進機の動力源の駆動力を低減した後、所定の条件に応じて、前記1つの推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達の遮断と回復を繰り返す、船舶推進制御システム。
【請求項12】
前記所定の条件は、前記目標位置までの距離が、前記船舶を前記目標位置で停船させるための減速に必要な距離以下である、請求項11に記載の船舶推進制御システム。
【請求項13】
前記減速必要距離は、前記予め設定された航路に沿う距離である、請求項11又は12に記載の船舶推進制御システム。
【請求項14】
前記制御部は、前記目標位置の手前のシフトアウト位置に前記船舶が到達すると、前記1つの推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を遮断し、
前記目標位置から前記シフトアウト位置までの距離は前記減速必要距離よりも短い、請求項11乃至13のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項15】
前記制御部は、前記1つの推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を遮断した後、乗船者に対して前記船舶の定点保持制御を開始するための操作を促進する、請求項14に記載の船舶推進制御システム。
【請求項16】
前記船舶を前記目標位置で停船させるための減速に必要な距離は、前記船舶の船速に応じて変更される、請求項12に記載の船舶推進制御システム。
【請求項17】
前記1つの推進機の動力源の駆動力が低減された後に前記1つの推進機に対する操作が乗船者によって行われた場合、前記制御部は、前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を回復し、前記動力源の駆動力を前記操作に応じて変更する、請求項11乃至16のいずれか1項に記載の船舶推進制御システム。
【請求項18】
船舶の動きと、前記船舶へ推力を付与する複数の推進機を制御する制御部を備える船舶であって、
各前記推進機は、動力源と、該動力源の駆動力に基づいて前記推力を発生する推力発生器とを有し、
前記制御部は、予め設定された航路に追従して前記船舶を航行させるように前記船舶の動きを制御し、
前記予め設定された航路には、前記船舶を停船させる目標位置が設定され、
前記制御部は、前記目標位置から減速必要距離だけ離れた減速開始位置に前記船舶が到達すると、各前記推進機の動力源の駆動力を低減し、
さらに、前記制御部は、各前記推進機の動力源の駆動力を低減した後、所定の条件に応じて、少なくとも1つの前記推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を遮断する、船舶。
【請求項19】
船舶の動きと、前記船舶へ推力を付与する1つの推進機を制御する制御部を備える船舶であって、
前記1つの推進機は、動力源と、該動力源の駆動力に基づいて前記推力を発生する推力発生器とを有し、
前記制御部は、予め設定された航路に追従して前記船舶を航行させるように前記船舶の動きを制御し、
前記予め設定された航路には、前記船舶を停船させる目標位置が設定され、
前記制御部は、前記目標位置から減速必要距離だけ離れた減速開始位置に前記船舶が到達すると、前記1つの推進機の動力源の駆動力を低減し、
さらに、前記制御部は、前記1つの推進機の動力源の駆動力を低減した後、所定の条件に応じて、前記1つの推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達の遮断と回復を繰り返す、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶推進制御システム及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
発動機の推力と舵を統合的に制御して船舶を目標位置の近傍に留める定点保持制御を実行する船舶が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ユーザが設定した航路をトレースするように船舶を航行させる自動操舵モードであるトラックポイントを実行する船舶も知られており、トラックポイントでは、船舶を停船させる目標位置も設定することができる。そして、目標位置において、船舶は定点保持制御に移行する。
【0003】
ところで、トラックポイントでは、目標位置で船舶を停船させるため、船舶から目標位置までの距離が予め設定された距離を下回ると、スロットルを絞ってエンジンをアイドル状態へ移行させることにより、推力を低下させて船舶を減速させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-243590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、このような船舶推進制御システムを搭載する船舶は、比較的大型のクルーザーが多く、比較的大型のクルーザーは多数の船外機を有するため、各船外機のエンジンをアイドル状態へ移行させても一定量の合計推力が船体に作用し続ける。また、船体も大型であるため、船体の慣性力も大きい。したがって、各船外機のエンジンをアイドル状態へ移行させても船舶は十分に減速できずに目標位置を通り過ぎてしまうことがあり、船舶の推進制御の実現の観点からは改善の余地がある。
【0006】
本発明は、船舶が目標位置を通り過ぎるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様による船舶推進制御システムは、船舶の動きと、前記船舶へ推力を付与する複数の推進機を制御する制御部を備え、各前記推進機は、動力源と、該動力源の駆動力に基づいて前記推力を発生する推力発生器とを有し、前記制御部は、予め設定された航路に追従して前記船舶を航行させるように前記船舶の動きを制御し、前記予め設定された航路には、前記船舶を停船させる目標位置が設定され、前記制御部は、前記目標位置から減速必要距離だけ離れた減速開始位置に前記船舶が到達すると、各前記推進機の動力源の駆動力を低減し、さらに、前記制御部は、各前記推進機の動力源の駆動力を低減した後、所定の条件に応じて、少なくとも1つの前記推進機において前記動力源から前記推力発生器への前記駆動力の伝達を遮断する。
【0008】
この構成によれば、推進機の動力源の駆動力が低減された後も、所定の条件に応じて、少なくとも1つの推進機において動力源から推力発生器への駆動力の伝達が遮断されるため、十分な減速を行うことができ、もって、船舶が目標位置を通り過ぎるのを抑制する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、船舶が目標位置を通り過ぎるのを抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る船舶推進制御システムが搭載される船舶を模式的に示す平面図である。
図2図1の船舶が搭載する船舶推進制御システムの構成を概略的に説明するためのブロック図である。
図3図2におけるリモコンとジョイスティックの構成を概略的に示す外観図である。
図4図2におけるMFDの機能を説明するための図である。
図5】トラックポイントにおける従来の減速制御を模式的に説明するための図である。
図6】トラックポイントにおいて船舶が従う航路を模式的に説明するための図である。
図7A】第1の実施の形態における減速制御処理を示すフローチャートである。
図7B】第1の実施の形態における減速制御処理を示すフローチャートである。
図8】第1の実施の形態における減速制御を模式的に説明するための図である。
図9】本発明の第2の実施の形態に係る船舶推進制御システムが搭載される船舶を模式的に示す平面図である。
図10A】第1の実施の形態における減速制御処理を示すフローチャートである。
図10B】第1の実施の形態における減速制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る船舶推進制御システムが搭載される船舶を模式的に示す平面図である。図1において、船舶10は、例えば、滑走艇であり、船体11と5つの船外機12(推進機)を備える。各船外機12は船体11の船尾に取り付けられている。船外機12は、エンジン13(動力源)とプロペラ14(推力発生器)を有する。船外機12は、エンジン13の駆動力によって回転されるプロペラ14によって推力を得、当該推力を船舶10へ付与する。なお、船外機12が適用される船舶は、滑走艇に限られず、例えば、排水量型の船舶であってもよい。また、船舶10が備える船外機12の数は5つに限られず、少なくとも2つ以上であればよい。各船外機12はステアリング機構(不図示)によって船体11に対して向きを変更することが可能であり、これにより、各船外機12の推力の作用方向を変更して船舶10の進行方向を変更する。
【0012】
図2は、図1の船舶10が搭載する船舶推進制御システム15の構成を概略的に説明するためのブロック図である。図2では、理解を簡易にするために、敢えて2つの船外機12のみを描画している。
【0013】
図2において、船舶推進制御システム15は、船外機12と、BCU(Boat Control Unit)16(制御部)と、MFD(Multi Function Display)17と、GPS18と、コンパス19と、リモコン20と、ジョイスティック21と、ステアリング22と、操船パネル23と、リモコンECU24と、SW(Switch)25と、を有する。船舶推進制御システム15の各構成要素は互いに通信可能に接続される。
【0014】
GPS18は、船舶10の現在位置を把握し、BCU16へ船舶10の現在位置を送信する。コンパス19は、船舶10の進行方向を把握し、BCU16へ船舶10の進行方向を送信する。MFD17は、船速やエンジン13の回転数を示すディスプレイであり、タッチパネル34を備え、乗船者の指示を受け付ける。受け付けられた指示はBCU16へ送信される。
【0015】
各船外機12は、エンジン13とプロペラ14の他に、ドライブシャフト26とクラッチ機構27を有する。エンジン13はドライブシャフト26とクラッチ機構27を介してプロペラ14へ接続される。クラッチ機構27はエンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達の遮断と回復を制御する。
【0016】
図3は、図2におけるリモコン20とジョイスティック21の構成を概略的に示す外観図である。図3(A)はジョイスティック21を示し、図3(B)はリモコン20を示す。
【0017】
図3(A)において、ジョイスティック21は、基部28と、基部28の頂部に取り付けられたスティック29と、基部28に設けられた複数のボタン30と、を有する。スティック29は基部28に対して首振り自在であり、乗船者が直感的に船舶10の操縦を行えるように、例えば、スティック29を前後に移動させると、ジョイスティック21は船舶10を前後に移動させるための信号を発し、スティック29を左右に移動させると、ジョイスティック21は船舶10を左右に移動させるための信号を発する。また、スティック29を旋回させると、ジョイスティック21は船舶10を旋回させるための信号を発する。ジョイスティック21からの信号は各リモコンECU24やBCU16へ向けて送信される。
【0018】
また、各ボタン30には各種操船モードの開始・終了の指示が割り当てられ、当該ボタン30の押し下げに応じて、ジョイスティック21は、該当する操船モードの開始又は終了の指示信号を各リモコンECU24やBCU16へ向けて送信する。各ボタン30に割り当てられる操船モードとしては、例えば、フィッシュポイント、ステイポイント、ドリフトポイント(いずれも登録商標)やトラックポイントが存在する。フィッシュポイントでは、船舶10を目標位置(一定の位置)に留め、且つ船舶10の舳先又は船尾を川の水流や風の流れに対向させるように、各船外機12の推力と推力の作用方向が制御される。ステイポイントでは、船舶10を目標位置に留め、且つ船首方向(舳先の向き)を特定の方向に維持するように、船外機12の推力と推力の作用方向が統合的に制御される。すなわち、フィッシュポイントやステイポイントは、船舶10を目標位置に留め続けるように船舶10の移動を制限する定点保持制御である。ドリフトポイントでは、船首方向を特定の方向に維持するように、船外機12の推力と推力の作用方向が制御される。なお、ドリフトポイントにおいて、船舶10の移動の制限は行われず、船舶10は風や水流によって流されて移動する。トラックポイントでは、MFD17において乗船者が予め入力した経路(航路)に追従して船舶10を航行させるように、船外機12の推力と推力の作用方向が統合的に制御される。
【0019】
図3(B)において、リモコン20は、基部31と、基部31の側方に取り付けられたシフトレバー32と、基部31に設けられた複数のボタン33と、を有する。シフトレバー32は基部31に対して前後に移動可能であり、乗船者がシフトレバー32を前方の前進位置に移動させると、リモコン20は船舶10を船首方向に移動させるための信号を発し、シフトレバー32を後方の後進位置に移動させると、リモコン20は船舶10を船尾方向に移動させるための信号を発する。また、リモコン20は乗船者によるシフトレバー32の操作量に応じて船舶10の船速を調整するための信号を発する。例えば、シフトレバー32の前方への操作量が大きいと、船首方向への船速をより増加させるための信号を発し、シフトレバー32の後方への操作量が大きいと、船尾方向への船速をより増加させるための信号を発する。さらに、乗船者がシフトレバー32を前進位置と後進位置の間の中立(ニュートラル)位置へ移動させると、リモコン20はクラッチ機構27によってエンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達を遮断するための信号を発する。また、後述する減速制御処理では、BCU16によって全ての船外機12のエンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達が遮断された後に、乗船者がシフトレバー32を中立位置へ移動させると、条件に応じて、リモコン20は定点保持制御を開始するための信号を発する。リモコン20からの信号は各リモコンECU24やBCU16へ向けて送信される。
【0020】
また、各ボタン33には、ジョイスティック21のボタン30と同様に、各種操船モードの開始・終了の指示が割り当てられ、当該ボタン33の押し下げに応じて、リモコン20は、該当する操船モードの開始又は終了の指示信号を各リモコンECU24やBCU16へ向けて送信する。
【0021】
図2に戻り、ステアリング22は、乗船者のステアリング操作を受け付け、受け付けられた操作に対応する舵角の信号を各リモコンECU24へ送信する。SW25は、各船外機12の電源オンや始動の指示を受け付け、受け付けられた指示に対応する信号を各リモコンECU24へ送信する。
【0022】
BCU16は、船舶推進制御システム15の各構成要素から送信された信号に基づいて船舶10の状況を把握し、各船外機12が発すべき推力や取るべき推力の作用方向を判断して各リモコンECU24へ送信する。また、BCU16は、トラックポイントを行う際、後述する減速制御を行う。リモコンECU24は、各船外機12に対応して1つずつ設けられ、BCU16、リモコン20やジョイスティック21等から送信された信号に応じて対応する船外機12の推力と推力の作用方向を制御し、さらに、クラッチ機構27によるエンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達の遮断と回復を制御する。
【0023】
図4は、図2におけるMFD17の機能を説明するための図である。上述したように、MFD17はタッチパネル34を有し、該タッチパネル34を介して乗船者の指示を受け付ける。MFD17が受け付ける乗船者の指示は、例えば、フィッシュポイントやステイポイントにおける目標位置の設定、並びに、トラックポイントにおいて船舶10が追従する航路の設定が該当する。タッチパネル34は海図を表示し、乗船者は海図上の所望のポイントを指やスタイラス等で直接タッチすることによって目標位置や航路を設定する。なお、乗船者はタッチパネル34に表示されたカーソル(図示しない)をジョイスティック21のスティック29を用いて所望のポイントへ移動させることで目標位置や航路を設定してもよい。
【0024】
例えば、乗船者は、BCU16にトラックポイントを実行させる前に、MFD17のタッチパネル34に表示された海図上の所望のポイントを指等でタッチすることにより、図に示すように、現在位置Aからの目的地である目標位置Dや途中で経由すべき経由位置B,Cを設定する。経由位置B,Cや目標位置Dが設定されると、現在位置Aから経由位置B,Cを経由して目標位置Dへ到る航路35が設定される。これにより、乗船者はタッチパネル34を用いて直感的に航路35を設定することができる。
【0025】
なお、図示された経由位置B,Cや目標位置D、並びに航路35は一例であり、乗船者は、タッチパネル34を指等で直接タッチすることによって任意の目標位置や経由位置を設定することができる。また、乗船者はタッチパネル34において、例えば、ポップアップメニューを表示させることにより、航路35における移動速度、さらには、目標位置Dにおいてフィッシュポイントやステイポイント等の定点保持制御を実行するか否かや目標位置Dにおいてドリフトポイントを実行するか否かも設定することができる。
【0026】
航路35が設定された後、乗船者によってジョイスティック21のボタン30やリモコン20のボタン33が押し下げられてトラックポイントが実行されると、船舶10は現在位置Aから経由位置B,Cを経て目標位置Dに到達するように航行する。そして、目標位置Dにおいて定点保持制御を実行することが設定されている場合、船舶10は、目標位置Dで停船し、定点保持制御であるフィッシュポイントやステイポイントを実行して目標位置Dに留まる。ここで、船舶10が目標位置Dで停船するためには、船舶10が目標位置Dへ到達する前に減速を開始する必要がある。
【0027】
図5は、トラックポイントにおける従来の減速制御を模式的に説明するための図である。図5の事例では、乗船者によってトラックポイントの実行後、目標位置Dにおいて定点保持制御を実行することが設定されているものとする。また、以後、船外機12のエンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達の遮断を「シフトアウト」という。
【0028】
図5において、減速を開始しないと目標位置Dで停船できない距離である減速必要距離だけ目標位置Dから離れた減速開始位置Eに船舶10が到達すると、BCU16によって各船外機12のエンジン13のスロットルが絞られてアイドル状態へ移行し、各エンジン13が発生する駆動力が低減される。これにより、各船外機12が発生する推力も低下し、船舶10の船速が低下し始める。
【0029】
その後、各船外機12のエンジン13がアイドル状態に維持されたまま、船舶10は低い船速で目標位置Dへと接近する(図中の破線の矢印参照)。そして、目標位置Dの少し手前(例えば、目標位置Dから数m手前)のシフトアウト位置Fに船舶10が到達すると、BCU16は全ての船外機12をシフトアウトさせる。また、このとき、BCU16はMFD17等に乗船者へシフトレバー32の中立位置への移動を促進するマークやアイコンを表示させる。なお、MFD17へのマークやアイコンの表示ではなくブザー等を鳴らすことにより、乗船者へシフトレバー32の中立位置への移動を促進してもよい。これに対応して乗船者がシフトレバー32を中立位置に移動させると、BCU16は定点保持制御を開始する。
【0030】
また、トラックポイントでは、シフトアウト位置Fで全ての船外機12がシフトアウトされても、船舶10は慣性力のみで目標位置Dへ向けて航行する(図中の細破線の矢印参照)。そして、BCU16は、定点保持制御の一環として船舶10の進行方向とは逆方向の推力を各船外機12に発生させて船舶10を目標位置Dで停船させる。
【0031】
船舶10が減速開始位置Eに到達したか否かは、例えば、船舶10から目標位置Dまでの直線距離(図6中の破線の矢印参照)が減速必要距離と等しくなったか否かで判定されるのではなく、船舶10から目標位置Dまでの航路35に沿う距離(図6中の太実線の矢印参照)が減速必要距離と等しくなったか否かで判定される。また、減速必要距離は、船舶10の船速、船舶10が備える船外機12の数や船体11の大きさに応じて異なる。具体的には、船舶10の船速が高く、船舶10が備える船外機12の数が多く、船体11が大きいほど、減速必要距離は長くなる。
【0032】
ところで、船舶10は5つの船外機12を備えるため、各船外機12のエンジン13がアイドル状態に移行して各船外機12が発生する推力が低下しても、各船外機12の推力を合計すると決して低くは無い推力が船体11へ作用し続ける。その結果、船舶10がシフトアウト位置Fに到達したときに、船速が想定した速度よりも高くなっていることがある。したがって、シフトアウト位置Fに船舶10が到達した後に乗船者がシフトレバー32を中立位置へ移動させて定点保持制御が開始されるまでの間に、船舶10が目標位置Dを通り過ぎ、定点保持制御が開始されて各船外機12が逆方向の推力を発生しても、船舶10が目標位置Dに留まれないことがある。また、5つの船外機12を備える船舶10の船体11は大型であるため、そもそも船体11の慣性力が大きい。その結果、船舶10が目標位置Dに到達するまでに定点保持制御が開始されて各船外機12が逆方向の推力を発生しても、船舶10の行き足を止めることができず、船舶10が目標位置Dを通り過ぎてしまい、船舶10が目標位置Dに留まれないことがある。
【0033】
本実施の形態では、これに対応して、船舶10がシフトアウト位置Fへ到達する前に、所定の条件に応じて、全ての船外機12では無く一部の船外機12をシフトアウトさせる。
【0034】
図7A及び図7Bは、本実施の形態における減速制御処理を示すフローチャートであり、図8は、本実施の形態における減速制御を模式的に説明するための図である。本処理は、MFD17において乗船者が航路35を設定した後に実行される。なお、本処理を実行する際にも、乗船者によってトラックポイントの実行後、目標位置Dにおいて定点保持制御を実行することが設定されているものとする。
【0035】
まず、BCU16は、乗船者によってリモコン20のボタン33やジョイスティック21のボタン30が押し下げられると、押し下げられたボタンがトラックポイントの実行に対応するか否かを判定する(ステップS701)。押し下げられたボタンがトラックポイントの実行に対応していない場合は本処理を終了する。一方、押し下げられたボタンがトラックポイントの実行に対応している場合、BCU16は船体11の操船モードをトラックポイントに移行し、船舶10が航路35に追従するように各船外機12の推力と推力の作用方向を制御する。
【0036】
その後、BCU16は、GPS18やコンパス19から船舶10の位置、船速や進行方向の情報を取得し、船舶10が減速開始位置Eに到達したか否かを判定する(ステップS702)。船舶10が減速開始位置Eに到達していない場合はステップS702に戻り、船舶10が減速開始位置Eに到達している場合、各船外機12のエンジン13をアイドル状態に移行させて各船外機12が発生する推力を低下させ、船舶10の減速を開始する(ステップS703)。
【0037】
次いで、BCU16は、リモコン20のシフトレバー32の位置に基づいて各エンジン13のスロットル開度が所定値以下か否かを判定する(ステップS704)。ここでの所定値は、エンジン13がアイドル状態となるスロットル開度よりも多少大きいスロットル開度である。スロットル開度が所定値よりも大きい場合は、乗船者がシフトレバー32を意図的に操作することによって各船外機12のエンジン13がアイドル状態に移行するのを阻止する状態、すなわち、乗船者が減速を望んでいない状態と考えられる。ステップS704の判定の結果、スロットル開度が所定値よりも大きいと、後述するステップS711へ進み、スロットル開度が所定値以下である場合、ステップS705へ進む。
【0038】
次いで、BCU16は、GPS18やコンパス19から目標位置Dまでの距離(以下、「残距離」という。)や船速を取得し(ステップS705)、その後、残距離が停船必要距離以下か否かを判定する(ステップS706)。ここでの停船必要距離とは、シフトアウト位置Fで全ての船外機12をシフトアウトさせたときに船舶10を目標位置Dで停船させることができる程度に、エンジン13がアイドル状態に移行した船舶10を水の抵抗等によって減速させるために必要な距離である。残距離が停船必要距離以下である場合、シフトアウト位置Fに到達するまでに船舶10を十分に減速させることができず、船舶10は目標位置Dを通り過ぎてしまう。
【0039】
なお、停船必要距離はステップS706の判定時の船速に応じて変化する。具体的には、船速が高いほど停船必要距離は長くなる。また、船舶10が備える船外機12の数が多く、船体11が大きいほど、停船必要距離は長くなる。ステップS706の判定の結果、残距離が停船必要距離よりも長い場合、後述するステップS710へ進み、残距離が停船必要距離以下である場合、ステップS707へ進む。
【0040】
ステップS707において、BCU16は、シフトアウトさせることができる船外機12が存在するか否かを判定する。具体的には、未だシフトアウトされていない船外機12がシフトアウトされると、全ての船外機12がシフトアウトされた状態となるか否かを判定する。そして、全ての船外機12がシフトアウトされた状態となる場合、シフトアウトさせることができる船外機12が存在しないと判定する。
【0041】
ステップS707の判定の結果、シフトアウトさせることができる船外機12が存在しないと判定された場合、後述するステップS710へ進み、シフトアウトさせることができる船外機12が存在する場合、ステップS708へ進む。
【0042】
ステップS708において、BCU16は、シフトアウトさせる船外機12を選定する。シフトアウトさせる船外機12の数は、船舶10の船速、船舶10が備える船外機12の数や船体11の大きさに応じて異なる。具体的には、ステップS706の判定時の船舶10の船速が高く、船舶10が備える船外機12の数が多く、船体11が大きいほど、シフトアウトさせる船外機12の数が増える。また、左舷と右舷の推力バランスを考慮してシフトアウトさせる船外機12を選定する。具体的には、船首から船尾にかけて船の重心を通る中心線に関して対称な位置に配置された各船外機12をシフトアウトさせる船外機12として選定する。
【0043】
次いで、BCU16は選定された船外機12をシフトアウトさせる(ステップS709)。図8において、シフトアウトされる船外機12にはハッチングが附される。このとき、船舶10の船速は、全体の推力が減少するために全船外機12のエンジン13をアイドル状態に移行させたときの船速よりも低下する。
【0044】
その後、BCU16はリモコン20のシフトレバー32やジョイスティック21のスティック29が乗船者によって操作されたか否かを判定する(ステップS710)。選定された船外機12がシフトアウトされた後に乗船者がシフトレバー32やスティック29を操作する場合は、例えば、乗船者が航路35に障害物を発見して回避行動を行うために、船舶10を増速し、且つ進行方向を変更する場合と考えられる。
【0045】
ステップS710の判定の結果、シフトレバー32等の操作が行われたと判定すると、BCU16は、シフトアウトされていない船外機12の推力を当該操作に応じて増加させて船舶10を加速する(ステップS711)。その後、ステップS702に戻る。一方、シフトレバー32等の操作が行われていないと判定すると、BCU16は、船舶10がシフトアウト位置Fに到達したか否かを判定する(ステップS712)。船舶10がシフトアウト位置Fに到達していない場合はステップS704に戻り、船舶10がシフトアウト位置Fに到達している場合、全ての船外機12をシフトアウトさせ(ステップS713)、さらに、MFD17等に乗船者へシフトレバー32の中立位置への移動を促進するマークやアイコンを表示させた後、本処理を終了する。
【0046】
本実施の形態によれば、各船外機12が発生する推力が低下された後であって、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、各エンジン13のスロットル開度が所定値以下であり、且つ残距離が停船必要距離以下であるときに、選定された船外機12がシフトアウトされる。これにより、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、船舶10を十分に減速させることができ、もって、船舶10が目標位置Dを通り過ぎるのを抑制する。
【0047】
また、本実施の形態では、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、各エンジン13のスロットル開度が所定値よりも大きい場合は、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、船外機12がシフトアウトされることがない。これにより、乗船者の意図に反して船舶10が減速されるのを避けることができる。
【0048】
また、本実施の形態では、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、未だシフトアウトされていない船外機12がシフトアウトされると全ての船外機12がシフトアウトされた状態となる場合は、未だシフトアウトされていない船外機12をシフトアウトしない。これにより、全ての船外機12が推力を失うことが無いため、乗船者が航路35に障害物を発見して回避行動を行う場合に、船舶10は乗船者の操作に素早く反応することができ、もって、障害物との衝突を避けることができる。
【0049】
さらに、本実施の形態では、左舷と右舷の推力バランスを考慮してシフトアウトさせる船外機12が選定されるため、選定された船外機12をシフトアウトさせた後も左舷と右舷の推力バランスが崩れることがなく、船舶10の進路保持性を毀損することがない。
【0050】
また、本実施の形態では、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、選定された船外機12がシフトアウトされた後も、乗船者はシフトレバー32やスティック29を操作すると、シフトアウトされていない船外機12の推力を当該操作に応じて増加させる。これにより、選定された船外機12がシフトアウトされた後であっても、乗船者は意図的に船舶10を移動させて障害物との衝突を回避することができる。
【0051】
上述した本実施の形態では、各エンジン13のスロットル開度が所定値以下であり、且つ残距離が停船必要距離以下であるときに、選定された船外機12をシフトアウトさせた。しかしながら、各エンジン13のスロットル開度が所定値以下であれば、残距離が停船必要距離より長くても、選定された船外機12をシフトアウトさせてもよい。
【0052】
また、各船外機12が発生する推力が低下された後であって、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、乗船者がリモコン20のシフトレバー32を意図的に中立位置へ移動させると、操船モードとしてのトラックポイントが解除される。トラックポイントが解除された後は、ステップS701に戻り、再度、減速制御処理を実行する。
【0053】
さらに、上述した実施の形態では、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前であって、選定された船外機12がシフトアウトされた後に、乗船者がシフトレバー32やスティック29を操作すると、シフトアウトされていない船外機12の推力が当該操作に応じて増加されたが、選定された船外機12がシフトアウトされる前であっても、乗船者がシフトレバー32やスティック29を操作すると、船外機12の推力が当該操作に応じて増加される。また、船外機12の推力が増加された後は、ステップS701に戻り、再度、減速制御処理を実行する。
【0054】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、その構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであり、船舶10が1つの船外機12しか備えていない点で第1の実施の形態と異なるのみであるため、重複した構成、作用については説明を省略する。
【0055】
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る船舶推進制御システムが搭載される船舶を模式的に示す平面図である。図9において、船舶10は船外機12を1つのみ備える。
【0056】
ところで、上述した第1の実施の形態では、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、船舶10が備える複数の船外機12のうちの一部の船外機12をシフトアウトさせた。しかしながら、船舶10が1つの船外機12しか備えない場合、当該船外機12をシフトアウトさせると、推力を発生する船外機12が存在しなくなり、船舶10へ推力が作用しなくなるため、船舶10は障害物の回避行動を取るのが難しくなる。
【0057】
本実施の形態では、これに対応して、船舶10がシフトアウト位置Fへ到達する前に、所定の条件に応じて、船舶10が備える1つの船外機12のエンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達の遮断と回復を繰り返す(以下、「パターンシフト」という。)。
【0058】
図10A及び図10Bは、本実施の形態における減速制御処理を示すフローチャートである。本処理も、MFD17において乗船者が航路35を設定した後に実行される。なお、第1の実施の形態における減速制御処理の各ステップと同じ処理を行うステップには、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
まず、BCU16は、ステップS701~S703を実行し、船外機12のエンジン13がアイドル状態に移行させて船舶10の減速を開始した後、リモコン20のシフトレバー32の位置に基づいて各エンジン13のスロットル開度が所定値以下か否かを判定する(ステップS1001)。ステップS1001の判定の結果、スロットル開度が所定値よりも大きいと、後述するステップS1005へ進み、スロットル開度が所定値以下である場合、ステップS705へ進む。
【0060】
次いで、BCU16は、ステップS705を実行し、その後、残距離が停船必要距離以下か否かを判定する(ステップS1002)。本実施の形態の停船必要距離とは、シフトアウト位置Fで1つの船外機12をシフトアウトさせたときに船舶10を目標位置Dで停船させることができる程度に、エンジン13がアイドル状態に移行した船舶10を水の抵抗等によって減速させるために必要な距離である。本実施の形態でも、停船必要距離はステップS1002の判定時の船速に応じて変化する。具体的には、船速が高いほど停船必要距離は長くなる。ステップS1002の判定の結果、残距離が停船必要距離よりも長い場合、後述するステップS1004へ進み、残距離が停船必要距離以下である場合、ステップS1003へ進む。
【0061】
次いで、BCU16は船外機12でパターンシフトを実行する(ステップS1003)。パターンシフトが実行されると、船外機12ではアイドル状態に移行したエンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達の遮断と回復が繰り返されるため、ステップS703でエンジン13が単にアイドル状態に移行しただけで、シフトアウトされていない状態よりも、船舶10の船速は低下する。パターンシフトにおいてエンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達が遮断される時間は、船舶10の船速や船体11の大きさに応じて異なる。具体的には、ステップS1002の判定時の船舶10の船速が高く、船体11が大きいほど、エンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達が遮断される時間は長くなる。
【0062】
その後、BCU16はリモコン20のシフトレバー32やジョイスティック21のスティック29が乗船者によって操作されたか否かを判定する(ステップS1004)。シフトレバー32等の操作が行われたと判定すると、BCU16は、パターンシフトを中断してエンジン13の駆動力のプロペラ14への伝達を回復させるとともに、当該操作に応じてエンジン13の駆動力を増加させて船舶10を加速する(ステップS1005)。その後、ステップS702に戻る。一方、シフトレバー32等の操作が行われていないと判定すると、BCU16は、ステップS711,S712を実行し、さらに、MFD17等に乗船者へシフトレバー32の中立位置への移動を促進するマークやアイコンを表示させた後、本処理を終了する。
【0063】
本実施の形態によれば、1つの船外機12が発生する推力が低下された後であって、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、エンジン13のスロットル開度が所定値以下であり、且つ残距離が停船必要距離以下であるときに、船外機12でパターンシフトが実行される。これにより、船舶10がシフトアウト位置Fに到達する前に、船舶10を十分に減速させることができ、もって、船舶10が目標位置Dを通り過ぎるのを抑制する。
【0064】
以上、本発明の好ましい各実施の形態について説明したが、本発明は上述した各実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0065】
例えば、船外機12がエンジンだけでなく発動機としての電気モータも搭載する場合、若しくは電気モータのみを搭載する場合であっても、電気モータがBCU16によって制御されるならば、本発明を適用することができる。さらに、船舶10が船外機12ではなく、船内外機や船内機を備える場合であっても、船内外機や船内機がBCU16によって制御されるならば、本発明を適用することができる。
【0066】
また、BCU16は、船舶10がシフトアウト位置Fに到達した後の乗船者によるシフトレバー32の中立位置への移動に応じて定点保持制御を開始するが、乗船者によるシフトレバー32の操作を待つこと無く、単に船舶10が目標位置Dに到達したことに応じて定点保持制御を開始してもよい。
【0067】
さらに、船舶10が減速開始位置Eに到達すると、BCU16は、各船外機12のエンジン13をアイドル状態に移行させたが、エンジン13の回転数をアイドル状態の回転数まで低下させず、常用回転数よりも所定回転数だけ低下させるようにしてもよい。
【0068】
また、第1の実施の形態において、ステップS708で選定された船外機12をシフトアウトさせると、船舶10に作用する全体の推力が低下し、船舶10の進路保持性が低下するような場合、選定された船外機12をシフトアウトさせなくてもよい。
【0069】
さらに、第1の実施の形態では、選定された船外機12をシフトアウトさせたが、BCU16は、選定された船外機12でパターンシフトを実行することにより、船舶10をより減速させてもよい。これにより、船舶10の速度調整の精度を向上することができる。
【0070】
なお、本発明は、上述の各実施の形態の機能を実現するプログラムをBCU16が有するメモリ等から読み出し、BCU16が当該プログラムを実行することによって実現されてもよく、または、上述の各実施の形態の機能を実現するプログラムをネットワークや記憶媒体を介して船舶推進制御システム15に供給し、BCU16が供給されたプログラムを実行することによって実現されてもよい。さらに、本発明は、BCU16が有する1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
D 目標位置、E 減速開始位置、F シフトアウト位置、10 船舶、11 船体、12 船外機、13 エンジン、14 プロペラ、15 船舶推進制御システム15 BCU、17 MFD、20 リモコン、21 ジョイスティック、29 スティック、32 シフトレバー、35 航路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B