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  • 特開-キャップトレッド及び乗用車タイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179157
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】キャップトレッド及び乗用車タイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20221125BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221125BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221125BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20221125BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/04
C08K3/36
B60C1/00 A
B60C11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086443
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】平尾 昌吾
(72)【発明者】
【氏名】北郷 亮太
(72)【発明者】
【氏名】横山 結香
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】石野 崇
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131AA03
3D131BA01
3D131BA05
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA18
3D131BB01
3D131BB10
3D131BB11
3D131BC01
3D131BC02
3D131BC08
3D131BC51
3D131EA02U
4J002AC012
4J002AC031
4J002AC144
4J002BK003
4J002CE003
4J002DA037
4J002DJ016
4J002FD016
4J002FD017
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】良好な寸法安定性を有しつつ、低燃費性、破壊強度の総合性能を改善できるキャップトレッド及び乗用車タイヤを提供する。
【解決手段】互いに独立して境界を有するゴム組成物A相とゴム組成物B相を有し、ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量部に対してシリカを100質量部以上、カーボンブラックを10質量部以下含有し、ゴム組成物B相において、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部以上、シリカを13~20質量部含有し、ゴム組成物B相が、ゴム組成物A相に分断されて、ゴム組成物A相中に独立して存在する乗用車タイヤのキャップトレッドに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに独立して境界を有するゴム組成物A相とゴム組成物B相を有し、
ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量部に対してシリカを100質量部以上、カーボンブラックを10質量部以下含有し、
ゴム組成物B相において、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部以上、シリカを13~20質量部含有し、
ゴム組成物B相が、ゴム組成物A相に分断されて、ゴム組成物A相中に独立して存在する乗用車タイヤのキャップトレッド。
【請求項2】
ゴム組成物B相の体積平均粒子径が1000μm以下である請求項1記載のキャップトレッド。
【請求項3】
ゴム組成物A相において、イソプレンに由来するユニットの含有量が全ゴム成分のユニット100質量%中50質量%以上である請求項1又は2記載のキャップトレッド。
【請求項4】
ゴム組成物A相において、イソプレンに由来するユニットの含有量が全ゴム成分のユニット100質量%中1~10質量%である請求項1又は2記載のキャップトレッド。
【請求項5】
ゴム組成物A相の含有量が、キャップトレッドゴム100質量%中40~99質量%である請求項1~4のいずれかに記載のキャップトレッド。
【請求項6】
ゴム組成物A相において、ゴム成分が、ブタジエン、芳香族ビニル、及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマス由来成分に由来するユニットを含む請求項1~5のいずれかに記載のキャップトレッド。
【請求項7】
ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量部に対して樹脂を50質量部以上含む請求項1~6のいずれかに記載のキャップトレッド。
【請求項8】
前記樹脂が、テルペン系樹脂、及びロジン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項7記載のキャップトレッド。
【請求項9】
前記樹脂が、シクロペンタジエン系樹脂、C5系樹脂、C5/C9系樹脂、及びC9系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項7記載のキャップトレッド。
【請求項10】
前記樹脂が、芳香族系樹脂である請求項7記載のキャップトレッド。
【請求項11】
前記樹脂が、シリカと相互作用する極性官能基で変性されている請求項7~10のいずれかに記載のキャップトレッド。
【請求項12】
ゴム組成物A相において、籾殻由来のシリカを含む請求項1~11のいずれかに記載のキャップトレッド。
【請求項13】
ゴム組成物B相において、イソプレンに由来するユニットの含有量が全ゴム成分のユニット100質量%中50質量%以上である請求項1~12のいずれかに記載のキャップトレッド。
【請求項14】
ゴム組成物B相において、シス含量が90質量%以上のブタジエンゴムをゴム成分100質量%中1~40質量%含有する請求項1~13のいずれかに記載のキャップトレッド。
【請求項15】
ゴム組成物B相がゴム粉である請求項1~14のいずれかに記載のキャップトレッド。
【請求項16】
請求項1~15のいずれかに記載のキャップトレッドを有する乗用車タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャップトレッド及び乗用車タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
環境、資源枯渇の問題に伴い、石油資源の使用低減を図るため、様々な取り組みが行われている。例えば、シリカを使用する技術が知られている(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-089911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、良好な寸法安定性を有しつつ、低燃費性、破壊強度の総合性能を改善したタイヤ用ゴム組成物を提供するという点では改善の余地があることが本発明者らの検討の結果明らかとなった。
本発明は、前記課題を解決し、良好な寸法安定性を有しつつ、低燃費性、破壊強度の総合性能を改善できるキャップトレッド及び乗用車タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、互いに独立して境界を有するゴム組成物A相とゴム組成物B相を有し、
ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量部に対してシリカを100質量部以上、カーボンブラックを10質量部以下含有し、
ゴム組成物B相において、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部以上、シリカを13~20質量部含有し、
ゴム組成物B相が、ゴム組成物A相に分断されて、ゴム組成物A相中に独立して存在する乗用車タイヤのキャップトレッドに関する。
【0006】
ゴム組成物B相の体積平均粒子径が1000μm以下であることが好ましい。
【0007】
ゴム組成物A相において、イソプレンに由来するユニットの含有量が全ゴム成分のユニット100質量%中50質量%以上であることが好ましい。
【0008】
ゴム組成物A相において、イソプレンに由来するユニットの含有量が全ゴム成分のユニット100質量%中1~10質量%であることが好ましい。
【0009】
ゴム組成物A相の含有量が、キャップトレッドゴム100質量%中40~99質量%であることが好ましい。
【0010】
ゴム組成物A相において、ゴム成分が、ブタジエン、芳香族ビニル、及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマス由来成分に由来するユニットを含むことが好ましい。
【0011】
ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量部に対して樹脂を50質量部以上含むことが好ましい。
【0012】
前記樹脂が、テルペン系樹脂、及びロジン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
前記樹脂が、シクロペンタジエン系樹脂、C5系樹脂、C5/C9系樹脂、及びC9系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
前記樹脂が、芳香族系樹脂であることが好ましい。
【0015】
前記樹脂が、シリカと相互作用する極性官能基で変性されていることが好ましい。
【0016】
ゴム組成物A相において、籾殻由来のシリカを含むことが好ましい。
【0017】
ゴム組成物B相において、イソプレンに由来するユニットの含有量が全ゴム成分のユニット100質量%中50質量%以上であることが好ましい。
【0018】
ゴム組成物B相において、シス含量が90質量%以上のブタジエンゴムをゴム成分100質量%中1~40質量%含有することが好ましい。
【0019】
ゴム組成物B相がゴム粉であることが好ましい。
【0020】
本発明はまた、前記キャップトレッドを有する乗用車タイヤに関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、互いに独立して境界を有するゴム組成物A相とゴム組成物B相を有し、ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量部に対してシリカを100質量部以上、カーボンブラックを10質量部以下含有し、ゴム組成物B相において、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部以上、シリカを13~20質量部含有し、ゴム組成物B相が、ゴム組成物A相に分断されて、ゴム組成物A相中に独立して存在する乗用車タイヤのキャップトレッドであるので、良好な寸法安定性を有しつつ、低燃費性、破壊強度の総合性能を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ブタジエンの製造に用いた装置を簡略的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の乗用車タイヤのキャップトレッドは、互いに独立して境界を有するゴム組成物A相とゴム組成物B相を有し、ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量部に対してシリカを100質量部以上、カーボンブラックを10質量部以下含有し、ゴム組成物B相において、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部以上、シリカを13~20質量部含有し、ゴム組成物B相が、ゴム組成物A相に分断されて、ゴム組成物A相中に独立して存在する。これにより、良好な寸法安定性を有しつつ、低燃費性、破壊強度の総合性能を改善できる。
【0024】
前記キャップトレッドで前述の効果が得られる理由は、以下のように推察される。
キャップトレッドは、互いに独立して境界を有するゴム組成物A相とゴム組成物B相を有し、ゴム組成物B相が、ゴム組成物A相に分断されて、ゴム組成物A相中に独立して存在する。すなわち、シリカの含有量が多いゴム組成物A相中に、特定配合のゴム組成物B相(例えば、ゴム粉)が独立して存在することにより、具体的には、シリカの含有量が多いゴム組成物A相中に、特定配合のゴム組成物B相(例えば、ゴム粉)が分散することにより、良好な寸法安定性を有しつつ、低燃費性、破壊強度の総合性能(低燃費性、破壊強度の2つの指数の総和で表す)を相乗的に改善できる。
これは、詳細は明らかではないが、A相とB相の破壊が発生する条件が異なるため、一方の相で亀裂が発生しても、もう一方の相との界面で亀裂進展が止まる、あるいは、両相の粘弾性特性が大きく異なるため、外の刺激から受けた振動がゴム成分全体に広がることがないことにより、相乗作用が生じるものと推測される。
【0025】
本明細書において、キャップトレッドゴムが、互いに独立して境界を有するゴム組成物A相とゴム組成物B相を有するとは、キャップトレッドゴムにおいて、ゴム組成物A相とゴム組成物B相が互いに独立して存在し、両相において境界を有することを意味し、具体的には、A相に対してB相が、ゴム成分として非相溶で独立の相として存在すること、もしくは独立に混練処理されて混じりあわずに存在するような形態があるが、これに限らない。
本明細書において、ゴム組成物B相が、ゴム組成物A相に分断されて、ゴム組成物A相中に独立して存在するとは、ゴム組成物A相中に異物として、ゴム組成物B相が存在することを意味し、具体的には、A相とB相がゴム成分として非相溶、もしくは独立に混練処理されてお互いに混じりあわない状態のまま存在し、一例として、ゴム組成物A相が海相でB相が島相となるような場合や、別途混練加工処理したB相を再度A相を構成する素材と混練するような形態があるが、これに限らない。
【0026】
(ゴム成分)
本明細書において、ゴム成分は、架橋に寄与する成分であり、一般的に、重量平均分子量(Mw)が1万以上のものである。
【0027】
ゴム成分の重量平均分子量は、好ましくは5万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上であり、また、好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは130万以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0028】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0029】
ゴム組成物A相において、イソプレンに由来するユニットの含有量は、全ゴム成分のユニット100質量%中、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
この場合、ゴム組成物A相において、ブタジエンに由来するユニットの含有量は、全ゴム成分のユニット100質量%中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0030】
また、別の態様では、ゴム組成物A相において、イソプレンに由来するユニットの含有量は、全ゴム成分のユニット100質量%中、好ましくは1~10質量%である。下限は、好ましくは3質量%以上であり、上限は、好ましくは7質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
この場合、ゴム組成物A相において、ブタジエンに由来するユニットの含有量は、全ゴム成分のユニット100質量%中、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0031】
本明細書において、ユニットとは、ポリマーの構成単位を意味する。ブタジエンに由来するユニットとは、モノマーであるブタジエンに基づいて構成されるポリマー中の構成単位を意味し、イソプレンに由来するユニットとは、モノマーであるイソプレンに基づいて構成されるポリマー中の構成単位(天然ゴム中のイソプレン単位も含む)を意味する。
なお、本明細書において、各ユニットの含有量は、NMRにより測定される。
【0032】
前記ゴム組成物A相において、前記ユニットの含有量を前記範囲内とするためには、例えば、ブタジエンゴム(BR)、芳香族ビニル/ブタジエン共重合体(例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR))、イソプレン系ゴムを適宜組合わせて使用すればよい。
【0033】
BRとしては特に限定されず、高シス含量のBR、低シス含量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。市販品としては、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
BRのシス量(シス含量)は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、上限は特に限定されない。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、BRのシス量は、NMRによって測定できる。
【0035】
芳香族ビニル/ブタジエン共重合体(例えば、SBR)としては特に限定されず、例えば、乳化重合芳香族ビニル/ブタジエン共重合体(例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR))、溶液重合芳香族ビニル/ブタジエン共重合体(例えば、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR))等を使用できる。市販品としては、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
芳香族ビニル(芳香族ビニルモノマー)としては、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、ジビニルナフタレン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スチレン(特に、バイオマス由来のスチレン)が好ましい。すなわち、芳香族ビニル/ブタジエン共重合体としては、SBRが好ましい。なお、スチレンは、置換基を有していてもよい。
【0037】
芳香族ビニル/ブタジエン共重合体の芳香族ビニル含量(芳香族ビニルに由来するユニットの含有量、好ましくはスチレン含量)は、好ましくは5質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下、最も好ましくは20質量%以下、より最も好ましくは10質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ゴムの芳香族ビニル含量(好ましくはスチレン含量)は、H-NMR測定により算出される。
【0038】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、NRが好ましい。
【0039】
ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量%中、イソプレン系ゴム(好ましくは天然ゴム)の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、また、上限は特に限定されないが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
この場合、ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量%中、BRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0040】
また、別の態様では、ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量%中、イソプレン系ゴム(好ましくは天然ゴム)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
この場合、ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量%中、BRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上、より最も好ましくは85質量%以上、更に最も好ましくは90質量%以上であり、また、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは97質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0041】
BR、芳香族ビニル/ブタジエン共重合体(例えば、SBR)、イソプレン系ゴム以外に使用できるゴム成分としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
ゴム成分は、変性により、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基が導入されていてもよい。
前記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0043】
前記官能基を有する化合物(変性剤)の具体例としては、2-ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
ゴム組成物A相において、ゴム成分が、ブタジエン、芳香族ビニル、及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種のバイオマス由来成分に由来するユニットを含むことが好ましい。これにより、環境に配慮して化石燃料由来の原料の使用を低減することができる。
【0045】
ゴム組成物A相において、ゴム成分に含まれるブタジエン、芳香族ビニル、エチレンに基づく成分のASTMD6866-10に準拠して測定したpMC(percent Modern Carbon)(この値は、ブタジエン、芳香族ビニル、エチレンに基づく成分のバイオマス比率を示す)は、30%以上であり、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上、より最も好ましくは90%以上、更に最も好ましくは100%以上であり、上限は特に限定されない。効果がより好適に得られるという理由から、pMCは高いほど好ましい。なお、上述のように、標準物質との比率で計算されるという性質上、100%を超える値を取り得る。
本明細書において、ゴム成分に含まれるブタジエン、芳香族ビニル、エチレンに基づく成分のpMCとは、ゴム成分に含まれるブタジエンに基づく成分、芳香族ビニルに基づく成分、エチレンに基づく成分全体のpMCを意味する。
本明細書において、ブタジエンに基づく成分とは、モノマーであるブタジエンに基づいて構成されるポリマー中の構成単位を意味し、芳香族ビニルに基づく成分とは、モノマーである芳香族ビニルに基づいて構成されるポリマー中の構成単位を意味し、エチレンに基づく成分とは、モノマーであるエチレンに基づいて構成されるポリマー中の構成単位を意味する。
【0046】
ゴム組成物A相において、ゴム成分に含まれるブタジエンに基づく成分のASTMD6866-10に準拠して測定したpMC(percent Modern Carbon)(この値は、ブタジエンに基づく成分のバイオマス比率を示す)は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上、最も好ましくは70%以上、より最も好ましくは80%以上、更に最も好ましくは90%以上、特に最も好ましくは100%以上であり、上限は特に限定されない。効果がより好適に得られるという理由から、pMCは高いほど好ましい。なお、上述のように、標準物質との比率で計算されるという性質上、100%を超える値を取り得る。
【0047】
ゴム組成物A相において、ゴム成分全体のASTMD6866-10に準拠して測定したpMC(percent Modern Carbon)(この値は、ゴム成分全体のバイオマス比率を示す)は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上、最も好ましくは70%以上、より最も好ましくは80%以上、更に最も好ましくは90%以上、特に最も好ましくは100%以上であり、上限は特に限定されない。効果がより好適に得られるという理由から、pMCは高いほど好ましい。なお、上述のように、標準物質との比率で計算されるという性質上、100%を超える値を取り得る。
【0048】
なお、本明細書において、各成分のpMCは、ASTMD6866-10に準拠して測定して得られる値であり、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
なお、実施例に記載のように、ゴムなどの各成分の14C濃度を分析するためには、まずゴムなどの各成分の前処理が必要となる。具体的には、ゴムなどの各成分に含まれる炭素を酸化処理し、すべて二酸化炭素へと変換する。更に、得られた二酸化炭素を水や窒素と分離し、二酸化炭素を還元処理し、固形炭素であるグラファイトへと変換する必要がある。そして、この得られたグラファイトにCs等の陽イオンを照射して炭素の負イオンを生成させ、タンデム加速器を用いて炭素イオンを加速し、負イオンから陽イオンへ荷電変換させ、質量分析電磁石により123+133+143+の進行する軌道を分離し、143+は静電分析器により測定を行うことができる。
なお、本明細書では、バイオマスのことをバイオマス資源ともいう。
【0049】
pMCとは、標準現代炭素(modern standard reference)の14C濃度に対する試料の14C濃度の比であり、本明細書では、この値が化合物(ゴム)のバイオマス比率を示す指標として用いられる。この値の持つ意義について、下記に述べる。
【0050】
炭素原子1モル(6.02×1023個)中には、通常の炭素原子の約一兆分の一である約6.02×1011個の14Cが存在する。14Cは放射性同位体と呼ばれ、その半減期は5730年で規則的に減少している。これらが全て崩壊するには22.6万年を要する。従って大気中の二酸化炭素等が植物等に取り込まれて固定化された後、22.6万年以上が経過したと考えられる石炭、石油、天然ガス等の化石燃料においては、固定化当初はこれらの中にも含まれていた14C元素は全てが崩壊している。故に21世紀である現在においては、石炭、石油、天然ガス等の化石燃料には14C元素は全く含まれていない。故にこれらの化石燃料を原料として生産された化学物質にも14C元素は全く含まれていない。
【0051】
一方、14Cは宇宙線が大気中で原子核反応を行い、絶え間なく生成され、放射壊変による減少とがバランスし、地球の大気環境中では、14Cの量は一定量となっている。従って、現在の環境中で物質循環しているバイオマス資源由来の物質の14C濃度は、前記のとおりC原子全体に対して約1×10-12mol%程度の値となる。従って、これらの値の差を利用して、ある化合物(ゴム)中の天然資源由来の化合物(バイオマス資源由来の化合物)の比率(バイオマス比率)を算出する事ができる。
【0052】
この14Cは、次のようにして測定することが一般的である。タンデム加速器をベースとした加速器質量分析法を使用し、13C濃度(13C/12C)、14C濃度(14C/12C)の測定を行う。測定では、14Cの濃度の基準となるmodern standard referenceとして、1950年時点の自然界における循環炭素中の14C濃度を採用する。具体的な標準物質としては、NIST(National Institute of Standards and Technology:米国国立標準・技術研究所)が提供するシュウ酸標準体を用いる。このシュウ酸中の炭素の比放射能(炭素1g当たりの14Cの放射能強度)を炭素同位体毎に分別し、13Cについて一定値に補正して、西暦1950年から測定日までの減衰補正を施した値を標準の14C濃度の値(100%)として用いる。この値と、実際に測定した試料の値の比が、本明細書で用いるpMC値となる。
【0053】
従って、ゴムが100%バイオマス(天然系)由来の物質で製造されたものであれば、地域差等あるものの、おおよそ110pMC程度の値を示すことになる(現在は通常の状態では、100とならないことが多い)。一方、石油等の化石燃料由来の化学物質について、この14C濃度を測定した場合、ほぼ0pMC(例えば、0.3pMC)を示すことになる。この値が上述で言うバイオマス比率0%に相当する。
【0054】
以上のことから、pMC値の高いゴムなどの材料、すなわち、バイオマス比率の高いゴムなどの材料をゴム組成物に用いることは、環境保護の面で好適である。
【0055】
ブタジエン、芳香族ビニルに基づく成分、ブタジエンに基づく成分等の各pMCを前記範囲内とするためには、例えば、バイオマス由来のブタジエン、バイオマス由来の芳香族ビニル(例えば、バイオマス由来のスチレン)をモノマー成分として合成されたポリマーを使用すればよい。
ゴム成分全体のpMCを前記範囲内とするためには、前記手法に加えて、天然ゴムを使用したり、バイオマス由来のモノマー成分(例えば、バイオマス由来のイソプレン)をモノマー成分として合成されたポリマーを使用したりすればよい。
【0056】
従来タイヤ用ゴム組成物の素材(ゴムのモノマー、フィラー、樹脂等)は、大規模な製造装置を必要とするため、特定の地域の大工場で生産されるものが多く、原料及び製品の保管、輸送に多くのエネルギーを使用することになっていた。一方、バイオ由来の素材は、原料も地域の農産物、林業由来のものが多く使用でき、製造も微生物発酵、触媒反応といった技術さえあれば小規模でも実施できるものが多く、地域の生産物や廃棄物の活用で素材の原料を遠くから運び保管するエネルギーが不要で、更には製造した素材のタイヤ工場への遠距離運搬、その後も保管も不要な場合が多く、タイヤ製造において総合的な環境にやさしい効果が得られる。
【0057】
素材の選択は、例えば特開2014-115867号公報に示すビジネスモデルに従って、その時点の情勢における最適な製造法によって製造された素材を組み合わせることが望ましい。
【0058】
また、ゴム組成物を製造する際の、バイオマス資源の供給状況、石油資源(例えば、石油資源由来のモノマー成分)の供給状況、及び/又は市場の要求(例えば、バイオマス資源の食料としての需要との競合動向)といった総合的な環境への要望に応じて、バイオマス由来のモノマー成分、石油資源由来のモノマー成分の比率を適宜選択して、適宜選択された比率で、バイオマス由来のモノマー成分、若しくはバイオマス由来のモノマー成分と石油資源由来のモノマー成分とを重合して、バイオマス由来ゴムを重合することにより、従来の合成ゴムを用いた場合と同等の性能のバイオマス由来ゴムを製造することができる。
【0059】
ブタジエン、芳香族ビニルに基づく成分、ブタジエンに基づく成分の各pMCを前記範囲内とするためには、前記の通り、例えば、バイオマス由来のブタジエン、バイオマス由来の芳香族ビニル(例えば、バイオマス由来のスチレン)をモノマー成分として合成されたポリマーを使用すればよい。
具体的には、バイオマス由来のブタジエンにより合成したバイオマス由来のポリブタジエンゴム(BBR)、バイオマス由来のブタジエン、バイオマス由来の芳香族ビニル(例えば、バイオマス由来のスチレン)により合成したバイオマス由来の芳香族ビニル/ブタジエン共重合体(例えば、バイオマス由来のスチレンブタジエンゴム(BSBR))を使用すればよい。
なお、バイオマス由来のポリブタジエンゴム(BBR)、バイオマス由来の芳香族ビニル/ブタジエン共重合体(例えば、バイオマス由来のスチレンブタジエンゴム(BSBR))には、ブタジエン等を従来法に従って重合したゴムだけではなく、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(以下においては、微生物等ともいう)による反応や酵素反応により得られたゴムも含まれる。
【0060】
また、バイオマス由来ゴムは、前記pMCを満たすように、モノマー成分として芳香族ビニルやブタジエンを重合して得られたゴムであればよく、芳香族ビニル、ブタジエンの少なくとも一方がバイオマス由来(バイオマス由来のモノマー成分)である必要があるが、芳香族ビニル、ブタジエンの両方がバイオマス由来のモノマー成分であることが好ましい。
【0061】
また、前記pMCを満たす範囲であれば、バイオマス由来のモノマー成分と石油資源由来のモノマー成分を併用してもよい。すなわち、バイオマス由来のブタジエンは、バイオマス由来のブタジエン以外のブタジエン(石油資源由来のブタジエン)と併せて使用してもよい。同様に、バイオマス由来の芳香族ビニルは、バイオマス由来の芳香族ビニル以外の芳香族ビニル(石油資源由来の芳香族ビニル)と併せて使用してもよい。
【0062】
また、バイオマス由来ゴムは、前記pMCを満たす範囲であれば、芳香族ビニル、ブタジエン以外の他のモノマー成分(モノテルペン(ミルセン等)等共重合可能なモノマー成分)に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0063】
バイオマス由来ゴムを構成するモノマー成分100mol%中のバイオマス由来のモノマー成分の割合は、好ましくは50mol%以上、より好ましくは70mol%以上、更に好ましくは80mol%以上、特に好ましくは90mol%以上、最も好ましくは95mol%以上であり、100mol%であってもよい。
【0064】
前記ゴム組成物A相は、バイオマス由来ゴムとして、バイオマス由来のブタジエンを重合して得られたブタジエンゴム(バイオマスブタジエンゴム(BBR))を含むことが好ましい。バイオマス由来のブタジエンには石油資源由来とは異なる超微量の不純物が含まれるため、この不純物が他の成分(特に、樹脂)と相互作用を生じ、他の成分(特に、樹脂)のドメインが補強されることにより、より好適に効果が得られるものと推測される。
【0065】
((バイオマス由来ゴムの調製方法))
次に、バイオマスからバイオマス由来ゴムを調製する方法について説明する前に、まず、本明細書におけるバイオマスについて説明する。
【0066】
本明細書において、バイオマス(バイオマス資源)とは、生物由来のカーボンニュートラルな有機性資源を意味し、具体的にはデンプンやセルロース等の形に変換されて蓄えられたもの、植物体を食べて成育する動物の体や、植物体や動物体を加工してできる製品等が含まれ、そして化石資源を除く資源である。
【0067】
バイオマス資源としては、可食であっても、非可食であってもかまわず、特に制限されない。食料と競合せず、資源の有効利用の観点からは、非可食原料を用いることが好ましい。
【0068】
バイオマス資源の具体例としては、例えば、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣等)、木材、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、おから、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油、ヒマシ油等)、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、籾殻、米ぬか、古米、キャッサバ、サゴヤシ等)、バガス、そば、大豆、精油(松根油、オレンジ油、ユーカリ油等)、パルプ黒液、生ごみ、植物油カス、水産物残渣、家畜排泄物、食品廃棄物、藻類、排水汚泥等が挙げられる。
【0069】
バイオマス資源としては、これらを処理したもの(すなわち、バイオマス由来物質)であってもよい。処理方法としては、例えば、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体等の働きを利用した生物学的処理方法;酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー、光エネルギー等を利用した化学的処理方法;微細化、圧縮、マイクロ波処理、電磁波処理等の物理的処理方法等の既知の方法が挙げられる。
【0070】
また、バイオマス資源としては、前記バイオマス資源や前記処理を行ったバイオマス資源から、抽出、精製したもの(すなわち、バイオマス由来物質)であってもよい。例えば、バイオマス資源から精製した糖類、たんぱく質、アミノ酸、脂肪酸、脂肪酸エステル等であってもかまわない。
【0071】
糖類としては、バイオマス由来であれば特に限定されず、例えば、スクロース、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マルトース、セルロース、デンプン、キチン等が挙げられる。
【0072】
たんぱく質としては、バイオマス由来で、アミノ酸(好ましくはL-アミノ酸)が連結してできた化合物であれば特に限定されず、ジペプチド等のオリゴペプチドも含む。
【0073】
アミノ酸としては、バイオマス由来で、アミノ基とカルボキシル基の両方の官能基を持つ有機化合物であれば特に限定されず、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、リジン、アスパラギン、グルタミン、フェニルアラニン等が挙げられる。なかでも、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニン、フェニルアラニンが好ましい。なお、アミノ酸は、L型であってもD型であってもよいが、天然における存在量が多く、バイオマス資源として使用しやすいという理由から、L型が好ましい。
【0074】
脂肪酸としては、バイオマス由来であれば特に限定されず、例えば、酪酸、オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
【0075】
脂肪酸エステルとしては、バイオマス由来であれば特に限定されず、例えば、動物由来脂、植物油、バイオマス由来油脂改質物等が挙げられる。
【0076】
バイオマス資源としては、種々の材料、不純物が混合していてもかまわないが、バイオマス100質量%中の糖類の含有量が20質量%以上であることが、効率的な変換のために好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。また別の形態では、バイオマス100質量%中のアミノ酸及びたんぱく質の合計含有量が10質量%以上であることが、効率的な変換のために好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましい。更に別の形態では、バイオマス100質量%中の脂肪酸及び脂肪酸エステルの合計含有量が10質量%以上であることが、効率的な変換のために好ましい。
【0077】
次に、バイオマスからバイオマス由来ゴムを調製する方法について説明する。以下においては、代表例として、バイオマス由来ゴムがBSBRである場合について具体的に説明する。なお、上述のように、本明細書では、BSBRには、バイオマス由来のブタジエン、スチレンを従来法に従って重合したBSBRだけではなく、微生物等による反応や酵素反応により得られたBSBRも含まれる。
【0078】
(((ブタジエンを調製する方法)))
まず、バイオマス資源からブタジエンを調製する方法について説明するが、ブタジエンを調製する方法は、以下で説明する方法に限定されるものではない。
【0079】
バイオマス資源からブタジエンを調製する方法としては、種々の方法をあげることができ、特に限定されない。例えば、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体からなる群より選択される少なくとも1種によって、バイオマス資源から直接ブタジエンを得る生物学的処理方法;前記化学的処理方法をバイオマス資源に施すことによりブタジエンを得る方法;前記物理的処理方法をバイオマス資源に施すことによりブタジエンを得る方法;インビトロの酵素反応等でバイオマス資源をブタジエンに変換する方法;これらの方法を組み合わせる方法等が挙げられる。なお、バイオマス資源をブタジエンに変換する微生物、植物、動物は、遺伝子操作されていても、されていなくても構わない。
【0080】
微生物等を用いたバイオマス資源からブタジエンへの直接変換法は特に限定されないが、アミノ酸をアルキルアルコール類及び/又はヘミテルペン類に変換する生体内経路を用いて行うことが可能である。
【0081】
アミノ酸としては、バリン、ロイシン、イソロイシン、アルギニンが好ましい。また、ヘミテルペン類としては、チグリン酸及び/又はアンゲリカ酸が好ましい。
【0082】
好ましい例としては、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体に、デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子、及び/又はレダクターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子を導入及び/又は改変して、アミノ酸及び/又はヘミテルペン類よりブタジエンを得る方法が挙げられる。
【0083】
デカルボキシラーゼ活性を有する酵素としては、例えば、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(E.C.4.1.1.33)、各種アミノ酸デカルボキシラーゼ、レダクターゼ活性を有する酵素としては、HMG-CoAレダクターゼ、12-オキソフィトジエン酸レダクターゼ(E.C. 1.3.1.42)等が挙げられる。
【0084】
アミノ酸を経由する生体内反応によりブタジエンを発酵で生産する好ましい例としては、イソロイシンから微生物等が有する天然の代謝経路に沿って生体内合成されるチグリン酸及び/又はアンゲリカ酸に各種脱炭酸酵素を作用させることにより生産する方法が挙げられる。他にもアミノ酸の代謝途中に生産される各種脂肪酸誘導体を利用して、脱炭酸酵素反応により、ブタジエンを得ることができる。
【0085】
ブタジエンを得るために必要なアミノ酸は、直接培地に添加しても構わないが、好ましい例としては、植物粉砕物、畜産廃棄物等の発酵により生体内でアミノ酸を生合成して、生合成したアミノ酸を利用することが好ましい。この場合には、糖類及び/又はたんぱく質類からブタジエンゴムが変換されることとなる。
【0086】
一般的な発酵によるアルコール、アルケン類の製造方法が、バイオマス資源として主に糖類を利用するのに対して、この製造方法では、アミノ酸、たんぱく質を中心としたバイオマス資源も有効活用することもできる可能性が大きいため、有用である。
【0087】
バイオマス資源からブタジエンを調製する他の方法としては、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体からなる群より選択される少なくとも1種によって、バイオマス資源より、ブタジエンを合成可能な中間体を得て、得られた中間体に対して、触媒反応等の前記化学的処理方法、前記物理的処理方法、前記インビトロの酵素反応、これらの方法を組み合わせる方法等を施すことによりブタジエン(ブタジエン等のジエン)を得る方法も好ましく用いられる。
【0088】
ブタジエンを合成可能な中間体としては、アルキルアルコール類、アリルアルコール類、アルケン類、アルデヒド類、不飽和カルボン酸類等が挙げられる。
【0089】
アルキルアルコール類としては、バイオマス由来であれば特に限定されず、エタノール、ブタノール、ブタンジオールが好ましく、ブタノール、ブタンジオールがより好ましい。なお、ブタノールは、1-ブタノールであっても、2-ブタノールであってもかまわず、これらの混合物であってもかまわない。
【0090】
微生物等を使用して、バイオマス資源からエタノール(バイオマス資源由来のエタノールをバイオエタノールともいう)やブタノール(バイオマス資源由来のブタノールをバイオブタノールともいう)を発酵により製造する方法としては、公知の方法が種々知られており、酵母によるエタノール発酵により、バイオマス資源(例えば、サトウキビやグルコース)からバイオエタノールを得る方法、発酵菌類によるアセトン・ブタノール発酵(ABE発酵)により、バイオマス資源(例えば、グルコース)からバイオブタノールを得る方法が一般的である。ABE発酵の場合には、ブタノール、アセトン等の混合溶媒が得られるので、これを蒸留することでバイオブタノールが得られる。更にブタノールは、バイオエタノールから触媒反応により直接、もしくはアセトアルデヒドを経て得ることも可能である。
【0091】
ABE発酵を行う微生物は、ABE発酵を行うことが可能な微生物であれば特に限定されず、例えば、エシュリヒア(Escherichia)属、ジモモナス(Zymomonas)属、カンジダ(Candida)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等に属する微生物が挙げられる。これらは、野性株、変異株、又は細胞融合もしくは遺伝子操作等の遺伝子工学的手法によって誘導された組み換え株等、いずれの形態の株でも用いることができる。なかでも、クロストリジウム属に属する微生物が好ましく、Clostridium acetobutylicum、Clostridium beijerinckii、Clostridium saccharobutylicum、Clostridium saccharoperbutylacetonicumがより好ましい。
【0092】
バイオブタノールを生産する方法の好ましい例の一つとして、例えば、メバロン酸経路に関連する遺伝子、MEP/DOXP経路に関連する遺伝子、ブチリルCoAデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、ブチルアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、及びブタノールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子が導入されている微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体からなる群より選択される少なくとも1種による発酵によりブタノールを得る方法が挙げられる(例えば、特表2010-508017号公報)。
【0093】
また、バイオマス資源から発酵により製造されたエタノールやブタノールは、バイオエタノール、バイオブタノール(例えば、デュポン社製のバイオブタノール)として商業的にも流通している。
【0094】
また、ブタンジオールは、バイオプラスチックの原料として各種発酵により直接製造する方法(例えば、Syu MJ,Appl Microbial Biotechnol 55:10-18(2001)、Qinら,Chinese J Chem Eng 14(1):132-136(2006)、特表2011-522563号公報、特開昭62-285779号公報、特開2010-115116号公報等)が開発されており、バイオ由来ブタンジオールとして容易に用いることができる。更にバイオマス由来のコハク酸、フマル酸、フルフラール等を変換することにより、ブタンジオールを製造してもよい。
【0095】
前記ブタンジオール発酵を行う微生物は、ブタンジオール発酵を行うことが可能な微生物であれば特に限定されず、例えば、エシュリヒア(Escherichia)属、ジモモナス(Zymomonas)属、カンジダ(Candida)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、バチルス(Bacillus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、クリプシエラ(Klebsiella)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等に属する微生物が挙げられる。これらは、野性株、変異株、又は細胞融合もしくは遺伝子操作等の遺伝子工学的手法によって誘導された組み換え株等、いずれの形態の株でも用いることができる。なかでも、バチルス属、クロストリジウム属、クリプシエラ属に属する微生物が好ましく、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、Bacillus polymyxa、Bacillus subtilis、Bacillus pumilus、Bacillus macerans、Bacillus licheniformis、Bacillus megaterium、Klebsiella pneumoniaeがより好ましい。
【0096】
前記アルキルアルコール類からは、発酵等の前記生物学的処理方法や、触媒反応等の前記化学的処理方法、前記物理的処理方法、前記インビトロの酵素反応、これらの方法を組み合わせる方法等を施すことによりブタジエンに変換することができる。
【0097】
アルキルアルコール類からブタジエンへの直接変換法としては、例えば、ヒドロキシアパタイト、Ta/SiO、アルミナ、ゼオライト等の脱水、脱水素化触媒を用いて、エタノール及び/又はブタノールをブタジエンへ変換する方法が知られている。
【0098】
アリルアルコール類としては、バイオマス由来であれば特に限定されず、ブタジエンへの変換の容易さから、クロチルアルコール、3-ブテン-2-オールが好ましい。
【0099】
クロチルアルコール、3-ブテン-2-オールは、微生物等の発酵により、バイオマス資源より直接得てもよいし、バイオマス由来のクロトン酸やその誘導体を還元することにより得てもよい。また、バイオマス由来のブタンジオールをゼオライト、アルミナ、酸化セリウム等を触媒としてクロチルアルコールを得ることも可能である(例えば、特開2004-306011号公報)。
【0100】
アリルアルコール類からブタジエンへの変換方法としては、例えば、一般的に知られているゼオライト、アルミナ等の接触還元触媒により脱水することによりクロチルアルコールからブタジエンへ変換する方法等が挙げられる。
【0101】
アルケン類としては、バイオマス由来であれば特に限定されず、エチレン、ブテン(別名ブチレン)が好ましく、エチレンがより好ましい。
【0102】
バイオマス由来のエチレン、ブテンの製法としては、例えば、バイオエタノールをアルミナ、ゼオライト等の脱水触媒もしくは高温処理にてエチレンにする方法、バイオブタノールをアルミナ、ゼオライト等の脱水触媒もしくは高温処理にてブテンに変換する方法等が挙げられる。
【0103】
また、前記アルケン類(エチレン、ブテン)は、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体からなる群より選択される少なくとも1種を用いた発酵により、バイオマス資源から直接得ることも可能である。
【0104】
前記エチレン発酵を行う微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体は、ACCシンターゼ(エチレンシンターゼ)活性を有する酵素をコードする遺伝子を導入及び/又は改変されているものであることが生産効率の点で好ましいが、この限りではない。
【0105】
前記エチレンが、二酸化炭素を原料として触媒反応により得られたものであってもよい。二酸化炭素を原料として触媒反応によりエチレンを製造する方法は特に限定されないが、例えば、特開2019-154435号公報に記載の方法により製造すればよい。
【0106】
前記ブテン発酵を行う微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体は、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(E.C.4.1.1.33)活性を有する酵素をコードする遺伝子を導入及び/又は改変されているものであることが好ましいが(例えば、特表2011-526489号公報)、この限りではない。
【0107】
前記アルケン類からブタジエンへの変換方法としては、例えば、ブテンをアルミナ、ゼオライト等でブタジエンに変換する方法、エチレンを塩化パラジウム、酢酸パラジウム等の酸化触媒で部分的にアセトアルデヒドに変換した後、アルミナ、ゼオライト等の脱水触媒を用いて残存エチレンと脱水反応することによりブタジエンを得る方法等が挙げられる。
【0108】
アルデヒド類としては、バイオマス由来であれば特に限定されず、アセトアルデヒドが好ましい。
【0109】
アセトアルデヒドは、バイオマス資源より直接、微生物等の発酵により得てもよいし、バイオマス由来のエチレンから塩化パラジウム等の酸化触媒によりアセトアルデヒドに変換して得てもよい。
【0110】
前記アルデヒド類からブタジエンへの変換方法としては、例えば、エチレンと脱水反応する方法等が挙げられる。
【0111】
不飽和カルボン酸類としては、バイオマス由来であれば特に限定されず、チグリン酸、アンゲリカ酸が好ましい。
【0112】
チグリン酸、アンゲリカ酸は、バイオマス資源より直接、微生物等の発酵により得てもよい。具体的には、チグリン酸、アンゲリカ酸は、イソロイシンから微生物等が有する天然の代謝経路により生体内合成できる。また、ハズ油等から精製してもよい。
【0113】
前記不飽和カルボン酸類からブタジエンへの変換方法としては、例えば、チグリン酸やアンゲリカ酸に、各種脱炭酸酵素を作用させることにより変換する方法、パラジウム等の金属触媒、ゼオライト、アルミナ等を作用させることにより変換する方法等が挙げられる。
【0114】
上述の方法等により、バイオマス資源からブタジエンが得られる。
【0115】
(((スチレンを調製する方法)))
次に、バイオマス資源からスチレンを調製する方法について説明するが、スチレンを調製する方法は、以下で説明する方法に限定されるものではない。
なお、スチレン以外の芳香族ビニルを使用する場合は、スチレンを更に公知の方法によりスチレン以外の芳香族ビニルに合成すればよい。
【0116】
バイオマス資源からスチレンを調製する方法としては、種々の方法をあげることができ、特に限定されない。例えば、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(特に、微生物、植物、及びこれらの組織培養体)からなる群より選択される少なくとも1種によって、バイオマス資源から直接スチレンを得る生物学的処理方法;前記化学的処理方法をバイオマス資源に施すことによりスチレンを得る方法;前記物理的処理方法をバイオマス資源に施すことによりスチレンを得る方法;インビトロの酵素反応等でバイオマス資源をスチレンに変換する方法;これらの方法を組み合わせる方法等が挙げられる。なかでも、生物学的処理方法が好ましい。この製造方法では、バイオマス資源として主に、培地における炭素源として使用される糖類が利用される。
なお、バイオマス資源をスチレンに変換する微生物、植物、動物は、遺伝子操作されていても、されていなくても構わない。
【0117】
微生物等を用いたバイオマス資源からスチレンへの直接変換法(生物学的処理方法)は、特に限定されないが、フェニルアラニンから桂皮酸を経由して、スチレンを生合成する生体内経路を利用して行うことが可能である。
【0118】
フェニルアラニンは、ほとんどの微生物、植物が有するシキミ酸経路により生合成される物質であり、このフェニルアラニンから桂皮酸を経由して、スチレンが生合成される生体内経路が知られている。従って、微生物等が有するこれらの生体内経路を利用して、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(特に、微生物、植物、及びこれらの組織培養体)からなる群より選択される少なくとも1種によって、バイオマス資源から直接スチレンを得ることができる。
【0119】
微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(特に、微生物、植物、及びこれらの組織培養体)は、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、桂皮酸デカルボキシラーゼ(フェニルアクリル酸デカルボキシラーゼ)、及び/又はフェノール酸デカルボキシラーゼ(特に、フェルラ酸デカルボキシラーゼ)を高発現するよう操作されたものであることが、スチレンを効率的に生産するという点で好ましい。
【0120】
また、同様に、スチレンを効率的に生産できるという理由から、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(特に、微生物、植物、及びこれらの組織培養体)は、スチレンの生合成経路の基質と考えられるフェニルアラニンの生産を促進(過剰生産)するよう改変されていることが好ましい。
【0121】
具体的には、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(特に、微生物、植物、及びこれらの組織培養体)は、シキミ酸経路に関与する酵素及び/又はフィードバック阻害酵素を高発現するよう操作されたものであることが好ましい。
【0122】
より具体的には、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(特に、微生物、植物、及びこれらの組織培養体)は、シキミ酸経路に関与する酵素を高発現させたものであること、L-フェニルアラニン生合成経路に関与する酵素においてL-フェニルアラニンによるフィードバック阻害が解除されていること、及び/又はフィードバック阻害が解除された酵素を高発現させたものであることが好ましい。
【0123】
シキミ酸経路に関与する酵素としては、特に限定されないが、例えば、アロゲン酸デヒドラターゼ、プレフェン酸アミノトランスフェラーゼ、プレフェン酸デヒドラターゼ、コリスミ酸ムターゼ等が挙げられる。
【0124】
スチレンを効率的に生産できるという理由から、微生物等を培養する培地(植物を栽培する土壌を含む)に、フェニルアラニン及び/又は桂皮酸(好ましくはバイオマス由来のフェニルアラニン及び/又は桂皮酸)を添加することが好ましい。スチレンを生合成する生体内経路の上流に位置するこれらの化合物を添加することにより、スチレンを効率的に生産できる。なお、添加するフェニルアラニン、桂皮酸は、微生物等を培養することにより調製できる。
【0125】
バイオマス資源をスチレンへ直接変換可能な微生物としては、特に限定されないが、フザリウム属、ペニシリウム属、ピキア属、カンジダ属、デバリオミセス属、トルロプシス属、サッカロマイセス属、バチルス属、エシェリキア属、ストレプトマイセス属、シュードモナス属等に属する微生物が挙げられる。これらは、野性株、変異株、又は細胞融合もしくは遺伝子操作等の遺伝子工学的手法によって誘導された組み換え株等、いずれの形態の株でも用いることができる。
【0126】
フザリウム属に属する微生物としては、特に限定されないが、F.oxysporum、F.roseum、F.aquasductuum、F.fujikuroi、F.solani、F.graminearum、F.asiaticum、F.culmorum等がスチレン変換効率の点から好ましく、F.oxysporumがより好ましい。
【0127】
ペニシリウム属に属する微生物としては、特に限定されないが、P.citrinum、P.oxalicum、P.glabrum、P.chrysogenum、P.digitatum、P.camemberti、P.islandicum、P.verrucosum、P.cyclopium、P.commune、P.citro-viride、P.rugulosum、P.italicum、P.expansum、P.marneffei、P.griseofluvum、P.galaucum、P.roqueforti、P.camamberti、P.natatum、P.gladioli等がスチレン変換効率の点から好ましく、P.citrinum、P.oxalicum、P.camambertiがより好ましく、P.citrinumが更に好ましい。
【0128】
ピキア属に属する微生物としては、特に限定されないが、Pichia carsonii、Pichia anomala、Pichia pastoris、Pichia farinosa、Pichia membranifaciens、Pichia angusta等がスチレン変換効率の点から好ましく、Pichia carsoniiがより好ましい。
【0129】
カンジダ属に属する微生物としては、特に限定されないが、C.famata、C.etchellsii、C.versatilis、C.stellata等がスチレン変換効率の点から好ましく、C.famataがより好ましい。
【0130】
デバリオミセス属に属する微生物としては、特に限定されないが、Debaryomyces hanseniiがスチレン変換効率の点から好ましい。
【0131】
トルロプシス属に属する微生物としては、特に限定されない。
【0132】
サッカロマイセス属に属する微生物としては、特に限定されないが、S.cerevisiae、S.bayanus、S.boulardii等がスチレン変換効率の点から好ましい。
【0133】
バチルス属に属する微生物としては、特に限定されないが、B.subtilis、B.thuringiensis、B.coagulans、B.licheniformis、B.megaterium等がスチレン変換効率の点から好ましく、B.subtilisがより好ましい。
【0134】
エシェリキア属に属する微生物としては、特に限定されないが、E.albertii、E.blattae、E.coli、E.fergusonii、E.hermannii、E.vulneris等がスチレン変換効率の点から好ましく、E.coliがより好ましい。
【0135】
ストレプトマイセス属に属する微生物としては、特に限定されないが、S.griseus、S.kanamyceticus、S.peucetius、S.galilaeus、S.parvulus、S.antibioticus、S.lividans、S.maritimus等がスチレン変換効率の点から好ましい。
【0136】
シュードモナス属に属する微生物としては、特に限定されないが、P.aeruginosa、P.syringae pv. Japonica、P.meliae、P.putida等がスチレン変換効率の点から好ましく、P.putida、P.putida IH-2000、P.putida S12がより好ましく、P.putida IH-2000、P.putida S12が更に好ましい。
【0137】
バイオマス資源をスチレンへ直接変換可能な微生物としては、ペニシリウム属、エシェリキア属に属する微生物が好ましく、P.citrinum、形質転換されたE.coliがより好ましい。
【0138】
バイオマス資源をスチレンへ直接変換可能な植物としては、特に限定されないが、マンサク科、エゴノキ科、キョウチクトウ科、ナス科、ニンジン科、ツバキ科等に属する植物が挙げられる。これらは、野性株、変異株、又は細胞融合もしくは遺伝子操作等の遺伝子工学的手法によって誘導された組み換え株等、いずれの形態の株でも用いることができる。
【0139】
マンサク科に属する植物(樹木)としては、特に限定されないが、スチレン産生効率の観点より、フウ属に属する植物(樹木)が好ましく、その中でもフウ(Liquidambar formosana)、モミジバフウ(Liquidambar styraciflua)、レバントストラックス(Liquidambar orientalis)がより好ましく、モミジバフウ、レバントストラックスが更に好ましく、モミジバフウが特に好ましい。
【0140】
エゴノキ科に属する植物(樹木)としては、特に限定されないが、スチレン産生効率の観点より、エゴノキ属に属する植物(樹木)が好ましく、その中でもセイヨウエゴノキ(Styrax officinalis)、エゴノキ(Styrax japonica)、アンソクコウノキ(Styrax benzoin Dryander)がより好ましく、エゴノキが更に好ましい。
【0141】
キョウチクトウ科に属する植物としては、特に限定されないが、スチレン産生の効率の観点から、ニチニチソウ属、キョウチクトウ属、ツルニチニチソウ属、アリアケカズラ属、ゴムカズラ属に属する植物が好ましく、ニチニチソウ属に属する植物(特に、ニチニチソウ)がより好ましい。
【0142】
ナス科に属する植物としては、特に限定されないが、タバコ属の植物がスチレン産生の効率の観点より好ましく、N.tabacumとN.rusticaがより好ましい。
【0143】
ニンジン科に属する植物としては、特に限定されないが、ニンジン属に属する植物がスチレン産生の効率の観点より好ましい。
【0144】
ツバキ科に属する植物としては、特に限定されないが、ツバキ属、サカキ属、モッコク属に属する植物がスチレン産生の効率の観点より好ましい。
【0145】
バイオマス資源をスチレンへ直接変換可能な植物としては、マンサク科、エゴノキ科、キョウチクトウ科に属する植物が好ましく、フウ属、エゴノキ属、ニチニチソウ属に属する植物がより好ましく、モミジバフウ、レバントストラックス、エゴノキ、ニチニチソウが更に好ましく、モミジバフウ、エゴノキ、ニチニチソウが特に好ましい。
【0146】
植物が樹木の場合、樹木からスチレンを得る方法としては、特に限定されないが、樹幹に傷をつけることにより滲出する樹脂(樹液)を精製することにより得る方法が、効率の点で好ましい。また、樹木の樹皮、幹、枝、根、葉等を粉砕し、適当な溶媒による抽出、加熱、及び/又は超音波照射等により揮発成分を得た後、精製することによっても得られる。
【0147】
植物が樹木でない場合、樹脂としてスチレンを取得することは困難であるが、植物の組織(例えば、茎、葉、根、花等)を粉砕し、適当な溶媒による抽出、加熱、及び/又は超音波照射等により揮発成分を得た後、精製することによってスチレンが得られる。
【0148】
また、前記植物の組織を培養し、培養した組織から、適当な溶媒による抽出、加熱、及び/又は超音波照射等により揮発成分を得ることにより、スチレンを得ることも可能である。
【0149】
培養される植物の組織としては、特に限定されないが、効率良くスチレンが得られるという理由から、植物の組織片から誘導したカルスが好ましい。すなわち、植物の組織片からカルスを誘導し、誘導したカルスを培養することが好ましい。
【0150】
カルスの誘導方法は、特に限定されず、例えば、植物生長ホルモン(例えば、オーキシン系植物ホルモン(例えば、ジクロロフェノキシ酢酸)及び/又はサイトカイニン系植物ホルモン(例えば、ベンジルアデニン))を含む培地で植物の組織片(例えば、芽、葉、茎等)を培養することによりカルスを誘導する方法が挙げられる。
【0151】
バイオマス資源からスチレンを調製する他の方法としては、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体(特に、微生物、植物、及びこれらの組織培養体)からなる群より選択される少なくとも1種によって、バイオマス資源より、スチレンを合成可能な中間体(特に、フェニルアラニン及び/又は桂皮酸)を得て、得られた中間体(特に、フェニルアラニン及び/又は桂皮酸)に対して、前記生物学的処理方法、触媒反応等の前記化学的処理方法、前記物理的処理方法、前記インビトロの酵素反応、これらの方法を組み合わせる方法等を施すことによりスチレンを得る方法も好ましく用いられる。なかでも、得られた中間体(特に、フェニルアラニン及び/又は桂皮酸)に対して、前記生物学的処理方法を施す方法が好ましい。
なお、前記中間体をスチレンに変換する微生物、植物、動物は、遺伝子操作されていても、されていなくても構わない。
【0152】
得られた中間体(特に、フェニルアラニン及び/又は桂皮酸)に対して、前記生物学的処理方法を施すことによりスチレンを得る方法としては、例えば、上述のように、前記微生物等を培養する培地(植物を栽培する土壌を含む)にフェニルアラニン及び/又は桂皮酸を添加し、該培地で前記微生物等を培養すればよい。これにより、添加したフェニルアラニン及び/又は桂皮酸から、前記微生物等によりスチレンが生合成される。
【0153】
得られた中間体であるフェニルアラニンに対して、触媒反応等の前記化学的処理方法を施すことによりスチレンを得る方法としては、例えば、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ等のアンモニアリアーゼを作用させて桂皮酸に変換した後、脱炭酸酵素、遷移金属触媒、ゼオライト等を用いて脱炭酸することによりスチレンを得る方法、直接ゼオライト、アルミナ等を用いて高温処理することによりスチレンを得る方法等が挙げられる。
【0154】
得られた中間体である桂皮酸に対して、触媒反応等の前記化学的処理方法を施すことによりスチレンを得る方法としては、例えば、遷移金属等を用いた金属触媒、ゼオライト、アルミナ等を高温で作用させることにより脱炭酸反応でスチレンを得る方法等が挙げられる。
【0155】
上述の方法等により、バイオマス資源からスチレンが得られる。
【0156】
(((重合方法)))
上述の方法等により、バイオマス資源から得られたブタジエン、スチレンからスチレンブタジエンゴム(バイオマススチレンブタジエンゴム(BSBR))を重合する方法は、当業者にとって公知の方法である、石油資源由来のブタジエン、スチレンからスチレンブタジエンゴムを重合する方法と同様であり、特に限定されるものではない。
同様に、上述の方法等により、バイオマス資源から得られたブタジエンからブタジエンゴム(バイオマスブタジエンゴム(BBR))を重合する方法は、当業者にとって公知の方法である、石油資源由来のブタジエンからブタジエンゴムを重合する方法と同様であり、特に限定されるものではない。
【0157】
バイオマス資源から得られたブタジエンとしては、アルキルアルコール類(好ましくはエタノール、ブタノール(より好ましくはブタノール))由来のブタジエン、アルケン類(好ましくはエチレン)由来のブタジエン、不飽和カルボン酸類(好ましくはチグリン酸)由来のブタジエンを好適に使用できる。また、これらのブタジエンを組み合わせて使用することも好適である。
【0158】
バイオマス資源から得られたスチレンとしては、植物(好ましくはマンサク科、エゴノキ科、キョウチクトウ科に属する植物、より好ましくはフウ属、エゴノキ属、ニチニチソウ属に属する植物、更に好ましくはモミジバフウ、エゴノキ、ニチニチソウ)により得られたスチレン、微生物(好ましくはペニシリウム属、エシェリキア属に属する微生物、より好ましくはP.citrinum、形質転換されたE.coli)により得られたスチレンを好適に使用できる。また、これらのスチレンを組み合わせて使用することも好適である。
【0159】
得られるBBR、BSBRの分子量、分岐、ミクロ構造は、求めるタイヤの性能に合わせて、公知の方法に従って重合条件を変更することにより任意に選択することができる。
【0160】
一方で、現在、バイオエタノール、バイオエチレン等を中心としたバイオマスコンビナートの計画が一部に存在するが、バイオエタノール、バイオエチレンは、主に糖類及び/又はセルロース類をバイオマス資源として製造されており、たんぱく質、脂質、アミノ酸といった他のバイオマス資源を有効に活用することができていない。更に、糖類は食料との競合、セルロースの乱獲は森林伐採に繋がり、必ずしも環境に配慮されていない状況も起こり得る。
【0161】
そのため、種々のバイオマス資源の供給状況、石油資源の供給状況、市場の要求(例えば、バイオマス資源の食料としての需要との競合動向)といった総合的な環境への要望に応じて、前記バイオマス由来のモノマー成分として、バイオマス由来のモノマー成分を複数使用したり、バイオマス由来のモノマー成分と石油資源由来のモノマー成分とを併用したり、これらのモノマー成分の使用比率を最適な比率になるように調整して使用したりすることが好ましい。これにより、一種類のバイオマス資源に頼ることなく、糖、たんぱく質、脂質等幅広いバイオマス資源を有効に活用することができ、バイオマス由来ゴムの供給の安定化、製造時の状況に応じた環境への配慮を行うことができる。例えば、バイオマス由来のブタジエンは、バイオエタノール、バイオブタノール、テルペン類他前記の様々な基質を利用して得ることが可能である。また、バイオマス由来のスチレンは、様々な植物、微生物を利用して得ることが可能である。
【0162】
なお、バイオマス由来のモノマー成分を複数使用する場合には、異なるバイオマスを由来とするモノマー成分、すなわち、異なるバイオマス資源から得られたモノマー成分を使用することが好ましい。具体的には、バイオマス由来のブタジエンとして、由来が異なる複数のバイオマス由来のブタジエンの混合物を使用すること、及び/又は、バイオマス由来のスチレンとして、由来が異なる複数のバイオマス由来のスチレンの混合物を使用することが好ましい。これにより、複数のバイオマス資源を有効活用することができ、上述の総合的な環境への要望により好適に応じることができる。
【0163】
また、バイオマス資源から得られたブタジエンからBBR、バイオマス資源から得られたブタジエン、スチレンからBSBRに変換する別の好ましい例としては、酵素反応を利用する方法がある。ゴムラテックスに含まれるいくつかの酵素(長鎖プレニル鎖延長酵素)はジエンの重合反応を促進する効果があることが知られており、これらの酵素を利用してインビボ又はインビトロで重合を行うことができる。
【0164】
長鎖プレニル鎖延長酵素としては、特に限定されず、公知のものを使用できる。
【0165】
BBR、BSBRをバイオマス資源から直接得る方法としては、例えば、ジエン重合能を保有する微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体からなる群より選択される少なくとも1種を培養(組織培養)することによって、バイオマス資源より直接BBR、BSBRに変換する方法、ブタジエン(好ましくはバイオマス資源から得られたブタジエン)、スチレン(好ましくはバイオマス資源から得られたスチレン)を添加した培地で、微生物、植物、動物、及びこれらの組織培養体からなる群より選択される少なくとも1種を培養することによって、BBR、BSBRを重合させる方法等が挙げられる。
【0166】
前記ジエン重合能を保有する微生物等としては、例えば、パラゴムノキ、インドゴムノキ、タンポポ、イチヂク、ノゲシ、セイタカアワダチソウ、グアユーレ、サボジラ、トチュウ等の植物やそれらの組織培養体が好適に挙げられる。
【0167】
なお、微生物等を培養する場合、通常、炭素源としてグルコース等の糖類が使用されるため、微生物等により製造される化合物は、全てバイオマス資源由来物質に該当する。
【0168】
ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量%中のバイオマス由来ゴム(好ましくはBBR)の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0169】
(ゴム成分以外の配合剤)
前記ゴム組成物A相は、樹脂を含有することが好ましい。
樹脂としては、例えば、シクロペンタジエン系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、芳香族系樹脂、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、クマロンインデン系樹脂(クマロン、インデン単体樹脂を含む)、オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、水素添加物(水添樹脂)であってもよい。また、前記樹脂が、シリカと相互作用する極性官能基で変性されていることも好ましい。シリカと相互作用する極性官能基としては、上述した、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基と同様の基が同様の好ましい態様で用いられる。
【0170】
なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、シクロペンタジエン系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、芳香族系樹脂、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂が好ましい。
また、前記樹脂が、テルペン系樹脂、及びロジン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることも好ましい。これらの樹脂は、天然由来の樹脂であるため、環境負荷をより低減できるとともに、乾燥路面でのグリップ性能等のタイヤ性能を向上させることができる。
また、前記樹脂が、シクロペンタジエン系樹脂、C5系樹脂、C5/C9系樹脂、及びC9系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であるも好ましい。これにより、耐摩耗性能と低燃費性の総合性能(耐摩耗性能、低燃費性の2つの指数の総和で表す)を向上させることができ、特にシリカ高配合時に耐摩耗性能と低燃費性の総合性能をより向上させることができる。
また、前記樹脂が、芳香族系樹脂であることも好ましい。これにより、効果がより好適に得られるだけではなく、グリップ性能、耐摩耗性、ゴム強度をバランスよく向上させることができる。
前記樹脂としては、芳香族系樹脂が最も好ましい。
【0171】
シクロペンタジエン系樹脂は、シクロペンタジエン系単量体を構成モノマーとして含むポリマーであり、例えば、シクロペンタジエン系単量体1種を単独で重合した単独重合体、2種以上のシクロペンタジエン系単量体を共重合した共重合体の他、シクロペンタジエン系単量体及びこれと共重合し得る他の単量体との共重合体も挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0172】
シクロペンタジエン系単量体としては、例えば、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジシクロペンタジエンが好ましい。
【0173】
効果がより良好に得られる傾向があるという理由から、シクロペンタジエン系樹脂は、ジシクロペンタジエン(DCPD)を構成モノマーとして含むポリマー(DCPD系樹脂)であることが好ましく、DCPDと芳香族系単量体との共重合体、DCPDとC9留分(ビニルトルエン、インデン等)との共重合体(DCPD-C9樹脂)であってもよい。
なお、本明細書において、DCPD-C9樹脂のように、シクロペンタジエン系単量体及び芳香族系単量体を構成モノマーとして含むポリマーは、芳香族系樹脂ではなく、シクロペンタジエン系樹脂として取り扱う。
【0174】
テルペン系樹脂としては、テルペン化合物を重合して得られるポリテルペン樹脂や、テルペン化合物と芳香族化合物とを重合して得られる芳香族変性テルペン樹脂などを使用できる。また、これらの水素添加物も使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0175】
ポリテルペン樹脂は、テルペン化合物を重合して得られる樹脂である。テルペン化合物は、(Cの組成で表される炭化水素及びその含酸素誘導体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオールなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0176】
ポリテルペン樹脂としては、上述したテルペン化合物を原料とするピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、ピネン/リモネン樹脂などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ピネン樹脂が好ましい。ピネン樹脂は、通常、異性体の関係にあるα-ピネン及びβ-ピネンの両方を含んでいるが、含有する成分の違いにより、β-ピネンを主成分とするβ-ピネン樹脂と、α-ピネンを主成分とするα-ピネン樹脂とに分類される。
【0177】
芳香族変性テルペン樹脂としては、テルペン化合物及びフェノール系化合物を原料とするテルペンフェノール樹脂や、テルペン化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンスチレン樹脂などが挙げられる。また、テルペン化合物、フェノール系化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンフェノールスチレン樹脂を使用することもできる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、芳香族変性テルペン樹脂のように、テルペン化合物及びフェノール系化合物を構成モノマーとして含むポリマーは、芳香族系樹脂ではなく、テルペン系樹脂として取り扱う。
【0178】
効果がより良好に得られる傾向があるという理由から、テルペン系樹脂としては、ポリテルペン樹脂が好ましく、β-ピネン樹脂がより好ましい。
【0179】
ロジン系樹脂としては、松脂を加工することにより得られるアビエチン酸、ピマール酸などの樹脂酸を主成分とするガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの天然産のロジン樹脂(重合ロジン)、水素添加ロジン樹脂、マレイン酸変性ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジングリセリンエステル、不均化ロジン樹脂などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0180】
芳香族系樹脂は、芳香族系単量体を構成モノマーとして含むポリマーであり、例えば、芳香族系単量体1種を単独で重合した単独重合体、2種以上の芳香族系単量体を共重合した共重合体の他、芳香族系単量体及びこれと共重合し得る他の単量体との共重合体も挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0181】
芳香族系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-フェニルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン等のスチレン系単量体;フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール等のフェノール系単量体;ナフトール、アルキルナフトール、アルコキシナフトール等のナフトール系単量体;等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、スチレン系単量体が好ましく、スチレン、α-メチルスチレンがより好ましい。
【0182】
効果がより良好に得られる傾向があるという理由から、芳香族系樹脂は、α-メチルスチレンを構成モノマーとして含むポリマー(α-メチルスチレン系樹脂)が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。
【0183】
C5系樹脂とは、炭素数5の炭化水素及びその多量体(2量体等)の構成単位を含むポリマーである。炭素数5の炭化水素及びその多量体としては、イソプレン、ペンタン、シクロペンタジエンなどが挙げられる。C5系樹脂の具体例としては、イソプレン及びペンタンの共重合体等が挙げられる。また、C5系樹脂としては、石油化学工業のナフサの熱分解によって得られるC5留分を(共)重合して得られる脂肪族系石油樹脂も挙げられる。C5留分には、1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン等のオレフィン系炭化水素、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,2-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン等のジオレフィン系炭化水素等が含まれる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、シクロペンタジエンを構成モノマーとして含むポリマーは、シクロペンタジエン系樹脂として取り扱う。
【0184】
C9系樹脂とは、炭素数9の炭化水素及びその多量体(2量体等)の構成単位を含むポリマーである。炭素数9の炭化水素及びその多量体(2量体等)としては、インデン、メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。C9樹脂として、具体的には、C9留分をフリーデルクラフツ型触媒等を用いて(共)重合して得られる固体重合体等が挙げられ、例えば、インデンを主成分とする共重合体、メチルインデンを主成分とする共重合体、α-メチルスチレンを主成分とする共重合体、ビニルトルエンを主成分とする共重合体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、メチルスチレンを構成モノマーとして含むポリマーは、芳香族系樹脂として取り扱う。
【0185】
C5/C9系樹脂としては、前記C5系樹脂と前記C9系樹脂との混合物、C5留分及びC9留分の共重合体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
C5樹脂は脂肪族系のもの、C9樹脂は脂環族系のものが好ましい。
【0186】
樹脂の軟化点は、好ましくは30℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは80℃以上であり、また、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ポリマー(樹脂、重合体等)の軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0187】
上述の樹脂の市販品としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、ENEOS(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)、エクソンモービル社等の製品を使用できる。
【0188】
ゴム組成物A相において、樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましい。樹脂の含有量は、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上、特に好ましくは40質量部以上、最も好ましくは50質量部以上、より最も好ましくは60質量部以上であり、また、好ましくは90質量部以下、より好ましくは85質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0189】
前記ゴム組成物A相は、シリカを含有することが好ましい。
シリカとしては、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。市販品としては、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0190】
シリカは、籾殻由来のシリカ(籾殻シリカともいう)であることが好ましい。
籾殻シリカを用いることの第一の効果は、産業廃棄物となる籾殻の有効活用であり、環境対応の側面で好ましい。第二の効果は、原料の現地調達が可能となることである。
主食として世界各地で多く生産されるコメの廃棄物である籾殻のリサイクルは大切な問題であるが、籾殻シリカとして配合することにより、廃棄物低減、更には、多くの場所で生産されていることから、タイヤ製造工場の近隣で調達することにより、輸送や保管のエネルギーも少なくて済むという利点がある。
第三の効果は、籾殻シリカを配合することにより、従来から工業生産されている通常の湿式シリカと比較して、低燃費性等のタイヤ物性が向上することである。この理由は明らかではないが、籾殻由来のシリカに微量含まれている可能性のあるカーボンブラック等の成分が他成分との親和性向上に寄与する、シリカ成分単一の場合よりも低燃費性に関わる領域の粘弾性を変化させる等の理由によると思われる。
【0191】
籾殻シリカとは籾殻を加熱により炭化して得られる籾殻炭の粉末でも良いし、籾殻を燃料としてバイオマスボイラーで燃焼させた際に発生する籾殻灰をアルカリで抽出してケイ酸アルカリ水溶液を調製し、そのケイ酸アルカリ水溶液を用いて湿式法で製造された沈降シリカでも良い。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0192】
籾殻炭の製法は、特に限定されず、公知の種々の方法を用いることができ、例えば、窯を用いて籾殻を蒸し焼きにすることで熱分解させて籾殻炭を得ることができる。籾殻炭粉末は、このようにして得られる籾殻炭を公知の粉砕機(例えば、ボールミル)を用いて粉砕し、所定の粒径範囲に選別し分級したものを用いることができる。
籾殻から沈降シリカを製造する方法は、特開2019-38728号公報記載の方法などで製造することができる。
籾殻シリカは特にタイヤ生産工場から近い地域で生産されたものであることが好ましい。
【0193】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは100m/g以上、更に好ましくは150m/g以上である。また、シリカのNSAの上限は特に限定されないが、好ましくは350m/g以下、より好ましくは250m/g以下、更に好ましくは230m/g以下、特に好ましくは200m/g以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0194】
ゴム組成物A相において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、100質量部以上であり、好ましくは110質量部以上である。該含有量の上限は、好ましくは300質量部以下、より好ましくは200質量部以下、更に好ましくは180質量部以下、特に好ましくは150質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0195】
前記ゴム組成物A相において、樹脂の含有量/シリカの含有量は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上、特に好ましくは0.4以上であり、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは0.9以下、特に好ましくは0.8以下、最も好ましくは0.7以下、より最も好ましくは0.6以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、この関係において、樹脂の含有量、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対する含有量(単位:質量部)である。
【0196】
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系等があげられる。市販されているものとしては、例えば、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤が好ましい。
【0197】
前記ゴム組成物A相において、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは6質量部以上、更に好ましくは8質量部以上であり、また、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0198】
前記ゴム組成物A相は、カーボンブラックを含有することが好ましい。
カーボンブラックとしては、特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0199】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、50m/g以上が好ましく、70m/g以上がより好ましく、90m/g以上が更に好ましい。また、前記NSAは、200m/g以下が好ましく、150m/g以下がより好ましく、130m/g以下が更に好ましい。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2001によって求められる。
【0200】
前記ゴム組成物A相において、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上であり、また、10質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0201】
前記ゴム組成物A相において、シリカ及びカーボンブラックの合計含有量100質量%中、シリカの含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上であり、上限は100質量%であってもよいが、好ましくは98質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0202】
前記ゴム組成物A相は、液体可塑剤(常温(25℃)で液体状態の可塑剤)を含有することが好ましい。
液体可塑剤(常温(25℃)で液体状態の可塑剤)としては特に限定されず、オイル、液状ポリマー(液状ジエン系ポリマーなど)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、オイルが好ましい。
【0203】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。市販品としては、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)、日清オイリオグループ(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、プロセスオイル(パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等)、植物油が好ましく、アロマ系プロセスオイルがより好ましい。
【0204】
液状ジエン系ポリマーとしては、25℃で液体状態の液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)、液状ファルネセン重合体、液状ファルネセンブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、末端や主鎖が極性基で変性されていても構わない。また、これらの水素添加物も使用可能である。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0205】
前記ゴム組成物A相において、液体可塑剤(好ましくはオイル)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。該含有量の上限は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、液体可塑剤(好ましくはオイル)の含有量には、油展ゴムに含まれるオイルも含まれる。
【0206】
前記ゴム組成物A相は、老化防止剤を含有してもよい。
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤等が挙げられる。市販品としては、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましく、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤を併用することがより好ましい。
【0207】
前記ゴム組成物A相において、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは12質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは8質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0208】
前記ゴム組成物A相は、ワックスを含有してもよい。
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックス等が挙げられる。市販品としては、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0209】
前記ゴム組成物A相において、ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0210】
前記ゴム組成物A相は、ステアリン酸を含有してもよい。
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0211】
前記ゴム組成物A相において、ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0212】
前記ゴム組成物A相は、酸化亜鉛を含有してもよい。
酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、市販品としては、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0213】
前記ゴム組成物A相において、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0214】
前記ゴム組成物A相は、硫黄を含有することが好ましい。
硫黄としては、ゴム工業において一般的に架橋剤として用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄等が挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0215】
前記ゴム組成物A相において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上であり、好ましくは8質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0216】
前記ゴム組成物A相は、加硫促進剤を含有することが好ましい。
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N′-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。市販品としては、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤を併用することがより好ましい。
【0217】
前記ゴム組成物A相において、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、また、好ましくは8質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは5.5質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0218】
前記ゴム組成物には、前記成分の他、タイヤ工業において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機過酸化物;炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレー、水酸化アルミニウム、マイカなどの充填剤;等を更に配合してもよい。これらの添加剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~200質量部が好ましい。
【0219】
前記ゴム組成物は、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0220】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは80~110℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。加硫時間は、通常5~15分である。
【0221】
(ゴム粉(ゴム組成物B相))
前記ゴム組成物A相は、更に、ゴム粉を含有することが好ましい。ゴム粉は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ゴム組成物Aが、更に、ゴム粉を含有することにより、ゴム組成物A中において、ゴム粉がゴム組成物Bとして独立して存在することとなり、互いに独立して境界を有するゴム組成物A相とゴム組成物B相を有し、ゴム組成物B相が、ゴム組成物A相に分断されて、ゴム組成物A相中に独立して存在するキャップトレッドが好適に得られる。このように、ゴム組成物B相がゴム粉であることが好ましい。
また、本発明の乗用車タイヤのキャップトレッドはまた、ゴム成分と、ゴム粉を有し、ゴム成分100質量部に対してシリカを100質量部以上、カーボンブラックを10質量部以下含有し、ゴム粉が、ゴム粉に含まれるゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部以上、シリカを13~20質量部含有する乗用車タイヤのキャップトレッドである。
【0222】
ゴム組成物B相において、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部以上、シリカを13~20質量部含有する。カーボンブラック、シリカとしては、前記ゴム組成物Aと同様のものが同様の好ましい態様で用いられる。
【0223】
ゴム組成物B相において、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上、特に好ましくは40質量部以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは50質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0224】
ゴム組成物B相において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは18質量部以下であり、好ましくは15質量部以上である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0225】
ゴム組成物B相に用いられる配合剤は、前記ゴム組成物Aと同様のものが同様の好ましい態様で用いられる。
【0226】
ゴム組成物B相において、イソプレンに由来するユニットの含有量は、全ゴム成分のユニット100質量%中、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
この場合、ゴム組成物B相において、ブタジエンに由来するユニットの含有量は、全ゴム成分のユニット100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0227】
ゴム組成物B相において、シス含量が90質量%以上のブタジエンゴム(ハイシスBR)をゴム成分100質量%中1~40質量%含有することが好ましい。下限は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上であり、上限は、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0228】
ゴム粉の調製方法としては、例えば、前記各成分を配合したゴム組成物Bを前記方法等に従って、混練、加硫処理を施し、得られた加硫ゴム組成物を必要に応じて粉砕すればよい。
【0229】
ゴム組成物B相(ゴム粉)の体積平均粒子径は、1000μm以下であることが好ましい。体積平均粒子径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下であり、小さいほど好ましいため下限は特に限定されない。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定され、例えば、堀場製作所(株)製「CAPA500」を用いて測定できる。
【0230】
ゴム組成物B相(ゴム粉)の60メッシュふるい残分は、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であり、下限は特に限定されない。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
また、ゴム組成物B相(ゴム粉)の80メッシュふるい残分は、好ましくは10質量%未満、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下であり、下限は特に限定されない。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ふるい残分は、ASTM D5644-01に従って測定される。
【0231】
ゴム組成物B相(ゴム粉)は、アセトン抽出法により求められるアセトン抽出分が、好ましくは12質量%以下、より好ましくは11質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、ゴム組成物B相(ゴム粉)中のアセトン抽出分とは、JIS K6350に準拠するアセトン抽出法により求められるアセトン抽出分(%)をいう。
【0232】
前記ゴム組成物A相において、ゴム組成物B相(ゴム粉)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、また、好ましくは200質量部以下、より好ましくは150質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、特に好ましくは50質量部以下、最も好ましくは30質量部以下、より最も好ましくは15質量部以下、更に最も好ましくは10質量部以下、特に最も好ましくは5質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0233】
前記ゴム組成物は、トレッド(キャップトレッド)に用いることができる。キャップトレッド及びベーストレッドで構成されるトレッドの場合、キャップトレッドにより好適に使用可能である。
【0234】
キャップトレッドゴム100質量%中、ゴム組成物A相の含有量は、好ましくは40~99質量%である。該含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、好ましくは99質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0235】
本発明のタイヤ(空気入りタイヤ等)は、前記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材(特に、トレッド(キャップトレッド))の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0236】
なお、前記タイヤのタイヤ部材(例えば、トレッド)は、少なくとも一部が前記ゴム組成物で構成されていればよく、全部が前記ゴム組成物で構成されていてもよい。
【0237】
前記タイヤは、乗用車タイヤである。
なお、本明細書において、乗用車タイヤとは、4輪走行する自動車に装着することを前提としたタイヤであり、最大負荷能力(JATMA、ETRTOなどで示される)が1000kg以下のものを意味する。ここで、最大負荷能力は、好ましくは900kg以下、より好ましくは800kg以下、更に好ましくは700kg以下であり、下限は特に限定されない。
【0238】
前記タイヤは、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイヤ、スタッドタイヤ)、オールシーズンタイヤ、夏用タイヤ、ランフラットタイヤ等として好適に用いられる。
【実施例0239】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0240】
下記製造例で得られたブタジエン、ブタジエンゴムについて、下記の方法にて評価を行った。
【0241】
(ブタジエン、ブタジエンゴムのpMC)
ブタジエン、スチレン、スチレンブタジエンゴム等のpMCは、下記の方法にて、ASTMD6866-10に準拠して測定した。
試料(ブタジエン、スチレン、ブタジエンゴム又はスチレンブタジエンゴム)を燃焼させ、二酸化炭素(CO)を発生させ、該二酸化炭素を真空ラインで精製した。次に、鉄を触媒として、精製した二酸化炭素を水素で還元し、グラファイト(C)を生成させた。そして、得られたグラファイトを内径1mmのカソードにハンドプレス機で詰め、それをホイールにはめ込み、測定装置(タンデム加速器をベースとした14C-AMS 専用装置(NEC社製))に装着した。該測定装置により、14C濃度、13C濃度の測定を行い、米国国立標準局(NIST)から提供されたシュウ酸を標準試料として、バイオマス比率を示すpMC(%)を算出した。なお、pMCの算出の際に、13C濃度値による補正を行った。
【0242】
(ブタジエンゴムのシス含量)
BRUKER社製AV400のNMR装置、データ解析ソフトTOP SPIN2.1を用いてシス含量を測定した。
【0243】
(ゴムの重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn))
下記の条件(1)~(8)でゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法により、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定した。そして、測定したMw、Mnから重合体の分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
(1)装置:東ソー社製HLC-8020
(2)分離カラム:東ソー社製GMH-XL(2本直列)
(3)測定温度:40℃
(4)キャリア:テトラヒドロフラン
(5)流量:0.6mL/分
(6)注入量:5μL
(7)検出器:示差屈折
(8)分子量標準:標準ポリスチレン
【0244】
製造例1(ブタノールからブタジエンを製造)
<バイオブタノールの製造>
300mlの発酵槽(DASGIP)にSoni et al(Soniet al,1987,Appl.Microbiol.Biotechnol.27:1-5)に記載の250mlの合成培地(糖類を含む)を満たし、窒素で30分スパージした。そこにClostridium acetobutylicum(ATCC824)を嫌気性条件下で、接種した。培養温度は35℃に一定維持し、pHはNHOH溶液を用い、5.5に調節した。培養中、嫌気性条件を維持し、振盪速度は300rpmで維持した。5日間培養後、培養液を蒸留し、従来より周知となっているイオン交換樹脂法により分離して、バイオブタノール(1-ブタノール)を得た。
【0245】
<バイオブタノールからブタジエンを製造>
図1に示す装置を用いて、<バイオブタノールの製造>により得られたバイオブタノール(1-ブタノール)を原料として、バイオマス由来ブタジエンを合成した。
【0246】
アルコール導入管(原料導入管)21と、導入されたアルコールを気化させる加熱装置(電気炉)22と、該アルコールを脱水反応させる脱水反応用カラム23と、該脱水反応で得られた生成物を冷却して精製アルケン混合物から水を除去するための冷却装置24と、該アルケンを気化させる加熱装置25と、該アルケンから更に脱水素反応してブタジエンを合成する二段目反応カラム26と、生成した反応生成物を回収するための冷却装置27とを備える装置(図1参照)を用いた。脱水反応用カラム23は、触媒として酸化アルミニウム(メルク(株)製の101095100)を10g充填した。
【0247】
二段目の脱水素化反応の触媒は、以下のようにして調整した。硝酸クロム5.8gをイオン交換水に溶解させ、この中にSSZ-35型ゼオライト(シリカ/アルミナ比:40)6gを入れて含浸させ、一晩放置した。その後、100℃のオーブン中で乾燥させて前駆体を得た。この前駆体をセラミックス製容器中に入れ、空気の存在下に700℃で3時間の焼成を行って、クロム10質量%を含むクロム担持ゼオライト触媒を得た。
そして、二段目反応カラム26に、前記クロム担持ゼオライト触媒を10g充填した。
【0248】
ガス導入管(図示せず)より脱水反応用カラム23に窒素ガスを供給した。窒素ガスの供給速度はLHSV換算で1/hrとした。加熱装置22によって脱水反応用カラム23を所定温度まで昇温した後、アルコール導入管21よりバイオブタノールを所定量供給した。反応条件は、反応温度:500℃、反応圧力:常圧、バイオブタノールと窒素とのモル比(バイオブタノール/窒素):50/50とした。反応時間は2時間とした。生成物を脱水反応用カラム23に連結された冷却装置(生成物トラップ)24に集め、水を分離した。
【0249】
二段目反応カラム26は、500℃に加熱した。冷却装置(生成物トラップ)27は、-20℃に冷却した。冷却装置(生成物トラップ)24を通じて、予備加熱した混合気体(一段目の脱水反応で得られたブテン混合物/窒素/空気を1:1:1)を供給速度はLHSV換算で1/hr導入し、得られた反応混合物を特開昭60-115532号公報に記載の方法で分離、精製することにより、バイオマス由来のブタジエンを8%の収率で得た。得られたブタジエン(バイオマス由来ブタジエン)のバイオマス比率を示すpMCの値は、105%であった。
【0250】
製造例2(バイオエタノールからブタジエンを製造)
図1の装置を用いて、エタノールをブタジエンに変換する公知の方法(Kirshenbaum, I. (1978). Butadiene. In M. Grayson (Ed.), Encyclopedia of Chemical Technology, 3rd ed., vol. 4, pp. 313-337. New York: John Wiley & Sons.)により、市販のバイオエタノールを用いて、バイオマス由来ブタジエンを合成した。得られたブタジエン(バイオマス由来ブタジエン)のバイオマス比率を示すpMCの値は、108%であった。
【0251】
製造例3(バイオエチレンからブタジエンを製造)
酢酸パラジウム 0.5mmol/Lを、0.3mol/L NaPMo40 に溶解して調製した触媒を図1の装置の二段目反応カラム26に導入し、装置をアルゴン置換した。そこにバイオマス由来のエチレン(試作品、トウモロコシ由来バイオエタノールよりの製品)を導入した。装置を150℃、0.5MpaGの条件下で循環ライン28を通じて触媒溶液を循環させながら1時間反応した。冷却装置27のドレインを通じて触媒溶液を除去後、バイオエタノールを浸漬させたアルミナ触媒(住友化学社製アルミナKHA-46)を投入し、400℃で5時間反応させた。反応混合物をGC/MSにて分析することにより、ブタジエンの生成を確認した。得られたブタジエン(バイオマス由来ブタジエン)のバイオマス比率を示すpMCの値は、109%であった。
【0252】
製造例4(チグリン酸からブタジエンを製造)
ハズ油より分離・精製したチグリン酸(生体内アミノ酸経由中間体)500mg、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)30mg、トリエチルホウ素10mgをアルゴン充填したオートクレーブにいれ、200℃で1時間反応させた。生成物をGC/MSで分析することにより、ブタジエンの生成を確認した。得られたブタジエン(バイオマス由来ブタジエン)のバイオマス比率を示すpMCの値は、108%であった。
【0253】
製造例1~4で得られたバイオマス由来ブタジエンをBRUKER社製AV400のNMR装置(データ解析ソフトTOP SPIN2.1)を用いて測定したところ、これらのブタジエンは、1,3-ブタジエンであることを確認した。
【0254】
製造例5(バイオマスブタジエンゴム(バイオBR)の製造)
バイオマス由来のブタジエンとして、製造例1~4で得られたバイオマス由来ブタジエン(1,3-ブタジエン)を混合したものを、モノマー成分として使用してブタジエンゴム(バイオマス由来ゴム)の合成を行った。
使用した薬品は、以下のとおりである。
イオン交換水:自社製
ロジン酸カリウム石鹸:ハリマ化成(株)製
脂肪酸ナトリウム石鹸:富士フイルム和光純薬(株)製
塩化カリウム:富士フイルム和光純薬(株)製
ナフタレンスルホン酸ソーダホルマリン縮合物:花王(株)製
t-ドデシルメルカプタン:富士フイルム和光純薬(株)製のtert-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤)
ハイドロサルファイドナトリウム:富士フイルム和光純薬(株)製
FeSO4:富士フイルム和光純薬(株)製の硫酸第二鉄
EDTA:富士フイルム和光純薬(株)製のエチレンジアミン四酢酸ナトリウム
ロンガリット:富士フイルム和光純薬(株)製のソディウム・ホルムアルデヒド・スルホキシレート
重合開始剤:日油(株)製のパラメンタンヒドロペルオキシド
重合停止剤:富士フイルム和光純薬(株)製のN,N-ジエチルヒドロキシルアミン
2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール:住友化学(株)製のスミライザーBHT
<ブタジエンゴムの合成>
内容積50リットルのステンレス製重合反応機を洗浄、乾燥し、乾燥窒素で置換した後に1,3-ブタジエン5000g、t-ドデシルメルカプタン5.74g、乳化剤(イオン交換水、ロジン酸カリウム石鹸、脂肪酸ナトリウム石鹸、塩化カリウム、ナフタレンスルホン酸ソーダホルマリン縮合物の混合物)9688g、ハイドロサルファイドナトリウム6.3ml(1.8M)、活性剤(FeSO4/EDTA/ロンガリット)各6.3ml、重合開始剤6.3ml(2.3M)を添加し、攪拌下に10℃で3時間重合を行った。重合完了後、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン2.9g添加し、30分反応させ重合反応容器の内容物を取り出し、10gの2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールを加え、水の大部分を蒸発させた後、55℃で12時間減圧乾燥し、バイオブタジエン重合体(バイオマスブタジエンゴム(バイオBR)、得られたバイオBRのバイオマス比率を示すpMCは105%)を得た。
【0255】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
NR:TSR20(NR)
バイオBR:前記製造例5で作製したBR(シス含量:98質量%、Mw:40万、Mw/Mn:4.2)
ゴム粉1:LehighTECHNOLOGIES社製PolyDyne40(ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを51質量部、シリカを7~10質量部含有し、全ゴム成分のユニット100質量%中、イソプレンに由来するユニットの含有量:66質量%、ブタジエンに由来するユニットの含有量:34質量%であり、ハイシスBR(シス含量:97質量%)をゴム成分100質量%中26質量%含有し、体積平均粒子径:281μm、60メッシュふるい残分:1質量%以下、80メッシュふるい残分:0.1質量%、アセトン抽出分:6.1質量%)
ゴム粉2:LehighTECHNOLOGIES社製PolyDyne60(ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを54質量部、シリカを8~11質量部含有し、全ゴム成分のユニット100質量%中、イソプレンに由来するユニットの含有量:86質量%、ブタジエンに由来するユニットの含有量:14質量%であり、ハイシスBR(シス含量:97質量%)をゴム成分100質量%中14質量%含有し、体積平均粒子径:131μm、60メッシュふるい残分:0.1質量%、80メッシュふるい残分:0.1質量%、アセトン抽出分:6.3質量%)
ゴム粉3:LehighTECHNOLOGIES社製PolyDyne80(ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを54質量部、シリカを9~12質量部含有し、全ゴム成分のユニット100質量%中、イソプレンに由来するユニットの含有量:40質量%、ブタジエンに由来するユニットの含有量:10質量%であり、ハイシスBR(シス含量:97質量%)をゴム成分100質量%中10質量%含有し、体積平均粒子径:114μm、60メッシュふるい残分:0.1質量%、80メッシュふるい残分:0.1質量%、アセトン抽出分:6.5質量%)
ゴム粉4:LehighTECHNOLOGIES社製PolyDyne140(ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを46質量部、シリカを15~18質量部含有し、全ゴム成分のユニット100質量%中、イソプレンに由来するユニットの含有量:42質量%、ブタジエンに由来するユニットの含有量:11質量%であり、ハイシスBR(シス含量:97質量%)をゴム成分100質量%中11質量%含有し、体積平均粒子径:64μm、60メッシュふるい残分:0.1質量%以下、80メッシュふるい残分:0.1質量%以下、アセトン抽出分:7.5質量%)
ゴム粉5:LehighTECHNOLOGIES社製PolyDyne200(ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを46質量部、シリカを15~18質量部含有し、全ゴム成分のユニット100質量%中、イソプレンに由来するユニットの含有量:65質量%、ブタジエンに由来するユニットの含有量:35質量%であり、ハイシスBR(シス含量:97質量%)をゴム成分100質量%中26質量%含有し、体積平均粒子径:53μm、60メッシュふるい残分:0.1質量%、80メッシュふるい残分:0.1質量%、アセトン抽出分:7.2質量%)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックN220(NSA:111m/g)
シリカ:エボニックデグッサ社製のウルトラシルVN3(NSA:175m/g)
籾殻シリカ:特開2019-38728号公報記載の方法により製造した籾殻シリカ(NSA:175m/g)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH-24(アロマ系プロセスオイル)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
樹脂1:アリゾナケミカル社製のSylvatraxx4401(α-メチルスチレン系樹脂(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体)、軟化点:85℃)
樹脂2:アリゾナケミカル社製のSylvatraxx4150(β-ピネン樹脂、β-ピネン含有量:98質量%以上、軟化点:115℃)
樹脂3:荒川化学工業(株)製のパインクリスタルKR-85(ロジン系樹脂、軟化点:80~87℃)
樹脂4:丸善石油化学(株)製のマルカレッツM-890A(ジシクロペンタジエン系樹脂、軟化点:105℃)
樹脂5:エクソンモービル社製のECR-373(C5留分及びC9留分の共重合体(C5/C9系樹脂)、軟化点:86℃)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:精工化学(株)製のノンフレックスRD(ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン))
硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5質量%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(ジフェニルグアニジン)
【0256】
(実施例及び比較例)
表1~2に示す配合内容に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物をキャップトレッドの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、150℃の条件下で12分間プレス加硫し、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。
【0257】
得られた未加硫ゴム組成物、試験用タイヤを用いて下記評価を行い、結果を表1~2に示した。なお、表1の基準例を比較例1-1、表2の基準例を比較例2-1とした。
【0258】
(寸法安定性)
押出機を用いて、得られた未加硫ゴム組成物を押出し、得られた押出物を厚み方向に切断し、断面積のばらつきを変動係数(CV値)で算出し、基準例を100とする指数で示した。数値が大きい方が、シュリンク発生の抑制効果が高く、より均一に熱入れされたことにより、寸法が安定したと判断できる。
【0259】
(硬度(Hs))
前記試験用タイヤのキャップトレッドから試験片を切り出した。そして、JIS K6253の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に準じて、タイプAデュロメーターにより、試験片のHsを測定した(測定温度25℃)。結果は、基準例を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、硬度が高いことを示す。
【0260】
(引張試験)
前記試験用タイヤのキャップトレッドから試験片を切り出した。そして、JIS K6251(2010)に基づいて、得られた試験片から3号ダンベル型試験片を作製し、該試験片を用いて23℃において引張試験を実施して破断時の引張強度(TB)、破断時伸び(EB)を測定した。結果は、基準例を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、破壊強度が高いことを示す。
【0261】
(tanδ)
前記試験用タイヤのキャップトレッドから試験片を切り出した。そして、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、試験片(加硫ゴム組成物)の30℃tanδを測定した。測定条件は以下のとおりである。結果は、基準例を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、低燃費性に優れることを示す。指数が99以上の場合に、低燃費性に優れると判断した。
測定温度30℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz
【0262】
【表1】
【0263】
【表2】
【0264】
表1~2より、互いに独立して境界を有するゴム組成物A相とゴム組成物B相を有し、ゴム組成物A相において、ゴム成分100質量部に対してシリカを100質量部以上、カーボンブラックを10質量部以下含有し、ゴム組成物B相において、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部以上、シリカを13~20質量部含有し、ゴム組成物B相が、ゴム組成物A相に分断されて、ゴム組成物A相中に独立して存在する実施例のキャップトレッドは、良好な寸法安定性を有しつつ、低燃費性、破壊強度の総合性能を改善できることが分かった。
【0265】
実施例1-2、比較例1-1、1-5、1-6の対比、実施例2-2、比較例2-1、2-5、2-6の対比より、シリカの含有量が多いゴム組成物A相中に、特定配合のゴム組成物B相(例えば、ゴム粉)が独立して存在することにより、具体的には、シリカの含有量が多いゴム組成物A相中に、特定配合のゴム組成物B相(例えば、ゴム粉)が分散することにより、良好な寸法安定性を有しつつ、低燃費性、破壊強度の総合性能(低燃費性、破壊強度の2つの指数の総和で表す)を相乗的に改善できることが分かった。
【符号の説明】
【0266】
21 アルコール導入管(原料導入管)
22 加熱装置(電気炉)
23 脱水反応用カラム
24 冷却装置
25 加熱装置
26 二段目反応カラム
27 冷却装置
28 循環ライン
図1