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特開2022-179203非嗜好性集中力向上用香料及び非嗜好性集中力向上用化粧料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179203
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】非嗜好性集中力向上用香料及び非嗜好性集中力向上用化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20221125BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20221125BHJP
   A61K 8/9761 20170101ALI20221125BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A61K8/34
A61Q13/00 101
A61K8/9761
C11B9/00 C
C11B9/00 D
C11B9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086503
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐子
(72)【発明者】
【氏名】楊 勝帆
(72)【発明者】
【氏名】宗像 大朗
(72)【発明者】
【氏名】平尾 直靖
【テーマコード(参考)】
4C083
4H059
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083AC071
4C083AC072
4C083AD042
4C083AD531
4C083AD532
4C083BB41
4C083CC01
4C083EE06
4C083KK02
4H059BA12
4H059BA14
4H059BC10
4H059BC23
4H059DA09
4H059EA36
(57)【要約】
【課題】本発明は、嗜好性に依存しないで集中力を向上させことができ、それによって香りを共有する共有環境でも使用しやすい香料及び化粧料を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の非嗜好性集中力向上用香料は、cis-3-ヘキサノール、ボルネオール、及びヒノキ精油からなる群より選択される。また、本発明の非嗜好性集中力向上用化粧料は、本発明の非嗜好性集中力向上用香料を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
cis-3-ヘキサノール、ボルネオール、及びヒノキ精油からなる群より選択される、非嗜好性集中力向上用香料。
【請求項2】
学習空間又は仕事空間用である、請求項1に記載の香料。
【請求項3】
複数の人が香料の香りを共有する香り共有空間用である、請求項1又は2に記載の香料。
【請求項4】
cis-3-ヘキサノールである、請求項1~3のいずれか一項に記載の香料。
【請求項5】
ボルネオールである、請求項1~3のいずれか一項に記載の香料。
【請求項6】
ヒノキ精油である、請求項1~3のいずれか一項に記載の香料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の香料を含有する、非嗜好性集中力向上用化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非嗜好性集中力向上用香料及び非嗜好性集中力向上用化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
香料によって集中力向上、リラックス等の効果が得られることが知られている(特許文献1)。具体的には例えば、ユズ皮精油及びレモン精油のような柑橘類の精油は、交感神経を刺激して集中力を高める効果があることが知られており、また、ラベンダー精油は、副交感神経を刺激して気持ちをリラックスさせる効果があることが知られている。
【0003】
交感神経を刺激して集中力を高めると、作業効率の改善が見られることが知られているが、香りには嗜好性があり、特定の香りによる効果は人によって異なると考えられている。
【0004】
したがって、特定の香料が、ある人にとって集中力の向上に役立つ場合であっても、他の人にとっては集中力の向上をかえって害する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-105244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに対して、本発明は、嗜好性に依存しないで集中力を向上させことができ、それによって香りを共有する共有空間でも使用しやすい香料及び化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様としては下記の態様を挙げることができる。
【0008】
〈態様1〉
cis-3-ヘキサノール、ボルネオール、及びヒノキ精油からなる群より選択される、非嗜好性集中力向上用香料。
〈態様2〉
学習空間又は仕事空間用である、態様1に記載の香料。
〈態様3〉
複数の人が香料の香りを共有する香り共有空間用である、態様1又は2に記載の香料。
〈態様4〉
cis-3-ヘキサノールである、態様1~3のいずれか一項に記載の香料。
〈態様5〉
ボルネオールである、態様1~3のいずれか一項に記載の香料。
〈態様6〉
ヒノキ精油である、態様1~3のいずれか一項に記載の香料。
〈態様7〉
態様1~6のいずれか一項に記載の香料を含有する、非嗜好性集中力向上用化粧料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、cis-3-ヘキサノール、ボルネオール、又はヒノキ精油を香料として用いることによって、その香料の香りを嗜好する人の集中力を向上させるだけでなく、その香りを嗜好しない人の収集力を妨げす、むしろ場合によっては向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の非嗜好性集中力向上用香料は、cis-3-ヘキサノール、ボルネオール、及びヒノキ精油からなる群より選択される。
【0011】
本発明の発明者らは、cis-3-ヘキサノール、ボルネオール、又はヒノキ精油を香料として使用することによって、これらの香りを嗜好する人は、集中力向上効果を得ることができ、またこれらの香りを嗜好しない人も、集中力を妨げられず、むしろ場合によっては集中力向上効果が得られることを見いだした。一般に香料による集中力の向上は、その香料の香りを嗜好するか否かが影響しており、特定の香りによる効果は人によって異なると考えられていたので、特定の香料によって、嗜好性に依存せずに集中力を促進できることは予想外であった。
【0012】
なお、本発明に関して、「非嗜好性集中力向上」は、これらの香りを嗜好する人は、集中力向上効果を得ることができ、またこれらの香りを嗜好しない人も、集中力を妨げられず、むしろ場合によっては集中力向上効果が得られることを意味している。
【0013】
本発明に関して、cis-3-ヘキサノール、ボルネオール、及びヒノキ精油としては、任意のものを使用することができる。なお、cis-3-ヘキサノールは緑茶の香り成分として知られており、またボルネオールは墨汁の香り成分として知られている。
【0014】
本発明の非嗜好性集中力向上用香料の使用においては、本発明の香料を溶解可能な溶媒に本発明の香料を溶解させて、又は本発明の香料を溶解しない液体媒体、例えば水又はお湯に本発明の香料を分散させて又は浮かべて用いることができる。
【0015】
また、本発明の香料そのもの、又は上記のような溶媒若しくは液体媒体と組み合わせた本発明の香料(以下では、「本発明の香料等」として言及する)は、アロマディフューザーを用いて拡散を促進させることができる。アロマディフューザーとしては、本発明の香料等を、自然に気化させるもの、又は加熱、超音波、送風、噴霧、若しくはそれらの組み合わせによって気化させるものを用いることができる。また、アロマディフューザーにおける本発明の香料等の保持の形態としては、本発明の香料等を液体の状態でそのまま保持するもの、又は不織布等の布帛、木等の多孔質材料のスティック、珪藻土等の多孔質無機材料のプレートに香料等を含浸させて保持するものを挙げることができる。
【0016】
本発明の香料の集中力向上という作用を効果的に用いるためには、本発明の香料は、学習空間及び/又は仕事空間において用いることができる。特に、複数の人が香料の香りを共有する香り共有空間、例えば共有学習空間又は共有仕事空間における本発明の香料の使用は、これらの香りを嗜好する人の集中力向上をさせることができ、かつこれらの香りを嗜好しない人の集中力を妨げず、むしろ場合によっては集中力を向上させることができるので好ましい。
【0017】
また、本発明の非嗜好性集中力向上用香料の使用においては、本発明の香料を、化粧水、乳液、クリームのような化粧品に含有させて、非嗜好性集中力向上用化粧料として用いることができる。本発明の非嗜好性集中力向上用香料及び化粧料は、非嗜好性集中力向上用である旨の記載を有する容器及び/又はパッケージに収容することができ、それによって非嗜好性集中力向上用であることを明示できる。
【実施例0018】
下記の実験プロトコルを用いて、各香料による集中力向上効果について評価した。
使用する香料: ジプロピレングリコール(DPG)(無臭の参照試料)、レモン皮精油、ユズ皮精油、ヒノキ精油、cis-3-ヘキサノール(緑茶の香り成分)、ボルネオール(墨汁の香り成分)
被験者: 20~40代女性(25名)
実験日: 2日間にわたって午後に測定(各日3種×2日間)
香り提示: コットンに香料を染み込ませ鼻下に貼付(4μL)
課題: 2バックテスト
試験時間: 各香料について15分
測定指標: アンケート
【0019】
ここで、2バックテストのようなNバックテストとは、実験参加者の脳活動を調べる際や心理実験などでよく用いられる持続処理課題(Continuous Performance Task)である。実験参加者は一連の刺激(画像や文字)を順番に提示され、現在提示されている刺激がN回前の刺激と同じかどうかを回答する。Nの大きさによって課題の難易度を調節する。今回は2バックテストであり、刺激には画像を用いて、パソコンのモニター上に画像を提示した。実験参加者は現在提示されている画像が2回前の画像と同一であった場合のみマウスをクリックし、同一でなかった場合は何もしない。2回前の画像と同一だったのに、マウスをクリックしなかった場合、及び同一でなかったのにマウスをクリックした場合は誤回答となる。
【0020】
試験のアンケート結果の評価においては、まず、香料の嗜好性についての下記の表1の嗜好性評価において、1~4(非常に嫌い~どちらもといえない)の評価をつけた被験者のグループと、5~7(やや好き~非常に好き)の評価をつけた被験者のグループとの2グループに分け、それぞれのグループについてアンケート結果を評価した。
【0021】
【表1】
【0022】
なお、集中力に関するアンケートは下記の表2に示す基準で行った。
【0023】
【表2】
【0024】
嗜好性評価においてそれぞれの香料に5~7(やや好き~非常に好き)の評価をつけた被験者のグループについてのアンケート結果の平均値を下記の表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
表3で示されているとおり、対象の香料を嗜好する被験者のグループは、これらの香料によって集中力向上効果を得ることができた。
【0027】
嗜好性評価においてそれぞれの香料に1~4(非常に嫌い~どちらもといえない)の評価をつけた被験者についてのアンケート結果の平均値を下記の表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
表4で示されているとおり、レモン皮精油及びユズ皮精油の香りを嗜好しない被験者のグループは、これらの香料によって集中が妨げられた。しかしながら、予想外に、ヒノキ精油、cis-3-ヘキサノール(緑茶)、及びボルネオール(墨汁)の香りを嗜好しない対象者のグループは、これらの香料によって集中力を妨げられず、むしろcis-3-ヘキサノール(緑茶)、及びボルネオール(墨汁)によって集中力向上効果が得られた。