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特開2022-179205ゴム組成物及びゴム組成物から成形されるシール材
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  • 特開-ゴム組成物及びゴム組成物から成形されるシール材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179205
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びゴム組成物から成形されるシール材
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/16 20060101AFI20221125BHJP
   C08L 83/10 20060101ALI20221125BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20221125BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
C08L23/16
C08L83/10
C08L83/04
F16J15/10 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086521
(22)【出願日】2021-05-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】川島 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】金田 青
【テーマコード(参考)】
3J040
4J002
【Fターム(参考)】
3J040FA06
3J040HA15
4J002BB151
4J002CP033
4J002CP172
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】低温環境下における相手材との固着防止性に優れ、また、優れた成形性を有するゴム組成物を提供する。
【解決手段】(A)エチレンプロピレンジエンポリマーと、(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体と、を含み、前記(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体を0.30質量部以上9.0質量部未満含むゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレンプロピレンジエンポリマーと、(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体と、を含み、
前記(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体を0.30質量部以上9.0質量部未満含むゴム組成物。
【請求項2】
前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体が、(B1)シリコーン鎖とポリオレフィン鎖を有するブロック共重合体である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記(B1)シリコーン鎖とポリオレフィン鎖を有するブロック共重合体が、
下記式(1)
[a1]-[b]-[a2] (1)
(式中、[a1]、[a2]は、それぞれ独立に、ポリオレフィン鎖、[b]は、シリコーン鎖を示す。)で表されるトリブロック共重合体である請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体が、ポリオレフィンを含むポリオレフィン部と複合体を形成している請求項1乃至3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体を0.90質量部以上6.0質量部以下含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ポリオレフィン鎖が、炭素数2以上20以下のオレフィンに由来する構造単位を含む請求項2または3に記載のゴム組成物。
【請求項7】
さらに、シリコーンオイルを含む請求項1乃至6のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
バルブのシール材用である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のゴム組成物から成形される成形材。
【請求項10】
前記成形材が、バルブ用シール材である請求項9に記載の成形材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンプロピレンジエンポリマーとシリコーン鎖を有するブロック共重合体を含むゴム組成物に関し、特に、低温環境下における相手材との固着防止性と成形性に優れた成形材を得ることができるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンプロピレンジエン(EPDM)ポリマーを主成分とする組成物は、耐水性、機械的特性に優れる等の点から、Oリングやパッキン等のシール材、例えば、耐水性が要求されるバルブの弁体(遮断弁)に用いられるシール材として使用される。流体を遮断するバルブは、所定の条件では開弁した状態で流体を流し、それ以外の条件では閉弁して流体の流通を遮断する。
【0003】
しかし、バルブの遮断弁が長期にわたって閉弁状態となっている場合、EPDMポリマーを主成分とするシール材は粘着性を有することから、遮断弁が閉弁している間に、流体が流通する流路部材等の相手材に貼り付いてしまい、円滑に開弁できなくなる場合があった。また、バルブの遮断弁は、バルブの保管時は、一般的に、閉弁の状態となっているので、バルブを備えた製品を長期保管している間に、相手材にバルブの弁体が貼り付いてしまい、円滑に開弁できなくなる場合があった。
【0004】
そこで、相手材である金属面と接して用いられるゴム成形物において、該ゴム成形物本体表面に融点 100℃~160℃のオレフィン系炭化水素化合物よりなる離型性皮膜を一体に形成してなるゴム成形物が提案されている(特許文献1)。特許文献1のゴム成形物では、弁体のシール材として使用しても、相手材である金属面と長期間接触または圧接させても相手材への貼り付きを防止できるとしている。
【0005】
しかし、バルブの遮断弁が低温環境下で使用される場合には、シール材の粘着性がさらに増加することから、閉弁している間に、バルブの遮断弁が相手材に強く貼り付いて固着してしまうことがあった。特許文献1のゴム組成物を弁体のシール材として使用しても、バルブが低温環境下で長期にわたって閉弁状態となっていると、依然として、遮断弁が相手材と固着してしまうことがあり、低温環境下における相手材との固着防止性に改善の必要性があった。また、低温環境下においては、シール材の粘着性がさらに増加することから、特許文献1のゴム組成物では、バルブを備えた製品を長期保管している間、相手材とバルブの遮断弁との貼りつきが強くなって、常温環境下での製品保管時よりもさらに開弁しにくくなってしまうことを防止できないという問題があった。
【0006】
さらに、特許文献1のゴム成形物は、ゴム配合物100質量部に対し、融点が100℃~160℃のオレフィン系炭化水素化合物を3質量部~20質量部添加配合し、該組成物を加硫成形してゴム成形物を得、その後、オレフィン系炭化水素化合物の融点以上の温度でゴム成形物を加熱熟成して、ゴム成形物表面にオレフィン系炭化水素化合物を滲出、冷却固化させることで離型性皮膜を一体に形成するので、ゴム成形物の成形が煩雑で難しいという問題があった。
【0007】
また、弁体のシール材に対して貼り付き防止用の表面処理やコーティングなどを施すことで、相手材への貼り付を防止することも検討されている。しかし、シール材に対する表面処理やコーティングでは、表面処理の抜けや塗布ムラ等によって、弁体の貼り付き防止性能に不具合が生じることがあり、やはり、低温環境下における相手材との固着防止性に改善の必要性があった。また、別途、シール材に対して表面処理やコーティングなどを実施する必要があるので、生産性が得られないという問題があった。
【0008】
一方で、バルブの遮断弁が低温環境下で使用されるにあたって、低温下において合成ゴム製の弁体が弁座に粘着する力が増加しても、閉弁から開弁への復帰動作の際に、合成ゴムの粘着などの復帰動作阻害要因に対して、耐性のある副弁構造を採用することが提案されている(特許文献2)。
【0009】
しかし、特許文献2でも、依然として、低温環境下における相手材である弁座との固着防止性には改善の余地があった。また、特許文献2のように、バルブの構造を改良することで弁体に相手材との固着防止性を付与するには、バルブの設計が複雑化する等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8-302045号公報
【特許文献2】特開平9-303601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、低温環境下における相手材との固着防止性に優れ、また、優れた成形性を有するゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1](A)エチレンプロピレンジエンポリマーと、(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体と、を含み、
前記(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体を0.30質量部以上9.0質量部未満含むゴム組成物。
[2]前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体が、(B1)シリコーン鎖とポリオレフィン鎖を有するブロック共重合体である[1]に記載のゴム組成物。
[3]前記(B1)シリコーン鎖とポリオレフィン鎖を有するブロック共重合体が、
下記式(1)
[a1]-[b]-[a2] (1)
(式中、[a1]、[a2]は、それぞれ独立に、ポリオレフィン鎖、[b]は、シリコーン鎖を示す。)で表されるトリブロック共重合体である[2]に記載のゴム組成物。
[4]前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体が、ポリオレフィンを含むポリオレフィン部と複合体を形成している[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[5]前記(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体を0.90質量部以上6.0質量部以下含む[1]乃至[4]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[6]前記ポリオレフィン鎖が、炭素数2以上20以下のオレフィンに由来する構造単位を含む[2]または[3]に記載のゴム組成物。
[7]さらに、シリコーンオイルを含む[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[8]バルブのシール材用である[1]乃至[7]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[9][1]乃至[8]のいずれか1つに記載のゴム組成物から成形される成形材。
[10]前記成形材が、バルブ用シール材である[9]に記載の成形材。
【発明の効果】
【0013】
本発明のゴム組成物の態様によれば、(A)エチレンプロピレンジエンポリマーと、(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体と、を含み、前記(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体を0.30質量部以上9.0質量部未満含むことにより、低温環境下における相手材との固着防止性に優れ、また、優れた成形性を有するゴム組成物を得ることができる。従って、本発明のゴム組成物から成形した成形体を、例えば、シール材として各種設備へ取り付けるにあたり、シール材に貼り付き防止用の表面処理やコーティングなどを施す必要はなく、シール材の貼り付き防止性能に不具合が生じることを防止できる。また、本発明のゴム組成物は、ゴム成形物の成形工程が煩雑ではなく、成形を簡易化することができる。さらに、本発明のゴム組成物を使用することにより、相手材との固着防止性を付与するためのバルブ等の設備の設計変更が必要ではなくなるので、バルブ等の設備の複雑化を防止できる。
【0014】
本発明のゴム組成物の態様によれば、(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体が、下記式(1)
[a1]-[b]-[a2] (1)
(式中、[a1]、[a2]は、それぞれ独立に、ポリオレフィン鎖、[b]は、シリコーン鎖を示す。)で表されるトリブロック共重合体であることにより、低温環境下における相手材との固着防止性がさらに向上し、また、さらに優れた成形性を有するゴム組成物を確実に得ることができる。
【0015】
本発明のゴム組成物の態様によれば、(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体が、ポリオレフィンを含むポリオレフィン部と複合体を形成していることにより、(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体のゴム組成物中における分散性が向上して、低温環境下における相手材との固着防止性が確実に向上し、また、優れた成形性を有するゴム組成物をさらに確実に得ることができる。
【0016】
本発明のゴム組成物の態様によれば、前記(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体を0.90質量部以上6.0質量部以下含むことにより、低温環境下における相手材との固着防止性と成形性をバランスよく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例における低温環境下での固着防止性を評価する試験方法を説明する側面断面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明のゴム組成物についての詳細を説明する。本発明のゴム組成物は、(A)エチレンプロピレンジエンポリマーと、(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体と、を含み、前記(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、前記(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体を0.30質量部以上9.0質量部未満含む。本発明のゴム組成物では、エチレンプロピレンジエンポリマーがベースポリマーとして配合されている。
【0019】
(A)エチレンプロピレンジエンポリマー
エチレンプロピレンジエンポリマーは、エチレン、プロピレン及びジエンモノマーとの三元共重合体である。ジエンモノマーは架橋用モノマーである。エチレンプロピレンジエンポリマーに用いられるジエンモノマーとしては、特に限定されず、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-5-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエン等の環状ジエン類;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン類等が挙げられる。これらのジエンモノマーは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。エチレンプロピレンジエンポリマーとしては、エチレンプロピレンジエンゴムを挙げることができる。
【0020】
エチレンプロピレンジエンポリマーのムーニー粘度(ML1+4 100℃)は、特に限定されないが、その下限値は、本発明のゴム組成物の成形体に柔軟性を付与する点から、30が好ましく、35が特に好ましい。一方で、エチレンプロピレンジエンポリマーのムーニー粘度(ML1+4 100℃)の上限値は、本発明のゴム組成物の成形体が硬くなるのを防止する点から、100が好ましく、70が特に好ましい。ムーニー粘度とは、エチレンプロピレンジエンポリマーのムーニー粘度計による粘度の尺度である。
【0021】
エチレンプロピレンジエンポリマー中のジエンモノマーの含有量は、特に限定されないが、その下限値は、本発明のゴム組成物の成形体に柔軟性を付与する点から、2.0質量%が好ましく、5.0質量%が特に好ましい。一方で、エチレンプロピレンジエンポリマー中のジエンモノマーの含有量の上限値は、本発明のゴム組成物の成形体の耐久性の点から、20質量%が好ましく、15質量%が特に好ましい。
【0022】
(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体
シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体(以下、単に、「ブロック共重合体(B)」ということがある。)は、シリコーン鎖のブロックとシリコーン鎖以外の重合体ブロックとを有するブロック共重合体である。また、本発明のゴム組成物では、(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対してブロック共重合体(B)が0.30質量部以上9.0質量部未満配合されている。(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対してブロック共重合体(B)が0.30質量部以上9.0質量部未満配合されることにより、低温環境下における相手材との固着防止性に優れ、また、優れた成形性を有するゴム組成物を得ることができる。従って、本発明のゴム組成物から成形した成形体を、例えば、シール材としてバルブの弁体等の各種設備へ取り付けるにあたり、シール材に貼り付き防止用の表面処理やコーティングなどを施す必要はなく、シール材の貼り付き防止性能に不具合が生じることを防止できる。また、本発明のゴム組成物は、ゴム成形物の成形工程が煩雑ではなく、成形を簡易化することができる。さらに、本発明のゴム組成物を使用することにより、相手材との固着防止性を付与するためのバルブ等の設備の設計変更が必要ではなくなるので、バルブ等の設備の複雑化を防止できる。
【0023】
シリコーン鎖以外の重合体ブロックとしては、ポリオレフィン鎖(オレフィンの重合体ブロック)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリレート及びメタクリレートからなる群から選択された少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマーを含むモノマーを構成単位とする重合体ブロック((メタ)アクリル系の重合体ブロック)等を挙げることができる。このうち、低温環境下における相手材との固着防止性と成形性が確実に向上する点から、(B1)シリコーン鎖とポリオレフィン鎖を有するブロック共重合体が好ましく、(B1)シリコーン鎖とポリオレフィン鎖を有するブロック共重合体としては、低温環境下における相手材との固着防止性がさらに向上し、また、さらに優れた成形性を有するゴム組成物を確実に得ることができる点から、下記式(1)
[a1]-[b]-[a2] (1)
(式中、[a1]、[a2]は、それぞれ独立に、ポリオレフィン鎖、[b]は、シリコーン鎖を示す。)で表されるトリブロック共重合体が特に好ましい。
【0024】
[a1]及び[a2]のポリオレフィン鎖を構成するオレフィンとしては、例えば、炭素数2以上50以下のオレフィンが挙げられる。炭素数2以上50以下のオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、炭素数4以上50以下のα-オレフィンが挙げられる。炭素数4以上50以下のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ペンテン、1-オクテン、3-エチル-4-メチル-1-ペンテン、3,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘプテン、1-ノネン、3,4-ジメチル-1-ヘプテン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられる。これらのうち、炭素数2以上20以下のオレフィンが好ましく、炭素数2以上12以下のオレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレン、炭素数4以上8以下のα-オレフィンがさらに好ましく、エチレンが特に好ましい。ポリオレフィン鎖を構成するオレフィンは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ポリオレフィン鎖の数平均分子量は、特に限定されないが、100以上500000以下が好ましく、200以上100000以下がより好ましく、500以上50000以下がさらに好ましく、700以上10000以下が特に好ましい。上記数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ測定法により、オルトジクロロベンゼンを溶媒として使用して測定し、ポリエチレン換算値として得られる分子量である。
【0026】
[a1]のポリオレフィン鎖と[a2]のポリオレフィン鎖は、ポリオレフィン鎖を構成するオレフィン種は、同じでもよく、異なっていてもよい。また、[a1]のポリオレフィン鎖と[a2]のポリオレフィン鎖の数平均分子量は、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0027】
式(1)で表されるトリブロック共重合体は、[b]のシリコーン鎖に、ポリオレフィン鎖(オレフィンの重合体ブロック)がグラフト重合されているグラフト共重合体でもよい。[b]のシリコーン鎖にグラフト重合しているポリオレフィン鎖としては、上記したオレフィンから構成されるポリオレフィン鎖を挙げることができる。また、[b]のシリコーン鎖にグラフト重合しているポリオレフィン鎖の、ゲル浸透クロマトグラフ測定法により分析した数平均分子量は、特に限定されないが、100以上500000以下が好ましく、200以上100000以下がより好ましく、500以上50000以下がさらに好ましく、700以上10000以下が特に好ましい。[b]のシリコーン鎖にグラフト重合されているポリオレフィン鎖は、[a1]のポリオレフィン鎖を構成するオレフィン種と、同じでもよく、異なっていてもよい。[b]のシリコーン鎖にグラフト重合されているポリオレフィン鎖は、[a1]のポリオレフィン鎖の平均分子量と、同じでもよく、異なっていてもよい。また、[b]のシリコーン鎖にグラフト重合されているポリオレフィン鎖は、[a2]のポリオレフィン鎖を構成するオレフィン種と、同じでもよく、異なっていてもよい。[b]のシリコーン鎖にグラフト重合されているポリオレフィン鎖は、[a2]のポリオレフィン鎖の平均分子量と、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0028】
式(1)で表されるトリブロック共重合体のシリコーン鎖の質量:ポリオレフィン鎖の質量の比率は、特に限定されないが、低温環境下における相手材との固着防止性が確実に向上する点から、5:95~95:5が好ましく、10:90~90:10が特に好ましい。
【0029】
また、ブロック共重合体(B)は、ポリオレフィンを含むポリオレフィン部と複合体を形成してブロック共重合体複合体となっていてもよい。ブロック共重合体(B)が上記ブロック共重合体複合体を形成していることにより、ブロック共重合体(B)のゴム組成物中における分散性が向上して、低温環境下における相手材との固着防止性が確実に向上し、また、優れた成形性を有するゴム組成物をさらに確実に得ることができる。ブロック共重合体複合体の態様としては、例えば、ブロック共重合体(B)が膜状のポリオレフィン部に包まれている態様が挙げられる。ポリオレフィン部を形成するポリオレフィンは、化学構造にシリコーン鎖を含まないポリオレフィン鎖である点で、ブロック共重合体(B)のポリオレフィン鎖とは相違する。ブロック共重合体複合体は、本発明のゴム組成物中で、ブロック共重合体複合体の構造が維持されていてもよく、ブロック共重合体(B)とポリオレフィン部が分離している等、ブロック共重合体複合体の構造が維持されていなくてもよい。
【0030】
ポリオレフィン部を形成するオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、炭素数4以上20以下のα-オレフィンが挙げられる。炭素数4以上20以下のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ペンテン、1-オクテン、3-エチル-4-メチル-1-ペンテン、3,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘプテン、1-ノネン、3,4-ジメチル-1-ヘプテン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン等が挙げられる。このうち、エチレン、プロピレン、炭素数4以上8以下のα-オレフィンが好ましく、エチレンが特に好ましい。ポリオレフィン部を構成するオレフィンは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ブロック共重合体複合体の、ブロック共重合体(B)の質量:ポリオレフィン部の質量の比率は、特に限定されないが、ブロック共重合体(B)のゴム組成物中における分散性が確実に向上する点から、10:90~50:50が好ましく、20:80~40:60が特に好ましい。
【0032】
ブロック共重合体(B)の配合量は、(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して0.30質量部以上9.0質量部未満の範囲であれば、特に限定されないが、その下限値は、(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、低温環境下における相手材との固着防止性を確実に向上させる点から、0.60質量部が好ましく、0.90質量部がより好ましく、1.2質量部がさらに好ましく、2.0質量部が特に好ましい。一方で、ブロック共重合体(B)の配合量の上限値は、(A)エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対して、優れた成形性を有するゴム組成物を確実に得る点から、8.7質量部が好ましく、8.0質量部がより好ましく、ゴム組成物の成形性がさらに向上する点から、7.5質量部がさらに好ましく、6.0質量部が特に好ましい。
【0033】
任意成分
本発明のゴム組成物では、(A)成分であるエチレンプロピレンジエンポリマーと、(B)成分であるシリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体以外に、必要に応じて、他の成分、例えば、シリコーンオイルが配合されていてもよい。さらにシリコーンオイルが配合されることにより、温環境下における相手材との固着防止性と成形性に優れつつ、さらに、ゴム組成物の成形体の摩擦係数を低減することができる。
【0034】
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等が挙げられる。なお、シリコーンオイルは、化学構造にシリコーン鎖以外の重合体ブロックを含まないシリコーン鎖である点で、ブロック共重合体(B)のシリコーン鎖とは相違する。
【0035】
また、本発明のゴム組成物では、必要に応じて、他の成分として、例えば、各種添加剤、離型剤、体質剤、着色剤等を、適宜、添加してもよい。
【0036】
各種添加剤としては、例えば、架橋剤、架橋促進助剤、老化防止剤、可塑剤、紫外線安定化剤、酸化防止剤、消臭剤、難燃剤、耐候性付与剤、帯電防止剤、スリップ剤、イオン交換剤等を挙げることができる。
【0037】
ゴム組成物の調製方法
本発明のゴム組成物の調製方法としては、例えば、上記各成分を、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、ロールミキサー、バンバリーミキサー、タンブラーミキサー、ブラベンダー等の混合・混練手段を用いて、混合、溶融混練することで調製する方法が挙げられる。また、必要に応じて、混合、溶融混練前に、上記各成分を、予備混練してもよい。
【0038】
ゴム組成物の成形材
本発明のゴム組成物の成形材の形状は、特に限定されず、例えば、シート状、フィルム状、リング状、リボン状、ブロック状等が挙げられる。本発明のゴム組成物を材料とした成形材の製造方法は、特に限定されず、例えば、上記のように調製したゴム組成物を、押出成形法、射出成形法、射出圧縮成形法、溶融流涎法、インフレーション成形法、圧縮成形法、トランスファー成形法、注型成形法等、公知の成形方法を用いることで、所定の形状に成形して成形材を製造することができる。
【0039】
ゴム組成物の用途
本発明のゴム組成物の用途としては、特に限定されず、例えば、ソレノイドバルブ等のバルブの弁体に用いられるシール材、Oリングやパッキン等のシール部材の材料等を挙げることができる。従って、本発明のゴム組成物から成形された成形材の相手材としては、流体が流通する流路部材等が挙げられ、相手材の材質としては、例えば、ステンレス等の金属が挙げられる。上記から、本発明のゴム組成物から、成形材として、例えば、バルブの弁体用シール材、Oリングやパッキン等のシール部材等を製造することができる。
【実施例0040】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、その趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1~7、比較例1~2
下記表1に示す各成分を下記表1に示す配合割合にて配合し、ニーダーを用いて60分の条件にて溶融混練させて、実施例1~7、比較例1~2にて使用するゴム組成物を調製した。調製したゴム組成物をプレス成形法にて、四角形のシート状(寸法200mm×200mm)に成形後、170℃にて10分間の一次加硫、150℃にて2時間の二次加硫を行った。その後、四角形の成形体を打ち抜き加工して、直径15mm、中空部直径9.9mm、厚さ2mmである中空円柱形状の試験サンプルを作製した。なお、下記表1中の数字は質量部を示す。
【0042】
なお、表1中の各成分についての詳細は以下の通りである。
【0043】
(A)エチレンプロピレンジエンポリマー
・NORDEL 6530XFC:エチレン量55質量%、ジエン量8.5質量%の高ジエンEPDM、DOW社。
【0044】
(B)シリコーン鎖とシリコーン鎖以外の重合体ブロックを有するブロック共重合体
・イクスフォーラ PE3027:ポリエチレン鎖-シリコーン鎖-ポリエチレン鎖で表されるトリブロック共重合体(ブロック共重合体(B)に相当)が、ポリエチレン膜(ポリオレフィン部に相当)に包まれているブロック共重合体複合体、ポリエチレン鎖-シリコーン鎖-ポリエチレン鎖で表されるトリブロック共重合体の質量:ポリエチレン膜の質量=30:70、三井化学ファイン株式会社。
【0045】
また、実施例1~7、比較例1~2の試験サンプル作製に使用した共通成分と、その配合量は以下の通りである。
体質剤
・二酸化ケイ素:配合量は25質量部。
【0046】
以下の成分は、各種添加剤である。
・老化防止剤:配合量は3.0質量部。
・架橋促進助剤:配合量は7.3質量部。
【0047】
・可塑剤:配合量は6.0質量部。
・カップリング剤:配合量は2.0質量部。
・架橋剤:配合量は6.0質量部。
【0048】
試験サンプルの評価項目は以下の通りである。
(1)低温環境下における相手材との固着防止性(低温固着防止性)
固着試験治具を用いて試験サンプルの低温固着防止性を評価した。図1は、実施例における低温環境下での固着防止性を評価する固着試験治具を用いた試験方法を説明する側面断面図である。具体的には、図1に示すように、固着試験治具1に備えられた金属プレート10の、下方へ突出したリング状凸部の重力方向下方側に、試験サンプル11をセットした。試験サンプル11と金属プレート10との接触面積は1cmに設定した。固着試験治具1において相手材として機能する金属プレート10としては、重さ5gのステンレス製部材を使用した。金属プレート10の重力方向上方側にさらに500gの重り(図示せず)を載せることで、金属プレート10から試験サンプル11へ応力Fの負荷をかけた。この状態で、試験サンプル11を-40℃の恒温槽中にて2時間放置した。2時間放置の後、直ちに固着試験治具1を上下逆さまにして、プッシュプルゲージを使用して、金属プレート10が試験サンプル11から剥離する際の荷重を測定した。上記荷重の測定を3つの試験サンプル11について行い、その平均値から、低温固着防止性を評価した。
【0049】
また、荷重の測定結果に基づき、以下の三段階の基準で低温固着防止性を評価した。なお、試験サンプル11が金属プレート10に固着しておらず、金属プレート10が自重にて落下した場合、荷重は0Kgfとした。
◎:1.00Kgf以下
○:1.00Kgf超1.50Kgf以下
×:1.50Kgf超
【0050】
(2)成形性
金型を用いたプレス成形法にて、成形性を評価し、以下の三段階の基準で評価した。
◎:成形上問題なし
○:成形可能だが、成形時に若干の離型剤の塗布が必要
×:成形できない、または成形時に従来量の離型剤の塗布が必要
【0051】
評価結果を下記表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
上記表1に示すように、エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対してポリエチレン鎖-シリコーン鎖-ポリエチレン鎖のトリブロック共重合体を0.30質量部以上9.0質量部未満配合した実施例1~7のゴム組成物では、成形体の低温固着防止性が○評価以上であり、低温環境下における相手材との固着防止性に優れた成形体を得ることができた。また、実施例1~7のゴム組成物では、成形性も○評価以上であり、優れた成形性を得ることができた。特に、エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対してポリエチレン鎖-シリコーン鎖-ポリエチレン鎖のトリブロック共重合体を0.90質量部以上9.0質量部未満配合した実施例2~7のゴム組成物では、成形体の低温固着防止性が◎評価であり、低温環境下における相手材との固着防止性がさらに向上した。また、エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対してポリエチレン鎖-シリコーン鎖-ポリエチレン鎖のトリブロック共重合体を3.0質量部以上9.0質量部未満配合した実施例4~7のゴム組成物では、成形体が金属プレート10に固着せずに金属プレート10が自重にて落下したことから、さらに優れた低温固着防止性を得ることができた。
【0054】
また、エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対してポリエチレン鎖-シリコーン鎖-ポリエチレン鎖のトリブロック共重合体を0.30質量部以上6.0質量部以下配合した実施例1~6のゴム組成物では、成形性が◎評価であり、成形性がさらに向上した。
【0055】
一方で、上記表1に示すように、ポリエチレン鎖-シリコーン鎖-ポリエチレン鎖のトリブロック共重合体を配合しなかった比較例1のゴム組成物では、低温固着防止性が得られず、エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対するポリエチレン鎖-シリコーン鎖-ポリエチレン鎖のトリブロック共重合体の配合量が0.30質量部未満では、低温環境下における相手材との固着防止性が得られないことが判明した。また、エチレンプロピレンジエンポリマー100質量部に対してポリエチレン鎖-シリコーン鎖-ポリエチレン鎖のトリブロック共重合体を9.0質量部配合した比較例2のゴム組成物では、成形性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のゴム組成物は、低温環境下における相手材との固着防止性に優れ、また、優れた成形性を有するゴム組成物を得ることができるので、広汎な分野で利用可能であり、特に、低温環境下で使用されるバルブの弁体用シール材、Oリングやパッキン等のシール部材等の分野で利用価値が高い。
【符号の説明】
【0057】
1 固着試験治具
10 金属プレート
11 試験サンプル
図1