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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179248
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】ヨーモーメント制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20221125BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20221125BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/114
B62D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021108158
(22)【出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】514267179
【氏名又は名称】芝端 康二
(72)【発明者】
【氏名】芝端 康二
(72)【発明者】
【氏名】芝端 成元
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3D232CC12
3D232DA03
3D232DA33
3D232DC11
3D232DC17
3D232DD02
3D232EA01
3D232EB16
3D232EC22
3D232EC28
3D232FF06
3D232GG01
3D241BA18
3D241BC04
3D241CD01
3D241DA52Z
(57)【要約】
【課題】車両の駆動力制動力を左右輪で個別に制御してヨーモーメントを発生し、これを用いて車両の操縦性安定性を向上する制御方法はすでに多くの量産車両で実用化されている。しかし過渡的な車両の運動状態において理論的に確立され走行中常時作動可能な制御方法はほとんど見当たらない。
このため個別の走行条件毎に個別の制御方法が必要になっており、大幅な性能向上も難しかった。
【解決手段】ベース車両に対してヨー慣性モーメントを低減した車両運動特性を算出する。この車両運動特性と同一またはほぼ同一の車両運動特性を制御の目標値とする。この目標値を達成するためのハンドル角またはハンドル角とヨーレイトを入力とした制御方法を考案した。
上記制御方法は理論的に車両の運動性能を向上できる制御方法といえるのであらゆる走行条件で成立し、走行条件毎の制御方法が不要となると共に車両の操縦性安定性が大幅に向上する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル角信号を元にヨーモーメントを制御するヨーモーメント制御方法において、ハンドル角信号に対して下記に示す周波数特性を持つフィルター処理を行いヨーモーメントに変換して車両に加えることを特徴としたヨーモーメント制御方法。
ハンドル角入力に対する周波数フィルターの特性
1.周波数ゼロにおいてゲインはゼロ、位相は90度の進み特性(+90度)を持つ。
2.周波数10Hz以上においてゲインは一定値に漸近し、位相はゼロ度に漸近する。
3.周波数2HZにおけるゲインの値に対して1Hzにおけるゲインの値が40%以上である。
4.周波数1Hzから2Hzの間において位相角が+50度から+75度の間の値をとる。
【請求項2】
請求項1のヨーモーメント制御方法において操舵角速度に遅れ特性を掛け合わせることにより請求項1に示すハンドル角入力に対する周波数フィルターの特性を実現した制御方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に示すヨーモーメントを制御すると共に操舵により車両に生じたヨーレイトに応じたヨーモーメントを制御ヨーモーメントに加え合わせることを特徴としたヨーモーメント制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,車両の運動性能の向上を目的としたヨーモーメント制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に左右輪の駆動力制動力を個別に制御して車両に加えるヨーモーメントを制御する従来車両のヨーモーメント制御機構の一例を示す。左右輪の駆動力制動力の差ΔFにトレッド幅Tを掛け合わせたものが車両に加えるヨーモーメントMyとなる良く知られた関係がある。
このようにヨーモーメントの指令値を与えることができれば、例えば図1の既存の技術により車両にヨーモーメントを自由に作用させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「自動車の運動と制御」、著者 安部正人、発行所 学校法人 東京電機大学 東京電機大学出版局、ISBN978-4-501-41920-2 C3053、P.89
【非特許文献2】「自動車の運動と制御」、著者 安部正人、発行所 学校法人 東京電機大学 東京電機大学出版局、ISBN978-4-501-41920-2 C3053、P.103
【非特許文献3】「自動車の運動性能向上技術」、編集(社)自動車技術会、発行所 株式会社朝倉書店、ISBN978-4-254-23774-0 C3353 P.141図7.19(a)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1のようにヨーモーメントの制御は自由に行うことができるが、車両の過渡的な運動状態において走行中常時制御可能な理論的に確立された制御方法はほとんど見当たらない。このため個別の走行条件毎に個別の制御方法が必要になっており、ヨーモーメント制御により大幅な車両運動性能の向上も達成できなかった。
【0005】
この原因は、あらゆる過渡的な運動状態における望ましい運動特性(制御で達成すべき制御の目標性能)が規定できないという論理的かつ本質的な問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明ではまず、あらゆる過渡的な運動状態において、車両の過渡的な運動特性が理論的に向上する車両特性を見出した。これは車両のヨー慣性モーメントを減した車両の運動特性になる。ヨー慣性モーメントを低減した車両の運動特性を制御目標にすると言える。
【0007】
車両のヨー慣性モーメントの存在が車両の過渡的な運動特性を悪化(例えば操舵入力に対して車両の動きに遅れが生じたり、オーバーシュートしたりする現象を引き起こすこと)させる根本原因となっていることは自明の関係である。
この関係を逆の視点から見ると、車両のヨー慣性モーメントを低減することによりあらゆる過渡的な運動状態における車両の過渡的な運動特性が向上することが理論的に保証される関係になることを発見した。
【0008】
次に本発明では、この車両の過渡的な運動特性を向上することが理論的に保証された、ヨー慣性モーメントを低減した車両の運動特性とほぼ同一の運動特性をヨーモーメントを制御することにより実現する制御方法を考案した。
【発明の効果】
【0009】
ヨーモーメントの制御が常時可能となり、個別の走行条件毎に個別の制御方法が不要になる。このヨーモーメント制御により大幅な車両運動性能の向上が実現できる。
また理論的に保証された制御方法であるため、この制御方法を実車に適用した開発時における検証作業が大幅に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来車両のヨーモーメント制御機構の一例
図2】ベース車両とヨー慣性モーメントを1/2にした車両の根軌跡図
図3】本発明実施例1の制御ブロック線図
図4】制御関数A(s)と制御関数B(s)の周波数応答特性図、車速80km/h
図5】制御関数A(s)と制御関数B(s)の周波数応答特性図、車速140km/h
図6】制御関数A(s)と制御関数B(s)の周波数応答特性図、車速200km/h
図7】制御関数A(s)と制御関数B(s)の周波数応答特性図、車速260km/h
図8】ベース車両とヨー慣性モーメントを1/2にした車両と実施例1のA(s)制御を加えた車両の車両挙動の周波数応答特性図、車速80km/h
図9】ベース車両とヨー慣性モーメントを1/2にした車両と実施例1のA(s)制御を加えた車両の車両挙動の周波数応答特性図、車速140km/h
図10】ベース車両とヨー慣性モーメントを1/2にした車両と実施例1のA(s)制御を加えた車両の車両挙動の周波数応答特性図、車速200km/h
図11】ベース車両とヨー慣性モーメントを1/2にした車両と実施例1のA(s)制御を加えた車両の車両挙動の周波数応答特性図、車速260km/h
図12】本発明実施例2の第一段階の制御ブロック線図
図13】制御関数B(s)の車速特性
図14】本発明実施例2の制御ブロック線図
図15】実施例1と実施例2の制御による車両特性を比較した周波数応答特性図、車速80km/h
図16】実施例1と実施例2の制御による車両特性を比較した周波数応答特性図、車速140km/h
図17】実施例1と実施例2の制御による車両特性を比較した周波数応答特性図、車速200km/h
図18】実施例1と実施例2の制御による車両特性を比較した周波数応答特性図、車速260km/h
図19】本発明実施例3の制御ブロック線図
図20】制御定数Dyの車速特性図
図21】実施例2と実施例3の制御による車両特性を比較した周波数応答特性図、車速80km/h
図22】実施例2と実施例3の制御による車両特性を比較した周波数応答特性図、車速140km/h
図23】実施例2と実施例3の制御による車両特性を比較した周波数応答特性図、車速200km/h
図24】実施例2と実施例3の制御による車両特性を比較した周波数応答特性図、車速260km/h
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図2~24図に基づいて説明する。
図2は全ての実施例に共通する。
図3から図11は実施例1に対応、図4から図7は実施例1と実施例2に対応、図12から図18は実施例2に対応、図19から図24は実施例3に対応する。
【実施例
以下に全ての実施例に共通する内容を記す。
【0012】
車両の基本的な運動特性は数1と数2に示す2自由度の運動方程式で表現できる。(例えば、非特許文献1参照)
【数1】
【数2】
【0013】
ここで数1および数2においては、非特許文献1のタイヤ角δに代りハンドル角θとステアリングギヤ比N(=17.5)を用いる。また非特許文献1で用いられているヨーレ
ヨーモーメントの釣り合い式数2中のIが車両のヨー慣性モーメントである。横力の釣り合い式数1にはヨー慣性モーメントIは含まれない。
【0014】
図2にベース車両とヨー慣性モーメントIを1/2にした車両の根軌跡図を示す。
ヨー慣性モーメントを低減(例えば図2では1/2)することにより、車速80km/hの低速から車速260km/hの高速まで図2の横軸で示される減衰係数は増加し、図2の縦軸で示される減衰固有振動数も増加する。
尚、本明細書の計算に用いた車両諸元は上記ステアリングギヤレシオN以外は非特許文献2と同一とした。
【0015】
振動工学の原理から図2において原点から各点を結んだベクトルの長さが固有振動数、ベクトルの角度を横軸から右回りに測った角度が減衰比(角度が小さいほど減衰比が大きい)に対応する。
【0016】
従って、ヨー慣性モーメントIを低減することにより、固有振動数、減衰固有振動数、減衰係数、減衰比の全てが増加する。これにより、あらゆる過渡的な運動状態においてベース車両に対して車両の過渡的運動特性が改善されることが確認できた。(例えば操舵入力に対して車両の動きの遅れが低減し、オーバーシュート量が低減し収束時間が短縮する。)
【0017】
本発明ではヨーモーメントを制御することにより車両のヨー慣性モーメントを低減した車両と同一または同等またはそれ以上の車両の運動特性を実現する制御方法を見出した。
これらは車両のヨー慣性モーメントを低減した車両の運動特性を制御目標にしたものであり、この制御によりあらゆる過渡的な運動状態においてベース車両に対して過渡的な運動特性が改善できる。
【実施例0018】
図3に本発明実施例1の制御ブロック線図を示す。図3において破線9で囲まれた中が車両モデルを表している。制御を行わない車両ではハンドル角入力がハンドル角を車両挙動に変換する伝達関数G(s)に入力され図1の例ではヨーレイトを出力する。
【0019】
本発明ではハンドル角はG(s)に入力されるのと同時にハンドル角をヨーモーメントに変換する伝達関数A(s)に入力される、A(s)から出力されたヨーモーメントは車両に作用しヨーモーメントをヨーレイトに変換する伝達関数H(s)を経由してヨーレイトになる。このヨーレイトはG(s)から生じたヨーレイトに加算され実際のヨーレイトとなる。
【0020】
ここで、制御を行わない状態でヨー慣性モーメントIを低減した(ここでは1/2とする)仮想の車両のハンドル角に対するヨーレイトの伝達関数をP(s)とし、等式数3を立てる。数3の右辺は図3の▲A▼点から▲B▼点までの伝達特性を表す。
数3を成り立たせるためのA(s)が数4となる。
【0021】
【数3】
【数4】
【0022】
ここで、非特許文献1および2に示される記号を用い、
【数5】
またIは基準諸元に対するヨー慣性モーメントの低減比であり、本明細書ではI=0.5とするとA(s)は数6により求まる。
【数6】
【0023】
数4の右辺のP(s)、G(s)、H(s)すなわち数6の右辺は全て車両諸元から求めることができるのでA(s)は既知の特性となる。ハンドル角を入力としA(s)の特性に従いヨーモーメントを制御することにより、ヨー慣性モーメントを低減した車両と同一の車両特性が得られる。
この制御を加えることにより、あらゆる過渡的な運動状態においてベース車両に対して車両の過渡的運動特性を改善できる。
【0024】
図4から図7の10に車速80km/hから260km/hまでの伝達関数A(s)の周波数特性を示す。
【0025】
周波数ゼロにおいて伝達関数A(s)のゲインはゼロ、位相は90度の進み特性(+90度)を持ち、周波数10Hz以上においてゲインは一定値に漸近し、位相はゼロ度に漸近する。
伝達関数A(s)のゲイン特性はゾーン12で示した周波数2Hzにおけるゲインの値に対して1Hzにおけるゲインの値が40%以上になっていることがわかる。
伝達関数A(s)の位相角特性はゾーン14で示し周波数1Hzから2Hzの間において位相角が+50度から+75度の間の値をとっていることがわかる。(以上請求項1に対応する)
【0026】
図8から図11に実施例1の制御を行った場合の車両挙動の周波数応答特性を制御を行わないベース車両と比較し示す。図8から図11において15はヨー慣性モーメントを低減する前のベース車両の特性、16は実際にヨー慣性モーメントIを低減(ここでは1/2)した場合の特性を示し、図3の実施例1の制御を行った場合の特性は16と完全に一致するため図示の線は一本で表現されている。
【0027】
このようにハンドル角信号を入力とし伝達関数A(s)により変換されたヨーモーメントを車両に加えることにより実際にヨー慣性モーメント低減した車両と同一の特性が得られる。図8から図11にはヨーレイト特性のみを示した、図示はしないが車両の横滑り角特性および横加速度特性も実際にヨー慣性モーメント低減した車両と同一の特性になる。これは数1にヨー慣性モーメントIが含まれていないためである。
【0028】
ここで伝達関数A(s)の特性はハンドル角信号に対する実際に車両に作用するヨーモーメントの間の特性を示す。従ってヨーモーメントを発生するための物理的機構が存在する場合(例えば図1のモーター、ドライブシャフト、タイヤ)にはそれらの応答特性が含まれる。
【実施例0029】
実施例1ではヨー慣性モーメントIを低減した車両の特性と完全に同一の車両特性を得る制御方法を見出した。実施例2では車両特性が正確に判らない場合にも制御可能な方法を見出す。
【0030】
図12に実施例2の制御ブロック線図の第一段階を示す。図12の制御ブロック線図は図3に示す実施例1の制御ブロック線図と同一の構成である。図12において制御伝達関数B(s)を数7に示す一次遅れ特性を微分した形に置く。
【0031】
【数7】
【0032】
次に図3の▲A▼と図12の▲A▼点に同一のハンドル角入力を与える。この時の図3のA(s)の出力▲D▼点のヨーモーメントと図12のB(s)▲D▼点のヨーモーメント出力の偏差が最小となるIyとTiを求める。この結果を図13に示す。このIyとTiの値を用いることにより複雑な式A(s)に近似するシンプルな式B(s)が求まる。
【0033】
ここで数6のA(s)に近似した数7のB(s)の特性を図4から図7の11で示す。伝達関数B(s)のゲイン特性はゾーン13で示した周波数2Hzにおけるゲインの値に対して1Hzにおけるゲインの値が40%以上になっている。
また伝達関数B(s)の位相角特性はゾーン14で示し周波数1Hzから2Hzの間において位相角が+50度から+75度の間の値をとっていることがわかる。(以上請求項1に対応する)
【0034】
さらに数7右辺には微分演算子sが掛けられた形になっているが、この微分演算子sを分解したブロック線図は図14となる。図14中のC(s)は数8となる。(請求項2に対応)
【0035】
【数8】
【0036】
図14のブロック線図からは以下の関係がわかる。
ハンドル角を微分したハンドル角速度を入力としC(s)で表現される一次遅れ特性を経由して変換されたヨーモーメントを車体に作用させることで近似的に図3の制御と同等の効果が得られる。
【0037】
図14による制御の結果(実施例2)を図3の結果(実施例1)と比べて図15から図18に示す。実施例1に比べ共振周波数が低下するが、図8から図11の15で示すベース車に比べると共振周波数が増加し位相遅れも減少しており、実施例1には劣るが有効な制御方法であることがわかる。
【0038】
図12から図18に示す実施例2では数8の制御式を用いるためパラメータが2個のみとなる。実車開発時を想定するとパラメータが2個であればトライアンドエラーによりパラメータを設定することも容易に行うことができ、高い実用性を持つと言える。
【実施例0039】
実施例3ではパラメータの数の増加を最小にした上で性能向上を計る方法を考案する。図19に実施例3の制御ブロック線図を示す。図19のブロック線図は実施例2の図14のブロック線図にヨーレイト▲B▼を係数Dyを経由してヨーモーメントに変換(▲F▼点)しC(s)を経由して得られたヨーモーメント(▲D▼点)に負帰還(ネガティブフィードバック)方向に加算する。▲F▼点と▲D▼点のヨーモーメントが加算されたヨーモーメント(▲K▼点)が車体に作用する。(請求項3に対応)
【0040】
図19のDyを経由したヨーモーメントを車体に作用させると定常旋回時の定常車両応答ゲインが低下する。同一のDyの値でも車両応答ゲインの低下率は車速により異なる。逆に車両応答ゲインの低下率を一定にするためのDyは車速でことなることになる。
【0041】
定常車両応答ゲインの低下率を一定にするためのDyの値は数9で表現される。数9においてCは制御された車両の定常ゲインの値のベース車両の定常ゲインに対する比を示す。定常車両応答ゲインの低下率を例えば15%(数9においてC=0.85)にした場合のDyの値を図20に示す。
【0042】
【数9】
【0043】
Dyを図20の値として、図19に示す実施例3の制御により得られる車両特性を図21から図24に示す。ここでDyにより定常車両応答ゲインが15%低下するため図21から図24に示す特性はステアリングギヤレシオをベース車のN=17.5からN=17.5×Cすなわち今回の例では17.5×0.85に変更している。
【0044】
図21から図24により、実施例3では実施例2の車両特性に対して共振周波数の増大、ダンピングの向上、高周波数における位相遅れの減少が計られ大幅な過渡応答特性の向上が計られることが判る。また図8から図11の16で示す実施例1の特性と比べても性能が向上していることが判る。実施例2に対しパラメータは1つ増えた3つになるが3つのパラメータの組み合わせにより大幅な性能向上が計られる。
【0045】
Dyによるヨーモーメントはヨーレイトに比例したヨーモーメントを復元方向に作用させることでありこれは電子デバイスに頼らない方法でも実現可能である。
【0046】
駆動力が大きくない範囲ではヨーレイトに比例して左右輪に差回転が生じる。プリセットトルク型などのLSD(リミテッドスリップデフ)においは、左右輪の差回転に比例して左右輪の差動トルクが生じる。この差動トルクは左右輪で前後逆方向の駆動力となり,これにトレッド幅が掛け合わされた値がヨーモーメントとなる。
【0047】
すなわちLSDを用いることによりヨーレイトに比例したヨーモーメントが車両に復元方向に生じる。これは図19のDyを経由して発生するヨーモーメントと同一のものである。この現象はすでに知られた物理的関係である。(例えば非特許文献3)
【0048】
従ってLSD付きの車両に実施例2の制御を組み合わせることにより実施例3の制御を行ったことと同一の車両応答特性を得ることができる。図19のDy項を含んだ制御信号経路はLSDに置き換えることができる。
【0049】
尚、実施例1、実施例2,実施例3において路面摩擦係数が低下(例えば基準状態に対して0.3倍、これは実路での圧雪路に対応する)したことを想定した確認を計算上行った(前後のタイヤのコーナリングスティッフネスKf、Krをベース車両の0.3倍にした)。
この場合にもベース車両に対する実施例1、実施例2,実施例3の制御による効果は変わらずベース車両特性に対して大きな優位性が保たれることを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明による制御方法では、制御が目標としている車両運動特性が過渡的な運動状態においてベース車両に対して向上できることが理論的に確認されているので開発時における検証作業が大幅に削減できる。
【0051】
また個別の運動状態毎に個別の制御方法が不要になる。
実施例2および実施例3では車両諸元が不明の状態でもトライアンドエラー方式により制御定数が決められる。
これまでにない大幅な性能向上ができる。
という多くの利点がある。
【符号の説明】
【0052】
1 左前輪
2 左ドライブシャフト
3 左駆動モーター
4 右駆動モーター
5 右ドライブシャフト
6 右前輪
7 ベー車両の特性線
8 ヨー慣性モーメント1/2車両の特性線
9 車両モデル
10 A(s)の特性線
11 B(s)の特性線
12 A(s)の通過ゲインゾーン、(請求項1に対応する)
13 B(s)の通過ゲインゾーン、(請求項1に対応する)
14 位相角の通過ゾーン、(請求項1に対応する)
15 ベース車両特性
16 ヨー慣性モーメント1/2車両の特性と
A(s)制御を加えた車両特性(実施例1)
17 C(s)制御を加えた車両特性(実施例2)
18 C(s)制御とDy制御を加えた車両特性(実施例3)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24