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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017929
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】ガス供給システムおよび推進システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20220119BHJP
   B64G 1/40 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
F17C11/00 A
B64G1/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120787
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】月▲崎▼ 竜童
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AB01
3E172AB11
3E172AB12
3E172AB14
3E172AB15
3E172BA01
3E172BB06
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD10
3E172FA11
(57)【要約】
【課題】軽量、かつ、小型なガス供給システムを提供する。
【解決手段】本開示のガス供給システムは、ガスを吸着する金属有機構造体が充填された金属有機構造体充填タンク1を備え、前記金属有機構造体充填タンクの圧力が0Pa以上1MPa未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを吸着する金属有機構造体が充填された金属有機構造体充填タンクを備え、
前記金属有機構造体充填タンクの圧力が0Pa以上1MPa未満である、
ガス供給システム。
【請求項2】
前記圧力が0.01Pa以上である、請求項1に記載のガス供給システム。
【請求項3】
前記圧力が0.1Pa以上である、請求項1または2に記載のガス供給システム。
【請求項4】
前記圧力が0.2MPa以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のガス供給システム。
【請求項5】
前記圧力が0.1MPa以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のガス供給システム。
【請求項6】
前記ガスがキセノンである、請求項1~5のいずれか1項に記載のガス供給システム。
【請求項7】
前記金属有機構造体がMOF-74である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガス供給システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガス供給システムを備える推進システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス供給システムおよび推進システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大学や企業による小型人工衛星の開発が進んでいる。ロケットによる打ち上げコストを低減するために、小型人工衛星の質量は1~100kgと、従来の人工衛星の質量数百kg~数トンと比較して軽量となっている。
【0003】
この小型人工衛星を構成する部材の質量である構造質量の低減が課題となっている。軌道制御や姿勢制御のためには、推進機を搭載する必要がある。一般的な方式では、推進機の燃料は、1MPa~10MPaの圧力で高圧タンクに封入され、高圧用ガスバルブなどを用いて供給される。この方式の場合、高圧に耐える配管やタンクを用いるため、堅固な構造をしている。そのため、構造質量の低減が困難である。例えば、非特許文献1では、890gのキセノンを貯蔵するためのタンクを備えるガス供給システムの構造質量は2840gとなる。小型人工衛星の質量は、1~100kgであるので、推進機搭載の大きな制約となっている。推進機をせず、軌道変換や姿勢変更ができない場合、小型人工衛星の利用の妨げとなる。そのため、ガス供給システムの構造質量の低減が求められている。また、非特許文献1のタンクのさらなる小型化が求められている。
【0004】
金属有機構造体(MOF)は、ガスを吸着する特性を有する。そのため、MOFは、小型高密度に貯蔵したり、混合ガスから特定のガスを取り除いたりするために使われている。特許文献1には、金属有機構造体を備える機密容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5074035号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本航空宇宙学会誌、小型イオンスラスタ研究開発の経緯、現状、そして展望、vol.66、No.11、P.7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示の方法では、ガスの貯蔵量を確保するために1~300バールにおいて利用している。そのため、従来の貯蔵方法と同じく高圧で貯蔵していることから、タンクの耐圧性強度を強くする必要があるため、構造質量の低減効果がほとんどない。
【0008】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされた発明であり、軽量、かつ、小型なガス供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の一態様に係るガス供給システムは、ガスを吸着する金属有機構造体が充填された金属有機構造体充填タンクを備え、前記金属有機構造体充填タンクの圧力が0Pa以上1MPa未満である。
(2)上記(1)に記載のガス供給システムは、前記圧力が0.01Pa以上であってもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載のガス供給システムは、前記圧力が0.1Pa以上であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載のガス供給システムは、前記圧力が0.2MPa以下であってもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つに記載のガス供給システムは、前記圧力が0.1MPa以下であってもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つに記載のガス供給システムは、前記ガスがキセノンであってもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載のガス供給システムは、前記金属有機構造体がMOF-74であってもよい。
(8)本発明の一態様に係る推進システムは、上記(1)~(7)のいずれか1つに記載のガス供給システムを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様によれば、軽量、かつ、小型なガス供給システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るガス供給システムの模式図である。
図2】本発明の別の実施形態に係るガス供給システムの模式図である。
図3】本発明の別の実施形態に係るガス供給システムの模式図である。
図4】MOFのガス圧とガス吸着量との関係を示す図である。
図5】MOF-74-CoおよびMOF-74-Mgにおけるガス圧とガス吸着量との関係を示す図である。
図6】従来のガス供給システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、図1を参照し、本発明の第1の実施形態に係るガス供給システム100を説明する。
ガス供給システム100は、金属有機構造体充填タンク(MOF充填タンク)1、第1圧力センサ2、バルブ3、レギュレータバルブ4、第2圧力センサ5、アキュムレータタンク6、スラスタバルブ7、オリフィス8、図示しない制御部、および配管30a、30b、30c、30d、30e、30fを備える。以下各部について説明する。推進システム200は、ガス供給システム100にさらに、スラスタ9を備える。
【0013】
(MOF充填タンク)
MOF充填タンク1は、金属有機構造体(MOF)が充填されたガスタンクである。ここで、金属有機構造体とは、金属イオンと有機物の配位結合により形成された多孔質材料である。MOF充填タンク1は、配管30aを介してバルブ3と接続している。
【0014】
MOF充填タンク1の材質としては、Ti、Ti合金、Al合金、Mg合金および炭素繊維強化樹脂(CFRP)などが挙げられる。
【0015】
MOF充填タンク1に充填されるガスとしては、キセノン、クリプトン、アルゴン、ネオン、ヘリウム、水素、酸素、窒素、塩素が挙げられる。
【0016】
MOFの充填率としては、特に限定されないが、MOF充填タンク1の全容積の60%以上であることが好ましい。MOF充填タンク1のより好ましい充填率は、MOF充填タンク1の全容積の70%以上である。MOF充填タンク1のさらに好ましい充填率は、MOF充填タンク1の全容積の75%以上である。
【0017】
MOF充填タンク1に充填されるMOFとしては、特に限定されないが、例えば、SBMOF-1、SBMOF-2、Ni-MOF-74、Co(HCOO)、HKUST-1、MOF-5、FMOF-Cu、MRJ-4I、MOF-505、SIFSIX-3-Ni,SIFSIX-3-Fe、CROFOUR-1-Ni、UIO-66、PCN-14、NOTT-100、NOTT-103、MOF-74-Co、MOF-74-Mg等が挙げられる。特に、細孔表面において、配位的に不飽和な金属サイト(open metal site)の密度が高い、MOF-74-MgおよびMOF-74-CoといったMOF-74が好ましい。
【0018】
MOFのBET表面積は特に限定されないが、1000m/g以上が好ましい。より好ましくは、1400m/g以上である。MOFのBET表面積の上限は特に限定されない場、例えば、6500m/gとしてもよい。
【0019】
MOFは、金属塩と有機配位子によって形成される。MOFの原料は、溶液中で金属イオンを得ることができる金属塩と、有機配位子である。これは、金属塩と有機配位子の両方について少なくともそれぞれ1種類以上を原料に用いることを意味する。さらに必要であれば、金属塩と有機配位子以外の原料も用いることができる。
【0020】
MOF原料として用いる金属塩は、各種の金属元素を含むものから選択することができ
る。金属塩に含まれる金属元素としては、例えば、Cu、Zn、Co、In、Al、Fe、V、Mg、Mn、Ni、Ru、Mo、Cr、W、RhおよびPdなどが挙げられる。特にMgおよびCoが好ましい。
【0021】
金属イオンに配位結合する有機配位子としては、2-アミノテレフタル酸、2,5-ジアミノテレフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4’-カルボキシ[1,1’-ビフェニル]-4-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2-ヒドロキシテレフタル酸、3,3’,5,5’-テトラカルボキシジフェニルメタン、4,4’,4”-S-トリアジン-2,4,6-トリル-トリ安息香酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、ビフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸、テレフタル酸、トリメシン酸、[1,1’:4’,1”]テルフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸、イミダゾール、2-メチルイミダゾールなどが挙げられる。特に、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸が好ましい。
【0022】
MOFの材料は、例えば、赤外分光分析(IR)、飛行時間型二次イオン質量分析(T OF-SIMS)、固体核磁気共鳴分析(固体NMR)等によって測定することによって、確認することができる。
【0023】
充填するMOFの形状は、例えば、粉末状、ペレット状などが挙げられる。取り扱いのしやすさから充填するMOFの形状は、ペレット状に成型されていることが好ましい。
【0024】
MOF充填タンク1のガス貯蔵時の圧力は0Pa以上1MPa未満である。ガス貯蔵時の圧力が1.0MPa未満であれば、例えば3.0MPaに対応した場合よりもタンクの厚さを薄くできるので、構造質量を低減することができる。加えて、ガスの圧力が1MPa未満であれば、例えば、日本国内では日本国の高圧ガス保安法の適用も受けずガスタンクの取り扱いが簡単になるので、製造管理コストを低減することができる。通常、不測の事態に備え、アキュムレータタンク6などは、高圧に耐えられるような設計となっているが、ガス供給システム100は、MOF充填タンク1の圧力が低いので、アキュムレータタンク6などを低圧仕様にすることができ、従来のガス供給システム100より軽量化することができる。より好ましいガス貯蔵時の圧力は、0.2MPa以下である。ガス貯蔵時の圧力が0.2MPa以下であれば、さらに構造質量を低減することができる。さらに好ましくは、第1のガス圧は、0.1MPa以下である。ガスの貯蔵時の圧力は、1kPa以上が好ましい。
【0025】
(第1圧力センサ)
第1圧力センサ2はMOF充填タンク1とバルブ3とをつなぐ配管30aの間に設けられる。第1圧力センサ2は、MOF充填タンク1側のガスの圧力を測定し、図示しない制御部にMOF充填タンク1側の圧力の情報を送る。
【0026】
(バルブ)
バルブ3の開閉は、図示しない制御部によって、制御される。また、レギュレータバルブ4は、配管30bを通し、送られてきたガスの圧力を低減する。バルブ3およびレギュレータバルブ4によって、MOF充填タンク1から送られてきたガスの圧力は、例えば、0.03MPa付近に微調整される。
【0027】
(第2圧力センサ)
第2圧力センサ5は、レギュレータバルブ4とアキュムレータタンク6とを繋ぐ配管30cの間に設けられる。第2圧力センサ5は、アキュムレータタンク6側のガスの圧力を測定し、図示しない制御部に、アキュムレータタンク6側の圧力の情報を送る。
【0028】
(アキュムレータタンク)
アキュムレータタンクは、MOF充填タンク1から送られてきたガスを減圧して蓄える。アキュムレータタンク6は、配管30dを介し、スラスタバルブ7と接続される。
【0029】
(スラスタバルブ)
スラスタバルブ7は、バルブの開閉でスラスタ9に送るガス供給のON/OFF制御をする。
【0030】
(オリフィス)
オリフィス8によって、ガスの流量が制限される。オリフィス8を通りガスはスラスタ9に送られる。ここでのガス圧は、特に限定されず、例えば、0Paでもよいし、1kPaであってもよい。オリフィス8には、フィルタが備わる。
【0031】
(制御部)
図示しない制御部は、バルブ3、レギュレータバルブ4、およびスラスタバルブ7を制御する。ガスの圧力制御は、第1圧力センサ2および第2圧力センサ5から得られた情報に基づいて、制御される。
【0032】
スラスタ動作時のガスの圧力制御について、次に説明する。スラスタ9の動作時は、バルブ3およびスラスタバルブ7は常に開いている状態である。第2圧力センサ5の圧力を図示しない制御部はモニターし、ガスの圧力の閾値の下限に達するとフィードバック制御でレギュレータバルブ4を一定時間開きアキュムレータタンク6に燃料であるガスを充填する。このガス充填工程をスラスタ9動作時にガスの圧力が閾値の下限に達するたびに繰り返す。
【0033】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。第1の実施形態に係るガス供給システム100では、MOF充填タンク1からアキュムレータタンク6までのガス圧力制御機構(バルブ3およびレギュレータバルブ4)を1系統のみ備えていたが、冗長性を持たせるために、ガス圧力制御機構をもう1系統以上備えてもよい。また、レギュレータバルブ4とアキュムレータタンク6との間に、流量を律速するオリフィスをさらに備えてもよい。ガス供給システム100の第1圧力センサ2及び第2圧力センサ5は、冗長性を持たせるために、2以上備えてもよい。
【0034】
本発明の第1の実施形態に係るガス供給システム100は、スラスタ側のガス圧力制御機構(スラスタバルブ7およびオリフィス8)を1系統のみ備えていたが、スラスタ側のガス圧力制御機構を2以上備えていてもよい。また、ガス供給システム100は、燃料の充填用のバルブをさらに備えていてもよい。また、本実施形態に係るガス供給システム100は、圧力センサのみを備えていたが、さらに、温度センサを備えていてもよい。
【0035】
(第2の実施形態)
以下、図2を参照し、本発明の第2の実施形態に係るガス供給システム100Aを説明する。
ガス供給システム100Aは、金属有機構造体充填タンク(MOF充填タンク)1、第1圧力センサ2a、ラッチバルブ10、比例流量制御バルブ11、第3圧力センサ12、図示しない制御部、および配管30g、30h、および30iを備える。以下各部について説明する。推進システム200Aは、ガス供給システム100Aにさらに、スラスタ9を備える。以下、第1の実施形態に係るガス供給システム100Aと同じ構成、同じ機能については、説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0036】
(第1圧力センサ)
第1圧力センサ2aはMOF充填タンク1とラッチバルブ10とをつなぐ配管30gの間に設けられる。第1圧力センサ2aは、MOF充填タンク1側のガスの圧力を計測し、図示しない制御部にMOF充填タンク1側の圧力の情報を送る。
【0037】
(ラッチバルブ)
ラッチバルブ10は、バルブの開閉で、比例流量制御バルブ11に送るガス供給のON/OFF制御をする。ラッチバルブ10は、配管30hを通し、比例流量制御バルブと接続される。
【0038】
(比例流量制御バルブ)
比例流量制御バルブ11は、ラッチバルブ10を通し送られてきたガスの流量を制御する。
【0039】
(第3圧力センサ)
第3圧力センサ12は、比例流量制御バルブ11とスラスタ9とを繋ぐ配管30iの間に設けられる。第3圧力センサ12は、比例流量制御バルブ11から送られたガスの圧力を測定し、図示しない制御部に、その圧力の情報を送る。
【0040】
(制御部)
図示しない制御部は、ラッチバルブ10および比例流量制御バルブ11を制御する。ガスの圧力制御は、第1圧力センサ2aおよび第3圧力センサ12から得られた情報に基づいて、行われる。
【0041】
以上、本発明の第2の実施形態について説明した。第2の実施形態に係るガス供給システム100Aは、MOF充填タンク1から比例流量制御バルブ11までのガス圧力制御機構(ラッチバルブ10)を1系統のみ備えていたが、冗長性を持たせるために、2以上のガス圧力制御機構を備えていてもよい。第2の実施形態に係るガス供給システム100Aは、第1圧力センサ2a付近に温度センサをさらに備えていてもよい。第2の実施形態に係るガス供給システム100Aは、第3圧力センサ12付近に温度センサをさらに備えていてもよい。第1圧力センサ2a及び第3圧力センサ12は、冗長性を持たせるために、2以上備えてもよい。また、ガス供給システム100Aは、燃料の充填用のバルブをさらに備えていてもよい。第2の実施形態に係るガス供給システム100Aは、比例流量制御バルブ11の代わりに、熱膨張を利用して流量を制御するサーモスロットルを備えてもよい。
【0042】
本発明の第1の実施形態に係る推進システム200Aは、スラスタ側のガス圧力制御機構(比例流量制御バルブ11およびスラスタ9)を、1系統のみ備えていたが、スラスタ側のガス圧力制御機構を2以上備えていてもよい。
【0043】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係るガス供給システム100Bを、図3を参照して説明する。
なお、この第3の実施形態においては、第1の実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。ガス供給システム100Bは、MOF充填タンク1b、バルブ15、配管30j、図示しない制御部を備える。以下各部について説明する。
【0044】
MOF充填タンク1aは、金属有機構造体(MOF)が充填されたガスタンクである。MOF充填タンク1aは、配管30jを介し真空装置20と接続している。また、配管30j上には、バルブ15が設けられている。
【0045】
MOF充填タンク1aの材質としては、Ti、Ti合金、Al合金、Mg合金および炭素繊維強化樹脂(CFRP)、Fe、Fe合金などが挙げられる。
【0046】
MOF充填タンク1aに充填されるガスとしては、キセノン、クリプトン、アルゴン、ネオン、ヘリウム、水素、酸素、窒素、塩素が挙げられる。
【0047】
MOFの充填率としては、特に限定されないが、MOF充填タンク1aの全容積の60%以上であることが好ましい。MOF充填タンク1aのより好ましい充填率は、MOF充填タンク1aの全容積の70%以上である。MOF充填タンク1aのさらに好ましい充填率は、MOF充填タンク1aの全容積の75%以上である。
【0048】
MOF充填タンク1aに充填されるMOFとしては、特に限定されないが、例えば、SBMOF-1、SBMOF-2、Ni-MOF-74、Co(HCOO)、HKUST-1、MOF-5、FMOF-Cu、ZIF-8、MRJ-4I、MOF-505、SIFSIX-3-Ni,SIFSIX-3-Fe、CROFOUR-1-Ni、UIO-66、PCN-14、NOTT-100、NOTT-103、MOF-74-Co、MOF-74-Mg等が挙げられる。MOF充填タンク1aに充填するMOFは、吸着するガスの種類に応じて適宜選択することができる。
【0049】
MOF充填タンク1aに充填されるMOFのBET表面積は特に限定されないが、1000m/g以上が好ましい。より好ましくは、1400m/g以上である。MOFのBET表面積の上限は特に限定されない場、例えば、6500m/gとしてもよい。
【0050】
MOF原料として用いる金属塩は、各種の金属元素を含むものから選択することができ
る。金属塩に含まれる金属元素としては、例えば、Cu、Zn、Co、In、Al、Fe、V、Mg、Mn、Ni、Ru、Mo、Cr、W、RhおよびPdなどが挙げられる。
【0051】
金属イオンに配位結合する有機配位子としては、2-アミノテレフタル酸、2,5-ジアミノテレフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4’-カルボキシ[1,1’-ビフェニル]-4-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2-ヒドロキシテレフタル酸、3,3’,5,5’-テトラカルボキシジフェニルメタン、4,4’,4”-S-トリアジン-2,4,6-トリル-トリ安息香酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、ビフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸、テレフタル酸、トリメシン酸、[1,1’:4’,1”]テルフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸、イミダゾール、2-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0052】
MOF充填タンク1aに充填するMOFの形状は、例えば、粉末状、ペレット状などが挙げられる。取り扱いのしやすさから充填するMOFの形状は、ペレット状に成型されていることが好ましい。
【0053】
MOF充填タンク1aのガス貯蔵時の圧力は0Pa以上1MPa未満である。ガス貯蔵時の圧力が1MPa未満であれば、例えば3.0MPaに対応した場合よりもタンクの厚さを薄くできるので、構造質量を低減することができる。また、この圧力範囲であれば、MOFに吸着されるガスの量を増やすことができるので、従来のガスタンクよりも多量のガスを貯蔵できる。そのため、MOF充填タンク1aを小型化することができる。ガスの圧力が1MPa未満であれば、ガスタンクの耐圧試験が簡単になるので、製造コストを低減することができる。より好ましいガス貯蔵時の圧力は、0.2MPa以下である。ガス貯蔵時の圧力が0.2MPa以下であれば、さらに構造質量を低減することができる。さらに好ましくは、ガス貯蔵時の圧力は、0.1MPa以下である。ガス貯蔵時の圧力の下限は特に限定されないが、例えば、0.01Paまたは、0.1Paである。
【0054】
(バルブ)
バルブ15の開閉は、図示しない制御部によって、制御される。バルブ15の開閉によって、MOF充填タンク1aから送られてきたガスの圧力が調整される。
【0055】
(制御部)
図示しない制御部は、バルブ15を制御する。制御は、バルブ15付近に設けられた図示しない圧力センサー、温度センサーなどから得られた情報に基づいて、制御される。圧力センサ、温度センサーは、例えば、MOFタンク1aをモニタする高圧センサー及び温度センサーと真空装置20をモニタする低圧センサー及び温度センサーとが挙げられる。
【0056】
(真空装置)
MOF充填タンク1aと接続される真空装置20は、真空環境下で、ガスを供給する機構がある装置であれば、特に限定されない。このような真空装置20としては、真空蒸着装置、ドライエッチング装置などが挙げられる。
【0057】
(ガス圧とガス吸着量の関係)
次に、MOFのガス吸着量とガス圧との関係を説明する。ここでは、Xeのガス圧とMOFへのXeの吸着量との関係を説明する。図4は、MOF充填タンク1中にMOF(MOF-74-Co)を充填した場合のガス圧とガスの吸着量の関係を示す図である。図4の実線は、1MPaまでのXeの吸着量の測定結果を、下記(1)式で表されるBET(Brunauer,Emmett,Teller)吸着等温式でフィッティングすることで得られた結果である。下記(1)式中のwは吸着量を示し、wmは、単分子で吸着された場合の吸着量、pは圧力、p0は、吸着物質の蒸気圧、cは吸着熱などに関するパラメータを示す。図4の縦軸は、MOF1gに対するXeの吸着量(gxe/gMOF)を示し、横軸はXeのガス圧(MPa)を示す。ここで、図4中の点aはガス圧:0.1MPa、吸着量:0.80gxe/gMOFを意味し、bはガス圧:3MPa、吸着量:1.57gxe/gMOFを意味し、cはガス圧:1MPa、吸着量:1.27gxe/gMOFを意味し、dはガス圧:0MPa、吸着量:0gxe/gMOFを意味する。
【0058】
【数1】
【0059】
従来は、aとb間での使用であったので、ガス圧は0.1MPa~3MPa、ガス吸着量は0.80gxe/gMOF~1.57gxe/gMOFの間で変化することになる。すなわち、従来の場合は、1gのMOFに対して、0.77gガスを貯蔵することができる。一方、aとcの間で使用する場合、ガス圧は0MPa~1MPa、吸着量は、0gxe/gMOF~1.27gxe/gMOFの間で変化する。すなわち、ガス圧0MPa~1MPaの間で使用することで、1gのMOFに対し1.27gガスを貯蔵することができる。宇宙は真空のため、1MPa未満でも吸着したガスを放出することができる。そのため、ガスの上限の圧力を低減しても問題はなく、MOF充填タンク1の構造質量を低減することができる。また、同様に真空装置20の場合も同様に1MPa未満で、吸着したガスを放出することができるので、MOF充填タンク1aの構造質量を低減することができる。また、MOF充填タンク1、1aは、MOFのガス吸着量の変化が大きい圧力範囲を活用するため、非特許文献1のような従来のガス供給システムのタンクよりもガスを多く貯蔵できる。そのため、タンクの容積を小さくすることができる。そのため、ガス供給システム100、100A、100Bは、従来のガス供給システムよりも小型化することができる。
【0060】
以上に示した通り、本実施形態に係るガス供給システムは、従来よりも軽量、かつ、小型である。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明に係る特定の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。例えば、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
(MOFにおける吸着量評価)
MOFは、Atomics社製MOF-74-CoおよびMO-74-Mgを用いた。ペレット状に成型した各MOFをそれぞれ別のタンクに充填し、常温で圧力を0.004MPa~1000MPaまで変えた際の、1gのMOFに対するXeの吸着量を測定した。得られた結果を図5に示す。図5の横軸は圧力(kPa)、縦軸は1gのMOFに対するXeの吸着量(gxe/gMOF)を示す。真空から徐々にXeの圧力を高めていくとMOF-74-CoおよびMOF-74-Mgともに、100kPaでは、MOF1gあたり、0.7g~0.8g程度のXeが吸着した。1000kPaでは、MOF-74-Co、MOF-74-Mgは、MOF1gあたり、1.2g~1.4g程度のXeが吸着した。よって、従来通り、ガス圧の下限を1気圧(100kPa)とすると、MOF1gあたり、0.7g程度しかXeを取り出せない。一方、宇宙で用いる場合と同じく1kPaまで減圧すると、ほぼ吸着したXeを取り出せることが分かった。
【0064】
(ガス供給システムの質量比較)
従来のガス供給して生むと本実施例における燃料タンクとの質量比較について説明する。
【0065】
(従来のガス供給システム)
質量比較の前に、従来のガス供給システムについて説明する。図6に従来のガス供給システム300を示す。図6のガス供給システムは、機械式変調器を組み合わせた2段階調圧式のガス供給システムである。このガス供給システム300は、高圧タンク20、機械式レギュレータ21、ソレノイドバルブ22、アキュムレータ23、スラスタバルブ24、および流量制御器25を備える。このガス供給システム300では、機械式レギュレータ21によって、0.1MPaまで減圧し、その後、ソレノイドバルブ22によって、アキュムレータ23中のガス圧力を0.03MPaまで微調整する。微調整されたガス圧は、スラスタバルブ24および流量制御器25によって、ガス圧を1kPaまでに調整し、推進器まで送られる。高圧のガスを用いた場合は、このように、複数の圧力調整機構が必要となるので、構造質量が高くなる。
【0066】
表1に、本実施例のガス供給システムと従来のガス供給システムの質量比較を示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示す通り、従来1453gほどであった燃料タンクが900gほどになった。本実施例では、燃料タンクの質量のうち、MOFの質量が640gである。燃料タンクの材料は、高圧用のタンクから低圧用のタンクになるので、MOFを含まない燃料タンクの質量は、1453gから260gとなった。また、レギュレータや高圧ドレインバルブが不要となり、質量がその分、従来のガス供給システムより低減した。また、配管などのチューブも従来の高圧仕様から、1MPa以下の低圧仕様になった。体積比では、従来の燃料タンクのタンク容積2Lに対して、MOFを用いた場合は0.8Lになるので、体積を50%以上削減できる。体積の小型化によって、ブラケットも軽量化できた。以上の軽量効果により、燃料質量/構造質量では、従来方式では30%であったものが、本実施例のガス供給システムでは、56%まで向上した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本実施形態に係るガス供給システムは、軽量、かつ、小型であるので、産業上利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0070】
1 MOF充填タンク
2 第1圧力センサ
3 バルブ
4 レギュレータバルブ
5 第2圧力センサ
6 アキュムレータタンク
7 スラスタバルブ
8 オリフィス
9 スラスタ
30a、30b、30c、30d、30e、30f 配管
100 ガス供給システム
200 推進システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6