(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179319
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】抗エンベロープウイルス中性洗浄剤、消毒剤組成物、及びエンベロープウイルスの不活性化方法
(51)【国際特許分類】
A01N 33/04 20060101AFI20221125BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221125BHJP
A01N 41/04 20060101ALI20221125BHJP
C11D 1/62 20060101ALI20221125BHJP
C11D 1/92 20060101ALI20221125BHJP
C11D 3/48 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A01N33/04
A01P3/00
A01N41/04 Z
C11D1/62
C11D1/92
C11D3/48
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022027229
(22)【出願日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2021086209
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】322007604
【氏名又は名称】島岡 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100215119
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 公孝
(72)【発明者】
【氏名】森岡 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】島岡 大輔
【テーマコード(参考)】
4H003
4H011
【Fターム(参考)】
4H003AC08
4H003AD05
4H003AE05
4H003BA12
4H003EB16
4H003ED02
4H003FA34
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA05
4H011BA06
4H011BB04
4H011BB07
4H011BC03
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】人体などへの影響が少なく、エンベロープウイルスに対する不活性効果を有する抗ウイルス洗浄剤、及びこれを含む消毒剤組成物、ならびにそれらを用いたエンベロープウイルスの不活性化方法を提供する。
【解決手段】(A)下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩を0.0001以上0.4以下質量%、および(B)両性界面活性剤としてのスルホベタインを0.003~3.0質量%の割合で含有するとともに、(C)成分として水を含有し、かつ組成物のpHが25℃で6~8であることを特徴とする抗エンベロープウイルス洗浄剤。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)および(B)成分を、組成物全体に対し下記割合で含有するとともに、(C)成分として水を含有し、かつ組成物のpH(JIS Z 8802:2011「pH測定方法」)が25℃で6~8であることを特徴とする抗エンベロープウイルス洗浄剤。
(A)下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩:0.0001以上0.4以下質量%、
【化1】
(式中、R
1~R
4は、直鎖状、分岐状又は環状のC1~C18の炭化水素基であり、R
1とR
2は一緒になって環状になってもよい。Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホネート基、ジアルキルホスホネート基、アジペート基、メトサルフェート基、バイカーボネート基又はカーボネート基である。)
(B)両性界面活性剤としてのスルホベタイン:0.003~3.0質量%
【請求項2】
前記R1~R4は、直鎖状又は分岐状のC1~C18のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤。
【請求項3】
前記スルホベタインが下記一般式(2)で表されるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤。
【化2】
(式中、R
5~R
7は置換されてもよいベンジル基、又は分岐してもよいC1~C18のアルキル基であり、R
5とR
6が一緒になって環状になってもよい。YはC1からC5のアルキレン基である。ただし、YがC3のアルキレン基である場合は2位に置換基が入ってもよい。)
【請求項4】
前記第4級アンモニウム塩がジアルキルジメチルアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤。
【請求項5】
前記スルホベタインがラウリルジメチル-2-ヒドロキシプロピル-3-スルホベタインであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤。
【請求項6】
対象ウイルスが、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)及びその変異株、鳥インフルエンザウイルス、SFTSウイルス(重症熱性血小板減少症候群)、エボラウイルス、コロナウイルス(MERS,SARS)、デング熱、ジカ熱、豚コレラウイルス(CSFV)、並びにASFvirus(アフリカ豚熱)であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤。
【請求項7】
前記対象ウイルスが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)及びその変異株であり、前記(A)成分を組成物全体に対し0.0001以上0.01未満質量%の割合で含有するものであることを特徴とする請求項6に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤を含むものであることを特徴とする消毒剤組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤、又は、請求項8に記載の消毒剤組成物をエンベロープウイルスに接触させて前記エンベロープウイルスを不活性化することを特徴とするエンベロープウイルスの不活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗エンベロープウイルス中性洗浄剤、及び、前記洗浄剤を含む消毒剤組成物、並びにそれらを用いたエンベロープウイルスの不活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本をはじめ国際社会は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)の急速拡大という重大リスクに直面しており、有効な感染症対策の確立が急務となっている。
【0003】
感染症対策の原則は、(1)感染者への対策、(2)感染源への対策、(3)感染経路への対策の3つであるとされる。しかしながら、新型ウイルスによる感染症が発生した場合、多くの人は免疫を持っておらず、ワクチンなどにより一人一人が免疫を持つようになるまでに相当の時間を要するため、感染拡大を抑えるには(3)感染経路への対策こそが重要となる。
【0004】
接触感染経路のリスク削減対策としては、(i)手指に付着したウイルスをせっけんなどで洗い落とす、(ii)手指に付着したウイルスをアルコールなどで消毒する、(iii)手指などでウイルス付着物に触る頻度を下げる、(iv)ワイプなどにより付着ウイルスを取り除いて環境表面のウイルス濃度を下げる、(v)ウイルス不活性効果のある製品を用いて表面上のウイルスを積極的に不活性化する、(vi)汚染された手指で口、鼻、目を触らない、といった方法が知られている。以下では、接触感染経路上の付着ウイルスを取り去ることとウイルスを不活性化することを合わせて「ウイルス除染」ともいう。
【0005】
このようなウイルス除染において、ウイルスの意図しない拡散をもたらさないようにするためには、ウイルスの不活性化が重要となる。そこで、SARS-CoV-2をはじめとするエンベロープウイルスを不活性化するための製品(組成物)がいろいろと検討されている。
【0006】
例えば、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(ADBAC)及び塩化ジデシルジメチルアンモニウム(DDAC)などの4級アンモニウム化合物は、家庭用や産業用消毒剤製剤など広範囲の用途において有用であることが知られている(特許文献1)。一方で、間接的食物接触用途におけるそれらの使用は、これらの化合物の最大許容使用レベルに対する規制のため低レベルに制限されている。そのような低レベルでは、通常、これらの4級アンモニウム化合物単体では、その使用目的に対して有効ではない。
【0007】
塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドは米国FIFRA規制審査データを中心にウイルス不活性化効果が多数報告されている(非特許文献1、2)。
【0008】
塩化ベンザルコニウムは、SARS-CoV-2に対し0.05%~0.09%の濃度で3.8Log10以上不活性化できることが報告されており、ジデシルジメチルアンモニウムクロライドはSARS-CoV-2に対し0.01%、5分の接触で4Log10の減少が確認されている。ただしpHの記載はない(非特許文献1)。pHは大事なファクターで、特許文献2にはアルカリ性(pHが11以上)でないと、4級アンモニウム塩はウイルス不活性化効果が得られないことが記載されている(特許文献2)。
そして、上述のように4級アンモニウム塩は皮膚毒性や目への刺激が強いため、そのもの単体での使用は人体への影響が懸念される。
【0009】
このほか、4級ピリジニウム塩である塩化セチルピリジニウム(CPC)は、ネコ伝染性腹膜炎II型(FIP II型)コロナウイルスに対し、0.025%濃度、5分間の曝露で99.95%の減少が確認されており(特許文献3)、SARS-CoV-2に対するウイルス不活性化効果が期待されている(非特許文献3)。
【0010】
4級アンモニウム化合物(塩)は、陽イオン性界面活性剤であるが、他の界面活性剤についてもウイルス不活性化能が検討されている。
例えば、両性界面活性剤であるアルキルアミンオキサイドは、SARS-CoV-2に対して、0.1%濃度、20秒間の接触で5log10の不活性化効果や終濃度0.045%濃度、1分間の接触で4log10を越える不活性化が確認されている。しかし、それ以外の両性界面活性剤に関しては、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスに対する不活性化効果については報告されていない(非特許文献1)。
【0011】
特許文献4には、アルキルアミンオキサイドを含め、スルホベタインおよびその混合物がエンベロープウイルスに対して不活性化効果を有することが記載されているが、新型コロナウイルスの不活性化については明らかでない。また、特許文献4には、4級アンモニウム塩とスルホベタインの併用について記載されていない。
むしろ、第4級アンモニウム塩とベタイン型両性イオン界面活性剤の組み合わせは、界面活性剤のイオン的な相互作用によって第4級アンモニウム塩の殺菌力を低下させる恐れがあるとされている(特許文献5)。
【0012】
以上のように、SARS-CoV-2などのエンベロープウイルスを不活性化する抗ウイルス洗浄剤(抗エンベロープウイルス洗浄剤)が数多く検討されてきているが、人体及び家畜への影響が低く、ウイルス不活性化能の高い洗浄剤の登場が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2012-521434号公報
【特許文献2】特開2019-052118号公報
【特許文献3】特表2007-515204号公報
【特許文献4】特表2015-525572号公報
【特許文献5】特開平11-035974号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】リスク学研究, 2020,30巻,1号,p.5-28
【非特許文献2】Environ. Sci. Technol. Lett. 2020,7,p.622-631
【非特許文献3】Pharm. Res. 2020,37:104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、4級アンモニウム塩を単体で人体などに使用するには問題があるため、いかに4級アンモニウム塩の濃度を低減し、人体などへの影響を少なくして抗エンベロープウイルス剤として活用できるかが課題であった。
【0016】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、人体などへの影響が少なく、エンベロープウイルスに対する不活性効果を有する抗ウイルス洗浄剤、及びこれを含む消毒剤組成物、ならびにそれらを用いたエンベロープウイルスの不活性化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明では、下記の(A)および(B)成分を、組成物全体に対し下記割合で含有するとともに、(C)成分として水を含有し、かつ組成物のpH(JIS Z 8802:2011「pH測定方法」)が25℃で6~8であることを特徴とする抗エンベロープウイルス洗浄剤を提供する。
(A)下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩:0.0001以上0.4以下質量%、
【化1】
(式中、R
1~R
4は、直鎖状、分岐状又は環状のC1~C18の炭化水素基であり、R
1とR
2は一緒になって環状になってもよい。Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホネート基、ジアルキルホスホネート基、アジペート基、メトサルフェート基、バイカーボネート基又はカーボネート基である。)
(B)両性界面活性剤としてのスルホベタイン:0.003~3.0質量%
【0018】
このような抗エンベロープウイルス洗浄剤であれば、人体などへの影響が少なく、エンベロープウイルスに対する不活性効果を有するものとなる。
【0019】
この場合、前記R1~R4は、直鎖状又は分岐状のC1~C18のアルキル基であることが好ましい。
【0020】
このような(A)成分を含む抗エンベロープウイルス洗浄剤は、エンベロープウイルスに対する不活性効果がより高くなる。
【0021】
上記抗エンベロープウイルス洗浄剤は、前記スルホベタインが下記一般式(2)で表されるものであることが好ましい。
【化2】
(式中、R
5~R
7は置換されてもよいベンジル基、又は分岐してもよいC1~C18のアルキル基であり、R
5とR
6が一緒になって環状になってもよい。YはC1からC5のアルキレン基である。ただし、YがC3のアルキレン基である場合は2位に置換基が入ってもよい。)
【0022】
このような(B)成分は、(A)成分との相乗効果によって、不活性効果が更に高くなる。
【0023】
上記抗エンベロープウイルス洗浄剤は、前記第4級アンモニウム塩がジアルキルジメチルアンモニウム塩であることが好ましい。
【0024】
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、このような(A)成分を含むことが特に好ましい。
【0025】
上記抗エンベロープウイルス洗浄剤は、前記スルホベタインがラウリルジメチル-2-ヒドロキシプロピル-3-スルホベタインであることが好ましい。
【0026】
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、このような(B)成分を含むことが特に好ましい。
【0027】
上記抗エンベロープウイルス洗浄剤では、対象ウイルスが、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)及びその変異株、鳥インフルエンザウイルス、SFTSウイルス(重症熱性血小板減少症候群)、エボラウイルス、コロナウイルス(MERS,SARS)、デング熱、ジカ熱、豚コレラウイルス(CSFV)、並びにASFvirus(アフリカ豚熱)であることができる。
【0028】
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、このようなウイルスに対して、高い不活性化能を有する。
【0029】
この場合、前記対象ウイルスが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)及びその変異株であり、前記(A)成分を組成物全体に対し0.0001以上0.01未満質量%の割合で含有するものであることが特に好ましい。
【0030】
このような抗エンベロープウイルス洗浄剤は、新型コロナウイルス及びその変異株に対して、特に高い不活性化能を有する。
【0031】
また、本発明は、上記抗エンベロープウイルス洗浄剤を含む消毒剤組成物を提供する。
【0032】
このような消毒剤組成物であれば、人体などへの影響が少なく、エンベロープウイルスに対する不活性効果を有するものとなる。
【0033】
また、本発明は、上記抗エンベロープウイルス洗浄剤、又は、上記消毒剤組成物をエンベロープウイルスに接触させて前記エンベロープウイルスを不活性化することを特徴とするエンベロープウイルスの不活性化方法を提供する。
【0034】
このような本発明のエンベロープウイルスの不活性化方法であれば、人体などへの影響が少なく、エンベロープウイルスを不活性化する能力が高いため、ウイルスの非意図的な拡散をもたらさずに、より効率的で十分なウイルスの不活化ができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、中性領域(pH=6-8)で少なくとも2種の低濃度の界面活性剤の組み合わせにより、人体及び家畜への影響が少なく、エンベロープウイルスを不活性化する能力が高い抗エンベロープウイルス洗浄剤および消毒剤組成物を提供することができるため、新型コロナウイルス及びその変異株などのエンベロープウイルスの不活化に有効であり、感染症対策として利用価値が非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0036】
上述のように、人体などへの影響が少なく、エンベロープウイルスに対する不活性効果を有する抗ウイルス洗浄剤の開発が求められていた。
【0037】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、4級アンモニウム塩に他の界面活性剤(両性界面活性剤:ベタイン(カルボベタイン、スルホベタイン、ホスホベタイン)、アルキルグルコシド、アルキルアミンオキサイドなど)を特定の濃度で組み合わせた数種のカクテル洗浄剤が有効であること、そのなかでも、スルホベタインがアンモニウムカチオンの抗ウイルス性を相乗的に上げることを見出し、本発明を完成させた。
【0038】
即ち、本発明は、下記の(A)および(B)成分を、組成物全体に対し下記割合で含有するとともに、(C)成分として水を含有し、かつ組成物のpH(JIS Z 8802:2011「pH測定方法」)が25℃で6~8であることを特徴とする抗エンベロープウイルス洗浄剤である。
(A)下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩:0.0001以上0.4以下質量%、
【化3】
(式中、R
1~R
4は、直鎖状、分岐状又は環状のC1~C18の炭化水素基であり、R
1とR
2は一緒になって環状になってもよい。Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホネート基、ジアルキルホスホネート基、アジペート基、メトサルフェート基、バイカーボネート基又はカーボネート基である。)
(B)両性界面活性剤としてのスルホベタイン:0.003~3.0質量%
【0039】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
<抗エンベロープウイルス洗浄剤>
本発明は、抗エンベロープウイルス洗浄剤(抗エンベロープウイルス中性洗浄剤)もしくは消毒剤組成物を提供することを課題とする。さらには、2種以上の界面活性剤を有効成分とすることにより、希釈された界面活性剤で抗エンベロープウイルス活性を示し環境に配慮したものである。
【0041】
本発明は上述したように、中性領域で抗エンベロープウイルス洗浄剤もしくは消毒剤組成物の本発明を完成させた。
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、後述する(A)成分および(B)成分を、組成物全体に対し特定の割合で含有するとともに、(C)成分として水を含有する組成物である。そして、その組成物のpHが25℃で6~8であることを特徴とする。なお、本明細書において、pHはJIS Z 8802:2011「pH測定方法」により測定した値をいうものとし、中性とは、pH6~8の範囲をいうものとする。
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、上記(A)~(C)成分のほかに、必要に応じて、上記(A)、(B)成分以外の界面活性剤などの添加剤を更に含有することもできる。以下、各成分について説明する。
【0042】
[(A)第4級アンモニウム塩]
(A)成分は、下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩である。
【化4】
(式中、R
1~R
4は、直鎖状、分岐状又は環状のC1~C18の炭化水素基であり、R
1とR
2は一緒になって環状になってもよい。Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホネート基、ジアルキルホスホネート基、アジペート基、メトサルフェート基、バイカーボネート基又はカーボネート基である。)
【0043】
一般式(1)で、R1~R4は、直鎖状、分岐状又は環状のC1~C18の炭化水素基であり、R1とR2は一緒になって環状になってもよい。上記炭化水素基の炭素原子数は、例えばR1及びR2については8以上15以下であり、R3及びR4については1以上5以下とすることができる。上記炭化水素基の具体例としては、アルキル基、アリル基などのアルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基が挙げられる。
なお、「C1」、「C18」はそれぞれ炭素数が1、18であることを示す。以下において同様である。
【0044】
C1~C18の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのC1~C18の直鎖アルキル基、ビニル基、アリル基などのC1~C18の直鎖アルケニル基、エチニル基などの直鎖アルキニル基、イソプロピル基などのC3~C18の分岐状アルキル基、イソプロペニル基などのC3~C18の分岐状アルケニル基、シクロヘキシル基などのC3~C18の環状アルキル基が挙げられる。好ましくは、R1~R4は、直鎖状又は分岐状のC1~C18のアルキル基である。より好ましくは、直鎖状のC1~C18のアルキル基であり、特にR3,R4は好ましくはメチル基、又はエチル基である。
【0045】
Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択されるハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホネート基、ジアルキルホスホネート基、アジペート基、メトサルフェート基、バイカーボネート基又はカーボネート基である。これらの基は特に限定されないが、例えば、これらの基が有する炭化水素基としては、上記R1~R4と同様のものが挙げられる。Xはウイルス失活には関与しないので、塩を形成するものであれば何でもよい。
【0046】
(A)成分の第4級アンモニウム塩は、上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩であれば特に限定されないが、ジアルキルジメチルアンモニウム塩であることが好ましく、ジデシルジメチルアンモニウム塩であることが更に好ましい。前記ジアルキルジメチルアンモニウム塩は、そのアルキル基がC1~C18のものであればよく、2つ以上の異なるジアルキルジメチルアンモニウム塩の混合物であっても良い。このようなジアルキルジメチルアンモニウム塩はDDAC類縁体を含み、市販品であってもよく、例えば、DDAC類縁体カチオン除菌剤として市販されているビオサイドST-70H(タイショーテクノス製)などが挙げられる。
(A)成分が、上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩と異なる第4級アンモニウム塩であると、後述する(B)成分による相乗効果が発現せず、エンベロープウイルスに対する不活性化能に劣る。
【0047】
(A)成分の濃度は、0.0001質量%以上0.4質量%以下であり、好ましくは、0.0002~0.007質量%である。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)及びその変異株に関しては0.01質量%未満とすることができる。(A)成分の濃度が0.0001質量%未満では、エンベロープウイルスに対する不活性効果が不十分である。非特許文献1には0.01質量%以上では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)では効果があるとされているが、環境(温度、pH)などは明らかでなく、場合により人体などへの影響が懸念される。また0.4質量を超えると人体などへの影響が大きくなる。
【0048】
[(B)両性界面活性剤]
(B)成分は、両性界面活性剤としてのスルホベタインである。本明細書において、スルホベタインとは、正電荷と負電荷を同一分子中の隣り合わない位置に持ち、正電荷を持つ原子には解離可能な水素原子が結合せず(4級アンモニウムなどのカチオン構造)、全体として電気的に中性の化合物であって、スルホネート基を有する化合物のことをいう。スルホベタインも4級アンモニウム構造を取り得るが、スルホネート基を有する点で、(A)成分とは明確に異なる化合物である。
(B)成分は、それ単独でのエンベロープウイルスに対する不活性効果については非特許文献1に報告例はないが、(A)成分の4級アンモニウム塩と組み合わせることで、4級アンモニウム塩のエンベロープウイルスに対する不活性効果を向上させるという相乗効果を発揮する。本発明では、(A)、(B)成分を組み合わせることで、単体では人体などに使用するには問題がある4級アンモニウム塩の濃度を低減し、人体などへの影響を少なくして抗エンベロープウイルス洗浄剤として活用できるものとしている。
【0049】
(B)成分のスルホベタインは、その化学構造は特に限定されないが、下記一般式(2)で表されるものであることが好ましい。
【化5】
(式中、R
5~R
7は置換されてもよいベンジル基、又は分岐してもよいC1~C18のアルキル基であり、R
5とR
6が一緒になって環状になってもよい。YはC1からC5のアルキレン基である。ただし、YがC3のアルキレン基である場合は2位に置換基が入ってもよい。)
【0050】
R5~R7は置換されてもよいベンジル基、又は分岐してもよいC1~C18のアルキル基であり、R5とR6が一緒になって環状になってもよい。具体例としては、上記R1~R4について示した基を挙げることができる。前記ベンジル基はアルキル基、アルコキシ基、水酸基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換されていてもよい。
【0051】
YはC1からC5のアルキレン基である。ただし、YがC3のアルキレン基(トリメチレン基)である場合は2位に置換基が入ってもよい。置換基としては、上記ベンジル基について示したものを挙げることができる。Yとして具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、2-ヒドロキシプロピル基が挙げられる。
R5~R7を適切に選択することでスルホベタインの疎水性と親水性のバランスを調整することができ、Yを適切に選択することで正電荷と負電荷間の距離を調整できる。これらを、組み合わせる(A)成分に応じて調整することで、望ましい相乗効果(エンベロープウイルスに対する不活性効果)を発揮することができる。
【0052】
中でも、スルホベタインがラウリルジメチル-2-ヒドロキシプロピル-3-スルホベタインであることが好ましい。このような(B)成分は、(A)成分との相乗効果によって、不活性効果が更に高くなる。これは、前記スルホベタインが、適切な疎水性基(ラウリル基)、親水性基(水酸基)、適切な正電荷と負電荷間の距離(C3基)を有していることによると考えられる。
【0053】
(B)成分のスルホベタインは市販品であってもよい。例えば、シャンプーなどに使われる皮膚刺激性の少ない両性界面活性剤であるアンヒトール20HD(花王製)などが挙げられる。
【0054】
(B)成分の濃度は、0.003~3.0質量%であり、好ましくは、0.01~0.3質量%である。(B)成分の濃度が0.003質量%未満では、(A)成分と組み合わせた際の相乗効果が不十分であり、3.0質量%を超えると相乗効果は変わらない一方でコストアップになるため好ましくない。
【0055】
[(C)水]
本発明の洗浄剤に用いられる水((C)成分)としては、水道水、硬水、軟水、イオン交換水、純水、精製水等が挙げられる。当該組成物の貯蔵安定性の点から、軟水、イオン交換水、純水、精製水等の使用が好ましいが、後述するように本発明の洗浄剤は、希釈水が硬水であっても十分な抗ウイルス活性を維持することができる。
【0056】
本発明の洗浄剤中には、水を他の成分との総和が100質量%になるのに必要な量(いわゆるバランス)として配合される。
【0057】
[(D)添加剤]
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤には、(A)、(B)成分以外の界面活性剤、キレート剤、水溶性溶剤などを必要に応じて含むことができる。
【0058】
(界面活性剤)
(D)成分としての界面活性剤は、(A)、(B)成分以外のものであれば特に限定されないが、例えば、(A)成分以外の陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、(B)成分以外の両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を挙げることができる。中でも湿潤、浸透、洗浄、乳化、分散の機能を有する非イオン性界面活性剤が好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマーなどの共重合体、アルキルグリコシド、ノニルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル、カルボン酸エステルが挙げられる。界面活性剤の具体例としては、例えば特許文献2に開示されているものが挙げられる。本発明においては、特にポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ノイゲンTDX80D(第一工業製薬製)などの市販品を用いてもよい。
上記界面活性剤の洗浄剤中における濃度は、0.002~0.2質量%未満とすることができる。
【0059】
(キレート剤)
キレート剤としては、抗菌洗浄剤に一般的に用いられるものを利用することができ、例えば、ヒドロキシカルボン酸及びその塩、ならびにアミノカルボン酸及びその塩から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸等が挙げられ、アミノカルボン酸としては、メチルグリシンジ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミンテトラ酢酸等が挙げられる。これらの塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びアルカノールアミン塩等が挙げられる。好ましくは、入手の容易さや、洗浄力、貯蔵安定性の効果の点から、アミノカルボン酸又はその塩が好ましい。本発明の組成物において、キレート剤は上記より選択されるものを単独で用いても、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、本発明の洗浄剤においては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を好適に利用することができる。
【0060】
本発明の洗浄剤中には、キレート剤を0.1~5質量%、好ましくは、0.5~3質量%の範囲に設定することができる。キレート剤の量が少ないと、洗浄効果や、洗浄剤の貯蔵安定性が乏しくなる場合があり、一方、キレート剤の量が多すぎると、キレート剤に由来する洗浄力の向上効果は飽和になり、むしろ経済的に不利となる場合がある。
【0061】
本発明の洗浄剤は、カチオンを安定化するノニオン高分子ポリエーテルなどの界面活性剤や、EDTAなどのキレート剤を含むことにより、低温にした場合でも、溶液が濁らないようにすることができる。また、ノニオン高分子ポリエーテルなどを加えたことで、そのキレート効果により、希釈する水が軟水でも硬水でも抗ウイルス活性を維持することができる。
【0062】
(水溶性溶剤)
水溶性溶剤としては、抗菌洗浄剤に一般的に用いられるものを利用することができ、例
えば、グリコールエーテル系溶剤及びアルコールから選ばれる少なくとも一種が挙げられ
る。水溶性溶剤の具体例としては、例えば特許文献2に開示されているものが挙げられる。
【0063】
本発明の洗浄剤において、水溶性溶剤は上記より選択されるものを単独で用いても、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
本発明の洗浄剤中には、水溶性溶剤を0~20質量%、好ましくは5~15質量%、より好ましくは7~10質量%の範囲に設定される量にて含めることができる。
【0065】
(その他の成分)
また、本発明の洗浄剤には、必要に応じてさらに他の添加剤、例えば、皮膚刺激緩和剤、染料、香料、防腐剤、金属腐食抑制剤、ホップ抽出物、ポリリジン等の殺菌剤を配合することができる。
【0066】
<抗エンベロープウイルス洗浄剤の調製>
本発明の洗浄剤は、各成分が液体である場合には混合攪拌することにより、また固形成
分を含む場合には水にまず溶解後、他の液体成分を添加し混合攪拌することが一般的であ
るが、その組成によっては、各成分の添加順序、溶解順序、必要に応じて行われる加温/
冷却等の製造手順は、特に制限されるものではない。
【0067】
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤のpH(JIS Z 8802:2011「pH測定方法」)は、25℃で6~8(中性領域)である。本発明では上記洗浄剤のpHを上記範囲内とすることによって、人体などへの影響を低くすることができ、かつエンベロープウイルスに対する不活化効果も奏することができる。
pHは、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、カルボン酸塩などのアルカリ剤、好ましくはアルカリ金属水酸化物、より好ましくは、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムを用いて、上記範囲に調整できる。
【0068】
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤(組成物)は、例えば、2~1000倍等に適宜希釈して用いても良い。希釈は水(硬度0~1000(単位はmg/L、以下同じ))を用いて行うことができる。
【0069】
<対象ウイルス>
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤の対象ウイルスとしては、特に限定されず、エンベロープを持つウイルスを対象とすることができる。例えば新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)及びその変異株、インフルエンザウイルス(A型、B型およびC型)、鳥インフルエンザウイルス、SFTSウイルス(重症熱性血小板減少症候群)、エボラウイルス、コロナウイルス(MERS、SARSなど)、デング熱、ジカ熱、豚コレラウイルス(CSFV)、ASFvirus(アフリカ豚熱)、黄熱ウイルス、日本脳炎ウイルス、セントルイス脳炎、マレー渓谷脳炎、ウエストナイル熱、中央ヨーロッパ脳炎、ロシア春夏脳炎、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、風疹ウイルス、シンドビスウイルス、チクングニアウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、ヒトTリンパ球向性ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、マールブルグウイルス、狂犬病ウイルス、カリフォルニア脳炎ウイルス、ハンターンウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、トゴトウイルス、ドーリウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルス、ラッサウイルス、リンパ性脈絡髄膜炎ウイルス、フンニウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、ヒトヘルペスウイルス、ヒトヘルペスウイルス2~8、痘瘡ウイルス、牛ウイルス性下痢ウイルス1及び2,ボーダー病ウイルス1,2及び3、キリンぺスチウイルス等が挙げられる。なかでも、対象ウイルスが、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)及びその変異株、鳥インフルエンザウイルス、SFTSウイルス(重症熱性血小板減少症候群)、エボラウイルス、コロナウイルス(MERS,SARS)、デング熱、ジカ熱、豚コレラウイルス(CSFV)、ASFvirus(アフリカ豚熱)であると、本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、優れたウイルス不活性化能を発揮する。
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、人体及び家畜への影響が低く、上記のようなエンベロープウイルスに対する不活性化能が高い。このため、エンベロープウイルスの除染に有効であり、人間及び家畜の感染症対策として利用価値が非常に高い。
【0070】
<消毒剤組成物>
本発明の消毒剤組成物は、上記抗エンベロープウイルス洗浄剤を含む。
消毒剤組成物は、上記抗エンベロープウイルス洗浄剤に加えて、上述の添加剤などを必要に応じて含むことができる。
【0071】
<ウイルスの不活性化方法>
本発明は、本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤、又は、本発明の消毒剤組成物をエンベロープウイルスに接触させて前記エンベロープウイルスを不活性化することを特徴とするエンベロープウイルスの不活性化方法も提供する。
上記抗エンベロープウイルス洗浄剤、又は、消毒剤組成物(以下、これらをまとめて「本発明の組成物」ともいう)は、(A)成分の第4級アンモニウム塩の濃度が低いため人体などへの影響が低い。その一方で、共存する(B)成分のスルホベタインがアンモニウムカチオンの抗ウイルス性を相乗的に向上させるので、本発明の組成物は、新型コロナウイルスをはじめとするエンベロープウイルスに対する不活性化能が高い。
このような本発明の組成物を用いてエンベロープウイルスを不活性化するので、ウイルスの非意図的な拡散をもたらさずに、より効率的で十分なウイルス不活化ができる。
【0072】
本発明の組成物を用いた被洗浄物の洗浄は、以下の方法により行うことができる。
(1)本発明の組成物は不織布に含浸させて抗ウイルス洗浄材(以下、「本発明の抗ウ
イルス洗浄材」と記載する場合がある)とすることができ、これをウイルスの不活化を行う被洗浄物に対してふき取り作業を行うことにより、ウイルスの不活化と共に、被洗浄物の洗浄を行うことができる。被洗浄物としては、医療現場、介護現場、食品工場、喫茶店、レストラン、ホテル、居酒屋、学校(学校給食)、セントラルキッチン、スーパーのバックヤード等の調理台、冷蔵庫、保管庫のほか、テーブル、机、出入口のドアノブ、便器や便座、水道の蛇口、床や壁等の硬表面を有するもの等があげられる。また、本発明の抗ウイルス洗浄材は、おしぼり、濡れティッシュ等としても使用可能である。特に、本発明の抗ウイルス洗浄材によれば、被洗浄物が有機汚れにより汚染されていたとしても、ウイルスの不活化効果を低下又は失うことなく、ふき取り作業によりウイルスの不活化及び被洗浄物の洗浄を行うことができる。本発明の抗ウイルス洗浄材は、例えば、畜舎における洗浄に使用したり、路上散布したりすることもできる。
【0073】
本発明の抗ウイルス洗浄材を構成する不織布の原材料としては、木綿のようなセルロース系材料、羊毛又は絹のようなタンパク質系材料、レーヨン、ポリエステル、アクリル等の化学重合系材料等が挙げられる。なかでも、セルロース系材料、化学重合系材料が好ましい。
【0074】
(2)本発明の組成物は、上記のほか、適宜他の方法により使用することができる。例えばスプレー等により被洗浄物の表面に噴霧し、所定時間放置し、適宜、水ですすいだ後に、乾燥させればよい。具体的には、本発明の組成物を内填した専用のディスペンサーを用いて、使用時毎に、被洗浄物の表面に噴霧することにより、ウイルスの不活化と共に、被洗浄物の洗浄を行うことができる。被洗浄物としては、上述のものを挙げることができる。
【0075】
本発明の組成物は、プラスチック容器、ポンプ付き容器、パウチ、チューブ等に充填されて提供される。また、1回毎に使用される相当量で、個包装し、携帯性をもたせて提供することもできる。
【実施例0076】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、以下において、pHはJIS Z 8802:2011「pH測定方法」により25℃で測定した値である。また、エンベロープウイルスの不活性化能については、エンベロープウイルスとしてインフルエンザウイルス(H3N2)と新型コロナウイルスを用いて評価した。
【0077】
(実施例1-2、比較例1-5)
下記表1の組成に従って、各成分をスルホベタイン(アンヒトール20HDとして10wt%)、水(89.5wt%)供試試料(0.5wt%)の割合で混合し、各組成の抗ウイルス洗浄剤組成物を調製した。いずれも無色透明であった。pH調整においては調節剤(NaOHaq)を用いた。表中、各成分の量は質量%にて示す。表中、アンヒトール20HD(花王製品)はスルホベタインであり、具体的には、ラウリルジメチル-2-ヒドロキシプロピル-3-スルホベタイン(下記式参照)である。アンヒトール20HDは、前記スルホベタインを30質量%含有する。
【化6】
【0078】
各抗ウイルス洗浄剤組成物は水(硬度70)で100倍に希釈して抗エンベロープウイルス洗浄剤とし、抗インフルエンザ試験に用いた。
【0079】
抗インフルエンザ試験(プラーク法)は、インフルエンザウイルス(H3N2)について作用時間10分で行った。pH調整においては調節剤(NaOHaq)を用いた。プラーク法にて得られた不活性化能の有効性に関し、◎:十分な効果あり(4Log10以上)、○:効果あり(2Log10以上4Log10未満)、×:効果なし(2Log10未満)とした。
【0080】
【表1】
表中の4級ピリジニウム塩は、塩化セチルピリジニウムである。
【0081】
表1に示すとおり、本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、特定の第4級アンモニウム塩とスルホベタインとを特定の濃度で配合していることから、両者が相乗効果を発揮して、第4級アンモニウム塩が低濃度であっても、十分なエンベロープウイルス不活性化能を有する。そして、第4級アンモニウム塩が低濃度であるため人体などへの影響が少ない。
一方、本発明の(A)成分に該当しない4級ピリジニウム塩や、ベンジル基を有する4級アンモニウム塩を含む比較例1-3、4級アンモニウム塩を含まない比較例4ではエンベロープウイルスの不活性化に効果がなかった。また、市販品(比較例5)は、エンベロープウイルスの不活性化に効果が認められるが、pHが高く、人体などへの影響が大きい。比較例1-4の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、スルホベタインを含んでいるもののエンベロープウイルスの不活性化に効果がなかったことから、スルホベタインが単独で存在していてもエンベロープウイルスの不活性化に効果がないことが推測できる。
【0082】
(実施例3-8)
下記表2の組成に従って、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしてノイゲンTDX80D(第一工業製薬製)を用いた以外は実施例1と同様にして各成分を混合し、各組成の抗ウイルス洗浄剤組成物を調製した。いずれも無色透明であった。pH調整においては調節剤(NaOHaq)を用いた。表中、各成分の量は質量%にて示す。
【0083】
各抗ウイルス洗浄剤組成物は水(硬度70)で100倍に希釈して抗エンベロープウイルス洗浄剤とし、抗インフルエンザ試験に用いた。抗インフルエンザ試験(プラーク法)は、インフルエンザウイルス(H3N2)について作用時間5分で行った。結果については、上記と同様に評価した。
【0084】
【0085】
表2に示すとおり、本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、本発明のスルホベタイン濃度であれば、十分なエンベロープウイルス不活性化能を有する。また、第4級アンモニウムの対アニオンが塩化物イオンでも、臭化物イオンでも十分なエンベロープウイルス不活性化能を有する。
【0086】
(実施例9)
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(0.4g)、アンヒトール20HD(10.0g)、ノイゲンTDX80D(2.0g)、EDTA(0.2g)、水(87.4g、硬度70)を混合し、抗ウイルス洗浄剤組成物を調製した。いずれも無色透明であった。pH調整においては調節剤(NaOHaq)を用いた(pH=7.2)。
上記抗ウイルス洗浄剤組成物の組成は以下のとおりである。
質量部
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド 0.4
スルホベタイン 3.0
ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル 2.0
EDTA 0.2
水 残部
合計 100
【0087】
抗ウイルス洗浄剤組成物は水(ナチュラルミネラルウォーター:エビアン(登録商標)、(カシャ水源:硬度304))で100倍に希釈して抗エンベロープウイルス洗浄剤とし、抗インフルエンザ試験に用いた。プラーク法にて得られた不活性化能の有効性に関し、暴露時間(作用時間)を変えて上記と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0088】
【0089】
本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、100倍濃縮液を硬度304の水にて希釈しても、1分の暴露時間で十分なエンベロープウイルス不活性化能を示すうえ、その後も経時的に不活性化能を維持することができる。このことは、輸送のしやすいコンパクトな100倍濃縮液を温泉地や海外(米国ラスベガス、ドイツ:ミュンヘン、中国:北京など)の硬度の高い水で希釈しても十分な抗ウイルス活性を維持することを意味する。
ジアルキルジメチルアンモニウム塩などのジアルキル型の第4級アンモニウム塩は硬水の影響を受けにくく、かつ殺菌性能が優れているという点で従来のカチオン界面活性剤型殺菌剤に比べ汎用されている(特許文献5)。このことも、上記試験の結果(本発明の効果)を支持している。
【0090】
(実施例10)
実施例9で用いた抗エンベロープウイルス洗浄剤の皮膚刺激性試験を行った。
皮膚刺激性試験セットのプロトコール(OECD TG 439; In Vitro Skin Irritation: Reconstructed Human Epidermis Test Method)に従って試験し、抗エンベロープウイルス洗浄剤(界面活性剤製剤)による細胞生存率を判定する。
【0091】
I-1.試験溶液の調製
陽性対照;SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)500mgを秤量し、滅菌蒸留水を添加して10mLとした。
陰性対照;滅菌蒸留水、リン酸緩衝液;50mM リン酸緩衝液(pH7.2)を調製し、滅菌したポリ洗浄瓶に充填した。
MTT培地;MTT試薬(6mg)をアッセイ培地(12mL)に溶解した。なお、MTT〔3-(4,5-Dimethylthiazol-2-yl)-2,5-Diphenyltetrazolium Bromide〕は、淡黄色の基質で、生細胞のミトコンドリアにより開裂して晴青色のホルマザンを生成する(死細胞では開裂しない)。このホルマザンの生成量は生細胞数と相関している。
被検溶液(被験物質);実施例9で調製した抗エンベロープウイルス洗浄剤
【0092】
I-2.試験操作
アッセイ培地を37℃のウオーターバスで加温した。4枚のアッセイプレート(4行×6列)の第1行目にアッセイ培地を0.5mLずつ分注した。LabCyte EPI-Modelの中から培養カップを取り出し、アッセイ培地を分注したアッセイプレートのウエルに移した。炭酸ガス培養用パックを入れた密閉容器の中にアッセイプレートを入れ、25℃インキュベーターで18時間培養した。インキュベーターから取り出したアッセイプレートの第3行目に、ウオーターバスで37℃に加温したアッセイ培地を1.0mLずつ分注した。炭酸ガス培養用パックを入れた密閉容器の中にアッセイプレートを入れ、25℃のインキュベーターで3時間培養した。被験物質の25μLをピペットで取り、第1行にある培養表皮表面に滴下した(n=3)。被験物質暴露15分後、培養カップをピンセットで取り出し、リン酸緩衝液でカップ内を洗浄した。15回洗浄を繰返した後、カップ外側を滅菌綿棒で余分のリン酸緩衝液を拭取った。洗浄した培養表皮の入ったカップを第3行の培養液中に移した。培養後のアッセイプレートをインキュベーターから取り出し、第4行目のウエルに37℃のウオーターバスで温めたMTT培地を0.5mLずつ分注した。炭酸ガス培養用パックを入れた密閉容器の中にアッセイプレートを入れ、25℃のインキュベーターで42時間培養した。培養表皮を第3行から取り出し、MTT培地の入った第4行のウエルに移した。炭酸ガス培養用パックを入れた密閉容器の中にアッセイプレートを入れ、25℃インキュベーターで3時間培養した。反応後第4行の各ウエル内の培養表皮をピンセットでつまみ取り出し1.5mLマイクロチューブに入れた。イソプロパノール300μLを入れ、培養表皮を完全に浸漬した。冷蔵庫内で48時間放置して色素を抽出し、MTT反応抽出液の570nm、及び650nmにおける吸光度を測定した。生細胞率は以下の式にあてはめて算出した。
【0093】
測定値=〔検体の吸光度(570nm)-検体の吸光度(650nm)〕-〔ブランクの吸光度(570nm)-ブランクの吸光度(650nm)〕
【0094】
生細胞率=(被験物質の測定値平均/陰性対照の測定値平均)×100(平均値はn=3の試験の平均)
【0095】
I-3.判定基準
生細胞率 50%以下 ・・・・・ 刺激性ありと判定される。
生細胞率 50%より高い ・・・ 非刺激性と判定される。
【0096】
【0097】
判定; 生細胞率は104%であり、今回調合した界面活性剤製剤には皮膚刺激性は確認されなかった。
【0098】
塩化ジデシルジメチルアンモニウム(DDAC)は、日本では0.4wt%以上の濃度の溶液は劇物指定になっている。しかしながら、本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、DDACの劇物指定の下限である0.4wt%の1/100の濃度の0.004wt%水溶液で抗インフルエンザ活性を示し、皮膚への障害のない(細胞生存率:104%)ことを確認した。
【0099】
(製造例)
抗エンベロープウイルス洗浄剤(DEA-171)を以下のように製造した。
(1)DEA-171の100倍濃縮液(抗ウイルス洗浄剤組成物)の製造
ビオサイドST-70H(タイショーテクノス製):ジアルキルジメチルアンモニウムカチオン(1.4g 塩化ジデシルジメチルアンモニウムとしての力価0.8g)、スルホベタイン(20g、アンヒトール20HD:ラウリルジメチル-2-ヒドロキシプロピル-3-スルホベタインを30%含有)、ノイゲンTDX80D(第一製薬工業製):ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル(4.0g)を水(150g、ローソンの天然水(硬度59))に混ぜ、均一にした(pH=7.6)。これに予め調製した「ローソン天然水」で溶解した2%EDTA(エチレンジアミン四酢酸2Na)のpH7.0水溶液の20g(EDTAとして0.4g)をゆっくり加えていった。均一になったら水で総量200gにして、抗ウイルス洗浄剤組成物(DEA-171の100倍濃縮液)を得た。この洗浄剤組成物のpHはpH7.1であった。
(2)DEA-171及びDEA-172(DEA-171の4倍希釈液)の製造
(1)で製造した抗ウイルス洗浄剤組成物(DEA-171の100倍濃縮液)の20gを水(東京都葛飾区の水道水(硬度61))1.98kgで希釈しDEA-171を2kg製造した。pHは6~8であった。
【0100】
DEA-171の組成は以下のとおりである。
質量部
ジアルキルジメチルアンモニウム塩 0.007
(塩化ジデシルジメチルアンモニウムとして 0.004)
スルホベタイン 0.030
ポリ(オキシエチレン)=アルキルエーテル 0.020
EDTA 0.002
水 99.941
合計 100
【0101】
さらに、このDEA-171の100gに水(葛飾区の水道水)300gを加えDEA-172(抗エンベロープウイルス洗浄剤)とした。pHは6~8であった。
【0102】
(実施例11)新型コロナウイルス不活化試験
100μLのウイルス液に対して、抗エンベロープウイルス洗浄剤(DEA-171)を900μL添加し、1分、30分反応後、反応液を10倍階段希釈して、直ちに、プラーク法により反応液のウイルス力価を測定(すべて3回ずつ実施)した。
プラーク法にて得られた不活性化能の有効性に関し、◎:十分な効果あり(3.8Log10以上)、○:効果あり(2Log10以上3.8Log10未満)、×:効果なし(2Log10未満)とした。
【0103】
【0104】
いずれの株も感作時間1分で検出限界以下までウイルスを不活化した。
また、アルコールとは違い、30分以上の持続性も観察された。
【0105】
続いてDEA-172についても同様に評価を行った。
【0106】
【0107】
これは現在、ジアルキルジメチルアンモニウムカチオンが新型コロナに効果があるとされている濃度0.01wt%(接触時間5分)に対して、濃度で約十分の一、時間は五分の一で効果が出たということである。
【0108】
(実施例12)DEA-171の生物学的安全性(復帰突然変異:Ames)試験
試験方法はOECD TG471に準拠した。
試験と結果:
OECD TG471に記載の5菌株(TA100、TA98、TA1535、TA1537、WP2uvrA)を用いて復帰突然変異試験を実施した。本試験において、S9Mix(-)、S9Mix(+)いずれの系の場合も製品濃度を用いて試験を行った結果、すべての菌株で生育阻害は認められず、また溶媒対照の2倍以上の復帰突然変異コロニー数は認められなかった。すなわち、DEA-171の変異原性は陰性である。
【0109】
(実施例13)DEA-171の生物学的安全性(皮膚感作性)試験
以下のように、皮膚感作性試験を行った。
試験マウス;CBA/J(日本チャールスリバー)
第一群;陰性対照(NC);アセトン:オリーブ油(4:1 v/v)
第二群;DEA-171(原液)
第三群;陽性対照(PC);25%ヘキシルシンナムアルデヒド
各マウスの(1)体重および(2)耳介の紅斑の判定、および(3)耳介のリンパ節のATP濃度を測定した。
【0110】
試験結果:
DEA-171を塗布したマウスに(1)体重の増減に異常は認められなかった。(2)紅斑は確認されなかった。(3)ATP濃度の変動は確認されなかった。
よって、DEA-171に皮膚感作性は確認されなかった。
【0111】
(実施例14)DEA-171およびDEA-172の抗菌作用確認
DEA-171およびDEA-172は30秒から10分において、大腸菌および黄色ブドウ球菌に抗菌作用を示した。
【0112】
以上のように、本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤(抗ウイルス洗浄剤)は、成分の99%以上を水で構成することができ、中性かつ無味無臭透明で、皮膚感作性、変異原性、いずれの試験でも陰性であり、単回経口投与でも異常は認められず、安全性が高い。
【0113】
本発明では、(A)、(B)成分を組み合わせることで、単独では人体などに使用するには問題がある4級アンモニウム塩の濃度を低減し、人体などへの影響を少なくした抗エンベロープウイルス洗浄剤を提供することができる。
これは、単独ではエンベロープウイルスに対する不活性効果について報告例がなかった(B)成分が、(A)成分の特定の4級アンモニウム塩と組み合わせることで、4級アンモニウム塩のエンベロープウイルスに対する不活性効果を向上させるという予期せぬ相乗効果を本発明者らが初めて見出したことに基づいている。
特に(B)成分は、置換基を適切に選択することでスルホベタインの疎水性と親水性のバランスを調整したり、正電荷と負電荷間の距離を調整したりできる。これら置換基を、組み合わせる(A)成分に応じて適切に調整することで、望ましい相乗効果(エンベロープウイルスに対する不活性効果)を発揮することができる。
【0114】
更に、本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、インフルエンザウイルスのみならず、エンベロープウイルスである新型コロナウイルス及びその変異株に対しても強い阻害活性を示す。このことは、エンベロープを構成するマイナスチャージ(アニオン)のリン脂質を(A)成分及び(B)成分のカチオン(プラスチャージ)が攻撃することにより、エンベロープウイルスを失活させるものと推測できる。また、新型コロナウイルスのようにRNA遺伝子が変異しやすいウイルスでも、エンベロープのリン脂質は感染細胞由来であるため、ウイルスの変異に左右されることなく、新型コロナウイルス各種変異株にも強い阻害活性を示す。
【0115】
従来、第4級アンモニウム塩とベタイン型両性イオン界面活性剤の組み合わせは、界面活性剤のイオン的な相互作用によって第4級アンモニウム塩の殺菌力を低下させる恐れがあるとされていとされていた。本発明は、驚くべきことにこうした従来の見解を覆し、上記のような予期せぬ顕著な効果を奏するものである。
【0116】
以上のように、本発明の抗エンベロープウイルス洗浄剤は、明確な作用機序を持ち、中性で安全性が高く、エンベロープウイルス特異的に(ウイルスの遺伝子の種類や変異に関係なく)強力にウイルスを失活させる洗浄剤であり、しかも安価に提供できる。このため、国際社会が直面している、新型コロナウイルスによる感染症の急速拡大という重大リスクに対する有効な感染症対策として利用価値が高い。
【0117】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
前記スルホベタインがラウリルジメチル-2-ヒドロキシプロピル-3-スルホベタインであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤。
対象ウイルスが、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)及びその変異株、鳥インフルエンザウイルス、SFTSウイルス(重症熱性血小板減少症候群)、エボラウイルス、コロナウイルス(MERS,SARS)、デング熱、ジカ熱、豚コレラウイルス(CSFV)、並びにASFvirus(アフリカ豚熱)であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤。
前記対象ウイルスが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)及びその変異株であり、前記(A)成分を組成物全体に対し0.0001以上0.01未満質量%の割合で含有するものであることを特徴とする請求項6に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤。
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の抗エンベロープウイルス洗浄剤、又は、請求項8に記載の消毒剤組成物をエンベロープウイルスに接触させて前記エンベロープウイルスを不活性化することを特徴とするエンベロープウイルスの不活性化方法。