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  • 特開-リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179341
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20221125BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20221125BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20221125BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20221125BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20221125BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221125BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221125BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0525
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M4/485
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058986
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021084658
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】根本 美優
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏篤
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】トドロフ ヤンコ マリノフ
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ10
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050HA01
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】 出力特性とエネルギー密度を両立するリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】 合材層中に負極活物質としてニオブチタン酸化物を含む負極と、RSOOOLi(ここで、RはOCH、OCからなる群より選ばれる少なくとも1種の物質)で示されるアルコキシスルホン酸リチウムを含む非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合材層中に負極活物質としてニオブチタン酸化物を含む負極と、
RSOOOLi(ここで、RはOCH、OCからなる群より選ばれる少なくとも1種の物質)で示されるアルコキシスルホン酸リチウムを含む非水電解液と、
を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記非水電解液中の前記アルコキシスルホン酸リチウムの含有量が0.5~2.0質量%である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記非水電解液は、非水溶媒として環状カーボネート、鎖状カーボネートおよびγ‐ブチロラクトンから選ばれる少なくとも1種以上を含む、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記環状カーボネートは、エチレンカーボネートおよび/またはプロピレンカーボネートであり、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートは含まない、請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記非水電解液は、環状エーテル類の1,3‐ジオキサン、アジポニトリル、スクシノニトリルから選ばれる少なくとも1種以上を0.1重量%~5重量%含む、請求項1~5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
電解質として、0.5M~3MのLiPFおよび/またはLiBFを含み、LiFSi、LiBOBおよびLiPOは含まない、請求項1~6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
合材層中に原子比率としてNiが50%以上のリチウム複合酸化物を含む正極を備える、請求項1~7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
リチウム複合酸化物は、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、およびLiNi0.8Co0.1Mn0.1から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項8に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池に用いる非水電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来のカーボン系負極よりも高出力なチタン酸化物を負極活物質として用いた負極を備えるリチウムイオン電池が実用化されている。しかし、チタン酸化物はカーボン系材料よりも金属リチウムに対する電位が高い上に、チタン酸化物は質量あたりの容量が低く、エネルギー密度が低いという欠点を有する。
【0003】
このため、TiNbに代表されるような単斜晶系Nb-Ti系複合酸化物(以下、「TNO」または「ニオブチタン酸化物」とする場合がある)の負極活物質としての検討がなされている。このTNOを合材層中の負極活物質として用いた負極(以下、「TNO負極」とする場合がある)は、理論容量が387mAh/gという従来のカーボン系負極と同等の理論容量を持っており、この材料を用いることでこれまでのチタン酸化物を用いた際の欠点であるエネルギー密度が低いという問題を解決できる可能性がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6636758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このTNO負極は、これまでのチタン酸化物を用いた負極とは電気化学的挙動が異なる。そのため、ただ単にチタン酸化物をTNOに置き換えただけでは、出力とエネルギー密度を両立したリチウムイオン二次電池を構築することはできない。
【0006】
殊に、TNO負極では充電時に固体電解質界面(以下、「SEI被膜」とする場合がある)が形成されるという、これまでのチタン酸化物とは異なった挙動を示す。このSEI被膜は、負極の電極表面に形成されるため、内部抵抗の上昇を招く。このため、チタン酸化物を負極活物質に用いたリチウムイオン二次電池の大きな特徴である高い出力が得られず、出力特性の低下を招いてしまうことが、実用化を妨げる大きな要因となっている。
【0007】
詳細は定かではないが、TNO負極中のニオブ(Nb)がSEI被膜を形成する際の触媒作用を示すことが考えられ、この点を解決しなければTNO負極を用いたリチウムイオン二次電池の実用化はできない。また、SEI被膜の形成には、負極活物質の材料組成と電解液の組成が関係しており、これまでのチタン酸化物を用いたリチウムイオン二次電池の電解液をそのままTNO負極に適用すると、出力特性の低下を招いてしまう。
【0008】
従って、本発明は上記の問題に着目したなされたものであり、出力特性とエネルギー密度を両立するリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題の解決のため、TNO負極を用いた場合の電解液組成について検討を行った。鋭意検討の結果、TNO負極を用いた場合、電解液添加剤として所定のアルコキシスルホン酸リチウムを含む非水電解液を使用すると、上記組み合わせ特有の効果が発生し、リチウムイオン二次電池の出力特性を大幅に落とすことなく、エネルギー密度をこれまでのチタン酸リチウムを用いた場合の約1.7倍とすることが可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のリチウムイオン二次電池は、合材層中に負極活物質としてニオブチタン酸化物を含む負極と、RSOOOLi(ここで、RはOCH、OCからなる群より選ばれる少なくとも1種の物質)で示されるアルコキシスルホン酸リチウムを含む非水電解液と、を備える。
【0011】
前記非水電解液中の前記アルコキシスルホン酸リチウムの含有量は0.5~2.0質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出力特性とエネルギー密度を両立するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のリチウムイオン二次電池の一例として示す、コイン型の電池の模式断面図である。
図2図2は、本発明のリチウムイオン二次電池の一例として示す、積層型の電池の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の形態や構成について例示するが、本発明はこれらに限定されることはなく、特許請求の範囲に記載の事項、課題を解決するための手段、発明の効果等の記載の意図に沿ったものであれば、全て本発明に含まれる。
【0015】
本発明は、TNO負極を用いたリチウムイオン二次電池に関し、下記の2点の特徴を有する。
【0016】
第1点としては、負極活物質としてニオブチタン酸化物を合材層中に含む負極を用いる点である。TNO負極については上述の通りであるが、本発明ではTNO負極と電解液添加剤との特有の効果を用いて課題解決を図ったものである。そのため、リチウムイオン二次電池の負極活物質として代表的な炭素材料はもちろんのこと、チタン酸リチウムを負極活物質としたリチウムイオン二次電池の場合であっても本発明の効果は得られない。
【0017】
第2点としては、電解液添加剤としてアルコキシスルホン酸リチウム([化1]参照)を使用する点である。本発明では、電解液添加剤として[化1]に示すアルコキシスルホン酸リチウムを用いることで、SEI被膜中に本添加剤が入り込み、被膜密度を下げることによる内部抵抗の低減効果を図るものである。そのため、かかるアルコキシスルホン酸リチウム自体の分解は、本発明の意図するところではない。
【0018】
【化1】
【0019】
さらに、本発明では、非水電解液中のアルコキシスルホン酸リチウムの含有量を0.5~2.0質量%とすることが好ましい。アルコキシスルホン酸リチウムは上述の通り、SEI被膜中に入り込むことにより効果を発揮する。このため、かかる含有量が0.5質量%より少ない場合、SEI被膜に入り込む添加剤分子数も少なくなる。このため、被膜密度が下がらず、内部抵抗の低減効果が得られないおそれがある。一方、かかる含有量が2.0質量%より多い場合、非水電解液に対するアルコキシスルホン酸リチウムの溶解度の関係で、非水電解液の温度によってはアルコキシスルホン酸リチウムが溶け残ってしまい、2.0質量%より濃い濃度の非水電解液を作製することができない場合がある。
【0020】
さらに、より好ましくは、非水電解液中のアルコキシスルホン酸リチウムの含有量が1.0~2.0質量%であれば、内部抵抗の低減効果が十分に得られ、また、非水電解液に対する溶解度も十分に確保することができる。
【0021】
(非水電解液中のアルコキシスルホン酸リチウムの定量方法)
なお、非水電解液中のアルコキシスルホン酸リチウムの含有量は、例えば以下のように検量線を作製し、対象となる非水電解液を試料としてイオンクロマトグラフィーにより測定して得た値を採用することができる。
【0022】
<検量線の作製>
アルコキシスルホン酸リチウムの量を適宜変えながら、検量線を作製した。
【0023】
<アルコキシスルホン酸リチウムの定量方法>
アルコキシスルホン酸リチウムの含有量が不明な定量対象の非水電解液をイオンクロマトグラフィーにて測定し、検量線を作製した溶液と同じ保持時間でピークが出れば、電解液中にアルコキシスルホン酸リチウムが含まれる。また、イオンクロマトグラフィーによるピーク面積と検量線から添加量を判断することができる。
【0024】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば以下に説明する正極、負極、セパレータ、非水電解液、端子および外装体により構成され得る。
【0025】
〈正極〉
正極は、例えば正極活物質合材電極層と、集電体にて構成される。
【0026】
(正極活物質合材電極層)
正極活物質合材電極層は、例えば正極活物質、導電材、結着剤、溶媒にて構成することができる。また、正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiFePO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiCo0.15Ni0.8Al0.05、LiNi0.5Mn1.5等の化合物が例示される。より好ましい態様としては、正極活物質として、原子比率としてNiが50%以上のリチウム複合酸化物を含むことができる。このような酸化物としては、例えば、正極活物質合材電極層中に正極活物質として含まれる、リチウムを除くカチオン種において、ニッケルの原子個数比率が50%以上の酸化物である。具体的には、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、およびLiCo0.15Ni0.80Al0.05が挙げられる。本発明においては、課題として高エネルギー密度であることについて言及しており、そのために電池容量を大きくすることで高エネルギー密度化を図ることができるが、ニッケルの原子個数比率が50%以上において材料の単位容量が大きい特徴があり、上記の酸化物を用いることで正極極中の正極活物質合材電極層の量をより少なく、かつ電極厚みをより薄くすることで、高エネルギー密度化を図ることができる。
【0027】
例えば、グラファイトを負極活物質に使用し、ニッケルを含む酸化物を正極活物質に使用した場合、正極活物質中に含まれるニッケルの比率がエネルギー密度に与える効果はあまり大きくないことがわかっている。理由としては、リチウムが含まれたグラファイトは、リチウムとほぼ同じ還元電位を有し、全物質中でも最も卑な電位であることに因る。その一方で、正極活物質中のニッケル量の違いで変化する酸化電位は0.1V程度である。このため、グラファイト負極の場合、放電平均電圧が約4.3±0.05Vの範囲で変化するのみであるのに対し、TNO負極の場合、約2.8±0.05Vの範囲で変化することになるため、相対的に正極活物質中のニッケル比率のエネルギー密度に与える影響が無視できなくなる。
【0028】
また、ニッケルの原子個数比率を50%以上が好ましいとしているのは、ニッケルの原子個数比率が50%以下では正極側の高容量化の効果が得にくいだけでなく、正極活物質中に含まれるマンガンやアルミニウムの溶出による活物質粒子の崩壊と見られる本発明の効果の早期喪失の影響を考慮したことに因る。本発明では、負極活物質としてTNOが使用されるため、一般的なリチウムイオン電池では使用できないエステルおよびエーテルを電解液溶媒として使うことが可能であるが、同時に、これらの成分はマンガンイオンやアルミニウムイオンとの親和性も高く、一般的なカーボネートのみの電解液と比べて溶出しやすいことが考えられる。詳細は定かではないが、マンガンやアルミニウムの正電荷と、炭素との電気陰性度の関係で共有結合に使用されている電子が酸素側に傾き、δの電荷を帯びたエステルの酸素あるいはエーテルの酸素が配位し、錯体を形成することで、マンガンやアルミニウムの電解液中での安定性を高めていると考えられる。
【0029】
また、導電材は本発明においては特に制限はなく、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、活性炭、黒鉛等の公知または市販のものを使用することができる。
【0030】
結着剤においても特に制限はなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂等を使用することができる。
【0031】
溶媒も本発明においては特に制限はなく、使用する正極活物質あるいは結着剤によって種々の溶媒を選択することができる。具体的には、結着剤としてPVDFを用いる場合は、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを用いることが好ましく、一方、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のゴム系結着剤を用いる場合には、溶媒として水が好適である。
【0032】
(集電体)
集電体も本発明においては特に制限はないが、リチウムイオン電池正極用集電体としてはアルミニウム箔が一般的であり、用途によっては多孔質アルミニウム集電体等も用いられる。
【0033】
正極は、例えば次に示す方法で作製することができる。最初に、正極活物質、導電助剤及び結着剤等を溶剤に分散させて正極スラリーを調製する。続いて、正極集電体の一方又は両方の面に正極スラリーを塗布した後、例えば真空下、80℃で乾燥して正極活物質合材電極層を形成する。これらの工程により正極が作製され得る。
【0034】
また、上記では正極活物質合材電極層と、集電体で構成される正極を説明した。ただし、本発明はこれに限定されず、フルセルに代えてハーフセルを用いる場合には、正極に代えて例えば金属リチウムを対極として用いても良い。
【0035】
〈負極〉
負極は、負極活物質合材電極層と、集電体にて構成される。
【0036】
(負極活物質合材電極層)
負極活物質合材電極層(本明細書中において、「合材層」とする場合がある)は、負極活物質、導電材、結着剤、溶媒にて構成されている。負極活物質としては、本発明においては単斜晶系Nb-Ti系複合酸化物であるニオブチタン酸化物のみ適用可能であり、とりわけTiNbやTiNb1029において高い効果を発揮する。
【0037】
ここで、負極活物質合材電極層中のニオブチタン酸化物の含有量は80質量%~95質量%であることが好ましい。さらに、使用するニオブチタン酸化物の平均二次粒子径は、5μm~20μmであることが好ましい。また、本明細書中における平均二次粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0038】
導電材は本発明においては特に制限はなく、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維、活性炭、黒鉛等の公知または市販のものを使用することができる。
【0039】
結着剤においても特に制限はなく、公知または市販のものを使用することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂等を使用することができる。
【0040】
結着剤に用いられる溶媒も本発明においては特に制限はなく、使用する活物質あるいは結着剤によって種々の溶媒を選択することができる。具体的には、結着剤としてPVDFを用いる場合は、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを用いることが好ましく、一方、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のゴム系結着剤を用いる場合には、溶媒として水が好適である。
【0041】
(集電体)
集電体も本発明においては特に制限はないが、TNO負極の集電体としてはアルミニウム箔が好適であり、用途によっては多孔質アルミニウム集電体等も用いられる。
【0042】
負極は、例えば次に示す方法で作製することができる。最初に、ニオブチタン酸化物、導電助剤及び結着剤等を溶剤に分散させて負極スラリーを調製する。続いて、負極集電体の一方又は両方の面に負極スラリーを塗布した後、例えば真空下、80℃で乾燥して負極活物質合材電極層を形成する。これらの工程により負極が作製されうる。
【0043】
〈セパレータ〉
正極と負極との間に介在するセパレータとしては、一般的に用いられているPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等よりなる合成樹脂製の不織布や多孔シート等を使用することができる。不織布や多孔シートは、単層であっても、多層構造であってもよい。
【0044】
〈非水電解液〉
非水電解液は、電解質、電解液溶媒、および電解液添加剤として上述のアルコキシスルホン酸リチウムを含み、本発明のリチウムイオン二次電池に用いることのできる非水電解液である。
【0045】
電解質は、特に限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池で一般に用いられるリチウムイオンを含む電解質塩であることが好ましい。例えば、LiBF、LiPF等のリチウム塩を使用することができる。これらの電解質は、1種類で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、電解質塩の濃度は特に限定されず、例えば、電解液溶媒に対して0.3M(mol/L)~3M程度含有されていればよい。
【0046】
より詳しくは、電解質として例えば0.5M~3MのLiPFおよび/またはLiBFを含み、LiFSI、LiBOBおよびLiPOは含まない電解質を使用することができる。
【0047】
LiPFおよび/またはLiBFの含有量は、0.5M未満では電解液中のイオンの量が足りずに高出力を実現できないおそれがある。また、3Mより多いと、電解液粘度が高くなりすぎて、セパレータへの浸透および電解液の抵抗が高くなってしまい、高出力を実現できないおそれがある。そこで、高出力と電解液の抵抗を考慮して、かかる含有量は、0.5M~3Mとすることが好ましい。
【0048】
また、本発明ではLiFSI、LiBOBおよびLiPOは含まないことが好ましい。これらの電解質は、いずれも充電時に負極側で還元分解してしまい、過剰なSEIを形成することから、本発明の効果となっている高出力を実現できないためである。詳細は不明だが、本発明における負極活物質であるTNO中のニオブが触媒となり、電解液成分であるカーボネートと特異的に反応・分解しフッ化水素酸を生成してしまうおそれがあることに因る。
【0049】
本発明においては、課題として高出力特性に言及しており、これを解決するにあたっては電解液のイオン伝導度は重要なパラメータとなる。なお、電解液のイオン伝導度については後述するが、これらは非水溶媒側からのアプローチであり、電解液のイオン伝導度に最も大きな影響を与えるパラメータは電解質の種類と量である。特に、LiPFおよび/またはLiBFは、アニオンの嵩が大きいためイオンの乖離が良く、高出力なリチウムイオン電池の構築が可能となる。また、本発明において負極活物質として使用しているTNOに対しても悪影響を及ぼしにくいため、本発明に好適である。
【0050】
電解液溶媒としては、電解液系リチウムイオン二次電池で使用されている非水電解液を用いることができる。
【0051】
非水電解液としては、非水溶媒として環状溶媒および/または鎖状溶媒が含まれていることが好ましい。環状溶媒としては、環状カーボネートおよび/または環状エステル、鎖状溶媒としては、鎖状カーボネートおよび/または鎖状エーテルが含まれていることが好ましい。環状カーボネートは、電解質成分の解離度に関係し、鎖状カーボネートは、電解液粘度に関係している。
【0052】
環状カーボネートは、比誘電率が高い性質があり、電解液のリチウムイオン伝導性の向上に関与する。電解液中のイオン種の溶媒和エネルギーについて示したボルンの式では、式中に比誘電率が含まれており、比誘電率が大きくなると、ギブス自由エネルギーが負に大きくなる特徴を有する。ギブス自由エネルギーが負の場合、反応が自発的に進行することを意味し、さらにその絶対値が大きいほど反応が進行しやすいことを意味している。このため、非水溶媒中に環状カーボネートが含まれると、電解質のカチオン成分とアニオン成分の解離が促進されるため、非水溶媒中に電解質がイオンとして存在する割合が高くなり、リチウムイオン伝導性の向上につながる。
【0053】
さらに、このリチウムイオン伝導性は、電池のレート特性に直結するパラメータであるため、非水溶媒中に環状カーボネートを有することが好ましい。また、鎖状カーボネートは、非水溶媒の粘度に関係する。環状カーボネートは比誘電率が高いことを上述したが、一方で高粘度であることが多い。非水溶媒の粘度は、電解液の流動性に直結し、セパレータへの電解液の浸透性に関与する。セパレータへ電解液が浸透されない箇所ができてしまうと、その部分が通電されないため、電池の本来持つ性能を発揮することができず、あらゆる電池性能の低下を招く。鎖状カーボネートは、これを防ぐために用いることができ、比誘電率は高くないものの、低粘度である特徴を有する。このように、カーボネートは、環状と鎖状で役割が異なるため、非水溶媒成分として両方含まれることが、より良いリチウムイオン電池の構築にとって好ましく、本発明においては、これらの成分の少なくとも1種以上が含まれることが好ましい。
【0054】
また、環状エステルであるγ‐ブチロラクトンは、環状カーボネートとエステルの両方の性質を持った化合物である。本来であれば、電解液溶媒成分としてγ‐ブチロラクトン単体でもリチウムイオン電池に使用することが可能であるが、負極材料としてグラファイトが使用されることが多く、この場合、グラファイト層間にγ‐ブチロラクトン分子が入ってしまい、グラファイトの分解を促進してしまうおそれがあるため、これまで使用されることがなかった。本発明は、負極活物質としてTNOを用いることを要件としており、上述のような活物質層間に入る問題がないため、γ‐ブチロラクトン本来の性能を十分に発揮することができる。
【0055】
環状カーボネートは、エチレンカーボネートおよび/またはプロピレンカーボネートであり、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートは含まないことが好ましい。
【0056】
環状カーボネートの中でも、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートを用いたときに、本発明の効果がより高くなる。エチレンカーボネートは、環状カーボネートの中でも比誘電率が極めて高く、高レート特性の維持に最適な材料である。また、プロピレンカーボネートもエチレンカーボネートとほぼ同様の性質があるが、プロピレンカーボネートは、γ‐ブチロラクトンと同様に、負極活物質がグラファイトの場合、層間に分子が入ってしまい分解を促進してしまうおそれがあるため、これまで使用されることがなかった。しかしながら、本発明では、負極活物質としてグラファイトではなくTNOを用いることを要件としており、上述のような活物質層間に入る問題がないため、プロピレンカーボネート本来の性能を十分に発揮することができる。
【0057】
また、本発明では、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートは含まないことが好ましい。この理由としては、TNO負極特有のSEI形成が関係しており、これらのカーボネートが含まれてしまうと、通電を阻害するほどのSEIの過形成が起こってしまうおそれがあり、結果として電池容量およびレート特性の低下を生ずるおそれがあるからである。
【0058】
また、鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0059】
鎖状カーボネートは、上述の通り、電解液の低粘度化を目的として使用されるものである。メチル基またはエチル基を持った鎖状カーボネートは、鎖状カーボネートの中でも極めて低粘度であることから、このような鎖状カーボネートを使用することで、本発明の効果である高レート特性の特徴を十分に発揮することができる。
【0060】
また、非水電解液は、環状エーテル類の1,3‐ジオキサン、アジポニトリル、スクシノニトリルから選ばれる少なくとも1種以上を0.1質量%~5質量%含んでもよい。
【0061】
1,3‐ジオキサンは、鎖状カーボネートよりもさらに低粘度でありながら高比誘電率という、高出力向け電池の電解液として有利な特徴を有しているが、酸化分解電位が約2.2Vと、鎖状カーボネートよりも約1Vほど低い致命的な欠点があり、正極側で容易に酸化分解されてしまうため、これまでリチウムイオン電池の電解液にはあまり使用されてこなかった。しかし、本発明において、0.1質量%~5質量%の範囲であれば、電池の性能に悪影響を及ぼさないことを見出し、本化合物を電解液成分として適正量含ませることによって、鎖状カーボネートよりも低粘度でありながら高比誘電率という特徴が活かされ、本発明の効果である高エネルギー密度化と高出力特性の両立に有効な結果となった。
【0062】
また、アジポニトリルおよびスクシノニトリルは、安全性または信頼性向上のための添加剤として知られる化合物であるが、本発明においても、これらが上記質量%の範囲内で含まれることが好適である。これらの化合物が集電体および活物質から溶出した金属イオンに配位し錯体を形成するため、高活性となった金属イオン種を失活させ、漏れ電流およびガス発生抑制等が可能となると考えられ、本発明の効果の長期的な持続につながる。
【0063】
殊に、本発明では、上述のように正極活物質合材電極層中には、正極活物質として、原子比率としてNiが50%以上のリチウム複合酸化物を含むことができ、イオン化傾向から、正極活物質に含まれるカチオン種の中でもニッケルが溶出しやすい傾向がある。本発明では、これらのようなジニトリルが電解液中に含まれることで、過充電時に大量に発生するニッケルイオンを錯体の形で捕捉し、電池の劣化を防ぐことで、本発明の効果である高エネルギー密度と高出力特性の両立を長期間可能とする。
【0064】
しかしながら、1,3‐ジオキサン、アジポニトリル、スクシノニトリルは配位力が強いため、非水電解液中の含有量が5質量%以上となると、充放電に必要なイオンも捕捉してしまう割合が高くなり、サイクル特性の低下などを招くため、上記のとおり0.1質量%~5質量%の範囲での使用が推奨される。
【0065】
また、電解液溶媒としては、環状溶媒の前記環状カーボネートや環状エステルの他に、スルホランを用いることができる。また、鎖状溶媒の前記鎖状エーテルとして、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、各種グライム類等を、主溶媒と混合して使用することができる
【0066】
また、電解液添加剤としてアルコキシスルホン酸リチウムを含むことの効果は上述の通りであり、アルコキシスルホン酸リチウムとしては、メトキシスルホン酸リチウムとエトキシスルホン酸リチウムが挙げられ、電解液添加剤としてこれらのうちの少なくとも1種を含み、具体的な組み合わせとしてメトキシスルホン酸リチウムのみ、エトキシスルホン酸リチウムのみ、およびメトキシスルホン酸リチウムとエトキシスルホン酸リチウムを両方含む組み合わせが挙げられる。アルコキシスルホン酸リチウム全ての合計として、非水電解液中における含有量が0.5質量%~2.0質量%、好ましくは1.0質量%~2.0質量%である。また、メトキシスルホン酸リチウムの飽和濃度は2.0質量%となっており、添加剤の合計濃度を2.0質量%より多くする場合は、エトキシスルホン酸リチウムと混合して使用する。また、RSOOOLiの、RがOCHで表される物質がメトキシスルホン酸リチウムであり、RがOCで表される物質がエトキシスルホン酸リチウムである。
【0067】
〈端子〉
端子としては、金属が一般に使用される。材料および形状に制限はないが、本発明においては、例えば材料としてはアルミニウムおよび銅が好適であり、形状としては結線等にて変形しないような形状が好適である。
【0068】
〈外装体〉
外装体としては、例えば缶材およびラミネート材が選択される。材料および形状に制限はないが、例えば材料としては缶材ではステンレスが好適であり、ラミネート材ではアルミ箔の表面をプラスチックフィルムにてコーティングしたものが好適である。形状はセル容量に応じて変化させることができ、一般的にセル容量が大きいほど大きな形状となる。
【0069】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、角形、扁平型等が挙げられる。
【0070】
以下、コイン型のリチウムイオン二次電池を例にして、本発明のリチウムイオン二次電池の構造を、図面を参照して説明する。図1は、本発明のリチウムイオン二次電池の一例として示す、コイン型の電池の模式断面図である。
【0071】
コイン型のリチウムイオン二次電池1は、正極2と、負極3と、それら正極2及び負極3の間に配置されたセパレータ4とを備える。これら正極2、負極3及びセパレータ4は、下部側に位置する第1外部端子5と上部側に位置する第2外部端子6の間に収納されている。当該第1外部端子5及び当該第2外部端子6の当接部位は、ガスケット7により絶縁されている。
【0072】
正極2は、第1外部端子5の内面に位置してそれと接続される正極集電体21と、当該正極集電体21のセパレータ4と対向する面に設けられた正極活物質合材電極層22とから構成されている。負極3は、第2外部端子6の内面に位置してそれと接続される負極集電体31と、当該負極集電体31のセパレータ4と対向する面に設けられた、合材層32とから構成されている。セパレータ4は、例えば非水電解質に含浸されている。第2外部端子6は、その端部がその下端及び両側面をガスケット7で包んだ状態で第1外部端子5内に挿入され、下部側の第1外部端子5の開口端をガスケット7側に湾曲させて第2外部端子6を第1外部端子5にかしめ固定するとともに、第1外部端子5及び第2外部端子6の当接部位をガスケット7により絶縁している。
【0073】
次に、図2を参照して、本発明のリチウムイオン二次電池の一例である積層型の電池について説明する。
【0074】
積層型のリチウム二次電池100は、ラミネートフィルムからなる袋状の外装体200を備えている。外装体200内には、積層構造の電極群300が収納されている。ラミネートフィルムは、例えば複数枚(例えば2枚)のプラスチックフィルムをそれらのフィルム間にアルミニウム箔のような金属箔を挟んで積層した構造を有する。2枚のプラスチックフィルムのうち、一方のプラスチックフィルムは熱融着性樹脂フィルムが用いられる。外装体200は、2枚のラミネートフィルムを熱融着性樹脂フィルムが互いに対向するように重ね、これらのラミネートフィルム間に電極群300を収納し、電極群300周辺の2枚のラミネートフィルム部分を互いに熱融着して封止することにより、前記電極群300を気密に収納している。
【0075】
電極群300は、正極400と負極500とそれら正極400、負極500の間に介在されたセパレータ600とを負極500が最外層に位置すると共に、負極500と外装体200の内面の間にセパレータ600が位置するように複数積層した構造を有する。正極400は、正極集電体410と当該集電体410の両面に形成された正極活物質合材電極層420とから構成されている。負極500は、負極集電体510と、当該集電体510の両面に形成された合材層520とから構成されている。
【0076】
正極400は、正極集電体410が正極活物質合材電極層420の例えば左側面から延出した正極リード700を有する。各正極リード700は、外装体200内において先端側で束ねられ、互いに接合されている。正極タブ800は、一端が正極リード700の接合部に接合され、かつ他端が外装体200の封止部を通して外部に延出している。負極500は、負極集電体510が合材層520の例えば右側面から延出した負極リード900を有する。各負極リード900は、外装体200内において先端側で束ねられ、互いに接合されている。負極タブ1000は、一端が負極リード900の接合部に接合され、かつ他端が外装体200の封止部を通して外部に延出している。非水電解液は、外装体200内に注入されている。外装体200の注入箇所は、非水電解液の注入後に封止される。
【実施例0077】
以下に、実施例を挙げて本発明についてさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0078】
<実施例1-1>
(1)電解液の調製
LiPFの濃度が1.0Mとなるように、LiPFをエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を3対7の体積比で混合した溶液に溶解し、さらにメトキシスルホン酸リチウムを溶液重量に対して0.5重量%を添加し、マグネチックスターラーにて1時間攪拌することにより、本発明における電解液を調製した。
【0079】
(2)試験セルの作製
水熱合成法により得られたTiNb粒子を活物質とし、活物質、導電材、結着剤を溶媒で混練しスラリーを作製した。導電材にはデンカ社製のアセチレンブラックを使用した。結着剤にはクレハ社製のKFポリマーを使用した。活物質と導電材と結着剤の質量比は85:10:5であった。溶媒には関東化学社製のN-メチルピロリドンを使用した。得られたスラリーを20μmの厚さのアルミ箔の片面に目付50g/mで塗工した。塗工後、プレスし、Φ13で打ち抜き、乾燥させて溶媒を蒸発させ、負極を得た。
【0080】
2032型コインセル外装体内部に、得られた負極、対極としてΦ14の金属リチウム、Φ15のガラスセパレータを1枚ずつ、セパレータを介して負極の塗工面と金属リチウムが対向するように入れ、さらに調製した電解液を加えた。上蓋をした後、かしめ機にて周囲をかしめることにより試験セルを作製した。
【0081】
(3)充放電試験
東洋システム社製充放電試験装置(TOSCAT-3000)にて、充放電試験を行った。放電容量の測定は、まず、作製した試験セルを0.1 ItAにて1.5Vまで定電流/定電圧充電を行い、15分間放置した。その後、0.1 ItAにて2.5Vまで定電流放電を行い、252mAh/g-活物質の容量を得た。また、0.1 ItAにて1.5Vまで定電流/定電圧充電を行い、15分間放置し、放電試験を5.0 ItAにてさらに行い、89%vs0.1 ItAの容量比を得た。ここで、「89%vs0.1 ItA」とは、0.1ItAに対する5.0ItAの放電容量比であり、以下同様である。また、表において、「5.0ItA放電容量比」の項目にこの結果を示す。
【0082】
<実施例1-2>
電解液中にメトキシスルホン酸リチウムを添加せず、エトキシスルホン酸リチウム添加量が0.5重量%である以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、250mAh/g-活物質の放電容量、ならびに87%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0083】
<実施例1-3>
電解液中にメトキシスルホン酸リチウムを添加せず、エトキシスルホン酸リチウム添加量が1.0重量%である以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、250mAh/g-活物質の放電容量、ならびに87%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0084】
<実施例1-4>
電解液中にメトキシスルホン酸リチウムを添加せず、エトキシスルホン酸リチウム添加量が1.5重量%である以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、249mAh/g-活物質の放電容量、ならびに87%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0085】
<実施例1-5>
電解液中のメトキシスルホン酸リチウム添加量が0.5重量%かつエトキシスルホン酸リチウム添加量が0.5重量%である以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、251mAh/g-活物質の放電容量、ならびに85%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0086】
<実施例1-6>
電解液中のエトキシスルホン酸リチウム添加量が1.0重量%である以外、実施例1-5と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、249mAh/g-活物質の放電容量、ならびに91%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0087】
<実施例1-7>
電解液中のメトキシスルホン酸リチウム添加量が0.2重量%であり、エトキシスルホン酸リチウム添加量が0.3重量%である以外、実施例1-5と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、248mAh/g-活物質の放電容量、ならびに88%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0088】
<実施例1-8>
電解液中のエトキシスルホン酸リチウム添加量が1.5重量%である以外、実施例1-5と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、245mAh/g-活物質の放電容量、ならびに90%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0089】
<実施例1-9>
電解液中のメトキシスルホン酸リチウム添加量が0.4重量%である以外、実施例1-5と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、250mAh/g-活物質の放電容量、ならびに78%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0090】
<実施例1-10>
電解液中にメトキシスルホン酸リチウムを添加せず、エトキシスルホン酸リチウム添加量が0.4重量%である以外、実施例1-5と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、249mAh/g-活物質の放電容量、ならびに79%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0091】
<比較例1>
メトキシスルホン酸リチウムが添加されていない電解液を使用した以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、247mAh/g-活物質の放電容量、ならびに70%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0092】
<従来例1>
負極活物質粒子としてチタン酸リチウムを用い、メトキシスルホン酸リチウムが添加されていない電解液を使用した以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、150mAh/g-活物質の放電容量、ならびに99%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0093】
実施例1-1~1-10、比較例1および従来例の充放電試験結果を表1に示す。0.1ItAにおける放電容量は、実施例および比較例が従来例よりも約1.7倍容量が大きく、実施例および比較例にて用いられているTNO活物質がリチウムイオン電池の高エネルギー密度化に有利であることがわかった。表1の総合評価の項目において、0.1ItA放電容量が240mAh/gより高く、0.1ItA放電容量と5.0ItA放電容量の比が80以上の場合を◎、◎より劣るものの、0.1ItA放電容量が200mAh/gより高く、0.1ItA放電容量と5.0ItA放電容量の比が75以上の場合を〇、それ以外の場合を×、と評価した。以下、他の表の総合評価の項目においても、特に記載のない限り同様の評価を行った。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例1-1~実施例1-8までは、本発明請求項1と2を満たす内容である。従来例1と比較した場合、従来例1の0.1ItA放電容量より、実施例1-1~実施例1-8の0.1ItA放電容量は、最小でも95mAh/gも大きい。比較例1と比較した場合、実施例1-1~実施例1-8の0.1ItA放電容量は、比較例1と同程度であるものの、5.0ItA放電容量比は、比較例1の5.0ItA放電容量比よりも最小でも15%も大きくなる結果となった。本発明の効果である出力特性とエネルギー密度の両立を可能とする結果である。また、実施例1-9、実施例1-10は、請求項1には含まれるが請求項2には含まれない内容である。実施例1-9、実施例1-10の0.1ItA放電容量は、比較例1と同程度であるものの、5.0ItA放電容量比が、実施例1-9、実施例1-10では比較例1より最小で8%向上しており、実施例1-1~実施例1-8より劣るものの、効果が確認できた。
【0096】
以上より、実施例全てにおいて、発明の効果である出力特性とエネルギー密度の両立はできているが、請求項2に含まれる範囲の方がより本発明の効果が高いことがわかった。
なお、メトキシスルホン酸リチウムについては、エトキシスルホン酸リチウムを添加せず単体で2.0Mまで添加すると溶解しないため、飽和濃度である0.5Mまで実験している。エトキシスルホン酸リチウムについては、メトキシスルホン酸リチウムを添加せず単体で2.0Mまで添加すると溶解しないため、飽和濃度である1.5Mまで実験している。
【0097】
<実施例2-1>
電解液中のエチレンカーボネートがプロピレンカーボネート(PC)である以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、252mAh/g-活物質の放電容量、ならびに86%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0098】
<実施例2-2>
電解液中の溶媒成分がγ‐ブチロラクトン(GBL)である以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、247mAh/g-活物質の放電容量、ならびに90%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0099】
<実施例2-3>
電解液中のエチレンカーボネートがγ‐ブチロラクトンである以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、255mAh/g-活物質の放電容量、ならびに88%vs0.1 ItAの容量比を得た。表2に実施例2-1~2-3の結果を示す。
【0100】
<実施例2-4>
電解液中のエチレンカーボネートがプロピレンカーボネートであり、電解液中のジメチルカーボネートがγ‐ブチロラクトンである以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、250mAh/g-活物質の放電容量、ならびに85%vs0.1 ItAの容量比を得た。表2に実施例2-1~2-4の結果を示す。
【0101】
【表2】
【0102】
実施例2-1から実施例2-4のどの水準においても、本発明の効果である出力特性とエネルギー密度の両立を可能とする結果を示した。これらの電解液溶媒は、常温で液体、かつGBLとDMCは粘度が低いため、上記の構成においても性能に悪影響を与える結果にならなかったと推察される。
【0103】
<実施例3-1>
電解液中にプロピレンカーボネートが加わり、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとプロピレンカーボネートの体積比を1.5:7:1.5とした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、245mAh/g-活物質の放電容量、ならびに88%vs0.1 ItAの容量比を得た。表3に実施例3-1、1-1および2-1の結果を示す。
【0104】
【表3】
【0105】
実施例3-1は、電解液にECとPCという2つの環状カーボネートを加えた系であるが、本発明の効果を示す結果となった。ECは常温で固体であり40℃付近で融解すると、高粘度の液体となるが、本電解液系には低粘度の鎖状カーボネートも含まれており、本電解液の構成の範囲内では問題ない結果となったと考えられる。
【0106】
<実施例4-1>
電解液中の鎖状カーボネートとしてエチルメチルカーボネート(EMC)を用いた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、248mAh/g-活物質の放電容量、ならびに90%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0107】
<実施例4-2>
電解液中の鎖状カーボネートとしてジエチルカーボネート(DEC)を用いた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、248mAh/g-活物質の放電容量、ならびに88%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0108】
<実施例4-3>
電解液中の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを同じ分量で用いた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、253mAh/g-活物質の放電容量、ならびに90%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0109】
<実施例4-4>
電解液中の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを同じ分量で用いた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、251mAh/g-活物質の放電容量、ならびに87%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0110】
<実施例4-5>
電解液中の鎖状カーボネートとしてエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートを同じ分量で用いた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、247mAh/g-活物質の放電容量、ならびに85%vs0.1 ItAの容量比を得た。表4に、実施例4-1~4-5、1-1の結果を示す。
【0111】
【表4】
【0112】
実施例4-1から実施例4-5のどの水準においても、本発明の効果である出力特性とエネルギー密度の両立を可能とする結果を示した。これらの電解液溶媒は、EC以外は常温で液体かつ粘度が低いため、上記の構成においても問題ない結果となったと推察される。
【0113】
<実施例5-1>
電解液100重量%に対して1,3‐ジオキサン(1,3-DO)を0.1重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、252mAh/g-活物質の放電容量、ならびに90%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0114】
<実施例5-2>
電解液100重量%に対して1,3‐ジオキサンを2.5重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、250mAh/g-活物質の放電容量、ならびに92%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0115】
<実施例5-3>
電解液100重量%に対して1,3‐ジオキサンを5.0重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、246mAh/g-活物質の放電容量、ならびに92%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0116】
<実施例5-4>
電解液100重量%に対してアジポニトリル(AZN)を0.1重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、254mAh/g-活物質の放電容量、ならびに90%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0117】
<実施例5-5>
電解液100重量%に対してアジポニトリルを2.5重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、249mAh/g-活物質の放電容量、ならびに88%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0118】
<実施例5-6>
電解液100重量%に対してアジポニトリルを5.0重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、242mAh/g-活物質の放電容量、ならびに87%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0119】
<実施例5-7>
電解液100重量%に対してスクシノニトリル(SCN)を0.1重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、252mAh/g-活物質の放電容量、ならびに90%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0120】
<実施例5-8>
電解液100重量%に対してスクシノニトリルを2.5重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、250mAh/g-活物質の放電容量、ならびに88%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0121】
<実施例5-9>
電解液100重量%に対してスクシノニトリルを5.0重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、243mAh/g-活物質の放電容量、ならびに90%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0122】
<実施例5-10>
電解液100重量%に対して1,3‐ジオキサンを6.0重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、215mAh/g-活物質の放電容量、ならびに92%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0123】
<実施例5-11>
電解液100重量%に対してアジポニトリルを6.0重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、213mAh/g-活物質の放電容量、ならびに92% vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0124】
<実施例5-12>
電解液100重量%に対してスクシノニトリルを6.0重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、210mAh/g-活物質の放電容量、ならびに92%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0125】
<実施例5-13>
電解液100重量%に対して1,3‐ジオキサンを0.08重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、239mAh/g-活物質の放電容量、ならびに85%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0126】
<実施例5-14>
電解液100重量%に対して1,3‐ジオキサンを1.0重量%と、アジポニトリルを1.0重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、247mAh/g-活物質の放電容量、ならびに86%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0127】
<実施例5-15>
電解液100重量%に対して1,3‐ジオキサンを0.08重量%と、スクシノニトリルを1.0重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、250mAh/g-活物質の放電容量、ならびに87%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0128】
<実施例5-16>
電解液100重量%に対してアジポニトリルを1.0重量%と、スクシノニトリルを1.0重量%加えた以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、248mAh/g-活物質の放電容量、ならびに86%vs0.1 ItAの容量比を得た。表5に実施例5-1~5-16の結果を示す。
【0129】
【表5】
【0130】
実施例5-1から実施例5-9、実施例5-14から実施例5-16のどの水準においても、本発明の効果である出力特性とエネルギー密度の両立を可能とする結果を示した。1,3‐ジオキサンは、高比誘電率を示したものと考えられ、アジポニトリルおよびスクシノニトリルは安全性または信頼性向上に寄与したものと考えられる。また、添加量がそれぞれ5.0重量%より大であるか、0.1未満である実施例5-10から実施例5-13についても、実施例5-1から実施例5-9より劣るものの、0.1ItA放電容量が200mAh/gより高く、0.1ItA放電容量と5.0ItA放電容量の比が75以上となった。以上より、1,3‐ジオキサンとアジポニトリルとスクシノニトリルをそれぞれ0.1質量%~5質量%添加すると良好な電池特性が得られることがわかった。
【0131】
<比較例6-1>
電解液に電解質を添加しない以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、0mAh/g-活物質の放電容量、ならびに0%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0132】
<実施例6-1>
電解質濃度を0.5Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、250mAh/g-活物質の放電容量、ならびに82%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0133】
<実施例6-2>
電解質濃度を1.5Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、252mAh/g-活物質の放電容量、ならびに86%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0134】
<実施例6-3>
電解質濃度を3.0Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、253mAh/g-活物質の放電容量、ならびに83%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0135】
<実施例6-4>
電解質濃度を4.0Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、246mAh/g-活物質の放電容量、ならびに75%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0136】
<実施例6-5>
電解質に四フッ化ホウ酸リチウムを用い、濃度を0.5Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、245mAh/g-活物質の放電容量、ならびに82%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0137】
<実施例6-6>
電解質に四フッ化ホウ酸リチウムを用い、濃度を1.5Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、248mAh/g-活物質の放電容量、ならびに86%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0138】
<実施例6-7>
電解質に四フッ化ホウ酸リチウムを用い、濃度を3.0Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、249mAh/g-活物質の放電容量、ならびに83%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0139】
<実施例6-8>
電解質に四フッ化ホウ酸リチウムを用い、濃度を4.0Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、242mAh/g-活物質の放電容量、ならびに75%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0140】
<実施例6-9>
電解質にLiFSIを用い、濃度を1.5Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、246mAh/g-活物質の放電容量、ならびに75%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0141】
<実施例6-10>
電解質にLiBOBを用い、濃度を1.5Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、248mAh/g-活物質の放電容量、ならびに75%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0142】
<実施例6-11>
電解質にLiPFを用い、濃度を1.5Mとした以外、実施例1-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、246mAh/g-活物質の放電容量、ならびに75%vs0.1 ItAの容量比を得た。表6に実施例6-1~6-11、比較例6-1の結果を示す。
【0143】
【表6】
【0144】
実施例6-1から実施例6-3、実施例6-5から実施例6-7のどの水準においても、本発明の効果である出力特性とエネルギー密度の両立を可能とする結果を示した。ただし、実施例6-4、実施例6-8のようにそれぞれが3Mより多く添加されると、電解液の抵抗が高くなり、5.0ItA放電容量比が若干悪化している。よって、電解質添加量が大きくなりすぎると、電解液粘度が高くなるため放電レート特性に悪影響を及ぼすため、適切な濃度とする必要がある。また、LiFSI、LiBOB、LFOを添加した場合は、LiPFやLiBF程の効果が得られず、5.0ItA放電容量比が若干悪化している。なお、比較例6-1は電解質を含まないため、電池として機能しない。
以上より、LiPFまたはLiBFを0.5~3.0M添加すると良好な電池特性を示すことがわかった。
【0145】
<実施例7-1>
金属リチウム対極をLiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM)を用いた正極に変更し、さらにコインセルから1Ahのラミネートセルに変更した。具体的には、正極集電リードを有する正極と、負極集電リードを有する負極とを、つづら折り状に繋がったセパレータに交互に積層することにより電極素子を作製した。セパレータは、ポリエチレンからなる基材層の両面にポリプロピレンからなる表面層が配置されているもの(PE/PP/PE)を用いた。セパレータの厚さは20μmである。続いて、正極リードおよび負極リードをそれぞれ集束して、集束した正極リードに正極端子を超音波溶接により接続し、集束した負極リードに負極端子を超音波溶接により接続した。作製した電極素子は、厚さが4.8mm、定格容量が1Ahであった。なお、ここでいう「定格容量」は、上限電圧4.2V、電流値0.5Cの定電流―定電圧充電(カットオフ電流:0.05C)を行った後に下限電圧2.7V、電流値0.2Cで定電流放電を行ったときの放電容量を指す。
【0146】
続いて、外装体として、ポリオレフィンからなる熱融着樹脂層と、アルミニウム箔からなる金属層と、ナイロン樹脂およびポリエステル樹脂からなる保護層とがこの順番で積層した構造を有するラミネートフィルムを2枚用意した。2枚のラミネートフィルムの熱融着樹脂層を互いに対向して配置して、2つの収容凹部内に電極群が収納されるように、ラミネートフィルムの接着面が合わさるように重ね合わせた。2枚のラミネートフィルムの周縁間には、各端子の熱融着樹脂部が形成される部分が通過し、各端子の一部が外部に露出するように電極群を配置した。この状態で、それらラミネートフィルムの各タブが延出する2辺を含む3辺において、ラミネートフィルムの周縁同士の熱融着樹脂層を熱融着した。続いて、外装体の熱融着していない1辺から、上記にて調製した電解液を注入した。次に、減圧環境下で、外装体の残りの1辺を熱融着して、試験セルを作製した。
【0147】
実施例1-1と同様の方法で、試験を実施し、放電容量が1012mAh/g、2.35Vの放電平均電圧ならびに89%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0148】
<実施例7-2>
正極をLiNi0.6Co0.2Mn0.2とした以外、実施例7-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、1020mAh/g-活物質の放電容量、2.34Vの放電平均電圧ならびに92%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0149】
<実施例7-3>
正極をLiNi0.8Co0.1Mn0.1とした以外、実施例7-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、999mAh/g-活物質の放電容量、2.38Vの放電平均電圧ならびに89%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0150】
<実施例7-4>
正極をLiNi0.5Mn0.5とした以外、実施例7-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、1010mAh/g-活物質の放電容量、3.00Vの放電平均電圧ならびに80%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0151】
<実施例7-5>
正極をLiNiOとした以外、実施例7-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、996mAh/g-活物質の放電容量、2.44Vの放電平均電圧ならびに85%vs0.1 ItAの容量比を得た。
【0152】
<実施例7-6>
正極をLiNi0.33Co0.33Mn0.33とした以外、実施例7-1と同様の方法で試験セルの作製、試験を実施し、950mAh/g-活物質の放電容量、2.37Vの放電平均電圧ならびに92%vs0.1 ItAの容量比を得た。表7に実施例7-1~7-6の結果を示す。表7の総合評価の項目において、0.1ItA放電容量と5.0ItA放電容量の比が75より高く、0.1ItA放電容量が950mAh/gより高い場合を◎、◎より劣るものの0.1ItA放電容量が900mAh/gより高いものを〇、0.1ItA放電容量が900mAh/gより低いものを×、と評価した。
【0153】
【表7】
【0154】
実施例7-1から実施例7-6において、どの水準においても、本発明の効果である出力特性とエネルギー密度の両立を可能とする結果を示した。ただし、正極活物質中のニッケル比率が3割3分3厘まで低くなると、放電容量が下がってしまいエネルギー密度を確保できなくなってしまうため、ニッケル比率は3割3分3厘より大とする必要がある。
【0155】
本発明では、リチウムイオン電池の出力特性とエネルギー密度の両立を課題としており、負極活物質としてTNO、電解液添加剤としてメトキシスルホン酸リチウム、およびエトキシスルホン酸リチウムを0.5乃至2.0重量%添加したときのみ、上記性能が両立した結果となった。TNOのみ、あるいは該添加剤のみでは効果が発揮されず、本発明が上記組み合わせによる特異な効果に起因することが示された。出力特性はチタン酸リチウムを負極活物質に用いた場合に及ばないものの、その差は10%程度であり、TNOの使用により放電容量が約1.7倍となることを考慮すると、どちらが優れた電池構成であるかは言うまでもない。
【0156】
以上より、リチウムイオン電池において、負極活物質としてニオブチタン酸リチウム、電解液添加剤としてメトキシスルホン酸リチウム、およびエトキシスルホン酸リチウムを用いることにより、出力特性とエネルギー密度を両立した電池の実現が可能であり、電気自動車、ドローン等のモビリティー用途はもちろんのこと、自然エネルギー貯蔵用途等、幅広い分野における使用が期待される。
【符号の説明】
【0157】
1…リチウムイオン二次電池、2…正極、3…負極、4…セパレータ、5…第1外部端子、6…第2外部端子、7…ガスケット、21…正極集電体、22…正極活物質合材電極層、31…負極集電体、32…合材層、100…積層型のリチウム二次電池、200…外装体、300…電極群、400…正極、500…負極、600…セパレータ、410…正極集電体、420…正極活物質合材電極層、510…負極集電体、520…合材層、700…正極リード、800…正極タブ、900…負極リード、1000…負極タブ。
図1
図2