(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179404
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】電気機械の固定子、その製造方法、及び電気機械
(51)【国際特許分類】
H02K 1/16 20060101AFI20221125BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
H02K1/16 Z
H02K15/02 D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022080839
(22)【出願日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】10 2021 112 931.1
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D-70435 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100202647
【弁理士】
【氏名又は名称】寺町 健司
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ラインライン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フーベルト
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
5H601AA29
5H601DD01
5H601DD11
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB32
5H601GC02
5H601GC12
5H601KK01
5H601KK03
5H601KK08
5H601KK30
5H615AA01
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP10
5H615SS03
5H615SS05
(57)【要約】
【課題】 電気機械の固定子、その製造方法、及び電気機械を提供する。
【解決手段】 開口部(18)を有するシートメタルブランク(16a)からなる積層固定子コア(16)であって、開口部(18)が、固定子(14)の径方向に延びる断面で見たときに、ウェブ(19)によって径方向内側で閉じられる、積層固定子コア(16)と、積層固定子コア(16)の開口部(18)に収容された固定子巻線(17)とを備える電気機械の固定子(14)であって、それぞれの開口部(18)を径方向内側で閉じるウェブ(19)が、機械的応力が開口部(18)に導入されるように塑性変形される固定子。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部(18)を有するシートメタルブランク(16a)からなる積層固定子コア(16)であって、前記開口部(18)が、固定子の径方向に延びる断面で見たときに、ウェブ(19)によって径方向内側で閉じられる、積層固定子コア(16)と、
前記積層固定子コア(16)の前記開口部(18)に収容された固定子巻線(17)と
を備える、電気機械の固定子(14)において、
それぞれの前記開口部(18)を径方向内側で閉じる前記ウェブ(19)が、機械的応力が前記開口部(18)に導入されるように塑性変形される
ことを特徴とする、固定子(14)。
【請求項2】
前記ウェブ(19)の材料の降伏強度よりも大きい機械的応力が、それぞれの前記開口部(18)を径方向内側で閉じる前記ウェブ(19)に導入される
ことを特徴とする、請求項1に記載の固定子。
【請求項3】
軸方向で隣接するシートメタルブランク(16a)の前記塑性変形されたウェブ(19)間の隙間が、前記シートメタルブランク(16a)を接続する焼き付けエナメル又は接着剤で充填される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の固定子。
【請求項4】
前記ウェブ(19)が、前記積層固定子コア(16)の前記軸方向で塑性変形され、それぞれの前記ウェブ(19)の領域内で、前記シートメタルブランク(16a)の厚さが少なくとも部分的に減少する
ことを特徴とする、請求項1記載の固定子。
【請求項5】
回転子(11)及び固定子(14)を備える電気機械であって、前記固定子(14)が、前記回転子(11)を径方向外側で囲み、前記回転子(11)と前記固定子(14)との間にエアギャップ(L)を形成する、電気機械において、
前記固定子(14)が、請求項1に記載されているように設計される
ことを特徴とする、電気機械。
【請求項6】
請求項1に記載の固定子(14)を製造するための方法であって、
金属シートを用意するステップと、
前記金属シートから開口部(18)を有するシートメタルブランク(16a)を打ち抜くステップであって、前記開口部(18)が、前記固定子の径方向に延びる断面で見て、ウェブ(19)によって径方向内側で閉じられる、ステップと、
前記シートメタルブランク(16a)の前記ウェブ(19)を塑性変形するステップと、
所定数のシートメタルブランク(16a)を積層として配置するステップと、
シートメタルブランク(16a)の前記積層をプレスして接続し、前記積層固定子コア(16)を形成するステップと、
前記積層固定子コア(16)を形成するために接続された前記シートメタルブランク(16a)の前記開口部(18)に前記固定子巻線(17)を配置するステップと
を含む、方法。
【請求項7】
前記打ち抜くステップと前記塑性変形するステップとが同時に行われることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記打ち抜くステップと前記塑性変形するステップとが順次に行われることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ウェブ(19)の前記塑性変形中、前記積層固定子コア(16)の前記軸方向におけるそれぞれの前記ウェブ(19)の領域内で、前記シートメタルブランク(16a)の厚さが少なくとも部分的に減少されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械の固定子、固定子を有する電気機械、及び固定子を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機械の基本的な構造は、実践的な経験から知られている。すなわち、電気機械は、ハウジングと、積層固定子コアと、巻線オーバーハングを含む固定子巻線とを有する固定子を備える。固定子は、ドイツ語では「Staender」(英語:stator)とも呼ばれる。さらに、電気機械は、回転子シャフトと積層回転子コアとを備える回転子を有する。回転子は、ドイツ語では「Laeufer」(英語:rotor)とも呼ばれる。
【0003】
電気機械の固定子の積層固定子コアは、複数のシートメタルブランクで構成され、シートメタルブランクは、固定子の固定子巻線を収容する開口部を有する。
【0004】
これらの開口部は通常、電気機械の回転子に隣接する、径方向内側に開いたスロットである。そこで、(特許文献1)、(特許文献2)、さらに(特許文献3)、(特許文献4)、(特許文献5)、(特許文献6)、(特許文献7)、及び(特許文献8)はそれぞれ、積層固定子コアと固定子巻線とを有する電気機械の固定子を開示し、固定子巻線は、径方向内側に開いた積層固定子コアのスロット状の開口部に位置決めされる。
【0005】
(特許文献9)は、積層固定子コアと、積層固定子コアの開口部に収容された固定子巻線とを有する電気機械の固定子を示す。開口部は、固定子の径方向に延びる断面で見たときに、ウェブによって径方向内側で閉じられるように設計される。
【0006】
電気機械の動作中、いわゆる軸受電流が発生することがある。軸受電流は、軸受を通って流れる電流である。これは、軸受の材料を変化させることがあり、それにより最終的に軸受の故障を引き起こす可能性がある。特に電気機械が高い電力密度を引き続き有した状態で、軸受電流のリスクを減らす必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0 001 984A1号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0 294 812A1号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2018/0 233 969A1号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0 030 350A1号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2015/0 008 785A1号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第36 08 472A1号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第10 2017 211 452A1号明細書
【特許文献8】特開2010-239 721号公報
【特許文献9】米国特許出願公開第2003/0 201 687A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電気機械の新規の固定子、そのような固定子を有する電気機械、及びそのような固定子を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に記載の電気機械の固定子によって達成される。
【0010】
固定子は、開口部を有するシートメタルブランクからなる積層固定子コアを備え、開口部は、固定子の径方向に延びる断面で見たときに周方向に延びるウェブによって、径方向内側で閉じられる。さらに、固定子は固定子巻線を備え、固定子巻線は、積層固定子コアの開口部に収容される。それぞれの開口部を径方向内側で閉じるウェブは、機械的応力が開口部に導入されるように塑性変形される。
【0011】
本発明による固定子では、固定子巻線を収容する積層固定子コアの開口部が、径方向内側にあるウェブによって径方向内側で閉じられることにより、軸受電流のリスクがすでに低減されている。これらのウェブの塑性変形及びウェブへの機械的応力の導入により、ウェブの領域内での積層固定子コアの磁気特性が損なわれ、それにより、電気機械が高い電力密度を有した状態で軸受電流の発生を効果的に打ち消すことが可能になる。
【0012】
好ましくは、ウェブの材料の降伏強度よりも大きい機械的応力が、それぞれの開口部を径方向内側で閉じるウェブに導入される。この発展形態は、電気機械が高い電力密度を有した状態で軸受電流の発生を打ち消すために特に好ましい。
【0013】
好ましくは、軸方向で隣接するシートメタルブランクの塑性変形されたウェブ間の隙間が、シートメタルブランクを接続する焼き付けエナメル又は接着剤で充填される。この発展形態も、電気機械が高い電力密度を有した状態で軸受電流の発生を打ち消すために好ましい。
【0014】
好ましくは、ウェブは、積層固定子コアの軸方向で塑性変形され、それぞれのウェブの領域内で、シートメタルブランクの厚さが少なくとも部分的に減少する。これによっても、同時に電気機械が高い電力密度を有した状態で軸受電流の発生を効果的に打ち消すことができる。
【0015】
電気機械は請求項5に定義され、固定子を製造するための方法は請求項6に定義される。
【0016】
本発明の好ましい発展形態は、従属請求項及び以下の説明に記載されている。本発明の例示的実施形態は、図面に限定せずに、図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】電気機械の固定子の簡略化された正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、電気機械10の基本構成の非常に概略的な断面図を示す。
【0019】
電気機械10は、回転子シャフト12と、回転子シャフト12に配置された積層回転子コア13とを有する回転子11を備える。電気機械10は、ハウジング15と、積層固定子コア16と、積層固定子コア16によって収容された固定子巻線17とを有する固定子14をさらに備える。回転子シャフト12は、軸受20によってハウジング15に回転可能に取り付けられている。
【0020】
図2は、積層固定子コア16と、積層固定子コア16に収容された固定子巻線17との配置を斜視図で示す。
図1及び2によれば、固定子巻線17は、積層固定子コア16に対して積層固定子コア16の両側で突出する。積層固定子コア16に対して突出する固定子巻線17のこれらの部分において、固定子巻線17は互いに接続されて、いわゆる巻線オーバーハングを形成する。
【0021】
積層固定子コア16はシートメタルブランク16aで構成されており、同様に積層回転子コア13もシートメタルブランク13aで構成されている。
【0022】
シートメタルブランク16a、したがって積層固定子コア16は開口部18を有し、開口部18は、固定子巻線17を収容するために使用される。本発明による固定子14の場合、これらの開口部18は、固定子14の径方向に延びる断面で見たときに、周方向に延びるウェブ19によって、径方向内側で完全に閉じられる。各開口部18は、径方向に延びる断面で見たときに、積層コア16のそれぞれのシートメタルブランク16aによってすべての側面で区切られ、すなわち囲まれ、したがって、開口部18は軸方向端部でのみ開いており、これらの端部を通して、固定子14の軸方向で固定子巻線17を開口部18に導入することができる。
【0023】
図1の断面において、電気機械10の固定子14、したがって積層固定子コア16の軸方向は、
図1の図の平面内で水平方向に延びる。
図3での図の平面では、電気機械10の固定子14、したがって積層固定子コア16の軸方向は、
図3の図の平面に垂直に延びる。電気機械10の固定子14、したがって積層固定子コア16の径方向は、
図1の図の平面内では垂直方向に延び、
図3の図の平面内では水平及び垂直方向に延びる。したがって、
図1の断面は、固定子14の軸方向に延びる断面と呼ぶこともできる。固定子14の径方向に延びる断面は、
図3に対応する。
【0024】
図3には、すべての開口部18が示されているわけではない。
図3に示される開口部18の両側に、周方向に隣接するさらなる開口部が存在する。
【0025】
本発明による固定子14の場合、開口部18を径方向内側で閉じるウェブ19は、より具体的には機械的応力が開口部に導入されるように塑性変形される。このようにして、電力密度が高い状態で軸受電流の発生を打ち消すことが可能である。
【0026】
ウェブ19の材料、したがって積層固定子コア16のシートメタルブランク16aの材料の降伏強度よりも大きい機械的応力が、それぞれの開口部18を径方向内側で区切って径方向内側で閉じるそれぞれのウェブ19に導入される。
【0027】
このプロセスにおいて、ウェブ19は、積層固定子コア16の軸方向で見たときに塑性変形され、より具体的には、少なくとも、それぞれのウェブ19の領域内で、それぞれのシートメタルブランク16aの一部の軸方向の厚さが減少する。
【0028】
積層固定子コア16のシートメタルブランク16aが積層固定子コア16の軸方向に積層されて互いに平坦に位置するとき、軸方向で塑性変形されたウェブ19の領域内でシートメタルブランク16aの間に小さなギャップ又は隙間が形成されることがあるが、これらのギャップ又は隙間は、シートメタルブランク16aを接続して積層固定子コア16を形成するために使用される絶縁性の焼き付けエナメル又は接着剤のいずれかで充填される。
【0029】
本発明は、固定子14だけでなく、固定子14及び回転子11を備える電気機械10にも関する。固定子14は、上述したように具現化される。
【0030】
さらに、本発明は、固定子14を製造するための方法に関する。ここで、手順は、まず金属シートが用意され、用意された金属シートから開口部18が打ち抜かれて、シートメタルブランク16aを形成するというものである。
【0031】
金属シートを打ち抜いてシートメタルブランク16aを形成するとき、固定子巻線17を収容するための開口部18を径方向内側で区切って閉じるウェブ19が残される。径方向内側で、積層固定子コア16のウェブ19は、積層回転子コア13に隣接し、積層回転子コア13と積層固定子コア16との間にエアギャップLを形成する。
【0032】
シートメタルブランク16aのウェブ19は塑性変形される。ウェブ19の塑性変形は、開口部18の打ち抜きと同時に、又はその後に行われ得る。ウェブ19の塑性変形には、ウェブ19を軸方向に変形させるパンチを使用することができる。
【0033】
打ち抜かれた開口部18及び軸方向に塑性変形されたウェブ19を備えたシートメタルブランク16aの製造後、所定数のシートメタルブランク16aが積層を形成するように配置され、シートメタルブランク16aのこの積層がプレスされて接続されて、積層固定子コア16を形成する。
【0034】
次いで、積層固定子コア16を形成するように接続されたシートメタルブランク16aの開口部18に固定子巻線17が配置される。
【0035】
本発明により、軸受電流のリスク及び軸受電流による軸受故障のリスクが低減される。
【0036】
固定子巻線17を収容するために使用される各開口部18は、径方向内側でそれぞれのウェブ19によって閉じられる。これらのウェブ19は塑性変形される。その結果、ウェブ19の領域での積層固定子コア16の磁気特性が損なわれる。
【0037】
軸方向での渦電流経路の伝播は、シートメタルブランク16a間の積層及び絶縁層によって打ち消される。
【0038】
最終的に、同時に電気機械10が高い電力密度を有した状態で軸受電流の発生を打ち消すことができる。
【符号の説明】
【0039】
11 回転子
14 固定子
16 積層固定子コア
16a シートメタルブランク
17 固定子巻線
18 開口部
19 ウェブ
L エアギャップ