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特開2022-17957体液サンプリングのための器具およびその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017957
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】体液サンプリングのための器具およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20220119BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220119BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20220119BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20220119BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220119BHJP
【FI】
G01N1/28 J
C12M1/00 A
C12Q1/70
C12Q1/6888 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】70
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120828
(22)【出願日】2020-07-14
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Tween
(71)【出願人】
【識別番号】518448013
【氏名又は名称】一般社団法人生命科学教育研究所
(71)【出願人】
【識別番号】500004069
【氏名又は名称】アイオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】木下 健司
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G052AA29
2G052AB20
2G052AD06
2G052AD26
2G052BA14
2G052CA03
2G052CA28
2G052EC08
2G052FD18
2G052GA29
4B029AA07
4B029AA09
4B029AA23
4B029BB13
4B029CC01
4B029DD06
4B029DG08
4B029FA01
4B029FA03
4B029HA02
4B029HA05
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS08
4B063QS25
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】体液サンプリングのための器具およびその使用方法を提供すること。
【解決手段】本発明の体液固定器具は、体液を保持するための体液固定部と、蓋部とを備え、体液固定器具は、体液固定部における体液を乾燥させるための空間を蓋部が形成するように、折り畳み可能なように構成されている。本発明の体液採取器具は、体液吸収体を備える支持棒と、支持棒を収容可能なように構成されている細長い体液貯留容器とを備え、体液貯留容器は、一端に第1の開口部を備え、かつ、他端に第2の開口部を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液を乾燥させるための体液固定器具であって、前記体液固定器具は、
体液を保持するための体液固定部と、
蓋部と
を備え、
前記体液固定器具は、前記体液固定部における体液を乾燥させるための空間を前記蓋部が形成するように、折り畳み可能なように構成されている、体液固定器具。
【請求項2】
前記体液固定部は、多孔質材料を含む、請求項1に記載の体液固定器具。
【請求項3】
前記多孔質材料は、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記体液固定部は、RNA分解を阻害するためのRNA分解酵素阻害剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の体液固定器具。
【請求項5】
前記体液固定器具は、RNA分解を阻害するためのRNA分解酵素阻害剤で処理されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の体液固定器具。
【請求項6】
前記RNA分解酵素阻害剤は、アジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、請求項4または請求項5に記載の体液固定器具。
【請求項7】
前記体液を含む前記体液固定部は、アルコール処理される、請求項1~6のいずれか一項に記載の体液固定器具。
【請求項8】
前記体液固定器具は、前記体液の乾燥を促進させるための熱源をさらに備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の体液固定器具。
【請求項9】
前記熱源は、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含む、請求項8に記載の体液固定器具。
【請求項10】
前記体液固定器具が折り畳まれているとき、前記蓋部は、前記体液固定部に対向するように配置される、請求項1~9のいずれか一項に記載の体液固定器具。
【請求項11】
前記蓋部は、前記体液固定部と係合するための第1の係合部を備え、前記体液固定部は、前記蓋部と係合するための、前記第1の係合部に対応する第2の係合部を備える、請求項1~10のいずれか一項に記載の体液固定器具。
【請求項12】
前記体液は、リキッドバイオプシーに利用可能な検体であり、前記リキッドバイオプシーに利用可能な検体は、唾液、血液、尿、精液、または涙液を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の体液固定器具。
【請求項13】
前記体液は、病原体を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の体液固定器具。
【請求項14】
前記体液中の病原体またはウイルスのゲノムコピー数は、約10~約10コピー/μLである、請求項13に記載の体液固定器具。
【請求項15】
前記体液固定部に保持される体液は少なくとも約1μLである、請求項1~14のいずれか一項に記載の体液固定器具。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の体液固定器具と、滅菌バッグとを含む、体液固定器具キット。
【請求項17】
体液から検査可能な乾燥体を調製する方法であって、前記方法は、
A)体液固定部を備える体液固定器具を提供するステップと、
B)前記体液を前記体液固定部に接触させるステップと、
C)前記体液を含む前記体液固定部を乾燥させるステップと
を含む、方法。
【請求項18】
前記体液固定器具は、請求項1~15のいずれか一項に記載の体液固定器具である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記乾燥させるステップは、前記体液の乾燥を促進させるための熱源を用いて乾燥させることを含む、請求項17または請求項18に記載の方法。
【請求項20】
RNA分解を阻害するためのRNA分解酵素阻害剤で前記体液固定器具を処理するステップをさらに含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記RNA分解酵素阻害剤は、アジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記体液を含む前記体液固定部をアルコール処理するステップをさらに含む、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
体液が乾燥固定された体液固定器具であって、前記体液固定器具は、
体液を保持するための体液固定部と、
蓋部と
を備え、
前記体液固定器具は、前記体液固定部における体液を乾燥させるための空間を前記蓋部が形成するように、折り畳み可能なように構成され、
前記体液固定部に前記体液が固定されている、体液固定器具。
【請求項24】
生体由来の試料に感染対策を施して生体分析を行うための試料を調製する方法であって、
前記生体由来の試料を体液固定器具に配置する工程と、
前記生体由来の試料を含む体液固定器具をウイルス失活条件に供して、前記試料中に存在し得るウイルスを失活させる工程と、
前記体液固定器具に含まれる生体由来の試料を、生体分析を行うための試料に変換する工程と
を含む、方法。
【請求項25】
前記失活条件は、乾燥条件を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記失活条件は、一定温度以上でかつ一定時間以上の条件を含む、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記失活条件は、約65℃以上で約1時間以上である条件を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記失活条件は、アルコールを含む、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記生体由来の試料は、リキッドバイオプシーに利用可能な検体であり、前記リキッドバイオプシーに利用可能な検体は、唾液、血液、尿、精液、または涙液を含む、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記体液固定器具は、RNA分解酵素阻害剤で処理されている、請求項24~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記RNA分解酵素阻害剤は、アジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記生体由来の試料は、核酸を含み、前記生体分析は遺伝子増幅解析を含む、請求項24~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記生体由来の試料は、核酸を含み、前記生体分析はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)解析を含む、請求項24~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記体液固定器具は、多孔質材料を含む、請求項24~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記多孔質材料は、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記体液固定器具は、前記試料中に存在し得るウイルスを失活させるための熱源を含む、請求項24~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記熱源は、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含む、を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記熱源は、前記生体由来の試料を約60℃以上に保つものである、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記熱源は、前記体液固定器具に直接接着される、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
生体由来の試料に感染対策を施して遺伝子分析を行うシステムであって、
体液固定器具と、
ウイルス失活条件提供部と、
前記体液固定器具に含まれる生体由来の試料を、生体分析を行うための試料に変換する試薬と
を含む、システム。
【請求項41】
前記ウイルス失活条件提供部は、乾燥剤または通気性のある袋を含む、請求項40に記載のシステム。
【請求項42】
前記ウイルス失活条件提供部は、発熱器具含む、請求項40または41に記載のシステム。
【請求項43】
前記体液固定器具がRNA分解酵素阻害剤で処理されている、請求項40~42のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項44】
前記RNA分解酵素阻害剤はアジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、請求項43に記載のシステム。
【請求項45】
前記生体由来の試料は核酸を含み、前記生体分析は遺伝子増幅解析を含む、請求項40~44のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項46】
前記生体由来の試料は核酸を含み、前記生体分析はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)解析を含む、請求項40~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記体液固定器具は多孔質材料を含む、請求項40~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記体液固定器具は、前記試料中に存在し得るウイルスを失活させるための熱源を含む、請求項40~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記熱源は、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記熱源は、前記生体由来の試料を約60℃以上に保つものである、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記熱源は、前記体液固定器具に直接接着される、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
通気性のある袋と、体液固定器具とを含む、生体由来の試料に感染対策を施して遺伝子分析を行うためのキット。
【請求項54】
前記体液固定器具がRNA分解酵素阻害剤で処理されている、請求項53に記載のキット。
【請求項55】
前記RNA分解酵素阻害剤はアジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、請求項54に記載のキット。
【請求項56】
前記体液固定器具は多孔質材料を含む、請求項53~55のいずれか一項に記載のキット。
【請求項57】
前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、請求項56に記載のキット。
【請求項58】
前記体液固定器具は、前記試料中に存在し得るウイルスを失活させるための熱源を含む、請求項53~57のいずれか一項に記載のキット。
【請求項59】
前記熱源は、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含む、請求項58に記載のキット。
【請求項60】
前記熱源は、前記生体由来の試料を約60℃以上に保つものである、請求項58に記載のキット。
【請求項61】
前記熱源は、前記体液固定器具に直接接着される、請求項58に記載のキット。
【請求項62】
体液を採取するための体液採取器具であって、前記体液採取器具は、
体液吸収体を備える支持棒と、
前記支持棒を収容可能なように構成されている細長い体液貯留容器と
を備え、
前記体液貯留容器は、一端に第1の開口部を備え、かつ、他端に第2の開口部を備える、体液採取器具。
【請求項63】
前記第1の開口部は、前記支持棒が通過することができるように構成されており、
前記第2の開口部は、前記支持棒が通過することができないように構成されている、請求項62に記載の体液採取器具。
【請求項64】
前記第2の開口部は、前記体液吸収体内の体液を滴下することが可能なように構成されている、請求項62または63に記載の体液採取器具。
【請求項65】
前記第2の開口部の直径は、前記第1の開口部の直径より小さい、請求項62~64のいずれか一項に記載の体液採取器具。
【請求項66】
前記体液貯留容器は、前記第2の開口部の周りに、前記支持棒の前記体液吸収体を押圧させることによって前記体液吸収体内の体液を漏出させるための内壁を備える、請求項62~65のいずれか一項に記載の体液採取器具。
【請求項67】
前記体液吸収体は、多孔質材料を含む、請求項62~66のいずれか一項に記載の体液採取器具。
【請求項68】
前記多孔質材料は、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、請求項67に記載の体液採取器具。
【請求項69】
前記支持棒は、一端に前記体液吸収体を備え、他端に、前記体液貯留容器内に収容されるときに前記体液貯留容器の内側を密閉するための栓を備える、請求項62~68のいずれか一項に記載の体液採取器具。
【請求項70】
被験者から体液を採取する方法であって、
A)被験者の一部を請求項62~69のいずれか一項に記載の体液採取器具の前記体液吸収体に接触させるステップと、
B)前記体液吸収体を含む前記体液採取部を前記体液貯留容器に挿入するステップと、
C)前記体液採取部の前記支持棒を押下して前記体液貯留容器の前記第2の開口部から前記体液を滴下させるステップと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液サンプリングのための器具およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2020年にCOVID-19(所謂、新型コロナウイルス感染症)による世界的パンデミックが発生した。COVID-19に感染したか否かを判断するために、PCR検査(ポリメラーゼ連鎖反応検査)が実施されている。しかしながら、PCR検査を行って結果が出るまでにかなりの時間を要する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、以下を提供する。
(項目1)
体液を乾燥させるための体液固定器具であって、前記体液固定器具は、
体液を保持するための体液固定部と、
蓋部と
を備え、
前記体液固定器具は、前記体液固定部における体液を乾燥させるための空間を前記蓋部が形成するように、折り畳み可能なように構成されている、体液固定器具。
(項目2)
前記体液固定部は、多孔質材料を含む、上記項目に記載の体液固定器具。
(項目3)
前記多孔質材料は、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目4)
前記体液固定部は、RNA分解を阻害するためのRNA分解酵素阻害剤を含む、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目5)
前記体液固定器具は、RNA分解を阻害するためのRNA分解酵素阻害剤で処理されている、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目6)
前記RNA分解酵素阻害剤は、アジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目7)
前記体液を含む前記体液固定部は、アルコール処理される、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目8)
前記体液固定器具は、前記体液の乾燥を促進させるための熱源をさらに備える、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目9)
前記熱源は、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含む、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目10)
前記体液固定器具が折り畳まれているとき、前記蓋部は、前記体液固定部に対向するように配置される、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目11)
前記蓋部は、前記体液固定部と係合するための第1の係合部を備え、前記体液固定部は、前記蓋部と係合するための、前記第1の係合部に対応する第2の係合部を備える、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目12)
前記体液は、リキッドバイオプシーに利用可能な検体であり、前記リキッドバイオプシーに利用可能な検体は、唾液、血液、尿、精液、または涙液を含む、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目13)
前記体液は、病原体を含む、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目14)
前記体液中の病原体またはウイルスのゲノムコピー数は、約10~約10コピー/μLである、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目15)
前記体液固定部に保持される体液は少なくとも約1μLである、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具。
(項目16)
上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具と、滅菌バッグとを含む、体液固定器具キット。
(項目17)
体液から検査可能な乾燥体を調製する方法であって、前記方法は、
A)体液固定部を備える体液固定器具を提供するステップと、
B)前記体液を前記体液固定部に接触させるステップと、
C)前記体液を含む前記体液固定部を乾燥させるステップと
を含む、方法。
(項目18)
前記体液固定器具は、上記項目のいずれか一項に記載の体液固定器具である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記乾燥させるステップは、前記体液の乾燥を促進させるための熱源を用いて乾燥させることを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
RNA分解を阻害するためのRNA分解酵素阻害剤で前記体液固定器具を処理するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目21)
前記RNA分解酵素阻害剤は、アジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
前記体液を含む前記体液固定部をアルコール処理するステップをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
体液が乾燥固定された体液固定器具であって、前記体液固定器具は、
体液を保持するための体液固定部と、
蓋部と
を備え、
前記体液固定器具は、前記体液固定部における体液を乾燥させるための空間を前記蓋部が形成するように、折り畳み可能なように構成され、
前記体液固定部に前記体液が固定されている、体液固定器具。
(項目24)
生体由来の試料に感染対策を施して生体分析を行うための試料を調製する方法であって、
前記生体由来の試料を体液固定器具に配置する工程と、
前記生体由来の試料を含む体液固定器具をウイルス失活条件に供して、前記試料中に存在し得るウイルスを失活させる工程と、
前記体液固定器具に含まれる生体由来の試料を、生体分析を行うための試料に変換する工程と
を含む、方法。
(項目25)
前記失活条件は、乾燥条件を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記失活条件は、一定温度以上でかつ一定時間以上の条件を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目27)
前記失活条件は、約65℃以上で約15分以上(例えば、約65℃、約1時間、または約70℃、約15分など)である条件を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
前記失活条件は、アルコールを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目29)
前記生体由来の試料は、リキッドバイオプシーに利用可能な検体であり、前記リキッドバイオプシーに利用可能な検体は、唾液、血液、尿、精液、または涙液を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
前記体液固定器具は、RNA分解酵素阻害剤で処理されている、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
前記RNA分解酵素阻害剤は、アジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目32)
前記生体由来の試料は、核酸を含み、前記生体分析は遺伝子増幅解析を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目33)
前記生体由来の試料は、核酸を含み、前記生体分析はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)解析を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
前記体液固定器具は、多孔質材料を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)
前記多孔質材料は、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
前記体液固定器具は、前記試料中に存在し得るウイルスを失活させるための熱源を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目37)
前記熱源は、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含む、を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記熱源は、前記生体由来の試料を約60℃以上に保つものである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目39)
前記熱源は、前記体液固定器具に直接接着される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目40)
生体由来の試料に感染対策を施して遺伝子分析を行うシステムであって、
体液固定器具と、
ウイルス失活条件提供部と、
前記体液固定器具に含まれる生体由来の試料を、生体分析を行うための試料に変換する試薬と
を含む、システム。
(項目41)
前記ウイルス失活条件提供部は、乾燥剤または通気性のある袋を含む、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目42)
前記ウイルス失活条件提供部は、発熱器具含む、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目43)
前記体液固定器具がRNA分解酵素阻害剤で処理されている、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目44)
前記RNA分解酵素阻害剤はアジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目45)
前記生体由来の試料は核酸を含み、前記生体分析は遺伝子増幅解析を含む、上記項目のいずれか一項に記載のシステム。
(項目46)
前記生体由来の試料は核酸を含み、前記生体分析はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)解析を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目47)
前記体液固定器具は多孔質材料を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目48)
前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目49)
前記体液固定器具は、前記試料中に存在し得るウイルスを失活させるための熱源を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目50)
前記熱源は、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目51)
前記熱源は、前記生体由来の試料を約60℃以上に保つものである、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目52)
前記熱源は、前記体液固定器具に直接接着される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目53)
通気性のある袋と、体液固定器具とを含む、生体由来の試料に感染対策を施して遺伝子分析を行うためのキット。
(項目54)
前記体液固定器具がRNA分解酵素阻害剤で処理されている、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目55)
前記RNA分解酵素阻害剤はアジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目56)
前記体液固定器具は多孔質材料を含む、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目57)
前記多孔質材料はポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目58)
前記体液固定器具は、前記試料中に存在し得るウイルスを失活させるための熱源を含む、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目59)
前記熱源は、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含む、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目60)
前記熱源は、前記生体由来の試料を約60℃以上に保つものである、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目61)
前記熱源は、前記体液固定器具に直接接着される、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目62)
体液を採取するための体液採取器具であって、前記体液採取器具は、
体液吸収体を備える支持棒と、
前記支持棒を収容可能なように構成されている細長い体液貯留容器と
を備え、
前記体液貯留容器は、一端に第1の開口部を備え、かつ、他端に第2の開口部を備える、体液採取器具。
(項目63)
前記第1の開口部は、前記支持棒が通過することができるように構成されており、
前記第2の開口部は、前記支持棒が通過することができないように構成されている、項上記項目のいずれか一項に記載の体液採取器具。
(項目64)
前記第2の開口部は、前記体液吸収体内の体液を滴下することが可能なように構成されている、上記項目のいずれか一項に記載の体液採取器具。
(項目65)
前記第2の開口部の直径は、前記第1の開口部の直径より小さい、上記項目のいずれか一項に記載の体液採取器具。
(項目66)
前記体液貯留容器は、前記第2の開口部の周りに、前記支持棒の前記体液吸収体を押圧させることによって前記体液吸収体内の体液を漏出させるための内壁を備える、上記項目のいずれか一項に記載の体液採取器具。
(項目67)
前記体液吸収体は、多孔質材料を含む、上記項目のいずれか一項に記載の体液採取器具。
(項目68)
前記多孔質材料は、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含む、上記項目のいずれか一項に記載の体液採取器具。
(項目69)
前記支持棒は、一端に前記体液吸収体を備え、他端に、前記体液貯留容器内に収容されるときに前記体液貯留容器の内側を密閉するための栓を備える、上記項目のいずれか一項に記載の体液採取器具。
(項目70)
被験者から体液を採取する方法であって、
A)被験者の一部を上記項目のいずれか一項に記載の体液採取器具の前記体液吸収体に接触させるステップと、
B)前記体液吸収体を含む前記体液採取部を前記体液貯留容器に挿入するステップと、
C)前記体液採取部の前記支持棒を押下して前記体液貯留容器の前記第2の開口部から前記体液を滴下させるステップと
を含む、方法。
【発明の効果】
【0004】
本発明によれば、体液サンプリングのための器具およびその使用方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、体液を採取するための体液採取器具の構成の一例を示す断面図である。
図2図2は、体液を乾燥させるための体液固定器具の構成の一例を示す図である。
図3図3は、体液を乾燥させるための体液固定器具の構成の他の一例を示す図である。
図4図4は、体液から検査可能な乾燥体を調製する方法のフローの一例を示す図である。
図5A図5Aは、本開示の一実施形態において、生体試料として唾液を固定した後に自然乾燥させた場合の病原菌またはウイルスの検出プロトコルを説明する模式図である。
図5B図5Bは、本開示の一実施形態において、生体試料として唾液を固定した後に65℃で1時間加熱乾燥させた場合の病原菌またはウイルスの検出プロトコルを説明する模式図である。
図6A図6Aは、本開示の一実施形態において、唾液を保持するPVAスポンジをPCR試薬に直接投入して反応を行う場合に、逆転写反応と重合反応を一度に行うための検出プロトコルを表す模式図である。
図6B図6Bは、本開示の一実施形態において、唾液を保持するPVAスポンジをPCR試薬に直接投入して反応を行う場合に、最初に逆転写反応を行い、その後重合反応を行うための検出プロトコルを表す模式図である。
図7図7は、本開示の一実施形態において、ゲノムDNAを定量するための実験プロトコルを示す模式図である。蒸留水または血清にゲノムDNAを添加して、10、10、10、10/μLの溶液を調整し、体液固定器具に滴下後、パンチした小片をPCR溶液に直接投入してリアルタイムPCRをおこなった。
図8図8は、本開示の一実施形態において、蒸留水溶液で希釈したゲノムDNAのリアルタイムPCRの増幅結果である。10、10、10、10/μLの段階的な希釈物の増幅曲線を示している。
図9図9は、本開示の一実施形態において、血清溶液で希釈したゲノムDNAのリアルタイムPCRの増幅結果である。10、10、10、10/μLの段階的な希釈物の増幅曲線を示している。
図10図10は、本開示の一実施形態において、蒸留水溶液で希釈したゲノムDNAのリアルタイムPCRの標準曲線である。10、10、10、10/μLの段階的な希釈物の各濃度の対数(x軸)をその濃度におけるCt値(y軸)に対してプロットしている。
図11図11は、本開示の一実施形態において、RT-LAMP法を用いて新型コロナウイルスを検出する場合の検査およびサンプリングプロセスを説明する模式図である。他の実施例と同様に、被験者自身が唾液をサンプリングし、体液固定器具に唾液を固定した後、乾燥し、滅菌バッグに封入して検査機関において検査が行われる。
図12図12は、熱処理後の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の構造変化を示す模式図である。
図13図13は、本開示の一実施形態において、RT-LAMP法を用いて新型コロナウイルスを検出する際に、全数検査を行う場合の一連の流れを示す模式図である。唾液を固定した体液固定器具から一定容積を切除し、試薬に直接投入してRT-LAMP法によってウイルス核酸を増幅させる。
図14図14は、本開示の一実施形態において、RT-LAMP法を用いて新型コロナウイルスを検出する際に、プール法を用いて一括処理する場合の一連の流れを示す模式図である。唾液を固定した体液固定器具から一定容積を切除し、この切除片を10試料分まとめて試薬に直接投入して、RT-LAMP法によってウイルス核酸を増幅させる。陽性が確認された場合には、当該試料を展開し、当該陽性試料に含まれる10の試料を全数検査する。
図15図15は、本開示の一実施形態において、ウイルスの死滅を確認する実験プロトコルを説明する模式図である。ウイルス感染細胞を段階希釈し、各希釈試料を培養し、ウイルス定量法TCID50によって評価する。細胞が増殖した濃度をウイルスが失活していると評価する。
図16図16は、ウイルス定量法TCID50を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本開示を最良の形態の一例を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及されない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及されない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。矛盾する場合、(定義を含めて)本明細書の記載が優先される。
【0007】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0008】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0009】
本明細書において「試料採取」、「採取」、または「サンプリング」とは、リキッドバイオプシーなどの検査法において、試料(試料)を抽出することをいい、そのための剤および材料は、それぞれサンプリング剤およびサンプリング材料という。
【0010】
本明細書において「多孔質材料」とは、細孔を多く含む材料のことをいい、細孔の大きさは特に限られない。また一つの材料の中に含まれる細孔の大きさは一定であるとは限られない。例えば多孔質材料としては、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジ(海綿)が含まれるが、これに限られるものではない。多孔質材料は、例えば、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる織布および/または不織布、有機/無機微粒子を賦形剤とともに圧縮成形してなる構造体、アセチルセルロースまたはニトロセルロースからなる多孔質メンブレンも含み得る。賦形剤は、例えば、結晶性セルロース、でんぷん、ケイ酸カルシウムなどを含むが、これらに限定されない。賦形剤は、例えば、圧縮成形によって保形性を有するものであれば単一組成での構成のものも含む。
【0011】
本明細書において「PVAスポンジ」とは、PVAを架橋した多孔質の材料であり、その構造および作製方法は当技術分野で公知である。架橋は、ホルムアルデヒド等で行うことができる(架橋剤にアルデヒドを用いるものとしては特許第2994982号など、その他の例としては特開2001-302840などを参照)。
【0012】
本明細書において「ポリビニルアルコール(PVA)」とは、ビニルアルコール<示性式(-CHCH(OH)-)>を重合させた任意の重合体をいい、ポリ酢酸ビニルを酸またはアルカリで加水分解することにより得られる、水酸基を有する水溶性の重合体である。ポバールまたはPVOHとも呼ばれる。任意のPVAがPVAスポンジを製造するために用いることができる。
【0013】
PVAスポンジは、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、水溶性のPVA(ポリビニルアルコール、ポバール)に酸を触媒としてホルムアルデヒドを結合させるホルマール化反応により不溶性物質のPVF(ポリビニルホルマール)を製造し、その工程で気孔生成剤を加え、気孔の形成を行い不溶性のPVFが完成後この気孔生成剤を抽出し、完成したPVFは多孔質体となり立体的樹枝網目状連続気孔を形成する。この多孔質体がPVAスポンジである。
【0014】
PVAスポンジは、その体積の約90%近くを空隙で構成することができ、それでも基材として使用可能な構造的な強度を維持することが可能である。また、この空隙(気孔)を形成する基質部は、立体網目構造を成し、個々の気孔は全て連続化されている。このような一体構造がPVAスポンジの最大の特徴であり、これにより、数々の機能がもたらされる。加えて、PVAスポンジは、一般的なウレタンスポンジなどとは異なり、きわめて親水性が高く、また、縦横にめぐる微細気孔によって毛細管現象が生じるため、吸水性・保水性に非常に優れる。また、湿潤状態では柔軟性・弾力性があり、特に洗浄材や拭き取り材として使用する場合、対象物の表面を傷めることを防ぐことができる。
【0015】
PVAスポンジは、市販されているもの(例えば、アイオン株式会社製)を用いることができる。PVAスポンジのパラメータとしては、スポンジの気孔径(平均気孔径)または気孔率を選択することができる。気孔率は、スポンジの体積に占める空隙の体積の割合である。
【0016】
本明細書において「平均気孔径」は、気孔径の(算術)平均値であり、JIS R 1655:2003に基づき測定することができる。
【0017】
本明細書において「気孔率」は、所定量の固体によって占められる、全体積に対する吸着可能な細孔及び空隙の体積の比であり、JIS R 1655:2003に基づき測定することができる。また、気孔率は、JIS Z 8837:2018に基づき測定することもできる。気孔率(ε)は、例えば、見かけ体積(Va)及び真体積(V)を測定した後、式:ε=(1―V/Va)×100(%)を用いて算出される。見かけ体積(Va)は、例えば直方体の場合には3辺(縦、横、高さ)の積により求められる直方体の体積である。また、真体積(V)は、見かけ体積(Va)から細孔及び空隙の体積を除いた体積であり、例えば、島津製作所製の乾式自動密度計アキュビック1330を用いて測定されることが可能である。
【0018】
以下の表1は、アイオン株式会社にて提供されているPVAスポンジの物性を示す表である。本明細書の他の箇所において、下記の品番でPVAスポンジについて言及する場合は、アイオン株式会社製の当該品番のPVAスポンジを指す。
【0019】
【表1】
【0020】
FBとGBとは気孔径が大きいため、他の規格のPVAスポンジの方が生体試料のサンプリングにはより適していると考えられる。本開示の一つの実施形態では、PVAスポンジの気孔径は、約5~700μmである。本開示の一つの好ましい実施形態では、PVAスポンジの気孔径は、約80μm~約200μmである。例えば、スポンジに対して比較的浸透し易い生体試料(例えば、唾液、血液)の場合には、操作性の観点から、PVAスポンジの気孔径は、約40~300μm、より好ましくは約80~200μmであることが有効である。
【0021】
PVAスポンジの気孔率は、生体試料の吸収と保持を妨げない程度であれば任意の数値であり得る。本開示の一つの実施形態では、約50~98%であると共に、内部と連通する開口部を表面に多数備えるPVAスポンジが望ましい。本開示の一つの好ましい実施形態では、PVAスポンジの気孔率は、単位体積当たりの保持容量の確保と実用強度の両立を考慮すると、約80~95%であり、より好ましくは、約88~92%であり、最も好ましくは、約89%~91%である。なお、セルローススポンジの気孔率は、例えば、約90~96%であり得、好ましくは約93~95%であり得、ウレタンスポンジの気孔率は、例えば、約90~98%であり得、好ましくは約95~97%であり得る。
【0022】
D(D)~EB(D)のPVAスポンジでは、生体試料のサンプリングにおいて性能の差はあまりないと考えられる。機械的な特性から見るとE(D)またはF(D)が最も取り扱いやすいと考えられる。
【0023】
生体試料(例えば、唾液や血液)をPVAスポンジに滴下して乾燥させることによって、生体試料の生物学的または化学的分析のための試料を調製することができる。1つの実施形態では、生物学的分析は核酸分析または遺伝子分析である。
【0024】
(試料)
本明細書において使用される「体液」とは、特定の対象となる核酸を含む任意の生体検体をいい、例えば、鼻汁、鼻腔ぬぐい液、眼結膜ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、喀痰、糞便、血液、血清、血漿、髄液、唾液、尿、汗、乳、精液、口腔ぬぐい液、歯間ぬぐい液、湿性耳垢、膣腔ぬぐい液、および細胞組織などの生体試料または臨床試料の他、食品などを挙げることができる。「体液」は、細胞、真菌、細菌およびウイルスからなる群より選択される実体(entity)に含まれるDNAおよび/またはRNAを包含する試料を含むことができる。
【0025】
増幅の対象となる遺伝子もしくは核酸または検出の対象となる特定遺伝子はDNAであってもRNAであってもよい。この場合、本開示の一実施形態においては、体液を保持する「体液固定器具」を逆転写酵素およびポリメラーゼを含む反応液に直接添加して核酸増幅反応を行なうことにより、当該体液中に存在する核酸を直に増幅させることができる。体液固定器具はDNAおよび/またはRNAを包含する試料に含まれ得る、逆転写酵素およびポリメラーゼを阻害し得る物質の悪影響を低減または消失させる材料、例えば、PVAスポンジなどであってもよい。ここで、「直接添加」とは、核酸増幅に先立って、この核酸を包含する体液から核酸を抽出する過程が不要という意味である。また本開示の一実施形態において、逆転写酵素およびポリメラーゼを含む反応液に直接添加する体液固定器具は、乾燥させることができ、さらに体液固定器具の一定容積に該当する面積をパンチして、容積一定乾燥体液部分を作製してから、その容積一定乾燥体液部分を直接添加することもできる。
【0026】
「容積一定乾燥体液部分」とは、例えば生検トレパンなどにより、パイプに詰めた組織または材料の一定量をパンチして切る取ることで得ることができる。このパンチのパンチ径は特に限られるものではなく、パンチする材料部分に含まれる所望の体液量に応じて、例えば直径約1~約4mmとすることもできる。またパンチする体液固定器具の厚みについても、そこに含まれる所望の体液量に応じて、適宜設定可能である。例えば体液として唾液を用いて、パンチ径を1、2、4mm、厚みを0.5、1.0、2.0mmとした場合に、パンチされた容積一定乾燥体液部分に含まれる体液量は以下の表2Aのとおりとなる。
【0027】
【表2A】
【0028】
また、パンチした小片(E(D)、厚さ1mm、2mmφ及び1mmφ)の吸水重量-乾燥重量を秤量した(n=3,平均値)ところ、パンチされた容積一定乾燥体液部分に含まれる体液量は、以下の表2Bのとおりとなり、約3倍の水分が吸収された。
【0029】
【表2B】
【0030】
(リキッドバイオプシー)
本明細書において、「リキッドバイオプシー」とは、液体の生体試料を指し、血液、尿、唾液、精液等の体液の試料が含まれる。リキッドバイオプシーの分析は、従来の生検の採取に比較して、低侵襲性で検査を行うことができるが、従来よりも高感度(例えば、100~1,000倍)の検出を行わなければならない場合が多い。リキッドバイオプシーの分析では、液中に漏れ出た生体分子を分析することになるためである。例えば、リキッドバイオプシーの分析には、ウイルス検出、血中循環がん細胞(CTC)、血中循環異常細胞(CAG)、幹細胞、血中循環がん遺伝子(CTG)、セルフリー遺伝子(cfDNA)、マイクロRNA(miRNA)、血中微量分子、ペプチド、マイクロパーティクル等の分析が含まれる。
【0031】
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。なお、本明細書全体を通して、同一の構成要素には同一の参照番号を付している。
【0032】
出願人は、PCR検査の所要時間を短くして検査件数を増加させるために、対象(例えば、患者)からの試料採取から実験室内での検査作業までのすべての工程を見直し、迅速・簡便・安価・安全な新たな検査法、および、その新たな検査法において使用される器具を開発した。
【0033】
1.体液を採取するための体液採取器具
一つの局面において、本開示は、体液を採取するための体液採取器具を提供する。本開示体液採取器具は、体液吸収体を備える支持棒と、前記支持棒を収容可能なように構成されている細長い体液貯留容器とを備え、前記体液貯留容器は、一端に第1の開口部を備え、かつ、他端に第2の開口部を備える。
【0034】
本明細書において「体液採取器具」とは、体液を採取するため器具をいい、対象の体液を採取し得る限り、本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解され、一体化された器具として提供されてもよく、別々の部品として提供され、その後に組み立てる(アセンブルする)形態で提供されてもよい。
【0035】
本明細書において、「体液」とは、最も広義に解釈され、対象に存在する液体または液状のものをいう。例えば、対象が動物である場合、血液、尿、唾液、粘液などが含まれるがこれらに限定されず、対象が植物である場合、導管液、粘液、汁液(葉身汁液、葉柄汁液など)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
本明細書において、「支持棒」とは、器具やその一部(例えば、体液吸収体)を支持し得る棒状のものをいい、本明細書に記載される説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。支持棒を構成し得る材料は、体液吸収体などを支持し得るものであればどのようなものであってもよく、好ましくは、体液と相互作用しないものが推奨され、別の観点では、生体分解性のものが望ましくあり得るがこれに限定されない。支持棒の材質は、体液などの目的物を採取するためにある程度の剛性を有して容易に変形しないものであればどんなものであってもよく、好ましくは、プラスチック製であり得るが、例えば、紙製であってもよいし、木製であってもよい。支持棒の形状は、体液などの目的物を採取することが可能である限りにおいて棒状の任意のものであってもよく、例えば、円柱状であってもよいし、四角柱状などの多角柱状であってもよい。
【0037】
本明細書において「体液吸収体」とは、体液を吸収し得る部分をいい、体液を吸収し得る限り、本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。体液吸収体は、支持棒と一体となって形成されていてもよく、別々に提供されアセンブルされてもよい。体液吸収体の材質は、体液を吸収することが可能な親水性の高いものであればどんなものであってもよく、好ましくは、ポリビニルアルコールスポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、繊維素材(例えば、織布、不織布、集合体)とスポンジとの複合品(例えば、綿棒)などであるが、これに限定されない。体液吸収体の形状は、任意であり、好ましくは、球状、水滴状などであるが、例えば、表面積を大きくするために表面に凹凸を有する形状であってもよい。
【0038】
本明細書において「体液貯留容器」とは、体液を貯留し得る容器をいい、体液吸収体によって採取された体液を貯留し得る限り、本明細書に記載される説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。詳細には、本開示において使用される体液貯留容器は、支持棒を収容可能なように構成されている限り、どのような形状であってもよく、好ましくは、中空の円柱状であるが、例えば、中空の多角柱状であってもよい。体液貯留容器の材質は、体液を貯留することが可能である限り任意のものであってもよく、好ましくは、体液などの目的物と相互作用しないものであり、例えば、プラスチック製であるが、他の観点では、疎水加工された紙製であってもよい。
【0039】
本明細書において「開口部」は、最も広義に解釈され、目的に応じて支持棒や体液など目的物が通過し得るものをさし、必要に応じて特定の物を通過させないような形状であり得る。本開示の対英採取器具は少なくとも2つの開口部を有し得るがこれに限定されない。2つ以上ある場合、開口部は、本開示の体液採取の目的を充足し得る限り、任意の形状であってよく、特定の例としては、第1の開口部は、支持棒が通過することができるように構成されており、支持棒が通過することができる程に十分な大きさを有する。他方、第2の開口部は、支持棒が通過することができないように構成され、支持棒が通過することができない程に十分な小ささを有するが、体液が通過し得るように構成され得る。開口部を形成する部分の材質は、体液を貯留することが可能である限り任意のものであってもよく、容器に単に孔をあけるように形成してもよく、開口部に特別な材料を付してもよい。好ましくは、体液などの目的物と相互作用しないものであり、例えば、プラスチック製(特に、生分解プラスチック製)であるが、他の観点では、疎水加工された紙製であってもよいし、石灰石と石油系樹脂とを混ぜた新素材LIMEX(TBM社製)であってもよい。なお、LIMEXは、ストーンペーパーとは異なり、代替紙・代替プラスチックとなり得る無機フィラー分散系の複合材料である。
【0040】
本明細書において「栓」は、開口部を塞ぎ得る部材をいい、開口部と協働して液体の漏出を防止する得る限り、本明細書に記載される説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。栓の形状は、開口部の形状に一致する断面を有する限りにおいて任意のものであり得、好ましくは、開口部の形状に応じて変化し得る弾性を有するものであり得る。栓の材質は、液体が浸透しない任意のものであり得、望ましくは、体液と相互作用がないまたは最低限であることが有利であり、好ましくは、エラストマー製(例えば、合成ゴム製、天然ゴム製)であるが、他の観点では、例えば、プラスチック製(特に、生分解プラスチック製)であってもよいし、コルク樫製であってもよいし、石灰石と石油系樹脂を混ぜた新素材LIMEX(TBM社製)であってもよい。
【0041】
以下、本開示の体液採取器具の特定の実施形態を、図を参照しながら説明する。図1は、体液を採取するための体液採取器具の構成の一例を示す断面図である。図1aは、体液採取器具100の組み合わせ状態を示し、図1bは、体液採取器具100の分離した状態を示す。図1はあくまで一実施形態であり、本開示の体液採取器具は、この図に限定されるものではない。
【0042】
図1に示される実施形態では、体液採取器具100は、支持棒110と、細長い体液貯留容器120とを備える。図1aに示されるように、体液貯留容器120は、支持棒110を収容可能なように構成されており、体液採取器具100の組み合わせ状態では、支持棒110は、体液貯留容器120の中に収容されている。体液採取器具100を使用した後、支持棒110を体液貯留容器120内に収容することにより、体液採取器具100をそのまま簡単に廃棄することが可能であり、体液採取器具100を媒介とした感染症の2次感染を防止することが可能である。体液貯留容器120は、好ましくは、円筒形状を有する。あるいは、体液貯留容器120は、例えば、中空の四角柱形状を有していてもよい。
【0043】
図1に示される実施形態では、支持棒110は、一端に体液吸収体111を備える。体液吸収体111は、体液を吸収することが可能なように構成されている。体液吸収体111の体積は、サンプリングすべき体液の体積に相当し得る。体液吸収体111は、多孔質材料を含む。多孔質材料は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジまたはこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0044】
体液吸収体111がポリビニルアルコール(PVA)スポンジである場合、理論に束縛されることを望まないが、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジの空隙内に一定量の体液を保持することができ、PVAスポンジの体積あたり一定量の体液を保持できると考えられる。そのため、定量性が非常に高く、それ故、唾液中ウイルス・細菌の絶対定量、血漿中ウイルス・細菌の絶対定量、血漿中cfDNAの絶対定量、および/または、血漿中ctDNAの絶対定量および解析を行うことが可能である。
【0045】
図1に示される実施形態では、支持棒110は、他端に、体液貯留容器100内に収容されるときに体液貯留容器100の内側を密閉するための栓112を備える。なお、栓112は、支持棒110の他端を塞ぐことが可能である限りにおいて、任意の形状を有し得る。
【0046】
図1に示される実施形態では、体液貯留容器120は、一端に第1の開口部121を備え、かつ、他端に第2の開口部122を備える。第1の開口部121は、支持棒110が通過することができるように構成されており、支持棒110が通過することができる程に十分な大きさを有する。第2の開口部122は、支持棒110が通過することができないように構成されており、支持棒110が通過することができない程に十分な小ささを有する。
【0047】
第1の開口部121および第2の開口部122の形状の一例は、円形であり、第2の開口部122の直径は、第1の開口部121の直径より小さい。第1の開口部121および第2の開口部122の形状の他の一例は、四角形などの多角形、星形、および楕円形であるが、これらに限定されない。
【0048】
体液貯留容器120は、第2の開口部122の周りに、体液吸収体111を押圧させるための内壁123をさらに備える。体液吸収体111が内壁123に押圧されることによって、体液貯留容器120の外部に暴露することなく、体液吸収体111内の体液を漏出させることが可能である。また、第2の開口部122は、体液吸収体111内から漏出した体液を滴下することが可能なように構成されている。これにより、体液吸収体111を内壁123に押圧することによって体液吸収体111内から漏出した体液をそのまま滴下することが可能である。
【0049】
なお、内壁123の形状は、体液吸収体111を押圧させることが可能である限りにおいて、任意である。
【0050】
体液採取器具100は、第2の開口部122において、第2の開口部122を塞ぐためのカバー(図示せず)をさらに備えていてもよい。これにより、体液吸収体から漏出した体液が体液採取器具100の外に漏出することを防止することが可能である。
【0051】
本明細書において、体液は、リキッドバイオプシーに利用可能な検体である。リキッドバイオプシーに利用可能な検体は、唾液、血液、尿、精液、または涙液を含むが、これらに限定されない。体液は、病原体やウイルス、またはそれらに関連する核酸をさらに含み得る。体液中の病原体またはウイルスのゲノムコピー数は、例えば、約10~約10コピー/μLである
【0052】
体液採取器具100は、例えば、ゲノムDNA配列解析、一塩基多型解析、コピー数多型、および/または、親子判定のために使用される。また、他の実施形態において、体液採取器具100は、核酸解析や遺伝子解析に用いることができ、その使用される解析としては、生体試料中の核酸(DNA、RNA等)の状態を調べるものであれば特に限られるものではない。一実施形態では、核酸解析には、核酸増幅反応を利用するものを挙げることができる。これらを含め、核酸解析の例としては、配列決定、遺伝子型判定・多型分析(SNP分析、コピー数多型、制限酵素断片長多型、リピート数多型)、発現解析、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)、SYBR green法、融解曲線分析、リアルタイムPCR、定量RT-PCR、デジタルPCRなどを挙げることができる。核酸解析の1つの例は、TaqManプローブ法による遺伝子型の判定である。
【0053】
2.体液を乾燥させるための体液固定器具
別の局面において、本開示は、体液を乾燥させるための体液固定器具を提供する。本開示の体液固定器具は、体液を保持するための体液固定部と、蓋部とを備え、前記体液固定器具は、前記体液固定部における体液を乾燥させるための空間を前記蓋部が形成するように、折り畳み可能なように構成されている。
【0054】
本明細書において「体液固定器具」とは、体液を固定するため器具をいい、対象の体液を固定し、その状態で乾燥することができる限り、本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解され、一体化された器具として提供されてもよく、別々の部品として提供され、その後に組み立てる(アセンブルする)形態で提供されてもよい。あるいは、一体化された器具として提供される場合、さらに包装物(袋など)で包装された形で提供されてもよい。体液固定器具の材質は、体液などの目的物と相互作用しない任意のものであり得、好ましくは、耐熱性を有し、好ましくは、紙製であるが、例えば、プラスチック製であってもよい。体液固定器具の形状は、体液を乾燥させるための空間を形成することができる限りにおいて任意であり、好ましくは、固定された体液を乾燥させる場所を保護することが可能な形状を有し得る。体液固定器具は、例えば、一部分を折り返して蓋を形成することが可能な形状を有していてもよいし、通気性のある箱型であってもよい。
【0055】
体液は、本明細書の他の箇所において定義されており、例えば、対象が動物である場合、血液、尿、唾液、粘液などが含まれるがこれらに限定されず、対象が植物である場合、導管液、粘液、汁液(葉身汁液、葉柄汁液など)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0056】
本明細書において「体液固定部」は、体液を固定する部分をいい、対象の体液を固定することができる限り本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。体液固定部の材質は、体液を固定して乾燥させる限りにおいて任意のものであり得、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含むが、これらに限定されない。体液固定部の材質は、例えば、樹脂粉体を熱プレス加工することにより得られる焼結構造体、繊維集合体からなる織布および/または不織布、有機/無機微粒子を賦形剤とともに圧縮成形してなる構造体、アセチルセルロースまたはニトロセルロースからなる多孔質メンブレンも含み得る。賦形剤は、例えば、結晶性セルロース、でんぷん、ケイ酸カルシウムなどを含むが、これらに限定されない。賦形剤は、例えば、圧縮成形によって保形性を有するものであれば単一組成での構成のものも含む。体液固定部の形状は、所望の量の体液を固定することができる体積を有する限りにおいて任意のものであり得、例えば、立方体形状であってもよいし、直方体形状(特に、平板状)であってもよいし、少なくとも一部が湾曲した形状であってもよいし、少なくとも一部が窪んだ形状を有していてもよい。
【0057】
本明細書において「蓋部」とは、体液固定器具を構成し、体液固定器具の別の部分に係合すると体液固定部を少なくとも部分的に覆う構造を有し、外部からの接触を遮断できるような構造をしているものをいい、体液固定部を少なくとも部分的に覆うことができる限り本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。蓋部の材質は、体液などの目的物と相互作用しない任意のものであり得、好ましくは、耐熱性を有し、好ましくは、可撓性を有し、好ましくは、紙製であるが、例えば、プラスチック製(特に、生分解プラスチック製)であってもよい。例えば、蓋部の材質は、エンジニアリングプラスチック類(ポリアミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルサルフォンなど)、熱硬化性樹脂(フェノール樹脂、メラミン樹脂など)、金属類、および石灰石と石油系樹脂とを混ぜたLIMEX(TBM社製)を含み得る。蓋部の形状は、少なくとも一部が予め湾曲した形状であってもよいし、体液固定部を少なくとも部分的に覆うことができるように可撓性を有する平坦形状であってもよい。
【0058】
本明細書において「折り畳み可能」とは、折り曲げることが可能な程の可撓性を有することをいう。
【0059】
本明細書において「本体部」とは、体液固定器具を構成し、体液固定部を備える部材をいい、その上に体液固定部を留め置くことができる限り本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。本体部の材質は、体液などの目的物と相互作用しない任意のものであり得、好ましくは、耐熱性を有し、好ましくは、紙製であるが、例えば、プラスチック製(特に、生分解プラスチック製)であってもよい。例えば、蓋部の材質は、エンジニアリングプラスチック類(ポリアミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルサルフォンなど)、熱硬化性樹脂(フェノール樹脂、メラミン樹脂など)、金属類、および石灰石と石油系樹脂とを混ぜたLIMEX(TBM社製)を含み得る。
【0060】
本明細書において「熱源」とは、熱を提供することが可能な供給源をいい、体液などの目的物に熱を供給することができる限り本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。熱源が熱を供給する手段は、任意である。熱源は、例えば、化学変化などの化学的なファクタを利用して熱を生成して供給してもよいし、光や圧力などの物理的なファクタを利用して熱を生成して供給してもよい。
【0061】
本明細書において「補強部材」とは、他の構成要素の強度を高めるための部材をいい、強度を高めるべき他の構成要素より高い剛性を有し、他の構成要素の強度を高めることができる限り本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。補強部材の形状は、例えば、平板状であってもよいし、少なくとも一部が予め湾曲した形状であってもよいし、可撓性を有するようにフィルム状であってもよい。補強部材の材質は、耐熱性を有し、体液などの目的物と相互作用しない任意のものであり得、好ましくは、プラスチック製(特に、生分解プラスチック製)であるが、例えば、紙製であってもよいし、木製であってもよい。例えば、蓋部の材質は、エンジニアリングプラスチック類(ポリアミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルサルフォンなど)、熱硬化性樹脂(フェノール樹脂、メラミン樹脂など)、金属類、および石灰石と石油系樹脂とを混ぜたLIMEX(TBM社製)を含み得る。
【0062】
本明細書において「中間体」とは、本体部と蓋部との間に位置する部材をいい、熱源や補強部材などの他の構成要素を体液固定器具がさらに備えるための部材であり得、本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解される。中間体の形状は、例えば、平板状であってもよいし、少なくとも一部が予め湾曲した形状であってもよい。中間体の材質は、体液などの目的物と相互作用しない任意のものであり得、好ましくは、耐熱性を有し、好ましくは、紙製であるが、例えば、プラスチック製(特に、生分解プラスチック製)であってもよい。例えば、蓋部の材質は、エンジニアリングプラスチック類(ポリアミド、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリエーテルサルフォンなど)、熱硬化性樹脂(フェノール樹脂、メラミン樹脂など)、金属類、および石灰石と石油系樹脂とを混ぜたLIMEX(TBM社製)を含み得る。
【0063】
本明細書において「ウイルス失活条件提供部」とは、ウイルスを失活させるための条件を示すウイルス失活条件を提供する部材をいう。「ウイルス失活条件」は、本明細書の他の箇所において定義されており、例えば、微生物などの病原体やウイルスを熱、紫外線、薬剤などで死滅させる条件を含み、加熱処理やアルコール処理も含み、また、pHを変えることでウイルスを不安定化または不活化させる条件も含む。本明細書において「ウイルス失活」とは、唾液などの体液試料中に存在し得る微生物などの病原体やウイルスが、本明細書の別の箇所で説明される体液固定器具を核酸解析などの実験に供することができる程度にその感染力を消失されることを含み、「ウイルス失活条件」とは、微生物などの病原体やウイルスをそのような状態にさせることができるものであれば特に限られるものではない。例えば、「ウイルス失活条件」として、次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤(洗剤)、ホルマリン、グルタルアルデヒド、クレゾール、オキシドール、ヒビテン、ヨウ素系薬剤などを微生物などの病原体やウイルスに適用することもでき、この適用によりウイルス失活が生じるような濃度であればよい。
【0064】
以下、本開示の体液固定器具の特定の実施形態を、図を参照しながら説明する。図2は、体液を乾燥させるための体液固定器具の構成の一例を示す。図2aは、体液固定器具200の展開構成を示し、図2bは、体液固定器具200の折り畳み構成を示す。
【0065】
図2に示される実施形態では、体液固定器具200は、本体部210と蓋部220とを備える。本体部210は、体液を保持するための体液固定部211を備え、体液は、体液固定部211に固定されて体液固定部211の上方に空間を設けることによって、乾燥されることが可能である。体液固定部211は、体液を吸収することが可能なように構成されている。体液固定部211は、多孔質材料を含む。多孔質材料は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)スポンジ、ウレタンスポンジ、セルローススポンジ、天然スポンジを含むが、これらに限定されない。また、体液固定部211は、RNA分解を阻害するためのRNA分解酵素阻害剤を含む、または、RNA分解酵素阻害剤で処理されている(例えば、RNA分解酵素阻害剤でコーティングされている)。これにより、固定した体液中に含まれる病原体またはウイルスに関連するRNAを含む核酸の分解を阻害することができ、体液中に病原体またはウイルスに関連する核酸量が微量にしか存在しない場合であっても、十分な解析を行うことができる。RNA分解酵素阻害剤は、アジ化ナトリウムまたはジチオスレイトール(DTT)であるが、これらに限定されない。また、体液固定部211内に体液を含む体液固定器具200は、アルコール処理されてもよい。これにより、体液固定部211内の体液の乾燥を促進することが可能である。また、体液固定部211には、石灰石と石油系樹脂とを混ぜたLIMEX(TBM社製)が配置されてもよい。
【0066】
蓋部220は、体液固定部211を備える本体部210と係合するための第1の係合部221を備え、体液固定部211を備える本体部210は、蓋部220と係合するための第2の係合部212を備え、第2の係合部212は、第1の係合部221に対応する態様を有する。図2に示される実施形態では、第1の係合部221は、突出した形状を有し、第2の係合部212は、第1の係合部221の突出した形状に対応するスリットまたは陥凹部である。なお、第1の係合部221および第2の係合部212の態様は、蓋部220の第1の係合部221と体液固定部211を備える本体部210の第2の係合部212とが相互に係合する限りにおいて、任意であり得る。例えば、蓋部220の第1の係合部221は、(例えば、接着剤を用いて)体液固定部211を備える本体部210の第2の係合部212と接着可能なように構成されていてもよいし、(例えば、面ファスナーを用いて)体液固定部211を備える本体部210の第2の係合部212と着脱可能に結合されるようにしてもよい。
【0067】
体液固定器具200は、体液の乾燥を促進するための熱源(図示せず)をさらに備えていてもよい。熱源は、体液に熱を供給することによって、体液内に存在し得るウイルスを失活させ得る(すなわち、ウイルス失活条件提供部として機能し得る)。熱源は、例えば、体液を約60℃以上(例えば、約60~約70℃)に保つように体液に熱を供給する。熱源は、例えば、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含むが、これらに限定されない。熱源は、例えば、体液固定部211の下に配置されていてもよいし、本体部210上における、体液固定部211と反対側の面の上に配置されていてもよい。
【0068】
体液固定器具200は、図2bに示されるように、蓋部220を体液固定部211に対向するように配置することによって、体液固定部211における体液を乾燥させるための空間230を蓋部220が形成するように、折り畳まれることが可能である。このように、体液固定部211の上方に空間230を設けることによって、体液固定部211内の体液を乾燥(自然乾燥)することが可能である。
【0069】
図3は、体液を乾燥させるための体液固定器具の構成の他の一例を示す。図3aは、体液固定器具200’の展開構成を示し、図3bは、体液固定器具200’の折り畳み構成を示す。
【0070】
図3に示される実施形態では、体液固定器具200’は、図2に示される体液固定器具200の構成要素に加えて、本体部210と蓋部220との間に、体液固定器具200’の強度を高めるための中間体240をさらに備える。中間体240は、体液の乾燥を促進するための熱源241を備える。熱源241は、例えば、鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロを含むが、これに限定されない。中間体240は、体液固定器具200’をさらに補強するための補強部材242をさらに備えていてもよい。補強部材242は、例えば、プラスチックであるが、これに限定されない。
【0071】
体液固定器具200’は、図3bに示されるように、本体部210を中間体240の上に配置するように折り畳んだ後に蓋部220を体液固定部211に対向するように配置することによって、体液固定部211における体液を乾燥させるための空間230を蓋部220が形成するように、折り畳まれることが可能である。このように、体液固定部211の上方に空間230を設けることによって、体液固定部211内の体液を乾燥(自然乾燥)することが可能である。
【0072】
また、滅菌バッグが、体液固定器具200および/または体液固定器具200’と組み合わせて、キットとして提供されてもよい。この場合、キットは、本開示の体液固定器具と滅菌バッグとを備えるほか、これらの説明を含む指示書(添付文書)を含んでいてもよい。
【0073】
なお、図2および図3に示される実施形態では、体液の乾燥を促進してウイルスを失活させるためのものの一例として熱源を説明するが、本発明はこれに限定されない。体液の乾燥を促進してウイルスを失活させるためのものは、例えば、乾燥剤または通気性のある袋であってもよい。
【0074】
一実施形態において、体液の乾燥は、PVAスポンジなどの多孔質材料に含まれる唾液などの体液を混合した場合に、処理対象となる成分の濃度が薄まらない程度に乾燥できるものであれば、特に限られるものではない。例えば、乾燥する条件は、室温での自然乾燥としてもよいし、約60℃~65℃で約10分~約1時間の加熱乾燥とすることもできるが、これに限られるものではなく、混合する対象や量によって適宜設定することができる。
【0075】
また一実施形態において、体液を乾燥させる乾燥デバイスまたは乾燥材を用いることができ、この乾燥デバイスまたは乾燥材は、体液を乾燥させることができる限りどのような形状や構造であってもよく、体液の処理を阻害しない限りどのような材料であってもよい。また乾燥デバイスまたは乾燥材は別々に提供されてもよく、単一のデバイスまたは乾燥材として提供されてもよい。
【0076】
また本開示の一実施形態において、検体採取後の2次感染防止の手段として、上記のような乾燥に加えて、アルコールや次亜塩素酸ソーダのスプレーによって病原体やウイルスを不活性化させることもできる。また本開示の一実施形態において、このような病原体やウイルスの不活性化処理としては、体液固定器具または体液固定部をTween20やTritone X-100などの界面活性剤で処理することもできる。
【0077】
また本開示の一実施形態において、RNaseによるRNAの分解を防止するため、体液固定器具または体液固定部をアジ化ナトリウムやジチオスレイトール(DTT)などのRNA分解酵素阻害剤で処理することもできる。
【0078】
本開示の一実施形態において、乾燥させた体液固定器具の一定容積に該当する面積をパンチして、容積一定乾燥体液部分を作製し、その容積一定乾燥体液部分を、逆転写酵素およびポリメラーゼを含む反応液に直接添加することもできる。この場合、逆転写反応およびポリメラーゼによる重合反応は、約42℃~約60℃で約5分間の逆転写反応から始めることができ、または諸条件の逆転写反応を行う前に、約90℃で約30秒間のプレ変性反応から始めることもできる。このような逆転写や重合の条件は、用いる試薬に応じて適宜設定することができ、本開示の一実施形態においては、容積一定乾燥体液部分を、逆転写酵素およびポリメラーゼを含む反応液に直接添加するために、Tth DNAポリメラーゼなどのポリメラーゼ活性に加えて逆転写活性を備える酵素を用いるのが好ましい。
【0079】
本開示の一実施形態において、体液固定器具に保持される体液中の病原体数が約10~約10コピー/μLとすることができるが、分析する対象や分析の種類によって適宜設定可能である。また本開示の一実施形態において、体液固定器具に保持される体液は少なくとも約1μlとすることができ、この体液量についても、分析する対象や分析の種類、また体液に含まれる病原体数に応じて、適宜増減させることもできる。このような体液が体液固定器具に保持され、この体液固定器具の一定の容積がパンチされるように、容積一定乾燥体液部分が作成される。一実施形態においては、容積一定乾燥体液部分は例えば直径約3mm×厚さ約1mmの大きさであり、約20μl(含水実験から推定値)の体液を含むことができる。
【0080】
3.体液から検査可能な乾燥体を調製する方法(感染防止技術)
別の局面において、本開示は、生体由来の試料に感染対策を施して生体分析を行うための試料を調製する方法を提供する。この方法は、前記生体由来の試料を体液固定器具に配置する工程と、前記生体由来の試料を含む体液固定器具をウイルス失活条件に供して、前記試料中に存在し得るウイルスを失活させる工程と、前記体液固定器具に含まれる生体由来の試料を、生体分析を行うための試料に変換する工程とを含む。
【0081】
本開示の方法において使用される体液固定器具は、本明細書の他の個所に詳述される任意の形態を用いることができる。
【0082】
本明細書において「ウイルス失活条件」とは、ウイルスが死滅または不活化し、感染性を失うような条件であれば特に限られるものではなく、ウイルスの種類や量によって適宜設定することができる。例えば、微生物などの病原体やウイルスを熱、紫外線、薬剤などで死滅させる条件を含み、加熱処理やアルコール処理も含まれる。加熱処理の場合には、ウイルスの種類に応じて、約60℃~約65℃で約10分~約1時間加熱することができ、加熱温度が高くなれば不活化に必要な時間はさらに短くなる。アルコール処理の場合には、ウイルスの種類やアルコールの種類に応じて、例えば70%以上、80%以上、90%以上、99%のアルコールをスプレーすることができる。また「ウイルス失活条件」にはpHを変えることでウイルスを不安定化または不活化させる条件も含まれ、例えばpH6以下、またはpH3以下などとすることもできる。本明細書において「ウイルス失活」とは、唾液などの体液試料中に存在し得る微生物などの病原体やウイルスが、本明細書の別の箇所で説明される体液固定器具を核酸解析などの実験に供することができる程度にその感染力を消失されることを含み、「ウイルス失活条件」とは、微生物などの病原体やウイルスをそのような状態にさせることができるものであれば特に限られるものではない。例えば、「ウイルス失活条件」として、次亜塩素酸ナトリウム、界面活性剤(洗剤)、ホルマリン、グルタルアルデヒド、クレゾール、オキシドール、ヒビテン、ヨウ素系薬剤などを微生物などの病原体やウイルスに適用することもでき、この適用によりウイルス失活が生じるような濃度であればよい。
【0083】
本明細書において「生体分析を行うための試料」とは、特定の対象となる核酸を含むと想定される任意の試料をいい、例えば、鼻汁、鼻腔ぬぐい液、眼結膜ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、喀痰、糞便、血液、血清、血漿、髄液、唾液、尿、汗、乳、精液、口腔ぬぐい液、歯間ぬぐい液、湿性耳垢、膣腔ぬぐい液、および細胞組織などの生体試料または臨床試料の他、食品、ミクロソーム、食物、植物、動物などを挙げることができる。「試料」は、細胞、真菌、細菌およびウイルスからなる群より選択されるDNAおよび/またはRNAを包含する試料を含むことができる。
【0084】
以下、本開示の方法の特定の実施形態を、図を参照しながら説明する。図4は、体液から検査可能な乾燥体を調製する方法のフローの一例を示す。この方法は、体液に感染対策を施して生体分析を行うために、実施され得る。生体分析は、例えば、遺伝子増幅解析、または、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)解析、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification:ループ介在等温増幅)法、SDA(Strand Displacement Amplification:鎖置換増幅)法、RT-SDA(Reverse Transcription Strand Displacement Amplification:逆転写鎖置換増幅)法、RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法、RT-LAMP(Reverse Transcription Loop-Mediated Isothermal Amplification:逆転写ループ介在等温増幅)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification:核酸配列に基づいた増幅)法、TMA(Transcription Mediated Amplification:転写介在増幅)法、RCA(Rolling Cycle Amplification:ローリングサイクル増幅)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids:等温遺伝子増幅)法、UCAN法、LCR(Ligase Chain Reaction:リガーゼ連鎖反応)法、LDR(Ligase Detection Reaction:リガーゼ検出反応)法、SMAP(Smart Amplification Process)法、SMAP2(Smart Amplification Process Version 2)法、PCR-インベーダー(PCR-Invader)法、Multiplex PCR-Based Real-Time Invader Assay (mPCR-RETINA)、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)などを含むが、これに限定されない。好ましくは、いわゆるTaqman法が用いられる。バッファーは特に制限されないが、EzWay(商標)(KOMA Biotechnology)、Ampdirect(登録商標)((株)島津製作所製)、Phusion(登録商標)Blood Direct PCR kitバッファー(New ENGLAND Bio-Labs)、MasterAmp(登録商標)PCRキット(Epicentre社製)などのうち、増幅阻害の除去の効果を減弱しないものを用いることができる。またLAMP法も好ましく用いることができ、LAMP法は(1)遺伝子増幅反応が等温で進行する、(2)6領域を認識する4種類のプライマーを使用するため特異性が高い、(3)増幅効率が高く、短時間に増幅可能、(4)増幅産物量が多く、簡易検出に適しているといった点で好ましい。また対象のRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成し、得られたcDNAをLAMP法を用いて増幅するRT-LAMP法も同様に好ましく用いることができる。さらに、(1)標的配列を特異的に検出することができ、(2)等温核酸増幅により短時間で高感度に検出することができ、(3)検体RNAに加える試薬が少なく、(4)逆転写から検出まで1ステップで行うことができるSMAP法も好ましく用いることができる。以下、図4に示される各ステップを説明する。
【0085】
ステップS401:体液を乾燥させるための体液固定器具、および、体液を採取するための体液採取器具が提供される。体液固定器具は、例えば、図2に示される体液固定器具200または図3に示される体液固定器具200’である。体液採取器具は、例えば、図1に示される体液採取器具100である。
【0086】
ステップS402:体液採取器具の体液吸収体に体液が吸収させられる。これは、例えば、体液採取器具の体液吸収体を被験者の一部に接触させることによって達成される。例えば、体液が唾液である場合、体液吸収体が柔らかくなるまで体液吸収体を口内の粘膜に押し当てることによって、唾液が体液吸収体に吸収される。
【0087】
ステップS403:体液を吸収した体液吸収体が体液貯留容器内に収容される。
【0088】
ステップS404:体液貯留容器内において体液吸収体内の体液が漏出させられ、体液貯留容器の第2の開口部から体液採取器具(特に、体液採取器具の体液固定部)に向かって体液が滴下される。これにより、体液採取器具によって採取された体液は、体液固定器具の体液固定部に配置/保持される。体液吸収体内の体液の漏出は、例えば、体液貯留容器の第2の開口部周りの内壁に体液吸収体を押下することによって達成される。
【0089】
あるいは、ステップS404に代えて、ステップS404’において、体液を含む体液吸収体を体液固定器具の体液固定部に接触させることによって体液が体液固定器具の体液固定部に保持されるようにしてもよい。この場合、ステップS403は省略されてもよい。このとき、(例えば、約5秒間)蓋部と本体部とによって体液吸収体を挟み、体液が体液固定部に浸透することを促進するようにしてもよい。
【0090】
ステップS405:体液固定部の上方に空間を形成するように蓋部を配置する。これにより、体液内のウイルスを失活させるための環境を整えることが可能である。体液固定部の上方の空間の形成は、例えば、図2および図3を参照して説明されたように、蓋部の第1の係合部を本体部の第2の係合部に係合させることによって達成される。
【0091】
ステップS406:体液を含む体液固定器具をウイルス失活条件に供することによって、体液内のウイルスを失活させる処理が実行される。ウイルス失活条件は、例えば、乾燥条件、および/または、一定温度以上かつ一定時間以上の条件、および/または、アルコールを含む。一定温度は、例えば、約60~約65℃である。一定時間は、例えば、約10分間~約1時間である。乾燥は、自然乾燥であってもよいし、液体固定器具が備える熱源からの熱を用いて行われてもよいし、乾燥剤を用いて行われてもよいし、通気性のある袋を用いて行われてもよいし、アルコールを用いて行われてもよいし、乾燥機からの送風を用いて行われてもよい。
【0092】
また、ステップS406の間に、体液固定器具は実験室に輸送され得る。体液固定器具が輸送されるとき、体液固定器具を滅菌バッグで覆うようにしてもよい。
【0093】
ステップS407:生体分析を行うために、ウイルス失活処理された体液を含む体液固定器具の一定容積に該当する面積を切り取る。これは、例えば、ウイルス失活処理された体液を含む体液固定器具(特に、体液固定部)をパンチ加工することを含む。これにより、体液を定量することなく、切り取られた体液固定器具または体液固定部をそのまま核酸解析などの生体分析に供することができる。
【0094】
ステップS408:生体分析を行う。たとえば、生体分析として核酸増幅反応を行う場合、SARS-CoV-2 RT-qPCR Detection Kit PCR Master Mix(Nセット2)(富士フィルム和光純薬)を用いることができる。このキットで使用する酵素はTth DNA Polymeraseであり、この酵素は高度好熱菌Thermus thermophilus HB8由来の耐熱性DNA Polymeraseである。この酵素は逆転写活性を持ち、その活性はMn2+存在下にて強く促進される。この性質を利用して、逆転写反応とPCRとを同じ酵素で行う(1-step RT-PCR)ことができる。このキットを用いた場合の試薬組成および反応条件は以下の表3および表4のとおりである。
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
最初の90℃30秒(必要に応じて1分)のホットスタートがPVAスポンジなどの多孔質材料からRNAなどの核酸を溶出させる重要なキーポイントとなる。これにより、切り取られた体液固定器具または体液固定部から、核酸を溶出することなく、ダイレクトに生体分析に移行することが可能である。
【0098】
他の一実施形態において、生体分析は、例えば、SARS-CoV-2 Detection Kit PCR Master Mix(N2set)(東洋紡)を用いることができる。このキットでは、逆転写酵素とDNAポリメラーゼの計2種類の酵素を用いており、生体分析を2酵素系でおこなう。すなわち、ここで用いる逆転写酵素は耐熱性でないため、最初の逆転写反応は40℃付近で行い、95℃でDNAポリメラーゼ反応をホットスタートさせる。そのため、切り取られた体液固定器具または体液固定部からRNAなどの核酸を溶出させる工程が必要となる。このキットを用いた場合の試薬組成および反応条件は以下の表5および表6のとおりである。
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
ステップS401~S406は、被験者によって実行され、ステップS407~S408は、医療スタッフによって実行されることが可能である。
【0102】
なお、図4に示される実施形態では、体液から乾燥体を調製する方法の例を説明したが、本発明はこれに限定されない。生体由来の任意の試料(例えば、核酸)に上記の方法を適用することが可能である。
【0103】
このように、図4に示される方法でサンプリングすることによって、特に唾液をサンプリングする場合に、以下の利点が存在する。
・高精度:唾液は、検出感度および特異性が高く、定量的に採取可能であり、唾液1mL中のウイルス量を定量的に評価することが可能であるため、例えば鼻腔ぬぐい液より高精度の件さを行うことが可能である。
・迅速:パンチされた試料をそのまま検査に移行することが可能であるため、従来の検査法より8倍のスピードで検査を行うことが可能である。
・簡便:従来の検査法における鼻腔ぬぐい液の採取は、医療スタッフによって行われる必要があるのに対して、唾液の採取は被験者自身によって行われることが可能であるため、従来の検査法より簡便に検査を行うことが可能である。
・安価:試料の採取~実験室への郵送までの作業を被験者自身が行うことが可能であり、かつ、DNAの抽出・精製が不要であり、かつ、輸送時の冷蔵保存も不要であるため、従来の検査法よりコスト(例えば、消耗材料費、人件費)の削減を図ることが可能である。
・安全:従来の検査法では、試料採取容器の梱包~輸送~保存~試料溶液の分注作業のそれぞれにおいて2次感染のリスクが存在する。対照的に、被験者自身が試料採取を行い、室温輸送することが可能であり、輸送中にウイルスを失活させるため、従来の検査法より2次感染のリスクが低い。
【0104】
本開示の一実施形態においては、体液として唾液を用いることができ、唾液を用いる場合には、自己で採取が可能という利点も挙げられる。感染性の病原体やウイルスなどを検出する場合には、従来の検査方法では検体採取の医療スタッフが被験者に接する必要があり、医療スタッフが当該病原体やウイルスに感染するおそれがある。一方で、PVAスポンジを利用して唾液をサンプリングする場合には、医療行為に当たらず、自己で唾液のサンプリングが可能なため、医療スタッフは安全に保存された検体を受け取るだけでいいため、医療スタッフの感染の可能性が低下する。鼻腔ぬぐい液の採取は医療行為にあたるものの、唾液の採取は医療行為外(薬剤師を含む誰でも取扱いが可能)であり、その利便性は高い。
【0105】
また試料を採取し、保存容器に梱包し、輸送し、保存し、試料溶液の分注作業を行うという各段階において2次感染の問題があるところ、医師以外がサンプリング可能とすることで、かかる問題は解決可能となる。2次感染防止の観点から、PVAスポンジを界面活性剤(Tween20,Tritone X-100)などで処理することも可能である。さらに、PVAスポンジを利用して唾液をサンプリングする場合には、サンプリング後、輸送中に自然乾燥させることができるという利点も存在する。従来の液体を輸送する手法では冷蔵保存する必要があり、その手間や設備が省ける。またアルコールや次亜塩素酸ソーダなどを噴霧することもでき、通常、約60℃以上での約10分~約1時間の加熱乾燥も可能であり、加熱温度は例えば、約60℃~約90℃、約60℃~約85℃、約60℃~約80℃、または約60℃~約75℃であってもよく、約60℃~約70℃や約60℃~約65℃であってもよい。加熱時間は約15分、約20分、約30分、約40分、約50分等であってもよい。例えば、約65℃で約1時間、約70℃で約15分でもウイルス感染を防止できたことが本開示において示されている。
【0106】
また新生児スクリーニング用の自動パンチ機を使用することにより、作業効率が向上し、検査反応液に直接PVAスポンジ片を投入してRT-PCR等の反応を行うダイレクトPCRが可能となる。また単にPVAスポンジに唾液を滴下し、そのスポンジ片を用いるだけであるため、DNA抽出・精製のコストを削減することもできる。また一定容積をパンチすることができるため、唾液や血液中のRNA/DNA(コピー数)を絶対定量することもできる。
【0107】
(核酸同定法)
本開示において、本開示の体液採取器具またはそれを用いる体液採取技術、体液固定器具またはそれを用いる体液固定技術、ウイルス感染防止技術、それらの2つ以上の組み合わせは、被験者の有する特定の核酸配列を同定する方法において用いることができる。本開示が提供する被験者の有する特定の核酸配列を同定する方法は、A)前記被験者から体液を採取するステップと、B)前記体液を体液固定器具に配置し乾燥させるステップと、C)前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して、容積一定乾燥体液部分を作製するステップと、D)前記容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬(例えば、必要に応じて逆転写酵素、ポリメラーゼ(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ等)、鎖置換型DNA合成酵素など)に接触させ、核酸増幅が生じる条件(例えば、逆転写および/または重合もしくはDNA合成が生じる条件)に供するステップと、E)ステップD)で増幅された核酸を解析するステップとを含む、方法が提供される。
【0108】
本開示において、A)前記被験者から体液を採取するステップは、被験者から体液を取得できる手法であれば、どのような手法を用いてもよい。例えば、体液採取器具などを用いて体液を取得してもよく、体液採取器具としては、体液を採取するため器具であればよい。体液採取器具は、対象の体液を採取し得る限り、本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解され、一体化された器具として提供されてもよく、別々の部品として提供され、その後に組み立てる(アセンブルする)形態で提供されてもよい。体液採取器具は、例えば、図1を参照して説明された体液採取器具100であり得る。本明細書において開示されているウイルス感染防止技術を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0109】
本開示において、B)前記体液を体液固定器具に配置し乾燥させるステップは、体液を配置することができ、その体液を乾燥させることができる形状や構造をしている限り、どのような体液固定器具を用いてもよく、そのような体液固定器具への体液の配置は、体液採取器具などを用いてもよく、直接体液固定器具に生体から配置してもよい。乾燥もまた、どのような手法を用いてもよく、風乾を含む自然乾燥や、高温での加熱乾燥などを用いてもよい。体液固定器具としては、体液を固定するため器具であればよく、対象の体液を固定し、その状態で乾燥することができる限り、本明細書の説明に従って、任意の形態、材料、それらの組み合わせを採用し得ることが理解され、一体化された器具として提供されてもよく、別々の部品として提供され、その後に組み立てる(アセンブルする)形態で提供されてもよい。あるいは、一体化された器具として提供される場合、さらに包装物(袋など)で包装された形で提供されてもよい。体液固定器具の材質は、体液などの目的物と相互作用しない任意のものであり得、好ましくは、耐熱性を有し、好ましくは、紙製であるが、例えば、プラスチック製であってもよい。体液固定器具の形状は、体液を乾燥させるための空間を形成することができる限りにおいて任意であり、好ましくは、固定された体液を乾燥させる場所を保護することが可能な形状を有し得る。体液固定器具は、例えば、一部分を折り返して蓋を形成することが可能な形状を有していてもよいし、通気性のある箱型であってもよい。体液固定器具は、例えば、図2を参照して説明された体液固定器具200、または、図3を参照して説明された体液固定器具200’であり得る。本明細書において開示されているウイルス感染防止技術を適宜組み合わせて用いてもよい。例えば、体液固定器具に鉄の酸化反応を利用したカイロ、または、オイルの触媒燃焼を利用したカイロ等の熱源を配置し、必要に応じて例えば、65℃以上で、例えば、30分以上その温度が維持されるように構成されていてもよい。
【0110】
本開示において、等のC)前記体液固定器具の一定容積に該当する面積を切除して、容積一定乾燥体液部分を作製するステップもまた、体液を含む部分の一定容積を取得し得る手法である限り、どのような手法を用いてもよい。PVAスポンジなどのシートを用いる場合、シート厚が一定であること、およびシートに含ませられる液体の量が一定であることから、一定の面積を切除することで、一定容積の試料を取得することができる。例えば、一定容積を取得し得る手段としては、パンチなどの一定容積切除器具を用いることができ、一定容積切除器具としては、生検トレパンを挙げることができる。生検トレパンを用いる場合には、機器の先端に備えられた刃先付きパイプを体液固定器具に押し付け、パイプに詰まった組織を取り出して容積一定乾燥体液部分を作製することができる。生検トレパンを用いる場合には、必要な体液量に応じて、体液固定器具の厚みや、刃先のパンチ径を1.0mm、1.5mm、2.0mm、3.0mm、4.0mmなどとすることができる。また一定容積切除器具として、自動パンチ装置を使用することもできる。
【0111】
本開示において、D)前記容積一定乾燥体液部分を、核酸増幅反応試薬(例えば、必要に応じて逆転写酵素、ポリメラーゼ(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ等)、鎖置換型DNA合成酵素など)に接触させ、核酸増幅が生じる条件(例えば、逆転写および/または重合もしくはDNA合成が生じる条件)に供するステップもまた、体液に含まれると予想される核酸(RNA、DNAなど)が核酸増幅反応試薬(例えば、必要に応じて逆転写酵素、ポリメラーゼ(DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ等)、鎖置換型DNA合成酵素など)に接触される条件であれば、どのような手法を用いてもよく、逆転写酵素およびポリメラーゼまたは鎖置換型DNA合成酵素等の2種類以上の酵素を用いる場合、同時に2つの酵素あるいは2つの酵素活性を有する単一の酵素に接触されてもよく、別々の2つの酵素に接触されてもよい。別々の場合、RNAを増幅する場合は逆転写酵素に最初に接触されることが好ましい。容積一定乾燥体液部分の逆転写酵素およびポリメラーゼへの接触は、逆転写酵素およびポリメラーゼまたは鎖置換型DNA合成酵素を含む溶液に容積一定乾燥体液部分を加えることや、容積一定乾燥体液部分を緩衝液などに入れ逆転写酵素およびポリメラーゼまたは鎖置換型DNA合成酵素を加えてもよい。
【0112】
本開示において、E)ステップD)で増幅された核酸を解析するステップもまた、どのような解析手法を用いてもよい。増幅した核酸を次世代シーケンサ(NGS)等の配列決定装置で個々の配列を決定することで解析してもよく、制限酵素などでの酵素処理による断片の解析であってもよい。あるいは、プローブなどを用いて特定の配列が存在するかどうかを検査してもよく、リアルタイムPCRであれば、増幅曲線を分析することで核酸解析を行うこともできる。核酸解析としては、例えば核酸増幅反応や逆転写反応を含む遺伝子解析を挙げることができる。これらを含め、核酸解析の例としては、配列決定、遺伝子型判定・多型分析(SNP分析、コピー数多型、制限酵素断片長多型、リピート数多型)、発現解析、蛍光消光プローブ(Quenching Probe:Q-Probe)、SYBR green法、融解曲線分析、リアルタイムPCR、定量RT-PCR、デジタルPCRなどを挙げることができる。核酸解析の1つの例は、TaqManプローブ法による遺伝子型の判定である。
【0113】
(他の実施の形態)
本開示の1つまたは複数の態様に係る遮蔽部材やそれを用いる方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の1つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0114】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0115】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0116】
(実施例1:病原菌またはウイルスの検出プロトコル)
本実施例では、病原菌またはウイルスの検出プロトコルを説明する。図5Aに生体試料として唾液を固定した後に自然乾燥させた場合の検出プロトコルを表す模式図を、図5Bに生体試料として唾液を固定した後に65℃で1時間加熱乾燥させた場合の検出プロトコルを表す模式図を、それぞれ示した。
【0117】
まず図5Aでは、唾液を被験者本人がPVAスポンジを用いて採取する。その後、採取した唾液の一定量を、PVAスポンジを備えるキャプチャーに滴下し、保持させる。この唾液の採取から保持までは10分以内で完了する。唾液を保持したキャプチャーの蓋を閉じ、検査機関に輸送するとともに自然乾燥させる。次に、検査機関に届いたキャプチャーのPVAスポンジ部分の一定の容積が切り取られるように、直径3mmでパンチする。その後、パンチした一定の容積のPVAスポンジを、リアルタイムPCRの試薬を有する容器に直接投入する。このパンチ作業と試薬調整には30分で48検体が準備可能である。そして、1時間で解析可能なPCR装置であれば、試薬の調整から遺伝子解析まで2時間で96検体が検査可能となる。そのため、1日で384検体程度の検査が可能となる。
【0118】
次に図5Bでは、唾液を採取しキャプチャーに保持させた後、必要に応じてアルコールスプレーを施し、65℃で1時間加熱乾燥後に輸送、または輸送後に65℃で1時間加熱乾燥させる。その後、図5Aと同様にPVAスポンジ部分の一定の容積が切り取られるようにパンチし、PCR解析を行う。これにより、1日で480検体程度の検査が可能となる。
【0119】
(実施例2:PVAスポンジによる病原菌またはウイルスの検出プロトコル)
本実施例では、唾液を保持するPVAスポンジを用いて、PCR試薬に直接投入して反応を行う場合のPCR条件などを説明する。図6Aに逆転写反応と重合反応を一度に行う場合の検出プロトコルを表す模式図を、図6Bに最初に逆転写反応を行い、その後重合反応を行う場合の検出プロトコルを表す模式図を、それぞれ示した。
【0120】
逆転写反応と重合反応を一度に行う場合には、唾液を保持するPVAスポンジをリアルタイムPCRの試薬を有する容器に直接投入し、以下の条件でPCR解析を行う(図6A)。
【0121】
【表7】
【0122】
【表8】
【0123】
最初に逆転写反応を行い、その後重合反応を行う場合では、唾液を保持するPVAスポンジをリアルタイムPCRの試薬を有する容器に直接投入し、以下の条件でPCR解析を行う(図6B)。
【0124】
【表9】
【0125】
【表10】
【0126】
(実施例3:PVAスポンジを用いたゲノムDNAの定量)
以下の実験により、唾液中のゲノムDNAを定量した。実験の概要を示す模式図を図7に示す。
【0127】
蒸留水または血清にゲノムDNAを添加して、10、10、10、10/mLの溶液を調整し、各溶液約200mLを、直径2mm厚み2mmのPVAスポンジF(D)を含む体液固定器具に滴下後、65℃で1時間乾燥させた。この試料を用いて、生検トレパン(2mm)でPVAスポンジF(D)をパンチした小片をPCR溶液に直接滴下し、リアルタイムPCRを実施した。
【0128】
直径2mm厚み2mmのPVAスポンジF(D)を用いる場合には、そのPVAスポンジの含水量は、パンチ体積×PVAスポンジF(D)の気孔率0.9であるため、(1.0×3.14×2)×0.9=5.66mLと算出される。
【0129】
PCR溶液の組成は以下の表11のとおりとした。
【0130】
【表11】
またPCR増幅条件は以下の表12のとおりとした。
【0131】
【表12】
【0132】
結果
蒸留水溶液を用いた場合の増幅の結果を図8に、血清溶液を用いた場合の増幅の結果を図9にそれぞれ示した。PVAスポンジを用いた場合には、蒸留水または血清中に添加したゲノムDNAは、いずれのCt値も同等の数値を示した。すなわち、PVAスポンジを用いた場合には、蒸留水溶液または血清溶液であっても、ゲノムDNA中のRNase P遺伝子の増幅が可能であることが示された。
【0133】
また蒸留水溶液を用いた場合の標準曲線を図10に示した。10、10、10、10/mLの段階的な希釈物の各濃度の対数(x軸)をその濃度におけるCt値(y軸)に対してプロットした。傾きが-3.52であることから、良好な反応効率であることがわかる。
【0134】
(実施例3:LAMP法の応用例)
本実施例では、RT-LAMP法を用いて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を検出するプロトコルの例を説明する。図11にRT-LAMP法による新型コロナウイルス検査サンプリングプロセスを説明する模式図を示した。
【0135】
サンプル処理
唾液をトラストキャッチャーで採取後、ブロックヒーターで95℃で5分間、加熱処理したサンプルをDnaCapture(PVAスポンジ、E(D)、厚さ1mm)に滴下して、65℃に設定された乾熱器内で1時間乾燥する。熱処理後の新型コロナウイルスの構造変化を示す模式図を図12に示した。
【0136】
Loopamp 2019-nCoV検出試薬キット(栄研化学)を用いて以下のように試験溶液を調整する。
1)試薬及びサンプル溶液の混合
(1)ピペットを用いて、15μLのプライマーミックス 2019-nCoV(PM nCV19)を反応チューブに分注する。
(2)ピペットを用いて、蒸留水(DW)を10μL添加して全量を25μLとした後、PVAスポンジ(E(D)、厚さ1mm)に滴下乾燥した唾液サンプル小片(2mmΦ)を直接添加して、反応チューブの蓋を閉める。
(3)コントロール反応用に、サンプル溶液の代わりに陰性コントロール(NC)10μLを添加して蓋を閉め、陰性コントロールとする。
(4)陽性コントロール 2019-nCoV(PC nCV19)10μLを添加して蓋を閉め、陽性コントロールとする。
(5)スピンダウンし、反応チューブのライン(2本あるうちの下のライン)を目安に、すべての溶液が添加されていることを確認する。
(6)反応チューブを転倒して溶液を蓋に移し、転倒した状態のまま2分間放置する。
(7)反応チューブを5回転倒混和する。この際、蓋の増幅試薬が十分溶解されたことを確認すること。
(8)8連マイクロチューブ用簡易遠心機でスピンダウンする。
【0137】
以上のようにして調整した溶液を用いて、増幅反応を行う。全数検査を行う場合の一連の流れを図13に、プール法を用いて一括処理する場合の流れを図14に示した。
2)増幅反応
A.リアルタイム濁度検出を行う場合(標準法)
(1)リアルタイム濁度測定装置のプログラムを本製品用にあわせて設定する。
(2)表示温度が62.5℃に達していることを確認する(リアルタイム濁度測定装置は20分間ウォームアップしてから使用すること)。
(3)反応チューブをセットし測定を開始する。
(4)装置の表示画面上で陽性コントロールと陰性コントロールの濁度の上昇の有無を確認する。陽性コントロールで濁度が上昇し、陰性コントロールで濁度が上昇していなければ、増幅反応は正常に進行している。
(5)酵素失活処理(80℃、5分間)が終了していることを確認した後、装置から反応チューブを取り出し、そのまま蓋を開けずに廃棄する。
【0138】
B.蛍光目視検出を行う場合
(1)インキュベーターを62.5℃に設定し、表示温度が設定温度に達していることを確認する。
(2)反応チューブをセットし、増幅反応(62.5℃,35分間)を行う。
(3)35分後にヒートブロックを用いて酵素失活処理(80℃,5分間、または95℃,2分間)を行い、反応を停止する。
【0139】
(実施例4:DnaCapture(体液固定器具)の加熱乾燥によるウイルスの不活化)
本実施例では、DnaCapture(体液固定器具)を加熱乾燥させた場合に、実際にウイルスが死滅し、感染力がなくなっていることを示す例を説明する。
【0140】
図15にウイルスの死滅を確認する実験プロトコルの例を説明する模式図を示す。まずウイルスを感染させて培養した株を1000倍まで唾液で段階希釈したサンプルを用意する。各サンプルをDnaCapture(体液固定器具)に約100μL添加し、65℃で1時間乾燥する。乾燥後、各サンプル4mm径の生研トレパンでパンチし、その小片を細胞培養液に添加後、数日間培養する。ウイルスの失活は、ウイルス定量法TCID50で評価する。細胞が増殖すればウイルスが失活したと評価する。
また70℃で15分間加熱させた不活化実験を実施したところ、ウイルスは完全に失活し、RNAも一例においては70%以上保存され良好な結果となった。また90%以上保存されていた例もあった。
【0141】
TCID50(Median tissue culture infectious dose,50%)では、培養細胞にウイルスを感染させて、そのウイルス量を定量する(図16)。一定量のウイルスを含むウイルス液に感染した細胞は、細胞変性を起こす。このウイルス液を希釈し、ある一定以上薄くなると、接種しても細胞変性は起こらなくなる。そこで、細胞を試験管のようなもので何本も培養しておき、ウイルス液を順番に希釈して接種し、ちょうど半分の試験管の細胞が感染する濃度を指してTCID50と呼ぶ。確認はグラム染色試薬リスタルバイオレット溶液で染色して行うことができる。
【0142】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、体液サンプリングのための器具およびその使用方法等を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0144】
100 体液採取器具
110 支持棒
111 体液吸収体
112 栓
120 体液貯留容器
121 第1の開口部
122 第2の開口部
123 内壁
200 体液固定器具
210 本体部
211 体液固定部
212 第2の係合部
220 蓋部
221 第1の係合部
230 空間
240 中間体
241 熱源
242 補強部材
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16