(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017972
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】亜鉛メッキ鋼管のTIG溶接ヘッド及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/167 20060101AFI20220119BHJP
B23K 37/02 20060101ALI20220119BHJP
B23K 35/362 20060101ALI20220119BHJP
【FI】
B23K9/167 Z
B23K37/02 301A
B23K35/362 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120861
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】520261194
【氏名又は名称】野沢 松男
(71)【出願人】
【識別番号】520261208
【氏名又は名称】今泉 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100096758
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100114845
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 雅和
(74)【代理人】
【識別番号】100148781
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友和
(72)【発明者】
【氏名】今泉 啓
(72)【発明者】
【氏名】野沢 松男
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 淳一
(72)【発明者】
【氏名】森田 銘徳
【テーマコード(参考)】
4E001
4E084
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001CA01
4E001CC02
4E001DA06
4E001DC01
4E001DC05
4E001DF03
4E001DG02
4E084AA01
4E084AA02
4E084AA03
4E084AA05
4E084AA15
4E084CA19
4E084DA12
4E084GA13
(57)【要約】
【課題】熟練工の手溶接を必要とせず、亜鉛メッキ鋼管の自動TIG溶接を可能にすること。
【解決手段】亜鉛メッキされた鋼管用のTIG溶接ヘッド1であって、鋼管周囲に沿って溶接トーチ2を移動させるための駆動機構と、前記駆動機構に連結される、前記溶接トーチを保持するアーム15と、前記溶接トーチ2と鋼管との距離を一定長に保持する倣い部と、ワイヤ供給部25を備え、前記倣い部は、鋼管溶接部において接触移動するロッド3と、当該ロッドを保持するロッド保持部16からなり、前記ロッド3は、先端19が溶接トーチの近前方で亜鉛メッキ鋼管に接するよう保持されており、ワイヤ4は、ワイヤ供給部25から、溶接トーチ2が移動する溶接線の後方側から溶接部に供給されていることからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛メッキされた鋼管用のTIG溶接ヘッドであって、
鋼管周囲に沿って溶接トーチを移動させるための駆動機構と、
前記駆動機構に連結される、前記溶接トーチを保持するアーム部と、
前記溶接トーチと鋼管との距離を一定長に保持する倣い部と、ワイヤ供給部を備え、
前記倣い部は、鋼管溶接部において接触移動するロッドと、当該ロッドを保持するロッド保持部からなり、
前記ロッドは、先端が溶接トーチの近前方で亜鉛メッキ鋼管に接するよう保持されており、
ワイヤは、ワイヤ供給部から、溶接トーチが移動する溶接線の後方側から溶接部に供給されていることを特徴とする、亜鉛メッキされた鋼管用のTIG溶接ヘッド。
【請求項2】
前記ロッド保持部が、溶接トーチに対して前方に位置し、
前記ロッドは、タングステン製であり、先端が球体状であり、溶接トーチ軸に対して斜角で保持されていることを特徴とする請求項1に記載のTIG溶接ヘッド。
【請求項3】
ワイヤ供給部が、溶接トーチに対して、溶接トーチに対して後方に位置し、
ワイヤの溶接位置に対する進入角度が45度以上で保持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のTIG溶接ヘッド。
【請求項4】
一端がアーム部の倣い部側に接続され、他端は駆動部に接続される押圧部材を備え、当該押圧部材が倣い部を鋼管に押圧することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のTIG溶接ヘッド。
【請求項5】
請求項1から4に記載のTIG溶接ヘッドを搭載したTIG溶接機。
【請求項6】
亜鉛メッキされた鋼管の溶接方法であって、
一対の鋼管の溶接端部を、幅3~10mmで亜鉛皮膜を除去し、
開先確度をゼロとし、突き合わせギャップをなくし、
溶接線表面に活性フラックスを塗布する工程、
請求項5に記載のTIG溶接機により、TIG溶接を行う工程、からなることを特徴とする方法。
【請求項7】
前記ロッドの先端が、亜鉛皮膜除去された部分で、かつ溶接トーチ進行方向前方20mm以内で溶接線上に接していることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
活性フラックスが、二酸化ケイ素(SiO2)と、メタケイ酸鉄(Fe2SiO4)、オルトチタン酸鉄(Fe2TiO4)、メタチタン酸鉄(FeTiO3)、ディチタン酸鉄(FeTi2O5)を含んで構成されることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
ワイヤの進入角度が、45度以上であることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛メッキ鋼管のTIG溶接ヘッド及び溶接方法に関する。より詳細には、亜鉛メッキ鋼管について、自動溶接を可能にするTIG溶接ヘッド、TIG溶接機、及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビル建築、工場建物などの設備配管や水管には、多量の水配管用亜鉛メッキ鋼管(JIS G 3442(SGPW))が用いられている。これら配管の構成のためには、その性質上高品質の溶接が必要となる。これら配管の溶接方法としては、本来はスパッタの発生がなく効率的であるTIG溶接が望ましいと考えられるが、もしTIG溶接を行おうとすると、表面にある亜鉛皮膜が金属蒸気化してタングステン電極表面に付着するために、溶接することができない。しかし、事前に亜鉛皮膜を除去したとしても、材質に問題があり十分な溶接品質を得ることができず、TIG溶接をすることができない。したがって、現状は非効率ではあるが熟練した溶接工による手溶接が行われている。
【0003】
具体的には、被覆アーク溶接棒を用いて、全姿勢を要し、開先に対して何パスも繰り返して溶接を繰り返さなければならず、溶接にかかる時間もコストも極めて膨大になる。さらに、亜鉛鋼管のこのような溶接には相当の熟練度が必要であり、WESを持つ溶接士が必要となるが、近年の産業構造の変化や人口減少により、十分に熟練した有資格の溶接工の確保は困難を極めており、生産性が低下と高コスト化が進行する悪循環が生まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、熟練工の手溶接を必要とせず、亜鉛メッキ鋼管の自動TIG溶接を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、亜鉛メッキされた鋼管用のTIG溶接ヘッドであって、鋼管周囲に沿って溶接トーチを移動させるための駆動機構と、前記駆動機構に連結される、前記溶接トーチを保持するアーム部と、前記溶接トーチと鋼管との距離を一定長に保持する倣い部と、ワイヤ供給部を備え、前記倣い部は、鋼管溶接部において接触移動するロッドと、当該ロッドを保持するロッド保持部からなり、前記ロッドは、先端が溶接トーチの近前方で亜鉛メッキ鋼管に接するよう保持されており、ワイヤは、ワイヤ供給部から、溶接トーチが移動する溶接線の後方側から溶接部に供給されていることからなる。
【0006】
また、前記ロッド保持部が、溶接トーチに対して前方に位置し、前記ロッドは、タングステン製であり、先端が球体状であり、溶接トーチ軸に対して斜角で保持されていることが好適である。
また、ワイヤ供給部が、溶接トーチに対して、溶接トーチに対して後方に位置し、ワイヤの溶接位置に対する進入角度が45度以上で保持されていることが好適である。
また、一端がアーム部の倣い部側に接続され、他端は駆動部に接続される押圧部材を備え、当該押圧部材が倣い部を鋼管に押圧することが好適である。
【0007】
さらに、本発明は、亜鉛メッキされた鋼管の溶接方法であって、一対の鋼管の溶接端部を、幅3~10mmで亜鉛皮膜を除去し、開先確度をゼロとし、突き合わせギャップをなくし、溶接線表面に活性フラックスを塗布する工程、上記のTIG溶接ヘッドを備えたTIG溶接機により、TIG溶接を行う工程、からなることからなる。
【0008】
また、前記ロッドの先端が、亜鉛皮膜除去された部分で、かつ溶接トーチ進行方向前方20mm以内で溶接線上に接していることが好適である。
また、活性フラックスが、二酸化ケイ素(SiO2)と、メタケイ酸鉄(Fe2SiO4)、オルトチタン酸鉄(Fe2TiO4)、メタチタン酸鉄(FeTiO3)、ディチタン酸鉄(FeTi2O5)を含んで構成されることことが好適である。
また、ワイヤの進入確度が、45度以上であることが好適である。
【0009】
上述の通り、現状では、亜鉛メッキが存在することによりTIG溶接を適用することはできない。そこで、亜鉛メッキを切削して除去した後であれば可能かということになるが、本発明者が鋼管の材質を調べた結果、JIS規格における亜鉛メッキ鋼管の特殊性等により、SiやMn等の合金成分を殆ど含まず、良好な品質でないものが多く存在することが判明した。さらに、亜鉛メッキの厚さも均一でなく、JIS規格に許容範囲が存在することから真円性に欠けるものが多いことも判明した。これら条件により、材質、倣い特性、溶融性など溶接に十分な条件および環境を与えることができず、公知の機構では様々な溶接不良や欠陥が生じるために、TIG溶接は採用することができない。そこで、研究の結果、上記の構成及び工程として採用することにより初めて、自動TIG溶接を可能にしたものである。
【0010】
本発明のTIG溶接ヘッドは、鋼管周囲に沿って溶接トーチを移動させるための駆動部を備える。当該駆動部は、典型的かつ好適には、鋼管の周囲に沿って回転しながら駆動する回転駆動ローラと、当該ローラを回転させる駆動モータと、当該回転駆動ローラと協働して鋼管を保持する、溶接トーチを挟むようにもうけられる一対の補助ローラと、溶接トーチを保持するアーム部と連結させるための連結バーを備える。当該連結バーは、ローラを両側から挟むように一対に設けられ、鋼管を径方向に挟む距離を調整する調整軸を少なくとも1つ備えることで、一対の補助ローラと回転駆動ローラによる3箇所で鋼管をクランプして保持しつつ、溶接トーチを鋼管周囲の溶接線に沿って回転移動させることができる。ただし、駆動部の構成は本発明の目的を達成する限り、当該構成に限定されない。
【0011】
溶接トーチを保持するアーム部は、連結バーにより保持され、鋼管軸と平行に設置される。その一端側では連結バーより延出して溶接トーチ、倣い部、ワイヤ供給部を保持する。好適には、当該アーム部は、好ましくは内部にガス管および水冷管等を備えたアルミ製であり、溶接トーチに水およびガスを提供しつつ、自身を冷却する。また、他端側にて、溶接位置を鋼管の軸方向に調節するためのネジ機構による調節機構を備える。なお、溶接トーチに設けられるノズル、タングステン電極等は公知の機構と同様である。また、他の配線やガス管、電源、制御装置など、他に必要とされる各種機構も、公知のTIG溶接ヘッドと同様の構成を採用できる。
【0012】
倣い部は、鋼管に接触させるタングステンのロッドと、当該ロッドを保持するロッド保持部からなる。好適には、ロッド保持部は、ハウジングと、ハウジング内においてネジ機構やピン等の固定機構により、鋼管への上下距離を調節可能にしつつ、その端部でロッドを保持する、溶接トーチ軸と平行に配置される棒状のロッド保持部材が備えられる。ロッド保持部材には、ロッドを保持するための空洞部およびネジ等の固定機構が設けられ、当該空洞部にロッドが挿入されて固定される。空洞は、ロッド先端がより溶接部に近接できるように、ロッド保持部材および溶接トーチの軸に対して斜角に設けられている。
【0013】
ロッドはタングステン製であり、溶接トーチのタングステン電極が移動する略溶接線上の亜鉛皮膜剥離域で、溶接位置の近前方で鋼管部分へ接触させるべく、略溶接線上の進行方向近前方へ向けて斜めに保持させる。そして、倣い構成としてはローラを採用せず、摩擦を避けつつ接触させるべくロッド先端は球面状である。ロッド先端は、溶接熱の影響から、溶接位置から10mm~20mm前方で接することが好ましい。これら構成により、電極先端を近接して倣い電極と鋼管の距離を一定にしつつ溶接熱の悪影響を避けて接触移動を可能にする。したがって、TIG溶接における電極と溶接位置、すなわち溶接トーチと鋼管との距離が正確に保持される。ロッド先端は、亜鉛剥離された部分を溶接線に平行に近前方を倣う限り、溶接線そのものではなく、数ミリ以内で離隔して倣って良い。
【0014】
付勢のため、一端がアーム部の倣い部側の下部に接続され、他端は連結バーの、前記一端より鋼管軸近く、かつ溶接位置と反対側の位置に接続される押圧部材が設けられ、当該押圧部材がアーム部を鋼管側に付勢する。典型的には、バネ部材が連結バーとアーム部との間に設けられることより、溶接トーチ、倣い部、ワイヤ供給部をアーム部他端側にも若干付勢させ空間的及び安定性において有利に鋼管側に付勢する。
【0015】
ワイヤ供給部は、溶接箇所へ一定角度での連続的なワイヤ供給を可能にするため、ワイヤを、溶接トーチへ向けて斜角で、溶接トーチが移動する溶接線上の後方側から提供する。本発明では、後方から溶融池に侵入されることになるが、その侵入角度は、通常の角度と異なり、45度以上で進入させることが好適である。当該構成により、溶接プールが狭く深い本発明において(例として、厚さ3.5mmで表面幅4.0mm程度、厚さ5.8mmで表面幅5.9mm程度)、裏波までの十分な進入量を確保することができ、厚い鋼管のワンパス自動溶接を可能にする。
【0016】
溶接方法としては、上記の構成のTIG溶接ヘッドを搭載した自動溶接機を使用して、鋼管の自動溶接を行う。まず、溶接を行う一対の鋼管の溶接端部を、溶接線に沿って幅3~10mmで亜鉛皮膜を除去する。これらは、自動切削器によるバイト切削など、公知の方法で除去することが可能である。そして、各端部において、必要であれば研磨等を行い、開先確度をゼロにして突き合わせギャップをなくし鋼管を接続し、必要に応じて仮付けや研磨を行う。なお、亜鉛皮膜の除去や、開先確度の調整工程は、上記方法に限定されない。
【0017】
その後、溶接線に沿って活性フラックスを塗布する。当該活性フラックスは、SiO2、TiO2、SiO2、又はCr2O3などの酸化物を含み、深溶け込みを奏功するTIG溶接用ものである必要であるが、特に好ましくは特許第5560504号に開示されるフラックスであることが望ましい。当該開示に係る製品は、二酸化ケイ素(SiO2)と、メタケイ酸鉄(Fe2SiO4)、オルトチタン酸鉄(Fe2TiO4)、メタチタン酸鉄(FeTiO3)、ディチタン酸鉄(FeTi2O5)を含み、二酸化ケイ素(SiO2)の組成比が略2%、残りが略98%で構成されるフラックスである。当該組成は、毒性のものを含まず、フラックスの98%を占める主な組成要素の融点が比較的低融点で、比重値が近い値であることで構成されている。当該構成は、全姿勢で深溶け込みに必要な十分な合金成分を有し、上向きでも厚さ6mmの狭く深い溶融池を生成し、開先ゼロの1パス溶接を可能にする。
【0018】
そして、上記のTIG溶接ヘッドを備えた自動TIG溶接ヘッドにより、TIG溶接を行う。このとき、回転駆動ローラの回転により、溶接トーチは溶接線上を移動するが、倣いロッドの先端が溶接線を直接先行かつ近位置で倣い、溶接位置と電極との距離を常に一定に保つことが可能になる。そして、溶接ワイヤが鋼管断面視で溶接線後方から45度以上の角度で導入される。これら構成により、5mmを超える厚さの鋼管であっても、常に一定の入熱量で十分な溶融と攪拌を得、高品質の裏波自動溶接をワンパスで行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、亜鉛メッキ鋼管の自動TIG溶接が可能になり、品質、安全面のほか、時間的、人的、コストいずれの観点からも有利に溶接を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のTIG溶接ヘッドの一例を示す図である。
【
図2】本発明のTIG溶接ヘッドの一例を示す図である。
【
図3】本発明のTIG溶接ヘッドの溶接トーチ部等を示す拡大図である。
【
図4】本発明のTIG溶接ヘッドの溶接トーチ部等を示す拡大図である。
【
図5】本発明のTIG溶接ヘッドを利用して溶接された鋼管を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の一例を説明する。
図1及び
図2は、本発明のTIG溶接ヘッド1の一例を示す図である。
図1は鋼管100の断面側(開口側)から見た図である。
図2は鋼管100の側面側から見た図であり、アーム等を示すために鋼管を透過して示している。
図3、
図4は、本発明のTIG溶接ヘッドの溶接トーチ2、ロッド保持部16、ワイヤ供給部24を示す拡大図であり、
図3は鋼管100断面側(開口側)から、
図4は鋼管100側面側から見た図である
【0022】
TIG溶接ヘッド1(全長240mm)は、溶接トーチ2、ロッド3,ワイヤ4を備える。モータ5は、同軸にて回転駆動ローラ6を駆動させる。一対の補助ローラ7、8が、溶接トーチ2を前後から挟んで設けられ、回転駆動ローラ6及び一対の補助ローラ7、8は、両端を一対の連結バー9、9’により保持されている。ハンドル17は、モータ5の回転駆動ローラ6への動力の伝達を制御する。
【0023】
連結バー9、9’は各々、回転駆動ローラ6を保持する第1のバー10と、一対の補助ローラ7,8を保持する第2のバー11からなる。第1のバー10と第2のバー11を結合する軸12が存在することで、両バーが挟み込む開度を調整することができる(
図1の点線参照)。したがって、回転駆動ローラ6および一対の補助ローラ7、8によって、安定的に鋼管100をクランプすることができる。クランプノブ31は、クランプ状態の保持・開放を制御する。鋼管100への設置時には、クランプ開放状態で軸12を介して連結バー9、9’の開度を調整し、回転駆動ローラ6及び一対の補助ローラ7,8で鋼管100をクランプする。モータ5を駆動させ回転駆動ローラ6が回転することにより、TIG溶接ヘッド1が鋼管周囲に沿って回転移動する。
【0024】
溶接トーチ2は、タングステン電極13、トーチノズル、コレット等、公知の溶接トーチと同様の機構を備え、対象への溶接を可能にしている。上下調整ハンドル14は、トーチ2と鋼管100との距離を調整可能(上下5mm幅)にするために設けられている。
【0025】
溶接トーチ2は、アーム15と接続される。アーム15は、角柱形であり、連結バー9によって鋼管100の軸と平行に保持される。内部にはガス管、水管、配線など溶接に必要な管が設けられ、溶接トーチ2へ供給される。また、アーム15がアルミ製であることにより、溶接トーチ2への水の供給を行いながら、自身を水冷する。水およびガスは図示しない供給配管によって、注入口32から注入される。さらに、ネジ機構を使用したアーム調整ハンドル18は、アーム15を鋼管100の軸と平行方向の位置調節(5mm幅)を可能にしている。
【0026】
ロッド保持部16が、アーム15に接続され、タングステン製のロッド3を保持する。ロッド3は3.2mm系であり、先端19が球面状に構成されている。ロッド保持部16は、アーム15に連結されるハウジング20、ハウジング20内に設置されるロッド保持空洞および固定ネジ21を備える保持器22、ネジ機構を介して保持器22の上下位置調整を可能にするハンドル23にて構成されている。管の側面視(
図2)で、ロッド3の軸は、鋼管100、101の突き合わせ部となる溶接線102に平行に配置されている。管の断面視で、ロッド3は保持器22から、よりタングステン電極13の先端、すなわち溶接位置の近い位置に向けて配置され、当実施例ではロッド先端19が溶接位置の前方10mmで鋼管に接している。また、鋼管100,101には亜鉛メッキ103がされているが、各々端部7mmが亜鉛切削された剥離部104を有しており、先端19は溶接線から3mm離れた位置で剥離部104に接している。また、ロッド3は、アーム15と、連結バー9との間に設けられたバネ24により付勢されており、ロッド3は鋼管から離れることなく溶接線102を先行接触移動する。このため、タングステン電極13の先端と鋼管との距離は常に最も効果的である1.5mmで保持されつつ移動することができる。
【0027】
ワイヤ供給部24は、アーム15に連結される第1ハウジング26、第2ハウジング27、ワイヤ保持器25からなる。第1ハウジング26はアーム15に備えられ、ハンドル28によって鋼管100の軸方向への位置調整を可能にする。第2ハウジング27には、ハンドル29が備えられ、ワイヤ保持器25の上下位置調整を可能にしている。管の側面視(
図2)でワイヤ保持器25の軸は溶接電極と平行であり、ワイヤ4は溶接位置に向けて45度以上、本実施例では溶接位置接線に対し50度で後方から配置される。またワイヤ供給モータ30が、連結バー9に接続され、連続的な供給を可能にしている。
【0028】
溶接例
SGP亜鉛メッキ鋼管について、本発明の上記実施例のTIG溶接ヘッドを搭載したTIG溶接機を使用して、溶接を行った。鋼管はそれぞれ外径114.3mmであり、板厚が4.5mmである。まず、両鋼管につき、WACHS社SDBシリーズ(開先加工機)を使用して、端表面7mm幅の範囲の亜鉛メッキを切削し、ギャップゼロに構成し、両管を突き合わせて円周4カ所をTIG溶接にて仮付けした。
【0029】
溶接箇所に特許第5560504号に開示されるフラックスを塗布した後、本発明のTIG溶接ヘッドを使用し、溶接電極先端から鋼管溶接位置の距離を1.5mmで固定し、ロッド先端が電極先端(溶接位置)を10mm先行位置で接触し、ワンパス溶接を行った。
【0030】
比較対象は、従来の施行法に沿って、1.5mm厚を残し30度の開先加工を行い、手溶接にて仮溶接を行った。本溶接では、全姿勢を要しつつ、3パスにて行い、35分の時間を要した。
【0031】
【0032】
上記表から明らかなように、従来は切開先加工に10分程度必要であったが、本発明では開先角度が必要なく、亜鉛皮膜を5分で除去することができた。さらに、仮付けもギャップゼロであり本発明のTIG溶接機を使用できることから、5分で済ますことができた。本溶接に至っては、ワンパス自動溶接が可能であるため時間も5分で済み、従来の溶接方法(本比較例では3パスを要する)に比べ、7分の1の時間で済んだ。開先加工からの時間で比較すれば3分の1で済み、顕著な効果を奏している。
【0033】
溶接後の鋼管の写真が
図5に示される。当該写真が示すように、溶接ビードも良好で、1.5MPaの耐圧試験にも耐え、良好な自動TIG溶接を行うことができた。
【符号の説明】
【0034】
1 TIG溶接ヘッド1
2 溶接トーチ
3 ロッド
4 ワイヤ
5 モータ
6 回転駆動ローラ
7、8 補助ローラ7、8
9,9’連結バー
10 第1のバー
11 第2のバー11
12 軸
13 タングステン電極
14 ハンドル
15 アーム
16 ロッド保持部
17 ハンドル
18 ハンドル
19 先端
20 ハウジング
21 ネジ
22 保持器
23 ハンドル
24 ワイヤ供給部
25 ワイヤ保持器
26 第1ハウジング
27 第2ハウジング
28、29 ハンドル
30 ワイヤ供給モータ
31 クランプノブ
32 注入口
100、101 鋼管
102 溶接線
103 亜鉛メッキ
104 剥離部