(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179749
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】細胞医薬組成物、疾患治療用キット及び細胞懸濁用溶液
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20221125BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20221125BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20221125BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20221125BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20221125BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221125BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20221125BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221125BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20221125BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20221125BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221125BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20221125BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221125BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K35/28
A61K35/15 Z
A61K35/35
A61K35/51
A61K9/08
A61K9/10
A61K47/02
A61K47/12
A61P1/00
A61P9/00
A61P11/00
A61P25/00
A61P37/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165115
(22)【出願日】2022-10-14
(62)【分割の表示】P 2018559040の分割
【原出願日】2017-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2016256633
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】武田 里枝
(72)【発明者】
【氏名】長岡 くみ子
(72)【発明者】
【氏名】堀内 陽子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 輝
(72)【発明者】
【氏名】玉田 琴絵
(57)【要約】
【課題】本発明は、細胞の状態を良好に保ち、生存率を長時間に渡って高く維持することができる細胞医薬組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、(A)細胞、及び(B)細胞懸濁用溶液を含有し、(B)細胞懸濁用溶液が、電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液である、細胞医薬組成物である。(B)細胞懸濁用溶液は、CH3COO-、HCO3
-、クエン酸イオン及び乳酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の電解質をさらに含んでいてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞医薬組成物、疾患治療用キット及び細胞懸濁用溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を含む医薬品を疾患治療に用いるための技術は年々進歩している。特にiPS細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞等の幹細胞、皮膚細胞、心筋細胞等については、基礎的な研究段階から開発段階へと移行して、現在では、実際に臨床の場で用いられているものも存在する。細胞による疾患の治療においては、細胞自体が有する機能を直接的又は間接的に疾患治療のために用いること、ダメージを受けた患者の細胞や組織の機能を、幹細胞から新たに分化させた細胞や臓器により補うこと等が期待されている。
【0003】
例えば、間葉系幹細胞は、Friedenstein(1982)によって初めて骨髄から単離された多分化能を有する前駆細胞である(非特許文献1)。この間葉系幹細胞は、骨髄、臍帯、脂肪等の様々な組織に存在することが明らかにされており、間葉系幹細胞移植は、様々な難治性疾患に対する新しい治療方法として、期待されている(特許文献1~4)。最近では、脂肪組織、胎盤、臍帯、卵膜等の胎児付属物の間質細胞に同等の機能を有する細胞が存在することが知られている。従って、間葉系幹細胞を間質細胞(Mesenchymal Stromal Cell)と称することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002-506831号公報
【特許文献2】特表2000-508911号公報
【特許文献3】特開2012-157263号公報
【特許文献4】特表2012-508733号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pittenger F.M.et al.,Science,1999,284,pp.143-147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
間葉系幹細胞等の細胞を含む医薬品においては、安全性を確保する、細胞の投与を容易にすること等を目的として、細胞を溶液に懸濁して用いることがある。間葉系幹細胞等の細胞を懸濁液として、生体内へ点滴、注射等の方法によって移入・注入する場合において、懸濁液中の細胞の生存率が徐々に低下して十分な薬理作用が得られない、細胞同士が凝集してカニューレ中に詰まる、患者の肺静脈等に塞栓を形成する等の不都合が生じることが懸念されている。そこで、本発明は、細胞の生存率を長時間に渡って高く維持することができる細胞医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明者らは、疾患治療用の細胞をリンゲル液、酢酸リンゲル液又は重炭酸リンゲル液といった、電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液に懸濁して点滴注入等を行うと、投与中の細胞の生存率低下が顕著に抑制されることを見出し、本発明に到達した。本発明によれば、細胞を含む医薬組成物が、細胞の状態を良好に保ち、生存率を長時間に渡って高く維持することができるため、様々な疾患に対して優れた治療効果を奏することができる。すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0008】
[1](A)細胞、及び
(B)細胞懸濁用溶液
を含有し、
(B)細胞懸濁用溶液が、電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液である、細胞医薬組成物。
[2](B)細胞懸濁用溶液が、CH3COO-、HCO3
-、クエン酸イオン及び乳酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の電解質をさらに含む、[1]に記載の細胞医薬組成物。
[3](B)細胞懸濁用溶液が、リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液及び乳酸リンゲル液からなる群より選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の細胞医薬組成物。
[4](A)細胞が、間葉系幹細胞又は末梢血単核球である、[1]から[3]のいずれかに記載の細胞医薬組成物。
[5]上記間葉系幹細胞が、脂肪由来、臍帯由来又は骨髄由来である、[4]に記載の細胞医薬組成物。
[6](A)細胞、及び
(B)細胞懸濁用溶液
を含有し、
(B)細胞懸濁用溶液が、電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液である、疾患治療用キット。
[7]電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液である、細胞医薬組成物用の細胞懸濁用溶液。
【発明の効果】
【0009】
本発明の細胞医薬組成物は、細胞の状態を良好に保ち、その生存率を長時間に渡って高い状態で維持することができるため、様々な疾患に対して優れた治療効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の細胞医薬組成物、疾患治療用キット、及び注射剤用の細胞懸濁用溶液について詳細に説明する。
【0011】
<細胞医薬組成物>
本発明の細胞医薬組成物は、(A)細胞、及び(B)細胞懸濁用溶液を含有し、(B)細胞懸濁用溶液が、電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液であることを特徴とする。なお、本発明において「細胞医薬組成物」とは、細胞を含有する医薬用の組成物であり、細胞が有する機能によって疾患に対する治療効果を奏するものをいう。本発明の細胞医薬組成物は、細胞を上記特定の溶液に懸濁することで、細胞の生存率を長時間に渡って高い状態で維持することができるため、様々な疾患に対して優れた治療効果を奏することが可能となる。本発明の細胞医薬組成物は、上記必須成分である(A)細胞及び(B)細胞懸濁用溶液に加えて、疾患に対する治療効果を有する他の薬剤を含有していてもよい。さらに、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を含有していてもよい。以下、本発明の細胞医薬組成物が含有する(A)細胞、(B)細胞懸濁用溶液、他の薬剤、その他の成分について詳細に説明する。
【0012】
[(A)細胞]
本発明において(A)細胞とは、疾患の治療に対する効果を奏する細胞であれば特に限定されないが、例えば間葉系幹細胞、末梢血単核球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球等を含む)、赤血球、T細胞、NK細胞、NKT細胞、NKM細胞、LAK細胞、樹状細胞、繊維芽細胞、造血幹細胞、iPS細胞、ES細胞、骨髄細胞、心筋細胞、肝細胞、神経細胞、皮膚細胞、脂肪細胞、その他各組織を構成する細胞が挙げられる。これらのうち、後述する(B)細胞懸濁用溶液による生存率維持効果に優れるとい観点から、間葉系幹細胞、末梢血単核球、骨髄細胞が好ましい。
【0013】
(間葉系幹細胞)
本発明において間葉系幹細胞とは、間葉系に属する一種以上、好ましくは二種以上、さらに好ましくは三種以上の細胞(骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞など)への分化能を有し、当該能力を維持したまま増殖できる細胞を意味する。本発明において用いる間葉系幹細胞なる用語は、間質細胞と同じ細胞を意味し、両者を特に区別するものではない。また、単に間葉系細胞と表記される場合もある。間葉系幹細胞を含む組織としては、例えば、脂肪組織、臍帯、骨髄、臍帯血、子宮内膜、胎盤、羊膜、絨毛膜、脱落膜、真皮、骨格筋、骨膜、歯小嚢、歯根膜、歯髄、歯胚等が挙げられる。例えば脂肪組織由来間葉系幹細胞とは、脂肪組織に含有される間葉系幹細胞を意味し、脂肪由来間葉系幹細胞と称してもよい。これらのうち、各種疾患の治療に対する有効性の観点、入手容易性の観点等から、脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、胎盤由来間葉系幹細胞、歯髄由来間葉系幹細胞が好ましく、脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞がより好ましい。
【0014】
本発明における間葉系幹細胞は、処置される対象(被検体)と同種由来であってもよいし、異種由来であってもよい。本発明における間葉系幹細胞の種として、ヒト、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラビット、マウス、ラットが挙げられ、好ましくは処置される対象(被検体)と同種由来細胞である。本発明における間葉系幹細胞は、処置される対象(被検体)に由来、すなわち自家細胞(同種同系)であってもよいし、同種の別の対象に由来、すなわち他家細胞(同種異系)であってもよい。好ましくは他家細胞(同種異系)である。
【0015】
間葉系幹細胞は同種異系の被験体に対しても拒絶反応を起こしにくいため、あらかじめ調製されたドナーの細胞を拡大培養して凍結保存したものを、本発明の細胞医薬組成物における(A)細胞としての間葉系幹細胞として使用することができる。そのため、自己の間葉系幹細胞を調製して用いる場合と比較して、商品化も容易であり、かつ安定して一定の効果を得られ易いという観点から、本発明における間葉系幹細胞は、同種異系であることがより好ましい。
【0016】
本発明において間葉系幹細胞とは、間葉系幹細胞を含む任意の細胞集団を意味する。当該細胞集団は、少なくとも20%以上、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、96%、97%、98%又は99%が間葉系幹細胞である。
【0017】
本発明において脂肪組織とは、脂肪細胞、及び微小血管細胞等を含む間質細胞を含有する組織を意味し、例えば、哺乳動物の皮下脂肪を外科的切除又は吸引して得られる組織である。脂肪組織は、皮下脂肪より入手され得る。後述する脂肪由来間葉系幹細胞の投与対象と同種動物から入手されることが好ましく、ヒトへ投与することを考慮すると、より好ましくは、ヒトの皮下脂肪である。皮下脂肪の供給個体は、生存していても死亡していてもよいが、本発明において用いる脂肪組織は、好ましくは、生存個体から採取された組織である。個体から採取する場合、脂肪吸引は、例えば、PAL(パワーアシスト)脂肪吸引、エルコーニアレーザー脂肪吸引、又は、ボディジェット脂肪吸引などが例示され、細胞の状態を維持するという観点から、超音波を用いないことが好ましい。
【0018】
本発明において臍帯とは、胎児と胎盤を結ぶ白い管状の組織であり、臍帯静脈、臍帯動脈、膠様組織(ウォートンジェリー;Wharton’s Jelly)、臍帯基質自体等から構成され、間葉系幹細胞を多く含む。臍帯は、本発明の細胞医薬組成物を使用する被験体(投与対象)と同種動物から入手されることが好ましく、本発明の細胞医薬組成物をヒトへ投与することを考慮すると、より好ましくは、ヒトの臍帯である。
【0019】
本発明において骨髄とは、骨の内腔を満たしている柔組織のことをいい、造血器官である。骨髄中には骨髄液が存在し、その中に存在する細胞を骨髄細胞と呼ぶ。骨髄細胞には、赤血球、顆粒球、巨核球、リンパ球、脂肪細胞等の他、間葉系幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞等が含まれている。骨髄細胞は、例えば、ヒト腸骨、長管骨、又はその他の骨から採取することができる。
【0020】
本発明において、脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞とは、それぞれ脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞を含む任意の細胞集団を意味する。当該細胞集団は、少なくとも20%以上、好ましくは、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、96%、97%、98%又は99%が、脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞といった各組織由来間葉系幹細胞である。
【0021】
本発明における間葉系幹細胞は、成長特徴(例えば、継代から老化までの集団倍加能力、倍加時間)、核型分析(例えば、正常な核型、母体系統又は新生児系統)、フローサイトメトリー(例えば、FACS分析)による表面マーカー発現、免疫組織化学及び/又は免疫細胞化学(例えば、エピトープ検出)、遺伝子発現プロファイリング(例えば、遺伝子チップアレイ;逆転写PCR、リアルタイムPCR、従来型PCR等のポリメラーゼ連鎖反応)、miRNA発現プロファイリング、タンパク質アレイ、サイトカイン等のタンパク質分泌(例えば、血漿凝固解析、ELISA、サイトカインアレイ)、代謝産物(メタボローム解析)、本分野で知られている他の方法等によって、特徴付けられてもよい。
【0022】
(間葉系幹細胞の調製方法)
間葉系幹細胞は、当業者に周知の方法により調製することができる。以下に、一つの例として、脂肪由来間葉系幹細胞の調製方法を説明する。脂肪由来間葉系幹細胞は、例えば米国特許第6,777,231号に記載の製造方法によって得られて良く、例えば、以下の工程(i)~(iii)を含む方法で製造することができる:
(i) 脂肪組織を酵素による消化により細胞懸濁物を得る工程;
(ii) 細胞を沈降させ、細胞を適切な培地に再懸濁する工程;ならびに
(iii) 細胞を固体表面で培養し、固体表面への結合を示さない細胞を除去する工程。
【0023】
工程(i)において用いる脂肪組織は、洗浄されたものを用いることが好ましい。洗浄は、生理学的に適合する生理食塩水溶液(例えばリン酸緩衝食塩水(PBS))を用いて、激しく攪拌して沈降させることによって行い得る。これは、脂肪組織に含まれる夾雑物 (デブリとも言い、例えば損傷組織、血液、赤血球など)を組織から除去するためである。したがって、洗浄及び沈降は一般に、上清からデブリが総体的に除去されるまで繰り返される。残存する細胞は、さまざまなサイズの塊として存在するので、細胞そのものの損傷を最小限に抑えながら解離させるため、洗浄後の細胞塊を、細胞間結合を弱めるか、又は破壊する酵素(例えば、コラゲナーゼ、ディスパーゼ又はトリプシンなど)で処理することが好ましい。このような酵素の量及び処理期間は、使用される条件に依存して変わるが、当技術分野で既知である。このような酵素処理に代えて、又は併用して、細胞塊を、機械的な攪拌、超音波エネルギー、熱エネルギーなどの他の処理法で分解することができるが、細胞の損傷を最小限に抑えるため、酵素処理のみで行うことが好ましい。酵素を用いた場合、細胞に対する有害な作用を最小限に抑えるために、適切な期間をおいた後に培地等を用いて酵素を失活させることが望ましい。
【0024】
工程(i)により得られる細胞懸濁物は、凝集状の細胞のスラリー又は懸濁物、ならびに各種夾雑細胞、例えば赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、及び線維芽細胞を含む。従って、続いて凝集状態の細胞とこれらの夾雑細胞を分離、除去してもよいが、後述する工程(iii)での接着及び洗浄により、除去可能であることから、当該分離、除去は割愛してもよい。夾雑細胞を分離、除去する場合、細胞を上清と沈殿に強制的に分ける遠心分離によって達成しえる。得られた夾雑細胞を含む沈殿は、生理学的に適合する溶媒に懸濁させる。懸濁状の細胞には、赤血球を含む恐れがあるが、後述する個体表面への接着による選択により、赤血球は除外されるため、溶解する工程は必ずしも必要ではない。赤血球を選択的に溶解する方法として、例えば、塩化アンモニウムによる溶解による高張培地又は低張培地中でのインキュベーションなど、当技術分野で周知の方法を使用することができる。溶解後、例えば濾過、遠心沈降、又は密度分画によって溶解物を所望の細胞から分離してもよい。
【0025】
工程(ii)において、懸濁状の細胞において、間葉系幹細胞の純度を高めるために、1回もしくは連続して複数回洗浄し、遠心分離し、培地に再懸濁してもよい。この他にも、細胞を、細胞表面マーカープロファイルを基に、又は細胞のサイズ及び顆粒性を基に分離してもよい。
【0026】
再懸濁において用いる培地は、間葉系幹細胞を培養できる培地であれば、特に限定されないが、このような培地は、基礎培地に、血清を添加する、及び/又は、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コレステロール、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール等の1つ以上の血清代替物を添加して作製してもよい。これらの培地には、必要に応じて、さらに脂質、アミノ酸、タンパク質、多糖、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等の物質を添加してもよい。
【0027】
上記基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、MCDB201培地及びこれらの混合培地等が挙げられる。
【0028】
上記血清としては、例えば、ヒト血清、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清、仔ウシ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清等が挙げられるがこれらに限定されない。血清を用いる場合、基礎培地に対して、5v/v%から15v/v%、好ましくは、10v/v%を添加してもよい。
【0029】
上記脂肪酸としては、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸、パルミトイル酸、パルミチン酸、及びステアリン酸等が例示されるが、これらに限定されない。脂質は、フォスファチジルセリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルコリン等が例示されるが、これらに限定されない。アミノ酸は、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-グリシンなどを含むがこれらに限定されない。タンパク質は、例えば、エコチン、還元型グルタチオン、フィブロネクチン及びβ2-ミクログロブリン等が例示されるが、これらに限定されない。多糖は、グリコサミノグリカンが例示され、グリコサミノグリカンのうち特に、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸等が例示されるが、これらに限定されない。増殖因子は、例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、結合組織増殖因子(CTGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等が例示されるが、これらに限定されない。本発明において得られる脂肪由来間葉系幹細胞を細胞移植に用いるという観点から、血清等の異種由来成分を含まない(ゼノフリー)培地を用いることが好ましい。このような培地は、例えば、PromoCell社、Lonza社、Biological Industries社、Veritas社、R&D Systems社、Corning社及びRohto社などから間葉系幹細胞(間質細胞)用として予め調製された培地として提供されている。
【0030】
続いて、工程(iii)では、工程(ii)で得られた細胞懸濁液中の細胞を分化させずに固体表面上で、上述の適切な細胞培地を使用して、適切な細胞密度及び培養条件で培養する。本発明において、「固体表面」とは、本発明における脂肪由来間葉系幹細胞の結合・接着を可能とする任意の材料を意味する。特定の態様では、このような材料は、その表面への哺乳類細胞の結合・接着を促すように処理されたプラスチック材料である。固体表面を有する培養容器の形状は特に限定されないが、シャーレやフラスコなどが好適に用いられる。非結合状態の細胞及び細胞の破片を除去するために、インキュベーション後に細胞を洗浄する。
【0031】
本発明では、最終的に固体表面に結合・接着した状態で留まる細胞を、脂肪由来間葉系幹細胞の細胞集団として選択することができる。
【0032】
選択された細胞について、本発明における脂肪由来間葉系幹細胞であることを確認するために、表面抗原についてフローサイトメトリー等を用いて従来の方法で解析してもよい。さらに、各細胞系列に分化する能力について検査してもよく、このような分化は、従来の方法で行うことができる。
【0033】
本発明における間葉系幹細胞は、上述の通り調製することができるが、次の特性を持つ細胞として定義してもよい;
(1)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す、
(2)表面抗原CD44、CD73、CD90が陽性であり、CD31、CD45が陰性であり、及び
(3)培養条件にて骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞に分化可能。
【0034】
(末梢血単核球)
本発明において末梢血単核球細胞とは、ヒト又は動物の末梢血から取得される、リンパ球、好中球、好酸球、好塩基球、単球を含む分画をいう。末梢血単核球は、末梢血からFicoll-hypaque(登録商標)等を用いた密度勾配遠心法により分離することができる。本発明における(A)細胞としての末梢血単核球は、末梢血から分離した状態の細胞でもよいし、それらを必要に応じて、各種因子、低分子化合物、抗体等と共に培養等することで、増殖・活性化させたものであってもよい。
【0035】
((A)細胞の凍結保存)
本発明における(A)細胞は、各種疾患に対する治療効果を備えていれば、適宜、凍結保存及び融解を繰り返した細胞であってもよい。本発明において、凍結保存は、当業者に周知の凍結保存液で(A)細胞を懸濁し、冷却することによって行い得る。懸濁は、細胞を、必要に応じてトリプシンなどの剥離剤によって剥離し、凍結保存容器に移し、適宜処理した後、凍結保存液を加えることによって行い得る。
【0036】
凍結保存液は、凍害防御剤として、DMSO(Dimethyl sulfoxide)を含有していてもよいが、DMSOは、細胞毒性を有することから、DMSO含有量を減らすことが好ましい。なお、DMSOは間葉系幹細胞に対しては、分化誘導する特性を有することも知られている。DMSOの代替物として、グリセロール、プロピレングリコール又は多糖類が例示される。DMSOを用いる場合、5%~20%の濃度、好ましくは5%~10%の濃度、より好ましくは10%の濃度を含有する。この他にも、WO2007/058308に記載の添加剤を含んでもよい。このような凍結保存液として、例えば、バイオベルデ社、日本ジェネティクス株式会社、リプロセル社、ゼノアック社、コスモ・バイオ社、コージンバイオ株式会社、サーモフィッシャーサイエンティフィック社等から提供されている凍結保存液を用いてもよい。
【0037】
上述の懸濁した細胞を凍結保存する場合、-80℃~-100℃の間の温度(例えば、-80℃)で保管することで良く、当該温度に達成しえる任意のフリーザーを用いて行い得る。特に限定されないが、急激な温度変化を回避するため、プログラムフリーザーを用いて、冷却速度を適宜制御してもよい。冷却速度は、凍結保存液の成分によって適宜選択しても良く、凍結保存液の製造者指示に従って行われ得る。
【0038】
保存期間は、上記条件で凍結保存した細胞が融解した後、凍結前と同等の性質を保持している限り、特に上限は限定されないが、例えば、1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、1年以上、又はそれ以上が挙げられる。より低い温度で保存することで細胞障害を抑制することができるため、液体窒素上の気相(約-150℃以下から-180℃以下)へ移して保存してもよい。液体窒素上の気相で保存する場合、当業者に周知の保存容器を用いて行うことができる。特に限定されないが、例えば、2週間以上保存する場合、液体窒素上の気相で保存することが好ましい。
【0039】
融解した(A)細胞は、次の凍結保存までに適宜培養してもよい。例えば、間葉系幹細胞の培養は、上述した間葉系幹細胞を培養できる培地を用いて行われ、特に限定されないが、約30~40℃、好ましくは約37℃の培養温度で、CO2含有空気の雰囲気下で行われてもよい。CO2濃度は、約2~5%、好ましくは約5%である。培養において、培養容器に対して適切なコンフルエンシー(例えば、培養容器に対して、50%から80%を細胞が占有することが挙げられる)に達した後に、細胞をトリプシンなどの剥離剤によって剥離し、別途用意した培養容器に適切な細胞密度で播種して培養を継続してもよい。細胞を播種する際において、典型的な細胞密度として、100細胞/cm2~100,000細胞/cm2、500細胞/cm2~50,000細胞/cm2、1,000~10,000細胞/cm2、2,000~10,000細胞/cm2などが例示される。特定の態様では、細胞密度は2,000~10,000細胞/cm2である。適切なコンフルエンシーに達するまでの期間が、3日間から7日間となるように調整することが好ましい。培養中、必要に応じて、適宜、培地を交換してもよい。
【0040】
凍結保存した細胞の融解は、当業者に周知の方法によって行い得る。例えば、37℃の恒温槽内又は湯浴中にて静置又は振とうすることによって行う方法が例示される。
【0041】
((A)細胞の形態)
本発明の細胞医薬組成物が含有する(A)細胞は、いずれの状態の細胞であってもよく、例えば培養中の細胞を剥離して回収された細胞でもよいし、凍結保存液中に凍結された状態の細胞でもよい。拡大培養して得られる同ロットの細胞を小分けして凍結保存したものを使用すると、安定して同様の作用効果が得られる点、取扱い性に優れる点等において好ましい。
【0042】
凍結保存状態の(A)細胞は、使用直前に融解し、凍結保存液に懸濁したまま後述する(B)細胞懸濁用溶液に直接混合してもよい。また、遠心分離等の方法により凍結保存液を除去してから(B)細胞懸濁用溶液に懸濁してもよい。
【0043】
本発明の(A)細胞の用量(投与量)は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び剤形等によって異なりうるが、十分な治療効果を奏する観点からは、その量は多い方が好ましい傾向にあり、一方、副作用の発現を抑制する観点からはその量は少ない方が好ましい傾向にある。通常、成人に投与する場合には、細胞数として、1x103~1x1012個/回、好ましくは1x104~1x1011個/回、更に好ましくは1x105~1x1010個/回、特に好ましくは5x106~1x109個/回である。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与しても良い。
【0044】
本発明の(A)細胞の用量(投与量)は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の組成物の剤形等によって異なりうるが、通常、成人に投与する場合には、細胞数として、1x10~5x1010個/kg、好ましくは1x102~5x109個/kg、更に好ましくは1x103~5x108個/kg、特に好ましくは1x104~5x107個/kgである。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与しても良い。
【0045】
[(B)細胞懸濁用溶液]
本発明の(B)細胞懸濁用溶液は、電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液である。(B)細胞懸濁用溶液は、CH3COO-、HCO3
-、クエン酸イオン及び乳酸イオンからなる群より選択される少なくとも1種の電解質をさらに含んでいてもよい。(B)細胞懸濁用溶液は、生体における細胞外液補液効果を有する等張性電解質輸液製剤ともいえ、具体的には、リンゲル液、酢酸リンゲル液重炭酸リンゲル液及び乳酸リンゲル液からなる群より選択される少なくとも1種を好ましいものとして挙げられる。このような組成の(B)細胞懸濁用溶液を採用することで、本発明の細胞医薬組成物においては(A)細胞の状態を良好に保ち、その生存率を長時間に渡って高い状態で維持することができる。
【0046】
(B)細胞懸濁用溶液としては、糖質を含まず、かつ電解質としてNa+、K+、Ca2+、Cl-を含み、Na+が140mEq/L~160mEq/L、K+が1mEq/L~10mEq/L、Ca2+が1mEq/L~10mEq/L、Cl-が140mEq/L~170mEq/Lであるリンゲル液を好ましいものとして挙げることができる。上記リンゲル液は各電解質を上記濃度範囲として調製することができるが、リンゲル液「オーツカ」(日局リンゲル液、株式会社大塚製薬工場)、リンゲル液「フソー」(日局リンゲル液、扶桑薬品工業株式会社)等の市販品を用いることもできる。
【0047】
(B)細胞懸濁用溶液としては、糖質を含まず、かつ電解質としてNa+、K+、Ca2+、Cl-、CH3COO-を含み、Na+が120mEq/L~140mEq/L、K+が1mEq/L~10mEq/L、Ca2+が1mEq/L~10mEq/L、Cl-が90mEq/L~130mEq/L、CH3COO-が10mEq/L~40mEq/Lである酢酸リンゲル液を好ましいものとして挙げることができる。上記酢酸リンゲル液は各電解質を上記濃度範囲として調製することができるが、ヴィーン(登録商標)F輸液(興和株式会社)、ソリューゲン(登録商標)F注(共和クリティケア株式会社)、ソルアセト(登録商標)F輸液(テルモ株式会社)等の市販品を用いることもできる。
【0048】
(B)細胞懸濁用溶液としては、糖質を含まず、かつ電解質としてNa+、K+、Ca2+、Mg2+、Cl-、HCO3
-、クエン酸イオン(Citrate3+)を含み、それぞれの電解質濃度は、Na+が120mEq/L~145mEq/L、K+が1mEq/L~10mEq/L、Ca2+が1mEq/L~10mEq/L、Mg2+が0.1mEq/L~10mEq/L、Cl-が95mEq/L~135mEq/L、HCO3
-が10mEq/L~40mEq/L、クエン酸イオン(Citrate3+)が1mEq/L~10mEq/Lである重炭酸リンゲル液を好ましいものとして挙げることができる。上記重炭酸リンゲル液は各電解質を上記濃度範囲として調製することができるが、ビカネイト(登録商標)輸液(株式会社大塚製薬工場)、ビカーボン(登録商標)輸液(エイワイファーマ株式会社)等の市販品を用いることもできる。
【0049】
(B)細胞懸濁用溶液としては、糖質を含まず、かつ電解質としてNa+、K+、Ca2+、Cl-、乳酸イオン(Lactate-)を含み、それぞれの電解質濃度は、Na+が120mEq/L~140mEq/L、K+が1mEq/L~10mEq/L、Ca2+が1mEq/L~10mEq/L、Cl-が90mEq/L~130mEq/L、Lactate-が15mEq/L~45mEq/Lである乳酸リンゲル液を好ましいものとして挙げることができる。上記乳酸リンゲル液は各電解質を上記濃度範囲として調製することができるが、ソルラクト(登録商標)輸液(テルモ株式会社)、ニソリ(登録商標)輸液(マイラン製薬株式会社)、ハルトマン液「コバヤシ」(共和クリティケア株式会社)、ハルトマン輸液「NP」(ニプロ株式会社)、ハルトマン輸液pH8「NP」(ニプロ株式会社)、ラクテック(商標登録)注(株式会社大塚製薬工場)、ラクトリンゲル液“フソー”(扶桑薬品工業株式会社)等の市販品を用いることもできる。
【0050】
[他の薬剤]
本発明の細胞医薬組成物は、1又は2以上の、疾患に対する治療効果を有する他の薬剤を含有してもよい。他の薬剤としては、肝疾患治療薬、心疾患治療薬、炎症性腸疾患治療薬、呼吸器用薬、神経系用薬、循環器用薬、脳循環改善薬、免疫抑制薬として用いることができる任意の薬剤が挙げられる。
【0051】
肝疾患治療薬としては、例えば、B型肝炎治療薬(ラミブジン、アデホビル、エンテカビル、テノホビル等)、インターフェロン製剤(インターフェロンα、インターフェロンα-2b、インターフェロンβ、ペグインターフェロンα-2a、ペグインターフェロンα-2b等)、C型肝炎治療薬(リバビリン、テラピレビル、シメプレビル、バニプレビル、ダクラタスビル、アスナプレビル、ソホスブビル等)、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム等)、抗凝固剤(乾燥濃縮人アンチトロンビンIII、ガベキサートメシル酸塩、トロンボモデュリンα等)、解毒剤(エデト酸カルシウム二ナトリウム水和物、グルタチオン、ジメチカプロール、チオ硫酸ナトリウム水和物、スガマデスクナトリウム等)、人血清アルブミン、肝臓抽出エキス、ウルソデオキシコール酸、グリチルリチン酸、アザチオプリン、ベザフィーブラート、アミノ酸(グリシン、L-システイン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-バリン、L-トレオニン、L-セリン、L-アラニン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-リシン、L-ヒスチジン、L-アルギニン及びこれらの塩等)、ビタミン(トコフェロール、フラビンアデニンジヌクレオチド、リン酸チアミンジスルフィド、ピリドキシン、シアノコバラミン及びこれらの塩等)、抗生物質(スルバクタムナトリウム、セフォペラゾンナトリウム、メロペネム水和物、塩酸バンコマイシン等)等が挙げられる。
【0052】
心疾患治療薬としては、例えば、ACE阻害薬、アンギオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、抗血小板薬、ワーファリン、カルシウム拮抗薬、硝酸薬、利尿剤、HMG-CoA還元酵素阻害薬、アンカロン等が挙げられる。
【0053】
炎症性腸疾患治療薬としては、例えば、サラゾスルファピリジン、メサラジン等が挙げられる。
【0054】
呼吸器用薬としては、例えば、ジモルホラミン、ドキサプラム塩酸塩水和物、シベレスタットナトリウム水和物、ピルフェニドン、肺サーファクタント、ドルナーゼ アルファ等が挙げられる。
【0055】
神経系用薬としては、例えば、エダラボン、インターフェロンベータ-1a、インターフェロンベータ-1b、フィンゴリモド塩酸塩、リルゾール、タルチレリン水和物等が挙げられる。
【0056】
循環器用薬としては、例えば、ヘプロニカート、ミドドリン塩酸塩、アメジニウムメチルメチル硫酸塩、エチレフリン塩酸塩、フェニレフリン塩酸塩等が挙げられる。
【0057】
脳循環改善薬としては、例えば、イフェンプロジル酒石酸塩、ニセルゴリン、イプジラスト、ジヒドロエルゴトキシンメシル酸塩、ニゾフェノンフマル酸塩、ファスジル塩酸塩水和物等が挙げられる。
【0058】
免疫抑制薬としては、例えば、シクロスポリン、アザチオプリン、ミゾリビン、バシリキシマブ、タクロリムス水和物、グスペリムス塩酸塩、ミコフェノール酸モフェチル、エベロリムス等が挙げられる。
【0059】
上記他の薬剤を本発明の細胞医薬組成物が含有する場合、保存時には、(A)細胞、(B)細胞懸濁用溶液とは別の容器中に保存されていてもよいし、いずれかに配合される形で含有されていてもよい。疾患の種類、治療方法、患者の状態等により、他の薬剤と、(A)細胞及び(B)細胞懸濁用溶液とを同時に投与してもよいし、一定の間隔をあけて投与してもよい。
【0060】
本発明の細胞医薬組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記(A)細胞及び(B)細胞懸濁用溶液以外に、その用途や形態に応じて、常法に従い、薬学的に許容される担体や添加物等のその他の成分を含有させてもよい。このような担体や添加物は、(B)細胞懸濁用溶液に含有させてもよいし、(B)細胞懸濁用溶液とは別に含有させてもよい。このような担体や添加物としては、例えば、等張化剤、増粘剤、糖類、糖アルコール類、防腐剤(保存剤)、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、安定化剤、キレート剤、油性基剤、ゲル基剤、界面活性剤、懸濁化剤、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、発泡剤、流動化剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、溶解補助剤、抗酸化剤、甘味剤、酸味剤、着色剤、呈味剤、香料又は清涼化剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
本発明の細胞医薬組成物は、目的に応じて種々の形態、例えば、注射剤(輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射、用時調製型の注射剤を含む)、透析用剤、貼付剤、パップ剤等の形態で利用できる。本発明の細胞医薬組成物は噴霧により、患部に適用することもでき、本発明の細胞医薬組成物は噴霧した後に患部でゲル化もしくはシート化される形態でも利用できる。本発明の細胞医薬組成物は上記(A)細胞をシート状または立体構造体とした後に、患部に適用することもできる。
【0062】
本発明の細胞医薬組成物は、(A)細胞、(B)細胞懸濁用溶液、他の薬剤、その他の成分が別々の容器に封入されて保管され、使用時にこれらを混合して用いてもよい。なお、保管の際、上記(A)細胞、(B)細胞懸濁用溶液、他の薬剤、その他の成分はそれぞれに適した条件で保管されていればよく、例えば凍結条件、冷蔵条件、室温条件等いずれであってもよい。
【0063】
本発明の細胞医薬組成物のpHは、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではないが、一例として、2.0~9.0、好ましくは2.5~8.5、より好ましくは4.0~8.0となる範囲が挙げられる。
【0064】
本発明の細胞医薬組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の細胞医薬組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.6~1.5、より好ましくは0.7~1.2、さらに好ましくは0.8~1.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は上述した電解質等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500~650℃で40~50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0065】
本発明の細胞医薬組成物における(A)細胞の濃度、即ち(A)細胞を(B)細胞懸濁用溶液に懸濁して調製し投与に用いる際の濃度は、細胞の種類、細胞懸濁用溶液によって異なりうるが、通常、1x102~2.5x108個/mL、好ましく1x103~2.5x107個/mL、より好ましくは1x104~2.5x106個/mLである。
【0066】
本発明の細胞医薬組成物の好ましい一形態としては、ヒト間葉系幹細胞を細胞懸濁用溶液中に1×104~2.5×106個/mLの密度で含んでなり、細胞懸濁用溶液が125~150mEq/Lのナトリウムイオン、100~160mEq/Lの塩素イオン、3~5mEq/Lのカリウムイオン及び2~6mEq/Lのカルシウムイオンを含み、生理食塩水に対する浸透圧比が0.8~1.0であり、pHが4.0~8.0のものである。
【0067】
本発明の細胞医薬組成物の対象への投与経路は、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、経直腸投与、経腟投与、経皮投与、インプラント、臓器への直接投与等が挙げられるが、本発明の細胞医薬組成物の有効性の観点から、好ましくはインプラント、動脈内投与、静脈内投与及び臓器への直接投与であり、更に好ましくは静脈内投与及び臓器への直接投与である。
【0068】
本発明の細胞医薬組成物の対象への投与速度は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の非アルコール性脂肪肝炎治療剤の投与経路等によって異なりうるが、通常、成人に投与する場合には、50mL/h~1,000mL/hであり、75mL/h~500mL/hであることが好ましく、100mL/h~250mL/hであることがより好ましい。
【0069】
本発明の細胞医薬組成物の対象への投与温度は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の細胞医薬組成物の投与経路等によって異なりうるが、通常、4℃~45℃であり、15℃~37℃であることが好ましく、室温~37℃であることがより好ましい。
【0070】
本発明の細胞医薬組成物は、輸液セットを用いて、対象への投与を行う事ができる。具体的に輸液セットとしては、ワンド・ディスポーザブル輸液チューブセット(株式会社吉田製作所製)、輸液セット(フォルテグロウメディカル株式会社製)、テルヒュージョン(登録商標)輸液セット(テルモ株式会社製)、JMS輸液セット(株式会社ジェイ・エム・エス製)、シュアプラグ輸液セット(テルモ株式会社製)、輸液セット(ニプロ株式会社製)、トップ輸液セットNP(株式会社トップ製)、フィルター付き輸液セット(EXタイプ)(東レ・メディカル株式会社製)等の市販品を用いることもできる。
【0071】
本発明の細胞医薬組成物は、輸液チューブを用いて、対象への投与を行う事ができる。具体的に輸液チューブとしては、レクトロ・キャス(株式会社サミック・インターナショナル製)、JMSエキステンションチューブ(株式会社ジェイ・エム・エス製)、サフィード延長チューブ(テルモ株式会社製)、延長チューブ(株式会社トップ製)、コネクティングチューブ(チュウアツ)(株式会社メディコスヒラタ)、サフティAPチューブ(川澄化学工業株式会社製)、延長チューブ付ビオネクター2(東レ・メディカル株式会社)、メディカットエクステンションチューブセット B(日本シャーウッド株式会社製)、ワンド・ディスポーザブル輸液チューブセット(株式会社吉田製作所製)、輸液チューブ(フォルテグロウメディカル株式会社製)等の市販品を用いることもできる。
【0072】
本発明の細胞医薬組成物を対象へ投与する際に用いる輸液チューブの材質としては、ポリ塩化ビニル、熱可塑性エラストマー、TPE 熱可塑性エラストマー、シリコーン、シリコーンゴム、ポリエチレン、ポリブタジエン、テフロン(登録商標)、ポリウレタン、ポリプロピレン、天然ゴム、ポリオレフィン、PVC(可塑剤:TOTM、DOA)、無可塑剤PVC及びこれらの混合物を用いることができる。
【0073】
本発明の細胞医薬組成物は、種々の疾患の治療に好適に用いることができる。例えば、内臓疾患、具体的には、心疾患、胃・十二指腸疾患、小腸・大腸疾患、肝疾患、胆道疾患、膵疾患、腎疾患、肺疾患、縦隔膜疾患、横隔膜疾患、胸膜疾患、腹膜疾患、神経疾患、中枢神経系(CNS)障害、末梢動脈疾患、末梢静脈疾患に対して用いることが好ましい。
【0074】
具体的疾患としては、例えば、自己免疫性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease(NAFLD))、非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis(NASH))、非アルコール性脂肪肝(nonalcoholic fatty liver (NAFL))、肝線維症、肝硬変、肝癌、脂肪肝、薬剤アレルギー性肝障害、ヘモクロマトーシス、ヘモジデローシス、ウィルソン病、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道閉鎖、肝膿瘍、慢性活動性肝炎、慢性持続性肝炎等の肝疾患;心筋梗塞、心不全、不整脈、動悸、心筋症、虚血性心筋症、狭心症、先天性心疾患、心臓弁膜症、心筋炎、家族性肥大型心筋症、拡張型心筋症、急性冠症候群、アテローム血栓症、再狭窄等の心疾患;急性胃炎、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、十二指腸癌等の胃・十二指腸疾患;虚血性腸炎、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、Crohn病、単純性潰瘍、腸管ベーチェット病、小腸癌、大腸癌等の小腸・大腸疾患;急性胆嚢炎、急性胆管炎、慢性胆嚢炎、胆管癌、胆嚢癌等の胆道疾患;急性膵炎、慢性膵炎、膵癌等の膵疾患;急性腎炎、慢性腎炎、急性腎不全、慢性腎不全等の腎疾患;肺炎、肺気腫、肺線維症、間質性肺炎、特発性間質性肺炎、剥離性間質性肺炎、急性間質性肺炎、非特異的間質性肺炎、薬物誘発性肺疾患、好酸球性肺疾患、肺高血圧症、肺結核、肺結核後遺症、急性呼吸窮迫症候群、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患、肺塞栓症、肺膿症、塵肺、嚥下性肺炎肺線維症、急性上気道感染症、慢性下気道感染症、気胸、肺胞上皮に傷害が見られる疾患、リンパ管平滑筋種、リンパ性間質性肺炎、肺胞蛋白症、肺ランゲルハンス細胞肉芽腫症等の肺疾患;縦隔腫瘍、縦隔の嚢胞性疾患、縦隔炎等の縦隔膜疾患;横隔膜ヘルニア等の横隔膜疾患;胸膜炎、膿胸、胸膜腫瘍、がん性胸膜炎、胸膜中皮腫等の胸膜疾患;腹膜炎、腹膜腫瘍等の腹膜疾患;小児脳性麻痺を含む脳性麻痺症候群、無菌性髄膜炎、ギランーバレー症候群、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、重症筋無力症、モノニューロパシー、多発ニューロパシー、脊髄性筋萎縮症、脊椎障害、急性横断性脊髄炎、脊髄梗塞(虚血性脊髄障害)、頭蓋内腫瘍、脊椎腫瘍等の神経疾患;Alzheimer病、認知障害、脳卒中、多発性硬化症、Parkinson病等のCNS障害;線維筋性異形成、末梢動脈疾患(PAD)、閉塞性血栓血管炎(ビュルガー病)、川崎病(KD)等の末梢動脈疾患;深部静脈血栓症、慢性静脈不全、静脈炎後症候群、表在性静脈血栓症等の末梢静脈疾患;移植片対宿主病(GVHD)、続発性免疫不全症、原発性免疫不全疾患、B細胞の欠損、T細胞不全、BおよびT細胞複合欠損、食細胞欠損、古典経路における補体欠損、MBL経路における補体欠損、代替経路における補体欠損、補体調節蛋白欠損、補体レセプター欠損等の免疫不全疾患が挙げられる。
【0075】
これらのうち、間葉系幹細胞による治療効果が十分に得られることが確認されている肝疾患、心疾患、肺疾患、神経疾患、末梢動脈疾患、免疫不全疾患が好ましく、中でも、肝線維症、肝硬変、心筋梗塞、心不全、肺線維症、間質性肺炎、小児脳性麻痺、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、末梢動脈疾患(PAD)、移植片対宿主病(GVHD)の治療により好適に用いることができ、肝線維症、肝硬変、心筋梗塞、心不全、肺線維症、間質性肺炎にさらに好適に用いることができる。また、末梢血単核球による治療効果が十分に得られることが確認されている各組織の癌に好適に用いることができる。
【0076】
<疾患治療用キット>
本発明は、(A)細胞、及び(B)細胞懸濁用溶液を含有し、(B)細胞懸濁用溶液が、電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液である、疾患治療用キットも含む。本発明の疾患治療用キットは、上述した本発明の細胞医薬組成物を含むキットであり、(A)細胞、(B)細胞懸濁用溶液、その他本発明の細胞医薬組成物が含有し得る成分については細胞医薬組成物の項における説明を適用できる。本発明の疾患治療用キットによれば、細胞の状態を良好に保ち、生存率を長時間に渡って高く維持することができるため、様々な疾患に対して優れた治療効果を奏することができる。
【0077】
また、本発明の疾患治療用キットは、本発明の細胞医薬組成物、容器及びラベルを含むものであると表現することもできる。本発明の疾患治療用キットが含む適切な容器としては、特に限定されないが、例えば、細胞凍結用のクライオチューブ、細胞懸濁用溶液用のボトル、バイアル、試験管、透析バック等が挙げられる。これらの容器は、ガラス、金属、プラスチック又はこれらの組み合わせ等の多様な材料から形成されていてもよい。これらの容器上のラベルには、内容物である細胞、細胞懸濁用溶液等を説明する内容が記載されている。
【0078】
本発明の疾患治療用キットは、その他の添加剤、その他の薬剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、使用法を記載した添付文書を含めた、商業的、及び利用者の観点から望ましい他の材料を包含することができる。
【0079】
<細胞懸濁用溶液>
電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液である、細胞医薬組成物用の細胞懸濁用溶液も本発明の範囲内である。細胞医薬品の注射・点滴用の細胞懸濁用溶液として、Na+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液を採用することで、細胞の生存率を長時間に渡って高く維持することができることは、本発明者らが新たに見出した知見である。細胞懸濁用溶液の詳細については、細胞医薬組成物の項における(B)細胞懸濁用溶液の説明を適用できる。
【0080】
<疾患の治療方法>
本発明は、(A)細胞を、(B)細胞懸濁用溶液に懸濁して患者に投与する疾患の治療方法であって、(B)細胞懸濁用溶液が、電解質としてNa+、Cl-、K+及びCa2+を含み、かつ糖質を含まない、等張性の電解液であることを特徴とする治療方法も含む。本発明の治療方法によると、細胞の生存率を長時間に渡って高く維持することができるため、様々な疾患に対して優れた治療効果を奏することができる。本発明の疾患方法は、上述した本発明の細胞医薬組成物を用いた治療方法であり、(A)細胞、(B)細胞懸濁用溶液、その他本発明の細胞医薬組成物が含有し得る成分については細胞医薬組成物の項における説明を適用できる。
【実施例0081】
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
(脂肪由来間葉系幹細胞の調製)
ヒトドナーから同意を得た後、脂肪吸引法で得た皮下脂肪組織を生理食塩液で洗浄した。細胞外基質の破壊、及び細胞の単離を達成するために、コラゲナーゼ(Roche diagnostics社)(溶媒は生理食塩液)を添加し、37℃で90分間振倒し、分散した。続いて、この上記懸濁液を800gで5分間、遠心分離して間質血管細胞群の沈殿を得た。上記細胞の沈殿に間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)を加え、当該細胞懸濁液を400gで5分間遠心分離し、上清除去後に間葉系幹細胞用無血清培地(Rohto社)に再懸濁し、フラスコに細胞を播種した。細胞を37℃で数日間、5%CO2中で培養した。数日後に培養物をPBSで洗浄して、培養液中に含まれていた血球や脂肪組織の残存等を除去し、プラスチック容器に接着している間葉系幹細胞を得た。
【0083】
得られた脂肪由来間葉系幹細胞を遠沈管に分注し、400gで5分間、遠心分離し細胞の沈殿を得た。上清を除去した後、細胞凍結保存液(STEM-CELLBANKER(ゼノアック社))を適量加え懸濁した。当該細胞懸濁液を、クライオチューブに分注した後、フリーザー内で-80度にて保存後、液体窒素上の気相に移し、保存を継続した。
【0084】
15mL遠沈管(住友ベークライト株式会社,品番:MS-56150)に、リンゲル液(リンゲル液「オーツカ」、株式会社大塚製薬工場、Lot:K4K73)、KN2号輸液(2号液(脱水補給液))(株式会社大塚製薬工場、Lot:K6E92)、KN3号輸液(3号液(維持液))(株式会社大塚製薬工場、Lot:K6D96)、KN4号輸液(4号液(術後回復液))(株式会社大塚製薬工場、Lot:K6D80)及びフィジオ(登録商標)70(2.5%ブドウ糖加酢酸リンゲル液)(株式会社大塚製薬工場、Lot:M6D91)をそれぞれ5mLずつ分注した後に、凍結保存された脂肪組織由来間葉系幹細胞を湯浴(37±1℃)で急速融解後、脂肪組織由来間葉系幹細胞の細胞懸濁液を62.5μLずつ加えた。転倒混和により懸濁した後、室温で保管し、調製直後、2時間後、4時間後、及び7時間後に21Gの注射針付5mLシリンジで中層より1mL分取し、1.5mLチューブに移した。細胞懸濁液10μLに対して、トリパンブルー(Trypan Blue Stain(0.4%);Life technologies、15250-061)10μLを加えて、生細胞及び死細胞を区別して位相差顕微鏡(OLYMPUS、品番:CKX41SF)にて計測を行った。なお、細胞のカウントにはディスポーザブル細胞計算盤(WAKEN、品番:WC2-100)を用い、18区画カウントを5回行い、最大の数値と最少の数値を除いた3回の計測値の平均値を用いて、下記式により細胞生存率を算出した。なお、4時間後において細胞生存率が70%を下回ったものについては、7時間後の計測を行わなかった。各輸液の組成を下記表1に、細胞生存率の結果を下記表2に示した。
細胞生存率(%)=生細胞数/総細胞数×100
【0085】
【0086】
【0087】
KN2号輸液及びフィジオ(登録商標)70に脂肪由来間葉系幹細胞を懸濁した場合に、4時間後の細胞生存率が70%を下回った。KN3号輸液及びKN4号輸液に脂肪由来間葉系幹細胞を懸濁した場合に、7時間後において細胞生存率が70%を下回った。これに対して、リンゲル液に脂肪由来間葉系幹細胞を懸濁した場合には、7時間後においても細胞生存率が80%以上であった。以上の結果から、リンゲル液に脂肪由来間葉系幹細胞を懸濁することにより、細胞生存率を顕著に高い状態で長時間に渡って維持できることがわかった。
【0088】
[実施例2]
15mL遠沈管(住友ベークライト株式会社、品番:MS-56150)に、リンゲル液(リンゲル液「オーツカ」、株式会社大塚製薬工場、Lot:K4K73)、重炭酸リンゲル液(ビカネイト(登録商標)輸液、株式会社大塚製薬工場)をそれぞれ5mLずつ分注した後に、実施例1と同様に、凍結保存された脂肪由来間葉系幹細胞を湯浴(37±1℃)で急速融解後脂肪由来間葉系幹細胞の細胞懸濁液を62.5μLずつ加えた。転倒混和により懸濁した後、室温で保管し、調製直後、1時間後、2時間後及び4時間後の生細胞数及び死細胞数を実施例1と同様に測定して細胞生存率を算出し、調製直後に対しての細胞生存率を算出した。各リンゲル液の組成を下記表3に、細胞生存率の結果を下記表4に示した。
【0089】
【0090】
【0091】
リンゲル液だけでなく、重炭酸リンゲル液に脂肪由来間葉系幹細胞を懸濁した場合には、4時間後を含むすべての保存時間において、細胞生存率が90%程度と高かった。以上の結果から、リンゲル液及び重炭酸リンゲル液に脂肪由来間葉系幹細胞を懸濁することにより、細胞生存率を顕著に高い状態で長時間に渡って維持できることがわかった。
【0092】
[実施例3]
実施例1の脂肪由来間葉系幹細胞を骨髄由来間葉系幹細胞(ロンザ社製)に代え、リンゲル液(リンゲル液「オーツカ」、株式会社大塚製薬工場、Lot:K4K73)を用いて、同様に試験を行い、調製直後、2時間後、3時間後及び7時間後の生細胞数及び死細胞数を測定して細胞生存率を算出した。結果を下記表5に示す。
【0093】
【0094】
リンゲル液に骨髄由来間葉系幹細胞を懸濁した場合にも、7時間後において細胞生存率が95%以上であった。以上の結果より、リンゲル液に骨髄由来間質細胞を懸濁することにより、細胞生存率を顕著に高い状態で長時間に渡って維持できることがわかった。
【0095】
[実施例4]
実施例1の脂肪由来間葉系幹細胞を臍帯由来間葉系幹細胞(Lifeline Cell Technology、LifeLine(登録商標)_UCMSC、Lot.160907)に代え、リンゲル液(リンゲル液「オーツカ」、株式会社大塚製薬工場、Lot:K4K73)を用いて同様に試験を行い、調製直後、2時間後、4時間後及び6時間後の生細胞数及び死細胞数を測定し、実施例1と同様に細胞生存率を算出した。結果を下記表6に示す。
【0096】
【0097】
リンゲル液に臍帯由来間質細胞を懸濁した場合にも、6時間後において細胞生存率が90%以上であった。従って、リンゲル液は、臍帯由来間葉系幹細胞についても脂肪由来間葉系幹細胞と同様に、細胞生存率を顕著に高い状態で長時間に渡って維持できることがわかった。
【0098】
[実施例5]
実施例1の脂肪由来間葉系幹細胞を末梢血単核球細胞(ACCUCELL(登録商標)正常ドナー由来PBMC、Precision Bioservices社(PRECISION FOR MEDICINE社)製、Lot.13134-10)に代え、リンゲル液(リンゲル液「オーツカ」、株式会社大塚製薬工場、Lot:K4K73)を用いて同様に試験を行い、調製直後、2時間後、4時間後及び6時間後の生細胞数及び死細胞数を測定して細胞生存率を算出した。結果を下記表7に示す。
【0099】
【0100】
リンゲル液に末梢血単核球細胞を懸濁した場合にも、6時間後において細胞生存率が80%程度であった。したがって、リンゲル液は、末梢血単核球細胞についても脂肪由来間葉系幹細胞と同様に、細胞生存率を顕著に高い状態で長時間に渡って維持できることがわかった。
本発明の細胞医薬組成物は、細胞の状態を良好に保ち、その生存率を長時間に渡って高い状態で維持することができるため、様々な疾患に対して優れた治療効果が期待できる。