(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179815
(43)【公開日】2022-12-05
(54)【発明の名称】人工芝生用基布及び人工芝生
(51)【国際特許分類】
D03D 15/46 20210101AFI20221128BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20221128BHJP
D05C 17/02 20060101ALI20221128BHJP
E01C 13/08 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
D03D15/02 C
D03D1/00 Z
D05C17/02
E01C13/08
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086564
(22)【出願日】2021-05-22
(71)【出願人】
【識別番号】000185178
【氏名又は名称】小泉製麻株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127166
【弁理士】
【氏名又は名称】本間 政憲
(74)【代理人】
【識別番号】100187399
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 敏文
(72)【発明者】
【氏名】山澤 富雄
(72)【発明者】
【氏名】近久 英樹
【テーマコード(参考)】
2D051
4L044
4L048
【Fターム(参考)】
2D051HA01
2D051HA02
2D051HA06
2D051HA10
4L044CA10
4L044CB02
4L044CB07
4L048AA14
4L048AA15
4L048AA19
4L048AA20
4L048AA34
4L048AB16
4L048AB17
4L048AB18
4L048AB28
4L048BA02
4L048CA01
4L048CA02
4L048CA03
4L048DA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】比較的簡易な素材や構造に基づいて、高強度で軽量であり、かつ、パイル糸の抜け出し、へたりを防止してパイル糸を堅固に保持しつつ長期に使用することが可能な人工芝生用の基布及びかかる基布を用いた人工芝生を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を延伸したフラットヤーンを経糸110及び緯糸120として織成した基布100であって、緯糸120は、経糸110よりも広幅で薄肉であり、かつ、フラットヤーンとステープルとが結合した複合糸であることを特徴とする人工芝生用積層基布。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を延伸したフラットヤーンを経糸及び緯糸として織成した基布であって、前記緯糸は、前記経糸よりも広幅で薄肉であり、かつ、前記フラットヤーンとステープルとが結合した複合糸であることを特徴とする人工芝生用積層基布。
【請求項2】
前記ステープルはスライバーであり、かつ、前記複合糸は前記フラットヤーンと前記スライバーを撚り合わせた複合糸であることを特徴とする請求項1に記載する人工芝生用積層基布。
【請求項3】
前記複合糸は、前記フラットヤーンを芯材とし、前記ステープルを鞘材として、カバー糸を巻き付けることによって前記芯材と前記鞘材を結合させることとを特徴とする請求項1に記載する人工芝生用積層基布。
【請求項4】
前記ステープルを構成する単繊維の繊度を6.6dt以上とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載する人工芝生用積層基布。
【請求項5】
請求項1に記載する積層基布にパイル糸をタフティング加工した後に前記積層基布裏面で前記パイル糸と前記緯糸を接着加工したことを特徴とする人工芝生。
【請求項6】
熱可塑性樹脂を延伸したフラットヤーンを経糸とし、前記熱可塑性樹脂を延伸した前記経糸よりも広幅で薄肉なフラットヤーンとステープルを結合して複合糸である緯糸とし、前記経糸と前記緯糸を製織して製造することを特徴とする人工芝生用積層基布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に基布上に多数の合成樹脂のパイル糸を殖設して形成される人工芝生及びそれを構成する基布に関する。
【背景技術】
【0002】
庭、ベランダ、公園、店舗等に加え、野球、サッカー等のスポーツ競技場においても広く人工芝生が使用されている。
【0003】
比較的運動量の高い用途に用いられる人工芝生は、一般的に、織物より成る基布にパイル糸をタフト加工により植設し、その後、ラテックス等の接着剤でパイル糸を基布裏側に接着固定することにより作成される。パイル糸素材としてはナイロン、塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン等が使用され、その形状はモノフィラメント、テープ、スプリットテープが多く使用されている。又、基布は、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂のフラットヤーンを平織りしたものが多く用いられる。
【0004】
しかし、ポリプロピレン製フラットヤーンによる基布とラテックス等の接着剤では十分な固着力を得られず、植設されたパイル糸が動いたり抜け落ちたりすることがある。
このため、基布の下(裏側)に不織布層を重ねた基布を作成し、タフト加工により裏側に配置されたパイル糸と不織布とを合わせて接着固定することにより、パイル糸と不織布を介した基布との固着力を高め、激しい運動にも使用可能とした提案がある。(特許文献1)
【0005】
この発展形として、ポリプロピレン製基布の上にポリエステル中心の短い繊維を薄く何層も重ねてシート状に広げた不織布(ウェブ)を重ねた基布を作成し、鈎付きのニードルによって不織布(ウェブ)を機械的に押し込むこと(ニードルパンチング)で、不織布の一部を基布の下(裏側)に多数突き出させた基布とする技術がある(「FLW基布」と称されている。)。タフト加工によって基布裏側に配置されたパイル糸とニードルパンチングにより基布の裏側に突き出た不織布の一部である多数のステープル(短繊維)とフラットヤーン(織物部分)が一体的にラテックスで接着されることから、パイル糸が強く固着される効果を有する。このため、現在きわめて一般的に用いられている。
【0006】
FLW基布の技術によりパイル糸の固着力が強化される一方、鈎付ニードルによるニードルパンチングすることにより基布を構成する多数の緯糸、経糸を破断してしまい、基布の強度が著しく低下するという問題があった。また、ステープルを重ねて均一に分布することや裏側に突き出させるステープルの量を確保するための基布の単位面積当たりの針の数、突き刺す深さの最適設計等の困難性から、ウェブ量の厚みが過大になりがちで軽量化の要請に答えにくいという問題があった。
【0007】
別の技術として、ニードルパンチングによる基布の強度低下を防止するため、多数の小径線状体が互いに結合した集合糸からなる基布用線状体を織成してなる耐久人工芝用基布の提案がある。(特許文献2)タフティング針が挿通されたときには、小径線状体が分裂してパイル糸を容易に通すことができ、線状体の破断、強度低下を防止できる。一方、集合糸を作成するために、小型線状体を熱接合する必要があり、そのため小型線状体は融点の低い樹脂を被覆した構造となっている。したがって、基布用材料の製造が複雑化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭54-32357
【特許文献2】特開2005―15972
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題に対応すべく提案するものである。すなわち、比較的簡易な素材や構造に基づいて、高強度で軽量であり、かつ、パイル糸の抜け出し、へたりを防止してパイル糸を堅固に保持しつつ長期に使用することが可能な人工芝生用の基布及びかかる基布を用いた人工芝生を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明により、熱可塑性樹脂を延伸したフラットヤーンを経糸及び緯糸として織成した基布であって、前記緯糸は、前記経糸よりも広幅で薄肉であり、かつ、前記フラットヤーンとステープルとが結合した複合糸であることを特徴とする人工芝生用積層基布が提供される。
【0011】
一般に、糸とは、「繊維を細く長くひきのばして、撚りをかけたもの」とされ、スパン糸とフィラメント糸に分けられるとされるが、本願発明のシートを構成する経糸及び緯糸として用いられるものは、熱可塑性樹脂のフィルムをスリット等した後に延伸された「フラットヤーン」であり、断面視長方形のテープ形状を呈している。経糸及び緯糸の素材は、特に限定されないが、強度の点からポリプロピレンが好ましい。
【0012】
緯糸の幅は経糸より広幅であり、厚みは経糸よりも薄い。本発明に係る積層基布にパイル糸を植設する際に、パイル糸と積層基布を一体化する機能は主に緯糸が担うように役割を明確化するためである。かかる構成により、タフト加工されたパイル糸は主に緯糸を貫通することとなり、容易に貫通することが可能となる。パイル糸を容易に貫通することにより強度の低下も少なく、経糸がパイル糸を保持する機能(把持力)を担うため、積層基布全体の強度とパイル糸の把持力は担保されることとなる。具体的な経糸及び緯糸の幅、厚み、経糸と緯糸の各寸法の比率は適宜選択され、特に限定されない。
【0013】
本発明における緯糸は、熱可塑性樹脂を延伸したフラットヤーンそのものではなく、フラットヤーンとステープルとが結合した複合糸である。本発明における「ステープル」とは、短繊維の集合体を言い、紡績したものも、紡績していないわた状のものも含まれる。素材は綿、混紡糸、ポリエステル、アクリル等から選択される。短繊維の集合体なので、集合体を構成する各繊維の端部は周囲に伸びる。本発明においては、集合体を構成する単一の短繊維を「単繊維」と、周囲に伸びている部分を「毛羽」と称する。
【0014】
製織法は、平織り、綾織が一般的に使用され好ましいが、特に限定されるものではなく、朱子織等他の製織法も用いられる。
【0015】
フラットヤーンとステープルとの「結合」には、フラットヤーンとステープルが全体的に均一に撚られる態様のものや、引き揃えられたステープルを細い糸でフラットヤーンに括り付ける態様のものや、ステープル自体がフラットヤーンに巻きついていく態様のものが含まれる。
【0016】
また、前記ステープルはスライバーであり、かつ、前記複合糸は前記フラットヤーンと前記スライバーを撚り合わせた複合糸であることを特徴とする人工芝生用積層基布が提供される。
【0017】
本発明における「スライバー」とは、綿、混紡糸、ポリエステル、アクリル等から選択された素材の短繊維をときほぐして各繊維を分離し、まっすぐに引き延ばし平行に揃え太いひも状にして直線状に並行に揃えたもの及びギル工程後のダブリング及びドラフトを繰り返した後に太さを減じ、繊維の平行度を良くし、均整な状態となったものを言う。上述の「ステープル」の中に含まれる概念である。
基本的に撚りはかけられておらず、スライバーの周囲にはスライバーを構成する単繊維の毛羽が不規則に伸びている。なお、粗紡工程後のゆるく撚りのかかったものも、毛羽が周囲に不規則に伸びていればスライバーに含まれる。スライバーは、紡績における中間工程のものであり、精紡工程後の撚りをかけた「糸」は含まれない。
【0018】
フラットヤーンとスライバーを「撚り合わせた」とは、両者を引き揃えて同時に均一の撚りをかけることを言い、「合撚」とも称する。合撚の加工は、リング精紡機等を用いて精紡する従来の方法により行われることが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0019】
また、前記複合糸は、前記フラットヤーンを芯材とし、前記ステープルを鞘材として、カバー糸を巻き付けることによって前記芯材と前記鞘材を結合させることとを特徴とする人工芝生用積層基布が提供される。
【0020】
フラットヤーンとスライバーを撚り合わせずに平行に引き揃えつつ、細いカバー糸で巻き付ける方法である。カバーリング精紡機を用いて行われることが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0021】
また、前記ステープルを構成する単繊維の繊度を6.6dt以上とすることを特徴とする人工芝生用積層基布が提供される。なお、「dt」はデシテックスの略であり、繊維や糸の太さを表す単位である。
【0022】
また、上述の積層基布にパイル糸をタフティング加工した後に前記積層基布裏面で前記パイル糸と前記積層基布を接着加工したことを特徴とする人工芝生が提供される。
【0023】
パイル糸と積層基布が接着加工される場合は、毛羽を含むステープル及びステープルと結合しているフラットヤーンもパイル糸と一体的に接着加工されることとなる。接着はラテックス等従来の方法により行われる。
【0024】
また、熱可塑性樹脂を延伸したフラットヤーンを経糸とし、前記熱可塑性樹脂を延伸した前記経糸よりも広幅で薄肉なフラットヤーンとステープルを結合して複合糸である緯糸とし、前記経糸と前記緯糸を製織して製造することを特徴とする人工芝生用積層基布の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0025】
従来の主要な人工芝生用基布であるFLW基布は、パイル糸と基布を一体化するためのニードルパンチングにより、基布を構成する糸を破断し基布の強度を大きく低下させるという課題があった。本発明では、ニードルパンチングのような基布を破壊する方法によらずに基布とパイル糸の一体化を図った。基布を破壊することはないので、基布の強度を高く維持でき、長期間使用することができる。基布の強度低下を計算する必要がないので、過大な安全代を見込む必要がない。
【0026】
緯糸にステープルを結合することによって、フラットヤーンと毛羽を有するステープルとパイル糸とを一体的に接着することができ、パイル糸は積層基布に強固に保持されることとなる。したがって、パイル糸の抜けやへたりを防止することができる。
【0027】
本発明では、経糸は緯糸に比べて幅狭で厚肉なので、パイルは経糸に突き刺さらずに経糸と経糸の間を通る可能性が高くパイルによって経糸の強度保持に影響が及ぶ可能性は低い。加えて、厚肉であることにより、経糸は基布の強度保持という役割を果たすことができる。一方、緯糸は幅広で薄肉なので、パイルは緯糸を貫通する可能性が高く、薄肉故に抵抗少なく貫通できる。したがって、パイルと緯糸との一体性が高くなる。上述の接着における一体化とパイル糸の緯糸貫通における一体化の相乗効果によって、緯糸とパイル糸の結びつきの強化が進み、パイル糸は積層基布により強固に保持されることとなる。
【0028】
FLW基布では、不織布を重ねる必要があり、かつ、ニードルパンチングにより基布裏側に突き出す分の質量減を見込んで余分に重ねる必要がある。一方、本発明では不織布そのものが不要であることから、強度とのバランスを考慮しつつ人工芝生を大きく軽量化することが可能である。
【0029】
フラットヤーンとステープルを並べてリング精紡機等で撚り合わせると、ねじり棒のように全体として均一に撚りが生じることとなる。そうすると、緯糸は断面視で極めて薄い長方形を呈しているので、撚りによって断面形状自体が湾曲したり、楕円状に丸まっていく変化が生じる場合がある。この場合、ステープルの相当部分は湾曲するフラットヤーンの内側に取り込まれてしまうこととなり、人工芝生作成の際にステープルの毛羽が外側に現れず、ステープルとパイル糸とを一体化に接着加工することができずに積層基布のパイル糸保持力が低下する。
【0030】
このような問題に対応するために、フラットヤーンと結合するものをスライバーに限定した。スライバーであれば、撚って糸にした状態が除かれるので、広い範囲に多数の毛羽が立つこととなる。したがって、スライバーの相当部分が湾曲するフラットヤーンの中に取り込まれたとしても、フラットヤーンからはみ出る多数の毛羽とパイル糸とを一体的に接着加工することができ、積層基布のパイル糸保持力の低下を防止することができる。
【0031】
フラットヤーンを芯材とし、ステープルを鞘材として引き揃え、カバーリング糸でフラットヤーンとステープルを取り巻いて巻き付けることによりフラットヤーンとステープルを一体化させることができる。ステープルとパイル糸とを一体的に接着することができ、パイル糸は積層基布に強固に保持されることとなる。
【0032】
フラットヤーンとステープルを合撚すると、上述のようにフラットヤーンが湾曲する場合がある。カバー糸を巻き付ける場合は、フラットヤーンを撚ることはないのでフラットヤーンはあまり湾曲しない。したがって、ステープルはフラットヤーンの中に巻き込まれることがなく、撚った糸の状態であっても毛羽を接着加工に活かすことができる。
又、湾曲せず薄く平坦な形状を維持することができるので、植設する際にパイル糸はフラットヤーン(緯糸)を高確率でかつ容易に貫通することができ、緯糸とパイル糸の結びつきの強化を確保することができる。また、フラットヤーンが変形しないことから、目ずれを起こす可能性も低い。
【0033】
ステープルとパイル糸を一体的に接着する場合、接着強度を高くするためには、ステープルの毛羽が接着剤の中にできるだけ深く入り込んでいることが重要である。毛羽が接着剤の中に突き刺さった態様で立体的に接着されている場合は、いわゆるくさび効果となって、接着強度が高まる。一方、毛羽が寝た状態で接着されている場合は、毛羽と接着剤の接触部分が平面的になり、外力によって離脱しやすくなる。毛羽が接着剤の中に突き刺さった態様にするためには、毛羽はあまり細くならないようにする必要がある。ステープルを構成する短繊維の繊度を6.6dt以上とすることにより、毛羽が接着剤の中に突き刺さり、くさび効果を発揮することができる。ステープルがスライバーである場合は、より広い範囲に多数の毛羽が立つのでくさび効果をより有効に発揮できる。
【0034】
上述の積層基布にパイル糸を植設した人工芝生は、基布の強度が高く長期間使用することができる。又、パイル糸は積層基布に強固に保持されるので、パイルの抜けやへたりを防止することができる。
【0035】
本発明に係る製造方法により、ニードルパンチングによる強度の低下やウェブ(積層不織布)の目減りに基づいて、ウェブ量が不足したり、不足分を過度に織り込んだ無駄な積み重ねを行ったりすることなく、積層基布を製造することができる。さらに、本発明に係る製造方法により、強度の低下がなく軽量でパイル糸が積層基布に強固に保持される積層基布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】本発明に係る積層基布を用いた人工芝生の模式図である。(経糸省略)
【
図3】合撚方式による積層基布製造に関する模式図である。
【
図4】合撚方式によって作成された緯糸の模式図である。
【
図5】合撚方式によって作成された緯糸の写真である。
【
図6】合撚方式による緯糸を用いて製造された積層基布(裏面)の写真である。
【
図7】カバーリング方式による積層基布製造に関する模式図である。
【
図8】カバーリング方式によって作成された緯糸の模式図である。
【
図9】カバーリング方式によって作成された緯糸の写真である。
【
図10】カバーリング方式による緯糸を用いて製造された積層基布(裏面)の写真である。
【
図11】ニードルハンチング前のFLW基布の模式図である。
【
図12】ニードルハンチング中のFLW基布の模式図である。
【
図13】FLW基布を用いた人工芝生の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に本発明に係る積層基布100を従来技術(FLW基布)と比較しながらより詳細に説明する。
【0038】
テニスコート、サッカー練習場や野球場等には、ポリプロピレン、ポリエステル等を経糸、緯糸に使用し製織してなる基布にタフト加工でパイル糸を植設してラテックス等で接着した人工芝生が使用される。過酷な使用状況に対応するためには、基布自体の物性が高強度であること及び基布とパイル糸が一体的に固定されていることが重要である。他に、人工芝生として敷き込まれた後に経時的な寸法変化を少く保つため伸度が低く、熱収縮が低い事が好ましい。
【0039】
従来技術について説明する。
図11及び
図12は従来技術による人工芝用積層基布(FLW基布)200の模式図である。ポリプロピレン製テープ等で構成の基布とラテックスとでは十分な接着強度は得られないため、基布の上に重ねたウェブの一部を一体的に接着することで接着強度を向上させている。
【0040】
図11は、ニードルパンチング前の基布の状態を示す。経糸210と緯糸220よりなる織物の上にポリエステルのステープル(短繊維)を均等分布させた複数の不織布より成るウェブ230が重ねられている。
図12は、ニードルパンチングを行っている状態を示している。ウェブの上からニードルパンチングしてステープルを基布と絡ませ一部のステープルを基布の裏側に飛び出させている。パンチングの調整に基づき、飛び出すステープルの量は総ウェブ量の数%程度に制御される。調整は、ぺネ数(n/cm
2:単位当たりの突刺し数)と針深度(基布を突刺すニードルの深さ)により行う。
【0041】
図13は、パイルを殖設したFLW基布200の模式図である。タフト加工において前述のFLWの裏側からパイルを突き刺し、少量飛び出したステープルとパイルの裏側にラテックスを塗布することでステープルとパイルと基布本体(経糸、緯糸)が一体的に接着されることとなる。パンチングによる基布の破壊は不可避であるものの、破壊を最小限とするため、出来る限り裏に出るステープル量を少なくしつつ均一に分布させることが必要である。
【0042】
図1は本発明にかかる積層基布100の模式図である。緯糸120はフラットヤーン121とスライバー122が結合した複合糸である。上述のように、スライバー122は撚られておらず、スライバーの周囲にはスライバーを構成する単繊維の一部である毛羽123が不規則に伸びている。スライバーの繊度は300dt~2000dtが好ましく、毛羽123は上述のくさび効果を発揮するためには単繊維の繊度は6.6d以上であることが好ましいが、いずれも限定されるものではない。毛羽を有する複合糸である緯糸123は製織され、経糸110と共に本発明にかかる積層基布100を構成する。
【0043】
フラットヤーン121とスライバー122の結合方法としては、フラットヤーン121とスライバー122を共に巻き付ける合撚方式がある。スライバー122がフラットヤーン121に巻きつけられることから織られた基布には一定の分布で毛羽123が発現することになる。スライバー122の素材は接着材であるラテックスとの関係で任意に選択することができる。
【0044】
図3は、フラットヤーン121とスライバー122を同時に投入し、リング精紡機131を用いた撚り合わせによって積層基布1を製造する方法(合撚方式)を示す。また、
図4は、合撚方式による緯糸130の模式図である。フラットヤーン121とスライバー122は交互に巻き付けられ、スライバー122から伸びた毛羽123は一定の分布で緯糸130の表面に現れる。幅広で薄いテープ状のフラットヤーン121は撚り合わせによって折れ曲がった形状に変形する場合がある。その際にスライバー122が折れ曲がりの内側に巻き込まれる可能性がある。しかし、本発明にかかるスライバーは撚っていないため、周囲に毛羽123を伸ばした状態で巻き込まれることとなる。したがって、毛羽は折れ曲がりの内側に留まらずにパイル糸と一体となることができ、ラテックスに入り込んでくさび効果を発揮できることとなる。
【0045】
他の結合方法として、フラットヤーン121とステープル(スライバー122を含む)を並置して細い糸で両者を括り付ける方法(カバーリング方式)もある。
図7及び
図8は、フラットヤーンとスライバー122を結合させた形態である。
図7は、フラットヤーン121とスライバー122を同時に投入し、カバーリング精紡機141により、撚り合わせずにカバー糸142を用いて両者を括り付ける方法を示す。また、
図8は、カバーリング方式による緯糸140の模式図である。カバーリング方式ではフラットヤーン121とスライバー122が交互に巻き付けられることはなく、スライバーはフラットヤーンと並置してカバー糸によって一体化することとなる。ただし、カバー糸の括り付けや製織機への供給の際の撚れがあるため、スライバーの側が常に積層基布の裏側にあるというわけではない。
【0046】
なお、本発明にかかるフラットヤーン121とステープル(スライバー122を含む)の結合方法は上述の2つの方法が好ましいが、それらに限定されるわけではない。
【0047】
図2は本発明にかかる積層基布を用いた人工芝生の模式図である。経糸は省略している。積層基布にパイル糸310を殖設した後に接着加工すると、基布裏側に伸びている毛羽123とパイル糸310が一体的に接着される。一定の繊度を有する毛羽310は、くさび効果で接着剤の中に入り込んで強固に接着される。毛羽は緯糸120を構成するスライバー122の一部であり緯糸120を構成する不可分の部分といえるので、パイル糸310と毛羽123を含む緯糸120は一体的に接着されることとなる。FLW基布では、パイル糸310と一体的に接着されるのは不織布の飛び出た一部であり、緯糸(又は経糸)の一部ではない。パイル糸と基布本体とは間接的な繋がりである。この点、本発明に係る積層基布本体はパイル糸と直接繋がっており、より強固に把持される。
[実施例]
【0048】
以下、実施例、及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。尚、実施例、及び比較例に掲載した物性測定値は以下に示す方法によって行ったものである。
1)定長機
浅野機械(株)製 検尺器(10m)
2)繊度測定(電子天秤:10mの重さ)
(株)島津製作所製 ELECTRONIC BALANCE TYPE UX2200H
3)強度・伸度
糸用:浅野機械製 300N
布用:(株)島津製作所製 AUTOGRAPH AGS-X 5KN
4)熱収縮
恒温乾燥器 DKN402
5)撚糸数
25cm検撚器
【実施例0049】
ポリプロピレン製でブラックの繊度1280dtのフラットヤーン(幅:4.4mm、厚み:30μm)とポリエステル製で繊度1562dt(単繊維の繊度8.8dt)のスライバー(繊維長84mm)をリング精紡機に挿入し、撚糸回数160回/mで合撚して本発明にかかる緯糸を作成した。また、ポリプロピレン製でブラックのフラットヤーン550dt(幅:1.1mm、厚み:50μm)を経糸とした。当該緯糸と経糸の密度を、経24本/2.54cm、緯13本/2.54cmとした平織りで製織して本発明にかかる積層基布を作成した。
【0050】
実施例1の形態を示す。
図5は、リング精紡機131を用いて撚り合わせた緯糸130の写真を示す。芯部(中心)に黒いフラットヤーン121があり、フラットヤーン121をスライバー122で包み込む態様となっている。
【0051】
図6は、合撚方式による緯糸を用いて製織した積層基布100の写真を示す。縦方向に伸びているのが経糸110、横方向に伸びているのが緯糸130である。緯糸からは多数の毛羽123が伸びている。後述するFLW基布のステープルの出現状況(写真15)と比較すると、本発明にかかる合撚方式による積層基布の方がむしろ多数の毛羽が出現している。
【0052】
実施例1にかかる測定条件は強度、伸度は布幅5cm、チャック間20cm、熱収縮は130℃、15分間である。製織した積層基布の物性は後述する。