(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179822
(43)【公開日】2022-12-05
(54)【発明の名称】ヒト長期造血幹細胞マーカー
(51)【国際特許分類】
C07K 14/705 20060101AFI20221128BHJP
C12N 5/00 20060101ALI20221128BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20221128BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20221128BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20221128BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20221128BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221128BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221128BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20221128BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20221128BHJP
【FI】
C07K14/705
C12N5/00
C12N5/0789
C12Q1/02
C12N1/00 G
A61K35/28
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P31/18
A61P7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040623
(22)【出願日】2022-03-15
(62)【分割の表示】P 2021542548の分割
【原出願日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/025915
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021089502
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】516322980
【氏名又は名称】ネクスジェン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】宮西 正憲
(72)【発明者】
【氏名】宮塚 功
(72)【発明者】
【氏名】リー マイ アン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QA20
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR77
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB64
4C087DA14
4C087NA05
4C087ZA51
4C087ZA55
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZC55
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】造血幹細胞を濃縮または単離するためのマーカー並びにその使用を提供する。
【解決手段】CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される、造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカーを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせからなる、造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカー。
【請求項2】
CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上からなる、請求項1に記載の造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカー。
【請求項3】
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現様式によって特定される、単離された造血幹細胞または造血幹細胞が濃縮された造血幹細胞含有細胞集団。
【請求項4】
CD48(-)およびCD34(+)の組み合わせ、CD48(-)およびc-Kit(+)の組み合わせ、ならびにCD48(-)、CD34(+)およびc-Kit(+)の組み合わせから選択される1以上の発現様式によって特定される、請求項3に記載の単離された造血幹細胞または造血幹細胞が濃縮された造血幹細胞含有細胞集団。
【請求項5】
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現様式を指標として細胞を単離または濃縮する工程と
を含む、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法。
【請求項6】
CD48(-)およびCD34(+)の組み合わせ、CD48(-)およびc-Kit(+)の組み合わせ、ならびにCD48(-)、CD34(+)およびc-Kit(+)の組み合わせから選択される1以上の発現様式を指標とする、
請求項5に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法。
【請求項7】
さらに修飾を含む、請求項1または2に記載のマーカーにより同定、単離、または濃縮された造血幹細胞、または、請求項3または4に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団、または請求項5または6のいずれか一項に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団。
【請求項8】
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
各細胞における各細胞のCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を測定する工程と
を含む、前記細胞集団における造血幹細胞の含有量および/または含有量の変化を評価する方法。
【請求項9】
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
前記造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD48、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、前記細胞集団の品質を試験する工程と
を含む、造血幹細胞を含む細胞集団の試験方法。
【請求項10】
前記品質が造血能維持能力、移植適合性、または保存安定性である、請求項9に記載の試験方法。
【請求項11】
被験者由来の造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を取得する工程と、
被験者の疾患予後予測または健康状況予想のために、前記マーカーの発現量を対照と比較する工程と
を含む、造血幹細胞を含む細胞集団の試験方法。
【請求項12】
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
候補化合物により造血幹細胞を含む細胞集団を処理する工程と、
候補化合物により処理された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、候補化合物を選択する工程と
を含む、造血幹細胞の特性を修飾する化合物のスクリーニング方法。
【請求項13】
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
調整された培養条件により造血幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
調整された培養条件により培養された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として培養条件を決定する工程と
を含む、造血幹細胞の特性を修飾する培養条件の調整方法。
【請求項14】
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
評価対象の構成を有する培地、または評価対象の培養補助添加物を含む培地により、造血幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
培養された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として培養培地または培養補助添加物の構成を決定する工程と、
上記決定された構成を有する培養培地または培養補助添加物を製造する工程と
を含む、造血幹細胞の特性を修飾する培養培地または培養補助添加物を製造する方法。
【請求項15】
前記造血幹細胞を含む細胞集団が、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞である、請求項5~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記造血幹細胞を含む細胞集団が、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団。
【請求項17】
細胞集団を準備する工程と、
被験化合物により細胞集団を処理する工程と、
候補化合物により処理された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、候補化合物を選択する工程と
を含む、造血幹細胞を誘導する化合物のスクリーニング方法。
【請求項18】
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現量を定量または検出する試薬を含む、造血幹細胞を同定、検出、単離または濃縮するための組成物またはキット。
【請求項19】
請求項1または2に記載のマーカーにより同定、単離、または濃縮された造血幹細胞、または、請求項3、4および7のいずれか一項に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団、または請求項5または6に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を分析することで得られた物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴の組み合わせを特定する方法。
【請求項20】
請求項1または2に記載のマーカーにより同定、単離、または濃縮された造血幹細胞、または、請求項3、4および7のいずれか一項に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団、または請求項5または6に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を分析することで得られた物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴の組み合わせを指標として造血幹細胞を同定する分類器を製造する方法。
【請求項21】
請求項1または2のいずれか一項に記載のマーカーにより同定、単離、または濃縮された造血幹細胞、または、請求項3、4および7のいずれか一項に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団、または請求項5または6に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を含む、造血幹細胞を投与することで改善または予防される疾患または障害を予防または治療するための医薬。
【請求項22】
造血幹細胞を投与することで改善または予防される疾患または障害が、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ゴーシェ病、ファブリー病、ムコ多糖症、HIV、ADA-SCID、X-SCIDまたはサラセミアである、請求項21に記載の医薬。
【請求項23】
造血幹細胞を投与することで改善または予防される疾患または障害が、慢性肉芽腫症(CGD)または副腎白質ジストロフィー(ALD)である、請求項21に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、造血幹細胞を濃縮または単離するためのマーカー並びにこれを利用する方法、前記マーカーによって単離または濃縮された細胞または細胞集団、前記細胞または細胞集団を利用する方法、前記細胞または細胞集団を含有する医薬、前記細胞または細胞集団を利用して得られる分類器に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞、例えば造血幹細胞(HSC)は、自己複製能と多分化能という生物学的機能を有することが知られている。自己複製能と多分化能を有する幹細胞の中でも、これらの幹細胞を特徴づける生物学的機能を長期に亘って維持する細胞と、比較的短期間にその機能を失う幹細胞が存在することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
長期間、例えば生物個体の生涯に亘って自己複製能と多分化能を維持する幹細胞は、その自己複製能を利用して大量培養を行うことが可能であり、また、その多分化能を利用して、様々な細胞に分化させることができる。このような特性を有する幹細胞は再生医療を実用化する際の切り札となり得る細胞であると考えられている。しかしながら、これらの幹細胞はいずれも生体内における存在量が極めて希少な細胞であって、生体から容易に同定、単離することができない。
【0004】
造血幹細胞(Hematopoietic stem cell:HSC)は、主に骨髄内に存在し、自己複製能及び多分化能をもつ血液細胞と定義され、造血幹細胞移植などに利用されている。長期に亘って幹細胞の性質を維持する長期造血幹細胞などの質の良い造血幹細胞を適切に単離することができれば、当該造血幹細胞をin vitroで大量に増殖させることが考えられるが、ヒトにおいて長期造血幹細胞(long-term HSC:LT-HSC)の適切な単離を可能とする特異的マーカーは知られていなかった。
【0005】
従来、造血幹細胞の細胞表面に特異的に発現する分子を同定し、特定の特性を有する造血幹細胞をこれら分子の組み合わせで同定する試みがなされている。しかしながら、このような手法においては、特定の特性を有する造血幹細胞を同定するための「至適なモノクローナル抗体の組み合わせ」を、試行錯誤を通じて見出す必要があり、非常に熟練した技術が必要とされてきた。そして、試験すべきモノクローナル抗体の組み合わせの多さなどに起因して、一般的にこのような開発手法には膨大な時間と費用が必要とされる。実際に、1988年にマウスの造血幹細胞(HSC)が発見されて以来、造血幹細胞の特性を有する細胞の中でも、特にマウス個体の生涯に亘って自己複製能および多分化能を維持する特徴を有する長期造血幹細胞が発見、同定されるまでには、30年もの年月が必要であった(非特許文献2)。一方、マウスとヒトでは、造血幹細胞表面において特異的に発現する分子マーカーが異なることが示唆されており、ヒトにおける長期造血幹細胞を濃縮、同定し得るマーカーを見出すことが望まれていた。
【0006】
これまでにも、長期造血幹細胞を同定、単離するために、長期造血幹細胞表面に特異的に発現している分子の組み合わせを探索する試みがなされている。例えば、CD34陽性の造血幹細胞集団から造血幹細胞をさらに濃縮するために、臍帯血中のCD34陽性、CD38陰性、CD45RA陰性画分からThy1陽性の画分を単離することが提案されているが、当該画分も依然として、造血幹細胞の特性を維持する能力において様々に異なる細胞を含有していることが報告されている(非特許文献3)。このような細胞表面分子の組み合わせの探索には一般に細胞機能試験を行うための多大な作業を伴う試行錯誤が必要とされている(非特許文献4)。したがって、長期造血幹細胞を特定するための、新たな細胞表面分子の組み合わせを特定することが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本輸血細胞治療学会誌、2006年、Vol.52、No.5、pp.583-588
【非特許文献2】nature、2016年、Vol.530,pp.223-227
【非特許文献3】Science、2011年、Vol.333,pp.218-221
【非特許文献4】Cell Stem Cell、2007年、Vol.1,pp.635-645
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、造血幹細胞を濃縮または単離するためのマーカー並びにその使用を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本開示はCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせからなる、長期造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカーを提供する。
【0010】
一態様において、本開示はCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現様式によって特定される、単離された造血幹細胞または造血幹細胞が濃縮された造血幹細胞含有細胞集団を提供する。
【0011】
一態様において、本開示は、
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現様式を指標として、細胞を単離または濃縮する工程と
を含む、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法を提供する。
【0012】
別の態様において、本開示は、
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
各細胞における各細胞のCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせマーカーの発現量を測定する工程と
を含む、前記細胞集団における造血幹細胞の含有量および/または含有量の変化を評価する方法を提供する。
【0013】
別の態様において、本開示は、
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
前記造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、前記細胞集団の品質を試験する工程と
を含む、造血幹細胞を含む細胞集団の試験方法を提供する。
【0014】
別の態様において、本開示は、
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
前記造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、前記細胞集団の移植適合性を試験する工程と
を含む、造血幹細胞を含む細胞集団の試験方法を提供する。
【0015】
別の態様において、本開示は、
被験者の疾患予後予測または健康状況予想のために、
患者由来の造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を取得する工程と、
前記マーカーの発現量を対照と比較する工程と
を含む、造血幹細胞を含む細胞集団を試験する方法を提供する。
【0016】
別の態様において、本開示は、
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
候補化合物により造血幹細胞を含む細胞集団を処理する工程と
候補化合物により処理された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、候補化合物を選択する工程と
を含む、造血幹細胞の特性を修飾する化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0017】
別の態様において、本開示は
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
調整された培養条件により造血幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
調整された培養条件により培養された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、培養条件の調整方法を決定する工程と
を含む、造血幹細胞の特性を修飾する培養条件の調整方法を提供する。
【0018】
別の態様において、本開示は
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
前記細胞集団に含まれる細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現量を指標として、造血幹細胞の特性を修飾するように培養条件を調整する工程と
を含む、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法を提供する。
【0019】
別の態様において、本開示は
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
評価対象の構成を有する培地、または評価対象の培養補助添加物を含む培地により、造血幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
培養された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせマーカーの発現量を指標として培養培地または培養補助添加物の構成を決定する工程と、
上記決定された構成を有する培養培地または培養補助添加物を製造する工程と
を含む、造血幹細胞の特性を修飾する培養培地または培養補助添加物を製造する方法を提供する。
【0020】
別の態様において、本開示は、
細胞集団を準備する工程と、
被験化合物により細胞集団を処理する工程と、
候補化合物により処理された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせマーカーの発現量を指標として、候補化合物を選択する工程と
を含む、造血幹細胞を誘導する化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0021】
別の態様において、本開示はCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を定量または検出する試薬を含む、造血幹細胞を同定、検出、単離または濃縮するための組成物またはキットを提供する。
【0022】
別の態様において、本開示は、本開示の造血幹細胞を修飾することで、修飾された造血幹細胞を製造する方法を提供する。
【0023】
別の態様において、本開示は、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団あるいはこれらを修飾した細胞を含有する、造血幹細胞を投与することで改善または予防される疾患または障害を予防または治療するための医薬を提供する。
【0024】
別の態様において、本開示は、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団またはこれを修飾した細胞と被験物質を接触させる工程を含む、被験物質の生理作用を評価する方法を提供する。
【0025】
別の態様において、本開示は、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を分析することで得られた物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴の組み合わせにより造血幹細胞を同定し、当該造血幹細胞を含有する細胞集団を製造する方法を提供する。
【0026】
別の態様において、本開示は、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を分析することで得られた物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴の組み合わせにより造血幹細胞を同定する分類器を製造する方法を提供する。
【0027】
別の態様において、本開示は、CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカー分子の発現様式を指標として製造された細胞を含む、造血幹細胞を投与することで改善または予防される疾患または障害を予防または治療するための医薬を提供する。
【0028】
本発明は一態様において、以下を提供する。
[項目1]
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせからなる、造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカー。
[項目2]
CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上からなる、項目1に記載の造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカー。
[項目3]
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現様式によって特定される、単離された造血幹細胞または造血幹細胞が濃縮された造血幹細胞含有細胞集団。
[項目4]
CD48(-)およびCD34(+)の組み合わせ、CD48(-)およびc-Kit(+)の組み合わせ、ならびにCD48(-)、CD34(+)およびc-Kit(+)の組み合わせから選択される1以上の発現様式によって特定される、項目3に記載の単離された造血幹細胞または造血幹細胞が濃縮された造血幹細胞含有細胞集団。
[項目5]
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現様式を指標として細胞を単離または濃縮する工程と
を含む、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法。
[項目6]
CD48(-)およびCD34(+)の組み合わせ、CD48(-)およびc-Kit(+)の組み合わせ、ならびにCD48(-)、CD34(+)およびc-Kit(+)の組み合わせから選択される1以上の発現様式を指標とする、
項目5に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法。
[項目7]
さらに修飾を含む、請求項1または2に記載のマーカーにより同定、単離、または濃縮された造血幹細胞、または、項目3または4に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団、または項目5または6のいずれか一項に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団。
[項目8]
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
各細胞における各細胞のCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を測定する工程と
を含む、前記細胞集団における造血幹細胞の含有量および/または含有量の変化を評価する方法。
[項目9]
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
前記造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD48、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、前記細胞集団の品質を試験する工程と
を含む、造血幹細胞を含む細胞集団の試験方法。
[項目10]
前記品質が造血能維持能力、移植適合性、または保存安定性である、項目9に記載の試験方法。
[項目11]
被験者由来の造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を取得する工程と、
被験者の疾患予後予測または健康状況予想のために、前記マーカーの発現量を対照と比較する工程と
を含む、造血幹細胞を含む細胞集団の試験方法。
[項目12]
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
候補化合物により造血幹細胞を含む細胞集団を処理する工程と、
候補化合物により処理された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、候補化合物を選択する工程と
を含む、造血幹細胞の特性を修飾する化合物のスクリーニング方法。
[項目13]
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
調整された培養条件により造血幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
調整された培養条件により培養された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として培養条件を決定する工程と
を含む、造血幹細胞の特性を修飾する培養条件の調整方法。
[項目14]
造血幹細胞を含む細胞集団を準備する工程と、
評価対象の構成を有する培地、または評価対象の培養補助添加物を含む培地により、造血幹細胞を含む細胞集団を培養する工程と、
培養された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として培養培地または培養補助添加物の構成を決定する工程と、
上記決定された構成を有する培養培地または培養補助添加物を製造する工程と
を含む、造血幹細胞の特性を修飾する培養培地または培養補助添加物を製造する方法。
[項目15]
前記造血幹細胞を含む細胞集団が、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞である、項目5~14のいずれか一項に記載の方法。
[項目16]
前記造血幹細胞を含む細胞集団が、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞である、項目5~7のいずれか一項に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団。
[項目17]
細胞集団を準備する工程と、
被験化合物により細胞集団を処理する工程と、
候補化合物により処理された細胞に発現するCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせのマーカーの発現量を指標として、候補化合物を選択する工程と
を含む、造血幹細胞を誘導する化合物のスクリーニング方法。
[項目18]
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現量を定量または検出する試薬を含む、造血幹細胞を同定、検出、単離または濃縮するための組成物またはキット。
[項目19]
請求項1または2に記載のマーカーにより同定、単離、または濃縮された造血幹細胞、または、項目3、4および7のいずれか一項に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団、または項目5または6に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を分析することで得られた物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴の組み合わせを特定する方法。
[項目20]
請求項1または2に記載のマーカーにより同定、単離、または濃縮された造血幹細胞、または、項目3、4および7のいずれか一項に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団、または項目5または6に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を分析することで得られた物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴の組み合わせを指標として造血幹細胞を同定する分類器を製造する方法。
[項目21]
請求項1または2のいずれか一項に記載のマーカーにより同定、単離、または濃縮された造血幹細胞、または、項目3、4および7のいずれか一項に記載の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団、または項目5または6に記載の方法で製造された単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を含む、造血幹細胞を投与することで改善または予防される疾患または障害を予防または治療するための医薬。
[項目22]
造血幹細胞を投与することで改善または予防される疾患または障害が、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ゴーシェ病、ファブリー病、ムコ多糖症、HIV、ADA-SCID、X-SCIDまたはサラセミアである、項目21に記載の医薬。
[項目23]
造血幹細胞を投与することで改善または予防される疾患または障害が、慢性肉芽腫症(CGD)または副腎白質ジストロフィー(ALD)である、項目21に記載の医薬。
【発明の効果】
【0029】
本開示は、造血幹細胞を濃縮または単離するためのマーカー並びにその使用を提供するという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、臍帯血サンプルを細胞染色したデータから生成された、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造を可視化した画像である。
【
図2】
図2は、臍帯血サンプルを細胞染色したデータから生成された、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造において、各細胞のCD34の発現量を可視化した画像である。
【
図3】
図3は、臍帯血から得られたCD34(+)細胞およびCD34(-)細胞の移植試験におけるキメラ率を比較した結果を示す図である。
【
図4】
図4は、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造において、CD34(+)画分の細胞配置をより詳細に配置した結果を示す画像である。
【
図5】
図5は、CD34(+)およびCD38(-/+)で特定される臍帯血画分の造血幹細胞の増殖・分化能を示す図である。CD34(+)およびCD38(+)からなる画分(P6)とCD34(+)、CD38(-)、CD45RA(-)およびCD90(+)からなる画分(P7)、CD34(+)、CD38(-)、CD45RA(-)およびCD90(-)からなる画分(P8)、ならびにCD34(+)、CD38(-)、CD45RA(+)およびCD90(-)からなる画分(P9)のCFUアッセイ結果を示す。
【
図6】
図6は、1細胞レベルでのCFUアッセイの概要を示す図である。
【
図7】
図7は、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造上で、CD34陽性細胞分画を対象に、未分化細胞の位置する方向を示す図である。
【
図8】
図8は、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造上で、分化方向に沿って発現が偏在する分子マーカーを探索した結果の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、各マーカーによって特定される細胞のCFUアッセイにおいて、CFU-GEMMを呈する細胞の割合(未分化細胞の濃縮度合と相関)を示す図である。
【
図10】
図10は、臍帯血からCD34(+)で予備濃縮された細胞集団を、c-Kit(+)およびCD34(+)でゲーティングし(画分P1)、さらにCD48(-)(P2画分)またはCD48(+)(non-P2画分)でゲーティングした際のFACSプロットの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、骨髄からCD34(+)で予備濃縮された細胞集団を、c-Kit(+)およびCD34(+)でゲーティングし(画分P1)、さらにCD48(-)(P2画分)またはCD48(+)(non-P2画分)でゲーティングした際のFACSプロットの一例を示す図である。
【
図12】
図12は、動員末梢血からCD34(+)で予備濃縮された細胞集団を、c-Kit(+)およびCD34(+)でゲーティングし(画分P1)、さらにCD48(-)(P2画分)またはCD48(+)(non-P2画分)でゲーティングした際のFACSプロットの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、臍帯血1mlあたりに含まれるCD34陽性細胞数と、P2画分の細胞数を比較した結果を示す図である。
【
図14】
図14は、臍帯血から分離された、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(-)で特定される細胞画分(P2)と、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(+)で特定される細胞画分(non-P2)の造血幹細胞の増殖・分化能を、CFUアッセイによって比較した結果を示す図である。
【
図15】
図15は、臍帯血から分離された細胞画分P2と、細胞画分non-P2の未分化性を、移植試験によって比較した結果を示す図である。
【
図16】
図16は、骨髄から分離された、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(-)で特定される細胞画分(P2)と、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(+)で特定される細胞画分(non-P2)の造血幹細胞の増殖・分化能を、CFUアッセイによって比較した結果を示す図である。c-Kit(+)、CD34(+)で特定される画分であるP1画分の結果も併せて示す。
【
図17】
図17は、動員末梢血から分離された、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(-)で特定される細胞画分(P2)と、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(+)で特定される細胞画分(non-P2)の造血幹細胞の増殖・分化能を、CFUアッセイによって比較した結果を示す図である。c-Kit(+)、CD34(+)で特定される画分であるP1画分の結果も併せて示す。
【
図18】
図18は、臍帯血サンプルについてCD34(+)画分をc-Kit(+)画分とc-Kit(-)画分に分画に分画し、それぞれについて造血幹細胞の増殖・分化能を、CFUアッセイによって比較した結果を示す図である。CD34(+)画分全体の結果も併せて示す。
【
図19】
図19は、追加的なマーカーの濃縮倍率を示す図である。濃縮倍率が10を超えるデータは10として示している。
【
図20】
図20は、P2画分の細胞を、UM171添加または非添加の条件で培養し、7日後の総細胞数および未分化細胞(P1)の比率を試験した結果を示す図である。
【
図21】
図21は、non-P2画分の細胞を、UM171添加または非添加の条件で培養し、7日後の総細胞数および未分化細胞(P1)の比率を試験した結果を示す図である。
【
図22】
図22は、臍帯血サンプルからc-Kit(+)、CD34(+)およびCD48(-)のマーカーセットで分画したP2画分の細胞を7日間培養した後、培養後の細胞集団をc-Kit(+)、CD34(+)およびCD48(-)のマーカーセットを用いてP2画分(培養後)およびnon-P2画分(培養後)に分画し、それぞれにつき、CFUアッセイを行った結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本開示の実施形態について説明する。以下の説明は単なる例示であり、本開示の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、本開示の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0032】
(定義)
本開示において、複数の数値の範囲が示された場合、それら複数の範囲の任意の下限値および上限値の組み合わせからなる範囲も同様に意味する。
【0033】
本開示において、「分化」とは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、特殊化の程度が低い細胞が、例えば、神経細胞又は筋肉細胞などのより特殊化した細胞に変化するプロセスを意味する。「分化した」または「分化している」は、相対的な用語であり、「分化した細胞」または「分化細胞」は、それが比較されている細胞よりも発生経路のさらに先へ進み、より特殊化されていることを意味する。
【0034】
本開示において、「幹細胞」とは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、単一細胞レベルにおいて自己複製能力を有し、かつ2種以上の異なる分化細胞を産生する能力を有する未分化細胞を意味する。すなわち、幹細胞は、非対称的に分裂することができ、その際一方の娘細胞は幹細胞状態を保持し、他方の娘細胞はある別個の他の特定の生物学的機能および表現型を発現する。あるいは、幹細胞は、2つの幹細胞へ対称的に分裂することができ、したがって、幹細胞を有する細胞集団中には、いくつかの幹細胞が維持され、一方、集団中の他の細胞は分化された後代のみを生じさせる。
【0035】
本開示において、「造血幹細胞」とは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、すべての血球(赤血球、白血球、および血小板等)に最終的に分化し得る多分化能を有する細胞を意味する。造血幹細胞は、前駆細胞もしくは芽細胞への分化の中間段階を包含し得る。「前駆細胞」もしくは「芽細胞」は、本開示において交換可能に使用され、低下した分化能を有するが、特定の系列(例えば、骨髄系統もしくはリンパ系統)の異なる細胞へとなお成熟する能力がある、成熟しつつある細胞を意味する。
【0036】
本開示において、「長期造血幹細胞」とは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、細胞分裂を経ても自己複製能を長期に維持する造血幹細胞を意味する。長期造血幹細胞から細胞分裂によって生み出される2つの娘細胞の少なくとも一方は、分裂前の細胞と同様の造血幹細胞の形質を維持する。一態様において、長期造血幹細胞は生体内の通常の培養環境または生体外の培養環境において、細胞分裂によって自己複製能を全く失わない。また、一態様において、長期造血幹細胞は100回、50回、20回または10回の細胞分裂を経ても、自己複製能を維持する。
【0037】
当該自己複製能が維持されていることは、様々な公知の方法によって確認することができる。例えば、一定期間培養した後の細胞群に含まれる未分化細胞集団の含有率を測定することで、自己複製能が維持されていることを確認することができる。未分化細胞集団は、例えば細胞表面に発現する公知のマーカーの陽性・陰性の組み合わせにより同定することができる。また、一態様において、造血幹細胞が細胞分裂を経ても自己複製能を長期に維持していることは、骨髄再構築能を長期に維持することによっても確認することができる。例えば、長期造血幹細胞は公知の移植法において、1次移植レシピエントにおいて骨髄再構築を維持する他、特に好ましい態様においては2次移植においても骨髄を再構築し得る。短期間しか自己複製能を維持しない造血幹細胞は、in vitro又は1次移植では骨髄を再構築することができるものの、1次移植レシピエントにおいて骨髄再構築を維持することができず、また2次移植では骨髄を再構築維持できない。ここで、2次移植とは、1次移植により再構築された骨髄由来の造血幹細胞を、さらに別の個体に移植することを意味する。一態様において、造血幹細胞が細胞分裂を経ても自己複製能を長期に維持していることは、当該細胞を別の生体に移植した場合に、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、または10日間以上に亘って継続して血液を産生し、典型的には、白血球の一種である好中球を上記期間に亘って500、600、700、800、900または1000個/μL(mm3)以上産生することによって確認することができる。
【0038】
本開示の造血幹細胞または長期造血幹細胞は、様々な動物由来の造血幹細胞または長期造血幹細胞を包含する。例えば、各種哺乳動物、霊長類に属する動物、サル目に属する動物、またはヒト由来の造血幹細胞または長期造血幹細胞を、本開示において使用することができ、または、これらの細胞に本開示を適用できる。また、本開示の造血幹細胞は、生体から得られる体細胞集団から単離することができる他、ES細胞または人工多能性幹細胞から分化誘導された細胞群から単離することができる。
【0039】
本開示において「単離された細胞」とは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、それが本来見出される生物から取り出された細胞またはそのような細胞の子孫を意味する。このような細胞は、インビトロで、例えば他の細胞の存在下で培養されたものであってもよい。また、このような細胞もしくはその子孫である細胞は、後に、第2の生物へ導入されてもよい。
【0040】
本開示において「単離された細胞集団」とは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、不均質な細胞集団から取り出され分離された細胞の集団を意味する。いくつかの態様において、単離された集団は、細胞を単離または濃縮する元となった不均質細胞集団と比べて実質的に純粋な細胞集団であってもよく、また、依然として不均質な細胞集団であってもよい。
【0041】
細胞集団が特定の細胞種について「実質的に純粋」であるとは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、当該細胞集団において、細胞集団全体を構成する細胞に対して少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約60%、65%、70%、75%、85%、90%、92%、93%、最も好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%の細胞が、当該特定の細胞種の細胞から構成されていることを意味する。例えば、「実質的に純粋」な幹細胞集団とは、幹細胞でない細胞を約50%未満、より好ましくは約40%、30%、20%、15%、10%、8%、7%未満、最も好ましくは約5%、4%、3%、2%または1%未満含む細胞の集団を意味する。したがって、例えば、本開示における単離された造血幹細胞とは、本開示によって特定されるマーカーによって同定される細胞を少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約60%、65%、70%、75%、85%、90%、92%、93%、最も好ましくは少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%含む細胞集団であってよい。
【0042】
本開示において「濃縮」または「富化」とは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、複数の生物、細胞、物質、データを含有する集団において、目的とするある特定の性質をもつ生物、細胞、物質、データなどの含有割合を増加させることを意味する。例えば、長期造血幹細胞を濃縮するためのマーカーとは、長期造血幹細胞を含む細胞集団を当該マーカーによって2つの画分に分画した場合、いずれかの画分に長期造血幹細胞が偏って存在することを意味する。
【0043】
本開示において「同定」、「分離」、「選別」、「単離」、「純化」または「スクリーニング」とは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、目的とするある特定の性質をもつ生物、細胞、物質、データなどの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選別することをいう。選別された標的は、集団から物理的に分離されてもよく、分離されなくともよい。例えば、長期造血幹細胞を単離するためのマーカーとは、長期造血幹細胞を含む細胞集団を当該マーカーによって2つの画分に分画した場合、いずれかの画分に長期造血幹細胞が一定程度以上偏って存在し、他の画分に存在する長期造血幹細胞が一定程度以下となることを意味する。例えば長期造血幹細胞を含む細胞集団を画分AおよびBに分画した場合に、画分Aに存在する長期造血幹細胞/(画分Aに存在する長期造血幹細胞+画分Bに存在する長期造血幹細胞)x2の値が、1.4、1.5、1.6、1.7または1.8以上となることを意味する。
【0044】
本開示において、長期造血幹細胞の「増殖を促進する」とは当分野において通常用いられる意味を有し、典型的には、長期造血幹細胞が細胞分裂に要する時間を短縮すること、長期造血幹細胞の細胞数を増加させること、または長期造血幹細胞と他の細胞を含有する細胞組成物において、増殖に伴う長期造血幹細胞の含有割合低下を抑制し、または当該含有割合を維持もしくは増加させることを意味する。
【0045】
1.本開示の造血幹細胞マーカー
一般に生体の各種細胞は、各遺伝子から発現されるタンパク質の細胞内含量、細胞表面に露出されるタンパク質の種類、タンパク質の翻訳後修飾の状態、細胞形態等の様々な物理的特性において固有の状態を有しており、これらの物理的特性の組み合わせによって、固有の生物学的機能を有する細胞を特定することが可能である。これらの物理的特性は公知の各種方法により一定の基準に基づいて定量化することが可能であり、したがって、一定の生物学的機能を有する各種細胞は、その定量物理的特性に関する数値データの組み合わせで特定することができる。さらに、当該定量物理的特性データの組み合わせと、生物学的特性に関する分析から得られた数値データを組み合わせることにより、より詳細に細胞を特定することができる。
【0046】
一方、細胞分化は階層性を有しており、細胞分化階層中においてより近縁の細胞は、その定量物理的特性データにおいてもより類似していると理解される。
【0047】
したがって、定量物理的特性に関する数値データおよび/または生物学的特性に関する数値データから選択される複数の数値データの類似性に基づいて細胞配置空間構造を生成することにより、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造を得ることができる。そして、既知の分化マーカー等を利用することにより、当該細胞配置空間構造上の分化方向を特定することができる。
【0048】
一方、このように構成された細胞配置空間構造において、既知の分化マーカー等を利用して特定の分化段階の細胞が存在する領域を特定することにより、当該分化段階の細胞を特定するための物理的特性の数値データおよび/または生物学的特定の数値データの範囲の組み合わせが得られる。
【0049】
本開示の発明者らは、当該構成された細胞配置空間構造を用いた分析を用い、さらに1細胞レベルでの細胞機能解析を組み合わせることにより、より未分化な細胞特性を有する長期造血幹細胞を特定するマーカー分子の組み合わせを極めて迅速かつ高精度で特定することに成功した。
【0050】
本開示のより未分化な細胞特性を有する長期造血幹細胞は、所望の精度に応じて、上記マーカーを用いて様々に濃縮または単離することができる。一例において、本開示のより未分化な細胞特性を有する長期造血幹細胞は、単一のマーカー分子の発現量によって濃縮または単離することができ、他の例において、複数のマーカー分子の発現量の組み合わせによって、濃縮または単離することができる。本開示において、特定のマーカー分子の発現量によって細胞を分画する場合、発現量が一定以下の画分を、当該マーカー分子の発現について「陰性」の画分、発現量が一定以上画分を、当該マーカー分子の発現について「陽性」の画分ということがある。「陰性」「陽性」を区別する閾値は、使用する機器、作業の目的などに従って、通常当業者によって決定される。一態様において、さらに詳細な発現量の差異に基づいて細胞を分画することができ、例えば、「陽性」画分をさらにマーカー分子の発現量のうち、より発現量の少ない画分を「弱陽性」の画分、より発現量の少ない画分を「強陽性」の画分として区別することができる。長期造血幹細胞は、単一のマーカー分子の発現量が「陰性」、「陽性」、「弱陽性」、「強陽性」またはさらに詳細な範囲で分類されることに基づいて、あるいは、複数のマーカー分子の分類の組み合わせに基づいて濃縮または単離される。
【0051】
一態様において、本開示のより未分化な細胞特性を有する長期造血幹細胞は、CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせを、長期造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカーとして使用することで単離または濃縮される。
【0052】
また、別の態様において、本開示のより未分化な細胞特性を有する長期造血幹細胞は、CD48(-)およびCD34(+)の組み合わせ、CD48(-)およびc-Kit(+)の組み合わせ、ならびにCD48(-)、CD34(+)およびc-Kit(+)の組み合わせから選択される1以上を、長期造血幹細胞単離マーカーとして使用することで単離される。特に、CD48(-)、CD34(+)およびc-Kit(+)の組み合わせを長期造血幹細胞単離マーカーとして用いることで、極めて高い純度で長期造血幹細胞を単離することが可能となる。
【0053】
また、別の態様において、本開示のより未分化な細胞特性を有する長期造血幹細胞は、上記遺伝子発現様式の組み合わせに加えて、CD84(+)、CD111(+)、CD150(-)、GPR56(-)、Notch-1(-)、CD52(-)、CD62L(+)、CD71(+)、CD93(-)、CD122(-)、CD133(-)、CD275(-)、CD131(-)、CD326(+)、CD200(-)、CD200R(-)、CD324(+)、CD40(-)、CD11c(-)、CD318(-)から選択される1つ以上を組み合わせることで、より高い純度で長期造血幹細胞を濃縮することが可能となる。
好ましくは、追加して組み合わされる遺伝子発現様式は、CD111(+)、CD133(-)、CD131(-)、CD93(-)、CD122(-)、CD200(-)、CD324(+)から選択される。より好ましくは、追加して組み合わされる遺伝子発現様式は、CD111(+)、CD133(-)、CD131(-)から選択される。
【0054】
本開示の長期造血幹細胞を単離するためのマーカーまたは濃縮するためのマーカーを使用する場合、あらかじめ処理対象の細胞集団から、分化した細胞を排除してもよい。当該分化した細胞を排除するために、一般的にLineageマーカーと呼ばれる分化した細胞を特異的に同定するマーカーを使用することができる。例えば、LineageマーカーとしてCD11b、CD14、CD19、CD20、CD235ab、CD3、CD4、CD56、CD8aの組み合わせを用いることができるが、これに限定されない。
【0055】
上記マーカー分子の検出対象としては、当該マーカー分子をコードする遺伝子の様々な産物が使用できる。一態様において、検出対象として細胞表面に発現されるマーカー分子を使用する。他の非限定的な例として、遺伝子から転写されるmRNAもしくはその前駆体、当該mRNAから翻訳されるペプチド、タンパク質、またはこれらの中間産物、断片、修飾物などを使用することができる。
【0056】
本開示の造血幹細胞を特定するために使用される遺伝子産物は、上記に具体的に説明した遺伝子の遺伝子産物に限定されることはない。本開示の造血幹細胞を更に分類するために、1つ以上の追加の遺伝子産物の発現、または不発現を指標として用いることができる。また、上記遺伝子の組み合わせの一部は、他の遺伝子によって代替することができる。そのような遺伝子は、上記遺伝子の組み合わせに含まれる遺伝子の発現パターンと機能的あるいは統計上類似している遺伝子から選択することができる。後述するように、本開示の造血幹細胞における遺伝子発現状態を分析することで、上位追加または代替の遺伝子を特定することもできる。
【0057】
一態様において、本開示はCD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの、長期造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカーとしての使用を提供する。一態様において、本開示はCD48(-)およびCD34(+)の組み合わせ、CD48(-)およびc-Kit(+)の組み合わせ、ならびにCD48(-)、CD34(+)およびc-Kit(+)の組み合わせから選択される1以上の、長期造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカーとしての使用を提供する。
【0058】
また、別の態様において、上記遺伝子発現様式の組み合わせに加えて、CD84(+)、CD111(+)、CD150(-)、GPR56(-)、Notch-1(-)、CD52(-)、CD62L(+)、CD71(+)、CD93(-)、CD122(-)、CD133(-)、CD275(-)、CD131(-)、CD326(+)、CD200(-)、CD200R(-)、CD324(+)、CD40(-)、CD11c(-)、CD318(-)から選択される1つ以上を長期造血幹細胞単離マーカーまたは濃縮マーカーとして組み合わせることで、より高い純度で長期造血幹細胞を濃縮することが可能となる。
好ましくは、追加して組み合わされる遺伝子発現様式は、CD111(+)、CD133(-)、CD131(-)、CD93(-)、CD122(-)、CD200(-)、CD324(+)から選択される。より好ましくは、追加して組み合わされる遺伝子発現様式は、CD111(+)、CD133(-)、CD131(-)から選択される。
【0059】
2.本開示の長期造血幹細胞
本開示はまた、より未分化な細胞特性を有する、単離された造血幹細胞または造血幹細胞が濃縮された造血幹細胞含有細胞集団を提供する。一態様において、このような造血幹細胞または細胞集団は、CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD244、CD275、CD328、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD318、CD49f、c―KitおよびCD48から選択される1、2、3、4または5以上、もしくは、CD48およびCD34の組み合わせ、CD48およびc-Kitの組み合わせ、ならびにCD48、CD34およびc-Kitの組み合わせから選択される1以上、またはこれらの組み合わせの発現様式によって特定される。一態様において、このような造血幹細胞または細胞集団は、CD48(-)およびCD34(+)の組み合わせ、CD48(-)およびc-Kit(+)の組み合わせ、ならびにCD48(-)、CD34(+)およびc-Kit(+)の組み合わせから選択される1以上の発現様式によって特定される。典型的には、当該細胞または細胞集団は、細胞表面タンパク質として前記分子を発現しているまたは発現していない。他の非限定的な例として、当該細胞または細胞集団は、遺伝子から転写されるmRNAもしくはその前駆体、当該mRNAから翻訳されるペプチド、タンパク質、またはこれらの中間産物、断片、修飾物などとして、前記分子を発現している。
【0060】
3.単離または濃縮された長期造血幹細胞または長期造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法
本開示は、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子の発現様式に基づいて、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法を提供する。
一例において、前記方法は、本開示において発見された長期造血幹細胞を特定するマーカー分子の細胞表面発現に基づいて、フローサイトメーターに連結されたセルソーターを動作させることによって実施することができるが、これに限定されない。
【0061】
4.長期造血幹細胞の含有量および/または含有量の変化を評価する方法
本開示は、長期造血幹細胞を含有する細胞組成物について、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子を指標として、長期造血幹細胞の含有量および/または含有量の変化を評価する方法を提供する。典型的には、造血幹細胞を含む細胞集団を準備し、当該細胞集団に含まれる細胞について、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子の発現量を測定し、当該発現量を対象サンプルにおけるマーカー分子の発現量と比較し、あるいは、前記長期造血幹細胞を含有する細胞組成物の別の時点におけるマーカー分子の発現量と比較することにより、長期造血幹細胞の含有量および/または含有量の変化を評価する。
【0062】
前記造血幹細胞を含む細胞集団は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってよい。また、マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0063】
当該マーカー分子の発現量は、当業者に公知の方法を用いて行うことが可能であり、例えばフローサイトメーターや抗体パネルなどを用いて行うことができるが、これらに限定されない。
【0064】
5.造血幹細胞含有組成物の性質を試験または評価する方法
本開示は、長期造血幹細胞を含有する細胞組成物について、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子を指標として、当該細胞組成物の性質を試験または評価する方法を提供する。典型的には、造血幹細胞を含む細胞集団を準備し、当該細胞集団に含まれる細胞について、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子の発現量を測定し、当該発現量を対照サンプルにおけるマーカー分子の発現量と比較することにより、細胞組成物の性質を試験または評価する。当該対照サンプルは、インビボまたはインビトロ試験によって長期造血幹細胞含有細胞集団としての性質が確認されたサンプルであってもよく、試験または評価対象の細胞集団の別の時間点におけるサンプルであってもよい。
例えば当該細胞組成物は造血幹細胞移植に用いる検体、例えば臍帯血、骨髄液、末梢血含有組成物であってもよいが、これらに限定されない。例えば、長期造血幹細胞を含有する細胞組成物において、細胞の培養前後、一定期間の保存前後の細胞組成物について、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子の発現量を指標として、培養前後または保存前後の細胞集団において、長期造血幹細胞としての性質がどの程度変化または変化していないかを試験または評価することができる。
【0065】
一態様において、造血幹細胞含有組成物の性質は一定の基準に従って評価される品質であってもよく、例えば、造血能維持能力、移植適合性、または保存安定性といった品質を評価することができる。例えば、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子の発現量を指標として、長期造血幹細胞を含有する被験移植用組成物と、移植への適合性が確認されている標準組成物を比較することにより、被験移植用組成物の移植適合性を試験または評価することができる。
【0066】
前記造血幹細胞を含む細胞集団は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってもよく、臍帯血、骨髄細胞、末梢血等を培養することで得られた細胞組成物であってもよいがこれらに限定されない。また、マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0067】
当該マーカー分子の発現量は、当業者に公知の方法を用いて行うことが可能であり、例えばフローサイトメーターや抗体パネルなどを用いて行うことができるが、これらに限定されない。
【0068】
6.被験者の疾患予後予想または健康状況予想のために、造血幹細胞含有組成物を試験する方法
本開示は、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子を指標として、被験者の疾患予後予想または健康状況予想のために、造血幹細胞含有組成物を試験する方を提供する。典型的には、患者または健常人から取得された造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞について、あるいは、患者または健常人体内の造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞について、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子の発現量を測定し、当該測定された発現量を指標として、被験者の疾患予後または将来の健康状況を予想する。例えば、患者の予後予測または治療効果の確認のために、治療前および治療後の患者から造血幹細胞を含む細胞集団を取得し、長期造血幹細胞の割合の増減を試験し、長期造血幹細胞の割合が増加しているとき、あるいは減少が抑制されているときに、患者の良好な予後を予測することができる。別の態様において、生体由来造血幹細胞含有組成物を他家移植することで治療を行う場合に、患者の予後予想のために、ドナー体内の造血幹細胞を含む細胞集団、ドナーから得られた造血幹細胞を含む細胞集団、移植前あるいは移植後の患者体内の造血幹細胞を含む細胞集団、または、患者から得られた造血幹細胞を含む細胞集団を試験することもできる。別の態様において、患者又は健常人から取得された造血幹細胞を含む細胞集団に含まれる細胞について、患者または健常人の健康状態、例えば造血系における健康状態の把握、または将来の健康状況の予測のために、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子の発現量試験することができる。
【0069】
前記長期造血幹細胞を含む細胞集団として、骨髄組織、臍帯血、末梢血など任意の長期造血幹細胞含有細胞集団を使用することができる。マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0070】
当該マーカー分子の発現量は、当業者に公知の方法を用いて行うことが可能であり、例えばフローサイトメーターや抗体パネルなどを用いて行うことができるが、これらに限定されない。
【0071】
7.長期造血幹細胞を含有する細胞集団を修飾する方法
本開示は、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーにより単離または濃縮された、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を修飾する方法を提供する。当該修飾は、前記単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を各種分化誘導することを含む。例えば、特定の培養条件による培養、特定の薬剤または薬剤の組み合わせによる処理、ゲノム編集、遺伝子導入、mRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマーなどの細胞内導入、他の細胞との融合等の処理により、長期造血幹細胞含有細胞集団を修飾することができるがこれらに限定されない。当該培養条件は、培地の組成、培地組成の変更、培地に含まれる特定の添加物、添加物の添加方法、培養温度またはその変更様式、培養湿度またはその変更様式、大気圧またはその変更様式、培養容器の構造もしくは素材またはそれらの変更様式、培養足場の構造もしくは素材またはそれらの変更様式等を含むが、これらに限定されない。当該薬剤は、無機化合物、有機低分子化合物、高分子化合物、タンパク質、核酸を含むが、これらに限定されない。前記ゲノム編集は当業者に公知の方法によるものを含み、例えば、CRISPR-Cas系、TALEN系等を用いたゲノム編集技術を含むが、これらに限定されない。長期造血幹細胞含有細胞集団が修飾されたことは、細胞表面に発現する分子の種類または量の変化、細胞内で転写される遺伝子の種類または量の変化、細胞のゲノム塩基配列の変化、または、これらに伴う細胞形態、機能の変化などにより確認することができるが、これらに限定されない。例えば、修飾後の細胞表面に発現する任意の分子または細胞内で転写される遺伝子の種類または量が、修飾前のものと比して0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%または10%以上異なる場合に、当該細胞を修飾された細胞とすることができる。また、当該遺伝子導入は当業者に公知の方法によるものを含み、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入技術、電気穿孔法を用いた遺伝子導入法等含むが、これらに限定されない。また、当該他の細胞との融合は当業者に公知の方法によるものを含み、融合する細胞は、ヒト又は霊長類の体細胞、ES細胞、人工多能性幹細胞またはMuse細胞など体細胞集団から特定の方法で単離された多能性幹細胞などを使用できるが、これらに限定されない。当該修飾された細胞集団は、細胞の分化メカニズム等を研究するための試料として用いることができるほか、その特性に合わせて、様々な用途に使用することができる。一例において、患者の生体組織から長期造血幹細胞を単離または濃縮し、当該細胞に対してゲノム編集またはベクターによる遺伝子導入等により、遺伝子の導入もしくは欠損、発現量の調整等の修飾を行った後に、機能の修飾された長期造血幹細胞として患者体内に戻すことにより、疾患治療などに利用することができる。また、別の例において、生体内に存在する長期造血幹細胞を本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーにより同定し、ゲノム編集や遺伝子導入によって当該細胞に対して生体内で遺伝子の導入もしくは欠損、発現量の調整等の修飾を加えることにより、機能が付加または改変された長期造血幹細胞を生じさせることによる、疾患治療もしくは健康維持、増進方法などを提供する。一態様において、これら細胞の修飾は、恒常的なものであってもよく、一時的なものであってもよい。例えば、体内の特定に部位において、特定の期間のみ細胞を修飾するものあってもよい。
【0072】
8.長期造血幹細胞を含有する細胞集団を分析する方法
本開示は、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーにより単離または濃縮された長期造血幹細胞含有細胞集団を分析し、当該細胞集団の物理的、化学的または生物学的特徴に関する情報を得る方法を提供する。単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細の物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴は、当業者に公知の方法を用いることにより評価、分析することができる。得られた情報は、例えば物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴またはこれらの組み合わせに基づいて長期造血幹細胞含有細胞集団を特定するための方法に使用することができる。
【0073】
9.長期造血幹細胞の物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴に基づいて、造血幹細胞または造血幹細胞を単離または濃縮するための分類器を作成する方法
一例において、上記の物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴は、造血幹細胞を単離または濃縮する方法を開発する際の陽性対照として利用することができる。例えば、細胞の生物学的特徴、例えば特定の化学物質に対する増殖応答などの特徴のみに基づいて造血幹細胞を単離または濃縮する場合に、当該方法によって単離または濃縮された細胞または細胞集団の物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴と、本開示のマーカーを利用して得られた造血幹細胞の物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴とを比較することにより、当該生物学的特徴に基づく造血幹細胞を単離または濃縮する方法を評価または特徴付けることができる。このような評価、特徴付けを通じて、一態様において、本開示のマーカーを利用して得られた造血幹細胞の物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴を指標として造血幹細胞を同定し、造血幹細胞を含有する細胞集団を製造する方法を提供する。
【0074】
10.長期造血幹細胞の物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴に基づいて、造血幹細胞または造血幹細胞を単離または濃縮するための分類器を作成する方法
上記の物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴は、一例において、造血幹細胞または造血幹細胞を単離または濃縮するための分類器を作成するために使用される。例えば、分類器を機械学習により構成する場合、本開示の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞から得た物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴またはこれらの組み合わせまたはその一部を、機械学習のための教師データとして使用することができる。
【0075】
11.長期造血幹細胞を用いて被験物質または環境要因の造血幹細胞に対する生理作用を評価する方法
本開示は、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団、またはこれを修飾して得られる各種細胞を用いて、化合物および薬剤などの被験物質、または温度および栄養条件などの環境要因が造血幹細胞に及ぼす生理作用を評価する方法を提供する。
当該方法では、本開示の単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団またはこれを修飾して得られる各種細胞と、化合物、薬剤などの被験物質を公知の方法により接触させ、または、温度および栄養条件などの環境要因が細胞にもたらす生理作用、例えば、細胞機能の変化、増殖状態の変化、生存に与える影響などを評価する。
【0076】
12.長期造血幹細胞の増殖に対する培養条件の影響を評価する方法
本開示は、長期造血幹細胞の増殖に対する培養条件の影響を、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子を指標として評価する方法を提供する。本開示の評価方法では、典型的には、造血幹細胞を含む細胞集団を準備し、評価対象の培養条件により造血幹細胞を含む細胞集団を培養し、培養後の細胞集団における本開示の長期造血幹細胞を特定するマーカー分子の発現量を試験する工程を含み、評価対象の培養条件における培養前後の前記マーカー分子の発現量を比較、または、評価対象の培養条件における培養後の前記マーカー分子の発現量と、対照となる培養条件における培養後の前記マーカー分子の発現量を比較する。比較の結果、長期造血幹細胞の増殖が促進されていた場合に、当該評価対象培養条件を、長期造血幹細胞の増殖を促進する培養条件として評価し、培養条件の変更後において長期造血幹細胞の増殖が抑制されていた場合に、当該評価対象培養条件を、長期造血幹細胞の増殖を抑制する培養条件として評価する。
【0077】
長期造血幹細胞が特異的に修飾されたか否かを評価する方法は限定されず、当業者は公知の方法を用いることができる。例えば、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞が細胞分裂に要する時間が短縮または延長されること、本開示のマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞の細胞数が増加すること、長期造血幹細胞を含有する細胞組成物において、本開示のマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞の含有割合が減少、維持または増加すること、などの結果が得られた場合に、長期造血幹細胞が特異的に修飾されたと評価する。
【0078】
前記造血幹細胞を含む細胞集団は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってよい。また、マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0079】
細胞の培養条件を構成する因子としては、当分野において通常考慮される因子を評価対象とすることができ、例えば、培地成分、温度、湿度、大気構成、培養基質などを変更して試験することができるが、これらに限定されない。
【0080】
13.長期造血幹細胞の特性を修飾する化合物のスクリーニング方法
本開示は、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子を指標として、長期造血幹細胞の特性を修飾する化合物をスクリーニングする方法を提供する。本開示のスクリーニング方法では、典型的には、造血幹細胞を含む細胞集団を準備し、候補化合物により処理した細胞または細胞集団と、未処理の細胞または細胞集団を比較し、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞の特性を修飾する化合物を取得する。例えば、長期造血幹細胞が細胞分裂に要する時間を短縮または延長する化合物、長期造血幹細胞の細胞数を増加させる化合物、長期造血幹細胞を含有する細胞組成物において、長期造血幹細胞の含有割合を、減少、維持または増加させる化合物、長期造血幹細胞の生存期間を延長または短縮する化合物、長期造血幹細胞の細胞死を抑制または促進する化合物、長期造血幹細胞の修飾(遺伝子導入、ゲノム編集、薬剤処理効率等)を促進または抑制する化合物、長期造血幹細胞を特定の細胞種に分化させる化合物、特定の細胞種への分化を抑制する化合物、長期造血幹細胞の分化を抑制または促進する化合物、特定の細胞種への分化を抑制する化合物等を取得することができる。
【0081】
前記造血幹細胞を含む細胞集団は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってよい。また、マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0082】
14.長期造血幹細胞を誘導する化合物のスクリーニング方法
本開示は、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子を指標として、長期造血幹細胞を誘導する化合物をスクリーニングする方法を提供する。本開示のスクリーニング方法では、典型的には、長期造血幹細胞以外の細胞を準備し、前記細胞または細胞集団を候補化合物により処理し、処理後の細胞または細胞集団における、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーを指標として、長期造血幹細胞を誘導する化合物を取得する。長期造血幹細胞以外の細胞としては特に限定されず、例えば、生体由来の細胞、人工的に多能性を獲得した細胞、遺伝子導入などの修飾を受けた細胞などを用いることができる。例えば、ES細胞、iPS細胞などの人工的に多能性を獲得した細胞などを用いることができるがこれらに限定されない。
【0083】
前記マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0084】
15.長期造血幹細胞の特性を修飾する培養培地
本開示は、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子を指標として長期造血幹細胞の特性を特異的に修飾する培養培地または培養補助添加物の製造方法および当該方法により製造された培養培地または培養補助添加物を提供する。典型的には、造血幹細胞を含む細胞集団を準備し、評価対象の構成を有する培地、または評価対象の培養補助添加物を含む培地により、造血幹細胞を含む細胞集団を培養し、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子を指標として、培養条件変更前後の細胞の増殖状態を評価し、長期造血幹細胞の特性を特異的に修飾する培養培地または培養補助添加物の構成を決定し、当該構成を有する培養培地または培養補助添加物を製造する。培養培地および培養補助添加物は例えば固体または液体組成物として構成される。培養培地はまた、特定の物理的構造、例えば、形状、素材、容量などをその構成に含むことができる。
【0085】
長期造血幹細胞の特性が特異的に修飾されたか否かを評価する方法は限定されず、当業者は公知の方法を用いることができる。例えば、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞が細胞分裂に要する時間が短縮または延長されること、本開示のマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞の細胞数が増加すること、長期造血幹細胞を含有する細胞組成物において、本開示のマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞の含有割合が減少、維持または増加すること、などの結果が得られた場合に、長期造血幹細胞の増殖が促進されたと評価する。
【0086】
前記造血幹細胞を含む細胞集団は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってよい。また、マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0087】
16.長期造血幹細胞の増殖を促進させる培養方法
本開示は、長期造血幹細胞の増殖を促進させる培養条件を、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子を指標として調整する方法を提供する。本開示の調整方法では、典型的には、造血幹細胞を含む細胞集団を準備し、調整された培養条件により造血幹細胞を含む細胞集団を培養し、前記マーカー分子を指標として、培養条件変更前後の細胞の増殖状態を評価し、長期造血幹細胞の増殖が促進されるように培養条件を調整する。
細胞の培養条件を構成する因子としては、当分野において通常考慮される因子を評価対象とすることがでる。例えば、培地成分、培養補助添加物、温度、湿度、大気構成、培養基質の形状、素材、表面処理、培養容器の容量、形状、素材、表面処理、培養容器、培地、または細胞自体に加える物理的刺激、これらの経時的な変更などを因子として評価することができるが、これらに限定されない。
【0088】
長期造血幹細胞の増殖が促進されたか否かを評価する方法は限定されず、当業者は公知の方法を用いることができる。例えば、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞が細胞分裂に要する時間が短縮されること、本開示のマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞の細胞数が増加すること、長期造血幹細胞を含有する細胞組成物において、本開示のマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞の含有割合が維持または増加すること、などの結果が得られた場合に、長期造血幹細胞の増殖が促進されたと評価する。
【0089】
前記造血幹細胞を含む細胞集団は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってよい。また、マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0090】
17.調整された培養条件を利用する、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法
本開示は、本開示の長期造血幹細胞単離または濃縮マーカー分子を指標として培養条件を調整する工程を含む、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法を提供する。典型的には、造血幹細胞を含む細胞集団を準備し、あらかじめ長期造血幹細胞の増殖を促進させるように調整された培養条件、例えば、上記の培養条件の調整方法により、長期造血幹細胞の増殖を促進させるように調整されている培養条件により、造血幹細胞を含む細胞集団を培養することで、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を製造する。
【0091】
別の態様において、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を培養する際に、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子により細胞の増殖状態をモニターし、長期造血幹細胞の増殖が促進されるように培養条件を調整することで、単離または濃縮された造血幹細胞または造血幹細胞を含む細胞集団を製造方法する。
【0092】
長期造血幹細胞の増殖が促進されたか否かを評価する方法は限定されず、当業者は公知の方法を用いることができる。例えば、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞が細胞分裂に要する時間が短縮されること、本開示のマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞の細胞数が増加すること、長期造血幹細胞を含有する細胞組成物において、本開示のマーカー分子によって特定される長期造血幹細胞の含有割合が維持または増加すること、などの結果が得られた場合に、長期造血幹細胞の増殖が促進されたと評価する。
【0093】
前記造血幹細胞を含む細胞集団は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってよい。また、マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0094】
細胞の培養条件を構成する因子としては、当分野において通常考慮される因子を評価対象とすることができ、例えば、培地成分、温度、湿度、大気構成、培養基質などを変更して試験することができるが、これらに限定されない。一態様において、生体から採取された細胞集団の培養開始時点から、長期造血幹細胞の増殖を促進させるように培養条件を調整してもよく、また、一定期間長期造血幹細胞の培養について最適化されていない条件で培養を行った後、細胞数が一定程度増加した後に長期造血幹細胞の増殖を促進させるように培養条件を調整してもよい。
【0095】
また別の態様において、一定期間の培養後に、セルソーターなど公知の方法を用いて、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮する分子マーカーを指標として細胞を選別し、さらに必要であれば調整された培養条件による培養を継続することができる。培養条件の調整工程および細胞の選別工程は、それぞれ異なる方法を複数組み合わせることができ、また、同じ方法もしくは異なる方法を繰り返し適用することができる。
【0096】
18.細胞に長期造血幹細胞の特性を付与する遺伝子改変を同定する方法。
本開示は、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーを指標として、細胞に長期造血幹細胞の特性を付与する遺伝子改変方法を提供する。典型的には、試験する細胞の一部について、候補遺伝子を改変した遺伝子改変細胞を準備し、前記遺伝子改変細胞における本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーと、遺伝子改変を行わなかった細胞における本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーとを比較する。また、別の態様において、同一細胞における遺伝子改変前後における本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーを比較する。比較の結果、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーについてより陽性の結果を与える遺伝子改変を、細胞に長期造血幹細胞の特性を付与する遺伝子改変として同定する。
【0097】
前記遺伝子改変は、当業者に公知の様々な方法により行うことができ、例えば、核酸または他のベクターを利用した恒久的または一過性の遺伝子導入、ゲノム編集によるゲノム上の遺伝子または遺伝子発現を制御する因子の欠失、追加、変異などを利用することができる。当該変異は遺伝子または遺伝子発現を制御する因子を構成する塩基配列における塩基の欠失、追加、置換などを含むがこれらに限定されない。
【0098】
前記遺伝子改変される細胞は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってよい。また、マーカーを試験する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0099】
19.長期造血幹細胞を同定、単離または濃縮するための組成物またはキット
本開示は、長期造血幹細胞を同定、単離または濃縮するマーカー分子を定量又は検出する試薬を含む、長期造血幹細胞を同定、単離または濃縮するための組成物またはキットを提供する。マーカー分子を定量又は検出する試薬としては、当分野において通常用いられる試薬を用いることができ、例えば蛍光色素で標識された抗体、核酸、低分子化合物、高分子化合物などを用いることができるが、これらに限定されない。本開示の長期造血幹細胞を同定、単離または濃縮するための組成物またはキットは、生体から採取された細胞集団において、長期造血幹細胞を同定、単離または濃縮するのに利用できるものの他、生体内において、長期造血幹細胞を同定するための組成物またはキットを含む。長期造血幹細胞を同定するための組成物またはキットは、さらに長期造血幹細胞の機能を修飾するための薬剤等を含むことができ、長期造血幹細胞の機能を修飾することで治療される疾患の治療薬、あるいは、治療方法を提供する。
【0100】
20.長期造血幹細胞またはこれを修飾して得られる細胞を含む医薬
本開示は、長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーにより単離または濃縮された長期造血幹細胞、またはこれを修飾して得られる各種細胞を含有する、患者に投与することにより疾患を治療するための医薬、疾患予備軍への先制医療に用いる医薬、もしくは健常人に対する予防医療もしくは健康維持(改善)に用いる医薬または当該医薬を用いる治療法または療法を提供する。本開示の長期造血幹細胞またはこれを修飾して得られる各種細胞を医薬として使用する場合、患者由来の細胞集団から得た長期造血幹細胞またはこれを修飾して得られる各種細胞を当該患者に投与してもよく、他の提供者由来の細胞集団から得た長期造血幹細胞またはこれを修飾して得られる各種細胞を当該患者に投与してもよい。また、他の薬剤、または治療方法を併用することができる。例えば、患者または提供者から、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーにより単離または濃縮された長期造血幹細胞、あるいは、患者または提供者から得られた体細胞から生成された人工多能化細胞から誘導された造血幹細胞含有細胞集団から、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーにより単離または濃縮された長期造血幹細胞を、造血障害を有する患者に、当該障害を治療するための医薬として投与することができる。別の例として、患者の生体組織から、人工多能化工程を経て、または経ずに得られた造血幹細胞含有細胞集団から、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーにより長期造血幹細胞を単離または濃縮し、当該長期造血幹細胞に治療に有益な遺伝子の導入、ゲノム編集等の修飾を行った後に、疾患を治療するための医薬として患者に投与することができる。
【0101】
前記造血幹細胞を含む細胞集団は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってよい。また、マーカー分子の発現量を測定する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【0102】
前記長期造血幹細胞を投与することで改善または予防される疾患または障害としては、例えば、慢性肉芽腫症(CGD)、副腎白質ジストロフィー(ALD)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、ゴーシェ病、ファブリー病、ムコ多糖症、HIV、ADA-SCID、X-SCID、サラセミアが含まれるが、これらに限定されない。
【0103】
前記遺伝子改変細胞の製造は、当業者に公知の様々な方法により行うことができ、例えば、核酸または他のベクターを利用した恒久的または一過性の遺伝子導入、ゲノム編集によるゲノム上の遺伝子または遺伝子発現を制御する因子の欠失、追加、変異などを利用することができる。当該変異は遺伝子または遺伝子発現を制御する因子を構成する塩基配列における塩基の欠失、追加、置換などを含むがこれらに限定されない。
【0104】
前記遺伝子改変される細胞は、生体由来の細胞または人工的に多能性を獲得した細胞から誘導された細胞であってよい。また、マーカーを試験する細胞は、細胞集団に含まれる細胞全部または一部であってよい。
【実施例0105】
以下に実施例を用いて本開示をより詳細に説明するが、これら実施例は説明のための例示であり、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0106】
方法と材料
(1)細胞ソース
臍帯血として、新鮮臍帯血(神戸市立医療センター中央市民病院、および足立病院(神戸市)より提供)を使用した。骨髄液として、凍結細胞、ヒト骨髄CD34+前駆細胞、2M-101A(Lonza Group AG, Basel, Switzerland)を使用した。末梢血として、凍結細胞、Mobilizedヒト末梢血CD34+造血幹細胞、ポジティブ選択、4Y-101C(Lonza Group AG,Basel,Switzerland)を使用した。
【0107】
(2)有核細胞の回収(赤血球の除去)
上記より得られた細胞ソースを用い、EasySep RBC Depletion Reagent(STEMCELL Technologies社製)を用い赤血球除去、濃縮処理を行い、造血幹細胞を含む細胞集団を得た。
【0108】
(3)CD34陽性細胞の濃縮
上記で得られた造血幹細胞を含む細胞集団を、EASYSep Human Cord Blood CD34 Positive Selection Kit II(STEMCELL Technologies社製)を用い、CD34陽性細胞分画を粗精製した。
【0109】
(4)細胞染色
上記で得られた造血幹細胞および前駆細胞を濃縮した細胞集団(CD34陽性濃縮細胞分画)に対し、以下の抗体を加え細胞染色を行った。抗体による細胞染色は氷上にて30分間インキュベートにて行った。CD11b,CD14,CD19,CD20,CD235ab,CD3,CD4,CD56,CD8a,CD34,CD38,CD90,CD45RA,CD49fおよびLEGENDScreen Human PE Kit(BioLegend社製)に含まれる抗体。
【0110】
(5)細胞解析および細胞ソート
細胞染色後のサンプルを、セルストレーナー付きFACSチューブ(FALCON社製)を用いて濾過した後、死細胞染色を行った。死細胞染色は、Propidium Iodide Solution (BioLegend社製)、SYTOX-Red(ThermoFisher SCIENTIFIC社製)等を用いた。細胞の解析およびソートは、FACSAria IIもしくはIII(BD社製)を使用した。採取されたデータは、FlowJo(BD社製)、もしくは出願人が開発したアルゴリズム(PCT/JP2019/051270、PCT/JP2020/025915等にも開示)を用いて解析した。なお、当該アルゴリズムは、細胞染色などによって得られる定量物理的特性に関する数値データおよび/または生物学的特性に関する数値データから選択される複数の数値データの類似性に基づいて、細胞配置空間構造を生成することにより、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造を生成し、既知の分化マーカー等を利用することにより、当該細胞配置空間構造上の分化方向を特定するアルゴリズムである。
【0111】
(6)CFUアッセイ
細胞染色の解析結果から、長期造血幹細胞を含むと思われる候補分画を特定し、MethoCult H4435 Enriched (STEMCELL Technologies社製) 25ulを各ウェルに播種した96ウェルプレートに1細胞ずつソートを行った。細胞ソートを行ったウェルに対して、Iscove’s MDM with 2% FBS (STEMCELL Technologies社製)を12.5ul添加した。プレートの最外のウェルには乾燥防止に滅菌水を200ul添加した。その後、細胞はCO2インキュベーターで、37℃、5%CO2の条件で2週間培養し、形成されたコロニーは光学顕微鏡(KEYENCE社製)にて撮像し、コロニー数を目視にてカウントし、コロニー形態を目視にて判別した。コロニーの形態から、骨髄系前駆細胞由来のColonyFormationUnit-Granulocyte、Erythroid、Macrophage、Megakaryocyte(CFU-GEMM)及び、赤芽球バーストコロニー形成細胞BurstFormingUnit-Erythroid(BFU-E)、顆粒球・マクロファージコロニー形成細胞ColonyFormationgUnit-Granulocyte、Macrophage(CFU-GM)を判別しカウントした。
【0112】
(7)免疫不全マウスへの移植実験
新鮮もしくは培養後の細胞を下記方法にて、免疫不全マウスへ移植を行い、造血能を評価した。BD FACSAriaIIIにてソートした細胞分画を2.5Gy放射線照射したNOGマウス(NOD/Shi-scid, IL-2RyKO Jic)に尾静脈もしくは骨髄内投与した。移植後、4週間毎に末梢血もしくは骨髄細胞を採取し、必要に応じてLysing Buffer(BD社製)を用いて赤血球を破砕した後、FACS Cantoにてドナー由来キメリズムを測定した。細胞染色に下記に対する抗体を用いた:ヒトCD56,ヒトCD3,ヒトCD16,ヒトCD19,ヒトCD14,ヒトCD45,マウスGr-1,マウスCD45,死細胞染色にはPropidium Iodide Solution (BioLegend社製)を用いた。
【0113】
(8)細胞培養
200ulのIMDM(GIBCO社製)、1% Insulin-Transferrin-Selenium_Ethanolamine(ITS-X)(Gibco社製)、1% Penicillin-Streeptomycin-Glutamin)(Gibco社製)、50ng/ml human Stem Cell Factor (PeproTech社製)、human Thrombopoietin (PeproTech社製)を添加したU底96ウェルプレート(CORNING社製)に、FACSAriaIIIを用いて候補細胞分画300細胞/ウェルとなるようにソートした。ソートした細胞は、CO2インキュベーターで、37℃、5%CO2の条件で1週間培養した。培養後、CD11b,CD14,CD19,CD20,CD235ab,CD3,CD4,CD56,CD8a,CD34,CD38,CD117,CD48をマーカーとして、生細胞数、CD34+CD117+分画数、CD34+CD117CD48-分画数、CD34+CD117+CD48+数、生細胞率、CD34+CD117+分画率、CD34+CD117CD48-分画率、CD34+CD117+CD48+率等を、FlowJo(BD)を用いて解析した。CD34+CD117CD48-分画は、長期造血幹細胞を主とする分画である。
【0114】
(9)遺伝子導入
レポーター遺伝子を含むレンチウイルスLenti-LabelerTM virus(フナコシ社製)を用いて感染実験を行った。レトロネクチン(Clontech社製)にてコーティングした96ウェルプレート(CORNING社製)に1x10e8IFU/mlのタイターを有するウイルス液を添加し、ウイルスがコーティングされたプレートを作製する。各ウェルに候補細胞分画より1000細胞以上ソートし播種する。IMDM/5ng/ml SCF/5ng/ml TPO/1% Pen/St/Glu 200ul中にて24時間感染させる。感染させた細胞は、その後細胞培養、CFUアッセイ、移植実験等を行う。
【0115】
実施例1:分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造の生成
生体から得られた新鮮臍帯血に対して赤血球除去、濃縮処理を行い、造血幹細胞を含む細胞集団を得た。当該造血幹細胞を含む細胞集団に対して、EASYSep Human Cord Blood CD34 Positive Selection Kit II(STEMCELL Technologies社製)を用い、CD34陽性細胞分画を粗精製した。当該CD34陽性細胞分画について、CD11b,CD14,CD19,CD20,CD235ab,CD3,CD4,CD56,CD8a,CD34,CD38,CD90,CD45RA,CD49fおよびLEGENDScreen Human PE Kit(BioLegend社製)に含まれる抗体を用いて死細胞染色を行い、各細胞について、各抗体の染色強度を定量化した。当該定量化データを用いて、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造を生成した。当該構造の一部を可視化したものを
図1、
図2に例示する。
図1は、死細胞染色後、生細胞の位置を、定量化データの組み合わせから生成された合成軸1、合成軸2、合成軸3からなる3次元空間に割り当てたものを2次元画像として示したものである。
図2は、当該空間構造に位置を割り当てられた各細胞について、造血幹細胞において特徴的な発現様式を示すことの知られたCD34の発現量を可視化したものである。CD34陽性の細胞は、当該空間構造の一部に偏在している。
【0116】
実施例2:長期造血幹細胞とCD34の発現様式の関連
長期造血幹細胞とCD34の発現様式の関連を調べるために、ヒト臍帯血から分離されたCD3(-)CD34(-)(CD3陰性、CD34陰性)細胞又はCD3(-)CD34(+)(CD3陰性、CD34陽性)細胞を免疫不全マウスへ移植し、移植後のキメラ率を試験した。移植後4週間、8週間および12週間後にキメラ率を試験したところ、CD3(-)CD34(+)細胞はCD3(-)CD34(-)細胞に比して、著明に高い生存率およびキメラ率を示した。結果を
図3に示す。なお、各マーカーの陰性、陽性の区分は、使用したBD FACSAriaIIIの細胞ソート結果に従った。本結果は、長期造血幹細胞とCD34(+)の発現様式が関連していることを示している。
【0117】
分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造における、CD34(+)画分の細胞配置をより詳細に分析するために、CD34(+)画分を展開するのに適した合成軸を用いて生成した空間内に、CD34(+)画分の細胞を配置した。一例を
図4に示す。
【0118】
従前、ヒト長期造血幹細胞はCD38(-)の画分に存在することが報告されており、ヒト長期造血幹細胞を特定するためのマーカーセットとして、CD34(+)、CD38(-)、CD45RA(-)およびCD90(+)からなるマーカーセットなどが提案されてきた(Science,2011,Vol333,pp.218-221、Cell Stem Cell、2007年、Vol.1,pp.635-645)。
そこで改めてCD34(+)画分におけるCD38(+)およびCD38(-)画分の未分化特性を確認した。具体的には、CD38(+)である画分P6(CD34(+)、CD38(+))、従来提案されたCD38(-)画分に関係する画分P7(CD34(+)、CD38(-)、CD45RA(-)、CD90(+))、画分P8(CD34(+)、CD38(-)、CD45RA(-)、CD90(-))、および画分P9(CD34(+)、CD38(-)、CD45RA(+)およびCD90(-))について、CFUアッセイを行い、それぞれの画分における造血幹細胞の増殖・分化能を試験した。その結果、従来提案されたCD38(-)マーカーによって画分されるP7およびP9は、極めて低い造血幹細胞の増殖・分化能を示した(
図5)。一方、CD38(+)である画分P6の細胞も高い造血幹細胞の増殖・分化能を示したことから、従来報告されたCD34(+)、CD38(-)画分のみならず、CD34(+)画分全体に長期造血幹細胞が分布することが理解された。したがって、CD34(+)画分に存在する長期造血幹細胞を単離、濃縮し得る新たなマーカーの探索をする必要が認められた。
【0119】
実施例3:1細胞レベルでの細胞機能解析
ヒト長期造血幹細胞を特定するためのマーカーで特定される細胞の未分化性を確認するために、1細胞レベルでCFUアッセイを行った。一例を
図6に示す。当該1細胞レベルでの細胞機能解析結果を、インデックスソート分析と組み合わせることにより、各1細胞の未分化性と各マーカーの発現様式を紐づけることが可能となる。当該分析によって得られたマーカーと未分化特性の関連を、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造上に配置することにより、当該細胞配置空間構造上の細胞分化方向を確定した。CD34陽性細胞を対象に、当該分析を行った結果の一例を
図7に示す。
【0120】
実施例4:長期造血幹細胞を濃縮または単離するためのマーカー
CD34陽性細胞について、分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造上確定された分化方向に沿って発現が偏在する分子マーカーを特定した。一例を
図8に示す。より未分化方向に偏在して発現するマーカー分子、より分化方向に偏在して発現するマーカー分子を特定した。
これらのマーカーによって特定される細胞の造血幹細胞の増殖・分化能をCFUアッセイによって確認したところ、これらマーカーによって特定される細胞は、対照(CD34(+)細胞)よりも高い造血幹細胞の増殖・分化能を示した(
図9)。
【0121】
これらマーカーは下記を含んでいた。
CD10、CD111、CD112、CD131、CD143、CD18、CD244、CD275、CD328、CD48、CD62L、GPR56、CD133、CD36、CD370、CD84、CD326、CD105、CD114、CD116、CD135、CD172a/b、CD200、CD226、CD245、CD31、CD317、CD40、CD41、CD61、CD93、Notch1、CD352、Siglec-10、CD45RO、CD11c、CD52、CD92、CD318、CD49f、c―Kit、CD34
【0122】
なお、実施例2で確認したとおり、CD34(-)画分には長期造血幹細胞はほとんど存在しないため、CD34(+)で予備濃縮された細胞集団において長期造血幹細胞を濃縮する上記マーカーは、CD34(+)で予備濃縮されていない細胞集団に適用した場合にも、それぞれ単独で長期造血幹細胞を濃縮するためのマーカーとして利用することができる。
【0123】
実施例5:長期造血幹細胞をより詳細に特定するためのマーカー
上記特定されたマーカーのうち、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(-)の組み合わせからなるマーカーで特定される細胞の特性をより詳細に分析した。
臍帯血からCD34(+)で予備濃縮された細胞集団を、c-Kit(+)およびCD34(+)でゲーティングし(画分P1)、さらにCD48(-)でゲーティング(画分P2)した際のFACSプロットの一例を
図10に示す。画分P1のうち、大半の細胞はCD48(+)に画分(画分non-P2)され、一部のみがP2に画分された。
【0124】
また、骨髄細胞サンプルを用いて同様の分画を行ったところ、臍帯血サンプルと極めてよく類似した画分パターンを示した(
図11)。動員末梢血サンプルでも同様に、臍帯血サンプルと極めてよく類似した画分パターンを示した(
図12)。
【0125】
臍帯血1mlに含まれるCD34陽性分画とP2画分の細胞数を比較した結果を
図12に示す。P2画分に分画される細胞は、CD34(+)で予備濃縮された細胞集団のごく一部であることが確認される。なお、臍帯血の大半はCD34(-)であるため、臍帯血サンプル全体中におけるP2画分の細胞の割合は極めて低いことに留意されたい。
【0126】
c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(-)で特定される細胞画分(P2)と、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(+)で特定される細胞画分(non-P2)の造血幹細胞の増殖・分化能を、CFUアッセイによって比較した。その結果、P2画分は極めて高い造血幹細胞の増殖・分化能を有していることが確認された(
図14)。
【0127】
細胞画分P2と、細胞画分non-P2の未分化性を、移植試験によって比較した。放射線照射後12時間もしくは24時間後に細胞移植を行い、移植後20週目の時点での骨髄中のヒト血液細胞(human CD45陽性細胞)におけるキメラ率、およびヒト顆粒球細胞(hGra)におけるキメラ率を試験したところ、いずれの結果も細胞画分P2が極めて高いキメラ率を示すことが確認された(
図15)。
【0128】
骨髄細胞サンプルおよび動員末梢血サンプルを用いて、上記と同様にc-Kit(+)、CD34(+)、CD48(-)で特定される細胞画分(P2)と、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(+)で特定される細胞画分(non-P2)を取得し、造血幹細胞の増殖・分化能を、CFUアッセイによって比較した。その結果、P2画分は極めて高い造血幹細胞の増殖・分化能を有していることが確認された。骨髄細胞サンプルの結果を
図16に、動員末梢血サンプルの
図17に示す。c-Kit(+)、CD34(+)で特定される画分であるP1画分の結果も併せて示した。
【0129】
本結果は、c-Kit(+)、CD34(+)、CD48(-)の組み合わせからなるマーカーを利用することで、長期造血幹細胞を極めて効率的に濃縮し、あるいは単離することができることを示している。また、
図10及び11の左側のプロットに示されるように、CD34(+)分画の細胞のほとんどはc-Kit(+)であった。また、
図5に示したように、長期造血幹細胞はCD34(+)の画分に選択的に分画されることから、c-Kit(+)のマーカーはCD34(+)のマーカーと同様に長期造血幹細胞を濃縮し得ることが理解される。
実際に、臍帯血サンプルについてCD34(+)画分をc-Kit(+)画分とc-Kit(-)画分に分画し、それぞれについて造血幹細胞の増殖・分化能を、CFUアッセイによって比較したところ、c-Kit(+)画分はCD34(+)画分とほぼ同様の造血幹細胞の増殖・分化能を示したのに対して、c-Kit(-)画分は造血幹細胞の増殖・分化能をほとんど示さなかった(
図18)。したがって、CD48(-)とCD34(+)の組み合わせ、CD48(-)とc-Kit(+)の組み合わせからなるマーカーも、長期造血幹細胞を効率的に濃縮し、あるいは単離し得るマーカーとして使用し得ることが理解される。
【0130】
実施例6:追加的なマーカー
上記分化系統上近接した位置にある細胞が近接した位置を占める細胞配置空間構造を利用した分析により、P2画分を更に詳細に画分するための追加的なマーカーを特定した。具体的には、上記分析において分化方向または未分化方向に偏在するマーカーを候補とし、同マーカーの発現量に基づいてP2画分の細胞を被験画分と対照画分に2分し、それぞれの画分の造血幹細胞の増殖・分化能を、CFUアッセイによって比較した。
得られた結果から、被験画分に長期造血幹細胞が濃縮される効率を以下の式により定量化した。
濃縮倍率=被験画分から生じたコロニーのうちCFU-GEMMが占める割合/対照画分から生じたコロニーのうちCFU-GEMMが占める割合
被験画分と対照画分から生じたコロニーのうちCFU-GEMMが占める割合が同一の場合、濃縮倍率は1となる。
【0131】
上記分析結果を
図19に示す。なお、各マーカーの(+)(-)は、上記P2を2分した際に比較的発現量の多い方を(+)、少ない方を(-)として示したものであり、セルソーターの提示する陰性、陽性などとは異なる意味を有することに留意されたい。
これら追加的なマーカーは以下を含む。
CD84(+)、CD111(+)、CD150(-)、GPR56(-)、Notch-1(-)、CD52(-)、CD62L(+)、CD71(+)、CD93(-)、CD122(-)、CD133(-)、CD275(-)、CD131(-)、CD326(+)、CD200(-)、CD200R(-)、CD324(+)、CD40(-)、CD11c(-)、CD318(-)。
【0132】
実施例7:体外培養後の長期造血幹細胞のマーカーによる特定
本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーが、体外培養後の長期造血幹細胞を同定し得るか否かを確認するための試験を行った。造血幹細胞の増殖を促進することの知られた化合物UM171を用いて培養した細胞集団について、c-Kit(+)、CD34(+)およびCD48(-)のマーカーセットで同定される細胞の割合を試験した。P2画分またはnon-P2画分に含まれる300細胞について、UM171添加または非添加の条件で培養し、7日後の総細胞数および未分化細胞(P1)の比率を試験した。P2画分の結果を
図20に、non-P2画分の結果を
図21に示す。本試験により、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーは、体外培養後の長期造血幹細胞を同定し得ることが理解される。本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーが、体外培養後の長期造血幹細胞を同定し得ることは、さらにCFUアッセイ等の機能試験によっても確認することができる。 臍帯血サンプルからc-Kit(+)、CD34(+)およびCD48(-)のマーカーセットで分画したP2画分の細胞を7日間培養した後、培養後の細胞集団をc-Kit(+)、CD34(+)およびCD48(-)のマーカーセットを用いてP2画分(培養後)およびnon-P2画分(培養後)に分画し、それぞれにつき、CFUアッセイを行った。その結果、培養後細胞集団中はすべてP2画分(培養後)に分画され、non-P2画分(培養後)に分画される細胞は確認されなかった。P2画分(培養後)についてCFUアッセイを行ったところ、P2画分(培養後)からは培養前のP2画分と同様に、未分化細胞(CFU-GEMM細胞)の高い含有割合が確認された(
図22)。
これらの結果は、本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーが、体外培養後の長期造血幹細胞を同定し得ることを示している。
【0133】
実施例8:単離または濃縮された長期造血幹細胞に対する遺伝子導入
本開示の長期造血幹細胞を単離または濃縮するマーカーによって単離または濃縮された長期造血幹細胞が、遺伝子導入後も長期造血幹細胞の特性を維持しているか否かを確認するために、CFUアッセイによる機能試験を行う。具体的には、P2画分、non-P2画分、またはDC34陽性画分に含まれる細胞に対して、レンチウイルスベクターによりGFPレポーター遺伝子を遺伝子導入し、これら遺伝子導入された細胞についてCFUアッセイを行い、P2画分由来の遺伝子導入細胞が増殖・分化能を維持していることを確認する。
本開示は、長期造血幹細胞、長期造血幹細胞の単離または濃縮方法、単離または濃縮された長期造血幹細胞または長期造血幹細胞を含む細胞集団の製造方法、単離または濃縮された長期造血幹細胞または長期造血幹細胞を含む細胞集団の評価方法、単離または濃縮された長期造血幹細胞または長期造血幹細胞を含む細胞集団を検出、単離または濃縮するための組成物またはキット、長期造血幹細胞の特性を修飾する化合物のスクリーニング方法、培養条件の評価、調整方法を提供し、長期造血幹細胞を利用した医薬の開発などに寄与する。