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特開2022-179842プラント状態予測装置、及び、プラント状態予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179842
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】プラント状態予測装置、及び、プラント状態予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 3/04 20060101AFI20221129BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G06N3/04
G05B23/02 R
G05B23/02 302R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086606
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小森 智博
(72)【発明者】
【氏名】山科 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】立石 浩毅
(72)【発明者】
【氏名】田村 和浩
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 敏生
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223FF05
3C223FF23
3C223FF26
(57)【要約】
【課題】複数の状態量計測値に対して非線形的な振る舞いを有するプラントの状態を、良好な解釈性を確保しながら、精度よく予測する。
【解決手段】プラント状態予測装置は、プラントに関する複数の状態量計測値をニューラルネットワークに入力することで、プラントの状態を予測するための装置である。本装置のニューラルネットワークは、入力層と線形結合層と全結合層とを備える。線形結合層は、入力層を構成する各ノードに入力される複数の状態量計測値を線形結合することにより中間出力値を算出する。全結合層は、層間のノードが互いに結合し、非線形関数を含むネットワークに、中間出力値を入力することでプラントの状態に関する予測値を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントに関する複数の状態量計測値をニューラルネットワークに入力することで、プラントの状態を予測するためのプラント状態予測装置であって、
前記ニューラルネットワークは、
入力層と、
前記入力層を構成する各ノードに入力される前記複数の状態量計測値を線形結合することにより中間出力値を算出可能な線形結合層と、
層間のノードが互いに結合し、非線形関数を含むネットワークに、前記中間出力値を入力することで前記プラントの状態に関する予測値を算出可能な全結合層と、
を備える、プラント状態予測装置。
【請求項2】
前記複数の状態量計測値の各々について前記中間出力値における重みを算出することにより、前記複数の状態量計測値の重要度をそれぞれ評価するように構成された、請求項1に記載のプラント状態予測装置。
【請求項3】
前記重みが予め設定された閾値より大きいか否かに基づいて、前記プラントの状態における主要因子を特定するように構成された、請求項2に記載のプラント状態予測装置。
【請求項4】
前記線形結合層は、前記入力層の直後に設けられる、請求項1から3の何れか一項に記載のプラント情報予測装置。
【請求項5】
前記全結合層は、前記線形結合層より一層当たりのニューロン数が多い、請求項1から4のいずれか一項に記載のプラント状態予測装置。
【請求項6】
前記線形結合層は一層あたりのニューロンの数が1つである、請求項1から5のいずれか一項に記載のプラント状態予測装置。
【請求項7】
前記非線形関数はReLU関数である、請求項1から6のいずれか一項に記載のプラント状態予測装置。
【請求項8】
前記予測値は、前記プラントが備えるタービンの非同期振動に関するパラメータである、請求項1から7のいずれか一項に記載のプラント状態予測装置。
【請求項9】
プラントに関する複数の状態量計測値をニューラルネットワークに入力することで、プラントの状態を予測するためのプラント状態予測方法であって、
各ノードに入力される前記複数の状態量計測値を前記ニューラルネットワークの線形結合層に入力して線形結合することにより中間出力値を算出する工程と、
層間のノードが互いに結合し、非線形関数を含む前記ニューラルネットワークの全結合層に、前記中間出力値を入力することで前記プラントの状態に関する予測値を算出する工程と、
を備える、プラント状態予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラント状態予測装置、及び、プラント状態予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な分野において、互いに因果関係にある説明変数と目的変数との関係を表す予測モデルを用いた、将来的な事象の予測が行われている。例えば、プラント制御の分野では、プラントに設置されたセンサ等の計測結果(以下、適宜「状態量計測値」と称する)を説明変数とするとともに、プラントの動作状態に関するパラメータを目的変数とする予測モデルを構築し、当該予測モデルを用いてパラメータの予測値を算出することで、プラントの将来的な挙動を検証することができる。
【0003】
このような予測モデルは、例えば特許文献1のようにLasso回帰や重回帰のような線形回帰手法によって構築できる。しかしながら線形回帰手法は、予測対象の挙動が比較的シンプルなものに適しており、蒸気タービンにおける非同期振動のように発生メカニズムが明確になっておらず、非線形的な振る舞いを示す現象には適用が難しい場合がある。このような対象については、例えば特許文献2のように、全結合層型のニューラルネットワークを用いた予測モデルの構築が行われる。ニューラルネットワークを用いる場合、訓練データを入力した際の予測モデルの出力値が教師データの値に近づくように、ニューラルネットワークの重みやバイアスといったパラメータを学習することで、予測モデルの構築がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-2673号公報
【特許文献2】特開2013-40565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2のようなニューラルネットワークを用いた手法では、線形回帰法では扱えない対象を扱うことができるが、ネットワーク構造が複雑であるため構造の解釈が困難である。
【0006】
本開示の少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、複数の状態量計測値に対して非線形的な振る舞いを有するプラントの状態を、良好な解釈性を確保しながら、精度よく予測可能なプラント状態予測装置、及び、プラント状態予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一実施形態に係るプラント状態予測装置は、上記課題を解決するために、
プラントに関する複数の状態量計測値をニューラルネットワークに入力することで、プラントの状態を予測するためのプラント状態予測装置であって、
前記ニューラルネットワークは、
入力層と、
前記入力層を構成する各ノードに入力される前記複数の状態量計測値を線形結合することにより中間出力値を算出可能な線形結合層と、
層間のノードが互いに結合し、非線形関数を含むネットワークに、前記中間出力値を入力することで前記プラントの状態に関する予測値を算出可能な全結合層と、
を備える。
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係るプラント状態予測方法は、上記課題を解決するために、
プラントに関する複数の状態量計測値をニューラルネットワークに入力することで、プラントの状態を予測するためのプラント状態予測方法であって、
各ノードに入力される前記複数の状態量計測値を前記ニューラルネットワークの線形結合層に入力して線形結合することにより中間出力値を算出する工程と、
層間のノードが互いに結合し、非線形関数を含む前記ニューラルネットワークの全結合層に、前記中間出力値を入力することで前記プラントの状態に関する予測値を算出する工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の少なくとも一実施形態によれば、複数の状態量計測値に対して非線形的な振る舞いを有するプラントの状態を、良好な解釈性を確保しながら、精度よく予測可能なプラント状態予測装置、及び、プラント状態予測方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係るプラント状態予測装置を概略的に示す構成図である。
図2】従来の全結合型ニューラルネットワークの構成図である。
図3図1のニューラルネットワークの構成図である。
図4図1のプラント状態予測装置においてニューラルネットワークに代えて線形回帰を採用した参考例で得られた予測結果を実測結果と比較して示す図である。
図5図1のプラント状態予測装置で得られた予測結果を実測結果と比較して示す図である。
図6図1のプラント状態予測装置で得られた予測値と実測値との相関係数を参考例と比較した検証結果である。
図7図1のプラント状態予測装置において全結合層のノード層数を変化させた場合における予測値の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0012】
図1は一実施形態に係るプラント状態予測装置1を概略的に示す構成図である。プラント状態予測装置1は、プラントの状態を予測するための装置であって、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0013】
このようなプラント状態予測装置1には、予測対象であるプラントに設置されたセンサ等の計測手段(不図示)によって計測されたプラントに関する複数の状態量(状態量計測値)x1、x2、・・・が入力される。これらの複数の状態量計測値x1、x2、・・・は、プラント状態予測装置1が備えるニューラルネットワークNNに入力され、プラントの状態に関するパラメータの予測値Vpを出力する。
【0014】
以下の実施形態では、プラントの状態に関するパラメータの一例として、プラントが備えるタービンの翼振動値について予測値Vpを求め、当該予測値Vpに基づいてタービンの非同期振動の発生を予測する場合について述べる。タービンの非同期振動は発生メカニズムが明確になっておらず、非線形的な振る舞いを示すが、プラント状態予測装置1、及び、当該装置によって実施されるプラント状態予測方法によって好適に予測することができる。尚、このような予測対象は一例に過ぎず、例えばプラント内部の温度や圧力などのプラント状態に関するパラメータを広く含むことができる。
【0015】
ここで図1のニューラルネットワークNNの前提技術として、従来の全結合型ニューラルネットワークNN´について説明する。図2は従来の全結合型ニューラルネットワークNN´の構成図である。
【0016】
全結合型ニューラルネットワークNN´は、入力層2と、隠れ層4´と、出力層6とを備える。入力層2には、前述の複数の状態量計測値x1、x2、・・・が入力される。入力層2に入力された複数の状態量計測値x1、x2、・・・は、入力層2の各ノードN(ニューロン)を起点として、隠れ層4´を構成する各層のノードNを介して、その結果が出力層6から予測値Vpとして出力されるように構成される。
【0017】
隠れ層4´は少なくとも1つのノード層を有する。全結合型ニューラルネットワークNN´では、隠れ層4´は複数のノード層を有しており、各ノード層のノードNが互い全結合した構成を有する。各ノードN間の結合強度は重みによって設定される。各ノードN間の重みは、学習を行うことで、ネットワーク出力値(出力層からの出力値)と正解との誤差とが小さくなるようにチューニングすることで設定される。
【0018】
図3図1のニューラルネットワークNNの構成図である。ニューラルネットワークNNは、前述の全結合型ニューラルネットワークNN´と同様に入力層2及び出力層6を有するが、隠れ層4の構成が異なる。具体的には、ニューラルネットワークNNの隠れ層4は、線形結合層8、及び、全結合層10を含んで構成される。
【0019】
線形結合層8は、ニューラルネットワークNNの各ノードNに入力される複数の状態量計測値x1、x2、・・・を線形結合することにより中間出力値zを算出可能に構成される。具体的には、中間出力値zは、入力層2の各ノードNに入力された複数の状態量計測値x1、x2、・・・xnを重みw1、w2、・・・を用いた線形結合により、次式により算出される。
z=w1・x1+w2・x2+・・・・wn・xn+w0 (1)
【0020】
全結合層10は、隣接するノード層間の各ノードNが互いに結合し、非線形関数nfを含むネットワークに、中間出力値zを入力することでプラントの状態に関する予測値を算出可能に構成される。全結合層10に含まれる非線形関数nfは、例えばReLU関数、sigmoid関数、tanh関数のような任意の非線形関数nfを用いることができる。これらの非線形関数nfの選択は、データに対して行われる前処理(正規化処理(最大値を1、最小値を0にするようにデータを変換する処理)、標準化処理(平均値を0、分散を1にするようにデータを変換する処理))の方法に基づいて行ってもよい。本実施形態では、非線形関数の一例としてReLU関数が用いられる。ReLU関数は他の非線形関数に比べて単純な形を有するため、全結合層10における演算負荷を効果的に軽減することができる。また勾配消失(ネットワークの学習が進行しない状態に陥ること)の可能性がない点も有利である。
【0021】
また前述の全結合型ニューラルネットワークNN´では学習が安定せず期待する予測精度が得られない場合もあった。それに対して、本実施形態のようなニューラルネットワークNNでは、実質的に全結合型ニューラルネットワークNN´の一部を線形結合層8として構成することで、学習がより安定する点でも有利である。
【0022】
このような構成を有するニューラルネットワークNNでは、線形結合層8の重みw1、w2、・・・、wnは、ニューラルネットワークNNを学習し、出力される予測値Vpの誤差が小さくなるようにチューニングすることで設定される。線形結合層8では、このようにチューニングされた重みw1、w2、・・・、wnを用いた線形結合によって中間出力値zが算出されるため、良好な解釈性を有する。具体的には、チューニングによって得られた各重みw1、w2、・・・、wnを比較することにより、評価対象となるプラント状態に対して各状態量計測値x1、x2、・・・、xnの寄与度(又は重要度)を評価することができる。例えば、状態量計測値x1、x2、x3、・・・xnに対応する重みがw1=3.5、w2=0.05、w3=10、・・・、wn=-1にチューニングされた場合には、重みが比較的大きな状態計測値w3が予測値Vpに対して寄与度が大きい要因であり、一方で重みが最も小さい状態量計測値w2が予測値Vpに対して寄与度が小さい要因であることがわかる。また、負の重みを有する状態量計測値wnは、予測値Vpに対して正の重みを有する他の状態量計測値とは逆方向に寄与する要因であることがわかる。
【0023】
例えば、前述したタービン翼における振動振幅を予測値Vpとした場合、複数の状態量計測値x1、x2、x3、・・・xnとして、プラントが備えるタービンの真空度、出力、ロータ熱伸び差、タービン弁開度、入口蒸気温度などの各種パラメータを設定し、各状態量計測値x1、x2、x3、・・・xnに対応する重みw1、w2、・・・、wnを比較することにより、評価目的となる現象である非同期振動に対する各状態量計測値x1、x2、・・・、xnの寄与度を評価することができる。例えば、各重みw1、w2、・・・、wnを予め設定された閾値と比較することにより、閾値より大きな重みを有する寄与度の大きなグループと、閾値以下の重みを有する寄与度の小さなグループとに分類することで、プラント評価を行ってもよい。この場合、最も大きな重みを有する状態量計測値を非同期振動の主要因子として特定してもよい。
【0024】
ここで上記構成を有するプラント状態予測装置1で得られる予測結果について、線形回帰を用いた参考例と比較して説明する。尚、以下の説明では、プラントが備えるタービンに発生し得る非線形的現象である非同期振動を予測対象とし、予測値Vpとしてタービン翼の振動振幅を取り扱うが、予測対象はこれに限定されない。
【0025】
図4は、図1のプラント状態予測装置1においてニューラルネットワークNNに代えて線形回帰(Lasso回帰)を採用した参考例で得られた予測結果を実測結果と比較して示す図である。図4では、タービン翼の振動振幅について予測値Vpと実測値の時間的変化が示されており、サークルC1で囲む領域において予測値Vpが実測値に比べて過少評価されていることが示されている。これは、線形回帰ではタービンの非同期翼振動のような非線形的な現象を精度よく予測することが難しいことを示している。
【0026】
一方で図5図1のプラント状態予測装置1で得られた予測結果を実測結果と比較して示す図である。図5では、サークルC2で囲んで示すように、実測値において振動振幅が大きくなることで非同期振動が生じていることを示す領域において、予測値Vpも同等の値が得られている。これは、タービン翼の非同期振動のような非線形的な振る舞いを有する現象を精度よく予測できていることを示している。
【0027】
続いて図6は、図1のプラント状態予測装置1で得られた予測値と実測値との相関係数を参考例と比較した検証結果である。図6では、プラントが備えるタービンに発生し得る非線形的現象である非同期振動を予測対象とし、参考例として図2に示す全結合型ニューラルネットワークNN´による検証結果を併せて示している。また図6では、同様の検証を複数回にわたって行った結果が示されている。この相関係数は、予測値と実測値との誤差が小さいほど「1」に近づく指標であり、ニューラルネットワークNN(又は参考例では全結合型ニューラルネットワークNN´)に対して学習を行わせる学習区間と、学習済のニューラルネットワークNN(又は参考例では全結合型ニューラルネットワークNN´)を用いて実際に予測を行う検証区間における相関係数がそれぞれ示されている。
【0028】
図6に示すように、いずれの検証結果においても、学習区間・検証区間に関わらず、本実施形態に係るプラント状態予測装置1による予測結果では、全結合型ニューラルネットワークNN´を用いる参考例と同等の相関係数が得られている。これは、プラント状態予測装置1ではニューラルネットワークNNの一部を線形結合部にしても、十分な予測精度が得られることを示している。
【0029】
続いてプラント状態予測装置1が有するニューラルネットワークNNのノード層数に関する検証結果について説明する。図7図1のプラント状態予測装置において全結合層のノード層数mを変化させた場合における予測値Vpの時間変化を示す図である。図7では、全結合層のノード層数がm=5の場合と、m=50の場合とが示されている。両者とも実測値に対して良好な再現性が得られているが、m=5の場合は平均二乗誤差(MSE:Mean Squared Error)が0.0046であり、R値が0.83であるのに対して、m=50の場合は平均二乗誤差が0.0040であり、R値が0.85であった。これにより、ニューラルネットワークNNでは全結合層のノード層数mが多いほど、ニューラルネットワークNNの表現力が増すことで予測精度が向上していることを示している。
【0030】
以上説明したように上記実施形態によれば、線形結合層8と全結合層10を備えるニューラルネットワークNNを用いて、複数の状態量計測値からプラントの状態を予測することができる。このようなニューラルネットワークNNでは、線形結合層8で算出された中間出力値zを、全結合層10において非線形関数nfを含むネットワークに入力することで予測値Vpを算出するため、従来の線形回帰では表現不能な非線形的な現象を考慮した状態予測を精度よく行うことができる。また、予測値Vpを算出する際に、複数の状態量計測値x1、x2、・・・、xnを中間出力値zに圧縮することで、全体が全結合型である従来のニューラルネットワークNN´に比べて構造が単純化され、学習の安定性が向上する。一方で、線形結合層8で算出される中間出力値zは、複数の状態量計測値x1、x2、・・・、xnの線形結合として求められるため、中間出力値zに対する各状態量計測値x1、x2、・・・、xnの重みw1、w2、・・・、wnを確認することで、良好な解釈性が得られる。これにより、例えば、各状態量計測値x1、x2、・・・、xnの重みw1、w2、・・・、wnを比較することで、予測値Vpに対する寄与度や感度方向などの評価が可能である。
【0031】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0032】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0033】
(1)一態様に係るプラント状態予測装置は、
プラントに関する複数の状態量計測値(例えば上記実施形態の状態量計測値x1、x2、・・・、xn)をニューラルネットワーク(例えば上記実施形態のニューラルネットワークNN)に入力することで、プラントの状態を予測するためのプラント状態予測装置(例えば上記実施形態のプラント状態予測装置1)であって、
前記ニューラルネットワークは、
入力層と、
前記入力層を構成する各ノードに入力される前記複数の状態量計測値を線形結合することにより中間出力値(例えば上記実施形態の中間出力値z)を算出可能な線形結合層(例えば上記実施形態の線形結合層8)と、
層間のノードが互いに結合し、非線形関数(例えば上記実施形態の非線形関数nf)を含むネットワークに、前記中間出力値を入力することで前記プラントの状態に関する予測値(例えば上記実施形態の予測値Vp)を算出可能な全結合層(例えば上記実施形態の全結合層10)と、
を備える。
【0034】
上記(1)の態様によれば、線形結合層と全結合層を備えるニューラルネットワークを用いて、複数の状態量計測値からプラントの状態を予測することができる。このようなニューラルネットワークでは、線形結合層で算出された中間出力値を、全結合層において非線形関数を含むネットワークに入力することで予測値を算出するため、従来の線形回帰では表現不能な非線形的な現象を考慮した状態予測を精度よく行うことができる。また、予測値を算出する際に、複数の状態量計測値を中間出力値に圧縮することで、全体が全結合型である従来のニューラルネットワークに比べて構造が単純化され、学習の安定性が向上する。一方で、線形結合層で算出される中間出力値は、複数の状態量計測値の線形結合として求められるため、中間出力値に対する各状態量計測値の重みを確認することで、良好な解釈性が得られる。これにより、例えば、各状態量計測値の重みを比較することで、予測値に対する寄与度や感度方向などの評価が可能である。
【0035】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記複数の状態量計測値の各々について前記中間出力値における重み(例えば上記実施形態の重みw1、w2、・・・、wn)を算出することにより、前記複数の状態量計測値の重要度をそれぞれ評価するように構成される。
【0036】
上記(2)の態様によれば、線形結合部において複数の状態量計測値の線形結合によって算出される中間出力値に対する各状態量計測値の重みに基づいて重要度を評価することで、良好な解釈性が得られる。
【0037】
(3)他の態様では、上記(2)の態様において、
前記重みが予め設定された閾値より大きいか否かに基づいて、前記プラントの状態における主要因子を特定するように構成される。
【0038】
上記(3)の態様によれば、複数の状態量計測値の線形結合によって算出される中間出力値から求められる各状態量計測値の重みを閾値と比較することによって、複数の状態量計測値から予測対象となるプラントの状態をもたらす主要因子を特定できる。
【0039】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記線形結合層は、前記入力層の直後に設けられる。
【0040】
上記(4)の態様によれば、入力層の直後に線形結合層を設けることで、線形結合層では、入力層を構成する各ノードに入力される状態量計測値を線形結合して出力するため、良好な解釈性が得られる。
【0041】
(5)他の態様では、上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記全結合層は、前記線形結合層より一層当たりのニューロン数が多い。
【0042】
上記(5)の態様によれば、全結合層の一層当たりのニューロン数を、線形結合層より十分に多くすることで、ネットワークの表現力が増し、予測精度を向上できる。
【0043】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記線形結合層は一層あたりのニューロンの数が1つである。
【0044】
上記(6)の態様によれば、線形結合層を一層あたりのニューロンの数が1つである層から構成することで、より良好な解釈性が得られる。
【0045】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記非線形関数はReLU関数である。
【0046】
上記(7)の態様によれば、ReLU関数は他の非線形関数に比べて単純な形を有するため、演算負荷を軽減することができる。また勾配消失の可能性がない点も有利である。
【0047】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記予測値は、前記プラントが備えるタービンの非同期振動に関するパラメータである。
【0048】
上記(8)の態様によれば、予測対象として、プラントに備えるタービンに生じる非同期振動に関するパラメータを好適に予測できる。このような非同期振動は、計測可能な状態量計測値に対して非線形な振る舞いを有するため、経験的に相関があるといわれている状態量計測値(例えば出力や真空度など)では説明がつかない場合があるが、前述の構成を有するニューラルネットワークを用いることで精度よく予測することが可能となる。
【0049】
(9)一態様に係るプラント状態予測方法は、
プラントに関する複数の状態量計測値(例えば上記実施形態の状態量計測値x1、x2、・・・、xn)をニューラルネットワーク(例えば上記実施形態のニューラルネットワークNN)に入力することで、プラントの状態を予測するためのプラント状態予測方法であって、
各ノードに入力される前記複数の状態量計測値を前記ニューラルネットワークの線形結合層(例えば上記実施形態の線形結合層8)に入力して線形結合することにより中間出力値(例えば上記実施形態の中間出力値z)を算出する工程と、
層間のノードが互いに結合し、非線形関数(例えば上記実施形態の非線形関数nf)を含む前記ニューラルネットワークの全結合層(例えば上記実施形態の全結合層10)に、前記中間出力値を入力することで前記プラントの状態に関する予測値(例えば上記実施形態の予測値Vp)を算出する工程と、
を備える。
【0050】
上記(9)の態様によれば、線形結合層と全結合層を備えるニューラルネットワークを用いて、複数の状態量計測値からプラントの状態を予測することができる。このようなニューラルネットワークでは、線形結合層で算出された中間出力値を、全結合層において非線形関数を含むネットワークに入力することで予測値を算出するため、従来の線形回帰では表現不能な非線形的な現象を考慮した状態予測を精度よく行うことができる。また、予測値を算出する際に、複数の状態量計測値を中間出力値に圧縮することで、全体が全結合型である従来のニューラルネットワークに比べて構造が単純化され、学習の安定性が向上する。一方で、線形結合層で算出される中間出力値は、複数の状態量計測値の線形結合として求められるため、中間出力値に対する各状態量計測値の重みを確認することで、良好な解釈性が得られる。これにより、例えば、各状態量計測値の重みを比較することで、予測値に対する寄与度や感度方向などの評価が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 プラント状態予測装置
2 入力層
4 隠れ層
6 出力層
8 線形結合層
10 全結合層
NN ニューラルネットワーク
NN´ 全結合型ニューラルネットワーク
N ノード
z 中間出力値
x1、x2、・・・、xn 状態量計測値
w1、w2、・・・、wn 重み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7