(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022017986
(43)【公開日】2022-01-26
(54)【発明の名称】温度異常監視装置、走行車システム及び温度異常監視方法
(51)【国際特許分類】
B60M 7/00 20060101AFI20220119BHJP
B60L 5/00 20060101ALI20220119BHJP
B60L 13/00 20060101ALI20220119BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20220119BHJP
【FI】
B60M7/00 X
B60L5/00 B
B60L13/00 E
H02J50/10
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020120894
(22)【出願日】2020-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】冨田 洋靖
(72)【発明者】
【氏名】細淵 英治
【テーマコード(参考)】
5H105
5H125
【Fターム(参考)】
5H105AA20
5H105BA02
5H105BB07
5H105CC02
5H105DD10
5H105EE15
5H125AA11
5H125AC04
(57)【要約】
【課題】発熱の原因を特定することにより、適切な対応を速やかに採ることを可能とする温度異常監視装置、走行車システム及び温度異常監視方法を提供する。
【解決手段】温度異常監視装置40は、端子台12の温度異常を監視する。温度異常監視装置40は、端子台12の温度を時間に対応させて取得し、温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子台の温度異常を監視する温度異常監視装置であって、
前記端子台の温度を時間に対応させて取得し、前記温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する、温度異常監視装置。
【請求項2】
前記端子台は走行車に給電するための給電装置に含まれる、請求項1に記載の温度異常監視装置。
【請求項3】
前記温度は、前記端子台に通電が行われる前の前記端子台の温度からの上昇温度である、請求項1又は2に記載の温度異常監視装置。
【請求項4】
前記温度に関する第1の基準温度と、前記第1の基準温度よりも高い第2の基準温度とが設定されており、
前記第1の基準温度を超えた時間と前記第2の基準温度を超えた時間との差が所定時間以上である場合に、温度上昇の原因に振動が含まれると判定する、請求項1~3のいずれか一項に記載の温度異常監視装置。
【請求項5】
前記端子台から取得した前記温度と時間との関係をグラフに表した場合に、前記端子台から取得した当該温度が、温度上昇が始まってから一定時間経過後に基準温度を超えることを示す所定エリアを通るか否かによって、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の温度異常監視装置。
【請求項6】
前記端子台から取得した前記温度と時間との関係をグラフに表した場合に、前記端子台から取得した当該温度の時間に対する変化の滑らかさが所定値以下であるか否かによって、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する、請求項1~5のいずれか一項に記載の温度異常監視装置。
【請求項7】
走行車と、
前記端子台を含み、前記走行車に給電するための給電装置と、
請求項1~6のいずれか一項に記載の温度異常監視装置と、
を備える、走行車システム。
【請求項8】
端子台の温度異常を監視する温度異常監視方法であって、
前記端子台の温度を時間に対応させて取得し、前記温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する、温度異常監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度異常監視装置、走行車システム及び温度異常監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有軌道台車システム(走行車システム)において、レール上を走行する搬送台車に対し、非接触で給電を行う技術が知られている。非接触給電設備は、電源装置、2本の給電ケーブル、及び受電ユニットにより構成されている。給電ケーブルはレールに沿って敷設されている。受電ユニットは搬送台車に取り付けられており、給電ケーブルに流れる高周波電流から非接触で電力を受け取る。給電ケーブルは、ブスバー等の端子台に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、端子台に給電ケーブルが接続された接続部付近において、接触抵抗の増大等により発熱が生じる可能性に言及されている。このシステムでは、給電ケーブルと端子台との接続部付近の温度異常が検出される。
【0005】
給電システムの電路の接続部分である端子台における発熱は、様々な原因によって生じ得る。万一、異常発熱が生じて進行すると、焼損等を起こす虞がある。異常発熱が生じた場合、端子への給電を停止し、作業者が原因を除去してから給電を再開する必要がある。原因に応じて、作業者が採るべき対応は異なる。例えば、発熱の原因に振動が含まれている場合には、防振対策を施す等の対応が考えられる。従来は、発熱を検知した際に、システムによって発熱の原因を特定することは難しかった。よって、適切な対応を速やかに採ることが難しかった。
【0006】
本発明は、発熱の原因を特定することにより、適切な対応を速やかに採ることを可能とする温度異常監視装置、走行車システム及び温度異常監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、端子台の温度異常を監視する温度異常監視装置であって、端子台の温度を時間に対応させて取得し、温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する。
【0008】
本発明者らの検討によれば、端子台の温度が時間に応じてどのように変化するかを観察することにより、端子台の温度上昇の原因を推定することができる。端子台の温度上昇の原因に振動が含まれる場合は、端子台の温度の時間的変化が、特定の傾向を示す。この温度異常監視装置によれば、端子台の温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定することで、少なくとも、振動が発熱の原因となっている場合に当該原因を特定することができる。したがって、例えば、振動の発生源となるシステムを停止させたり、作業者が防振対策を施したりする等の適切な対応を速やかに採ることが可能となる。
【0009】
端子台は走行車に給電するための給電装置に含まれてもよい。走行車システムにおいて、給電装置の端子台が異常発熱を生じると、多くの走行車の走行に支障をきたす。温度異常監視装置が給電装置の端子台の発熱の原因を特定できれば、給電装置に対して適切な対応を採ることが可能である。その結果として、給電装置の重大な故障等を未然に防止することができる。
【0010】
温度は、端子台に通電が行われる前の端子台の温度からの上昇温度であってもよい。このように温度を観察することで、温度異常監視装置は温度上昇をより正確に把握することができる。時間は、温度上昇が始まってからの経過時間になるので、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かの見極めも正確である。
【0011】
温度に関する第1の基準温度と、第1の基準温度よりも高い第2の基準温度とが設定されており、温度異常監視装置は、第1の基準温度を超えた時間と第2の基準温度を超えた時間との差が所定時間以上である場合に、温度上昇の原因に振動が含まれると判定してもよい。この判定基準によれば、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを適切に判定できる。
【0012】
端子台から取得した温度と時間との関係をグラフに表した場合に、端子台から取得した当該温度が、温度上昇が始まってから一定時間経過後に基準温度を超えることを示す所定エリアを通るか否かによって、温度異常監視装置は、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定してもよい。この判定基準によれば、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを適切に判定できる。
【0013】
端子台から取得した温度と時間との関係をグラフに表した場合に、端子台から取得した当該温度の時間に対する変化の滑らかさが所定値以下であるか否かによって、温度異常監視装置は、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定してもよい。この判定基準によれば、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを適切に判定できる。
【0014】
本発明の別の態様として、端子台を含み、走行車に給電するための給電装置と、上記したいずれかの温度異常監視装置と、を備える走行車システムが提供されてもよい。この走行車システムでは、給電装置の端子台の発熱の原因を特定することができる。給電装置に対して適切な対応を速やかに採ることが可能である。給電装置の重大な故障等を未然に防止することができる。
【0015】
本発明の更に別の態様は、端子台の温度異常を監視する温度異常監視方法であって、端子台の温度を時間に対応させて取得し、温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する。この温度異常監視方法によっても、上記した温度異常監視装置と同様の作用及び効果が奏される。すなわち、この温度異常監視方法によれば、端子台の温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定することで、少なくとも、振動が発熱の原因となっている場合に当該原因を特定することができる。したがって、例えば、振動の発生源となるシステムを停止させたり、作業者が防振対策を施したりする等の適切な対応を速やかに採ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、少なくとも、振動が発熱の原因となっている場合に当該原因を特定することができる。したがって、例えば、振動の発生源となるシステムを停止させたり、作業者が防振対策を施したりする等の適切な対応を速やかに採ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る走行車システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図1の走行車システムの給電装置及び温度異常監視装置の構成を示す図である。
【
図3】端子台におけるギャップを説明するための図である。
【
図4】端子台の温度と時間の関係を例示する図であり、一方は正常な状態での温度変化を示すグラフ、他方は振動を原因として温度異常(発熱)が生じた場合の温度変化を示すグラフである。
【
図5】温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定するためのエリアの分類について説明するための図である。
【
図6】一実施形態に係る温度異常監視装置における処理の流れを示したフローチャートである。
【
図7】端子台に1mmのギャップが存在し且つ振動がない場合の試験結果を示す図である。
【
図8】端子台に1mmのギャップと振動が存在する場合の試験結果を示す図である。
【
図9】端子台に3mmのギャップが存在し且つ振動がない場合の試験結果を示す図である。
【
図10】端子台に4mmのギャップが存在し且つ振動がない場合の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1に示されるように、搬送システム100は、軌道レールTに沿って走行する複数の天井搬送車(走行車)20と、天井搬送車20に給電するための非接触給電装置(給電装置)1と、を備えている。搬送システム100は、軌道レールTに沿って移動可能な天井搬送車20を用いて、物品(図示省略)を搬送するための走行車システムである。搬送システム100では、軌道レールTに設けられた給電線10A,10Bから非接触で天井搬送車20の受電装置21に電力が供給される。天井搬送車20は、受電装置21に供給された電力によって走行し、或いは、天井搬送車20に設けられた各種装置を駆動する。
【0020】
天井搬送車20には、例えば、天井吊り下げ式のクレーン、OHT(Overhead Hoist Transfer)等が含まれる。物品には、例えば、複数の半導体ウェハを格納する容器、ガラス基板を格納する容器、レチクルポッド、一般部品等が含まれる。ここでは、例えば、工場等において、天井搬送車20が、工場の天井に敷設された軌道レールTに沿って走行する搬送システム100を例に挙げて説明する。
【0021】
軌道レールTは、例えば、周回軌道である。給電線10A,10Bへは、非接触給電装置1から電力が供給されている。給電線10A,10Bは、天井搬送車20の走行方向における軌道レールTの下方であって軌道中央を基準とする右側及び左側の少なくとも一方に配置されている。なお、給電線10Bは、給電線10Aの下方に設けられているため、
図1において給電線10Aの下に重なった状態となっている。
【0022】
給電線10A,10Bは、切換部30によって軌道レールTに対する配置が変えられる。給電線10A,10Bは、非接触給電装置1に接続された当初の領域では、軌道レールTの左側に配置されている。軌道レールTを天井搬送車20の走行方向に進むと、給電線10A,10Bは、切換部30によって軌道レールTの左側から右側に配置が切り替えられる。給電線10A,10Bが軌道レールTの右側に配置されることにより、
図1に示されるように、軌道レールTから分岐した支線TAを天井搬送車20が走行する場合でも、受電装置21に対する電力の供給を継続して行うことができる。
【0023】
続いて、
図1~
図3を参照して、本実施形態の温度異常監視装置40について説明する。
図1に示されるように、搬送システム100は、例えば非接触給電装置1における端子台12(
図3参照)の温度異常を監視する温度異常監視装置40を備えている。温度異常監視装置40は、端子台12に取り付けられた温度計15が取得し送信する温度信号に基づいて、端子台12の温度異常を監視する。温度異常監視装置40は、非接触給電装置1内に設けられた端子台12の温度異常を監視するが、その形態に限られない。温度異常監視装置40は、給電線10A,10Bのいずれかの部分に端子台が用いられている場合に、それらの端子台の温度異常を監視してもよい。
【0024】
温度異常監視装置40は、独自の判定アルゴリズムを有しており、その判定アルゴリズムを用いることにより、端子台12の温度上昇の原因を特定することができる。温度異常監視装置40は、端子台12の温度上昇の時間的変化に基づいて、端子台12の温度上昇の原因を特定する。言い換えれば、温度異常監視装置40は、端子台12の温度の時間微分に基づいて、端子台12の温度上昇の原因を特定する。
【0025】
図2に示されるように、温度異常監視装置40は、機能要素として、温度取得部41、温度監視部42、温度予測部43、判定部44、及びコントローラ(制御部)45を有している。温度異常監視装置40は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)、メモリ等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアとから構成されたコンピュータを含んで構成される。温度異常監視装置40では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれた所定のソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込みを行うことによって、温度異常監視装置40の各機能が実現される。温度異常監視装置40は、報知部46を有する。報知部46は、聴覚を通じて報知を行う装置、例えばスピーカ等を含んでもよいし、視覚を通じて報知を行う装置、例えばディスプレイ等を含んでもよい。
【0026】
図3には、端子台12の一例における概略構成が示されている。端子台12は、給電線10A,10Bの端部に設けられた端子11を固定すると共に、端子11と端子台12との間で電流の導通を可能にさせる部材である。端子11と端子台12とは、対面している。端子台12には、ねじ13によって端子11が固定及び接続されている。ねじ13と端子台12との間には、適宜、ワッシャ14等が設けられてもよい。端子11の端子片11aが、ねじ13及びワッシャ14と、端子台12との間に挟み込まれる。
図3に示された状態では、ねじ13の締込みが不完全であり、端子片11aが端子台12から離れている。すなわち、端子片11aと端子台12との間には多少のギャップGが形成されている。本明細書において、ギャップGとは、端子片11aの接触面と端子台12の接触面との間の距離であり、
図3に示される状態では、ねじ13の軸方向における離間距離である。なお、ギャップGが生じていない状態では、端子台12に端子片11aが当接している。
【0027】
非接触給電装置1では、例えば、端子台12の接続部分が振動した場合に、ねじ13が緩み、ギャップGが生じる可能性がある。或いは、ギャップGが生じているが端子台12の接続部分に振動は生じていない場合もある。すなわち、振動とは無関係に、ギャップGが生じている場合がある。これらの不具合が生じた際には、接触抵抗及びアーク放電により、端子台12の温度が上昇し得る。すなわち端子台12が発熱し得る。或いは、ギャップGが生じていないが端子台12の接続部分が振動している場合もある。端子台12の温度上昇は、これらの種々の状況に応じて、それぞれ固有の傾向を示す。端子台12の温度上昇は、例えば給電線10A,10Bの耐熱温度(許容温度)未満の適当な温度に漸近して結果的に温度異常には至らない場合もある。しかし、端子台12の温度上昇が、例えば給電線10A,10Bの耐熱温度(許容温度)以上に達し、給電線10A,10Bの断線(溶断)等に至る虞もある。温度異常監視装置40では、端子台12の温度の時間的変化に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する。
【0028】
図2に示されるように、例えば、端子11に近い給電線10A,10Bの一部分に、温度計15が取り付けられている。温度計15は、他の部材を介して間接的に、又は直接的に、端子台12の温度を測定可能である。温度計15の型式は、端子台12の温度上昇を測定可能であり且つ測定した端子台12の温度を温度異常監視装置40に出力又は送信可能であれば、特に限られない。温度計15は、サーミスタ式の温度センサ等であってもよいし、熱電対式の温度センサ等であってもよい。端子11又は端子台12に、温度計15が取り付けられていてもよい。温度計15が取り付けられる位置は、端子台12上、又は端子台12近傍のどの部分であってもよい。温度計15は、端子台12から離れた位置に取り付けられてもよい。
【0029】
非接触給電装置1は、天井搬送車20の受電装置21に対する給電を行う給電部10と、給電部10の制御を行う給電制御部18とを有している。給電制御部18は、例えば、給電線10A,10Bに対して、75A(アンペア)等の高い電流値で、一定電流を流す。温度異常監視装置40は、温度計15から出力された端子台12の温度を示す温度信号を取得し、端子台12の温度に基づいて所定の演算を行い、コントローラ45によって給電制御部18を制御する。コントローラ45は、給電制御部18を制御して、非接触給電装置1における給電制御を継続させるか、又は停止させる。
【0030】
温度異常監視装置40は、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定するための複数種類の判定基準を記憶している。温度異常監視装置40の温度予測部43は、現在までに取得した端子台12の温度と、その温度が取得された時間との関係に基づいて、将来の端子台12の温度を予測する。温度予測部43は、温度の時間微分を用いることにより、将来の端子台12の温度を予測する。
【0031】
温度予測部43は、例えば、下記の式(1)の関係式を導出することで温度予測を可能とする。式(1)において、θは温度(℃)である。時定数τは、システムの固有値であり、実測値に基づいて予め求めておくことができる値である。具体的には、時定数τはθ
max×0.68の温度に到達する時間である。
【数1】
【0032】
温度予測部43は、下記の式(2)により、時定数τ、現在温度θ、及びθの時間微分から、θ
maxを算出する。θ
maxは一定の値である。
【数2】
【0033】
温度異常監視装置40は、温度予測部43が予測した端子台12の温度が、以下に説明するいずれかの判定基準に当てはまる場合には、温度上昇の原因に振動が含まれると判定する。
図4を参照して、第1の判定基準について説明する。
図4に示される2本のグラフは、いずれも、端子台12の温度上昇の試算結果である。実線で示されるグラフ(下のグラフ)は、ギャップGが生じておらず、しかし端子台12の接続部分が振動している場合の温度変化を示している。一部破線で示されるグラフ(上のグラフ)は、1mmのギャップGが生じており、且つ端子台12の接続部分が振動している場合の温度変化を示している。この試算は、加速試験に基づいて行われている。したがって、横軸を表示する意味が特にないため、横軸の表記を省略している。
【0034】
図4のグラフにおいて、温度の値は、端子台12に通電が行われる前の端子台12の温度からの上昇温度である。すなわち、原点は、端子台12に通電が行われる前の端子台12の温度に相当し、通電の開始時間に相当する。以上の縦軸(上昇温度)、横軸(時間)、及び原点に関する考え方は、以下の
図5、
図7~
図10を参照して行う説明に関しても、同様である。
【0035】
図4に示されるように、ギャップGが生じていない場合には、端子台12の温度は、比較的低い所定の温度(30℃付近)に漸近して結果的に温度異常には至っていない。一方、1mmのギャップGが生じており、且つ端子台12の接続部分が振動している場合には、端子台12の温度は、下のグラフに比して急激に上昇しており、時間T1において50℃を超えている。温度異常監視装置40は、このようなケースにおいて、実線で示される既取得の温度データに基づいて、破線で示される将来の温度を予測する。温度異常監視装置40は、第1の基準温度と、第1の基準温度よりも高い第2の基準温度とを記憶している。すなわち、温度異常監視装置40による監視制御において、これらの2つの基準温度が設定されている。第1の温度は、例えば給電線10A,10Bの耐熱温度(許容温度)未満の温度である。第2の温度は、例えば給電線10A,10Bの耐熱温度(許容温度)以上の温度である。一例として、第1の温度が50℃に設定され、第2の温度が100℃に設定されてもよい。温度予測部43によって予測された端子台12の温度は、時間T2において100℃を超えている。
【0036】
温度異常監視装置40の判定部44が、温度上昇の原因に振動が含まれか否かを判定する。判定部44は、第1の判定基準として、第1の基準温度(50℃)を超えた時間(T1)と第2の基準温度(100℃)を超えた時間(T2)との差(T2-T1)が所定時間以上である場合に、温度上昇の原因に振動が含まれると判定する。この所定時間は、例えば、端子11と端子台12の間の接触抵抗値に基づいて定められてもよい。この所定時間は、加速試験に基づく時間軸を基準として、例えば2時間である。所定時間として、加速試験に基づく時間軸を基準として、1時間以上の適宜の時間が設定されてもよい。
【0037】
続いて、
図5を参照して、第2の判定基準について説明する。
図5では、温度と時間の関係を表したグラフにおいて、複数のエリア(領域)が設定されている。本発明者らは、端子台12の温度上昇に関する複数の試験結果に基づいて、実際に起こっている現象に対して所定の分布が得られることを見出した。すなわち、
図5に示される第1エリアA1は、温度及び時間に関し、端子台12における接続状態が正常である領域である。第2エリアA2は、温度及び時間に関し、端子台12において1~2mmのギャップGが生じているが、温度は基準温度未満であるため、正常とみなせる領域である。
図7に示される温度変化(ギャップ1mm、振動なし)が、この第2エリアA2に属する温度変化に相当する。
【0038】
第3エリアA3は、端子台12において1mmのギャップGが生じており、且つ振動が生じている領域である。この領域では温度が基準温度を越えているため、この領域内に温度と時間のプロットが含まれる場合、温度異常とみなされる。
図8に示される温度変化(ギャップ1mm、振動あり)が、この第3エリアA3に属する温度変化に相当する。
【0039】
第4エリアA4は、端子台12において3~5mmの比較的大きなギャップGが生じているが、振動は生じていない領域である。この領域でも温度が基準温度を越えているため、この領域内に温度と時間のプロットが含まれる場合、温度異常とみなされる。
図9に示される温度変化(ギャップ3mm、振動なし)、及び、
図10に示される温度変化(ギャップ4mm、振動なし)が、この第4エリアA4に属する温度変化に相当する。
【0040】
第3エリアA3及び第4エリアA4と、第2エリアA2との間に存在する基準温度は、上記した第1の判定基準における第2の基準温度(例えば100℃)に相当する。第2の判定基準における基準温度が、第1の判定基準における第2の基準温度より高くてもよい。
【0041】
温度異常監視装置40の判定部44は、端子台12から取得した温度と時間との関係をグラフに表した場合に、端子台12から取得した当該温度が、温度上昇が始まってから一定時間経過後に基準温度を超えることを示す第4エリア(所定エリア)A4を通るか否かによって、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する。すなわち、判定部44は、温度予測部43によって予測される端子台12の温度が第4エリアA4を通る場合には、温度上昇の原因に振動が含まれると判定する。また判定部44は、温度予測部43によって予測される端子台12の温度が第4エリアA4を通らない場合には、温度上昇の原因に振動は含まれない、と判定してもよい。一定時間は、端子台12の形式又は特性に応じて、適宜に決められてもよい。
【0042】
続いて、第3の判定基準について説明する。
図4からも明らかなように、温度上昇の原因に振動が含まれる場合には、温度の時間に対する変化の滑らかさが、温度上昇の原因に振動が含まれない場合に比して、明らかに小さい。本明細書において、所定値を超える滑らかさがあるとは、例えば
図4に示される縮尺でグラフを見た場合に、グラフがジグザグ状に折れ曲がった部分を有しておらず(すなわち、サンプリングの影響による微小な変動が少なく)、グラフの連続的な微分が可能な状態をいう。温度異常監視装置40の判定部44は、端子台12から取得した温度と時間との関係をグラフに表した場合に、端子台12から取得した当該温度の時間に対する変化の滑らかさが所定値以下であるか否かによって、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する。すなわち、判定部44は、温度予測部43によって予測される端子台12の温度の時間に対する変化の滑らかさが所定値以下である場合には、温度上昇の原因に振動が含まれると判定する。また判定部44は、温度予測部43によって予測される端子台12の温度の時間に対する変化の滑らかさが所定値を超える場合には、温度上昇の原因に振動は含まれない、と判定してもよい。「滑らかさ」は、「平滑度」との文言に置き換えられてもよい。
【0043】
図6を参照して、温度異常監視装置40における処理の流れ(温度異常監視方法)について説明する。温度取得部41は、温度計15から、端子台12の温度に関する温度信号を取得する(ステップS1)。温度計15は、ある所定の時間ごと又は連続的に温度信号を出力しており、温度取得部41は、例えばある所定の時間ごとに端子台12の温度を取得する。温度取得部41は、端子台12の温度を、時間に対応させて取得する。次に、温度監視部42は、取得した温度が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS2)。温度監視部42が、取得した温度が閾値以上であると判定した場合(ステップS2;YES)、コントローラ45は、報知部46を制御して警報を出力させる(ステップS11)と共に、非接触給電装置1の給電制御部18を制御して、給電停止制御を行わせる(ステップS12)。ここで温度監視部42が記憶している閾値は、上記した第2の基準温度、すなわち給電線10A,10Bの耐熱温度(許容温度)以上の温度であってもよい。
【0044】
温度監視部42が、取得した温度が閾値未満であると判定した場合(ステップS2;NO)、温度監視部42が、温度上昇の開始を検出したか否かを判定する(ステップS3)。この場合、端子台12に通電が行われる前の端子台12の温度が基準となる。温度監視部42が、温度上昇の開始を検出したと判定した場合(ステップS3;YES)、温度予測部43が、端子台12の温度を予測する(ステップS4)。温度監視部42が、温度上昇の開始を検出しないと判定した場合には(ステップS3;NO)、コントローラ45は給電制御部18に対して、給電制御を継続させる(ステップS6)。
【0045】
ステップS4に続き、判定部44は、予測された温度と時間の関係が、温度上昇の原因判定条件を満たすか否かを判定する(ステップS5)。このステップS5での判定は、上述した3種類の判定基準のいずれか、又は3種類の判定基準のうち2つ以上を用いて行われる。すなわち、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かが、判定部44によって判定される。判定部44が、予測された温度と時間の関係が温度上昇の原因判定条件を満たすと判定した場合(ステップS5;YES)、コントローラ45は、報知部46を制御して警報を出力させる(ステップS11)と共に、非接触給電装置1の給電制御部18を制御して、給電停止制御を行わせる(ステップS12)。判定部44が、予測された温度と時間の関係が温度上昇の原因判定条件を満たさないと判定した場合(ステップS5;NO)、コントローラ45は給電制御部18に対して、給電制御を継続させる(ステップS6)。
【0046】
以上説明した一連の処理が、搬送システム100における天井搬送車20の稼働中、すなわち非接触給電装置1の運転中に、繰り返される。
【0047】
本実施形態の温度異常監視装置及び温度異常監視方法によれば、端子台12の温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かが判定される。これにより、少なくとも、振動が発熱の原因となっている場合に当該原因を特定することができる。したがって、例えば、振動の発生源となる搬送システム100を停止させたり、作業者が防振対策を施したりする等の適切な対応を速やかに採ることが可能となる。
【0048】
搬送システム100において、非接触給電装置1の端子台12が異常発熱を生じると、多くの天井搬送車20の走行に支障をきたす。温度異常監視装置40が非接触給電装置1の端子台12の発熱の原因を特定できれば、非接触給電装置1に対して適切な対応を採ることが可能である。その結果として、非接触給電装置1の重大な故障等を未然に防止することができる。
【0049】
端子台12に通電が行われる前の端子台12の温度からの上昇温度が取得される。このように温度を観察することで、温度異常監視装置40は温度上昇をより正確に把握することができる。時間は、温度上昇が始まってからの経過時間になるので、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かの見極めも正確である。
【0050】
温度異常監視装置40は、第1の基準温度を超えた時間と第2の基準温度を超えた時間との差が所定時間以上である場合に、温度上昇の原因に振動が含まれると判定する。この判定基準によれば、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを適切に判定できる。
【0051】
端子台12から取得した温度が、温度上昇が始まってから一定時間経過後に基準温度を超えることを示す所定エリアを通るか否かによって、温度異常監視装置40は、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する。この判定基準によれば、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを適切に判定できる。
【0052】
端子台12から取得した温度の時間に対する変化の滑らかさが所定値以下であるか否かによって、温度異常監視装置40は、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する。この判定基準によれば、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを適切に判定できる。
【0053】
搬送システム100では、非接触給電装置1の端子台12の発熱の原因を特定することができる。非接触給電装置1に対して適切な対応を速やかに採ることが可能である。非接触給電装置1の重大な故障等を未然に防止することができる。
【0054】
上記した3種類の判定基準のうちの複数の判定基準が併用された場合に、一部のみ又はすべての判定基準において、温度上昇の原因に振動が含まれると判定されることがある。その場合、所定数(1つ、2つ又は3つ等の任意の数)の判定基準において振動が含まれるとの判定結果をもって、振動が生じていると判定することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、本発明の温度異常監視装置が、天井搬送車20の受電装置21における端子台の温度異常を監視するように構成されてもよい。温度異常監視装置は、非接触給電装置1における端子台の温度異常を監視すると共に、受電装置21における端子台の温度異常を監視してもよい。その場合に、端子台の温度が温度計によって検出され、有線通信又は無線通信により温度異常監視装置が温度信号を受信してもよい。
【0056】
温度異常監視装置は、非接触給電装置による給電システムに限られず、他の給電システムに適用されてもよい。温度異常監視装置は、端子台を含むあらゆるシステムに適用可能であり、例えば、工作機械を駆動するための電力系統に適用されてもよい。
【0057】
温度異常監視装置は、非接触給電装置1の給電制御部18を制御して給電停止制御を行う形態に限られない。温度異常監視装置は、例えば端子台12の振動に起因する温度異常を検知した場合に、報知部46を制御して警報等を発して温度異常を報知し、作業者(オペレータ)による点検を促してもよい。その場合に、報知部46は、「このまま給電を継続すると端子台の温度が危険な温度にまで上昇します。給電装置を確認した上で停止させてください。」等の音声ガイダンスを発してもよい。温度異常監視装置は、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する判定処理までを行ってもよい。その場合、温度異常監視装置は、判定結果を外部の装置に出力してもよい。
【0058】
温度異常監視装置は、端子台12の温度を予測しなくてもよい。例えば、温度異常監視装置は、端子台12における異常発熱が発生した場合において、温度測定が終了した後の事後的な分析を行ってもよい。その場合、上記実施形態の温度異常監視装置40が備えていた温度予測部43は省略される。温度異常監視装置は、端子台の温度と時間の関係に基づいて、温度上昇の原因に振動が含まれるか否かを判定する。温度上昇の原因に振動が含まれるか否かの判定が、事後的な分析となる。
【符号の説明】
【0059】
1…非接触給電装置(給電装置)、10…給電部、10A,10B…給電線、11…端子、11a…端子片、12…端子台、13…ねじ、15…温度計、18…給電制御部、20…天井搬送車(走行車)、21…受電装置、40…温度異常監視装置、41…温度取得部、42…温度監視部、43…温度予測部、44…判定部、45…コントローラ、46…報知部、A1…第1エリア、A2…第2エリア、A3…第3エリア、A4…第4エリア、G…ギャップ。