(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179905
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】三相ヒータ電流検出装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
G01R19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086710
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 和隆
【テーマコード(参考)】
2G035
【Fターム(参考)】
2G035AB07
2G035AC02
2G035AC03
2G035AD28
2G035AD66
(57)【要約】
【課題】電流、電圧が正弦波でない場合でも、三相ヒータの相電流の実効値を推定する。
【解決手段】三相ヒータ電流検出装置は、三相ヒータ1への3本の給電線14~16を流れる線電流の瞬時値を測定する線電流測定部7と、3本の給電線14~16の線間電圧の瞬時値を測定する線間電圧測定部8と、三相ヒータ1の消費電力を算出する消費電力算出部9と、線間電圧の瞬時値の一般化相互相関関数を算出する相互相関関数算出部100と、線電流の実効値を算出する電流実効値算出部104と、線間電圧の実効値を算出する電圧実効値算出部105と、一般化相互相関関数が全て0未満かどうかを判定する相互相関関数判定部101と、一般化相互相関関数が全て0未満の場合に、線電流の実効値と線間電圧の実効値と消費電力と一般化相互相関関数に基づいて三相ヒータ1を流れる相電流を算出する相電流算出部102を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つのヒータが結線された三相ヒータへの3本の給電線を流れる線電流の瞬時値を測定するように構成された線電流測定部と、
前記3本の給電線の線間電圧の瞬時値を測定するように構成された線間電圧測定部と、
前記線電流測定部の測定結果と前記線間電圧測定部の測定結果とに基づいて前記三相ヒータの消費電力を算出するように構成された消費電力算出部と、
前記線間電圧の瞬時値の一般化相互相関関数を算出するように構成された相互相関関数算出部と、
前記線電流測定部の測定結果から前記線電流の実効値を算出するように構成された電流実効値算出部と、
前記線間電圧測定部の測定結果から前記線間電圧の実効値を算出するように構成された電圧実効値算出部と、
前記線電流の実効値と前記線間電圧の実効値と前記消費電力と前記一般化相互相関関数とに基づいて前記三相ヒータを流れる相電流を算出するように構成された相電流算出部とを備えることを特徴とする三相ヒータ電流検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の三相ヒータ電流検出装置において、
前記相互相関関数算出部によって算出された一般化相互相関関数が全て0未満かどうかを判定するように構成された相互相関関数判定部をさらに備え、
前記相電流算出部は、前記一般化相互相関関数が全て0未満と判定された場合に、RS相電流の実効値と、R相とS相の前記線電流の実効値と、RS線間とST線間とTR線間の前記線間電圧の実効値と、前記消費電力と、RS線間電圧の瞬時値とTR線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、ST線間電圧の瞬時値とRS線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数との関係を定めた非線形の方程式を解くことにより、RS相電流の実効値を算出し、このRS相電流の実効値からST相電流の実効値およびTR相電流の実効値を算出することを特徴とする三相ヒータ電流検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の三相ヒータ電流検出装置において、
前記相電流算出部は、RS相電流の実効値をI
rs(e)、R相線電流の実効値をI
r(e)、S相線電流の実効値をI
s(e)、RS線間電圧の実効値をE
rs(e)、ST線間電圧の実効値をE
st(e)、TR線間電圧の実効値をE
tr(e)、消費電力をw、RS線間電圧の瞬時値E
rsとTR線間電圧の瞬時値E
trの一般化相互相関関数をD
r、ST線間電圧の瞬時値E
stとRS線間電圧の瞬時値E
rsの一般化相互相関関数をD
sとしたとき、
【数1】
により、RS相電流の実効値I
rs(e)を算出することを特徴とする三相ヒータ電流検出装置。
【請求項4】
請求項1記載の三相ヒータ電流検出装置において、
前記相電流算出部は、RS相とST相とTR相の前記相電流の実効値と、R相とS相とT相の前記線電流の実効値と、RS線間とST線間とTR線間の前記線間電圧の実効値と、前記消費電力と、RS線間電圧の瞬時値とTR線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、ST線間電圧の瞬時値とRS線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、TR線間電圧の瞬時値とST線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数との関係を定めた非線形の連立方程式を解くことにより、RS相電流の実効値を算出し、このRS相電流の実効値からST相電流の実効値およびTR相電流の実効値を算出することを特徴とする三相ヒータ電流検出装置。
【請求項5】
3つのヒータが結線された三相ヒータへの3本の給電線を流れる線電流の瞬時値を測定する第1のステップと、
前記3本の給電線の線間電圧の瞬時値を測定する第2のステップと、
前記第1のステップの測定結果と前記第2のステップの測定結果とに基づいて前記三相ヒータの消費電力を算出する第3のステップと、
前記線間電圧の瞬時値の一般化相互相関関数を算出する第4のステップと、
前記第1のステップの測定結果から前記線電流の実効値を算出する第5のステップと、
前記第2のステップの測定結果から前記線間電圧の実効値を算出する第6のステップと、
前記線電流の実効値と前記線間電圧の実効値と前記消費電力と前記一般化相互相関関数とに基づいて前記三相ヒータを流れる相電流を算出する第7のステップとを含むことを特徴とする三相ヒータ電流検出方法。
【請求項6】
請求項5記載の三相ヒータ電流検出方法において、
前記第4のステップで算出した一般化相互相関関数が全て0未満かどうかを判定する第8のステップをさらに含み、
前記第7のステップは、前記一般化相互相関関数が全て0未満と判定された場合に、RS相電流の実効値と、R相とS相の前記線電流の実効値と、RS線間とST線間とTR線間の前記線間電圧の実効値と、前記消費電力と、RS線間電圧の瞬時値とTR線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、ST線間電圧の瞬時値とRS線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数との関係を定めた非線形の方程式を解くことにより、RS相電流の実効値を算出し、このRS相電流の実効値からST相電流の実効値およびTR相電流の実効値を算出するステップを含むことを特徴とする三相ヒータ電流検出方法。
【請求項7】
請求項6記載の三相ヒータ電流検出方法において、
前記第7のステップは、RS相電流の実効値をI
rs(e)、R相線電流の実効値をI
r(e)、S相線電流の実効値をI
s(e)、RS線間電圧の実効値をE
rs(e)、ST線間電圧の実効値をE
st(e)、TR線間電圧の実効値をE
tr(e)、消費電力をw、RS線間電圧の瞬時値E
rsとTR線間電圧の瞬時値E
trの一般化相互相関関数をD
r、ST線間電圧の瞬時値E
stとRS線間電圧の瞬時値E
rsの一般化相互相関関数をD
sとしたとき、
【数2】
により、RS相電流の実効値I
rs(e)を算出するステップを含むことを特徴とする三相ヒータ電流検出方法。
【請求項8】
請求項5記載の三相ヒータ電流検出方法において、
前記第7のステップは、RS相とST相とTR相の前記相電流の実効値と、R相とS相とT相の前記線電流の実効値と、RS線間とST線間とTR線間の前記線間電圧の実効値と、前記消費電力と、RS線間電圧の瞬時値とTR線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、ST線間電圧の瞬時値とRS線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、TR線間電圧の瞬時値とST線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数との関係を定めた非線形の連立方程式を解くことにより、RS相電流の実効値を算出し、このRS相電流の実効値からST相電流の実効値およびTR相電流の実効値を算出するステップを含むことを特徴とする三相ヒータ電流検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相ヒータを流れる相電流を検出する三相ヒータ電流検出装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒータの寿命診断においてヒータの抵抗値を測定することは有効であるが、デルタ結線の相電流(Irs,Ist,Itr)は、ヒータの構造上、測定できない場合が多い。ヒータの抵抗値を知るため、デルタ結線の相電流を推定する方法として、特許文献1に開示された方法がある。
【0003】
特許文献1に開示された方法は、三相電源の相間の位相差が既知のときに、相電流の推定値をフィードバックして推定値を更新している。ヒータの種類によつては周囲温度に対する抵抗値変化が大きいことがあるので、特許文献1に開示された方法のように相電流を求めるために繰り返しの演算を行う必要がある場合、抵抗値が変化するときに推定値の追従が遅くなる可能性があった。
【0004】
また、三相ヒータの抵抗値を検出する方法として、特許文献2に開示された方法がある。しかし、特許文献2に開示された方法では、電流および電圧の瞬時値が必要になる等のハードウェア上の制約があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-110732号公報
【特許文献2】特開2020-148697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、電流、電圧が正弦波でない場合でも、三相ヒータの相電流の実効値を推定することができる三相ヒータ電流検出装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の三相ヒータ電流検出装置は、3つのヒータが結線された三相ヒータへの3本の給電線を流れる線電流の瞬時値を測定するように構成された線電流測定部と、前記3本の給電線の線間電圧の瞬時値を測定するように構成された線間電圧測定部と、前記線電流測定部の測定結果と前記線間電圧測定部の測定結果とに基づいて前記三相ヒータの消費電力を算出するように構成された消費電力算出部と、前記線間電圧の瞬時値の一般化相互相関関数を算出するように構成された相互相関関数算出部と、前記線電流測定部の測定結果から前記線電流の実効値を算出するように構成された電流実効値算出部と、前記線間電圧測定部の測定結果から前記線間電圧の実効値を算出するように構成された電圧実効値算出部と、前記線電流の実効値と前記線間電圧の実効値と前記消費電力と前記一般化相互相関関数とに基づいて前記三相ヒータを流れる相電流を算出するように構成された相電流算出部とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の三相ヒータ電流検出装置の1構成例は、前記相互相関関数算出部によって算出された一般化相互相関関数が全て0未満かどうかを判定するように構成された相互相関関数判定部をさらに備え、前記相電流算出部は、前記一般化相互相関関数が全て0未満と判定された場合に、RS相電流の実効値と、R相とS相の前記線電流の実効値と、RS線間とST線間とTR線間の前記線間電圧の実効値と、前記消費電力と、RS線間電圧の瞬時値とTR線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、ST線間電圧の瞬時値とRS線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数との関係を定めた非線形の方程式を解くことにより、RS相電流の実効値を算出し、このRS相電流の実効値からST相電流の実効値およびTR相電流の実効値を算出することを特徴とするものである。
また、本発明の三相ヒータ電流検出装置の1構成例において、前記相電流算出部は、RS相電流の実効値をIrs(e)、R相線電流の実効値をIr(e)、S相線電流の実効値をIs(e)、RS線間電圧の実効値をErs(e)、ST線間電圧の実効値をEst(e)、TR線間電圧の実効値をEtr(e)、消費電力をw、RS線間電圧の瞬時値ErsとTR線間電圧の瞬時値Etrの一般化相互相関関数をDr、ST線間電圧の瞬時値EstとRS線間電圧の瞬時値Ersの一般化相互相関関数をDsとし、これらに基づいて、RS相電流の実効値Irs(e)を算出することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の三相ヒータ電流検出装置の1構成例において、前記相電流算出部は、RS相とST相とTR相の前記相電流の実効値と、R相とS相とT相の前記線電流の実効値と、RS線間とST線間とTR線間の前記線間電圧の実効値と、前記消費電力と、RS線間電圧の瞬時値とTR線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、ST線間電圧の瞬時値とRS線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、TR線間電圧の瞬時値とST線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数との関係を定めた非線形の連立方程式を解くことにより、RS相電流の実効値を算出し、このRS相電流の実効値からST相電流の実効値およびTR相電流の実効値を算出することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の三相ヒータ電流検出方法は、3つのヒータが結線された三相ヒータへの3本の給電線を流れる線電流の瞬時値を測定する第1のステップと、前記3本の給電線の線間電圧の瞬時値を測定する第2のステップと、前記第1のステップの測定結果と前記第2のステップの測定結果とに基づいて前記三相ヒータの消費電力を算出する第3のステップと、前記線間電圧の瞬時値の一般化相互相関関数を算出する第4のステップと、前記第1のステップの測定結果から前記線電流の実効値を算出する第5のステップと、前記第2のステップの測定結果から前記線間電圧の実効値を算出する第6のステップと、前記線電流の実効値と前記線間電圧の実効値と前記消費電力と前記一般化相互相関関数とに基づいて前記三相ヒータを流れる相電流を算出する第7のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の三相ヒータ電流検出方法の1構成例は、前記第4のステップで算出した一般化相互相関関数が全て0未満かどうかを判定する第8のステップをさらに含み、前記第7のステップは、前記一般化相互相関関数が全て0未満と判定された場合に、RS相電流の実効値と、R相とS相の前記線電流の実効値と、RS線間とST線間とTR線間の前記線間電圧の実効値と、前記消費電力と、RS線間電圧の瞬時値とTR線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、ST線間電圧の瞬時値とRS線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数との関係を定めた非線形の方程式を解くことにより、RS相電流の実効値を算出し、このRS相電流の実効値からST相電流の実効値およびTR相電流の実効値を算出するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の三相ヒータ電流検出方法の1構成例において、前記第7のステップは、RS相電流の実効値をIrs(e)、R相線電流の実効値をIr(e)、S相線電流の実効値をIs(e)、RS線間電圧の実効値をErs(e)、ST線間電圧の実効値をEst(e)、TR線間電圧の実効値をEtr(e)、消費電力をw、RS線間電圧の瞬時値ErsとTR線間電圧の瞬時値Etrの一般化相互相関関数をDr、ST線間電圧の瞬時値EstとRS線間電圧の瞬時値Ersの一般化相互相関関数をDsとし、これらに基づいて、RS相電流の実効値Irs(e)を算出するステップを含むことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の三相ヒータ電流検出方法の1構成例において、前記第7のステップは、RS相とST相とTR相の前記相電流の実効値と、R相とS相とT相の前記線電流の実効値と、RS線間とST線間とTR線間の前記線間電圧の実効値と、前記消費電力と、RS線間電圧の瞬時値とTR線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、ST線間電圧の瞬時値とRS線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数と、TR線間電圧の瞬時値とST線間電圧の瞬時値の前記一般化相互相関関数との関係を定めた非線形の連立方程式を解くことにより、RS相電流の実効値を算出し、このRS相電流の実効値からST相電流の実効値およびTR相電流の実効値を算出するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、三相交流電源の出力が正弦波でない場合でも、三相ヒータを流れる相電流の実効値を推定することができる。また、本発明では、従来の方法と比較してハードウェア上の制約を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施例に係る三相ヒータ電流検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施例に係る三相ヒータ電流検出装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施例に係る三相ヒータ電流検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2の実施例に係る三相ヒータ電流検出装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、拡張カルマンフィルタを用いた、RS相電流の実効値の算出方法を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の第1、第2の実施例に三相ヒータ電流検出装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施例に係る三相ヒータ電流検出装置の構成を示すブロック図である。
三相交流電源2と電力制御装置3とは、 三相ヒータ1に供給する電力を調整する三相電力調整器4を構成している。三相ヒータ1は、3つのヒータ11~13がデルタ結線されている。ヒータ11~13からは3本の給電線14~16が延びて電力制御装置3の出力側に接続されている。電力制御装置3の入力側は三相交流電源2に接続されている。三相ヒータ1は、3本の給電線14~16を介して供給された電力を熱エネルギーに変換して出力する。
【0016】
本実施例の三相ヒータ電流検出装置は、各給電線14~16に設けられた線電流測定用カレントトランス5-1~5-3と、給電線14~16の線間に接続された線間電圧測定用ボルテージトランス6と、線電流測定用カレントトランス5-1~5-3の出力と接続され、各給電線14~16を流れる線電流の瞬時値を測定する線電流測定部7と、線間電圧測定用ボルテージトランス6の出力と接続され、各給電線14~16の線間電圧の瞬時値を測定する線間電圧測定部8と、三相ヒータ1の消費電力を算出する消費電力算出部9と、線間電圧の瞬時値の一般化相互相関関数を算出する相互相関関数算出部100と、相互相関関数算出部100によって算出された一般化相互相関関数が全て0未満かどうかを判定する相互相関関数判定部101と、一般化相互相関関数が全て0未満と判定された場合に、線電流の実効値と線間電圧の実効値と消費電力と一般化相互相関関数とに基づいて三相ヒータ1を流れる相電流を算出する相電流算出部102と、相電流算出部102の算出結果を出力する出力部103と、線電流の実効値を算出する電流実効値算出部104と、線間電圧の実効値を算出する電圧実効値算出部105とを備えている。
【0017】
図1に示すようにヒータ11,12,13の抵抗値をそれぞれR
rs,R
st,R
trとする。また、給電線14を流れるR相線電流をI
r、給電線15を流れるS相線電流をI
s、給電線16を流れるT相線電流をI
tとし、ヒータ11を流れるRS相電流をI
rs、ヒータ12を流れるST相電流をI
st、ヒータ13を流れるTR相電流をI
trとする。また、給電線14と15間のRS線間電圧をE
rs,給電線15と16間のST線間電圧をE
st、給電線16と14間のTR線間電圧をE
trとする。これら各電流および各電圧はベクトル量である。各電流には次式の関係がある。
【0018】
Ir=Irs-Itr ・・・(1)
Is=Ist-Irs ・・・(2)
It=Itr-Ist ・・・(3)
【0019】
式(1)の両辺を2乗して、電源周期で積分して、電源周期で割ると、次の式(4)のようになる。つまり、式(4)は、式(1)の両辺の実効値の2乗を計算することになる。
【0020】
【0021】
Ir(e),Is(e),It(e),Irs(e),Ist(e),Itr(e)は、それぞれ電流Ir,Is,It,Irs,Ist,Itrの実効値である。DrはRS線間電圧ErsとTR線間電圧Etrの一般化相互相関関数(規格化相互相関関数)である。式(4)は、以下の計算をした結果を示している。
【0022】
【0023】
Ers(e),Est(e),Etr(e)は、それぞれ電圧Ers,Est,Etrの実効値である。RS線間電圧ErsとTR線間電圧Etrの一般化相互相関関数Dr、ST線間電圧EstとRS線間電圧Ersの一般化相互相関関数Ds、TR線間電圧EtrとST線間電圧Estの一般化相互相関関数Dtは次式のようになる。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
式(5)~式(8)のTは電源周期である。一般化相互相関関数Drは、-1≦Dr≦1を満たす。三相交流電源2が平衡状態であり、電力制御装置3がサイリスタによる位相角制御で負荷(三相ヒータ1)を制御していれば、Dr<0、かつDs<0、かつDt<0、となることを回路シミュレータSPICEによるシミュレーションによって確認した。また、三相負荷全体の消費電力Wは次式のようになる。
【0028】
【0029】
ここで、式(4)より、TR相電流の実効値Itr(e)を求めると、次の式(10)のようになる。
【0030】
【0031】
特に、Dr<0のときは、Irs(e)≧0、かつItr(e)≧0であるので、TR相電流の実効値Itr(e)は次式のようになる。
【0032】
【0033】
また、ST相電流の実効値I
st(e)は次式のようになる。
【数9】
【0034】
式(9)、式(11)、式(12)より、次の式(13)のような非線形の方程式が得られる。
【0035】
【0036】
三相ヒータ1の消費電力Wを測定することができれば、上記の式(13)において不明な値はRS相電流の実効値Irs(e)のみであり、種々の手法(例えばニュートン法など)を用いて、RS相電流の実効値Irs(e)を計算することができる。このように、RS相電流の実効値Irs(e)を計算することができれば、式(12)によりST相電流の実効値Ist(e)を計算することができ、式(11)によりTR相電流の実効値Itr(e)を計算することができる。
【0037】
図2は本実施例の三相ヒータ電流検出装置の動作を説明するフローチャートである。線間電圧測定部8は、RS線間電圧の瞬時値E
rs、ST線間電圧の瞬時値E
st、TR線間電圧の瞬時値E
trを測定する(
図2ステップS100)。
【0038】
線電流測定部7は、R相線電流の瞬時値I
r、S相線電流の瞬時値I
s、T相線電流の瞬時値I
tを測定する(
図2ステップS101)。
【0039】
消費電力算出部9は、線電流測定部7によって測定されたR相線電流の瞬時値I
r、S相線電流の瞬時値I
sと線間電圧測定部8によって測定されたST線間電圧の瞬時値E
st、TR線間電圧の瞬時値E
trとに基づいて、二電力計法により三相ヒータ1の消費電力Wを算出する(
図2ステップS102)。なお、消費電力Wの算出方法は本実施例の方法に限るものではない。
【0040】
相互相関関数算出部100は、線間電圧測定部8によって測定されたRS線間電圧の瞬時値E
rs、ST線間電圧の瞬時値E
st、TR線間電圧の瞬時値E
trに基づいて、一般化相互相関関数D
r,D
s,D
tを算出する(
図2ステップS103)。
【0041】
電流実効値算出部104は、線電流測定部7によって測定されたR相線電流の瞬時値I
r、S相線電流の瞬時値I
s、T相線電流の瞬時値I
tに基づいて、R相線電流の実効値I
r(e)、S相線電流の実効値I
s(e)、T相線電流の実効値I
t(e)を算出する(
図2ステップS104)。
【0042】
電圧実効値算出部105は、線間電圧測定部8によって測定されたRS線間電圧の瞬時値E
rs、ST線間電圧の瞬時値E
st、TR線間電圧の瞬時値E
trに基づいて、RS線間電圧の実効値E
rs(e)、ST線間電圧の実効値E
st(e)、TR線間電圧の実効値E
tr(e)を算出する(
図2ステップS105)。
【0043】
相互相関関数判定部101は、相互相関関数算出部100によって算出された一般化相互相関関数D
r,D
s,D
tが、D
r<0、D
s<0、D
t<0、すなわち全て0未満かどうかを判定する(
図2ステップS106)。一般化相互相関関数D
r,D
s,D
tのうち少なくとも1つが0以上の場合には(ステップS106においてNO)、相電流を推定することはできない。
【0044】
相電流算出部102は、一般化相互相関関数D
r,D
s,D
tが全て0未満の場合(ステップS106においてYES)、消費電力算出部9によって算出された消費電力Wと、電流実効値算出部104によって算出されたR相線電流の実効値I
r(e)、S相線電流の実効値I
s(e)と、電圧実効値算出部105によって算出されたRS線間電圧の実効値E
rs(e)、ST線間電圧の実効値E
st(e)、TR線間電圧の実効値E
tr(e)と、相互相関関数算出部100によって算出された一般化相互相関関数D
r,D
sとに基づいて、式(13)によりRS相電流の実効値I
rs(e)を算出する(
図2ステップS107)。
【0045】
そして、相電流算出部102は、RS相電流の実効値I
rs(e)と、電流実効値算出部104によって算出されたS相線電流の実効値I
s(e)と、相互相関関数算出部100によって算出された一般化相互相関関数D
r,D
sとに基づいて、式(12)によりST相電流の実効値I
st(e)を算出する(
図2ステップS108)。
【0046】
さらに、相電流算出部102は、RS相電流の実効値I
rs(e)と、電流実効値算出部104によって算出されたR相線電流の実効値I
r(e)と、相互相関関数算出部100によって算出された一般化相互相関関数D
rとに基づいて、式(11)によりTR相電流の実効値I
tr(e)を算出する(
図2ステップS109)。
【0047】
出力部103は、相電流算出部102の算出結果を出力する(
図2ステップS110)。出力方法としては、相電流の実効値I
rs(e),I
st(e),I
tr(e)の表示、算出結果の外部への送信などがある。
【0048】
以上のように、本実施例では、相電流の実効値Irs(e),Ist(e),Itr(e)を推定することができる。本実施例では、三相交流電源の出力が正弦波でない場合でも相電流の実効値Irs(e),Ist(e),Itr(e)を推定することができる。また、特許文献2に開示された方法では、瞬時値(電流と電圧)と実効値(電流と電圧)と消費電力が混在しているので、それぞれの値の同期をとる必要がある。一方、本実施例では、実効値、相互相関関数、消費電力の事前計算が必要であるが、電源周期で積分した値であるので、瞬時値の同期は不要であり、ハードウェア上の制約を軽減することができる。
【0049】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。第1の実施例では、一般化相互相関関数Dr,Ds,Dtが全て0未満の場合のみ三相ヒータを流れる相電流を推定できるが、拡張カルマンフィルタなどを用いて方程式を解くと、Dr<0、Ds<0、Dt<0の条件を不要とすることができる。
【0050】
図3は本発明の第2の実施例に係る三相ヒータ電流検出装置の構成を示すブロック図であり、
図1と同一の構成には同一の符号を付してある。
本実施例の三相ヒータ電流検出装置は、各給電線14~16に設けられた線電流測定用カレントトランス5-1~5-3と、給電線14~16の線間に接続された線間電圧測定用ボルテージトランス6と、線電流測定用カレントトランス5-1~5-3の出力と接続され、各給電線14~16を流れる線電流の瞬時値を測定する線電流測定部7と、線間電圧測定用ボルテージトランス6の出力と接続され、各給電線14~16の線間電圧の瞬時値を測定する線間電圧測定部8と、三相ヒータ1の消費電力を算出する消費電力算出部9と、線間電圧の瞬時値の一般化相互相関関数を算出する相互相関関数算出部100と、線電流の実効値と線間電圧の実効値と消費電力と一般化相互相関関数とに基づいて三相ヒータ1を流れる相電流を算出する相電流算出部102aと、相電流算出部102aの算出結果を出力する出力部103と、線電流の実効値を算出する電流実効値算出部104と、線間電圧の実効値を算出する電圧実効値算出部105とを備えている。
【0051】
【0052】
【0053】
ここで、以下の式(17)~式(20)のように定義して、これら非線形の連立方程式に、参考文献「田中正隆,“熱伝導逆問題への境界要素法とフィルタ理論の応用”,応用数理,vol.10,NO.2,pp.130-140,2000年」の手法を適用する。
【0054】
【0055】
図4は本実施例の三相ヒータ電流検出装置の動作を説明するフローチャートである。第1の実施例と同様に、線間電圧測定部8は、RS線間電圧の瞬時値E
rs、ST線間電圧の瞬時値E
st、TR線間電圧の瞬時値E
trを測定する(
図4ステップS100)。
【0056】
第1の実施例と同様に、線電流測定部7は、R相線電流の瞬時値I
r、S相線電流の瞬時値I
s、T相線電流の瞬時値I
tを測定する(
図4ステップS101)。
【0057】
第1の実施例と同様に、消費電力算出部9は、線電流測定部7によって測定されたR相線電流の瞬時値I
r、S相線電流の瞬時値I
sと線間電圧測定部8によって測定されたST線間電圧の瞬時値E
st、TR線間電圧の瞬時値E
trとに基づいて、二電力計法により三相ヒータ1の消費電力Wを算出する(
図4ステップS102)。
【0058】
第1の実施例と同様に、相互相関関数算出部100は、線間電圧測定部8によって測定されたRS線間電圧の瞬時値E
rs、ST線間電圧の瞬時値E
st、TR線間電圧の瞬時値E
trに基づいて、一般化相互相関関数D
r,D
s,D
tを算出する(
図4ステップS103)。
【0059】
第1の実施例と同様に、電流実効値算出部104は、線電流測定部7によって測定されたR相線電流の瞬時値I
r、S相線電流の瞬時値I
s、T相線電流の瞬時値I
tに基づいて、R相線電流の実効値I
r(e)、S相線電流の実効値I
s(e)、T相線電流の実効値I
t(e)を算出する(
図4ステップS104)。
【0060】
第1の実施例と同様に、電圧実効値算出部105は、線間電圧測定部8によって測定されたRS線間電圧の瞬時値E
rs、ST線間電圧の瞬時値E
st、TR線間電圧の瞬時値E
trに基づいて、RS線間電圧の実効値E
rs(e)、ST線間電圧の実効値E
st(e)、TR線間電圧の実効値E
tr(e)を算出する(
図4ステップS105)。
【0061】
次に、相電流算出部102aは、拡張カルマンフィルタを用いた方法によりRS相電流の実効値I
rs(e)を算出する(
図4ステップS107a)。
図5はステップS107aの処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0062】
本実施例では、未知パラメータx(状態量ベクトル)を式(17)のように定義し、測定データy(観測量ベクトル)を式(18)のように定義する。ある段階での諸量を添字kを付けて表すものとし、観測量ベクトルykに雑音(計測誤差)ベクトルvkを加えた次式を状態量ベクトルxkに対する観測方程式と考える。
yk=hk(xk)+vk ・・・(21)
【0063】
本実施例では、システムから生じる誤差は無いものと仮定する。このとき、状態量の段階ごとの変化を表す状態方程式は次式のように表される。
xk+1=Ixk ・・・(22)
【0064】
ただし、Iは単位行列である。以上に示した観測方程式(21)と状態方程式(22)にフィルタ理論を適用する。
最初に、相電流算出部102aは、未知パラメータの初期値x
0/-1ハットを仮定する。以下、同様に文字上に付した「∧」をハットと呼ぶ。また、相電流算出部102aは、推定誤差共分散行列P
0/-1を仮定する(
図5ステップS200)。これらの初期値は予め設定されている。
【0065】
次に、相電流算出部102aは、観測データy
k(線電流の実効値I
r(e)
2,I
s(e)
2,I
t(e)
2,消費電力W)を取得し、また観測誤差共分散行列R
kを取得する(
図5ステップS201)。
【0066】
相電流算出部102aは、未知パラメータの推定値x
k/k-1ハットに対する測定点での計算値および感度行列Hを境界要素法により算出する(
図5ステップS202)。感度行列Hは、式(19)、式(20)を用いて計算される。
【0067】
相電流算出部102aは、フィルタゲインK
kを次式により算出する(
図5ステップS203)。
K
k=P
k/k-1+H
T[H・P
k/k-1・H
T+R
k]
-1 ・・・(23)
【0068】
式(23)のH
Tは感度行列Hの転置行列である。相電流算出部102aは、パラメータの推定値を次式のように更新する(
図5ステップS204)。
【0069】
【0070】
相電流算出部102aは、計算の収束判定を行う(
図5ステップS205)。相電流算出部102aは、計算が収束していないと判定した場合(ステップS205においてNO)、次の式(25)、式(26)のように未知パラメータの推定値x
k+1/kハットと推定誤差共分散行列の推定値P
k+1/kハットを更新して(
図5ステップS206)、ステップS201に戻る。
【0071】
【0072】
ステップS205において収束すれば、処理の完了となる。こうして、相電流算出部102aは、未知パラメータ、すなわちRS相電流の実効値Irs(e)を算出することができる。
【0073】
第1の実施例と同様に、RS相電流の実効値I
rs(e)の算出後、相電流算出部102aは、RS相電流の実効値I
rs(e)と、電流実効値算出部104によって算出されたS相線電流の実効値I
s(e)と、相互相関関数算出部100によって算出された一般化相互相関関数D
r,D
sとに基づいて、式(12)によりST相電流の実効値I
st(e)を算出する(
図4ステップS108)。
【0074】
第1の実施例と同様に、相電流算出部102aは、RS相電流の実効値I
rs(e)と、電流実効値算出部104によって算出されたR相線電流の実効値I
r(e)と、相互相関関数算出部100によって算出された一般化相互相関関数D
rとに基づいて、式(11)によりTR相電流の実効値I
tr(e)を算出する(
図4ステップS109)。
【0075】
第1の実施例と同様に、出力部103は、相電流算出部102aの算出結果を出力する(
図4ステップS110)。
【0076】
こうして、本実施例では、第1の実施例と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施例では、第1の実施例の、Dr<0、Ds<0、Dt<0の条件を不要とすることができる。
【0077】
未知パラメータの推定方法は、本実施例の拡張カルマンフィルタ逆解析法に限る必要はなく、式(17)~式(20)の非線形の連立方程式が解ければ、どのような方法でもよい。
【0078】
なお、第1、第2の実施例では、三相ヒータ1を流れる相電流の実効値Irs(e),Ist(e),Itr(e)を求めることにより、次式のようにヒータ11,12,13の抵抗値Rrs,Rst,Rtrを計算することが可能である。
Rrs=Ers(e)/Irs(e) ・・・(27)
Rst=Est(e)/Ist(e) ・・・(28)
Rtr=Etr(e)/Itr(e) ・・・(29)
【0079】
また、第1、第2の実施例のデルタ結線の三相ヒータ1で抵抗値を求めることができれば、周知のデルタスター変換により3つのヒータがスター結線された三相ヒータの抵抗値を求めることができる(例えば<https://eleking.net/study/s-accircuit/sac-deltastar.html>参照)。
【0080】
第1、第2の実施例で説明した消費電力算出部9と相互相関関数算出部100と相電流算出部102,102aと出力部103と電流実効値算出部104と電圧実効値算出部105とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図6に示す。
【0081】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、線電流測定部7と線間電圧測定部8と出力部103のハードウェア等が接続される。本発明の三相ヒータ電流検出方法を実現させるためのプログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、例えば三相ヒータの寿命診断の技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1…三相ヒータ、2…三相交流電源、3…電力制御装置、4…三相電力調整器、5-1~5-3…線電流測定用カレントトランス、6…線間電圧測定用ボルテージトランス、7…線電流測定部、8…線間電圧測定部、9…消費電力算出部、11~13…ヒータ、14~16…給電線、100…相互相関関数算出部、101…相互相関関数判定部、102,102a…相電流算出部、103…出力部、104…電流実効値算出部、105…電圧実効値算出部。