IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大同特殊鋼株式会社の特許一覧

特開2022-179936超音波探傷用試験片およびその製造方法
<>
  • 特開-超音波探傷用試験片およびその製造方法 図1
  • 特開-超音波探傷用試験片およびその製造方法 図2
  • 特開-超音波探傷用試験片およびその製造方法 図3
  • 特開-超音波探傷用試験片およびその製造方法 図4
  • 特開-超音波探傷用試験片およびその製造方法 図5
  • 特開-超音波探傷用試験片およびその製造方法 図6
  • 特開-超音波探傷用試験片およびその製造方法 図7
  • 特開-超音波探傷用試験片およびその製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179936
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】超音波探傷用試験片およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/30 20060101AFI20221129BHJP
   G01N 29/32 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01N29/30
G01N29/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086759
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】石谷 和典
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AB01
2G047BA03
2G047BC07
2G047EA10
2G047GJ25
(57)【要約】
【課題】丸棒材の超音波探傷を行うに際し平底穴を人工きずとして使用した超音波探傷用試験片において、2回反射エコーの影響を排除して超音波探傷装置の感度調整を確実に行うことが可能な超音波探傷用試験片を提供する。
【解決手段】丸棒材の表面ないし表層に存在する欠陥を超音波で探傷する際に使用する超音波探傷用試験片Sであって、上記丸棒材と同材で同径の本体1の円周面の一部に、探傷超音波が入射する方向に対してその平底面21が直交するような筒状の平底穴2を人工きずとして形成するとともに、当該平底穴2の開口周縁のうち少なくとも本体1の円周面に近い平底穴2側面側の開口周縁部に、本体1の円周面から平底穴2の軸m方向外方へ所定量で延出する延出部22を形成する。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸棒材の表面ないし表層に存在する欠陥を超音波で探傷する際に使用する超音波探傷用試験片であって、前記丸棒材と同材で同径とした本体の表面ないし表層に探傷超音波を反射する人工きずを形成するとともに、人工きずの近傍で少なくとも前記本体の円周面に近い側に、この部分に至った探傷超音波の反射経路を前記人工きずからの反射経路よりも長くするような延出部を形成したことを特徴とする超音波探傷用試験片。
【請求項2】
丸棒材の表面ないし表層に存在する欠陥を超音波で探傷する際に使用する超音波探傷用試験片であって、前記丸棒材と同材で同径とした本体の円周面の一部に、探傷超音波が入射する方向に対してその平底面が直交するような筒状の平底穴を人工きずとして形成するとともに、当該平底穴の開口周縁のうち少なくとも前記本体の円周面に近い平底穴側面側の開口周縁部に、前記本体の円周面から前記平底穴の軸方向外方へ所定量で延出する延出部を形成したことを特徴とする超音波探傷用試験片。
【請求項3】
前記本体の半径(r)、前記平底穴の直径(D)、前記延出部の厚み(W)の間に下式の関係がある請求項2に記載の超音波探傷用試験片。
W=r-(rsinθ+D/2)
ここでW>λであり、λは探傷超音波の波長である。またθは探傷超音波の屈折角である。
【請求項4】
前記丸棒材と同材で同径の円形断面の柱体の、周方向の一部に、前記柱体の円周上の一点からの接線と当該接線上の一点から前記柱体の円周面に向かう線で囲まれた断面を有する突出部を形成して前記本体とし、前記突出部の斜面の柱体長手方向の一部に前記平底穴を穿設する請求項2または3に記載の超音波探傷用試験片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探傷装置の感度調整等を行う際に使用する超音波探傷用試験片およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の超音波探傷用試験片において人工きずとしていわゆる平底穴を設けて、当該平底穴の平底面に向けて探傷超音波を射出してその反射超音波の欠陥エコー信号強度が所定値以上になるように超音波探傷装置の感度調整を行うようにしたものがある(例えば特許文献1)。ところで、丸棒材の表面きずや表層きずの探傷を行う場合には、図7に示すように、探傷する丸棒材と同材で同径の円柱形の試験片本体5の表面に所定角度で傾斜する所定長の円筒状の平底穴2を形成する。平底穴2は、探傷超音波が入射する方向に対してその平底面21が直交するような角度とする。
【0003】
すなわち、丸棒材の表面きずや表層きずの探傷を行う場合には探傷超音波の屈折角θが例えば45°~55°となるような斜角探傷を行うが、このような屈折角θで探傷プローブ4から試験片Sへ入射する探傷超音波に対して平底面21が直交するような角度で平底穴2を形成し、丸棒材を回転させて反射超音波の欠陥エコーが所定値以上になるように超音波探傷装置の感度調整を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-78558
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の超音波探傷用試験片Sでは、試験片本体5に形成した平底穴2からの反射超音波には、平底穴2の平底面21で反射して戻る欠陥エコーEd以外に、探傷用超音波が一定の広がりを有することによって丸棒材の周面とこれに近い平底穴2の側面で反射する2回反射エコーEnが含まれる。
【0006】
この場合、小径の丸棒材を探傷する際にはこれに応じて試験片Sも小径にするが、この場合、平底穴2からの欠陥エコーEdと2回反射エコーEnが時間的に近接して探傷プローブ4に戻るため、図8に示すように、超音波探傷装置の検出ウインドウ(時間幅)T内に欠陥エコー信号Eds以外に2回反射エコー信号Ensも現れてこれらを区別できず、丸棒材を回転させて反射超音波の欠陥エコー信号Edsが所定値以上になるように超音波探傷装置の感度調整を行うという所期の目的が達せられないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、丸棒材の超音波探傷を行うに際し平底穴を人工きずとして使用した超音波探傷用試験片において、2回反射エコーの影響を排除して超音波探傷装置の感度調整を確実に行うことが可能な超音波探傷用試験片およびその製造方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、
本第1発明は、丸棒材の表面ないし表層に存在する欠陥を超音波で探傷する際に使用する超音波探傷用試験片であって、前記丸棒材と同材で同径とした本体(1)の表面ないし表層に探傷超音波を反射する人工きず(6,7)を形成するとともに、人工きず(6,7)の近傍で少なくとも前記本体(1)の円周面に近い側に、この部分に至った探傷超音波の反射経路を前記人工きず(6,7)からの反射経路よりも長くするような延出部(61,71)を形成する。
【0009】
本第1発明によれば、延出部を形成して、この部分に至った探傷超音波の反射経路を人工きずからの反射経路よりも長くしたから、欠陥エコーと二回反射エコーは時間的に十分離れて探傷プローブに戻る。したがって、超音波探傷装置で欠陥エコーと二回反射エコーを確実に識別して、二回反射エコーの影響を受けることなく欠陥エコー信号が所定値以上となるように超音波探傷装置の感度調整を確実に行うことができる。
【0010】
本第2発明は、丸棒材の表面ないし表層に存在する欠陥を超音波で探傷する際に使用する超音波探傷用試験片(S)であって、前記丸棒材と同材で同径の本体(1)の円周面の一部に、探傷超音波が入射する方向に対してその平底面(21)が直交するような筒状の平底穴(2)を人工きずとして形成するとともに、当該平底穴(2)の開口周縁のうち少なくとも前記本体(1)の円周面に近い平底穴(2)側面側の開口周縁部に、前記本体(1)の円周面から前記平底穴(2)の軸(m)方向外方へ所定量で延出する延出部(22)を形成する。
【0011】
本第2発明によれば、延出部を形成したことにより、探傷超音波の欠陥エコーは平底穴の平底面で反射して戻り、二回反射エコーは平底面から十分離れた延出部の先端で反射して戻る。このため、欠陥エコーと二回反射エコーは時間的に十分離れて探傷プローブに戻るから超音波探傷装置でこれらを確実に識別して、二回反射エコーの影響を受けることなく欠陥エコー信号が所定値以上となるように超音波探傷装置の感度調整を確実に行うことができる。
【0012】
本第3発明では、前記本体の半径(r)、前記平底穴の直径(D)、前記延出部の厚み(W)の間に下式の関係がある。
W=r-(rsinθ+D/2)
ここでW>λであり、λは探傷超音波の波長である。またθは探傷超音波の屈折角である。
【0013】
本第4発明の超音波探傷用試験片の製造方法では、前記丸棒材と同材で同径の円形断面の柱体の、周方向の一部に、前記柱体の円周上の一点からの接線と当該接線上の一点から前記柱体の円周面に向かう線で囲まれた断面を有する突出部(11)を形成して前記本体(1)とし、前記突出部(11)の斜面の柱体長手方向の一部に前記平底穴(2)を穿設する。
【0014】
本第4発明によれば、開口縁に延出部が形成された平底穴を有する超音波試験片を簡易に製造することができる。
【0015】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の超音波探傷用試験片およびその製造方法によれば、丸棒材の超音波探傷を行うに際し平底穴を人工きずとして使用した超音波探傷用試験片において、2回反射エコーの影響を排除して超音波探傷装置の感度調整を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示す、超音波探傷用試験片の断面図である。
図2】超音波探傷用試験片の製造に使用する、試験片本体の全体斜視図である。
図3】試験片本体の側面図と端面図である。
図4】平底穴を形成した試験片本体の部分拡大側面図である。
図5】超音波探傷装置で受信される反射超音波信号の経時変化を示す図である。
図6】本発明の他の実施形態を示す超音波探傷用試験片の断面図である。
図7】従来の超音波探傷用試験片の断面図である。
図8】超音波探傷装置で受信される反射超音波信号の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0019】
図1には本発明の超音波探傷用試験片Sの断面の一例を示す。図1において、超音波探傷用試験片Sの本体1は柱状で、探傷する丸棒材と同径の円形断面を有している。そして、図略の探傷プローブから試験片本体1の周面の一点aに入射し屈折角θで本体1内を伝播する探傷超音波に対し、その平底面21が探傷超音波の入射方向に直交するような筒状の平底穴2が人工きずとして形成されている。
【0020】
平底穴2は本実施形態では試験片本体1の周面の一部に形成された突出部11に穿設されている。これにより、平底穴2の、試験片本体1の円周面(仮想)aに近い側面側にある開口上縁部に延出部22が形成されている。この延出部22は、試験片本体1の円周面aから平底穴2の軸mに沿って外方へ一定厚Wで延びるとともにその先端221は平面となっている。
【0021】
なお、図1中の各符号r,D,W,Hは以下の各部の寸法を示すものである。
r:試験片本体半径
D:平底穴直径
W:延出部厚み
H:延出部延出量(=平底穴深さ)
【0022】
ここで、W=r-(rsinθ+D/2)の関係があり、Wを大きくするほど2回反射エコーの影響を小さくできるが、その分Dが小さくなって平底面21で反射する欠陥エコーが弱くなる。したがって、これを考慮してW,Dの大きさを適宜調整する必要がある。なお、Wは探傷超音波の波長がλである場合、W>λにする必要がある。
【0023】
また、Hを大きくするほど欠陥エコーと2回反射エコーは良好に分離される。このようなHの大きさは探傷超音波のパルス持続長以上に設定する必要があり、一例として探傷超音波の音速を3000m/s、周波数を10MHz、波数を3とすると、Hの大きさは0.9mm以上を確保する必要がある。
【0024】
延出部22を形成した上記試験片Sは例えば以下のように製造される。すなわち、丸棒材と同材の一定長Xの柱体を削り出し等で成形して、図2に斜視図を、図3(1)、(2)にそれぞれ側面図、端面図を示すような試験片本体1とする。試験片本体1の長さXは、使用する探傷プローブ4の長さ(図1で紙面垂直方向の長さ)よりも長いものであれば良い。
【0025】
試験片本体1は、その大部分が丸棒材と同径の円形断面であり、周方向の一部が径方向外方へ突出する突出部11となっている。この突出部11の断面は、円形断面部の上方の円周上の一点cからの接線と、当該接線上の一点から直角に円形断面部の下方の他の円周上に向かう線で囲まれた断面である。そして、この突出部11の長手方向の一カ所で、図4に示すように、突出部11の下側斜面111に、上側斜面112に平行に円筒状の平底穴2を穿設する。これにより、平底穴2の開口上縁に所定厚Wの上記延出部22が形成される。
【0026】
このような延出部22を形成したことにより、図1に示すように、探傷超音波の欠陥エコーEdが平底穴2の平底面21で反射して生じる一方、二回反射エコーEnは上記平底面21から離れた延出部22の先端221平面で反射して生じる。このため、欠陥エコーEdと二回反射エコーEnは時間的に十分離れて探傷プローブに戻り、図5に示すように、超音波探傷装置で受信される反射超音波信号の検出ウインドウT内には欠陥エコー信号Edsのみが現れる。これにより、反射超音波の欠陥エコー信号Edsが所定値以上になるように調整する超音波探傷装置の感度調整を確実に行うことができる。
【0027】
なお、試験片本体に形成される突出部は必ずしも上述したような断面である必要はなく、また、試験片の平底穴の開口周縁に延出部を形成する方法も上述した方法には限られない。この場合、形成方法によっては、延出部の延出量は上記実施例とは異なって平底穴の深さと同一にならないこともある。また、延出部の厚みも必ずしも一定である必要は無く、先端へ向けて漸次厚みを増すようなものでも良い。さらに延出部の先端は必ずしも平面とする必要はない。より具体的には、例えば図6(1)に示すような平底面ではない人工きず6や、は図6(2)に示すような表面から一定深さに形成した人工きず7に対しても、それぞれ図示のような延出部61,71を形成することによって、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本発明の試験片は、探傷プローブが単一振動子のもの、フェーズドアレイ式のもののいずれにも使用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1…本体、11…突出部、2…平底穴、21…平底面、22…延出部、S…超音波探傷用試験片。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8