(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179939
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
F16D 3/223 20110101AFI20221129BHJP
【FI】
F16D3/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086765
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】松本 宏司
(72)【発明者】
【氏名】神野 哲史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晋
(57)【要約】
【課題】耐久性を確保しつつ、小型化可能な等速ジョイントを提供することを目的とする。
【解決手段】等速ジョイントは、有底穴を含むアウタ部材と、回転軸の外周と篏合し、前記有底穴に挿入されるインナ部材と、前記アウタ部材と前記インナ部材との間に配置され、かつ、前記有底穴の内壁に設けられた複数のアウタ側ボール溝、及び前記インナ部材の外壁に設けられた複数のインナ側ボール溝のそれぞれに挿入される複数のボールと、前記ボールを保持するケージと、を有し、前記有底穴の開口側に位置する前記内壁の第1内壁部の肉厚が、前記有底穴の底側に位置する前記内壁の第2内壁部の肉厚より厚い構成である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底穴を含むアウタ部材と、
回転軸の外周と篏合し、前記有底穴に挿入されるインナ部材と、
前記アウタ部材と前記インナ部材との間に配置され、かつ、前記有底穴の内壁に設けられた複数のアウタ側ボール溝、及び前記インナ部材の外壁に設けられた複数のインナ側ボール溝のそれぞれに挿入される複数のボールと、
前記ボールを保持するケージと、を有し、
前記有底穴の開口側に位置する前記内壁の第1内壁部の肉厚が、前記有底穴の底側に位置する前記内壁の第2内壁部の肉厚より厚い、
ことを特徴とする等速ジョイント。
【請求項2】
前記第1内壁部は、前記アウタ部材の揺動中心を基準に前記有底穴の開口側に位置し、
前記第2内壁部は、前記揺動中心を基準に前記有底穴の底側に位置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記第1内壁部と前記第2内壁部との間に、前記第1内壁部の肉厚より薄く、かつ、前記第2内壁部の肉厚より厚い第3内壁部を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行駆動力伝達機構は回転軸から別の回転軸に回転駆動力を伝達する継手として2個の等速ジョイントを具備する。2個の等速ジョイントの中の1個は摺動型等速ジョイントであり、残りの1個は固定型等速ジョイントである。固定型等速ジョイントはデファレンシャル装置側の回転軸(例えばドライブシャフト)とハブとの間に設けられる。
【0003】
固定型等速ジョイントは、アウタ部材、インナ部材、アウタ部材とインナ部材の間に介在するトルク伝達ボール、及びトルク伝達ボールを保持するリテーナ(以下、ケージという)とを備える。アウタ部材にはその長手方向に沿って略円錐台形状の有底穴が設けられている。さらに、有底穴の湾曲した内壁には互いに等角度で離間した6個のアウタ側ボール溝が設けられている。トルク伝達ボールはアウタ側ボール溝に挿入される。
【0004】
固定型等速ジョイントを小型軽量化するために、ケージの肉厚を小さくすること、すなわち、薄肉化することが知られている。また、この薄肉化に伴ってケージの剛性が低下することも知られている。さらに、ケージを軽量化するべく薄肉化した場合においても、十分な剛性を確保する技術も提案されている(以上、例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、トルク伝達ボールとアウタ側ボール溝との面圧が高い場合、アウタ側ボール溝に損傷が蓄積して、アウタ側ボール溝の表層部がうろこ状に剥がれる、いわゆるフレーキングが発生する。フレーキングが発生すると、トルク伝達ボールがアウタ側ボール溝で円滑に動作せず、異音が発生することもある。このため、等速ジョイントの耐久性を確保しつつ、等速ジョイントを小型化することが求められる。
【0007】
そこで、本発明では、耐久性を確保しつつ、小型化可能な等速ジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る等速ジョイントは、有底穴を含むアウタ部材と、回転軸の外周と篏合し、前記有底穴に挿入されるインナ部材と、前記アウタ部材と前記インナ部材との間に配置され、かつ、前記有底穴の内壁に設けられた複数のアウタ側ボール溝、及び前記インナ部材の外壁に設けられた複数のインナ側ボール溝のそれぞれに挿入される複数のボールと、前記ボールを保持するケージと、を有し、前記有底穴の開口側に位置する前記内壁の第1内壁部の肉厚が、前記有底穴の底側に位置する前記内壁の第2内壁部の肉厚より厚い構成である。
【0009】
上記構成において、前記第1内壁部が、前記アウタ部材の揺動中心を基準に前記有底穴の開口側に位置し、前記第2内壁部が、前記揺動中心を基準に前記有底穴の底側に位置する構成としてもよい。
【0010】
上記構成において、前記第1内壁部と前記第2内壁部との間に、前記第1内壁部の肉厚より薄く、かつ、前記第2内壁部の肉厚より厚い第3内壁部を含む構成としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐久性を確保しつつ、小型化可能な等速ジョイントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は等速ジョイントの分解斜視図の一例である。
【
図2】
図2はアウタレースのZ-Z部分断面図の一例である。
【
図3】
図3(a)は作動角が大きい時の回転位相とボール溝荷重の関係を表すグラフの一例である。
図3(b)は作動角が小さい時の回転位相とボール溝荷重の関係を表すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0014】
図1に示すように、等速ジョイント10は、アウタ部材としてのアウタレース11と、インナ部材としてのインナレース21と、ボール31と、ケージ(具体的にはボールケージ)33と、を備える。等速ジョイント10には、例えばバーフィールド型ジョイントといった、ドライブシャフト102の距離変化に対応できない固定型等速ジョイントが採用することができる。
【0015】
アウタレース11はハブ側(又は車輪側)の外側回転シャフト101の端部に設けられる。アウタレース11は有底穴11aを含んでいる。有底穴11aはインナレース21を内部に収容可能な内径の球面を有する。アウタレース11の有底穴11aの内壁11bには、外側回転シャフト101の軸心に一致する箇所から放射状に連続する複数本のアウタ側ボール溝12が設けられている。本実施形態では6本のアウタ側ボール溝12が設けられている。
【0016】
インナレース21は回転軸の一例であるドライブシャフト102の端部に設けられる。インナレース21はドライブシャフト102の端部の外周と篏合し、有底穴11aに挿入される。インナレース21は外壁21aがアウタレース11の有底穴11aの内壁11bに均等な隙間を介して対面する外径の球面を有する。インナレース21の外壁21aにはドライブシャフト102の軸心に一致する箇所から放射状に連続する複数本のインナ側ボール溝22が形成されている。本実施形態では6本のインナ側ボール溝22が設けられている。
【0017】
ボール31はアウタレース11とインナレース21との間に配置される。ボール31は複数本のアウタ側ボール溝12と複数本のインナ側ボール溝22のそれぞれに挿入される。より詳しくは、ボール31はアウタレース11内にインナレース21が収容される状態でアウタ側ボール溝12及びインナ側ボール溝22が対向することにより形成される空間内に1つずつ収納される。ボール31はアウタ側ボール溝12及びインナ側ボール溝22の対向空間内において、アウタ側ボール溝12の溝湾曲面とインナ側ボール溝22の溝湾曲面のそれぞれにボール31の外周面31aを接触させる状態で回転自在に収納される。
【0018】
ケージ33はアウタレース11の有底穴11aの内壁とインナレース21の外壁21aとの間に位置し、それぞれの球面に沿いつつ移動可能な曲率半径の湾曲帯形状を有する。ケージ33はボール31を保持する。具体的には、ケージ33はアウタ側ボール溝12及びインナ側ボール溝22の対向空間に一致する周方向の均等位置に開口する保持窓33aを備え、保持窓33aがその対向空間内でボール31を転動自在に保持する。保持窓33aがボール31を保持することで、ボール31がアウタ側ボール溝12とインナ側ボール溝22との間の対向空間の片側に寄って揃ってしまうことがなくなる。
【0019】
等速ジョイント10では、外側回転シャフト101とドライブシャフト102の軸線方向が交差する状態でも、アウタレース11の有底穴11aの内壁11bとインナレース21の外壁21aとが直接接触してしまうことがボール31により回避される。また、等速ジョイント10では、このような直接接触が回避されながら、ボール31がアウタ側ボール溝12とインナ側ボール溝22との間の対向空間内に転動自在に収容されている状態が維持される。
【0020】
次に、
図2並びに
図3(a)及び(b)を参照して、アウタレース11の詳細について説明する。
【0021】
アウタレース11は内壁11bとして第1内壁部11pと第2内壁部11qと第3内壁部11rの3つの部分を含んでいる。第1内壁部11pはアウタレース11の揺動中心(いわゆるジョイントセンタ)Cを基準に有底穴11aの開口側に位置する。第2内壁部11qはアウタレース11の揺動中心Cを基準に有底穴11aの底側に位置する。第3内壁部11rは第1内壁部11pと第2内壁部11qの間に位置する。第3内壁部11rは、例えば揺動中心Cを通り、外側回転シャフト101の軸心Xと垂直な面Sと内壁11bとが交差する部分としてもよい。なお、第1内壁部11p、第2内壁部11q、及び第3内壁部11rはアウタ側ボール溝12の溝底に位置する部分だけでなく、アウタ側ボール溝12が設けられていない内壁11bの部分にも同様に設けられている。すなわち、第1内壁部11p、第2内壁部11q、及び第3内壁部11rはアウタレース11の周方向に一律に設けられている。
【0022】
第1内壁部11pの肉厚は第2内壁部11qの肉厚より厚くなっている。第3内壁部11rの肉厚を基準とすると、第2内壁部11qの肉厚は第3内壁部11rの肉厚より薄く、第1内壁部11pの肉厚は第3内壁部11rの肉厚より厚くなっている。言い換えれば、第3内壁部11rの肉厚は第1内壁部11pの肉厚より薄く、第2内壁部11qの肉厚より厚くなっている。なお、第3内壁部11rの肉厚は第1内壁部11pと第2内壁部11qのどちらかの肉厚と同じであってもよい。このように、第1内壁部11pと第2内壁部11qと第3内壁部11rの肉厚を互いに変えることにより、例えば、第3内壁部11rを基準とすると、第2内壁部11qの剛性は第3内壁部11rの剛性より低下する。また、第3内壁部11rを基準とすると、第1内壁部11pの剛性は第3内壁部11rの剛性より上昇する。
【0023】
ここで、車両の旋回によりアウタレース11が揺動して、外側回転シャフト101とドライブシャフト102の軸線方向が交差する角度が例えば最大作動角になると、ボール31の位置が第1内壁部11p付近のアウタ側ボール溝12に変位する。これにより、第1内壁部11p付近のアウタ側ボール溝12にはボール31による強い荷重が作用する。しかしながら、本実施形態では第1内壁部11pの肉厚を厚くしているため、最大作動角の際に生じる荷重に対するアウタレース11の耐久性を十分に確保することができる。すなわち、等速ジョイント10の耐久性を確保することができる。
【0024】
また、本実施形態では第2内壁部11qの肉厚を薄くしているため、第1内壁部11p付近のアウタ側ボール溝12に強い荷重が作用した場合、第2内壁部11q付近が弾性的に変形する。すなわち、第2内壁部11q付近を基準にアウタレース11が外側方向に撓む。これにより、第1内壁部11p付近のアウタ側ボール溝12とボール31との面圧が低下し、第1内壁部11p付近のアウタ側ボール溝12に作用する荷重が低減する。より詳しくは、
図3(a)に示すように、アウタレース11の内壁11bの肉厚に差を設けない比較例の場合に比べて、アウタ側ボール溝12に作用する荷重を低減することができる。この結果、アウタ側ボール溝12の表層部がうろこ状に剥がれるいわゆるフレーキングの発生を抑制することができる。
【0025】
一方、車両が直進して、外側回転シャフト101とドライブシャフト102の軸線方向が直線的になる常用角(具体的には常用作動角)になると、ボール31の位置が第2内壁部11q付近のアウタ側ボール溝12に変位する。これにより、第2内壁部11q付近のアウタ側ボール溝12にはボール31による荷重が作用する。常用角の場合には、最大作動角の場合ほど、強い荷重は作用しない。したがって、第2内壁部11qの肉厚を薄くしていても、常用角の際に生じる荷重に対する耐久性を十分に確保することができる。すなわち、等速ジョイント10の耐久性を確保することができる。
【0026】
また、本実施形態では第2内壁部11qの肉厚を薄くしているため、第2内壁部11q付近のアウタ側ボール溝12に荷重が作用しても、第2内壁部11q付近が弾性的に変形する。具体的には、アウタレース11の開口を拡径するように、第2内壁部11q付近を基準にアウタレース11の開口が拡径する。これにより、第2内壁部11q付近のアウタ側ボール溝12とボール31との面圧が低下し、第2内壁部11q付近のアウタ側ボール溝12に作用する荷重が低減する。より詳しくは、
図3(b)に示すように、アウタレース11の内壁11bの肉厚に差を設けない比較例の場合に比べて、アウタ側ボール溝12に作用する荷重を低減することができる。このように、常用角の場合であっても、フレーキングの発生を抑制することができる。
【0027】
ここで、常用角から最大作動角までの全使用領域で等速ジョイント10の耐久性を確保する場合、常用角に応じた溝形状と最大作動角に応じた溝形状の両方を含むアウタ側ボール溝12をアウタレース11に設けることが望ましい。しかしながら、アウタ側ボール溝12の溝形状は成形性の観点から一律のR形状にすることが求められる。このため、常用角に応じた溝形状と最大作動角に応じた溝形状の両方を含むアウタ側ボール溝12をアウタレース11に設けることは困難である。したがって、全使用領域で等速ジョイント10の耐久性を確保するために、上述した比較例のように、アウタレース11の内壁11bの肉厚に差を設けずに、等速ジョイント10を大型化して耐久性を確保していた。
【0028】
しかしながら、本実施形態によれば、アウタ側ボール溝12の溝形状を一律のR形状としつつも、内壁11bの肉厚に差を設けることで、最大作動角の場合であっても常用角の場合であっても、フレーキングの発生を抑えることができる。すなわち、等速ジョイント10を大型化しなくても、等速ジョイント10の耐久性を確保することができる。このように、等速ジョイント10の大型化を回避できるため、結果的に、等速ジョイント10の小型化を実現することができる。
【0029】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 等速ジョイント
11 アウタレース(アウタ部材)
11a 有底穴
11b 内壁
11p 第1内壁部
11q 第2内壁部
11r 第3内壁部
12 アウタ側ボール溝
21 インナレース(インナ部材)
22 インナ側ボール溝
31 ボール
33 ケージ