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特開2022-179941インクジェットインク組成物及びインクセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179941
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物及びインクセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20221129BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20221129BHJP
   C09D 11/328 20140101ALI20221129BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221129BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20221129BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/40
C09D11/328
B41J2/01 501
B41J2/21
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086767
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鍔本 智史
(72)【発明者】
【氏名】矢竹 正弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 智仁
(72)【発明者】
【氏名】丸山 友暉
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA11
2C056EA21
2C056FC01
2C056FC02
2H186BA10
2H186BA11
2H186DA12
2H186DA14
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039BE01
4J039BE13
4J039BE24
4J039CA06
4J039EA41
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】顔料に由来する異物の発生が抑制されたインクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料と、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、水と、を含有するインクジェットインク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料と、
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、
水と、
を含有するインクジェットインク組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料が、C.I.Pigment Yellow 1又はC.I.Pigment Yellow 74である、インクジェットインク組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
保湿剤をさらに含有する、インクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
可塑剤をさらに含有する、インクジェットインク組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物と、
水不溶性ポリマーで被覆されたマゼンタ顔料を含有するマゼンタインク組成物と、
水不溶性ポリマーで被覆されたシアン顔料を含有するシアンインク組成物と、
を含む、インクセット。
【請求項6】
請求項5において、
自己分散顔料を含有するブラックインク組成物をさらに含む、インクセット。
【請求項7】
請求項6において、
前記ブラックインク組成物が、ガラス転移温度20℃以下の(メタ)アクリル樹脂を含有する、インクセット。
【請求項8】
請求項6ないし請求項7のいずれか一項において、
前記インクセットに含まれる前記インクジェットインク組成物と、前記インクジェットインク組成物以外のインク組成物の1種以上とが、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンを含有する、インクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及びインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は、記録媒体に対して高品質の画像を形成できるため、従来から種々の技術開発が行われてきた。インクジェット法記録装置の開発のみならず、これに用いるインク組成物をより良好なものとする検討も広範囲に為されている。
【0003】
例えば、インク組成物において異物が生じることがあり、これを抑制する検討が行われてきた。特許文献1では、インク中における特定の顔料に由来する異物を抑制するために、当該インクに特定のモノアゾ染料を共存させることを試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-199809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、特定の色材からの異物の原因物質の溶出が抑えられておらず、異物の発生は、必ずしも十分に抑制できているとは言えなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、
水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料と、
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、
水と、
を含有する。
【0007】
本発明に係るインクセットの一態様は、
上述のインクジェットインク組成物と、
水不溶性ポリマーで被覆されたマゼンタ顔料を含有するマゼンタインク組成物と、
水不溶性ポリマーで被覆されたシアン顔料を含有するシアンインク組成物と、
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0009】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを表し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを表す。
【0010】
1.インクジェットインク組成物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料と、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、水と、を含有する。
【0011】
1.1. アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料
本実施形態のインクジェットインク組成物は、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料を含む。アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料は、一般にイエロー色を呈し、耐光性、耐溶剤性に比較的優れている。アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料の例を、一般式(I)及び各置換基を示した下記の表1に掲げた。
【0012】
【表1】
【0013】
アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料は、一般に、芳香族一級アミンをジアゾ化し、アセト酢酸アニリドとカップリング反応を行うことにより合成される。このとき、アセト酢酸アニリド中の不純物が、系内のジアゾ化合物と反応することにより、異物を生じるとの知見を発明者らは得ている。
【0014】
上記例示したアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料の中でも、C.I.Pigment Yellow1及びC.I.Pigment Yellow 74は、発色性、耐光性に
より優れる点で好ましい。一方、C.I.Pigment Yellow 1及びC.I.Pigment Yellow 74は、異物を生じることがあるが、本実施形態のインクジェットインク組成物は、かかる顔料を水不溶性ポリマーによって被覆しており、さらに後述の1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンを含有しているので、十分に異物の発生を抑制できる。
【0015】
1.2. 水不溶性ポリマー
本実施形態のインクジェットインク組成物に含まれるアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料は、水不溶性ポリマーによって被覆されている。水不溶性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、塩基性基含有モノマー単位と、マクロマー単位及び/又は疎水性モノマー単位とを含むものが挙げられる。また、水不溶性ポリマーは、必要に応じて、水酸基含有モノマー単位、その他のモノマー単位を含んでもよい。以下各単位について説明する。
【0016】
(塩基性基含有モノマー)
塩基性基含有モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、カチオン性モノマー、アニオン性モノマーが挙げられる。その例として、特開平9-286939号公報5頁7欄24行~8欄29行に記載されているものが挙げられる。ここで塩基性基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基が挙げられる。
【0017】
カチオン性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-(N’,N’-ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンのような不飽和アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマーが挙げられる。
【0018】
アニオン性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸のような不飽和カルボン酸モノマー;スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス-(3-スルホプロピル)-イタコン酸エステルのような不飽和スルホン酸モノマー;ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル-2-アクリロイロキシエチルホスフェートのような不飽和リン酸モノマーが挙げられる。上記アニオン性モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0019】
塩基性基含有モノマー単位の含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、水不溶性ポリマーの総量に対して、好ましくは2~40質量%であり、より好ましくは2~30質量%であり、特に好ましくは3~20質量%である。
【0020】
(マクロマー)
マクロマーとしては、特に限定されないが、例えば、片末端に重合性官能基を有する、スチレン系マクロマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーが挙げられる。
【0021】
マクロマーの数平均分子量は、好ましくは500~100,000であり、より好ましくは1,000~10,000であるものが挙げられる。なお、マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲ
ルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0022】
スチレン系マクロマーとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン系モノマー単独重合体、又はスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、クロロスチレンが挙げられる。
【0023】
芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーとしては、特に限定されないが、例えば、芳香族基含有(メタ)アクリレートの単独重合体又はそれと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数7~22、好ましくは炭素数7~18、更に好ましくは炭素数7~12のアリールアルキル基、又は、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6~22、好ましくは炭素数6~18、更に好ましくは炭素数6~12のアリール基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。ヘテロ原子を含む置換基としては、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、ヒドロキシ基が挙げられる。このようなモノマーとしては、具体的には、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-メタクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレートが挙げられ、特にベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0024】
また、これらのマクロマーの片末端に存在する重合性官能基としては、特に限定されないが、例えば、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましい。
【0025】
スチレン系モノマー、又は芳香族基含有(メタ)アクリレートと共重合される他のモノマーとしては、アクリロニトリルが好ましい。
【0026】
商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、特に限定されないが、例えば、東亜合成株式会社の商品名、AS-6(S)、AN-6(S)、HS-6(S)が挙げられる。
【0027】
マクロマー単位の含有量は、特に着色剤との相互作用を高める観点から、水不溶性ポリマーの総量に対して、好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは5~20質量%である。
【0028】
(疎水性モノマー)
疎水性モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマーが挙げられる。
【0029】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~22、好ましくは炭素数6~18のアルキル基を有するものが好ましく、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0030】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6~22、好ましくは炭素数6~12の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、具体的には、マクロマーで述べたものと同様のスチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ
)アクリレートが挙げられる。ヘテロ原子を含む置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0031】
疎水性モノマー単位の含有量は、光沢性及び写像性の観点から、水不溶性ポリマーの総量に対して、好ましくは5~98質量%であり、より好ましくは10~60質量%である。
【0032】
(水酸基含有モノマー)
水酸基含有モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(n=2~30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(n=2~30)、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)(メタ)アクリレート(オキシエチレン基:n=1~15、オキシプロピレン基:n=1~15)が挙げられる。これらの中では、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0033】
水酸基含有モノマー単位の含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、水不溶性ポリマーの総量に対して、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは7~20質量%である。
【0034】
(その他のモノマー)
その他のモノマーは、特に限定されないが、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
CH=C(R)COO(RO)
(式中、Rは、水素原子又は炭素数1~5の低級アルキル基、Rは、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~30の2価の炭化水素基、Rは、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~30の1価の炭化水素基、pは、平均付加モル数を意味し、1~60の数、好ましくは1~30の数を示す。)
【0035】
上記式において、ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子及び硫黄原子が挙げられる。Rの好適例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基が挙げられる。また、RO基の好適例としては、オキシエチレン基、オキシ(イソ)プロピレン基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基及びこれらオキシアルキレンの2種以上の組合せからなる炭素数2~7のオキシアルキレン基が挙げられる。さらに、Rの好適例としては、炭素数1~30、好ましくは炭素数1~20の脂肪族アルキル基、芳香族環を有する炭素数7~30のアルキル基及びヘテロ環を有する炭素数4~30のアルキル基が挙げられる。
【0036】
上記その他のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(1~30:上記式中のpの値を示す。以下同じ。)、メトキシポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート(1~30)、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(1~30)、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(1~30)、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート2-エチルヘキシルエーテル(1~30)、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(1~30)、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(1~30)、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(1~30)、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール)(メタ)アクリレート(1~30、その中のエチレングリコール:1~29)が挙げられる。これらの中では、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(1~30)、ポリエチレングリ
コール(メタ)アクリレート2-エチルヘキシルエーテル(1~30)が好ましい。
【0037】
商業的に入手しうる水酸基含有モノマー、その他のモノマーとしては、新中村化学工業株式会社の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M-40G、同90G、同230G、日本油脂株式会社のブレンマーシリーズ、PE-90、同200、同350、PME-100、同200、同400、同1000、PP-500、同800、同1000、AP-150、同400、同550、同800、50PEP-300、50POEP-800Bが挙げられる。
【0038】
その他のモノマー単位の含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、水不溶性ポリマーの総量に対して、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~40質量%である。
【0039】
塩基性基含有モノマー単位と、マクロマー単位、及び疎水性モノマー単位との質量比(塩基性基含有モノマー単位の含有量/(マクロマー単位の含有量+疎水性モノマー単位の含有量))は、光沢性及び写像性の観点から、好ましくは0.01~1、より好ましくは0.02~0.67、更に好ましくは0.03~0.50である。
【0040】
塩基性基含有モノマー単位と水酸基含有モノマー単位の総含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、水不溶性ポリマーの総量に対して、好ましくは6~60質量%、より好ましくは10~50質量%である。
【0041】
塩基性基含有モノマー単位とその他のモノマー単位の総含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、水不溶性ポリマーの総量に対して、好ましくは6~75質量%、より好ましくは13~50質量%である。
【0042】
塩基性基含有モノマー単位と水酸基含有モノマー単位とその他のモノマー単位の総含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、水不溶性ポリマーの総量に対して、好ましくは6~60質量%、より好ましくは13~50質量%である。
【0043】
水不溶性ポリマーの製造方法は、特に限定されないが、例えば、特開2009-172971号公報に記載の方法が挙げられる。
【0044】
本実施形態のインク組成物は、水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料を含むことにより、異物の発生が抑制され、得られる記録物の印字濃度、及び光沢性がより向上する。「被覆された」とは、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料の粒子表面上の少なくとも一部に水不溶性ポリマーが付着していることをいう。
【0045】
水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.5質量%以上12.5質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以上7.5質量%以下である。水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料の含有量が0.5質量%以上であることにより、水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料に由来する異物の発生がより抑制される傾向にある。また、水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料の含有量が12.5質量%以下であることにより、得られる記録物の印字濃度、光沢性がより向上する傾向にある。
【0046】
1.3. 1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、1-(2-ヒドロキシエチル)-2
-ピロリドンを含む。1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンは、別名としてN-ヒドロキシエチルピロリドン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピロリジン-2-オン等と呼ばれる(本明細書では「HEP」と略記することがある。)。
【0047】
インクジェットインク組成物にHEPが含有されることにより、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料に由来する物質が異物化することを抑制することができる。また、インクジェットインク組成物にHEPが含有されることにより、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料に由来する物質が異物化した場合でもこれを速やかに溶解することができる。
【0048】
さらに、インクジェットインク組成物にHEPが含有されることにより、分散状態となっている物質の分散性を阻害しやすい1,2-アルカンジオール等の当該阻害作用を抑制することができる。このような効果は、HEPが、疎水性の比較的強い1,2-アルカンジオールと、疎水性が比較的弱いか親水性が高い、水、多価アルコール、有機溶剤等と、の疎水-親水間を補完するような性質を有していることが一因で生じると発明者らは考察している。
【0049】
HEPは、両親媒性の性質を有するが、界面活性剤と比較して、親水性部位と疎水性部位とが明確に分かれた構造を有しない。そのため、例えば、顔料、樹脂粒子等のインクジェットインク組成物中で分散状態となっている物質の分散状態を不安定化させにくい。したがって、HEPは、両親媒性の性質を有する界面活性剤や有機溶剤のなかでも、インクジェットインク組成物中で分散状態となっている物質をより凝集させにくい性質も有する。
【0050】
HEPの含有量は、インクジェットインク組成物の総量に対して、0.5質量%以上30.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上20.0質量%以下がより好ましく2.0質量%以上10.0質量%以下がさらに好ましい。
【0051】
1.4. 水
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水を含有する。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、インクジェットインク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0052】
水の含有量は、インクジェットインク組成物の総量に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。なおインクジェットインク組成物中の水というときには、例えば、原料に水が含まれる場合の当該水及び添加する水を含むものとする。水の含有量が30質量%以上であることにより、インクジェットインク組成物を比較的低粘度とすることができる。また、水の含有量の上限は、インクジェットインク組成物の総量に対して、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0053】
1.5. その他の成分
1.5.1. 保湿剤
インクジェットインク組成物は、保湿剤をさらに含有してもよい。インクジェットインク組成物が、保湿剤を含有する場合には、水分の揮発を抑制することができ、例えば保存安定性をさらに良好にできる。
【0054】
保湿剤としては、アルキルポリオール類を例示できる。アルキルポリオールには、多価
アルコールや1,2-アルカンジオールが概念上含まれるが、1,2-アルカンジオールは、保湿性能を有する一方でむしろ記録媒体へのインクジェットインク組成物を浸透を向上する浸透剤としての性質も有する。アルキルポリオールを含む場合には、インクジェットインク組成物の保湿性をさらに高め、インクジェット法による吐出安定性を優れたものとしつつ、長期放置時による記録ヘッドからの水分蒸発を効果的に抑制することができる。また、これにより、ノズルの目詰まりを生じやすい種の色材を用いた場合でも、放置回復性や連続吐出安定性をより良好に維持することができる。
【0055】
アルキルポリオールの具体例としては、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等が挙げられる。これらのアルキルポリオールは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0056】
1,2-アルカンジオールは、アルカンの1位及び2位に水酸基が置換した化合物の総称である。1,2-アルカンジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパン-1,2-ジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,2-ペンタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール、3,4-ジメチル-1,2-ペンタンジオール、3-エチル-1,2-ペンタンジオール、4-エチル-1,2-ペンタンジオール、3-メチル-1,2-ヘキサンジオール、4-メチル-1,2-ヘキサンジオール、5-メチル-1,2-ヘキサンジオール、3,4-ジメチル-1,2-ヘキサンジオール、3,5-ジメチル-1,2-ヘキサンジオール、4,5-ジメチル-1,2-ヘキサンジオール、3-エチル-1,2-ヘキサンジオール、4-エチル-1,2-ヘキサンジオール、3-エチル-4-メチル-1,2-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0057】
1.5.2. 可塑剤
インクジェットインク組成物は、可塑剤をさらに含んでもよい。インクジェットインク組成物が可塑剤を含む場合には、記録媒体に付着して乾燥する際の、水不溶性ポリマーの柔軟性を高めることができ、得られる記録物の光沢性や印字濃度をより向上できる傾向にある。
【0058】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステル、リン酸エステル、シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステル、オキシ酸エステル、グリコールエステル、エポキシ系エステル、スルホンアミド、ポリエステル、グリセリルアルキルエーテル、グリセリルアルキルエステル、グリコールアルキルエーテル、グリコールアルキルエステル、トリメチロールプロパンのエーテル又はエステル、ペンタエリスリトールのエーテル又はエステルが挙げられる。このなかでも、ジブチルセバケート(セバシン酸ジブチル)のような脂肪族カルボン酸エステルが好ましい。
【0059】
可塑剤の含有量は、インクジェットインク組成物の総量に対して、好ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上0.7質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下である。可塑剤の含有量
がこの範囲であることにより、得られる記録物の光沢性がより向上する傾向にある。
【0060】
インクジェットインク組成物が可塑剤を含有すれば、水不溶性ポリマーを可塑化できるので、記録媒体に付着した水不溶性ポリマーの造膜性を高めることができる。これにより、さらに光沢の良好な画像を形成することができる。
【0061】
1.5.3. 有機溶剤
インクジェットインク組成物は、上記以外の有機溶剤を含んでもよい。そのような有機溶剤の主な例としては、グリコールエーテル、環状アミド等が挙げられる。
【0062】
1.5.3.1. グリコールエーテル
本実施形態のインクジェットインク組成物は、グリコールエーテルを含んでもよい。グリコールエーテルとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールから選択されるグリコールのモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテルを挙げることができる。より具体的には、メチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)、ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等が挙げられ、典型例としてジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0063】
インクジェットインク組成物は、グリコールエーテルのうち、下記式(1)で表されるグリコールエーテルから選択される1種以上を、含有してもよい。
-O-(CH-CH-O)-R ・・・(1)
(式(1)中、Rは、H又は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、Rは、炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、nは、2以上3以下の整数を表す。)
【0064】
式(1)で表されるグリコールエーテルとしては、メチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ブチルトリグリコール(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)、ブチルジグリコール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等を例示できる。
【0065】
グリコールエーテルは、複数種を混合して用いてもよい。また、グリコールエーテルを用いる場合、その配合量は、インクジェットインク組成物の粘度調整、保湿効果による目詰まり抑制の点から、インクジェットインク組成物の全量に対して合計で、0.5質量%以上30質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下、より好ましくは3.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0066】
1.5.3.2. 環状アミド
本実施形態のインクジェットインク組成物は、環状アミド、を含んでもよい。
環状アミドとしては、アミド基を含む環構造を有する化合物が挙げられる。そのような化合物としては、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン(N-メチル-2-ピロリドン)、1-エチル-2-ピロリドン(N-エチル-2-ピロリドン)、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)等のγ-ラクタム類、β-ラクタム類、δ-ラクタム類、ε-カプロラクタム等のε-ラクタム類等が挙げられる。これらの環状アミドは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0067】
1.5.3.3. その他の有機溶剤
本実施形態のインクジェットインク組成物は、その他の有機溶媒を含んでもよい。その他の有機溶剤の例としては、γ-ブチロラクトン等のラクトン類、ベタイン化合物等が挙げられる。
【0068】
有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.2質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上10質量%以下である。
【0069】
1.5.4. 界面活性剤
インクジェットインク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0070】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010のEシリーズ(エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製商品名)、サーフィノール465やサーフィノール61(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製商品名)などが挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(Dupont社製);FT-250、251(株式会社ネオス製)などが挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0072】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、具体的には、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学株式会社製)が挙げられる。
【0073】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対し、好ましくは0.10質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上1.25質量%以下であり、さらに好ましくは0.25質量%以上1.0質量%以下である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、光沢性がより向上する傾向にある。
【0074】
1.5.5. 樹脂粒子
インクジェットインク組成物は、樹脂粒子を含有してもよい。樹脂粒子は、記録媒体に付着させたインクジェットインク組成物による画像の密着性などをさらに向上させることができる。インクジェットインク組成物が、樹脂粒子をさらに含有する場合、例えば得られる画像の耐擦性を向上できる。
【0075】
樹脂粒子としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂(スチレンアクリル系樹脂を含む)、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等からなる樹脂粒子が挙げられる。なかでも、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオフレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂粒子は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0076】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。また、ウレタン系樹脂として、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 460、460s、840、E-4000(商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS-5100、WS-6021、W-512-A-6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業社製)などの市販品を用いてもよい。
【0077】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。また例えば、ビニル系単量体としては、スチレンなどが挙げられる。
【0078】
アクリル系単量体としてはアクリルアミド、アクリロニトリル等も使用可能である。アクリル系樹脂を原料とする樹脂エマルジョンには、市販品を用いてもよく、例えばFK-854(商品名、中央理科工業社製)、モビニール952B、718A(商品名、日本合成化学工業社製)、NipolLX852、LX874(商品名、日本ゼオン社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0079】
スチレン・アクリル系樹脂は、スチレン単量体と(メタ)アクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。スチレン・アクリル系樹脂には、市販品を用いても良く、例えば、ジョンクリル62J、7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(商品名、BASF社製)、モビニール966A、975N(商品名、日本合成化学工業社製)、ビニブラン2586(日信化学工業社製)等を用いてもよい。
【0080】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。オレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばアローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等を用いてもよい。
【0081】
また、樹脂粒子は、エマルジョンの形態で供給されてもよく、そのような樹脂エマルジョンの市販品の例としては、マイクロジェルE-1002、E-5002(日本ペイント社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート4001(DIC社製商品名、アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート5454(DIC社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAM-710、AM-920、AM-2300、AP-4735、AT-860、PSASE-4210E(アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-7020(スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、ポリゾールSH-502(酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAD-13、AD-2、AD-10、AD-96、AD-17、AD-70(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールPSASE-6010(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)(昭和電工社製商品名)、ポリゾールSAE1014(商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン社製)、サイビノールSK-200(商品名、アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学社製)、AE-120A(JSR社製商品名、アクリル樹脂エマルジョン)、AE373D(イーテック社製商品名、カルボキシ変性スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、セイカダイン1900W(大日精化工業社製商品名、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2682(アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2886(酢酸ビニル・アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン5202(酢酸アクリル樹脂エマルジョン)(日信化学工業社製商品名)、エリーテルKA-5071S、KT-8803、KT-9204、KT-8701、KT-8904、KT-0507(ユニチカ社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、ハイテックSN-2002(東邦化学社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6020、W-635、W-6061、W-605、W-635、W-6021(三井化学ポリウレタン社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス870、800、150、420、460、470、610、700(第一工業製薬社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、パーマリンUA-150(三洋化成工業株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、サンキュアー2710(日本ルーブリゾール社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、NeoRez R-9660、R-9637、R-940(楠本化成株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、アデカボンタイター HUX-380,290K(株式会社ADEKA製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、モビニール966A、モビニール7320(日本合成化学株式会社製)、ジョンクリル7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(以上、BASF社製)、NKバインダーR-5HN(新中村化学工業株式会社製)、ハイドランWLS-210(非架橋性ポリウレタン:DIC株式会社製)、ジョンクリル7610(BASF社製)等が挙げられる。
【0082】
インクジェットインク組成物に樹脂粒子を含有させる場合の含有量は、インクジェットインク組成物の全質量に対して、固形分として、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上15質量%以下、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0083】
1.5.6. その他の成分
インクジェットインク組成物には、キレート化剤、pH調整剤、尿素類、防腐剤、防か
び剤、防錆剤、糖類、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、溶解助剤、粘度調整剤、など、インクジェット用のインクジェットインク組成物において通常用いることができる添加剤を含有してもよい。なお、本実施形態のインクジェットインク組成物は、揮発性成分中、水を最も多く含む水系インク組成物とすることが、安全性の点でより好ましい。
【0084】
1.6. 作用効果
このインクジェットインク組成物によれば、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料が水不溶性ポリマーで被覆されているので、異物の原因物質の溶出が抑制され、その上、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンを含有することにより、原因物質が異物化することを抑制することができる。これにより、インクジェットインク組成物は、長期保存する場合等の異物の発生しやすい状況であっても、異物の発生を抑制することができる。また、このインクジェットインク組成物によれば、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料を用いるので、発色性のよい画像を形成することができる。さらに、このインクジェットインク組成物によれば、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料が水不溶性ポリマーで被覆されているので、光沢の良好な画像を形成することができる。
【0085】
2. インクセット
本実施形態に係るインクセットは、上述のインクジェットインク組成物と、水不溶性ポリマーで被覆されたマゼンタ顔料を含有するマゼンタインク組成物と、水不溶性ポリマーで被覆されたシアン顔料を含有するシアンインク組成物と、を含む。
【0086】
2.1. 水不溶性ポリマー
マゼンタインク組成物に含有されるマゼンタ顔料及びシアンインク組成物に含有されるシアン顔料をそれぞれ被覆する水不溶性ポリマーは、上述のアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料を被覆る水不溶性ポリマーと同様であるので、詳細な説明は省略する。マゼンタインク組成物及びシアンインク組成物は、水不溶性ポリマーで被覆された顔料を含むので、記録媒体に付着された際に、発色性、光沢性の良好な画像を形成しやすい。
【0087】
2.2. マゼンタインク組成物
マゼンタインク組成物は、マゼンタ顔料を含有する。また、マゼンタインク組成物は、その他の成分を含有してもよく、例えば、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、水、を含有してもよいし、上述の「1.5. その他の成分」の項で例示した物質を含有してもよい。さらにこれらの物質の含有量も上述したと同様である。
【0088】
マゼンタ顔料としては、C.I.Pigment Red 5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、150、168、184、202、C.I.Pigment Violet 19等が挙げられ、好ましくはC.I.Pigment Red122、150、202、及び209、C.I.Pigment Violet 19からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0089】
顔料は、あらかじめ分散剤によって分散されたものを用いてもよい。分散剤としては、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体等の(メタ)アクリル系樹脂及びその塩;スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂及びその塩;イソ
シアネート基とヒドロキシル基とが反応したウレタン結合を含む高分子化合物(樹脂)を例示できる。これらは直鎖状及び/又は分岐状であってもよく、架橋構造の有無を問わないウレタン系樹脂及びその塩;ポリビニルアルコール類;ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体及びその塩;酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体及びその塩;並びに;酢酸ビニル-クロトン酸共重合体及びその塩等の水溶性樹脂を挙げることができる。
【0090】
スチレン-アクリル系樹脂の分散剤の市販品としては、例えば、X-200、X-1、X-205、X-220、X-228(星光PMC社製)、ノプコスパース(登録商標)6100、6110(サンノプコ株式会社製)、ジョンクリル67、586、611、678、680、682、819(BASF社製)、DISPERBYK-190(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、N-EA137、N-EA157、N-EA167、N-EA177、N-EA197D、N-EA207D、E-EN10(第一工業製薬製)等が挙げられる。
【0091】
アクリル系樹脂分散剤の市販品としては、BYK-187、BYK-190、BYK-191、BYK-194N、BYK-199(ビックケミー株式会社製)、アロンA-210、A6114、AS-1100、AS-1800、A-30SL、A-7250、CL-2東亜合成株式会社製)等が挙げられる。
【0092】
ウレタン系樹脂分散剤の市販品としては、BYK-182、BYK-183、BYK-184、BYK-185(ビックケミー株式会社製)、TEGO Disperse710(Evonic Tego Chemi社製)、Borchi(登録商標)Gen1350(OMG Borschers社製)等が挙げられる。
【0093】
分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。分散剤の合計の含有量は、顔料50質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上25質量部以下、さらにより好ましくは1質量部以上20質量部以下、よりさらに好ましくは1.5質量部以上15質量部以下である。分散剤の含有量が顔料50質量部に対して0.1質量部以上であることにより、顔料の分散安定性をさらに高めることができる。また、分散剤の含有量が顔料50質量部に対して30質量部以下であれば、得られる分散体の粘度をより小さく抑えることができる。
【0094】
また、顔料は、オゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して自己分散顔料として分散して用いてもよい。
【0095】
2.3. シアンインク組成物
シアンインク組成物は、シアン顔料を含有する。また、シアンインク組成物は、その他の成分を含有してもよく、例えば、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、水、を含有してもよいし、上述の「1.5. その他の成分」の項で例示した物質を含有してもよい。さらにこれらの物質の含有量も上述したと同様である。
【0096】
シアン顔料としては、C.I.Pigment Blue 1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60等;C.I.Vat Blue 4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.Pigment Blue 15:3、15:4、及び60からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0097】
顔料分散剤を用いること、自己分散型顔料とすること等については、上述のマゼンタインク組成物と同様である。
【0098】
2.4. その他のインク組成物
本実施形態のインクセットは、上述のインクジェットインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物を複数種含んでもよい。さらに、本実施形態のインクセットは、上述のインクジェットインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物以外のインク組成物を含んでもよい。そのようなインク組成物の例としては、ブラック、ブルー、レッド、オレンジ、白色、蛍光色、光輝色等のインク組成物を含んでもよい。これらのうち、ブラックインク組成物について以下に説明する。
【0099】
本実施形態のインクセットは、ブラックインク組成物を含んでもよい。ブラックインク組成物は、ブラック顔料を含有する。また、ブラックインク組成物は、その他の成分を含有してもよく、例えば、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、水、を含有してもよいし、上述の「1.5. その他の成分」の項で例示した物質を含有してもよい。さらにこれらの物質の含有量も上述したと同様である。
【0100】
さらに、ブラックインク組成物に含まれるブラック顔料についても。水不溶性ポリマーによって被覆されていてもよい。
【0101】
ブラック顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.Pigment ブラック7等)類、酸化鉄等を用いることができる。
【0102】
カーボンブラックとしては、三菱化学株式会社製のNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等が挙げられる。また、カーボンブラックとしてはデグサ社製のカラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等を例示できる。また、カーボンブラックとしてはコロンビアカーボン社製のコンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等を例示できる。また、カーボンブラックとしてはキャボット社製のリガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等を例示できる。さらに、カーボンブラックとしてはオリヱント化学工業株式会社製のBONJET
BLACK CW-1、CW-1S、CW-2、CW-3、M-800等を例示できる。
【0103】
顔料分散剤を用いること、自己分散型顔料とすること等については、上述のマゼンタインク組成物と同様である。ここで、ブラック顔料については、自己分散顔料としてこれを含有するブラックインク組成物とすることにより、顔料の固形分濃度を高めることができ、黒の発色性を高めることができる。
【0104】
ブラックインク組成物は、ガラス転移温度20℃以下の(メタ)アクリル樹脂を含有してもよい。ガラス転移温度20℃以下の(メタ)アクリル樹脂の例としては、上述の樹脂粒子のうちガラス転移温度20℃以下のものを挙げることができる。このようにすれば、(メタ)アクリル樹脂の柔軟性が良好で、記録媒体に付着した際に膜化がより容易であるので、定着性のより良好な画像を形成することができる。なお、樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSCを用いて定法により測定できる。
【0105】
2.5. インクセットに含まれるインク組成物の態様
本実施形態のインクセットは、上述したように、インクジェットインク組成物、マゼンタインク組成物、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、並びに、ブラック、ブルー、レッド、オレンジ、白色、蛍光色、光輝色等のインク組成物を任意にそれぞれ複数含
み得る。これらのインク組成物のうち、インクジェットインク組成物だけでなく、マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、並びに、ブラック、ブルー、レッド、オレンジ、白色、蛍光色、光輝色等のインク組成物も1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンを含有することが好ましい。即ち、インクジェットインク組成物と、インクジェットインク組成物以外のインク組成物の1種以上が、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンを含有することがより好ましい。
【0106】
このようなインクセットとすることで、インクジェットインク組成物以外のインク組成物が、フラッシング等により排出された廃液中で、異物の発生をさらに抑制することができる。
【0107】
2.6. 作用効果
このインクセットによれば、少なくともインクジェットインク組成物において長期保存する場合等の異物の発生しやすい状況であっても、異物の発生を抑制することができる。
【0108】
3. 実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0109】
3.1. 顔料分散体の製造
以下の分散体を製造した。
・水分散体I:水不溶性ポリマーで被覆されたC.I.Pigment Yellow
74の水分散体(下記製造例1参照。固形分濃度20質量%)
・水分散体II:水不溶性ポリマーで被覆されたC.I.Pigment Yellow 1の水分散体(下記製造例2参照。固形分濃度20質量%)
・水分散体III:水不溶性ポリマーで被覆されていないC.I.Pigment Yellow 74の水分散体(固形分濃度20質量%)
【0110】
〔水不溶性ポリマーの製造例〕
反応容器内に、メチルエチルケトン20部及び重合連鎖移動剤(2-メルカプトエタノール)0.03部、及び、以下の各モノマーの合計200部のうち10質量%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。なお、各モノマーの数値の単位は質量%であり、合計は100.0質量%である。
【0111】
メタクリル酸 11
スチレンマクロマー 10
スチレン 39
ベンジルメタクリレート 10
PP-800 30
【0112】
ここで、各材料は以下の通りである。
スチレンマクロマー(東亜合成株式会社製、商品名:AS-6(S)、数平均分子量:6000、重合性官能基:メタクリロイルオキシ基)
PP-800(ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキシド平均付加モル数=13、末端:ヒドロキシ基):日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマーPP-800)
【0113】
一方、滴下ロートに、各モノマーの残りの90質量%を仕込み、上記重合連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン60部及びラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い
、混合溶液を得た。
【0114】
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、上記ラジカル重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。得られたポリマーの重量平均分子量は、150000であった。
【0115】
〔水分散体の製造例1〕
上記製造例で得られた水不溶性ポリマーの溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー30部をメチルエチルケトン70部に溶かし、その中に中和剤(5N水酸化ナトリウム水溶液)を中和度60%となる量及びイオン交換水を230部加えて塩基性基を中和し、更にイエロー顔料としてアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料(C.I.Pigment Yellow 74、山陽色素株式会社製、商品名:FY7413)65部を加え、ディスパー翼で20℃の温度の下、1時間混合した。得られた混合物にマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)を用い、200MPaの圧力で10パスの分散処理を施した。
【0116】
得られた分散液に、イオン交換水250部を加え、攪拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士写真フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度が20質量%の水不溶性ポリマーで被覆されたC.I.Pigment Yellow 74の水分散体Iを得た。
【0117】
〔水分散体の製造例2〕
C.I.Pigment Yellow 1を用いた以外は、製造例1と同様にして、固形分濃度が20質量%の水不溶性ポリマーで被覆されたC.I.Pigment Yellow 1の水分散体IIを得た。
【0118】
〔水分散体の製造例3〕
回転子-固定子型高剪断混合機(シルバーソン社製、製品名「L4RT-A」)に4Lステンレス鋼製ビーカーを取り付け、氷浴中に浸した。このビーカーに、C.I.Pigment Yellow 74 約75gと水 1000gを入れ、7200rpmにて15分間均質化した。これに2.07g(0.01mol)のo-アセトアニシジドを溶解したイソプロパノール溶液20mLを添加し、更に15分間撹拌した。
【0119】
別の容器中で、スルファニル酸 4.35g(0.025mol)、1N-HCl 30mL、および亜硝酸ナトリウム 1.73g(0.025mol)を5~10℃にて混合して、ジアゾニウム塩を形成させた。次いで、これをC.I.Pigment Yellow 74とo-アセトアニシジドとの混合物に撹拌しながら添加し、温度を約10℃に維持した。この混合物を、5M水酸化ナトリウム溶液の滴加によりpH5~6に調整し、ジアゾニウム塩の存在有無により反応の進行を確認しながら、更に2時間攪拌した。
【0120】
混合物をテルソニック流通型音波処理装置に移し、そして2時間超音波処理し、得られた顔料分散液を、50nmダイアフィルトレーション膜カラムを用いて精製後、20%の固形分含有率に濃縮し、水不溶性ポリマーで被覆されていないC.I.Pigment Yellow 74の水分散体IIIを得た。
【0121】
3.2. インクジェットインク組成物の調製
各材料を下記の表2に示す組成で混合し、十分に撹拌し、各インク組成物を得た。具体的には、各材料を均一に混合し、フィルターで不溶解物を除去することにより、各インク組成物を調製した。なお、表中、数値の単位は質量%であり、合計は100.0質量%である。
【0122】
【表2】
【0123】
表2中の略号は以下の通りである。
・DBS:セバシン酸ジブチル(可塑剤)
・HEP:1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン
・TEGmBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
・Gly:グリセリン(保湿剤)
・TEG:トリエチレングリコール(保湿剤)
・E1010:オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製)
※なお、色材の含有量は固形分量である。
【0124】
3.3. 実施例1~7、比較例1~3
3.3.1. 普通紙OD(光学濃度)の評価
表2に示すインクジェットインク組成物をインクジェットプリンターPX-B700(セイコーエプソン社製)に充填し、記録メディアに「普通紙きれい」のモードで100%Dutyのパッチパターンを印刷して、記録物を得た。なお、記録メディアとしては、普通紙の一種であるXEROX P紙(富士ゼロックス社製)を使用した。得られた記録物に対して、グレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いてパッチ部分のOD値を測定し、以下の評価基準で光学濃度値(OD値)を評価した。結果を表2に示す。
(評価基準)
A:OD値が1.1以上であった。
B:OD値が1.1未満であった。
【0125】
3.3.2. PGPP光沢(光沢度)
表2に示すインク組成物をインクジェットプリンターPX-B700(セイコーエプソン社製)に充填し、記録メディアに「光沢紙標準」のモードで100%Dutyのパッチパターンを印刷して、記録物を得た。記録メディアとしては、光沢紙の一種であるEPSON写真用紙<光沢>(セイコーエプソン社製)を使用した。得られた記録物に対して、光沢度計MULTI Gloss 268(コニカミノルタ社製)を用いて、60°の光沢度を測定し、以下の評価基準で光沢度を評価した。結果を表2に示す。
(評価基準)
A:光沢度が30以上であった。
B:光沢度が20以上30未満であった。
C:光沢度が20未満であった。
【0126】
3.3.3. 通液試験
表2に示すインク組成物をインクジェットプリンターPX-B700(セイコーエプソン社製)用のカートリッジICY90Lに100ml充填し、6か月間、12か月間、常温(25℃)で放置した。その後、インク組成物をカートリッジより取り出し、MF-ミリポアメンブレンフィルター(SS 3ミクロン、口径49mm)を用いて、全量の濾過を実施し、濾過後の濾紙を光学顕微鏡(300倍)にて観察した。
(評価基準)
A:6か月放置、12か月放置ともに、異物が観察されなかった。
B:6か月放置では異物が観察されず、かつ12か月放置でもフィルター面積の10分の1未満を覆っているだけであった。
C:6か月放置では異物が観察されなかったが、12か月放置ではフィルター面積の10分の1以上を覆っていた。
D:異物が観察され、フィルター面積の10分の1未満を覆っていた。
E:異物が観察され、フィルター面積の10分の1以上を覆っていた。
【0127】
3.4. マゼンタインク組成物、シアンインク組成物、ブラックインク組成物の製造
各材料を下記の表3に示す組成で混合し、十分に撹拌し、各インク組成物を得た。具体的には、各材料を均一に混合し、フィルターで不溶解物を除去することにより、各インク組成物を調製した。なお、表中、数値の単位は質量%であり、合計は100.0質量%である。
【0128】
【表3】
【0129】
表3中、Y1、Y3は、イエローインク組成物(インクジェットインク組成物)であり、M1、M2、M3は、マゼンタインク組成物であり、C1、C3は、シアンインク組成物である。また、水分散体Iは、上記〔水分散体の製造例1〕で得られた水分散体Iである。
【0130】
水不溶性ポリマーで被覆されたPV19は、C.I.Pigment Violet 19を用いた以外は、製造例1と同様にして得た、固形分濃度が20質量%の水不溶性ポリマーで被覆されたC.I.Pigment Violet 19の水分散体である。
【0131】
水不溶性ポリマーで被覆されたPR122は、C.I.Pigment Red 12
2を用いた以外は、製造例1と同様にして得た、固形分濃度が20質量%の水不溶性ポリマーで被覆されたC.I.Pigment Red 122の水分散体である。
【0132】
水不溶性ポリマーで被覆されたPB15:4は、C.I.Pigment Blue 15:4を用いた以外は、製造例1と同様にして得た、固形分濃度が20質量%の水不溶性ポリマーで被覆されたC.I.Pigment Blue 15:4の水分散体である。
【0133】
(自己分散型CB分散液の調製)
市販のカーボンブラックであるS170(商品名、デグサ社製)20gを水500gに混合して、家庭用ミキサーで5分間分散した。得られた液を攪拌装置のついた3リットルのガラス容器に入れ、攪拌機で攪拌しながら、オゾン濃度8重量%のオゾン含有ガスを500cc/分で導入した。この際、オゾン発生器はペルメレックス電極社の電解発生型のオゾナイザーを用いてオゾンを発生させた。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA-100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで0.1Nの水酸化カリウム溶液を添加しpH9に調整しながら濃縮を行い、分散液を調製した。
【0134】
(St-Ac樹脂の調整)
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、撹拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20gにスチレン300g、ブチルアクリレート640g、及びメタクリル酸30gを撹拌化に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分30重量%、pH8に調整した。St-Ac樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSCを用いて定法により測定したところ15℃であった。
【0135】
その他の略号は、表2と同様である。
【0136】
3.5. インクセットの評価
3.5.1. PGPP光沢(YMC画像)
表4に示すインク組成物のうち、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)のインク組成物をインクジェットプリンターPX-B700(セイコーエプソン社製)に充填し、記録メディアに「光沢紙標準」のモードで100%Dutyのパッチパターンを印刷して、記録物を得た。記録メディアとしては、光沢紙の一種であるEPSON写真用紙<光沢>(セイコーエプソン社製)を使用した。得られた記録物に対して、光沢度計MULTI Gloss 268(コニカミノルタ社製)を用いて、60°の光沢度を測定し、以下の評価基準で光沢度を評価した。結果を表4に示す。
(評価基準)
A:光沢度が30以上であった。
B:光沢度が20以上30未満であった。
C:光沢度が20未満であった。
【0137】
【表4】
【0138】
3.5.2. 通液試験
表3に示したインク組成物につき、表4に示すY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の4色を重量等比(1:1:1:1)で混合した混合液を、インクジェットプリンターPX-B700(セイコーエプソン社製)用のカートリッジICY90Lに100ml充填し、6か月間、12か月間、常温(25℃)で放置した。
【0139】
その後、インク組成物をカートリッジより取り出し、MF-ミリポアメンブレンフィルター(SS 3ミクロン、口径49mm)を用いて、全量の濾過を実施し、濾過後の濾紙を光学顕微鏡(300倍)にて観察した。
(評価基準)
A:6か月放置、12か月放置ともに、異物が観察されなかった。
B:6か月放置では異物が観察されず、かつ12か月放置でもフィルター面積の10分の1未満を覆っているだけであった。
C:6か月放置では異物が観察されなかったが、12か月放置ではフィルター面積の10分の1以上を覆っていた。
D:6か月放置で異物が観察され、フィルター面積の10分の1未満を覆っていた。
E:6か月放置で異物が観察され、フィルター面積の10分の1以上を覆っていた。
【0140】
3.6.評価結果
水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料と、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、水と、を含有する各実施例のインクジェットインク組成物は、通液試験において良好な結果が得られ、異物の発生が抑制されていることが判明した。また、水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料と、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、水と、を含有するインクジェットインク組成物と、水不溶性ポリマーで被覆されたマゼンタ顔料を含有するマゼンタインク組成物と、水不溶性ポリマーで被覆されたシアン顔料を含有するシアンインク組成物と、を含む各実施例のインクセットは、通液試験において良好な結果が得られ、異物の発生が抑制されていることが判明した。
【0141】
また、通液試験の結果から、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料の異物を抑制するためにはHEPを含有することが有効で、各インク組成物の合計のHEP量が多いほどより良好に抑制できることが分かった。このことから、インクセットにおいては、マゼンタ、シアン、ブラックにもHEPを含有していることがより好ましいことが判明した。
【0142】
上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0143】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0144】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0145】
インクジェットインク組成物は、
水不溶性ポリマーで被覆されたアセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料と、
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、
水と、
を含有する。
【0146】
このインクジェットインク組成物によれば、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料が水不溶性ポリマーで被覆されているので、異物の原因物質の溶出が抑制され、その上、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンを含有することにより、原因物質が異物化することを抑制することができる。これにより、インクジェットインク組成物は、長期保存する場合等の異物の発生しやすい状況であっても、異物の発生を抑制することができる。また、このインクジェットインク組成物によれば、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料を用いるので、発色性のよい画像を形成することができる。さらに、このインクジェットインク組成物によれば、アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料が水不溶性ポリマーで被覆されているので、光沢の良好な画像を形成することができる。
【0147】
上記インクジェットインク組成物において、
前記アセト酢酸アニリド系モノアゾ顔料が、C.I.Pigment Yellow 1又はC.I.Pigment Yellow 74であってもよい。
【0148】
このインクジェットインク組成物によれば、異物を生じやすい色材を用いても、異物の発生を抑制することができる。また、このインクジェットインク組成物によれば、より発色性の良好な画像を形成することができる。
【0149】
上記インクジェットインク組成物において、
保湿剤をさらに含有してもよい。
【0150】
このインクジェットインク組成物によれば、水分の揮発を抑制することができ、例えば保存安定性をさらに良好にできる。
【0151】
上記インクジェットインク組成物において、
可塑剤をさらに含有してもよい。
【0152】
このインクジェットインク組成物によれば、水不溶性ポリマーを可塑化できるので、記録媒体に付着した水不溶性ポリマーの造膜性を高めることができる。これにより、さらに光沢の良好な画像を形成することができる。
【0153】
インクセットは、
上記のいずれかのインクジェットインク組成物と、
水不溶性ポリマーで被覆されたマゼンタ顔料を含有するマゼンタインク組成物と、
水不溶性ポリマーで被覆されたシアン顔料を含有するシアンインク組成物と、
を含む。
【0154】
このインクセットによれば、少なくともインクジェットインク組成物において長期保存する場合等の異物の発生しやすい状況であっても、異物の発生を抑制することができる。
【0155】
上記インクセットにおいて、
自己分散顔料を含有するブラックインク組成物をさらに含んでもよい。
【0156】
このインクセットによれば、顔料が自己分散性であるので、顔料の固形分濃度を高めることができ、黒の発色性を高めることができる。
【0157】
上記インクセットにおいて、
前記ブラックインク組成物が、ガラス転移温度20℃以下の(メタ)アクリル樹脂を含有してもよい。
【0158】
このインクセットによれば、(メタ)アクリル樹脂の柔軟性が良好で、記録媒体に付着した際に膜化がより容易であるので、定着性のより良好な画像を形成することができる。
【0159】
上記インクセットにおいて、
前記インクセットに含まれる前記インクジェットインク組成物と、前記インクジェットインク組成物以外のインク組成物の1種以上とが、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンを含有してもよい。
【0160】
このインクセットによれば、インクジェットインク組成物以外のインク組成物に1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンが含有されるので、フラッシング等により排出された廃液中で、異物の発生をさらに抑制することができる。