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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179978
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】フッ化物イオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/05 20100101AFI20221129BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221129BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20221129BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20221129BHJP
【FI】
H01M10/05
H01M10/0568
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/38 Z
H01M10/0569
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086828
(22)【出願日】2021-05-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】狩野 巌大郎
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 三津夫
(72)【発明者】
【氏名】安部 武志
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK11
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H050AA07
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA17
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB11
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】フッ化物イオン電池において、充放電性能を向上させうる手段を提供する。
【解決手段】正極活物質を含有する正極活物質層と、前記正極活物質層の集電を行う正極集電体とを有する正極、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記負極活物質層の集電を行う負極集電体とを有する負極、および前記正極および前記負極の間に配置された、フッ化物イオン伝導性を有する電解質を含有する電解質層を有する、フッ化物イオン電池が提供される。ここで、当該フッ化物イオン電池においては、前記正極活物質層および前記負極活物質層の少なくとも一部に、ボロキシン環含有ポリマーを含有する点に特徴を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極活物質層と、前記正極活物質層の集電を行う正極集電体と、を有する正極、
負極活物質を含有する負極活物質層と、前記負極活物質層の集電を行う負極集電体と、を有する負極、および
前記正極および前記負極の間に配置された、フッ化物イオン伝導性を有する電解質を含有する電解質層、
を有し、
前記正極活物質層および前記負極活物質層の少なくとも一部に、ボロキシン環含有ポリマーを含有する、フッ化物イオン電池。
【請求項2】
前記正極活物質層および前記負極活物質層の少なくとも一部の表面に、ホウ素を含有する被膜を有する、請求項1に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項3】
前記正極活物質が、CuおよびBiの少なくとも一方の元素を含む、請求項1または2に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項4】
前記正極活物質が、Cu元素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項5】
前記ボロキシン環含有ポリマーの含有量は、前記ボロキシン環含有ポリマーおよび前記電解質の合計質量に対して0質量%を超えて10質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のフッ化物イオン電池。
【請求項6】
前記電解質が、α位水素を有するエステル系もしくはラクトン系の単独または混合有機溶媒と、アルカリ金属カチオンおよびフッ化物イオンを有するアルカリ金属フッ化物と、を含有する有機電解液である、請求項1~5のいずれか1項に記載のフッ化物イオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物イオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のLiイオン電池のエネルギー密度を大幅に向上させる革新型の電池として、フッ化物イオン(F)と金属との反応による多価の金属フッ化物の生成とその逆反応(金属フッ化物の脱フッ化反応)を利用したアニオンベースのフッ化物イオン電池がある。この電池で両極の間を移動するのはハロゲン化物イオンの中で最も軽いFイオン(M=19)であり、さらに1金属原子あたり場合により2~3個もしくはそれ以上の数のFイオン(およびそれと同数の電子)が電極反応に関与する。これらのことが、上記の高いエネルギー密度をもたらす最大の要因である。
【0003】
上記フッ化物イオン電池はLIBの必須部材であるところのホスト格子を必要としない。Fイオンが電極反応と電解質中の電荷移動の両者で主役を演じるこの種の電池はFIB(Fluoride Ion Battery)あるいはFイオンの双方向移動の役割を強調したFSB(Fluoride Shuttle Battery;フッ化物イオンシャトル二次電池)の略称で知られている。
【0004】
フッ化物イオン電池の基本要素の一つとなる金属フッ化物の還元(脱フッ化)反応については固体電解質が注目された1970年代の研究ですでに少なくない数の報告がなされている。しかし、二次電池として本質的に欠かせない充放電の有意な可逆性が全固体電池の枠内で不完全ながらも確かめられたのは、比較的最近になってからのことである。
【0005】
また、一般的には固体電解質のイオン導電性と固体/固体界面での電気化学的反応性などに関する制約により、固体FIB電池の室温動作の報告はごく最近発表された一例に止まっている。
【0006】
フッ化物イオンの輸送に非水系電解液を用いる湿式電池では原理的に上記の制約は除かれる。その目的に利用できる電解液に関する先行特許や学術論文も例に事欠かない。一例としては、フッ化物塩と、ホウ素化合物と、非水溶媒とを含む電解液を用いる手法(特許文献1)がある。当該手法において、ホウ素化合物は、フッ化物塩の解離を促進する機能や、フッ化物イオンに配位して安定化させる機能を有し、中でもボロキシン系化合物を用いることにより、電解液中のフッ化物イオンの移動がより円滑になると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-10865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上記特許文献1に記載のフッ化物イオン電池は、金属のフッ化反応および金属フッ化物の脱フッ化反応を利用している。しかしながら、本発明者らの検討によれば、このようなフッ化物イオン電池においては、十分な充放電性能が得られないことが判明した。
【0009】
そこで本発明は、フッ化物イオン電池において、充放電性能を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた。その結果、フッ化物イオン電池の活物質層にボロキシン環含有ポリマーを存在させた状態で充放電反応を行うことにより、充放電性能が優位に改善しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一形態によれば、正極活物質を含有する正極活物質層と、前記正極活物質層の集電を行う正極集電体とを有する正極、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記負極活物質層の集電を行う負極集電体とを有する負極、および前記正極および前記負極の間に配置された、フッ化物イオン伝導性を有する電解質を含有する電解質層を有する、フッ化物イオン電池が提供される。ここで、当該フッ化物イオン電池は、前記正極活物質層および前記負極活物質層の少なくとも一部に、ボロキシン環含有ポリマーを含有する点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正極活物質層および負極活物質層の少なくとも一部に、ボロキシン環含有ポリマーが含有されていることにより、正極活物質からの金属イオンの溶出、電極の変形、および/または負極での電解液の還元分解が抑制される。その結果、フッ化物イオン電池において、充放電性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一形態に係るフッ化物イオン電池の原理を示す概念図である。
図2図2の(A)~(C)は、比較例1-1、比較例1-2および実施例1-1のそれぞれの充放電曲線を表すグラフである。
図3図3は、比較例1-1、比較例1-2および実施例1-1について、充放電試験前後の電解液の着色を確認した際の写真である。
図4図4の(A)~(C)は、比較例2-1、比較例2-2および実施例2-1のそれぞれの充放電曲線を表すグラフである。
図5図5は、比較例2-1、比較例2-2および実施例2-1について、充放電試験前後の電極の変形を確認した際の写真である。
図6図6の(A)および(B)は、比較例3-1および実施例3-1のそれぞれの充放電曲線を表すグラフである。
図7図7の(A)~(D)は、比較例1-1、実施例1-2、実施例1-1および実施例1-3のそれぞれの充放電曲線を表すグラフである。
図8図8は、実施例1-1、実施例2-1および実施例3-1のそれぞれの充放電試験前後の電極についてのXPSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一形態によれば、正極活物質を含有する正極活物質層と、前記正極活物質層の集電を行う正極集電体とを有する正極、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記負極活物質層の集電を行う負極集電体とを有する負極、および前記正極および前記負極の間に配置された、フッ化物イオン伝導性を有する電解質を含有する電解質層を有する、フッ化物イオン電池が提供される。ここで、当該フッ化物イオン電池においては、前記正極活物質層および前記負極活物質層の少なくとも一部に、ボロキシン環含有ポリマーを含有する点に特徴を有する。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るフッ化物イオン電池の実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一形態に係るフッ化物イオン電池の原理を示す概念図である。図1に示すように、フッ化物イオン電池1は、正極10と、負極20と、正極10および負極20の間に配置された電解質層30とを有している。図1に示す実施形態において、正極10は、アルミニウム(Al)箔11からなる正極集電体の一方の表面に正極活物質層12が配置された構成を有している。正極活物質層12は、正極活物質13と、バインダ(図示せず)と、導電助剤(図示せず)とを含む合材層である。これに対し、負極20は、負極活物質21が、導電性の多孔質構造体(導電性多孔体)である発泡アルミニウム22の空孔内に担持されてなる構成を有している。ここで、負極20側の発泡アルミニウム22は負極集電体として機能する。そして、本実施形態の電解質層30には、フッ化物イオン(F)を含む電解液(液体電解質)が用いられている。また、本実施形態のフッ化物イオン電池1においては、ボロキシン環含有ポリマー(図示せず)が上記電解液(液体電解質)に溶解された状態で、電解質層30に注入されている。そして、ボロキシン環含有ポリマーは電解液(液体電解質)とともに正極活物質層および負極活物質層の空隙に侵入することで、正極活物質層および負極活物質層には、ボロキシン環含有ポリマーが存在する状態となっている。なお、上述したアルミニウム(Al)箔11からなる正極集電体と、発泡アルミニウム22からなる負極集電体は、外部負荷40に接続されている。
【0017】
このような構成を有することにより、フッ化物イオン電池1の放電時には外部負荷40に対して電圧が印加されて電流が流れることとなる。この際、電解質層30に含まれるフッ化物イオン(F)は電解質層30を正極10側から負極20側へと移動することにより電池反応を媒介する。一方、フッ化物イオン電池1の充電時には外部負荷40に代えて外部電源が正極10および負極20に接続され、電解質層30を介して負極20から正極10へとフッ化物イオン(F)を強制的に移動させることにより充電が達成される。
【0018】
なお、フッ化物イオン電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。
【0019】
以下、本形態に係るフッ化物イオン電池の主要な構成部材について説明する。
【0020】
[正極集電体]
正極集電体は、正極活物質層の集電を行う部材である。したがって、正極集電体は導電性の材料から構成される必要がある。本形態に係る正極において、正極集電体の構成材料は特に制限されないが、図1に示すようなアルミニウム(Al)箔や、従来公知の二次電池において用いられているその他の金属集電体、導電性樹脂層を有する樹脂集電体などが用いられうる。
【0021】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質を含む。本形態に係る正極に用いられうる正極活物質としては、純金属、合金、金属酸化物、金属フッ化物などが挙げられる。正極活物質に含まれる元素としては、例えば、Ag、Pt、Au、Cr、Mo、W、V、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、S、Sb、Bi、Sn、PbおよびCのうち1以上が挙げられる。また、このうち、正極活物質は、Fe、Co、Ni、Cu、Pb、BiおよびZnのうちいずれかの元素を含むことが好ましい。正極活物質は、より好ましくはCuおよびBiの少なくとも一方の元素を含み、さらに好ましくはCu元素を含む。具体的には、正極活物質は、Cu金属、Cu合金、Cuフッ化物、Bi金属、Bi合金およびBiフッ化物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、Cuフッ化物およびBiフッ化物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、CuFおよびBiFの一方または両方を含むことがさらに好ましく、CuFを含むことが特に好ましい。これらの正極活物質は、後述の実施例および比較例にて示すように、正極活物質から溶出した金属イオンによる充放電性能の低下という問題が大きいため、本発明により奏される効果がより顕著なものとなる。
【0022】
本形態に係る正極活物質層は、バインダをさらに含んでもよい。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、およびポリイミド(PI)などが挙げられる。
【0023】
また、本形態に係る正極活物質層は、導電助剤をさらに含んでもよい。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブなどの炭素材料や、金属粒子等が挙げられる。
【0024】
[負極集電体]
負極集電体は、負極活物質層の集電を行う部材である。したがって、負極集電体は導電性の材料から構成される必要がある。本形態に係る負極において、負極集電体の構成材料は、特に制限されないが、アルミニウム(Al)もしくはマグネシウム(Mg)またはこれらの合金であることが好ましい。このような構成とすることで、電解液の還元分解による副反応の進行を抑制することができる。
【0025】
負極集電体の形状については、負極活物質(または負極活物質とバインダ等の添加剤とを含む合材)を保持しうる形状であれば特に制限はない。負極集電体の形状の一例としては、箔状のほか、導電性の多孔質構造体(導電性多孔体)の形状も例示される。導電性多孔体は、多孔質構造(多数の空隙)を内部に有し、導電性を有する部材であり、ここではアルミニウム(Al)もしくはマグネシウム(Mg)またはこれらの合金からなる導電性多孔体が例示される。好ましくは、負極集電体を構成する導電性多孔体は発泡金属から構成されるものであり、より好ましくは発泡アルミニウムから構成されるものである。導電性多孔体を用いることにより、良好な導電パスを形成することが可能となる。そのため、導電性多孔体を負極集電体として使用する場合には、負極活物質層には導電助剤が不要である。
【0026】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。本形態に係る負極に用いられうる負極活物質としては、純金属、合金、金属酸化物、金属フッ化物などが挙げられる。中でも、負極活物質は金属フッ化物を含むことが好ましい。金属フッ化物の具体的な種類について特に制限はないが、一例として、金属フッ化物は、Al1-x(Ti)(ここで、0<x≦0.5である)、Ti1-y(Al)(ここで、0≦y≦0.5である)およびCeFからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。ここで、xは0よりも大きく0.5以下の実数であれば特に制限はないが、好ましくは0.01以上0.1以下であり、より好ましくは0.02以上0.5以下である。また、yは0以上で0.5以下の実数であれば特に制限はないが、好ましくは0.01以上0.1以下であり、より好ましくは0.02以上0.08以下である。なかでも、特に高容量のフッ化物イオン電池を構成することができるという観点から、金属フッ化物はAl1-x(Ti)(ここで、0<x≦0.5である)を含むことがより好ましい。なお、負極活物質としてのAl1-x(Ti)やTi1-y(Al)(y>0)については、アルゴンや窒素等の不活性雰囲気下で、三フッ化アルミニウム(AlF)の粉末と三フッ化チタン(TiF)の粉末とを所望の質量比で秤量し、ボールミル等の混合装置を用いた混合処理を施すことにより製造することが可能である。
【0027】
本形態に係る負極を構成する負極活物質層は、正極活物質層の欄で説明したバインダや導電助剤をさらに含んでもよい。
【0028】
なお、上述したように、導電性多孔体を負極集電体として使用する場合には、負極活物質層には導電助剤が不要であることから、このような場合には、負極活物質層は導電助剤を実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、「導電助剤を実質的に含まない」とは、導電助剤の含有量が負極活物質層の全固形分に対して3質量%以下であることを指す。当該含有量は、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0質量%である(すなわち、導電助剤を含まない)。
【0029】
本形態に係るフッ化物イオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の少なくとも一部に、ボロキシン環含有ポリマーを含有することを特徴とする。すなわち、正極活物質および負極活物質の一方、または、正極活物質層および負極活物質層の両方に、ボロキシン環含有ポリマーが含有される。
【0030】
本明細書において、ボロキシン環含有ポリマーとは、ボロキシン環(ホウ素原子と酸素原子が交互に並んだ六員環構造)を有する繰り返し単位を2以上含む重合体を指す。したがって、後述の比較例で用いられている2,4,6-トリメトキシボロキシン(TMBx)などのボロキシン環を1つ有する化合物(単環ボロキシン化合物)は、本明細書におけるボロキシン環含有ポリマーには該当しない。
【0031】
ボロキシン環含有ポリマーとしては、例えば、下記式で示されるトリアルコキシボロキシンポリマーが好ましく用いられる。
【0032】
【化1】
【0033】
上記式中、RおよびRは、それぞれ独立して、アルキレン基を表し、Rは、それぞれ独立して、アルキル基を表し、mおよびnは、オキシアルキレン基の繰り返し数を表し、それぞれ独立して、1~10の整数であり、XおよびYは、ボロキシン環含有ユニットの繰り返し数を表し、それぞれ独立して、1以上の整数である。
【0034】
上記アルキレン基としては、炭素数1~10のアルキレン基であることが好ましく、炭素数2~8のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数2~6のアルキレン基であることがさらに好ましく、炭素数2~4のアルキレン基であることが特に好ましい。このようなアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
【0035】
上記アルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。このようなアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、n-へキシル基等が挙げられる。
【0036】
上記mおよびnは、オキシアルキレン基の繰り返し数を表し、それぞれ独立して、好ましくは2~8の整数であり、より好ましくは4~8の整数である。
【0037】
なお、上記式で示されるトリアルコキシボロキシンポリマーは、酸化ホウ素(B)と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(HO(RO))と、ポリアルキレングリコール(HO(RO)H)とを反応させることにより合成することができる。トリアルコキシボロキシンポリマーのより詳しい合成方法については、Chemistry Letters、The Chemical Society of Japan 1997年、第915頁;特開平11-54151号公報;特開2005-093376号公報等に記載されている。
【0038】
本形態の正極活物質層にボロキシン環含有ポリマーを含有することにより、可逆容量の増加や、サイクル特性の向上といった、充放電性能の向上効果が奏される。このような効果が奏されるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。
【0039】
フッ化物イオン電池の正極側においては、溶解平衡型脱フッ化反応と、アノード溶解副反応とが生じると考えられている。いずれの反応においても、従来技術によると、正極活物質から溶解した金属イオンが電解液中に多量に拡散することによる可逆容量の低下や、デンドライト成長による電極変形が生じうる。一方、本発明によると、正極活物質層に含まれるボロキシン環含有ポリマーが、充放電により正極表面に被膜を形成すると考えられる。フッ化物イオンの電子対は、当該被膜に含まれるホウ素(B)の空軌道に配位できるため、当該被膜はフッ化物イオン伝導性を有する。また、当該被膜の存在により、金属イオンの電解液中への拡散が抑制される。その結果、正極におけるフッ化脱フッ化反応を阻害することなく、金属イオンが電解液中に多量に拡散することによる可逆容量の低下や、デンドライト成長による電極変形を抑制することができるため、充放電特性を向上させることが可能となる。
【0040】
また、本形態の負極活物質層にボロキシン環含有ポリマーを含有することにより、負極での電解液(液体電解質)の還元分解が抑制され、充放電性能を向上できる。このような効果が奏されるメカニズムを、本発明者らは以下のように推測している。
【0041】
従来、フッ化物イオン電池の負極側においては、負極集電体および/または負極活物質の表面で電解液(液体電解質)の還元分解副反応に起因する充放電特性の低下が問題となっていた。本発明によると、上述の正極におけるメカニズムと同様に、ボロキシン環含有ポリマーが、充放電によりフッ化物イオン伝導性の被膜を形成すると考えられる。当該被膜が、負極集電体および/または負極活物質の表面を被覆することにより、負極におけるフッ化脱フッ化反応を阻害することなく、電解液(液体電解質)の還元分解が抑制できるため、充放電特性を向上させることが可能となる。
【0042】
なお、被膜の具体的な構造等は不明であるが、後述の実施例1-1、実施例2-1および実施例3-1のXPSスペクトルにおいて、B1sのピークが観察されることから、電極表面にホウ素を含有する被膜が存在することが確認されている。
【0043】
したがって、本発明の一実施形態に係るフッ化物イオン電池は、正極活物質層および負極活物質層の少なくとも一部の表面に、ホウ素を含有する被膜を有する。
【0044】
本形態に係るフッ化物イオン電池において、ボロキシン環含有ポリマーの含有量は、特に制限されないが、前記ボロキシン環含有ポリマーおよび前記電解質の合計質量に対して好ましくは0質量%を超えて10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは2.5質量%以上7.5質量%以下であり、特に好ましくは2.5質量%以上5質量%以下である。ボロキシン環含有ポリマーの含有量が上記範囲であると、充放電性能がより一層向上しうる。
【0045】
[電解質層]
電解質層は、正極(正極活物質層)と負極(負極活物質層)との間に配置される部材であり、充放電の際にフッ化物イオン(F)が行き来しうるようにフッ化物イオンに対する伝導性を有する層である。本形態に係るフッ化物イオン電池において、電解質層に含まれる電解質は、液体電解質(電解液)および固体電解質を特に制限なく使用することができ、これらを組み合わせて使用してもよい。電解質層が液体電解質(電解液)である場合、電解質層にはセパレータが用いられてもよい。セパレータとしては、フッ化物イオン電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布やアラミド不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0046】
液体電解質(電解液)としては、フッ化物イオン電池用の電解液として従来公知のものが用いられてもよいが、特に好ましくは、α位水素を有するエステル系もしくはラクトン系(例えば、γ-ブチロラクトンやε-カプロラクトンなど)の単独もしくは混合有機溶媒と、アルカリ金属カチオンおよびフッ化物イオンを有するアルカリ金属フッ化物(例えば、フッ化セシウムなど)と、を含有する有機電解液が用いられる。当該有機電解液については、特開2021-36512号公報に記載された技術を適宜採用できる。このような電解液を電解質として用いることにより、優れた容量特性を発現させることができる。固体電解質としては、例えば、ランタノイド元素(La、Ce等)、アルカリ金属元素Li、Na、K、Rb、Cs等)およびアルカリ土類元素(Ca、Sr、Ba等)からなる群から選択される少なくとも1種を含むフッ化物が挙げられる。
【0047】
[アルカリ金属フッ化物]
電極反応に直接与るイオン伝導性フッ化物イオンは、有機フッ化物の溶解によっても電解液中に導入することができるが、共存する有機カチオンの電気化学的安定性の問題などの理由で高容量フッ化物イオン電池には適さない。その他の条件として二次電池の重量エネルギー密度への影響も考慮すると、フッ化物イオンの最も望ましい供給源は、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ルビジウム(RbF)、フッ化セシウム(CsF)等のアルカリ金属フッ化物である。
【0048】
[混合リチウム塩]
アルカリ金属フッ化物のみが1mM以上の濃度で解離溶解した該フッ化物イオン伝導性電解液は、負高電位領域でフッ化物イオン由来の溶媒が関与した副還元反応を生じやすく、亜鉛よりもさらに卑な金属のフッ化反応と競合して本来の電池動作を妨げる。この問題は、LiFSA(FSA:ビス(フルオロスルホニル)アミド)に代表される、本実施形態の電解液に共溶解可能な任意のリチウム塩を該電解液に過剰に混合することで容易に解決でき、アルミニウムやランタンなどの最も卑な金属種のフッ化反応を利用した電池を動作させることが可能になる。
【0049】
上記の混合電解液の作製において、過剰に添加するリチウム塩の濃度は、解離したアルカリ金属フッ化物の濃度の少なくとも3倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍程度に調製することが望ましい。このリチウム塩の濃度(添加量)が3倍以上であれば、フッ化物イオンとリチウムイオンが不溶性の固形物を形成しないためフッ化物イオン濃度を低下させることもなく望ましい。
【0050】
該リチウム塩のアニオン種としては、FSA以外にTFSA、BETA、BF 、PF 、ClO でも差し支えない。すなわち、過剰に添加するリチウム塩は、LiFSA、LiTFSA、LiBETA、LiBF、LiPF、LiClOのいずれか1つまたはそれらの2つ以上の混合物であることが好ましい。
【0051】
[混合バリウム塩]
リチウム塩ほどの効果は期待できないものの、Ba(FSA)に代表されるバリウム塩を該電解液に過剰に混合することでも負高電位領域での不可逆還元電流を抑制することができる。上記の混合電解液の作製において、過剰に添加するバリウム塩の濃度は、解離したアルカリ金属フッ化物の濃度の少なくとも3倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍程度に調製することが望ましい。このバリウム塩の濃度(添加量)が3倍以上であれば、フッ化物イオンとバリウムイオンが不溶性の固形物を形成しないためフッ化物イオン濃度を低下させることもなく望ましい。該バリウム塩のアニオン種としては、FSA以外にTFSA、BETA、BF でも差し支えない。すなわち、過剰に添加するバリウム塩は、Ba(FSA)、Ba(TFSA)、Ba(BETA)、Ba(BFのいずれか1つまたはそれらの2つ以上の混合物であることが好ましい。
【実施例0052】
以下に実験例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0053】
[製造例1]
(CuF電極の作製)
活物質である市販のCuF粉末(Sigma-Aldrich社製)に、導電助剤であるアセチレンブラック(AB)をCuF:AB=90:10の質量比となるように加えて、Ar雰囲気下にてボールミルで混合処理を行い、CuF/AB合材を作製した。得られた合材に、さらに導電助剤であるABと、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを加え、CuF:AB:PVdF=75:12.5:12.5の質量比とした後に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて混練し、適当な粘度のスラリーとした。得られたスラリーをアルミニウム(Al)箔からなる集電体の一方の表面に塗工し、120℃で真空乾燥した。ついで、空隙率が40~50%となるようにプレス処理を施して電極シートを作製した。得られた正極シートを5mm×10mmのサイズにカットし、さらに合材面が5mm×5mmのサイズとなるように合材面の一部を剥離して、本製造例の電極を作製した。
【0054】
[製造例2]
(BiF電極の作製)
活物質として、市販のBiF粉末(Sigma-Aldrich社製)を使用したこと以外は、製造例1と同様の手法により、本製造例の電極を作製した。
【0055】
[製造例3]
(Ti0.97Al0.03の合成)
市販のTiF粉末(Sigma-Aldrich社製)に添加剤として市販のAlF粉末(富士フイルム和光純薬株式会社)を所定の比率で加えて、アルゴン雰囲気下にてボールミルで混合処理を行い、活物質であるTi0.97Al0.03を合成した。
【0056】
(Ti(Al)F電極の作製)
上記で作製した活物質と、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを95:5の質量比で混練し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて適当な粘度のスラリーとした。得られたスラリーを導電性多孔体である発泡アルミニウム(住友電工株式会社製、CELMET(登録商標)、材質アルミニウム、空隙率96%)に充填し、乾燥後にプレス処理を施して、本製造例の電極を作製した。
【0057】
[実施例1-1]
(ボロキシン環含有ポリマーの合成)
以下の操作は、グローブボックス、ガスバッグ、シュレンク装置等を用いて行い、大気下での操作を避けた。ディーン・スターク分水器を取り付けた反応容器にドライトルエン(300mL)、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PEGMME350;60.2g)、テトラエチレングリコール(TEG;25.1g)を仕込み、室温(25℃)で撹拌した。この溶液に酸化ホウ素(15g)を徐々に添加した。添加終了後、内温108℃で加熱撹拌した。発生する水を除きながら、加熱撹拌を続けた。12時間後、加熱を停止した。ディーン・スターク分水器からの水の流出量は約9.0gであった。反応溶液を室温まで放冷後、メンブランフィルター(1.0μm)ろ過で不溶物等を除き、ろ液を減圧濃縮した。さらに、液体窒素トラップ、オイルポンプ(減圧度:0.05mmHg)、オイルバス(温度:90℃)を取り付け、撹拌しながら減圧留去を行った。重量減少がなくなったのを確認し、淡褐色透明な粘性のある液体(80g)を得た。H-NMR分析、IR分析の結果から、下記式で表されるボロキシン環含有ポリマー(BxP)であることを確認した。
【0058】
【化2】
【0059】
(電解液の調製)
電解液として、LiFSA(0.14M)およびCsF(0.012M)をγ-ブチロラクトン(GBL)に溶解したものを調製した。具体的には、特開2021-36512号公報の実施例1に記載された手法に従い、多段階の溶解処理により所定量のCsFをγ-ブチロラクトンに溶解させてCsF/RBL電解液を調製した。その後、当該CsF/RBL電解液にLiFSAを所定量溶解させることにより、電解液を調製した。なお、多段階の溶解処理によって溶媒自身の有意な改質が生じている可能性を示すため、電解液を構成する溶媒名として純GBL溶媒と区別したRBL(Reformed Butyrolactone)の名称を用いている。
【0060】
(セルの作製)
製造例1で作製したCuF電極を作用極として、活性炭とバインダであるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とからなる電極シート(活性炭:PTFE=70:30(質量比))を対極に用い、参照極にAg線を用いて、本実施例のビーカーセルを作製した。ビーカーセルには上記で調製した電解液および上記で合成したボロキシン環含有ポリマー(BxP)を注入した。この際、BxPの含有量が、BxPおよび電解液の合計質量に対して5質量%となるように、ビーカーセルに電解液およびBxPを注入した。以上の手法により、本実施例のビーカーセルを作製した。
【0061】
[実施例1-2]
BxPの含有量を、BxPおよび電解液の合計質量に対して2.5質量%としたこと以外は、実施例1-1と同様の手法により、本実施例のビーカーセルを作製した。
【0062】
[実施例1-3]
BxPの含有量を、BxPおよび電解液の合計質量に対して10質量%としたこと以外は、実施例1-1と同様の手法により、本実施例のビーカーセルを作製した。
【0063】
[比較例1-1]
ビーカーセルにBxPを添加しなかったこと以外は、実施例1-1と同様の手法により、本比較例のビーカーセルを作製した。
【0064】
[比較例1-2]
BxPに代えて、下記式で示される2,4,6-トリメトキシボロキシン(TMBx)を、TMBxおよび電解液の合計質量に対して5質量%となるように、ビーカーセルに注入した。これ以外は、実施例1-1と同様の手法により、本比較例のビーカーセルを作製した。
【0065】
【化3】
【0066】
[実施例2-1]
作用極として、CuF電極に代えて、製造例2で作製したBiF電極を用いたこと以外は、実施例1-1と同様の手法により、本実施例のビーカーセルを作製した。
【0067】
[比較例2-1]
ビーカーセルにBxPを添加しなかったこと以外は、実施例2-1と同様の手法により、本比較例のビーカーセルを作製した。
【0068】
[比較例2-2]
BxPに代えて、2,4,6-トリメトキシボロキシン(TMBx)を、TMBxおよび電解液の合計質量に対して5質量%となるように、ビーカーセルに注入した。これ以外は、実施例2-1と同様の手法により、本比較例のビーカーセルを作製した。
【0069】
[実施例3-1]
作用極として、CuF電極に代えて、製造例3で作製したTi(Al)F電極を用いたこと以外は、実施例1-1と同様の手法により、本実施例のビーカーセルを作製した。
【0070】
[比較例3-1]
ビーカーセルにBxPを添加しなかったこと以外は、実施例3-1と同様の手法により、本比較例のビーカーセルを作製した。
【0071】
<充放電試験>
上述した実施例および比較例のそれぞれで作製したビーカーセルの充放電試験を行った。具体的には、定電流試験により、各ビーカーセルの充放電試験を行い、各サイクルの可逆容量を測定した。なお、測定は、アルゴン雰囲気中、室温(25℃)で行った。CuF電極およびBiF電極を用いたビーカーセルでは充放電レートを0.04C相当として充放電を行った。Ti(Al)F電極を用いたビーカーセルでは充放電レートを0.02C相当として充放電を行った。
【0072】
結果を下記の表1~4および図2~8に示す。
【0073】
(1)CuF電極を用いたビーカーセルにおける添加剤の影響
【0074】
【表1】
【0075】
表1は、CuF電極を用いたビーカーセルにおける添加剤の影響をまとめたものである。図2の(A)~(C)は、各例について1~3サイクル充放電を行った際の充放電曲線を表すグラフである。図3は、3サイクルの充放電試験前後の電解液の着色を確認した際の写真である。
【0076】
比較例1-1は、図2(A)に示されるように、可逆容量が小さく、充放電性能が劣ることが分かる(表1中、×で示す)。比較例1-2は、図2(B)に示されるように、可逆容量は大きいものの、サイクル特性が劣る(サイクルによる容量低下が大きい)ことから、充放電性能は一部向上する(表1中、△で示す)。実施例1-1は、図2(C)に示されるように、可逆容量が大きく、かつ、サイクル特性が優れる(サイクルによる容量低下が小さい)ことから、充放電性能に優れることが分かる(表1中、○で示す)。
【0077】
また、図3に示されるように、比較例1-1の3サイクルの充放電試験後の電解液(図3中、左から2番目)は、青色に着色している。この青色はCuイオンがアクア錯イオンを形成することにより現れるものであり、電解液中にCuイオンが溶出したことを示す。
【0078】
以上の結果より、本発明に係る実施例1-1は、可逆容量が大きく、かつ、サイクル特性に優れることから、充放電特性が向上することが分かる。実施例1-1では、電解液中におけるCuイオンの溶出が見られないことから、充放電によりボロキシン環含有ポリマー由来の被膜が電極表面に形成されることにより、Cuイオンの電解液中への拡散が抑制されることが示唆される。
【0079】
(2)BiF電極を用いたビーカーセルにおける添加剤の影響
【0080】
【表2】
【0081】
表2は、BiF電極を用いたビーカーセルにおける添加剤の影響をまとめたものである。図4の(A)~(C)は、各例について1~3サイクル充放電を行った際の充放電曲線を表すグラフである。図5は、5サイクルの充放電試験前後の電極の変形を確認した際の写真である。
【0082】
比較例2-1は、図4(A)に示されるように、可逆容量は大きいものの、サイクル特性が劣る(サイクルによる容量低下が大きい)ことから、充放電性能は一部向上する(表2中、△で示す)。比較例2-2は、図4(B)に示されるように、抵抗が大きく、可逆容量が小さいことから、充放電性能が劣ることが分かる(表2中、×で示す)。実施例2-1は、図4(C)に示されるように、可逆容量が大きく、かつ、サイクル特性が優れる(サイクルによる容量低下が小さい)ことから、充放電性能に優れることが分かる(表2中、○で示す)。
【0083】
また、図5に示されるように、比較例2-1の5サイクル後の充放電試験後の電極(図5中、左から2番目)は、大きく変形している。この変形は、電解液中に溶出および拡散したBiイオンによりデンドライトが形成したことによるものであると考えられた。
【0084】
以上の結果より、本発明に係る実施例2-1は、可逆容量が大きく、かつ、サイクル特性に優れることから、充放電特性が向上することが分かる。実施例1-1では、電極の変形が見られないことから、充放電によりボロキシン環含有ポリマー由来の被膜が電極表面に形成されることにより、Biイオンの電解液中への拡散が抑制されることが示唆される。
【0085】
(3)Ti(Al)F電極を用いたビーカーセルにおける添加剤の影響
【0086】
【表3】
【0087】
表3は、Ti(Al)F電極を用いたビーカーセルにおける添加剤の影響をまとめたものである。図6(A)および(B)は、各例について1~6サイクル充放電を行った際の充放電曲線を表すグラフである。
【0088】
比較例3-1は、図6(A)に示されるように、可逆容量は小さいことから、充放電性能が劣ることが分かる(表3中、×で示す)。実施例3-1は、図6(B)に示されるように、可逆容量が大きいことから、充放電性能に優れることが分かる(表3中、○で示す)。
【0089】
なお、各例について6サイクル後の充放電試験後の電極を観察したところ、いずれの電極にも変形は見られなかった。
【0090】
以上の結果より、本発明に係る実施例3-1は、可逆容量が大きいことから、充放電特性が向上することが分かる。実施例3-1では、充放電によりボロキシン環含有ポリマー由来の被膜が電極表面に形成されることにより、電極(負極)表面における電解液の還元分解が抑制され、その結果、大きな可逆容量が得られると推測される。
【0091】
(4)CuF電極を用いたビーカーセルにおける、ボロキシン環含有ポリマー(BxP)含有量の影響
【0092】
【表4】
【0093】
表4は、CuF電極を用いたビーカーセルにおけるボロキシン環含有ポリマー含有量の影響をまとめたものである。図7(A)~(D)は、各例について1~3サイクル充放電を行った際の充放電曲線を表すグラフである。
【0094】
比較例1-1および実施例1-1の充放電性能は、上述のとおりである。実施例1-2は、図7(B)に示されるように、可逆容量が改善され、充放電性能が向上することが分かる(表1中、○で示す)。実施例1-3は、図7(D)に示されるように、可逆容量は大きいものの、サイクル特性が劣る(サイクルによる容量低下が大きい)ことから、充放電性能は一部向上する(表1中、△で示す)。
【0095】
なお、各例について3サイクル後の充放電試験後の電解液を観察したところ、実施例1-2および実施例1-3は、電解液の着色が見られなかった。
【0096】
(5)電極表面のXPS測定
ボロキシン環含有ポリマーの含有量が5質量%である、実施例1-1、2-1および3-1について、充放電試験前および3サイクルの充放電試験後のそれぞれの電極表面のX線光電子分光(XPS)測定を行った。具体的には、ビーカーセルから電極を取り出し、GBLで洗浄後、真空乾燥したものを測定用サンプルとして、下記の測定条件でXPS測定を行った。
【0097】
(XPS測定条件)
測定装置:アルバック・ファイ株式会社製 Quantera SXM
X線源:AlKα線(1486.6eV)
X線出力:25W 15kV
検出領域:100μmφ
検出場所:電極サンプルの中心部
検出深さ:数nm(取出角45°)
測定スペクトル:Cu2p、Bi4f、Ti2p、B1s。
【0098】
結果を図8に示す。図8は、実施例1-1、実施例2-1および実施例3-1のそれぞれの充放電試験前ならびに3サイクルの充放電試験後の電極についてのXPSスペクトルである。図8に示されるように、充放電試験前の電極からはホウ素(B)由来のピークが観察されなかったが、充放電試験後の電極からはホウ素(B)由来のピークが観察された。このことから、充放電により、ボロキシン環含有ポリマー由来の被膜が電極表面に形成されることが示唆された。
【符号の説明】
【0099】
1 フッ化物イオン電池、
10 正極、
11 アルミニウム(Al)箔(正極集電体)、
12 正極活物質層、
13 正極活物質、
20 負極、
21 負極活物質、
22 発泡アルミニウム(負極集電体)、
30 電解質層、
40 外部負荷、
フッ化物イオン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8