(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179979
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】チェーンカバー及び内燃機関
(51)【国際特許分類】
F01M 9/10 20060101AFI20221129BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20221129BHJP
F02F 1/24 20060101ALI20221129BHJP
F02F 1/40 20060101ALI20221129BHJP
F02F 7/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F01M9/10 M
F02B67/06 G
F02F1/24 A
F02F1/40 A
F02F7/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086829
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼間 健
(72)【発明者】
【氏名】栗田 洋孝
【テーマコード(参考)】
3G024
3G313
【Fターム(参考)】
3G024AA08
3G024BA01
3G024BA23
3G024FA01
3G024FA07
3G024FA14
3G313AA06
3G313BA03
3G313BB03
3G313BC07
3G313BC08
3G313BD64
3G313FA01
3G313FA02
(57)【要約】
【課題】オイル通路や噴射孔を必要とするオイルジェットを用いることなく、チェーンカバーに収容されたスプロケットとタイミングチェーンとに潤滑油を供給し得る内燃機関を構成する。
【解決手段】クランクシャフトの駆動力を吸気カムシャフトと排気カムシャフトとに伝えるタイミングチェーン9を備え、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの少なくとも一方のバルブタイミングを設定する弁開閉時期制御装置を備え、タイミングチェーン9と弁開閉時期制御装置とを覆うチェーンカバー10を備え、チェーンカバー10は、弁開閉時期制御装置の回転に伴い飛散する潤滑油を受け止めて弁開閉時期制御装置の外周に巻き掛けられたタイミングチェーン9の方向に案内する突出部36を、チェーンカバー10の内面に形成している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトの駆動力を吸気カムシャフトと排気カムシャフトとの少なくとも一方に伝えるタイミングチェーンと、
前記吸気カムシャフトまたは前記排気カムシャフトの少なくとも一方のバルブタイミングを設定する弁開閉時期制御装置と、
前記タイミングチェーンと前記弁開閉時期制御装置とを覆うチェーンカバーと、を備え、
前記チェーンカバーは、前記弁開閉時期制御装置から排出される潤滑油を受け止めて前記弁開閉時期制御装置の外周に巻き掛けられた前記タイミングチェーンの方向に案内する突出部を、前記チェーンカバーの内面に有している内燃機関。
【請求項2】
前記突出部が、回転軸芯に沿う方向視で前記弁開閉時期制御装置と一部が重複している請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記突出部が、前記弁開閉時期制御装置の回転軸芯に沿う方向視で前記回転軸芯より下側に潤滑油を前記タイミングチェーンに向けて送り出す開放部を有している請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記開放部から送り出された潤滑油を、前記タイミングチェーンのうち前記弁開閉時期制御装置から下側に延びる領域に導く誘導体を更に備えている請求項3に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記誘導体が、前記回転軸芯に沿う方向視において、前記回転軸芯よりも重力方向で下側に膨れる形状に成形され、
前記誘導体の一方の端部を前記開放部から排出される潤滑油を受け止める位置に配置し、前記誘導体のうち最も下側に膨れる領域を前記タイミングチェーンに近接して配置している請求項4に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記誘導体が、一部が切り欠かれたチェーン通過空間を有しており、前記タイミングチェーンは、前記チェーン通過空間を通過している請求項4又は5に記載の内燃機関。
【請求項7】
前記誘導体が、前記回転軸芯に沿う方向視において、前記回転軸芯と平行する姿勢の案内軸芯を中心として重力方向で下側に膨らむ円弧状に成形され、
前記誘導体のうち、前記円弧状の領域で下側に最も突出する部位に前記チェーン通過空間が形成されている請求項6に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クランクシャフトの駆動力を吸気カムシャフトと排気カムシャフトに伝えるタイミングチェーンを備え、タイミングチェーンを覆う位置にチェーンカバーを備えた内燃機関が記載されている。
【0003】
この特許文献1では、オイルポンプから供給された潤滑油を流通させるオイル流路と、潤滑油を噴射する噴射孔とをシリンダブロックに形成すると共に、噴射孔から噴射された潤滑油を、タイミングチェーンが巻回するスプロケットの方向に誘導する誘導溝をチェーンカバーに形成した構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クランクシャフトの駆動力をタイミングチェーンによって吸気カムシャフトと排気カムシャフトに伝える内燃機関では、タイミングチェーンの潤滑も必要とするものであり、特許文献1に記載されるように、オイルポンプからの潤滑油を、シリンダブロックのオイル通路や噴射孔を介してチェーンカバーの誘導溝に供給し、この誘導溝からスプロケットに噴射することも考えられている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるような構成でスプロケットに潤滑油を供給するものでは、オイルを供給するためのオイル通路や噴射孔をシリンダブロックに形成したり、誘導溝をチェーンカバーに形成する加工を必要とするだけでなく、スプロケットに対して充分な量の潤滑油を供給するためにオイルポンプの容量の増大を必要とすることが懸念される。
【0007】
このような理由から、オイル通路や噴射孔を必要とするオイルジェットを用いることなく、チェーンカバーに収容されたスプロケットとタイミングチェーンとに潤滑油を供給し得る内燃機関が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内燃機関の特徴構成は、クランクシャフトの駆動力を吸気カムシャフトと排気カムシャフトとの少なくとも一方に伝えるタイミングチェーンと、前記吸気カムシャフトまたは前記排気カムシャフトの少なくとも一方のバルブタイミングを設定する弁開閉時期制御装置と、前記タイミングチェーンと前記弁開閉時期制御装置とを覆うチェーンカバーと、を備え、前記チェーンカバーは、前記弁開閉時期制御装置から排出される潤滑油を受け止めて前記弁開閉時期制御装置の外周に巻き掛けられた前記タイミングチェーンの方向に案内する突出部を、前記チェーンカバーの内面に有している点にある。
【0009】
この特徴構成によると、弁開閉時期制御装置から排出された潤滑油を、チェーンカバーの内面の突出部で受け止め、受け止めた潤滑油を弁開閉時期制御装置のタイミングチェーンの方向に案内できる。これにより、タイミングチェーンに対して突出部から潤滑油が供給されることで、潤滑油がタイミングチェーンを潤滑するだけでなく、タイミングチェーンが巻回する複数のスプロケットも潤滑することが可能となる。
従って、オイル通路や噴射孔を必要とするオイルジェットを用いることなく、チェーンカバーに収容されたスプロケットとタイミングチェーンとに潤滑油を供給し得る内燃機関が構成された。
【0010】
上記構成に加えた構成として、前記突出部が、回転軸芯に沿う方向視で前記弁開閉時期制御装置と一部が重複しても良い。
【0011】
これによると、弁開閉時期制御装置の回転軸芯に沿う方向での一方の端部から排出された潤滑油を突出部で受け止めることができる。
【0012】
上記構成に加えた構成として、前記突出部が、前記弁開閉時期制御装置の回転軸芯に沿う方向視で前記回転軸芯より下側に潤滑油を前記タイミングチェーンに向けて送り出す開放部を有しても良い。
【0013】
これによると、突出部の下側の開放部からカムスプロケットの方向に潤滑油を送り出すことが可能となる。
【0014】
上記構成に加えた構成として、前記開放部から送り出された潤滑油を、前記タイミングチェーンのうち前記弁開閉時期制御装置から下側に延びる領域に導く誘導体を更に備えても良い。
【0015】
これによると、開放部から排出された潤滑油は誘導体に案内されることにより、弁開閉時期制御装置から下側に延びる領域のタイミングチェーンに対して無駄なく供給することが可能となる。
【0016】
上記構成に加えた構成として、前記誘導体が、前記回転軸芯に沿う方向視において、前記回転軸芯よりも重力方向で下側に膨れる形状に成形され、前記誘導体の一方の端部を前記開放部から排出される潤滑油を受け止める位置に配置し、前記誘導体のうち最も下側に膨れる領域を前記タイミングチェーンに近接して配置しても良い。
【0017】
これによると、回転軸芯に沿う方向視において、開放部から排出された潤滑油を誘導体で受け止め、この誘導体において潤滑油は下側に膨れる領域に向けて流れ、誘導体のうち最も下側に膨れる領域からタイミングチェーンに供給できる。
【0018】
上記構成に加えた構成として、前記誘導体が、一部が切り欠かれたチェーン通過空間を有しており、前記タイミングチェーンは、前記チェーン通過空間を通過しても良い。
【0019】
これによると、誘導体を切り欠いて形成したチェーン通過空間にタイミングチェーンが配置されるため、チェーン通過空間の内縁と、このチェーン通過空間に配置されるタイミングチェーンとが極めて近い位置となり、誘導体に流れる潤滑油をタイミングチェーンに対して効率的に供給することが可能となる。
【0020】
上記構成に加えた構成として、前記誘導体が、前記回転軸芯に沿う方向視において、前記回転軸芯と平行する姿勢の案内軸芯を中心として重力方向で下側に膨らむ円弧状に成形され、前記誘導体のうち、前記円弧状の領域で下側に最も突出する部位に前記チェーン通過空間が形成されても良い。
【0021】
これによると、開放部から誘導体に沿って下側に案内された潤滑油が、誘導体の円弧状の領域に沿って流れ、下側に最も突出する部位で流れを抑制することで潤滑油を一時的に貯留することが可能となり、この潤滑油をチェーン通過空間からタイミングチェーンに供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】タイミングチェーンの配置を示すエンジンの一部の断面図である。
【
図3】吸気側と排気側との突出部の配置を示す図である。
【
図7】吸気側と排気側との突出部の位置関係と形状とを示す斜視図である。
【
図8】別実施形態(a)の吸気側の突出部の形状を示す斜視図である。
【
図9】別実施形態(b)の排気側の突出部の形状を示す斜視図である。
【
図10】別実施形態(e)でチェーンカバーに一体形成された吸気側の突出部の断面図である。
【
図11】別実施形態(e)でチェーンカバーに一体形成された排気側の突出部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、クランクシャフト1を回転自在に支持するシリンダブロック2の上部にシリンダヘッド3を連結し、シリンダブロック2の複数のシリンダボアにピストン4を往復作動自在に収容し、ピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結して4サイクル型のエンジンE(内燃機関の一例)が構成されている。
【0024】
このエンジンEは、
図1~
図5に示すように、シリンダヘッド3に吸気カムシャフト6と排気カムシャフト7とを回転自在に支持し、吸気カムシャフト6の吸気側回転軸芯Xa(回転軸芯Xの一例)と同軸芯上に吸気側弁開閉時期制御装置Va(弁開閉時期制御装置Vの一例)を備え、排気カムシャフト7の排気側回転軸芯Xb(回転軸芯Xの一例)と同軸芯上に排気側弁開閉時期制御装置Vb(弁開閉時期制御装置Vの一例)を備えている。吸気カムシャフト6は、吸気バルブ(図示せず)を開閉し、排気カムシャフト7は排気バルブ13を開閉する。
【0025】
このエンジンEは、
図1、
図2に示すように吸気側弁開閉時期制御装置Vaの吸気側カムスプロケット15sと、排気側弁開閉時期制御装置Vbの排気側カムスプロケット21sと、クランクシャフト1の出力スプロケット8とに亘ってタイミングチェーン9を巻回している。また、エンジンEは、吸気側弁開閉時期制御装置Va、排気側弁開閉時期制御装置Vb、タイミングチェーン9の夫々を覆うチェーンカバー10を備えている。更に、エンジンEは、底部に潤滑油を貯留するオイルパン11を備え、シリンダヘッド3を覆う位置にヘッドカバー12を備えている。チェーンカバー10は、アルミニウム合金等で形成された成形物である。
【0026】
図2に示すように、チェーンカバー10の内部空間には、タイミングチェーン9を案内するチェーンガイド31と、タイミングチェーン9に張力を作用させるチェーンテンショナ32とを備えている。
【0027】
このエンジンEは、クランクシャフト1の回転力をタイミングチェーン9によって吸気カムシャフト6と排気カムシャフト7とに伝えるように構成されている。また、吸気側弁開閉時期制御装置Vaが吸気バルブの開閉時期を設定し、排気側弁開閉時期制御装置Vbが排気バルブ13の開閉時期を設定する。
【0028】
〔吸気側弁開閉時期制御装置〕
図4に示すように吸気側弁開閉時期制御装置Vaは、外周に形成された吸気側カムスプロケット15sに巻回するタイミングチェーン9からの駆動力が作用する駆動側ケース15と、この内部に収容され吸気カムシャフト6に連結する従動側ケース16とを、吸気側回転軸芯Xaを中心に相対回転自在に備え、これらの間に内接式の減速機構(図示せず)備えている。
【0029】
この吸気側弁開閉時期制御装置Vaでは、吸気側回転軸芯Xaと同軸芯上に駆動シャフト17aが配置される電動モータ17を有し、この電動モータ17をチェーンカバー10に穿設された第1開口10aに嵌め込む状態で支持している。電動モータ17は、駆動シャフト17aの回転力を減速機構に伝える。
【0030】
この構成では、タイミングチェーン9からの駆動力によって駆動側ケース15が回転する状態において、駆動側ケース15と等しい速度で電動モータ17の駆動シャフト17aを回転させることで、駆動側ケース15と従動側ケース16との相対回転位相を維持し、吸気バルブのバルブタイミング(開閉時期)が維持される。
【0031】
これに対し、駆動側ケース15の回転速度より高速、又は、低速で駆動シャフト17aを回転させることで、駆動側ケース15と従動側ケース16との相対回転位相を進角側、又は、遅角側に変位させ吸気バルブのバルブタイミング(開閉時期)の変更を実現する。
【0032】
〔排気側弁開閉時期制御装置〕
図5に示すように、排気側弁開閉時期制御装置Vbは、外周に形成された排気側カムスプロケット21sに巻回するタイミングチェーン9からの駆動力が作用する駆動側作動体21と、この内部に収容され排気カムシャフト7に連結する従動側作動体22とを、排気側回転軸芯Xbを中心に相対回転自在に備え、これらの間に複数の進角室(図示せず)と、複数の遅角室(図示せず)とを備えている。
【0033】
排気側弁開閉時期制御装置Vbは、外部から作動油が供給される流路が形成され、この流路に供給される作動油を進角室と遅角室との一方を選択して供給するスプール23を、排気側回転軸芯Xbと同軸芯上で、排気側回転軸芯Xbに沿ってスライド移動自在に備えている。
【0034】
このスプール23は、排気側回転軸芯Xbに沿う方向での複数の操作ポジションに操作可能であり、スプリング(図示せず)の付勢力により、チェーンカバー10の方向に向けて突出付勢されている。
【0035】
この排気側弁開閉時期制御装置Vbでは、スプール23の外端に当接することによりスプール23を操作するためのプランジャ25を備えたソレノイドユニット24を有し、このソレノイドユニット24をチェーンカバー10に形成された第2開口10bに一部挿入する状態で支持している。プランジャ25は、排気側回転軸芯Xbと同軸芯で配置され、ソレノイドユニット24は、内部の電磁ソレノイド(図示せず)に供給する電流値の制御によりプランジャ25突出量が制御される。
【0036】
このような構成から、電磁ソレノイドに供給する電流値の制御によってプランジャ25の突出量を調整することで、スプール23を所定の操作ポジションに操作し、作動油の給排により、駆動側作動体21と従動側作動体22との相対回転位相を進角側または遅角側に変化させ、排気バルブ13のバルブタイミング(開閉時期)の設定を実現する。
【0037】
特に、スプール23を操作し、進角室と遅角室との一方に作動油を供給した場合には、進角室と遅角室との何れか他方から排出される作動油が、
図5に矢印Dで示すようにスプール23の突出端の近傍から外部に排出される。
【0038】
このエンジンEでは、オイルパン11に貯留されている潤滑油を、作動油として排気側弁開閉時期制御装置Vbに供給しており、前述したようにスプール23の突出端の近傍から排出される作動油は、
図5、
図6等に示す突出部36によって潤滑油としてタイミングチェーン9に供給される。
【0039】
〔チェーンカバー〕
チェーンカバー10は、シリンダヘッド3の上端部分等から排出される潤滑油、あるいは、弁開閉時期制御装置Vから排出される潤滑油をチェーンカバー10の内部空間で流下させるように機能し、流下した潤滑油はオイルパン11に回収される。
【0040】
吸気側弁開閉時期制御装置Vaは、内部を潤滑した潤滑油が前面(
図4で右側の端部)から排出される。
【0041】
前述したように、排気側弁開閉時期制御装置Vbは、スプール23の操作に伴い、
図5に矢印Dで示すようにスプール23の突出端の近傍(排気側弁開閉時期制御装置Vbの前面)から外部に排出される。
【0042】
このエンジンEでは、吸気側弁開閉時期制御装置Vaから排出され、吸気側弁開閉時期制御装置Vaの回転に伴い遠心力によって飛散する潤滑油を受け止め、吸気側カムスプロケット15sに巻回するタイミングチェーン9に供給するための潤滑油供給構造として、チェーンカバー10の内面に部材を取り付けることにより、吸気側の突出部36をチェーンカバー10の縦壁部の内面に形成している。
【0043】
これと同様に、排気側弁開閉時期制御装置Vbから排出され、排気側弁開閉時期制御装置Vbの回転に伴い遠心力によって飛散する潤滑油を受け止め、排気側カムスプロケット21sに巻回するタイミングチェーン9に供給するための潤滑油供給構造として、チェーンカバー10の内面に部材を取り付けることにより、排気側の突出部36をチェーンカバー10の縦壁部の内面に形成している。
【0044】
図4、
図6に示すように、吸気側の突出部36においては、第1開口10aの開口縁からチェーンカバー10の内方に向けて突出する環状部35が吸気側回転軸芯Xaと同軸芯となる円筒状に形成されている。これと同様に、
図5、
図6に示すように、排気側の突出部36においては、第2開口10bの開口縁からチェーンカバー10の内方に向けて突出する環状部35が排気側回転軸芯Xbと同軸芯となる円筒状に形成されている。これら吸気側と排気側の何れにおいても、環状部35の一部に対して筒状の突出部36が嵌合する状態で支持されている。
【0045】
〔チェーンカバー:吸気側弁開閉時期制御装置に対応する潤滑油供給構造〕
図4、
図6に示すように、潤滑油供給構造として、吸気側の突出部36は、板状材を環状に成形したものであり、その突出端が吸気側弁開閉時期制御装置Vaの駆動側ケース15の一部を覆うように吸気側回転軸芯Xaに沿う方向での突出量が設定されている。尚、板状材は、ステンレス材、アルミ材等の金属に限らず、樹脂の成形物であっても良い。
【0046】
図3に示すように、吸気側の突出部36は、吸気側回転軸芯Xaに沿う方向視において、吸気側回転軸芯Xaより下側を、重力方向で下側に滑らかに膨らませることで吸気側回転軸芯Xaに沿う方向視においてタマゴ型に成形している。この下側に膨らんだ領域が作る空間によって吸気側回転軸芯Xaよりも重力方向で下側に位置する潤滑油貯留部Sを形成し、この潤滑油貯留部Sに集められた潤滑油を一時的に貯留し、吸気側弁開閉時期制御装置Vaに向けて送り出すことが可能な開放部Tを形成している。つまり、開放部Tは、吸気側回転軸芯Xaに沿う方向に開放する部位で形成され、この開放部Tで潤滑油貯留部Sの潤滑油を送り出すことになる。
【0047】
図3、
図5~
図7に示すように、吸気側の突出部36には、開放部Tから吸気側回転軸芯Xaに沿う方向に潤滑油を送る誘導体37が一体的に形成されている(板状材で形成されている)。この誘導体37は、突出部36から供給される潤滑油を、タイミングチェーン9のうち吸気側弁開閉時期制御装置Vaから下側に延びる領域に導くように機能するものである。
【0048】
また、吸気側回転軸芯Xaに沿う方向視において、誘導体37は重力方向で下側に滑らかに膨らむように湾曲している。また、循環するタイミングチェーン9が含まれる仮想平面と、誘導体37のうちタイミングチェーン9に潤滑油を送り出す部位とが、互いに交差する位置関係で配置されている。
【0049】
特に、交差する位置関係にある誘導体37の一部を切り欠くことにより、チェーン通過空間38が形成され、このチェーン通過空間38を通過するようタイミングチェーン9が配置されている。尚、誘導体37のうち下側に最も膨らむ位置にチェーン通過空間38が形成されている。
【0050】
この構成から、吸気側弁開閉時期制御装置Vaの前面から潤滑油が排出された場合には、この吸気側弁開閉時期制御装置Vaの回転に伴い遠心力で飛散した潤滑油を吸気側の突出部36で受け止め、吸気側回転軸芯Xaより下側の潤滑油貯留部Sに集められる。
【0051】
このように集められた潤滑油は、開放部Tから誘導体37に送り出され、誘導体37が吸気側弁開閉時期制御装置Vaの吸気側カムスプロケット15sに巻き掛けられたタイミングチェーン9の方向に送られ、チェーン通過空間38に滴下されるため、チェーン通過空間38を通過するタイミングチェーン9に対して近い位置から潤滑油を供給し、良好な潤滑を実現する。
【0052】
〔チェーンカバー:排気側弁開閉時期制御装置に対応する潤滑油供給構造〕
図5、
図6に示すように、潤滑油供給構造として、排気側の突出部36は、板状材を円形に成形したものである。また、排気側回転軸芯Xbに直交する方向視において、排気側の突出部36の突出端が排気側弁開閉時期制御装置Vbにおいてスプール23の突出端を収容する部位を覆うように排気側回転軸芯Xbに沿う方向での突出量が設定されている。尚、板状材は、ステンレス材、アルミ材等の金属に限らず、樹脂の成形物であっても良い。
【0053】
図3に示すように、排気側の突出部36は、排気側回転軸芯Xbに沿う方向視において、
図3、
図7に示すように、排気側回転軸芯Xbより重力方向での下側に、下側に円弧状に膨らむ潤滑油貯留部Sを有しており、この潤滑油貯留部Sの下側を下方に開放する開放部Tを形成している。つまり、開放部Tは、潤滑油貯留部Sの潤滑油を下側に排出するように開放の方向が決められている。
【0054】
図3、
図7に示すように、排気側の突出部36は、開放部Tから下側に送り出される潤滑油を受ける位置に誘導体37を備え、この誘導体37は、突出部36から供給される潤滑油を、タイミングチェーン9のうち排気側弁開閉時期制御装置Vbから下側に延びる領域に導くように機能する。
【0055】
図3、
図5、
図7に示すように、排気側回転軸芯Xbに沿う方向視において、誘導体37は、開放部Tの開口縁の部位で突出部36と連なる板状材で形成されている。また、この誘導体37は、誘導体37は重力方向で下側に滑らかに膨らむように、排気側回転軸芯Xbと平行する姿勢の案内軸芯Yを中心とする円弧状に成形されている。
【0056】
また、循環するタイミングチェーン9が含まれる仮想平面と、誘導体37のうちタイミングチェーン9に潤滑油を送り出す部位とが、互いに交差する位置関係で配置されている。
【0057】
特に、交差する位置関係にある誘導体37の一部を切り欠くことにより、チェーン通過空間38が形成され、このチェーン通過空間38を通過するようにタイミングチェーン9が配置されている。尚、誘導体37のうち下側に最も膨らむ位置にチェーン通過空間38が形成されている。
【0058】
このような構成から、排気側弁開閉時期制御装置Vbの前面から潤滑油が排出された場合には、この排気側弁開閉時期制御装置Vbの回転に伴い遠心力で飛散した潤滑油を排気側の突出部36で受け止め、排気側回転軸芯Xbより下側の潤滑油貯留部Sに集められる。
【0059】
このように集められた潤滑油は、開放部Tから誘導体37に送り出され、誘導体37が排気側弁開閉時期制御装置Vbの排気側カムスプロケット21sに巻き掛けられたタイミングチェーン9の方向に送られ、チェーン通過空間38に滴下される。その結果、チェーン通過空間38に配置されているタイミングチェーン9に対して近い位置から潤滑油を供給し、良好な潤滑を実現する。
【0060】
〔実施形態の作用効果〕
このように、チェーンカバー10の内面に対し、潤滑油供給構造として、突出部36(突出部)を備えるだけで、弁開閉時期制御装置V(吸気側弁開閉時期制御装置Vaと排気側弁開閉時期制御装置Vbとの上位概念)の回転に伴い飛散する潤滑油を、回転軸芯Xを中心とする全周の領域で受け止め、タイミングチェーン9に供給することが可能となり、タイミングチェーン9の潤滑を容易に行える。
【0061】
更に、誘導体37に形成されたチェーン通過空間38をタイミングチェーン9が通過することにより、誘導体37に集められた潤滑油を極めて近い位置からタイミングチェーン9に供給することが可能となる。
【0062】
また、この構成では、例えば、オイルポンプからの潤滑油を、シリンダヘッド3やチェーンカバー10に形成した油路を介して出力スプロケット8に供給する従来の構成と比較すると、シリンダヘッド3やチェーンカバー10に油路を形成する必要がなく、オイルポンプから潤滑油の油量の増大を図るためにオイルポンプの大容量化を必要とすることがない。
【0063】
更に、この構成では、チェーンカバー10の比較的高い位置に配置される弁開閉時期制御装置Vから排出される潤滑油を潤滑油貯留部Sに集めた後にタイミングチェーン9に供給するため、高い位置からタイミングチェーン9に沿って充分な量の潤滑油を供給し、タイミングチェーン9の全体の良好な潤滑を実現する。
【0064】
特に、タイミングチェーン9だけを潤滑するだけでなく、タイミングチェーン9と、チェーンガイド31、あるいは、チェーンテンショナ32との滑動性を高め、更に、タイミングチェーン9と出力スプロケット8との間での摩擦を低減し、エネルギーの無駄な消費を低減できる。
【0065】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0066】
(a)
図8に示すように、吸気側弁開閉時期制御装置Vaに対応する突出部36(突出部)を、実施形態と同様に、下部に潤滑油貯留部Sと開放部Tとを形成し、開放部Tから送り出された潤滑油をタイミングチェーン9の近傍に案内するように単一の舌片状の誘導体37を、突出部36を備え、誘導体37をタイミングチェーン9に近接配置する。
【0067】
この別実施形態(a)では、実施形態のように誘導体37の一部を切り欠いてチェーン通過空間38を形成したものと比較して形状は異なるものの、誘導体37が、下側に滑らかに湾曲するように成形され、誘導体37の端部をタイミングチェーン9が通過する領域の近傍に配置するためタイミングチェーン9に対して良好に潤滑油を供給できる。
【0068】
(b)
図9に示すように、排気側弁開閉時期制御装置Vbに対応する突出部36(突出部)を、実施形態と同様に下部に潤滑油貯留部Sと、下側に開放する開放部Tとを備えて構成し、開放部Tから送り出された潤滑油をタイミングチェーン9の近傍に案内するように単一の誘導体37をタイミングチェーン9に近接配置する。このとき、誘導体37は、チェーンカバー10から離間するにつれて重力方向に向かう姿勢で形成されている。
【0069】
この別実施形態(b)では、実施形態のように誘導体37の一部を切り欠いてチェーン通過空間38を形成したものと比較して形状は異なるものの、誘導体37は下側に滑らかに湾曲し、且つ、傾斜姿勢で成形されているので、誘導体37の端部をタイミングチェーン9が通過する領域の近傍に配置することで、タイミングチェーン9に対して良好に潤滑油を供給できる。
【0070】
(c)突出部36は、円筒に限らず、回転軸芯より下側に配置される半円形のものや、多角形の一部の形状であっても良い。つまり、突出部36は、回転軸芯Xを中心にして所定の幅で形成される円弧状の領域に含まれ、潤滑油を貯留し得る形状であれば、どのような形のものでも良い。
【0071】
特に、吸気側の突出部36は、吸気側回転軸芯Xaを中心とする円周状に形成しても良い。つまり、下側に膨らむ領域を形成しなくとも吸気側回転軸芯Xaより下側の円弧状領域に潤滑油貯留部Sを形成することが可能である。これと同様に、吸気側の突出部36は、本来、吸気側弁開閉時期制御装置Vaの方向に開放する構造であるため、吸気側回転軸芯Xaより下側の円弧状領域の端部で開放部Tが形成することが可能となる。
【0072】
(d)タイミングチェーン9に潤滑油を供給するため、チェーンカバー10の縦壁部の内面に突出部36だけを備えた構成を用いても良い。更に、タイミングチェーン9に潤滑油を供給するため、突出部36と誘導体37とを用いることも考えられる。
【0073】
つまり、実施形態に記載したように誘導体37を用い、誘導体37にチェーン通過空間38を形成する構成では、タイミングチェーン9に対して極めて効率的に潤滑油を供給できるものの、例えば、充分な量の潤滑油が排出される弁開閉時期制御装置Vが用いられるものでは、誘導体37だけを用いることも可能である。
【0074】
(e)
図10、
図11に示すように、突出部36を、チェーンカバー10と一体的に形成し、誘導体37をチェーンカバー10と一体的に形成する。
図10、
図11は、
図4、
図5に対応する断面図であり、突出部36と誘導体37との夫々をダイカストによってチェーンカバー10と一体的に形成している。
【0075】
この別実施形態(e)では、
図10に示す吸気側弁開閉時期制御装置Vaに対応する突出部36と誘導体37とが、吸気側回転軸芯Xaに沿う方向視で
図3の右側に示す構成と同様の形状であり、
図11に示す排気側弁開閉時期制御装置Vbに対応する突出部36と誘導体37とが、排気側回転軸芯Xbに沿う方向視で
図3の左側に示す構成と同様の形状となる。
【0076】
このように構成することにより、突出部36、あるいは、誘導体37を形成するための専用の部材を必要とせず、これらを高い強度で形成し、位置精度を高め、部品数の低減を実現する。
【0077】
(f)上記実施形態の吸気側弁開閉時期制御装置Vaにおける突出部36等による潤滑油供給構造は、排気側弁開閉時期制御装置Vbに適用してもよく、排気側弁開閉時期制御装置Vbにおける突出部36等による潤滑油供給構造は、吸気側弁開閉時期制御装置Vaに適用してもよい。また、吸気側弁開閉時期制御装置Vaと排気側弁開閉時期制御装置Vbとに同じ潤滑油供給構造を適用してもよく、吸気側弁開閉時期制御装置Vaと排気側弁開閉時期制御装置Vbの何れか一方だけに潤滑油供給構造を適用してもよく、組み合わせは任意である。
【0078】
(g)例えば、吸気カムシャフト6と排気カムシャフト7とをギヤで連係し、クランクシャフトからの駆動力を吸気カムシャフト6又は排気カムシャフト7との一方に伝えるように1つタイミングチェーン9を用い、タイミングチェーン9の駆動力が伝えられるカムシャフト(吸気カムシャフト6又は排気カムシャフト7)にバルブの開閉時期を決める弁開閉時期制御装置Vだけを備えたエンジンE(内燃機関)に適用する。
【0079】
この別実施形態(g)のように構成したエンジンEにおいても、チェーンカバー10の内面に、タイミングチェーン9の方向に突出する突出部36を備えることで良好な潤滑を実現する。また、突出部36からの潤滑油を案内する誘導体37を備えることで一層良好な潤滑を実現する。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、タイミングチェーンを覆うチェーンカバーを備えた内燃機関に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 クランクシャフト
6 吸気カムシャフト
7 排気カムシャフト
9 タイミングチェーン
10 チェーンカバー
36 突出部
37 誘導体
38 チェーン通過空間
E エンジン(内燃機関)
S 潤滑油貯留部
T 開放部
V 弁開閉時期制御装置
X 回転軸芯
【手続補正書】
【提出日】2022-03-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関において、クランクシャフトの駆動力を吸気カムシャフトと排気カムシャフトとの少なくとも一方に伝えるタイミングチェーンと、前記吸気カムシャフトまたは前記排気カムシャフトの少なくとも一方のバルブタイミングを設定する弁開閉時期制御装置と、を覆うように取り付け可能なチェーンカバーであって、
前記チェーンカバーは、前記弁開閉時期制御装置から排出される潤滑油を受け止めて前記弁開閉時期制御装置の外周に巻き掛けられた前記タイミングチェーンの方向に案内する突出部を、前記チェーンカバーの内面に有しており、
前記チェーンカバーが取り付けられた状態で、前記突出部が、前記弁開閉時期制御装置の回転軸芯に沿う方向視で前記タイミングチェーンと一部が重複しているチェーンカバー。
【請求項2】
前記突出部が、前記回転軸芯に沿う方向視で前記弁開閉時期制御装置と一部が重複している請求項1に記載のチェーンカバー。
【請求項3】
前記突出部が、前記弁開閉時期制御装置の前記回転軸芯に沿う方向視で前記回転軸芯より下側に潤滑油を前記タイミングチェーンに向けて送り出す開放部を有している請求項1又は2に記載のチェーンカバー。
【請求項4】
前記突出部が、前記開放部から送り出された潤滑油を、前記タイミングチェーンのうち前記弁開閉時期制御装置から下側に延びる領域に導く誘導体を更に備えている請求項3に記載のチェーンカバー。
【請求項5】
前記誘導体が、前記回転軸芯に沿う方向視において、前記回転軸芯よりも重力方向で下側に膨れる形状に成形され、
前記誘導体の一方の端部を前記開放部から排出される潤滑油を受け止める位置に配置し、前記誘導体のうち最も下側に膨れる領域を前記タイミングチェーンに近接して配置している請求項4に記載のチェーンカバー。
【請求項6】
前記誘導体が、一部が切り欠かれたチェーン通過空間を有しており、前記タイミングチェーンは、前記チェーン通過空間を通過している請求項4又は5に記載のチェーンカバー。
【請求項7】
前記誘導体が、前記回転軸芯に沿う方向視において、前記回転軸芯と平行する姿勢の案内軸芯を中心として重力方向で下側に膨らむ円弧状に成形され、
前記誘導体のうち、前記円弧状の領域で下側に最も突出する部位に前記チェーン通過空間が形成されている請求項6に記載のチェーンカバー。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載のチェーンカバーと、
前記クランクシャフトの駆動力を前記吸気カムシャフトと前記排気カムシャフトとの少なくとも一方に伝える前記タイミングチェーンとを備える内燃機関。
【請求項9】
前記吸気カムシャフトまたは前記排気カムシャフトの少なくとも一方のバルブタイミングを設定する前記弁開閉時期制御装置を更に備える請求項8に記載の内燃機関。
【請求項10】
前記弁開閉時期制御装置は駆動側ケースを有し、
潤滑油は、前記駆動側ケースの前面から排出される請求項9に記載の内燃機関。
【請求項11】
前記弁開閉時期制御装置はスプールを有し、
潤滑油は、前記スプールの突出端の近傍から排出される請求項9に記載の内燃機関。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンカバー及び内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クランクシャフトの駆動力を吸気カムシャフトと排気カムシャフトに伝えるタイミングチェーンを備え、タイミングチェーンを覆う位置にチェーンカバーを備えた内燃機関が記載されている。
【0003】
この特許文献1では、オイルポンプから供給された潤滑油を流通させるオイル流路と、潤滑油を噴射する噴射孔とをシリンダブロックに形成すると共に、噴射孔から噴射された潤滑油を、タイミングチェーンが巻回するスプロケットの方向に誘導する誘導溝をチェーンカバーに形成した構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クランクシャフトの駆動力をタイミングチェーンによって吸気カムシャフトと排気カムシャフトに伝える内燃機関では、タイミングチェーンの潤滑も必要とするものであり、特許文献1に記載されるように、オイルポンプからの潤滑油を、シリンダブロックのオイル通路や噴射孔を介してチェーンカバーの誘導溝に供給し、この誘導溝からスプロケットに噴射することも考えられている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるような構成でスプロケットに潤滑油を供給するものでは、オイルを供給するためのオイル通路や噴射孔をシリンダブロックに形成したり、誘導溝をチェーンカバーに形成する加工を必要とするだけでなく、スプロケットに対して充分な量の潤滑油を供給するためにオイルポンプの容量の増大を必要とすることが懸念される。
【0007】
このような理由から、オイル通路や噴射孔を必要とするオイルジェットを用いることなく、チェーンカバーに収容されたスプロケットとタイミングチェーンとに潤滑油を供給し得るチェーンカバー及び内燃機関が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るチェーンカバーの特徴構成は、内燃機関において、クランクシャフトの駆動力を吸気カムシャフトと排気カムシャフトとの少なくとも一方に伝えるタイミングチェーンと、前記吸気カムシャフトまたは前記排気カムシャフトの少なくとも一方のバルブタイミングを設定する弁開閉時期制御装置と、を覆うように取り付け可能なチェーンカバーであって、前記チェーンカバーは、前記弁開閉時期制御装置から排出される潤滑油を受け止めて前記弁開閉時期制御装置の外周に巻き掛けられた前記タイミングチェーンの方向に案内する突出部を、前記チェーンカバーの内面に有しており、前記チェーンカバーが取り付けられた状態で、前記突出部が、前記弁開閉時期制御装置の回転軸芯に沿う方向視で前記タイミングチェーンと一部が重複している点にある。
【0009】
この特徴構成によると、弁開閉時期制御装置から排出された潤滑油を、チェーンカバーの内面の突出部で受け止め、受け止めた潤滑油を弁開閉時期制御装置のタイミングチェーンの方向に案内できる。これにより、タイミングチェーンに対して突出部から潤滑油が供給されることで、潤滑油がタイミングチェーンを潤滑するだけでなく、タイミングチェーンが巻回する複数のスプロケットも潤滑することが可能となる。
従って、オイル通路や噴射孔を必要とするオイルジェットを用いることなく、チェーンカバーに収容されたスプロケットとタイミングチェーンとに潤滑油を供給し得るチェーンカバーが構成された。
【0010】
上記構成に加えた構成として、前記突出部が、前記回転軸芯に沿う方向視で前記弁開閉時期制御装置と一部が重複しても良い。
【0011】
これによると、弁開閉時期制御装置の回転軸芯に沿う方向での一方の端部から排出された潤滑油を突出部で受け止めることができる。
【0012】
上記構成に加えた構成として、前記突出部が、前記弁開閉時期制御装置の前記回転軸芯に沿う方向視で前記回転軸芯より下側に潤滑油を前記タイミングチェーンに向けて送り出す開放部を有しても良い。
【0013】
これによると、突出部の下側の開放部からカムスプロケットの方向に潤滑油を送り出すことが可能となる。
【0014】
上記構成に加えた構成として、前記突出部が、前記開放部から送り出された潤滑油を、前記タイミングチェーンのうち前記弁開閉時期制御装置から下側に延びる領域に導く誘導体を更に備えても良い。
【0015】
これによると、開放部から排出された潤滑油は誘導体に案内されることにより、弁開閉時期制御装置から下側に延びる領域のタイミングチェーンに対して無駄なく供給することが可能となる。
【0016】
上記構成に加えた構成として、前記誘導体が、前記回転軸芯に沿う方向視において、前記回転軸芯よりも重力方向で下側に膨れる形状に成形され、前記誘導体の一方の端部を前記開放部から排出される潤滑油を受け止める位置に配置し、前記誘導体のうち最も下側に膨れる領域を前記タイミングチェーンに近接して配置しても良い。
【0017】
これによると、回転軸芯に沿う方向視において、開放部から排出された潤滑油を誘導体で受け止め、この誘導体において潤滑油は下側に膨れる領域に向けて流れ、誘導体のうち最も下側に膨れる領域からタイミングチェーンに供給できる。
【0018】
上記構成に加えた構成として、前記誘導体が、一部が切り欠かれたチェーン通過空間を有しており、前記タイミングチェーンは、前記チェーン通過空間を通過しても良い。
【0019】
これによると、誘導体を切り欠いて形成したチェーン通過空間にタイミングチェーンが配置されるため、チェーン通過空間の内縁と、このチェーン通過空間に配置されるタイミングチェーンとが極めて近い位置となり、誘導体に流れる潤滑油をタイミングチェーンに対して効率的に供給することが可能となる。
【0020】
上記構成に加えた構成として、前記誘導体が、前記回転軸芯に沿う方向視において、前記回転軸芯と平行する姿勢の案内軸芯を中心として重力方向で下側に膨らむ円弧状に成形され、前記誘導体のうち、前記円弧状の領域で下側に最も突出する部位に前記チェーン通過空間が形成されても良い。
【0021】
これによると、開放部から誘導体に沿って下側に案内された潤滑油が、誘導体の円弧状の領域に沿って流れ、下側に最も突出する部位で流れを抑制することで潤滑油を一時的に貯留することが可能となり、この潤滑油をチェーン通過空間からタイミングチェーンに供給できる。
【0022】
本発明に係る内燃機関の特徴構成は、上記の何れか一つに記載のチェーンカバーと、前記クランクシャフトの駆動力を前記吸気カムシャフトと前記排気カムシャフトとの少なくとも一方に伝える前記タイミングチェーンとを備える点にある。
【0023】
上記構成に加えた構成として、前記吸気カムシャフトまたは前記排気カムシャフトの少なくとも一方のバルブタイミングを設定する前記弁開閉時期制御装置を更に備えても良い。
【0024】
これらの特徴構成によると、弁開閉時期制御装置から排出された潤滑油を、チェーンカバーの内面の突出部で受け止め、受け止めた潤滑油を弁開閉時期制御装置のタイミングチェーンの方向に案内できる。これにより、タイミングチェーンに対して突出部から潤滑油が供給されることで、潤滑油がタイミングチェーンを潤滑するだけでなく、タイミングチェーンが巻回する複数のスプロケットも潤滑することが可能となる。
従って、オイル通路や噴射孔を必要とするオイルジェットを用いることなく、チェーンカバーに収容されたスプロケットとタイミングチェーンとに潤滑油を供給し得る内燃機関が構成された。
【0025】
上記構成に加えた構成として、前記弁開閉時期制御装置は駆動側ケースを有し、潤滑油は、前記駆動側ケースの前面から排出されても良い。
【0026】
上記構成に加えた構成として、前記弁開閉時期制御装置はスプールを有し、潤滑油は、前記スプールの突出端の近傍から排出されても良い。
【0027】
これらによると、弁開閉時期制御装置から排出された潤滑油を、チェーンカバーの内面の突出部で受け止め、受け止めた潤滑油を弁開閉時期制御装置のタイミングチェーンの方向に確実に案内できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】タイミングチェーンの配置を示すエンジンの一部の断面図である。
【
図3】吸気側と排気側との突出部の配置を示す図である。
【
図7】吸気側と排気側との突出部の位置関係と形状とを示す斜視図である。
【
図8】別実施形態(a)の吸気側の突出部の形状を示す斜視図である。
【
図9】別実施形態(b)の排気側の突出部の形状を示す斜視図である。
【
図10】別実施形態(e)でチェーンカバーに一体形成された吸気側の突出部の断面図である。
【
図11】別実施形態(e)でチェーンカバーに一体形成された排気側の突出部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、クランクシャフト1を回転自在に支持するシリンダブロック2の上部にシリンダヘッド3を連結し、シリンダブロック2の複数のシリンダボアにピストン4を往復作動自在に収容し、ピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト1に連結して4サイクル型のエンジンE(内燃機関の一例)が構成されている。
【0030】
このエンジンEは、
図1~
図5に示すように、シリンダヘッド3に吸気カムシャフト6と排気カムシャフト7とを回転自在に支持し、吸気カムシャフト6の吸気側回転軸芯Xa(回転軸芯Xの一例)と同軸芯上に吸気側弁開閉時期制御装置Va(弁開閉時期制御装置Vの一例)を備え、排気カムシャフト7の排気側回転軸芯Xb(回転軸芯Xの一例)と同軸芯上に排気側弁開閉時期制御装置Vb(弁開閉時期制御装置Vの一例)を備えている。吸気カムシャフト6は、吸気バルブ(図示せず)を開閉し、排気カムシャフト7は排気バルブ13を開閉する。
【0031】
このエンジンEは、
図1、
図2に示すように吸気側弁開閉時期制御装置Vaの吸気側カムスプロケット15sと、排気側弁開閉時期制御装置Vbの排気側カムスプロケット21sと、クランクシャフト1の出力スプロケット8とに亘ってタイミングチェーン9を巻回している。また、エンジンEは、吸気側弁開閉時期制御装置Va、排気側弁開閉時期制御装置Vb、タイミングチェーン9の夫々を覆うチェーンカバー10を備えている。更に、エンジンEは、底部に潤滑油を貯留するオイルパン11を備え、シリンダヘッド3を覆う位置にヘッドカバー12を備えている。チェーンカバー10は、アルミニウム合金等で形成された成形物である。
【0032】
図2に示すように、チェーンカバー10の内部空間には、タイミングチェーン9を案内するチェーンガイド31と、タイミングチェーン9に張力を作用させるチェーンテンショナ32とを備えている。
【0033】
このエンジンEは、クランクシャフト1の回転力をタイミングチェーン9によって吸気カムシャフト6と排気カムシャフト7とに伝えるように構成されている。また、吸気側弁開閉時期制御装置Vaが吸気バルブの開閉時期を設定し、排気側弁開閉時期制御装置Vbが排気バルブ13の開閉時期を設定する。
【0034】
〔吸気側弁開閉時期制御装置〕
図4に示すように吸気側弁開閉時期制御装置Vaは、外周に形成された吸気側カムスプロケット15sに巻回するタイミングチェーン9からの駆動力が作用する駆動側ケース15と、この内部に収容され吸気カムシャフト6に連結する従動側ケース16とを、吸気側回転軸芯Xaを中心に相対回転自在に備え、これらの間に内接式の減速機構(図示せず)備えている。
【0035】
この吸気側弁開閉時期制御装置Vaでは、吸気側回転軸芯Xaと同軸芯上に駆動シャフト17aが配置される電動モータ17を有し、この電動モータ17をチェーンカバー10に穿設された第1開口10aに嵌め込む状態で支持している。電動モータ17は、駆動シャフト17aの回転力を減速機構に伝える。
【0036】
この構成では、タイミングチェーン9からの駆動力によって駆動側ケース15が回転する状態において、駆動側ケース15と等しい速度で電動モータ17の駆動シャフト17aを回転させることで、駆動側ケース15と従動側ケース16との相対回転位相を維持し、吸気バルブのバルブタイミング(開閉時期)が維持される。
【0037】
これに対し、駆動側ケース15の回転速度より高速、又は、低速で駆動シャフト17aを回転させることで、駆動側ケース15と従動側ケース16との相対回転位相を進角側、又は、遅角側に変位させ吸気バルブのバルブタイミング(開閉時期)の変更を実現する。
【0038】
〔排気側弁開閉時期制御装置〕
図5に示すように、排気側弁開閉時期制御装置Vbは、外周に形成された排気側カムスプロケット21sに巻回するタイミングチェーン9からの駆動力が作用する駆動側作動体21と、この内部に収容され排気カムシャフト7に連結する従動側作動体22とを、排気側回転軸芯Xbを中心に相対回転自在に備え、これらの間に複数の進角室(図示せず)と、複数の遅角室(図示せず)とを備えている。
【0039】
排気側弁開閉時期制御装置Vbは、外部から作動油が供給される流路が形成され、この流路に供給される作動油を進角室と遅角室との一方を選択して供給するスプール23を、排気側回転軸芯Xbと同軸芯上で、排気側回転軸芯Xbに沿ってスライド移動自在に備えている。
【0040】
このスプール23は、排気側回転軸芯Xbに沿う方向での複数の操作ポジションに操作可能であり、スプリング(図示せず)の付勢力により、チェーンカバー10の方向に向けて突出付勢されている。
【0041】
この排気側弁開閉時期制御装置Vbでは、スプール23の外端に当接することによりスプール23を操作するためのプランジャ25を備えたソレノイドユニット24を有し、このソレノイドユニット24をチェーンカバー10に形成された第2開口10bに一部挿入する状態で支持している。プランジャ25は、排気側回転軸芯Xbと同軸芯で配置され、ソレノイドユニット24は、内部の電磁ソレノイド(図示せず)に供給する電流値の制御によりプランジャ25突出量が制御される。
【0042】
このような構成から、電磁ソレノイドに供給する電流値の制御によってプランジャ25の突出量を調整することで、スプール23を所定の操作ポジションに操作し、作動油の給排により、駆動側作動体21と従動側作動体22との相対回転位相を進角側または遅角側に変化させ、排気バルブ13のバルブタイミング(開閉時期)の設定を実現する。
【0043】
特に、スプール23を操作し、進角室と遅角室との一方に作動油を供給した場合には、進角室と遅角室との何れか他方から排出される作動油が、
図5に矢印Dで示すようにスプール23の突出端の近傍から外部に排出される。
【0044】
このエンジンEでは、オイルパン11に貯留されている潤滑油を、作動油として排気側弁開閉時期制御装置Vbに供給しており、前述したようにスプール23の突出端の近傍から排出される作動油は、
図5、
図6等に示す突出部36によって潤滑油としてタイミングチェーン9に供給される。
【0045】
〔チェーンカバー〕
チェーンカバー10は、シリンダヘッド3の上端部分等から排出される潤滑油、あるいは、弁開閉時期制御装置Vから排出される潤滑油をチェーンカバー10の内部空間で流下させるように機能し、流下した潤滑油はオイルパン11に回収される。
【0046】
吸気側弁開閉時期制御装置Vaは、内部を潤滑した潤滑油が前面(
図4で右側の端部)から排出される。
【0047】
前述したように、排気側弁開閉時期制御装置Vbは、スプール23の操作に伴い、
図5に矢印Dで示すようにスプール23の突出端の近傍(排気側弁開閉時期制御装置Vbの前面)から外部に排出される。
【0048】
このエンジンEでは、吸気側弁開閉時期制御装置Vaから排出され、吸気側弁開閉時期制御装置Vaの回転に伴い遠心力によって飛散する潤滑油を受け止め、吸気側カムスプロケット15sに巻回するタイミングチェーン9に供給するための潤滑油供給構造として、チェーンカバー10の内面に部材を取り付けることにより、吸気側の突出部36をチェーンカバー10の縦壁部の内面に形成している。
【0049】
これと同様に、排気側弁開閉時期制御装置Vbから排出され、排気側弁開閉時期制御装置Vbの回転に伴い遠心力によって飛散する潤滑油を受け止め、排気側カムスプロケット21sに巻回するタイミングチェーン9に供給するための潤滑油供給構造として、チェーンカバー10の内面に部材を取り付けることにより、排気側の突出部36をチェーンカバー10の縦壁部の内面に形成している。
【0050】
図4、
図6に示すように、吸気側の突出部36においては、第1開口10aの開口縁からチェーンカバー10の内方に向けて突出する環状部35が吸気側回転軸芯Xaと同軸芯となる円筒状に形成されている。これと同様に、
図5、
図6に示すように、排気側の突出部36においては、第2開口10bの開口縁からチェーンカバー10の内方に向けて突出する環状部35が排気側回転軸芯Xbと同軸芯となる円筒状に形成されている。これら吸気側と排気側の何れにおいても、環状部35の一部に対して筒状の突出部36が嵌合する状態で支持されている。
【0051】
〔チェーンカバー:吸気側弁開閉時期制御装置に対応する潤滑油供給構造〕
図4、
図6に示すように、潤滑油供給構造として、吸気側の突出部36は、板状材を環状に成形したものであり、その突出端が吸気側弁開閉時期制御装置Vaの駆動側ケース15の一部を覆うように吸気側回転軸芯Xaに沿う方向での突出量が設定されている。尚、板状材は、ステンレス材、アルミ材等の金属に限らず、樹脂の成形物であっても良い。
【0052】
図3に示すように、吸気側の突出部36は、吸気側回転軸芯Xaに沿う方向視において、吸気側回転軸芯Xaより下側を、重力方向で下側に滑らかに膨らませることで吸気側回転軸芯Xaに沿う方向視においてタマゴ型に成形している。この下側に膨らんだ領域が作る空間によって吸気側回転軸芯Xaよりも重力方向で下側に位置する潤滑油貯留部Sを形成し、この潤滑油貯留部Sに集められた潤滑油を一時的に貯留し、吸気側弁開閉時期制御装置Vaに向けて送り出すことが可能な開放部Tを形成している。つまり、開放部Tは、吸気側回転軸芯Xaに沿う方向に開放する部位で形成され、この開放部Tで潤滑油貯留部Sの潤滑油を送り出すことになる。
【0053】
図3、
図5~
図7に示すように、吸気側の突出部36には、開放部Tから吸気側回転軸芯Xaに沿う方向に潤滑油を送る誘導体37が一体的に形成されている(板状材で形成されている)。この誘導体37は、突出部36から供給される潤滑油を、タイミングチェーン9のうち吸気側弁開閉時期制御装置Vaから下側に延びる領域に導くように機能するものである。
【0054】
また、吸気側回転軸芯Xaに沿う方向視において、誘導体37は重力方向で下側に滑らかに膨らむように湾曲している。また、循環するタイミングチェーン9が含まれる仮想平面と、誘導体37のうちタイミングチェーン9に潤滑油を送り出す部位とが、互いに交差する位置関係で配置されている。
【0055】
特に、交差する位置関係にある誘導体37の一部を切り欠くことにより、チェーン通過空間38が形成され、このチェーン通過空間38を通過するようタイミングチェーン9が配置されている。尚、誘導体37のうち下側に最も膨らむ位置にチェーン通過空間38が形成されている。
【0056】
この構成から、吸気側弁開閉時期制御装置Vaの前面から潤滑油が排出された場合には、この吸気側弁開閉時期制御装置Vaの回転に伴い遠心力で飛散した潤滑油を吸気側の突出部36で受け止め、吸気側回転軸芯Xaより下側の潤滑油貯留部Sに集められる。
【0057】
このように集められた潤滑油は、開放部Tから誘導体37に送り出され、誘導体37が吸気側弁開閉時期制御装置Vaの吸気側カムスプロケット15sに巻き掛けられたタイミングチェーン9の方向に送られ、チェーン通過空間38に滴下されるため、チェーン通過空間38を通過するタイミングチェーン9に対して近い位置から潤滑油を供給し、良好な潤滑を実現する。
【0058】
〔チェーンカバー:排気側弁開閉時期制御装置に対応する潤滑油供給構造〕
図5、
図6に示すように、潤滑油供給構造として、排気側の突出部36は、板状材を円形に成形したものである。また、排気側回転軸芯Xbに直交する方向視において、排気側の突出部36の突出端が排気側弁開閉時期制御装置Vbにおいてスプール23の突出端を収容する部位を覆うように排気側回転軸芯Xbに沿う方向での突出量が設定されている。尚、板状材は、ステンレス材、アルミ材等の金属に限らず、樹脂の成形物であっても良い。
【0059】
図3に示すように、排気側の突出部36は、排気側回転軸芯Xbに沿う方向視において、
図3、
図7に示すように、排気側回転軸芯Xbより重力方向での下側に、下側に円弧状に膨らむ潤滑油貯留部Sを有しており、この潤滑油貯留部Sの下側を下方に開放する開放部Tを形成している。つまり、開放部Tは、潤滑油貯留部Sの潤滑油を下側に排出するように開放の方向が決められている。
【0060】
図3、
図7に示すように、排気側の突出部36は、開放部Tから下側に送り出される潤滑油を受ける位置に誘導体37を備え、この誘導体37は、突出部36から供給される潤滑油を、タイミングチェーン9のうち排気側弁開閉時期制御装置Vbから下側に延びる領域に導くように機能する。
【0061】
図3、
図5、
図7に示すように、排気側回転軸芯Xbに沿う方向視において、誘導体37は、開放部Tの開口縁の部位で突出部36と連なる板状材で形成されている。また、この誘導体37は、誘導体37は重力方向で下側に滑らかに膨らむように、排気側回転軸芯Xbと平行する姿勢の案内軸芯Yを中心とする円弧状に成形されている。
【0062】
また、循環するタイミングチェーン9が含まれる仮想平面と、誘導体37のうちタイミングチェーン9に潤滑油を送り出す部位とが、互いに交差する位置関係で配置されている。
【0063】
特に、交差する位置関係にある誘導体37の一部を切り欠くことにより、チェーン通過空間38が形成され、このチェーン通過空間38を通過するようにタイミングチェーン9が配置されている。尚、誘導体37のうち下側に最も膨らむ位置にチェーン通過空間38が形成されている。
【0064】
このような構成から、排気側弁開閉時期制御装置Vbの前面から潤滑油が排出された場合には、この排気側弁開閉時期制御装置Vbの回転に伴い遠心力で飛散した潤滑油を排気側の突出部36で受け止め、排気側回転軸芯Xbより下側の潤滑油貯留部Sに集められる。
【0065】
このように集められた潤滑油は、開放部Tから誘導体37に送り出され、誘導体37が排気側弁開閉時期制御装置Vbの排気側カムスプロケット21sに巻き掛けられたタイミングチェーン9の方向に送られ、チェーン通過空間38に滴下される。その結果、チェーン通過空間38に配置されているタイミングチェーン9に対して近い位置から潤滑油を供給し、良好な潤滑を実現する。
【0066】
〔実施形態の作用効果〕
このように、チェーンカバー10の内面に対し、潤滑油供給構造として、突出部36(突出部)を備えるだけで、弁開閉時期制御装置V(吸気側弁開閉時期制御装置Vaと排気側弁開閉時期制御装置Vbとの上位概念)の回転に伴い飛散する潤滑油を、回転軸芯Xを中心とする全周の領域で受け止め、タイミングチェーン9に供給することが可能となり、タイミングチェーン9の潤滑を容易に行える。
【0067】
更に、誘導体37に形成されたチェーン通過空間38をタイミングチェーン9が通過することにより、誘導体37に集められた潤滑油を極めて近い位置からタイミングチェーン9に供給することが可能となる。
【0068】
また、この構成では、例えば、オイルポンプからの潤滑油を、シリンダヘッド3やチェーンカバー10に形成した油路を介して出力スプロケット8に供給する従来の構成と比較すると、シリンダヘッド3やチェーンカバー10に油路を形成する必要がなく、オイルポンプから潤滑油の油量の増大を図るためにオイルポンプの大容量化を必要とすることがない。
【0069】
更に、この構成では、チェーンカバー10の比較的高い位置に配置される弁開閉時期制御装置Vから排出される潤滑油を潤滑油貯留部Sに集めた後にタイミングチェーン9に供給するため、高い位置からタイミングチェーン9に沿って充分な量の潤滑油を供給し、タイミングチェーン9の全体の良好な潤滑を実現する。
【0070】
特に、タイミングチェーン9だけを潤滑するだけでなく、タイミングチェーン9と、チェーンガイド31、あるいは、チェーンテンショナ32との滑動性を高め、更に、タイミングチェーン9と出力スプロケット8との間での摩擦を低減し、エネルギーの無駄な消費を低減できる。
【0071】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0072】
(a)
図8に示すように、吸気側弁開閉時期制御装置Vaに対応する突出部36(突出部)を、実施形態と同様に、下部に潤滑油貯留部Sと開放部Tとを形成し、開放部Tから送り出された潤滑油をタイミングチェーン9の近傍に案内するように単一の舌片状の誘導体37を、突出部36を備え、誘導体37をタイミングチェーン9に近接配置する。
【0073】
この別実施形態(a)では、実施形態のように誘導体37の一部を切り欠いてチェーン通過空間38を形成したものと比較して形状は異なるものの、誘導体37が、下側に滑らかに湾曲するように成形され、誘導体37の端部をタイミングチェーン9が通過する領域の近傍に配置するためタイミングチェーン9に対して良好に潤滑油を供給できる。
【0074】
(b)
図9に示すように、排気側弁開閉時期制御装置Vbに対応する突出部36(突出部)を、実施形態と同様に下部に潤滑油貯留部Sと、下側に開放する開放部Tとを備えて構成し、開放部Tから送り出された潤滑油をタイミングチェーン9の近傍に案内するように単一の誘導体37をタイミングチェーン9に近接配置する。このとき、誘導体37は、チェーンカバー10から離間するにつれて重力方向に向かう姿勢で形成されている。
【0075】
この別実施形態(b)では、実施形態のように誘導体37の一部を切り欠いてチェーン通過空間38を形成したものと比較して形状は異なるものの、誘導体37は下側に滑らかに湾曲し、且つ、傾斜姿勢で成形されているので、誘導体37の端部をタイミングチェーン9が通過する領域の近傍に配置することで、タイミングチェーン9に対して良好に潤滑油を供給できる。
【0076】
(c)突出部36は、円筒に限らず、回転軸芯より下側に配置される半円形のものや、多角形の一部の形状であっても良い。つまり、突出部36は、回転軸芯Xを中心にして所定の幅で形成される円弧状の領域に含まれ、潤滑油を貯留し得る形状であれば、どのような形のものでも良い。
【0077】
特に、吸気側の突出部36は、吸気側回転軸芯Xaを中心とする円周状に形成しても良い。つまり、下側に膨らむ領域を形成しなくとも吸気側回転軸芯Xaより下側の円弧状領域に潤滑油貯留部Sを形成することが可能である。これと同様に、吸気側の突出部36は、本来、吸気側弁開閉時期制御装置Vaの方向に開放する構造であるため、吸気側回転軸芯Xaより下側の円弧状領域の端部で開放部Tが形成することが可能となる。
【0078】
(d)タイミングチェーン9に潤滑油を供給するため、チェーンカバー10の縦壁部の内面に突出部36だけを備えた構成を用いても良い。更に、タイミングチェーン9に潤滑油を供給するため、突出部36と誘導体37とを用いることも考えられる。
【0079】
つまり、実施形態に記載したように誘導体37を用い、誘導体37にチェーン通過空間38を形成する構成では、タイミングチェーン9に対して極めて効率的に潤滑油を供給できるものの、例えば、充分な量の潤滑油が排出される弁開閉時期制御装置Vが用いられるものでは、突出部36だけを用いることも可能である。
【0080】
(e)
図10、
図11に示すように、突出部36を、チェーンカバー10と一体的に形成し、誘導体37をチェーンカバー10と一体的に形成する。
図10、
図11は、
図4、
図5に対応する断面図であり、突出部36と誘導体37との夫々をダイカストによってチェーンカバー10と一体的に形成している。
【0081】
この別実施形態(e)では、
図10に示す吸気側弁開閉時期制御装置Vaに対応する突出部36と誘導体37とが、吸気側回転軸芯Xaに沿う方向視で
図3の右側に示す構成と同様の形状であり、
図11に示す排気側弁開閉時期制御装置Vbに対応する突出部36と誘導体37とが、排気側回転軸芯Xbに沿う方向視で
図3の左側に示す構成と同様の形状となる。
【0082】
このように構成することにより、突出部36、あるいは、誘導体37を形成するための専用の部材を必要とせず、これらを高い強度で形成し、位置精度を高め、部品数の低減を実現する。
【0083】
(f)上記実施形態の吸気側弁開閉時期制御装置Vaにおける突出部36等による潤滑油供給構造は、排気側弁開閉時期制御装置Vbに適用してもよく、排気側弁開閉時期制御装置Vbにおける突出部36等による潤滑油供給構造は、吸気側弁開閉時期制御装置Vaに適用してもよい。また、吸気側弁開閉時期制御装置Vaと排気側弁開閉時期制御装置Vbとに同じ潤滑油供給構造を適用してもよく、吸気側弁開閉時期制御装置Vaと排気側弁開閉時期制御装置Vbの何れか一方だけに潤滑油供給構造を適用してもよく、組み合わせは任意である。
【0084】
(g)例えば、吸気カムシャフト6と排気カムシャフト7とをギヤで連係し、クランクシャフトからの駆動力を吸気カムシャフト6又は排気カムシャフト7との一方に伝えるように1つタイミングチェーン9を用い、タイミングチェーン9の駆動力が伝えられるカムシャフト(吸気カムシャフト6又は排気カムシャフト7)にバルブの開閉時期を決める弁開閉時期制御装置Vだけを備えたエンジンE(内燃機関)に適用する。
【0085】
この別実施形態(g)のように構成したエンジンEにおいても、チェーンカバー10の内面に、タイミングチェーン9の方向に突出する突出部36を備えることで良好な潤滑を実現する。また、突出部36からの潤滑油を案内する誘導体37を備えることで一層良好な潤滑を実現する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、タイミングチェーンを覆うチェーンカバー及び内燃機関に利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 クランクシャフト
6 吸気カムシャフト
7 排気カムシャフト
9 タイミングチェーン
10 チェーンカバー
15 駆動側ケース
23 スプール
36 突出部
37 誘導体
38 チェーン通過空間
E エンジン(内燃機関)
S 潤滑油貯留部
T 開放部
V 弁開閉時期制御装置
X 回転軸芯