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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180003
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】判定装置および型締装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/84 20060101AFI20221129BHJP
   B29C 45/70 20060101ALI20221129BHJP
   B29C 45/64 20060101ALI20221129BHJP
   B22D 17/26 20060101ALI20221129BHJP
   B22D 17/32 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B29C45/84
B29C45/70
B29C45/64
B22D17/26 J
B22D17/26 K
B22D17/32 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086866
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直紀
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 俊彦
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AM04
4F202AM09
4F202AP11
4F202AP18
4F202AQ03
4F202CA11
4F202CB01
4F202CL01
4F202CS01
4F202CS07
4F206AM04
4F206AM09
4F206AP11
4F206AP18
4F206AQ03
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL07
4F206JM02
4F206JN32
4F206JP11
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP15
4F206JP22
4F206JP27
4F206JP28
4F206JQ83
(57)【要約】
【課題】繰り返して生ずる応力に伴う型盤の異常を判定できる装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、型締装置を構成する型盤12,13の疲労状況を判定する装置に関する。この判定装置は、型盤12,13について測定される実応力値の履歴データを記憶する記憶部45と、実応力値の履歴データを表示する表示部41と、測定される実応力値について判定を行う判定部49と、を備える。判定部49は、測定される前記実応力値が予め定められる許容応力値を超えるか否かの第1判定を行う。表示部41は、第1判定において、許容応力値を超えると判定された実応力値に関する履歴データを表示可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
型締装置を構成する型盤の疲労状況を判定する装置であって、
前記型盤について測定される実応力値の履歴データを記憶する記憶部と、
前記実応力値の履歴データを表示する表示部と、
測定される前記実応力値について判定を行う判定部と、を備え、
前記判定部は、
測定される前記実応力値が予め定められる許容応力値を超えるか否かの第1判定を行い、
前記表示部は、
前記第1判定において、前記許容応力値を超えると判定された前記実応力値に関する前記履歴データが表示可能である、
ことを特徴とする前記型盤の判定装置。
【請求項2】
前記記憶部は、
前記履歴データが蓄積されてからの、前記実応力値が前記許容応力値を超えた実回数を記憶し、
前記判定部は、
前記実回数が予め定められる許容回数を超えるか否かの第2判定を行い、
前記表示部は、
前記判定部による前記第2判定の結果に基づいて、警告を表示する、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記表示部に表示される前記履歴データは、
前記実回数、および、前記許容回数に対する前記実回数の比率の一方または双方を含む、請求項2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記表示部における前記履歴データの表示は、外部からの要求に基づいてなされ、
前記表示部における前記警告の表示は、前記第2判定において、前記実回数が予め定められる前記許容回数を超えるものと判定されてから所定の期間内になされる、
請求項2または請求項3に記載の判定装置。
【請求項5】
固定金型を支持する固定型盤と、
可動金型を支持する可動型盤と、
前記固定型盤および前記可動型盤の疲労状況を判定する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の判定装置と、を備える、
ことを特徴とする型締装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機、ダイカストマシンなどの成形装置に適用される型締装置に関し、特に型締装置を構成する型盤に関する。
【背景技術】
【0002】
型締装置は、成形時に位置が固定される固定型盤と、固定型盤に対して前後進する可動型盤と、を備える。固定型盤および可動型盤にはそれぞれ固定金型および可動金型が取り付けられ、固定金型と可動金型の間に形成されるキャビティに被成形材である溶融樹脂(射出成形機)、溶融金属(ダイカストマシン)が供給される。
【0003】
型締装置について、正常な動作をさせることを目的として、歪(ひずみ)を測定することが行われている。
例えば、特許文献1は、固定型盤の背面側の複数箇所に歪ゲージを貼り付けて、予め、正常に金型の型締めが行われた場合の複数箇所の歪を測定し、その歪を基準値とする。そして、実際の作業における型締めの際に歪を測定して、その実測歪と基準歪を比較し、両者の差が予め設定されている上限値を超えた時に、型締めを不良と判定する。
また、特許文献2は、型締装置を構成する複数のタイバーの軸方向の荷重を検出し、その荷重の軸間のばらつきが、予め設定されたばらつき許容値を超過すると警報を発生させる射出成形機の型締異常検出方法を開示する。
さらに、特許文献3は、固定金型に設けた歪ゲージで検出される歪量が弾性限界以下である設定値を超えると、型締装置の作動を停止することを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-291061号公報
【特許文献2】特公平1-45409号公報
【特許文献3】特開2006-102783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~特許文献3によれば、型締装置に生じる応力を検知することで、固定型盤および可動型盤を含む型盤の破損を防止できる。しかし、特許文献1~特許文献3によれば過大な応力を検知できるが、それは検知する時点の一時的なものにすぎず、型締装置の継続的な使用に対応するものではない。これによると基準歪を素材の一発破壊レベルの値とした場合、実測歪が基準歪に達した時点で既に型盤に大きなダメージが発生してしまっている恐れがある。この場合は成形機を即時に停止する必要がある。しかし、基準歪を一発破壊よりも十分に低い値とした場合は、実測歪が基準歪に達した時点では型盤のダメージは殆ど発生していない。しかし特許文献1~特許文献3によれば、型盤にダメージが発生していない場合であっても、1回でも実測値が基準値に到達すると異常を検知したことに基づく警告などを発することになる。ところが、型盤にダメージが発生しないような、あるいは成形機の通常の運転ばらつきのような、何ら不都合のない状態が発生した場合でも、その都度、警告などを発することになる。この場合は、オペレータは型締装置を放っておいてもよい状態にもかかわらず、いちいち作業を止めてまたは成形機を止めて対応しなければならず作業性、生産性を悪化させてしまう。また、一般に鋳物で製造される型盤の破損形態の一つとして繰り返して生ずる応力に伴う疲労破壊もあるが、疲労破壊の原因である疲労応力によって発生する歪は一発破壊よりも十分に低い値である。つまり特許文献1~特許文献3によって疲労破壊の一端を認識することができるが、上記の通り作業性、生産性を悪化させてしまう恐れがある。
【0006】
以上より、本発明は、繰り返して生ずる応力に伴う型盤の異常リスク、つまり疲労破壊が発生する以前に判定し警告を発することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の判定装置は、型締装置を構成する型盤の疲労状況を判定する。
この判定装置は、型盤について測定される実応力値の履歴データを記憶する記憶部と、実応力値の履歴データを表示する表示部と、測定される実応力値について判定を行う判定部と、を備える。
判定部は、測定される実応力値が予め定められる許容応力値を超えるか否かの第1判定を行う。
表示部は、第1判定において、許容応力値を超えると判定された実応力値に関する履歴データを表示可能とする。
【0008】
本発明に係る記憶部は、好ましくは、履歴データが蓄積されてからの、実応力値が許容応力値を超えた実回数を記憶する。
また、判定部は、好ましくは、実回数が予め定められる許容回数を超えるか否かの第2判定を行う。
さらに、表示部は、好ましくは、判定部による第2判定の結果に基づいて、警告を表示する。
【0009】
本発明に係る表示部に表示される履歴データは、好ましくは、実回数、および、許容回数に対する前記実回数の比率の一方または双方を含む。
【0010】
本発明の判定装置において、好ましくは、表示部における履歴データの表示は、外部からの要求に基づいてなされ、表示部における警告の表示は、第2判定において、実回数が予め定められる許容回数を超えるものと判定されてから所定の期間内になされる。
【0011】
本発明の型締装置、固定金型を支持する固定型盤と、可動金型を支持する可動型盤と、固定型盤および可動型盤の疲労状況を判定する、以上で説明したいずれかの判定装置と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の判定装置によれば、実測応力値が許容応力値を超えている過去の履歴データを表示部に表示できる。この表示を参照するオペレータ、その他の関係者らは、履歴データに基づいて固定型盤および可動型盤の疲労状況を認識できる。これにより、当該関係者らは、固定型盤および可動型盤の歪を低減させて疲労を軽減させるために型締力の低減対策や、異常が発生していないかの点検、または、固定盤および可動盤の交換の事前の手配など、型締装置のメンテナンス準備を怠りなく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る型締装置の概略構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る型締装置の異常判定機能を備える制御部の構成を示す図である。
図3】制御部の記憶部に記憶される履歴データの例を示す図である。
図4】記憶部に記憶される履歴データの中から、許容歪量を超えた実測歪量を抜き出して表示する例を示す図である。
図5】記憶部による視覚的な警告表示の例を示す図である。
図6】制御部の判定部による異常判定の手順の例を示す図である。
図7】履歴データの他の例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る型締装置10について説明する。以下では、一例として、射出成形機に適用される型締装置10について説明する。
【0015】
[型締装置10の機械的な構成:図1
図1に示すように、型締装置10は、ベースフレーム11の一端側上面には固定金型14が保持される固定型盤12が固設されている。
ベースフレーム11の他端側上面には固定型盤12に対向して可動金型15を保持する可動型盤13が進退移動可能に配設される。ベースフレーム11上には、ガイドレール26が敷設されており、このガイドレール26にガイドされるリニアベアリング27が、台座28を介して可動型盤13を支持している。
【0016】
固定型盤12および可動型盤13には、それぞれが歪ゲージからなる第1センサ31と第2センサ33が設けられている。図1においては、その存在が明確な位置に設けられているが、好ましくは、型締装置10の動作時に固定型盤12および可動型盤13において変形の大きな部位に設けられる。変形の大きな部位としては、例えば、固定型盤12および可動型盤13のそれぞれ四隅に配置された油圧型締シリンダ18同士を結ぶ対角線上が好ましい。この場合、対角線に沿うようにまたは対角線と平行にリブを備え、この対角リブに歪ゲージを設けることが好ましい。ここで、対角の位置に配置される四台の油圧型締シリンダ18は、これら油圧型締シリンダ18に取り囲まれる領域の中央に配置される金型(固定金型14および可動金型15)の外側からこれら金型をその軸線方向に圧縮する型締力を作用させる様態となるため、該対角線上の撓み歪が最も大きくなる。このため、該対角線に沿うようにまたは対角線と平行に備えられた対角リブには、型盤(固定型盤12および可動型盤13)に作用する撓み応力が伝達されるので、この対角リブに歪ゲージを備えることによって、型盤に作用する撓み応力を精度よく検知することができる。また、ここでは固定型盤12に第1センサ31を一つだけ設け、可動型盤13に第2センサ33を一つだけ設ける例を示すが、固定型盤12および可動型盤13のそれぞれに複数の第1センサ31および第2センサ33を設けることもできる。第1センサ31および第2センサ33による固定型盤12および可動型盤13の歪の測定は、連続的に行うこともできるし、断続的に行うこともできる。
【0017】
固定型盤12にはストロークが小さくかつ断面積の大きな4基の油圧型締シリンダ18が、その四隅に設けられている。油圧型締シリンダ18の中を摺動するラム16はその一側面にそれぞれタイバー17が連結され、このタイバー17は対向する可動型盤13が型締めのため近づいてきたとき、可動型盤13に開けられた4個の挿通孔を貫通する。
油圧型締シリンダ18には、油圧機構35が接続されている。油圧機構35は、制御装置40の指示に基づいて、油圧型締シリンダ18の型締側室18a、型開側室18bへ作動油を供給する。
【0018】
可動型盤13の移動手段は、サーボモータ22により動力伝達ギア23、24を介して駆動されるボールねじ軸25により構成される。ボールねじ軸25は、可動型盤13の移動方向に平行に設置され、固定型盤12に保持される軸受箱20によって回転可能に、かつ軸方向を拘束して支えられるとともに、可動型盤13に保持されたボールねじナット21とによって回転可能に支えらる。ボールねじ軸25は、図示しない制御装置によりサーボモータ22を介して、回転数、回転速度が制御される。
各タイバー17の先端部は、それぞれ等ピッチの複数のリング溝部(又は雄ねじ)が形成されている。可動型盤13の反金型側面には、各タイバー17のリング溝部と噛合するリング状内側溝(雌ねじ)を備える割りナット29が設けられる。
【0019】
[制御装置40:図1図2図3図4図5
型締装置10は、型締装置10の動作・機能を司る制御装置40を備える。
型締装置10の動作として、固定金型14と可動金型15が離間した状態である型開状態から、可動型盤13を固定型盤12の方向に移動させて固定金型14と可動金型15を密着させた後、所定の型締力を負荷する型締め完了までの動作が該当する。また、制御装置40の機能として、型締めを終えてからの型締状態中の型盤における実測歪量Enを記憶するとともに、記憶される実測歪量Enと許容歪量Etに基いて固定型盤12および可動型盤13に機械的な異常が生ずる可能性があるか否かを判定する。
【0020】
[制御装置40の構成:図2
制御装置40は、図2に示すように、必要な情報を表示するための表示部41と、オペレータにより操作され、例えば金型厚さ情報や型締力情報等の入力を受け付ける入力部43とを備える。制御装置40は、成形するのに必要な各種の情報を記憶する記憶部45と、型締装置10の各動作の指示をする指示部47と、機械的な異常が生ずる可能性があるか否かを判定する判定部49とを備えている。なお、ここでは判定部49の存在を明確にするため指示部47と独立させているが、判定部49の機能を併せ持った指示部47とすることもできる。この制御装置40は、コンピュータ装置で構成され、入力部43はソフトキー又はハードキーからなり、表示部41は例えばLCD(Liquid Crystal Display)からなる。
【0021】
[記憶部45:図3
記憶部45は、型締状態において第1センサ31および第2センサ33から送られる各成形サイクルにおける型締時の実測歪量Enを記憶する。実測歪量Enの測定は、型締工程中の型盤の歪量を時間経過とともに連続して計測してもよいし、型締昇圧完了から型締降圧までの任意のタイミングに1回のみ測定してもよいし、あるいは複数回計測して最高値あるいは平均値を選択してもよい。第1センサ31から送られる実測歪量Enは固定型盤12に関するものであり、第2センサ33から送られる実測歪量Enは可動型盤13に関するものである。なお、nは一例として0を含む正の整数である。図3は記憶部45に記憶、蓄積される実測歪量En(履歴データ)を表形式で表している。固定型盤12に関するものと可動型盤13に関するものを区別するために、前者を実測歪量ΕAnと表記し、後者を実測歪量ΕBnと表記している。
【0022】
実測歪量ΕAn,ΕBnは、図3に示すように、測定された日時および型締回数と対応して記憶される。ここに示される実測歪量ΕAnは、古い順にΕA00,ΕA01,ΕA02,ΕA03…と記号化され、実測歪量ΕBnは、古い順にΕB00,ΕB01,ΕB02,ΕB03…と記号化されているが、実際に記憶される歪量は無次元の値でもよいし長さの次元をもつ値でもよい。
なお、型締回数は、型締装置10の手動運転または自動運転にかかわらず、型閉後の型締昇圧を行った回数であることが好ましい。例えば図3において、固定型盤12の実測歪量ΕA00が計測された型締め時の型締回数は「N」である。これは実測歪量ΕA00が計測された型締め時が、初めて型締昇圧を行ってからの型締回数が「N」回目であることを示している。
【0023】
よく知られているように、歪は加わる応力により生ずる。したがって、ここでは実測歪量Enを対象とするが、実測応力(σn)を対象にすることもできる。したがって、本実施形態において、実測歪量Enと実測応力(σn)の双方を含めて、実応力値と定義される。また、実測歪量En、実測応力(σn)と比較されるべき許容歪量Et、許容応力σtも同様であり、双方を含めて許容応力値と定義される。
【0024】
図3の履歴データは、固定型盤12の実測歪量ΕAnおよび可動型盤13の実測歪量EBnのそれぞれについて、許容歪量Et(EAt,EBt)と比較した結果をも含む。この比較結果は、実測歪量En(ΕAn,EBn)が許容歪量Et(EAt,EBt)を超えているか否か(En>Et)を示すものである。ここで、許容歪量Etは、固定型盤12および可動型盤13に疲労破壊につながる大きな歪が生じたか否かを判定するための基準値である。履歴データにおいて、当該実測歪量Enが許容歪量Etを超えていれば、比較指数を「1」、実測歪量Enが許容歪量Et以下であれば比較指数を「0」と記憶装置45に記憶する。この実測歪量(実応力値)Enが許容歪量(許容応力値)Etを超えているか否かの判定(第1判定)は、判定部49において行われる。
【0025】
許容歪量Etは、記憶部45に記憶される。この許容歪量Etは、実測歪量ΕAnと実測歪量ΕBnの双方に共通して適用されるものとしてもよいし、実測歪量ΕAnに適用される実回数TAnと実測歪量ΕBnに適用される実回数TBnというように個別に適用してもよい。一例として、固定型盤12と可動型盤13の曲げ剛性の差異が小さければ共通の実回数Tnが適用されるのに対して、固定型盤12と可動型盤13の曲げ剛性の差異が大きければ個別の実回数TAn,実回数TBnが適用される。
【0026】
図3の履歴データは、固定型盤12の実測歪量ΕAnおよび可動型盤13の実測歪量EBnのそれぞれについて許容歪量Etを超えた合計の回数である実回数Tnを含む。この実回数Tnは、固定型盤12および可動型盤13それぞれに対応する実回数TAnおよび実回数TBnがある。例えば図3において、固定型盤12の実回数TAnは、実測歪量ΕA00から実測歪量ΕA02までは「n」である。これは実測歪量ΕA00が計測される以前において、実測歪量ΕAnが許容歪量Etを超えた回数がn回であることを示している。実測歪量ΕA03において許容歪量Etを超えたと判定部49が判定したため、判定部49はカウントアップし記憶装置45に記憶された実回数Tnに「1」を加算し「n+1」とし実回数Tnを更新されたことを示している。同様に、実測歪量ΕA10において許容歪量Etを超えて、その分の「1」が加算されて「n+2」となったことを示している。EBn、TBnについても同様である。
【0027】
実回数Tn(TAn)は、後述するように、許容回数Ttと比較される。この許容回数Ttは、固定型盤12および可動型盤13に疲労破壊につながる大きな歪が生じたか回数が限度に達したか否かを判定(第2判定)するための基準値である。許容回数Ttは、記憶部45に記憶される。許容回数Ttは、実回数TAnおよび実回数TBnに共通して適用されるものとしてもよいし、実回数TAnに適用される許容回数TAtと実回数TBnに適用される許容回数TBtというように個別に適用してもよい。
【0028】
また、記憶部45は、以上の履歴データの他に、サーボモータ22、油圧機構35などの型締装置10の駆動要素の動作を指示するのに必要な情報、その他の情報を記憶する。
【0029】
[指示部47:図4図5
指示部47はオペレータからの指示、選択にしたがって、記憶部45に記憶されている種々の情報を読み出して、動作指令情報を生成する。
加えて、指示部47は、オペレータからの指示にしたがって、図3の履歴データから実測歪量Enが許容歪量Etを超えている、つまり許容歪量Etとの比較指数が「1」の過去の履歴データを抜き出して、表示部41に表示させる。この履歴データは、例えば図4に示すように表示部41に表示される。オペレータは、この履歴テータを参照することにより、固定型盤12および可動型盤13の疲労状態を認識できる。
さらに、記憶部45に履歴データとともに記憶された測定日時と型締回数は、疲労状態の評価には用いないが、保全点検時や万一の疲労破壊発生後に、測定日時と対比して疲労状態を確認することで、その疲労状態に達するまでに要した期間を把握することができる。
または、型締回数と対比して疲労状態を認識することで、その疲労状態に達するまでに要した型締回数を把握することができる。機械稼働率や生産サイクルの違いにより一定期間の生産量の違いが大きい場合は、前記の測定日時との対比よりも、前記の型締回数との対比することが好ましい。これにより、例えば長期の機械停止の場合と、稼働率が高く生産数が多い場合の比較においても、型締回数で対比することで、より正確な疲労状態の把握ができる。
【0030】
なお、図4は、実測歪量En、許容歪量Etとの比較結果および実回数Tnが表示されているが、例えば、実測歪量En、比較結果および実回数Tnのいずれか一つだけを表示させることもできる。オペレータであれば、これらのいずれか一つだけでも固定型盤12および可動型盤13の疲労状態を認識できる。
【0031】
また、指示部47は、次に説明する判定部49における判定結果に基づいて、表示部41に警告を表示させる。この警告表示は、例えば図5に示すように表示部41に表示される。オペレータは、この警告表示を参照することにより、固定型盤12および可動型盤13の疲労状態の進捗度合いと、疲労破壊が生じるリスク度合いを認識するとともに、固定型盤12および可動型盤13に対するメンテナンスを行う起点となる。
なお、図5の例示は、固定型盤12については実回数Tnか許容回数Ttに達しおり、可動型盤13については実回数Tnか許容回数Ttに達していない例を示しているが、固定型盤12および可動型盤13の双方については実回数Tnか許容回数Ttに達していることもある。
【0032】
なお、図5には表示部41に所定の表示をすることにより視覚に届ける警告を行う例を示したが、制御装置40が備えているスピーカを介して聴覚に届ける警告をともなうこともできるし、聴覚に届ける警告だけを行うこともできる。また、ここでは型締装置10に制御する制御装置40を介して警告を行う例を示すが、例えば複数の射出成形機を集中的に監視する装置が存在する場合には、型締装置10に制御する制御装置40からこの集中監視装置に通信を介して警告を表示させることもできる。
【0033】
[判定部49:図6
判定部49は、一例として、図6に示す手順に基づいて、実回数Tnを許容回数Ttと比較して、固定型盤12および可動型盤13に過大な歪が生じた回数が限度に達したか否かを判定(第2判定)するとともに、警告の発出を判定する。この手順の具体例については、型締め完了後の成形動作の欄で説明する。
【0034】
[型締め完了までの動作:図1
制御装置40による型締め完了までの動作について図1を参照して説明する。
図1の固定金型14、可動金型15が開いた状態、即ち、実線で示すように、可動型盤13が充分に固定型盤12から離れた状態から、2点鎖線で示すように固定金型14と可動金型15が閉となるまで、可動型盤13はサーボモータ22で駆動されるボールねじ軸25の回転によって移動する。可動型盤13はこの過程でゆっくり加速し、一定速度で移動した後、減速して固定金型14が可動金型15に当接させる。
【0035】
この可動型盤13の停止位置で割りナット29が作動して割りナット29の内側リング溝がタイバー17の先端部のリング溝と係合してタイバー17と割りナット29とが結合する。
【0036】
タイバー17と割りナット29とが結合された後、油圧機構35を動作させて油圧型締シリンダ18の型締側室18aを昇圧して圧縮型締めを行う。例えば、キャビティ内で発生する溶融樹脂圧力の重心が型締装置10の中心よりも低い位置にある場合、前述したように、上側のタイバー17による型締力よりも下側のタイバー17による型締力を大きくしてもよい。
このようにして型締めが完了した後に、射出バレル30から固定金型14と可動金型15とで形成されるキャビティ内に溶融樹脂を射出して成形品を成形する。
【0037】
[型締め完了後の成形動作:図1図3図6
型締めが完了すると、判定部49は第1センサ31および第2センサ33で測定される固定型盤12および可動型盤13の実測歪量ΕAn,ΕBnを取得する(図6 S101)。なお、図6において、実測歪量ΕAn,ΕBnは実測歪量Enとまとめて表記されている。他の許容歪量EAt,EBtなども同様である。
【0038】
判定部49は、実測歪量ΕAn,ΕBnを取得すると、それぞれの許容歪量EAt,EBtとの大小関係を比較する(図6 S103,第1判定)。実測歪量ΕAn,ΕBnのそれぞれが許容歪量EAt,EBtより大きければ(図6 S103 Y)、許容歪量EAt,EBtより大きいことと関連付けて実測歪量ΕAn,ΕBnを記憶部45にその値を記憶する(図6 S105)。記憶されるデータの蓄積が図3に示される通りであり、図3の比較指数「1」が関連付けを表している。実測歪量ΕAn,ΕBnのそれぞれが許容歪量EAt,EBt以下であれば(図6 S103 N)、当該関連付けを行わないで実測歪量ΕAn,ΕBnを記憶部45に記憶する。判定部49は、新たに取得する実測歪量ΕAn,ΕBnと許容歪量EAt,EBtとの大小関係を継続して比較して、以上と同様に比較結果を記憶部45に記憶する(図6 S101,S103,S105)。なお、記憶装置45の容量が十分に大きければ、実測歪量ΕAn,ΕBnのそれぞれが許容歪量EAt,EBt以下の場合でも、実測歪量ΕAn,ΕBnを記憶部45に記憶してもよい。
【0039】
判定部49は、許容歪量EAt,EBtよりも大きい実測歪量ΕAn,ΕBnの実回数TAn,TBnをカウントする(図6 S107)。カウントの結果は、図3の実回数Tnの欄に示すとおりである。
判定部49は、実回数TAn,TBnをカウントすると、記憶部45に記憶されている許容回数TAt,TBtと大小関係(Tn>Tt)を比較する(図6 S109,第2判定)。実回数TAn,TBnが許容回数TAt,TBtを超えていれば(図6 S109 Y)、表示部41に警告を表示するように、指示部47に通知する(図6 S111)。指示部47はこの通知に基づいて、例えば図5に示す警告を表示部41に表す。
以上の手順(S101~S111)は、予め定められる成形サイクルが終了するまで(S113 Y)まで継続される。
【0040】
[効 果]
以上説明した型締装置10によれば以下の効果を奏する。
型締装置10は、実測歪量Enが許容歪量Etを超えている過去の履歴データを表示部41に表示できる。この表示を参照するオペレータ、その他の関係者らは、履歴データに基づいて固定型盤12および可動型盤13の疲労状況を認識できる。これにより、当該関係者らは、固定型盤12および可動型盤13の歪を低減させて疲労を軽減させるために型締力の低減対策や、異常が発生していないかの点検、または、固定盤12および可動盤13の交換の事前の手配など、型締装置10のメンテナンス準備を怠りなく行える。
【0041】
また、型締装置10は、実回数Tnか許容回数Ttに達しているか否かの判定に基づいて、固定型盤12および可動型盤13に疲労破壊が生じ得ることの警告を発出する。この警告を参照する関係者らは、警告に基づいて、固定型盤12および可動型盤13の歪を低減させて疲労を軽減させるために型締力の低減対策や、異常が発生していないかの点検、または、固定盤12および可動盤13の交換を行うことができるので、現実に固定型盤12および可動型盤13に疲労破壊が生ずるのを防止できる。
【0042】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることができる。
型締装置10の構成はあくまで一例に過ぎず、例えば型締装置10においては回転駆動力をボールねじ軸25により可動型盤13の往復移動に変換して型締めおよび型開きが行われるが、本発明の型閉じおよび型開きの駆動機構はこれに限らない。例えば、トグルリンク機構を用いて型閉じおよび型開きを行ってもよい。
【0043】
記憶部45に記憶される歪データ(図3)は、他のデータを含んでいてもよい。例えば、図7に示すように、実回数Tnに加えて、許容回数Ttに対する実回数Tnの比率を含むことができる。そして、この比率を、過去の履歴データとして指示部47に表示させることができる。この比率に関する表示を参照するオペレータおよびその他の関係者は、許容回数に達するまでの期間を直感的に認識しやすい。
【0044】
記憶部45に記憶される歪データに基づく履歴テータは、オペレータの指示に限らず、表示部41に表示させることができる。例えば、型締めの動作が始まる前に表示させる、特定の時刻に表示させる、など、時間的に任意に表示させることができる。
【0045】
記憶部45に記憶される歪データとして、実測歪量Enを含んでいるが、フックの法則により歪から応力が直接的に求められる。したがって、歪データの実測歪量Enを実測応力(σn)に代えてもよいし、歪データが実測歪量Enと実測応力(σn)の双方を含んでもよい。実測応力(σn)を含む場合には、許容応力(σt)が用意され、実測応力(σn)と許容応力(σt)とが比較される。
【0046】
疲労破壊のリスクの評価は、既知の疲労評価方法により行うことができるが、特に線形累積損傷則(マイナー則)によって評価することが好ましい。通常、型締力は成形する成形品によって異なるため、成形品が変わると型締時に発生する型締力(型盤の歪量)が変わる。この場合、型盤の歪量が大きくなる成形品もあれば型盤の歪量が小さくなる成形品もある。疲労破壊は運転上の荷重履歴において発生する最大応力値が疲労限界を超えた状態で繰り返し動作する場合だけに発生するのではなく、繰り返し応力のピーク値が大小変動する状態で繰り返し動作する場合であっても疲労破壊は進行する。この場合、応力履歴における最大応力値が疲労限界値に達した回数のみで疲労度合いを評価すると、疲労破壊の進行度合いを見誤る恐れがある。よって、荷重履歴において発生する最大応力値に対応する許容応力値、許容回数を一定値に定めるのではなく、線形累積損傷則を用いて不規則に変動する実応力値を累積し疲労損傷度疲で表すことで、疲労破壊までの寿命を精度よく予測することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 型締装置
11 ベースフレーム
12 固定型盤
13 可動型盤
14 固定金型
15 可動金型
16 ラム
17 タイバー
18 油圧型締シリンダ
18a 型締側室
18b 型開側室
20 軸受箱
21 ボールねじナット
22 サーボモータ
23 動力伝達ギア
25 ボールねじ軸
26 ガイドレール
27 リニアベアリング
28 台座
29 割りナット
30 射出バレル
31 第1センサ
33 第2センサ
35 油圧機構
40 制御装置
41 表示部
43 入力部
45 記憶部
47 指示部
49 判定部
En,ΕAn,ΕBn 実測歪量
Et,EAt,EBt 許容歪量
Tn,TAn,TBn 実回数
Tt,TAt,TBt 許容回数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7