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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180014
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/14 20060101AFI20221129BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F16C3/14
F16C17/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086890
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐一
(72)【発明者】
【氏名】多田 博
(72)【発明者】
【氏名】高木 裕史
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕紀
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA07
3J011BA02
3J011KA02
3J011MA03
3J011NA01
3J011PA02
3J033AA02
3J033BA01
3J033CD02
3J033EB04
3J033GA02
3J033GA05
3J033GA11
(57)【要約】
【課題】クランクシャフトを回転可能に支持する軸受け部の異音の発生を抑制することが可能な内燃機関を提供する。
【解決手段】直列に配置された6つの気筒を有する内燃機関であって、両端および隣接する気筒間に対応する位置に設けられた7個のジャーナル部J1~J7を有し、各気筒のピストン14の往復運動により回転するクランクシャフト20と、クランクシャフト20のジャーナル部J1~J7を支持する7個の軸受けにそれぞれ設けられ、ジャーナル部J1~J7を回転可能に支持するベアリングメタルと、を備え、ジャーナル部J2,J3,J5,J6を支持するロアベアリングメタル24bの少なくとも1つには、凹状または孔状のオイル溜まり30が設けられ、ジャーナル部J1,J7を支持するロアベアリングメタルには、オイル溜まり30が設けられていない内燃機関が提供される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に配置された6つの気筒を有する内燃機関であって、
両端および隣接する気筒間に対応する位置に設けられた7個のジャーナル部を有し、各気筒のピストンの往復運動により回転するクランクシャフトと、
前記クランクシャフトの前記ジャーナル部を支持する7個の軸受けにそれぞれ設けられ、前記ジャーナル部を回転可能に支持するベアリングメタルと、を備え、
前記ベアリングメタルは前記ジャーナル部の上側に位置するアッパベアリングメタルと前記ジャーナル部の下側に位置するロアベアリングメタルとから構成され、
前記クランクシャフトの一端から2番目、3番目、5番目、および6番目の前記ジャーナル部を支持する前記ロアベアリングメタルの少なくとも1つには、前記ジャーナル部に対向する面の一部に凹状または孔状のオイル溜まりが設けられ、
前記クランクシャフトの一端から1番目および7番目の前記ジャーナル部を支持する前記ロアベアリングメタルには、前記オイル溜まりが設けられていない、内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直列6気筒の内燃機関において、クランクシャフトが備える7個のジャーナル部に対応する軸受メタルの上半部にはクランクシャフトの各ジャーナル部との間に空隙を形成する溝部がそれぞれ形成され、7個のジャーナル部に対応する軸受メタルの下半部には第4番目のジャーナル部に対応する軸受メタルにのみ当該ジャーナル部との間に空隙を形成する溝部が形成された構成が公知である(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-215125公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クランクシャフトが回転すると、ジャーナル部の軸中心は、微視的にはベアリングメタルとの間に生じるクリアランスの範囲内で軸方向と直交する方向に変位する。この際、ジャーナル部とベアリングメタルとの間のクリアランスには油膜が形成されているため、ベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が離れる領域では油膜に負圧が生じ、油膜にキャビテーションが形成される場合がある。この場合、キャビテーションが形成された後、ベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が接触する方向にジャーナル部が変位すると、キャビテーションが潰れ、潰れる際に異音が発生する。
【0005】
ジャーナル部の変位は、クランクシャフトが回転する際にクランクシャフトに生じる捻じれ、クランクシャフトのジャーナル部の周辺の剛性、カウンタウェイトの位置等の様々な要因に応じて、個々のジャーナル部ごとに異なっている。したがって、キャビテーションの発生および潰れに起因する異音の発生も個々のジャーナル部ごとに異なっており、異音が発生し難いジャーナル部と、異音が比較的発生し易いジャーナル部とが存在する。
【0006】
上記特許文献に記載された技術は、第4番目の軸受メタルでは他の軸受メタルに対して熱による信頼性が悪化する問題点があることに鑑み、その対策のため、軸受メタルの下半部では第4番目のジャーナル部に対応する軸受メタルにのみ当該ジャーナル部との間に空隙を形成する溝部を形成している。しかし、上述した異音の抑制といった観点からは、第4番目のジャーナル部よりも異音が発生し易いジャーナル部が存在するため、それらのジャーナル部における異音の発生を抑制できない問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、クランクシャフトを回転可能に支持する軸受け部の異音の発生を抑制することが可能な内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の要旨は以下のとおりである。
【0009】
(1) 直列に配置された6つの気筒を有する内燃機関であって、
両端および隣接する気筒間に対応する位置に設けられた7個のジャーナル部を有し、各気筒のピストンの往復運動により回転するクランクシャフトと、
前記クランクシャフトの前記ジャーナル部を支持する7個の軸受けにそれぞれ設けられ、前記ジャーナル部を回転可能に支持するベアリングメタルと、を備え、
前記ベアリングメタルは前記ジャーナル部の上側に位置するアッパベアリングメタルと前記ジャーナル部の下側に位置するロアベアリングメタルとから構成され、
前記クランクシャフトの一端から2番目、3番目、5番目、および6番目の前記ジャーナル部を支持する前記ロアベアリングメタルの少なくとも1つには、前記ジャーナル部に対向する面の一部に凹状または孔状のオイル溜まりが設けられ、
前記クランクシャフトの一端から1番目および7番目の前記ジャーナル部を支持する前記ロアベアリングメタルには、前記オイル溜まりが設けられていない、内燃機関。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クランクシャフトを回転可能に支持する軸受け部の異音の発生を抑制することが可能な内燃機関を提供することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関のクランクシャフトを支持する構造を説明するための概略断面図である。
図2】ロアベアリングメタルを示す斜視図である。
図3】ロアベアリングメタルを示す斜視図である。
図4】異音が比較的発生し易い軸受けに使用されるロアベアリングメタルを上方から見た平面図である。
図5】ジャーナル部の軸心軌跡を3次元形状での動解析により推定した結果を模式的に示す図である。
図6】ジャーナル部の軸心軌跡を3次元形状での動解析により推定した結果を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る幾つかの実施形態について図を参照しながら説明する。しかしながら、これらの説明は、本発明の好ましい実施形態の単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る内燃機関の構造を説明するための概略断面図である。図1に示す内燃機関は、#1~#6の6つの気筒が直列に配置された直列6気筒であり、6つのシリンダボア10を有するシリンダブロック12を備える。シリンダボア10のそれぞれにはピストン14が挿入されている。なお、図1では、#1気筒と#6気筒のピストン14は断面で示されており、その内部のピストンピン16が示されている。各ピストン14はピストンピン16を介してコネクティングロッド18の一端と連結され、コネクティングロッド18の他端はクランクシャフト20の対応するクランクピンP1,P2,P3,P4,P5,P6にそれぞれ連結されている。
【0014】
クランクシャフト20はジャーナル部J1,J2,J3,J4,J5,J6,J7を備える。ジャーナル部J1およびジャーナル部J7はクランクシャフト20の両端に設けられ、ジャーナル部J2,J3,J4,J5,J6はジャーナル部J1とジャーナル部J7の間に位置し、隣り合うジャーナル部の間にクランクピンP1,P2,P3,P4,P5,P6が位置している。クランクピンP1,P2,P3,P4,P5,P6は各気筒に対応する位置にあるため、ジャーナル部J2,J3,J4,J5,J6は気筒間に対応する位置に設けられている。これらのジャーナル部J1~J7は、シリンダブロック12の軸受部12aと、シリンダブロック12に取り付けられたベアリングキャップ22によって、ベアリングメタルを介して回転可能に支持されている。つまり、ジャーナル部J1~J7は、軸受部12aと、ベアリングキャップ22と、ベアリングメタルを有する軸受けによって支持されている。ベアリングメタルは、上下に2つに分割されており、ジャーナル部J1~J7よりも上側に位置するアッパベアリングメタル24aとジャーナル部J1~J7よりも下側に位置するロアベアリングメタル24bとから構成されている。各ジャーナル部J1~J7にはオイルが供給され、各ジャーナル部J1~J7は、各ジャーナル部J1~J7とアッパベアリングメタル24aおよびロアベアリングメタル24bとの間のクリアランスに形成された油膜によって支持され、回転可能とされている。
【0015】
なお、図1では、一例として内燃機関が縦置きに配置されるFR駆動方式の車両を例示しており、図面上で内燃機関の右側にトランスミッションが連結される。気筒の番号、クランクピンの番号、およびジャーナル部の番号は、トランスミッションと反対側(すなわち、車両の前側)から順に付番されている。
【0016】
クランクシャフト20は、各気筒#1~#6のピストン14が往復運動すると、ピストン14の運動がコネクティングロッド18を介してクランクピンP1~P6に伝達されることで回転する。この際、クランクシャフト20のジャーナル部J1~J7の軸中心は、微視的にはベアリングメタルとの間に生じるクリアランスの範囲内で軸方向と直交する方向に変位する。
【0017】
ジャーナル部の軸中心が軸方向と直交する方向に変位すると、ジャーナル部とベアリングメタルとの間のクリアランスには油膜が形成されているため、ベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が離れる領域では油膜の厚さが広がることで油膜に負圧が生じ、油膜にキャビテーションが形成される場合がある。この場合、キャビテーションが形成された後、ベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が接触する方向にジャーナル部が変位すると、キャビテーションが潰れ、潰れる際に気圧が高まることにより異音が発生する。異音は軸受けからシリンダブロック12に伝わり、シリンダブロック12の外に伝わる。
【0018】
ジャーナル部J1~J7の変位は、クランクシャフト20が回転する際にクランクシャフト20に生じる捻じれ、クランクシャフト20のジャーナル部J1~J7の周辺の剛性、カウンタウェイトの位置等に応じて、個々のジャーナル部J1~J7ごとに異なっている。直列6気筒の内燃機関の場合、クランクシャフト20が比較的長いため、クランクシャフト20に生じる捻じれも大きくなる。また、各気筒の点火順序、クランクシャフト20の両側の端部にそれぞれ連結される部材の慣性モーメントの相違等に起因して、捻じれは軸方向で一様には生じない。また、クランクシャフト20に捻じれが生じると、クランクシャフト20は一直線状の構造物ではないため、個々のジャーナル部の位置が軸中心から外れる。これらの要因から、ジャーナル部J1~J7の軸中心が上述したクリアランスの範囲内で軸方向と直交する方向に変位する際の挙動は、個々のジャーナル部J1~J7ごとに異なっている。
【0019】
したがって、上述したキャビテーションの発生および潰れに起因する異音の発生も個々のジャーナル部J1~J7ごとに異なっており、異音が発生し難いジャーナル部と、異音が比較的発生し易いジャーナル部とが存在する。
【0020】
以上に鑑み、本実施形態では、異音が発生し難いジャーナル部に対応する軸受けと、異音が比較的発生し易いジャーナル部に対応する軸受けとで、ベアリングメタルの構成が異なるようにしている。より詳細には、異音が発生し難い軸受けと異音が比較的発生し易い軸受けとで、特に下側に位置するロアベアリングメタル24bの構成が異なるようにしている。
【0021】
図2および図3は、ロアベアリングメタル24bを示す斜視図である。図2は、ジャーナル部J1~J7のうち、異音が発生し難い軸受けに使用されるロアベアリングメタル24bを示している。図2に示すように、異音が発生し難い軸受けに使用されるロアベアリングメタル24bは、通常の一般的なロアベアリングメタルであり、ジャーナル部に対向する面が一様な曲面とされている。なお、図示は省略するが、アッパベアリングメタル24aは、図2に示したロアベアリングメタル24bと同様に構成される。アッパベアリングメタル24aのジャーナル部に対向する面には、給油のための溝が円周方向に沿って設けられていてもよい。
【0022】
図3は、ジャーナル部J1~J7のうち、異音が比較的発生し易い軸受けに使用されるロアベアリングメタル24bを示している。また、図4は、異音が比較的発生し易い軸受けに使用されるロアベアリングメタル24bを上方から見た平面図である。図3および図4に示すように、異音が比較的発生し易い軸受けに使用されるロアベアリングメタル24bには、ジャーナル部に対向する面の一部に凹状または孔状のオイル溜まり30が設けられている。
【0023】
オイル溜まり30は、ロアベアリングメタル24bのジャーナル部に対向する面に設けられた凹状部、またはロアベアリングメタル24bを貫通する孔から構成される。図3および図4ではオイル溜まり30の形状としてジャーナル部に対向する曲面の円周方向に沿って延在する長円形のものが示されているが、オイル溜まり30の形状は円形、矩形など任意の形状であってよい。また、図3および図4ではオイル溜まり30がロアベアリングメタル24bに1つ設けられた構成が示されているが、オイル溜まり30はロアベアリングメタル24bに複数設けられていてもよい。
【0024】
ロアベアリングメタル24bにオイル溜まり30が設けられると、オイル溜まり30に溜まったオイルによってジャーナル部とベアリングメタルとの間のオイルの量(ボリューム)が増えるため、ジャーナル部の軸中心が軸方向と直交する方向に変位した際に、ジャーナル部の円周上でクリアランスが拡がる部位の油膜に生じる負圧が緩和される。キャビテーションは負圧によって発生するため、負圧が緩和されることでキャビテーションの発生が抑制される。したがって、キャビテーションの発生が抑制されることにより、キャビテーションが潰れることにより発生する異音が抑制される。
【0025】
オイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bは、オイル溜まり30が設けられていないロアベアリングメタル24bに対してオイル溜まり30が追加的に設けられたものであるため、オイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bを製造する際のコストは、オイル溜まり30が設けられていないロアベアリングメタル24bを製造する際のコストよりも高くなる。本実施形態では、オイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bは異音が比較的発生し易い軸受けに使用され、それ以外の軸受けにはオイル溜まり30が設けられていないロアベアリングメタル24bが使用されるので、製造コストの上昇が抑えられる。また、異音が発生し難く、オイル溜まり30が必要ない軸受けにオイル溜り30付きのロアベアリングメタル24bを入れると、オイル溜り30の分だけ摺動面積が減ることになり、面圧の上昇及び油膜厚さの減少が発生し、信頼性確保の観点から弊害が生じる可能性がある。したがって、オイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bは異音が比較的発生し易い軸受けのみに使用することが好ましい。
【0026】
異音が比較的発生し易い軸受けと異音が発生し難い軸受けの判別は、実機から判別することができるが、ジャーナル部の軸心軌跡を3次元形状での動解析で推定することで判別することもできる。実機から判別する場合、ジャーナル部J1~J7のそれぞれが支持されるシリンダブロック12の軸受部12aの近傍に加速度センサを装着し、異音の原因となる振動を測定する。これにより、異音が発生するジャーナル部では加速度センサが検出する振動が大きくなり、異音が発生しにくいジャーナル部では加速度センサが検出する振動が小さくなるので、ジャーナル部J1~J7を支持する軸受けのうち、異音が比較的発生し易い軸受けと、異音が発生し難い軸受けを判別することができる。
【0027】
また、ジャーナル部の軸心軌跡を3次元形状での動解析で推定する場合、軸心の移動速度と移動方向の変化に基づいて、異音が比較的発生し易い軸受けと異音が発生し難い軸受けを判別することができる。
【0028】
図5および図6は、ジャーナル部の軸心軌跡を3次元形状での動解析により推定した結果を模式的に示す図である。図5図6に示す円は、ジャーナル部とベアリングメタルとの間のクリアランスを軸心方向から見た状態を模式的に示しており、円Cの半径はクリアランスの1/2に相当する。ジャーナル部の軸心はクリアランスの中心Oに対して、クリアランスを表す円Cの範囲内で変位することができる。
【0029】
図5は、一例として、異音が比較的発生し易いジャーナル部の軸心の軌跡M1を示している。異音が比較的発生し易いジャーナル部では、軌跡M1に示すように、軸心がクリアランスの中心Oに向かう方向に比較的速い速度で動き、その後、軸心が反対方向に動く。このような軸心軌跡の場合に異音が発生する理由は以下の通りである。先ず、軸心がクリアランスの中心Oに向かう方向に比較的速い速度で動くことで、ベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が離れる領域が生じる。具体的には、軸心が動く方向の後ろ側の領域でベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が離れる。この領域ではベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が急激に離れると、その際の負圧によりキャビテーションが発生する。その後、ジャーナル部の軸心が反対方向、すなわちベアリングメタルと接触する方向に動くことで、キャビテーションが潰れて異音が発生する。
【0030】
なお、図5のような軌跡M1で軸心が動く場合であっても、ベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が離れる際の速度が遅い場合は、負圧がより低くなるため、キャビテーションが発生しない場合がある。したがって、異音が発生する条件として、ベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が離れる際の速度が一定以上であることと、面同士が離れた後、面同士が接触する方向に動くことの双方が成立する必要がある。
【0031】
一方、図6は、一例として、異音が発生し難いジャーナル部の軸心の軌跡M2を示している。異音が発生し難いジャーナル部では、軌跡M2に示すように、軸心がクリアランスCの輪郭に沿って動き、また動く際の速度が遅いことで、ベアリングメタルとジャーナル部の対向する面同士が急激に離れることがなく、軸心の動きによるオイルのボリュームの変化が少なくなっている。このため、油膜に負圧が発生しにくく、キャビテーションが発生しにくくなる。したがって、軸心が軌跡M2のような動きをするジャーナル部では、キャビテーションが発生しにくいため、異音が殆ど発生しない。また、仮にキャビテーションが発生したとしても、軸心が反対方向に動くことがないため、キャビテーションが潰れず、異音が生じない。
【0032】
以上のように、図5および図6は一例であるが、ジャーナル部の軸心軌跡を3次元形状での動解析で推定することで、異音が比較的発生し易い軸受けと、異音が発生し難い軸受けが判別可能である。なお、実機で異音の元となる振動を測定した結果と、ジャーナル部の軸心軌跡を3次元形状での動解析で推定した結果は、異音の要因の観点では定性的にほぼ一致することが確認された。
【0033】
以上のようにして、ジャーナル部J1~J7について異音が発生するレベルを判定した結果、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6において、最も異音が発生し易いことが判明した。また、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6の中では、ジャーナル部J5およびジャーナル部J6が、ジャーナル部J2およびジャーナル部J3に比べて異音が発生し易いことが判明した。
【0034】
また、ジャーナル部J1およびジャーナル部J7では異音が殆ど発生しないことが判明した。更に、ジャーナル部J4では、ジャーナル部J1およびジャーナル部J7と比較すると異音が発生するが、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6に比べると異音が発生しないことが判明した。
【0035】
このため、本実施形態では、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6を支持する軸受けでは、ロアベアリングメタル24bとして、基本的にはオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bが用いられる。この際、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6を支持する軸受けの全てにロアベアリングメタル24bを用いなくてもよく、上述した手法で異音の発生状況を判断した結果に応じて、これらのジャーナル部を支持する軸受けの少なくとも1つにオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bが用いられれば、異音の抑制効果が得られる。また、上述した手法で異音の発生状況を判断した結果に応じて、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6を支持する軸受けの中でオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bを用いる数を増やすことで、異音の抑制効果がより高まることになる。
【0036】
また、ジャーナル部J1およびジャーナル部J7では異音が発生しにくいため、ジャーナル部J1およびジャーナル部J7を支持する軸受けでは、オイル溜まり30が設けられていないロアベアリングメタル24bが用いられる。異音が発生しにくいジャーナル部J1およびジャーナル部J7では、オイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bを使用しないことで、受圧面積をより確保できるため、信頼性がより向上し、また製造コストの上昇が抑えられる。
【0037】
また、ジャーナル部J4では、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6に比べると異音が発生しないが、ジャーナル部J4を支持する軸受けにおいても、ロアベアリングメタル24bとして、オイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bが必要に応じて用いられ得る。但し、異音を抑制する観点からは、ジャーナル部J4よりも、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、またはジャーナル部J6の方が異音は発生し易く、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、またはジャーナル部J6の方が優先度は高いため、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6を支持する軸受けの少なくともいずれかにオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bを用いていないのにも関わらず、ジャーナル部J4を支持する軸受けにオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bが用いられることはない。換言すれば、ジャーナル部J4を支持する軸受けにオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bが用いられる場合は、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6を支持する少なくともいずれかの軸受けにオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bが用いられる。
【0038】
なお、ジャーナル部J4を支持する軸受けでは、ロアベアリングメタル24bとジャーナル部J4との間の油膜厚さが他のジャーナル部に比べて低下する傾向があるため、信頼性確保の観点から、ロアベアリングメタル24bにオイル溜まり30を設けずに受圧面積を確保する方が好ましい。
【0039】
以上をまとめると、オイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bを用いるジャーナル部の組み合わせは、以下の表のケース1とケース2で表される。以下の表において、〇印はオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bを用いることを示しておいる。また、×印はオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bを用いずに、オイル溜まり30が設けられていないロアベアリングメタル24bを用いることを示している。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示したように、ケース1では、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6を支持する軸受けの少なくとも1箇所にオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bが用いられる。ケース1では、ジャーナル部J4を支持する軸受けにオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bは用いられず、オイル溜まり30が設けられていないロアベアリングメタル24bが用いられる。また、ケース1では、ジャーナル部J1およびジャーナル部J7を支持する軸受けでは、オイル溜まり30が設けられていないロアベアリングメタル24bが用いられる。
【0042】
また、ケース2では、ジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6を支持する軸受けの少なくとも1箇所にオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bが用いられ、且つジャーナル部J4を支持する軸受けにもオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bが用いられる。ケース2においても、ジャーナル部J1およびジャーナル部J7を支持する軸受けでは、オイル溜まり30が設けられていないロアベアリングメタル24bが用いられる。
【0043】
なお、本実施形態では直列6気筒の内燃機関を例示したが、V型12気筒の内燃機関の場合でも、片側バンクでみれば直列6気筒と同じ構成であるため、片側のバンクでは上記表のケース1またはケース2で各ジャーナル部の軸受けにオイル溜まり30が設けられたロアベアリングメタル24bとオイル溜まり30が設けられていないロアベアリングメタル24bを用いることが好ましい。
【0044】
以上説明したように本実施形態によれば、直列に配置された6つの気筒を有する内燃機関において、異音が比較的発生し易いジャーナル部J2、ジャーナル部J3、ジャーナル部J5、およびジャーナル部J6を支持する軸受け部の少なくとも1つでロアベアリングメタル24bにオイル溜まり30を設けたため、異音の発生が抑制される。
【符号の説明】
【0045】
10 シリンダボア
12 シリンダブロック
12a 軸受部
14 ピストン
16 ピストンピン
18 コネクティングロッド
20 クランクシャフト
22 ベアリングキャップ
24a アッパベアリングメタル
24b ロアベアリングメタル
図1
図2
図3
図4
図5
図6