(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180037
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】車両用スライドドア
(51)【国際特許分類】
B60J 5/06 20060101AFI20221129BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20221129BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B60J5/06 A
B60J5/00 Q
B60J5/04 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086929
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】保井 猛
(72)【発明者】
【氏名】松本 学
(72)【発明者】
【氏名】染谷 紀樹
(57)【要約】
【課題】車両用スライドドアの外観を良好に維持しながら、軽量化と剛性の確保を両立する。
【解決手段】車両用スライドドア1は、樹脂製のアウターパネル21と、アウターパネル21の車室内側に配置され、周縁部がアウターパネル21の周縁部に接合された樹脂製のインナーパネル22と、アウターパネル21とインナーパネル22との間に配置され、アウターパネル21に設けられたアウトサイドハンドル3に近接する位置で周縁部に沿って延び、アウターパネル21とインナーパネル22とに接合されたパイプ部材24と、を有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のアウターパネルと、
前記アウターパネルの車室内側に配置され、周縁部が前記アウターパネルの周縁部に接合された樹脂製のインナーパネルと、
前記アウターパネルと前記インナーパネルとの間に配置され、前記アウターパネルに設けられたアウトサイドハンドルに近接する位置で前記周縁部に沿って延び、前記アウターパネルと前記インナーパネルとに接合されたパイプ部材と、を有する車両用スライドドア。
【請求項2】
前記アウターパネルと前記インナーパネルはそれぞれ、前記周縁部に隣接して互いに対向する凹状の内面を有し、前記パイプ部材は、外周面が前記互いに対向する内面にそれぞれ接合されている、請求項1に記載の車両用スライドドア。
【請求項3】
前記パイプ部材は、円筒状に形成され、前記内面は、水平断面が円弧状に形成されている、請求項2に記載の車両用スライドドア。
【請求項4】
前記パイプ部材の前記外周面が前記アウターパネルの前記内面と対向する面積は、前記外周面の面積の20~40%である、請求項3に記載の車両用スライドドア。
【請求項5】
前記パイプ部材の前記外周面が前記インナーパネルの前記内面と対向する面積は、前記外周面の面積の20~40%である、請求項3に記載の車両用スライドドア。
【請求項6】
前記パイプ部材の前記外周面が前記アウターパネルの前記内面と対向する面積と、前記パイプ部材の前記外周面が前記インナーパネルの前記内面と対向する面積との和は、前記外周面の面積の40~60%である、請求項4または5に記載の車両用スライドドア。
【請求項7】
前記パイプ部材は、前記アウターパネルと前記インナーパネルとに接着剤により接合されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用スライドドア。
【請求項8】
前記パイプ部材は、前記アウターパネルと前記インナーパネルのうち一方のパネルにインサート成形により接合され、他方のパネルに接着剤により接合されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の車両用スライドドア。
【請求項9】
前記パイプ部材が樹脂製である、請求項1から8のいずれかに記載の車両用スライドドア。
【請求項10】
前記スライドドアは、車体に対して、車両前方側の上部と車両前方側の下部と車両後方側の車両上下方向における中央部とでスライド可能に支持されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の車両用スライドドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用スライドドアに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ドアとして、ドア本体を構成するアウターパネルとインナーパネルが共に樹脂製のものが知られているが(例えば、特許文献1,2参照)、こうした樹脂製の車両用ドアでは、車体のさらなる軽量化が図られる一方、剛性の確保が重要な課題となる。このような剛性の問題に対しては、車両用ドアが樹脂製であるかどうかにかかわらず、鋼板製のリンフォース(補強部材)による補強構造をインナーパネルに採用するのが一般的である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-123394号公報
【特許文献2】特開2020-142638号公報
【特許文献3】特開2009-143294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、樹脂製のスライドドアは、後部座席のドアとして採用されることが多く、その場合、車体に対して車両前方側の上端部および下端部と車両後方側の中央部の3点でスライド可能に支持されている。樹脂製のスライドドアでは、これらの支持点から最も離れた車両前方側の中央部付近で剛性が低下するため、この付近に上述した補強構造を採用して剛性を確保することが考えられる。
【0005】
しかしながら、スライドドアの車両前方側の中央部付近には、アウターパネルにアウトサイドハンドルが設けられているため、ハンドル操作時に加わる車幅方向の荷重によってアウターパネルの変形が発生しやすい。そのため、インナーパネルに鋼板製のリンフォースを取り付けただけでは、そのようなアウターパネルの変形を抑えることは難しく、アウターパネルとインナーパネルとの接着剤による接合も外れやすくなる。また、アウターパネルの変形を抑えようとすると、インナーパネルに取り付けるリンフォースのサイズを大きくせざるを得ず、軽量化の大きな妨げになる。一方で、アウターパネルにリンフォースを取り付けることは、外観不良につながるため好ましくない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、外観を良好に維持しながら、軽量化と剛性の確保を両立する車両用スライドドアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明の車両用スライドドアは、樹脂製のアウターパネルと、アウターパネルの車室内側に配置され、周縁部がアウターパネルの周縁部に接合された樹脂製のインナーパネルと、アウターパネルとインナーパネルとの間に配置され、アウターパネルに設けられたアウトサイドハンドルに近接する位置で周縁部に沿って延び、アウターパネルとインナーパネルとに接合されたパイプ部材と、を有している。
【発明の効果】
【0008】
以上、本発明によれば、車両用スライドドアの外観を良好に維持しながら、軽量化と剛性の確保を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両用スライドドアを車室外側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用スライドドアを車室外側から見た側面図である。
図2は、
図1のA-A線に沿った断面図である。
【0012】
本実施形態の車両用スライドドア(以下、単に「スライドドア」ともいう)1は、車両の右後部座席のドア開口を車両前後方向にスライドして開閉するものであり、ドア本体2と、ドア本体2の車室内側に設けられた内装材である樹脂製のドアトリム(図示せず)とを有している。
【0013】
ドア本体2は、アウターパネル21と、アウターパネル21の車室内側に配置されたインナーパネル22とを有している。アウターパネル21は樹脂製であり、好ましくは、ポリプロピレンコンパウンド製、不飽和ポリエステル樹脂をガラス繊維または炭素繊維に含浸させたシートであるシートモールディングコンパウンド(SMC)製、または、ポリカーボネート製であり、より好ましくは、ポリプロピレンコンパウンド製である。インナーパネル22も樹脂製であり、好ましくは、SMC製、あるいは、ガラス繊維または炭素繊維とポリプロピレン樹脂との複合材(ポリプロピレンコンパウンド)製である。アウターパネル21とインナーパネル22は、それぞれの周縁部21a,22aが互いに対向して接着剤23により接合されている。ドアトリムは、例えば樹脂製のクリップによって、インナーパネル22の車室内側を覆うようにドア本体2に着脱可能に取り付けられている。
【0014】
また、インナーパネル22の前方上部領域(車両前方側の上部領域)R1、前方下部領域(車両前方側の下部領域)R2、および後方中央領域(車両後方側の車両上下方向における中央部領域)R3には、それぞれガイドローラユニット(図示せず)が設けられている。ガイドローラユニットは、車体(図示せず)のドア開口の上部、下部、および後方中央部(ドア開口に対して車両後方側の車両上下方向における中央部)にそれぞれ設けられたガイドレールにスライド可能に連結されている。これにより、スライドドア1は、車体に対して、前方上部領域R1と前方下部領域R2と後方中央領域R3に1つずつ、合計3つの支持点でスライド可能に支持されている。
【0015】
このように、本実施形態のスライドドア1は、ドア本体2が樹脂製であることから、車体のさらなる軽量化が図られる一方、ドア本体2の剛性が特定の領域で低下することが懸念される。すなわち、ドア本体2の剛性は、車体に対する3つの支持点(領域R1~R3)を中心とした
図1に示す破線で囲まれた領域では十分に確保されるが、それらの支持点から最も離れた領域、すなわち、
図1の斜線を付した前方中央領域(車両前方側の車両上下方向における中央部領域)Sの付近では低下することになる。しかも、この前方中央領域Sは、アウターパネル21にアウトサイドハンドル3が設けられている領域である。そのため、前方中央領域Sでは、アウトサイドハンドル3を操作するたびにアウターパネル21に車幅方向の荷重がかかり、アウターパネル21が変形するおそれがある。また、アウターパネル21の変形により、アウターパネル21とインナーパネル22との接合が外れるおそれもある。
【0016】
そこで、本実施形態では、このようなアウターパネル21の変形を抑制するために、ドア本体2の前方中央領域Sのうちアウターパネル21とインナーパネル22との間に円筒状のパイプ部材24が設けられている。パイプ部材24は、アウトサイドハンドル3の車両前方側に近接する位置でパネル21,22の周縁部に沿って車両上下方向に延び、アウターパネル21とインナーパネル22とに接着剤23により接合されている。具体的には、アウターパネル21とインナーパネル22はそれぞれ、周縁部21a,22aに隣接する位置に、水平断面が円弧状の互いに対向する凹状面(内面)21b,22bを有し、その凹状面21b,22bにパイプ部材24の外周面24aがそれぞれ接着剤23により接合されている。なお、接着剤23は、パイプ部材24の周方向に互いに離れた位置に、パイプ部材24の長さ方向に沿ってライン状に塗布されることが好ましい。その後、接着剤23は、パネル21,22に押圧されて周方向に押し広げられるが、そのとき、パネル21,22との隙間全体を埋めるまで押し広げられてもよく、あるいは、図示したように、隙間を部分的に埋める程度に押し広げられてもよい。
【0017】
このようなパイプ部材24により、アウトサイドハンドル3の操作時にアウターパネル21にかかる荷重(応力)をインナーパネル22にも効率的に伝達させることができ、アウトサイドハンドル3の周辺の剛性を向上させることができる。また、アウターパネル21とインナーパネル22を直接接合する場合に比べて、両者の接合面積が増加するため、アウターパネル21とインナーパネル22との接合強度を向上させることができる。その結果、アウトサイドハンドル3の操作時にアウターパネル21に車幅方向の荷重が加わっても、アウターパネル21の変形を抑制することができる。加えて、パイプ部材24は、スライドドア1が閉じられたときに外部から視認されない箇所に設置されるため、スライドドア1の外観性を損なうこともない。
【0018】
パイプ部材24としては、金属製(鋼鉄製)ものを用いてもよいが、樹脂製のパイプ部材を用いることが好ましく、特に、軽量かつ剛性に優れている点で、繊維が一方向に配向した繊維強化樹脂製のテープワインディングパイプを用いることが好ましい。なお、このテープワインディングパイプの詳細については、例えば、特開2019-202435号公報を参照されたい。
【0019】
パイプ部材24の寸法は特に限定されるものではなく、スライドドア1の構成などに応じて適宜調整されるが、例えば、直径が20~40mm、厚みが0.5~4mm、長さが100~500mmである。また、パイプ部材24の設置位置に特に制限はないが、長さ方向の中央部付近がアウトサイドハンドル3に対向する位置であることが好ましく、ドア本体2の剛性を十分に高められる点で、その上端が少なくともドア本体2のウィンド開口部25にかかる位置であることが好ましい。
【0020】
また、パイプ部材24とパネル21,22との接合面積も特に限定されるものではないが、それが小さすぎても大きすぎても、アウターパネル21にかかる荷重(応力)をインナーパネル22に効率的に伝達させることができなくなる。そのため、パイプ部材24とアウターパネル21との接合面積は、パイプ部材24の外周面24aの面積の20~40%であることが好ましく、パイプ部材24とインナーパネル22との接合面積は、パイプ部材24の外周面24aの面積の20~40%であることが好ましい。そして、全体としては、パイプ部材24とアウターパネル21との接合面積と、パイプ部材24とインナーパネル22との接合面積との和は、パイプ部材24の外周面24aの面積の40~60%であることが好ましい。なお、ここでいう「接合面積」とは、パイプ部材24の外周面24aがアウターパネル21の凹状面21bと対向する面積、または、インナーパネル22の凹状面22bと対向する面積を意味する。
【0021】
パイプ部材24の断面形状は、図示した円形に限定されず、楕円形や多角形などの他の幾何形状であってもよく、それに応じて、パネル21,22の凹状面21b,22bの断面形状も、図示した円弧状に限定されず、他の幾何形状であってもよい。また、パイプ部材24とパネル21,22との接合は、図示した接着剤23による接合に限定されず、例えば、アウターパネル21とインナーパネル22のいずれかが射出成形により形成される場合、いずれかのパネルにインサート成形により接合され、残りのパネルに接着剤により接合されていてもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 車両用スライドドア
2 ドア本体
3 アウトサイドハンドル
21 アウターパネル
21a 周縁部
22b 凹状面(内面)
22 インナーパネル
22a 周縁部
22b 凹状面(内面)
23 接着剤
24 パイプ部材
24a 外周面
25 ウィンド開口部
R1 前方上部領域(車両前方側の上部領域)
R2 前方下部領域(車両前方側の下部領域)
R3 後方中央領域(車両後方側の車両上下方向における中央部領域)
S 前方中央領域(車両前方側の車両上下方向における中央部領域)