(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180073
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】投射光学系および画像投射方法および画像投射装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/00 20060101AFI20221129BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20221129BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G02B13/00
G03B21/00 D
G03B21/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086981
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】514274487
【氏名又は名称】リコーインダストリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100090103
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 章悟
(72)【発明者】
【氏名】谷藤 睦美
(72)【発明者】
【氏名】飛内 邦幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康仁
【テーマコード(参考)】
2H087
2K203
【Fターム(参考)】
2H087KA06
2H087LA01
2H087NA11
2H087QA02
2H087QA07
2H087QA14
2H087QA21
2H087QA26
2H087QA34
2H087QA41
2H087QA46
2H087RA32
2H087RA41
2K203FA22
2K203FA25
2K203FA62
2K203FA66
2K203GC03
2K203GC04
2K203GC06
2K203HA53
2K203HA67
2K203HA79
2K203HA82
2K203HB09
2K203HB24
2K203MA07
(57)【要約】
【課題】プリズムに対する投射レンズ系の光軸の傾斜に起因して劣化するコマ収差を有効に補正できる新規な投射光学系を実現する。
【解決手段】投射光学系は、縮小側の共役面側に配置されるプリズムPと、該プリズムの拡大側に配置される投射レンズ系10と、を有し、プリズムPは、縮小側の共役面に対して所定の位置関係をもって配置され、投射レンズ系10は、主光軸AXを共有する複数のレンズA~Hと、コマ収差補正光学素子Eと、開口絞りと、を有し、主光軸AXを共有する複数のレンズは一体として、主光軸の向きをプリズムに対して傾斜させることが可能であり、コマ収差補正光学素子Eは、主光軸を共有する複数のレンズの主光軸の向きの傾斜の傾斜面内において、主光軸の向きの傾斜方向と逆方向に回転可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮小側の共役面上に表示された画像を、拡大側の共役面である被投射面上に拡大像として投射する投射光学系であって、
前記縮小側の共役面側に配置されるプリズムと、
該プリズムの拡大側に配置される投射レンズ系と、を有し、
前記プリズムは、前記縮小側の共役面に対して所定の位置関係をもって配置され、
前記投射レンズ系は、主光軸を共有する複数のレンズと、コマ収差補正光学素子と、開口絞りと、を有し、
前記主光軸を共有する複数のレンズは一体として、前記主光軸の向きを前記プリズムに対して傾斜させることが可能であり、
前記コマ収差補正光学素子は、前記主光軸を共有する複数のレンズの主光軸の向きの傾斜の傾斜面内において、前記主光軸の向きの傾斜方向と逆方向に回転可能である投射光学系。
【請求項2】
請求項1記載の投射光学系であって、
コマ収差補正光学素子は1枚の透明平行平板であり、投射レンズ系の、主光軸を共有する複数のレンズの前記主光軸の傾斜角が0であるとき、前記透明平行平板の平行面の法線が、前記主光軸に平行である投射光学系。
【請求項3】
請求項1記載の投射光学系であって、
コマ収差補正光学素子が、投射レンズ系を構成するレンズの中の1枚であって、投射レンズ系の、主光軸を共有する複数のレンズの前記主光軸の傾斜角が0であるとき、前記複数のレンズとともに、主光軸を共有する投射光学系。
【請求項4】
請求項2または3記載の投射光学系であって、
コマ収差補正光学素子が、開口絞りの近傍に配置される投射光学系。
【請求項5】
画像表示素子の画像表示面に表示された画像を、請求項1ないし4の何れか1項に記載の投射光学系を用いて、被投射面上に拡大画像として投射する画像投射方法であって、
前記画像表示面を縮小側の共役面に合致させて、前記画像表示面に対する前記被投射面の傾き角に応じて前記投射光学系の主光軸を傾斜させるとともに、
前記主光軸の傾斜面内においてコマ収差補正光学素子を前記主光軸の傾斜方向と逆の向きに傾斜させて前記拡大画像のコマ収差を補正する画像投射方法。
【請求項6】
画像表示素子の画像表示面に画像を表示し、表示された前記画像を投射光学系により被投射面上に拡大投射する画像投射装置であって、
前記投射光学系が、請求項1ないし4の何れか1項に記載の投射光学系であり、
該投射光学系の投射レンズ系の主光軸をプリズムに対して傾斜させる主光軸傾斜手段および、コマ収差補正光学素子を前記主光軸の傾斜面内において前記主光軸の傾斜方向と逆の向きに傾斜させるコマ収差補正光学素子回転手段を有する画像投射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、投射光学系および画像投射方法および画像投射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DMD(デジタル・ミラー・デバイス)や液晶パネル、発光素子アレイ等の画像表示素子の画像表示面に表示される画像を投射光学系によりスクリーン等の被投射面に拡大画像として投射する画像投射装置は、従来から各種プロジェクタとして知られ、実施されている。
また近来は、上記の如き画像投射装置を車両等の移動体に搭載し、被投射面に表示された画像を凹面鏡等により虚像として結像させ、該虚像を観察するようにしたHUD(ヘッドアップデイスプレイ)も実用化されている。
プロジェクタやHUDにおいても、画像表示素子の画像表示面と被投射面とが互いに平行にならない場合が多い。このように、画像表示面と被投射面とが互いに非平行である場合に、被投射面に良好に合焦した投射画像を得るための光学的な条件として所謂「シャインプルーフの条件」が知られている(特許文献1等)。
画像投射装置において、画像表示素子の表示面に表示された画像を、拡大側の共役面である被投射面上に拡大像として投射する投射光学系の一つの形態として、縮小側の共役面に対して所定の位置関係をもって配置されるプリズムと、このプリズムの拡大側に配置される投射レンズ系とで構成されるものがある。
プリズムは、光路の屈曲用に用いられるものや、カラー画像の表示の場合の色合成に用いられるもの等、種々のものがある。
【0003】
このようなプリズムは一般に、縮小側の共役面、即ち「画像表示素子の画像表示面」に対して所定の位置関係をもって固定的に配置される場合が多い。
このような場合に、画像表示面に対して非平行な被投射面に良好な投射画像を得るために、投射レンズ系の光軸を傾けると、投射レンズ系の光軸がプリズムに対して傾くことになる。投射レンズ系の光軸がプリズムに対して傾いても、シャインプルーフの条件に適合すれば、球面収差や歪曲収差、非点収差等は良好な状態が得られるが、プリズムに対する光軸の傾きが影響してコマ収差は劣化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、プリズムに対する投射レンズ系の光軸の傾斜に起因して劣化するコマ収差を有効に補正できる新規な投射光学系の実現を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の投射光学系は、縮小側の共役面上に表示された画像を、拡大側の共役面である被投射面上に拡大像として投射する投射光学系であって、前記縮小側の共役面側に配置されるプリズムと、該プリズムの拡大側に配置される投射レンズ系と、を有し、前記プリズムは、前記縮小側の共役面に対して所定の位置関係をもって配置され、前記投射レンズ系は、主光軸を共有する複数のレンズと、コマ収差補正光学素子と、開口絞りと、を有し、前記主光軸を共有する複数のレンズは一体として、前記主光軸の向きを前記プリズムに対して傾斜させることが可能であり、前記コマ収差補正光学素子は、前記主光軸を共有する複数のレンズの主光軸の向きの傾斜の傾斜面内において、前記主光軸の向きの傾斜方向と逆方向に回転可能である。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、プリズムに対する投射レンズ系の光軸の傾斜に起因して劣化するコマ収差を有効に補正できる新規な投射光学系を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1の投射光学系の基準状態における構成を示す図である。
【
図2】実施例2の投射光学系の基準状態における構成を示す図である。
【
図3】実施例1の投射光学系の基準状態におけるデータである。
【
図4】実施例1の投射光学系の基準状態における球面収差、非点収差および歪曲収差を示す図である。
【
図5】実施例1の投射光学系の基準状態におけるコマ収差を示す図である。
【
図6】実施例1の投射光学系における投射レンズ系の主光軸をシャインプルーフの条件に応じて傾けた状態を示す図である。
【
図7】
図6の状態における球面収差、非点収差および歪曲収差を示す図である。
【
図8】
図6の状態におけるコマ収差を示す図である。
【
図9】
図6の状態からコマ収差補正光学素子を主光軸の傾きと逆の向きに回転させてコマ収差の補正を行った状態を示す図である。
【
図10】
図9の状態における球面収差、非点収差および歪曲収差を示す図である。
【
図11】
図9の状態におけるコマ収差を示す図である。
【
図12】実施例2の投射光学系の基準状態におけるデータである。
【
図13】実施例2の投射光学系の基準状態における球面収差、非点収差および歪曲収差を示す図である。
【
図14】実施例2の投射光学系の基準状態におけるコマ収差を示す図である。
【
図15】実施例2の投射光学系における投射レンズ系の主光軸をシャインプルーフの条件に応じて傾けた状態を示す図である。
【
図16】
図15の状態における球面収差、非点収差および歪曲収差を示す図である。
【
図18】
図15の状態からコマ収差補正光学素子を主光軸の傾きと逆の向きに回転させてコマ収差の補正を行った状態を示す図である。
【
図19】
図18の状態における球面収差、非点収差および歪曲収差を示す図である。
【
図21】画像投射装置の実施の1形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態に即して説明する。
図1および
図2に、投射光学系の実施の形態を2例示す。
図1及び
図2は、この順序で後述する実施例1、実施例2に対応する。
繁雑を避けるために、これらの図において符号の一部を共通化する。
図1および
図2において、図の左方が「縮小側」で、右方が「拡大側」である。
符号MDで示す「画像表示素子」の画像表示面に、拡大投射されるべき「画像」が表示される。なお、
図1、
図2に示す実施の形態において、画像表示素子としてはDMDが想定され、符号MDで図示されているのは「DMDの表示面のカバーガラス」であり、その左側の面が「画像表示面」である。
【0009】
画像表示素子MDの画像表示面は、投射光学系の縮小側の共役面であり、画像表示面に表示された画像が投射光学系により、拡大側である図の右方の「図示を省略されているスクリーン等の被投射面」上に拡大投射される。
図1に示す実施の形態の投射光学系は、縮小側の共役面側に配置されるプリズムPと、該プリズムPの拡大側に配置される投射レンズ系10と、を有している。
図2に示す実施の形態の投射光学系は、縮小側の共役面側に配置されるプリズムPと、該プリズムPの拡大側に配置される投射レンズ系11とを有している。
図1、
図2に示す実施の形態の何れにおいても、プリズムPは「色合成プリズム」が想定されているが、その入射面及び射出面は共に、前記画像表示面に平行であり、画像表示素子MDに対して所定の位置関係をもって配置されている。即ち、画像表示素子MDとプリズムPの位置関係は固定的である。
【0010】
図1、
図2において、符号AXは投射レンズ系10、11の「主光軸」であり、主光軸AXは、画像表示素子MDの画像表示面に(従って、プリズムPの入射出面にも)直交している。
図1に示す実施の形態において、投射レンズ系10は、縮小側から拡大側へ向かってレンズA、B、C、D、F、G、Hを配し、レンズDとレンズFとの間に透明平行平板Eを配置して構成されている。
図1に示す状態において、透明平行平板Eは主光軸AXに直交し、主光軸AXはレンズA、B、C、D、F、G、Hに共有されている。即ち、
図1に示す投射レンズ系10では、レンズA、B、C、D、F、G、Hの各光軸が「主光軸AX」に合致している。
【0011】
図2に示す状態において、投射レンズ系11は縮小側から拡大側へ向かってレンズA、B、C、D、F、Gを配して構成されている。
なお、投射レンズ系10におけるレンズA、B、C、D、F、G、Hは、投射レンズ系11におけるレンズA、B、C、D、E、F、Gとは、符号が同一であっても、それぞれ別のレンズであることを付記しておく。
図2に示す状態において、主光軸AXはレンズA、B、C、D、F、Gに共有されている。即ち、
図2に示す投射レンズ系11では、レンズA、B、C、D、E、F、Gの各光軸が「主光軸AX」に合致している。
図1、
図2に示すように、投射レンズ系10や投射レンズ系11の全てのレンズの光軸が主光軸AXに合致し、主光軸AXが画像表示面及びプリズムPの入射出面に直交している状態を「基準状態」と呼ぶ。
図1、
図2に示す投射レンズ系10、11ともレンズ系内に「開口絞り」を有する。開口絞りについては後述する。
【0012】
図1に示す投射レンズ系10における透明平行平板Eは「コマ収差補正光学素子」である。
図2に示す投射レンズ系11においては、レンズDが「コマ収差補正光学素子」である。
投射レンズ系10におけるコマ収差補正光学素子である透明平行平板Eの面法線も、投射レンズ系11におけるコマ収差補正光学素子であるレンズDの光軸もともに、主光軸AXに対して傾斜可能である。
即ち、主光軸は、投射レンズ系においてコマ収差補正光学素子(透明平行平板E、レンズD)を除いた全てのレンズに共有され、基準状態においてはレンズDの光軸にも共有される。
【0013】
投射レンズ系10の主光軸AXを共有する複数のレンズA、B、C、D、F、G、Hは一体として、主光軸AXの向きをプリズムPに対して傾斜させることが可能であり、投射レンズ系11の主光軸AXを共有する複数のレンズA、B、C、E、F、Gは一体として、主光軸AXの向きをプリズムPに対して傾斜させることが可能である。
この場合、主光軸AXの傾斜が可能な面(傾斜により主光軸AXが回転して掃引する面)を「傾斜面」と呼ぶ。
【0014】
主光軸の傾斜は、投射光学系の縮小側の共役面である画像表示面と、拡大側の共役面である被投射面とが平行でなく、互いに傾いているときに行なわれ、主光軸の「傾斜角」は、周知のシャインプルーフの条件が実質的に満足されるように定められる。
一方、上述の如く「コマ収差補正光学素子」である透明平行平板E及びレンズDにおいては、透明平行平板Eの面法線もレンズDの光軸も、主光軸AXに対して傾斜可能であるが、これらコマ収差補正光学素子の傾斜は、主光軸AXの「傾斜面と同一面内」で、主光軸AXの傾斜の向きと逆方向に行なわれる。
図1、
図2に示す投射光学系とも、主光軸AXをシャインプルーフの条件に合致させるように傾斜させることにより、画像表示面と被投射面とが非平行であっても、球面収差や歪曲収差、非点収差等が良好な拡大画像を得ることができるが、プリズムPに対する主光軸AXの傾きが影響してコマ収差は劣化する。
この発明の投射光学系では、コマ収差補正光学素子を上記の如く「主光軸AXの傾きと逆方向に傾ける」ことによって劣化するコマ収差を良好な状態に補正するのである。このコマ収差補正を行っても、主光軸AXがシャインプルーフの条件に実質的に合致していれば、拡大画像の球面収差や歪曲収差、非点収差等は良好なままに保たれる。
【0015】
以下、具体的な実施例に即して説明する。
「実施例1」
実施例1は、
図1に示す投射光学系の具体例である。
図3に実施例1のデータを示す。
図3に示すデータは「
図1に示す基準状態」に対するものであって、主光軸AX、コマ収差補正光学素子ともに傾いていない。
図3のデータにおいて、左端の列における「デバイス面」は先述の「画像表示素子MDの画像表示面」である。また「補正素子」は、コマ収差補正光学素子である透明平行平板Eであり、A、B、C、D、F、G、Hはレンズである。
「stop」は開口絞りであり、実施例1においてはレンズFの縮小側面に形成されている。透明平行平板E、開口絞りに隣接している。即ち、実施例1におけるコマ収差補正光学素子Eは「開口絞りの近傍」に配置されている。
【0016】
実施例1の投射レンズ系が基準状態にあるときの、球面収差、非点収差及び歪曲収差を
図4に示す。
図4における左図が「球面収差」、中央の図が「非点収差」、右図が「歪曲収差」である。いずれの収差も良好である。
また、
図5に基準状態におけるコマ収差を示す。コマ収差も良好に補正されている。
即ち、実施例1の投射光学系は基準状態において良好な性能を有している。
付言すると、上記各収差は、拡大側の被投射面を物体として縮小側の共役面上に像が形成された状態の収差である。
【0017】
次に、投射レンズ系10を一体として、主光軸AXを
図1に示す基準状態から時計回りに傾斜角:-1.935度だけ傾けて、シャインプルーフの条件を満足させた状態を
図6に示す。このときの傾斜では、コマ収差補正光学素子である透明平行平板Eも、主光軸AXと一体に回転傾斜している。
この状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差を
図4に倣って
図7に示す。また、コマ収差を
図8に示す。
図4と
図7を比較すればわかるように、シャインプルーフの条件が満足されていることにより、球面収差、非点収差及び歪曲収差は良好であるが、
図5と
図8を比較すれば明らかなように、コマ収差は主光軸AXの傾きにより大きくい劣化している。
さらに
図6に示す状態から、コマ収差補正光学素子である透明平行平板Eを、反時計回りに+6.164度回転させた状態を
図9に示す。この回転により、透明平行平板Eの面法線は、基準状態における主光軸に対して反時計回りに4.229度傾くことになる。
この状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差を
図4にならって
図10に示す。また、コマ収差を
図11に示す。
図4と
図10を比較すればわかるように、透明平行平板Eを主光軸の傾きと逆方向に傾けたのちも、球面収差、非点収差及び歪曲収差は良好である。また、
図5と
図11を比較すれば明らかなように、コマ収差は主光軸AXの傾きと逆の向きに透明平行平板Eを、光軸AXの傾きと逆向きに傾けたことにより、基準状態におけると略同等な状態に補正されている。
なお、実施例1において、主光軸AXを傾けるときの回転中心は、投射レンズ系10の最も縮小側のレンズAの縮小側レンズ面と光軸の交点であり、この交点の位置は、
図6の如くに主光軸AXを傾ける際に、
図6の下方へ向かって-0.0508mmだけシフトしている。このシフト量は、透明平行平板Eの「主光軸AXに対する反時計方向への傾斜」の際にも変わらない。
【0018】
透明平行平板Eを主光軸AXに対して傾けるときの回転中心は、基準状態における主光軸AXと透明平行平板Eの交差部である。
【0019】
「実施例2」
実施例2は、
図2に示す投射光学系の具体例である。
実施例2のデータを
図3に倣って
図12に示す。
開口絞り(stop)は、実施例2においてはレンズEの縮小側面に形成されており、従って、レンズDは「開口絞りに隣接」している。即ち、実施例2におけるコマ収差補正光学素子Dは「開口絞りの近傍」に配置されている。
図12に示すデータは
図2に示す「基準状態」に対するものであって、主光軸AX、コマ収差補正光学素子であるレンズDともに傾いていない。このときの球面収差、非点収差及び歪曲収差を
図13に示す。
図13における左図が「球面収差」、中央の図が「非点収差」、右図が「歪曲収差」であり、いずれの収差も良好である。
図14に実施例2の基準状態におけるコマ収差を示す。コマ収差も良好に補正されている。
即ち、実施例2の投射光学系は基準状態において良好な性能を有している。
【0020】
図15に、実施例2の投射光学系における投射レンズ系11の主光軸AXを、
図2に示す基準状態から、時計回りに傾斜角:-2.001度傾けて、シャインプルーフの条件を満足させた状態を示す。このとき、コマ収差補正光学素子であるレンズDも、主光軸AXと一体に回転して傾斜している。
この状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差を
図13に倣って
図16に示す。また、コマ収差を
図17に示す。
図13と
図16を比較すればわかるように、シャインプルーフの条件が満足されたことにより、球面収差、非点収差及び歪曲収差は良好であるが、
図14と
図17を比較すれば明らかなように、コマ収差は主光軸AXの傾きにより大きく劣化している。
【0021】
図15の状態から。コマ収差補正光学素子であるレンズDを、反時計回りに+0.2491度回転させて傾斜させた状態を
図18に示す。この回転により、透明平行平板Eの面法線は、基準状態における主光軸に対して反時計回りに-1.7519度傾くことになる。
【0022】
この状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差を
図13に倣って
図19に示す。また、コマ収差を
図20に示す。
図13と
図19を比較すればわかるように、レンズDを主光軸AXの傾きと逆方向(反時計回り)に傾けたのちも、球面収差、非点収差及び歪曲収差は良好である。また、
図14と
図20を比較すれば明らかなように、コマ収差は主光軸AXの傾きと逆方向にレンズDを傾けたことにより、
図2に示す基準状態におけると略等価な状態(
図14)に補正されている。
実施例2においても、主光軸AXを傾けるときの回転中心は、投射レンズ系10の最も縮小側のレンズAの縮小側レンズ面と光軸の交点であり、この交点の位置は、
図6の如くに主光軸AXを傾ける際に、
図15の下方へ向かって-0.0322mmだけシフトしている。このシフト量は、透明平行平板Eの「主光軸AXに対する反時計方向への回転」の際にも変わらない。
レンズDを主光軸AXに対して傾けるときの回転中心は、基準状態における主光軸AXとレンズDの中心部の交差部である。
実施例2においては、コマ収差補正光学素子Dがレンズであって屈折力を持つため、実施例1の透明平行平板Eを傾ける場合に比して、コマ収差補正のための傾き角が小さくなっている。
【0023】
実施例1および実施例2ともに、コマ収差補正光学素子E、Dは、開口絞り(stop)の近傍に配されている。このように、コマ収差補正光学素子を開口絞りの近傍に設置することにより、コマ収差の改善は大きく、歪曲収差や像面湾曲への悪影響が少ない。
また、結像光束が最も収束する開口絞り近傍に設けることにより、コマ収差補正光学素子を小型に構成できる。像面・歪曲収差補正のためのレンズ枚数追加もなく、バックフォーカスへの影響もないので安価で良好な投影画像が得られる。
【0024】
図21に、この発明の画像投射装置の実施の1形態を略示する。
この画像投射装置は、画像表示素子の画像表示面に画像を表示し、表示された画像を投射光学系により被投射面上に拡大投射する画像投射装置(プロジェクタ)である。
この実施の形態の画像投射装置は、投射光学系として、上に説明した実施例1のものを用い、画像表示素子MDの画像表示面に表示される画像を、プリズムPと投射レンズ系10による投射光学系により、図の右方にあるスクリーン(図示を省略されている。)上に拡大投射する。
全体は、外囲ケース200に収納され、外囲ケース200は、図示されない支持部材により設置面100上に載置される。被投射面であるスクリーンは載置面100に対して直交している。図示されない支持部材は、外囲ケース200を載置面100に対して傾けることが可能で、傾き角:θを適宜に設定できる。
【0025】
画像を投射するときには、投射光を放射しつつ、支持部材を調整して傾き角:θを調整する。調整された傾き角:θは、マイクロコンピュータ等により構成された制御手段40に取り込まれる。傾き角:θは、スクリーンと画像表示素子MDの画像表示面とのなす角に等しく、画像表示面とスクリーンとは平行でない。
制御手段40は、上記傾き角:θに基づき、シャインプルーフの条件を満足するように、投射レンズ系10の主光軸の傾け角:ξを算出し、その結果を傾斜手段20に出力する。傾斜手段20は入力された傾け角:ξに応じて、投射レンズ系10を一体として、その主光軸を傾ける。
制御手段40はまた、上記傾け角:ξとともに、コマ収差補正光学素子である透明平行平板Eの回転角:η(傾け角:ξと逆の向きの傾斜角)を算出し、回転角:ηを回転手段30に出力する。回転手段30は入力された回転角:ηに応じてコマ収差補正光学素子Eを回転させる。
このようにして、スクリーン上に、球面収差、非点収差、歪曲収差をシャインプルーフ条件により補正され、コマ収差も良好に補正された拡大画像を得ることができる。
前記傾け角:ξと回転角:ηの関係は、予め設計条件や実験等に応じて定めることが出来、テーブルあるいは式の形で制御手段40のメモリに記憶させておくことができる。
【0026】
上の例では、投射光学系として投射レンズ系10を用いるものを説明したが、勿論、投射レンズ系11を用いるもので画像投射装置を同様に実施できる。
従って、このような画像投射装置によれば、画像表示素子の画像表示面に表示された画像を、実施例1や実施例2等の投射光学系を用いて、被投射面上に拡大画像として投射する画像投射方法であって、画像表示面を縮小側の共役面に合致させて、画像表示面に対する被投射面(スクリーン)の傾き角に応じて投射光学系の主光軸を傾斜させるとともに、主光軸の傾斜面内においてコマ収差補正光学素子を主光軸の傾斜方向と逆の向きに傾斜させて前記拡大画像のコマ収差を補正する画像投射方法を実現できる。
【0027】
以上、発明の好ましい実施の形態について説明したが、この発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
この発明の実施の形態に記載された効果は、発明から生じる好適な効果を列挙したに過ぎず、発明による効果は「実施の形態に記載されたもの」に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0028】
MD 画像表示素子
P プリズム
10、11 投射レンズ系
AX 主光軸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】