(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180074
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物の成形品の成形機および製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/72 20060101AFI20221129BHJP
B29B 9/06 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B29B7/72
B29B9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021086982
(22)【出願日】2021-05-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO先導研究プログラム エネルギー・環境新技術先導研究プログラムプラスチックの高度資源循環を実現するマテリアルリサイクルプロセスの研究開発に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】大久保 光
(72)【発明者】
【氏名】川上 裕己
(72)【発明者】
【氏名】稗田 遼
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲也
【テーマコード(参考)】
4F201
【Fターム(参考)】
4F201AR06
4F201AR11
4F201AR12
4F201BA02
4F201BC02
4F201BD05
4F201BK66
4F201BK67
4F201BK74
4F201BL08
4F201BL25
4F201BL28
4F201BL30
4F201BL33
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂組成物の成形品の物性を向上させる成形機を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物を溶融して成形する成形品の成形機10であって、熱可塑性樹脂組成物を供給する供給口1と、供給口1から供給された熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する溶融混練部2と、溶融混練部2で溶融混練された熱可塑性樹脂組成物を吐出する吐出部3と、溶融混練部2と吐出部3との間に設けられる樹脂溜り部5を有し、溶融混練部2の温度t1と、樹脂溜り部5の温度t2との温度差Δt(t2-t1)が、-20℃~-80℃であることを特徴とする成形機10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物を溶融して成形する成形品の成形機であって、
熱可塑性樹脂組成物を供給する供給口と、
前記供給口から供給された熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する溶融混練部と、
前記溶融混練部で溶融混練された熱可塑性樹脂組成物を吐出する吐出部と、
前記溶融混練部と前記吐出部との間に設けられる樹脂溜り部を有し、
前記樹脂溜り部の温度が、前記溶融混練部と独立して調整でき、前記溶融混練部の温度t1と、前記樹脂溜り部の温度t2との温度差Δt(温度t2-温度t1)が、-20℃~-80℃であることを特徴とする成形機。
【請求項2】
前記吐出部から吐出されたストランド状の熱可塑性樹脂組成物を細断することでペレット化するペレタイザーを有する請求項1に記載の成形機。
【請求項3】
前記樹脂溜り部が、前記樹脂溜り部における滞留時間を、5秒~300秒とする容積である請求項1または2に記載の成形機。
【請求項4】
前記樹脂溜り部が、前記溶融混練部の断面と同じ形状で伸長されたものである、および/または、円柱状である請求項1~3のいずれかに記載の成形機。
【請求項5】
前記溶融混練部の長さをL1(mm)とし、前記樹脂溜り部の長さをL2(mm)とし、前記溶融混練部のシリンダー直径をD(mm)としたとき、
L2/L1が、0.1~1.0であり、
L1/Dが、40~80である請求項1~4のいずれかに記載の成形機。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物が、結晶性高分子を含有する請求項1~5のいずれかに記載の成形機。
【請求項7】
熱可塑性樹脂組成物を溶融して成形する成形品の製造方法であって、
熱可塑性樹脂組成物を樹脂組成物成形機の供給口に供給し、
前記供給口から供給された熱可塑性樹脂組成物を溶融混練部で溶融混練させ、
前記溶融混練部で溶融混練された熱可塑性樹脂組成物を樹脂溜り部で滞留させ、
前記樹脂溜り部で滞留した熱可塑性樹脂組成物を吐出部から吐出させるものであり、
前記樹脂溜り部が、前記溶融混練部よりも成形温度が低く、前記溶融混練部の温度t1と、前記樹脂溜り部の温度t2との温度差Δt(t2-t1)を、-20℃~-80℃とすることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂組成物の成形品の成形機に関する。また、本発明は、熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック(熱可塑性樹脂)の成形品の成形工程にはペレットが汎用されている。ペレットは、重合して得られた樹脂を含む組成物等を押出機で溶融混練し、ペレタイズされている。一般的に、プラスチック加工を行う使用者は、ペレットをそのまま成形加工するか、または、成形加工前に、押出機で再度ペレタイズしてブレンドやコンパウンドを行って使用する。これらのペレタイズに伴う押出プロセスは、高温で高圧で行うため、プラスチックの内部構造を変異させ、性能に影響を与えると考えられる。
【0003】
特許文献1は、熱可塑性樹脂組成物を溶融してペレット状に成形する樹脂組成物成形機等に関するものである。特許文献1は、溶融混練部と吐出部との間に設けられる樹脂溜り部を有する樹脂組成物成形機等を開示している。
【0004】
特許文献2は、熱可塑性樹脂組成物を溶融してペレット状に成形する樹脂組成物成形機等に関するものである。特許文献2は、溶融混練部と吐出部に向けて先細り形状を有する樹脂溜り部を有する樹脂組成物成形機を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6608306号公報
【特許文献2】特開2020-128032号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「未選別廃棄容器包装リサイクルプラスチックの力学特性の成形法依存性」,山崎奈都美,竹中希美,冨永亜矢,道上哲吉,高取永一,関口博史,中野涼子,八尾滋,廃棄物資源循環学会論文誌,30,122-131,(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
廃棄プラスチックにおいては、一般的なペレタイズでは、熱可塑性樹脂の内部構造が変性し、バージン品よりも物性が低下する。前述の特許文献1や特許文献2に開示された成形機や製造方法により、リサイクル樹脂組成物等の物性がバージンに匹敵あるいはそれ以上に向上する。しかし、本発明者らはバージン品を含む熱可塑性樹脂の物性はさらに向上させることができる可能性があると考えて、成形条件等をさらに検討した。係る状況下、本発明は、熱可塑性樹脂組成物の成形品の物性を向上させる成形機や製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0009】
<1> 熱可塑性樹脂組成物を溶融して成形する成形品の成形機であって、
熱可塑性樹脂組成物を供給する供給口と、
前記供給口から供給された熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する溶融混練部と、
前記溶融混練部で溶融混練された熱可塑性樹脂組成物を吐出する吐出部と、
前記溶融混練部と前記吐出部との間に設けられる樹脂溜り部を有し、
前記樹脂溜り部の温度が、前記溶融混練部と独立して調整でき、前記溶融混練部の温度t1と、前記樹脂溜り部の温度t2との温度差Δt(温度t2-温度t1)が、-20℃~-80℃であり、前記温度t2が前記温度t1よりも低いことを特徴とする成形機。
<2> 前記吐出部から吐出されたストランド状の吐出された熱可塑性樹脂組成物を細断することでペレット化するペレタイザーを有する前記<1>に記載の成形機。
<3> 前記樹脂溜り部が、前記樹脂溜り部における滞留時間を、5秒~300秒とする容積である樹脂溜り部である前記<1>または<2>に記載の成形機。
<4> 前記樹脂溜り部が、前記溶融混練部の断面と同じ形状で伸長されたものである、および/または、円柱状である前記<1>~<3>のいずれかに記載の成形機。
<5> 前記溶融混練部の長さをL1(mm)とし、前記樹脂溜り部の長さをL2(mm)とし、前記溶融混練部のシリンダー直径をD(mm)としたとき、
L2/L1が、0.1~1.0であり、
L1/Dが、40~80である前記<1>~<4>のいずれかに記載の成形機。
<6> 前記熱可塑性樹脂組成物が、結晶性高分子を含有する前記<1>~<5>のいずれかに記載の成形機。
<7> 熱可塑性樹脂組成物を溶融して成形する成形品の製造方法であって、
熱可塑性樹脂組成物を樹脂組成物成形機の供給口に供給し、
前記供給口から供給された熱可塑性樹脂組成物を溶融混練部で溶融混練させ、
前記溶融混練部で溶融混練された熱可塑性樹脂組成物を樹脂溜り部で滞留させ、
前記樹脂溜り部で滞留した熱可塑性樹脂組成物を吐出部から吐出させるものであり、
前記樹脂溜り部が、前記溶融混練部よりも成形温度が低く、前記溶融混練部の温度t1と、前記樹脂溜り部の温度t2との温度差Δt(t2-t1)をが、-20℃~-80℃とすることを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱可塑性樹脂組成物の成形品の物性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る成形機の概要図である。
【
図2】本発明にかかる樹脂溜り部の影響の解析モデルの説明のための図である。
【
図3】本発明にかかる樹脂溜り部等の温度分布の壁面温度との関係を示す図である。
【
図4】本発明にかかる樹脂溜り部等の圧力分布の壁面温度との関係を示す図である。
【
図5】実施例における試験片の形状を説明する図である。
【
図6】実施例における樹脂溜り部やペレタイザーの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0013】
[本発明の成形機]
本発明の成形機は、熱可塑性樹脂組成物を溶融して成形する成形品の成形機であって、熱可塑性樹脂組成物を供給する供給口と、前記供給口から供給された熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する溶融混練部と、前記溶融混練部で溶融混練された熱可塑性樹脂組成物を吐出する吐出部と、前記溶融混練部と前記吐出部との間に設けられる樹脂溜り部を有し、前記樹脂溜り部の温度が、前記溶融混練部と独立して調整でき、前記溶融混練部の温度t1と、前記樹脂溜り部の温度t2との温度差Δt(t2-t1)が、-20℃~-80℃であることを特徴とする。本発明の成形機によれば、熱可塑性樹脂組成物の成形品の物性を向上することができる。
【0014】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、熱可塑性樹脂組成物を溶融して成形する成形品の製造方法であって、熱可塑性樹脂組成物を樹脂組成物成形機の供給口に供給し、前記供給口から供給された熱可塑性樹脂組成物を溶融混練部で溶融混練させ、前記溶融混練部で溶融混練された熱可塑性樹脂組成物を樹脂溜り部で滞留させ、前記樹脂溜り部で滞留した熱可塑性樹脂組成物を吐出部から吐出させるものであり、前記樹脂溜り部が、前記溶融混練部よりも成形温度が低く、前記溶融混練部と、前記樹脂溜り部との温度差Δt(t2-t1)が、-20℃~-80℃とすることを特徴とする。本発明の製造方法によれば、熱可塑性樹脂組成物の成形品の物性を向上することができる。
【0015】
なお、本願において本発明の成形機により本発明の製造方法を行うこともでき、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0016】
本発明者らは特許文献1、2に示すように、樹脂溜り部を有する構成とすることで、リサイクル樹脂等を含む組成物の成形品の物性を向上させることができることを見出している。一般的には、樹脂溜り部が無い成形機では吐出部に近接する溶融混練部までスクリューが配置されている。このため、溶融混練部の温度設定をしてもせん断力も働くため温度がより高くなると考えられる。熱可塑性樹脂は、成形時の温度が高いと劣化する可能性があり、一方で温度が低いと押出圧力を高くする必要があるとも考えられ、通常、吐出部付近まで溶融混練部と同程度の温度設定をしている。
【0017】
本発明者らは、さらに、熱可塑性樹脂組成物の成形について検討した結果、樹脂溜り部の温度を、溶融混錬部(シリンダー部)で高温となった樹脂とは異なる温度、好ましくはより低い温度とすることで、バージン樹脂などでも大幅な物性向上効果が得られることを見出した。
【0018】
高温のままで高分子が運動すると、高分子が移動・拡散し、高分子同士の絡み合いが減ると考えられる。その結果として結晶化後の内部構造は伸び特性に劣るものに変異していると考えられる。従ってこの絡み合いの減少を抑制すれば、さらに熱可塑性樹脂組成物の物性を向上させることができると考えられる。
【0019】
図1は、本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品の成形機の一実施形態に係る構造を示す概要図である。本発明の第一の実施形態に係る成形機10は、供給口1と、溶融混練部2と、樹脂溜り部5と、吐出部3を有する。この樹脂溜り部5の温度を、溶融混練部2よりも低い温度とする。
【0020】
図2は樹脂溜り部の影響の解析モデルの説明のための図である。溶融混練部や樹脂溜り部内での挙動を解析するにあたって、二軸押出機について、
図2のような形状での3D解析モデルを作成した。また、3D解析モデルについて、3D有限要素モデルを設定した。有限要素モデルの基本メッシュサイズは、1.2mmであり、ブレーカプレートとストランドダイ先端は、0.5mmとした。要素は1,051,099要素として、節点は211,230点とした。
【0021】
主な解析条件として、以下の条件とした。
・押出流量:10kg/h(体積流量3.6cm3/sec)
・ダイ壁面温度:200℃、140℃(壁面の伝達係数100W/m2/K)
・入口樹脂温度:222℃(中練りのスクリュー解析結果より)
・スクリュー回転数:200rpm(同方向回転の周速度を付与)
・出口先端圧力:0MPa(解放条件)
・樹脂データ:HDPEの一般的な物性を使用
・樹脂溶融粘度は、実験データを用いた。
【0022】
解析は、株式会社HASL社製押出成形用3次元熱流動解析用ソフトウェア「Flow Simulator」により解析した。溶融混練部は200℃を主な解析条件とした。
【0023】
図3は、本発明にかかる樹脂溜り部等の壁面温度との関係を示す図である。
図4は、本発明にかかる樹脂溜り部等の圧力分布の壁面温度との関係を示す図である。また、
図4の上段は、ダイの壁面温度を200℃としたときである。
図4の下段はダイの壁面温度を140℃としたときのものである。
図4内において各温度のときの樹脂圧力は、カラーレンジを同じものとして表示した。
【0024】
図4に示すように、樹脂溜り部では、樹脂溜り部の入口側から出口側に向けて壁面側から徐々に温度が低下し、中央部のみが高い流動性を維持する。すなわち、壁面付近では樹脂組成物の流動がほぼ停止し、テーパー状の流動が生じる。140℃では特にその傾向が大きいことが分かる。
【0025】
そして、このような温度制御した樹脂溜り部を設けた成形機により、市販されているペレットを再ペレタイズした結果、伸度などが向上した。これにより、高性能な熱可塑性樹脂組成物の製品を生産できる。また、この成形品はリサイクル特性にも優れている。
【0026】
[実施形態]
本発明の実施形態に係る成形機10(
図1参照)は、供給口1と、溶融混練部2と、樹脂溜り部5と、吐出部3を有する。また、この成形機10は、吐出部3からストランド状に吐出し、これを裁断してペレット化するペレタイザー4を有する。この成形機10により、熱可塑性樹脂組成物を溶融してペレット状に成形することができる。得られたペレットは、フレキシブルコンテナバッグ等のコンテナ6に収集される。
【0027】
[成形機10]
図1の成形機10は、本発明の成形機の実施形態に関し、本発明の成形方法に適している。
【0028】
図1の成形機10は、供給口1と、溶融混練部2と、樹脂溜り部5と、吐出部3を有する。熱可塑性樹脂組成物は、吐出部3からストランド状に吐出され、ペレタイザー4でペレット化される。得られたペレットは、フレキシブルコンテナバッグ等のコンテナ6に収集される。以下さらに詳しく成形機10を説明する。
【0029】
[供給口1]
供給口1は、ホッパー状の供給口である。この供給口1の上部から塊状や粉状、ペレット状などの熱可塑性樹脂組成物が供給され、溶融混練部2へと移送される。
【0030】
[溶融混練部2]
溶融混練部2は、供給口1から供給された熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する。この溶融混練部2は、熱可塑性樹脂組成物の溶融温度に加熱されており、モーターMにシリンダー21により連結されたスクリュー22を回転させることで熱可塑性樹脂組成物が樹脂溜り部5側へと押し出される。また、この配管とスクリュー22との間等を通るとき、熱可塑性樹脂組成物にせん断応力がかかり、熱可塑性樹脂組成物は混練される。
【0031】
[樹脂溜り部5]
樹脂溜り部5は、溶融混練部2と吐出部3との間に設けられている。この樹脂溜り部5は、溶融混練部2で溶融混練された熱可塑性樹脂組成物にかかったせん断応力を解消することができる。
【0032】
[温度差Δt]
樹脂溜り部5は、溶融混練部2よりも成形温度が低い。また、溶融混練部2の温度t1と、樹脂溜り部5の温度t2との温度差Δt(温度t2―温度t1)が、-20℃~-80℃である。溶融混練部2の温度は、溶融混練部2と樹脂溜り部5の接続部分となる溶融混練部2の先端の設定温度である。樹脂溜り部5の温度は樹脂溜り部5全体の設定値である。このような温度差とするために、各部は独立してその壁面温度を設定できるものとしたり、このような温度差となるように温度制御する温度制御部を備える成形機を用いることができる。
【0033】
溶融混練部2の温度が200℃の場合、樹脂溜り部5の温度は、120℃~180℃である。温度差Δtが小さい場合、改善効果が限定的な場合がある。温度差Δtが大きい場合、樹脂溜り部5の温度が相当低いものとなるため、押し出される樹脂の流動性が低下する。このため、押出圧力が高くなり、装置負荷が大きいものとなる。温度差Δtは、-25℃~-70℃や、-30℃~-60℃であることがより好ましい。
【0034】
[樹脂溜り部5の形状・長さなど]
樹脂溜り部5は、溶融混練部2の断面と同じ形状で伸長されたものである、および/または、円柱状であることが好ましい。二軸押出機の場合、2本のスクリューが内蔵されており、そのシリンダー部分の断面は略楕円状であり、この楕円状の断面で直管状に伸長したものとする。一軸押し出し機の場合、1本のスクリューが内蔵されており、そのシリンダー部分の断面は円状であり、これを伸長した円柱状のものとする。
【0035】
溶融混練部2の長さをL1(mm)とし、樹脂溜り部5の長さをL2(mm)とし、溶融混練部2のシリンダー直径をD(mm)としたとき、それぞれ、L1/L2や、L1/Dを次のように設定することが好ましい。
【0036】
樹脂溜り部5の長さL2(mm)/溶融混練部2の長さL1(mm)は、0.1~1.0であることが好ましい。この比は、0.2以上や、0.3以上としてもよい。またこの比は、0.9以下や、0.8以下、0.7以下としてもよい。L2/L1が大きすぎる場合、樹脂溜り部5が長くなりすぎて、伸度向上などの効果は飽和し、壁面温度が低いことから流動性が低く押出圧力が高くなり装置負荷が高くなる場合などがある。L2/L1が小さすぎる場合、樹脂溜り部5の長さが足りず、十分に伸度向上などの効果を奏することができない場合がある。
【0037】
溶融混練部2の長さL1/シリンダー直径Dは、40~80であることが好ましい。L1/Dは、45~75や、50~70としてもよい。L1/Dが小さすぎる場合、樹脂を十分に溶融混練できない場合がある。L1/Dが大きすぎる場合、樹脂が過剰にせん断され、このせん断を解消することが難しくなる場合がある。
【0038】
樹脂溜り部5の長さL2は、成形機10の大きさや、押出量、滞留時間などにもよるが、10mm以上や、30mm以上、50mm以上、80mm以上、100mm以上などとすることができる。
【0039】
[吐出部3]
吐出部3は、樹脂溜り部5を通り、溶融混練された後の熱可塑性樹脂組成物をストランド状に吐出する。吐出部3の先は、成形品の形状に合わせたものとする。例えば、ペレット化する場合は、
図1に示すようにペレタイザー4を配置し細断する。裁断されたペレットはコンテナ6に収容される。ペレタイザー4等に代え、成形品の形状と対応するフィルムや、パイプ、チューブ、板、レール、コーナーガード、異形成形品などの金型に押し出して成形するものとしてもよい。
【0040】
[ペレタイザー4]
ペレタイザー4は、吐出部3より吐出されたストランド状の熱可塑性樹脂組成物を細断しペレット化する。なお、本発明の成形機10は、吐出部3から吐出後、直ちに細断するホットカットやアンダーウォーターカットなどによりペレット化してもよく、ストランド状には、短い状態のものも含む。本発明の成形機10は、このような吐出部3から吐出された熱可塑性樹脂組成物を細断しペレット化するペレタイザー4を有する成形機としてもよい。
【0041】
この成形機10により熱可塑性樹脂組成物をペレット化することで得られる樹脂ペレットは、後述する射出成形工程に用いられる。
【0042】
[押し出し条件]
成形機では、複合樹脂組成物やリサイクル樹脂組成物等の熱可塑性樹脂組成物の種類やその成形機の押出し圧力などに応じて、単位時間の押出し量が所定の範囲で制御されることが好ましい。この押出し量に基づいて、樹脂溜り部5の容積を所定の範囲としてせん断応力を解消する大きさに調整する。このせん断応力を解消する大きさは、具体的には、滞留時間を、5~600秒とすることが好ましい。
【0043】
また、成形機はその滞留時間を達成する容積となる樹脂溜り部を有するものとすることができる。この滞留時間は、押出し量/樹脂溜り部の容積から求められる。なお、この滞留時間は、溶融混練部に相当するスクリューが設けられる長さから求めても良く、吐出部までの配管に対してスクリューが短くされている場合、スクリューが設けられている位置まではシリンダーとの間に大きなせん断がかかるため溶融混練部とみなす。一方、スクリューがない樹脂溜り部内ではスクリューによりかかったせん断が解消するため、この体積部分も、樹脂溜り部とみなしてその滞留時間等を管理することもできる。
【0044】
この滞留時間はより好ましくは、10秒以上、30秒以上、さらに好ましくは、60秒以上である。滞留時間を長くするほど、せん断履歴による成形履歴を解消することができ、より物性が維持や向上された樹脂組成物を得ることができる。一方、その上限は好ましくは300秒以下や、240秒以下である。滞留時間を長くしてせん断履歴による成形履歴の解消による効果は、一定以上からその変化量が少なくなるため、装置の設計上、一定以上長くする必要性は低い。
【0045】
そして、この滞留時間を容積として設計するときは、その成形機の最大押出し量に基づいて最小滞留時間を達成できるように設計することができる。または、実質的には、樹脂溜り部として取り付ける配管の長さで滞留時間の制御をできるためその長さを運転条件に併せて適宜取り換えることができる設計として管理しても良い。なお、ペレット化工程は、特開2017-148997号公報の熱可塑性樹脂組成物の成形方法等を適宜参照して実施することができる。
【0046】
[第一の熱可塑性樹脂]
本発明は、熱可塑性樹脂等を含む熱可塑性樹脂組成物に関する。熱可塑性樹脂は、熱を加えると軟化し、射出成形可能な樹脂である。例えば、ポリオレフィン系樹脂や、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、PMMA等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニルサルファイド(PPS)等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂を第一の熱可塑性樹脂として用いることが好ましい。ポリオレフィンとは、ポリエチレンやポリプロピレン等のように、1位に二重結合をもつα-オレフィンの重合で得られる結晶性を有する高分子である。
【0048】
[熱可塑性樹脂組成物]
熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含む。この熱可塑性樹脂組成物は、実質的に熱可塑性樹脂からなるものであってもよい。また、一般的に熱可塑性樹脂組成物に含まれる不純物などを含んでいてもよい。また、熱可塑性樹脂組成物と混合して用いられる、各種添加剤等を含むものであってもよい。
【0049】
添加剤としては、各種の物性改善剤を用いることができ、例えば、着色剤や、安定剤、UV吸収材、可塑剤などが挙げられる。熱可塑性樹脂組成物に含まれる第一の熱可塑性樹脂は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。また、80質量%以上や、90質量%以上としてもよい。熱可塑性樹脂組成物に含まれる第一の熱可塑性樹脂の上限は特に定めなくてもよいが、添加剤や微量な不純物を含む場合があるため、99.9質量%以下や、99.5質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下のような上限を設けてもよい。
【0050】
[複合樹脂組成物]
熱可塑性樹脂組成物は、第一の熱可塑性樹脂と、無機物及び/又は第一の熱可塑性樹脂とは異なる高分子成分を含む複合樹脂組成物を用いてもよい。複合樹脂組成物は、従来の成形では、第一の熱可塑性樹脂組成物よりも、特に破断伸度が低下する場合がある。本発明によれば、このような破断伸度の低下を抑制することができる。
【0051】
[無機物]
複合樹脂組成物は、無機物を含むことができる。この無機物は、第一の熱可塑性樹脂と組み合わせて用いられ、射出成形等により成形するときに併用したり、不純物として混入される成分である。例えば、いわゆるフィラーとして混合するものなどが挙げられ、ガラス繊維、炭素繊維、炭酸カルシウム、タルク、硝酸バリウム、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カーボンブラック、クレー、顔料等が挙げられる。無機物を含むことで、弾性率や破断強度、耐衝撃性などが向上したり、色や反射率等の光学的特性や耐熱性が変化し所望の物性に調整することができる。
【実施例0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[引張試験]
(引張試験1) VPP(プレスフィルム),RPE(プレスフィルム):株式会社東京試験機製“Little Senstar LSC-02/30-2”を用いて、引張試験を行った。引張試験によって得られた結果を用いて、応力-ひずみ曲線(S-S曲線)を作製し、破断伸度を求めた。引張り速度は、VPPの場合は50mm/min、RPEの場合は100mm/minとした。試験片は、VPPは、
図5の形状とした。
【0054】
(引張試験2) VPP(射出成形):A&DCompany.Limited“Tensilon RPF-1350”を用いて、引張試験を行った。引張試験によって得られた結果を用いて、応力-ひずみ曲線(S-S曲線)を作製し、破断伸度を求めた。引張速度は、250mm/minとした。試験片は、JIS K7161-2:2014(ISO527-2:2012)1B型試験片とした。
【0055】
(引張試験3) VPE(プレスフィルム):SHIMADZU製“EZ-LX”を用いて、引張試験を行った。引張試験によって得られた結果を用いて、応力-ひずみ曲線(S-S曲線)を作製し、破断伸度を求めた。引張り速度は、100mm/minとした。試験片は、
図5の形状とした。
【0056】
[実験装置]
・押出機
プラスチック工学研究所製の二軸混練押出機を用いて溶融混練を行った。各軸φ26mmのシリンダー径の形状である。スクリュー長について、L/Dは60である。
【0057】
・樹脂溜り部
VPP、RPE:前記押出機の押出しスクリュー内蔵部を溶融混練部とし、吐出部との間に、溶融混練部のシリンダー配管断面と同形状の配管を樹脂溜り部として設けた。前述した実験装置の二軸押出しスクリューが内蔵される溶融混練部と同じ形状の断面を有し、長さL2:240mm、この樹脂溜り部となる配管の容積は、約332,480mm3(332.48cm3)
【0058】
VPE:前記押出機の押出しスクリュー内蔵部を溶融混練部とし、吐出部との間に、直管状の配管を樹脂溜り部として設けた。長さL2:340mmの直管状の配管を、樹脂溜り部として、溶融混練部および吐出部の間に設けた。この樹脂溜り部となる配管の容積は、約411,140mm3(411.14cm3)である。
【0059】
・ペレタイザー
前記押出機の吐出部から吐出されたストランドを約5mmの長さのペレット状に細断するペレタイザーを設けた。樹脂溜り部の断面や、ペレタイザーの先端形状等の概要図を、
図6に示す。
【0060】
[原料]
・VPP:日本ポリプロ株式会社「BC03BSW」 MFR:30g/10min、バージンポリプロピレン樹脂
・VPE:旭化成株式会社「サンテック(登録商標)“B470”」 MFR(190、2.16):0.30g/10min、バージンポリエチレン樹脂
・RPE:富山環境整備製「PE硬質」、リサイクルポリエチレン樹脂
【0061】
[実験条件]
上記実験装置を用いて、表1~表4に示す実験条件にて成形を行い、ペレットを得た。得られたペレットから試験用の成形品を成形し、評価した。溶融混練部の温度は、200℃に設定した。
【0062】
[ペレットからの試験用の成形品の成形]
(1)プレスフィルム成形
VPP:温度210℃ プレス圧力30MPa プレス時間2分 膜厚約0.08~0.10mm
VPE:温度200℃ プレス圧力20MPa プレス時間2分 膜厚約1.00mm
RPE:温度200℃ プレス圧力50MPa プレス時間2分 膜厚約0.13~0.16mm
(2)射出成形
日本製鋼所製 プラスチック射出成形機“J110 AD/10H”を用いて、成形温度200℃にて、JIS規格の引張試験 K7131 2(1/3)号ダンベル試験片に準じて、試験片寸法は厚さ0.08~0.10mmの試験片を作製した。
【0063】
[参考例1、試験例1~10]
VPPのプレスフィルムを用いた試験結果を表1に示す。試験片は、プレス成形によるフィルムを用いた。樹脂溜り部の温度を200℃のままとするよりも、溶融混練部よりも低温とすることで破断伸びが向上することが確認された。
【0064】
【0065】
[参考例11~14、試験例11~12]
VPPの射出成形試験片を用いた試験結果を表2に示す。試験片は、射出成形試験片を用いた。樹脂溜り部の温度を200℃のままとするよりも、溶融混練部よりも低温とすることで破断伸びが向上することが確認された。
【0066】
【0067】
[参考例21、試験例21~23]
VPEを用いた試験結果を表3に示す。試験片は、プレス成形により作製したものを評価した。樹脂溜り部の温度を200℃のままとするよりも、溶融混練部よりも低温とすることで破断伸びが向上することが確認された。また、参考例21と試験例22の各引張試験項目を表3に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
[参考例31、試験例31~32]
リサイクルポリエチレンであるRPEを用いた試験結果を表5に示す。
【0071】