(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180092
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法、及び、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20221129BHJP
A23L 17/00 20160101ALI20221129BHJP
G01N 33/12 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01N21/27 F
A23L17/00 A
A23L17/00 Z
G01N33/12
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087009
(22)【出願日】2021-05-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】396004534
【氏名又は名称】赤城水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】太田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】山崎 千紘
【テーマコード(参考)】
2G059
4B042
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB11
2G059BB12
2G059CC16
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH02
2G059HH06
2G059MM01
2G059MM04
2G059MM12
2G059MM14
4B042AC02
4B042AC06
4B042AD39
4B042AE03
4B042AE04
4B042AE08
4B042AG27
4B042AH01
4B042AK02
4B042AK06
4B042AK11
4B042AP14
4B042AP21
4B042AP30
4B042AW06
(57)【要約】
【課題】新規の真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法、及び、前記方法を用いて得られる真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品を提供する。
【解決手段】真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法は、分光反射率測定工程と、演算式作成工程と、還元率算定工程と、を含む。真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品は、前記加工食品の、演算式:Y=28.571X+16057.14(式中、Yはミオグロビンの還元率であり、Xは極小値に対応する波長である。)から算定されるミオグロビンの還元率Yが75%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法であって、
真空包装された前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面に500nm以上600nm以下のスペクトルを含む光を照射し、前記加工食品の袋の表面からの反射光を分光して、分光反射率を測定する分光反射率測定工程と、
測定された前記分光反射率を用いて、500nm以上600nm以下の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出し、該回帰曲線式で与えられる回帰近似曲線から極大値及び極小値を求め、所定の波長範囲内に存在する極小値を抽出した後、前記極小値に対応する波長と保存時間との関係から、ミオグロビンの還元率の演算式を作成する演算式作成工程と、
作成された前記演算式を用いて、検査対象である前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を予測するための基準となるミオグロビンの還元率を算定する還元率算定工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記演算式作成工程において、前記反射光を波長幅0.1nm以上20nm以下の間隔の波長成分に分光して、500nm以上600nm以下の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミオグロビン含有赤身魚肉が、サバ科に属する魚の肉である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ミオグロビン含有赤身魚肉が、サバ科カツオ属に属する魚及びサバ科マグロ属に属する魚からなる群より選ばれる1種以上の魚の肉である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品であって、
真空包装された前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の、以下に示す演算式から算定されるミオグロビンの還元率Yが75%以上であり、
前記演算式が、真空包装された前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面に500nm以上600nm以下のスペクトルを含む光を照射し、真空包装された前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面からの反射光を分光して、500nm以上600nm以下の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出し、該回帰曲線式で与えられる回帰近似曲線から極大値及び極小値を求め、558nm以上562nm以下の波長範囲内に存在する極小値を抽出した後、前記極小値に対応する波長と保存時間との関係から得られるものであり、波長が562nmであるときのミオグロビンの還元率を0%とし、且つ、波長が558.5nmであるときのミオグロビンの還元率を100%として、予め設定されたものである、加工食品。
演算式:Y = -28.571X+16057.14
(式中、Yはミオグロビンの還元率であり、Xは極小値に対応する波長である。)
【請求項6】
前記ミオグロビン含有赤身魚肉が、サバ科に属する魚の肉である、請求項5に記載の加工食品。
【請求項7】
前記ミオグロビン含有赤身魚肉が、サバ科カツオ属に属する魚及びサバ科マグロ属に属する魚からなる群より選ばれる1種以上の魚の肉である、請求項5又は6に記載の加工食品。
【請求項8】
酸化防止剤及びpH調整剤からなる群より選ばれる1種以上を更に含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の加工食品。
【請求項9】
赤色着色料及び黄色着色料からなる群より選ばれる1種以上の着色料を更に含む、請求項5~8のいずれか一項に記載の加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法、及び、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
マグロ等のミオグロビン含有赤身魚は、冷凍保存時に次第に特有の赤色が失われ、赤色が比較的淡い肉では、灰色~緑色に、また、赤色が比較的濃い肉では、褐色~黒色に変化する。刺身や寿司ネタのような、いわゆる生食用赤身魚肉は、変色を起こすと商品価値が著しく損なわれる。そのため、肉の色調保持は漁業者や流通業者によって重大な課題である。
【0003】
ミオグロビン含有赤身魚は、冷凍温度によって色の保持に違いがあることが知られている。一般に、-60℃以下の場合には1年以上の長期間保存しても、肉の色調を保持できる。しかしながら、それよりも温度が高くなると、経時的に色が変化することから、保存可能な期間が短くなる。
【0004】
従来から、ミオグロビン含有赤身魚を酸素透過性の低い包装材料で真空包装し凍結することで、-20℃前後の冷凍温度帯で長期保存できることが知られている。これは、包装前のミオグロビンのヘム鉄と結合していた酸素が外れて、酸化型ミオグロビンが、還元型ミオグロビンに変化するためである。しかしながら、還元型ミオグロビンは、暗紫赤色~灰色を呈し、その色調は、褐色~灰色を呈するメト型ミオグロビンに類似している。そのため、目視による外観の確認だけでは、包装された赤身魚においてミオグロビンが還元化しているのか、メト化しているのか判別することが困難である。また、実際の製造現場では、原料である赤身魚の状態や、副原料の種類や量によって、冷凍保存中の色調保持効果に差が生じる。
【0005】
発明者らは、これまで、赤身魚の肉塊表面に照射した光の分光反射率を基にして、赤身魚中におけるミオグロビンのメト化率を算定する方法を開発している(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ミオグロビンのメト化率を算定できるが、ミオグロビンの還元率については算定することについては検討されていない。また、ミオグロビンは、酸素分圧0.0mmHg付近で、メト化が抑制されるが、逆に特定の低酸素分圧(3.3mmHg以上4.0mmHg以下程度)ではメト化の速度が最大になるという特徴を有する。そのため、せっかく酸素透過性の低い包装材料を用いても、真空度が弱く上記特定の低酸素分圧になってしまうと、色調保持どころか、かえって退色が進んでしまうという課題がある。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、上記課題を解決することができない。また、特許文献1に記載の方法によって、メト化率が判明していても、残りのミオグロビンが酸化型なのか、還元型なのかを知ることができない。そのため、冷凍保存中の色調保持性を判断するために、還元型ミオグロビンの比率を算定し得る方法が求められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規の真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法を提供する。また、前記方法を用いて得られる真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面に照射した光の分光反射率を基にして、赤身魚中におけるミオグロビンの還元率を算定することで、当該還元率を基準として、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法であって、
真空包装された前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面に500nm以上600nm以下のスペクトルを含む光を照射し、前記加工食品の袋の表面からの反射光を分光して、分光反射率を測定する分光反射率測定工程と、
測定された前記分光反射率を用いて、500nm以上600nm以下の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出し、該回帰曲線式で与えられる回帰近似曲線から極大値及び極小値を求め、所定の波長範囲内に存在する極小値を抽出した後、前記極小値に対応する波長と保存時間との関係から、ミオグロビンの還元率の演算式を作成する演算式作成工程と、
作成された前記演算式を用いて、検査対象である前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を予測するための基準となるミオグロビンの還元率を算定する還元率算定工程と、
を含む、方法。
(2) 前記演算式作成工程において、前記反射光を波長幅0.1nm以上20nm以下の間隔の波長成分に分光して、所定の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出する、(1)に記載の方法。
(3) 前記ミオグロビン含有赤身魚肉が、サバ科に属する魚の肉である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記ミオグロビン含有赤身魚肉が、サバ科カツオ属に属する魚及びサバ科マグロ属に属する魚からなる群より選ばれる1種以上の魚の肉である、(1)~(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5) 真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品であって、
真空包装された前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の、以下に示す演算式から算定されるミオグロビンの還元率Yが75%以上であり、
前記演算式が、真空包装された前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面に500nm以上600nm以下のスペクトルを含む光を照射し、真空包装された前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面からの反射光を分光して、500nm以上600nm以下の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出し、該回帰曲線式で与えられる回帰近似曲線から極大値及び極小値を求め、558nm以上562nm以下の波長範囲内に存在する極小値を抽出した後、前記極小値に対応する波長と保存時間との関係から得られるものであり、波長が562nmであるときのミオグロビンの還元率を0%とし、且つ、波長が558.5nmであるときのミオグロビンの還元率を100%として、予め設定されたものである、加工食品。
演算式: Y = -28.571X+16057.14
(式中、Yはミオグロビンの還元率であり、Xは極小値に対応する波長である。)
(6) 前記ミオグロビン含有赤身魚肉が、サバ科に属する魚の肉である、(5)に記載の加工食品。
(7) 前記ミオグロビン含有赤身魚肉が、サバ科カツオ属に属する魚及びサバ科マグロ属に属する魚からなる群より選ばれる1種以上の魚の肉である、(5)又は(6)に記載の加工食品。
(8) 酸化防止剤及びpH調整剤からなる群より選ばれる1種以上を更に含む、(5)~(7)のいずれか一つに記載の加工食品。
(9) 赤色着色料及び黄色着色料からなる群より選ばれる1種以上の着色料を更に含む、(5)~(8)のいずれか一つに記載の加工食品。
【発明の効果】
【0011】
上記態様の方法によれば、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品におけるミオグロビンの還元率を客観的に評価することができる。上記態様の加工食品は、冷凍保存中の色調及び風味保持性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における無着色のマグロ肉加工食品の保存時間に関係する分光反射率の変化を示すグラフである。
【
図2】実施例1における着色料含有マグロ肉加工食品の保存時間に関係する分光反射率の変化を示すグラフである。
【
図3】実施例1における無着色及び着色料含有マグロ肉加工食品の保存時間と極小値波長の関係を示すグラフである。
【
図4】実施例1における無着色及び着色料含有マグロ肉加工食品の極小値波長と還元率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法≫
本発明の一実施形態に係る方法(以下、「本実施形態の方法」と称する場合がある)は、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法である。
【0014】
本実施形態の方法は、以下の工程を含む。
真空包装された前記ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面に500nm以上600nm以下のスペクトルを含む光を照射し、前記加工食品の袋の表面からの反射光を分光して、分光反射率を測定する分光反射率測定工程;
測定された前記分光反射率を用いて、500nm以上600nm以下の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出し、該回帰曲線式で与えられる回帰近似曲線から極大値及び極小値を求め、所定の波長範囲内に存在する極小値を抽出した後、極小値に対応する波長と保存時間との関係から、ミオグロビンの還元率の演算式を作成する演算式作成工程;
作成された演算式を用いて、検査対象であるミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を予測するための基準となるミオグロビンの還元率を算定する還元率算定工程。
【0015】
特許文献1等に記載のこれまでの知見から、還元型ミオグロビンは560nm付近、酸化型ミオグロビンは540nm付近及び580nm付近、メト型ミオグロビンは630nm付近に、それぞれ特異的な光吸収極大を有することがわかっている。
【0016】
また、後述する実施例に示すように、発明者らは、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品において、10℃環境下での保存中に、500nm以上600nm以下の波長範囲の波形の形状が、保存時間の経過に伴って変化することに着目した。このことから、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面に照射した500nm以上600nm以下のスペクトルを含む光の分光反射率を基にして、所定の波長範囲の極小値に相当する波長を抽出した後、極小値に対応する波長と保存時間との関係から、ミオグロビンの還元率の演算式を作成し、該演算式を用いて赤身魚中におけるミオグロビンの還元率を算定することで、当該還元率を基準として、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本実施形態の方法によれば、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品におけるミオグロビンの還元率を客観的に評価することができる。また、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品を製造する場合に、本実施形態の方法を適用することで、真空包装後1時間程度という極めて短い時間で、その後の冷凍保存における色調保持性を判定することができる。すなわち、本実施形態の方法は、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の製造時における前記加工食品の冷凍前の保存性の検査方法ということもできる。
【0018】
なお、本明細書において、「冷凍保存における色調保持性」とは、冷凍保存中において赤身魚肉に含まれるミオグロビンのメト化が進むことで、色調が褐色等に退色することなく、保持されている性質を意味する。冷凍保存における色調保持性は、保存期間中に赤身魚肉に含まれるミオグロビンの還元率が所定の数値範囲に保たれていることにより、達成され得る。
【0019】
また、本明細書において、「ミオグロビンの還元率」とは、後述するように、ミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の配合や魚の種類によって波長範囲を適宜設定して得られた演算式を基に算定されるミオグロビンの還元化の程度を示す指標である。
【0020】
以下、本実施形態の方法の各工程について、詳細に説明する。
【0021】
<分光反射率測定工程>
光照射工程では、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面に500nm以上600nm以下のスペクトルを含む光(例えば、波長400nm以上700nm以下の可視光)を照射し、前記加工食品の袋の表面からの反射光を分光して、分光反射率を測定する。
【0022】
光の照射及び分光反射率を測定する方法としては、例えば、公知の分光測色計(コニカミノルタ社製、型番:CM-5)等を用いる方法が挙げられる。また、測定用光源としては、放射光の波長範囲が360nm以上740nm以下のパルスキセノンランプ等を用いることができる。
【0023】
加工食品の袋の表面の、好ましくは2箇所以上、より好ましくは3箇所以上、さらに好ましくは5箇所以上に光を照射して、各箇所における分光反射率を測定し、測定値の平均値を用いることが好ましい。より具体的には、加工食品の包装容器の形状にもよるが、例えば、包装容器が長方形の袋状である場合には、中心部と四隅の合計5箇所に光を照射して、各箇所における分光反射率を測定し、測定値の平均値を用いる。
【0024】
また、分光反射率の測定は、常温(25℃程度)下で行うことができる。加工食品の袋の表面に、冷蔵から常温下におくことで水滴や曇り等がみられる場合には、水滴や曇りを除去してから測定を開始することが望ましい。
【0025】
<演算式作成工程>
演算式作成工程では、測定された前記分光反射率を用いて、500nm以上600nm以下の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出し、該回帰曲線式で与えられる回帰近似曲線から極大値及び極小値を求め、所定の波長範囲内に存在する極小値を抽出した後、極小値に対応する波長と保存時間との関係から、ミオグロビンの還元率の演算式を作成する。
【0026】
具体的には、500nm以上600nm以下の波長範囲のスペクトルの変化から還元化の進行度(還元率)を捉えるために、上記保存時間毎の測定したデータから500nm以上600nm以下の波長範囲に含まれる波長幅0.1nm以上20nm以下、好ましくは10nmの各波長成分(500nm、510nm、520nm、530nm、540nm、550nm、560nm、570nm、580nm、590nm、600nm)に対応する分光反射率を抽出する。抽出された分光反射率の回帰分析を行い、最小二乗法等により、上記の波長範囲に含まれる各波長成分の波長xと反射率yの関係を表す、n次多項式(好ましくは、3次多項式)の回帰曲線式{y=f(x)}を求める。
【0027】
(3次多項式の場合の)回帰曲線式: y ≒ β1x3+β2x2+β3x+ε
【0028】
上記回帰曲線式中、β1~β3及びεは、最小二乗法による推定される回帰係数である。
【0029】
次いで、上記回帰曲線式により与えられる、回帰近似曲線の極大値及び極小値を求め、上記保存時間毎の、所定の波長範囲に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出する。
上記回帰曲線式とその極小値は、例えば、市販の表計算ソフト(Microsoft(登録商標) Excel for Windows 2016)等を用いて算出することができる。
【0030】
次いで、抽出された極小値波長のデータから、真空包装直後(又は真空包装直前)の還元率を0%として、そのときの極小値波長Xaを抽出し、且つ、一定の保存時間経過後に、極小値波長が低波長側に動かずに一定の波長で安定した際の還元率を100%として、そのときの極小値波長Xbを抽出する。次いで、極小値波長Xa及び極小値波長Xbを通り、且つ、横軸を極小値波長及び縦軸を還元率とする直線式(一次関数)を、以下に示すミオグロビンの還元率の演算式として用いる。
【0031】
演算式:(ミオグロビンの還元率Y)=-aX+b
【0032】
上記演算式中、a及びbは、上記極小値波長Xa(Y=0%)及びXb(Y=100%)を上記演算式に代入することで算定される定数である。
【0033】
演算式の作成のために使用される加工食品としては、特に限定されないが、後述する実施例に示すように、無着色又は着色料含有であって、且つ、酸化防止剤及びpH調整剤を含有するミオグロビン含有赤身魚肉を真空包装したものを、真空包装開始時から10℃で保存したものを所定の時間毎(例えば、5分間毎、10分間毎、20分間毎)に、所定の経過時間まで(例えば、90分経過後、100分経過後、120分経過後、200分経過後等)、所定の検体数(例えば、1検体、2検体、3検体、5検体、10検体等)サンプリングして用いることが好ましい。
【0034】
また、醤油、着色料等の分光反射率の波形に影響がでる配合の場合にも、上述する方法を用いて、当該配合の加工食品毎に演算式を作成することで、当該配合毎にミオグロビンの還元率を算定することができる。このとき、極小値波長Xが含まれる波長範囲は、加工食品の配合、用いられる魚種、包装の真空度等によって大きく変化することから、加工食品の種類に応じて、演算式の設定のために用いられる波長範囲は適宜変更することができる。
例えば、後述する実施例に示すように、無着色の加工食品においては、560nm以上568nm以下の波長範囲に存在する極小値を抽出対象データとし、一方で、着色料含有加工食品においては、558nm以上562nm以下の波長範囲に存在する極小値を抽出対象データとする。
【0035】
<還元率算定工程>
還元率算定工程では、作成された演算式を用いて、検査対象であるミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を予測するための基準となるミオグロビンの還元率を算定する。
【0036】
具体的には、例えば、後述する実施例における
図4に示すようなグラフを予め作成しておき、これに上記のようにして得た対象データ(抽出された極小値波長)を照らしてミオグロビンの還元率を読み取ることもできるが、好ましくは対象データ(抽出された極小値波長)を基に、得られた演算式(例えば、後述する実施例に示す演算式A及び演算式B)からミオグロビンの還元率を算定、算出する。つまり、対象データ(抽出された極小値波長)を演算式(例えば、後述する実施例に示す演算式A及び演算式B)のパラメータXに代入して演算を行い、その結果をミオグロビンの還元率Yとして取得する。
【0037】
例えば、還元率が0%であったときには、検査対象の加工食品が、冷凍保存中の色調保持性が不良である、或いは、冷凍保存中に色調又は風味が失われる可能性が高いと判定することができる。
一方で、後述する実施例に示すように、還元率が75%以上であったときには、検査対象の加工食品が、冷凍保存中の色調保持性が良好である、或いは、冷凍保存中において色調又は風味が保たれる可能性が高いと判定することができる。
【0038】
≪真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品≫
本実施形態の加工食品は、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品である。
【0039】
本実施形態の加工食品において、以下に示す演算式から算定されるミオグロビンの還元率Yが75%以上であり、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0040】
演算式: Y = -28.571X+16057.14
【0041】
(式中、Yはミオグロビンの還元率であり、Xは極小値に対応する波長である。)
【0042】
ミオグロビンの還元率が上記下限値以上であることで、冷凍保存中の色調及び風味保持性に優れる、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品が得られる。
【0043】
従来から、ミオグロビン含有赤身魚肉特有の事情により、マグロやカツオは超低温冷凍庫やマグナムコンテナといった設備をもちいて-35℃以下で保管・流通させるのが一般的である。また、F級冷凍車で運搬する場合には、-35℃以下の温度環境を確保するために断熱性のある箱を用い、さらにドライアイスを入れる等、コストのかかる手段を余儀なくされている。
【0044】
一方、量販店等の小売店ではマグロやカツオの殆どが冷蔵ショーケースで販売されている。小売店が-35℃以下の冷凍ショーケースを準備できないことが、冷蔵販売となっている要因の一つである。冷蔵ゆえに冷凍と比べ消費期限が圧倒的に短く設定されてしまうため、近年問題となっている“食品ロス”にもつながっている。
【0045】
また、例えば、量販店鮮魚売り場には-18℃以下の冷凍ショーケースの他に、-5℃以下に設定されたショーケース(平台)を併設することが多くみられる。こうした平台では、鮭の切り身等、個別急速冷凍(IQF)されたものを消費者が自らとって容器に入れる販売形態がとられている。ハンドリングしやすいよう解放された平台に陳列するわけだが、温度制御が困難なことから、-5℃以下で販売できる冷凍食品のみ陳列されているのが実状である。当然、これらのショーケースで生食用のマグロやカツオを販売することは難しい。
【0046】
後述する実施例に示すように、-20℃付近での冷凍貯蔵はもちろん、最も変色の進行する-7℃前後の温度帯であっても、ミオグロビンの還元率が75%以上である本実施形態の加工食品は、少なくとも1か月間(好ましくは、6か月間程度)は色調及び風味等の品質を保持できる。従来では、-20℃前後という温度帯での長期保存可能であるものが多いが、本実施形態の加工食品は、最も変色が速く進行する-7℃前後の温度帯でも少なくとも1か月間は保存することができる。
【0047】
演算式は、上記「真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法」に記載の方法を用いて、作成することができる。
具体的には、演算式は、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面に500nm以上600nm以下のスペクトルを含む光を照射し、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の袋の表面からの反射光を分光して、500nm以上600nm以下の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出し、該回帰曲線式で与えられる回帰近似曲線から極大値及び極小値を求め、558nm以上562nm以下の波長範囲内に存在する極小値を抽出した後、前記極小値に対応する波長と保存時間との関係から得られる。また、演算式は、波長が562nmであるときのミオグロビンの還元率を0%とし、且つ、波長が558.5nmであるときのミオグロビンの還元率を100%として、予め設定されたものである。
【0048】
より具体的には、まず、真空包装された、加工食品の総質量に対して、マグロ99.23質量%、酸化防止剤0.64質量%、pH調整剤0.12質量%、並びに、着色料としてアナトー色素0.005質量%)及びコチニール色素0.002質量%を含有するマグロのミンチの加工食品について、真空包装直後(0分経過時)、10℃に保存し、2、6、13、18、22、31、39、50、66、91、及び103分経過時に分光測色計(コニカミノルタ社製、型番:CM-5)を用いて、分光反射率を常温(25℃程度)下で測定する。
次いで、500nm以上600nm以下の波長範囲のスペクトルの変化から還元化の進行度(還元率)を捉えるために、上記保存時間毎の測定したデータから500nm以上600nm以下の波長範囲に含まれる波長幅10nmの各波長成分(500nm、510nm、520nm、530nm、540nm、550nm、560nm、570nm、580nm、590nm、600nm)に対応する分光反射率を抽出して、分光反射率の回帰分析を行い、最小二乗法により、上記の波長範囲に含まれる波長幅10nmの各波長成分の波長xと反射率yの関係を表す、3次関数の回帰曲線式{y=f(x)}を求める。
【0049】
回帰曲線式: y ≒ β1x3+β2x2+β3x+ε
【0050】
上記回帰曲線式中、β1~β3及びεは、最小二乗法による推定される回帰係数である。
【0051】
次いで、上記回帰曲線式により与えられる、3次曲線である回帰近似曲線の極大値及び極小値を求め、上記保存時間毎の波長範囲558nm以上562nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出する。上記回帰曲線式とその極小値とを市販の表計算ソフト(Microsoft(登録商標) Excel for Windows 2016)を用いて算出することができる。
【0052】
次いで、後述する表2に記載の、抽出された極小値波長のデータから、真空包装直後(0分経過時)の還元率を0%として、そのときの極小値波長562nmを抽出し、且つ、一定の保存時間経過後(39分経過以降)に、極小値波長が低波長側に動かずに一定の波長で安定した際の還元率を100%として、そのときの極小値波長558.5nmを抽出する。次いで、極小値波長562nm及び極小値波長558.5nmを通り、且つ、横軸を極小値波長及び縦軸を還元率とする直線式(一次関数)が、以下に示すミオグロビンの還元率の演算式として導出される。
【0053】
演算式:(ミオグロビンの還元率Y)=-28.571X+16057.14
【0054】
本実施形態の方法が対象にする加工食品及び本実施形態の加工食品は、生食用であってもよく、加熱用であってもよいが、より外観における色調の保持を求められることから、生食用であることが好ましい。
【0055】
<ミオグロビン含有赤身魚肉>
本実施形態の方法が対象にする加工食品及び本実施形態の加工食品に含まれるミオグロビン含有赤身魚肉は、冷凍肉であってもよく、非冷凍肉であってもよい。中でも、本実施形態の方法で還元率を算定する際には、非冷凍の状態の加工食品を用いることが好ましい。
【0056】
本実施形態の方法が対象にする加工食品及び本実施形態の加工食品に含まれる、ミオグロビン含有赤身魚肉としては、特に限定されないが、例えば、サバ科に属する魚の肉等が挙げられる。サバ科に属する魚としては、例えば、ビンナガ(Thunnus alalunga)、キハダ(T. albacares)、タイセイヨウマグロ(T. atlanticus)、メバチ(T. obesus)、クロマグロ(T. orientalis)(本マグロとも呼ばれる)、ミナミマグロ(T. orientalis)(インドマグロとも呼ばれる)、タイセイヨウクロマグロ(T. thynnus)、コシナガ(T. tonggol)等のマグロ属(Thunnus)に属する魚;カツオ(Katsuwonus pelamis)等のカツオ属(Katsuwonus)に属する魚;ゴマサバ(Scomber australasicus)、タイセイヨウマサバ(S. colias)、マサバ(S. japonicus)、タイセイヨウサバ(S. scombrus)等のサバ属(Scomber)に属する魚等が挙げられる。中でも、マグロ属又はカツオ属に属する魚が好ましく、マグロ属に属する赤身魚がより好ましい。
【0057】
また、他のミオグロビン含有赤身魚肉としては、例えば、ニシン科、カタクチイワシ科等に属する魚の肉も挙げられる。
ニシン科に属する魚としては、例えば、マイワシ(Sardinops melanostictus)等のマイワシ属(Sardinops)に属する魚;ウルメイワシ(Etrumeus teres)等のウルメイワシ属(Etrumeus)に属する魚等が挙げられる。カタクチイワシ科に属する魚としては、例えば、カタクチイワシ(Engraulis japonica)等のカタクチイワシ属(Engraulis)に属する魚等が挙げられる。
【0058】
また、これらの魚種における使用部位は、ミオグロビンを含有する部位であれば特に限定されない。具体的には、赤身部位、スキ身(中落ち)部位、小トロ部位、中トロ部位、大トロ部位等を用いることができる。中でも、ミオグロビン含有量が特に多いことから、赤身部位を用いることが好ましい。
【0059】
本実施形態の方法が対象にする加工食品及び本実施形態の加工食品において、その形態は、ミンチ(ねぎとろ、叩き、剥き身等を含む)、切り落とし(厚さ5mm程度のスライス、すしネタ用のスライスも含む)、細切り、角切り、輪切り、板状、ブロック状等のいずれの形態であってもよい。また、魚の表面を火で炙ったタタキの形態であってもよい。後述する実施例に示すように、いずれの形態であっても、本実施形態の方法の測定対象とすることができる。また、いずれの形態であっても、冷凍保存中の色調保持性に優れる加工食品とすることができる。
【0060】
<酸化防止剤及びpH調整剤>
本実施形態の加工食品は、ミオグロビン含有赤身魚肉に加えて、酸化防止剤及びpH調整剤からなる群より選ばれる1種以上を更に含むことが好ましく、酸化防止剤及びpH調整剤の両方を更に含むことがより好ましい。本実施形態の加工食品は、これら食品添加物を更に含むことで、ミオグロビンの還元率をより長期間保持することができ、その結果、冷凍保存中の色調保持性がより良好なものとなる。
【0061】
酸化防止剤としては、例えば、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、抽出トコフェロール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
加工食品中の酸化防止剤の含有量は、加工食品の総質量に対して、例えば、0.01質量%以上1.00質量%以下とすることができ、0.05質量%以上0.50質量%以下が好ましく、0.10質量%以上0.30質量%以下がより好ましい。
【0063】
pH調整剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム(無水)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
加工食品中のpH調整剤の含有量は、加工食品の総質量に対して、例えば、0.10質量%以上5.00質量%以下とすることができ、0.20質量%以上3.00質量%以下が好ましく、0.40質量%以上1.00質量%以下がより好ましい。
【0065】
<着色料>
本実施形態の加工食品は、ミオグロビン含有赤身魚肉に加えて、赤色着色料及び黄色着色料からなる群より選ばれる1種以上の着色料を更に含むことが好ましい。
【0066】
冷凍状態の真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品は、ミオグロビンの還元率を高く保持されていることから、開封前の外観が暗紫赤色~灰色を呈しており、その結果、開封前の外観では、食欲をそそらず、消費行動に結びつかない場合がある。
これに対して、本実施形態の加工食品は、赤色着色料を更に含むことで、開封前の冷凍時及び解凍時の外観をより良好に保つことができ、開封後のミオグロビンの酸化による発色にかかる時間を必要とせず、開封後直ちに喫食可能な見栄えとすることができる。
【0067】
赤色着色料としては、例えば、コチニール色素、ベニコウジ色素、野菜色素等が挙げられるが、これらに限定されない。
黄色着色料としては、例えば、アナトー色素、ベニコウジ色素、クチナシ色素等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
加工食品中の赤色着色料及び黄色着色料の合計含有量は、加工食品の総質量に対して、例えば、1質量ppm(0.0001質量%)以上5000質量ppm(0.5質量%)以下とすることができ、10質量ppm(0.001質量%)以上100質量ppm(0.01質量%)以下が好ましく、30質量ppm(0.003質量%)以上80質量ppm(0.008質量%)以下であることがより好ましい。
【0069】
<その他の成分>
本実施形態の加工食品は、当該加工食品が奏する効果を妨げない範囲内で、ミオグロビン含有赤身魚肉に加えて、その他の成分を更に含むことができる。
その他の成分としては、例えば、サラダオイル、白絞油、ショートニング、マーガリン等の油脂;醤油、ラー油、魚介エキス、たん白加水分解物、レモン、ゆず、すだち等の柑橘汁等の調味料;ネギ、大根等の野菜加工品;イノシン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸系調味料;クエン酸、コハク酸等の酸味料;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤;香料;増粘多糖類;膨張剤;タンパク質;糖類等が挙げられる。加工食品中のこれらの成分の含有量は、本実施形態の加工食品の具体的な用途や商品形態に応じて適宜設定することができる。
中でも、油脂、醤油、又は柑橘汁(特にレモン汁)が好ましい。これらを配合することで、加工食品の食感や風味をより向上させることができる。
【0070】
<包装容器>
本実施形態の加工食品を真空包装するための包装容器は、酸素難透過性包装材料からなるものを用いることができる。酸素難透過性包装材料は、23℃における酸素透過度が100mL/(m2・24hr・MPa)以下であるものが好ましく、90mL/(m2・24hr・MPa)以下であるものがより好ましく、85mL/(m2・24hr・MPa)以下であるものがさらに好ましい。一方、酸素透過度の下限値は特に限定されず、0mL/(m2・24hr・MPa)に近い値であるほど好ましい。酸素透過度は、JIS K 7126A,B法(23℃,0%RH)に準拠して測定される。酸素難透過性包装材料の厚さは、使用する材質にもよるが、10μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0071】
酸素難透過性包装材料としては、通常の魚肉加工食品に使用される、酸素バリア層を有する単層若しくは複層構造のシート状又はフィルム状の包装材料を適宜に成形したものが挙げられる。酸素バリア層としては、例えば、アルミニウム箔等の金属箔、シリカ蒸着フィルム、アルミナ蒸着フィルム等の無機物蒸着膜、延伸ナイロン(ONY)フィルム、無延伸ナイロンフィルム、延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリ塩化ビニリデンコート延伸ナイロン(KON)フィルム、ポリ塩化ビニリデンコート延伸ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、エチレン酢酸ビニルコポリマー鹸化物フィルム等の従来から知られている材料を含む層が挙げられる。中でも、酸素バリア層としては、延伸ナイロン(ONY)フィルム、又は無延伸ナイロンフィルムを含む層が好ましい。
【0072】
これら酸素難透過性包装材料からなる包装容器を用いて包装された加工食品において、容器内の真空度は低ければ低いほど好ましい。真空度を低く保つことで、ミオグロビンの還元率を高く保つことができ、その結果、冷凍保存中の色調保持性をより良好なものとすることができる。
容器内の真空度は、酸素分圧で表すことができ、酸素分圧が、5.0mmHg未満であることが好ましく、3.0mmHg以下であることがより好ましく、2.0mmHg以下であることがさらに好ましく、1.0mmHg以下であることがよりさらに好ましく、0.1mmHg以下であることが特に好ましく、0.0mmHg以下であることが最も好ましい。
容器内の酸素分圧は、例えば、真空計(日本ブッシュ株式会社、VacTest TTP)を用いて、測定することができる。
【0073】
また、包装容器としては、測定される分光反射率になるべく影響を及ぼさないように、透明性が高く、着色されていないものを用いることが好ましい。透明性については、ヘイズ値で表すことができ、ヘイズ値が10%以下であるものを用いることが好ましく、9%以下であるものを用いることがより好ましい。包装容器のヘイズ値は、例えば、公知のヘイズメーターを用いて、ISO 14782に準拠して測定することができる。
【0074】
加工食品において、包装される内容物の厚みは特に限定されないが、5mm以上であることが好ましく、1cm以上であることがより好ましい。厚みが上記下限値以上であることで、ミオグロビン還元率の測定時により十分な反射光を得ることができる。一方で、内容物の厚みの上限値は特に限定されないが、包装しやすさや保存及び輸送を容易にする観点から、例えば、30cm以下とすることができ、20cm以下とすることができ、10cm以下とすることができる。
なお、加工食品の縦横の大きさについては、内容物の種類に応じて、適宜設定することができる。
【0075】
<加工食品の製造方法>
本実施形態の加工食品は、その商品形態にもよるが、例えば、以下に示す方法により製造することができる。
【0076】
加工食品がミンチ状である場合の製造方法について以下に説明する。まず、原料のミオグロビン含有赤身魚肉が冷凍の場合には、水槽にミオグロビン含有赤身魚肉を入れて解凍する。次いで、解凍されたミオグロビン含有赤身魚肉を、ブロック状に切断した後、さらに、直径1cm前後のサイズになるように切断して、ミンチ状の赤身魚肉を得る。切断には、当該技術分野においてこれまで用いられてきた装置と同様のものを用いることができる。そのような装置としては、例えばサイレントカッター、フードカッター、真空ボールカッター、チョッパー、フローズンカッター、ダイスカッター等が挙げられる。中でも、サイレントカッターが好ましい。
【0077】
次いで、ミンチ状の赤身魚肉に、規定量の副原料(酸化防止剤、pH調整剤、及び着色料、並びに、必要に応じて、各種調味料及び食品添加物)を添加して、混合する。次いで、規定量の油脂を添加して、混合する。なお、油脂は、上記副原料と同じタイミングで添加してもよい。これら副原料や油脂との混合は、例えば、サイレントカッター(SC150U J113520010、株式会社ヤナギヤ)を用いて行うことができる。また、副原料及び油脂の配合量は、上述した含有量となる量とすることができる。
【0078】
次いで、調味された加工食品が規定量となるように計量し、包装材料内へ真空包装する。真空包装時には包装内の真空度を高くして、酸素を排除することが好ましい。真空度として具体的には、包装容器内の酸素分圧が上記数値範囲内となる程度であることが好ましい。
【0079】
次いで、加工食品がミンチ状以外の形態である場合の製造方法について以下に説明する。まず、原料のミオグロビン含有赤身魚肉が冷凍の場合には、水槽にミオグロビン含有赤身魚肉を入れて解凍する。次いで、解凍されたミオグロビン含有赤身魚肉を、ブロック状に切断した後、さらに規定の大きさとなるように切断する。
【0080】
切り落としであれば、通常、縦横それぞれ3cm以上5cm以下、厚み5mm前後である。
細切りであれば、通常、縦横それぞれ5mm程度、長さ3cm以上5cm以下である。
角切りであれば、通常、縦横厚みそれぞれ1cm以上2cm以下である。
スライスであれば、通常、縦3cm前後、横7cm前後、厚み5mm前後である。
輪切りあれば、通常、直径10cm前後、厚み2cm以上3cm以下である。
板状であれば、通常、縦5cm以上7cm以下、横18cm前後、厚み2cm以上3cm以下である。
ブロック状であれば、通常、縦横厚みそれぞれ15cm以上20cm以下である。
なお、上述した大きさはあくまで一例であり、各形態の大きさは原料の大きさに応じて適宜選択することができ、上述したものに限定されない。
【0081】
次いで、規定の大きさに切断された赤身魚肉に、規定量の副原料(酸化防止剤、pH調整剤、及び着色料、並びに、必要に応じて、各種調味料及び食品添加物)を添加して、混合する。これら副原料との混合は、例えば、手作業で行ってもよく、或いは、例えば、ニーダー(KDA(J)-100、株式会社ダルトン)等を用いて行うこともできる。また、副原料の配合量は、上述した含有量となる量とすることができる。
【0082】
次いで、調味された加工食品が規定量となるように計量し、包装材料内へ真空包装する。真空包装時には包装内の真空度を高くして、酸素を排除することが好ましい。真空度として具体的には、包装容器内の酸素分圧が上記数値範囲内となる程度であることが好ましい。
【0083】
上述のとおり真空包装されたミンチ状又はミンチ状以外の形態のミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品は、当該加工食品の一部をサンプリングして、上記「真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品の冷凍保存中の色調保持性を検査する方法」に記載の方法を用いて、ミオグロビンの還元率を算定することが好ましい。これにより、冷凍保存中の色調保持性を評価することができる。すなわち、当該操作を冷凍保存性の検査工程、或いは、冷凍保存中の品質の評価工程ということもできる。当該検査工程において、ミオグロビンの還元率の算定値に基づいて、冷凍保存性の合否判定がなされる。
【0084】
算定されたミオグロビンの還元率が75%以上である場合には、冷凍保存性が合格であると判定されて、直ちに凍結されて冷凍保存される。冷凍保存の温度としては、一般にー60℃以上-7℃以下とすることができる。本実施形態の加工食品は、後述する実施例に示すように、-7℃前後の温度帯であっても、少なくとも1か月間は、冷凍保存性を良好に保つことができる。
【0085】
以上のような製造方法で得られた、本実施形態の加工食品は、外部からの酸素の侵入が阻止されると共に、還元剤や食品中の諸成分との反応によって内部にわずかに残存する酸素が消費されて包装材料内部の無酸素又は低酸素雰囲気が達成される。これによって、-7℃前後近辺の冷凍保管温度帯による少なくとも1か月間程度の長期保存を経ても、その風味を残存させることができる。また、本実施形態の加工食品は、冷凍保存中における無酸素及び低酸素雰囲気に晒されることに起因してミオグロビンから電子が奪われ、3価鉄になる(酸化する)ことで生じる、メトミオグロビンの生成(メト化)が抑制されたものである。さらに、本実施形態の加工食品は、着色料を含むことから、開封前の冷凍時及び解凍時の外観をより良好に保つことができ、開封後のミオグロビンの酸化による発色にかかる時間を必要とせず、開封後直ちに喫食可能な見栄えとすることができる。さらに、冷凍保存中に酸素を極力除去した状態で保持されることで、冷凍保存中の風味の劣化が極めて効果的に抑制される。
【実施例0086】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
[実施例1]
(演算式の設定)
無着色及び着色料含有マグロのミンチを真空包装したものを用いて、演算式の設定を行った。なお、以降において、原料として、「調味液」とは、醤油、レモン果汁及び水を適当な配合で混合した液であり、その他とは、添加物製剤に含まれる副剤である。
【0088】
1.マグロのミンチの調製
(1)無着色のマグロのミンチの調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、サイレントカッター(株式会社ヤナギヤ、SC150U J113520010)を用いて直径1cm前後のサイズになるようにカットした。次いで、カットしたマグロ9.889kg(加工食品の総質量に対して98.892質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)15g(加工食品の総質量に対して0.149質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸(無水)、及び酢酸ナトリウム(無水)合計79g(加工食品の総質量に対して0.791質量%)、並びに、その他17g(加工食品の総質量に対して0.168質量%)を添加し、サイレントカッター(株式会社ヤナギヤ、SC150U J113520010)を用いて、それら原料がマグロに浸透するまで、3分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた無着色のマグロのミンチを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。包装材料について、ヘイズメーターを用いて、ISO 14782に準拠して測定されたヘイズ値は8.5%であった。
【0089】
(2)着色料含有マグロのミンチの調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、サイレントカッター(株式会社ヤナギヤ、SC150U J113520010)を用いて直径1cm前後のサイズになるようにカットした。次いで、カットしたマグロ9.879kg(加工食品の総質量に対して98.788質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)15g(加工食品の総質量に対して0.149質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸(無水)、及び酢酸ナトリウム(無水)合計79g(加工食品の総質量に対して0.790質量%)、着色料としてアナトー色素0.7g(加工食品の総質量に対して0.007質量%)及びコチニール色素0.3g(加工食品の総質量に対して0.003質量%)、並びに、その他26g(加工食品の総質量に対して0.263質量%)を添加し、サイレントカッター(株式会社ヤナギヤ、SC150U J113520010)を用いて、それら原料がマグロに浸透するまで、3分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた着色料含有マグロのミンチを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。包装材料について、ヘイズメーターを用いて、ISO 14782に準拠して測定されたヘイズ値は8.5%であった。
【0090】
2.検査
真空包装した各加工食品(同配合試料6検体ずつ)について、真空包装直後、10℃に保存し、20分経過時、及び60分経過時に、分光測色計(コニカミノルタ社製、型番:CM-5)を用いて、分光反射率を常温(25℃程度)下で測定した。測定条件としては、分光測色計の測定口から外部の光が入らないように注意しながら、袋の表面の中央部を測定した。結果を
図1(無着色の加工食品)及び
図2(着色料含有加工食品)に示す。
【0091】
図1及び
図2に示すように、無着色及び着色料含有加工食品のいずれにおいても、500nm以上600nm以下、特に560nm以上600nm以下の波形が時間の経過に伴って変化することが明らかとなった。これは、時間の経過に伴って、酸化型ミオグロビンが還元型ミオグロビンに変化することで、波長が短波長側にシフトするためであると推察された。
このことから、次に、560nm以上600nm以下の波長範囲の極小値に対応する波長を求めること試みた。
【0092】
3.演算式の設定
上記「1.」と同様の方法で得られた、真空包装された無着色及び着色料含有加工食品(各6検体)について、真空包装直後(0分経過時)、10℃に保存し、2、6、13、18、22、31、39、50、66、91、及び103分経過時に分光測色計(コニカミノルタ社製、型番:CM-5)を用いて、分光反射率を常温(25℃程度)下で測定した。測定条件としては、分光測色計の測定口から外部の光が入らないように注意しながら、袋の表面の中央部を測定した。
560nm以上600nm以下の波長範囲のスペクトルの変化から還元化の進行度(還元率)を捉えるために、上記保存時間毎の測定したデータから560nm以上600nm以下の波長範囲に含まれる波長幅10nmの各波長成分(560nm、570nm、580nm、590nm、600nm)に対応する分光反射率を抽出して、分光反射率の回帰分析を行い、最小二乗法により、上記の波長範囲に含まれる波長幅10nmの各波長成分の波長xと反射率yの関係を表す、3次関数の回帰曲線式{y=f(x)}を求めた。
【0093】
回帰曲線式: y ≒ β1x3+β2x2+β3x+ε
【0094】
上記回帰曲線式中、β1~β3及びεは、最小二乗法による推定される回帰係数である。
【0095】
次いで、上記回帰曲線式により与えられる、3次曲線である回帰近似曲線の極大値及び極小値を求め、上記保存時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。その結果を以下の表1(無着色の加工食品)及び表2(着色料含有加工食品)に示す。本実施例では、上記回帰曲線式とその極小値とを市販の表計算ソフト(Microsoft(登録商標) Excel for Windows 2016)を用いて算出した。
【0096】
【0097】
【0098】
表1及び表2に示すように、無着色の加工食品では、極小値は包装直後に568nm前後であり、経時的に低波長側へと変化し、10℃保存後103分では560nm前後となり、安定することが明らかとなった。着色料含有加工食品においても同様に、極小値は包装直後に562nm前後であり、経時的に低波長側へと変化し、10℃保存後103分では558nm前後となり、安定することが明らかとなった。
【0099】
次に、極小値波長Xを縦軸、保存時間Tを横軸にとり、表1及び表2をそれぞれ直交座標系で表すグラフを、
図3に示す。
【0100】
表1から、無着色の加工食品では、X=567.5nmのとき、還元率を0%とし、X=560nmのとき、還元率を100%とすることができることから、無着色の加工食品におけるミオグロビンの還元率は以下の式で表された。
また、表2から、着色料含有加工食品では、X=562nmのとき、還元率を0%とし、X=558.5nmのとき、還元率を100%とすることができることから、着色料含有加工食品におけるミオグロビンの還元率は以下の式で表された。
【0101】
演算式A:(無着色の加工食品におけるミオグロビンの還元率Y)
=-13.333X+7566.667
【0102】
演算式B:(着色料含有加工食品におけるミオグロビンの還元率Y)
=-28.571X+16057.14
【0103】
なお、
図4に、上記無着色及び着色料含有加工食品におけるミオグロビンの還元率Yと極小値波長との関係を、直交座標系を用いて表したグラフを示す。
【0104】
図4に示すように、無着色の加工食品と着色料含有加工食品では、ミオグロビンの還元率に対応する極小値波長が異なることが明らかとなった。しかしながら、上記のとおり、それぞれにおいて、演算式を設定することで、これら加工食品の種類に応じたミオグロビンの還元率を算定し、得られた算定値から、保存中の色調保持性が良好であるか、否かを判別できるものと推察された。
【0105】
[実施例2]
次いで、実施例1で設定された、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式を用いて、還元率が100%に達するのに要する時間を保存温度別に検討した。
【0106】
1.検体の準備
まず、以下の検体を準備した。
No.1:酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(着色料含有)
No.2:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.3:ポリエチレンフィルムで包装されたねぎとろ(着色料含有)
No.4:ポリエチレンフィルムで包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)
【0107】
(1)酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(着色料含有)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、サイレントカッター(株式会社ヤナギヤ、SC150U J113520010)を用いて直径1cm前後のサイズになるようにカットした。次いで、カットしたマグロ8.005kg(加工食品の総質量に対して80.047質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)12g(加工食品の総質量に対して0.121質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸(無水)、及び酢酸ナトリウム(無水)合計64g(加工食品の総質量に対して0.640質量%)、油脂として食用油脂を1121g(加工食品の総質量に対して11.207質量%)、着色料としてアナトー色素0.5g(加工食品の総質量に対して0.005質量%)及びコチニール色素0.2g(加工食品の総質量に対して0.002質量%)、調味液776.3g(加工食品の総質量に対して7.765質量%)、並びに、その他21g(加工食品の総質量に対して0.213質量%)を添加し、サイレントカッター(株式会社ヤナギヤ、SC150U J113520010)を用いて、それら原料がマグロに浸透するまで、3分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた着色料含有ねぎとろを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0108】
(2)酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、包丁を用いて規定のサイズ(3cm以上5cm以下角の棒状)となるように切断した。次いで、スライサー(吉泉産業株式会社、YS-3500W)で厚み5mmに切断した後、さらに次いで、カットしたマグロ9.185kg(加工食品の総質量に対して91.854質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)19g(加工食品の総質量に対して0.191質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム(無水)、炭酸ナトリウム、及びクエン酸(無水)合計66g(加工食品の総質量に対して0.659質量%)、着色料としてアナトー色素0.4g(加工食品の総質量に対して0.004質量%)及びコチニール色素0.2g(加工食品の総質量に対して0.002質量%)、調味液716.4g(加工食品の総質量に対して7.164質量%)、その他13g(加工食品の総質量に対して0.126質量%)を添加し、手作業で、それら原料がマグロに浸透するまで、1分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた着色料含有マグロの切り落としを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0109】
(3)ポリエチレンフィルムで包装されたねぎとろ(着色料含有)の調製
上記(1)と同様の方法を用いて、着色料含有ねぎとろを調製した。次いで、着色料含有ねぎとろを50g計量し、包装材料中に、脱気包装機(SLS-DV 060204 シール工業株式会社)を用いて、包装した。包装材料としては、酸素透過度が5000mL/(m2・24hr・MPa)である1層構造の樹脂フィルムからなるものであった。1層構造の樹脂フィルムの構成は、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ50μm)であった。
【0110】
(4)ポリエチレンフィルムで包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)の調製
上記(2)と同様の方法を用いて、着色料含有マグロの切り落としを調製した。次いで、着色料含有マグロの切り落としを50g計量し、包装材料中に、脱気包装機(SLS-DV 060204 シール工業株式会社)を用いて、包装した。包装材料としては、酸素透過度が5000mL/(m2・24hr・MPa)である1層構造の樹脂フィルムからなるものであった。1層構造の樹脂フィルムの構成は、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ50μm)であった。
【0111】
2.還元率の算定
上記「1.」で準備した各検体を0℃、4℃、10℃、25℃に保存し、包装直後(0分)から20分ごとに180分経過時までサンプリングし、還元率を算定した。なお、No.1及びNo.2については、各保存温度区において、経過時間毎に3検体ずつサンプリングし、No.3及びNo.4については、各保存温度区において、経過時間毎に1検体ずつサンプリングした。
【0112】
次いで、還元率の算定は、以下のようにして行った。
具体的には、サンプリングした経過時間毎の検体を、分光測色計(コニカミノルタ社製、型番:CM-5)を用いて、分光反射率を常温(25℃程度)下で測定した。測定条件としては、分光測色計の測定口から外部の光が入らないように注意しながら、袋の表面の中央部を測定した。
560nm以上600nm以下の波長範囲のスペクトルの変化から還元化の進行度(還元率)を捉えるために、上記経過時間毎の測定したデータから560nm以上600nm以下の波長範囲に含まれる波長幅10nmの各波長成分(560nm、570nm、580nm、590nm、600nm)に対応する分光反射率を抽出して、分光反射率の回帰分析を行い、最小二乗法により、上記の波長範囲に含まれる波長幅10nmの各波長成分の波長xと反射率yの関係を表す、3次関数の回帰曲線式{y=f(x)}を求めた。
【0113】
回帰曲線式: y ≒ β1x3+β2x2+β3x+ε
【0114】
上記回帰曲線式中、β1~β3及びεは、最小二乗法による推定される回帰係数である。
【0115】
次いで、上記回帰曲線式により与えられる、3次曲線である回帰近似曲線の極大値及び極小値を求め、上記経過時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。上記回帰曲線式とその極小値とを市販の表計算ソフト(Microsoft(登録商標) Excel for Windows 2016)を用いて算出した。
【0116】
得られた上記経過時間毎の極小値波長Xを、実施例1で設定された、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式Bに代入して、還元率を算定した。結果を表3~表6に示す。なお、算定された値が0%未満の値となった場合には0%、一方で、100%を超える値となった場合には100%と記載した。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
表3~表6に示すように、酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ及び切り落としでは、いずれの温度においても時間の経過に伴って還元率が上昇する傾向がみられた。また、酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ及び切り落としでは、保存温度が高いほど、還元率の上昇も早い傾向がみられた。一方で、ポリエチレンフィルムで包装されたねぎとろ及び切り落としでは、いずれの温度で保存しても還元率の上昇は60%未満にとどまっていた。ポリエチレンフィルムで包装された切り落としでは、10℃及び25℃の温度について還元率がばらつく傾向がみられたが、これはメト化の影響を受けたものと推察された。
【0122】
これらのことから、還元率の上昇には、真空包装されていることが必要であることが確かめられた。また、保存温度が高いほど、還元率の上昇が早くなる傾向がみられたが、25℃ではメト化の影響が懸念されること、及び、生食用加工食品を25℃という常温環境下にて保存することによる衛生面でのリスクを鑑みて、加工食品製造時の検査では、「10℃で1時間(60分間)保存」後に、分光反射率の測定を行うこととした。
【0123】
[実施例3]
実施例2よりも低温の保存温度下において、実施例1で設定された、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式を用いて、還元率が100%に達するのに要する時間を検討した。
【0124】
1.検体の準備
実施例2の「1.」と同様の方法を用いて、以下の検体を準備した。
No.1:酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(着色料含有)
No.2:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)
【0125】
2.還元率の算定
上記「1.」で準備した各検体を、真空包装直後に急速凍結させて、―7℃、-18℃、-60℃で保存し、包装直後(0時間)から1、2、3、4、5、6、7、25、27、29、31、34時間経過時までサンプリングし、還元率を算定した。なお、No.1及びNo.2について、各保存温度区において、経過時間毎に3検体ずつサンプリングした。
【0126】
次いで、実施例2の「2.」と同様に、サンプリングした経過時間毎の検体について、分光測色計(コニカミノルタ社製、型番:CM-5)を用いて、分光反射率を常温(25℃程度)下で測定した。測定条件としては、分光測色計の測定口から外部の光が入らないように注意しながら、袋の表面の中央部を測定した。
次いで、上記経過時間毎の測定したデータから560nm以上600nm以下の波長範囲に含まれる波長幅10nmの各波長成分(560nm、570nm、580nm、590nm、600nm)に対応する分光反射率を抽出して、分光反射率の回帰分析を行い、最小二乗法により、上記の波長範囲に含まれる波長幅10nmの各波長成分の波長xと反射率yの関係を表す、3次関数の回帰曲線式{y=f(x)}とその極小値とを市販の表計算ソフト(Microsoft(登録商標) Excel for Windows 2016)を用いて算出し、上記経過時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。
【0127】
得られた上記経過時間毎の極小値波長Xを、実施例1で設定された、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式Bに代入して、還元率を算定した。結果を表7~表8に示す。なお、算定された値が0%未満の値となった場合には0%、一方で、100%を超える値となった場合には100%と記載した。
【0128】
【0129】
【0130】
表7及び表8に示すように、酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ及び切り落としでは、冷凍環境下であっても、-7℃及び-18℃の保存温度では、時間の経過に伴って還元率が上昇する傾向がみられた。また、保存温度が高いほど、還元率の上昇も早い傾向がみられた。一方で、-60℃では、34時間経過時においても還元率の上昇がほとんどみられず、変化がなかった。
【0131】
マグロやカツオのようなミオグロビン含有赤身魚の色調は、超低温と呼ばれる-60℃であれば、長期間保持できることがわかっている。一方、-18℃前後では1~2ヵ月程度で見た目に退色がわかるようになる。さらに-5~-10℃では著しく速やかに退色が進むことが知られている。具体的には、-7℃の1ヵ月が-18℃のおおよそ1年に相当すると考えられている。
このことから、以降の冷凍保存試験はミオグロビンの退色が早く進行する-7℃の条件で行い、保存開始から1ヵ月後に色調及び風味を評価した。
【0132】
[実施例4]
同じマグロを使用しても、副原料の配合が異なる場合に、冷凍保存中の色調保持に差が生じる場合がある。そのため、配合が異なるマグロの加工食品においても、実施例1で得られた演算式Bを用いて還元率を算定して、冷凍保存中の色調保持性を事前に評価できるかどうかを検討した。
【0133】
1.検体の準備
配合を以下のとおりとした以外は、実施例2の「1.」と同様の方法を用いて、酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(着色料含有)及び酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)の各検体を準備した。
【0134】
(酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(着色料含有))
No.1-1:マグロ80.047質量%、油脂11.207質量%、酸化防止剤0.121質量%、pH調整剤0.640質量%、着色料(アナトー色素0.005質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.765質量%、その他0.213質量%
No.1-2:マグロ80.693質量%、油脂11.297質量%、酸化防止剤0.096質量%、着色料(アナトー色素0.005質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.828質量%、その他0.079質量%
No.1-3:マグロ80.771質量%、油脂11.308質量%、着色料(アナトー色素0.005質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.835質量%、その他0.079質量%
【0135】
(酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(着色料含有))
No.2-1:マグロ91.854質量%、酸化防止剤0.191質量%、pH調整剤0.659質量%、着色料(アナトー色素0.004質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.164質量%、その他0.126質量%
No.2-2:マグロ92.534質量%、酸化防止剤0.184質量%、着色料(アナトー色素0.004質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.217質量%、その他0.059質量%
No.2-3:マグロ92.705質量%、着色料(アナトー色素0.004質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.230質量%、その他0.059質量%
【0136】
2.還元率の算定
上記「1.」で準備した各検体を、真空包装直後に4℃で保存し、包装直後(0分)から20分ごとに200分経過時までサンプリングし、還元率を算定した。なお、No.1-1~No.2-3の検体において、経過時間毎に3検体ずつサンプリングした。
【0137】
次いで、実施例3の「2.」と同様の方法を用いて、測定された分光反射率に基づいて、上記経過時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。
【0138】
得られた上記経過時間毎の極小値波長Xを、実施例1で設定された、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式Bに代入して、還元率を算定した。結果を表9~表10に示す。なお、算定された値が0%未満の値となった場合には0%、一方で、100%を超える値となった場合には100%と記載した。
【0139】
【0140】
【0141】
表9及び表10に示すように、酸化防止剤及びpH調整剤の両方を含む検体(No.1-1及び2-1)では、ねぎとろ及び切り落としのいずれでも保存開始から60分経過時には還元率が100%に達していた。一方で、酸化防止剤のみを含む検体(No.1-2及び2-2)では、還元率が100%達するまで、酸化防止剤及びpH調整剤の両方を含む検体(No.1-1及び2-1)よりも長い時間を要した。また、酸化防止剤及びpH調整剤のいずれも含まない検体(No.1-3及び2-3)では、還元率が全く上昇しなかった。
【0142】
これらのことから、還元率の上昇のためには、酸化防止剤が配合されていることが好ましく、酸化防止剤及びpH調整剤の両方が配合されていることが特に好ましいことが明らかとなった。
【0143】
[実施例5]
次に、実施例4のNo.1-1~No.2-3と同様の配合の検体を用いて、10℃で1時間保存した後に還元率を評価し、さらに、各検体を-7℃で1か月間(-18℃で1年間に相当)保存した後に、開封し、色調及び風味を評価した。
【0144】
1.検体の準備
実施例4の「1.」と同様の方法を用いて、酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(着色料含有)及び酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)の各検体を準備した。
【0145】
(酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(着色料含有))
No.1-1:マグロ80.047質量%、油脂11.207質量%、酸化防止剤0.121質量%、pH調整剤0.640質量%、着色料(アナトー色素0.005質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.765質量%、その他0.213質量%
No.1-2:マグロ80.693質量%、油脂11.297質量%、酸化防止剤0.096質量%、着色料(アナトー色素0.005質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.828質量%、その他0.079質量%
No.1-3:マグロ80.771質量%、油脂11.308質量%、着色料(アナトー色素0.005質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.835質量%、その他0.079質量%
【0146】
(酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(着色料含有))
No.2-1:マグロ91.854質量%、酸化防止剤0.191質量%、pH調整剤0.659質量%、着色料(アナトー色素0.004質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.164質量%、その他0.126質量%
No.2-2:マグロ92.534質量%、酸化防止剤0.184質量%、着色料(アナトー色素0.004質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.217質量%、その他0.059質量%
No.2-3:マグロ92.705質量%、着色料(アナトー色素0.004質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.230質量%、その他0.059質量%
【0147】
2.還元率の算定
上記「1.」で準備した各検体を、真空包装直後に10℃で保存し、包装直後(0分)及び1時間経過時にサンプリングし、還元率を算定した。なお、No.1-1~No.2-3の検体において、経過時間毎に3検体ずつサンプリングした。
【0148】
次いで、実施例3の「2.」と同様の方法を用いて、測定された分光反射率に基づいて、上記経過時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。
【0149】
得られた上記経過時間毎の極小値波長Xを、実施例1で設定された、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式Bに代入して、還元率を算定した。算定結果を表11及び表12に示す。なお、算定された値が0%未満の値となった場合には0%、一方で、100%を超える値となった場合には100%と記載した。
また、還元率の算定後、各検体を-7℃で1か月保存した。保存開始時及び-7℃1か月保存した後の各検体について、開封して、マグロの加工食品の外観を目視で確認し、風味を官能評価した。官能評価は、男性(20代1名、40代2名、50代1名)、女性(20代1名、30代2名、40代1名)の合計6名で行った。外観及び風味の評価基準は以下のとおりである。外観及び風味の評価結果についても表11及び表12に示す。
【0150】
(外観:評価基準)
○:色が明るく、鮮やかな赤色を呈している
△:やや暗い又は暗い赤色を呈している
×:色が暗く、褐色に退色している
【0151】
(風味:評価基準)
○:異味異臭がなく、しっかりとした呈味がある
△:異味異臭はないが、水っぽい食感である
×:異味異臭があり、水っぽい食感である
【0152】
【0153】
【0154】
表11及び表12に示すように、ねぎとろ及び切り落とし共に、10℃で1時間保存時の還元率が高い検体では、-7℃で1か月の保存後についても外観(色調)及び風味が良好であった。一方で、10℃で1時間保存時の還元率が75%に満たない検体では、-7℃で1か月の保存後に色調が保てず、10℃で1時間保存時の還元率が低ければ低いほど、-7℃での保存中により退色が進むことが明らかとなった。
【0155】
以上のことから、ミオグロビンの還元率が75%以上である検体では、冷凍保存中の色調保持性が良好に保たれることが明らかとなった。
【0156】
[実施例6]
次に、包装時の真空度の違いによる還元率への影響を検討した。
【0157】
1.検体の準備
ねぎとろ及び切り落としの調製までは、実施例2の「1.」と同様の方法を用いて、ねぎとろ及び切り落としを得た。次いで、以下に示すように異なる条件で包装を行った。No.1-1及びNo.2-1の検体は、実施例2の「1.(3)」及び「1.(4)」と同様の方法を用いてポリエチレンフィルムを用いて包装を行った。また、No.1-2~No.1-5及びNo.2-2~No.2-5の検体は、包装材料中の酸素分圧が括弧内に示す値となるようにした以外は、実施例2の「1.(2)」及び「1.(3)」と同様の方法を用いて、真空包装を行った。
【0158】
(ねぎとろ(着色料含有))
No.1-1:ポリエチレンフィルムで包装されたねぎとろ(着色料含有)
No.1-2:酸素難透過性フィルムで真空包装(760mmHg)されたねぎとろ(着色料含有)
No.1-3:酸素難透過性フィルムで真空包装(71mmHg)されたねぎとろ(着色料含有)
No.1-4:酸素難透過性フィルムで真空包装(4mmHg)されたねぎとろ(着色料含有)
No.1-5:酸素難透過性フィルムで真空包装(1mmHg)されたねぎとろ(着色料含有)
【0159】
(マグロの切り落とし(着色料含有))
No.2-1:ポリエチレンフィルムで包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.2-2:酸素難透過性フィルムで真空包装(760mmHg)されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.2-3:酸素難透過性フィルムで真空包装(71mmHg)されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.2-4:酸素難透過性フィルムで真空包装(4mmHg)されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.2-5:酸素難透過性フィルムで真空包装(1mmHg)されたマグロの切り落とし(着色料含有)
【0160】
2.還元率の算定
上記「1.」で準備した各検体を、包装直後に4℃で保存し、包装直後(0分)から20分ごとに200分経過時までサンプリングし、還元率を算定した。なお、各検体において、経過時間毎に3検体ずつサンプリングした。
【0161】
次いで、実施例3の「2.」と同様の方法を用いて、測定された分光反射率に基づいて、上記経過時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。
【0162】
得られた上記経過時間毎の極小値波長Xを、実施例1で設定された、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式Bに代入して、還元率を算定した。結果を表13~表14に示す。なお、算定された値が0%未満の値となった場合には0%、一方で、100%を超える値となった場合には100%と記載した。
【0163】
【0164】
【0165】
表13及び表14に示すように、酸素透過性の高いポリエチレンフィルムで包装された検体(No.1-1及びNo.2-1)では、保存時間が経過しても、還元率は上昇せず、保存開始から200分経過後でも0%であった。一方で、酸素難透過性フィルムで包装された検体(No.1-2~No.1-5及びNo.2-2~No.2-5)では、酸素分圧の値が小さいものほど、より短い保存時間で還元率が上昇する傾向がみられた。また酸素難透過性フィルムで包装した検体であっても、酸素分圧が4mmHg以上である検体(No.1-2~No.1-4及びNo.2-2~No.2-4)では、還元率の値のばらつきが大きかった。これは内容物が袋に密着している箇所では還元化が進むものの、袋に密着していない箇所では還元化が進みにくいためであると推察された。
【0166】
[実施例7]
次に、実施例6のNo.1-1~No.2-5と同様の配合の検体を用いて、10℃で1時間保存した後に還元率を評価し、さらに、各検体を-7℃で1か月間(-18℃で1年間に相当)保存した後に、開封し、色調及び風味を評価した。
【0167】
1.検体の準備
実施例6の「1.」と同様の方法を用いて、以下に示す検体を準備した。
【0168】
(ねぎとろ(着色料含有))
No.1-1:ポリエチレンフィルムで包装されたねぎとろ(着色料含有)
No.1-2:酸素難透過性フィルムで真空包装(760mmHg)されたねぎとろ(着色料含有)
No.1-3:酸素難透過性フィルムで真空包装(71mmHg)されたねぎとろ(着色料含有)
No.1-4:酸素難透過性フィルムで真空包装(4mmHg)されたねぎとろ(着色料含有)
No.1-5:酸素難透過性フィルムで真空包装(1mmHg)されたねぎとろ(着色料含有)
【0169】
(マグロの切り落とし(着色料含有))
No.2-1:ポリエチレンフィルムで包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.2-2:酸素難透過性フィルムで真空包装(760mmHg)されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.2-3:酸素難透過性フィルムで真空包装(71mmHg)されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.2-4:酸素難透過性フィルムで真空包装(4mmHg)されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.2-5:酸素難透過性フィルムで真空包装(1mmHg)されたマグロの切り落とし(着色料含有)
【0170】
2.還元率の算定
上記「1.」で準備した各検体を、真空包装直後に10℃で保存し、包装直後(0分)及び1時間経過時にサンプリングし、還元率を算定した。なお、No.1-1~No.2-5の検体において、経過時間毎に3検体ずつサンプリングした。
【0171】
次いで、実施例3の「2.」と同様の方法を用いて、測定された分光反射率に基づいて、上記経過時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。
【0172】
得られた上記経過時間毎の極小値波長Xを、実施例1で設定された、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式Bに代入して、還元率を算定した。算定結果を表15及び表16に示す。なお、算定された値が0%未満の値となった場合には0%、一方で、100%を超える値となった場合には100%と記載した。
また、還元率の算定後、各検体を-7℃で1か月保存した。保存開始時及び-7℃1か月保存した後の各検体について、開封して、マグロの加工食品の外観を目視で確認し、風味を官能評価した。官能評価は、男性(20代1名、40代2名、50代1名)、女性(20代1名、30代2名、40代1名)の合計6名で行った。外観及び風味の評価基準は以下のとおりである。外観及び風味の評価結果についても表15及び表16に示す。
【0173】
(外観:評価基準)
○:色が明るく、鮮やかな赤色を呈している
△:フィルムに密着した箇所は赤色を保っているが、それ以外の箇所は褐色~緑色に変色している
×:全体的に褐色~緑色に変色している
【0174】
(風味:評価基準)
○:異味異臭がない
△:やや脂が酸化したような異味異臭がある
×:脂が酸化したような異味異臭がある
【0175】
【0176】
【0177】
表15及び表16に示すように、ポリエチレンフィルムで包装された検体(No.1-1及びNo.2-1)では、10℃で1時間保存時の還元率が10%未満であり、-7℃で1か月の保存後には、著しい退色が確認された。酸素難透過性フィルムで包装された検体(No.1-2~No.1-5及びNo.2-2~No.2-5)では、酸素分圧の値が小さいものほど、10℃で1時間保存時の還元率が上昇する傾向がみられた。酸素分圧が4mmHg及び1mmHg)である検体(No.1-4~No.1-5及びNo.2-4~No.2-5)では、外観(色調)及び風味等の品質保持が特に良好であった。
【0178】
これらのことから、包装材料の材質及び包装時の真空度が還元率に影響を及ぼすことが確認された。
【0179】
[実施例8]
次に、異なる形態の無着色の加工食品においても、同様に実施例1で得られた演算式Aを用いて還元率を算定して、冷凍保存中の色調保持性を事前に評価できるかどうかを検討した。
【0180】
1.検体の準備
以下に示す5種類の形態が異なる検体を準備した。
No.1:酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(無着色)
No.2:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(無着色)
No.3:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの角切り(無着色)
No.4:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの細切り(無着色)
No.5:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの輪切り(無着色)
【0181】
(1)酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(無着色)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、サイレントカッター(株式会社ヤナギヤ、SC150U J113520010)を用いて直径1cm前後のサイズになるようにカットした。次いで、カットしたマグロ8.012kg(加工食品の総質量に対して80.115質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)12g(加工食品の総質量に対して0.121質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸(無水)、及び酢酸ナトリウム(無水)合計64g(加工食品の総質量に対して0.641質量%)、油脂として食用油脂1122g(加工食品の総質量に対して11.216質量%)、調味液776g(加工食品の総質量に対して7.772質量%)、並びに、その他14g(加工食品の総質量に対して0.135質量%)を添加し、サイレントカッター(株式会社ヤナギヤ、SC150U J113520010)を用いて、それら原料がマグロに浸透するまで、3分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた無着色のねぎとろを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0182】
(2)酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(無着色)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、包丁を用いて規定のサイズ(3cm以上5cm以下角の棒状)となるように切断した。次いで、スライサー(吉泉産業株式会社、YS-3500W)で厚み5mmに切断した後、さらに次いで、カットしたマグロ9.191kg(加工食品の総質量に対して91.912質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)19g(加工食品の総質量に対して0.192質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム(無水)、炭酸ナトリウム、及びクエン酸(無水)合計66g(加工食品の総質量に対して0.660質量%)、調味液717g(加工食品の総質量に対して7.168質量%)、その他7g(加工食品の総質量に対して0.068質量%)を添加し、手作業で、それら原料がマグロに浸透するまで、1分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた無着色のマグロの切り落としを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0183】
(3)酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの角切り(無着色)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、包丁を用いて規定のサイズ(1cm以上2cm以下角)となるように切断した。次いで、カットしたマグロ9.191kg(加工食品の総質量に対して91.912質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)19g(加工食品の総質量に対して0.192質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム(無水)、炭酸ナトリウム、及びクエン酸(無水)合計66g(加工食品の総質量に対して0.660質量%)、調味液717g(加工食品の総質量に対して7.168質量%)、その他7g(加工食品の総質量に対して0.068質量%)を添加し、手作業で、それら原料がマグロに浸透するまで、1分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた無着色のマグロの角切りを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0184】
(4)酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの細切り(無着色)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、包丁を用いて規定のサイズ(縦横3cm以上5cm以下、厚み5mm)となるように切断した。次いで、カットしたマグロ9.191kg(加工食品の総質量に対して91.912質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)19g(加工食品の総質量に対して0.192質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム(無水)、炭酸ナトリウム、及びクエン酸(無水)合計66g(加工食品の総質量に対して0.660質量%)、調味液717g(加工食品の総質量に対して7.168質量%)、その他7g(加工食品の総質量に対して0.068質量%)を添加し、手作業で、それら原料がマグロに浸透するまで、1分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた無着色のマグロの細切りを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0185】
(5)酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの輪切り(無着色)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、包丁を用いて規定のサイズ(厚み2cm以上3cm以下)となるように切断した。次いで、カットしたマグロ9.191kg(加工食品の総質量に対して91.912質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)19g(加工食品の総質量に対して0.192質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム(無水)、炭酸ナトリウム、及びクエン酸(無水)合計66g(加工食品の総質量に対して0.660質量%)、調味液717g(加工食品の総質量に対して7.168質量%)、その他7g(加工食品の総質量に対して0.068質量%)を添加し、手作業で、それら原料がマグロに浸透するまで、5分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた無着色のマグロの輪切り1切れ(100g程度)を、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0186】
2.還元率の算定
上記「1.」で準備した各検体を、真空包装直後に10℃で保存し、包装直後(0分)及び1時間経過時にサンプリングし、還元率を算定した。なお、No.1~No.4の検体において、経過時間毎に4検体ずつサンプリングし、No.5の検体において、経過時間毎に3検体ずつサンプリングした。
【0187】
次いで、実施例3の「2.」と同様の方法を用いて、測定された分光反射率に基づいて、上記経過時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。
【0188】
得られた上記経過時間毎の極小値波長Xを、実施例1で設定された、無着色加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式Aに代入して、還元率を算定した。算定結果を表17に示す。なお、算定された値が0%未満の値となった場合には0%、一方で、100%を超える値となった場合には100%と記載した。
また、還元率の算定後、各検体を-7℃で1か月保存した。保存開始時及び-7℃1か月保存した後の各検体について、開封して、マグロの加工食品の外観を目視で確認し、風味を官能評価した。官能評価は、男性(20代1名、40代2名、50代1名)、女性(20代1名、30代2名、40代1名)の合計6名で行った。外観及び風味の評価基準は以下のとおりである。外観及び風味の評価結果についても表17に示す。
【0189】
(外観:評価基準)
○:色が明るく、鮮やかな赤色を呈している
△:やや暗い又は暗い赤色を呈している
×:色が暗く、褐色に退色している
【0190】
(風味:評価基準)
○:異味異臭がない
△:やや脂が酸化したような異味異臭がある
×:脂が酸化したような異味異臭がある
【0191】
【0192】
表17に示すように、いずれの形態の検体(No.1~No.5)においても、10℃で1時間保存時の還元率が100%であり、-7℃で1か月の保存後においても外観(色調)及び風味が共に良好に保たれていた。
【0193】
[実施例9]
次に、異なる形態の着色料含有加工食品においても、同様に実施例1で得られた演算式Bを用いて還元率を算定して、冷凍保存中の色調保持性を事前に評価できるかどうかを検討した。
【0194】
1.検体の準備
以下に示す5種類の形態が異なる検体を準備した。No.1及びNo.2については、それぞれ実施例2の「1.(1)」及び「1.(2)」と同様の方法を用いて、調製した。
No.1:酸素難透過性フィルムで真空包装されたねぎとろ(着色料含有)
No.2:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの切り落とし(着色料含有)
No.3:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの角切り(着色料含有)
No.4:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの細切り(着色料含有)
No.5:酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの輪切り(着色料含有)
【0195】
(1)酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの角切り(着色料含有)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、包丁を用いて規定のサイズ(1cm以上2cm以下角)となるように切断した。次いで、カットしたマグロ9.185kg(加工食品の総質量に対して91.854質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)19g(加工食品の総質量に対して0.191質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム(無水)、炭酸ナトリウム、及びクエン酸(無水)合計66g(加工食品の総質量に対して0.659質量%)、着色料としてアナトー色素0.4g(加工食品の総質量に対して0.004質量%)及びコチニール色素0.2g(加工食品の総質量に対して0.002質量%)、調味液716.4g(加工食品の総質量に対して7.164質量%)、その他13g(加工食品の総質量に対して0.126質量%)を添加し、手作業で、それら原料がマグロに浸透するまで、1分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた着色料含有マグロの角切りを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0196】
(2)酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの細切り(着色料含有)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、包丁を用いて規定のサイズ(縦横3cm以上5cm以下、厚み5mm)となるように切断した。次いで、カットしたマグロ9.185kg(加工食品の総質量に対して91.854質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)19g(加工食品の総質量に対して0.191質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム(無水)、炭酸ナトリウム、及びクエン酸(無水)合計66g(加工食品の総質量に対して0.659質量%)、着色料としてアナトー色素0.4g(加工食品の総質量に対して0.004質量%)及びコチニール色素0.2g(加工食品の総質量に対して0.002質量%)、調味液716.4g(加工食品の総質量に対して7.164質量%)、その他13g(加工食品の総質量に対して0.126質量%)を添加し、手作業で、それら原料がマグロに浸透するまで、1分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた着色料含有マグロの細切りを50g計量し、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0197】
(3)酸素難透過性フィルムで真空包装されたマグロの輪切り(着色料含有)の調製
ブロック状の冷凍マグロ原料(キハダ、赤身、長さ30cm前後)を中心温度が-10℃以上になるように、流水で解凍した。次いで、包丁を用いて規定のサイズ(厚み2cm以上3cm以下)となるように切断した。次いで、カットしたマグロ9.185kg(加工食品の総質量に対して91.854質量%)に、酸化防止剤としてL-アスコルビン酸ナトリウム(SHANDONG TIANLI PHARMACEUTICAL CO.,LTD.)19g(加工食品の総質量に対して0.191質量%)、pH調整剤として炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム(無水)、炭酸ナトリウム、及びクエン酸(無水)合計66g(加工食品の総質量に対して0.659質量%)、着色料としてアナトー色素0.4g(加工食品の総質量に対して0.004質量%)及びコチニール色素0.2g(加工食品の総質量に対して0.002質量%)、調味液716.4g(加工食品の総質量に対して7.164質量%)、その他13g(加工食品の総質量に対して0.126質量%)を添加し、手作業で、それら原料がマグロに浸透するまで、5分間程度かけてよく混合した。このようにして得られた着色料含有マグロの輪切り1切れ(100g程度)gを、包装材料中に、酸素分圧が1mmHgとなるように、真空脱気包装機(VMS 263 VR0072、吉川工業株式会社製)を用いて、真空包装した。包装材料としては、酸素透過度が83mL/(m2・24hr・MPa)である3層構造の樹脂フィルムからなるものであった。3層構造の樹脂フィルムの構成は、〔内層(すなわち、加工食品と接する層)〕ナイロン(厚さ15μm)/〔中間層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ25μm)/〔外層〕直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE)(厚さ30μm)であった。
【0198】
2.還元率の算定
上記「1.」で準備した各検体を、真空包装直後に10℃で保存し、包装直後(0分)及び1時間経過時にサンプリングし、還元率を算定した。なお、No.1~No.4の検体において、経過時間毎に4検体ずつサンプリングし、No.5の検体において、経過時間毎に3検体ずつサンプリングした。
【0199】
次いで、実施例3の「2.」と同様の方法を用いて、測定された分光反射率に基づいて、上記経過時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。
【0200】
得られた上記経過時間毎の極小値波長Xを、実施例1で設定された、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式Bに代入して、還元率を算定した。算定結果を表18に示す。なお、算定された値が0%未満の値となった場合には0%、一方で、100%を超える値となった場合には100%と記載した。
また、還元率の算定後、各検体を-7℃で1か月保存した。保存開始時及び-7℃1か月保存した後の各検体について、開封して、マグロの加工食品の外観を目視で確認し、風味を官能評価した。官能評価は、男性(20代1名、40代2名、50代1名)、女性(20代1名、30代2名、40代1名)の合計6名で行った。外観及び風味の評価基準は以下のとおりである。外観及び風味の評価結果についても表18に示す。
【0201】
(外観:評価基準)
○:色が明るく、鮮やかな赤色を呈している
△:やや暗い又は暗い赤色を呈している
×:色が暗く、褐色に退色している
【0202】
(風味:評価基準)
○:異味異臭がない
△:やや脂が酸化したような異味異臭がある
×:脂が酸化したような異味異臭がある
【0203】
【0204】
表18に示すように、いずれの形態の検体(No.1~No.5)においても、10℃で1時間保存時の還元率が100%であり、-7℃で1か月の保存後においても外観(色調)及び風味が共に良好に保たれていた。
【0205】
実施例9及び実施例10の結果から、着色料の有無にかかわらず、いずれの形態においても、演算式A及び演算式Bを用いてそれぞれ還元率を算定し、算定値が所定の基準値以上であれば、-7℃で1か月間、すなわち、-18℃で1年間の冷凍保存においても良好な色調及び風味を保持できるものと推察された。
【0206】
[実施例10]
次に、マグロ以外のミオグロビン含有赤身魚肉においても、同様に実施例1で得られた演算式A及びBを用いて還元率を算定して、冷凍保存中の色調保持性を事前に評価できるかどうかを検討した。
【0207】
1.検体の準備
マグロの代わりにカツオを用いて、配合を以下のとおりとした以外は、実施例2の「1.」と同様の方法を用いて、酸素難透過性フィルムで真空包装されたカツオのたたき及び酸素難透過性フィルムで真空包装されたカツオの切り落としの各検体を準備した。
【0208】
(酸素難透過性フィルムで真空包装されたカツオのたたき)
No.1-1:カツオ80.047質量%、油脂11.207質量%、酸化防止剤0.121質量%、pH調整剤0.640質量%、着色料(アナトー色素0.005質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.765質量%、その他0.213質量%
No.1-2:カツオ80.115質量%、油脂11.216質量%、酸化防止剤0.121質量%)、pH調整剤0.641質量%、調味液7.772質量%、その他0.135質量%
No.1-3:カツオ80.841質量%、油脂11.318質量%、調味液7.841質量%
【0209】
(酸素難透過性フィルムで真空包装されたカツオの切り落とし)
No.2-1:カツオ91.854質量%、酸化防止剤0.191質量%、pH調整剤0.659質量%、着色料(アナトー色素0.004質量%、コチニール色素0.002質量%)、調味液7.164質量%、その他0.126質量%
No.2-2:カツオ91.912質量%、酸化防止剤0.192質量%、pH調整剤0.660質量%、、調味液7.168質量%、その他0.068質量%
No.2-3:カツオ92.764質量%、調味液7.236質量%
【0210】
2.還元率の算定
上記「1.」で準備した各検体を、真空包装直後に10℃で保存し、包装直後(0分)及び1時間経過時にサンプリングし、還元率を算定した。なお、No.1-1~No.2-3の検体において、経過時間毎に3検体ずつサンプリングした。
【0211】
次いで、実施例3の「2.」と同様の方法を用いて、測定された分光反射率に基づいて、上記経過時間毎の波長範囲560nm以上600nm以下に存在する極小値に対応する波長成分の波長を極小値波長Xとして抽出した。
【0212】
得られた上記経過時間毎の極小値波長Xを、実施例1で設定された、無着色加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式A、及び、着色料含有加工食品のミオグロビンの還元率を算定するための演算式Bにそれぞれ代入して、還元率を算定した。具体的には、無着色加工食品であるNo.1-2、1-3、2-2、及び2-3の還元率算定には、演算式Aを、着色料含有加工食品であるNo.1-1及び2-1の還元率算定には演算式Bを使用した。算定結果を表19及び表20に示す。なお、算定された値が0%未満の値となった場合には0%、一方で、100%を超える値となった場合には100%と記載した。
また、還元率の算定後、各検体を-7℃で1か月保存した。保存開始時及び-7℃1か月保存した後の各検体について、開封して、カツオの加工食品の外観を目視で確認し、風味を官能評価した。官能評価は、男性(20代1名、40代2名、50代1名)、女性(20代1名、30代2名、40代1名)の合計6名で行った。外観及び風味の評価基準は以下のとおりである。外観及び風味の評価結果についても表19及び表20に示す。
【0213】
(外観:評価基準)
○:色が明るく、鮮やかな赤色を呈している
△:やや暗い又は暗い赤色を呈している
×:色が暗く、褐色に退色している
【0214】
(風味:評価基準)
○:異味異臭がない
△:やや脂が酸化したような異味異臭がある
×:脂が酸化したような異味異臭がある
【0215】
【0216】
【0217】
表19及び表20に示すように、カツオのたたき及び切り落とし共に、10℃で1時間保存時の還元率が高い検体(No.1-1~No.1-2及びNo.2-1~No.2-2)では、-7℃で1か月の保存後についても外観(色調)及び風味が良好であった。一方で、10℃で1時間保存時の還元率が75%に満たない検体(No.1-3及びNo.2-3)では、-7℃で1か月の保存後に色調が保てず、-7℃での保存中に退色が進み、風味及び食感も、上記10℃で1時間保存時の還元率が高い検体よりも明らかに劣っていた。
【0218】
以上のことから、マグロ以外のミオグロビン含有赤身魚肉においても、同様に、所定の演算式を用いてミオグロビンの還元率を算定することで、冷凍保存中の色調及び風味の保持性を評価できることが明らかとなった。
本実施形態の方法によれば、真空包装されたミオグロビン含有赤身魚肉の加工食品におけるミオグロビンの還元率を客観的に評価することができる。本実施形態の加工食品は、冷凍保存中の色調及び風味保持性に優れる。
前記演算式作成工程において、前記反射光を波長幅0.1nm以上20nm以下の間隔の波長成分に分光して、500nm以上600nm以下の波長範囲内における各波長成分の波長とその反射率との関係を表す回帰曲線式を導出する、請求項1に記載の方法。
前記ミオグロビン含有赤身魚肉が、サバ科カツオ属に属する魚及びサバ科マグロ属に属する魚からなる群より選ばれる1種以上の魚の肉である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。