(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180107
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】バルブ用アクチュエータ及びこれを用いたバルブ
(51)【国際特許分類】
F16K 31/02 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
F16K31/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087027
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】小原 俊治
(72)【発明者】
【氏名】石橋 圭介
(72)【発明者】
【氏名】薬師神 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】下村 嘉徳
(72)【発明者】
【氏名】山路 道雄
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062BB10
3H062CC07
3H062HH10
(57)【要約】
【課題】弁体の移動ストロークを増大させることができるストローク増大機構を備えるバルブ用アクチュエータを提供すること。
【解決手段】弁座と当接離間して流体の流通を開閉する弁体を備えるバルブに用いられ、弁体のストロークを増大させるストローク増大機構を備えるバルブ用アクチュエータであって、ストローク増大機構は、アクチュエータの出力端と弁体との間に配置され、出力端が当接して押圧される複数のボールと、ボールを収容するボール収容空間が出力端側に備えられ、ボール収容空間は、外方上方に向けて広がった円錐形状の支持テーパ面を有するバルブボディに接続させられているボール保持部材と、ボール保持部材の中央部に形成された貫通孔を貫通するステムであって、弁体側の一端には弁体を押圧する弁体押え部と、出力端側の他端にはボールと当接する先端が先細のステムテーパ面を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブボディ内に形成された流体流路に配置された弁座と当接離間して流体の流通を開閉する弁体を備えるバルブに用いられ、前記弁体のストロークを増大させるストローク増大機構を備えるバルブ用アクチュエータであって、
前記ストローク増大機構は、前記アクチュエータの出力端と前記弁体との間に配置され、
前記出力端が当接して押圧される複数のボールと、
前記ボールを収容するボール収容空間が前記出力端側に備えられ、前記ボール収容空間は、外方上方に向けて広がった円錐形状の支持テーパ面を有する前記バルブボディに接続させられているボール保持部材と、
前記ボール保持部材の中央部に形成された貫通孔を貫通するステムであって、前記弁体側の一端には前記弁体を押圧する弁体押さえ部と、前記出力端側の他端には前記ボールと当接する先端が先細のステムテーパ面を有する、バルブ用アクチュエータ。
【請求項2】
前記出力端は、圧電素子の伸縮によって移動させられ、前記出力端の移動によって前記弁体押さえ部が移動させられるように構成された請求項1に記載のバルブ用アクチュエータ。
【請求項3】
前記弁体がダイヤフラムである請求項1または2のいずれかに記載のバルブ用アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のバルブ用アクチュエータが備えられたバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体の流通を開閉するバルブの弁体のストロークを増大させるストローク増大機構を備えるバルブ用アクチュエータ及びこれを用いたバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や化学プラントにおいて、材料ガスやエッチングガス等の流量を制御するために、種々のタイプのバルブが用いられている。バルブの開閉をミリ秒程度の短周期で制御したい場合も有り、そのような場合は、ピエゾ素子等の圧電素子を利用してバルブの開閉を行うことによって実現している。
【0003】
特許文献1に記載のバルブは、圧電素子の伸縮によって圧電素子の出力端が下部受台にかかる力を調整して、ダイヤフラムと弁座とが当接離間して、流体の流通の開閉を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2019/159959号公報
【特許文献2】国際公開WO2018/123852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルブの流量を大きくするためにはCv値を大きくする必要があり、そのため弁体のストロークを大きくする必要がある。エア駆動又はモータ駆動のバルブではCv値を大きくすることは可能であるが、ミリ秒程度の短周期での開閉が要求される場合は、圧電素子駆動のアクチュエータを備えるバルブとすることが一般的である。
【0006】
しかし、短周期での応答性を重視するか、流体流量を重視するかによって、圧電素子駆動とするか、エア駆動又はモータ駆動とするかは、そのバルブが用いられる状況によって二者択一的に用いられ、応答性とCv値の両方を満足するバルブのアクチュエータを実現することは困難である。
【0007】
半導体製造装置や化学プラントにおいては、流体ガス等の流れの高速制御と種々の変化する流量を調整することができるバルブが求められており、これまでのような応答性とCv値のいずれかを優位に選択するというのでは対応できなくなりつつある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、弁体の移動ストロークを増大させることができるストローク増大機構を備えるバルブ用アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明(1)に係るストローク増大機構を備えるバルブ用アクチュエータは、バルブボディ内に形成され流体流路に配置された弁座と当接離間して流体の流通を開閉する弁体を備えるバルブに用いられ、前記弁体のストロークを増大させるストローク増大機構を備えるバルブ用アクチュエータであって、前記ストローク増大機構は、前記アクチュエータの出力端と前記弁体との間に配置され、前記出力端が当接して押圧される複数のボールと、前記ボールを収容するボール収容空間が前記出力端側に備えられ、前記ボール収容空間は、外方上方に向けて広がった円錐形状の支持テーパ面を有する前記バルブボディに接続させられているボール保持部材と、前記ボール保持部材の中央部に形成された貫通孔を貫通するステムであって、前記弁体側の一端には前記弁体を押圧する弁体押さえ部と、前記出力端側の他端には前記ボールと当接する先端が先細のステムテーパ面を有している。
【0010】
このようなストローク増大機構を利用することによって、弁体を移動させるアクチュエータのストロークが小さくともその小さなストロークを何倍も大きくしてCv値を大きくすることが可能となる。
【0011】
本発明(2)は、前記出力端が圧電素子の伸縮によって移動させられ、前記出力端の移動によって前記弁体押え部が移動させられるように構成された本発明(1)に記載のバルブ用アクチュエータである。
【0012】
圧電素子駆動のアクチュエータは、時間応答性は良いがストロークが小さいという欠点を有しているので、圧電素子駆動アクチュエータであってもこのようなストローク増大機構を備えることによって時間応答性が良く、かつ、弁体のストロークを大きくできるのでバルブのCv値を大きくすることができる。
【0013】
本発明(3)は、前記弁体がダイヤフラムである本発明(1)または本発明(2)のいずれかのバルブ用アクチュエータである。
【0014】
半導体製造のための成膜装置やエッチング装置に流量制御装置が用いられている。流量制御装置において、耐食性が高いこと、発塵が少ないこと、ガスの置換性が良いこと、応答性が良いこと及び閉弁時に迅速且つ確実に流体通路を閉鎖できること等の点から金属ダイヤフラム型バルブが多く使用されている。また、金属ダイヤフラムを開閉させる駆動機構として、圧電素子駆動装置(ピエゾアクチュエータ)が広く利用されており、高速作動が可能なうえ動作特性上のヒステリシスが比較的小さいことから、高精度が求められる流量制御弁では多く用いられている。圧電素子駆動アクチュエータは、弁体(ダイヤフラム)を押圧させる弁体押えのストロークが小さいという欠点を有するが、このような圧電素子駆動アクチュエータを利用したバルブであっても、ストローク増大機構を備えていることから、Cv値も大きくすることができる。
【0015】
本発明(4)は、本発明(1)~本発明(3)のいずれか1つのバルブ用アクチュエータが備えられたバルブである。このようなバルブとすることによって、時間応答性が良く、かつ、Cv値の高いバルブを得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、弁体のストロークを大きくすることができるバルブ用アクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係るバルブ用アクチュエータを取り付けたダイヤフラムバルブを示す。(A)は閉状態を、(B)は開状態を示す。
【
図2】本発明実施の形態に係るバルブ用アクチュエータのストローク増大機構の作用を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係るバルブ用アクチュエータを取り付けたダイヤフラムバルブを示し、(A)は閉状態を、(B)は開状態を示す。バルブ1のバルブボディ10の内部には、入口流路11及び出口流路12が形成され、入口流路11の内部開放端に弁座13が配置されている。弁座13と当接離間して流体の流れの開閉を行う弁体(ダイヤフラム)14が押えアダプタ15によってバルブボディ10に固定されている。この弁体14は、本実施形態においてはダイヤフラムを用いているが、例えば、ステム20の先端部に形成された逆円錐状のニードル大部のものであっても構わない。
【0020】
バルブボディ10の上部は上方に突出しており、内部にダイヤフラム14や押えアダプタ15を収容する凹所が形成され、凹所の内側には雌ねじが切られている。この雌ねじと螺合する雄ねじが切られたボンネットとして機能するボール保持部材30が、螺合によりバルブボディ10に固定されている。ダイヤフラム14は、例えばニッケルクロム合金鋼の薄板により形成されており、中央部が上方へ僅かに膨出した逆皿形に形成されている。ダイヤフラム14の形状は平板状であってもよく、また、材質もステンレス鋼やインコネル合金やその他の合金鋼であってもよい。ダイヤフラム14は、1枚のダイヤフラムから形成されていてもよいし、2~3枚のダイヤフラムを積層して形成されていてもよい。
【0021】
ボール保持部材30の中央部には、ステム20が貫通する貫通孔31があけられている。ステム20の下端には、ダイヤフラム14を押圧する弁体押さえ部21が形成され、上端には、ステムテーパ面22が形成されている。ボール保持部材30の上部は上方に突出しており、内部にガイド部材48と螺合する雌ねじが切られ、ガイド部材48の下端部外面には螺合のための雄ねじが切られている。
【0022】
ボール保持部材30の上部には凹所が設けられ、その中にガイド部材48が螺入されている構造となっている。この凹所の下部にさらにボール収容空間33となる凹所が形成されており、このボール収容空間33の底面は、外方上方に向けて広がった円錐形状の支持テーパ面32となっている。
【0023】
ガイド部材48の内部には上下方向に貫通孔があけられており、その貫通孔を貫通し内部に圧電素子40を内包する支持筒体41が配置されている。支持筒体41は上側が大径部、下側が細径部となり、それぞれに凹所が設けられ、太径部凹所に圧電素子40が備えられ、細径部凹所には、圧電素子40によって下方向に押圧される下部受台42が当接させられ、その下部に割りベース43が配置させられている。割りベース43は、半割り状の割りベース片が対向状に組み付けされたもので、ガイド部材48によって、ガイド部材48、割りベース43及びボール保持部材30が一体的に保持固定される。割りベース43を組付けする前に細径部の内部の凹所に弾性部材44が挿着される。圧電素子40は、圧電素子を積層したピエゾスタックを金属容器内に密封した金属密封型積層圧電アクチュエータを用いることができる。
【0024】
支持筒体41の下部細径部の下部はバルブ用アクチュエータ2の出力端45となっており、この出力端45の底面が出力端下面46である。出力端下面46がボール34の上面と当接しており、ボール34は、その他にも支持テーパ面32及びステムテーパ面34とも接触している。。配置するボールの数が3個の場合は120度おきに配置し、4個の場合は90度おきに配置する。ボールの数を多くしすぎるとアクチュエータが大きくなってしまうので、コンパクトなアクチュエータとする場合は、ボールの数が3~4個が好ましい。
【0025】
支持筒体41の上部には、圧電素子40を支持筒体41の内部に位置決めして固定するためのロックナット51と袋ナット50が配置されている。袋ナット50の上側には圧電素子40に電圧を加えるための配線52が出ている。
【0026】
図1(A)では、圧電素子40の位置決めは、弁体押さえ部21がダイヤフラム14を押圧してバルブ1が閉状態になるように行われている。この状態から、配線52を通じて圧電素子40に電圧を加えると圧電素子40はわずかに伸張する。圧電素子40が伸張すると、圧電素子40は、下部受台42を下方に向かった押圧力が働くものの、下部受台42は割りベース43の中央部と当接しており、その位置が変わることはない。そのため圧電素子40の伸長分の押し上げ力が支持筒体41に働き、ガイド部材48により軸芯を保持された状態で、支持筒体41が弾性部材44の弾性力に抗して上昇する。その結果、弁体押さえ部21からダイヤフラム14への押圧力が低下し、ダイヤフラム14が自己の弾性力によって弁座13から離座し、開弁される。なお、弾性部材44としては、例えば、皿ばねを積み重ねたものを用いることができる。
【0027】
図1(B)は、配線52から電圧を圧電素子40にかけて、圧電素子40が伸張した状態を示している。圧電素子40の伸張によって、支持筒体41はL
1だけ上方に移動する。支持筒体41の上方への移動によって、出力端下面46も上方へL
1だけ上方に移動し、ステム20は上方へ移動し、ボール34は横方向外方へ移動して支持筒体41、ボール34及びステム20のバランスが取れたところで静止する。
図1(B)は、静止後の状態を示している。ステム20はL
2だけ上方に移動をするので、弁体押さえ部21もL
2だけ上方に移動し、ダイヤフラム14もL
2だけ上方への変形が可能となる。L
2はL
1より大きいので、ストロークは拡大されている。このストロークの増大量は、テーパ面32及びステムテーパ面22の角度によって決定される。テーパ面32の拡開角度110°、ステムテーパ面22の先端の角度が30°の場合、L
2はL
1の約8倍、角度によっては10倍程度の増大とすることができる。
【0028】
図2は、ストロークが拡大されるメカニズムを模式的に示す。バルブ閉止状態時の出力端下面46は、水平の点線で示されている。バルブが閉状態から開状態に変化すると、出力端下面46’は、出力端下面46の点線の上方に描かれた実線で示されている。この2つの直線の垂直距離がL
1となる。支持テーパ面34面は、バルブボディ10に固定されているので動くことはない。バルブ閉止状態時のボール34は点線の円で示されている。出力端下面46が上方にL
1だけ上方に移動すると、ボール34はボール34’の実線円となり、ボール34は横外方に移動する。ステムテーパ面22(点線)はステムテーパ面22’(実線)に移動をし、上方への移動距離はL
2となる。
【0029】
L
2はL
1に比べて大きくストロークが拡大されていることは明らかである。ストローク拡大機構の原理は、
図2からも明らかなように、出力端下端面46、支持テーパ面32及びステムテーパ面22で囲まれてボール34が配置され、ボール34が3点で支持されている構造に基づいている。
図2に示す実施例では、L
1が58μmの場合、L
2はその約8倍の478μmとなっている。
【0030】
図2において、ステムテーパ面22’(実線)が、出力端下面46’(実線)とぶつかっているが、
図1では、出力端下面46の中央に凹所が設けられており、ぶつかることはない。
図2では、この凹所を省略している。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上説明したように、本発明のバルブ用アクチュエータは、圧電素子駆動のようなストロークが小さい場合でもストロークを大きくできるので、好適にバルブに適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 バルブ
2 バルブ用アクチュエータ
10 バルブボディ
11 入口流路
12 出口流路
13 弁座
14 弁体(ダイヤフラム)
15 押さえアダプタ
20 ステム
21 弁体押さえ部
22、22’ ステムテーパ面
30 ボール保持部材
31 貫通孔
32 支持テーパ面
33 ボール収容空間
34、34’ ボール
40 圧電素子
41 支持筒体
42 下部受台
43 割りベース
44 弾性部材
45 出力端
46、46’ 出力端下面
48 ガイド部材
50 袋ナット
51 ロックナット
52 配線