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特開2022-180149転がり軸受装置及び転がり軸受装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180149
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】転がり軸受装置及び転がり軸受装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20221129BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20221129BHJP
   F16C 43/04 20060101ALI20221129BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20221129BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16C43/04
F16J15/3232 201
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021087085
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河田 将志
(72)【発明者】
【氏名】山根 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山本 健
【テーマコード(参考)】
3J006
3J117
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE28
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE40
3J006CA01
3J117BA10
3J117HA02
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA12
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC41
3J216CC68
3J216CC70
3J216DA01
3J216DA12
3J216EA09
3J216FA09
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701EA06
3J701EA49
3J701FA44
3J701FA46
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】 転がり軸受装置のコストをより低減する。
【解決手段】内周面に外側軌道を有する外方部材と、外周面に内側軌道を有し前記外方部材に対して相対回転する内方部材と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に設けられている複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に設けられている密封装置と、を備え、前記内方部材は、前記内側軌道の軸方向一方側に設けられ、回転体が取り付けられるフランジを有し、前記密封装置は、前記内方部材の外周面に固定される筒部と、前記筒部の軸方向一方側から径方向外側へ延伸して前記フランジと軸方向に対向する円環部と、を有するスリンガと、前記外方部材の軸方向一方側の端部に固定され、前記スリンガに滑り接触するシール部材と、を有し、前記スリンガは、前記筒部を前記内方部材の外周面に圧入する治具により、前記スリンガを軸方向一方側に押圧することで、前記内方部材の外周面又は前記フランジの軸方向他方側の側面に形成されている溝の内側にかしめられたカシメ部を有する、転がり軸受装置。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外側軌道を有する外方部材と、
外周面に内側軌道を有し前記外方部材に対して相対回転する内方部材と、
前記外側軌道と前記内側軌道との間に設けられている複数の転動体と、
前記内方部材と前記外方部材との間に設けられている密封装置と、
を備え、
前記内方部材は、前記内側軌道の軸方向一方側に設けられ、回転体が取り付けられるフランジを有し、
前記密封装置は、
前記内方部材の外周面に固定される筒部と、前記筒部の軸方向一方側から径方向外側へ延伸して前記フランジと軸方向に対向する円環部と、を有するスリンガと、
前記外方部材の軸方向一方側の端部に固定され、前記スリンガに接触するシール部材と、
を有し、
前記スリンガは、前記筒部を前記内方部材の外周面に軸方向に圧入する治具により、前記スリンガを軸方向一方側に押圧することで、前記内方部材の外周面又は前記フランジの軸方向他方側の側面に形成されている溝の内側にかしめられたカシメ部を有する、転がり軸受装置。
【請求項2】
前記溝は、前記内方部材の外周面のうち前記内側軌道よりも軸方向一方側の領域に形成され、
前記カシメ部は、前記筒部に設けられている、
請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記内方部材に取り付ける前の状態の前記スリンガにおいて、前記筒部の軸方向他方側の端部の内周面には、
軸方向他方側に向かうにつれて内径が拡大するように設けられたテーパ面、又は、
径方向外側に凹む凹部、が形成されている、
請求項2に記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
転がり軸受装置の製造方法であって、
前記転がり軸受装置は、
内周面に外側軌道を有する外方部材と、
外周面に内側軌道を有し前記外方部材に対して相対回転する内方部材と、
前記外側軌道と前記内側軌道との間に設けられている複数の転動体と、
前記内方部材と前記外方部材との間に設けられている密封装置と、
を備え、
前記内方部材は、前記内側軌道の軸方向一方側に設けられ、回転体が取り付けられるフランジを有し、
前記密封装置は、
前記内方部材の外周面に固定される筒部と、前記筒部の軸方向一方側から径方向外側へ延伸して前記フランジと軸方向に対向する円環部と、を有するスリンガと、
前記外方部材の軸方向一方側の端部に固定され、前記スリンガに接触するシール部材と、
を有し、
前記スリンガを治具により軸方向一方側に押圧することで、前記筒部を前記内方部材の外周面に圧入する圧入工程と、
前記スリンガを前記治具により軸方向一方側に押圧することで、前記内方部材の外周面又は前記フランジの軸方向他方側の側面に形成されている溝の内側に、前記スリンガの一部をかしめるカシメ工程と、
を備える、転がり軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置及び転がり軸受装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の車輪を支持するために車輪用軸受装置が用いられている(例えば、特許文献1,2)。車輪用軸受装置は、車輪が取り付けられるフランジを軸方向一方側(車両アウタ側)に含むハブ(内方部材ともいう。)と、当該ハブの径方向外側に設けられている外輪(外方部材ともいう。)と、ハブと外輪との間に配置される複数の転動体と、ハブと外輪との間の空間を密封する密封装置と、を備える。密封装置は、ハブの外周面に嵌合されるスリンガと、外輪の内周面に嵌合され、スリンガに摺接するシール部材とを有する。
【0003】
ここで、スリンガは、例えば、フランジの軸方向他方側(車両インナ側)に隣接する部分に嵌合される。この場合、車両の走行時にフランジが湾曲することでスリンガが軸方向他方側に押され、スリンガが軸方向他方側に移動する「ウォークアウト現象」が生じるおそれがある。ウォークアウト現象が生じると、密封装置のシール性能が低下する等の不都合が生じるため、スリンガの軸方向の移動を抑制する技術が必要とされている。
【0004】
特許文献1には、ハブの外周面に凹溝を形成し、スリンガを構成する嵌合用筒部のうち当該凹溝と整合する部分を、ローリングかしめ機を使用して全周にわたり内径側に塑性変形させることで、凹溝と係合する係合凸部を嵌合用筒部に形成する技術が開示されている。特許文献1の技術では、上記の係合凸部と凹部との係合に基づいて、嵌合用筒部の軸方向他方側への抜け止め(すなわち、ウォークアウト現象の抑制)を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-52070号公報
【特許文献2】特開2017-207124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9は、本発明の課題を説明する図である。図9は、ハブ91にスリンガ95を取り付ける際の各工程の様子を断面図により示している。ハブ91は、ハブ91の軸方向一方側に設けられるフランジ92と、ハブ91の外周面のうちフランジ92と隣接する円筒面部93と、円筒面部93に形成された凹溝94とを有する。スリンガ95は、ハブ91に取り付けられた状態において、フランジ92の内側面(軸方向他方側の面)と対向する側板部96と、円筒面部93と対向する嵌合用筒部97とを有する。
【0007】
ハブ91にスリンガ95を取り付ける際には、まず、図9(a)に示すように、ハブ91に対してスリンガ95を軸方向に圧入する。例えば、側板部96がフランジ92の内側面に当接するまで、圧入機の治具J91が側板部96を軸方向一方側に押圧することで、スリンガ95の圧入を行う。これにより、図9(b)に示すように、嵌合用筒部97が円筒面部93に締り嵌めされる。
【0008】
次に、図9(b)に示すように、嵌合用筒部97のうち凹溝94の径方向外側に位置する部分に対してローリングかしめ機の治具J92を径方向に押し当てることで、嵌合用筒部97の一部を塑性変形させる(かしめる)。これにより、図9(c)に示すように、嵌合用筒部97に係合凸部98が形成される。
【0009】
このように、従来、スリンガ95をハブ91に圧入する工程と、スリンガ95をかしめる工程は、別々に行われていた。このため、上記のウォークアウト対策を施した車輪用軸受装置を製造するためには、多数の工程が必要とされていた。また、圧入するための治具J91と、かしめるための治具J92等の多数の治具が必要となるうえ、治具J91の移動方向(軸方向)と治具J92の移動方向(径方向)とが異なるため、車輪用軸受装置の製造装置が複雑化していた。以上により、ウォークアウト対策を施した車輪用軸受装置の製造には、ウォークアウト対策を施さない場合と比べ、多大なコストが掛かっていた。
【0010】
そこで、本発明は、コストをより低減することができる転がり軸受装置及び転がり軸受装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の転がり軸受装置は、内周面に外側軌道を有する外方部材と、外周面に内側軌道を有し前記外方部材に対して相対回転する内方部材と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に設けられている複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に設けられている密封装置と、を備え、前記内方部材は、前記内側軌道の軸方向一方側に設けられ、回転体が取り付けられるフランジを有し、前記密封装置は、前記内方部材の外周面に固定される筒部と、前記筒部の軸方向一方側から径方向外側へ延伸して前記フランジと軸方向に対向する円環部と、を有するスリンガと、前記外方部材の軸方向一方側の端部に固定され、前記スリンガに滑り接触するシール部材と、を有し、前記スリンガは、前記筒部を前記内方部材の外周面に軸方向に圧入する治具により、前記スリンガを軸方向一方側に押圧することで、前記内方部材の外周面又は前記フランジの軸方向他方側の側面に形成されている溝の内側にかしめられたカシメ部を有する、転がり軸受装置である。
【0012】
本発明の転がり軸受装置の製造方法は、前記転がり軸受装置は、内周面に外側軌道を有する外方部材と、外周面に内側軌道を有し前記外方部材に対して相対回転する内方部材と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に設けられている複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に設けられている密封装置と、を備え、前記内方部材は、前記内側軌道の軸方向一方側に設けられ、回転体が取り付けられるフランジを有し、前記密封装置は、前記内方部材の外周面に固定される筒部と、前記筒部の軸方向一方側から径方向外側へ延伸して前記フランジと軸方向に対向する円環部と、を有するスリンガと、前記外方部材の軸方向一方側の端部に固定され、前記スリンガに滑り接触するシール部材と、を有し、前記スリンガを治具により軸方向一方側に押圧することで、前記筒部を前記内方部材の外周面に圧入する圧入工程と、前記スリンガを前記治具により軸方向一方側に押圧することで、前記内方部材の外周面又は前記フランジの軸方向他方側の側面に形成されている溝の内側に、前記スリンガの一部をかしめるカシメ工程と、を備える転がり軸受装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、転がり軸受装置のコストをより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る転がり軸受装置を示す断面図である。
図2】実施形態に係る車両アウタ側の密封装置及びその周辺を示す断面図である。
図3】実施形態に係るスリンガを示す斜視図である。
図4】実施形態に係るスリンガを内方部材に取り付ける前の状態を示す説明図である。
図5】実施形態に係るスリンガを内方部材に取り付ける様子を示す説明図である。
図6】変形例に係るスリンガを示す説明図である。
図7】変形例に係るハブを示す説明図である。
図8】変形例に係るハブを示す説明図である。
図9】本発明の課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の実施形態の説明]
本発明の実施形態には、その要旨として、少なくとも以下のものが含まれる。
【0016】
(1)本発明に係る転がり軸受装置は、内周面に外側軌道を有する外方部材と、外周面に内側軌道を有し前記外方部材に対して相対回転する内方部材と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に設けられている複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に設けられている密封装置と、を備え、前記内方部材は、前記内側軌道の軸方向一方側に設けられ、回転体が取り付けられるフランジを有し、前記密封装置は、前記内方部材の外周面に固定される筒部と、前記筒部の軸方向一方側から径方向外側へ延伸して前記フランジと軸方向に対向する円環部と、を有するスリンガと、前記外方部材の軸方向一方側の端部に固定され、前記スリンガに接触するシール部材と、を有し、前記スリンガは、前記筒部を前記内方部材の外周面に軸方向に圧入する治具により、前記スリンガを軸方向一方側に押圧することで、前記内方部材の外周面又は前記フランジの軸方向他方側の側面に形成されている溝の内側にかしめられたカシメ部を有する、転がり軸受装置である。
【0017】
このように構成することで、スリンガのうちカシメ部と隣接する領域の内方部材に対する面圧が向上し、スリンガと内方部材との間に作用する摩擦力がより大きくなることで、スリンガが内方部材に対して軸方向に移動することが抑制される。これにより、ウォークアウト対策を施すことができる。また、カシメ部は、筒部を内方部材の外周面に軸方向に圧入する治具により、スリンガを軸方向一方側に押圧することで形成されているため、スリンガを軸方向に圧入した後、スリンガを径方向にかしめる場合と比べて、転がり軸受装置の製造に掛かるコストを削減することができる。
【0018】
(2)好ましくは、前記溝は、前記内方部材の外周面のうち前記内側軌道よりも軸方向一方側の領域に形成され、前記カシメ部は、前記筒部に設けられている。
【0019】
(3)好ましくは、前記内方部材に取り付ける前の状態の前記スリンガにおいて、前記筒部の軸方向他方側の端部の内周面には、軸方向他方側に向かうにつれて内径が拡大するように設けられたテーパ面、又は、径方向外側に凹む凹部、が形成されている。
【0020】
このように構成することで、筒部の端部にカシメ部を形成するために必要な力が小さくなる。
【0021】
(4)本発明は転がり軸受装置の製造方法であって、前記転がり軸受装置は、内周面に外側軌道を有する外方部材と、外周面に内側軌道を有し前記外方部材に対して相対回転する内方部材と、前記外側軌道と前記内側軌道との間に設けられている複数の転動体と、前記内方部材と前記外方部材との間に設けられている密封装置と、を備え、前記内方部材は、前記内側軌道の軸方向一方側に設けられ、回転体が取り付けられるフランジを有し、前記密封装置は、前記内方部材の外周面に固定される筒部と、前記筒部の軸方向一方側から径方向外側へ延伸して前記フランジと軸方向に対向する円環部と、を有するスリンガと、前記外方部材の軸方向一方側の端部に固定され、前記スリンガに接触するシール部材と、を有し、前記スリンガを治具により軸方向一方側に押圧することで、前記筒部を前記内方部材の外周面に圧入する圧入工程と、前記スリンガを前記治具により軸方向一方側に押圧することで、前記内方部材の外周面又は前記フランジの軸方向他方側の側面に形成されている溝の内側に、前記スリンガの一部をかしめるカシメ工程と、を備える。
【0022】
このように構成することで、治具を軸方向に移動させることで、圧入工程とカシメ工程とを行うことができる。このため、別個の治具により圧入工程とカシメ工程とを別々に行う場合と比べて、転がり軸受装置の製造に掛かるコストを削減することができる。
【0023】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の詳細を説明する。
【0024】
[転がり軸受装置の全体構成]
図1は、実施形態に係る転がり軸受装置10を示す断面図である。転がり軸受装置10は、車両の車輪等の回転体を支持するための車輪用軸受装置であり、ハブユニットとも称される。転がり軸受装置10は、車両に設けられた懸架装置(ナックルとも称する。)に取り付けられ、車輪等の回転体を回転可能に支持する。
【0025】
転がり軸受装置10は、内方部材11と、外方部材12と、複数の転動体13と、保持器14と、2個の密封装置15,16とを備える。内方部材11、外方部材12及び転動体13は、例えば機械構造用の炭素鋼により形成されている。また、保持器14は、例えば樹脂により形成されている。
【0026】
ここで、転がり軸受装置10の中心線C1に平行な方向を「軸方向」と称する。転がり軸受装置10が懸架装置に取り付けられた状態で、車体の車輪側(車両アウタ側とも称し、図1の左側に対応する。)を「軸方向一方側」と称し、車体の中央側(車両インナ側とも称し、図1の右側に対応する。)を「軸方向他方側」と称する。また、軸方向と直交する方向を「径方向」と称する。中心線C1に近づく側を「径方向内側」と称し、中心線C1から離れる側を「径方向外側」と称する。
【0027】
内方部材11は、内軸部材とも称され、軸線が中心線C1と一致する状態で設けられた略円筒形状の部材である。内方部材11は、ハブ軸21と、ハブ軸21の軸方向他方側に取り付けられている内輪22とを有する。ハブ軸21は、内軸とも称される。ハブ軸21の軸方向一方側には、車輪等の回転体を固定するためのフランジ23が形成されている。内方部材11の外周面11aには、2個の内側軌道11b1,11b2が形成されている。軸方向一方側の内側軌道11b1は、ハブ軸21の外周面に形成されている。軸方向他方側の内側軌道11b2は、内輪22の外周面に形成されている。
【0028】
外方部材12は、外輪とも称され、軸線が中心線C1と一致する状態で設けられた略円筒形状の部材である。外方部材12の内周面12aには、2個の外側軌道12b1,12b2が形成されている。
【0029】
複数の転動体13は、軸方向に2列に設けられている。内側軌道11b1と外側軌道12b1との間に設けられている複数の転動体13が、軸方向一方側の列を構成し、内側軌道11b2と外側軌道12b2との間に設けられている複数の転動体13が、軸方向他方側の列を構成している。保持器14は、複数の転動体13を保持している。複数の転動体13が内側軌道11b1,11b2と外側軌道12b1,12b2との間を転動することで、内方部材11は外方部材12に対して中心線C1まわりに相対回転する。本実施形態では、内方部材11は懸架装置(及び車体)に対して回転する回転部材であり、外方部材12は懸架装置に固定される固定部材である。
【0030】
密封装置15,16は、内方部材11と外方部材12との間に設けられている。密封装置15は、内側軌道11b1及び外側軌道12b1よりも軸方向一方側に設けられる車両アウタ側の密封装置である。密封装置16は、内側軌道11b2及び外側軌道12b2よりも軸方向他方側に設けられる車両インナ側の密封装置である。密封装置15,16は、転がり軸受装置10の外部空間S1から内方部材11及び外方部材12の間に形成される内部空間S2に泥水等が侵入するのを防ぐための装置である。内部空間S2は、内方部材11の外周面11a、外方部材12の内周面12a、密封装置15及び密封装置16により囲まれた転がり軸受装置10の内部の空間である。
【0031】
[密封装置の構成]
図2は、軸方向一方側(車両アウタ側)の密封装置15及びその周辺を示す断面図である。内方部材11の外周面11aのうち、内側軌道11b1の軸方向一方側には、径方向内側にへこむ溝11cが形成されている。より具体的には、溝11cはハブ軸21の外周面に形成されている。外周面11aのうち溝11cよりも軸方向一方側に位置する領域を「被嵌合面11a1」と適宜称する。被嵌合面11a1と、フランジ23の軸方向他方側の側面23aとの間には、第1の曲率で曲がる第1屈曲面23bが形成されている。また、側面23aの径方向外側には、第2の曲率で曲がる第2屈曲面23cが形成されている。
【0032】
密封装置15は、スリンガ30と、シール部材40とを有する。
図3は、ハブ軸21に取り付けられる前のスリンガ30を概略的に示す斜視図である。図2及び図3を参照して、スリンガ30の構成を説明する。
【0033】
スリンガ30は、金属製であり、例えばステンレス鋼等の鋼材により形成されている。スリンガ30は、筒部31と、円環部32と、円筒部33とを有する。筒部31は、内方部材11の外周面11aに固定される部分である。より具体的には、筒部31は、被嵌合面11a1に所定の締め代を有して嵌合されている。筒部31の軸方向他方側の端部には、溝11cの内側にかしめられたカシメ部34が形成されている。
【0034】
円環部32は、筒部31の軸方向一方側から径方向外側へ延伸し、フランジ23と軸方向に対向する部分である。円環部32は、フランジ23の側面23aと接触している。第2屈曲面23cの径方向内側の端には、フランジ23と円環部32との間を密封するためのゴムリング50が設けられている。ゴムリング50は、フランジ23及び円環部32に密着することで、フランジ23と円環部32の間に泥水等の異物が侵入することを防止している。
【0035】
円筒部33は、円環部32の径方向外側から軸方向他方側に延伸している部分である。円筒部33は、後述の第4リップ46とラビリンス隙間を形成しており、スリンガ30とシール部材40との間に外部から泥水等の異物が侵入することを防止する機能を有する。
【0036】
図3に示すように、筒部31には複数のスリット35が形成されている。スリット35は、筒部31の周方向に複数設けられており、それぞれ軸方向他方側の端部から軸方向一方側へ伸びている。スリット35を設けることで、筒部31の剛性を下げ、筒部31の軸方向他方側の端部31aを後述のカシメ工程において変形させやすくことができる。端部31aは、軸方向他方側に向かうにつれて径方向内側に傾いている。このため、端部31aは後述のカシメ工程において径方向内側へ変形しやすくなっている。
【0037】
図2を参照して、シール部材40の構成を説明する。
シール部材40は、スリンガ30と滑り接触することで、内部空間S2を密封するための部材である。シール部材40は、金属部材41と、シール本体42とを有する。金属部材41は、金属製であり、例えばステンレス鋼等の鋼材により形成されている。金属部材41は、外方部材12の軸方向一方側の端部12cの内周面に所定の締め代を有して嵌合されている。
【0038】
シール本体42は、金属部材41に例えば加硫接着により固定されている。シール本体42は、第1リップ43と、第2リップ44と、第3リップ45と、第4リップ46とを有する。第1リップ43は、シール本体42のうち金属部材41の径方向内側の端部付近から軸方向一方側及び径方向外側へ延伸し、スリンガ30の円環部32に接触するリップである。第2リップ44は、シール本体42のうち金属部材41の径方向内側の端部付近から軸方向他方側及び径方向内側へ延伸し、スリンガ30の筒部31に接触するリップである。
【0039】
第3リップ45は、シール本体42のうち端部12cの内周面付近から軸方向一方側及び径方向外側へ延伸するリップである。第3リップ45は、第2リップ44よりも径方向外側に位置し、円環部32と軸方向にわずかな隙間を空けて対向している。第3リップ45は、第3リップ45よりも径方向内側に位置する潤滑剤(例えば、グリース)が密封装置15の外部へ流出することを防止する機能を有する。
【0040】
第4リップ46は、端部12cの外周面に所定の締め代を有して嵌合されているリップである。第4リップ46は、外方部材12と金属部材41との間に泥水等が侵入することを防止する機能と、円筒部33とラビリンス隙間を形成することで、スリンガ30とシール部材40との間に泥水等が侵入することを防止する機能を有する。
【0041】
[スリンガの取り付け]
図4及び図5を参照して、スリンガ30を内方部材11に取り付ける方法を説明する。当該取り付ける方法は、転がり軸受装置10の製造方法の一部である。
【0042】
図4は、スリンガ30を内方部材11に取り付ける前の状態を示す説明図である。以下、この状態を「取付前状態」と称する。取付前状態において、筒部31の軸方向他方側の端部31aにはカシメ部34は形成されていない。取付前状態において、スリンガ30の軸方向の長さL2は、フランジ23の側面23aから溝11cまでの軸方向の長さL1よりも長い(L2>L1)。
【0043】
また、溝11cの底面から被嵌合面11a1までの高さH1(径方向の長さ)と、長さL1との和は、スリンガ30の長さL2よりも長い(L1+H1>L2)。溝11cは内側軌道11b1まで続いており、溝11cの被嵌合面11a1側の側面である溝側面11dは、軸方向他方側に開放されている。言い換えると、軸方向他方側からハブ軸21を見ると、溝側面11dが見える。すなわち、被嵌合面11a1から軸方向他方側へ軸方向に伸びる仮想線VL1を引くと、仮想線VL1はハブ軸21と接触しない。
【0044】
図5は、スリンガ30を内方部材11に取り付ける様子を示す説明図である。スリンガ30は、圧入工程及びカシメ工程を行う取付装置60によって、内方部材11に取り付けられる。
【0045】
取付装置60は、制御部61と、記憶部62と、駆動部63と、センサ64と、治具J1とを備える。制御部61及び記憶部62は、例えばCPU等の演算処理部とRAM等の主記憶部、及びHDD等の補助記憶部を有する汎用コンピュータにより構成されている。制御部61は、記憶部62、駆動部63及びセンサ64と電気的に接続している。記憶部62に記憶された所定のプログラムを制御部61が読み取って実行することで、制御部61は各種の演算処理や、各部への指令処理を行う。
【0046】
駆動部63は、例えば公知のアクチュエータ(例えば、エアシリンダ)であり、治具J1と接続している。駆動部63は、制御部61の指令に基づいて、治具J1を軸方向に移動させる。治具J1は、円筒形状を有する金属製の部材である。治具J1は、円筒の軸線をハブ軸21の軸線(中心線C1)と一致させた状態で設けられている。治具J1の径方向の厚みは、筒部31の径方向の厚みよりも厚い。
【0047】
また、治具J1の内周面J1aは、溝11cの底面よりも径方向外側に位置し、被嵌合面11a1よりも径方向内側に位置する。また、治具J1の外周面J1bは、筒部31の外周面31bよりも径方向外側に位置する。治具J1をこのように設置することで、比較的薄い筒部31により確実に治具J1を接触させることができる。なお、治具J1の内周面J1aは、被嵌合面11a1と径方向に同じか、被嵌合面11a1の径方向外側かつ筒部31の外周面よりも径方向内側に位置していてもよい。
【0048】
センサ64は、例えば公知の圧力センサであり、駆動部63(又は治具J1)と接続している。センサ64は、例えば、駆動部63が治具J1から受ける反力(又は治具J1がスリンガ30から受ける反力)を検知し、制御部61に検知信号を出力する。これにより、制御部61は、センサ64が検知する圧力に応じて、駆動部63を制御することができる。
【0049】
次に、スリンガ30を内方部材11に取り付ける際の各工程を説明する。
オペレータがキーボード等の入力部(図示省略)により制御部61にスリンガ30を取り付ける旨の指令を行うと、取付装置60はスリンガ30をハブ軸21に圧入する圧入工程と、スリンガ30の一部をかしめるカシメ工程とを実行する。
【0050】
はじめに、制御部61が駆動部63に指令を行い、駆動部63は治具J1を軸方向一方側に移動させる。そして、図5(a)に示すように、治具J1はスリンガ30の端部31aを軸方向一方側に所定の押圧力F1により押圧し、筒部31を被嵌合面11a1に圧入する(圧入工程)。押圧力F1は、筒部31を塑性変形させるために必要な力F2よりも小さく、筒部31をハブ軸21に圧入するために必要な力F3以上の力である(F3≦F1<F2)。
【0051】
駆動部63は、円環部32がフランジ23の側面23aと接触するまで、治具J1を軸方向一方側へ移動させ続ける。円環部32が側面23aと接触すると、センサ64により検知される反力が増加し、その後、一定値となる(すなわち、反力の時間的なばらつきが所定値未満となる)。
【0052】
この反力の増加(又は、反力が一定になったこと)に基づいて、制御部61が駆動部63に指令を行い、駆動部63は引き続き治具J1を軸方向一方側に移動させる。このとき、駆動部63は、治具J1による端部31aの押圧力F1を、より強い押圧力F4に増加させる。押圧力F4は、筒部31を塑性変形させるために必要な力F2以上の力である(F1<F2≦F4)。これにより、図5(b)に示すように、端部31aが溝11cの内側に塑性変形する(すなわち、端部31aがかしめられる:カシメ工程)。この結果、筒部31の軸方向他方側にカシメ部34が形成される。
【0053】
カシメ部34が形成された後、センサ64により検知される反力が増加し、その後一定値となる。この反力の増加(又は、反力が一定になったこと)に基づいて、制御部61が駆動部63に指令を行い、駆動部63は治具J1を軸方向他方側に移動させる。以上により、スリンガ30を内方部材11への取り付けが完了する。
【0054】
なお、上記では、円環部32が側面23aに接触した後に(すなわち、圧入工程の終了後に)カシメ工程が開始されるが、カシメ工程は圧入工程の途中に開始されてもよい。例えば、筒部31が被嵌合面11a1にある程度(例えば、軸方向に8割程度)圧入された時に、治具J1による押圧力を押圧力F1から押圧力F4に増加させて、カシメ工程を開始してもよい。この場合、端部31aがかしめられるのと並行して、筒部31が被嵌合面11a1に圧入される。このため、スリンガ30の取り付けに掛かる時間を短縮することができる。
【0055】
また、上記では、圧入工程とカシメ工程との間で、治具J1の押圧力を異ならせているが、圧入工程及びカシメ工程の治具J1の押圧力がいずれも押圧力F4で同じであっても良い。
【0056】
[作用効果]
ハブ軸21側の高さH1及び長さL1の和がスリンガ30の長さL2よりも長い(L1+H1>L2)ため、カシメ部34は溝11cの底面と接しない状態でかしめられている。カシメ部34がかしめられることで、筒部31のうちカシメ部34の軸方向一方側に位置する領域R1の被嵌合面11a1に対する面圧が向上し、筒部31と被嵌合面11a1との間に作用する摩擦力(特に、静止摩擦力)がより大きくなる。これにより、スリンガ30がハブ軸21に対して軸方向に移動することが抑制される。すなわち、スリンガ30の一部に、ハブ軸21側にかしめられたカシメ部34を形成することで、ウォークアウト対策を施すことができる。
【0057】
特に、上記の製造方法によれば、治具J1を軸方向に1ストローク移動させることで、圧入工程とカシメ工程とを連続して行うことができる。このため、別個の治具により圧入工程とカシメ工程とを別々に行う場合と比べて、転がり軸受装置10の製造時間を短縮することができる。
【0058】
また、1個の治具J1により、圧入工程とカシメ工程とを行うことができるため、取付装置60の構成をより単純化することができる。また、筒部31を圧入させる際の治具J1の移動方向と、筒部31をかしめる際の治具J1の移動方向とは、いずれも軸方向一方側であるため、1個の駆動部63により治具J1を駆動させればよく、取付装置60の構成をより単純化することができる。このため、取付装置60のコストを削減することができる。以上により、図9のようにスリンガ95を軸方向に圧入した後、スリンガ95を径方向にかしめる場合と比べて、転がり軸受装置10の製造に掛かるコストを削減することができる。
【0059】
また、溝側面11dは軸方向他方側に開放されているため、治具J1が軸方向に移動して端部31aをかしめる際に、治具J1とハブ軸21とが干渉することを防止することができる。
【0060】
また、図9に示すようにスリンガ95を治具J92により径方向にかしめる際、スリンガ95の一部が治具J92とハブ91とに径方向に挟まれる。このとき、スリンガ95を構成する金属の展性により、スリンガ95の一部97aが軸方向に伸びて薄くなる(圧延される)ことで、スリンガ95の強度が低下するおそれがある。これに対し、上記の転がり軸受装置10のスリンガ30は、軸方向に押圧されることでかしめられているため、従来のように軸方向に伸びて薄くなるようなことがない。このように、スリンガ30が軸方向一方側に押圧されることで形成されたカシメ部34を有することで、スリンガ30の強度が低下することを抑制することができる。
【0061】
また、スリンガ95の一部97aが圧延されると、一部97aの径方向内側の表面に圧延肌が形成され、表面状態(例えば、表面粗さ等)が変化する。これに対し、上記の転がり軸受装置10のスリンガ30は、軸方向にかしめられるため径方向内側の表面に圧延肌が形成されない。
【0062】
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明した。しかしながら、本発明の実施に関してはこれに限られず、種々の変形を行うことができる。以下、本発明の実施形態に係る変形例について、説明する。なお、以下の説明において、実施形態から変更のない部分については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0063】
[スリンガの変形例]
図6は、変形例に係るスリンガを示す説明図である。図6(a)は第1変形例に係る取付前状態のスリンガ30aを示し、図6(b)は第2変形例に係る取付前状態のスリンガ30bを示している。
【0064】
スリンガ30aは、取付前状態において、端部31aの内周面にテーパ面36を有する。テーパ面36は、軸方向他方側に向かうにつれて端部31aの内径が拡大するように設けられている。テーパ面36は、図6(a)に示すように曲面として設けられている。なお、テーパ面36は、直線的に設けられてもよい。テーパ面36が設けられていることで、端部31aは軸方向他方側に向かうにつれて細くなっている。このため、端部31aを径方向内側に塑性変形させるために(すなわち、かしめるために)必要な力F2が小さくなる。言い換えると、端部31aは、径方向内側に倒れやすくなる。これにより、駆動部63(図5)が治具J1を駆動させる際に必要な押圧力F4が小さくなり、駆動部63の構成をより簡素にすることができる。
【0065】
スリンガ30bは、取付前状態において、端部31aの内周面に径方向外側に凹む凹部37を有する。凹部37が設けられている部分において、端部31aは細くなっているため、端部31aを径方向内側に塑性変形させるために必要な力F2が小さくなる。これにより、駆動部63(図5)が治具J1を駆動させる際に必要な押圧力F4が小さくなり、駆動部63の構成をより簡素にすることができる。
【0066】
ここで、スリンガ30aの場合、テーパ面36を設けることで端部31aのうち治具J1と接触する部分(軸方向他方側の側面)が径方向に薄くなるため、治具J1と当該部分とが接触しにくくなるおそれがある。これに対し、スリンガ30bでは、端部31aのうち治具J1と接触する部分は、径方向に薄くなっていない。このため、端部31aがかしめられやすくしつつ、治具J1と当該部分とが接触しにくくなることを抑制することができる。
【0067】
[ハブの変形例]
図7は、変形例に係るハブ軸21aを示す説明図である。ハブ軸21aの外周面11aには、上記の実施形態に係る溝11cに代えて、溝11c1が設けられている。溝11c1は溝11cと異なり内側軌道11b1と接続しておらず、溝11c1と内側軌道11b1との間には径方向外側に突出する凸面11c2が設けられている。ハブ軸21aのフランジ23の側面23aから凸面11c2の軸方向一方側の端までの軸方向の長さL3は、スリンガ30の軸方向の長さL2よりも短い(L3<L2)。
【0068】
また、溝11c1の底面から被嵌合面11a1までの高さH2(径方向の長さ)は、溝11c1の底面から凸面11c2までの高さH3よりも高い(H2>H3)。このため、溝11c1の被嵌合面11a1側の側面である溝側面11d1の一部は、軸方向他方側に開放されている。言い換えると、軸方向他方側からハブ軸21aを見ると、溝側面11d1の径方向外側の一部(凸面11c2よりも径方向外側に位置する一部)は見えるが、溝側面11d1の径方向内側の一部(凸面11c2よりも径方向内側に位置する一部)は凸面11c2(又は内側軌道11b1)に遮られて見えない。
【0069】
次に、スリンガ30をハブ軸21aに取り付ける様子を説明する。
図7(a)に示すように、スリンガ30の端部31aを治具J1により軸方向一方側に押圧力F1で押圧して、筒部31を被嵌合面11a1に圧入する(圧入工程)。その後、図7(b)に示すように、端部31aを治具J1により軸方向一方側に押圧力F4で押圧して、筒部31の一部を溝11c1の内側にかしめる(カシメ工程)。これにより、筒部31にカシメ部34aが形成される。
【0070】
カシメ部34aは、筒部31の端部31aが径方向内側に座屈することで形成される。カシメ部34aが形成されることで、筒部31のうちカシメ部34aの軸方向一方側に位置する領域R2の被嵌合面11a1に対する面圧が向上し、筒部31と被嵌合面11a1との間に作用する摩擦力がより大きくなる。これにより、スリンガ30がハブ軸21aに対して軸方向に移動することが抑制される。
【0071】
本変形例によっても、治具J1を軸方向に1ストローク移動させることで、圧入工程とカシメ工程とを連続して行うことができる。このため、転がり軸受装置10の製造に掛かるコストを削減することができる。なお、本変形例において、端部31aの内周面にテーパ面36又は凹部37が形成されてもよい。
【0072】
[かしめる位置の変形例]
図8は、変形例に係るハブ軸21bを示す説明図である。本変形例は、ハブの形状と、治具がスリンガを押圧する位置とが、上記の実施形態と相違する。
【0073】
ハブ軸21bの外周面11aには、溝11cが設けられておらず、被嵌合面11a1が内側軌道11b1と直接接続している。ハブ軸21bのフランジ23の側面23aには、軸方向一方側に凹む溝24が形成されている。また、スリンガ30を取り付けるための治具J2は、本体部J2aと、本体部J2aから軸方向一方側に突出した凸部J2bとを有する。本体部J2aの径方向の厚みT1は、溝24の径方向の最大幅W1(開口部分の幅)よりも大きい。凸部J2bの径方向の厚みT2は、最大幅W1よりも小さい。
【0074】
次に、スリンガ30をハブ軸21bに取り付ける様子を説明する。
図8(a)に示すように、スリンガ30の円環部32を治具J2により軸方向一方側に押圧力F1により押圧して、筒部31を被嵌合面11a1に圧入する(圧入工程)。スリンガ30は、治具J2の凸部J2bと当接しながら、軸方向一方側に移動する。このように、圧入工程において、上記の実施形態では治具J1が筒部31の端部31aを押圧するのに対し、本変形例では、治具J2が円環部32を押圧する点で、相違する。
【0075】
その後、図8(b)に示すように、円環部32を治具J2により軸方向一方側に押圧力F4により押圧して、円環部32の一部を溝24の内側にかしめる(カシメ工程)。これにより、円環部32にカシメ部34bが形成される。カシメ部34bは、円環部32の一部が凸部J2bにより押圧されて軸方向一方側に凹むことで形成される。このとき、本体部J2aは、円環部32のうちカシメ部34bとなる部分と径方向に隣接する部分を、側面23aに押圧する。
【0076】
図8(c)に示すように、カシメ部34bは、溝24の底面とは接していない。また、カシメ部34bの径方向内側及び外側の側面が形成する角度θ2は、溝24の径方向内側及び外側の側面が形成する角度θ1よりも大きい(θ2>θ1)。このようなカシメ部34bが形成されることで、円環部32のうちカシメ部34bと径方向に隣接する領域R3,R3の側面23aに対する面圧が向上し、円環部32と側面23aとの間に作用する摩擦力がより大きくなる。これにより、スリンガ30がハブ軸21bに対して軸方向に移動することが抑制される。
【0077】
本変形例によっても、治具J2を軸方向に1ストローク移動させることで、圧入工程とカシメ工程とを連続して行うことができる。このため、転がり軸受装置10の製造に掛かるコストを削減することができる。
【0078】
[その他]
上記の転がり軸受装置10は、自動車等の車両の車輪を支持するための車輪用軸受装置である。しかしながら、転がり軸受装置10は、車輪用軸受装置以外の装置に適用されてもよい。例えば、プロペラ、タービン、紡績用の糸車等、車輪以外の回転体を支持するための回転体軸受装置に適用されてもよい。
【0079】
以上のとおり開示した実施形態及び変形例はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明は、図示する形態に限られず、本発明の範囲内において他の形態であってもよい。
【符号の説明】
【0080】
10 転がり軸受装置
11 内方部材
11a 外周面
11a1 被嵌合面
11b1 内側軌道
11b2 内側軌道
11c 溝
11c1 溝
11c2 凸面
11d 溝側面
11d1 溝側面
12 外方部材
12a 内周面
12b1 外側軌道
12b2 外側軌道
12c 端部
13 転動体
14 保持器
15 密封装置
16 密封装置
21 ハブ軸
21a ハブ軸
21b ハブ軸
22 内輪
23 フランジ
23a 側面
23b 第1屈曲面
23c 第2屈曲面
24 溝
30 スリンガ
30a スリンガ
30b スリンガ
31 筒部
31a 端部
31b 外周面
32 円環部
33 円筒部
34 カシメ部
34a カシメ部
34b カシメ部
35 スリット
36 テーパ面
37 凹部
40 シール部材
41 金属部材
42 シール本体
43 第1リップ
44 第2リップ
45 第3リップ
46 第4リップ
50 ゴムリング
60 取付装置
61 制御部
62 記憶部
63 駆動部
64 センサ
91 ハブ
92 フランジ
93 円筒面部
94 凹溝
95 スリンガ
96 側板部
97 嵌合用筒部
97a 一部
98 係合凸部
C1 中心線
S1 外部空間
S2 内部空間
VL1 仮想線
J1 治具
J1a 内周面
J1b 外周面
J2 治具
J2a 本体部
J2b 凸部
J91 治具
J92 治具
F1 押圧力
F2 (筒部31を塑性変形させるために必要な)力
F3 (筒部31をハブ軸21に圧入するために必要な)力
F4 押圧力
R1 領域
R2 領域
R3 領域
W1 最大幅
θ2 角度
θ1 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9