(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180270
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】車両用サスペンション
(51)【国際特許分類】
B60G 7/00 20060101AFI20221129BHJP
B60G 3/20 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B60G7/00
B60G3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021110392
(22)【出願日】2021-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】514267179
【氏名又は名称】芝端 康二
(72)【発明者】
【氏名】芝端 康二
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA25
3D301AA35
3D301CA47
3D301DA89
3D301DA92
3D301DB13
(57)【要約】
【課題】先願において、独立懸架式サスペンションの左右一対のアッパーリンクを捩じり剛性が低く曲げ剛性の高い連結部材で連結し、その連結部材の車体中心部分を車体外側より低い形状とすることにより車体の上下動および旋回ロール時の地面に対するタイヤのキャンバー角変化を低減することができることを示した。しかし上記連結部材には形状の自由度が無く他の車体構造ならびに部材との干渉を避けることが出来なかった。
【解決手段】本発明は、捩じり剛性が低く曲げ剛性の高い連結部材を車体左右に配置し、中央部を剛体で連結することにより車体中央部の剛体部分での形状に自由度を持たせた。これにより他の車体構造ならびに部材との干渉を避けることが出来りようになり適用できる車両の範囲を広げることができるようになった。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立懸架サスペンションにおいてアッパーリンクまたはアッパーアームを左右輪一対のリンクとする。捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い連結部材または連結機構を車体左右に一対配置する。左右一対のアッパーアームと左右一対の捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い連結部材または連結機構をそれぞれ連結する。左右一対の捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い連結部材または連結機構を車体中央部において剛体(剛性の高い部材)で接続する。
この上で、捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い連結部材または連結機構の捩じり方向の軸線を車両後方から見た場合に車体中央部が低いV(ブイ)字形状に配置することを特徴とする独立懸架サスペンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,車両用独立懸架サスペンション機構に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は接地性向上を目的としたサスペンション機構に関するもので、「特許文献1」に示す先願の改良に関する考案である。
【0003】
車両用独立懸架サスペンションにおいてタイヤのバウンド(バンプ)、リバウンドにより生じる車体に対するタイヤのキャンバー角変化はサスペンション設計により大きくも、小さくも設定可能である。(例えば「非特許文献1」)
【0004】
車体に対するキャンバー角変化ゼロの従来サスペンションの基準車高状態を
図11に示す。
図11のサスペンションの左右両輪が同時にバウンドした場合を
図12に示す。
図12ではタイヤの地面に対するキャンバー角変化(対地キャンバ)がゼロに保たれ44、45にはキャンバースラストが発生していないことを示している。
【0005】
これにより乗り心地と直進性は良好な特性を保つことができる。(例えば「非特許文献2」)しかし同一のサスペンションの旋回ロール時を
図13に示す。
図13では地面に対して大きなキャンバー角変化50が生じ、遠心力49に対抗するために必要な左右輪のコーナリングフォース47、46を低減するキャンバースラスト45、44が作用してしまう。
【0006】
図14には車体に対するキャンバー角変化が大きい場合の基準車高状態を示す。
図15には
図14のサスペンションの両輪が同時にバウンドした場合を示す。
図15ではキャンバー角変化50が生じ直進走行時にもキャンバースラスト45、44が発生し乗り心地、直進性に弊害が生じる。(例えば「非特許文献2」)
【0007】
ただし
図16に示す通り旋回ロール時の地面に対するキャンバー角はゼロに近くなり
図13のような左右輪のコーナリングフォース47、46を低減するキャンバースラストは生じない。
【0008】
このように従来の車両用サスペンションではバウンド、リバウンド時の地面に対するキャンバー角変化と旋回時の地面に対するキャンバー角変化を同時に低減することはできなかった。現在量産されている車両のキャンバー角変化特性は、両輪バウンド、リバウンド時の地面に対するキャンバー角変化ゼロ、と旋回時の地面に対するキャンバー角変化ゼロの中間に設定されている。(例えば「非特許文献3」)
【0009】
従って直進時でも両輪バウンド、リバウンド時には地面に対するキャンバー角変化とそれに伴うキャンバースラストが発生し乗り心地と直進性を阻害していた。また旋回時にもタイヤは地面に対してキャンバー角変化を生じ、コーナリングフォースを低減する方向のキャンバースラストが発生し旋回時の安定性を阻害する要因となっていた。
以下に先願である「特許文献1」に示す発明の内容を記す。
【0010】
「先願が解決しようとする課題」の説明
車両用サスペンションの特性として車体の上下動により左右輪が同時にストロークした場合(左右同相ストローク時)も、車体の旋回ロール時に左右輪の一方がバウンド、他方がリバウンドした場合(左右逆相ストローク時)にも地面に対するタイヤのキャンバー角変化が小さいことが望ましい。しかし従来の車両用サスペンションでは車体に対するキャンバー角変化は常に一定であるため上記特性を両立することはできなかった。
【0011】
このため現在量産されている車両のキャンバー角変化は、左右同相ストローク時の地面に対するキャンバー角変化ゼロ、と旋回時の地面に対するキャンバー角変化ゼロの中間に設定されている。従って、左右同相ストローク時に地面に対するキャンバー角変化が生じ左右逆相ストローク時にも地面に対するキャンバー角が生じる。これらのキャンバー角変化により発生するキャンバースラストが乗り心地、直進性、旋回時安定性を阻害する要因となっていた。
【0012】
「先願の課題を解決するための手段」の説明
図1の左右一対のサスペンションのアッパーリンク2と6を、捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い連結部材4で連結するとともに連結部材4の車体中央部を左右の車体両端部に比べ低く設定する。(
図5の連結部材4参照)これにより左右アッパーアーム6と2のタイヤ側取付点7と1は、左右同相ストローク時には
図6および
図7に示す線27を中心に、左右逆相ストローク時には
図8に示す線40と37回りに移動する。
【0013】
従って、左右アッパーアーム6と2のタイヤ側取付点7と1の移動軌跡をサスペンションのストロークが左右同相か左右逆相かにより変更が可能となる。これにより左右同相ストローク時と左右逆相ストローク時のキャンバー角変化特性を個別に設定することが可能となる。
【0014】
「先願による発明の効果」の説明
本発明により左右輪同相ストローク時にも旋回ロール時の左右逆相ストローク時にも地面に対するタイヤのキャンバー角変化を低減できるため、乗り心地および直進性の向上と同時に旋回時の安定性の向上が計られる。
「先願の発明を実施するための形態」の説明
【0015】
「先願に示す実施例1」
【0016】
図1に先願に示す実施例1の車両用サスペンションの俯瞰図を示す。
図1では先願発明をリヤサスペンションに適用した例を示す。フロントサスペンションに適用することも可能である。
【0017】
図1にてサスペンションの構成を左輪を主体に説明する。タイヤに作用する横力を主に支持する左フロントロアリンク12と左リヤロアリンク9、タイヤに作用する前後力を主に支持する左ラジアスロッド15によりロアリンク系が構成されている。
【0018】
タイヤのキャンバー角を支持する左右アッパーリンク6と2は図示の7と1の位置でタイヤ側にボールジョイントまたはゴムブッシュでピン結合されている。車体側には図示5と3の位置でボールジョイントまたはゴムブッシュでピン結合されている。
【0019】
図2に示すように左右一対のアッパーリンク6と2は、連結部材4により連結されている。先願に示す実施例1では連結部材4は開断面の形状とし捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い部材としている。またその形状は
図5のリヤビューに示す車体中心部分が車体左右両端部分に比べ低い形状としている。
【0020】
図3にはサイドビューでの各部品の配置を示す。
図4にはプランビューでの各部品の配置を示す。
図5は基準車高状態のリヤビューを示す。
【0021】
図6に左右同相バウンド時を示す。左右同相バウンド時にはタイヤのキャンバー角を定める左右のアッパーリンクのタイヤ側取付点7と1は、左右のアッパーリンクの車体側取付点5と3を結んだ線27のまわりに回転する。リヤビューでは真上方向図中29と28の矢印方向に移動する。従ってタイヤにはキャンバー角変化がほとんど生じない
【0022】
図7には左右同相リバウンド時を示す。左右同相バウンド時と同様に左右のアッパーリンクのタイヤ側取付点7と1は、左右のアッパーリンクの車体側取付点5と3を結んだ線27のまわりに回転する。これによりタイヤにはキャンバー角変化がほとんど生じない。
【0023】
図6、
図7により左右同相ストローク時に対地キャンバー角変化は発生せずキャンバースラストも生じないため乗り心地、直進性を阻害することはない
【0024】
図8に左旋回時の車体のリヤビューを示す。車体は図示38の右方向にロールしサスペンションには右輪バウンド、左輪リバウンドの左右逆相のストロークが発生している。
【0025】
左右逆相ストローク時にタイヤのキャンバー角を定める左右のアッパーリンクのタイヤ側取付点7と1は、
図8の線27ではなく、左アッパーリンクタイヤ側取付点7は線40まわりに、右アッパーリンクタイヤ側取付点1は線37まわりに回転する。この理由は左右逆相にストロークが発生しているため連結部材4の車体中心位置が移動しないためである。
【0026】
リヤビューでは左アッパーリンクタイヤ側取付点7は矢印39の方向へ、右アッパーリンクタイヤ側取付点1は矢印37の方向へ移動する。これにより、車体に対してタイヤにキャンバー角変化が生じ、地面に対するキャンバー角変化を低減することができ、左右輪コーナリングフォース47と46を阻害するキャンバースラストの発生は抑止され旋回時の安定性向上が計られる。
【0027】
「先願に示す実施例2」
図9と
図10に先願に示す実施例2を示す。先願の実施例1では
図5に示すように連結部材4を車両後方より見てV字型としていた。連結部材がV字型の場合に車室確保に弊害になる場合がある。先願に示す実施例2では連結部材をコの字を右へ倒した
図9の連結部材42の形状とすることにより車室確保を容易としたものである。
【0028】
図10に先願に示す実施例2の連結部材詳細図を示す。先願に示す実施例2では左右アッパーリンク43と41はL字形状としL字の下部で連結部材42と結合されている。連結部材42は
図10に示す開断面としている。先願に示す実施例2の
図10に示す形状は先願に示す実施例1の
図2に示す形状と同等の作用を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】特許「車両用サスペンション」平成31年1月30日出願、特願2019-26057 公報
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】「車両運動性能とシャシ―メカニズム」、著者 宇野高明、発行者 小林 謙一、発行所 株式会社グランプリ出版、ISBN978-4-87687-150-6 C-2053、P.87
【0031】
【非特許文献2】「自動車のサスペンション―構造・理論・評価―」、編者KYB株式会社、発行者 小林 謙一、発行所 株式会社グランプリ出版、ISBN978-4-87687-330-2 C-2053、P.123
【0032】
【非特許文献3】「自動車用タイヤの基礎と実際」、編著者 株式会社ブリジストン、発行所 学校法人東京電機大学、ISBN 978-4-501-41710-9 C3053、P.42
図2-4-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
以上述べた先願特許のサスペンションは優れた特性を有するものの、先願の特許の構造では左右を連結する
図2および
図10に示す部材の車体中央部はサスペンションのアッパーリンク(例えば
図1の2と6)より低い位置に配置されることが必須であった。これによりたとえば車軸中央部に駆動用のデファレンシャルギヤなどが配置された車両では先願の特許構造を持つサスペンションを搭載することは出来なかった。
【課題を解決するための手段】
【0034】
先願の実施例の
図2の連結部材4と
図10の連結部材42では車体中央部に捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い連結部材を配置していた。本発明では、捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い部材または機構を車体左右に配置し、これを車体中央部の剛体(剛性の高い部材)で連結する構造とする。
【発明の効果】
【0035】
左右のサスペンションリンクを連結する部材の中央部が剛体で構成されるため、中央部剛体の形状は自由に構成できる。これにより例えば後輪駆動車のデファレンシャルギヤとの干渉を回避して本発明のサスペンションの搭載が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】 先願「特許文献1の実施例1」の本発明車両用サスペンション俯瞰図
【
図2】 先願「特許文献1の実施例1」の連結部材詳細図
【
図3】 先願「特許文献1の実施例1」のサイドビュー
【
図4】 先願「特許文献1の実施例1」のプランビュー
【
図5】 先願「特許文献1の実施例1」のリヤビュー、基準車高状態
【
図6】 先願「特許文献1の実施例1」のリヤビュー、両輪バウンド時のキャンバー角特性説明図
【
図7】 先願「特許文献1の実施例1」のリヤビュー、両輪リバウンド時のキャンバー角特性説明図
【
図8】 先願「特許文献1の実施例1」のリヤビュー、左旋回時のキャンバー角特性説明図
【
図9】 先願「特許文献1の実施例2」のリヤビュー
【
図10】 先願「特許文献1の実施例2」の連結部材詳細図
【
図11】 従来の車両用サスペンション1のリヤビュー、基準車高状態
【
図12】 従来の車両用サスペンション1のリヤビュー、両輪バウンド時
【
図13】 従来の車両用サスペンション1のリヤビュー、左旋回時
【
図14】 従来の車両用サスペンション2のリヤビュー、基準車高状態
【
図15】 従来の車両用サスペンション2のリヤビュー、両輪バウンド時
【
図16】 従来の車両用サスペンション2のリヤビュー、左旋回時
【発明を実施するための形態】
【実施例0037】
図17に本発明実施例1の俯瞰図、
図18にリヤビューを示す。
図17の実施例1では、捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い左右連結部材53と51を車体左右に配置し、車体中央部の中央連結部材52の剛体(剛性の高い部材)で連結する構造としている。
【0038】
図18に捩じり方向の剛性が低く曲げ方向の剛性の高い左右連結部材53と51の車体中央部における捩じり回転軸中心Pを示す。これにより
図2および
図10に示す先願の構造と同等な回転中心となり先願と同一の機能を持つ。
これと同時に中央連結部材52は剛体(剛性の高い部材)であるため自由な形状に形成することが可能で他の車体部材との干渉を回避することができる。