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特開2022-180295信号注入装置およびインピーダンス測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022180295
(43)【公開日】2022-12-06
(54)【発明の名称】信号注入装置およびインピーダンス測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/18 20060101AFI20221129BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20221129BHJP
   G01R 27/02 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01R15/18 C
G01R19/00 B
G01R27/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038790
(22)【出願日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2021086778
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104787
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 伸司
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昭純
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 博之
(72)【発明者】
【氏名】池田 大桂
(72)【発明者】
【氏名】笠井 真
(72)【発明者】
【氏名】坂井 智春
(72)【発明者】
【氏名】月岡 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 浩一
【テーマコード(参考)】
2G025
2G028
2G035
【Fターム(参考)】
2G025AB02
2G025AC01
2G028BE04
2G028CG08
2G028CG20
2G028DH05
2G028FK01
2G028GL02
2G028GL07
2G028HN14
2G028LR08
2G035AB01
2G035AB03
2G035AD19
2G035AD26
2G035AD28
2G035AD55
2G035AD59
2G035AD65
(57)【要約】
【課題】直流電流が流れている注入対象ラインに交流信号を確実に注入可能な信号注入装置を提供する。
【解決手段】直流電流Ibが流れている注入対象ラインLが挿通される環状の磁性コア2と、注入対象ラインLに注入する交流信号S1を生成して注入対象ラインLに注入する信号注入部3とを備えた信号注入装置10であって、磁性コア2に挿通されている注入対象ラインLに直流電流Ibが流れることに起因して磁性コア2に発生する磁束Mbをキャンセルするための磁束Mdを発生させるキャンセル電流Icを磁性コア2に巻回された磁束キャンセル用巻線W1に供給する磁束キャンセル部4を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電流が流れている注入対象ラインが挿通される環状の磁性コアと、
前記注入対象ラインに注入する交流信号を生成して前記注入対象ラインに注入する信号注入部とを備えた信号注入装置であって、
前記磁性コアに挿通されている前記注入対象ラインに前記直流電流が流れることに起因して当該磁性コアに発生する第1の磁束をキャンセルするための第2の磁束を発生させるキャンセル電流を当該磁性コアに巻回された第1の巻線に供給する磁束キャンセル部を備えている信号注入装置。
【請求項2】
前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記磁気コアに設けられて当該磁気コアに発生する磁束に応じた電圧信号を出力する磁束検出回路と、前記磁束検出回路から出力された前記電圧信号を増幅する増幅回路と、前記増幅回路で増幅された前記電圧信号に含まれている前記交流信号に基づく電圧信号の出力を阻止すると共に前記直流電流に基づく電圧信号を通過させて前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を前記第1の巻線に供給し、かつ前記交流信号に基づいて前記キャンセル巻線に発生する電圧信号の前記増幅回路への入力を阻止するフィルタ回路とを備えて構成され、
前記信号注入部は、前記磁性コアに巻回された第2の巻線を備え、前記第2の巻線に前記交流信号を供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する請求項1記載の信号注入装置。
【請求項3】
前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記磁気コアに設けられて当該磁気コアに発生する磁束に応じた電圧信号を出力する磁束検出回路と、前記磁束検出回路から出力された前記電圧信号に含まれている前記交流信号に基づく電圧信号の出力を阻止すると共に前記直流電流に基づく電圧信号を通過させるフィルタ回路と、前記フィルタ回路を通過した前記電圧信号と前記交流信号とを加算して加算信号を出力する加算回路と、前記加算回路から出力された加算信号を増幅すると共に前記第1の巻線に供給して、前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を当該第1の巻線に供給すると共に前記交流信号を当該第1の巻線に供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する増幅回路とを備えている請求項1記載の信号注入装置。
【請求項4】
前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記磁気コアに設けられて当該磁気コアに発生する磁束に応じた電圧信号を出力する磁束検出回路と、前記磁束検出回路から出力された前記電圧信号に含まれている前記交流信号に基づく電圧信号の出力を阻止すると共に前記直流電流に基づく電圧信号を通過させるフィルタ回路と、前記フィルタ回路を通過した前記電圧信号を増幅すると共に前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を前記第1の巻線の一端に供給する増幅回路とを備え、
前記信号注入部は、前記交流信号を増幅すると共に当該増幅した交流信号を前記第1の巻線の他端に供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する増幅回路を備えている請求項1記載の信号注入装置。
【請求項5】
前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記磁気コアに設けられて当該磁気コアに発生する磁束に応じた電圧信号を出力する磁束検出回路と、前記磁束検出回路から出力された前記電圧信号に含まれている前記交流信号に基づく電圧信号の出力を阻止すると共に前記直流電流に基づく電圧信号を通過させるフィルタ回路と、前記フィルタ回路を通過した前記電圧信号を増幅すると共に前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を前記第1の巻線に供給する電流ドライバとを備え、
前記信号注入部は、前記磁性コアに巻回された第2の巻線を備え、前記第2の巻線に前記交流信号を供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する請求項1記載の信号注入装置。
【請求項6】
前記磁束検出回路は、ホール素子、フラックスゲートセンサ、およびGMR素子のいずれかを前記磁性コアに配設して構成されている請求項2から5のいずれかに記載の信号注入装置。
【請求項7】
前記フィルタ回路は、リアクトルで形成されたインダクターを含んだローパスフィルタで構成されている請求項2~6のいずれかに記載の信号注入装置。
【請求項8】
前記磁束キャンセル部は、前記磁性コアに発生する前記交流信号の2倍の周波数に基づく磁束に応じた電圧信号の信号レベルを低下させる前記キャンセル電流を前記第1の巻線に供給する請求項1記載の信号注入装置。
【請求項9】
前記信号注入部は、前記注入対象ラインに注入する前記交流信号と、当該交流信号の2倍の周波数の同期検波用の基準信号とを生成し、
前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記第1の巻線に発生する前記交流信号の2倍の周波数の電圧信号を前記基準信号で同期検波する同期検波回路と、前記同期検波回路の出力信号に含まれている直流信号を抽出するフィルタ回路と、前記フィルタ回路から出力された前記直流信号と前記交流信号とを加算する加算回路と、前記加算回路の出力信号を増幅すると共に前記第1の巻線に供給して、前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を前記第1の巻線に供給すると共に前記交流信号を当該第1の巻線に供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する増幅回路とを備えている請求項1または8記載の信号注入装置。
【請求項10】
前記信号生成部は、前記交流信号の周波数をスイープさせる請求項1から9のいずれかに記載の信号注入装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の信号注入装置を備えて、前記注入対象ラインに直列接続されている測定対象のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置であって、
前記注入対象ラインに前記交流信号を注入したときに、当該注入対象ラインを流れる前記交流信号の電流値と、前記測定対象に生じる電圧値とに基づいて当該測定対象のインピーダンスを測定する処理部を備えているインピーダンス測定装置。
【請求項12】
前記注入対象ラインを流れる前記交流信号の電流を当該注入対象ラインに対して非接触で検出して検出信号を前記処理部に出力する非接触型電流センサと、
前記測定対象の両端電圧を検出する電圧検出部とを備え、
電圧検出部は、前記測定対象の両端に接触して両端電圧信号を検出する電圧検出回路と、当該検出された両端電圧信号を前記測定対象から絶縁した状態で前記処理部に出力する絶縁回路とを備え、
前記処理部は、前記検出信号を前記交流信号の前記電流値として入力すると共に前記両端電圧信号を前記測定対象に生じる前記電圧値として入力して前記測定対象の前記インピーダンスを測定する請求項11記載のインピーダンス測定装置。
【請求項13】
前記処理部は、前記交流信号を入力すると共に前記検出信号を直交検波して当該交流電流の同相成分および直交成分を生成する第1直交検波回路と、前記交流信号を入力すると共に前記両端電圧信号を直交検波して交流電圧の同相成分および直交成分を生成する第2直交検波回路と、
前記第1直交検波回路から出力される前記交流電流の同相成分および直交成分と、前記第2直交検波回路から出力される前記交流電圧の同相成分および直交成分とに基づいて前記測定対象の前記インピーダンスを演算する演算回路とを備えている請求項12記載のインピーダンス測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体で形成されている注入対象ラインに交流信号を非接触で注入可能な信号注入装置に関し、特に直流大電流が流れている電力供給用の注入対象ラインに交流信号を注入するのに適した信号注入装置に関するものである。また、そのような信号注入装置を備えて、測定対象に交流信号を流した状態において、その測定対象のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の信号注入装置として、下記の特許文献に開示された信号注入抽出装置が知られている。この信号注入抽出装置では、第1周波数の電流が流れる導体(注入対象ライン)の外周に配置される強磁性体(磁気コア)と、強磁性体に配置されて、第1周波数と異なる第2周波数の信号電流(交流信号)を導体に注入する第1巻線(信号注入巻線)と、強磁性体に配置されて第1周波数の電流が流れる第2巻線(キャンセル巻線)と、第2巻線に接続される増幅回路とを備えて構成されている。また、この信号注入抽出装置では、増幅回路は、第1周波数の電流を通過させ、第2周波数の信号電流を遮断させるフィルタ部と、フィルタ部に直列に配置される増幅部と、フィルタ部および増幅部に並列に配置されるインピーダンス素子とを備えて構成されている。
【0003】
この信号注入抽出装置では、第2周波数としての1.7MHz以上50MHz以下、特に、1.7MHz以上30MHz以下の信号電流を強磁性体に巻回されている第1巻線に供給する。この際に、第1周波数としての50Hzや60Hzの大電流である商用交流が導体に流れている状態では、商用交流に起因する大きな磁束が強磁性体に発生して強磁性体が磁気飽和を起こすことがあり、その際には、信号電流を注入することが困難になる。このため、この磁化飽和を抑制するために、この信号注入抽出装置では、強磁性体に巻回されている第2巻線にキャンセル電流を流すことで、商用交流によって強磁性体に生じる磁束を打ち消している。
【0004】
この場合、第1巻線に信号電流を注入しつつ第2巻線にキャンセル電流を流している状態では、信号電流の供給に起因する磁束と、キャンセル電流が流れることに起因する磁束の双方が強磁性体に発生する。このため、この信号注入抽出装置では、第2巻線が両磁束に基づく誘導電流を検出し、フィルタ部が、第2巻線から出力された誘導電流のうちの信号電流に起因する誘導電流を遮断しつつ、商用交流に起因する誘導電流を通過させる。
【0005】
そして、増幅回路が、フィルタ部から出力された商用交流に起因する誘導電流を増幅して、商用電流により生じる磁界を打ち消す方向にキャンセル電流をインピーダンス素子を介して第2巻線に供給する。これにより、導体に印加される第1周波数の商用交流による磁束を効率よく打ち消す反面、第2周波数の信号電流による磁束をほとんど打ち消さない、或いは全く打ち消さない。そのため、この信号注入抽出装置では、第1周波数の商用交流が流れる導体に対して、第2周波数の信号電流をより確実に注入することができることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4114615号公報(第3-7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記の信号注入抽出装置には、以下のような問題点が存在する。具体的には、例えば、燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)などにおいては、直流大電流が流れるパワーライン(注入対象ライン)に、複数の電池セルを直列接続して構成される電池(バッテリー)が接続されており、このパワーラインには、電池からの直流大電流が流れている。このような状態において、電池全体としてのインピーダンスや、各電池セルのインピーダンスを測定したいとの要望が存在する。そして、そのインピーダンスを測定する場合、インピーダンス測定用の交流信号(例えば、100Hz~10MHz、特に1KHz~10KHz)を電池に供給する必要がある。この際に、電池に負荷が接続された状態で電池から負荷に直流大電流が流れている場合、上記の信号注入抽出装置を用いて測定用の交流信号をパワーラインに注入しようとしても、この信号注入抽出装置では、商用交流が強磁性体に流れることに起因する磁束を打ち消すことができるものの、直流電流が流れることに起因して強磁性体に発生している磁束をキャンセルすることはできない。このため、強磁性体にパワーラインを挿通させた場合には、直流大電流が流れることに起因した磁束で強磁性体が磁気飽和してしまい、交流信号をパワーラインに注入することができないという問題点がある。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、直流電流が流れている注入対象ラインに交流信号を確実に注入可能な信号注入装置、およびそのような信号注入装置を備えて測定対象のインピーダンスを測定可能なインピーダンス測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、請求項1記載の信号注入装置は、直流電流が流れている注入対象ラインが挿通される環状の磁性コアと、前記注入対象ラインに注入する交流信号を生成して前記注入対象ラインに注入する信号注入部とを備えた信号注入装置であって、前記磁性コアに挿通されている前記注入対象ラインに前記直流電流が流れることに起因して当該磁性コアに発生する第1の磁束をキャンセルするための第2の磁束を発生させるキャンセル電流を当該磁性コアに巻回された第1の巻線に供給する磁束キャンセル部を備えている。
【0010】
また、請求項2記載の信号注入装置は、請求項1記載の信号注入装置において、前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記磁気コアに設けられて当該磁気コアに発生する磁束に応じた電圧信号を出力する磁束検出回路と、前記磁束検出回路から出力された前記電圧信号を増幅する増幅回路と、前記増幅回路で増幅された前記電圧信号に含まれている前記交流信号に基づく電圧信号の出力を阻止すると共に前記直流電流に基づく電圧信号を通過させて前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を前記第1の巻線に供給し、かつ前記交流信号に基づいて前記キャンセル巻線に発生する電圧信号の前記増幅回路への入力を阻止するフィルタ回路とを備えて構成され、前記信号注入部は、前記磁性コアに巻回された第2の巻線を備え、前記第2の巻線に前記交流信号を供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する。
【0011】
また、請求項3記載の信号注入装置は、請求項1記載の信号注入装置において、前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記磁気コアに設けられて当該磁気コアに発生する磁束に応じた電圧信号を出力する磁束検出回路と、前記磁束検出回路から出力された前記電圧信号に含まれている前記交流信号に基づく電圧信号の出力を阻止すると共に前記直流電流に基づく電圧信号を通過させるフィルタ回路と、前記フィルタ回路を通過した前記電圧信号と前記交流信号とを加算して加算信号を出力する加算回路と、前記加算回路から出力された加算信号を増幅すると共に前記第1の巻線に供給して、前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を当該第1の巻線に供給すると共に前記交流信号を当該第1の巻線に供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する増幅回路とを備えている。
【0012】
また、請求項4記載の信号注入装置は、請求項1記載の信号注入装置において、前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記磁気コアに設けられて当該磁気コアに発生する磁束に応じた電圧信号を出力する磁束検出回路と、前記磁束検出回路から出力された前記電圧信号に含まれている前記交流信号に基づく電圧信号の出力を阻止すると共に前記直流電流に基づく電圧信号を通過させるフィルタ回路と、前記フィルタ回路を通過した前記電圧信号を増幅すると共に前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を前記第1の巻線の一端に供給する増幅回路とを備え、前記信号注入部は、前記交流信号を増幅すると共に当該増幅した交流信号を前記第1の巻線の他端に供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する増幅回路を備えている。
【0013】
また、請求項5記載の信号注入装置は、請求項1記載の信号注入装置において、前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記磁気コアに設けられて当該磁気コアに発生する磁束に応じた電圧信号を出力する磁束検出回路と、前記磁束検出回路から出力された前記電圧信号に含まれている前記交流信号に基づく電圧信号の出力を阻止すると共に前記直流電流に基づく電圧信号を通過させるフィルタ回路と、前記フィルタ回路を通過した前記電圧信号を増幅すると共に前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を前記第1の巻線に供給する電流ドライバとを備え、前記信号注入部は、前記磁性コアに巻回された第2の巻線を備え、前記第2の巻線に前記交流信号を供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する。
【0014】
また、請求項6記載の信号注入装置は、請求項2から5のいずれかに記載の信号注入装置において、前記磁束検出回路は、ホール素子、フラックスゲートセンサ、およびGMR素子のいずれかを前記磁性コアに配設して構成されている。
【0015】
また、請求項7記載の信号注入装置は、請求項2~6のいずれかに記載の信号注入装置において、前記フィルタ回路は、リアクトルで形成されたインダクターを含んだローパスフィルタで構成されている。
【0016】
また、請求項8記載の信号注入装置は、請求項1記載の信号注入装置において、前記磁束キャンセル部は、前記磁性コアに発生する前記交流信号の2倍の周波数に基づく磁束に応じた電圧信号の信号レベルを低下させる前記キャンセル電流を前記第1の巻線に供給する。
【0017】
また、請求項9記載の信号注入装置は、請求項1または8記載の信号注入装置において、前記信号注入部は、前記注入対象ラインに注入する前記交流信号と、当該交流信号の2倍の周波数の同期検波用の基準信号とを生成し、前記磁束キャンセル部は、前記磁気コアに巻回されると共に当該磁気コアに発生する前記第1の磁束をキャンセルするための第1の巻線と、前記第1の巻線に発生する前記交流信号の2倍の周波数の電圧信号を前記基準信号で同期検波する同期検波回路と、前記同期検波回路の出力信号に含まれている直流信号を抽出するフィルタ回路と、前記フィルタ回路から出力された前記直流信号と前記交流信号とを加算する加算回路と、前記加算回路の出力信号を増幅すると共に前記第1の巻線に供給して、前記第1の磁束をキャンセルする向きで前記キャンセル電流を前記第1の巻線に供給すると共に前記交流信号を当該第1の巻線に供給して当該交流信号を前記注入対象ラインに注入する増幅回路とを備えている。
【0018】
また、請求項10記載の信号注入装置は、請求項1から9のいずれかに記載の信号注入装置において、前記信号生成部は、前記交流信号の周波数をスイープさせる。
【0019】
また請求項11記載のインピーダンス測定装置は、請求項1から10のいずれかに記載の信号注入装置を備えて、前記注入対象ラインに直列接続されている測定対象のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置であって、前記注入対象ラインに前記交流信号を注入したときに、当該注入対象ラインを流れる前記交流信号の電流値と、前記測定対象に生じる電圧値とに基づいて当該測定対象のインピーダンスを測定する処理部を備えている。
【0020】
また、請求項12記載のインピーダンス測定装置は、請求項11記載のインピーダンス測定装置において、前記注入対象ラインを流れる前記交流信号の電流を当該注入対象ラインに対して非接触で検出して検出信号を前記処理部に出力する非接触型電流センサと、前記測定対象の両端電圧を検出する電圧検出部とを備え、電圧検出部は、前記測定対象の両端に接触して両端電圧信号を検出する電圧検出回路と、当該検出された両端電圧信号を前記測定対象から絶縁した状態で前記処理部に出力する絶縁回路とを備え、前記処理部は、前記検出信号を前記交流信号の前記電流値として入力すると共に前記両端電圧信号を前記測定対象に生じる前記電圧値として入力して前記測定対象の前記インピーダンスを測定する。
【0021】
また、請求項13記載のインピーダンス測定装置は、請求項12記載のインピーダンス測定装置において、前記処理部は、前記交流信号を入力すると共に前記検出信号を直交検波して当該交流電流の同相成分および直交成分を生成する第1直交検波回路と、前記交流信号を入力すると共に前記両端電圧信号を直交検波して交流電圧の同相成分および直交成分を生成する第2直交検波回路と、前記第1直交検波回路から出力される前記交流電流の同相成分および直交成分と、前記第2直交検波回路から出力される前記交流電圧の同相成分および直交成分とに基づいて前記測定対象の前記インピーダンスを演算する演算回路とを備えている。
【発明の効果】
【0022】
請求項1記載の信号注入装置では、磁束キャンセル部が、第2の磁束を磁性コアに発生させるキャンセル電流を磁性コアに巻回された第1の巻線に供給することで、磁性コアに挿通されている注入対象ラインに直流電流が流れることに起因して磁性コアに発生する第1の磁束をキャンセルする。したがって、この信号注入装置によれば、大電流の直流電流が注入対象ラインに流れることに起因する磁性コアの磁気飽和を回避することができる結果、第2の巻線に交流信号を供給することで、磁性コアにおいて交流信号に基づく磁束を確実に発生させて、直流電流が流れている注入対象ラインに交流信号を確実にしかも効率良く注入することができる。
【0023】
また、請求項2記載の信号注入装置では、別個独立した第1の巻線および第2の巻線を備え、磁束キャンセル部のフィルタ回路が、増幅回路によって増幅された電圧信号に含まれている交流信号に基づく電圧信号の出力を阻止すると共に直流電流に基づく電圧信号を通過させて第1の磁束をキャンセルする向きでキャンセル電流を第1の巻線に供給し、かつ交流信号に基づいて第1の巻線に発生する電圧信号の増幅回路への入力を阻止する。したがって、この信号注入装置によれば、大電流の直流電流が注入対象ラインに流れることに起因する磁性コアの磁気飽和を回避することができる結果、第2の巻線に交流信号を供給することにより、磁性コアにおいて交流信号に基づく磁束を確実に発生させて、注入対象ラインに交流信号を確実にしかも効率良く注入することができる。
【0024】
また、請求項3記載の信号注入装置では、増幅回路が、電圧信号と交流信号とが加算回路によって加算された加算信号を増幅して第1の巻線に供給することにより、キャンセル電流と交流信号に基づく交流電流とが第1の巻線において加算されつつ、磁性コアに第2の磁束および交流信号に基づく磁束を発生させる。したがって、この信号注入装置によれば、大電流の直流電流が注入対象ラインに流れることに起因する磁性コアの磁気飽和を回避することができる結果、第1の巻線に交流信号(加算信号)を供給することにより、磁性コアにおいて交流信号に基づく磁束を確実に発生させて、注入対象ラインに交流信号を確実にしかも効率良く注入することができる。また、この信号注入装置によれば、1つの第1の巻線を用いて、キャンセル用巻線の機能と信号注入用巻線の機能とを実現させることができるため、信号注入装置を安価に構成することができる。
【0025】
また、請求項4記載の信号注入装置では、増幅回路が第1の巻線の一端にキャンセル電流を供給し、信号注入部の増幅回路が増幅した交流信号を第1の巻線の他端に供給することにより、キャンセル電流と交流信号に基づく交流電流とが第1の巻線において加算されつつ、磁性コアに第2の磁束および交流信号に基づく磁束を発生させる。したがって、この信号注入装置によれば、大電流の直流電流が注入対象ラインに流れることに起因する磁性コアの磁気飽和を回避することができる結果、第1の巻線に交流信号を供給することにより、磁性コアにおいて交流信号に基づく磁束を確実に発生させて、注入対象ラインに交流信号を確実にしかも効率良く注入することができる。また、この信号注入装置によれば、1つの第1の巻線を用いて、キャンセル用巻線の機能と信号注入用巻線の機能とを実現させることができるため、信号注入装置を安価に構成することができる。
【0026】
また、請求項5記載の信号注入装置では、電流ドライバが高い出力インピーダンスの状態で第1の巻線にキャンセル電流を供給する。この場合、信号注入部が第2の巻線に交流信号を供給することで磁性コアに交流信号に基づく磁束が発生する。この際に、発生した磁束に基づく交流電流が第1の巻線に流れようとするが、電流ドライバの出力インピーダンスが高いため、その磁束に基づく交流電流は、第1の巻線から電流ドライバの出力部に向かう向きでは流れない。このため、電流ドライバは、磁性コアに発生している交流信号に基づく磁束をキャンセルさせるようとするキャンセル電流を流すことなく、磁束検出回路によって検出される第1の磁束の大きさがゼロになるようなキャンセル電流を生成して第1の巻線に供給する。したがって、この信号注入装置によれば、大電流の直流電流が注入対象ラインに流れることに起因する磁性コアの磁気飽和を回避することができる結果、第2の巻線に交流信号を供給することにより、磁性コアにおいて交流信号に基づく磁束を確実に発生させて、注入対象ラインに交流信号を確実にしかも効率良く注入することができる。
【0027】
また、請求項6記載の信号注入装置によれば、ホール素子、フラックスゲートセンサ、およびGMR素子のいずれかを磁性コアに配設して磁束検出回路を構成したことにより、簡易な構成でありながら第1の磁束を確実に検出することができる。
【0028】
また、請求項7記載の信号注入装置によれば、インダクタンスの大きいリアクトルで形成されたインダクターを含んだローパスフィルタでフィルタ回路を構成したことにより、カットオフ周波数をできる限り周波数0Hzに近づけることができる結果、直流電流に基づく電圧信号だけを通過させることができると共に安価に構成することができる。特に、交流信号に基づいて第1の巻線に発生する電圧信号の増幅回路への入力を阻止する機能を有するフィルタ回路を備えた信号注入装置によれば、交流信号の第2の巻線への供給によって磁性コアに発生した磁束に基づいて第1の巻線に発生する電圧信号の増幅回路への入力がフィルタ回路によって阻止されるため、磁性コア発生させた磁束に基づいて注入対象ラインに注入する交流信号のレベル低下を回避することができる結果、注入対象ラインに交流信号を確実かつ効率良く注入することができる。
【0029】
また、請求項8記載の信号注入装置では、磁束キャンセル部が、磁性コアに発生する交流信号の2倍の周波数に基づく磁束に応じた電圧信号の信号レベルを低下させるキャンセル電流を第1の巻線に供給することにより、磁性コアの磁気飽和を直接的に検出することができる結果、磁性コアにおいて磁気飽和を発生させることなく、交流信号に基づく磁束をより確実に発生させて、注入対象ラインに交流信号をより確実にしかも効率良く注入することができる。
【0030】
また、請求項9記載の信号注入装置では、同期検波回路が、第1の巻線に発生する交流信号の2倍の周波数の電圧信号を基準信号で同期検波し、加算回路が、同期検波回路の出力信号に含まれている直流信号と交流信号とを加算し、増幅回路が、加算回路から出力された加算信号を増幅すると共に第1の巻線に供給して、第1の磁束をキャンセルする向きでキャンセル電流を第1の巻線に供給することにより、注入対象ラインに注入する大電流の直流電流が注入対象ラインに流れることに起因する磁性コアの磁気飽和を回避することができる結果、第1の巻線に交流信号を供給することにより、磁性コアにおいて交流信号に基づく磁束を確実に発生させて、注入対象ラインに交流信号を確実にしかも効率良く注入することができる。また、この信号注入装置では、磁気飽和状態の磁性コアに発生する交流信号の歪信号である交流信号の周波数の2倍の周波数の高調波信号の大きさを検出してその歪信号を低減させるように、磁束キャンセル部が全体としてフィードバック制御される。このため、この信号注入装置によれば、磁性コアの磁気飽和を直接的に検出することができる結果、磁性コアにおいて磁気飽和を発生させることなく、交流信号に基づく磁束をより確実に発生させて、注入対象ラインに交流信号をより確実にしかも効率良く注入することができる。また、この信号注入装置によれば、1つの第1の巻線を用いて、キャンセル用巻線の機能と信号注入用巻線の機能とを実現させることができるため、信号注入装置を安価に構成することができる。
【0031】
また、請求項10記載の信号注入装置では、信号注入部が交流信号の周波数をスイープさせることにより、例えば、信号注入装置をインピーダンス測定装置に組み込んだ場合に、測定対象に正弦波信号である交流信号を供給してその周波数応答を測定可能なFRA として構成することができるため、高精度なインピーダンス測定を行うことができる。
【0032】
また、請求項11記載のインピーダンス測定装置では、処理部が、注入対象ラインに直列接続されている測定対象のインピーダンスを測定する際に、注入対象ラインに交流信号を注入したときに、その注入対象ラインを流れる交流信号の電流値と、測定対象に生じる電圧値とに基づいて測定対象のインピーダンスを測定することにより、磁性コアにおいて交流信号に基づく磁束をより確実に発生させて、注入対象ラインに交流信号をより確実にしかも効率良く注入することができる結果、高い精度で測定対象のインピーダンスを測定することができる。
【0033】
また、請求項12記載のインピーダンス測定装置では、非接触型電流センサが、注入対象ラインを流れる交流電流の電流を注入対象ラインに対して非接触で検出して検出信号を処理部に出力し、電圧検出部が、測定対象の両端に接触して検出した両端電圧信号を測定対象から絶縁した状態で処理部に出力することにより、測定対象に非常に高い電圧が生じていたとしても、また、負荷やインピーダンス測定装置の周囲にスイッチングノイズなどのノイズが存在する場合であっても、測定対象に交流信号の注入に基づく電流が流れて測定対象内に発生する微小の交流電圧を精度良く検出することができる。したがって、このインピーダンス測定装置によれば、測定対象のインピーダンスを精度良く測定することができる。また、このインピーダンス測定装置によれば、非接触型電流センサを用いたことにより、注入対象ラインを切断することなく、非接触で測定対象のインピーダンスを測定することができる。
【0034】
また、請求項13記載のインピーダンス測定装置では、処理部の演算回路が、第1の直交検波回路から出力される交流電流の同相成分および直交成分と、第2の直交検波回路から出力される交流電圧の同相成分および直交成分とに基づいて測定対象のインピーダンスを演算することにより、注入対象ラインに注入された交流信号の信号レベルが小さいときであっても、雑音レベル(N)に対する信号レベル(S)の比率(S/N)を高めて精度良くインピーダンスを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】インピーダンス測定装置1の構成を示す構成図である。
図2】LPF43の周波数特性を示す特性図(磁束キャンセル部4による磁性コア2に発生する磁束Mbをキャンセルする能力を示す特性図)である。
図3】磁束キャンセル部4Aの構成を示す構成図である。
図4】磁束キャンセル部4Bの構成を示す構成図である。
図5】磁束キャンセル部4Cの構成を示す構成図である。
図6】信号注入部3および磁束キャンセル部4Dの構成を示す構成図である。
図7】LPF43の他の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、信号注入装置およびインピーダンス測定装置の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0037】
図1に示すインピーダンス測定装置1は、「インピーダンス測定装置」の一例であって、例えば、負荷Loadが接続されている状態の測定対象としての電池(バッテリー)Batの内部インピーダンスZbを測定可能に構成されている。また、インピーダンス測定装置1は、電池Batに正弦波信号である後述の交流信号S1を供給してその周波数応答を測定可能なFRA (Frequency Response Analyzer)として構成されて、高精度なインピーダンス測定が可能となっている。
【0038】
例えば、燃料電池車において、モータなどの大電流を消費する負荷Loadと、複数の電池セルを直列接続して構成される電池Bat(同図では、全体として1つの電池で図示している)とが、例えば導体である芯線が絶縁被覆された絶縁被覆ケーブル、エナメル線および絶縁被覆されていない電線などの導体で形成されたパワーライン(以下、「注入対象ラインL」ともいう)で接続されており、この注入対象ラインLには、電池Batから負荷Loadに直流大電流が流れている。このような接続状態において電池Batの内部インピーダンスZbを測定するためには、インピーダンス測定用の交流信号S1(例えば、100Hz~10MHz、特に1KHz~10KHz)を電池Batに供給する必要がある。この際に、このインピーダンス測定装置1では、電池Batから負荷Loadに直流大電流が流れている注入対象ラインLに、後述する注入抽出装置10を用いて交流信号S1を注入可能に構成されている。
【0039】
具体的には、インピーダンス測定装置1は、磁性コア2、信号注入部3、磁束キャンセル部4、非接触型電流センサ5、電圧検出部6、処理部7および出力部8を備えて構成されている。この場合、磁性コア2、信号注入部3および磁束キャンセル部4によって「信号注入装置10」が構成される。
【0040】
磁性コア2は、例えば、フェライト、パーマロイ、パーメンジュール、ケイ素鋼板および純鉄などの材料を用いて、直流電流Ibが流れる注入対象ラインLが挿通可能に、円形状、楕円形状、矩形状および多角形状状などの環状に形成されている。また、磁性コア2は、磁束キャンセル用のキャンセル電流としての負帰還の直流電流(以下、「キャンセル電流Ic」ともいう)を供給するための第1の巻線としての磁束キャンセル用巻線W1と、交流信号S1を注入するための第2の巻線としての信号注入用巻線W2とが巻回されると共にそのギャップG内にホール素子41が配設されて構成されている。この場合、ギャップGを設けることで、磁性コア2の磁気飽和がし難くなっている。なお、磁性コア2については、分割可能なクランプ型の構成を採用することもできる。また、磁束キャンセル用巻線W1および信号注入用巻線W2の一端に信号が注入されると共に他端が後述する基準電位(フローティンググランド)に接続されている。
【0041】
信号注入部3は、測定用の交流信号S1を生成すると共に注入対象ラインLに対して(注入対象ラインLの芯線(導線)に対して)交流信号S1を非接触で注入可能に構成されている。具体的には、信号注入部3は、電池Batの内部インピーダンスZbを測定するための正弦波信号である交流信号S1を生成すると共に出力段に配置されたD級増幅回路で交流信号S1をD級増幅して出力可能に構成された信号生成回路31と、上記した信号注入用巻線W2とを備えて構成されている。この信号注入部3では、信号生成回路31が、注入対象ラインLに注入する交流信号S1の信号レベルおよび周波数を処理部7から出力される制御信号Sc1によって制御されて周波数をスイープ(例えば、1KHz~10KHz)させつつ、生成した交流信号S1を処理部7に出力すると共にD級増幅して信号注入用巻線W2に供給する。この場合、信号注入用巻線W2に交流信号S1をトランス方式(信号注入用巻線W2が複数ターンの一次巻線で注入対象ラインLが1ターンの二次巻線)で供給する(つまり、信号注入用巻線W2の両端に交流信号S1を印加する)ことで交流信号S1に基づく交流電流Iacが信号注入用巻線W2を流れて、交流信号S1に基づく磁束Mcが図1に示す向きで磁性コア2に発生すると共にその磁束Mcの大きさに応じた電流値の交流信号である注入電流Iiがノーマルモード信号として注入対象ラインLに供給される(注入される)。なお、信号生成回路31による周波数のスイープは必須ではなく、スイープが不要の場合には、固定周波数の交流信号S1を生成する構成を信号生成回路31に適用することもできる。
【0042】
磁束キャンセル部4は、注入対象ラインLに直流電流Ibが流れた際に、磁性コア2に図1に示す向きで発生する第1の磁束としての磁束Mbを、ゼロフラックス法により、磁束Mbとは逆向きの第2の磁束としての磁束Mdを磁性コア2に発生させてキャンセル(相殺)可能に構成されている。具体的には、磁束キャンセル部4は、上記したギャップGに配設された磁束検出回路の一例としてのホール素子41、電圧ドライバ42、ローパスフィルタ43(以下、「LPF43」ともいう)および信号注入用巻線W2を備えて構成されている。
【0043】
ホール素子41は、「磁束検出回路」の一例であって、磁性コア2に設けられて磁気コア2に発生する磁束に応じた電圧信号S2を出力する。この場合、ホール素子41から検出信号として電流信号が出力される構成であってもよく、そのような電流信号によって電圧信号に変換された信号も「電圧信号S2」に含まれる。なお、「磁束検出回路」は、ホール素子に限らず、フラックスゲートセンサや磁気抵抗素子(MR:Magneto Resistive)などを磁性コア2に配設して構成することもできる。また、磁気抵抗素子として、GMR素子(Giant Magneto Resistive )、半導体磁気抵抗素子(SMR )、強磁性体薄膜材料を用いた異方性磁気抵抗素子(AMR:Anisotropic Magneto Resistive)、巨大磁気抵抗素子(GMR:Giant Magneto Resistive)およびトンネル磁気抵抗素子(TMR:Tunnel Magneto Resistive )を用いることができる。
【0044】
電圧ドライバ42は、全体として負帰還増幅回路として機能する増幅回路の一例であって、電圧信号S2を増幅して低インピーダンスでLPF43に出力する。LPF43は、フィルタ回路の一例であって、電圧ドライバ42で増幅された電圧信号S2に含まれている交流信号S1に基づく電圧信号S2の出力を阻止すると共に直流電流Ibに基づく電圧信号S2を通過させて磁束Mbをキャンセルする向きでキャンセル電流Icを磁束キャンセル用巻線W1に供給し、かつ交流信号S1の信号注入用巻線W2への供給によって磁性コア2に発生した磁束Mcに基づいて磁束キャンセル用巻線W1に発生する電圧信号(交流信号に基づいてキャンセル巻線に発生する電圧信号)の電圧ドライバ42への入力を阻止する。具体的には、LPF43は、図1に示すように、例えば、電圧ドライバ42側の入力端Tiと基準電位との間にコンデンサC1が接続されると共に入力端Tiと磁束キャンセル用巻線W1側の出力端Toとの間にインダクターL1が接続されたL型のLCフィルタで構成されて、図2に示すように、そのカットオフ周波数が交流信号S1の周波数(周波数スイープさせているときには、交流信号S1の最低周波数)よりも低い周波数となる周波数特性を有しており、交流信号S1に基づく電圧信号S2の出力を阻止すると共に直流電流Ibに基づく電圧信号S2を通過させる。
【0045】
この場合、直流電流Ibに基づく電圧信号S2だけを通過させるためには、カットオフ周波数はできる限り周波数0Hzに近いのが好ましい。したがって、この磁束キャンセル部4では、例えば、インダクタンスの大きいリアクトルで形成されたインダクターを含んだLPF43でフィルタ回路が構成されている。このため、LPF43は、カットオフ周波数ができる限り周波数0Hzに近づけられており、交流信号S1に基づく電圧信号S2の出力を阻止すると共に直流電流Ibに基づく電圧信号S2だけを通過させて磁束Mbをキャンセルする向きでキャンセル電流Icを磁束キャンセル用巻線W1に供給することができ、しかも安価に構成されている。また、交流信号S1の信号注入用巻線W2への供給によって磁性コア2に発生した磁束Mcに基づいて磁束キャンセル用巻線W1に発生する電圧信号の電圧ドライバ42への入力が阻止されるため、磁性コア2に発生させた磁束Mcに基づいて注入対象ラインLに注入する注入電流Ii(交流信号S1)のレベル低下が回避される。なお、LPF43は、図1に示すL型のLCフィルタ以外に各種構成のローパスフィルタを採用することができる。例えば、図7に示すように、入力端Tiと出力端Toとの間に、上記のインダクターL1と、インダクタンスの小さいインダクターL2を直列接続し、かつインダクターL2,L1の接続点と基準電位との間に上記のコンデンサC1を接続したT型のLCフィルタで構成してもよい。また、図示はしないが、π型のLCフィルタで構成してもよい。さらに、後述する各磁束キャンセル部4A,4B,4CにおけるLPF43や、磁束キャンセル部4DにおけるLPF48については、注入電流Iiのレベル低下の回避という機能を必要としないため、内部のインダクターL1については、インダクタンスの大きいリアクトルではなく、インダクタンスの小さなインダクターを用いることができる。また、各磁束キャンセル部4,4A,4B,4CにおけるLPF43や磁束キャンセル部4DにおけるLPF48の構成は、L型、T型およびπ型などのLC型のローパスフィルタに限らず、インダクターに代えて抵抗を用いたL型、T型およびπ型などのRC型のローパスフィルタなど、各種のローパスフィルタを採用することができる。また、LPF43の周波数特性は、磁束キャンセル部4による磁性コア2に発生する磁束をキャンセルする能力を示す周波数特性と一致している。
【0046】
また、キャンセル電流Icの流れる向きおよび磁束キャンセル用巻線W1の巻回方向は、電池Batから負荷Loadに供給される直流電流Ibが流れることによって磁性コア2内に生じる磁束Mbを低減させる向きの磁束Mdが生じるように予め設定されている。したがって、磁束キャンセル部4の電圧ドライバ42が、ホール素子41によって検出される磁束Mbの大きさがゼロになるような電圧信号S2(キャンセル電流Ic)を生成して磁性コア2に巻回された磁束キャンセル用巻線W1に供給することにより、大電流の直流電流Ibが注入対象ラインLに流れることに起因する磁性コア2の磁気飽和が回避される。この結果、信号注入用巻線W2に交流信号S1を供給することにより、磁性コア2において磁束Mcが確実に発生して、注入対象ラインLに交流信号S1が確実に注入される。
【0047】
非接触型電流センサ5は、いわゆるクランプ型の電流センサであって、注入対象ラインL(注入対象ラインLの芯線(導線))を流れる交流電流である注入電流Iiを注入対象ラインLに対して非接触で検出して、注入電流Iiの電流値を示す検出信号S3を処理部7に出力する。
【0048】
電圧検出部6は、接触型の一対のプローブP1,P2、バッファ回路61および絶縁回路62を備えて、電池Batの両端電圧を検出して両端電圧信号S4を処理部7に出力する。この場合、バッファ回路61は、電圧検出回路の一例であって、直流電圧の入力を阻止すると共に交流電圧の入力を可能とするカップリングコンデンサを一対の入力部にそれぞれ備えており、プローブP1,P2によって検出された交流電圧の差分電圧を生成して電池Batの両端電圧としての両端電圧信号S4を出力する。また、絶縁回路62は、負荷Load、電池Batおよびバッファ回路61を含む回路の基準電位(グランド)と、バッファ回路61を除くインピーダンス測定装置1の基準電位(フローティンググランド)とを絶縁すると共に、絶縁した状態の両端電圧信号S4を処理部7に出力する。
【0049】
処理部7は、例えば、CPUで構成されて、A/D変換回路71~73、移相回路74、直交検波回路75,76、演算回路77および内部メモリ78を備えて構成され、検出信号S3および両端電圧信号S4を入力すると共に検出信号S3および両端電圧信号S4に基づいて測定対象である電池Batの内部インピーダンスZbを測定する。この場合、A/D変換回路71は、信号生成回路31から出力された交流信号S1を入力すると共にA/D変換(アナログ/デジタル変換)して正弦波の交流信号S1の電圧値、周波数および位相を示す信号データD11(sinωt )を移相回路74および直交検波回路75,76に出力する。A/D変換回路72は、非接触型電流センサ5から出力された検出信号S3を入力すると共にA/D変換して検出信号S3(注入電流Ii)の電流値、周波数および位相を示す信号データD12を直交検波回路75に出力する。A/D変換回路73は、絶縁回路62から出力された両端電圧信号S4を入力すると共にA/D変換して両端電圧信号S4の電圧値、周波数および位相を示す信号データD13を直交検波回路76に出力する。
【0050】
移相回路74は、A/D変換回路71から出力された信号データD11(sinωt )を入力すると共に信号データD11で示される正弦波信号である交流信号S1の位相を90°移相させて余弦波信号を生成すると共にその余弦波信号の電流値、周波数および位相を示す信号データD11(cosωt )を生成して直交検波回路75,76に出力する。直交検波回路75は、A/D変換回路72から出力された検出信号S3(注入電流Iiの交流電流値)を示す信号データD12を入力すると共に、A/D変換回路71から出力された正弦波の交流信号S1を示す信号データD11(sinωt )および移相回路74から出力された余弦波の交流信号S1を示す信号データD11(cosωt )で信号データD12を直交検波して、注入電流Iiの電流値の同相成分(I成分:In-phse 成分)および直交成分(Q成分:Quadrature 成分 )を複素数で示す電流データDiを生成して演算回路77に出力する。直交検波回路76は、A/D変換回路73から出力された両端電圧信号S4(注入電流Iiが流れることに起因して電池Batの両端に発生する交流電圧の電圧値)を示す信号データD13を入力すると共に、A/D変換回路71から出力された正弦波の交流信号S1を示す信号データD11(sinωt )および移相回路74から出力された余弦波の交流信号S1を示す信号データD11(cosωt )で信号データD13を直交検波して、両端電圧信号S4の電圧値の同相成分(I成分:In-phse 成分)および直交成分(Q成分:Quadrature 成分 )を複素数で示す電圧データDvを生成して演算回路77に出力する。
【0051】
演算回路77は、直交検波回路75から出力された電流データDiを入力すると共に直交検波回路76から出力された電圧データDvを入力して、電流データDiおよび電圧データDvに基づいて電池Batの内部インピーダンスZbを演算する。また、演算回路77は、演算結果としての電池Batの内部インピーダンスZbを示すインピーダンスデータDzを内部メモリ78に出力して記憶させると共に出力部8に出力する。また、演算回路77は、非接触型電流センサ5によって検出された注入電流Iiの電流値がインピーダンス測定の際に必要な目標電流値範囲(例えば、1mA±0.1mA)内に含まれるように、制御信号Sc1を信号注入部3に出力して、信号注入部3(信号生成回路31)から出力される交流信号S1の信号レベルを制御する。具体的には、演算回路77は、入力した電流データDi(A/D変換回路72から出力される信号データD12でもよい)に基づき、注入対象ラインLに注入されている注入電流Iiの電流値(交流信号S1の信号レベル)を監視しつつ、信号注入部3から出力される交流信号S1の信号レベルを制御信号Sc1を出力して制御する。また、内部メモリ78は、半導体メモリやハードディスク装置などで構成されて、インピーダンスデータDzなどを記憶する。
【0052】
出力部8は、一例として、液晶パネルや有機ELパネルなどの表示装置(ディスプレイ)で構成されて、処理部7から出力されたインピーダンスデータDzを入力して電池Batの内部インピーダンスZbを画面上に表示する。なお、出力部8は、表示装置に代えて、外部装置とデータ通信を行うインターフェース装置で構成して、この外部装置にインピーダンスデータDzを出力する構成を採用することもできる。
【0053】
次に、インピーダンス測定装置1による測定対象としての電池Batの内部インピーダンスZbを測定する測定方法について添付図面を参照して説明する。
【0054】
最初に、電池Batと負荷Loadとを注入対象ラインLで接続する。この状態で負荷Loadが作動したときには、電池Batから注入対象ラインLを介して負荷Loadに大電流の直流電流Ibが流れる。この状態において、注入対象ラインLに非接触型電流センサ5をクランプさせると共に電池Batの両端にプローブP1,P2を接触させる。
【0055】
次いで、図外の測定開始スイッチを操作する。これにより、処理部7が、信号生成回路31を制御して交流信号S1を生成させる。この際には、信号生成回路31が、周波数をスイープさせつつ交流信号S1を生成し、生成した交流信号S1を処理部7に出力すると共にD級増幅した交流信号S1を信号注入用巻線W2に供給する。この場合、信号注入用巻線W2に交流信号S1を供給することで交流電流Iacが信号注入用巻線W2を流れて、交流信号S1に基づく磁束Mcが図1に示す向きで磁性コア2に発生すると共にその磁束Mcの大きさに応じた電流値の交流信号である注入電流Iiが注入対象ラインLに注入される。したがって、交流信号S1は、信号注入用巻線W2を介して注入対象ラインLの芯線に対して非接触の状態で注入される。
【0056】
また、磁束キャンセル部4は、磁性コア2に直流電流Ibが流れた際に、磁性コア2に図1に示す向きで発生する第1の磁束としての磁束Mbを、磁束Mbとは逆向きの第2の磁束としての磁束Mdをゼロフラックス法により磁性コア2に発生させてキャンセルする。具体的には、ホール素子41が、磁気コア2に発生する磁束に応じた電圧信号S2を電圧ドライバ42に出力する。次いで、電圧ドライバ42が、電圧信号S2を増幅して低インピーダンスでLPF43に出力する。また、LPF43は、電圧ドライバ42で増幅された電圧信号S2に含まれている交流信号S1に基づく電圧信号S2(磁束Mcに基づく電圧信号S2)の出力を阻止すると共に直流電流Ibに基づく電圧信号S2を通過させて磁束Mbをキャンセルする向きでキャンセル電流Icを磁束キャンセル用巻線W1に供給し、かつ交流信号S1が信号注入用巻線W2に供給されることに起因して磁束キャンセル用巻線W1に発生する電圧信号の電圧ドライバ42への入力を阻止する。したがって、電圧ドライバ42は、磁性コア2に発生している交流信号S1に基づく磁束Mcをキャンセルさせるようとするキャンセル電流を流すことなく、ホール素子41によって検出される磁束Mbの大きさがゼロになるようなキャンセル電流Icを生成して磁束キャンセル用巻線W1に供給する。これにより、大電流の直流電流Ibが注入対象ラインLに流れることに起因する磁性コア2の磁気飽和が回避される。また、交流信号S1の信号注入用巻線W2への供給によって磁性コア2に発生した磁束Mcに基づいて磁束キャンセル用巻線W1に発生する電圧信号の電圧ドライバ42への入力がLPF43によって阻止されるため、磁性コア2に発生させた磁束Mcに基づいて注入対象ラインLに注入する注入電流Ii(交流信号S1)のレベル低下が回避される。この結果、信号注入用巻線W2に交流信号S1が供給されることにより、磁性コア2において磁束Mcが確実に発生して、注入対象ラインLに交流信号S1が確実かつ効率良く注入される。
【0057】
一方、注入対象ラインLに交流信号S1が注入されると共に直流電流Ibが流れている状態では、非接触型電流センサ5が、注入対象ラインLを流れている注入電流Iiを注入対象ラインLに対して非接触で検出して、その電流値を示す検出信号S3を処理部7に出力する。
【0058】
また、電圧検出部6のバッファ回路61が、一対のプローブP1,P2を介して、電池Batの両端における電圧を入力して交流電圧の差分電圧である両端電圧信号S4を絶縁回路62に出力する、この場合、バッファ回路61は、一対の入力部にカップリングコンデンサを備えているため、プローブP1,P2によって検出された交流電圧の差分電圧のみを生成して電池Batの両端電圧としての両端電圧信号S4を出力する。次いで、絶縁回路62が両端電圧信号S4を処理部7に出力する。この際に、絶縁回路62は、負荷Loadや電池Bat側の基準電位(グランド)と、インピーダンス測定装置1の基準電位(フローティンググランド)とを絶縁した状態で両端電圧信号S4を処理部7に出力する。この結果、絶縁回路62を介してインピーダンス測定装置1に両端電圧信号S4が出力されることにより、電池Batの出力電圧が非常に高い電圧であったとしても、電池Batに交流信号S1が流れて電池Bat内に発生する微小の交流電圧を精度良く検出することが可能となっている。
【0059】
一方、処理部7では、A/D変換回路71が、交流信号S1を入力すると共にA/D変換して正弦波の交流信号S1の電圧値、周波数および位相を示す信号データD11(sinωt )を移相回路74および直交検波回路75,76に出力する。また、A/D変換回路72が、検出信号S3を入力すると共にA/D変換して検出信号S3の電流値、周波数および位相を示す信号データD12を直交検波回路75に出力する。また、A/D変換回路73が、両端電圧信号S4を入力すると共にA/D変換して両端電圧信号S4の電圧値、周波数および位相を示す信号データD12を直交検波回路76に出力する。また、移相回路74が、信号データD11を入力すると共に信号データD11で示される正弦波信号である交流信号S1の位相を90°移相させて余弦波信号を生成すると共にその余弦波信号の電流値、周波数および位相を示す信号データD11(cosωt )を生成して直交検波回路75,76に出力する。
【0060】
また、直交検波回路75は、検出信号S3を示す信号データD12を入力すると共に、正弦波の交流信号S1を示す信号データD11(sinωt )および余弦波の交流信号S1を示す信号データD11(cosωt )で信号データD12直交検波して、注入電流Iiの電流値の同相成分および直交成分を複素数で示す電流データDiを生成して演算回路77に出力する。また、直交検波回路76は、両端電圧信号S4を示す信号データD13を入力すると共に、信号データD11(sinωt )および信号データD11(cosωt )で信号データD13を直交検波して、両端電圧信号S4の電圧値の同相成分および直交成分を複素数で示す電圧データDvを生成して演算回路77に出力する。次いで、演算回路77が、電流データDiおよび電圧データDvを入力して、電流データDiおよび電圧データDvに基づいて電池Batの内部インピーダンスZbを演算してインピーダンスデータDzを内部メモリ78に出力して記憶させると共に出力部8に出力する。この際に、出力部8は、インピーダンスデータDzを入力して電池Batの内部インピーダンスZbを表示装置の画面上に表示する。なお、演算回路77は、交流信号S1の周波数情報をインピーダンスデータDzに含めることにより、交流信号S1の周波数に対する電池Batの内部インピーダンスZbの周波数特性を表示装置の画面上に表示させることもできる。また、演算回路77は、入力した電流データDi(A/D変換回路72から出力される信号データD12でもよい)に基づいて、注入対象ラインLを流れる直流電流Ibの電流値情報を生成し、その電流値情報をインピーダンスデータDzに含めることにより、直流電流Ibの電流値に対する電池Batの内部インピーダンスZbの特性を表示装置の画面上に表示させることもできる。
【0061】
また、演算回路77は、入力した電流データDi(A/D変換回路72から出力される信号データD12でもよい)に基づき、注入対象ラインLに注入されている注入電流Iiの電流値を監視しつつ、非接触型電流センサ5によって検出された注入電流Iiの電流値がインピーダンス測定の際に必要な目標電流値範囲内に含まれるように、制御信号Sc1を出力して信号注入部3から出力される交流信号S1の信号レベルを制御する。これにより、注入電流Iiが目標電流値範囲内に含まれるため、検出信号S3や両端電圧信号S4の雑音レベル(N)に対する信号レベル(S)の比率(S/N)を高めることができる結果、演算回路77によって行われる内部インピーダンスZbの演算処理(測定処理)において、精度良く内部インピーダンスZbを測定することができる。以上により、インピーダンス測定装置1による電池Batの内部インピーダンスZbの測定が終了する。
【0062】
このように、この信号注入装置10では、磁束キャンセル部4が、磁束Mdを磁性コア2に発生させるキャンセル電流Icを磁性コア2に巻回された磁束キャンセル用巻線W1に供給することで、磁性コア2に挿通されている注入対象ラインLに直流電流Ibが流れることに起因して磁性コア2に発生する磁束Mbをキャンセルする。したがって、この信号注入装置10によれば、大電流の直流電流Ibが注入対象ラインLに流れることに起因する磁性コア2の磁気飽和を回避することができる結果、信号注入用巻線W2に交流信号S1を供給することで、磁性コア2において磁束Mcを確実に発生させて、直流電流Ibが流れている注入対象ラインLに交流信号S1を確実にしかも効率良く注入することができる。
【0063】
また、この信号注入装置10では、別個独立した磁束キャンセル用巻線W1および信号注入用巻線W2を備え、磁束キャンセル部4のLPF43が、電圧ドライバ42によって増幅された電圧信号S2に含まれている交流信号S1に基づく電圧信号S2の出力を阻止すると共に直流電流Ibに基づく電圧信号S2を通過させて磁束Mbをキャンセルする向きでキャンセル電流Icを磁束キャンセル用巻線W1に供給し、かつ交流信号S1に基づいて磁束キャンセル用巻線W1に発生する電圧信号の電圧ドライバ42への入力を阻止する。したがって、この信号注入装置10によれば、大電流の直流電流Ibが注入対象ラインLに流れることに起因する磁性コア2の磁気飽和を回避することができる結果、信号注入用巻線W2に交流信号S1を供給することにより、磁性コア2において磁束Mcを確実に発生させて、注入対象ラインLに交流信号S1を確実にしかも効率良く注入することができる。
【0064】
なお、「信号注入装置」の構成、および「インピーダンス測定装置」の構成については、上記のインピーダンス測定装置1の例に限定されない。例えば、磁束キャンセル部4については、図3に示す構成を採用することができる。なお、以下に説明する構成において、上記したインピーダンス測定装置1における各構成要素と同じ機能を有する構成要素については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0065】
図3に示す磁束キャンセル部4Aは、ホール素子41、磁束キャンセル用巻線W1、LPF43、加算回路44および電圧ドライバ42を備えて構成されている。この場合、1つの磁束キャンセル用巻線W1が、キャンセル用巻線の機能と信号注入用巻線の機能とを有している。また、LPF43は、フィルタ回路の一例であって、磁束キャンセル部4のLPF43と同様の周波数特性を有しており、ホール素子41から出力された電圧信号S2に含まれている交流信号S1に基づく電圧信号S2の出力を阻止すると共に直流電流Ibに基づく電圧信号S2を通過させる。加算回路44は、LPF43を通過した電圧信号S2と交流信号S1とを加算して加算信号Saを生成して出力する。電圧ドライバ42は、加算回路44から出力された加算信号Saを増幅すると共に磁束キャンセル用巻線W1に供給して、磁束Mbをキャンセルする向きでキャンセル電流Icを磁束キャンセル用巻線W1に供給すると共に交流信号S1(交流電流Iac)を磁束キャンセル用巻線W1に供給して交流信号S1を注入対象ラインLに注入する。
【0066】
この信号注入装置10では、電圧ドライバ42が、電圧信号S2と交流信号S1とが加算回路44によって加算された加算信号Saを増幅して磁束キャンセル用巻線W1に供給することにより、キャンセル電流Icと交流電流Iacとが磁束キャンセル用巻線W1において加算されつつ、磁性コア2に磁束Md,Mcを発生させる。したがって、この信号注入装置10によれば、大電流の直流電流Ibが注入対象ラインLに流れることに起因する磁性コア2の磁気飽和を回避することができる結果、磁束キャンセル用巻線W1に交流信号S1(加算信号Sa)を供給することにより、磁性コア2において磁束Mcを確実に発生させて、注入対象ラインLに交流信号S1を確実にしかも効率良く注入することができる。また、この信号注入装置10によれば、1つの磁束キャンセル用巻線W1を用いて、キャンセル用巻線の機能と信号注入用巻線の機能とを実現させることができるため、信号注入装置10を安価に構成することができる。
【0067】
また、図4に示す磁束キャンセル部4Bは、ホール素子41、磁束キャンセル用巻線W1、LPF43、および電圧ドライバ42を備えて構成されている。また、信号注入部3Aは、上記の信号注入部3の構成に加えて電圧ドライバ32を備えている。この場合、1つの磁束キャンセル用巻線W1が、キャンセル用巻線の機能と信号注入用巻線の機能とを有している。また、LPF43は、フィルタ回路の一例であって、磁束キャンセル部4のLPF43と同様の周波数特性を有しており、ホール素子41から出力された電圧信号S2に含まれている交流信号S1に基づく電圧信号S2の出力を阻止すると共に直流電流Ibに基づく電圧信号S2を通過させる。電圧ドライバ42は、LPF43を通過した電圧信号S2を増幅すると共に磁束Mbをキャンセルする向きでキャンセル電流Icを磁束キャンセル用巻線W1の一端T1に供給する。また、電圧ドライバ32は、交流信号S1を増幅すると共に増幅した交流信号S1(交流電流Iac)を磁束キャンセル用巻線W1の他端T2に供給して交流信号S1を注入対象ラインLに注入する。
【0068】
この信号注入装置10では、電圧ドライバ42が磁束キャンセル用巻線W1の一端T1側から磁束キャンセル用巻線W1を介して電圧ドライバ32の出力部に向けて電圧信号S2(キャンセル電流Ic)を供給し、電圧ドライバ32が磁束キャンセル用巻線W1の他端T2側から磁束キャンセル用巻線W1を介して電圧ドライバ42の出力部に向けて交流信号S1(交流電流Iac)を供給することにより、キャンセル電流Icと交流電流Iacとが磁束キャンセル用巻線W1において加算されつつ、磁性コア2に磁束Md,Mcを発生させる。したがって、この信号注入装置10によれば、大電流の直流電流Ibが注入対象ラインLに流れることに起因する磁性コア2の磁気飽和を回避することができる結果、磁束キャンセル用巻線W1に交流信号S1を供給することにより、磁性コア2において磁束Mcを確実に発生させて、注入対象ラインLに交流信号S1を確実にしかも効率良く注入することができる。また、この信号注入装置10によれば、1つの磁束キャンセル用巻線W1を用いて、キャンセル用巻線の機能と信号注入用巻線の機能とを実現させることができるため、信号注入装置10を安価に構成することができる。
【0069】
また、図5に示す磁束キャンセル部4Cは、ホール素子41、磁束キャンセル用巻線W1、LPF43、および電流ドライバ45を備えて構成されている。この場合、LPF43は、フィルタ回路の一例であって、磁束キャンセル部4のLPF43と同様の周波数特性を有しており、ホール素子41から出力された電圧信号S2に含まれている交流信号S1に基づく電圧信号S2の出力を阻止すると共に直流電流Ibに基づく電圧信号S2を通過させる。電流ドライバ45は、LPF43を通過した電圧信号S2を増幅すると共に磁束Mbをキャンセルする向きでキャンセル電流Icを高い出力インピーダンスで出力して磁束キャンセル用巻線W1に供給する。また、信号注入部3は、図1に示した信号注入部3と同様にして、磁性コア2に巻回された信号注入用巻線W2を備え、信号注入用巻線W2に交流信号S1(交流電流Iac)を供給して交流信号S1を注入対象ラインLに注入する。
【0070】
この信号注入装置10では、電流ドライバ45が高い出力インピーダンスの状態で磁束キャンセル用巻線W1に電圧信号S2(キャンセル電流Ic)を供給する。この場合、信号注入部3が信号注入用巻線W2に交流信号S1を供給することで磁性コア2に磁束Mcが発生する。この際に、発生した磁束Mcに基づく交流電流が磁束キャンセル用巻線W1に流れようとするが、電流ドライバ45の出力インピーダンスが高いため、磁束Mcに基づく交流電流は、磁束キャンセル用巻線W1から電流ドライバ45の出力部に向かう向きでは流れない。このため、電流ドライバ45は、磁性コア2に発生している交流信号S1に基づく磁束Mcをキャンセルさせるようとするキャンセル電流を流すことなく、ホール素子41によって検出される磁束Mbの大きさがゼロになるようなキャンセル電流Icを生成して磁束キャンセル用巻線W1に供給する。したがって、この信号注入装置10によれば、大電流の直流電流Ibが注入対象ラインLに流れることに起因する磁性コア2の磁気飽和を回避することができる結果、信号注入用巻線W2に交流信号S1(交流電流Iac)を供給することにより、磁性コア2において磁束Mcを確実に発生させて、注入対象ラインLに交流信号S1を確実にしかも効率良く注入することができる。
【0071】
また、以上の信号注入装置10によれば、ホール素子41、フラックスゲートセンサ、およびGMR素子のいずれかを磁性コア2に配設して磁束検出回路を構成したことにより、簡易な構成でありながら磁束Mbを確実に検出することができる。
【0072】
また、インダクタンスの大きいリアクトルで形成されたインダクターを含んだLPF43でフィルタ回路を構成したことにより、カットオフ周波数をできる限り周波数0Hzに近づけることができる結果、直流電流Ibに基づく電圧信号S2だけを通過させることができると共に安価に構成することができる。また、磁束キャンセル部4を有する信号注入装置10によれば、交流信号S1の信号注入用巻線W2への供給によって磁性コア2に発生した磁束Mcに基づいて磁束キャンセル用巻線W1に発生する電圧信号の電圧ドライバ42への入力がLPF43によって阻止されるため、磁性コア2に発生させた磁束Mcに基づいて注入対象ラインLに注入する注入電流Ii(交流信号S1)のレベル低下を回避することができる結果、注入対象ラインLに交流信号S1を確実かつ効率良く注入することができる。
【0073】
また、図6に示す磁束キャンセル部4Dは、磁性コア2に発生する交流信号S1の2倍の周波数に基づく磁束に応じた電圧信号S2の信号レベルを低下させるキャンセル電流Icを磁束キャンセル用巻線W1に供給して、大電流の直流電流Ibが注入対象ラインLに流れることに起因する磁性コア2の磁気飽和を回避することが可能に構成されている。なお、この磁束キャンセル部4Dを用いる信号注入装置10では、ホール素子41などの磁束検出回路を使用しないため、磁性コア2としてギャップが設けられていない環状のコアが用いられている。ただし、ギャップを設けた環状のコアを磁性コア2として用いることもできる。
【0074】
具体的には、図6に示す信号注入装置10は、信号注入部3の信号生成回路31が、2f信号生成回路31aおよび1/2分周回路31bを備えて構成されている。この場合、2f信号生成回路31aは、交流信号S1の2倍の周波数の同期検波用の基準信号Srを生成する。また、1/2分周回路31bは、2f信号生成回路31aから出力された基準信号Srを1/2分周することにより、注入対象ラインLに注入する交流信号S1を生成する。
【0075】
一方、磁束キャンセル部4Dは、磁束キャンセル用巻線W1、加算回路44、電圧ドライバ42,46,49、同期検波回路47およびLPF48を備えて構成されている。この場合、同期検波回路47は、磁束キャンセル用巻線W1に発生する電圧信号S2に含まれている交流信号S1の2倍の周波数(つまり、交流信号S1の歪信号)の電圧信号S2を基準信号Srで同期検波して出力信号Sdを出力する。LPF48は、フィルタ回路の一例であって、同期検波回路47の出力信号Sdに含まれている直流信号、つまり交流信号S1の歪信号である2倍の周波数の高調波信号(周波数基準信号Srと同じ周波数成分)に基づいて生成された直流信号Sdcを抽出(通過させる)すると共に基準信号Srの2倍以上の周波数成分などの交流信号の通過を阻止する。電圧ドライバ49は、LPF48から出力された直流信号Sdcを増幅して出力する。加算回路44は、増幅回路49から出力された直流信号Sdcと、信号生成回路31(1/2分周回路31b)から出力された交流信号S1とを加算して加算信号Saを出力する。電圧ドライバ42は、加算回路44から出力された加算信号Saを増幅すると共に磁束キャンセル用巻線W1に供給する。
【0076】
この信号注入装置10では、信号注入部3の信号生成回路31内の2f信号生成回路31aが同期検波用の基準信号Srを生成して1/2分周回路31bおよび同期検波回路47に出力する。また、1/2分周回路31bは、基準信号Srを入力して1/2分周することで交流信号S1を生成して、加算回路44および処理部7のA/D変換回路71に出力する。一方、磁束キャンセル部4Dでは、電圧ドライバ46が、入力した加算信号Saを増幅して同期検波回路47に出力する。この際に、同期検波回路47は、磁束キャンセル用巻線W1に発生する交流信号S1の2倍の周波数の電圧信号を入力した基準信号Srで同期検波すると共に同期検波で生成した電圧信号を出力信号Sdとして出力する。また、LPF48が、同期検波回路47の出力信号Sdに含まれている直流信号Sdc(つまり交流信号S1の歪信号である2倍の周波数の高調波信号に基づく直流信号)を抽出(通過させる)すると共に交流信号の通過を阻止する。次いで、電圧ドライバ49が、LPF48から出力された直流信号Sdcを増幅して加算回路44に出力する。この際に、加算回路44は、増幅回路49から出力された直流信号Sdcと、信号生成回路31(1/2分周回路31b)から出力された交流信号S1とを加算して加算信号Saを出力する。また、電圧ドライバ42が、加算回路44から出力された加算信号Saを増幅すると共に磁束キャンセル用巻線W1に供給する。この場合、電圧ドライバ42が、加算信号Saを出力することにより、磁束Mbをキャンセルする向きで直流信号Sdcに基づくキャンセル電流Icが磁束キャンセル用巻線W1に供給されて磁性コア2の磁気飽和が回避されると共に交流信号S1(交流電流Iac)が磁束キャンセル用巻線W1に供給されて交流信号S1が注入対象ラインLに注入される。つまり、この磁束キャンセル部4Dでは、ホール素子41などの磁束検出回路を用いることなく、全体としてフィードバック制御されることで、全体してフラックスゲートセンサ化されて磁束キャンセル部が構成されている。
【0077】
したがって、この信号注入装置10によれば、大電流の直流電流Ibが注入対象ラインLに流れることに起因する磁性コア2の磁気飽和を回避することができる結果、磁束キャンセル用巻線W1に交流信号S1(交流電流Iac)を供給することにより、磁性コア2において磁束Mcを確実に発生させて、注入対象ラインLに交流信号S1を確実にしかも効率良く注入することができる。また、この信号注入装置10では、磁気飽和状態の磁性コア2に発生する交流信号S1の歪信号である交流信号S1の周波数の2倍の周波数の高調波信号の大きさを検出してその歪信号を低減させるように、磁束キャンセル部4Dが全体としてフィードバック制御される。このため、この信号注入装置10によれば、磁性コア2の磁気飽和を直接的に検出することができる結果、磁性コア2において磁気飽和を発生させることなく、磁束Mcをより確実に発生させて、注入対象ラインLに交流信号S1をより確実にしかも効率良く注入することができる。また、この信号注入装置10によれば、1つの磁束キャンセル用巻線W1を用いて、キャンセル用巻線の機能と信号注入用巻線の機能とを実現させることができるため、信号注入装置10を安価に構成することができる。
【0078】
なお、磁束キャンセル部4Dにおいて、各回路での必要な利得が確保されている場合には、電圧ドライバ46および電圧ドライバ49のうちの少なくとも一方の配設を省くことができる。
【0079】
また、この信号注入装置10によれば、上記の信号注入部3における信号生成回路31に対して、交流信号S1の周波数をスイープさせることにより、例えば、信号注入装置10をインピーダンス測定装置に組み込んだ場合に、電池Batなどに正弦波信号である交流信号S1を供給してその周波数応答を測定可能なFRA として構成することができるため、高精度なインピーダンス測定を行うことができる。
【0080】
また、このインピーダンス測定装置1によれば、上記の信号注入装置10を備え、処理部7が、注入対象ラインに直列接続されている測定対象である電池Batの内部インピーダンスZbを測定する際に、注入対象ラインLに交流信号S1を注入したときに、その注入対象ラインLを流れる交流信号S1の電流値(注入電流Iiの電流値:電圧信号S2)と、電池Batの両端に生じる電圧値(両端電圧信号S4)とに基づいて電池Batの内部インピーダンスZbを測定することにより、磁性コア2において磁束Mcをより確実に発生させて、注入対象ラインLに交流信号S1をより確実にしかも効率良く注入することができる結果、高い精度で電池Bat(測定対象)の内部インピーダンスZbを測定することができる。
【0081】
また、このインピーダンス測定装置1によれば、非接触型電流センサ5が、注入対象ラインLを流れる注入電流Ii(交流電流の電流)を注入対象ラインLに対して非接触で検出して電圧信号S2を処理部7に出力し、電圧検出部6が、測定対象である電池Batの両端に接触して検出した両端電圧信号S4を電池Batから絶縁した状態で処理部7に出力することにより、電池Batの出力電圧が非常に高い電圧であったとしても、また、負荷Loadやインピーダンス測定装置1の周囲にスイッチングノイズなどのノイズが存在する場合であっても、電池Batに注入電流Iiが流れて電池Bat内に発生する微小の交流電圧を精度良く検出することができる。したがって、このインピーダンス測定装置1によれば、電池Batの内部インピーダンスZbを精度良く測定することができる。また、このインピーダンス測定装置1によれば、非接触型電流センサ5を用いたことにより、注入対象ラインLを切断することなく、非接触で電池Batの内部インピーダンスZbを測定することができる。
【0082】
また、このインピーダンス測定装置1によれば、処理部7の演算回路77が、直交検波回路75から出力される交流電流としての注入電流Ii(検出信号S3)の同相成分および直交成分と、直交検波回路76から出力される交流電圧としての両端電圧信号S4の同相成分および直交成分とに基づいて測定対象としての電池Batの内部インピーダンスZbを演算することにより、注入対象ラインLに注入された交流信号S1の信号レベルが小さいときであっても、雑音レベル(N)に対する信号レベル(S)の比率(S/N)を高めて精度良く内部インピーダンスZbを測定することができる。
【0083】
また、信号注入装置10は、インピーダンス測定装置への適用に限らず、交流信号S1を注入対象ラインLに注入して測定する各種の計測器に適用が可能である。また、インピーダンス測定装置は、電池Batの内部インピーダンスZbの測定に限らず、各種測定対象のインピーダンスを測定することができる。例えば、水を電気分解して水素を製造する水電解セルを測定対象として、水電解セルと、負荷Loadに代えて水電解セル用の電源とを注入対象ラインLで接続した閉ループにおいて、水電解セルの陽極と陰極とにプローブP1,P2を接続して水電解セルの内部インピーダンスを測定することもできる。
【0084】
また、インピーダンス測定装置1において、磁性コア2とは別個に注入対象ラインLを挿通させた磁性コアを設けて、その別個の磁性コア2に巻線W2を巻回することもできる。
【0085】
また、注入電流Iiの電流値を検出する電流センサとして非接触型電流センサ5を用いたインピーダンス測定装置1の例について説明したが、非接触型に限らず、注入対象ラインL中にカレントトランスや電流検出用抵抗などを配設して注入電流Iiの電流値を検出する構成を採用することができる。
【0086】
さらに、インピーダンス測定装置1の基準電位(フローティンググランド)を絶縁する必要のない場合には、絶縁回路62の配設を省略して、基準電位(グランド)と、インピーダンス測定装置1の基準電位(フローティンググランド)とを同じ電位にすることもできる。また、A/D変換回路71,72,73については、信号生成回路31内、非接触型電流センサ5内および電圧検出部6内にそれぞれ設けることができる。また、2f信号生成回路31aおよび1/2分周回路31bを信号生成回路31として構成した例について説明したが、2f信号生成回路31aおよび1/2分周回路31bを信号生成回路31とは別個独立して設ける構成を採用することもできる。
【0087】
また、上記のインピーダンス測定装置1による電池Batの内部インピーダンスZbの測定に関して、複数の電池セルを直列接続して構成される電池Batにおける1つまたは複数の電池セルの内部インピーダンスZbを測定する際には、測定対象となる電池セルの両端にプローブP1,P2を接触させて、上記した測定方法と同様にして測定することで、測定対象となる1つの電池セルの内部インピーダンスZb、または直列接続した複数の電池セルの直列の内部インピーダンスZbを測定することができる。
【0088】
また、インピーダンス測定装置1において、電池Batの内部インピーダンスZbなどのインピーダンスの演算をデジタル処理で行う例について説明したが、交流信号S1、検出信号S3および両端電圧信号S4に基づいて、アナログ回路によるアナログ演算でインピーダンスを求める構成を採用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、大電流の直流電流が注入対象ラインに流れることに起因する磁性コアの磁気飽和を回避することができる結果、第2の巻線に交流信号を供給することで、磁性コアにおいて交流信号に基づく磁束を確実に発生させて、直流電流が流れている注入対象ラインに交流信号を確実にしかも効率良く注入することができる。これにより、本願発明は、このような信号注入装置やインピーダンス測定装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
1 インピーダンス測定装置
10 信号注入装置
2 磁性コア
3,3A 信号注入部
4,4A~4D 磁束キャンセル部
41 ホール素子
42 電圧ドライバ
43,48 LPF
44 加算回路
45 電流ドライバ
47 同期検波回路
5 非接触型電流センサ
6 電圧検出部
61 バッファ回路
62 絶縁回路
7 処理部
74 移相回路
75,76 直交検波回路
77 演算回路
Bat 電池
Ii 注入電流
Load 負荷
S1 交流信号
S2 電圧信号
S3 検出信号
S4 両端電圧信号
Sd 出力信号
Sdc 直流信号
Sr 基準信号
W1 磁束キャンセル用巻線
W2 信号注入用巻線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7